説明

搬送用走行体の走行制御方法

【課題】走行速度可変の自走式搬送用走行体1を作業区間WAに一定の作業速度VLまで減速させた状態で進入させること。
【解決手段】各搬送用走行体1には、前後に隣り合う搬送用走行体1間でデータ通信を行うデータ通信手段13,14が設けられ、作業区間WAの上手側走行経路中には、計測起点P1が設定され、作業区間WAへ高速で接近する後ろ側搬送用走行体1Zとその前方の作業速度VLで走行する前側搬送用走行体1Yには、計測起点P1からの走行距離に相当する現在位置情報を持たせ、後ろ側搬送用走行体1Zでは、自体の現在位置情報と前記データ通信手段を介して受け取った前側搬送用走行体1Yの現在位置情報とに基づいて前側搬送用走行体1Yとの間の距離を演算させると共に当該距離の漸減変化に基づいて減速制御を行わせ、前記距離が設定値に達したドッキング完了時に後ろ側搬送用走行体1Zが作業速度VLで自走しているように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行速度可変の自走可能な搬送用走行体を作業区間に進入させるときの搬送用走行体の走行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車組立てラインでは、自動車車体を積載した搬送用走行体を、各搬送用走行体の自動車車体を積載した作業床が走行方向に連続する状態で一定低速度の作業速度で移動させながら、所要の作業を積載車体に対して行う作業区間が使用される。このような作業区間において、走行速度可変の自走可能な搬送用走行体を使用する場合、前記作業区間以外では搬送用走行体を高速走行させることによって、設備全体として必要な搬送用走行体の台数を少なくすると共に作業区間以外の走行経路中の搬送効率を高めることが出来る。この場合、高速走行で作業区間に接近する後ろ側搬送用走行体を減速させ、この後ろ側搬送用走行体が作業区間の入り口付近を作業速度で移動している前側搬送用走行体にドッキングしたとき、当該後ろ側搬送用走行体の走行速度が丁度前記作業速度まで減速されているように、後ろ側搬送用走行体を自動的に減速制御しなければならない。このような場合に適用出来る従来周知の減速制御方法は、先行技術文献を示すことは出来ないが、前側搬送用走行体との間の距離を距離センサーで検出させ、この検出された前側搬送用走行体との間の距離情報に基づいて後ろ側搬送用走行体を減速させる方法であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような距離センサーを利用する搬送用走行体の走行制御方法では、前側搬送用走行体との間の距離の変化を高精度に検出出来る距離センサーそのものが非常に高価なものであるだけでなく、実際の距離の変化に検出距離値をタイムラグ無く高精度に即応させることも困難であり、更には距離センサーの検出精度を高めるために搬送用走行体自体の構造にも制約を受けることになり、実用的ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記のような従来の問題点を解消することの出来る搬送用走行体の走行制御方法を提案するものであって、請求項1に記載の本発明に係る搬送用走行体の走行制御方法は、後述する実施例との関係を理解し易くするために、当該実施例の説明において使用した参照符号を括弧付きで付して示すと、走行速度可変の自走式搬送用走行体(1)の走行経路中に、各搬送用走行体(1)が走行方向に連続する状態を保って一定低速度の作業速度(VL)で自走する作業区間(WA)が設定され、この作業区間(WA)へ搬送用走行体(1)が高速で接近走行するように構成された搬送設備において、各搬送用走行体(1)には、前後に隣り合う搬送用走行体(1)間でデータ通信を行うデータ通信手段(13,14)が設けられ、前記作業区間(WA)の上手側走行経路中には、計測起点(P1)が設定され、前記作業区間(WA)へ高速で接近する後ろ側搬送用走行体(1Z)とその前方の前記作業速度(VL)で走行する前側搬送用走行体(1Y)には、前記計測起点(P1)からの走行距離(L1Y,L1Z)に相当する現在位置情報を持たせ、後ろ側搬送用走行体(1Z)では、自体の現在位置情報と前記データ通信手段(13,14)を介して受け取った前側搬送用走行体(1Y)の現在位置情報とに基づいて前側搬送用走行体(1Y)との間の距離を演算させると共に当該距離の漸減変化に基づいて減速制御を行わせ、前記距離が設定値に達したドッキング完了時に後ろ側搬送用走行体(1Z)が前記作業速度(VL)で自走しているように制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
上記の本発明方法によれば、減速制御の対象となる後ろ側搬送用走行体に取り付けた距離センサーによって、その直前の前側搬送用走行体との間の距離情報を持たせるものではないため、先に説明したような距離センサー利用の場合に考えられた種々の問題点が解消する。しかも、作業区間に高速で接近する後ろ側搬送用走行体をその直前の前側搬送用走行体との間の距離(間隔)が狭まるのに従って自動的に減速制御し、この後ろ側搬送用走行体が前側搬送用走行体に対して設定値まで接近(ドッキング)したとき、当該後ろ側搬送用走行体を前側搬送用走行体と同一の一定低速の作業速度で作業区間に進入させることが出来る。
【0006】
尚、前記ドッキング完了後の後ろ側搬送用走行体は、そのまま前側搬送用走行体との間の間隔を設定値に保たせるように速度制御を継続させながら作業区間を走行させることも可能であるし、作業区間の入り口で前側搬送用走行体とドッキングしたとき、前後の搬送用走行体どうしを自動的に連結する連結手段により当該後ろ側搬送用走行体と前側搬送用走行体とを連結させ、作業区間内では、各搬送用走行体の自走力又は他の推進手段により、連結状態の搬送用走行体を作業速度で走行させることも可能である。
【0007】
しかしながら、請求項2に記載のように、前記ドッキング完了後の後ろ側搬送用走行体(1Z)は、前後両搬送用走行体(1Y,1Z)間の距離に基づく速度制御を終了させ、作業区間(WA)内の全ての搬送用走行体(1)を互いに連結することなく前記作業速度(VL)で自走させることが出来る。この制御方法によれば、作業区間全長を含む長区間全域で前後両搬送用走行体間の距離に基づく速度制御を継続させる場合と比較して、前後両搬送用走行体間の距離を演算する区間が短くなり、高精度の制御が容易になる。
【0008】
前後の搬送用走行体(1Y,1Z)間のデータ通信手段は如何なるものであっても良いが、請求項3に記載のように、前記データ通信手段(13,14)として投受光器を使用した光通信手段を使用することが、安価に実施出来るだけでなく、保守も容易であり、実用的である。
【0009】
更に、請求項4に記載のように、各搬送用走行体(1)に前方の障害物を検知する障害物センサー(12)を設け、前記作業区間(WA)へ高速で接近する後ろ側搬送用走行体(1Z)が前記障害物センサー(12)により前側搬送用走行体(1Y)を検出したときから、前側搬送用走行体(1Y)との間の距離の漸減変化に基づく前記減速制御を行わせることにより、前側搬送用走行体(1Y)との間の距離の漸減変化に基づく前記減速制御を行わせる区間の長さを常に必要最小限に狭めることが出来、高精度の制御が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは搬送用走行体の平面図、図1Bは作業区間での各搬送用走行体の走行状態を示す側面図である。
【図2】図2は作業区間を説明する平面図である。
【図3】図3Aは作業区間入り口側での搬送用走行体の速度制御の第一段階を示す平面図、図3Bは同速度制御の第二段階を示す平面図である。
【図4】図4Aは同速度制御の第三段階を示す平面図、図4Bは同速度制御の第四段階を示す平面図である。
【図5】図5Aは同速度制御の最終段階を示す平面図、図5Bは作業区間出口側での搬送用走行体の速度制御の第一段階を示す平面図である。
【図6】図6Aは同速度制御の第二段階を示す平面図、図6Bは同第二段階で異常が生じた状態を示す平面図である。
【図7】図7は高速で走行して来る搬送用走行体を作業区間に進入させるときの制御を説明するフローチャートである。
【図8】図8は作業区間の最後尾の搬送用走行体に対する制御を説明するフローチャートである。
【図9】図9は作業区間から先頭搬送用走行体を退出させるときの制御を説明するフローチャートである。
【図10】図10は作業区間の先頭搬送用走行体に続く2番搬送用走行体に対する制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本実施例で使用する搬送用走行体1は、自走可能な牽引車2と当該牽引車2で牽引される搬送台車3との組み合わせから成る。牽引車2は、車高が搬送台車3の下側を走行出来るほどに低い低床構造のものであって、その後半部が搬送台車3の前端部下側に入り込む状態で、牽引車2の前後長さ方向の中央付近と搬送台車3の前端近傍の巾方向中央付近とが垂直連結軸4によって、当該垂直連結軸4の周りに相対回転自在に連結されている。牽引車2には、前記垂直連結軸4の左右両側に位置する左右一対の駆動車輪5と、これら両駆動車輪5を各別に正逆任意の方向に回転駆動する左右一対のモーター6と、後端近傍の巾方向中央位置に位置する後輪7を備えている。左右一対の駆動車輪5は直進向きに固定され、後輪7は自在車輪で構成されている。
【0012】
搬送台車3は、その表面(作業床)上に立設された複数の被搬送物支持用治具8により被搬送物(自動車車体など)Wを支持するものであって、その後側辺には、作業区間で後ろ側に隣接する搬送台車3の前側辺上に被さるカバープレート9が後方向きに延設されている。又、この搬送台車3には、垂直連結軸4の周りでの牽引車2の相対回転と干渉しない位置に設けられた自在車輪から成る左右一対の前輪10と、直進向きに固定された左右一対の後輪11とが設けられている。
【0013】
牽引車2には、その前端に、前方一定距離範囲内に入った障害物を検知する障害物センサー12が設けられ、側面の前端部と後端部には、投受光器使用の前後方向向きの光通信装置13,14が取り付けられ、側面中間位置には、投受光器使用の横側方向きの巾広光通信装置15が取り付けられている。又、底面には、床面に配設されたマーカーを検出する定位置検出用センサー16が取り付けられている。前後方向向きの光通信装置13,14は、直進経路上でこの搬送用走行体1の前後一定距離範囲内に位置する同一構造の他の搬送用走行体1の牽引車2の前後方向向きの光通信装置13,14との間で、例えば16bitの光線によりデータ通信を行うものであり、横側方向きの巾広光通信装置15は、この巾広光通信装置15から見て搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)に位置する地上側の同一構造の巾広光通信装置との間で、例えば8bitの光線によりデータ通信を行うものである。
【0014】
上記構成の搬送用走行体1の循環走行経路中には、図2に示すように、複数台の搬送用走行体1が、その搬送台車3の表面の作業床が連続する状態で直進する作業区間WAが設定されている。この作業区間WAでは、各搬送台車3の前端から前方に突出している牽引車2の前半部が、直前の搬送用走行体1における搬送台車3の後端部下側に入り込み、各搬送台車3の後側辺から後方に延出しているカバープレート9が、直後の搬送用走行体1における搬送台車3の前側辺上に被さっている。以下、この作業区間WAに対する搬送用走行体1の進入時の走行制御について図3〜図5Aに基づいて説明し、当該作業区間WAからの搬送用走行体1の退出時の走行制御について図5B〜図6に基づいて説明するが、これら図3〜図6では、牽引車2と搬送台車3とから成る搬送用走行体1を、平面視で1つの長方形の箱形に簡略化して示している。
【0015】
図3〜図5Aに示すように、作業区間WAより一定距離上流側に離れた定位置には、計測起点P1が設定され、作業区間WAの入り口付近には、ドッキング確認位置P2が設定されている。これら計測起点P1及びドッキング確認位置P2には、通過する搬送用走行体1が備える前記定位置検出用センサー16によって検出されるマーカーが床面などに設けられている。又、作業区間WAの入り口付近には、通過する搬送用走行体1が備える巾広光通信装置15との間でデータ通信を行う地上側巾広光通信装置17が設けられている。この地上側巾広光通信装置17も、巾広光通信装置15と同様に、この地上側巾広光通信装置17から搬送用走行体1の走行経路側を見たときの搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)を通過する前記巾広光通信装置15との間でデータ通信が行えるものである。
【0016】
図5B〜図6に示すように、作業区間WAの出口付近には、通過する搬送用走行体1が備える巾広光通信装置15との間でデータ通信を行う地上側巾広光通信装置18a,18bが設けられている。これら地上側巾広光通信装置18a,18bも、巾広光通信装置15と同様に、各地上側巾広光通信装置18a,18bから搬送用走行体1の走行経路側を見たときの搬送用走行体1の走行方向の前後一定範囲内(例えば前後各60度範囲内)を通過する前記巾広光通信装置15との間でデータ通信が行えるものであり、図では、並列接続された2つの同一の地上側巾広光通信装置18a,18bを使用して、全体の通信エリアを搬送用走行体1の走行方向に広げているが、使用する巾広光通信装置の個数は限定されない。1つの巾広光通信装置の通信エリアが十分に広ければ、1つの巾広光通信装置で構成することも出来る。又、この作業区間WAの出口付近には、1台の搬送用走行体1の全長と同じ程度の間隔を隔てて最終工程確認位置P4と最終工程1つ手前の確認位置P3が設定されている。これら2つの確認位置P3,P4には、通過する搬送用走行体1が備える前記定位置検出用センサー16によって検出されるマーカーが床面などに設けられている。前記2つの地上側巾広光通信装置18a,18b全体の通信エリアは、少なくとも前記2つの確認位置P3,P4に夫々位置する前後2台の搬送用走行体1の巾広光通信装置15との間でデータ通信が行える広さを有する。
【0017】
上記のように連続状態で作業区間WA内を自走する各搬送用走行体1に対して設定されている走行速度は、作業者が各搬送用走行体1(搬送台車3)の作業床上を安全に歩行しながら積載被搬送物Wに対する作業を行える、一定低速の作業速度VLである。今、作業区間WA内の全域に搬送用走行体1が連続状態に配置されている状況において、地上側制御装置の働きによって、作業区間WAの出口付近に設置された地上側巾広光通信装置18a,18bから作業速度での走行可信号が発信されると、この走行可信号は、作業区間WAの出口付近に位置する少なくとも前後2台の搬送用走行体1に、これら搬送用走行体1の巾広光通信装置15を介して伝送される。この作業区間WAの出口付近に位置する搬送用走行体1に伝送された走行可信号は、各搬送用走行体1が備えている前後両光通信装置13,14を介して作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に上流向きに順次伝送されると共に、作業区間WAの入り口付近に位置する最後尾の搬送用走行体1に達した走行可信号が、各搬送用走行体1が備えている前後両光通信装置13,14を介して今度は下流向きに伝送され、作業区間WAの出口付近に位置する搬送用走行体1の巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置18a,18bを経由して地上側制御装置に戻される。そしてこの作業区間WA内の全ての搬送用走行体1を1往復する1単位の走行可信号のリレー伝送が繰り返し行われるように構成されている。
【0018】
各搬送用走行体1には、図1に示すように、その牽引車2に制御装置19が搭載されている。この制御装置19が上記の走行可信号のリレー伝送を制御すると共に、走行可信号の中継を行う搬送用走行体1の制御装置19は、その中継する走行可信号に基づいて、搬送用走行体1を前記作業速度VLで直進走行させるように、左右一対のモーター6を制御するものである。従って、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が前記作業速度VLを保って直進走行することになる。
【0019】
若し、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が地上側制御装置によって断たれたときは、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送されなくなる。このとき各搬送用走行体1の制御装置19は、走行可信号の受信がないことに基づいてモーター6を停止させるので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1はその場で停止することになる。又、作業区間WA内の特定の搬送用走行体1に非常停止の対象となる異常が生じたとき、当該特定搬送用走行体1の制御装置19は、前後の搬送用走行体1間の走行可信号の中継を自動停止する。この結果、地上側制御装置へ戻す走行可信号のリレー伝送が遮断され、この状況に基づいて地上側制御装置は走行可信号の送信を中止するので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送されなくなり、やはり作業区間WA内の全ての搬送用走行体1はその場で停止することになる。尚、作業区間WAの入り口付近に位置する最後尾の搬送用走行体1は、自身が最後尾の搬送用走行体1であるとの判定に基づいて、後ろ側の搬送用走行体1からの下流向きの走行可信号を受信していないことによる停止制御は行わずに、その直前の搬送用走行体1から受信した走行可信号を下流方向へ逆向きに伝送することになる。
【0020】
次に、作業区間WAへ進入する搬送用走行体1に対する走行制御について、図3〜図5A、図7及び図8に基づいて説明する。図3Aに示すように、作業区間WAの入り口付近において作業速度VLで走行している最後尾の搬送用走行体1を前側搬送用走行体1Yとし、この前側搬送用走行体1Yの直後の後ろ側搬送用走行体1Zが作業区間WAに向かって高速VHで走行している状態とすると、当該後ろ側搬送用走行体1Zは、その障害物センサー12が前方の検出エリア内の障害物を検出していないことを条件に高速VHで走行を継続し、若し、障害物センサー12が前方の検出エリア内の障害物を検出すれば、予め設定されている障害物検出時の減速停止制御プログラムに従って制御装置19が自動的に減速停止制御を実行する。
【0021】
後ろ側搬送用走行体1Zが、作業区間WAから上流側一定距離の定位置を通過した時点(図7−S1)、例えば計測起点P1又は当該計測起点P1とは別に設定した定位置を通過した時点で、障害物センサー12による障害物検出時の減速停止制御プログラムは無効とし(図7−S2)、図3Bに示すように、当該後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yを障害物センサー12が検出する障害物検出最大車間距離D1まで接近したとき、ドッキングのための減速制御が開始される。即ち、後ろ側搬送用走行体1Zの障害物センサー12が前側搬送用走行体1Yを障害物として検出したとき(図7−S3)には、通常走行時に実行される障害物検出時の減速停止制御プログラムは実行されず、障害物センサー12の検出信号ONに基づいて前側搬送用走行体1Yとの間の車間距離に基づく減速制御が開始される(図7−S4)。
【0022】
図4Aに示すように、前側搬送用走行体1Y及び後ろ側搬送用走行体1Zは、夫々計測起点P1を通過した時点(定位置検出用センサー16が計測起点P1に設けられた地上側マーカーを検出した時点)からの走行距離L1Y,L1Zに相当する現在位置情報を持っている。具体的には、例えば駆動車輪5の回転に連動するパルスエンコーダーの発信パルスを、制御装置19が備える演算機能により計測起点P1を通過した時点から加算計数し、この搬送用走行体1の走行距離に比例して増加する計数値を現在位置情報として持たせることが出来る。而して、前側搬送用走行体1Yの制御装置19は、演算している現在位置情報を後ろ側搬送用走行体1Zに光通信装置13,14を介して伝送し、当該後ろ側搬送用走行体1Zの制御装置19では、受信した前側搬送用走行体1Yの現在位置情報と自身が演算している後ろ側搬送用走行体1Zの現在位置情報とを比較演算して、前側搬送用走行体1Yとの間の車間距離dを求め、この車間距離dの漸減変化に対応してモーター6を制御して後ろ側搬送用走行体1Zを減速させ、演算されている車間距離dが予めドッキング距離として設定されている設定値に達したとき(図7−S5)、当該後ろ側搬送用走行体1Zが作業速度VLにまで減速されているように、当該後ろ側搬送用走行体1Zを減速制御する(図7−S5)。
【0023】
上記減速制御により、図4Bに示すように、後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yに対して所期のドッキング距離まで接近して、当該前側搬送用走行体1Yと同一の作業速度VLで走行するドッキング完了状態になると、光通信装置13,14を介して前側搬送用走行体1Yにドッキング完了信号を送信し(図7−S6)、上記の車間距離に基づく減速制御を終了すると共に、そのまま作業速度VLでの走行を継続させる(図7−S7)。
【0024】
上記のドッキング完了時点では、図4Bに示すように、前側搬送用走行体1Yはドッキング確認位置P2に到達していないが、この前側搬送用走行体1Yがドッキング確認位置P2に到達したとき(図8−S1)、既に後ろ側搬送用走行体1Zからドッキング完了信号を受信しているとき(図8−S2)は、巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置17を経由させて地上側制御装置にドッキング完了信号を送信させる(図8−S3)と共に、そのまま作業速度VLでの走行を継続させる(図8−S4)。この後、先に説明した走行可信号のリレー伝送が後ろ側搬送用走行体1Zを最後尾の搬送用走行体1として実行され、この後ろ側搬送用走行体1Zを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が連続状態(ドッキング状態)を維持すべく作業速度VLで走行することになる。
【0025】
若し、図5Aに示すように、後ろ側搬送用走行体1Zが前側搬送用走行体1Yに対してドッキングを完了する前に、前側搬送用走行体1Yがドッキング確認位置P2に到達したならば、その場で停止制御を実行させると共に走行可信号の中継作用を中止させる(図8−S5)。この結果、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送が停止し、作業区間WAの出口側の地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信も停止するので、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が停止待機することになる。この状況は、停止待機する前側搬送用走行体1Yの巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置17を経由して地上側制御装置に通知される。
【0026】
そして停止待機している前側搬送用走行体1Yに対して後ろ側搬送用走行体1Zが障害物検出最大車間距離D1まで接近し、上記の車間距離に基づく減速制御を受けて、停止待機している前側搬送用走行体1Yに対してドッキングが完了すると、停止待機していた前側搬送用走行体1Yから巾広光通信装置15及び地上側巾広光通信装置17を経由して地上側制御装置にドッキング完了が通知され、地上側制御装置が作業区間WAの出口側の地上側巾広光通信装置18a,18bから作業区間WAの出口側付近で停止待機している先頭搬送用走行体1に走行可信号を送信するので、後ろ側搬送用走行体1Zと作業区間WA内で停止待機していた全ての搬送用走行体1に走行可信号が伝送され、再び作業速度VLでの走行が再開される。尚、停止待機している前側搬送用走行体1Yに対して後ろ側搬送用走行体1Zがドッキング完了した時点から、この前側搬送用走行体1Yを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が作業速度VLで走行を開始するまでの間の時間遅れが大きくなるときは、前側搬送用走行体1Yから後ろ側搬送用走行体1Zに走行可信号が送信されるまでの間、後ろ側搬送用走行体1Zを一時停止させるように制御しても良い。
【0027】
次に、図5B〜図6、図9及び図10に基づいて、作業区間WAから搬送用走行体1が退出するときの走行制御について説明する。図5Bに示すように、作業区間WAから直前に退出して高速VHで走行する搬送用走行体1を直前退出搬送用走行体1A、作業区間WAの最終工程確認位置P4に位置する搬送用走行体1を先頭搬送用走行体1B,そして作業区間WAの最終工程1つ手前の確認位置P3に位置する搬送用走行体1を2番搬送用走行体1Cとすると、先頭搬送用走行体1Bが最終工程確認位置P4に達したとき(図9−S1)、その情報が当該先頭搬送用走行体1Bの巾広光通信装置15から地上側巾広光通信装置18a,18bを経由して地上側制御装置に伝送され、地上側制御装置は、そのときの直前退出搬送用走行体1Aが先頭搬送用走行体1Bから一定安全確保距離D2の範囲内にあるか否かを判定し、直前退出搬送用走行体1Aが既に一定安全確保距離D2の範囲内から前方に離れているときは(図9−S2)、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信を継続するので、先頭搬送用走行体1Bの制御装置19は、最終工程確認位置P4に達したことと走行可信号を受信していることに基づいてモーター6を加速制御し、この先頭搬送用走行体1Bを高速VHで作業区間WAから退出させる(図9−S3)。
【0028】
若し、図5Bに仮想線で示すように、直前退出搬送用走行体1Aが一定安全確保距離D2内に有ると地上側制御装置が判定すると、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信を停止するので、先に説明した走行可信号のリレー伝送が停止され、この先頭搬送用走行体1Bを含む作業区間WA内の全ての搬送用走行体1がその場に停止待機することになる(図9−S4)。そして、直前退出搬送用走行体1Aが一定安全確保距離D2内から前方に進出すれば、先に説明した制御が行われて、先頭搬送用走行体1Bが高速VHで作業区間WAから退出すると同時に、2番搬送用走行体1Cとその後続の作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が作業速度VLでの走行を再開する。作業区間WAから高速VHで退出する先頭搬送用走行体1Bは、後述するように最終工程確認位置P4に到達する前に、作業区間WAに進入する前に無効にされていた障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御プログラムが有効に戻されているので、通常の障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御が併用される。
【0029】
一方、2番搬送用走行体1Cが最終工程1つ手前の確認位置P3を通過するとき(図10−S1)、最終工程確認位置P4を通過する先頭搬送用走行体1Bから光通信装置13,14を介して走行可信号を受信している(図10−S2)ので、2番搬送用走行体1Cはそのまま作業速度VLでの走行を継続する(図10−S3)が、上記作用により先頭搬送用走行体1Bが最終工程確認位置P4から高速VHで作業区間WAから退出走行して、当該先頭搬送用走行体1Bと2番搬送用走行体1Cとの間の車間距離が、光通信装置13,14によるデータ通信可能な車間距離より広がると、2番搬送用走行体1Cは先頭搬送用走行体1Bから前後の光通信装置13,14を介して走行可信号を受け継ぐことが出来なくなる。しかしこの最終工程1つ手前の確認位置P3から最終工程確認位置P4までの間の2番搬送用走行体1Cは、巾広光通信装置15を介して地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号を受信している(図10−S4)ことを条件に、最終工程確認位置P4に到達するまで(図10−S7)まで、作業速度VLでの走行を継続させることが出来る(図10−S6)。又、この2番搬送用走行体1Cが地上側巾広光通信装置18a,18bから走行可信号を受信していることにより、当該2番搬送用走行体1Cから後方に連続する作業区間WA内の全ての搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も継続され、作業区間WA内の全ての搬送用走行体1も2番搬送用走行体1Cに追従して作業速度VLで走行する。
【0030】
尚、作業区間WAに進入する前に無効にされていた各搬送用走行体1の障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御プログラムは、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cが先頭搬送用走行体1Bからの走行可信号に基づいて走行する状態から、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号のみに基づいて走行を継続する段階で有効になる(図10−S5)。従って、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cは、高速VHで作業区間WAから退出する先頭搬送用走行体1Bが前方に離れて走行可信号を受信しなくなった後は、障害物センサー12の障害物検知に基づく減速停止制御が併用される。従って、図6に示すように、最終工程確認位置P4から高速発進した先頭搬送用走行体1Bが何らかの原因で、最終工程確認位置P4に到達する前の2番搬送用走行体1Cの障害物センサー12で検出し得る位置で停止していたとすると、当該2番搬送用走行体1Cは、障害物センサー12の障害物検知に基づく通常の減速停止制御プログラムの作用によりその場で停止し、同時に後続の搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も停止するので、この2番搬送用走行体1Cを先頭とする作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が、異常停止していた先頭搬送用走行体1Bの後側VHでの走行が再開されるまで、その場で停止待機することになる
【0031】
尚、地上側制御装置の働きで地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が断たれたときは、最終工程1つ手前の確認位置P3を通過した2番搬送用走行体1Cはその場に停止すると共に、後続の搬送用走行体1に対する走行可信号のリレー伝送も断たれるので、この2番搬送用走行体1Cを先頭とする作業区間WA内の全ての搬送用走行体1が、地上側巾広光通信装置18a,18bからの走行可信号の送信が再開されるまでその場で停止待機することになる(図10−S8)。
【0032】
以上の走行制御によって、高速で走行する搬送用走行体1を自動的に減速制御して作業区間WA内に進入させ、この作業区間WA内では、全ての搬送用走行体1を互いに隣接する連続状態において一定の作業速度VLで走行させ、作業区間WAの出口に達した各搬送用走行体1は、自動的に加速制御して高速VHで退出させることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の搬送用走行体の走行制御方法は、自動車組立てライン内の一定の作業区間において、自動車車体を積載する自走可能な搬送用走行体を一定の作業速度で連続状態を維持させながら走行させる場合の走行制御方法として活用出来る。
【符号の説明】
【0034】
1,1A〜1C,1Y,1Z 搬送用走行体
2 牽引車
3 搬送台車
4 垂直連結軸
5 駆動車輪
6 モーター
7 後輪
12 障害物センサー
13,14 光通信装置
15 巾広光通信装置
16 定位置検出用センサー
17,18a,18b 地上側巾広光通信装置
19 制御装置
P1 計測起点
P2 ドッキング確認位置
P3 最終工程1つ手前の確認位置
P4 最終工程確認位置
L1Y,L1Z 搬送用走行体1Y及び1Zの走行距離
d,D3 車間距離
D1 障害物検出最大車間距離
D2 一定安全確保距離
WA 作業区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行速度可変の自走式搬送用走行体の走行経路中に、各搬送用走行体が走行方向に連続する状態を保って一定低速度の作業速度で自走する作業区間が設定され、この作業区間へ搬送用走行体が高速で接近走行するように構成された搬送設備において、各搬送用走行体には、前後に隣り合う搬送用走行体間でデータ通信を行うデータ通信手段が設けられ、前記作業区間の上手側走行経路中には、計測起点が設定され、前記作業区間へ高速で接近する後ろ側搬送用走行体とその前方の前記作業速度で走行する前側搬送用走行体には、前記計測起点からの走行距離に相当する現在位置情報を持たせ、後ろ側搬送用走行体では、自体の現在位置情報と前記データ通信手段を介して受け取った前側搬送用走行体の現在位置情報とに基づいて前側搬送用走行体との間の距離を演算させると共に当該距離の漸減変化に基づいて減速制御を行わせ、前記距離が設定値に達したドッキング完了時に後ろ側搬送用走行体が前記作業速度で自走しているように制御することを特徴とする、搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項2】
前記ドッキング完了後の後ろ側搬送用走行体は、前後両搬送用走行体間の距離に基づく速度制御を終了させ、作業区間内の全ての搬送用走行体を互いに連結することなく前記作業速度で自走させることを特徴とする、請求項1に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項3】
前記データ通信手段が投受光器を使用した光通信手段である、請求項1又は2に記載の搬送用走行体の走行制御方法。
【請求項4】
各搬送用走行体には、前方の障害物を検知する障害物センサーが設けられ、前記作業区間へ高速で接近する後ろ側搬送用走行体が前記障害物センサーにより前側搬送用走行体を検出したときから、前側搬送用走行体との間の距離の漸減変化に基づく前記減速制御を行わせることを特徴とする、請求項1又は2に記載の搬送用走行体の走行制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−160105(P2012−160105A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20546(P2011−20546)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】