説明

操縦安定性能改良方法

【課題】車両のサスペンションを構成するダンパーの動作速度が微低速であっても、ダンパーを滑らかに動作させて、車両の操縦安定性能を改良する操縦安定性能改良方法を提供する。
【解決手段】車両に装着されるダンパーのフリクションを変化させて車両の操縦安定性能を改良する操縦安定性能改良方法であって、ダンパーと電気的に導通する車両の一部に設けられる電気ノイズ印加手段によりダンパーに電気ノイズを印加して操縦安定性能を改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操縦安定性能改良方法に関し、特に、車両の備えるダンパーのフリクションを変化させることで車両の操縦安定性能を改良する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンションは、車体を支持するスプリングと、スプリングによる振動を減衰させるためのダンパーとを組み合わせた構造が知られている。ダンパーは、作動流体としてのオイルが封入されたシリンダと、シリンダ内を移動するピストンと、ピストンに取り付けられたダンパーロッドと、シリンダ内に封入されたオイルの漏れを防止するためにシリンダとダンパーロッドの間をシールするオイルシールとにより構成されている。
ところが、ダンパーの初動域では、ダンパーロッドにある程度の力が作用しないと動作しにくいことが知られている。
特に、ダンパーの動作速度が微低速の場合、ダンパーのオイルシールとダンパーロッドとが摺動するためには、摩擦力の大きい静摩擦から摩擦力の小さい動摩擦へ移行する必要があり、大きな力を必要とする。即ち、ダンパーロッドに大きな力が作用することによってオイルシールと摺動するため、ダンパーロッドがオイルシールに対して滑らかに摺動するまでは、車両の操縦安定性能や乗り心地を損なってしまう虞がある。
このような問題を解決するため、特許文献には、オイルシールとダンパーロッドとの関係において、ダンパーロッドに対するオイルシールの締め付けを可能とする高分子アクチュエータを設け、高分子アクチュエータの作動によってオイルシールによるダンパーロッドの締め付け力を制御し、オイルシールとダンパーロッドとの間の摩擦特性をダンパーロッドの動作速度に応じて可変とし、操縦安定性能及び乗り心地を改良するダンパー装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献のダンパー装置によれば、オイルシールとダンパーロッドとの間の摩擦力を力学的に制御することによって、微低速域からのダンパーの動作性能を向上させているが、オイルシール自体の構造が複雑化するため、高分子アクチュエータや高分子アクチュエータを制御する制御装置に故障が生じた場合、車両の操縦性に影響を及ぼし、操縦安定性能や乗り心地を悪化させる要因となってしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−168047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、車両のサスペンションを構成するダンパーの動作速度が微低速であっても、ダンパーを滑らかに動作させて、車両の操縦安定性能を改良する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための方法として、車両に装着されるダンパーのフリクションを変化させて車両の操縦安定性能を改良する方法であって、ダンパーと電気的に導通する車両の一部に設けられる電気ノイズ印加手段によりダンパーに電気ノイズを印加するようにした。
本方法によれば、シリンダとダンパーロッドとの間に電気ノイズを印加することにより、シリンダとダンパーロッドとの間に介在するオイルシールに対して摺動するダンパーロッドの摩擦を軽減して、シリンダに対するピストンの動作速度が微低速であってもダンパーを滑らかに動作させてタイヤの操縦安定性能を改良することができる。
また、他の方法として、電気ノイズをダンパーのシリンダとシリンダ内を移動するピストンに取り付けられたダンパーロッドとの間に印加するようにした。
本方法によれば、ダンパーのシリンダとダンパーロッドとの間に電気ノイズを印加することで、ダンパーロッドと摺動するオイルシールとの摩擦を軽減し、シリンダに対するピストンの動作速度が微低速のときでもダンパーを滑らかに動作させてタイヤの操縦安定性能を改良することができる。
また、他の方法として、電気ノイズ印加手段により印加される電気ノイズの回数を印加回数計数手段により計数するようにした。
本方法によれば、ダンパーのフリクションは、操縦安定性能を可変する電気ノイズ印加手段から印加される電気ノイズの印加回数によって変化するため、印加回数計数手段により印加回数を計数することにより、ダンパーのフリクションの状態を確認することができ、ドライバーの好みに応じて選択することができるようになる。なお、ダンパーのフリクションは、印加回数が奇数回か偶数回かによって変化する。
また、他の方法として、印加回数計数手段は、車両のエンジンの起動を検知したときに計数した印加回数をゼロにリセットするようにした。
本方法によれば、印加回数計数手段が計数した印加回数をリセットすることによりエンジン起動時毎の車両の状態を同じ状態にすることができる。
また、他の方法として、電気ノイズは、パルス電圧であるようにした。
本方法によれば、パルス電圧は、複数の周波数成分によって構成されるため、実際の電気ノイズを擬似的に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る操縦性能可変装置の概略構成図。
【図2】ダンパーの分解図。
【図3】ダンパーケースとピストンバルブとの間に生じる影響を調べるための試験装置の概念図。
【図4】ダンパーを加振する加振試験の概念図及び加振試験の結果を示すグラフ。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、タイヤの操縦安定性能を改良するために車両に搭載される操縦性能可変装置1の概略構成図の一例を示す。以下、図1を用いて操縦性能可変装置1について説明する。
操縦性能可変装置1は、演算手段としてのCPU,記憶手段としてのROM,RAM及び通信手段としてのインターフェイス等を含むいわゆるコンピュータであって、ROM内に格納されたプログラムに基づいて動作する。操縦性能可変装置1は、車両に搭載され、制御ユニット2と、表示操作ユニット3とにより構成される。
制御ユニット2は、エンジン起動検出手段11と、表示リセット手段12と、電気ノイズ印加手段13と、印加回数計数手段14とを備える。
エンジン起動検出手段11は、車両のエンジン起動時に、例えばスタータモータに出力されるイグニッション信号に基づいてエンジンの起動を検出する。
表示リセット手段12は、エンジン起動検出手段11により検出されたイグニッション信号に基づいて後述の印加回数計数手段14と表示手段15とにリセット信号を出力し、印加回数計数手段14の計数する印加回数と、表示手段15に表示される印加回数をゼロにリセットする。
電気ノイズ印加手段13は、例えば、パルスジェネレータによって構成され、パルスジェネレータの生成するパルス電圧を車両のダンパー30に対して出力する。パルスジェネレータとは、任意の波形の電圧を生成することが可能な電圧発生器であって、予め設定された波形の電圧を出力する。パルスジェネレータは、例えば、パルス幅100μsec.,電圧10mVのパルス電圧を操作手段16の1回の操作毎にパルス1つ分出力する。パルス電圧のパルスは、上記に限らず、パルス幅及び電圧を適宜設定すれば良い。なお、パルス電圧は、電気ノイズのような複数の周波数成分で構成されるパルス状の電圧でも良い。また、電気ノイズ印加手段13は、パルスジェネレータに限らずパルス電圧、又は、電気ノイズのような複数の周波数成分を含むパルス状の電圧を印加可能な装置であれば良い。
印加回数計数手段14は、電気ノイズ印加手段13によって出力されるパルス電圧を検出し、電気ノイズ印加手段13から出力されたパルス電圧の出力回数を記憶する。
【0010】
表示操作ユニット3は、表示手段15と操作手段16とにより構成され、例えば、ドライバーの視認可能な位置及び操作可能な範囲に配設される。
表示手段15は、印加回数計数手段14と接続され、印加回数計数手段14の電気ノイズの印加回数を表示する。表示手段15は、数字を表示可能な例えば7セグLEDなどの表示装置によって構成される。なお、表示手段15による印加回数の表示方法は、数字を表示することに限らず、パルス電圧の印加回数が奇数回又は偶数回によって色別された光を点灯させるように構成しても良い。
操作手段16は、例えば、プッシュスイッチにより構成され、電気ノイズ印加手段13と接続される。ドライバーがスイッチを1回操作することにより、電気ノイズ印加手段13に対してパルス電圧の印加信号を出力する。
また、操縦性能可変装置1には、車両に搭載されるバッテリーと接続される電源入力端子21と、電気ノイズ印加手段13から出力されるパルス電圧を出力するパルス電圧出力端子22とを備える。電源入力端子21に入力された電圧は、制御ユニット2及び表示操作ユニット3の各手段に対して供給される。パルス電圧出力端子22は、プラス端子とマイナス端子とを備え、各端子から個別に延長する導線22A,22Bが、車両のサスペンションを構成するダンパー30に接続される。
【0011】
ダンパー30は、ダンパーケース31と、ダンパーケース31に対して伸縮するダンパーロッド32とにより構成される。なお、ダンパー30の例としては、単筒式、複筒式等が挙げられ、いずれの形式であっても良い。
ダンパーケース31には、パルス電圧出力端子22のマイナス端子から延長する導線22Bが接続され、ダンパーロッド32には、パルス電圧出力端子22のプラス端子から延長する導線22Aが接続される。
具体的には、マイナス端子から延長する導線22Bをダンパーケース31の外周面に環状リング23を用いて固定し、マイナス端子とダンパーケース31とが導線22Bによって電気的に導通可能に接続する。
また、プラス端子から延長する導線22Aの先端に環状端子24を嵌着し、ダンパーロッド32の先端側外周面に形成されたネジ部32aに環状端子24を介挿したのちにナット25によりサスペンションを構成する部品と共締めする。
【0012】
以下、操縦性能可変装置1による操縦安定性能の改良方法について説明する。
車両に乗ったドライバーが、エンジンを起動するためのイグニッションキーを操作して、キーをオンの位置まで回転させると操縦性能可変装置1は起動状態となる。そして、イグニッションキーをさらに回転させてエンジンスタートの位置まで操作するとスターターに対してイグニッション信号が出力され、エンジンが起動する。イグニッション信号は、エンジン起動検出手段11により検出され、イグニッション信号の検出を表示リセット手段12に出力する。表示リセット手段12は、印加回数計数手段14と表示手段15とにリセット信号を出力して印加回数計数手段14の記憶する印加回数をゼロにリセットし、表示手段15の表示をゼロにリセットする。
エンジンを起動した状態で、ドライバーが操作手段16の印加ボタンを一度操作すると、電気ノイズ印加手段13は、パルス電圧を導線22A,22Bを介してダンパー30に印加する。電気ノイズ印加手段13からパルス電圧が出力されると電圧印加信号が印加回数計数手段14に出力され、印加回数計数手段14は、印加回数“1”を記憶する。そして、印加回数計数手段14は、記憶した印加回数“1”を表示手段15に出力して印加回数“1”を表示させる。
上記操作によって、ダンパー30の動作における微低速域での摺動抵抗が緩和されることにより、ダンパー30の動作を滑らかにして操縦安定性能を向上させることができる。
【0013】
また、上記状態で、ドライバーが再び操作手段16の印加ボタンを一度操作して、ダンパー30にパルス電圧を印加すると、電圧印加信号が印加回数計数手段14に出力され、印加回数計数手段14は、印加回数“2”を記憶する。そして、印加回数計数手段14は、記憶した印加回数“2”を表示手段15に出力して印加回数“2”を表示させる。よって、ダンパー30の微低速域での摺動抵抗は、エンジン起動直後の状態となる。即ち、ダンパー30の初期動作に硬さが生じ、ダンパー30の初期の減衰抵抗が増加した状態となる。
【0014】
そして、車両を停止してエンジンを停止したのちに、再び走行するためにエンジンを起動すると、エンジンの起動にともなって出力されたイグニッション信号がエンジン起動検出手段11によって検出され、表示リセット手段12によって印加回数計数手段14と表示手段15とにリセット信号が出力され、印加回数計数手段14の記憶する印加回数と、表示手段15の印加回数の表示とが“ゼロ”にリセットされる。
【0015】
つまり、エンジン起動時に毎回、印加回数計数手段14が記憶する印加回数をリセットするとともに表示手段15の印加回数の表示をリセットすることにより、エンジン起動後の印加回数に“ゼロ”が表示されるので、ドライバーは、表示回数を確認することで走行状況に応じて電気ノイズ印加手段13からパルス電圧をダンパー30に印加して操縦性能を変化させることができる。
【0016】
即ち、本発明によれば、車両の走行状況に応じた最適なパルス電圧の印加回数をドライバーが選択することで、車両の操縦安定性能を改良することができる。例えば、車両の乗り心地重視の場合には、パルス電圧の印加回数が奇数回となるように操作手段16を操作し、車両の走行性能重視の場合には、パルス電圧の印加回数が偶数回となるように操作手段16を操作すれば良い。なお、パルス電圧の印加は、エンジンを起動し、エンジンが継続して起動している状態のときに印加されることが必須条件である。
以上、説明したように、パルス電圧を奇数回印加することによりダンパー30が滑らかに動作して路面の凹凸を吸収するので、乗り心地が向上するとともに車両の直進安定性が向上する。また、パルス電圧を偶数回印加することでダンパー30の初期動作を硬めにすることができる。なお、本発明の操縦安定性能の改良方法は、ダンパーロッド32とオイルシール38とが摺動する機構を有するダンパーを備える車両であればすべての車両に対して効果を得ることができる。
【0017】
以下、本発明の操縦性能可変装置1によりダンパー30にパルス電圧を印加することでダンパー30のフリクションが変化することを検証した実験結果について説明する。
まず、ダンパーケース31とダンパーロッド32とにどのような電圧を印加すれば、操縦性能に変化を与えることができるかについて調べた。具体的には、任意の波形の電圧を出力することのできるパルスジェネレータ55(図3参照)から延長する2本の電圧供給線をダンパーケース31とダンパーロッド32とに接続して異なる波形の電圧をダンパーケース31とダンパーロッド32とに印加して操縦安定性能試験を行った。例えば、印加する電圧の波形は、SIN波、パルス波等の周期的に変化する波形の波長や振幅を変化させて、その波形を半波長分にしたものである。その結果、パルス電圧を印加すると操縦性能に変化が得られることが分かった。これは、1つの周波数成分からなるSIN波形の電圧と、複数の任意の周波数成分からなる電気ノイズのようなパルス波形の電圧との性質の差と考えられる。
【0018】
次に、ダンパー30にパルス電圧を印加することにより、ダンパー30のどの要素に対して影響を与えているのかを調べるため、ダンパー30単体での電圧印加試験を行った。
図2は、試験車両のダンパー30の分解図である。まず、ダンパー30を構成する要素について説明する。
ダンパー30は、いわゆるツインチューブと呼ばれる形式のダンパーであって、一方開口の有底円筒体のダンパーケース31内に、円柱状のベースバルブ33、円筒状の内筒34の順に底部から配設される。内筒34には、一端に円柱状のピストンバルブ35を備えるダンパーロッド32が内挿される。つまり、内筒34の内周面はピストンバルブ35のシリンダである。内筒34の内周面と摺動するピストンバルブ35の外周面にはフッ素系樹脂加工が施されている。ダンパーロッド32には、ダンパーロッド32の摺動を支持する円環状のロッドガイド37と、ダンパーケース31内に封入されるダンパーオイルの飛散を防止する円環状のオイルシール38とが介挿される。ロッドガイド37及びオイルシール38の外周面は、ダンパーケース31の内周面に嵌挿される。そして、ダンパーケース31の開口に環状の押さえリング39が嵌挿される。上記構成において、ダンパーケース31,ダンパーロッド32,ベースバルブ33,内筒34,ピストンバルブ35は鉄を主成分とする金属製である。また、ロッドガイド37はアルミニウムを主成分とする金属製である。
【0019】
よって、ダンパー30の部品のうち、可動し、互いに影響を及ぼす部品の組合せは、内筒34とピストンバルブ35、ダンパーロッド32とオイルシール38、ダンパーロッド32とロッドガイド37の3つである。即ち、パルス電圧が印加されることにより操縦性能に影響を受ける部品は、内筒34とピストンバルブ35、ダンパーロッド32とオイルシール38、ダンパーロッド32とロッドガイド37の組合せのいずれかである。
【0020】
そこで、パルス電圧を印加することでダンパーケース31とピストンバルブ35との間に生じる影響を調べるため、ダンパーケース31とピストンバルブ35との電気的な関係について調べた。図3は、ダンパーケース31とピストンバルブ35との影響を調べるため、単筒式のダンパーの一部をモデル化した試験装置の概略図である。
鉄を主成分とする素材によりダンパーケース31、ピストンバルブ35、ダンパーロッド32を構成し、ピストンバルブ35の外周面にダンパーケース31の内周面と摺接するピストンリング41を配設する。ピストンリング41は、フッ素系樹脂を断面C字状に成型したものである。ダンパーケース31とピストンバルブ35とは、ピストンリング41によって電気的に絶縁状態となる。また、ダンパーケース31の内部には、ダンパーオイル42が満たされる。そして、ダンパーケース31とダンパーロッド32とを外部に対して電気的に絶縁した状態で保持し、ダンパーロッド32をダンパーケース31に対して摺動させることで各構成部品の電荷の帯電状態をクーロンメータ43で測定した。クーロンメータ43は、物体に帯電した電荷を測定する計測器である。
【0021】
まず、ダンパーロッド32を上下に動かしてピストンバルブ35をダンパーケース31に対して摺動させることにより、ダンパーケース31の内周面にはマイナス電荷が蓄積し、ダンパーケース31の内周面と摺接するピストンリング41の外周面にはプラス電荷が蓄積することがクーロンメータ43により測定された。そして、ピストンリング41は、ピストンリング41の外周面にプラス電荷が集められたことにより、ピストンリング41の内周面にマイナス電荷が集められて分極状態となる。また、ダンパーロッド32及びピストンバルブ35にはマイナス電荷が帯電する。この状態で、ダンパーロッド32側にパルスジェネレータ55のプラスの電極を接続し、ダンパーケース31にマイナスの電極を接続してパルス電圧を印加したが、各部の電荷の関係に変化は見られなかった。
よって、ダンパーロッド32とダンパーケース31との間にパルス電圧を印加することにより影響を受ける組合せは、ダンパーロッド32とオイルシール38との間、又は、ダンパーロッド32とロッドガイド37との間であることが分かった。
【0022】
次に、パルス電圧を印加することでダンパーロッド32とオイルシール38との間に生じる影響を調べるため、ダンパーロッド32と摺動するオイルシール38のゴム部分の素材について調べるとオイルシール38のゴム部分はニトリルゴム(NBR)製であった。そこで、ニトリルゴム単体に対してパルス電圧を印加したときの摩擦とパルス電圧を印加しないときの摩擦とを測定し、比較した結果、パルス電圧を印加することにより摩擦が低下することが分かった。
つまり、ダンパーロッド32とダンパーケース31との間にパルス電圧を印加することによって、ダンパーロッド32とオイルシール38との摩擦が低下することが確認された。
【0023】
次に、パルス電圧を印加することでダンパーロッド32とロッドガイド37との間に生じる影響を考えると、ダンパーロッド32は鉄を主成分とする金属製、ロッドガイド37はアルミニウムを主成分とする金属製である。つまりダンパーロッド32とロッドガイド37とは電気的に常に導通状態であるから、パルス電圧の印加の有無に関わらず電気的な状態に変化はない。
以上から、ダンパー30のダンパーケース31とダンパーロッド32との間にパルス電圧を印加することで、ダンパーロッド32とオイルシール38との間の摩擦が減少することが確認された。即ち、ダンパーロッド32とオイルシール38との間の摩擦が減少することによって、ダンパー30の動作速度が微低速であっても滑らかに動作して操縦性能に変化を与えることが確認できた。
【0024】
次に、ダンパー30にパルス電圧を印加することによりダンパー30の作動にどの程度の効果が得られるかについて調べるため、ダンパー30を加振試験装置に単体配置して加振試験を行った。
図4(a)は、ダンパー30を加振する加振試験の概念図を示し、図4(b)は、加振試験装置にダンパー30を配置して加振したときのダンパー30の摺動力と、ダンパー30に電圧を印加する印加回数との関係を示したグラフである。
加振試験装置は、予め振幅及び周期が設定された波形に従ってダンパー30を繰り返し伸縮させて、ダンパーロッド32にかかる摺動力を測定する装置である。ダンパー30は、加振試験装置の下側固定部51に絶縁体53を介してダンパーケース31を電気的に絶縁状態で固定し、加振試験装置の上側固定部52に絶縁体53を介してダンパーロッド32を電気的に絶縁状態で固定する。また、ダンパー30には、パルス電圧を印加するパルスジェネレータ55が接続される。ダンパーロッド32にはパルスジェネレータ55から延長するプラス電極が接続され、ダンパーケース31にはパルスジェネレータ55から延長するマイナス電極が接続される。摺動力の測定は、電圧の印加回数0回から4回までの各回毎に行った。
【0025】
図4(b)に示すように、ダンパーロッド32に作用する摺動力は、パルス電圧の印加回数によって変化することが確認された。具体的には、電圧の印加回数が1回,3回の奇数回でほぼ同一の摺動力となり、0回,2回,4回の偶数回でほぼ同一の摺動力となった。また、印加回数が1回,3回の奇数回のときの摺動力と、0回,2回,4回の偶数回のときの摺動力とでは、偶数回の摺動力が奇数回の摺動力よりも5%〜10%小さくなることが確認された。つまり、パルス電圧の印加回数が奇数回のときよりも偶数回のときに摺動力が小さくなる結果が得られた。なお、印加回数0回は、車両に装着されるダンパー30のエンジン起動後の状態に相当する。
よって、ダンパーロッド32とダンパーケース31との間にパルス電圧を印加するとともに、印加回数を制御することで摺動力が変化することが確認された。
【0026】
よって、操縦性能可変装置1を車両に搭載し、エンジンが起動状態の車両において、当該車両に設けられたダンパー30のダンパーロッド32とダンパーケース31とにパルス電圧を印加することにより、ダンパー30の微低速域での動作を円滑にして車両の操縦安定性能を改良することができる。また、ダンパー30のパルス電圧の印加回数によって、ダンパー30の初期動作を向上させたり(奇数回の印加)、ダンパー30の初期動作を硬くしたりして(偶数回の印加)、車両の走行する状況やドライバーの好みに応じて操縦安定性能を改良することができる。
即ち、操縦性能可変装置1を車両に搭載してダンパー30にパルス電圧を印加することで、タイヤやダンパー30を含むサスペンションの構造や部品、又はサスペンションの特性の変更を行うことなく、運転者の意思によって操縦安定性能を向上させることができる。また、操縦性能可変装置1を動作させても車両における他の性能を悪化させることはなく、一般に相反するといわれる操縦安定性能と乗り心地とを向上させることができる。
なお、タイヤの操縦安定性能を改良するために車両に搭載される操縦性能可変装置1は、上記構成に限らず、適宜設計すれば良い。また、操縦性能可変装置1から延長する導線22A,22Bをダンパー30のダンパーケース31とダンパーロッド32とに直接接続するように説明したが、車両におけるダンパーロッド32と電気的に導通する部品やダンパーロッド32と電気的に導通する部品を介して間接的にダンパーケース31とダンパーロッド32とにパルス電圧を印加するようにしても良い。
【0027】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 操縦性能可変装置、2 制御ユニット、3 表示操作ユニット、
11 エンジン起動検出手段、12 表示リセット手段、13 電気ノイズ印加手段、
14 印加回数計数手段、15 表示手段、16 操作手段、21 電源入力端子、
22 パルス電圧出力端子、22A,22B 導線、23 環状リング、
24 環状端子、25 ナット、30 ダンパー、31 ダンパーケース、
32 ダンパーロッド、33 ベースバルブ、34 内筒、35 ピストンバルブ、
37 ロッドガイド、38 オイルシール、39 押さえリング、
41 ピストンリング、42 ダンパーオイル、43 クーロンメータ、
55 パルスジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されるダンパーのフリクションを変化させて車両の操縦安定性能を改良する方法であって、
前記ダンパーと電気的に導通する車両の一部に設けられる電気ノイズ印加手段により前記ダンパーに電気ノイズを印加することを含む操縦安定性能改良方法。
【請求項2】
前記電気ノイズを前記ダンパーのシリンダとシリンダ内を移動するピストンに取り付けられたダンパーロッドとの間に印加することを特徴とする請求項1に記載の操縦安定性能改良方法。
【請求項3】
前記電気ノイズ印加手段により印加される電気ノイズの回数を印加回数計数手段により計数することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の操縦安定性能改良方法。
【請求項4】
前記印加回数計数手段は、前記車両のエンジンの起動を検知したときに計数した印加回数をゼロにリセットすることを特徴とする請求項3に記載の操縦安定性能改良方法。
【請求項5】
前記電気ノイズは、パルス電圧であることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載の操縦安定性能改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91537(P2012−91537A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237919(P2010−237919)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】