説明

撮像収音信号再生システム

【課題】 視聴者による異常の認識や判断が確実に行え、異常の生じた監視地点の映像に切り替えて出力することを可能とする撮像収音信号再生システムを実現する
【解決手段】 撮像収音装置1は、複数のカメラ113a〜113dと、複数のバイノーラル音声を収音するマイクロフォン112a〜112hを備えた円筒部116を有する撮像収音部11と、複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから主映像信号として設定された映像信号の音声信号を選択音声信号として出力する選択部12とを備え、再生装置3は、主映像信号を設定して表示手段42に出力する映像信号出力部33と、円筒型受音体64を用いて計測した頭部伝達関数を記憶したフィルタを用いてクロストーク信号を打ち消すように処理して、選択音声信号を左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラ34とを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の被写体を撮影するための複数の撮像カメラと、それぞれの撮像カメラの撮影する方向を正面としてバイノーラル収音するための複数のバイノーラル収音マイクを有する一方、バイノーラル収音された音声信号を視聴者の前面に配置される左右のスピーカで再生する撮像収音信号再生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近になり、監視カメラの性能も向上し、監視カメラは工場設備の監視、コンビニエンスストアなどでのレジ部の監視、商品売り場の監視など監視システムは多くの場所で使用されるようになってきた。
一方、1台の監視カメラはカメラの設置される周囲をパンしながら監視すると広い視野角での監視ができるなど監視を効果的に行うことが出来る。監視領域の音場をバイノーラル収音する場合は高品質化された監視映像と共に臨場感豊かな再生音場により監視領域を有効に監視できる。さらに、監視中に異常を発見した場合に、即座に監視カメラを異常とされる被写体に切り替えて監視領域を監視できるようにする。バイノーラル収音する音声も監視カメラの切り替えにより、必要に応じた収音方向の切り替えができることは好ましい。
【0003】
特許文献1には、複数の監視カメラで複数の監視対象を監視中に、異常が生じた監視領域を特定し易くした多地点遠隔監視方式が開示されている。監視室の使用者の周囲360度に被監視所の監視地点A,B,Cと対応した平面的な広がりをもった音の仮想空間を定義し、使用者の周囲360度にその音情報が定位するような音像定位処理を施し、その音像定位位置から実際の音情報の地点を使用者に知らせ、異常発見の遅れを改善するようにした多地点遠隔監視方式が開示されている。
【特許文献1】特開平10−51759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている多地点遠隔監視方式では、複数の監視地点を監視室内に仮想空間として再配置し、監視室内で音の聞こえる方向を異常が発生した地点として使用者に認識させようとしている。その認識の後、使用者が認識された監視領域の映像と音声とを切り替えて表示器に出力し、監視領域での異常の探索をするようにしている。この多地点遠隔監視方式では、使用者が異常音を認識した後に、その認識に従って映像と音声とを切り替えて出力するようにしているため、認識や判断が曖昧な場合は異常原因の発見が遅れる。異常が生じてから監視映像及び監視音声を即時に異常の生じた監視地点に切り替えて出力することのできる多地点遠隔監視方式を実現することはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、視聴者による異常の認識や判断が確実に行え、異常が生じてから監視映像及び監視音声を即時に異常の生じた監視地点に切り替えて出力することを可能とする撮像収音信号再生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明における第1の発明は、カメラにて撮像された映像信号と、マイクロフォンにて収音された音声信号とを出力する撮像収音装置と、前記撮像収音装置から供給される前記映像信号を表示装置に対して出力すると共に前記撮像収音装置から供給される前記音声信号を左右のスピーカに対して出力する再生装置とを有する撮像収音信号再生システムにおいて、前記撮像収音装置は、複数のカメラと、前記複数のカメラのうち1つを撮影用カメラとする場合に前記撮影用カメラに対して所定角度左方向及び右方向に配置され、かつ底面からの高さが同一な一対の左右マイクロフォンで収音したバイノーラル音声を前記撮影用カメラで撮影した映像信号に付随する音声信号として前記複数のカメラのそれぞれに対するバイノーラル音声を収音する複数のマイクロフォンとを備えた円筒部を有する撮像収音部と、前記複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから前記再生装置側において主映像信号として設定された映像信号に付随する音声信号を選択音声信号として出力する選択部と、を備え、前記再生装置は、前記複数の映像信号のうちから1つを前記主映像信号として設定し、前記主映像信号として設定した映像信号から表示用の主映像信号を生成して表示手段に出力する映像信号出力部と、前記選択音声信号が供給され、前記選択音声信号を前記左右のスピーカによって再生した場合に左右のスピーカから再生された信号が視聴者の右左側の耳部で視聴されるクロストーク信号を打ち消すように処理して前記左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラと、を備え、前記クロストークキャンセラは予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、測定信号を円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した音声信号に基づいて計測した頭部伝達関数であることを特徴とする撮像収音信号再生システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撮像収音装置は、複数のカメラと、複数のカメラのうち1つを撮影用カメラとする場合に撮影用カメラに対して所定角度左方向及び右方向に配置され、かつ底面からの高さが同一な一対の左右マイクロフォンで収音したバイノーラル音声を撮影用カメラで撮影した映像信号に付随する音声信号として複数のカメラのそれぞれに対するバイノーラル音声を収音する複数のマイクロフォンとを備えた円筒部を有する撮像収音部と、複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから再生装置側において主映像信号として設定された映像信号に付随する音声信号を選択音声信号として出力する選択部と、を備え、再生装置は、複数の映像信号のうちから1つを主映像信号として設定し、主映像信号として設定した映像信号から表示用の主映像信号を生成して表示手段に出力する映像信号出力部と、選択音声信号が供給され、選択音声信号を左右のスピーカによって再生した場合に左右のスピーカから再生された信号が視聴者の右左側の耳部で視聴されるクロストーク信号を打ち消すように処理して左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラと、を備え、クロストークキャンセラは予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、頭部伝達関数は、測定信号を円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した音声信号に基づいて計測した頭部伝達関数であるので、視聴者による異常の認識や判断が確実に行え、異常が生じてから監視映像及び監視音声を即時に異常の生じた監視地点に切り替えて出力することを可能とする撮像収音信号再生システムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の実施例に係る撮像収音再生システムについて図1〜図12を用いて説明する。
図1は、本発明の実施に係る撮像収音再生システムの構成例を示すブロック図である。図2は、本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その1)である。図3は、本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を説明するための図である。図4は、本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その2)である。図5は、本発明の実施に係る再生画像の表示例を示す図である。図6は、本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その3)である。図7は、本発明の実施に係るクロストークキャンセラのフィルタ特性計測装置の構成例を示す図である。図8は、本発明の実施に係るフィルタ特性測定時に用いるバイノーラル受音部の構成例を示す図である。図9は、本発明の実施に係るクロストークキャンセラのインパルス応答特性例を示す図である。図10は、本発明の実施に係るクロストークキャンセラの周波数応答特性例を示す図である。図11は、従来のクロストークキャンセラのインパルス応答特性例を参考に示した図である。図12は、従来のクロストークキャンセラの周波数応答特性例を参考に示した図である。
【0009】
その撮像収音信号再生システムは視聴者による異常の認識や判断が確実に行え、異常が生じてから監視映像及び監視音声を即時に異常の生じた監視地点に切り替えて出力することを可能とする撮像収音信号再生システムを実現するという目的を、撮像収音装置は、複数のカメラと、複数のカメラのうち1つを撮影用カメラとする場合に撮影用カメラに対して所定角度左方向及び右方向に配置され、かつ底面からの高さが同一な一対の左右マイクロフォンで収音したバイノーラル音声を撮影用カメラで撮影した映像信号に付随する音声信号として複数のカメラのそれぞれに対するバイノーラル音声を収音する複数のマイクロフォンとを備えた円筒部を有する撮像収音部と、複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから再生装置側において主映像信号として設定された映像信号に付随する音声信号を選択音声信号として出力する選択部と、を備え、再生装置は、複数の映像信号のうちから1つを主映像信号として設定し、主映像信号として設定した映像信号から表示用の主映像信号を生成して表示手段に出力する映像信号出力部と、選択音声信号が供給され、選択音声信号を左右のスピーカによって再生した場合に左右のスピーカから再生された信号が視聴者の右左側の耳部で視聴されるクロストーク信号を打ち消すように処理して左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラと、を備え、クロストークキャンセラは予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、頭部伝達関数は、測定信号を円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した音声信号に基づいて計測した頭部伝達関数であるようにして実現した。
【0010】
撮像収音信号再生システムの構成について述べる。
図1に示す撮像収音信号再生システム10は、撮像収音部11、選択部12、圧縮部13、及び送出部14よりなる撮像収音装置1と、伝送路2と、受信部31、伸長部32、信号制御部33、及びクロストークキャンセラ34よりなる再生装置3と、スピーカ41、43、及びモニタ42よりなる表示部4とで構成される。
図2に示す撮像収音部11は耳介111a〜111d、マイクロフォン112a〜112d、撮像カメラ113b、113c、及び構造体117とで構成される。
図4に示す撮像収音部11aは耳介111a〜111h、マイクロフォン112a〜112h、撮像カメラ113a〜113d、及び円筒型構造体116とで構成される。
図6に示すクロストークキャンセラ34は、フィルタ341〜344、加算器345、346、フィルタ347及び348で構成される。
図7に示すフィルタ特性測定装置6は、パーソナルコンピュータ61、増幅器62、65、66、スピーカ63、及び円筒型受音体64で構成される。
図8(A)、(B)に示す円筒型受音体64はマイクロフォン641、642、及び円筒型構造体649より構成され、(C)に示す人頭型受音体69はマイクロフォン691、692、耳道693、694、耳介695、696及び人頭型構造体699より構成される。
【0011】
まず、監視領域に設置される撮像収音装置1の撮像収音部11は、その撮像収音部11の前方、左方、後方、及び右方の4方向を監視領域とする監視画像を撮影すると共に、複数の方向を正面方向とした複数のバイノーラル音声を収音する。選択部12は、再生装置3の信号制御部33により制御され、前方の画像を主画像、他の左方、後方、及び右方の3方向の画像を副画像として認識すると共に、撮像収音部11で収音された複数のバイノーラル音声のうち主画像が撮影される方向を正面として収音されるバイノーラル音声を音声信号として選択し出力する。撮像収音部11で収音された複数の画像及びバイノーラル音声は圧縮部13で圧縮符号化され、送出部14から伝送路2に送出される。再生装置3の受信部31は撮像収音装置1から送出された画像信号及び音声信号を受信し、伸長部32で圧縮符号化された複数の画像及びバイノーラル音声を復号化して得る。得られた複数の画像は信号制御部33で主画像および副画像で構成されるマルチ画像を生成してモニタ42に供給して表示させると共に、得られたバイノーラル音声はクロストークキャンセラ34でクロストークキャンセル処理がなされ左右のスピーカ41、43に供給されて発音される。視聴者はモニタ42に表示されるマルチ画像を、主画像を正面方向として収音されたバイノーラル音声により視聴する。
【0012】
バイノーラル音声は後述のクロストークキャンセラ34でクロストークキャンセル処理がなされ、スピーカ41、43から発音される。クロストークキャンセル処理がなされたバイノーラル音声は、左側(右側)のスピーカから発音されて視聴者の右側(左側)の耳で受音されるクロストーク音を打ち消すための打消し信号を予め付加した信号としてスピーカに供給され発音される。従って、視聴者は、スピーカ再生でありながらバイノーラル音声信号をヘッドフォン受聴したと同様な臨場感豊かなバイノーラル音声として受聴できる。
【0013】
次に、例えば、受聴音の左側から異音が受聴された場合に、受聴者は左方向で撮影される画像を主画像とするための操作を信号制御部33に対して行う。信号制御部33は選択部12に左方向画像を主画像とする制御信号を伝送する。選択部12は左側の画像を主画像とし、他の3画像を副画像として認識すると共に、撮像収音部11の左側を正面として収音したバイノーラル音声を得て上記と同様に撮像収音装置1から送出する。モニタ42には左方向を正面する主画像が表示され、スピーカ41、43からは左方向を正面としたバイノーラル音声が再生される。異常音の生じた方向を主画像とし、主画像の方向を正面とするバイノーラル音声により監視領域の監視ができる。
【0014】
次に、詳細に説明する。
図2を参照し、撮像収音装置1の撮像収音部11について述べる。
同図(A)は撮像収音部11の立面図であり、構造体117の周囲に備えられている4個の撮像カメラ113a〜113dのそれぞれは4つの監視領域の撮像を行う。構造体117は音響的に視聴者の頭部とほぼ同等な音響信号の遮蔽特性を有している。その構造体117の周囲には耳介111a〜111dとマイクロフォン112a〜112fが備えられており、それらの耳介やマイクロフォンのうち対向して配置される2つの耳介とマイクロフォンが用いられて、4方向のうちの2方向を正面とする2つのバイノーラル音声を収音する。
(B)は撮像収音部11の正面図である。撮像カメラ113cを主画像撮影用カメラとして設定する場合には耳介111b、111dとマイクロフォン112b、112fが用いられてバイノーラル音声が収音される。収音されるバイノーラル音声は撮像カメラ113cが向けられる方向を正中面とするバイノーラル音声である。
【0015】
図3を参照し、撮像収音部11の耳介についてさらに述べる。
同図(A)は図2(A)に比し、撮像カメラ113bを主画像撮影用カメラとして設定する場合にバイノーラル収音に用いられる耳介とマイクロフォンのみを示した図である。撮影用カメラ113bの向けられる方向が正面である。構造体117の側面に備えられる耳介111a、111c、マイクロフォン112a、112cは、撮像カメラ113bの正面で撮像される被写体から発せられる音声を前方の音声としてバイノーラル収音を行う。耳介111a及び111cは同図の左側に位置される。構造体117の右側に位置する被写体から発せられる音は耳介111a、111cにより集音されてマイクロフォン112a、112cに入力される。構造体117の左側(後方)から発せられる音声は、耳介111a、111cにより特に高域周波数成分が減衰されてマイクロフォン112a、112cに入力される。
【0016】
同図(C)は主画像撮影用カメラが撮像カメラ113bから撮像カメラ113dに切り替えられた場合の耳介111cの動きを示す。耳介11cは球を4分割した形状をしており、その耳介11cは図中1点鎖線で示す中心線を中心とし90度回転する。耳介11cが90度回転した状態では、マイクロフォン112a、及び112cから出力されるバイノーラル音声の左右が切り替わる。耳介111a、111c、マイクロフォン112a、及び112cは撮像カメラ113dで撮像される被写体から発せられる音声を前方の音声としてバイノーラル収音を行う。
【0017】
図4を参照し、撮像収音部の応用例について述べる。
同図に示す撮像収音部11aは円筒型構造体116の上部の円周上には耳介111a〜111d、マイクロフォン112a〜112dが、中部の円周上には撮像カメラ113a〜113dが、そして下部の円周上には耳介111e〜111h、マイクロフォン112e〜112hが備えられている。ここで耳介111a〜111d、と耳介111e〜111hとはお互いに反対方向が向けられている。
【0018】
図2に示した撮像収音部11の耳介は可動して収音方向を反転させるのに比し、図4に示す撮像収音部11aの耳介は4つの収音方向に対してそれぞれ4対の耳介とマイクロフォンとを備えているため、バイノーラル音声の切り替えはそれぞれのマイクロフォンから出力される音声信号を切り替えるのみで実行できる。撮像収音部11は各4個の耳介111a〜111d及びマイクロフォン112a〜112dを用いるのみで4方向のバイノーラル音声を収音できる。撮像収音部11aは各8個の耳介111a〜111h及びマイクロフォン112a〜112hを用い4方向のバイノーラル音声を収音する。撮像収音部11aは撮像収音部11に比しさらに4個のマイクロフォン等を備えているため、収音方向の切り替え時に耳介111a〜111hを回転させる必要がなく、耳介の切替機構を有しなく、切り替えは瞬時であり、耳介の切り替え時に生じる摩擦音も生じない。
【0019】
図5を参照してモニタ42に表示されるマルチ画像について述べる。
同図(A)は大画面表示領域の(a)と、小画面表示領域の(b)〜(d)を有する。表示領域(a)〜(d)のそれぞれには撮像カメラ113a〜113dから出力される映像信号が表示される。撮像カメラ113aから出力される映像信号を主画像として指定し、撮像カメラ113b〜113dの映像信号を副画像として選択した場合の表示例である。同図(B)は大画面表示領域が(b)であり、小画面表示領域は(a)、(c)、(d)である。撮像カメラ113bから出力される映像信号が主画像として指定され、他の撮像カメラから出力される映像信号が副画像として選択された場合の表示領域設定例である。
【0020】
図6を参照してクロストークキャンセラについて述べる。
まず、バイノーラル音声信号のうち左チャンネルの信号PL(t)はフィルタ341、342に、右チャンネルの信号PR(t)はフィルタ343、344に入力される。フィルタ341〜344は順に、後記の頭部伝達関数に係る特性hrs(t)、−hlo(t)、−hro(t)、hls(t)の電気音響変換特性を有し、入力される信号にそれらの特性を与える。加算器345はフィルタ341及び343から出力される信号を加算し、フィルタ347は加算された信号にd(t)の特性を与える。加算器346はフィルタ342及び344から出力される信号を加算し、フィルタ348は加算された信号にd(t)の特性を与える。フィルタ347、348から出力される信号はクロストークキャンセラ34の出力信号である。それらの出力信号は図示しないアンプで増幅され、スピーカ41、43に供給され発音される。
【0021】
スピーカ41から発音された信号は視聴者48の左耳で受聴されると共に、発音された信号の一部は破線にて示す第1のクロストーク信号として視聴者48の右耳で受聴される。クロストークキャンセラ34は受聴される第1のクロストーク信号を打ち消すための第1のクロストーク打消し信号を生成してスピーカ43から発音させる。第1のクロストーク打消し信号により右耳で受聴されるクロストーク信号は打ち消され(減衰され)る。同様にして、スピーカ43から発音され、視聴者48の左耳で受聴される破線にて示す第2のクロストーク信号を打ち消すための第2のクロストーク打消し信号はスピーカ41から発音される。
【0022】
なお、スピーカ43から発音される第1のクロストーク打消し信号は視聴者48の左耳でさらにクロストーク成分として受聴される。第1のクロストーク打消し信号のクロストーク成分は、左チャンネルのバイノーラル音声信号PL(t)と共に左耳で視聴されることになる。両者は類似する信号であるため受聴品質に与える影響は少ない。また、スピーカ41から発音される第2のクロストーク打消し信号のクロストーク成分は、右チャンネルのバイノーラル音声信号PR(t)と共に右耳で視聴される。同様に、第2のクロストーク打消し信号のクロストーク成分が受聴品質に与える影響は少ない。
【0023】
図7を用い、フィルタ341〜344、347、及び348に格納する頭部伝達関数特性を求めるためのフィルタ特性測定装置6につき説明する。
まず、パソコン61により例えばレイズドコサインの波形を有するインパルス音などの測定信号を生成する。測定信号は増幅器62で増幅される。スピーカ63から発音された測定信号は円筒型受音体64に付される左右のマイクユニット641、642で受音される。受音して得られた左右の信号は増幅器66、67で増幅されパソコン61に入力される。パソコン61は生成した測定信号と受音した信号とを比較して、スピーカ63から発音され、円筒型受音体64に付される左右のマイクユニット641、642で受音される信号の頭部伝達関数hls(t)及びhlo(t)を求める。hls(t)は左側のスピーカから発音された信号が左側のマイクユニットで受聴される特性であり、hlo(t)は左側のスピーカから発音された信号が右側のマイクユニットで受聴されるクロストークに係る特性である。
【0024】
ここで、図7には左側のスピーカ63のみを示しているが、右側のスピーカについては左右対称な位置にスピーカを配置して同様に測定し、頭部伝達関数hro(t)及びhrs(t)が求められる。hrs(t)は右側のスピーカから発音されて右側のマイクユニットで受聴される特性であり、hro(t)は右側のスピーカから発音されて左側のマイクユニットで受聴される特性である。
【0025】
図8を用いて円筒型受音体64について述べる。(A)は上面図であり、(B)は斜視図である。
同図に示す円筒型受音体64の両側にマイクユニット641、642が備えられている。それぞれのマイクユニット641、642は耳介及び外耳道を有していない。マイクユニット641、642の図示しない振動板は円筒型受音体64の表面に配置されている。参考として示した(C)はいわゆる人頭型受音体の上面図である。その人頭型受音体69は、人頭型構造体699の両側に耳介形部材695、696、耳道693、694が備えられており、耳道の奥側にマイク691、692が備えられている。マイク691、692は人の鼓膜の位置に相当する位置に設けられており、人が聴取する音に近似する音声信号を収音しようとしている。
【0026】
(A)(B)に示したマイクユニット641、642が付される円筒型受音体64は、(C)に示した人頭型受音体69に比し耳介や外耳道を備えていない。円筒型構造体649に付されるマイクユニット641、642の受音特性は、人それぞれで形状が異なる耳介や外耳道により与えられる特性差の影響を受けることがなく、頭部伝達関数を計測できる特性になっている。マイクユニット641、642が用いられて計測される特性はスピーカ63から発音された音波が円筒型構造体649により遮蔽されるものの、円筒型構造体649の表面に添って回折してマイクユニット642に到来する音波の特性として計測される。円筒型構造体649を用いることにより、複数の頭部形状の視聴者が有する頭部遮蔽特性の異なりに対して平均的な頭部遮蔽特性を有する頭部伝達関数を得ることができる。
【0027】
図9に、音響信号伝達特性測定装置6によりインパルス音を用いて測定して得られた頭部伝達関数に係るそれぞれの波形を示す。(A)〜(D)は順にhls(t)、hlo(t)、hrs(t)、hro(t)の波形図である。(E)はd(t)の波形図である。縦軸は所定の出力電圧でノーマライズした信号電圧の振幅であり、横軸は測定された信号を48kHzで標本化した場合のサンプルの個数で示した時間である。
図10(A)〜(E)に、図9に示した信号をフーリエ解析して得られる周波数特性を示す。図中100Hz、1kHz、10kHzの周波数位置を破線で示している。応答特性における破線と破線との間の利得差は10dBである。
【0028】
フィルタ341〜344の特性hrs(t)、−hlo(t)、−hro(t)、hls(t)は音響信号伝達特性測定装置6で測定して得られた特性hls(t)及びhrs(t)と、hlo(t)及びhro(t)の符号を反転した特性(逆極性)を用いる。
フィルタ347及び348の特性d(t)は次式により与えられる。
d(t)={hls(t)*hrs(t)−hlo(t)*hro(t)}-1
ここで、「*」は乗算を示す算術記号である。
以上により求められたそれぞれのフィルタ特性は、それらのフィルタ中に設けられる図示しない記憶部に格納され、その記憶部から読み出した特性を入力される信号に畳み込む様にして所定のフィルタ特性を与える。
【0029】
図11、図12に、円筒型構造体649に付されるマイクユニット641、642の代わりに図8の(C)に示した人頭型受音体69を用いて測定した特性を示す。
図11は図9と同様に測定して得られた特性である。人頭型受音体69を用いて測定したインパルス応答波形は振動を多く含む波形であるのに比し、マイクユニット641、642を用いて得た波形は測定用入力信号であるレイズドコサインに近い波形である。負の電圧部分の振幅が小さい波形であり、それに続く振動波形の振幅も小さい。
【0030】
図12は人頭型受音体69を用いて測定した図11に対応する周波数応答特性である。円筒型受音体64に付されるマイクユニット641、642を用いて得た特性の方が周波数特性の乱れが小さく平坦に近い。図12に示す(A)〜(E)のそれぞれの特性は1.5〜7kHzの周波数の間で増強及び減衰がなされているのに比し、図10に示す特性の方が増強及び減衰のレベルは小さい。耳介や外耳道により生じる特性の乱れがないためである。マイクユニット641、642を用いる場合は、スピーカ63より発音された音波の一部が耳介で反射され、反射された音波と直接到来する音波とが同相で合成されて増強されたり、逆相で合成されて減衰したりする影響がなく、更に外耳道の共振、反共振などの影響により特定の周波数で増強されたり減衰したりすることの小さい特性として得られている。
【0031】
フィルタ341〜344の特性の異なりにより得られるクロストークキャンセル特性の差を比較して説明する。
クロストークキャンセル特性の測定は図7に示したバイノーラル音声スピーカ再生システムを用いて行った。同システムにおけるクロストークキャンセラ34のフィルタ341〜344及びフィルタ347、348の特性は円筒型受音体64に付されるマイクユニット641、642を用いて得られた特性と、人頭型受音体69を用いて得られた特性とを入れ替えながら複数の視聴者による視聴テストを行った。視聴者は耳道に細い小型マイクを挿入し、その小型マイクで受音される音が視聴者により受聴される音であるとして測定した。フィルタ341〜344及びフィルタ347、348の特性を円筒型受音体64に付されるマイクユニット641、642で得られた特性を用いて測定した場合は100Hz〜2kHzで20dBを越える分離性能(クロストークキャンセル効果)が得られているのに比し、人頭型受音体69で得られた特性を用いる場合では12dB程度の分離度しか得られなかった。
【0032】
十分な分離度が得られることは、クロストークをキャンセル信号が有効に動作していることであり、クロストークキャンセル信号が逆相成分として視聴されないことでもある。バイノーラル収音した信号は好適な臨場感を有して視聴者により聴取される。異常音が発生した場合に、その箇所がモニタ42に表示される主画面に表示されない箇所の場合であっても視聴者は概略の発生箇所を認識できる。
ここで、図5に示したマルチ画面は再生装置3の信号制御部33で生成されるとして述べた。そのマルチ画面は撮像収音装置1の選択部12で生成するようにしても良い。その場合は、マルチ画面を圧縮部13で圧縮符号化して伝送路2を伝送するため、副画面を伝送するための符号量は小さくできる。
また、撮像収音装置1内に映像信号の録画機能を備えて撮像収音部11で撮像された副画面の映像を縮小せずに記録しておけば、記録画像を後の異音発生原因の解析に役立てられる。
【0033】
以上のように、本実施例で示した撮像収音信号再生システムによれば、撮像収音装置1は、複数のカメラ113a〜113dと、複数のカメラのうち1つを撮影用カメラとする場合に撮影用カメラに対して所定角度左方向及び右方向に配置され、かつ底面からの高さが同一な一対の左右マイクロフォンで収音したバイノーラル音声を撮影用カメラで撮影した映像信号に付随する音声信号として複数のカメラのそれぞれに対するバイノーラル音声を収音する複数のマイクロフォン112a〜112hを備えた円筒部116を有する撮像収音部11と、複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから再生装置側において主映像信号として設定された映像信号に付随する音声信号を選択音声信号として出力する選択部12と、を備え、再生装置3は、複数の映像信号のうちから1つを主映像信号として設定し、主映像信号として設定した映像信号から表示用の主映像信号を生成して表示手段42に出力する映像信号出力部33と、選択音声信号が供給され、選択音声信号を左右のスピーカによって再生した場合に左右のスピーカから再生された信号が視聴者の右左側の耳部で視聴されるクロストーク信号を打ち消すように処理して左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラ34と、を備え、クロストークキャンセラ34は予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタ341〜344を有し、頭部伝達関数は、測定信号を円筒型構造体649に装着した一対のマイクロフォン641、642で収音した音声信号に基づいて計測した頭部伝達関数であるので、視聴者による異常の認識や判断が確実に行え、異常が生じてから監視映像及び監視音声を即時に異常の生じた監視地点に切り替えて出力することを可能とする撮像収音信号再生システム10を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施に係る撮像収音再生システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その1)である。
【図3】本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を説明するための図である。
【図4】本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その2)である。
【図5】本発明の実施に係る再生画像の表示例を示す図である。
【図6】本発明の実施に係る撮像収音再生システムの要部の構成例を示す図(その3)である。
【図7】本発明の実施に係るクロストークキャンセラのフィルタ特性計測装置の構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施に係るフィルタ特性測定時に用いるバイノーラル受音部の構成例を示す図である。
【図9】本発明の実施に係るクロストークキャンセラのインパルス応答特性例を示す図である。
【図10】本発明の実施に係るクロストークキャンセラの周波数応答特性例を示す図である。
【図11】従来のクロストークキャンセラのインパルス応答特性例を参考に示した図である。
【図12】従来のクロストークキャンセラの周波数応答特性例を参考に示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1 撮像収音装置
2 伝送路
3 再生装置
4 表示部
6 フィルタ特性測定装置
10 撮像収音信号再生システム
11、11a 撮像収音部
12 選択部
13 圧縮部
14 送出部
31 受信部
32 伸長部
33 信号制御部
34 クロストークキャンセラ
41、43、63 スピーカ
42 モニタ
61 パーソナルコンピュータ
62、65、66 増幅器
64 円筒型受音体
69 人頭型受音体
111a〜111h 耳介
112a〜112h マイクロフォン
113a〜113d 撮像カメラ
116 円筒型構造体
117 構造体
341〜344、347、348 フィルタ
345、346 加算器
641、642、691、692 マイクロフォン
649 円筒型構造体
693、694 耳道
695、696 耳介
699 人頭型構造体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラにて撮像された映像信号と、マイクロフォンにて収音された音声信号とを出力する撮像収音装置と、前記撮像収音装置から供給される前記映像信号を表示装置に対して出力すると共に前記撮像収音装置から供給される前記音声信号を左右のスピーカに対して出力する再生装置とを有する撮像収音信号再生システムにおいて、
前記撮像収音装置は、
複数のカメラと、前記複数のカメラのうち1つを撮影用カメラとする場合に前記撮影用カメラに対して所定角度左方向及び右方向に配置され、かつ底面からの高さが同一な一対の左右マイクロフォンで収音したバイノーラル音声を前記撮影用カメラで撮影した映像信号に付随する音声信号として前記複数のカメラのそれぞれに対するバイノーラル音声を収音する複数のマイクロフォンとを備えた円筒部を有する撮像収音部と、
前記複数のカメラから得られる複数の映像信号のうちから前記再生装置側において主映像信号として設定された映像信号に付随する音声信号を選択音声信号として出力する選択部と、を備え、
前記再生装置は、
前記複数の映像信号のうちから1つを前記主映像信号として設定し、前記主映像信号として設定した映像信号から表示用の主映像信号を生成して表示手段に出力する映像信号出力部と、
前記選択音声信号が供給され、前記選択音声信号を前記左右のスピーカによって再生した場合に左右のスピーカから再生された信号が視聴者の右左側の耳部で視聴されるクロストーク信号を打ち消すように処理して前記左右のスピーカに対して出力するクロストークキャンセラと、を備え、
前記クロストークキャンセラは予め求めた頭部伝達関数を記憶したフィルタを有し、前記頭部伝達関数は、測定信号を円筒型構造体に装着した一対のマイクロフォンで収音した音声信号に基づいて計測した頭部伝達関数である
ことを特徴とする撮像収音信号再生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−312181(P2007−312181A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140039(P2006−140039)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】