説明

撥水性皮膜の製造方法、及び離型紙

【課題】 基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用でき、撥水性に優れる離型紙などに用いる撥水性皮膜3の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材1へ、表面自由エネルギーが16〜40mN/mの撥水性皮膜3の製造方法であって、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランからなる選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含む混合ガスを、sccm基準で原料ガス:酸素ガス=100:0.001〜9の流量比で、真空槽内に導入し、真空度が0.1〜15Paで、プラズマが作成可能以上で6kW以下の蒸着源分解出力で、プラズマ化学気相成長方式により、炭素含有酸化ケイ素の撥水性皮膜を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性皮膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、撥水性に優れ、基材と撥水性皮膜との密着性に優れる撥水性皮膜の製造方法、及び離型紙に関するものである。
【0002】
本明細書において、配合を示す「比」、「部」、「%」などは特に断わらない限り質量基準であり、「/」印は一体的に積層されていることを示す。また、「CVD」は「化学気相成長方式」、「PET」は「ポリエチレンテレフタレート」の略語、機能的表現、通称、又は業界用語である。なお、撥水性と離型性は接触する物質の差であって、同意である。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)従来、外用消炎沈痛剤や経皮吸収型製剤の貼付剤シート、粘着剤シート、成形用グリーンシートなどには使用までに粘着性層を保護するために、剥離可能な撥水性皮膜を有する離型紙(離型フィルム、剥離紙ともいう)が仮着されている。通常、離型紙は、紙や樹脂フィルムの基材に、硬化型のシリコーン系樹脂組成物をコーティングした撥水性皮膜を形成しているが、シリコーン系樹脂皮膜自身が撥水性、離型性を有することから、逆に、基材との密着性に劣る欠点がある。このために、基材とシリコーン系樹脂皮膜との密着性を改良するために、基材に、予め、シランカップリング剤等の下塗り層を設けたり、コロナ放電処理等の易接着処理を施さなばならないという問題点もある。また、上記の離型紙を、例えば、貼付剤シート、粘着剤シート、成形シート等に使用すると、基材とシリコ−ン系樹脂皮膜との間で剥離したり、シリコーン系樹脂皮膜中の未反応のシリコーンモノマー等が残存して、貼付剤や粘着剤中に移行して粘着力を低下させたり、逆に、離型紙へ貼付剤中の薬品が吸着移行して薬品が減少して薬効を低下させるという問題点もある。さらに、シリコーン系樹脂組成物はウエットコーティング方式で形成するので、塗布ムラが発生して、均一な膜厚を得ることは極めて困難であり、さらに、空気中の塵埃が付着して機能を低下させるという問題点もあり、依然として、十分に満足し得るものではなく、妥協しながら、使用しているのが実状である。
従って、離型紙などに用いる撥水性皮膜は、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用でき、撥水性に優れることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−256839号公報
【特許文献2】特開2002−113806号公報
【特許文献3】特開平11−309815号公報
【特許文献4】特開2002−210860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術)従来、撥水性コーティング膜の製造方法としては、Si原子に直接結合したCH3基を含むモノマー材料であるヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、もしくはオクタメチルシクロテトラシロキサンと、酸素ガスを含む混合ガスを、モノマー材料100に対して酸素ガスが10(ただし、10を含まず)〜500の流量比で、真空槽内に導入し、CVD法により、厚みが10Å〜100Åであり、水に対する接触角が110°以上の、CH3基が残存した撥水性を示すSiO2膜の薄膜を物品の最表面上に形成するが知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、モノマー材料であるヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、もしくはオクタメチルシクロテトラシロキサンと限定されおり、本願発明の「オクタメチルトリシロキサン」は記載されておらず、酸素ガスとの流量比もモノマー材料100に対して酸素ガスが10(ただし、10を含まず)〜500と異なっている。
また、撥水性防汚フィルムとしては、撥水性と防汚性がある表面シリカ層を最表面に有し、当該表面シリカ層と基材との間には密着シリカ層を有し、前記表面シリカ層は、珪素、酸素、および炭素の各元素から構成されており、炭素含有量が20〜40原子%であり、表面エネルギーが20〜40mN/mであり、水との接触角が70〜110°であり、一方で、前記密着シリカ層は、珪素、酸素、および炭素の各元素から構成されており、炭素含有量が20原子%未満であり、表面エネルギーが50〜70mN/mであり、かつ、前記表面シリカ層および前記密着シリカ層が、成膜圧力0.5TorrのプラズマCVD法で形成されているものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、混合ガスとしてはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)が例示されているが、本願発明の「オクタメチルトリシロキサン」は記載されておらず、酸素ガスとの流量比も実施例1で、HMDSOガス150sccmと酸素ガス150sccmが例示されているのみで、本願発明の流量比とは異なっている。
さらに、撥水性ガスバリアフィルムとしては、プラスチックフィルムである基材の少なくとも片面にガスバリア層を有し、該ガスバリア層は、珪素酸化物と、炭素、水素、珪素及び酸素の中の1種あるいは2種以上の元素からなる化合物を少なくとも1種類含有し、該ガスバリア層の表面における該化合物の濃度が50%を越えており、前記ガスバリア層を、少なくとも有機珪素化合物の蒸気と酸素もしくは酸化力を有するガスの存在下でプラズマCVD法により積層するものが知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、ガスバリア層(20)を形成するための有機珪素化合物としては、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが例示されているのみで、本願発明の「オクタメチルトリシロキサン」は記載されておらず、酸素ガスとの流量比も記載されていない。
さらにまた、離型フィルムとしては、基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けた離型層とからなり、更に、上記の離型層が、珪素酸化物の連続薄膜層からなり、また、珪素酸化物の連続薄膜層中には、炭素、水素、珪素、および、酸素の中の1種類あるいは2種類以上からなる化合物を少なくとも1種類以上を含有し、かつ、炭素原子含有量が、5原子%以上であるものが知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、モノマーガスとしては、テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが例示されているが、本願発明の「オクタメチルトリシロキサン」は記載されておらず、酸素ガスとの流量比も実施例1で、ヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス=10:1が例示されているのみで、本願発明の流量比とは異なっている。
【0006】
なお、特許文献1、2、4は本出願人の開示によるもので、限定したモノマーガスを用いて、該モノマーガス:酸素ガス=100:0.001〜9と少ない酸素ガスでも、上記のような問題点を解消するために、本発明者らは鋭意研究を進め、本発明の完成に至ったものである。その目的は、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用でき、撥水性に優れる離型紙などに用いる撥水性皮膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の
請求項1の発明に係わる撥水性皮膜の製造方法は、X線光電子分光分析法による最表面が炭素40〜60原子%、酸素20〜30原子%、珪素20〜30原子%であり、表面自由エネルギーが16〜40mN/mの撥水性皮膜の製造方法であって、基材へ、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランから選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含む混合ガスを、sccm基準で原料ガス:酸素ガス=100:0.001〜9の流量比で、真空槽内に導入し、真空度が0.1〜15Paで、プラズマが作成可能以上で6kW以下の蒸着源分解出力で、プラズマ化学気相成長方式により、炭素含有酸化ケイ素の撥水性皮膜を形成するように、したものである。
請求項2の発明に係わる撥水性皮膜の製造方法は、上記撥水性皮膜の厚さが5〜300nmであるように、したものである。
請求項3の発明に係わる撥水性皮膜の製造方法は、プラズマ化学気相成長方式が、巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式からなるように、したものである。
請求項4の発明に係わる撥水性皮膜が基材へ形成されてなる離型紙は、請求項1〜3のいずれかに記載撥水性皮膜の製造方法で、製造されてなる基材及び撥水性皮膜からなるように、したものである。
請求項5の発明に係わる離型紙は、前記撥水性皮膜の表面と粘着テープの粘着面とを貼り合わせ、200kPaで加圧し温度40℃で24時間静置した後に剥離しても、粘着テープの粘着面へ撥水性皮膜の成分である珪素が転移しないように、したものである。
請求項6の発明に係わる離型紙は、離型紙がセラミックコンデンサー用離型紙であるように、したものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の本発明によれば、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用でき、撥水性に優れる効果を奏する。
請求項2〜3の本発明によれば、請求項1の効果を有する撥水性皮膜を巻取式で効率よく生産できる効果を奏する。
請求項4の本発明によれば、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用することもできる離型紙などに使用できる。
請求項5の本発明によれば、請求項4の効果に加えて、所望の条件下でも撥水性皮膜の成分が接触面へ移行しない離型紙などに使用することができる。
請求項6の本発明によれば、セラミックコンデンサー用の離型紙に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明の1実施例を示す離型紙の断面図である。
【図2】本願発明に用いるプラズマCVD装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0011】
(離型紙)図1に示すような本願発明の撥水性皮膜3が基材1へ形成されてなる離型紙10は、基材1へ、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランからなる選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含む混合ガスを、sccm基準で原料ガス:酸素ガス=100:0.001〜9の流量比で、真空槽内に導入し、真空度が0.1〜15Paで、プラズマが作成可能以上で6kW以下の蒸着源分解出力で、プラズマ化学気相成長方式により、炭素含有酸化ケイ素の撥水性皮膜3を形成する撥水性皮膜3の製造方法で製造されてなり、該撥水性皮膜3の表面自由エネルギーは16〜40mN/mを有している。また、好ましくは、撥水性皮膜3の厚さが1〜300nmであり、撥水性皮膜3の製造方法が巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式である。さらに、離型紙10の基材1へ、他のプラスチックフィルム、金属箔及び/又は紙などの単層又は複数が積層されてなるものも含むものである。
【0012】
(基材)基材1としては、プラズマ化学気相成長方式に耐え、ある程度の機械的強度、耐熱性を有するフィルムであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリプロピレン系樹脂や環状ポリオレフィン系樹脂などのオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が例示できる。好ましくは1軸又は2軸延伸フィルムで、フィルムの厚さとしては6〜250μm位、より好ましくは、12〜150μm程度が望ましい。また、基材1には、耐候性、滑り性、電気的特性等を改良し改質するために、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤、滑剤等を適宜添加してもよい。
【0013】
さらに、基材1の表面には、撥水性皮膜3との密接着性等を向上させるために、必要に応じて、予め、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品による酸化処理をしたり、プライマ層などの表面処理層を設けてもよい。また、基材1の撥水性皮膜3と反対面には必要に応じて、他のフィルムや紙など任意の材料を積層してもよい。
【0014】
撥水性皮膜3の成膜がプラズマ化学気相成長方式で行うので、基材との密着性がよく、基材の選択幅が広く、広範囲の基材から選択することもできる。しかも、溶媒で希釈した塗工液を塗布し乾燥するコーティングに比較して、無溶剤で加工することができ、コーティングで発生する廃液や乾燥済みガスの処理が不要である。
【0015】
(製造方法)本願発明の撥水性皮膜3の製造方法は、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランからなる選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含む混合ガスを、sccm基準で原料ガス:酸素ガス=100:0.001〜9の流量比で、真空槽内に導入し、真空度が0.1〜15Paで、プラズマが作成可能以上で6kW以下の蒸着源分解出力で、プラズマ化学気相成長方式により、炭素含有酸化ケイ素の撥水性皮膜を形成する。
【0016】
混合ガスの組成物としては、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランからなる選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含み、キャリヤーガスとしてアルゴンガスまたはヘリウムガスからなる不活性ガスを用いた組成からなるガス組成物を使用する。
【0017】
また、プズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、または、マイクロ波プラズマ等の発生装置等を使用することができる。さらに、プズマ化学気相成長方式としては、好ましくは、巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式を使用することで、安定した膜厚で、安定した撥水性皮膜3を低コストで製造することができる。
【0018】
(プラズマCVD)具体的に、上記の低温プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)の形成法についてその一例を例示して説明する。図2に示すように、プラズマ化学気相成長装置11の真空チャンバー12内に配置された巻き出しロ−ル13から基材1を繰り出し、更に、該基材1を、補助ロ−ル14を介して所定の速度で冷却・電極ドラム15周面上に搬送する。而して、ガス供給装置16、17および、原料揮発供給装置18等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガス、その他等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しなから原料供給ノズル19を通して真空チャンバー12内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム15周面上に搬送された基材1の上に、グロー放電プラズマ20によってプラズマを発生させ、これを照射して、炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)を製膜化する。
【0019】
その際に、冷却・電極ドラム15は、真空チャンバー12の外に配置されている電源21から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム15の近傍には、マグネット22を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、上記で炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)を形成した基材1は、補助ロール23を介して巻き取りロール24に巻き取って、本発明にかかるプラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)を形成することができるものである。なお、図中、25は、真空ポンプを表す。上記の例示は、その一例を例示するものであり、これによって本発明は限定されるものではないことは言うまでもないことである。図示しないが、本発明においては、炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)としては、炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層の1層だけではなく、その2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよい。
【0020】
真空チャンバー12内を真空ポンプ25により減圧し、原料揮発供給装置18においては、原料である有機珪素化合物を揮発させ、ガス供給装置16、17から供給される酸素ガス、不活性ガス等と混合させ、この混合ガスを原料供給ノズル19を介して真空チャンバー12内に導入されるものである。装置的には混合ガス中の有機珪素化合物、酸素ガス、および、不活性ガス等の含有量は、任意の組成で変更することが可能であるが、本願発明では、モノマーガス:酸素ガス=100:0.001〜9と少ない酸素ガスとする。
【0021】
一方、冷却・電極ドラム15には、電源21から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー12内の原料供給ノズル19の開口部と冷却・電極ドラム15との近傍でグロ−放電プラズマ20が生成され、このグロー放電プラズマ20は、混合ガスなかの1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態において、基材1を一定速度で搬送させ、グロ−放電プラブマ20によって、冷却・電極ドラム15周面上の基材1の上に、炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)を形成することができるものである。
【0022】
なお、このときの真空チャンバー内の真空度を0.1〜15Pa程度に調整し、
また、基材1の搬送速度は、10〜500m/分位、好ましくは、30〜350m/分程度である。また、蒸着源分解出力はプラズマが作成可能以上で、6kW以下とする。
【0023】
このように、上記のプラズマ化学気相成長装置11において、炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)の形成は、基材1の上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながら式SiOxCyの形で薄膜状に形成されるので、当該形成される炭素含有酸化ケイ素の蒸着膜は、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となるものであり、従って、基材との密接着性に優れ、更に、膜厚の均一性も高く、また、真空中で成膜化することからその表面に塵埃等の付着することはなく、均一な離型性を有する優れた特性を有する皮膜を形成し得るものである。また、プラズマにより基材1の表面が、清浄化され、基材1の表面に、極性基やフリ−ラジカル等が発生するので、形成される炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層と基材1との密接着性が高いものとなるという利点を有するものである。
【0024】
基材1/撥水性皮膜3から構成され離型紙を、例えば、セラミックグリーンシート成型用の工程離型紙として使用すると、セラミックグリーンシートからの物質転移もほどんどなく、逆に撥水性皮膜3からの物質転移もほとんどないので、1回使用後に、剥離した後に再度使用することができる。
【0025】
さらに、上記のように炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層の形成時の真空度を0.1〜15Pa程度に調整することから、従来の真空蒸着法により酸化珪素の蒸着膜を形成する時の真空度、1×10-2〜1×10-3Pa程度に比較して低真空度であることから、基材1を原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度を安定しやすく、製膜プロセスが安定するものである。
【0026】
(炭素含有酸化ケイ素)炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)は、珪素酸化物を主体とし、これに、炭素若しくは水素の1種類、又は2種類の元素からなる化合物から選択される少なくとも1種類を化学結合等により含有し、一般式SiOxCy、又は一般式SiOxCyHzで表されるものを主成分とする。例えば、グラファイト状、ダイヤモンド状若しくはフラーレン状になった炭素単位、C−H結合を有する化合物、Si−C結合を有する化合物、又は原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合によって含有する場合もある。好ましくは、撥水性に優れるCH3部位を持つハイドロカーボンをあげることができる。
【0027】
炭素含有酸化ケイ素は一般的な結晶性酸化珪素と異なり、有機成分を含有したアモルファスである。炭素含有量を制御することで、物性を調整することができ、炭素単位は蒸着過程の条件等を変化させることにより、珪素酸化物の連続薄膜層中に含有される化合物の種類、量等を変化させる。炭素含有量が多いほど、表面自由エネルギーが低く、接触角が大きく、撥水性に優れる。
【0028】
(撥水性皮膜)主成分が一般式SiOxCy、又は一般式SiOxCyHzで表される炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)の最表面の組成は、X線光電子分光分析法(最表面の分析法で、以下、XPS法という)によって、C1s:40〜60%、O1s:20〜30%、Si2p:20〜30%である。また、膜中の平均組成は、グロー放電発光分光分析法によって、C:10〜30%、H:10〜20%、O:30〜45%、Si:15〜40%である。これらは最表面と膜中の平均であり、分析方法も違い異なっています。
【0029】
この範囲未満では撥水性(離型性)が低下したり、耐衝撃性、延展性、柔軟性が不十分で、曲げにより擦り傷、クラック等が発生し易く、またこの範囲を超えると、膜の基材との密着性が低下したり、膜の硬度や強度等が低下し脱落したりするので好ましくない。
炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)の原子含有量は、例えば、X線光電子分光装置(XPS)、二次イオン質量分析装置(SIMS)等の表面分析装置を用いた元素分析で確認できる。
【0030】
(厚さ)炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)の厚さは、5〜300nmである。この範囲未満では撥水性(離型性)が低下し、この範囲を超えると皮膜にクラック等が発生したりして、好ましくない。皮膜の膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。プラズマ化学気相成長方式による炭素含有酸化ケイ素(撥水性皮膜3)の膜厚は、均一性を高くでき、通常プラスマイナス2nm以下程度、条件によりプラスマイナス1nm以下に制御することもできる。このために、最小の厚さでも安定した撥水性を得ることができる。
【0031】
(モノマーガス)炭素含有酸化ケイ素の連続薄膜層(撥水性皮膜3)を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランからなる選択される少なくとも1種を用いることができ、好ましくは、オクタメチルトリシロキサンである。また、キャリアガスとして用いる不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
【0032】
(アニール)撥水性皮膜3(炭素含有酸化ケイ素)は、形成後にアニール処理を行ってもよい。
【0033】
(撥水性)このようにして、基材1へ撥水性皮膜3(炭素含有酸化ケイ素)が形成されてなる離型紙10が得られる。得られた撥水性皮膜3の表面自由エネルギーは16〜40mN/mで、十分な撥水性(離型層性)を有している。離型紙10は、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用できることもでき、例えば、貼付剤シート、粘着剤シート、成形シート、合成皮革製造用やセラミックコンデンサー用の工程紙、液晶用偏光板粘着シート、その他の用途に使用できる。
【0034】
(再利用)撥水性皮膜3は、例えば貼付剤シートの離型紙10として用いても、貼付剤中の薬品成分が離型紙10へ浸透したり、吸着したりしないので、含有されているすべての薬品成分が有効に働く効果もある。また、合成皮革製造用やセラミックコンデンサー用の工程紙、液晶用偏光板粘着シートの工程離型紙として用いると、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、基材への密着性にも優れているので、使用後に再び、再利用できることもできる。
【0035】
(セラミックコンデンサー用)セラミックコンデンサー用の工程離型紙に好適である。例えば、平均粒径が0.01〜1μm程度のセラミック粉末と分散剤とバインダーと溶媒とを含有するセラミックスラリー組成物を、本願発明の基材1へ撥水性皮膜3(炭素含有酸化ケイ素)が形成されてなる離型紙10の撥水性皮膜3面へ、ドクターブレード法など公知のコーティング法でシート状に成形して、セラミックグリーンシートが形成できる。厚さが0.1〜10μm程度のセラミックグリーンシートを、卑金属内部電極とともに積層、切断、焼成した後、外部電極を形成することで積層セラミック電子部品となる。前述のセラミックグリーンシートを用いて、セラミック素子中に内部電極が配設されているとともに、セラミック素子の両端部に、交互に異なる側の端面に引き出された内部電極と導通するように一対の外部電極が設ければ、積層セラミックコンデンサとなる。
【0036】
本願発明の撥水性皮膜3が形成された離型紙10を用いてセラミックグリーンシートを作成することで、高密度で、表面の平滑性が優れており、該セラミックグリーンシートを用いて積層セラミック電子部品を製造することで、所望の特性を有する高品質で信頼性の高い積層セラミック電子部品が得られ、ショート率も低下し信頼性が向上できる。

【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)基材1として厚み38μmの2軸延伸PET(SKC社製SG−05)を使用し、図2に示すプラズマ化学気相成長装置に装着し、下記条件で基材のコロナ処理面に炭素含有酸化珪素の連続薄膜からなる撥水性皮膜3(離型層)を形成して、実施例1の離型紙10を得た。
・モノマーガスはオクタメチルトリシロキサン(OMTSOと略す、信越化学工業製、KF96L−1CS)
・キャリアガスはヘリウムガス(He)
・流量比はHe:OMTSO:O2=300:3200:300(単位はsccm)
・真空度は2.7〜8.0Pa
・蒸着源分解出力は2kW
・蒸着速度は60m/分
【0039】
(実施例2〜9)表1に記載する条件とする以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜9の離型紙10を得た。
【0040】
(比較例1〜2)表1に記載する条件とする以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜2の離型紙10を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
(評価方法)評価は、接触角、表面自由エネルギー、剥離強度で行った。
【0043】
(測定方法)<接触角の測定方法>JIS R 3257(1999)「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」にて、接触角計は協和界面化学株式会社Drop Master700を使用した。
<表面自由エネルギーの測定方法>上記接触角計を使用し、水とジヨードメタンの接触角から算出した。
<剥離強度の測定方法>JIS Z 0237にて、粘着テープとしては日東電工株式会社製粘着テープ31Bを使用し、引張り試験機は株式会社オリエンテック製テンシロンを使用し、引張り速度300mm/分、50mm幅、180℃剥離で測定を行った。
【0044】
(評価結果)実施例1〜8では、いずれの撥水性皮膜3も表面自由エネルギが16〜40mN/mの範囲であり、撥水性も十分で、粘着テープを用いた剥離強度も剥離できる程度であり、良好であった。
比較例1では炭素含有量が少ないようで、表面自由エネルギが範囲内であるが、やや高く、粘着テープを用いた剥離性では剥離できなかった。比較例2では、均一な膜が形成できず、従って評価もできなかった。
【0045】
(実施例10)実施例1〜6の離型紙10を用いて、撥水性皮膜3(離型層)の表面と粘着テープ(日東電工31B)の粘着面とを貼り合わせ、200kPaで加圧し温度40℃で24時間静置した後に剥離して、剥がした粘着テープの粘着面をXPS法で分析したところ、粘着テープの粘着面へ撥水性皮膜の成分である珪素は検出されなかった。よって、いずれの離型紙10においても離型紙の撥水性皮膜3(離型層)の成分が移行していなかった。
【0046】
(比較例3)また、公知のシリコーンコートタイプのPETセパ離型紙の剥離面へ、粘着テープ(日東電工31B)の粘着面とを貼り合わせ、200kPaで加圧し温度40℃で24時間静置した後に剥離して、剥がした粘着テープの粘着面をXPS法で分析したところ、粘着テープの粘着面に珪素が検出され、離型紙の離型層であるシリコーンの一部が移行していた。
【0047】
(実施例11)まず、平均粒径0.2μmの市販の誘電体材料(添加成分を含むセラミック粉末)を100重量部、アニオン系分散剤を2重量部、バインダー(アクリル系樹脂)を10重量部、可塑剤(ジオクチルフタレイト)を1.4重量部、溶剤(トルエン:エタノ−ル=1:1)を140重量部を用いて、ボールミルで混合・解砕してセラミックスラリー組成物を得た。
次に、このセラミックスラリー組成物を、実施例1〜9の離型紙10の撥水性皮膜3(離型層)面へ、ドクターブレード法によりシート状に成形してセラミックグリーンシートを得た。
このセラミックグリーンシートにNiペーストをスクリーン印刷して電極シートを形成し、該電極シートを所定枚数積層し、その上下両面側に電極のないセラミックグリーンシート(外層用シート)を積層し圧着して、積層圧着体を形成し、所定のサイズにカットし、脱バインダー及び焼成を行う。焼成後の積層体の両端部に導電性ペーストを塗布し焼付けて、積層セラミックコンデンサを得た。
実施例1〜9の離型紙10を用いた上記の積層セラミックコンデンサはショート率も低く、静電容量の温度特性も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
(産業上の利用可能性)本願発明のの基材1へ撥水性皮膜3(炭素含有酸化ケイ素)が形成されてなる離型紙10の主なる用途としては、合成皮革用、セラミックコンデンサー用、電子部品キャリヤ、セラミックコンデンサ又は炭素繊維プリプレグなどに用いる工程離型紙、セラミックグリーンシート成型用の工程離型紙、貼付剤シートなどの経皮吸収薬用離型紙、建築物の住空間用撥水兼防湿フィルム、光学用易滑性兼防湿フィルム、粘着剤シートなどに利用できる。しかしながら、基材への密着性に優れ、他への移行成分を含まず、他の成分を吸着せず、しかも再利用することもできる用途であれば、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
1:基材
3:撥水性皮膜
10:離型紙
11:プラズマ化学気相成長装置
12:真空チャンバー12
13:巻き出しロ−ル
14:補助ロ−ル
15:冷却・電極ドラム
16、17:ガス供給装置
18:原料揮発供給装置
19:原料供給ノズル
20:グロ−放電プラズマ
22:マグネット
23:補助ロール
24:巻き取りロール
25:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光分析法による最表面が炭素40〜60原子%、酸素20〜30原子%、珪素20〜30原子%であり、表面自由エネルギーが16〜40mN/mの撥水性皮膜の製造方法であって、基材へ、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリストリメチルシロキシメチルシラン、テトラキストリメチルシロキシシランから選択される少なくとも1種の原料ガスと酸素ガスとを少なくとも含む混合ガスを、sccm基準で原料ガス:酸素ガス=100:0.001〜9の流量比で、真空槽内に導入し、真空度が0.1〜15Paで、プラズマが作成可能以上で6kW以下の蒸着源分解出力で、プラズマ化学気相成長方式により、炭素含有酸化ケイ素の撥水性皮膜を形成することを特徴とする撥水性皮膜の製造方法。
【請求項2】
上記撥水性皮膜の厚さが5〜300nmであるを特徴とする請求項1に記載の撥水性皮膜の製造方法。
【請求項3】
プラズマ化学気相成長方式が、巻き取り式のプラズマ化学気相成長方式からなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の撥水性皮膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の撥水性皮膜の製造方法で製造されてなる基材及び撥水性皮膜からなることを特徴とする離型紙。
【請求項5】
前記撥水性皮膜の表面と粘着テープの粘着面とを貼り合わせ、200kPaで加圧し温度40℃で24時間静置した後に剥離しても、粘着テープの粘着面へ撥水性皮膜の成分である珪素が転移しないことを特徴とする請求項4に記載の離型紙。
【請求項6】
離型紙がセラミックコンデンサー用離型紙であることを特徴とする請求項4〜5のいずれかに記載の離型紙。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21201(P2012−21201A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161305(P2010−161305)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】