説明

新規な有機顔料前駆化合物およびその製造方法、ならびにそれを用いた顔料分散体およびその製造方法

【課題】粒径が極めて小さく、粒径分布ピークがシャープで、単分散性及び溶媒分散安定性が高い有機顔料微粒子とすることができ、しかも製造適性の高い有機顔料前駆化合物を提供する。
【解決手段】
下記一般式(I)で表わされる有機顔料前駆化合物。


(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機顔料前駆化合物およびその製造方法、ならびにそれを用いた顔料分散体およびその製造方法に関する。詳しくは、1−置換フェニルアルキル基を有する有機溶媒に溶解性が優れる有機顔料前駆化合物とその製造法を提供し、その前駆化合物を熱または光分解することによって得られる有機顔料分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷技術は1960年代から実用化を目指した本格的な研究が開始され、パーソナルユースのコンピュータ、ネットワーク等のデジタル情報技術の進歩とともに経済性の高い印刷技術として1980〜1990年代に急速に発展した。その後、画像を形成するインクに用いる染料および顔料色材とそれらのインク調合技術、インク吐出技術、記録媒体への浸透・乾燥技術等の画質向上技術が進歩し、最近ではその画質と耐久性は銀塩写真の画質に接近または凌駕したとするインクジェットプリンターが開発されてきている。
【0003】
これに対し、インクジェット用インクについても、上記インクジェットプリンターのインク吐出方式(ピエゾ方式やバブルジェット(登録商標)方式等)、ノズル特性等に合わせて、組成、分散媒、粘度、表面張力、比重などの物性を細かく調節したものが望まれている。特に近年の高性能プリンターにおいては、インクとのマッチングが良くないと印刷に支障が生じることがある。コンピュータ出力用インクジェットプリンターで一般的に使用されるインクは水溶性染料を水系溶媒に溶解した水性染料インクであるが、この水性染料インクで印刷された画像は、耐光性、耐酸化性、耐水性が低い。それらを改良するためにカーボンブラックや有機顔料の使用が検討され、顔料粒子を水に分散した水性顔料インクが用いられるようになった。水性顔料インクにより得られた画像は、染料系のインクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという特筆すべき利点を有する。
【0004】
ところで、水性インクの場合、記録媒体が液吸収性のある紙では有効であるが、プラスチック、金属、セラミックスなどの媒体に印刷することはできない。そこで一般印刷と同様の有機溶媒をベースとする溶剤・油性インク、常温では固体であるが加熱溶融状態で吐出するソリッド(固体、相変化ともいう)インク、更には紫外線、電子線などの電磁波照射で媒体表面に着弾すると同時に硬化させるUV硬化(紫外線、電子線、放射線などの電磁波を用いる硬化全般を含む)型インクなどが開発されてきた。
【0005】
これらのうちUV硬化型インクジェット用インクには色材として顔料が使用されている。そして有機溶媒(溶剤)としては光重合性のモノマー・オリゴマーを用いるので、色材となる顔料を上記有機溶媒に安定かつ均一に分散させなければならない。その分散液は一般にブレークダウン法で作製され、例えば顔料と分散剤およびモノマーの混合物を低温でビーズミルにて分散するのが一般的である。しかし、この方法で、顔料粒子のサイズを100nm以下にすることは容易でなく、画像形成に好ましい50nm以下で均一性のよいものにすることは難しい。ましてや、それを工業的規模で実現することは実際的ではない。
【0006】
さらにデジタルカメラのCCDセンサーや液晶ディスプレイについていうと、そこに組み込まれるカラーフィルターには有機溶媒に分散可能な有機顔料微粒子が用いられている。そして、これらのデバイスの画質向上のためにカラーフィルターの薄層化が望まれ、その厚さは有機顔料の粒子径に大きく依存する。そのため、例えば50nm以下の、有機溶媒中で安定な顔料微粒子を大量に製造しうる方法の開発が望まれている。
【0007】
上述の要望に対応する方法として、最近ある種の有機顔料前駆化合物の有機溶媒溶液を流通式反応装置に導入し、流通過程で任意の溶媒に可溶な有機顔料前駆体を有機顔料に変換する方法が提案されている(特許文献1)。具体的には流通式反応装置としてマイクロ流路を用いる装置(マイクロリアクター)を用い、分散剤の存在下に熱分解する方法であり、ナノメートルサイズの顔料微粒子分散液を製造する方法である。そこで具体的に用いられている主たる有機顔料前駆化合物はウレタン構造を有する化合物である(特許文献2等参照)。
【0008】
そのほか、最近化学的処理または光照射でラジアル的に結合が解裂し顔料を生成する可溶性顔料前駆体が提案されているが(特許文献3参照)、この化合物は熱分解性ではないため、マイクロリアクター中での熱分解による顔料微粒子製造には適さない。また、顔料のカルボニル基の酸素原子が保護基によりエノール保護された顔料前駆体が開示されている(特許文献4参照)。しかし、この化合物の脱保護は主に酸を用いて行うことに適した化合物とされ、やはりマイクロリアクター中における熱分解による効率的な顔料微粒子製造に十分に対応することができない。更に、1,4−ジケトピロロ[3,4−c]ピロールの窒素原子をアルキル基等で保護し、不溶性の化合物(顔料)を可溶化する方法が提案されているが(特許文献5参照)、この化合物は顔料に変換しうる顔料前駆化合物になりうるものではない。
【0009】
このように、これまで提案された可溶性の有機顔料前駆化合物はマイクロリアクター中での熱分解による効率的な顔料微粒子の製造には不十分なものであり、この点を改善ししかも性能を向上しうるものの開発が望まれる。とくに、このマイクロリアクターを用いた方法は、微細な顔料微粒子を製造するのに有望な方法ではあるが、有機顔料前駆体から得た顔料微粒子の分散安定性について一層の向上が望まれ、さらには流路を狭くしときに特に顕在化する生成顔料微粒子による流路閉塞性の改善が求められる。
【特許文献1】特開2007−284665号公報
【特許文献2】特開平8−6242号公報
【特許文献3】特開2006−282804号公報
【特許文献4】特開2008−174597号公報
【特許文献5】特公平4−42431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のことに鑑み、本発明は、粒径が極めて小さく、粒径分布ピークがシャープで、単分散性及び溶媒分散安定性が高い有機顔料微粒子とすることができ、しかも製造適性の高い有機顔料前駆化合物及びその製造方法の提供を目的とする。また、上記の良好な特性を有する有機顔料微粒子を、流通式装置の流路の閉塞を抑制ないし防止して効率的に連続生産できる有機顔料及びその微粒子の製造に適した有機顔料前駆化合物及びその製造方法、並びにこの微粒子分散体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下の手段により達成された。
(1)下記一般式(I)で表わされる有機顔料前駆化合物。
【0012】
【化1】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
(2)前記一般式(I)の有機顔料残基(A)がジケトピロール、キナクリドン、またはアゾ顔料の顔料残基であることを特徴とする(1)記載の化合物。
(3)前記有機顔料残基(A)がピロロ[3,4−c]ピロール残基であることを特徴とする(1)または(2)記載の化合物。
(4)前記一般式(I)が一般式(II)または(III)で表わされることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

(式中、R、R、およびmは前記一般式(I)と同義の基または数を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基を表す。R’、R’およびm’はそれぞれR、R、およびmと同義の基または数を表す。)
(5)前記一般式(I)、(II)、または(III)のRがアルキル基もしくはアルコキシ基であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物。
(6)前記一般式(I)、(II)、または(III)のRがメチル基であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の化合物。
(7)前記一般式(I)で表わされる化合物が、熱もしくは光による外部エネルギー、または化学的処理により有機顔料に変換できることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の化合物。
(8)下記一般式(IV)で表される化合物を塩基存在下で有機顔料と反応させることを特徴とする下記一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物の製造方法。
【0015】
【化4】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
【0016】
【化5】

(式中、R、Rおよびmは前記一般式(I)中の基と同義の基または数を表す。Xはハロゲン原子、または置換もしくは無置換のアルカンスルホニルオキシもしくはアレンスルホニルオキシ基を表す。)
(9)下記一般式(I)で表される化合物を媒体中で加熱分解して有機顔料の微粒子とすることを特徴とする有機顔料微粒子分散体の製造方法。
【0017】
【化6】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
(10)前記熱分解をマイクロ流路中で行うことを特徴とする(9)記載の有機顔料微粒子分散体の製造方法。
(11)(9)または(10)に記載の方法のいずれかにより得られる有機顔料分散体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機顔料前駆化合物は有機顔料の製造原料として好適に用いることができ、粒径が小さく、粒径分布ピークがシャープで、しかも安定な溶媒分散性を示す有機顔料微粒子を連続生産で効率的に製造することができる。また、本発明の有機顔料前駆体によれば、流路内で有機顔料に変換する際の流路(とくにはマイクロ流路)の閉塞を抑制ないし防止し、マイクロリアクター等の流通式反応装置をナンバリングアップ(並列化)することにより、上記の優れた微粒子特性を失うことなく、再現性よく、粒径が小さくかつ粒径分布幅の狭い有機顔料微粒子およびその有機溶媒分散液を大量に製造することができる。
さらにまた本発明の製造方法により上記有機顔料前駆化合物を原料として得られる有機顔料微粒子の分散液は、UV硬化型インクジェットインク、CCDセンサー用カラーフィルター、高輝性塗料、およびコーティング材料等の着色剤として有用であり、それらの性能を向上させることができるという優れた作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に関して詳しく説明する。
本発明の有機顔料前駆化合物は下記一般式(I)で表される。
【0020】
【化7】

【0021】
式中、(A)は有機顔料残基であるが、詳しくは、ジケトピロロピロール化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、インジゴ化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、インダントロン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、またはアゾ化合物顔料の残基が挙げられる。
【0022】
有機顔料残基(A)として好ましくは、ジケトピロロピロール化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、ペリレン化合物顔料、インジゴ化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、インダントロン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、またはアゾ系列の有機顔料(ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料もしくはアゾ化合物顔料)などの残基である。特に好ましくは、ジケトピロロピロール化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、またはアゾ系列の有機顔料の残基である。
【0023】
は、炭素数1〜5のアルキル基を表す。Rについて好ましいものを更に詳しく述べれば、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチルもしくはt−アミルなどのアルキル基である。これらの基は置換基を有していてもよいが、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、もしくは臭素原子)、アルキル基(メチル、エチル、イソプロピルもしくはt−ブチル基など)、アリール基(フェニル、1−もしくは2−ナフチル基など)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、もしくはイソプロポキシ基など)、アリ−ルオキシ基(フェノキシ、もしくはナフトキシ基など)、アリールアミノ基(アニリノ、もしくはジフェニルアミノ基など)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、もしくはジメチルアミノ基など)、シアノ基、またはニトロ基などが挙げられる。
【0024】
なかでもRとして好ましくは、無置換の炭素数1〜5のアルキル基であり、特に好ましくは、無置換のメチル基である。
【0025】
は、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。水素原子以外を詳しく説明すれば、炭素原子数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基であり、具体的には、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、t−アミル、もしくはn−オクタデシルなどのアルキル基、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n−オクチルオキシ、n−オクタデシルオキシ、もしくはオレイルオキシなどのアルコキシ基、フェニルオキシ、ナフチルオキシ、4−(t−オクチル)フェニル、もしくは2,4−ジ(t−ブチル)フェニルなどのアリールオキシ基、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジオクチルアミノ、1−ピロリジニル、1−ピペリジル、もしくは4−モルホリニルなどのジアルキルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ、N−オクチル−N−フェニル、もしくは1−インドリニルなどのN−アルキル−N−アリールアミノ基、ジフェニルアミノ、N−フェニル−N−(2−ナフチル)アミノ、もしくは9−カルバゾリルなどのジアリールアミノ基、アセトアミド、シクロヘキサンカルボアミド、オレオイルアミド、ベンズアミド、4−ブチルベンゼンカルボアミド、もしくは1−ナフタレンカルボアミドなどのアミド基、メトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、もしくはオクタデシルオキシカルボニルなどのアルコキシカルボニル基、N,N−ジメチルカルバモイル、N−メチル−N−オクチルカルバモイル、もしくはN−メチル−N−フェニルカルバモイルなどのカルバモイル基である。
【0026】
は、好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、もしくはN−アルキル−N−アリールアミノ基であり、特に好ましくはRはアルキル基もしくはアルコキシ基である。
【0027】
は連結基となり、二つ以上の(A)が同一分子内に有してもよい。またRはポリマー化合物の一部を成す基でもよく、その場合は、一般式(I)で表される化合物はポリマーの一部を構成する。
【0028】
mは0〜3の整数を表すが、好ましくは1もしくは2の整数を表す。nは1〜4の整数を表すが、好ましくは1もしくは2の整数である。nが2以上の時、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。
【0029】
一般式(I)で表される化合物において、有機顔料残基(A)がジケトピロール残基の場合、ジケトピロールはピロロ[3,4−c]ピロールの構造を有するものであり下記一般式(II)または(III)で表される化合物が好ましい。
【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
一般式(II)および(III)中、R、R、およびmは前記と同義の基を表す。R’、R’およびm’はそれぞれR、R、およびmと同義の基を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル、アリール、またはアルコキシ基を表す。
【0033】
一般式(I)で表される化合物において、有機顔料残基(A)がキナクリドン残基の場合、下記一般式(V)または(VI)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
一般式(V)および(VI)中、R、R、およびmは前記と同義の基を表す。R’、R’およびm’はそれぞれR、R、およびmと同義の基を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜6のアルキル、アリール、またはアルコキシ基を表す。
【0037】
一般式(I)で表される化合物において、有機顔料残基(A)がアゾ系列の有機顔料残基の場合、下記一般式(VII)〜(X)で表される化合物が好ましい。
【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
一般式(VII)、(VIII)、(IX)および(X)において、R、R、およびmは前記と同義の基を表す。R’、R’およびm’はそれぞれR、R、およびmと同義の基を表す。R〜R16はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、または炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。
【0043】
一般式(I)で表され化合物のうち、特に好ましい化合物は一般式(II)または(III)で表される化合物である。
【0044】
以下に本発明の一般式(I)で表される好ましい具体的化合物例を示すが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
【化19】

【0049】
【化20】

【0050】
本発明の一般式(I)で表わされる化合物は、熱もしくは光による外部エネルギー、または化学的処理にて有機顔料に変換できる有機顔料前駆化合物であることが好ましい。熱によって変換する場合、有機顔料に変換するときの変換反応温度が好ましくは150〜500℃、より好ましくは200〜500℃、特に好ましくは200〜400℃である有機顔料前駆化合物である。光としては紫外光が好ましく、変換に用いる光波長が好ましくは200〜400nm、特に好ましくは250〜350nmである有機顔料前駆化合物である。化学的処理の場合は、好ましくは還元的処理、特に好ましくは水素による接触還元的処理で有機顔料に変換できる有機顔料前駆化合物である。
【0051】
取り分け好ましくは、一般式(I)で表される化合物は熱により顔料に変換される有機顔料前駆化合物である。一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物の有機顔料の変換は流通式反応装置の流路内で行われることが好ましく、これについては後述する。
【0052】
本発明の一般式(I)で表わされる化合物は、有機溶媒に可溶な有機顔料前駆化合物であることが好ましい。本発明において有機溶媒に可溶とは、有機溶媒に溶解しうる化合物であり、かつ、熱等のエネルギーを付加することにより有機顔料に変換し得る化合物」と定義される。有機顔料前駆化合物の溶媒に対する溶解度は特に限定されず、溶媒の種類にもよるが、例えば溶解度が0.5〜50質量%のものであることが好ましく、1〜20質量%のものであることがより好ましい。特に好ましくは5〜50質量%のものである。なお、ここでの溶解度とは反応させるときの温度を考慮した任意の温度の溶解度であればよく、また酸やアルカリなどの溶解促進剤を添加したときの溶解度であってもよい。
【0053】
本発明一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物を溶解する溶媒は、例えば、アルコール化合物溶媒(メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、もしくは2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどのフッ素化合物アルコール)、エーテル化合物溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等など)、エステル化合物溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸ブチル、プロピレングリコール 1−モノメチルエーテル 2−アセテート、もしくはジエチレングリコール モノブチルエーテル アセテートなど)、アミド化合物溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、もしくは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど)、スルホキシド化合物溶媒(ジメチルスルホキシド、もしくはスルホランなど)、ハロゲン化合物溶媒(クロロホルム、もしくはジクロロメタンなど)、またはケトン化合物溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、もしくはシクロキサノン等)、炭化水素化合物溶媒(n−へキサン、トルエン、エチルベンゼンなど)、ニトリル化合物溶媒(アセトニトリル、もしくはイソブチロニトリルなど)の有機溶媒が挙げられる。好ましくはエステル化合物溶媒、炭化水素化合物溶媒、またはニトリル化合物溶媒であり、特に好ましくはエステル系溶媒である。濃縮等の後処理の容易さと加熱時の流通式反応容器内の内圧上昇の観点から、特に好ましくはこれらの中から選択された100℃〜150℃の沸点の溶媒である。尚、これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、前記のように液体の重合性化合物と上記の有機溶媒とを相溶した混合溶媒を有機顔料前駆化合物を溶解する媒体として用いてもよい。これらの溶媒は必ずしも無水である必要は無く、有機顔料前駆化合物が析出せず有機溶媒が相分離しない程度の水を含有していてもよい。
【0054】
使用する溶媒の量(重合性化合物と混合するときにはその混合溶媒の総量)は、有機顔料前駆化合物を均一に溶解可能な量であれば、特に限定されないが、有機顔料前駆化合物に対して質量比で10〜500倍量であることが好ましく、20〜100倍量であることがより好ましい。
【0055】
本発明の一般式(I)表わされる化合物は、塩基存在下で下記一般式(IV)と有機顔料と反応させて製造されることが好ましい。
【0056】
【化21】

【0057】
式中、R、R、およびmは前記一般式(I)中の基と同義の基または数を表す。Xはハロゲン原子、または置換もしくは無置換のアルカンスルホニルオキシ、もしくはアレンスルホニルオキシ基を表す。
【0058】
Xはハロゲン原子、または置換もしくは無置換のアルカンスルホニルオキシ、もしくはアレンスルホニルオキシ基を表すが、好ましくは塩素、臭素原子もしくはヨウ素原子のハロゲン原子、メタンスルホニルオキシもしくはトリフルオロメタンスルホニルオキシのアルカンスルホニルオキシ基、またはベンゼンスルホニルオキシ、p−トルエンスルホニルオキシ、もしくはm−ニトロベンゼンスルホニルオキシのアレンスルホニルオキシ基である。特に好ましいXは、塩素原子、臭素原子、もしくはメタンスルホニルオキシ基である。
【0059】
以下に一般式(IV)で表される好ましい具体的化合物例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
【化22】

【0061】
一般式(IV)を用いた一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物(顔料の一置換体)の製造方法の例(反応スキーム)を式1に示す。多置換体の合成は置換基が同一の場合は2モル当量以上の一般式(IV)で表される化合物と塩基を用いて一挙に合成してもよいし、ステップワイズに合成してもよい。置換基が異なる場合は一つずつステップワイズに置換基は導入される。
【0062】
【化23】

【0063】
一般式(IV)で表される化合物は、Xがハロゲン原子の場合は対応するアルキルベンゼン化合物のラジカル的ハロゲン化か、もしくはアルコール化合物を経由してのハロゲン化により合成される。Xがアルカンスルホニルオキシ基の場合はアルコールのスルホニルクロリド化合物によるスルホニル化により合成される。
【0064】
上記反応スキームについてさらに詳しく説明する。反応溶媒としては極性溶媒を用いることが好ましい。具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−アセトアミド、N−メチルピロリドン、もしくは1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどのアミド化合物溶媒、ジメチルスルホキシドもしくはスルホランなどのスルホキシド化合物溶媒である。好ましくは、N,N−アセトアミド、N−メチルピロリドンもしくはジメチルスルホキシドであり、特に好ましくはジメチルスルホキシドである。
【0065】
用いられる塩基は、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、もしくはナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド、またはトリエチルアミン、もしくはジイソプロピルエチルアミンなどのトリアルキルアミンであり、好ましくはアルカリ金属水酸化物、もしくはアルカリ金属アルコキシドである。特に好ましくはアルカリ金属アルコキシドである。
【0066】
顔料に対する一般式(IV)で表される化合物の使用量は、導入する一般式(I)中のnの数により異なるが、nに対して1〜2倍のモル当量を使用するのが好ましい。特に好ましくは1.2〜1.5モル当量の使用が好ましい。
【0067】
反応温度は10〜100℃であり、好ましくは20〜70℃であり、反応は不活性ガス(窒素やアルゴン)気流下にて行われるのが好ましい。
【0068】
本発明の一般式(I)の化合物を外部エネルギーを印加して分解して有機顔料微粒子分散体を製造する際、流通過程で有機顔料に変換することが好ましい。このように流通過程で変換反応を行うことにより、顔料微粒子の生成を反応釜中で行うバッチ法に比べて均一な条件下で行うことができる。
【0069】
流通式反応装置中で有機溶媒に溶解しうる一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物に必要に応じて外部エネルギーを加えることにより、フラスコ中で粒子形成した場合には得られない程に、粒径が揃った有機顔料微粒子を得られる。さらに、この流通式反応装置をナンバリングアップ(並列化)すれば、有機顔料微粒子およびその有機溶媒分散体を再現性よく大量に生産することができる。
【0070】
一般式(I)で表される化合物から有機顔料微粒子分散体の製造方法の好ましい態様は、有機溶媒に溶解した有機顔料前駆化合物の溶液を、フロー(flow)条件下、外部エネルギー付加反応により有機顔料微粒子として生成させることであるが、外部付加エネルギーとしては熱(マイクロ波を含む)、光(特に紫外線)、または超音波などのエネルギーが挙げられ、特に熱エネルギーによって高温に加熱することが好ましい。高温に加熱する態様としては、反応流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより加熱する態様としてもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作りこんで加熱する態様としてもよい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。さらにマイクロ波発生装置の中に反応流路を設置し、その特異な迅速内部均一加熱効果やローカルスーパーヒーティング効果を用いて加熱してもよい。その他、流通過程で瞬間的に高温加熱可能な態様を好ましく採用可能である。どの態様によるかは用途や流路本体の材料などに合わせて適宜選択すればよい。好ましい加熱態様としては、ヒーター構造を用いた態様もしくはマイクロ波発生装置を用いた態様であるが、特に好ましくはヒーター構造を用いた態様である。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。
【0071】
図1は本発明の製造方法に用いられる好ましい反応装置の実施形態として、流路の一部を高温に加熱し、その後冷却する手段を備えた装置を概略的に示す平面図である。図2は図1のI−I線断面を示す断面図である。尚、本発明がこれらに限定されないことはいうまでもない。本実施形態の装置においては、流路が1つのみの形態を示したが、前述のとおり流路を複数設けてもよい。
本実施形態の装置10は加熱用ヒーター14と冷却用ペルチェ素子15とを有する。同装置10は導入口11、排出口12、流路13を有し、流路13の長さ方向に直交する断面の形状は必要に応じて微細加工しうるが、台形または矩形に近い形であることが好ましい。流路幅Wおよび流路深さHをマイクロメートルサイズにすれば、熱交換速度が極めて速くなるため、瞬時に加熱および冷却を行うことができる。
【0072】
本実施形態の反応装置10では、導入口11から有機顔料前駆化合物を含有する溶液を導入し、ヒーター14を内蔵した流路長aで示される範囲を流通する過程で上記有機顔料前駆化合物を有機顔料に変換することができる。次に、流路長bで示される範囲の流路を経て、ペルチェ素子15の冷却素子を内蔵した流路長cで示される範囲を流通する過程で冷却されて顔料粒子の核が生長し、流路を流れて排出口12から有機顔料の微粒子を含有する分散液として排出され捕集される。
【0073】
有機顔料前駆化合物を有機顔料に変換するときの変換反応温度は150〜500℃とすることが好ましく、200〜500℃とすることがより好ましく、200〜400℃とすることが特に好ましい。よって流路13内の温度は顔料前駆体の種類により適宜この範囲に調整される。有機顔料前駆化合物を溶解する溶媒の沸点以上の場合は、導入口11に逆止弁、排出口12に圧力調整弁(バルブ)を取り付けて流路内で有機溶媒が沸騰しないように高圧に保つことが好ましい。その圧力は特に限定されないが、0.1〜50MPaが好ましく、0.2〜10MPaが特に好ましい。有機顔料前駆化合物の溶液を反応装置に導入するときの温度は特に限定されないが20〜150℃であることが実際的である。
【0074】
流路13内を流れる流体の速度(流速)は、0.1mL〜300L/hrとすることが好ましく、0.2mL〜30L/hrとすることがより好ましく、0.5mL〜15L/hrとすることが更に好ましく、1.0mL〜6L/hrとすることが特に好ましい。
【0075】
一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物を熱分解して得られる有機顔料微粒子分散体を製造する際、分散安定剤を共存させることが好ましい。共存させることが可能な分散剤としては界面活性剤もしくは有機顔料性の分散剤、または高分子分散剤がある。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。
【0076】
界面活性剤は、本発明に用いられる溶媒に溶解できるものならアニオン性、カチオン性、またはノニオン性界面活性剤の何れも使用可能だが、溶解度の関係でノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
有機顔料性の分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0078】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。これら高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
分散剤の量は、有機顔料微粒子の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、有機顔料100質量部に対して0.1〜250質量部の範囲とすることが好ましく、1〜100質量部の範囲とすることがより好ましい。
【0080】
顔料微粒子分散液に含まれる有機顔料微粒子の粒径の計測法において、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均、個数平均(MN)、体積平均(MV)など)がある。本発明では体積平均径(MV)にて粒径を表すこととする。
【0081】
本発明においては、分散液中の有機顔料微粒子の平均粒径について、濃縮前の分散液における粒径(濃縮前粒径)と濃縮され再希釈された分散液における粒径(濃縮後粒径)とで区別していうことがある。濃縮前粒径については、通常分散液が5質量%未満の濃縮前の分散液そのものについて測定する。一方、濃縮後粒径については、有機顔料濃度5質量%以上の分散液又はその濃度に濃縮した濃縮液を有機溶媒により1.0質量%まで希釈したものについて行うものとする。粒径測定において希釈に用いる上記有機溶媒は特に断らない限りプロピレングリコール 1−モノメチルエーテル 2−アセテート(以下PGMEA)(bp=146℃)である。ただし、このことにより本発明の製造方法により得られる分散液を希釈する溶媒が上記有機溶媒に限定されるものではない。粒径測定は特に断らないかぎり日機装(株)社製マイクロトラックUPA150(商品名)により動的光散乱法にて行う。通常濃縮された有機顔料分散液において顔料微粒の微細な粒径を維持することは難しく、このことは再希釈したときにも同様である。本発明における有機顔料微粒子の粒径は、上記のとおりにして濃縮後1.0質量%に調整して測定した濃縮後粒径において1〜120nmであることが好ましく、3〜100nmであることがより好ましく、5〜70nmであることが特に好ましい。
【0082】
微粒子の粒径が揃っていること、すなわち単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを意味し、粒子の性能を決める重要な要素である。特に粒子径がナノメートルの超微粒子においてはその粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の製造方法によれば、粒径の小さい微粒子とするだけではなく、その大きさをコントロールし、そのサイズを揃えることもできる。サイズが揃っていることを表す指標として種々の方法があるが、本発明においては体積平均径MVを個数平均径MNで除した値(MV/MN)を単分散性(粒子径分布幅が狭い意味)の指標として使用する。この値が1に近いほど単分散性に優れている粒子ということになる。本発明おいて有機顔料微粒子の単分散性は特に断らない限り上記のとおりに濃縮後1質量%に調整して粒径測定をした濃縮後粒径より求めた値をいい、本発明においては1.20〜2.00であることが好ましく、1.20〜1.80であることがより好ましく、1.20〜1.60であることが特に好ましい。
【0083】
本発明の一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物を原料として用い、これを熱分解等により変換して得られる有機顔料の微粒子は、既知の例えばウレタン構造を有するラテント顔料から得られるものに比べて製造適性がきわめて高く、たとえば流通式反応装置により製造する際には流路の閉塞が好適に抑えられる。しかも、本発明の上記有機顔料前駆化合物によれば、得られる有機顔料微粒子の粒径・粒径分布変動が小さく、またその分散安定性もきわめて高いという利点を有する。このような優れた効果を奏する理由については未解明の点もあるが、一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物が熱分解等により有機顔料に変換される際、保護基である1−置換フェニルエチル基が脱離し発生するスチレン型誘導体が作用することが挙げられる。すなわち、マイクロ流路中等の反応場において微粒子の生成とともに脱離生成したスチレン型誘導体が瞬時に重合し、あたかも高分子分散剤が微粒子に強固に固定化され被覆したのと同様に有機顔料微粒子の安定化剤として働くものと推定される。また、1−置換フェニルエチル基が保護基とされたことにより原料溶液における上記有機顔料前駆化合物の良好な溶解状態を実現し、またその脱離速度が適切に調節され、一層良好な微粒子特性が付与されることが考えられる。
【0084】
本発明の分散体における有機顔料濃度は特に限定されず、例えばインクや塗料としての利用を考慮したとき、顔料濃度を5〜30質量%とすることが好ましい。溶媒を切り替える目的等により濃縮する際には、例えば30〜60質量%とすることが好ましい。また、上記の高い分散安定性を利用して、上記分散体を濃縮及び再希釈して有機溶媒に媒体を切り替えることができ、そのときにも高い分散安定性を維持することができる。
【0085】
このようにして得られる分散体はそれを用いてUV用インクジェットインクや塗料を調製する際に極めて有利であり、溶媒の切替等も幅広く可能になる。このような性質は分散体として極めて優れた性質である。
【実施例】
【0086】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に示す粒径分布は日機装(株)社製のマイクロトラックUPA150(商品名)で測定した。
【0087】
(実施例1)例示化合物(1)の合成
1,4−ジケトー3,6−ビス(4−クロロフェニル)ピロロ [3,4−c]ピロール(PR254)1.0g(2.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに入れ室温・窒素気流下、撹拌した。その中にt−ブトキシカリウム0.7g(6.2mmol)を添加し、約30分間室温で撹拌した。ほとんど原料がDMSOに溶解したのを確認し、その溶液に(1−ブロモエチル)ベンゼン(例示化合物(IV−1))を1.1g(5.9mmol)加え、引き続き約5時間室温下撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮すると結晶が析出した。結晶をろ過し、n−ヘキサンで洗浄乾燥すると例示化合物(1)の赤色結晶が0.2g(収率15%)得られた。融点;200℃以上。
H−NMR(in THF−d
δ;1.95(3H,d,J=7.0),5.40(1H,q,J=7.0),7.27.4(5H,m),7.45(2H,d,J=8.5),
7.52(2H,d,J=8.5),7.60(2H,d,J=8.5),8.42(2H,d,J=8.5),10.10(1H,brs)
【0088】
(実施例2)例示化合物(4)の合成
実施例1において例示化合物(IV−1)を例示化合物(IV−2)の当モル量で置き換える以外は全く同様にして例示化合物(4)を0.26g(収率19%)合成した。融点;200℃以上。尚、例示化合物(IV−2)は特開昭58−77829号記載の方法に基づき、アセトフェノン誘導体から合成できた。
H−NNR(in THF−d
δ1.88(3H,d.J=7.0),3.75(3H,s),5.32(1H,q,J=7.0),6.82(2H,d,J=9.0),
7.23(2H,d,J=9.0),7.49(2H,d,J=8.5),7.56(2H,d,J=8.5),7.65(2H,d,J=8.5),
8.40(2H,d,J=8.40),10.05(1H,brs)
【0089】
(実施例3)例示化合物(6)の合成
1,4−ジケトー3,6−ビス(4−クロロフェニル)ピロロ[3,4−c]ピロール(PR254)1.0g(2.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに入れ室温・窒素気流下、撹拌した。その中にt−ブトキシカリウム0.7g(6.2mmol)を添加し、約30分間室温で撹拌した。ほとんど原料がDMSOに溶解したのを確認し、その溶液に例示化合物(IV−5)(4’−t−ブチルアセトフェノンをNaBH4で還元し、常法であるアルコールのトシル化により合成)を1.5g(5.9mmol)加え、引き続き約5時間室温下撹拌し、さらにその後t−ブトキシカリウム0.7g(6.2mmol)と例示化合物(IV−5)1.5g(5.9mmol)を加え、50℃で3時間撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製すると例示化合物橙色結晶が0.3g(収率16%)得られた。融点;200℃以上。
【0090】
(実施例4)例示化合物(11)の合成
キナクリドン1.0g(3.2mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに入れ室温・窒素気流下、撹拌した。その中にt−ブトキシカリウム0.79g(7.0mmol)を添加し、約30分間室温で撹拌した。ほとんど原料がDMSOに溶解したのを確認し、その溶液に例示化合物(IV−5)を1.6g(6.4mmol)加え、引き続き約5時間室温下撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮すると結晶が析出した。結晶をろ過し、n−ヘキサンで洗浄乾燥すると例示化合物(11)の赤色結晶が0.4g(収率26%)得られた。融点;200℃以上。
【0091】
(実施例5)例示化合物(18)の合成
ジクロロキナクリドン(PR202)1.0g(2.6mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに入れ室温・窒素気流下、撹拌した。その中にt−ブトキシカリウム0.64g(5.7mmol)を添加し、約30分間室温で撹拌した。ほとんど原料がDMSOに溶解したのを確認し、その溶液に例示化合物(IV−6)を2.1g(5.2mmol)加え、引き続き約5時間室温下撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮、得られた残渣をショートシリカゲルカラムにかけ、極性の低い例示化合物(IV−6)を除去する操作を行なった。残りの部分を濃縮し、DMSO50ml溶液とし、その溶液にt−ブトキシカリウム0.64gと例示化合物(IV−2)0.9g(5.3mmol)を加え、50℃で約3時間拡販した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製すると例示化合物(18)の橙色結晶が0.4g(収率21%)得られた。融点;200℃以上。
【0092】
(実施例6)例示化合物(22)の合成
イソインドリン顔料(PY185)1.0g(3.0mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)50mlに入れ室温・窒素気流下、撹拌した。その中にt−ブトキシカリウム0.74g(6.6mmol)を添加し、約30分間室温で撹拌した。ほとんど原料がDMSOに溶解したのを確認し、その溶液に例示化合物(IV−6)を2.4g(6.0mmol)加え、引き続き約5時間室温下撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、酢酸エチル100mlを加え撹拌した。不溶物をろ過し、分液ロートで酢酸エチル層を分離し、水と飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。ろ過後エバポレーターで濃縮すると結晶が析出した。結晶をろ過し、n−ヘキサンで洗浄乾燥すると例示化合物(22)の赤色結晶が0.5g(収率29%)得られた。融点;200℃以上。
【0093】
(実施例7)例示化合物の熱分解試験。
実施例1〜6にて合成した例示化合物のTG/DTAを測定した。全て250〜320℃で熱分解を開始し、鮮やかな色を有する顔料に変換されることがわかった。
熱分解開始温度;例示化合物(1)315℃、例示化合物(4)295℃、例示化合物(6)300℃、例示化合物(11)310℃、例示化合物(18)280℃、例示化合物(22)290℃。
【0094】
例示化合物(4)のTG/DTA測定結果を以下に示すが、分解後重量変化が26.24%起きているが、これはほぼ4−メトキシスチレンが離脱した分子量変化に対応する(計算値;27.3%)。この例示化合物(4)のTG/DTA測定結果を添付の図3に示した。
【0095】
(実施例8)例示化合物(4)を用いた微粒子分散体の製造
例示化合物(4)1.0gをプロピレングリコール 1−モノメチルエーテル 2−アセテート(以下PGMEAと略す)89g、エチルベンゼン10g(bp=136℃)、の混合溶媒に50℃程度に加熱して攪拌しながら溶解し、室温(約25℃)にもどし、1.0質量%溶液を調製した。これを0.45μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)を通すことでごみ等の不純物を除きIA液とした。図1に示した加熱・冷却可能な反応装置として、流路幅(W)と深さ(H)とを300μm、流路長aを2cm、流路長bを5cm、流路長cを5cmとした流路13(等価直径500μm)を形成したセラミックス製装置本体10を準備し、テフロン(登録商標)チューブ2本を逆止弁付きコネクタを用いて導入口11に接続し、その先にそれぞれIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口12に圧力調節弁を有するコネクタを接続し、それを介してテフロン(登録商標)チューブを接続した。装置本体10の大きさは20cm×6cm×10mmとした。2cm×1cm×1mmのヒーター14はグリーンステートのセラミックを焼結してリアクターを作製する際に一体化して組み込み、反応装置外の電源まで配線された。冷却装置のペルチェ素子部分15は、5cm×1cm×5mmのリアクター空隙にはめ込まれた。約100℃で導入された流路13を流れるIA液を、400℃に昇温したヒーター14により加熱し、次いで25℃に設定したペルチェ素子15により冷却した。温度調節はセンサーを用いて行った。流路内圧は圧力調節弁にて2MPa以上とした。
【0096】
上記の条件でIA液を20μL/minの流速で導入口11より注入したところ、排出口12からPR254顔料微粒子を含有するPGMEA溶液分散体(液)が得られた。注入を1時間継続して、分散液をチューブの先端より捕集した。この間、流路の閉塞を示すような急激な内圧の上昇は観測されなかった。得られた分散液(顔料濃度約0.6質量%)中の微粒子の平均粒径を、動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、MV(体積平均径)は52nmであった。また単分散性の指標であるMV(体積平均径)/MN(個数平均径)値は1.40であった。得られた分散体を室温(約20〜25℃)下1ヶ月放置たところMVは54nmおよびMV/MN値は1.42と大きな変動は見られなかった。
【0097】
(実施例9)例示化合物(18)を用いた微粒子分散体の製造
例示化合物(18)1.0gとブロック共重合型分散剤(ビックケミー社製、DISPERBYK−166(商品名))を0.2gをプロピレングリコール 1−モノメチルエーテル 2−アセテート(以下PGMEAと略す)88.8g、エチルベンゼン10g(bp=136℃)、の混合溶媒に50℃程度に加熱して攪拌しながら溶解し、室温(約25℃)にもどし、1.0質量%溶液を調製した。これを0.45μmのミクロフィルター(富士フイルム社製)を通すことでごみ等の不純物を除きIA液とした。図1に示した加熱・冷却可能な反応装置として、流路幅(W)と深さ(H)とを300μm、流路長aを2cm、流路長bを5cm、流路長cを5cmとした流路13(等価直径500μm)を形成したセラミックス製装置本体10を準備し、テフロン(登録商標)チューブ2本を逆止弁付きコネクタを用いて導入口11に接続し、その先にそれぞれIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口12に圧力調節弁を有するコネクタを接続し、それを介してテフロン(登録商標)チューブを接続した。装置本体10の大きさは20cm×6cm×10mmとした。2cm×1cm×1mmのヒーター14はグリーンステートのセラミックを焼結してリアクターを作製する際に一体化して組み込み、反応装置外の電源まで配線された。冷却装置のペルチェ素子部分15は、5cm×1cm×5mmのリアクター空隙にはめ込まれた。約100℃で導入された流路13を流れるIA液を、450℃に昇温したヒーター14により加熱し、次いで25℃に設定したペルチェ素子15により冷却した。温度調節はセンサーを用いて行った。流路内圧は圧力調節弁にて2MPa以上とした。
【0098】
上記の条件でIA液を20μL/minの流速で導入口11より注入したところ、排出口12からPR254顔料微粒子を含有するPGMEA溶液分散体(液)が得られた。注入を1時間継続して、分散液をチューブの先端より捕集した。この間、流路の閉塞を示すような急激な内圧の上昇は観測されなかった。得られた分散液(顔料濃度約0.5質量%)中の微粒子の平均粒径を、動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、MV(体積平均径)は48nmであった。また単分散性の指標であるMV(体積平均径)/MN(個数平均径)値は1.38であった。得られた分散体を室温(約20〜25℃)下1ヶ月放置たところMVは52nmおよびMV/MN値は1.40と大きな変動は見られなかった。
【0099】
(比較例1)公知の化合物DPP−BOCを用いた微粒子分散体の製造
特開平8−6242号公報(前記特許文献2)に記載の下記顔料前駆化合物BOC−DPPを該公報記載の方法で合成し、それを例示化合物(4)に等重量で置き換える以外は実施例1と全く同様にして顔料分散体(液)を作製した。約30分反応液をリアクターに注入したころから内圧のアップが観測され、1時間後には送液がかなり困難になったので送液を中止した。得られた分散体(顔料濃度約0.6質量%)中の微粒子の平均粒径を、動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、MV(体積平均径)は60nmであった。また単分散性の指標であるMV(体積平均径)/MN(個数平均径)値は1.50であった。得られた分散体を室温(約20〜25℃)下1ヶ月放置したところMVは95nm、MV/MN値は2.50と大きく変動していた。
【0100】
【化24】

【0101】
以上の結果により、本発明の顔料前駆化合物を原料として用いることにより、効率的に有機顔料に変換して該有機顔料をナノメートルサイズの微粒子として得ることができ、しかもその分散体は長期間にわたって凝集や沈降を起こさない極めて高い分散安定性を示すことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の製造方法に用いられる流通式反応装置の好ましい実施形態を模式的に示す平面図である。
【図2】図1の流通式反応装置のI−I線断面を示す断面図である。
【図3】例示化合物(4)のTG/DTA測定結果示すチャートである。
【符号の説明】
【0103】
10 反応装置本体
11 導入口
12 排出口
13 流路
14 ヒーター
15 ペルチェ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる有機顔料前駆化合物。
【化1】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)の有機顔料残基(A)がジケトピロール、キナクリドン、またはアゾ顔料の顔料残基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記有機顔料残基(A)がピロロ[3,4−c]ピロール残基であることを特徴とする請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
前記一般式(I)が一般式(II)または(III)で表わされることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【化2】

【化3】

(式中、R、R、およびmは前記一般式(I)と同義の基または数を表す。Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、またはアルコキシ基を表す。R’、R’およびm’はそれぞれR、R、およびmと同義の基または数を表す。)
【請求項5】
前記一般式(I)、(II)、または(III)のRがアルキル基もしくはアルコキシ基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式(I)、(II)、または(III)のRがメチル基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
前記一般式(I)で表わされる化合物が、熱もしくは光による外部エネルギー、または化学的処理により有機顔料に変換できることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
下記一般式(IV)で表される化合物を塩基存在下で有機顔料と反応させることを特徴とする下記一般式(I)で表される有機顔料前駆化合物の製造方法。
【化4】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
【化5】

(式中、R、Rおよびmは前記一般式(I)中の基と同義の基または数を表す。Xはハロゲン原子、または置換もしくは無置換のアルカンスルホニルオキシもしくはアレンスルホニルオキシ基を表す。)
【請求項9】
下記一般式(I)で表される化合物を媒体中で加熱分解して有機顔料の微粒子とすることを特徴とする有機顔料微粒子分散体の製造方法。
【化6】

(式中、(A)は有機顔料残基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、Rは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、アルコキシカルボニル基、もしくはカルバモイル基を表わす。mは0〜3の整数、nは1〜4の整数を表わす。nが2以上のとき、R、R、およびmは同じでも異なっていてもよい。)
【請求項10】
前記熱分解をマイクロ流路中で行うことを特徴とする請求項9記載の有機顔料微粒子分散体の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法のいずれかにより得られる有機顔料分散体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−83926(P2010−83926A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251818(P2008−251818)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】