説明

時系列的パラメータ変化に基づく車輪異常検出装置

【課題】従来の車輪ストロークセンサや車輪上下方向加速度センサを用いてそれらに故障が生じた時または車輪がパンクしたときにそれを精度よく検出し、また滑り止めチェーンの装着時にそれを誤りなく検出することができる車輪異常検出装置を提供する。
【解決手段】車体に対する各車輪の上下方向変位または各車輪の上下方向加速度のいずれかを時系列的に検出し、一の車輪について検出された時系列的変化値を他の複数の車輪について検出された時系列的変化値と比較し、その差が所定の限界値を越えるとき該一の車輪に異常があると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輌に於ける車輪に生じた異常を検出する車輪異常検出装置に係る。但し、本発明が対象とする車輪異常とは、車体に対する車輪の上下方向変位を検出するストロークセンサまたは車輪の上下方向加速度を検出する上下方向加速度センサの故障、タイヤのパンクまたは歪み、および常識的には車輪の異常とは言えないが、滑り止めチェーンの装着は車輪の常態とはいえないことから、滑り止めチェーンの装着を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
前輪駆動車の前輪の振動に基づいて後輪のサスペンションの硬さを予見制御するが、前輪に滑り止めチェーンが装着されたときには上記の予見制御を禁止し、また前輪のサスペンションを柔らかくする制御を行なう車輌に於いて、前輪と後輪の上下動を検出し、その差に基づいて前輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かを検出して上記の制御を行うことが下記の特許文献1に記載されている。この場合、前後左右の4輪に対する車高センサの各出力はFFTへ導かれ、これより特定周波数帯の成分の大きさが算出され、前後左右の4輪に対するその値の比較に基づいて前輪に於ける滑り止めチェーンの装着の有無が判定されるようになっている。
【特許文献1】特開平6−80006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車の如くタイヤ付きの4輪を有する車輌の走行中に生ずる各車輪の上下方向変位や上下方向加速度は、左右の車輪が車幅方向にトレッド寸法だけ互いに隔たり、また前後の車輪が前後方向にホイールベース寸法だけ互いに隔たっていることから、同一の瞬間に同一の路面上には存在せず、またタイヤ付き車輪は固有のばね定数をもって振動的に変形することから、互いに異なったり相互にずれて時差的に発生したりするので、単に各車輪の上下方向変位や上下方向加速度の検出値或いはその特定周波数帯の成分を比較したのでは、相いの差や相互の時差に影響されて、いずれかの車輪についてストロークセンサまたは上下方向加速度センサに故障が生じているか、或いは何れかのタイヤがパンクしているか、または滑り止めチェーンが装着されているか否かの判定に誤りが生じやすい。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑み、従来のストロークセンサや上下方向加速度センサに格別のハードウェア的装置の追加を要することなく、それらに故障が生じた時または車輪がパンクしたときにはそれを精度よく検出し、また滑り止めチェーンの装着時にはそれを誤りなく検出することができる車輪異常検出装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、タイヤ付きの4輪またはそれ以上の車輪を有する車輌の各車輪に生ずる異常を検出する車輪異常検出装置にして、車体に対する各車輪の上下方向変位または各車輪の上下方向加速度のいずれかを時系列的に検出し、一の車輪について検出された時系列的変化値を他の複数の車輪について検出された時系列的変化値と比較し、その差が所定の限界値を越えるとき該一の車輪に異常があると判定することを特徴とする車輪異常検出装置を提案するものである。
【0006】
前記時系列的変化値は、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の最大値であってよい。
【0007】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪のストロークセンサに異常はあると判定されてよい。
【0008】
また、この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されてよい。
【0009】
また、この場合、各車輪のうちの駆動輪の上下方向変位の最大値が非駆動輪の上下方向変位の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されてよい。
【0010】
或はまた、前記時系列的変化値は、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の最大値であってよい。
【0011】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向加速度の最大値が他の複数の車輪の上下方向加速度の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪の上下方向加速度センサに異常があると判定されてよい。
【0012】
また、この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向加速度の最大値が他の複数の車輪の上下方向加速度の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されてよい。
【0013】
また、この場合、各車輪のうちの駆動輪の上下方向加速度の最大値が非駆動輪の上下方向加速度の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されてよい。
【0014】
更にまた、前記時系列的変化値は、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅であってよい。
【0015】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第一の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第一の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されてよい。
【0016】
また、この場合、各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第二の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第二の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されてよい。
【0017】
或はまた、この場合、各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第三の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てにチェーンが装着されていると判定されてよい。
【0018】
また、前記時系列的変化値は、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅であってよい。
【0019】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第四の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第四の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されてよい。
【0020】
また、この場合、各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第五の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第五の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されてよい。
【0021】
或はまた、この場合、各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第六の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てに滑り止めチェーンが装着されていると判定されてよい。
【発明の効果】
【0022】
上記の如く、タイヤ付きの4輪またはそれ以上の車輪を有する車輌の各車輪に生ずる異常を検出する車輪異常検出装置に於いて、車体に対する各車輪の上下方向変位または各車輪の上下方向加速度のいずれかを時系列的に検出し、一の車輪について検出された時系列的変化値を他の複数の車輪について検出された時系列的変化値と比較し、その差が所定の限界値を越えるとき該一の車輪に異常があると判定されるようになっていれば、時系列的変化値が、ホイールベース距離を車輌が進行する間をカバーするような或る適当な時間にわたる値とされれば、各一の車輪についての上下方向変位または上下方向加速度の検出値を、同一の路面上を走行する他の複数の車輪についての上下方向変位または上下方向加速度の検出値と略同一の条件において比較することができ、比較に於ける各車輪の走行条件の違いや相互間の時差的ずれに起因する差により異常判定に誤りが生ずることを排除することができる。
【0023】
前記時系列的変化値が、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の最大値とされれば、上記の時系列的変化値に基づく判定の利点に加えて、車輪の上下方向変位の検出に異常が生じたとき、雑音に紛らわされることなく異常をより確実に判定することができる。
【0024】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪のストロークセンサに異常はあると判定されれば、ストロークセンサの異常は通常その出力低下であるので、これにより、車輪異常をストロークセンサの故障と特定して検出することができる。
【0025】
また、この場合、各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されれば、タイヤがパンクすると車輪の外形が楕円化することにより車輪の上下方向の変位は増大するので、これにより車輪異常をタイヤのパンクと特定して検出することができる。
【0026】
更にまた、この場合、各車輪のうちの駆動輪の上下方向変位の最大値が非駆動輪の上下方向変位の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されたときにはチェーンの凹凸により駆動輪の上下方向変位は増大するので、これにより、車輪異常を駆動輪への滑り止めチェーンの装着と特定して検出することができる。
【0027】
また、前記時系列的変化値が、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の最大値とされれば、上記の時系列的変化値に基づく判定の利点に加えて、車輪の上下方向加速度の検出に異常が生じたとき、雑音に紛らわされることなく異常をより確実に判定することができる。
【0028】
この場合にも、各車輪のうちの一の車輪の上下方向加速度の最大値が他の複数の車輪の上下方向加速度の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪の加速度センサに異常はあると判定されれば、上下方向加速度センサの異常も通常その出力低下であるので、これにより、車輪異常を上下方向加速度センサの故障と特定して検出することができる。
【0029】
また、この場合にも、各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されれば、タイヤのパンクによる車輪外形の楕円化は車輪の上下方向加速度をも増大させるので、これにより車輪異常をタイヤのパンクと特定して検出することができる。
【0030】
更にまた、この場合、各車輪のうちの駆動輪の上下方向加速度の最大値が非駆動輪の上下方向加速度の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、駆動輪への滑り止めチェーンの装着は駆動輪の上下方向加速度をも増大させるので、これにより車輪異常を駆動輪への滑り止めチェーンの装着と特定して検出することができる。
【0031】
また、前記時系列的変化値が、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅とされれば、上記の時系列的変化値に基づく判定の利点に加えて、判定すべき異常の種類に応じて特定周波数を適当に設定することにより、異常の種類を特定しつつその発生をより顕著に判定することができる。
【0032】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第一の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第一の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されれば、タイヤのパンクを車輪の上下方向変位の増大に基づいて時系列的に検出する上記の利点に加えて、前記第一の特定周波数をタイヤのパンクにより生ずる車輪の上下方向変位の周期に対し適当に設定することにより、タイヤのパンクを特定しつつその発生をより顕著に判定することができる。
【0033】
また、この場合、各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第二の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第二の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、滑り止めチェーンの装着により駆動輪の上下方向変位が非駆動輪の上下方向変位より増大することを時系列的に検出する上記の利点に加えて、前記第二の特定周波数を滑り止めチェーンの装着により生ずる車輪の上下方向変位の周期に対し適当に設定することにより、滑り止めチェーンの装着を特定しつつその装着をより顕著に判定することができる。
【0034】
或はまた、この場合、各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第三の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てに滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、滑り止めチェーンの装着により車輪の上下方向変位の周波数は滑り止めチェーンが装着されていないときに比して格段に上昇するので、前記第三の特定周波数をそのような高い周波数の車輪上下方向変位に合わせた適当な値に設定しておくことにより、車輌が4輪駆動車であって全ての車輪にチェーンが装着されているときにも滑り止めチェーンの装着を検出することができる。
【0035】
また、前記時系列的変化値が、各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅とされても、上記の時系列的変化値に基づく判定の利点に加えて、判定すべき異常の種類に応じて特定周波数を適当に設定することにより、異常の種類を特定しつつその発生をより顕著に判定することができる。
【0036】
この場合、各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第四の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第四の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定されれば、タイヤのパンクを車輪の上下方向加速度の増大に基づいて時系列的に検出する上記の利点に加えて、前記第四の特定周波数をタイヤのパンクにより生ずる車輪の上下方向加速度の変化の周期に対し適当に設定することにより、タイヤのパンクを特定しつつその発生をより顕著に判定することができる。
【0037】
また、この場合にも、各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第五の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第五の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、滑り止めチェーンの装着により駆動輪の上下方向加速度が非駆動輪の上下方向加速度より増大することを時系列的に検出する上記の利点に加えて、前記第五の特定周波数を滑り止めチェーンの装着により生ずる車輪の上下方向加速度の変化の周期に対し適当に設定することにより、滑り止めチェーンの装着を特定しつつその装着をより顕著に判定することができる。
【0038】
或はまた、この場合、各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第六の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てに滑り止めチェーンが装着されていると判定されれば、滑り止めチェーンの装着により車輪の上下方向加速度の変化の周波数も滑り止めチェーンが装着されていないときに比して格段に上昇するので、前記第六の特定周波数をそのような高い周波数の車輪上下方向変位に合わせた適当な値に設定しておくことにより、車輌が4輪駆動車であって全ての車輪に滑り止めチェーンが装着されているときにも滑り止めチェーンの装着を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
添付の図1は、本発明による車輪異常検出装置を、4輪自動車に於いて、ハードウエアとしてはその各車輪に対し設けられたストロークセンサまたは荷重センサとマイクロコンピュータを組み込んだ電子制御装置(ECU)とにより実施する場合の、ハードウェア的構成を示す概略図である。4輪の各々に対しストロークセンサまたは荷重センサを設けること、および走行姿勢制御その他の自動制御のために車輌にマイクロコンピュータを組み込んだ電子制御装置を設けることは、現在の4輪自動車の於いては一般的に行われている。従って、ハードウェアとしては、図示の構成は公知である。本発明は、一般の4輪自動車に既設されているこれらのハードウェアを利用し、電子制御装置にソフトウェアとして組み込まれるものである。
【0040】
図示の通り、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪のそれぞれに組み込まれたストロークセンサまたは荷重センサにより検出された各輪の車体対する上下方向変位または各輪に作用する荷重は、電子制御装置の一つの機能として構成された本発明による車輪異常検出部へ供給されるようになっている。
【0041】
図2は、本発明の一つの実施の形態として、図1の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の一例を示すフローチャートである。かかるフローチャートに沿った制御は、車輌の運転中、数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返されてよいものである。
【0042】
制御が開始されると、ステップ10に於いて、車輪を特定する数値nが制御開始時に0にリセットされ、或は前回のフローのステップ260に於いて0にリセットされた状態から始まって、1だけ増分される。ここでは、n=1,2,3,4がそれぞれへ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪を指定するものとする。従って、先ず最初にnが1とされた状態で進行する演算は左前輪についてのもとなる。
【0043】
次いで、制御はステップ20へ進み、カウント値mが同じく制御開始時に0にリセットされ、或は前回のフローのステップ80に於いて0にリセットされた状態から1だけ増分される。カウント値mは各車輪についての車体に対する上下方向変位(サスペンションのストローク)の或る期間内に於ける最大値を検出するために繰り返される検出の回数を示す値である。
【0044】
次いで、制御はステップ30へ進み、n車輪についてのm回目の検出による上下方向変位S(n,m)の値が検出される。尚、図1に於いて括弧付にて示した如く、ストロークセンサに代えて荷重センサが使用されるときには、S(n,m)として荷重センサにより検出される各車輪の上下方向荷重(接地荷重)が用いられてよい。サスペンションに於ける車輪の上下方向変位と荷重とはサスペンションのばね定数を介して一義的に対応するので、ここでは明細書の記載が徒に煩雑化するのを避けるため、本発明の目的、作用、効果に関する限り、車輪の上下方向変位と荷重とは同義であるとする。
【0045】
次いで、制御はステップは40へ進み、今回のフローに於いて検出された上下方向変位S(n,m)が前回のフローに於いて検出された上下方向変位S(n,m-1) より大きいか否かが判断される。mが1である初回のフローに於いては、前回のフローは存在しないので、S(n,m-1)の値は制御開始時にセットされた0または前回のフローに於ける最終値である。答がイエス(Y)であれば、制御はステップを50へ進み、今回のS(n,m)がS(n)とされる。これに対し、答がノー(N)であれば、制御はステップ60へ進み、前回のS(n,m-1)がS(n)とされる。
【0046】
いずれにしても、次いで、制御はステップ70へ進み、mがmo以上であるか否かが判断される。moは検出繰り返し回数mの上限値であり、このmoにフロー繰り返しの周期を乗じた値が車輪nについての1回の上下方向変位の最大値を検出する期間(時間)となる。ステップ70の答がノーである間、制御はステップ20へ戻り、ステップ20〜70の処理が繰り返され、その間のS(n)の検出値のうちの最大のものがS(n)とされ、こうしてS(n)についての最大値が検出される。ステップ70の答がイエスになると,制御はステップ80へ進み、mが0にリセットされる。
【0047】
次いで、ステップ90に於いて、nが4より大きいか否かが判断される。4輪の処理が終わるまで答はノーであり、制御はステップ10へ戻り、nを1増大させ、検出値対象を次の車輪に変えて、ステップ20〜80が上述の要領にて繰り返される。こうしてn=1〜4、即ち、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の各々について、所定期間内に於ける上下方向変位の最大値S(1),S(2),S(3),S(4)が求められる。4輪についての上下方向変位の最大値の算出が終わり、ステップ90の答がイエスになると、制御はステップ100へ進む。
【0048】
ステップ100於いては、S(1),S(2),S(3),S(4)を足し合わせてStが算出される。
【0049】
次いで、制御はステップ110へ進み、nが0にリセットされ、更に制御はステップ120へ進み、nが1だけ増分され、更に制御はステップ130へ進む。
【0050】
ステップ130に於いては、StよりS(n)を差し引いた値を3で割ってSa(n)が算出される。Sa(n)は、n輪を除く他の3輪の上下方向変位の最大値の平均値である。
【0051】
次いで、制御はステップ140へ進み、S(n)がSa(n)よりある所定の偏差ΔS1以上に小さいか否かが判断される。ここでΔS1が或る適当な値に設定されれば、答がイエスであるときには、n輪について検出された上下方向変位の最大値がn輪を除く他の3輪の上下方向変位の最大値の平均値に比して際立って小さく、n輪に対するストロークセンサ(または荷重センサ)に異常が生じていると疑うことがでる。ただ、ステップ140の答が一度イエスになったことで直ちにn輪に対するストロークセンサ(または荷重センサ)に異常が生じと判定したのでは、誤判定が生ずる恐れがあるので、このとき制御はステップ150へ進み、n輪に関するセンサフェイルのカウント値Cf(n)を制御開始時または後述のステップ340にて0にリセットされた状態から1だけ増大させることが行われる。そして、この時には、更に制御はステップ160へ進み、カウント値Cf(n)が或る所定の限界値Cfoを越えたか否かが判断される。そして、答がイエスであれば、制御はステップ170へ進み、n輪に対するストロークセンサ(または荷重センサ)が故障したと判定される。これに対し、ステップ140の答がノーであるとき、またはステップ160の答がノーである間は、制御はステップ170をパイパスする。
【0052】
続くステップ180に於いては、nが4を越えたか否かが判断される。そして答がノーである間、制御はステップ120へ戻り、4輪について順次同様の処理が繰り返され、4輪の何れかに対するストロークセンサ(または荷重センサ)に故障が生じたときには、そのことが判定される。
【0053】
図示の実施の形態に於いては、これに続いて4輪のいずれかにパンクが生じたか否かの判定が行われる。先ず、制御はステップ190へ進み、再びnが0にリセットされ、以下のステップ200〜250を繰り返す度にnが1ずつ増大されて4輪についての同様の処理が行われる。
【0054】
この場合、続くステップ210に於いては、上に算出されたS(n)がSa(n)に比して或る偏差ΔS2以上に大きいか否かが判断される。これは、タイヤがパンクしたときには車輪の上下方向変位が異常に増大するので、そのことを検出するものである。偏差ΔS2の値は、かかるパンク検出の目的に適した大きさとされる。この場合にも、ステップ210の答が一度イエスになっただけで、その車輪にパンクが生じたと判定したのでは誤判定が生ずる恐れがあるので、ステップ210の答がイエスとなる度に制御はステップ220へ進み、その回数が制御開始時または後述のステップ340にて0にリセットされたカウント値Cp(n)として計数される。そして、このカウント値が或る適当に設定された限界値Cpoを越えたとき、制御はステップ240へ進み、n輪のタイヤがパンクしたと判定される。ステップ200〜250の処理が終了すると、制御はステップ260へ進み、nが0にリセットされる。
【0055】
図示の実施の形態に於いては、これに続いて駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かを判定することが行われる。制御はステップ270へ進み、車輌は後輪駆動車であるとして、そのためステップ270に於いては、駆動輪である左右の後輪(n=3,4)についての上に検出された車輪上下方向変位の最大値S(3)とS(4)の和がSdrとして計算され、また非駆動輪である左右の前輪(n=1,2)についての上に検出された車輪上下方向変位の最大値S(1)とS(2)の和がSndとして計算される。
【0056】
次いで、制御はステップ280へ進み、上に算出されたSdrがSndに比して或る偏差ΔS3以上に大きいか否かが判断される。これは、滑り止めチェーンを装着された駆動輪の上下方向変位が滑り止めチェーンを装着されない非駆動輪の上下方向変位に比して増大するので、そのことを検出するものである。偏差ΔS3の値は、かかる滑り止めチェーンの装着を検出する目的に適した大きさとされる。この場合にも、ステップ280の答が一度イエスになっただけで、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定したのでは誤判定が生ずる恐れがあるので、ステップ280の答がイエスとなる度に制御はステップ290へ進み、その回数が制御開始時または後述のステップ340にてに0にリセットされたカウント値Ccとして計数される。そして、このカウント値が或る適当に設定された限界値Ccoを越えたとき、制御はステップ310へ進み、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定される。
【0057】
カウント値Cf(n)、Cp(n)、Ccは、以上のステップのままでは、フローが繰り返される間、引き続いて保持され、時として誤判断によりCf(n)、Cp(n)、或いはCcがカウントアップされると、運転時間が長引けば、これらの値がCfo、Cpo、或いはCcoに達し、ストロークセンサ(または荷重センサ)に故障がなくても故障があるかの如く誤判定され、車輪にパンクがなくても車輪にパンクがあるかの如く誤判定され、或いは駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていなくてもそれが装着されているかの如く誤判定される恐れがある。そこで、ステップ270〜310の終了後、制御はステップ320へ進み、このフローを通った処理の回数がカウント値Ctとして制御開始時または後述のステップ340にて0にセットされた状態から計数される。
【0058】
次いで、ステップ330に於いて、Ctが或る所定の限界値Ctoを越えたか否かが判断される。この限界値Ctoは、誤判断によりCf(n)、Cp(n)、或いはCcがカウントアップされたとしても、このフローを通る処理の回数がCtoに達する迄に、それがCfo、Cpo、或いはCcoに達しないようであれば、ストロークセンサ(または荷重センサ)に故障はなく、車輪にパンクはなく、駆動輪に滑り止めチェーンは装着されていないとしてCf(n)、Cp(n)、Ccを一度キャンセルして0にリセットするに適した値とされる。そして、ステップ330の答がイエスになると、制御はステップ340へ進み、Cf(n)、Cp(n)、Ccが0にリセットされると共にCtもまた0にリセットされる。ステップ330の答がノーである間は、ステップ340はバイパスされる。その後、制御は所定の周期にてスタートに戻り、同様の制御が繰り返される。
【0059】
こうして、図示の実施の形態に於いては、各回のフローに於いて、何れかの車輪に対するストロークセンサ(または荷重センサ)に故障があるか否かの判定と、何れかの車輪にパンクが生じたか否かの判定と、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かの判定とが、一連の処理として行われる。
【0060】
図3は、図1に於けるストロークセンサを上下方向加速度センサにより置き換えた本発明による車輪異常検出装置のハードウェア的構成を示す概略図である。この場合にも、4輪の各々に対し上下方向加速度センサを設けることは公知であり、従って、ハードウェアとしては、図示の構成は公知である。図示の通り、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪のそれぞれに組み込まれた上下方向加速度センサにより検出された各輪の上下方向加速度は、電子制御装置の一つの機能として構成された本発明による車輪異常検出部へ供給されるようになっている。
【0061】
図4は、本発明の一つの実施の形態として、図3の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の一例を示すフローチャートである。図4のフローチャートに於いては、図2のフローチャートに於けるステップに対応するステップは、図2に於けると同じステップ番号により示されている。これらの対応するステップについての重複的説明は、明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0062】
図4のフローチャートに於いては、ステップ35に於いて、各車輪に対し設けられた上下方向加速度センサ(Gセンサ)により、車輪nについての計測回mに於ける上下方向加速度Fs(n,m)が検出される。
【0063】
次いで、制御はステップを45へ進み、今回のフローに於いて検出された上下方向加速度Fs(n,m)が前回のフローに於いて検出された上下方向加速度Fs(n,m-1)より大きいか否かが判断される。答がイエスであれば、制御はステップを55へ進み、今回のFs(n,m)がFs (n)とされる。これに対し、答がノーであれば、制御はステップ65へ進み、前回のFs (n,m-1)がFs (n)とされる。
【0064】
ステップ70および90の判断によりm回の検出を各車輪について繰り返した後、ステップ105に於いて、左前輪、右前輪、左後輪、右後輪の各々について、所定期間内に於ける上下方向加速度の最大値Fs(1),Fs (2),Fs (3),Fs (4)を足し合わせてFstが算出される。
【0065】
ステップ135に於いては、FstよりFs (n)を差し引いた値を3で割ってFsa(n)が算出される。Fsa(n)は、n輪を除く他の3輪の上下方向加速度の最大値の平均値である。
【0066】
次いで、制御はステップ145へ進み、Fs (n)がFsa(n)よりある所定の偏差ΔF1以上に小さいか否かが判断される。ここでΔF1が或る適当な値に設定されれば、答がイエスであるときには、n輪について検出された上下方向加速度の最大値がn輪を除く他の3輪の上下方向加速度の最大値の平均値に比して際立って小さく、n輪に対する上下方向加速度センサに異常が生じていると疑うことがでる。この場合にも、ステップ145の答が一度イエスになったことで直ちにn輪に対する上下方向加速度センサに異常が生じと判定したのでは、誤判定が生ずる恐れがあるので、ステップ150および160による確認が行われる。そして、ステップ160の答がイエスになれば、制御はステップ175へ進み、n輪に対する上下方向加速度センサが故障したと判定される。
【0067】
上記の処理が4輪について行われた後、この実施の形態に於いても、続いて4輪のいずれかにパンクが生じたか否かの判定が行われる。
【0068】
この場合、ステップ215に於いては、Fs(n)がFsa(n)に比して或る偏差ΔF2以上に大きいか否かが判断される。これも、タイヤがパンクしたときには車輪の上下方向加速度が異常に増大するので、そのことを検出するものであり、偏差ΔF2の値は、そのようなパンク検出の目的に適した大きさとされる。
【0069】
この場合にも、ステップ215の答が一度イエスになっただけで、その車輪にパンクが生じたと判定したのでは誤判定が生ずる恐れがあるので、ステップ220と230による確認が行われ、カウント値Cp(n)が限界値Cpoを越えたとき、n輪のタイヤがパンクしたと判定される。
【0070】
また、この実施の形態に於いても、続いて、車輌は後輪駆動車であるとして、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かの判定が行われる。ステップ275に於いて、駆動輪である左右の後輪(n=3,4)についての上に検出された車輪上下方向加速度の最大値Fs(3)とFs(4)の和がFsdrとして計算され、また非駆動輪である左右の前輪(n=1,2)についての車輪上下方向加速度の最大値Fs(1)とFs(2)の和がFsndとして計算され、ステップ285に於いて、FsdrがFsndに比して或る偏差ΔF3以上に大きいか否かが判断される。
【0071】
この場合にも、ステップ285の答が一度イエスになっただけで、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定したのでは誤判定が生ずる恐れがあるので、ステップ290と300により同様の確認が行われる。
【0072】
図5は、本発明の更に他の一つの実施の形態として、図1の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の他の一例を示すフローチャートである。かかるフローチャートに沿った制御もまた、車輌の運転中、数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返されてよいものである。
【0073】
制御が開始されると、ステップ410に於いて、車輪を特定する数値nが制御開始時に0にリセットされ、或は前回のフローのステップ550に於いて0にリセットされた状態から始まって1だけ増分される。n=1,2,3,4もそれぞれへ左前輪、右前輪、左後輪、右後輪を指定するものとする。
【0074】
次いで、制御はステップ420へ進み、n車輪についての現時点tに於ける上下方向変位S(n,t)の値が検出される。
【0075】
次いで、制御はステップを430 へ進み、S(n,t)をFFT(Fast Fourier Transformer)にて処理することにより、n輪の上下方向変位の値の所定の期間にわたる分布を周波数に対する振幅P(n,f)の分布に変換することが行われる。この各期間は次のステップ440に於ける時間toによって設定される。かかる処理は、ステップ450に於ける判断に基づいて4輪のそれぞれについて行われる。
【0076】
次いで、制御はステップ460へ進み、ここで一旦nを0にリセットした後、制御はステップ470へ進む。
【0077】
ステップ470に於いては、4輪の各々についてのP(1,f),P(2,f),P(3,f),P(4,f)より或る第一の特定の周波数f1に於けるPの値であるP(1,f1),P(2,f1),P(3,f1),P(4,f1) を選択して足し合わせ,特定周波数f1に対する振幅Pの4輪合計値Pf1tが算出される。この第一の特定周波数f1は、車輪がパンクしたとき車輪の上下方向変位の変化に生ずる周波数を見分けるものとして適当な周波数とされる。
【0078】
次いで、制御はステップ480へ進み、nが1から始まって毎回1ずつ増大され、各車輪について以下の処理が行われる。
【0079】
ステップ490に於いては、Pf1tよりP(n,f1)を差し引いた値を3にて割ることにより、n輪を除く他の3輪のP(n,f1)の平均値Pf1a(n)が算出される。
【0080】
次いで、制御はステップ500へ進み、P(n,f1)がPf1a(n)よりある所定の偏差ΔPf1以上に大きいか否かが判断される。これは、タイヤがパンクしたときには車輪の上下方向変位が異常に増大するので、そのことを検出するものであるが、特にこの場合、周波数f1が適切に選択されると、タイヤのパンクによる車輪の上下方向変位の異常増大が、誤判断されることなく、確実に判断されるようにすることができる。偏差ΔPf1の値は、かかるパンク検出の目的に適した大きさとされる。
【0081】
この場合にも、ステップ500の答が一度イエスになっただけで、その車輪にパンクが生じたと判定したのでは、やはり誤判定が生ずる恐れがあるので、図2または図4のフローチャートに於けるステップ220および230と同様のステップ510および520により確認が行われた後、制御がステップ530に至ったときには、n輪のタイヤがパンクしたと判定される。ステップ480〜540の処理が終了すると、制御はステップ550へ進み、nが0にリセットされる。
【0082】
この実施の形態に於いても、続いて制御はステップ560へ進み、車輌は後輪駆動車であるとして、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かを判定することが行われる。そのため、ステップ560に於いては、上に算出された4輪の各々についてのP(1,f),P(2,f),P(3,f),P(4,f)より、或る第二の特定の周波数f2に於ける後輪(n=3,4)のPの値であるP(3,f2),P(4,f2)が選択されて足し合わされてPf2drとされ、また前輪(n=1,2)のPの値であるP(1,f2),P(2,f2)が選択されて足し合わされてPf2ndとされる。この第二の特定周波数f2は、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているとき車輪の上下方向変位に生ずる周波数を見分けるものとして適当な周波数とされる。
【0083】
次いで、制御はステップ570へ進み、上に算出されたPf2drがPf2ndに比して或る偏差ΔPf2以上に大きいか否かが判断される。偏差ΔPf2は滑り止め比チェーンを装着された駆動輪の上下方向変位が滑り止めチェーンを装着されない非駆動輪の上下方向変位に比して増大することを周波数f2に基づいて検出する目的に適した大きさとされる。この場合にも、ステップ570の答が一度イエスになっただけで、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定したのでは、やはり誤判定が生ずる恐れがあるので、図2または図4のフローチャートに於けるステップ290および300と同様のステップ580および590により確認が行われた後、制御がステップ600に至ったときには、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定される。
【0084】
図6は、図5のフローチャートに於けるステップ560および570に代わる変更例を示すステップである。これは、4輪駆動車に於いて前輪および後輪の両方に滑り止めチェーンが装着される場合に、その装着を判定する場合に適用される。
【0085】
この場合、ステップ562に於いては、チェーンの装着により車輪の上下方向変位の周波数はチェーンが装着されていないときに比して格段に上昇するので、そのような高い第三の特定周波数f3に於ける各輪のP値であるP(1,f3),P(2,f3),P(3,f3),P(4,f3)を選択してこれらを足し合わせてPf3tが算出され、ステップ572に於いては、Pf3tが駆動輪への滑り止めチェーンの装着を示す適当な限界値Pf3o以上であるか否かが判断される。こうすることにより、車輌が4輪駆動車であって全ての車輪にチェーンが装着されているときにも、チェーンの装着を検出することができる。
【0086】
この場合にも、滑り止めチェーンの装着判定のステップの実行後、図2または図4のフローチャートに於けるステップ320〜340と同様のステップ610〜630が行われ、適当なフロー回数を置いてカウント値Cp(n),Cc,Ctのリセットが行われる。
【0087】
図7は、本発明の更に他の一つの実施の形態として、図3の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の他の一例を示すフローチャートである。図7のフローチャートに於いては、図5のフローチャートに於けるステップに対応するステップは、図5に於けると同じステップ番号により示されている。これらの対応するステップについての重複的説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0088】
図7のフローチャートに於いては、ステップ425に於いて、各車輪に対し設けられた上下方向加速度センサ(Gセンサ)により、車輪nについて現時点tに於ける上下方向加速度Fs(n,t)が検出される。そして、ステップ435に於いては、Fs(n,t)をFFTにて処理することにより、n輪の上下方向加速度の値の所定の期間にわたる分布を周波数に対する振幅Q(n,f)の分布に変換することが行われる。
【0089】
この場合にも、ステップ450に於ける判断に基づいて4輪のそれぞれについてQ(n,f)の算出を行い、ステップ460にて一旦nを0にリセットした後、ステップ475に於いては、4輪の各々についてのQ(1,f),Q(2,f),Q(3,f),Q(4,f)より或る第四の特定の周波数f4に於けるQの値であるQ(1,f4),Q(2,f4),Q(3,f4),Q(4,f4) を選択して足し合わせ,特定周波数f4に対するQの4輪合計値Qf4tが算出される。この第四の特定周波数f4は、車輪のタイヤがパンクしたとき車輪の上下方向加速度の変化に生ずる周波数を見分けるものとして適当な周波数とされる。
【0090】
次いで、制御はステップ480にてnを1から始まって毎回1ずつ増大しつつ各車輪について処理が行われるが、ステップ495に於いては、Qf4tよりQ(n,f4)を差し引いた値を3にて割ることにより、n輪を除く他の3輪のQ(n,f4)の平均値Qf4a(n)が算出される。
【0091】
次いで、制御はステップ505へ進み、Q(n,f4)がQf4a(n)よりある所定の偏差ΔQf4以上に大きいか否かが判断される。これは、タイヤがパンクしたときの車輪の上下方向加速度の異常増大を、特にそれが顕著に確認できる周波数f4を選択し、誤判断されることなく、確実に判断しようとするものである。
【0092】
この場合にも、ステップ505の答が一度イエスになっただけで、その車輪にパンクが生じたと判定したのでは、やはり誤判定が生ずる恐れがあるので、図2または図4のフローチャートに於けるステップ220および230と同様のステップ510および520により確認が行われた後、制御がステップ530に至ったときには、n輪のタイヤがパンクしたと判定され、ステップ480〜540の処理が終了すると、制御はステップ550へ進み、nが0にリセットされる。
【0093】
また、この実施の形態に於いても、続いて制御はステップ565へ進み、車輌は後輪駆動車であるとして、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているか否かを判定することが行われる。そのためステップ565に於いては、上に算出された4輪の各々についてのQ(1,f),Q(2,f),Q(3,f),Q(4,f)より、或る第五の特定の周波数f5に於ける後輪(n=3,4)のQの値であるQ(3,f5),Q(4,f5)が選択されて足し合わされてQf5drとされ、また前輪(n=1,2)のQの値であるQ(1,f5),Q(2,f5)が選択されて足し合わされてQf5ndとされる。この第五の特定周波数f5も、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されているとき車輪の上下方向加速度の変化に生ずる周波数を見分けるものとして適当な周波数とされる。
【0094】
次いで、制御はステップ575へ進み、上に算出されたQf5drがQf5ndに比して或る偏差ΔQf5以上に大きいか否かが判断される。偏差ΔQf5は滑り止め比チェーンを装着された駆動輪の上下方向加速度が滑り止めチェーンを装着されない非駆動輪の上下方向変位に比して増大することを周波数f5に基づいて検出する目的に適した大きさとされる。この場合にも、ステップ575の答が一度イエスになっただけで、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定したのでは、やはり誤判定が生ずる恐れがあるので、図2または図4のフローチャートに於けるステップ290および300と同様のステップ580および590により確認が行われた後、制御がステップ600に至ったときには、駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定される。
【0095】
図8は、図7のフローチャートに於けるステップ565および575に代わる変更例を示すステップである。これは、4輪駆動車に於いて前輪および後輪の両方に滑り止めチェーンが装着される場合に、その装着を判定する場合に適用される。
【0096】
この場合、ステップ567に於いては、チェーンの装着により車輪の上下方向加速度の周波数もチェーンが装着されていないときに比して格段に上昇するので、そのような高い第六の特定周波数f6に於ける各輪のQ値であるQ(1,f6),Q(2,f6),Q(3,f6),Q(4,f6)を選択してこれらを足し合わせてQf6tが算出され、ステップ577に於いては、Qf6tが駆動輪への滑り止めチェーンの装着を示す適当な限界値Qf6o以上であるか否かが判断される。こうすることにより、車輌が4輪駆動車であって全ての車輪にチェーンが装着されているときにもチェーンの装着を検出することができる。
【0097】
以上に於いては本発明をいくつかの実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明による車輪異常検出装置の一つのハードウェア的構成を示す概略図。
【図2】図1の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の一例を示すフローチャート。
【図3】本発明による車輪異常検出装置の他の一つのハードウェア的構成を示す概略図。
【図4】図3の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の一例を示すフローチャート。
【図5】図1の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の他の一例を示すフローチャート。
【図6】図5のフローチャートに於けるステップ560および570に代わる変更例を示すステップ。
【図7】図3の電子制御装置に於ける車輪異常検出部に於いて行われる制御の他の一例を示すフローチャート。
【図8】図5のフローチャートに於けるステップ565および575に代わる変更例を示すステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ付きの4輪またはそれ以上の車輪を有する車輌の各車輪に生ずる異常を検出する車輪異常検出装置にして、車体に対する各車輪の上下方向変位または各車輪の上下方向加速度のいずれかを時系列的に検出し、一の車輪について検出された時系列的変化値を他の複数の車輪について検出された時系列的変化値と比較し、その差が所定の限界値を越えるとき該一の車輪に異常があると判定することを特徴とする車輪異常検出装置。
【請求項2】
前記時系列的変化値は各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の最大値であることを特徴とする請求項1に記載の車輪異常検出装置。
【請求項3】
前記各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪のストロークセンサに異常があると判定すること特徴とする請求項2に記載の車輪異常検出装置。
【請求項4】
前記各車輪のうちの一の車輪の上下方向変位の最大値が他の複数の車輪の上下方向変位の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定すること特徴とする請求項2に記載の車輪異常検出装置。
【請求項5】
前記各車輪のうちの駆動輪の上下方向変位の最大値が非駆動輪の上下方向変位の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項2に記載の車輪異常検出装置。
【請求項6】
前記時系列的変化値は各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の最大値であることを特徴とする請求項を1に記載の車輪異常検出装置。
【請求項7】
前記各車輪のうちの一の車輪の上下方向加速度の最大値が他の複数の車輪の上下方向加速度の最大値の平均値より所定値以上小さいとき該一の車輪の上下方向加速度センサに異常があると判定すること特徴とする請求項6に記載の車輪異常検出装置。
【請求項8】
前記各車輪のうちの一の車輪の上下方向加速度の最大値が他の複数の車輪の上下方向加速度の最大値の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定すること特徴とする請求項6に記載の車輪異常検出装置。
【請求項9】
前記各車輪のうちの駆動輪の上下方向加速度の最大値が非駆動輪の上下方向加速度の最大値より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項6に記載の車輪異常検出装置。
【請求項10】
前記時系列的変化値は各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向変位の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅であることを特徴とする請求項1に記載の車輪異常検出装置。
【請求項11】
前記各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第一の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第一の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定すること特徴とする請求項10に記載の車輪異常検出装置。
【請求項12】
前記各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第二の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第二の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項10に記載の車輪異常検出装置。
【請求項13】
前記各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第三の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てに滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項10に記載の車輪異常検出装置。
【請求項14】
前記時系列的変化値は各車輪について所定の周期的検出により所定回数または所定期間検出された上下方向加速度の分布を周波数分布に置き換えたときの特定周波数に対する振幅であることを特徴とする請求項を1に記載の車輪異常検出装置。
【請求項15】
前記各車輪のうちの一の車輪の前記周波数分布に於ける第四の特定周波数に対する振幅が他の複数の車輪の前記周波数分布に於ける前記第四の特定周波数に対する振幅の平均値より所定値以上大きいとき該一の車輪のタイヤがパンクしたと判定すること特徴とする請求項14に記載の車輪異常検出装置。
【請求項16】
前記各車輪のうちの駆動輪の前記周波数分布に於ける第五の特定周波数に対する振幅が非駆動輪の前記周波数分布に於ける前記第五の特定周波数に対する振幅より所定値以上大きいとき該駆動輪に滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項14に記載の車輪異常検出装置。
【請求項17】
前記各車輪が全て駆動輪であって各車輪の前記周波数分布に於ける第六の特定周波数に対する振幅が所定値以上であるとき該駆動輪の全てに滑り止めチェーンが装着されていると判定すること特徴とする請求項14に記載の車輪異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−137303(P2007−137303A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335403(P2005−335403)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】