説明

放射線硬化性粘着剤組成物、それを用いたダイシング用粘着フィルム、及び切断片の製造方法

【課題】ダイシング工程においては高い粘着力を有し半導体素子などの切断片の脱離飛散が抑えられるとともに、ピックアップ工程においては活性面を有する被加工物に対しても優れた軽剥離性及び低汚染性が得られる粘着剤、及び該粘着剤を含有する粘着層を有するダイシング用粘着フィルムの提供。
【解決手段】共重合モノマー成分として、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマー、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーを少なくとも有するベースポリマーと分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とを反応させることによって得られる(メタ)アクリル系ポリマー、及び多官能モノマーを含有する放射線硬化性粘着剤組成物、及び該粘着剤を含有する粘着層を有するダイシング用粘着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化性粘着剤組成物、それを用いたダイシング用粘着フィルム、及び切断片の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、活性面を有する半導体ウェハや半導体パッケージなどの被加工物を切断する際に好適に用いられるダイシング用粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハや半導体パッケージの半導体関連材料などは、回転刃などの切断刃を用いて切断され、小片の半導体素子やIC部品に分離されている。例えば、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム−砒素などを材料とする半導体ウェハは、大径の状態で製造された後、所定の厚さになるまで裏面研削処理(バックグラインド処理)され、さらに必要に応じて裏面処理(エッチング処理、ポリッシング処理など)が施される。次に、半導体ウェハが素子小片に切断分離(ダイシング)され、その後の工程に移される。この製造工程においては、半導体ウェハを予めダイシング用粘着フィルムに貼付するマウント工程、該粘着フィルムが半導体ウェハに貼付された状態で半導体ウェハを半導体素子小片にダイシングするダイシング工程、洗浄工程、エキスパンド工程、ピックアップ工程などの各種工程が行われる。そして、上記ピックアップ工程においては、ダイシング用粘着フィルムをある程度張った状態とし、ピックアップする半導体素子下部のダイシング用粘着フィルムを点状または線状で持ち上げ、該半導体素子とダイシング用粘着フィルムとの剥離を助長した状態で、上部から真空吸着などによりピックアップして半導体素子を得る方式が採用されている。
【0003】
上記ダイシング用粘着フィルムは、一般に、プラスチックフィルムなどの基材上に粘着剤組成物を含有する粘着剤層が形成された構成を有している。半導体素子を製造する場合、ダイシング用粘着フィルムには、ダイシング工程における粘着フィルムからの半導体素子の脱離飛散を抑えるため、ダイシング時に洗浄水の水圧が加えられても粘着フィルムから半導体素子が剥離しない程度の高い粘着力が要求される一方、ピックアップ工程における剥離時には粘着剤層が半導体ウェハを破損しない程度の低い粘着力になる軽剥離性、及び切断された半導体素子上に糊残りなどが生じない低汚染性を有することが要求されている。
【0004】
上記のような特性を満たすダイシング用粘着フィルムとして、例えば、放射線透過性の基材上に、放射線反応性の炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含む放射線硬化性粘着剤組成物からなる粘着剤層を形成したダイシング用粘着フィルムが使用されている。この種のダイシング用粘着フィルムにおいては、放射線による硬化前には放射線硬化性粘着剤組成物が高い粘着力を有するため、ダイシング工程においては半導体素子の脱離飛散を抑えることができる。また、放射線を粘着剤層に照射すると放射線硬化性粘着剤組成物が硬化して粘着力が著しく低下するため、ピックアップ工程においては半導体素子を容易にダイシング用粘着フィルムから剥離することができる。
【0005】
ところで、近年、半導体製造工程においては、タクトタイムの向上や半導体ウェハの薄膜化(例えば、100μm以下)に起因する破損防止を目的として、裏面研削処理後、または裏面研削処理及び裏面処理が終了した後、短時間内にダイシング用粘着フィルムが半導体ウェハに貼り合わされることが多くなってきている。このような裏面研削処理後、または裏面研削処理及び裏面処理後、短時間内に薄膜の半導体ウェハとダイシング用粘着フィルムとの貼り合わせを行った場合、半導体ウェハと粘着剤層との粘着力が高くなり、放射線による硬化後の剥離が困難となってピックアップ性が低下するという問題が生じている。これは、半導体ウェハの裏面研削処理または裏面処理が行われた処理面において、自然酸化膜が半導体ウェハの全面に十分形成されておらず、半導体ウェハの表面は未酸化状態の活性な原子(例えば、ケイ素原子など)が存在する活性面となっており、そのためこの活性面にダイシング用粘着フィルムが貼り合わせられると、未酸化状態の活性原子と粘着剤層の放射線硬化性粘着剤組成物とが接触して、未酸化状態の活性原子と放射線硬化性粘着剤組成物との間に化学的な結合が生じるためと推察されている。
【0006】
特に、上記のような放射線反応性の炭素−炭素二重結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを合成するにあたっては、アルキル基を有する共重合モノマー成分と、水酸基などの官能基を有する共重合モノマー成分とを共重合してベースポリマーを合成し、該官能基と反応する官能基及び放射線反応性の炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とベースポリマーとを縮合あるいは付加反応等させているため、ベースポリマーには、放射線反応性化合物と反応させるための官能基を導入する必要があり、さらに(メタ)アクリル系ポリマーを高分子量化して粘着剤層の凝集力を向上させるために架橋剤を使用する場合、架橋剤と反応させるための官能基もベースポリマーに導入する必要がある。このようなベースポリマーに導入した官能基全てを放射線反応性化合物や架橋剤と完全に反応させることができれば、これらの化合物が有する官能基量と当量の官能基量をベースポリマーに導入すれば足りる。しかしながら、ベースポリマーの共重合モノマー成分、放射線反応性化合物及び架橋剤の種類やこれらが有する官能基の種類によって反応性が異なるため、ベースポリマーにはこれらの化合物が有する官能基量よりも多くの官能基量を導入する必要がある。その結果、(メタ)アクリル系ポリマーには未反応の官能基が残存し、該官能基と上記のような活性原子との間で化学的な結合が生じて、軽剥離性が低下しやすい。
【0007】
上記のようなピックアップ工程における活性面を有する半導体ウェハとダイシング用粘着フィルムとの粘着性の問題に対して、例えば、特許文献1では、放射線硬化性粘着剤とともに、ポリアルキレングリコールなどのヒドロキシ系化合物を含有させた粘着剤層を有するダイシング用粘着フィルムが提案されている。このダイシング用粘着フィルムによれば、活性面を有する半導体ウェハにダイシング用粘着フィルムを貼付させた場合、粘着剤層の表面に所定量のヒドロキシ系化合物が存在することにより活性原子と放射線硬化性粘着剤との間で化学的な結合が抑制または防止され、それによってピックアップ工程における軽剥離性を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−60434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようなヒドロキシ系化合物はそれ自体が粘着性を有するものでなく、また数平均分子量が3,000以下の低分子化合物であるため、ダイシング工程における半導体ウェハとダイシング用粘着フィルムとの粘着性が低下するという問題がある。特に、ダイシング工程においてはダイシング時の摩擦熱の除去や切断屑の付着防止のため洗浄水がダイシング用粘着フィルムを貼付した半導体ウェハに供給されるため、粘着剤層に洗浄水が接触しても粘着剤層が高い粘着力を保持できることが要求されるが、上記のような低分子量のヒドロキシ系化合物の使用によって洗浄水と粘着剤層とが接触したときの粘着力が低下しやすいという問題がある。さらに、特許文献1では放射線照射後の軽剥離性を確保するために、ヒドロキシ系化合物を粘着剤層中の固形分全量に対して2〜12質量%も添加する必要があることから、放射線硬化性粘着剤組成物の硬化性が低下しやすく、ピックアップ時に半導体素子上にこのような低分子量成分が残存しやすいという問題もある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の目的は、放射線による硬化前では粘着力が高く、放射線による硬化後では粘着力が著しく低下する放射線硬化性粘着剤組成物を提供すること、及び前記放射線硬化性粘着剤組成物を用いることにより、ダイシング工程においては高い粘着力を有し半導体素子などの切断片の脱離飛散が抑えられるとともに、ピックアップ工程においては活性面を有する被加工物に対しても優れた軽剥離性及び低汚染性が得られる粘着剤層を有するダイシング用粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ベースポリマーと分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とを反応させることによって得られる(メタ)アクリル系ポリマー、及び多官能モノマーを含有し、
前記ベースポリマーは、共重合モノマー成分として、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーと、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーと、炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーとを少なくとも有し、
前記共重合モノマー成分全量に対して、前記炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が30〜80質量%、前記水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が5〜20質量%、前記炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が10〜60質量%であり、
前記放射線反応性化合物の含有量が、前記ベースポリマー100質量部に対して、5〜25質量部である放射線硬化性粘着剤組成物である。
【0012】
上記放射線硬化性粘着剤組成物は、前記多官能モノマーを、前記ベースポリマー100質量部に対して、5〜30質量部含有することが好ましい。また、上記放射線硬化性粘着剤組成物は、さらに架橋剤、及び光重合開始剤を含有してもよい。
【0013】
そして、本発明は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に粘着剤層とを有するダイシング用粘着フィルムであって、
前記粘着剤層は、上記放射線硬化性粘着剤組成物を含有するダイシング用粘着フィルムである。
【0014】
また、本発明は、被加工物の一面に上記ダイシング用粘着フィルムを貼付し、
前記ダイシング用粘着フィルムが貼付された被加工物を切断して切断片に分離し、
前記切断片に貼付されている粘着剤層に放射線を照射して前記粘着剤層の粘着力を低下させ、
前記粘着力を低下させたダイシング用粘着フィルムから前記切断片をピックアップする切断片の製造方法である。特に、被加工物が活性面を有する半導体ウェハである場合に、上記切断片の製造方法が有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粘着剤層が上記の放射線硬化性粘着剤組成物を含有しているため、放射線による硬化前においては高い粘着力を有し、放射線による硬化後においては低い粘着力を有するダイシング用粘着フィルムを提供することができる。これによりダイシング工程においては切断片の脱離飛散を低減できるとともに、ピックアップ工程においては切断片をダイシング用粘着フィルムから容易に剥離することができ、さらに剥離後の汚染も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るダイシング用粘着フィルムの一例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係る放射線硬化性粘着剤組成物は、共重合モノマー成分として、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマー、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマー、及び炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーを少なくとも有するベースポリマーと、分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とを反応させることによって得られる(メタ)アクリル系ポリマーを含有する。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0018】
ベースポリマーを合成する際に用いられる共重合モノマー成分の1つである炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも炭素数8の直鎖または分岐アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルからなる群から選ばれる1種が好ましく、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルがより好ましい。
【0019】
ベースポリマー中の炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、ベースポリマーを構成する共重合モノマー成分全量に対して、30〜80質量%であり、好ましくは40〜80質量%である。炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が30質量%未満では、放射線による硬化前の(メタ)アクリル系ポリマーの粘着力が低下しやすい。一方、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が80質量%より多いと、他の共重合モノマー成分である水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が減少する。そのため、放射線反応性化合物と反応して放射線反応性炭素−炭素二重結合を(メタ)アクリル系ポリマーに導入するために必要な水酸基の数が減少し、硬化性が低下しやすい。また、炭素数14〜18の直鎖アルキル基の導入量も減少するため軽剥離性が劣化する。
【0020】
また、ベースポリマーは、共重合モノマー成分の1つとして、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーを含有する。水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーを共重合モノマー成分の1つとして使用することにより、導入された水酸基と放射線反応性化合物とを反応させて放射線反応性炭素−炭素二重結合を分子内に有する(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。また、水酸基を導入することにより、架橋剤を使用する場合、(メタ)アクリル系ポリマーと架橋剤との架橋反応により三次元架橋構造を形成することができ、粘着剤層の凝集力を向上することができる。このような水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。
【0021】
ベースポリマー中の水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、ベースポリマーを構成する共重合モノマー成分全量に対して、5〜20質量%であり、好ましくは5〜10質量%である。水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が5質量%未満では、ベースポリマー中の水酸基の数が少なくなるため、放射線反応性炭素−炭素二重結合の導入量を増加させることができず、硬化性が低下しやすい。また、硬化性を向上させるために放射線反応性炭素−炭素二重結合の導入量を増加させると、高分子量化のために架橋剤を用いる場合、該架橋剤と反応する水酸基が少なくなり、凝集力が低下したり、未反応成分が残存して、糊汚れが発生しやすくなる。一方、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が20質量%よりも多い場合、半導体ウェハなどの活性面における活性原子と水酸基とが結合して、放射線による硬化によっても粘着力を十分に低減することができず、その結果、軽剥離性が低下するとともに、剥離後に切断片に糊汚れが発生しやすくなる。
【0022】
さらに、ベースポリマーは、共重合モノマー成分の1つとして、炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーを含有する。放射線による硬化前に高い粘着力を得るためには、共重合モノマー成分として炭素数2〜8の短鎖のアルキル基を含有する(メタ)アクリル系モノマーを多く使用することが好ましいが、ダイシング用粘着フィルムの粘着剤層に用いられる(メタ)アクリル系ポリマーは上記のように硬化性を確保するために水酸基を必要とすることから、該水酸基に起因して、放射線による硬化後でも活性面との粘着力が高くなる。本発明者等の検討によれば、炭素数14〜18の直鎖アルキル基を含有する(メタ)アクリル系モノマーを共重合モノマー成分の1つとして使用すれば、放射線による硬化前では高い粘着力を有するとともに、放射線による硬化後では低い粘着力を有する放射線硬化性粘着剤組成物が得られ、該放射線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層を備えたダイシング用粘着フィルムを使用することにより、ダイシング工程においては半導体素子などの切断片の脱離飛散が抑えられるとともに、ピックアップ工程においては活性面を有する被加工物を用いた場合でも優れた軽剥離性及び低汚染性が得られることが見出された。
【0023】
この炭素数14〜18を有する直鎖アルキル基を(メタ)アクリル系ポリマーの分子内に導入することにより、上記の特性が得られる理由は必ずしも明らかではないが、次のように推測される。まず、ベースポリマーを合成するために上記の各(メタ)アクリル系モノマーを共重合させる場合、炭素数が14〜18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーであれば、該(メタ)アクリル系モノマーと、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーや水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーなどの他の共重合モノマー成分との重合反応や、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーや水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの間の重合反応が大きく阻害されないため、粘着力の低下などの粘着特性に悪影響を及ぼす低分子量のモノマー成分の残存量やオリゴマー成分の生成量が抑えられ、高分子量のベースポリマーを得ることができる。また、炭素数14〜18の直鎖アルキル基が(メタ)アクリル系ポリマーの分子内に導入されれば、(メタ)アクリル系ポリマーの疎水性が向上し、粘着剤層と洗浄水とが接触した場合でも粘着力の低下が抑えられると考えられる。さらに、架橋剤が使用される場合、炭素数14〜18の直鎖アルキル基であれば、(メタ)アクリル系ポリマーの水酸基と架橋剤との反応も大きく阻害されることもない。このため、放射線による硬化前では高い粘着力を有する放射線硬化性粘着剤組成物を得ることができる。一方、活性面を有する半導体ウェハなどの被加工物と(メタ)アクリル系ポリマーの剥離性の劣化は(メタ)アクリル系ポリマーが有する水酸基やエステル部位などの極性部位と活性面の表面に露出した活性原子との結合に起因する。従って、(メタ)アクリル系ポリマーが分子内の側鎖や末端に炭素数14〜18の直鎖アルキル基を有していれば、長鎖のアルキル基が分子内でフリーな状態で存在し、水酸基などの極性部位が該アルキル基で隠蔽され、それによって極性部位と活性原子との接触が抑えられると考えられる。このため、放射線による硬化で(メタ)アクリル系ポリマーの硬化が十分に行われ、粘着力を著しく低減させることができる。その結果、本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層を備えたダイシング用粘着フィルムを用いれば、ダイシング工程において半導体ウェハなどの被加工物に対して高い粘着力が得られ、洗浄水が供給されても、半導体素子などの切断片の脱離飛散を低減することができる。また、ピックアップ工程において容易に半導体素子などの切断片と粘着フィルムとを剥離できるとともに、切断片への粘着剤組成物の残存を低減できる。長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分として炭素数が14未満のアルキル基を含有する(メタ)アクリル系モノマーのみを使用すると、水酸基などの極性部位を十分に隠蔽することができないためか、放射線による硬化後でも粘着力の低下が不十分で、ピックアップ性が低下する。一方、炭素数が18より多い(メタ)アクリル系モノマーはモノマー自体の選択肢が少なく、また高分子量の(メタ)アクリル系ポリマーの合成が困難となる。このような炭素数14〜18の直鎖アルキル基を含有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、単官能の(メタ)アクリル系モノマーが好ましく、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸テトラデシル((メタ)アクリル酸ミリスチル)、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸オクタデシルがより好ましい。
【0024】
ベースポリマー中の炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、ベースポリマーを構成する共重合モノマー成分全量に対して、10〜60質量%であり、好ましくは10〜50質量%である。炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が10質量%未満では、水酸基などの極性部位の隠蔽が不十分になるためか、活性面を有する半導体ウェハなどの被加工物にダイシング用粘着フィルムを貼付した場合、放射線による硬化後に粘着力が十分低減されず、切断片の剥離が困難となって、ピックアップ性が低下しやすい。一方、炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が60質量%より多いと、ベースポリマー合成時の重合反応が円滑に進行せず、高分子量の(メタ)アクリル系ポリマーを得ることが困難となるため、放射線による硬化前の粘着力が低下しやすい。また、糊汚れが発生しやすくなる。このように、ベースポリマーを構成する共重合モノマー成分のアルキル基数及びその構造に着目し、炭素数14〜18の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーを共重合モノマー成分として多量に含むベースポリマーと、放射線反応性化合物とを反応させて得られる(メタ)アクリル系ポリマーを含有する粘着剤組成物を用いて、放射線による硬化前の粘着剤層と洗浄水との接触による粘着力低下の抑制と、活性面を有する半導体ウェハなどの被加工物に対する放射線による硬化後の軽剥離性及び低汚染性を具体的に検討した例はこれまで見当たらない。
【0025】
本実施の形態において、ベースポリマーは、凝集力、及び耐熱性などを目的として、必要に応じて他の共重合モノマー成分を含有してもよい。このような他の共重合モノマー成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリロニトリルなどのシアノ基含有モノマー;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;スチレン、 α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン原子含有モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどのアルコキシ基含有モノマー;N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどの窒素原子含有環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシルなどの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。また、共重合モノマー成分として、必要に応じて多官能モノマーを用いてもよい。さらに、共重合モノマー成分として、必要に応じて、エチレン−酢酸ビニルコポリマーや、酢酸ビニルポリマーなどを用いてもよい。これらの他の共重合モノマー成分は、単独でまたは複数使用してもよい。ただし、これらの他の共重合モノマー成分の含有量が多すぎると、粘着力が低下しやすくなり、また軽剥離性や低汚染性が劣化しやすいため、他の共重合モノマー成分の含有量は、共重合モノマー成分全量に対して、5質量%以下が好ましい。
【0026】
ベースポリマーを合成するための重合方法としては、従来公知の溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法などが挙げられ、これらの中でも本実施の形態の共重合モノマー成分の重合が均一に進行する溶液重合法が好ましい。溶液重合を行う場合の有機溶剤としては、具体的には、例えば、ケトン系、エステル系、アルコール系、芳香族系の有機溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でもトルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ベンゼンメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、アセトン、メチルエチルケトンなどの、一般にベースポリマーに対して良溶剤で、60〜120℃の沸点を有する有機溶剤が好ましい。また、重合開始剤としては、α,α'−アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾビス系;ベンゾペルオキシドなどの有機過酸化物系などのラジカル発生剤などが挙げられる。重合にあたっては、必要に応じて、触媒、重合禁止剤などを使用してもよい。
【0027】
本実施の形態の(メタ)アクリル系ポリマーは上記のようにして得られるベースポリマーと放射線反応性炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とを反応させ、分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を導入することにより合成することができる。
【0028】
放射線反応性化合物としては、放射線反応性炭素−炭素二重結合と、ベースポリマーの水酸基と反応する官能基とを有するものを使用することができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、けい皮酸、イタコン酸、フマル酸、フタル酸などのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸イソシアネートエチルなどのイソシアネート基含有モノマーなどが挙げられる。これらの放射線反応性化合物は、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、水酸基との反応性に優れるイソシアネート基含有モノマーが好ましい。また、ベースポリマーが共重合モノマー成分としてエポキシ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物基含有モノマーなどを含有する場合、これらの共重合モノマー成分によって分子内に導入されるエポキシ基、カルボン酸基、酸無水物基などの官能基と反応する官能基を有する(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどのヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチルなどのアミノ基含有モノマーなどを用いてもよい。
【0029】
放射線反応性化合物の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、5〜25質量部であり、好ましくは6〜23質量部である。放射線反応性化合物の含有量が5質量部未満では、放射線反応性炭素−炭素二重結合の導入量が減少し、硬化性が低下しやすい。放射線反応性化合物の含有量が25質量部よりも多いと、低分子量成分が増加し、硬化前の粘着力が低下する。また、放射線反応性化合物の含有量が多いと、硬化性が飽和する一方、放射線による硬化後の流動性が低下し、延伸後の切断片間の間隙が不十分となる。そのため、ピックアップ時に各切断片の画像認識が困難になる場合がある。また、(メタ)アクリル系ポリマーの安定性が低下し、製造が困難となる場合がある。
【0030】
また、放射線反応性化合物の含有量は、ベースポリマーの合成に用いた水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーのそれよりも少ないことが好ましい。放射線反応性化合物の含有量が水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量よりも少なければ、高分子量化のために架橋剤を使用する場合、該架橋剤と反応する水酸基を確保することができ、それによって硬化前に粘着剤層と洗浄水とが接触した場合の粘着力の低下をさらに抑えることができる。
【0031】
(メタ)アクリル系ポリマーを合成する方法としては、炭素−炭素二重結合の放射線反応性を維持した状態で、ベースポリマーと放射線反応性化合物とを縮合反応または付加反応させる方法が挙げられる。これらの反応においては、炭素−炭素二重結合の放射線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、ベースポリマーと放射線反応性化合物の合計量に対して、通常、0.01〜0.1質量部である。
【0032】
上記のようにして得られる(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは30万〜200万であり、より好ましくは40万〜150万である。重量平均分子量が30万未満であると、切断片に糊汚れが発生しやすくなる。また、(メタ)アクリル系ポリマーの凝集力が低下し、ダイシング時に被加工物の位置ずれが生じやすくなる。一方、重量平均分子量が200万より大きいと、合成時及び塗工時にゲル化する場合がある。なお、上記重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によるポリスチレン換算重量平均分子量である(溶媒:テトラヒドロフラン)。また、(メタ)アクリル系ポリマーは、−60℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0033】
本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物は、さらに分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を複数有する多官能モノマーを含有する。上記の長鎖のアルキル基を有するベースポリマーを用いて得られる(メタ)アクリル系ポリマーと多官能モノマーとを併用することにより、放射線の照射で(メタ)アクリル系ポリマーが重合硬化するだけでなく、分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を複数有する多官能モノマー同士も反応するため、(メタ)アクリル系ポリマーの重合物が多官能モノマーの反応物によって拘束される。さらに、(メタ)アクリル系ポリマー及び多官能モノマーいずれも放射線反応性炭素−炭素二重結合を有するから、(メタ)アクリル系ポリマーと多官能モノマーも反応する。これにより、より高密度の三次元架橋構造が形成されて放射線硬化性粘着剤組成物が硬化収縮するため、著しく粘着力を低下させることができる。
【0034】
多官能モノマーの放射線反応性炭素−炭素二重結合の数は、一分子当たり、好ましくは2個以上であり、より好ましくは3〜6個である。放射線反応性炭素−炭素二重結合の数が1個では、高分子量化しないため硬化が不充分となり粘着力が十分低下しない。このような多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独でまたは複数使用してもよい。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0035】
多官能モノマーの含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは3〜35質量部であり、より好ましくは5〜30質量部である。多官能モノマーの含有量が3質量部以上であれば、放射線の照射により硬化が十分に促進され、粘着力をより低減することができる。一方、多官能モノマーの含有量が35質量部以下であれば、低分子量成分による放射線による硬化前の粘着力の低下がより抑えられるとともに、放射線による硬化後の糊汚れをより低減することができる。
【0036】
本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有してもよい。このような架橋剤としては、特に制限されず、公知の架橋剤を使用することができる。具体的には、例えば、ポリイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、尿素樹脂系架橋剤、酸無水化合物系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、カルボキシル基含有ポリマー系架橋剤などが挙げられる。これらの架橋剤は、単独でまたは複数使用してもよい。架橋剤の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部である。架橋剤の配合量が多すぎると、(メタ)アクリル系ポリマーの種類によっては被加工物にダイシング用粘着フィルムを貼付する際の粘着力が低下したり、未架橋成分が切断片に付着して、糊汚れが発生する場合がある。
【0037】
本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物は、放射線として紫外線を用いる場合、光重合開始剤をさらに含有してもよい。このような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル系開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系開始剤;α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−ジメチルアセトフェノン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1などの芳香族ケトン系開始剤;ベンジルジメチルケタールなどの芳香族ケタール系開始剤;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ドデシルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系開始剤;ベンジルなどのベンジル系開始剤;ベンゾインなどのベンゾイン系開始剤;2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノンなどのα−ケトール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシム系化合物;カンファーキノン系化合物;ハロゲン化ケトン系化合物:アシルホスフィノキシド系化合物;アシルホスフォナート系化合物などが挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。光重合開始剤の配合量は、(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部である。
【0038】
本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物は、上記の(メタ)アクリル系ポリマー及び多官能モノマーを有していれば、他の特性の向上を目的として、必要に応じて、粘着付与剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、軟化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤などの公知の添加剤などをさらに含有してもよい。ただし、ポリエチレングリコールなどの低分子化合物(例えば、数平均分子量が3,000以下)はできる限り少ないことが好ましく、放射線硬化性粘着剤組成物全量に対して、2質量%未満がより好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。本実施の形態の放射線硬化性粘着剤組成物がこのような低分子化合物を含有すると、被加工物に対する汚染の原因になるだけでなく、ダイシング工程における粘着力が低下しやすく、またピックアップ工程における硬化性が低下しやすい。
【0039】
本実施の形態のダイシング用粘着フィルムは、上記の放射線硬化性粘着剤組成物を公知の方法により基材の少なくとも一面上に塗工することによって製造することができる。また、後述するセパレータを使用する場合、セパレータの一面上に放射線硬化性粘着剤組成物を塗工した後、粘着剤層に基材を張り合わせてもよい。なお、架橋剤を使用する場合、放射線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層を形成した後、さらに加熱してもよい。基材としては、放射線(X線、紫外線、電子線など)を少なくとも部分的に透過する特性を有している基材であれば特に制限されることなく使用できる。このような基材としては、プラスチック製、金属製、紙製などの基材が挙げられ、これらの中でも、プラスチック製基材が好ましい。このようなプラスチック製基材としては、具体的には、例えば、ポリオレフィン系樹脂(低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなど)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー系樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体など)、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートなど)、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレンなど)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂や、これらの樹脂の架橋体などの構成材料からなる基材が挙げられる。これらの構成材料は、単独でまたは複数使用してもよい。上記の構成材料は、必要に応じて、官能基を有していてもよい。また、機能性モノマーや改質性モノマーが構成材料にグラフトされていてもよい。さらに、プラスチック製基材の表面は、隣接する層との密着性を向上させるために、公知の表面処理方法が施されていてもよい。このような表面処理としては、具体的には、例えば、コロナ放電処理、オゾン暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理などが挙げられる。また、下塗り剤によるコーティング処理、プライマー処理、マット処理、架橋処理などが基材に施されていてもよい。
【0040】
基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。また、基材中には、必要に応じて、例えば、充填剤、難燃剤、老化防止剤、帯電防止剤、軟化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤などの公知の添加剤が含まれていてもよい。基材の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは10〜300μmであり、より好ましくは30〜200μmである。
【0041】
粘着剤層の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは3〜50μmであり、より好ましくは5〜20μmである。粘着剤層の厚さが3μm以上であれば、ダイシング時に半導体ウェハなどの被加工物をダイシング用粘着フィルムに確実に保持させることができる。また、ダイシング工程においては半導体ウェハなどの被加工物が振動するため、振動幅が大きいと、半導体素子などの切断片に欠け(チッピング)が発生しやすい。しかしながら、粘着剤層の厚さが50μm以下であれば、ダイシング時に発生する振動の振動幅が大きくなりすぎるのを抑制することができ、それによって上記のような欠けを低減できる。
【0042】
被加工物として活性面を有する半導体ウェハ(シリコンミラーウェハ)が用いられる場合、該半導体ウェハに対する粘着剤層の放射線による硬化前の粘着力(剥離角度:180°,引張速度:300mm/分,温度:23±3℃)は、好ましくは0.5(N/10mm幅)以上であり、より好ましくは1.0(N/10mm幅)以上である。放射線による硬化前の粘着力が0.5(N/10mm幅)以上であれば、ダイシング工程における半導体素子の脱離飛散を十分に抑制または防止できる。また、活性面を有する半導体ウェハ(シリコンミラーウェハ)に対する粘着剤層の放射線による硬化後の粘着力(剥離角度:180°,引張速度:300mm/分,温度:23±3℃)は、好ましくは0.15(N/10mm幅)以下であり、より好ましくは0.05(N/10mm幅)未満である。放射線による硬化後にこのような低い粘着力を有する粘着剤層であれば、ピックアップ性が良好となり、糊残り(粘着剤成分の残存)も低減することができる。
【0043】
図1は、本実施の形態のダイシング用粘着フィルムの構成の一例を示す断面概略図である。図1に示すように、本実施の形態のダイシング用粘着フィルム1は、基材2の一面上に上記の放射線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層3が形成された構成を有している。また、図1に示すように、粘着剤層3上には、必要に応じてセパレータ4が設けられてもよい。セパレータ4としては、特に制限されず、公知のセパレータを用いることができる。このようなセパレータ4の構成材料としては、具体的には、例えば、紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂などが挙げられる。また、セパレータ4の表面には、粘着剤層3の剥離性を高めるために、必要に応じて、シリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理などの処理が施されていてもよい。セパレータ4の厚さは、特に制限されないが、通常、10〜200μmである。粘着剤層3は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。なお、図1では、粘着剤層3は基材2の片面のみに設けられているが、基材2の両面に粘着剤層3が設けられてもよい。また、図示しないが、使用形態に応じて、セパレータ4の代わりに、基材2の他面上に、他の粘着剤層や、離型処理層などが形成されていてもよい。他の粘着剤層を形成するための粘着剤組成物としては、具体的には、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、エポキシ系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、フッ素系粘着剤などの公知の粘着剤を含有する粘着剤組成物を用いることができる。なお、上記基材の他面上に形成される粘着剤組成物は、必要に応じて各種添加剤、放射線硬化性成分や発泡剤などを含有してもよい。また、離型処理層を形成するための離型処理剤(剥離剤)としては、具体的には、例えば、シリコーン系離型処理剤、長鎖アルキル系離型処理剤、フッ素系離型処理剤などの公知の離型処理剤を用いることができる。ダイシング用粘着フィルムは、ロール状に巻回された形態または幅広のシートが積層された形態を有していてもよい。また、所定サイズに切断加工されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0044】
本実施の形態のダイシング用粘着フィルムは、被加工物をダイシングして切断片を製造する場合に用いることができる。特に、活性面を有する被加工物をダイシングして切断片を製造する場合に好適に用いることができる。このような被加工物としては、具体的には、例えば、半導体ウェハ、半導体パッケージ、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。これらの被加工物は、シリコン系化合物、ゲルマニウム系化合物、ガリウム−砒素化合物などの化合物からなり、裏面研削処理(バックグラインド)などにより、露出した面には未酸化状態の活性なケイ素原子(Si)、未酸化状態の活性なゲルマニウム原子(Ge)、未酸化状態の活性なガリウム原子(Ga)などの未酸化状態の活性原子が多数存在する。そのため、このような活性原子を有する被加工物をダイシングするためにダイシング用粘着フィルムが被加工物に貼付されると、粘着剤層に主成分として含まれる(メタ)アクリル系ポリマーに導入された水酸基などの極性部位と活性原子とが結合して放射線による硬化後でも高い粘着力を示し、切断片とダイシング用粘着フィルムとの剥離が困難となる。しかしながら、本実施の形態のダイシング用粘着フィルムによれば、活性面を有する被加工物にダイシング用粘着フィルムを貼付させても、ダイシング用粘着フィルムから切断片を剥離させる際には、貼付時間に関係なく、活性面に対する粘着力を放射線の照射により十分に低減させることができ、容易に切断片を剥離させることができる。従って、本実施の形態のダイシング用粘着フィルムによれば、例えば、半導体ウェハの裏面研削処理後、または半導体ウェハの裏面研削処理及び裏面処理後、短時間内に露出した活性面にダイシング用粘着フィルムを貼付しても、その後に実施されるダイシング工程や、ピックアップ工程などに有効に利用することができる。
【0045】
本実施の形態において、被加工物をダイシングして切断片を製造する方法としては、被加工物の一面にダイシング用粘着フィルムを貼付するマウント工程と、ダイシング用粘着フィルムが貼付された被加工物を切断して切断片に分離するダイシング工程と、切断片に貼付されている粘着剤層に放射線を照射して粘着剤層の粘着力を低下させ、粘着力を低下させたダイシング用粘着フィルムから切断片をピックアップするピックアップ工程とを少なくとも有する製造方法を好適に用いることができる。
【0046】
被加工物の一面にダイシング用粘着フィルムを貼付するマウント工程では、通常、半導体ウェハなどの被加工物とダイシング用粘着フィルムとを、被加工物の一面と粘着剤層とが接触する形態で重ね合わせ、これを圧着ロールを用いる押圧手段などの公知の押圧手段で押圧することにより、被加工物にダイシング用粘着フィルムが貼り付けられる。また、加圧可能な容器(例えば、オートクレーブなど)中で、被加工物とダイシング用粘着フィルムとを、前記と同様の形態で重ね合わせ、容器内を加圧することにより、被加工物にダイシング用粘着フィルムが貼り付けられてもよい。さらに、減圧チャンバー(真空チャンバー)内で、上記の加圧による貼付の場合と同様にして、被加工物にダイシング用粘着フィルムが貼り付けられてもよい。
【0047】
次に、ダイシング工程では、ダイシング用粘着フィルムに貼り付けられている半導体ウェハなどの被加工物を、ブレードなどのダイシング手段によりダイシングして、被加工物の切断片が製造される。このようなダイシング工程では、通常、摩擦熱の除去や切断屑の付着を防止するためダイシング用粘着フィルムが貼付された半導体ウェハなどの被加工物に洗浄水を供給しながら、高速で回転するブレードで被加工物が所定のサイズに切断される。このため、粘着剤層の粘着力が低下しやすいが、本実施の形態のダイシング用粘着フィルムは、粘着剤層と洗浄水とが接触しても優れた粘着力を保持できるため、ダイシング用粘着フィルムからの切断片の脱離飛散を低減できる。ダイシング装置としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。なお、必要に応じて、ダイシング工程後に、洗浄工程、エキスパンド工程などが行われてもよい。
【0048】
ピックアップ工程では、ダイシング用粘着フィルムの粘着剤層に放射線を照射することにより、粘着剤層の粘着力を低下させた後、切断片がダイシング用粘着フィルムからピックアップされる。放射線としては、例えば、X線、電子線、紫外線などが挙げられる。これらの中でも、紫外線が好ましい。放射線を照射する際の照射強度や照射時間などの各種条件は、特に限定されず、適宜設定することができる。ピックアップ方法としては、特に限定されず、従来公知の種々のピックアップ方法を採用することができる。例えば、個々の切断片を、ダイシング用粘着フィルム側からニードルによって突き上げ、突き上げられた切断片をピックアップ装置によってピックアップする方法などが挙げられる。本実施の形態のダイシング用粘着フィルムは、放射線の硬化により粘着力を十分に低下することができるため、活性面を有する被加工物を用いた場合でも、上記のようなピックアップ工程において、容易に切断片をダイシング用粘着フィルムから剥離することができるとともに、剥離後の切断片への粘着剤成分の付着を低減することができる。
【0049】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」とあるのは、「質量部」を意味する。
【実施例】
【0050】
<(メタ)アクリル系ポリマーの合成>
共重合モノマー成分として、炭素数2の直鎖アルキル基を含有するアクリル酸エチル(EA)、炭素数8の分岐アルキル基を含有するアクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)、水酸基を含有するアクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)、炭素数14の直鎖のアルキル基を含有するアクリル酸ミリスチル(MA)、炭素数18の直鎖のアルキル基を含有するアクリル酸オクタデシル(STA)、及び炭素数12の直鎖のアルキル基を含有するアクリル酸ドデシル(LA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を表1に示す各配合量で混合し、溶液ラジカル重合して各ベースポリマーを合成した。なお、重合にあたっては、GPCにより共重合モノマー成分の反応追跡を行い、共重合モノマー成分が消失した時点で重合を終了した。
【0051】
次に、この各ベースポリマー100部に対し、放射線反応性炭素−炭素二重結合を含有する2−イソシアネートエチルメタクリレート(IEM)を、表1に示す各配合量で反応させて、各(メタ)アクリル系ポリマーを合成した。なお、上記の反応にあたっては、重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテル(MEHQ)を0.05部用いた。合成した各(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量をGPC(溶媒:テトラヒドロフラン)により測定したところ、50万〜80万であった。
【0052】
<ダイシング用粘着フィルムの作製>
多官能モノマーとして、ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学社製,PE3A,3官能)、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製,DPHA,6官能)を準備した。上記のようにして得られた各(メタ)アクリル系ポリマーと、表1に示す各配合量の多官能モノマーと、架橋剤としてポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製,コロネートL)0.1部と、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティー・ケミカルズ社製,イルガキュア−184)0.5部とを混合し、各放射線硬化性粘着剤組成物を調製した。
【0053】
次に、上記のようにして得られた各放射線硬化性粘着剤組成物を、ポリエチレンテレフタレート製セパレータ(厚み:38μm)上に厚さが10μmとなるように塗布して粘着剤層を形成した後、100℃で3分間加熱した。その後、粘着剤層に、片面にコロナ放電処理が施されたポリオレフィン製フィルム(厚み:100μm)を貼り合わせた。貼り合せた試料を40℃の恒温槽に72時間保存して、各ダイシング用粘着フィルムを作製した。
【0054】
上記のようにして作製した各ダイシング用粘着フィルムを用いて、以下の評価を行った。表1に各放射線硬化性粘着剤組成物の組成と、これらの結果を併せて示す。
【0055】
[評価]
(放射線による硬化前の粘着力)
25mm幅の短冊状に切断したダイシング用粘着フィルムを、鏡面研磨処理直後の5インチのシリコンミラーウェハに、23℃の雰囲気下で貼り合せ、これを室温雰囲気下で30分間静置した測定試料を作製した。この測定試料の粘着力を測定し、以下の基準で硬化前の粘着力を評価した。粘着力の測定条件は、剥離角度180°、剥離速度300mm/分、温度23±3℃とした。
○:粘着力の測定値が、1.0N/10mm以上
△:粘着力の測定値が、0.5N/10mm以上、1.0N/10mm未満
×:粘着力の測定値が、0.5N/10mm未満
【0056】
(放射線による硬化後の粘着力)
放射線による硬化前の粘着力の測定で用いた測定試料と同様の測定試料を作製した。この測定試料のダイシング用粘着フィルムの基材側から紫外線(照射強度:300mJ/cm)を照射し、照射後の粘着力を上記の放射線による硬化前の粘着力と同様にして測定し、以下の基準で硬化後の粘着力を評価した。
○:粘着力の測定値が、0.05N/10mm未満
△:粘着力の測定値が、0.05N/10mm以上、0.15N/10mm以下
×:粘着力の測定値が、0.15N/10mm超
【0057】
(ピックアップ性)
厚さ100μmの5インチのシリコンミラーウェハを鏡面研磨処理した後、直ちに23℃の雰囲気下で研磨面にダイシング用粘着フィルムを貼り合わせた。この粘着フィルムが貼付されたウェハに洗浄水を供給しながらウェハを3mm×3mmの大きさにフルカットした。
次に、ダイシング用粘着フィルムの基材側から紫外線(照射強度:300mJ/cm)を照射し、エキスパンドした後、半導体素子を粘着フィルムから剥離して、ピックアップした。任意の半導体素子100個をピックアップしたときに、全ての半導体素子のピックアップが成功した場合を、◎、95〜99個の半導体素子のピックアップが成功した場合を、○、50〜94個の半導体素子のピックアップが成功した場合を、△、それ以外を、×としてピックアップ性を評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、炭素数14及び18の長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分を含有するベースポリマーを用いた場合は、硬化前に高い粘着力を有し、且つ硬化後に粘着力が著しく低下することが分かる。
【0060】
これに対して、長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分を含有しないベースポリマーを用いた場合、硬化前の粘着力は高いが、硬化後に十分に粘着力が低下しないことが分かる。このため、ピックアップ性が低下した。
【0061】
また、ベースポリマーの共重合モノマー成分が同一であっても、長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分の含有量が多すぎると、硬化前の粘着力が低下することが分かる。一方、短鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分の含有量が多すぎると、硬化前の粘着力は高いが、水酸基及び長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分の含有量が低下するため、硬化後の粘着力が高くなることが分かる。
【0062】
さらに、放射線反応性化合物の含有量が多すぎると、ベースポリマーと未反応の低分子量成分が増加するため、硬化前の粘着力が低下する。また、この放射線硬化性粘着剤組成物を用いた場合、低分子量成分が増加したため、得られた半導体素子の表面に糊汚れが観察された。一方、放射線反応性化合物の含有量が少なすぎると、(メタ)アクリル系ポリマーの硬化が十分に進行せず、硬化後の粘着力の低下が不十分となる。
【0063】
そして、長鎖のアルキル基を有する共重合モノマー成分を一定量含有するベースポリマーと一定量の放射線反応性化合物とを反応させた(メタ)アクリル系ポリマー、及び多官能モノマーを一定量含有する放射線硬化性粘着剤組成物を用いた場合、硬化前では粘着力が高く、硬化後では著しく粘着力が低下することが分かる。特に、多官能モノマーをベースポリマーに対して、5〜30質量部用いた場合、硬化前により高い粘着力を有し、且つ硬化後に低い粘着力を有する粘着剤層が得られることが分かる。このため、これらの放射線硬化性粘着剤組成物を用いた場合、ダイシング時に半導体素子の脱離飛散も観察されず、またピックアップ工程において全ての半導体素子をピックアップすることができた。なお、多官能モノマーを35質量部含有する放射線硬化性粘着剤組成物を用いた場合、得られた半導体素子の表面に若干糊汚れが観察された。
【0064】
これに対して、同一の(メタ)アクリル系ポリマーを用いても、多官能モノマーを含有しない放射線硬化性粘着剤組成物は、硬化後にある程度粘着力が低下するが、多官能モノマーを併用した場合に比べて、粘着力の低下が少ないことが分かる。
【符号の説明】
【0065】
1 ダイシング用粘着フィルム
2 基材
3 粘着剤層
4 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマーと分子内に放射線反応性炭素−炭素二重結合を有する放射線反応性化合物とを反応させることによって得られる(メタ)アクリル系ポリマー、及び多官能モノマーを含有し、
前記ベースポリマーは、共重合モノマー成分として、炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーと、水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーと、炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーとを少なくとも有し、
前記共重合モノマー成分全量に対して、前記炭素数2〜8の直鎖または分岐アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が30〜80質量%、前記水酸基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が5〜20質量%、前記炭素数14〜18の直鎖アルキル基含有(メタ)アクリル系モノマーの含有量が10〜60質量%であり、
前記放射線反応性化合物の含有量が、前記ベースポリマー100質量部に対して、5〜25質量部である放射線硬化性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記多官能モノマーの含有量が、前記ベースポリマー100質量部に対して、5〜30質量部である請求項1に記載の放射線硬化性粘着剤組成物。
【請求項3】
さらに、架橋剤、及び光重合開始剤を含有する請求項1または2に記載の放射線硬化性粘着剤組成物。
【請求項4】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に粘着剤層とを有するダイシング用粘着フィルムであって、
前記粘着剤層は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線硬化性粘着剤組成物を含有するダイシング用粘着フィルム。
【請求項5】
被加工物の一面に請求項4に記載のダイシング用粘着フィルムを貼付し、
前記ダイシング用粘着フィルムが貼付された被加工物を切断して切断片に分離し、
前記切断片に貼付されている粘着剤層に放射線を照射して前記粘着剤層の粘着力を低下させ、
前記粘着力を低下させたダイシング用粘着フィルムから前記切断片をピックアップする切断片の製造方法。
【請求項6】
前記被加工物は、活性面を有する半導体ウェハである請求項5に記載の切断片の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−184576(P2011−184576A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51613(P2010−51613)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】