説明

摩擦伝動ベルト及びその製造方法

【課題】 摩擦伝動ベルトのくり返し屈曲やエンジン周りの加熱条件での走行に対する動的接着性、耐熱接着性等の接着特性に優れるとともに、耐熱性、耐摩耗性、異音防止性等の所望の性能にも優れた摩擦伝動ベルトを提供する。
【解決手段】 ベルト長手方向に沿って心線2が埋設された接着ゴム層3と、圧縮ゴム層5とを積層してなる摩擦伝動ベルトであって、接着ゴム層3及び圧縮ゴム層5は、共にエチレン−α−オレフィン−ジエンゴム配合物を用いて形成されるものであり、心線2は、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものである摩擦伝動ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦伝動ベルトは、一般的に、圧縮ゴム層と接着ゴム層を有し、この接着ゴム層内に繊維心線が接着されて埋設されており、ベルトの上面、下面又は側面を含む全周面は、必要に応じて、ゴム引き帆布が接着されているものが広く使用されている。従来から、このような摩擦伝動ベルトにおいて、圧縮ゴム層にはクロロプレンゴムや、水素化ニトリルゴムとクロロスルホン化ポリエチレンゴムとの混合物が通常用いられていたが、近年環境保護の観点から、摩擦伝動ベルトの素材のゴムにも脱塩素化の要請があり、圧縮ゴム層と共に、接着ゴム層にも、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)等のエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いることが試みられている。
【0003】
特許文献1には、エチレン−α−オレフィンエラストマーを用いた硫黄架橋可能なゴム組成物の加硫物を使用し、心線を埋設した接着ゴム層と、エチレン−α−オレフィンエラストマーを用いた有機過酸化物架橋可能なゴム組成物の架橋物を使用した圧縮ゴム層とを積層した動力伝動用ベルトが開示されている。特許文献2には、接着ゴム層と、エチレン−α−オレフィンエラストマーにN,N′−m−フェニレンジマレイミドを添加し、パーオキサイド加硫した圧縮ゴム層とを含む伝動ベルトが開示されている。これらは、耐熱性、耐寒性、耐久性、耐粘着摩耗性等の性能の改善を目的とするものである。
【0004】
特許文献3には、ポリエステル繊維からなる心線が埋設されている接着ゴム層と圧縮ゴム層とが加硫接着され、上記接着ゴム層と上記圧縮ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物の加硫物からなり、上記心線がレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物にて接着処理された伝動ベルトが開示されており、また、上記接着剤組成物のラテックス成分として、クロロスルホン化ポリエチレン、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン−2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン共重合体ゴムを用いることが開示されている。
【0005】
しかし、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(EPDM)等エチレン−α−オレフィンエラストマーは、通常難接着性であるため、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤とゴムとの界面で接着力の低下が起こりやすいという問題があり、これらの文献で開示されているものにおいても、接着ゴム層と心線との間の接着力が未だ充分なものとはいえなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−193849号公報
【特許文献2】特開平11−349752号公報
【特許文献3】特開2001−003991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、摩擦伝動ベルトのくり返し屈曲やエンジン周りの加熱条件での走行に対する動的接着性、耐熱接着性等の接着特性に優れるとともに、耐熱性、耐摩耗性、異音防止性等の所望の性能にも優れた摩擦伝動ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベルト長手方向に沿って心線が埋設された接着ゴム層と、圧縮ゴム層とを積層してなる摩擦伝動ベルトであって、上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層は、共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて形成されるものであり、上記心線は、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものであることを特徴とする摩擦伝動ベルトである。
【0009】
上記接着ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものであることが好ましい。
上記エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、エチレン−プロピレン−ジエンゴムを含むものであることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、ベルト長手方向に沿って心線が埋設された接着ゴム層と、圧縮ゴム層とを積層してなる摩擦伝動ベルトの製造方法であって、心線をカルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物に含浸し、加熱乾燥して接着処理する工程(1)、上記工程(1)により得られた接着処理を施した心線を接着ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シート間に載置し、得られたシートに圧縮ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シートを積層する工程(2)及び上記工程(3)で得られた積層物を加圧加熱して、加硫する工程(3)を含むことを特徴とする摩擦伝動ベルト製造方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の摩擦伝動ベルトは、接着ゴム層及び圧縮ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて形成されるものであり、かつ、上記接着ゴム層中に埋設されている心線がカルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものである。本発明では、このような構成を用いることによって、接着特性を向上させることができる。
【0012】
即ち、上記摩擦伝動ベルトは、優れた動的接着性、耐熱接着性等の接着特性(接着ゴム層と心線との接着性や接着ゴム層と圧縮ゴム層との接着性等)を有するものである。このため、ベルト走行時において、優れた動的寿命を得ることができ、また、優れた耐久性を得ることができる。従って、ベルト走行時において、ベルトから心線が露出すること、接着ゴム層及び圧縮ゴム層の界面での破壊が生じること、ゴム層に割れが生じること、等の不具合の発生を防止することができる。
【0013】
上記摩擦伝動ベルトは、接着ゴム層と圧縮ゴム層とを積層してなるものであり、上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層は、共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物(エチレン−α−オレフィンエラストマーと、必要に応じてその他の成分とからなる配合物)を用いて形成されるものである。本発明では、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施した心線を用いるため、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる。
【0014】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとジエン(非共役ジエン)との共重合体からなるゴム、エチレンを除くα−オレフィンとエチレンとの共重合体からなるゴム、それらの一部ハロゲン置換物、又は、これらの2種以上の混合物が用いられる。上記エチレンを除くα−オレフィンとしては、好ましくは、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンからなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。なかでも、エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム(以下、EPDMともいう)、エチレン−プロピレンコポリマー(EPM)、エチレン−ブテンコポリマー(EBM)、エチレン−オクテンコポリマー(EOM)、これらのハロゲン置換物(特に、塩素置換物)、これらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。
【0015】
上記接着ゴム層、上記圧縮ゴムに用いるエチレン−α−オレフィンエラストマーにおいて、上記エチレンの含有量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマーを構成するエチレン、α−オレフィン及びジエンの合計量100質量%中に、50〜80質量%であることが好ましく、上記α−オレフィンの含有量は、20〜50質量%であることが好ましい。
【0016】
上記ジエン成分としては、通常、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン又はエチリデンノルボルネン等の非共役ジエンが適宜に用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーにおいて、上記非共役ジエンがエラストマーのヨウ素価として50以下であることが好ましく、4〜40であることがより好ましい。上記エチレン−α−オレフィンエラストマーは、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20〜120のものが好ましく用いられる。
【0018】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマーの市販品としては、例えば、X−3012P、3085(商品名、三井化学社製)、EP21、EP65(商品名、JSR社製)、5754、582F(商品名、住友化学社製)等を挙げることができる。
【0019】
上記摩擦伝動ベルトにおいて、上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層は、共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものであることが好ましい。
【0020】
摩擦伝動ベルトにおいて、エチレン−α−オレフィンエラストマーは一般的に引き裂き力が低いため、パーオキサイド架橋系を用いると、更に引き裂き力が低下し、走行時に心線がポップアウトし易い等の問題が生じていた。一方、本発明においては、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施した心線を用いるだけでなく、接着ゴム層及び圧縮ゴム層として、共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて得られるものを用いることによって、接着特性についてより顕著な効果を得ることができることを見出した。従って、本発明においては、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を向上させることができる。
【0021】
上記接着ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものであることが好ましい。この場合、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命をより一層向上させることができる。また、本発明では、上記接着ゴム層及び圧縮ゴム層が共に有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものであることがより好ましい。
【0022】
上記有機過酸化物としては特に限定されず、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルバレレート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシマレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシフタレート、t−ブチルパーオキシジラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;ジシクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;これらの混合物等を挙げることができる。なかでも、半減期1分を与える温度が130〜200℃の範囲にある有機過酸化物が好ましく、特に、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンを好適に用いることができる。この場合、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層が共に有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものである場合、同一の有機過酸化物を用いても、異なる有機過酸化物を用いてもよい。
【0023】
上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層に用いるエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物において、上記有機過酸化物の配合量は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー100質量部(固形分)に対して、0.001〜0.1モルであることが好ましい。0.001モル未満であると、架橋が充分進行せず、機械的強度を発現しないおそれがある。0.1モルを超えると、加硫物のスコーチ安全性又は加硫物の伸びが実用的な範囲を逸脱するおそれがある。より好ましくは、0.005〜0.05モルである。
【0024】
上記エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、架橋助剤(共架橋剤)を含むものであってもよい。架橋助剤を配合することによって、架橋度を上げて接着力を更に安定させ、粘着摩耗性等の問題を防止することができる。
上記架橋助剤としては、TAIC、TAC、1,2−ポリブタジエン、無水マレイン酸変性の1,2−ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄等通常パーオキサイド架橋に用いるものを挙げることができる。なかでも、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる点から、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和カルボン酸の金属塩、TAIC、無水マレイン酸変性の1,2−ポリブタジエンが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明においては、上記接着ゴム層、上記圧縮ゴム層を形成するためのエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー以外のゴム成分を本発明の効果を阻害しない範囲内で含んでもよい。また、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、上述した成分と共に、必要に応じて、カーボンブラック、シリカ、ガラス繊維、セラミックス繊維等の増強剤、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤等の通常のゴム工業で用いられる種々の薬剤を含有していてもよい。
【0026】
上記接着ゴム層、上記圧縮ゴム層を形成するためのエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、エチレン−α−オレフィンエラストマー、必要に応じて、有機過酸化物、上述したような薬剤と共に、ロール、バンバリー等、通常の混合手段を用いて均一に混合することによって得ることができる。上記接着ゴム層、上記圧縮ゴム層は、従来公知の方法により製造することができる。
【0027】
上記摩擦伝動ベルトは、例えば、上記接着ゴム層と、上記圧縮ゴム層とが加硫接着されたものである。上記加硫接着の方法は、特に限定されず、有機過酸化物の架橋等において従来公知の方法によって行うことができる。
【0028】
上記接着ゴム層は、ベルト長手方向に沿って心線が埋設されたものである。
上記心線としては、ポリエステル心線、ナイロン心線、ビニロン心線、アラミド心線等が好適に用いられる。上記ポリエステル心線としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が、上記ナイロン心線としては6,6−ナイロン(ポリヘキサメチレンアジパミド)、6ナイロンが好適に用いられる。上記アラミド心線としてはコポリパラフェニレン・3,4′オキシジフェニレン・テレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等が好適に用いられる。
【0029】
上記心線は、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものである。上記カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを用いることにより、RFL接着剤組成物と心線との間の接着を強固なものとし、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる。また、エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物がアミン化合物を含むものである場合、心線に対し、高温下で、ポリエステル心線のエステル結合やプレディップされたイソシアネートを加水分解し、接着力を低下させてしまうことがあるが、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを用いることにより、このような問題の発生を防止することができる。
【0030】
上記カルボキシル化ビニルピリジンラテックスとは、共役ジエン系単量体、ビニルピリジン、エチレン系不飽和酸単量体をモノマーユニットとして有する重合体のラテックスであり、公知の乳化重合法によって得られるものである。また、上記カルボキシル化ビニルピリジンラテックスにおいては、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なその他の単量体との共重合体を使用することができる。
【0031】
上記共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、クロロプレン等のハロゲン置換ブタジエン等の脂肪族共役ジエン系単量体等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記単量体組成物において、上記共役ジエン系単量体の含有量は、上記単量体組成物100質量%中に、45〜85質量%であることが好ましい。上記範囲外であると、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命が低下するおそれがある。60〜75質量%であることがより好ましい。
【0033】
上記エチレン系不飽和酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;アクリル酸スルホエチルNa塩、メタクリル酸スルホプロピルNa塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸又はそのアルカリ塩等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記単量体組成物において、上記エチレン系不飽和酸単量体の含有量は、上記単量体組成物100質量%中に、0.1〜25質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命の向上が小さいおそれがある。25質量%を超えると、初期接着力が低下するおそれがある。0.2〜12質量%であることがより好ましく、0.5〜8質量%であることが更に好ましい。
【0035】
上記ビニルピリジンとしては、例えば、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等を挙げることができる。なかでも、2−ビニルピリジンが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記単量体組成物において、上記ビニルピリジンの含有量は、上記単量体組成物100質量%中に、10〜45質量%であることが好ましい上記範囲外であると、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命が低下するおそれがある。15〜40質量%であることがより好ましい。
【0037】
上記単量体組成物は、上記各単量体と共重合可能なその他の単量体を含有するものであってもよい。
上記その他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニル等の脂肪族ビニル化合物等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記単量体組成物において、上記その他の単量体の含有量は、上記単量体組成物100質量%中に、0〜30質量%であることが好ましい。
【0038】
上記乳化重合の方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、また、重合に使用する乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等も特に限定されず、通常の乳化重合に用いられるものを挙げることができる。
【0039】
上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて形成され、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスをラテックス成分として用いるため、他のラテックス成分を接着剤組成物の成分として使用しなくても、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる。また、上記接着ゴム層が有機過酸化物を用いてを架橋することによって形成されるものである場合には、上述したような効果をより一層得ることができる。
【0040】
このように、本発明では、上記カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを用いることにより、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができるものであり、特に他のラテックス成分を必要としないものであるが、本発明の効果を阻害しない範囲内において、他のラテックス成分を併用してもよい。
【0041】
上記他のラテックス成分としては、例えば、天然ゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス、水素化NBRラテックス、カルボキシル化水素化NBRラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックス、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンラテックス、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジンターポリマーラテックス等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上記RFL処理で用いるRFL接着剤組成物は、通常、レゾルシンとホルマリンとをレゾルシン/ホルマリンのモル比1/0.1〜1/5(好ましくは1/0.1〜1/3)の範囲で塩基性触媒の存在下に縮合させて、レゾルシン−ホルマリン樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物、以下、RFともいう。)の5〜80質量%濃度の水溶液を調製し、これとゴムラテックスを混合することによって調製することができる。
【0043】
上記RFL接着剤組成物において、ラテックスの固形分量は、1〜50質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましい。また、上記RFL接着剤組成物の固形分濃度は、2〜50質量%であることが好ましく、3〜30質量%であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、強い接着力を得ることができる。
【0044】
本発明において、心線にRFL接着剤組成物を用いて接着処理を施す方法としては、例えば、心線をRFL接着剤組成物に浸漬(含浸)した後、加熱(ベーキング)し、乾燥して、RFL接着剤組成物を心線に定着させることにより行うことができる。上記加熱温度は、200〜270℃であることが好ましく、210〜250℃であることがより好ましい。
【0045】
上記接着処理は、第1の(最初の)RFL処理として、心線を先ず、第1のRFL接着剤組成物に浸漬し、加熱乾燥して、第1の(最初の)RFL処理を行った後、次に、第2のRFL接着剤組成物に浸漬し、加熱乾燥して、第2の(又は最終の)RFL処理を行うこと、即ちRFL接着剤組成物による処理を少なくとも2回行うことが好ましい。このような場合において、上記第1と上記第2のRFL接着剤組成物は、同一のものであっても、異なるものであってもよい。更に、必要に応じて、RFL接着剤組成物による処理を3回以上、行ってもよい。
【0046】
上記RFL接着剤組成物は、更に、金属酸化物と含硫黄加硫促進剤とを含むものであることが好ましい。上記RF及びラテックスに加えて、金属酸化物と含硫黄加硫促進剤とを含むRFL接着剤組成物に心線を含浸した後、これを200℃を超える高温に加熱し、乾燥することによって、心線と接着ゴムとの間の動的接着を一層高めると共に、心線の接着処理のための時間を著しく短縮することができる。よって、優れた動的接着性を有する摩擦伝動ベルトを生産性よく製造することができる。
【0047】
上記金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛又はこれらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。なかでも、酸化亜鉛が特に好ましい。
上記含硫黄加硫促進剤としては、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類又はこれらの2種以上の混合物が好ましく用いられる。上記含硫黄加硫促進剤は、エチレン−α−オレフィンエラストマーの加硫促進のためにより有効に作用する。
【0048】
上記チアゾール類としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)等を挙げることができる。なかでも、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる点から、ジベンゾチアジルジスルフィドを用いることが好ましい。
上記スルフェンアミド類としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等を挙げることができる。
【0049】
上記チウラム類としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等を挙げることができる。
【0050】
上記ジチオカルバミン酸塩類としては、例えば、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等を挙げることができる。本発明では、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる点から、酸化亜鉛とジベンゾチアジルジスルフィドとを併用することが特に好ましい。
【0051】
上記RFL接着剤組成物において、上記金属酸化物の配合量は、上記RFL接着剤組成物中のラテックス成分の固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。また、上記含硫黄加硫促進剤の配合量は、上記RFL接着剤組成物中のラテックス成分の固形分100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。上記範囲外である場合、動的接着性、耐熱接着性、動的寿命が低下するおそれがある。
【0052】
本発明では、上記カルボキシル化ビニルピリジンラテックスのラテックス成分と、上記金属酸化物及び含硫黄加硫促進剤とを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物に心線を含浸し、200〜270℃の温度に加熱し、乾燥させることによって、高い生産性を確保しつつ、エチレン−α−オレフィンエラストマーからなる接着ゴムと心線との間に動的接着性に優れた接着力を得ることができる。
【0053】
本発明においては、上記心線をRFL接着剤組成物を用いて接着処理する前に、イソシアネート又はエポキシ処理してもよい。即ち、イソシアネート化合物又はエポキシ化合物を含む溶液に心線を浸漬した後、必要に応じて、加熱乾燥することによって、心線に前処理を行ってもよい。上記加熱乾燥は、200〜270℃により行うことができる。
【0054】
上記イソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等の分子内に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が好ましく用いられる。また、このようなポリイソシアネート化合物にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のように分子内に活性水素を2つ以上有する化合物を反応させて得られる多価アルコール付加ポリイソシアネート;このようなポリイソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アミン類等のブロック化剤を反応させて、イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロックしたブロック化ポリイソシアネートもイソシアネート化合物として好適に用いることができる。なかでも、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる点から、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを用いることが特に好ましい。
【0055】
上記エポキシ化合物としては、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールと、エピクロロヒドリン等のハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物;レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルエタン、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類;フェノール樹脂とエピクロロヒドリン等のハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物が好ましく用いられる。なかでも、優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる点から、ポリグリセロール、ポリグリシジルエーテルを用いることが特に好ましい。
【0056】
上記イソシアネート化合物や上記エポキシ化合物の溶液を形成するための溶媒も特に限定されず、用いるイソシアネート化合物やエポキシ化合物に応じて、水や有機溶媒を適宜用いることができる。通常、イソシアネート化合物は化学的に非常に活性であるので、非水系溶液とされるが、例えば、上述したように、フェノール類等にてイソシアネート基をブロックしたものは、水溶液としても用いることができる。上記有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の脂肪族ケトン;酢酸エチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸アルキルエステル等が好適に用いることができる。上記イソシアネート化合物や上記エポキシ化合物の溶液において、上記イソシアネート化合物や上記エポキシ化合物の濃度は、通常、5〜50質量%の範囲である。
【0057】
本発明においては、心線をRFL接着剤組成物で接着処理した後、ゴム糊で処理してもよい。この後処理に用いるゴム糊として、例えば、圧縮ゴム層及び接着ゴム層を形成するためのエチレン−α−オレフィンエラストマーを適宜の有機溶媒に溶解して溶液としたもの、上記エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を適宜の有機溶媒に溶解して溶液としたもの等挙げることができる。上記後処理は、心線を上記溶液に浸漬した後、40〜120℃で加熱、乾燥することにより行うことができる。
【0058】
本発明においては、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むRFL接着剤組成物を用いて心線を接着処理し、処理を施した心線をエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いた未加硫のゴムシート間に挟み、加硫して、接着ゴム層内に加硫接着し、埋設することによって、心線と接着ゴム層との間に高い動的接着力を得ることができる。従って、このような心線がエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物からなる接着ゴム層内に一体に加硫接着されている摩擦伝動ベルトは、高い動的ベルト寿命を有するものである。
【0059】
上記接着処理を施した心線(処理繊維コード)と、上記接着ゴム層の形成に用いられるエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物とを密着加硫(160℃×30分間)して得られる加硫ゴムシートから、処理繊維コードを剥離する力(剥離接着力)は、室温において、150.0〜300.0(N/3本)であることが好ましい。また、120℃において、18.0〜30.0(N/3本)であることが好ましい。上記範囲内であると、心線と接着ゴム層との間が強固に接着され、より一層優れた動的接着性、耐熱接着性、動的寿命を得ることができる。
【0060】
上記剥離接着力(N/3本)は、後述する図4に示したような剥離テストにより得られる値である。なお、剥離接着力の値は、後述する特定区間ピーク値の総平均値である。
〔剥離テスト〕
7本の処理繊維コードが埋設された加硫ゴムシートにおいて、1本置きに選択した3本の処理繊維コードを上下のチャックで挟み、下記剥離条件の下で同時に剥離する。
[剥離条件:チャック間40mm、剥離スピード100mm/分間、剥離距離100mm(このうちしまいの60mm(剥離距離40〜100mmの60mm)の区間のピーク値平均を剥離力とする)]
【0061】
本発明の摩擦伝動ベルトとしては、ベルト長手方向に沿って心線が埋設された接着ゴム層とその内側に積層された圧縮ゴム層を接着一体化したものを挙げることができ、具体的には、Vリブドベルト、ローエッジVベルト及び平ベルト等を挙げることができる。
本発明の摩擦伝動ベルトの例を、図1〜図3を用いて説明する。
【0062】
図1は、Vリブドベルトの一例の横断面図(ベルト長手方向に直角な面)を示し、ベルトの上面は、単層又は複数層のゴム引き帆布層1が形成されており、この内側に隣接して、接着ゴム層3が積層されている。この接着ゴム層には、繊維コードからなる複数の低伸度の心線2が間隔を置いてベルト長手方向に延びるように埋設されている。更に、この接着ゴム層の内側に隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。この圧縮ゴム層は、ベルト長手方向に延びるように相互に間隔を有するリブ4に形成されている。多くの場合、圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に配向して短繊維6が分散されている。
【0063】
図2は、ローエッジタイプVベルトの一例の横断面図を示し、ベルトの上面は、上記と同様に、単層又は複数層のゴム引き帆布層1が形成されており、必要に応じて、上ゴム層7が積層され、この内側に隣接して、上記と同様に心線2が埋設された接着ゴム層3が積層され、更に、この内側に隣接して、圧縮ゴム層5が積層されている。多くの場合、圧縮ゴム層5には、その耐側圧性を高めるために、ベルトの幅方向に配向して短繊維6が分散されている。圧縮ゴム層の内側に隣接して通常、単層又は複数層のゴム引き帆布層1が積層されている。
図3は、平ベルトの一例の横断面図を示し、上記と同様、ゴム引き帆布層1、接着ゴム層3及び圧縮ゴム層5が積層されている。
【0064】
上記ゴム引き帆布層1としては、例えば、綿、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アラミド短繊維からなる糸を用いて、平織、綾織、朱子織等に製織した布を用いることができる。上記短繊維6としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル、綿、ビニロン、PBO、アラミド等からなるもの等を挙げることができる。上記上ゴム層7は、摩擦伝動ベルトにおいて従来公知のものを使用することができる。
【0065】
本発明の摩擦伝動ベルトは、従来より知られている通常の方法によって製造することができ、例えば、心線をカルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物に含浸し、加熱乾燥して接着処理する工程(1)、上記工程(1)により得られた接着処理を施した心線を接着ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シート間に載置し、得られたシートに圧縮ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シートを積層する工程(2)及び上記工程(3)で得られた積層物を加圧加熱して、加硫する工程(3)を含む方法により製造することができる。これにより、上述した摩擦伝動ベルトを製造することができる。このような摩擦伝動ベルトの製造方法も本発明の1つである。
【0066】
上記工程(1)の接着処理は、上述したレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて、同様に心線に接着処理を施すことにより行うことができる。上記工程(2)は、上記工程(1)により得られた接着処理を施した心線、上述したエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて、従来公知のベルトの製造方法と同様にして行うことができる。上記工程(3)もまた、従来公知のベルトの製造方法と同様にして行うことができる。なお、上記接着処理前に、上述した前処理を行ってもよい。また、上記接着処理後に、上述した後処理を行ってもよい。
【0067】
上記摩擦伝動ベルトのうち、Vリブドベルトの製造方法の例を以下に述べる。表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周面に1枚又は複数枚のゴムコート帆布と接着ゴム層のための未加硫シートを巻き付けた後、この上に心線を螺旋状にスピニングし、更に、その上に接着ゴム層のための未加硫シートを巻き付けた後、圧縮ゴム層のための未加硫シートを巻き付けて積層体とし、これを加硫缶中にて加熱加圧し、加硫して、環状物を得る。次に、この環状物を駆動ロールと従動ロールとの間に掛け渡して、所定の張力の下で走行させながら、これに研削ホイールにて表面に複数のリブを形成する。この後、この環状物を更に別の駆動ロールと従動ロールとの間に掛け渡して走行させながら、所定の幅に裁断すれば、製品としてのVリブドベルトを得ることができる。
【0068】
本発明の摩擦伝動ベルトは、上記接着ゴム層及び上記圧縮ゴム層が共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて形成されるものであり、かつ、上記心線がカルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものである。このため、上記摩擦伝動ベルトは、ベルト走行における動的接着性、耐熱接着性等の接着特性(接着ゴム層と心線との接着性や接着ゴム層と圧縮ゴム層との接着性等)に優れたものである。また、上記接着ゴム層が有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものである場合には、上述した効果をより一層得ることができる。また、これとともに、耐熱性、耐摩耗性、異音防止性等の所望の性能にも優れたものである。
【発明の効果】
【0069】
本発明の摩擦伝動ベルトは、上述した構成よりなるので、動的接着性、耐熱接着性等の接着特性に優れるものである。従って、自動車用補機(ダイナモ、エヤコン、パワステ等)の駆動用等の伝動ベルトとして好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下に本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0071】
接着ゴム層と圧縮ゴム層の製造
接着ゴム層を表1に示すゴム配合物から調製し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延し、接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを作成した(配合1)。圧縮ゴム層も表2に示すゴム配合物から調製し、同様に圧縮ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを作成した(配合2)。なお、用いた市販品は、以下のとおりである。
エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM):「EP24」(エチレン含有量54質量%、プロピレン含有量41.5質量%、エチリデンノルボルネン(ENB)4.5質量%、ムーニー粘度ML1+4(100℃)65、JSR社製)、
1)老化防止剤:「Nocrac224」(大内新興化学工業社製)
2)パーオキサイド:ジクミルパーオキサイド
3)オイル:「サンパー2280」(日本サン石油社製)
4)ナイロン短繊維(ナイロン66、タイプT5 1mm長、旭化成社製)
5)FEFカーボン(東海カーボン社製)
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
RFL接着剤組成物の製造
水97.4質量部に水酸化ナトリウム0.5質量部を溶解し、レゾルシン6.7質量部とホルマリン(37質量%濃度)6.3質量部を順に溶解し、2時間熟成して、レゾルシン・ホルマリン樹脂(レゾルシン−ホルマリン初期縮合物)(これをRFという)R/F比(レゾルシン/ホルマリンモル比)=1/1.2の水溶液を調製した。このRF水溶液に、カルボキシル化ビニルピリジンラテックス(日本ゼオン社製、「商品名Nipol LX603」、固形分36%)を加え(ラテックス量:273.0質量部)、更に水616.1質量部を加え、固形分が10.8%になるように調整した。その後、攪拌し12時間熟成して、RFL接着剤組成物を調製した(配合A)。
【0075】
また、表3に示した配合に変更した以外は、製造例1と同様にしてRFL接着剤組成物を調製した(配合B〜D)。
表3中で示されているものは以下の通りである。
DM:ジベンゾチアジルジスルフィド
クロロスルホン化ポリエチレンラテックス:商品名「CSMラテックス450」、住友精化社製、固形分32%
ビニルピリジン−SBRラテックス:商品名「JSR0650」、JSR社製、固形分40%
クロロプレンラテックス:商品名「水系ショウプレン842A」、昭和電工エラストマー社製、固形分50%
【0076】
【表3】

【0077】
ゴム糊の製造
表1に示した接着ゴム層に用いたゴム配合物(配合1)を20質量部(固形分)、トルエン80質量部を混合することによりゴム糊を得た。
【0078】
実施例1及び比較例1〜3
(心線の処理)
ポリエチレンテレフタレート心線(PETコード、1000デニール、/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り21.9T/10cm、帝人社製)をイソシアネートのトルエン溶液(イソシアネー卜固形分20質量%)に浸漬した後、240℃で40秒間加熱乾燥して、前処理を施した。
次に、このように前処理したポリエチレンテレフタレート心線を得られたRFL接着剤組成物に浸漬し、230℃で80秒間加熱乾燥させることにより、接着処理を行った。
次いで、このように処理したポリエチレンテレフタレート心線を、ゴム糊に浸漬した後、60℃で40秒間加熱乾操して、ポリエチレンテレフタレート心線に接着処理(後処理)を施した。
【0079】
(摩擦伝動ベルトの作製)
帆布と上記接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを、表面が平滑な円筒状の成形ドラムの周辺に巻き付けた後、この上に、上述のようにして得られた接着処理済みのポリエチレンテレフタレート心線を螺旋状にスピニングした。更に、その上に上記接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを巻き付けた後、圧縮ゴム層用ゴム配合物未加硫シートを巻き付けて積層体とし、これを内庄6kgf/cm、外圧9kgf/cm、温度165℃、時間35分間、加硫缶中にて加熱加圧し、蒸気加硫して、環状物を得た。次いで、この環状物を駆動ロールと従動ロールとからなる第1の駆動システムに取り付けて、所定の張力の下で走行させながら、これに研削ホイールにて表面に複数のリブを形成し、この後、この環状物を更に別の駆動ロールと従動ロールとからなる第2の駆動システムに取り付けて、走行させながら、所定の幅に裁断して、リブ数3、周長さ1000mmの製品としてのVリブドベルトを得た。なお、各Vリブドベルトの製造に用いた接着ゴム層用ゴム配合物未加硫シート、圧縮ゴム層用ゴム配合物未加硫シート、RFL接着処理剤、ゴム糊は、表4に示す通りである。
【0080】
実施例2〜3
ポリエチレンテレフタレート心線の代わりに、ポリエチレンナフタレート心線(PENコード、1000デニール、/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り21.9T/10cm、帝人社製、実施例2)、アラミド心線(アラミドコード、1000デニール、/2×3、上撚り9.5T/10cm(Z)、下撚り21.9T/10cm、帝人社製、実施例3)を使用した以外は、実施例1と同様に、心線の処理及び摩擦伝動ベルトの作製を行った。
【0081】
〔評価〕
以下の方法により、接着試験(剥離接着力、破壊の態様)、ベルト走行試験の走行後の剥離長さを以下の方法により評価した。結果を表4に示した。
【0082】
(接着試験)
(1)剥離接着力の測定
接着処理を施した心線(処理繊維コード)と、接着ゴム層の形成に用いられるエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物(配合1)とを密着加硫(160℃×30分間)して得られる加硫ゴムシートから、処理繊維コードを剥離する力(剥離接着力)を測定する剥離テストを行った。剥離テストは、以下の方法で、室温(RT)、120℃条件下で行った。
図4に示すように、7本の処理繊維コード21、21、・・・加硫ゴムシート22に埋設されたサンプルを用意する。このうち1本置きに選択した3本の処理繊維コード21、21、21を上下のチャックで挟み、下記剥離条件の下で同時に剥離する。
なお、表4の剥離接着力の値は、下記特定区間全ピーク値の総平均値である。
「剥離条件」
チャック間:40mm
剥離スピード:100mm/min
剥離距離:100mm〔このうちしまいの60mm(剥離距離40〜100mmの60mm)の区間のピーク値平均を剥離接着力とする〕
【0083】
(2)破壊の態様
上記剥離接着力を測定した際の接着物における破壊の態様を観察した。下記の基準で目視して判断した。
R:ゴム凝集破壊
R−C:ゴム−コード界面の剥離
【0084】
(摩擦伝動ベルトの走行試験)
上述のようにして得られたVリブドベルトを、図5に示すように駆動プーリ11(直径120mm)と従動プーリ12(直径120mm)とこれらのプーリの間に配置したアイドラープーリ13(直径70mm)とテンションプーリ14(直径55mm)とからなるベルト駆動システムに取り付けた。但し、アイドラープーリにはベルト背面を係合させた。
温度130℃の雰囲気温度の下で、従動プーリの負荷を16馬力とし、テンションプーリの初張力を85kgfとし、駆動プーリを回転数4900rpmで駆動して、ベルトを24時間走行させ、走行後にベルトの心線と接着ゴムの界面の剥離した長さ(mm)を測定した。
【0085】
【表4】

【0086】
表4より、実施例の摩擦伝動ベルトは、室温、120℃の両条件下において、剥離接着力が良好で、長時間の走行においても剥離が生じることがなく、動的寿命に優れるものであった。従って、実施例においては、優れた接着特性(動的接着性、耐熱接着性)、動的寿命を得ることができることが明らかとなった。一方、比較例の摩擦伝動ベルトは、心線の接着力が良好でなく、剥離も生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の摩擦伝動ベルトは、自動車用補機(ダイナモ、エヤコン、パワステ等)の駆動用等の伝動用ベルトに好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】Vリブドベルトの横断面図(ベルト長手方向に直角な面)の一例である。
【図2】ローエッジタイプVベルトの横断面図の一例である。
【図3】平ベルトの横断面図の一例である。
【図4】コード剥離テストを説明する概略図である。
【図5】摩擦伝動ベルトの走行試験の様子を示した概略図である。
【符号の説明】
【0089】
1 ゴム引き帆布層
2、21 心線(処理繊維コード)
3 接着ゴム層
4 リブ
5 圧縮ゴム層
6 短繊維
7 上ゴム層
11 駆動プーリ
12 従動プーリ
13 アイドラープーリ
14 テンションプーリ
22 加硫ゴムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に沿って心線が埋設された接着ゴム層と、圧縮ゴム層とを積層してなる摩擦伝動ベルトであって、
前記接着ゴム層及び前記圧縮ゴム層は、共にエチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を用いて形成されるものであり、
前記心線は、カルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物を用いて接着処理を施したものである
ことを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
接着ゴム層は、エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物を有機過酸化物を用いて架橋することによって形成されるものである請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物は、エチレン−プロピレン−ジエンゴムを含むものである請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
ベルト長手方向に沿って心線が埋設された接着ゴム層と、圧縮ゴム層とを積層してなる摩擦伝動ベルトの製造方法であって、
心線をカルボキシル化ビニルピリジンラテックスを含むレゾルシン−ホルマリン−ラテックス接着剤組成物に含浸し、加熱乾燥して接着処理する工程(1)、前記工程(1)により得られた接着処理を施した心線を接着ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シート間に載置し、得られたシートに圧縮ゴム層を形成するための未加硫エチレン−α−オレフィンエラストマー配合物シートを積層する工程(2)及び前記工程(3)で得られた積層物を加圧加熱して、加硫する工程(3)を含む
ことを特徴とする摩擦伝動ベルト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−300104(P2006−300104A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118630(P2005−118630)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】