説明

新規なチオ化合物及びその製造方法

【課題】新規なチオ化合物とその製造方法を提供する。
【手段】特に、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのアルキル化生成物とメルカプタン及びパラホルムアルデヒドを反応させて製造した新規なチオ化合物を提供することを特徴とする。2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)などの、揮発性により人体に有害な従来の酸化防止剤とは異なり、本発明の新規なチオ化合物は、分子量が多いので揮発性が低く、人体に有害ではない。さらに、物性に優れており、従来の酸化防止剤の代替えに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのアルキル化生成物と、メルカプタン及びパラホルムアルデヒドを反応させて製造したチオ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子の酸化を防止するために、フェノール系、アミン系、亜リン酸塩系、チオエステル系の酸化防止剤が使用されている。これら酸化防止剤は、個別に、あるいは混合して使用されるが、それぞれそれらなりの限界がある。具体的には、フェノール系酸化防止剤は、初期には熱安定性に優れているが、酸化後、着色される傾向があるので、使用が制限される。アミン系酸化防止剤は、性能は優れているが、固有の色を有している。
そして、亜リン酸塩系酸化防止剤は、水に接触して加水分解するだけでなく、ゴム合成の加硫中に分解する問題がある。チオエステル系酸化防止剤は、単独使用時に機能を正しく発揮し難いため、他の1次酸化防止剤を必要とする。
【0003】
一般に高分子に用いられる2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」)は、1次酸化防止剤として熱安定性に優れているが、分子量が低いため、揮発性物質である。その結果、耐熱添加剤の性能が減少し、変色が起こる。特に、前記BHTは、肝臓に影響し、アレルギー及び腫瘍の原因となることが知られている。
【0004】
揮発性物質BHTの環境汚染問題により、産業界ではBHTフリーの高分子製品が要求されている。したがって、高分子の酸化防止性能と物性を維持しつつ、人体に害がなく、低揮発性の酸化防止剤の開発が早急に求められている。
【0005】
BHT代替物質として、1076(オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、1010(ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート])などが使用されているが、これらは単に1次酸化防止剤であり、物理的物性に限界があるため、2次酸化防止剤を添加しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)に代替え可能であって、酸化防止作用が改良された多機能フェノール系酸化防止剤の開発に尽力した。その結果、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのオリゴマーにメルカプタンを加えて分子量を増加させることにより揮発性の問題を解決し、1次及び2次酸化防止剤の両方として使用可能な新規なチオ化合物を発見した。
【0007】
したがって、本発明は、新規なチオ化合物及びその製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明のチオ化合物は、下記化学式(1)で表されることを特徴とする。
【化1】

(式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5〜16を有する直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、あるいは炭素数6〜16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【0009】
また、本発明は、チオ化合物を製造する方法に関するものであって、p−クレゾールをジシクロペンタジエンと反応させて下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物を製造し、下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物と、R2SHで表されるメルカプタン及びパラホルムアルデヒドを反応させて下記化学式(1)で表されるチオ化合物を製造すること、を含む。
【化2】

(式中、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【化3】

(式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5〜16を有する直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、あるいは炭素数6〜16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【0010】
また、本発明は、前記チオ化合物を有効性分として含有する酸化防止剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
人体に有害であって、揮発性の高い市販の酸化防止剤であるBHTなどとは異なり、本発明による新規なチオ化合物は、分子量が高くて揮発性が低いため、人体に有害ではない。さらに、物性に優れ、従来の酸化防止剤の代わりに使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実験例の分子量測定実験で測定したMSスペクトル結果であって、Aは合成例1、BとCは実施例1である。
【図2】分子量測定実験で測定したMSスペクトル結果であって、Aは実施例3、Bは実施例4である。
【図3】数平均分子量で測定した合成例1のアルキル化生成物のゲル浸透クロマトグラフ(GPC)スペクトル結果である。
【図4】数平均分子量の測定実験で測定した実施例1で製造したオクチルチオ(octylthio)化合物のGPCスペクトル結果である。
【図5】数平均分子量の測定実験で測定した実施例3で製造したデカニルチオ(decanylthio)化合物のGPCスペクトル結果である。
【図6】数平均分子量の測定実験で測定した実施例4で製造したドデカニルチオ(dodecanylthio)化合物のGPCスペクトル結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の利益と目的と特徴とは、以下の解説によってより充分に理解できよう。しかしながら本願は、以下に挙げる実施例に限定されるものではなく、異なる形式で実施され得る。むしろ、これらの実施例は、この開示をもって完全に本発明の範囲を当業者に開示するためのものである。特定の実施例を記載するためにここで用られる専門用語は、実施例を限定する意図はない。また、単数形や「前記」は、明白に文脈中に示さない限りは、複数の形式をも含有する。さらに理解されたいのは、この明細書中で使用する、「構成する」及びまたは「構成している」という文言は、公にされた特徴、整数値、工程、操作、要素、成分の存在を明記するものであって、それ自体の他の公にされた特徴、整数値、工程、操作、要素、成分を排除するものではない。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、下記化学式(1)で表されるチオ化合物に関する。
【0015】
【化4】

【0016】
式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5〜16の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、あるいは炭素数6〜16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。また好ましくは、R2は、炭素数6〜16の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、さらに好ましくは炭素数8〜12の直鎖状または分鎖状のアルキル基である。また、nは、好ましくは1≦n≦12を満足する実数であり、さらに好ましくは1≦n≦6を満足する実数である。
【0017】
好ましくは、前記本発明のチオ化合物は、400〜5,000の数平均分子量(Mn)を有し、さらに好ましくは400〜3,000の数平均分子量を有する。本発明の前記チオ化合物の数平均分子量が400未満の場合は、揮発性のおそれがある。その一方で、数平均分子量が5,000を超えると、製造しようとするチオ化合物が得られない。それゆえ、前記範囲内の数平均分子量を維持することが好ましい。
【0018】
、本発明のチオ化合物は2工程によって製造される。第1の工程は、p−クレゾールをジシクロペンタジエンと反応させて下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物を製造し、第2の工程は、下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物を、R2SHで表されるメルカプタン及びパラホルムアルデヒドと反応させて下記化学式(1)で表されるチオ化合物を製造するものである。
【0019】
【化5】

【0020】
式中、nは1≦n≦20を満足する実数である。
【0021】
【化6】

【0022】
式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5〜16の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、あるいは炭素数6〜16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。
【0023】
前記アルキル化生成物を製造する1段階では、p−クレゾールとジシクロペンタジエンをフリーデル・クラフツ(Friedel−craft)のアルキル化反応(alkylation)により前記化学式(2)で表されるアルキル化生成物を製造する。前記p−クレゾールと前記ジシクロペンタジエンの使用量は、ジシクロペンタジエン1当量に対してp−クレゾールを1〜10当量範囲で用い、好ましくは、2〜5当量範囲で用いる。この時、前記範囲から外れる場合は物性が良くないので、前記範囲を維持することが好ましい。
【0024】
前記1段階は、酸触媒下で反応を行う。前記酸触媒は、AlCl3、AlBr3、AlI3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、ZnCl2、及びZrCl4のうち選択された1種以上の金属ハロゲン化物と、H2SO4、H3PO4、及びHFのうち選択された1種以上の無機酸、及びBF3などのルイス酸触媒を用いることが好ましい。そして、前記酸触媒は、p−クレゾールとジシクロペンタジエンの全体重量に対して0.1〜5重量%の量で用いることが好ましい。酸触媒の使用量が0.1重量%未満の場合は、反応時間が非常に長くなる。一方、5重量%を超えて用いられると副産物が多く製造される。それゆえ、前記範囲を維持することが好ましい。
【0025】
また、前記1段階の反応は25〜160℃の温度で1〜10時間行うことが好ましく、さらに好ましくは80〜150℃で2〜8時間反応を行う。前記反応が25℃未満の温度で行われると、反応が円滑に行われず、反応が未完成となる。一方、反応が160℃を超える温度で行われると反応が円滑に行われるが、副産物が多くなり、経済性が低下するさらに、反応時間が1時間未満の場合は、反応が未完成となる。一方、反応が10時間を超える場合は、効率が低下する。
【0026】
また、前記1段階では、1〜50mmHg圧力下、100〜200℃でアルキル化生成物を濃縮させる過程をさらに含んでもよい。
【0027】
チオ化合物を製造する前記2段階では、前記R2SHで表されるメルカプタンを前記アルキル化生成物1当量に対して2〜4当量を用い、好ましくは2〜3当量を用いる。さらに、前記パラホルムアルデヒドは前記アルキル化生成物1当量に対して2〜4当量を用い、好ましくは2〜3当量を用いる。前記メルカプタンとパラホルムアルデヒドの使用量がそれぞれ2当量未満の場合は、モノチオ化合物とジチオ化合物の混合物が生成され、4当量を超える場合は、副産物が多くなり、精製に複雑な工程が要求される。そして、前記メルカプタンのR2は炭素数6〜16の直鎖状、分鎖状、環状または芳香族アルキル基であり、好ましくは炭素数6〜16の直鎖状または分鎖状アルキル基、さらに好ましくは炭素数8〜12を有するものである。前記R2の炭素数が6よりも小さい場合は、分解によりチオ化合物から分離したR2SHのメルカプタンが強い臭気の原因となる。一方、炭素数が16よりも多い場合は、アルキル化生成物との反応性が低下する。前記メルカプタンの具体例としては、メルカプタン(octyl mercaptan)、デシルメルカプタン(decyl mercaptan)、ドデシルメルカプタン(dodecyl mercaptan)、ベンジルメルカプタン(benzul mercaptan)、チオフェノール(thiophenol)などがある。
【0028】
また、前記2段階は、塩基触媒下または塩基触媒と酸触媒の混合触媒下で反応を行う。前記塩基触媒は、特に限定することはないが、アミン系触媒を用いることが好ましい。具体的にはピペリジン(piperidine)、ピロリジン(pyrrolidine)、ピペラジン(piperazine)、ジメチルアミン(dimethylamine)、ジエチルアミン(diethylamine)、及びベンジルメチルアミン(benzylmethylamine)のうち選択された1種または2種以上を用いることができる。そして、塩基触媒は、前記アルキル化生成物1当量に対して0.1〜0.6当量を用い、好ましくは0.2〜0.5当量を用いる。前記塩基触媒の使用量が0.1当量未満の場合は、反応時間が長くなる。一方、0.6当量を超えて用いられる場合は、反応時間が短くなるが、副産物が多く製造される。したがって、前記範囲を維持することが好ましい。
【0029】
塩基触媒と酸触媒の混合触媒を用いる場合、酸触媒としては有機酸及び無機酸から選択された1種または2種以上を用いることができる。具体的には、前記有機酸は、カルボン酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩のうち選択された1種以上の官能基を有する脂肪族有機酸または芳香族有機酸、またはアルキル基(alkyl group)、アルケニル基(alkenyl group)、アリール基(aryl group)、ヒドロキシル基、チオール基、エーテル基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基、のうち選択された1種以上の官能基と、カルボン酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩のうち選択された1種以上の官能基を同時に有する脂肪族有機酸または芳香族有機酸を用いることができる。さらに、前記無機酸は、硫酸、リン酸、及び2つ以上の酸素酸を含むヘテロ酸(heterogeneous acid)のうち選択された1種以上を用いることができる。また、クレイ(clay)または陽イオン交換樹脂などに適用される前記ヘテロ酸は、複合無機酸として使用することができる。前記混合触媒では、酸触媒の使用量は、塩基触媒1当量に対して0.1〜0.9当量を、好ましくは0.4〜0.8当量を用いられる。その使用量が0.1当量未満の場合は、酸の効果が全くなく、0.9当量を超える場合は、塩基触媒の影響が減じられるので、前記範囲を維持することが好ましい。
【0030】
前記2段階では、前記一般式(2)で表されるアルキル化生成物と、前記R2SHで表されるメルカプタン、前記パラホルムアルデヒド、及び塩基触媒または混合触媒を反応溶媒に投入して、反応を行う。前記反応溶媒としてはトルエン、または水とトルエンを1:10〜100重量比で混合し、好ましくは1:30〜70重量比で混合して使用する。前記反応溶媒の量は、前記化学式(2)で表されるアルキル化生成物、前記R2SHで表されるメルカプタン、前記パラホルムアルデヒド、及び塩基触媒または混合触媒を含む反応物の合計100重量部に対して50〜200重量部を、さらに好ましくは80〜150重量部を用いる。反応溶媒の使用量が50重量部未満の場合は撹拌し難くなり、一方、200重量部を超える場合は、反応が未完成となるか、反応速度が遅くなるため、前記範囲を維持することが好ましい。
【0031】
また、前記2段階では、50〜150℃で1〜6時間反応を行い、さらに好ましくは90〜120℃で2〜4時間行う。前記反応が50℃未満の温度で行われた場合は、反応が不十分となる虞がある。一方、150℃を超える場合は、反応が円滑に行われ、変色も発生しないが、経済性が低下する問題がある。また、反応時間が1時間未満の場合は、反応が不十分となる虞がある。一方、反応が6時間を超える場合は、変色は発生しないが、効率が低下する。
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。しかし、本発明の権利範囲が下記実施例により限定されることはない。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び実験を説明する。以下の実施例及び実験はこの発明を理解するためのものであって、この開示の範囲のみに限定するものではない。
【0034】
<合成例1:アルキル化生成物の製造>
p−クレゾール(324g)、BF3エーテル(boron trifluoride etherate)溶液(5.5g)を混合し、90℃に加熱して、ジシクロペンタジエン(132g)を1時間かけて徐々に添加し、3時間をかけて反応させた後、得られた反応溶液を190℃及び15mmHg圧力条件で濃縮して300gのアルキル化生成物を得た。
【0035】
<実施例1:下記化学式(1−1)で表されるオクチルチオ化合物の製造>
【0036】
【化7】

【0037】
合成例1で製造したアルキル化生成物(1当量)を同量のトルエンに溶解させた。これにパラホルムアルデヒド(2当量)、オクチルメルカプタン(2当量)、50%濃度のジメチルアミン(0.2当量)水溶液を添加し、100℃で3時間反応させた。次に、反応生成物から分離した有機層を減圧下で濃縮し、小麦色のチオ化合物を得た。HPLC(ハイパフォーマンス液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid chromatography))を用いて転換率及び純度を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0038】
<実施例2>
塩基触媒の前記ジメチルアミンの代わりに、ジエチルアミンと酢酸の混合触媒を用いたこと以外は、前記実施例1と同様に実施した。その結果を下記表1に示す。
【0039】
<実施例3:下記化学(3−1)で表されるデシルチオ化合物の製造>
【0040】
【化8】

【0041】
オクチルメルカプタンの代わりにデシルメルカプタンを用い、塩基触媒の前記ジメチルアミンの代わりにピペリジンとリン酸の混合触媒を用いたこと以外は、前記実施例1と同様に実施して、デシルチオ化合物を製造した。
【0042】
<実施例4:下記化学(4−1)で表されるドデシルチオ化合物の製造>
【0043】
【化9】

【0044】
オクチルメルカプタンの代わりにドデシルメルカプタンを用い、塩基触媒の前記ジメチルアミンの代わりにピペリジンとプロパン酸(propanoic acid)の混合触媒を用いこと以外は、前記実施例1と同様に実施して、ドデシルチオ化合物を製造した。その結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
<実験例1:分析>
前記合成例1、実施例1、実施例3、及び実施例4により製造したチオ化合物を下記の方法により分析した。
【0047】
1)元素分析
炭素、水素、酸素及び硫黄の元素分析のために、サーモエレクトロンコーポレーション(Thermo Electron Corporation)製のFLASHEA 1112 Series CHNS−O Analyzerを用いた。元素分析に用いた気体は、空気と、水素ガス(99.999%)と、ヘリウムガス(99.9999%)と、高純度酸素ガス(フレックスエアー社)である。左側炉(Left Furnace)は900℃、右側炉(Right Furnace)は680℃に設定し、オーブン(Oven)温度は50℃に設定した。また、気体流速(Gas Flow)は、キャリア(He)ガス130ml/分、酸素ガス(Oxygen gas)250ml/分、参照(He)100ml/分に設定し、標準試料としてBBOTを用いて定量化した。その結果を下記表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
2)分子量測定
島津製作所製のLCMS−IT−TOFを用いて化合物の分子量を測定した。衝突気体はアルゴンガスを、霧化ガス(Nebulizing gas)は窒素ガス(99.5%以上)を用いた。液体クロマトグラフィーカラムは資生堂製のカプセルパック(SHISEIDO CAPCELL PAK)C18 UG120 (2.0mm、I.D×250mm)を用いた。移動相としてアセトニトリル(Acetonitriole)(100%)を流速0.2mL/分で流した。イオン化モードとして、APCIを選択し、霧化ガス流速(nebulizing gas flow rate)は2.0L/分とした。APCIプローブの温度は400℃に設定し、CDL温度は200℃に設定した。LC/MSソリューションプログラムを用いて分析結果が得られた。組成推定器(Formula Predictor)を用いて分子式を特定した。その結果を下記表3に示し、これに対するMSスペクトル結果を図1と図2に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
液体クロマトグラフィー(LC)のスペクトルに示されたピークを用いて分子量を測定した結果、実施例1ではn=1または2であることが明らかになった。しかしながら、合成例1、実施例3〜4ではn=1の分子量のみ得られた。このような問題を克服するために、下記のようにゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて、チオ化合物を構成するいくつかのオリゴマーの数平均分子量(Mn)と含有量を測定した。
【0052】
3)GPCによる数平均分子量(Mn)の測定
GPCとして、ビスコテック(Viscotek)社製のTDA302検出器と、島津製作所製のLC−20ADポンプを用いた。2つのオリゴプロカラム(OligoPore)(長さ30cm、孔径(pore size)5μmポリマーラボラトリー社製(Polymer Laboratories))、G2500HHR及びG2000HHRカラム(東ソー社(TOSOH)製)を用いた。屈折率(RI)検出器を選択し、溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を用いた。流速は1mL/分、ポリスチレン標準試料を用いて数平均分子量(Mn)が得られ、その結果を下記表4に示し、GPCスペクトルを図3から図6に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
ピーク1〜5は、p−クレゾールとジシクロペンタジエンが2:1モル比で構成されたチオ化合物であるが、ピーク6はp−クレゾールとジシクロペンタジエンが1:1モル比で構成されたチオ化合物であるか、またはp−クレゾールのみで構成されたチオ化合物である。
【0055】
<製造例1:合成ゴムの製造>
従来の方法により製造されたブタジエンゴム(商品名:クンホ KBR 01、生のムーニ粘度45、cis含量≧94%)100gに、前記実施例1により製造したオクチルチオ化合物を0.2gを添加して合成ゴムを製造した。
【0056】
<比較製造例1>
従来の方法により製造されたブタジエンゴム(商品名:クンホKBR 01、生のムーニ粘度45、cis含量≧94%)100gに、従来の酸化防止剤の2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)0.4gを添加して合成ゴムを製造した。
【0057】
<実験例2>
前記製造例1及び比較製造例1の合成ゴムの溶液を水蒸気蒸留(steam stripping)を施してゴム粉末(rubber crumb)を得た。110℃のロールミルで乾燥して、乾燥合成ゴムを製造した。前記乾燥合成ゴムは、130℃で60分間熱老化させた後、Mooney MV 2000(アルファテクノロジー社製)を用いて100℃でムーニ粘度(Mooney viscosity)を測定した。その結果を下記表5に示す。下記表5の「ML1+4、100℃」は1分間予熱し、4分間100℃で測定したことを意味する。
【0058】
【表5】

【0059】
表5に示すように、製造例1では、比較製造例1の酸化防止剤(BHT)の使用量の半分のみ使用したにもかかわらず、ムーニ粘度の差(MV)が小さく、変化が少ないことを示している。したがって、本発明のチオ化合物の酸化防止剤の効果が、従来の酸化防止剤のBHTに比べて2倍以上良いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述したように、本発明によるチオ化合物は、分子量を増加させることにより、揮発性の問題を解決し、1次酸化防止剤と2次酸化防止剤との両方として多機能を有する酸化防止剤であって、ゴム及び樹脂の酸化防止剤として使用することができる。
【0061】
本発明は実施例について記載されたが、以下の請求項に見いだされる発明の範囲から離れない限り、様々な変更や改変をおこなうことができるのは、当業者にとって明白である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されることを特徴とするチオ化合物。
【化10】

(式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5から16の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、または炭素数6から16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【請求項2】
前記R2は炭素数6から12の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のチオ化合物。
【請求項3】
前記チオ化合物は、数平均分子量400から5,000であることを特徴とする請求項1に記載のチオ化合物。
【請求項4】
p−クレゾールをジシクロペンタジエンと反応させて下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物を製造し、
下記化学式(2)で表されるアルキル化生成物と、R2SHで表されるメルカプタン及びパラホルムアルデヒドを反応させて下記化学式(1)で表されるチオ化合物を製造する
ことを特徴とするチオ化合物の製造方法。
【化11】

(式中、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【化12】


(式中、R1は−CH2SR2であり、R2は炭素数5から16の直鎖状、分鎖状、または環状のアルキル基、または炭素数6から16の芳香族基であり、nは1≦n≦20を満足する実数である。)
【請求項5】
前記化学式(2)で表される前記アルキル化生成物の製造において、
AlCl3、AlBr3、AlI3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、ZnCl2、及びZrCl4から選択された1種以上の金属ハロゲンと、
2SO4、H3PO4、及びHFから選択された1種以上の無機酸と、
BF3と、
から選択された酸触媒を用いてフリーデル・クラフツのアルキル化反応を行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化学式(2)で表される前記アルキル化生成物の製造において、25から160℃で行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記化学式(2)で表される前記アルキル化生成物の製造において、前記p−クレゾールは、前記ジシクロペンタジエン1当量に対して1から10当量範囲で用いることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記化学(1)で表されるチオ化合物の製造において、塩基触媒または塩基触媒と酸触媒を混合した混合触媒下で行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基触媒は、ジメチルアミン(dimethylamine)、ジエチルアミン(diethylamine)、ベンジルメチルアミン(benzylmethylamine)、ピペリジン(piperidine)、ピロリジン(pyrrolidine)、及びピペラジン(piperazine)から選択された1種以上を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸触媒は、
カルボン酸塩、硫酸塩、及びリン酸塩から選択された1種以上の官能基を有する脂肪族有機酸または芳香族有機酸、または
アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、チオール基、エーテル基、エステル基、アミド基、ケトン基、アルデヒド基のうち選択された1種以上の官能基と、カルボン酸、硫酸、及びリン酸のうち選択された1種以上の官能基を一つの化合物構造内に有する脂肪族有機酸または芳香族有機酸
であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記酸触媒は、硫酸、リン酸、及び2つ以上の酸素酸を含むヘテロ酸のうち選択された1種以上を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記化学(1)で表されるチオ化合物の製造は、反応溶媒下で行い、前記反応溶媒はトルエンまたは水とトルエンを1:10から100重量比で混合した溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項13】
前記化学(1)で表されるチオ化合物の製造は、50から150℃の反応温度で行うことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか1項に記載の前記チオ化合物を有効性分として含むことを特徴とする酸化防止剤。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−504567(P2013−504567A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528741(P2012−528741)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005885
【国際公開番号】WO2011/031031
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(509001445)コリア クンホ ペトロケミカル カンパニー リミテッド (14)
【Fターム(参考)】