説明

操舵装置

【課題】操舵指示部の戻し操舵をしなくても、操舵体が直進状態に戻るようにする。
【解決手段】操舵装置1は、ハンドル2の角加速度を検出し、角加速度が正の場合には、ハンドル2の操舵方向に一致するように操舵輪5の操舵方向を操舵し、角加速度が正から負に変化することを検出し、前記角加速度が負の場合には、ハンドル2の操舵方向とは逆方向に、操舵輪5の操舵方向を操舵し、操舵輪5を直進位置に向かって戻す制御信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵体を操舵する操舵指示部を備えた操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両、例えば、自動車では、ハンドルの操縦により操舵輪の向きを変えて走行方向を変更する操舵装置が備えられている。自動車のハンドルと、操舵輪とは、構造上、直結しており、従属関係にある。ハンドルの操舵に追従して操舵輪の操舵方向が変化する構成である。タイヤを進みたい道路の方向に動かすということが本質的な技術要素であるので、ハンドルの操舵方向と、操舵輪の操舵方向とが必ず一致しなければならない。
【0003】
したがって、自動車が交差点を曲がるとき、あるいは、直線走行中に進路を変更するときには、運転者はまず最初に曲がりたい方向へハンドルを操舵し、ある程度、カーブの進路を進むと、今度は、直進状態に向かってタイヤを戻すためには、ハンドルを逆方向に戻す操舵を必ず行わなければならない。その時のハンドルの戻し操舵の過程で、ホイールアライメントのキャスタの原理によりハンドルを自然に戻させたり、また、戻りをよくするための検出器を用いた補助的な発明はある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2604620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、操舵輪を直進状態に復帰させるためには、ハンドルを直進位置に戻す操舵が必須になる。ハンドル操舵が煩雑化し、操舵装置の構成も複雑化する。
【0006】
本発明の目的は、操舵指示部の戻し操舵をなくし、操舵指示部の一方向への操舵に簡素化させることにある。
【0007】
本発明の目的は、操舵指示部と操舵体とが直結せずに、構造が簡単な操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明においては、操舵指示部と走行方向を制御する操舵体が機械的に直結せずに、操舵制御が可能であり、操舵指示部の回転状況を検知し、操舵指示部を戻し操舵しなくても、操舵体が直進状態に向かって戻るように構成することである。
【0009】
すなわち、本発明は、
操舵方向を指示する回転可能な操舵指示部と、
前記操舵指示部の回転状態を検出する回転状態検出部と、
前記回転状態検出部に接続され、前記回転状態検出部で検出された回転状態に基づいて、操舵体の操舵方向と操舵角を制御する制御信号を生成する操舵制御部と、
該操舵制御部と接続され、該操舵制御部からの制御信号に基づいて前記操舵体を操舵させる操舵体駆動部と、
を備え、
前記操舵制御部が、
前記操舵指示部の角加速度の状態に基づき、前記角加速度が正の場合には、前記操舵指示部の操舵方向に一致するように前記操舵体の操舵方向を操舵し、前記角加速度が負の場合には、前記操舵指示部の操舵方向とは逆方向に、前記操舵体の操舵方向を操舵し、前記操舵体を直進位置に向かって戻す制御信号を生成すること、を特徴とする操舵装置を提供することである。
【0010】
ここでいう操舵には手動操舵、自動操舵のいずれも含み、モニタで検出された情報に基づいて自動操舵としてもよく、操舵指示部にアクチュエータを設け、自動操縦飛行機、自動操縦車両、例えば、カメラや赤外線でガレキの中の人を検出し救助する救助特殊車両等に適用できる。
【0011】
前記回転状態検出部で検出される回転状態には、操舵指示部の回転角、回転数、回転角速度、回転角加速度、操舵方向等が挙げられる。
【0012】
前記角加速度の検出は、操舵指示部の回転状態等の入力情報から演算により角加速度を求めてもよいし、角加速度センサで角加速度を検出してもよい。
【0013】
本発明の操舵装置は、航空機、船舶、車両等、種々の乗物に適用される。たとえば、操舵指示部としては、自動車のハンドル、船舶の操舵装置等が挙げられる。無人操縦の乗り物にも適用される。また、操舵体としては、自動車のタイヤ、船舶のスクリュー、航空機の操舵面等が挙げられる。
【0014】
本発明では、例えば、車両に適用された場合、交差点を90度旋回するのであれば、操舵指示部を同じ方向(一方向)に回し続ければよく、戻し操舵は不要となる。運転者はまだ車両が直進状態になっていなくとも、一方向に回すことを考えて操舵をすればよいので、運転者は途中で戻すタイミングをあれこれ考える必要がない。そして、車両を直進状態にするためには、操舵指示部の操舵を停止すればよいだけである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、操舵指示部に対して戻し操舵をしなくても、操舵輪が直進状態に戻るようにすることができるため、戻し操舵を不要にできる効果がある。本発明により、操舵体の操舵を単純化でき、煩雑化を回避できる。
【0016】
本発明は、操舵体の操舵速度と操舵指示部の回転の関係を容易に変更できる。
【0017】
本発明は、操舵指示部と操舵駆動装置とが直結しないため、操舵装置を簡素化し、構造が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態の車両の操舵装置の構成図である。
【図2】同操舵装置の動作説明図表である。
【図3】同操舵装置のハンドルの回転角、角速度、角加速度、操舵輪の方向を示すタイムチャートである。
【図4】本発明実施形態の車両の操舵装置の変更形態の構成図である。
【図5】本発明実施形態の車両の操舵装置の異なる変更形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態である車両の操舵装置1(以下、単に操舵装置1という)について図面を参照して説明する。この操舵装置1は、図1に示す通り、車両の操舵方向を指示する回転可能な操舵指示部としてのハンドル2と、ハンドル2の回転角と回転方向を検出する回転角検出部3と、ハンドル2の角加速度を検出する角加速度検出部4と、回転角検出部3と角加速度検出部4とに接続され、回転角検出部3で検出された回転角、及び、角加速度検出部4で検出された角加速度に基づいて、操舵輪5を制御する制御信号を生成する操舵制御部6と、操舵制御部6に接続され、操舵制御部6からの制御信号に基づいて操舵輪5を操舵させる操舵輪駆動部7と、を備えている。
【0020】
この操舵制御部6が、ハンドル2の角加速度の状態に基づき、前記角加速度が正の場合には、ハンドル2の操舵方向に一致するように操舵輪5の操舵方向を操舵し、前記角加速度が負の場合には、ハンドル2の操舵方向とは逆方向に、操舵輪5の操舵方向を操舵し、操舵輪5を直進位置に向かって戻す制御信号を生成すること、を特徴とする。
【0021】
ハンドル2は、例えば、車両に取り付けられ運転者が操舵するハンドル輪2aと、ハンドル輪2aの回転軸であるハンドル軸2bをもち回転運動を行う円形や円盤状のものである。図1では運転者の意図する走行方向を操舵輪等に伝達する円形のハンドル輪2aを使用した場合での事例をあげて説明している。
【0022】
手動操舵に代えて自動操舵としてもよい。自動操縦の場合にはハンドル輪2aを残す場合、ハンドル輪2aを除去しハンドル軸2bを残す場合がある。いずれにしても、ハンドル軸2bを駆動するアクチュエータを設けることが必要である。
【0023】
回転角検出部3は、ハンドル軸2bの回転角を検出するものである。たとえば、ハンドル軸2bの軸受けに設ける例があげられる。この回転角により、操舵方向をも検出できる。この例では、回転角の検出値は、右回りは正、左回りは負とする。
【0024】
角加速度検出部4は、ハンドル2の角加速度を検出する角加速度センサが挙げられる。角加速度は角速度が増加の場合には正、角速度が減少の場合には負とする。
【0025】
ハンドル2に回転角検出部3と角加速度検出部4とが取り付けられている。
【0026】
操舵輪5はいわゆるタイヤ、ホイール等が例示される。
【0027】
操舵制御部6は、回転角検出部3と角加速度検出部4からの信号を読み込み、データとして記憶部に記憶する。そして、このデータがROMに格納されたプログラムにより処理され、CPUで操舵輪5の操舵方向、操舵角を演算する。
【0028】
操舵制御部6は、回転角検出部3で検出された回転角の正負により、ハンドル2が右回転された状態、または、左回転された状態のいずれかを検出する。これに基づいて、操舵輪5の操舵方向を制御する。また、操舵輪5の操舵角は、ハンドル2の回転角、回転角速度、回転角加速度等から適宜決定する。角加速度の値と操舵輪5の駆動量の関係を一定にしてもよいが、人の技量、あるいは、車両の特性に応じて、比率を変えることもできる。
【0029】
なお、操舵輪5の操舵角の検出器を設けて、この検出器からの信号を操舵制御部に入力させることにより精密な制御も可能である。
【0030】
操舵制御部6は、操舵方向の制御について、操舵輪5の戻し動作(操舵輪5を直進位置に戻す方向に操舵させること)を起こすタイミングをハンドル2の角加速度値が正から負に変化したかどうかで判断する。操舵制御部6は、ROMに格納されたプログラムに従って、角加速度が正の場合には、ハンドル2の操舵方向と一致するように操舵輪5を制御する。そして、角加速度が正から負に変化すると、ハンドル2の操舵方向とは逆方向、つまり直進方向に戻す方向に、操舵輪5を戻し操舵する。なお、車両の直進走行時の走行安定性を向上させる為に、直進走行中のハンドル2の角加速度の正負の小さな変化は、プログラムで駆動輪5を駆動しない様にすることも可能である。
【0031】
操舵輪駆動部7は、操舵輪5の操舵を電気モータとボールネジによって動作する構造を備えることが好ましい。電気モータとボールネジの組み合わせによって操舵輪5の角度を変化させ操舵する。これに代えて、油圧によって操舵輪5を動作させてもよい。
【0032】
操舵装置1と組み合わせ、車両の動作状況、例えば、速度、左右や上下への揺れ、制動等をセンサで検知し、電気信号に変え、操舵を補助的に電気モータや油圧で制御し、補助的に、車両の走行状態を安定させるようにしてもよい。また、手動操舵を自動操舵に適宜切り替える構成としてもよい。
【0033】
つぎに操舵装置1の動作について図2、図3を参照して説明する。図3では図2に対応する領域には同一番号を付して対応関係を明確にしている。
【0034】
車両のスタート時には、操舵輪5は直進方向にあるとし、ハンドル2の回転角の角速度と角加速度は0であり、操舵輪5の駆動を停止しているとして説明する。
【0035】
まず、直進走行中にハンドル2の右回り操舵がなされると、角速度の最大値に至るまでは、角速度を増大し、角加速度の大きさに応じて、右回り方向に操舵輪5を操舵する。このとき、角速度が増大し、角加速度は正である。
【0036】
角速度が最大値のときには、角加速度が0になる為、操舵輪5は操舵を停止され、直前の状態を維持する。
【0037】
さらにハンドル2が次第にゆっくりと右回り操舵されると、角速度が減少し、角加速度は負になる為、ハンドル2は右回りされるにもかかわらず、操舵輪5は左方向に戻され始める。
【0038】
運転者がハンドル2の右回転をストップすると、ハンドル2の角速度、角加速度ともに0となり、操舵輪5の駆動が停止され、駆動輪5は直進位置の状態となる。ハンドル2の左回しも同様である。さらに、進路変更も同様である。
【0039】
このように、車両が交差点を曲がる場合、または、進路変更の場合、ハンドル2を一方向に回し始め、回す速度を早くし、そして、回す速度を減らし、車両が直進状態になったときに、ハンドル2の回し操作を停止するだけでよいわけである。つまりハンドル2を一方向に回しっぱなしでよい。従来の戻し操舵の代わりに同じ方向に回すことになる。運転者がハンドル2の回転を止めれば、操舵輪5は直進状態に戻っている。一方、操舵輪5は右に駆動され、つぎに自動的に戻し方向(左方向)に駆動され、直進位置に戻る。つまり、運転者が戻し操舵を行わなくても、操舵輪5を戻すことができる。運転者は戻し操舵を意識する必要がない。特に、自動的に操舵するものに対しては非常に便利である。
【0040】
以上の操舵装置1によれば、ハンドル2をいちいち直進位置へ戻す動作をなくすことができるので、運転者は操舵したい方向へのハンドル2の操舵を同じ方向へ単純に継続して行うだけでよいので、運転者の作業量が低減され、操舵を単純化できる。例えば、さまざまな能力の運転者に適用でき、たとえば、災害救援に投入される特殊車両に適用が期待される。
【0041】
操舵装置1によれば、操舵の戻しタイミングの不良により発生する不安定な操舵を防ぎ、操舵技量の低い者でもより安定した操舵を可能にできる。たとえば、高齢者、子供、障害者などが使用する車両の操舵装置にも導入が期待できる。
【0042】
操舵装置1によれば、必要最小限の検出部を使用し、また、ハンドル2と操舵輪駆動部7とが直結していないので、構造が簡単で軽量であり、また、各種操舵が必要な車両に対し容易に積載でき、装置を低コストで構築でき、耐久性が高く、メンテナンスも軽減することができる。
【0043】
つぎに本実施形態の変更形態である操舵装置101について図4を参照して説明する。この実施形態は、概ね前記実施形態と共通するので、部品番号を100番台とし、主に相違点を説明する。ここでは、角加速度演算部104を操舵制御部106に設けたものであり、この角加速度演算部104が回転角検出部103で検出された回転角に基づいて、回転角速度を演算し、この回転角速度から回転角加速度を演算するものである。
【0044】
つぎに本実施形態の異なる変更形態である操舵装置201について図5を参照して説明する。この変更形態は、概ね図4の前記変更形態と一致するので、部品番号を200番台とし、主に相違点を説明する。ここでは、操舵装置201は手動操舵に代えて自動操舵とする。ハンドル輪202aをなくし、モニタ209をアクチュエータ250に接続しモニタ209で検出された情報に基づいて、アクチュエータ250でハンドル軸202bを回転駆動し、角加速度演算部204が回転角検出部203で検出された回転角に基づいて、回転角速度を演算し、この回転角速度から回転角加速度を演算し、これに基づいて車両の操舵輪205の自動操舵を行うものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、航空機、船舶、建設機械、自動車、特殊車両、遊具、無人ロボットなど方向制御を必要とする装置に対し搭載が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・操舵装置
2・・・ハンドル(操舵指示部)
3・・・回転角検出部
4・・・角加速度検出部
5・・・操舵輪
6・・・操舵制御部
7・・・操舵輪駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵方向を指示する回転可能な操舵指示部と、
前記操舵指示部の回転状態を検出する回転状態検出部と、
前記回転状態検出部に接続され、前記回転状態検出部で検出された回転状態に基づいて、操舵体の操舵方向と操舵角を制御する制御信号を生成する操舵制御部と、
該操舵制御部と接続され、該操舵制御部からの制御信号に基づいて前記操舵体を操舵する操舵体駆動部と、
を備え、
前記操舵制御部が、
前記操舵指示部の角加速度の状態に基づき、前記角加速度が正の場合には、前記操舵指示部の操舵方向に一致するように前記操舵体の操舵方向を操舵し、前記角加速度が負の場合には、前記操舵指示部の操舵方向とは逆方向に、前記操舵体の操舵方向を操舵し、前記操舵体を直進位置に向かって戻す制御信号を生成すること、を特徴とする操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−84120(P2011−84120A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236817(P2009−236817)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【特許番号】特許第4486158号(P4486158)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000142377)株式会社近藤鐵工所 (1)
【Fターム(参考)】