説明

新規カルニチン誘導体及びその用途

【課題】ヒアルロン酸の合成亢進が伴う疾患及びヒアルロン酸分解が生理的に正常時より抑制している動脈硬化、心筋梗塞、骨形成異常、乾癬、悪性腫瘍の症状悪化、脱毛、皮膚炎等に対し予防・治療効果が期待でき、しかも直接線維芽細胞に作用する医薬組成物、ヒアルロン酸分解促進剤、皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】新規カルニチン誘導体[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]を含有することを特徴とするヒアルロン酸分解促進剤、医薬組成物、及び皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト結合組織に存在する細胞に作用し、ヒアルロン酸分解を促進するヒアルロン酸分解促進剤に関し、更にはヒアルロン酸の異常産生亢進又は異常分解抑制が伴う疾患の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、細胞間隙への水分の保持、組織内にジェリー状のマトリクスを形成することに基づく細胞の保持、臓器組織の潤滑性と柔軟性の保持、機械的障害等の外力への抵抗、及び細菌感染の防止等多くの機能を有している(非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ヒアルロン酸の正常のレベルを逸脱した合成亢進は生体において生理的異常な状態を引き起こす場合があると考えられている。炎症や動脈硬化、乾癬等では細胞間に産生促進されたヒアルロン酸は炎症細胞の浸潤を容易にし、炎症を遅延化する(非特許文献2参照)。また骨再生異常においてもヒアルロン酸の異常蓄積が見られ、骨の硬さに影響すると考えられている(非特許文献3参照)。更に軟骨細胞において、最終の軟骨細胞の分化に際し、ヒアルロン酸は細胞に吸収分解されることから、細胞の分裂ステージから分化ステージに移行する際はヒアルロン酸は積極的に分解され、細胞間のシグナル伝達が強化される必要があると考えられる。実際、細胞間のヒアルロン酸は細胞表層にヒアルロン酸リッチマトリクスとして存在しているため他の接着因子等の結合を抑制していると考えられる。更にヒアルロン酸は悪性腫瘍においてヒアルロン酸マトリクスを形成促進し、みずからの分裂環境を最適にし、免疫細胞からの攻撃を防御すると考えられている(非特許文献4参照)。
【0004】
以上のことからヒアルロン酸合成の異常亢進は動脈硬化、心筋梗塞、骨形成異常、乾癬、悪性腫瘍の症状悪化に密接に関連すると考えられ、したがってこれらの疾患の治療においてはヒアルロン酸の分解を促進することが有効であると思われる。
【0005】
一方、生体内で重要な細胞外成分であるヒアルロン酸は正常な生理状態でも分解が促進されている場合がある。例えば、毛成長に伴うヘアーサイクルにおいて成長期では毛包は毛の成長とともに皮膚真皮内を貫通することが知られている。この部分では積極的なマトリクスの分解が起きていると考えられる。したがってマトリクスの主要成分であるヒアルロン酸の分解促進をする薬剤は成長期を延長することで育毛効果をもつと考えられる。
【0006】
ところで従来、ヒアルロニダーゼ阻害剤については数多くの報告がなされているが(特許文献1〜7参照)、ヒアルロン酸の分解を促進する薬剤はほとんど開発されていなかった。
【非特許文献1】BIOINDUSTRY、8巻、346頁、1991年
【非特許文献2】European Respiratory Journal 4(4):407-414(1991)
【非特許文献3】Bone 10(6):409-413(1989)
【非特許文献4】J.Biol.Chem.271(17)9875-9878(1996)
【特許文献1】特公平6-4584号公報
【特許文献2】特開平5-178876号公報
【特許文献3】特開平6-80553号公報
【特許文献4】特開平6-80576号公報
【特許文献5】特開平6-9415号公報
【特許文献6】特開平6-9416号公報
【特許文献7】特開平3-68515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明者等が鋭意研究を行った結果、結合組織由来の正常皮膚線維芽細胞がヒアルロン酸分解活性を持ち、更にその分解は特定のカルニチン誘導体添加によって著しく促進されることを見い出し、本発明を完成したものであって、その目的とするところは、ヒト結合組織に存在する細胞に作用し、ヒアルロン酸分解を促進し得るヒアルロン酸分解促進剤、更にはヒアルロン酸の異常な産生亢進が伴う疾患やヒアルロン酸分解が異常に抑制されている疾患の治療効果に優れた疾患治療剤を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、特定のカルニチン誘導体[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]を有効成分とするヒアルロン酸分解促進剤、並びに該促進剤を含有するヒアルロン酸産生異常亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解が異常に抑制されている疾患の治療剤等の医薬組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ヒト結合組織に存在する細胞に作用し、ヒアルロン酸分解を促進するヒアルロン酸分解促進剤、ヒアルロン酸合成異常亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳説する。
【0011】
本発明において用いられるカルニチン誘導体は、下記一般式(1)で表され、例えば、イグチ科由来きのこであるシロヌメリイグチ(Suillus laricinus)の抽出エキス又はその乾燥エキス末から得ることができる。更には一般に知られるエステル化反応によって有機合成できる。
【化1】

【0012】
シロヌメリイグチエキスから製造する方法としては、例えばシロヌメリイグチ子実体の凍結乾燥物に対し重量比で5〜30倍の抽出溶剤を加え、通常15〜50℃で24時間〜1週間浸漬して抽出液を得る方法等が挙げられる。
また抽出液をろ過又は遠心分離して不溶物を除去し、次いで通常の濃縮手段、例えば減圧濃縮等して濃縮抽出エキスとして得ることもできる。
【0013】
シロヌメリイグチエキスを製造する際に用いる抽出溶剤としては、例えば、水や、熱水、メタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコール等の水溶性有機溶剤、又はこれらの混合溶剤が挙げられる。更にアセトン、酢酸エチル等の極性有機溶媒によって再抽出してもよい。
【0014】
本発明に係るカルニチン誘導体を単離する方法としては、前記抽出エキス又は乾燥エキス末を水等の親水性溶剤で再抽出し、シリカゲルカラム等の分離手段で精製してカルニチン誘導体画分として得る、又は更にシリカゲルカラム等の分離手段を繰り返したり、HPLCを用いてカルニチン誘導体を単離する方法等が挙げられる。
またエステル化反応による有機合成の方法としては市販されているEDC[1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide hydrochloride]等を用い、加熱反応によって容易にエステル化できる。
【0015】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤、並びにヒアルロン酸合成亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤等の医薬組成物におけるカルニチン誘導体の含有量は、対象とする疾患の種類及び程度、患者の年齢、体重、性別等により異なり一概には規定できないが、一般的には適用する組成物の総量を100g基準として、0.0001〜50gが好ましく、特に0.001〜5gが好ましい。0.0001g未満では本発明の効果が達成できない場合があり、50gを超えて配合してもその配合量に見合った効果が得られない場合がある。
【0016】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤、並びにヒアルロン酸合成亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤等の医薬組成物の形態としては、特に限定されるものではない。例えば、適当な賦形剤、担体、希釈剤を用いて、錠剤、液剤、カプセル剤、顆粒
剤、散剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤、坐剤、入浴剤等の剤形が挙げられ、またゲル、クリーム、スプレー剤、貼付剤、ローション、パック類、乳液、パウダー及び入浴剤等の剤形が挙げられる。
【0017】
係る製剤の調製は常法によって行われ、例えば、固形製剤については通常の医薬添加物、例えば、乳糖、でんぷん、結晶セルロース、タルク等を用いて製剤化される。カプセル剤はそのようにして調製された細粒剤、散剤等を適当なカプセルに充填して得られる。液剤は白糖、カルボキシメチルセルロース等を含む水溶液に本発明の薬剤を溶解、懸濁することにより調製される。
【0018】
また本発明のヒアルロン酸分解促進剤、並びにヒアルロン酸合成亢進疾患治療剤及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤等の医薬組成物に配合される賦形剤及び補助剤としては、本発明の効果を損なわない範囲において、化粧品、医薬品等に一般に使用されるものが配合可能であり、剤形等に応じて適宜選択され、特に限定されるものではない。例えば、ワセリン、スクワラン等の炭化水素、ステアリルアルコール等の高級アルコール、ミリスチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸低級アルキルエステル、ラノリン酸等の動物性油脂、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリエチレンアルキルエーテルリン酸等の界面活性剤、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル等の防腐剤、蝋、樹脂、各種香料、各種色素、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等の各種無機塩、酪酸、乳酸等の各種酸、水、及びエタノール等が挙げられる。
【0019】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、ヒアルロン酸の合成が亢進している疾患やヒアルロン酸の分解が異常抑制されている疾患の治療剤の有効成分として配合することができる。更に通常の医薬品、化粧品の有効成分として用いることができ、その他、培養細胞系に添加する研究・試験用試薬等として用いることもできる。
【0020】
本発明において治療剤とは、後述するような疾患の症状を取り去るいわゆる治療剤の他、その症状を軽減する改善剤、その他症状が現れるのを予防する防止剤をも含むものである。
【0021】
本発明において疾患とは、ヒアルロン酸合成が生理的に正常時より亢進しているか又はヒアルロン酸分解が異常に抑制されている状態を言う。
【0022】
ヒアルロン酸合成が生理的に正常時より亢進している疾患としては、乾癬、動脈硬化、骨異常形成、心筋梗塞等が挙げられる。本発明のヒアルロン酸異常合成亢進疾患治療剤をこれらの疾患に用いる場合は、防止剤又は予防剤として正常人に適用することもできるが、ヒアルロン酸の合成が生理的に正常時より亢進している症状者に適用する方が効果的である。
【0023】
一方、ヒアルロン酸分解が異常に抑制されている疾患とは、ヒアルロン酸の分解が患部で異常抑制されていると考える脱毛症、若はげ等の疾患を言う。本発明のヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤をこれらの疾患に用いる場合は、症状の改善剤又は治療剤として、ヒアルロン酸の分解が異常に抑制されている症状者に適用することができる。
【0024】
今回、特定のカルニチン誘導体[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]が結合組織に存在する線維芽細胞に作用し、その細胞間マトリクスの成分であるヒアルロン酸を分解促進する作用があることが明らかとなった。
【0025】
本発明のヒアルロン酸合成亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤
等の医薬組成物の1日当たりの投与量としては、通常経口投与では、総量として0.01〜50gが好ましく、特に好ましくは0.1〜10gである。非経口投与では、0.1〜5gが好ましい。0.01g未満では本発明の効果が達成できない場合があり、50gを超えて投与してもその投与量に見合った効果が得られない場合がある。
【0026】
本発明のヒアルロン酸分解促進剤は、培養細胞に添加して高分子ヒアルロン酸を産生させる時は、培養液中にカルニチン誘導体が1μg/mL以上となるように添加するのが好ましく、更に好ましくは10μg/mL〜10mg/mLである。1μg/mL未満では効果を奏しない場合がある。
【0027】
本発明のヒアルロン酸合成亢進疾患治療剤、及びヒアルロン酸分解異常抑制疾患治療剤等の医薬組成物は、加熱滅菌、濾過滅菌等の方法により、滅菌してから用いるのが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例により本発明を更に詳しく説明する。尚、実施例に先立ちヒアルロン酸分解阻害剤の効果を調べるための評価系について説明する。また後記表3〜表9に示す配合量は、いずれも質量%を表す。
【0029】
(1)MEM培地の調製法
Minimum Essential Medium(大日本製薬社製、10-101)10.6gにそれぞれ終濃度として1%(V/V)Non Essential Amino Acid(大日本製薬社製、16-810)、1m mol/Lピルビン酸ナトリウム(大日本製薬社製、16-820)、1.2%(W/V)炭酸水素ナトリウム、蒸留水を加えて1Lとした後、炭酸ガスを吹き込んでpHを約7にした(以下、MEM培地と略記する)。
【0030】
(2)ウシ胎仔血清(FBS)の非働化
FBS(Irvine Scientific社製)を56℃で30分間加熱処理した。
【0031】
(3)細胞添加用高分子トリチウムヒアルロン酸の調製方法
正常ヒト線維芽細胞株[デトロイト551株(ATCC CCL 110)]の細胞数を10%(V/V)の非働化FBSを含むMEM培地にて2×105個/mLに調整し、225cm2のフラスコに50mL入れ、3日間培養しコンフルエント状態にした。その後ヒアルロン酸の前駆体であるトリチウムグルコサミン(American Radiolabeled Chemicals Inc.社製)を培養系に添加し(10μCi/mL)、更に3日間培養した後、培養液からトリチウムラベルされたヒアルロン酸をUnderhillらの方法(J.Cell Biology,82巻,475頁,1979年)によって精製し、更にゲルろ過カラムにより分子量100万以上の高分子トリチウムヒアルロン酸(比放射活性,0.1μCi/μg)を調製した。これを細胞培養系への添加用高分子トリチウムヒアルロン酸とした。
【0032】
(4)正常ヒト線維芽細胞への高分子トリチウムヒアルロン酸の添加培養
正常ヒト線維芽細胞株[デトロイト551株(ATCC CCL 110)]の細胞数を10%(V/V)の非働化FBSを含むMEM培地にて1.5×105個/mLに調整し、12穴プレート(ファルコン社製)に0.8mLずつ播種し、95%(V/V)空気-5%(V/V)炭酸ガスの雰囲気下、37℃で3日間静置培養し、更にMEM培地のみに培地交換し、1日間培養した。その後、高分子トリチウムヒアルロン酸を含む(14,000DPM/mL、10μg/mL)MEM培地を調製し、培地交換をし、3日間培養を行った。
【0033】
(5)細胞による高分子トリチウムヒアルロン酸の分解評価
培養終了後、培養液を回収し、100℃で5分間加熱処理を行った後、培地1mLをセファロースCL-2Bカラム(内径1cm,長さ60cm)にアプライし以下の条件でゲルろ過を行った。
流速:0.6mL/min
分画:4mL/1Fraction
分画総数:25
更に分子量10万以下のヒアルロン酸が溶出するフラクション10〜25の16本を集め、[3H]放射活性を測定し分解したヒアルロン酸の量を求めた。
【0034】
更にヒアルロン酸分解促進率(倍)は以下の数1によって求めた。
【0035】
(数1)
ヒアルロン酸分解促進率(倍)=(B/A)
A=基剤(DMSO)添加時のヒアルロン酸分解量
B=薬剤添加によるヒアルロン酸分解量
【0036】
実施例1
シロヌメリイグチ子実体(17.1kg)を95%EtOH、100%アセトンで順次抽出を行った。得られた抽出物をCHCl3、EtOAcで順次溶媒分画を行い、CHCl3層を36.1g、EtOAc層を2.2g、そして水層を253.4g得た。この3層の内、水層をシリカゲルカラム(silica gel 60N)に供し、CHCl3:MeOH:H2O = 5.5:4:0.5、4.5:4.5:1、3.5:5.5:1、0:10:0、0:8:2、0:5:5、0:0:10で順次溶出し、全13画分を得た。画分10(6.5g)をHPLC(Fluofix INW225;1%MeOH、Polyamine II;75% MeCN、Wakosil-II 5C18HG;1%MeOH)で精製を行い化合物A(1.3mg)を得た。
【0037】
化合物Aは比旋光度[α]D30=-16°(c=0.13、H2O)の無色透明のアモルファスである。FAB-MAS(positive)においてm/z 248(MH+)の分子イオンピークが観察された(図1)。1H-NMRスペクトルより水素9個分のシングレットがδ3.06に観察されたことによりトリメチルアンモニオ基の存在が示された(図2)。13C-NMRスペクトルにより炭素が9個観察された(図3)。よって、分子式はC11H21NO5と推定した。
【0038】
1H-NMRスペクトルにおいて、δ3.06(9H)にメチル基、δ2.40、2.50、3.50、3.77にメチレン基、δ5.54にメチン基由来のシグナルそれぞれ観察された。HMQCスペクトル(図4)より、δ3.06、2.40、2.50、3.50、3.77、5.54の水素とδ54.3、40.8、40.8、68.7、68.7、67.4の炭素との間に直接結合を示すクロスピークが観察され、HMBCスペクトル(図5)においてδ3.06のメチル水素とδ68.7の炭素、δ2.40、2.50のメチレン水素とδ67.4、177.9の炭素、δ3.50 のメチレン水素とδ54.3の炭素、δ3.77のメチレン水素とδ54.3、67.4の炭素とのクロスピークが観察されたことにより、δ40.8、67.4、68.7の炭素をC-2、C-3、C-4と帰属した。故に、carnitineを基本骨格とする化合物であると示唆された。1H-NMRスペクトルにおいて、δ1.00にメチル基、δ3.59にメチレン基、δ2.67にメチン基由来のシグナルが観察された。そして、HMQCスペクトルよりδ1.00のメチル水素とδ12.9の炭素、δ3.59のメチレン水素とδ63.9の炭素、δ2.67のメチン水素とδ42.6の炭素との直接結合のクロスピークが観察され、HMBCスペクトルにおいてδ1.00のメチル水素とδ42.6、63.9、176.8の炭素、δ3.59のメチレン水素とδ12.9、42.6、176.8の炭素との相関が観察された。また、COSYスペクトル(図6)においてδ2.67のメチン水素とδ1.00のメチル水素、δ3.59メチレン水素とδ2.67のメチン水素の間にクロスピークが観察されたことにより、δ176.8、42.6、63.9、12.9の炭素をC-1'、C-2'、C-3'、2'-CH3と帰属した(表1)。そして、HMBCスペクトルにおいてカルニチン部分のδ5.54のメチン水素から3-hydroxy-2-methylpropionyl基のδ176.8のカルボキシル炭素へのクロスピークが観察されたことより化合物Aはカルニチンの3位に3-hydroxy-2-methylpropionyl基がエステル結合した構造であることが示された。よって、化合物Aの側鎖は3'-hydroxy-2'-methylpropionyl基であり、化合物Aを3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-carnitineと決定した。
【0039】
【表1】

【0040】
次に化合物Aの絶対構造を決定するために(R)-carnitineと(S or R)-3-hydroxy-2-methylpropionic acidをDMSO中でEDC存在下縮合させ(S or R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineを合成し、化合物Aと1H-NMRで比較したところ(図7)、3'のメチレン水素がR体と化合物Aではダブレットで観察されたが、S体ではABX系のダブルダブレットで観察された。また13C-NMRにおいてシフト値がR体と化合物Aは一致したが、S体では異なっていた。そして、R体の比旋光度を測定したところカルニチン誘導体と一致した。以上のことより化合物Aを(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineと決定した。
【0041】
実施例2[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineの合成]
Methyl(R)-3-hydoroxy-2-methylpropionate(500mL)を1mol/L KOH(5mL)中で48時間攪拌後、1mol/L HClで中和し、MeOHに溶解させフィルターろ過した。ろ液をエバポレイトし、(R)-3-hydroxy-2-methylpropionic acidを566.5mg得た。得られた(R)-3-hydroxy-2-methylpropionic acid(253.4mg)をDMSOに溶解し、(R)-carnitine(230.0mg)、EDC[1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide hydrochloride](223.5mg)を加えた。80℃で24時間反応後、凍結乾燥した。凍結乾燥後、残渣をHPLC(Wakosil-II 5C18HG、1%MeOH)に供し、(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineを1.3mg得た。
【0042】
比較例1[(S)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineの合成]
Methyl(S)-3-hydoroxy-2-methylpropionate(500mL)を1mol/L KOH(5mL)中で48時間攪拌後、1mol/L HClで中和し、MeOHに溶解させフィルターろ過した。ろ液をエバポレイトし、(S)-3-hydroxy-2-methylpropionic acidを598.4mg得た。得られた(S)-3-hydroxy-2-methylpropionic acid(315.4mg)をDMSOに溶解し、(S)-carnitine(255.0mg)、EDC(254.5mg)を加えた。80℃で24時間反応後、凍結乾燥した。凍結乾燥後、残渣をHPLC(Wakosil-II 5C18HG、1%MeOH)に供し、(S)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineを1.8mg得た。
【0043】
試験例
実施例1で得た化合物A[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]、比較例1で得たカルニチン誘導体異性体[(S)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]、(R)-carnitine(比較例2)、(R)-3-hydroxy-2-methylpropionic acid(比較例3)をDMSOに溶解し培養系に添加した。
【表2】

【0044】
その結果、(R)-carnitineや(R)-3-hydroxy-2-methylpropionic acidに分解促進活性はなく、一方、エステル体である化合物A[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]はヒアルロン酸分解を促進した。またその異性体である比較例1で得た(S)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitineは分解促進活性を示さなかった。
【0045】
以上、特定のカルニチン誘導体[(R)-3'-hydroxy-2'-methylpropionyl-(R)-carnitine]はヒトのヒアルロン酸分解促進剤として非常に有効であることが判明した。また本発明のヒアルロン酸分解促進剤はヒアルロン酸合成が異常に亢進している疾患やヒアルロン酸の分解が異常に抑制されている疾患に対する治療剤の有効成分として用いることができるものである。
【0046】
実施例3,4(錠剤)
【0047】
【表3】

【0048】
上記表3の各成分を均一に混合し、常法に従って、1錠300mgとなるように打錠した。
【0049】
実施例5,6(カプセル剤)
【0050】
【表4】

【0051】
上記表4の各成分を均一に混合し、常法に従って、混合物の200mgを3号硬カプセルに充填した。
【0052】
実施例7,8(液剤)
【0053】
【表5】

【0054】
精製水に上記表5の各成分を溶解し、攪拌均一化して液剤とした。
【0055】
実施例9,10(ローション)
【0056】
【表6】

【0057】
上記表6の各成分を常法により混合溶解して、ローションを調製した。
【0058】
実施例11,12(入浴剤)
【0059】
【表7】

【0060】
上記表7中の各成分を混合し、入浴剤を調製した。なお、この入浴剤は使用時に約3000倍に希釈される。
【0061】
実施例13、14(クリーム)
【0062】
【表8】

【0063】
上記表8中において、成分(A)を80℃で均一に混合溶解した後、それに成分(B)を混合溶解した(混合液I)。これとは別に、成分(D)を80℃で均一に混合溶解した後、それに成分(C)を混合溶解した(混合液II)。次に、混合液Iに、徐々に混合液IIを加えて、充分攪拌しながら30℃まで冷却し、クリームを得た。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】化合物AのFAB-MS(positive)spectrum
【0065】
【図2】化合物Aの1H-NMR spectrum(D2O)
【0066】
【図3】化合物Aの13C-NMR spectrum(D2O)
【0067】
【図4】化合物AのHMQC spectrum(D2O)
【0068】
【図5】化合物AのHMBC spectrum(D2O)
【0069】
【図6】化合物AのCOSY spectrum(D2O)
【0070】
【図7】化合物Aと異性体合成物の1H-NMR spectrum

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカルニチン誘導体。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載のカルニチン誘導体を含有することを特徴とするヒアルロン酸分解促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のカルニチン誘導体を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項1記載のカルニチン誘導体を含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−76975(P2006−76975A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265564(P2004−265564)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】