説明

摩擦攪拌接合構造およびパワー半導体装置

【課題】摩擦攪拌接合において発生する摩擦熱とツールからの荷重による被接合部材の変形を低減する。
【解決手段】被接合部材10を被接合部材20に重ね合わせした突き合わせ部W1が摩擦攪拌接合されている。摩擦攪拌接合部FSW1近傍に薄肉部12が設けられている。薄肉部12により、摩擦攪拌接合時の摩擦熱と接合ツールからの荷重が被接合部材10全体に伝達することが抑制され、被接合部材10における変形の発生量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合を用いた接合構造、およびそれを用いたパワー半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士の接合方法として、FSW(摩擦攪拌接合)が知られている。摩擦攪拌接合とは、回転するツール(以後、接合ツールと称する)を接合する金属部材同士の境界面に押当てながら挿入することで、接合する部材同士を摩擦熱によって加熱、軟化させ、接合ツールの回転とともに塑性流動させることで接合する方法である。
【0003】
特許文献1には、一部が開口した凹部を有するジャケット本体と、凹部の開口を封止する封止体とで構成された水冷ジャケットの製造方法が開示されている。この製造方法では、ジャケット本体の開口に設けた段差の側面と、封止体の側面とで突合せ継手を形成し、その突合せ面を摩擦攪拌接合により接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−140951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦攪拌接合においては、接合ツールを回転させながら互いに接合される金属部材(被接合部材)に押当てて挿入するため、被接合部材には接合ツールとの摩擦熱および押当て荷重が生じる。このため、摩擦攪拌接合による被接合部材には、摩擦熱と荷重による変形が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、摩擦攪拌接合を用いた接合構造において、接合ツールと被接合部材との摩擦熱と、接合ツール挿入の押当て荷重による被接合部材全体の変形を低減するために、接合部近傍の被接合部材の双方もしくは一方に、薄肉部を有することを特徴としている。
(1)請求項1の発明は、第1および第2の部材を摩擦攪拌接合により一体化してなる摩擦攪拌接合構造において、少なくとも前記第1および第2の部材のいずれか一方には、摩擦攪拌接合部に沿って薄肉部が形成されていることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1の部材と前記第2の部材は重ね継手として当接され、その当接面が摩擦攪拌接合されていることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項2に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1の部材の引張強度S1は前記第2の部材の引張強度S2より小さく規定され、前記第1の部材の前記薄肉部の厚さL1と、前記摩擦攪拌接合部の接合深さD1との関係を、
(2×S1)/(S1+S2)× L1 < D1
に規定したことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項3に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1の部材は矩形平板であり、前記第2の部材は前記矩形平板で閉鎖される開口部を有し、前記第2の部材の前記開口部には段差が形成され、前記第1の部材の外周縁には前記段差に載置された接合部が形成され、前記第1の部材の外周縁と第2の部材の前記開口部の段差内面との突合せ部が摩擦攪拌接合により全周接合されており、前記第1の部材の前記摩擦攪拌接合部に沿って前記薄肉部が形成されていることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項4に記載の摩擦攪拌接合構造を有するパワー半導体装置であり、パワー半導体モジュールと、前記パワー半導体モジュールが収容されるケースと、前記パワー半導体モジュールを冷却する放熱板とを有し、前記第2の部材が前記ケースであり、前記第1の部材は前記第2の部材の開口部を閉鎖する放熱板であることを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項1に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1および第2の部材の双方に前記薄肉部を有することを特徴とする。
(7)請求項7の発明は、請求項6に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1の部材と前記第2の部材は突き合わせ継手として当接されて摩擦攪拌接合されていることを特徴とする。
(8)請求項8の発明は、請求項7に記載の摩擦攪拌接合構造において、前記第1の部材の引張強度S1は前記第2の部材の引張強度S2より小さく規定され、前記第1の部材の前記薄肉部の厚さL1と、前記第2の部材の前記薄肉部の厚さL2と、摩擦攪拌接合部の接合深さD1としたとき、
(2×S1)/(S1+S2)× L1 < D1
および
(S1/S2)× L1 < L2
が満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の摩擦攪拌接合構造によれば、被接合部材の少なくとも一方の被接合部材に薄肉部を設けたので、摩擦攪拌接合時に発生する熱が被接合部材の中央側に伝熱しづらくなり、被接合部材の主要部の熱変形を抑制できる。また、摩擦攪拌接合により被接合部材に働く押圧荷重により薄肉部が変形するので、被接合部材の主要部の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】第1の実施の形態により接合される一対の被接合部材の突き合わせ状態を示す概略斜視図
【図1B】第1の実施の形態による摩擦攪拌接合の施工を説明する概略斜視図
【図1C】第1の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図1D】第1の実施の形態の応用例を示す分解斜視図
【図1E】図1Dの応用例の蓋を裏面から見た斜視図
【図2A】第2の実施の形態により接合される一対の被接合部材の突き合わせ状態を示す概略斜視図
【図2B】第2の実施の形態による摩擦攪拌接合の施工を説明する概略斜視図
【図2C】第2の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図3A】第3の実施の形態により接合される一対の被接合部材の突き合わせ状態を示す概略斜視図
【図3B】第3の実施の形態による摩擦攪拌接合の施工を説明する概略斜視図
【図3C】第3の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図4A】第4の実施の形態により接合される一対の被接合部材の突き合わせ状態を示す概略斜視図
【図4B】第4の実施の形態による摩擦攪拌接合の施工を説明する概略斜視図
【図4C】第4の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図5】第5の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図6】第6の実施の形態による摩擦攪拌接合部を示す拡大断面図
【図7】第7の実施の形態によるパワー半導体装置の構造図
【図8】図7のVIII−VIII線断面図
【図9】図8のIX部拡大図
【図10】薄肉部の有無による平面度の大小を説明する表
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
図1A〜図1Cは第1の実施の形態の摩擦攪拌接合構造を説明する図である。
本実施の形態は、図1Aに示す被接合部材10の端面と被接合部材50の端面との突合せ面W1を摩擦攪拌接合して一体化するものである。図1Bは、突合せ面W1に形成された摩擦攪拌接合部FSW1を示す図、図1Cは、摩擦攪拌接合部FSW1を示す拡大断面図である。
【0010】
被接合部材10は、平板であり、裏面に凹部11が設けられている。この凹部11により、被接合部材10に薄肉部12が形成される。被接合部材50は被接合部材10よりも厚い板材であり、被接合部材10との接合部に段差51が設けられている。
【0011】
被接合部材10の端面を被接合部材50の端面に形成されている段差51に載せ、図1Bに示すように、突合せ面W1の上面から回転する接合ツールTOをP1方向に荷重F1で押圧して突合せ面W1に挿入し、接合ツールTOをM1方向に移動させながら被接合部材10および被接合部材50を摩擦攪拌接合し、図1Cに詳細に示す摩擦攪拌接合部FSW1を得る。
【0012】
薄肉部12は摩擦攪拌接合部FSW1の近傍に位置しているので、以下のような作用効果を奏することができる。摩擦攪拌接合時に発生する摩擦熱は被接合部材10側に伝達される。被接合部材10に設けた薄肉部12の熱伝達面積は、摩擦攪拌接合部FSW1となる被接合部材10の端面の熱伝達面積よりも縮小され、熱抵抗が大きくされている。そのため、薄肉部以降の被接合部材10側への熱伝達が抑制される。その結果、被接合部材10の熱変形を低減することができる。
【0013】
また同時に、接合中には接合ツールTOからの荷重F1が被接合部材10に付与されるが、周囲よりも薄く剛性の低い薄肉部12が優先的に変形することによって、薄肉部以外の被接合部材10の変形を低減することができる。
要するに、摩擦攪拌接合部FSW1に沿って薄肉部12を設けることにより、摩擦攪拌接合時の摩擦熱と接合ツールからの荷重が被接合部材10全体に伝達することが抑制され、被接合部材10における変形の発生量が低減する。
【0014】
第1の実施の形態の摩擦攪拌接合構造では、被接合部材10の形状は限定しない。図1A〜図1Cに示す接合構造では、突き合わせ面W1が一辺に設けられているが、2辺でも3辺でもよい。摩擦攪拌接合部が2辺に形成される場合は薄肉部12は2辺に沿って形成され、摩擦攪拌接合部が3辺に形成される場合は薄肉部12は3辺に沿って形成される。
被接合部材10の全周縁において摩擦攪拌接合が実施されてもよい。この場合、凹部11、すなわち薄肉部12も全周縁の内側に全周に渡って形成される。
以上の説明は、以下の第2の実施の形態〜第4の実施の形態についても共通に適用される。
【0015】
図1D、図1Eは、第1の実施の形態の摩擦攪拌接合構造を発熱性電子部品の冷却装置に適用した応用例を示す。
図1Dに示すように、冷却装置CAは、冷媒が流通する凹部151が設けられた冷却ジャケットである容器150と、凹部151の開口152を封止する蓋110とを有する。開口152には段差153が形成されている。容器150には、図示しない冷媒入口と出口が設けられている。
蓋110の表面には、被冷却部材である発熱性電子部品115が実装される。蓋110の裏面には、周縁に形成された段差111と、段差111を形成する厚肉部113と蓋中央の厚肉部114とに囲まれた凹部112とが設けられている。凹部112で形成される薄肉部は図1Aの薄肉部12に相当する。
【0016】
この冷却装置では、凹部151に冷媒を流通させて蓋110の表面に実装した発熱性電子部品115を冷却する。したがって、発熱性電子部品115を蓋110の表面に密着して実装する必要がある。蓋110は、容器150に比べて強度が低いので、摩擦攪拌接合時の荷重F1や熱で変形しやすく、摩擦攪拌接合により蓋110の実装面が変形することを防止することが望まれる。
【0017】
そこで、図1D,図1Eに示した第1の実施の形態の応用例では、蓋110の周縁内側に凹部112を設けて薄肉部を形成した。この薄肉部は、厚肉部113や114に比べて板厚が薄くされている。その結果、厚肉部114に比べて伝熱断面積が小さいので、摩擦攪拌接合によって発生する熱の実装面への入力を抑制することができ、熱による蓋表面、中央厚肉部114の変形を抑制することができる。また、摩擦攪拌接合時の荷重F1により薄肉部112が変形するので、蓋110の中央厚肉部114の変形を抑制する効果も得られる。
【0018】
[第2の実施の形態]
図2A〜図2Cは第2の実施の形態の摩擦攪拌接合構造を説明する図である。
本実施の形態は、図2Aに示す被接合部材20の端面と被接合部材60の端面との突合せ面W2を摩擦攪拌接合して一体化するものである。図2Bは、突合せ面W2に形成された摩擦攪拌接合部FSW2を示す図、図2Cは、摩擦攪拌接合部FSW2を示す拡大断面図である。
【0019】
被接合部材20は、平板であり、裏面に凹部21が設けられている。この凹部21により、被接合部材20に薄肉部22が形成される。被接合部材60は、平板であり、裏面に凹部61が設けられている。この凹部61により、被接合部材60に薄肉部62が形成される。
【0020】
被接合部材20の端面を被接合部材60の端面に当接させ、図2Bに示すように、突合せ面W2の上面から回転する接合ツールTOをP2方向に荷重F2で押圧して突合せ面W2に挿入し、接合ツールTOをM2方向に移動させながら被接合部材20および被接合部材60を摩擦攪拌接合し、図2Cに詳細に示す摩擦攪拌接合部FSW2を得る。
【0021】
この摩擦攪拌接合時に発生する摩擦熱は被接合部材20および60側に伝達される。被接合部材20、60に設けた薄肉部22、62の熱伝達面積は、摩擦攪拌接合部FSW2となる被接合部材20、60の端面の熱伝達面積よりも縮小され、熱抵抗が大きくされている。そのため、薄肉部以降の被接合部材20側、および60側への熱伝達が抑制される。その結果、被接合部材20および60の熱変形を低減することができる。
【0022】
また同時に、接合中には接合ツールTOからの荷重F2が被接合部材20、60に付与されるが、周囲よりも薄く剛性の低い薄肉部22、62が優先的に変形することによって、薄肉部以外の被接合部材20、60の変形を低減することができる。
【0023】
[第3の実施の形態]
図3A〜図3Cは第3の実施の形態の摩擦攪拌接合構造を説明する図である。
本実施の形態は、図3Aに示す被接合部材30の端部を被接合部材70の端部に重ね合わせ、その合わせ面W3を摩擦攪拌接合して一体化するものである。図3Bは、突合せ面W3に形成された摩擦攪拌接合部FSW3を示す図、図3Cは、摩擦攪拌接合部FSW3を示す拡大断面図である。
【0024】
被接合部材30は、平板であり、裏面に凹部31が設けられている。この凹部31により、被接合部材30に薄肉部32が形成される。被接合部材70は、被接合部材30よりも厚い平板である。
【0025】
被接合部材30の端部を被接合部材70の端部に重ね合わせ、図3Bに示すように、被接合部材30の上面側からその合わせ面W3に向けて回転する接合ツールTOをP3方向に荷重F3で押圧する。接合ツールTOが被接合部材30に挿入され、突合せ面W3を貫通して被接合部材70に達した後、接合ツールTOをM3方向に移動させながら被接合部材30および被接合部材70を摩擦攪拌接合し、図3Cに詳細に示す摩擦攪拌接合部FSW3を得る。
【0026】
この摩擦攪拌接合時に発生する摩擦熱は被接合部材30および60側に伝達される。被接合部材30に設けた薄肉部32の熱伝達面積は、摩擦攪拌接合部FSW3となる被接合部材30の端部の熱伝達面積よりも縮小され、熱抵抗が大きくされている。そのため、薄肉部以降の被接合部材30側への熱伝達が抑制される。その結果、被接合部材30の熱変形を低減することができる。
【0027】
また同時に、接合中には接合ツールTOからの荷重F3が被接合部材30に付与されるが、周囲よりも薄く剛性の低い薄肉部32が優先的に変形することによって、薄肉部以外の被接合部材30の変形を低減することができる。
【0028】
[第4の実施の形態]
図4A〜図4Cは第4の実施の形態の摩擦攪拌接合構造を説明する図である。
本実施の形態は、図4Aに示す被接合部材40の端部を被接合部材80の端部に重ね合わせ、その合わせ面W4を摩擦攪拌接合して一体化するものである。図4Bは、突合せ面W4に形成された摩擦攪拌接合部FSW4を示す図、図4Cは、摩擦攪拌接合部FSW4を示す拡大断面図である。
【0029】
被接合部材40は、平板であり、裏面に凹部41が設けられている。この凹部41により、被接合部材40に薄肉部42が形成される。被接合部材80は、被接合部材40よりも厚い平板であり、裏面に凹部81が設けられている。この凹部81により、被接合部材80に薄肉部82が形成される。
【0030】
被接合部材40の端部を被接合部材80の端部に重ね合わせ、図4Bに示すように、被接合部材40の上面側からその合わせ面W4に向けて回転する接合ツールTOをP4方向に荷重F4で押圧する。接合ツールTOが被接合部材40に挿入され、突合せ面W4を貫通して被接合部材80に達した後、接合ツールTOをM4方向に移動させながら被接合部材40および被接合部材80を摩擦攪拌接合し、図4Cに詳細に示す摩擦攪拌接合部FSW4を得る。
【0031】
この摩擦攪拌接合時に発生する摩擦熱は被接合部材40および80側に伝達される。被接合部材40に設けた薄肉部42の熱伝達面積は、摩擦攪拌接合部FSW4となる被接合部材40の端部の熱伝達面積よりも縮小され、熱抵抗が大きくされている。そのため、薄肉部以降の被接合部材40側への熱伝達が抑制される。その結果、被接合部材40の熱変形を低減することができる。
同様に、被接合部材80に設けた薄肉部82の熱伝達面積は、摩擦攪拌接合部FSW4となる被接合部材80の端部の熱伝達面積よりも縮小され、熱抵抗が大きくされている。そのため、薄肉部以降の被接合部材80側への熱伝達が抑制される。その結果、被接合部材80の熱変形を低減することができる。
【0032】
また同時に、接合中には接合ツールTOからの荷重F4が被接合部材40に付与されるが、周囲よりも薄く剛性の低い薄肉部42が優先的に変形することによって、薄肉部以外の被接合部材40の変形を低減することができる。被接合部材80も同様に、剛性の低い薄肉部82が優先的に変形することによって、薄肉部以外の被接合部材80の変形を低減することができる。
【0033】
[第5の実施の形態]
本実施の形態による摩擦攪拌接合構造は、第1の実施の形態における摩擦攪拌接合構造について、被接合部材10と50の材料、薄肉部12の厚さ、摩擦攪拌接合部FSW5の深さをそれぞれ規定したものであり、引張り強度S1の被接合部材10を引張り強度S2の被接合部材50に接合する構造である。
【0034】
第5の実施の形態の条件は次の(I)、(II)である。
(I)条件1
引張り強度S1とS2は、
S1<S2 …(1)
(II)条件2
摩擦攪拌接合部FSW5の接合深さD1と、被接合部材10の薄肉部12の板厚L1は、
{(2×S1)/(S1+S2)}× L1 < D1 …(2)
を満足するように設定する。
これにより、摩擦攪拌接合部FSW5の強度を薄肉部12の強度よりも大きくした摩擦攪拌接合構造を提供できる。そして、(1)式および(2)式の関係を満足する限りにおいて接合深さD1を最小化すれば、摩擦攪拌接合時に生じる摩擦熱および荷重を小さくことができ、変形をさらに低減することができる。
【0035】
[第6の実施の形態]
本実施の形態による摩擦攪拌接合構造は、第2の実施の形態における摩擦攪拌接合構造について、被接合部材20と60の材料、薄肉部22、62の厚さ、摩擦攪拌接合部FSW6の深さをそれぞれ規定したものであり、引張り強度S1の被接合部材20を引張り強度S2の被接合部材60に接合する構造である。
【0036】
第6の実施の形態の条件は次の(I)、(II)、(III)である。
(I)条件1
引張り強度S1とS2は、
S1<S2 …(1)
(II)条件2
摩擦攪拌接合部FSW5の接合深さD1と、被接合部材20の薄肉部22の板厚L1は、
{(2×S1)/(S1+S2)}× L1 < D1 …(2)
を満足するように設定する。
(II)条件3
被接合部材20の薄肉部22の板厚L1と、被接合部材60の薄肉部62の板厚L2は、
(S1/S2)× L1 < L2 …(3)
を満足するように設定する。
【0037】
これにより、摩擦攪拌接合部FSW6の強度を薄肉部22および薄肉部62の強度よりも大きくした摩擦攪拌接合構造を提供できる。そして、(1)式〜(3)式の関係を満足する限りにおいて接合深さD1を最小化すれば、摩擦攪拌接合時に生じる摩擦熱および荷重を小さくことができ、変形をさらに低減することができる。
【0038】
[第7の実施の形態]
第7の実施の形態は、本発明による摩擦攪拌接合構造を放熱フィン付きパワーモジュール半導体装置に適用したものである。図7〜図9を参照して説明する。図7は、パワー半導体装置100の正面図、図8は図7のVIII−VIII線断面図、図9は図8のIX部の拡大図である。
【0039】
図7に示すように、放熱フィン付きパワー半導体装置100は、ケース110と、ケース110内に収容されたパワー半導体モジュール120と、パワー半導体モジュール120の正負極直流端子にそれぞれが接続された外部直流正負極端子130と、電動機へ交流電力を供給する交流外部端子140と、パワー半導体モジュール120の各ゲート信号用外部端子150と、エミッタ電圧検出用外部端子160とを備えている。
【0040】
3相交流電動機を駆動制御する場合、放熱フィン付きパワー半導体装置100は、U相,V相、W相ごとに設けられ、3相ブリッジ回路を構成する。各相のパワー半導体装置100のパワー半導体モジュール120は、上アーム用IGBT121(図8参照)と下アーム用IGBT121を有する。パワー半導体装置100は、図示しない冷却ジャケットの流路に浸漬されて冷却される。
【0041】
図8を参照すると、ケース110は、パワー半導体モジュール120を内部に収容するケース本体200と、一対のフィン付き放熱板250とを備えている。ケース本体200の両面には開口210がそれぞれ設けられ、各開口210の周縁にフィン付き放熱板250がそれぞれ摩擦攪拌接合され、ケース本体200の内部を封止している。図7と図9の符号FSW7が摩擦攪拌接合部を示している。パワー半導体モジュール120を構成するIGBT121は、ケース110の内部において、フィン付き放熱板250のケース内面である密着面255に密着している。
【0042】
パワー半導体モジュール120を構成するIGBT121において発生した熱は、リードフレーム122および密着面255を介して、それぞれが密着するフィン付き放熱板250に伝わり、冷却ジャケットを流通する流体に伝熱することにより放熱される。
【0043】
ケース本体200はアルミダイカスト製であり、強度を確保するとともに、製造コストを低減できる。フィン付き放熱板250も高熱伝導率のアルミニウム材料であり、放熱性を確保している。このように、ケース本体200と放熱板250でケース110を作成するようにしたので、強度と製造コストと放熱性を両立したケース110を実現できる。
【0044】
一対のフィン付き放熱板250は同一部材である。フィン付き放熱板250は、放熱板本体251と、放熱板本体251の表面から突設された複数本のピンフィン252とを有する。放熱板本体251は、図9を参照して説明すると、中央部の矩形厚板部251aと、矩形厚板部251aの周縁に四角環状に設けられた薄肉部251bと、薄肉部251bのさらに外側の周縁に四角環状に設けられ、薄肉部251bよりも厚肉である摩擦攪拌接合部251cとを有する。
【0045】
ケース本体200の開口210の内周縁には、図9に示すように、ケース表面から深さT1だけ窪み、開口210の中心側に突設する放熱板載置部211が形成されている。載置部211は、載置面211aと、載置面211aからケース外方に立ち上がる側壁211bとを有する。放熱板250の接合部251cのケース内側面253は載置面211aに載置され、放熱板接合部251cのケース外周面254は側壁211bに当接している。
【0046】
摩擦攪拌接合部FSW7は、フィン付き放熱板250の接合部251cを、ケース本体200に形成された載置面211aに載置し、フィン付き放熱板250のケース外周面254と、ケース本体200の載置面211aから立ち上がる側壁211bの当接面を接合ツールによって摩擦攪拌接合して形成される。摩擦攪拌接合部FSW7は、図7に示すように、放熱板250の全周縁に沿って四角環状に設けられている。
【0047】
図9において、フィン付き放熱板250の摩擦攪拌接合部251の板厚T1を1mm、密着面255を有する放熱板本体251の板厚T2を2.5mm、薄肉部25Ibの板厚L3を0.5mm、摩擦攪拌接合部FSW7の接合深さD1を0.7mmとした
【0048】
なお、図9において、薄肉部251bの長さをWで表している。この薄肉部251bの長さとは、フィン付き放熱板250の摩擦攪拌接合部251cとパワー半導体モジュール120の放熱板本体251との間の薄肉部251bの長さと定義することができる。
【0049】
図10は、上述した条件(1)〜(3)を満足する図9の摩擦攪拌接合構造における薄肉部長さWに対する密着面255の平面度を示す。
図10から明らかなように、摩擦攪拌接合部251cの近傍に薄肉部251bを設けることで、フィン付き放熱板250の平面度の悪化を半分程度にまで低減することができる。これによって、パワー半導体モジュール120と放熱板250との密着性を向上でき、パワー半導体装置100の放熱性能を向上することができる。
【0050】
要するに、図9による摩擦攪拌接合構造では、板厚L3の薄肉部251bが形成されており、摩擦攪拌接合時に発生する摩擦熱と接合ツールからの押付け荷重が密着面255に伝達されることによって生じる密着面255の平面度の悪化を抑制する。
【0051】
以上説明した実施の形態は一例であり、本発明は実施の形態に限定されない。したがって、本発明による摩擦攪拌接合構造の適用部品はパワー半導体装置に限定されない。
【符号の説明】
【0052】
10、20,30,40,50,60 被接合部材
12,22,32,42,62,82 薄肉部
100 パワー半導体装置
110 ケース
120 パワー半導体モジュール
121 IGBT
122 リードフレーム
200 ケース本体
210 開口
211 載置部
211a 載置面
250 フィン付き放熱板
251 放熱板本体
251a 厚肉部
251b 薄肉部
251c 放熱板接合部
252 ピンフィン
255 密着面
FSW1〜7 摩擦攪拌接合部
TO 接合ツール
D1 摩擦攪拌接合部FSWの接合深さ
D2 摩擦攪拌接合部FSWの接合深さ
F1 接合ツールTOからの荷重
L1 被接合部材10における薄肉部12の厚さ
L2 被接合部材60における薄肉部62の厚さ
L3 放熱板250における薄肉部251bの厚さ
S1 被接合部材10,20の引張り強度
S2 被接合部材50,60の引張り強度
T1 放熱板250の摩擦攪拌接合部251cの板厚
T2 放熱板本体251の板厚
W 放熱板250の薄肉部251bの長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の部材を摩擦攪拌接合により一体化してなる摩擦攪拌接合構造において、
少なくとも前記第1および第2の部材のいずれか一方には、摩擦攪拌接合部に沿って薄肉部が形成されていることを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1の部材と前記第2の部材は重ね継手として当接され、その当接面が摩擦攪拌接合されていることを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1の部材の引張強度S1は前記第2の部材の引張強度S2より小さく規定され、
前記第1の部材の前記薄肉部の厚さL1と、前記摩擦攪拌接合部の接合深さD1との関係を、
(2×S1)/(S1+S2)× L1 < D1
に規定したことを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項4】
請求項3に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1の部材は矩形平板であり、前記第2の部材は前記矩形平板で閉鎖される開口部を有し、
前記第2の部材の前記開口部には段差が形成され、
前記第1の部材の外周縁には前記段差に載置された接合部が形成され、
前記第1の部材の外周縁と第2の部材の前記開口部の段差内面との突合せ部が摩擦攪拌接合により全周接合されており、
前記第1の部材の前記摩擦攪拌接合部に沿って前記薄肉部が形成されていることを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦攪拌接合構造を有するパワー半導体装置は、
パワー半導体モジュールと、
前記パワー半導体モジュールが収容されるケースと、
前記パワー半導体モジュールを冷却する放熱板とを有し、
前記第2の部材が前記ケースであり、前記第1の部材は前記第2の部材の開口部を閉鎖する放熱板であることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1および第2の部材の双方に前記薄肉部を有することを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項7】
請求項6に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1の部材と前記第2の部材は突き合わせ継手として当接されて摩擦攪拌接合されていることを特徴とする摩擦攪拌接合構造。
【請求項8】
請求項7に記載の摩擦攪拌接合構造において、
前記第1の部材の引張強度S1は前記第2の部材の引張強度S2より小さく規定され、
前記第1の部材の前記薄肉部の厚さL1と、前記第2の部材の前記薄肉部の厚さL2と、摩擦攪拌接合部の接合深さD1としたとき、
(2×S1)/(S1+S2)× L1 < D1
および
(S1/S2)× L1 < L2
が満足することを特徴とする摩擦攪拌接合構造。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−39615(P2013−39615A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179706(P2011−179706)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】