有効成分の生体界面への改善された放出を確保する経皮送達装置
1つ又は複数の活性薬剤を対象の生体界面へ能動的に経皮送達するための経皮薬剤送達システムを提供する。経皮薬剤送達システムは基材と活性薬剤層とを備える。活性薬剤層は、増粘剤及び治療に有効な量のイオン性活性薬剤を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活性薬剤の局所投与及び経皮投与の分野に関し、より詳細には、受動拡散によって活性薬剤を生体界面へ経皮的に送達するシステム、装置及び方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許仮出願第60/938,961号(2007年5月18日出願)、米国特許仮出願第60/955,850号(2007年8月14日出願)、米国特許仮出願第60/956,895号(2007年8月20日出願)、及び米国特許仮出願第60/957,126号(2007年8月21日出願)の、米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
例えば、カプセル、注射剤、軟膏及び丸剤の形態で従来投与されている活性薬剤は、通常、パルス(pulses)として体内に投与され、血流及び組織内に活性薬剤濃度の大きな変動をもたらし、結果として効力及び毒性の好ましくないパターンをもたらす。例えば、閉塞性呼吸器疾患の治療に関して従来投与されている活性薬剤としては一般的に、吸入デバイス(例えば吸入器)を用いて通常投与される吸入エアロゾル及び吸入溶液が挙げられる。一般的に、吸入機器は、手動ポンプが取り付けられた加圧されたキャニスター内に、溶液中に貯蔵された活性薬剤、薬物又は薬を有する。標準的な吸入機器を使用するために、ユーザーは初めに息を吐き出し、次に吸入機器のマウスピースの端を口内に挿入する。そしてマウスピースの端を口内に保持したまま吸入機器のポンプを手で動かす必要があり、その上、ユーザーは、活性薬剤又は薬物又は薬剤が吐き出されることなく体内への吸収が見込まれるように、必要とされる時間にわたって呼吸を維持しなければならない。ユーザーによっては、吸入機器を使用しにくいと考えるであろう。例えば、吸入機器のユーザーには、吸入機器を物理的に操作し且つ駆動させる能力が要求される。若年のユーザー又は虚弱なユーザーにとっては、吸入機器を適切に使用するために必要な上記の連係操作の習得が困難な可能性がある。また、必要とされる時間にわたって呼吸を維持する能力のないユーザーも同様に、吸入機器を利用することができないであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、例えば閉塞性呼吸器疾患を治療するために経皮送達装置を用いるような、活性薬剤を投与するための代替的なモデルを提供するニーズが存在する。
【0005】
人体の最も範囲の広い器官である皮膚は、全身性薬剤投与のための痛みのない適合性界面をなす。注射及び経口投与ルートに比べて、経皮の薬剤送達は、患者のコンプライアンスを向上させ、肝臓による代謝を回避し、長期間にわたる持続送達及び制御送達を提供する。経皮送達は場合によって、例えば、胃腸刺激、低吸収、初回通過効果(もしくは、初回通過代謝又は肝臓効果)による分解、副作用を起こす代謝物の形成、及び頻繁な投薬を必要とする短い半減期等の、活性薬剤に関する特有の問題を取り除くことにより療法的価値を増大させることができる。
【0006】
皮膚は最も広範囲且つ容易に接触可能な器官の1つであるが、比較的厚く、また構造上複雑である。このため、歴史的に、ある種の活性薬剤を経皮的に送達させることは困難であった。傷のない皮膚を介して血流又はリンパ管中に移行させるためには、活性薬剤を、角質層(即ち、表皮の最外層)、生存表皮、真皮乳頭層、及び毛細血管壁を含む、組織の多重かつ複雑な層に透過させなければならない。一般的に、脂質のマトリクス中に埋め込まれた扁平細胞から成る角質層は、局所組成物又は経皮投与される薬剤の吸収に対する主なバリアであると考えられている。
【0007】
皮膚の親油性によって、水溶性薬剤又は親水性薬剤は、親油性薬剤よりもゆっくりと拡散することが予想される。脂質ベースの透過増強剤(例えば、植物油を含む疎水性有機物質)は、拡散速度を改善させ得ることがあるが、このような透過増強剤は親水性薬剤と十分に混合しない。例えば、呼吸器作用薬であるプロカテロールを送達させるための経皮ビヒクルの開発は、数多くの困難に直面している。プロカテロールは高親水性であるため、疎水性有機物質と組み合わせる場合には皮膚を介する送達が不可能であった。
【0008】
経皮送達装置又は薬学的に許容可能なビヒクルの商業的な受入れは、製造コスト、保存寿命、貯蔵時の安定性、活性薬剤送達の有効性及び/又は適時性、生物学的機能、並びに/又は廃棄問題を含む様々な因子に左右される。経皮送達装置又は薬学的に許容可能なビヒクルの商業的な受入れはまた、それらの汎用性及び使い易さにも左右される。
【0009】
本開示は、上記の欠点の1つ又は複数を克服し、及び/又はさらなる関連する利点を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
経皮送達装置(transdermal delivery device(s))及び局所製剤を記載する。種々の実施の態様において、イオン化可能な活性薬剤及びイオン化された活性薬剤は、皮膚を介して受動的に透過し、血流に至りそして最終的には全身に送達される。
【0011】
一つの態様は、基材(backing substrate)及び活性薬剤層を含み、前記活性薬剤層は、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、前記活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を説明する。
【0012】
さらなる態様は、増粘剤、イオン化された活性薬剤及び水性媒体を含む局所製剤であり、実質的にオイルフリーである局所製剤を説明する。
【0013】
さらに別の態様は、基材と活性薬剤層を含み、該活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、該活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を対象の皮膚に適用すること(applying)、及び
前記イオン化可能な活性薬剤を、前記イオン化された活性薬剤へと解離させること、
を含む、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を説明する。
【0014】
図面中、同一の参照番号は類似の要素又は行為を特定するものである。図面中の要素のサイズ及び相対的な位置は、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。例えば、様々な要素の形状及び角度は、一定の縮尺で描かれておらず、これらの要素のいくつかは、図面の視認性を向上させるように適宜に拡大及び配置されている。さらに、描かれているような要素の特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関するいかなる情報も付与することを意図しておらず、図面中での認識し易さのために選択されているに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】例示される一つの態様による経皮薬剤送達装置の作用側の等角図である。
【図2】図2Aは例示される一つの態様による図1の経皮送達装置の作用側の平面図である。図2Bは例示される一つの態様による図1の経皮送達装置の分解図である。
【図3】例示される一つの態様による経皮送達装置の作用側底部の等角図である。
【図4】図4Aは例示される一つの態様による経皮送達装置の作用側の平面図である。図4Bは例示される一つの態様による経皮送達装置の分解図である。
【図5】イオンフラックス誘起電場を概略的に図示した図である。
【図6】イオンの経時的(Δt)な移動を示す図である。
【図7】イオン透過を試験するためのH型フランツセルを概略的に示す図である。
【図8】図8A〜8Cは電位差がイオンの移動にどのような影響を与えるのかを図示した図である。
【図9】皮膚内におけるプロカテロールカチオンの透過率と、プロカテロール塩酸塩の濃度との関係を示す図である。
【図10】図7のフランツセルを用いて多くの種々の濃度で測定した、ヘアレスマウスの皮膚に経時的に送達される水性プロカテロールの実際量を示す図である。
【図11】図10における実測値と比較される計算値を示す図である。
【図12】ジクロフェナクナトリウムの濃度と、ジクロフェナクアニオンの皮膚への送達率との関係を示す図である。
【図13】イオン拡散の結果として皮膚内に生じる電位差を示す図である。
【図14】測定結果と図13の計算(予測)結果とを比較する図である。
【図15】AA2Gの濃度と、皮膚内のAA2G−イオンとの関係を示す図である。
【図16】皮膚内に生じる電位差を示す図である。
【図17】計算結果と実験結果との比較を示す図である。
【図18】リドカイン塩酸塩の濃度と、皮膚内へ送達されるリドカインカチオンとの関係を示す図である。
【図19】皮膚内におけるリドカイン塩酸塩の送達時に生じる電位差を示す図である。
【図20】リドカイン塩酸塩の透過の計算値と実際の実験値との比較を示す図である。
【図21】例示される一つの態様による、経皮薬剤送達装置を製造する例示的な方法の流れ図である。
【図22】図22A〜22Cは例示される一つの態様によるスピンコーティングプロセスを示す図である。
【図23A】例示される一つの態様による、頻度対粒径の動的光散乱測定プロットである。
【図23B】例示される一つの態様による、HPCとプロカテロール塩酸塩との相互作用を示す活性薬剤層の断面図である。
【図24】例示される一つの態様による、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を予防するか又は処置する例示的な方法の流れ図である。
【図25−1】図25Aは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価する試験拡散セルの分解図である。
【図25−2】図25Bは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価するフランツ試験拡散セルの分解図である。図25Cは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価するフランツ試験拡散セルの非分解図である。
【図26】例示される一つの態様による、送達されるプロカテロール塩酸塩対時間のプロットである。
【図27】例示される一つの態様による、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの例示的な透過プロファイル対時間のプロットである。
【図28】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図29】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図30】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図31】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図32】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明において、或る特定の詳細は、種々の開示された態様の十分な理解を提供するように記載されるものである。しかしながら、当業者は、これらの特定の詳細の1つ又は複数がなくても、又は他の方法、構成要素、材料等によって態様を実施し得ることを認識するであろう。他の例では、限定するものではないが、輸送及び保存時に送達装置を保護する保護被覆及び/又は保護のためのライナーを含む、送達装置に関する既知の構造体は、態様の説明をいたずらに不明確にすることを避けるために、詳細に示しも記載もしていない。
【0017】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲は一貫して、単語「comprise」及びその変化形、例えば「comprises」及び「comprising」は、含むが限定されない、という開かれた、包括的な意味で解釈されるものとする。
【0018】
本明細書は一貫して、「一つの態様」又は「態様」又は「別の態様において」又は「態様によっては」という言及は、態様に関して記載される特定の指示対象の(referent)特徴、構造又は特質が、少なくとも1つの態様に含まれることを意味する。このため、一貫して本明細書の様々な場所における語句「一つの態様において」又は「態様において」又は「別の態様において」又は「態様によっては」は、必ずしも全て同じ態様について言及しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造又は特質は、1つ又は複数の態様において適宜組み合わせることができる。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲内で使用される場合、単数表現、「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、複数の指示対象を含むことに留意されたい。このため、例えば、活性薬剤という言及は、単一の活性薬剤、又は2つ以上の活性薬剤を含む。また、用語「又は」は、文脈中に特に明確な指示がない限り、「及び/又は」を含む意味において包括的に使用されることに留意されたい。
【0020】
イオン化された薬剤は、皮膚を介して容易に透過せず、一般的に局所製剤(例えば、クリーム及びローション)又は経皮パッチに適さないと広く考えられていた。しかしながら、本明細書中に記載の様々な態様によれば、或る特定のイオン化可能な活性薬剤は、皮膚を透過し、そして血流又はリンパ管内へ入り込むことができる。理論モデル及び皮膚内のイオン透過の実験結果に基づき、イオン化された活性薬剤を受動的に送達するように設計される経皮送達装置(例えばパッチ)の論理的アプローチ及びイオン化された活性薬剤を受動的に送達する局所製剤を、本明細書中で説明する。また、それらを製造及び使用する方法を説明する。
【0021】
経皮送達装置
一つの態様は、受動的経皮送達装置、例えば、経皮パッチを提供し、この受動的経皮送達装置は、基材と活性薬剤層とを備え、活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、イオン化可能な活性薬剤が、活性薬剤層中で電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「経皮送達」とは、外部から印加される電流の非存在下におけるイオン性活性薬剤の受動的な拡散を指す。しかしながら、皮膚を介する拡散の結果として、イオン化された物質は、皮膚の両側に電位差を発生させ得る濃度勾配をもたらす。この電位差は、様々なイオンの比率(rate)、フラックス及びサイズを含む数多くの相関因子に応じて、イオン拡散プロセスを速めうるか又は妨げうる。制御条件下におけるイオンの受動的な拡散は、電位及び濃度勾配の二重の効果によってメリットを得ることが本明細書中で述べられる。
【0023】
図1、図2A及び図2Bは、第1の例示的な態様である送達装置10aを示す。態様によっては、送達装置10aは、受動的な拡散によって1つ又は複数の治療活性薬剤を対象の生体界面へ経皮的に送達するように構成される。本明細書中で使用される場合、「生体界面」とは、皮膚及び粘膜(例えば、鼻粘膜)の両方を指す。特に定めがない限り、皮膚の透過に関する全ての説明は、粘膜にも適用される。送達装置10aは、対向する面13a及び15aを有する基材(backing substrate)12aを備える。任意に基層14aは、基材12aの側面13a上に配置及び/又は形成される。活性薬剤層16aは、基層14a上に配置及び/又は形成される。基材12a、任意選択的な基層14a、及び活性薬剤層16aは、送達装置10aが対象の外形に一致するように柔軟な材料から形成され得る。
【0024】
図1は送達装置10aの等角図を示す。送達装置10aを対象(図示せず)上に設ける場合には、活性薬剤層16aを対象に対して近位方向とし、基材12aを対象に対して遠位方向とする。基材12aは、送達装置10aを対象に適用し接着させることができるような接着剤を含んでいてもよい。態様によっては、基材12aは送達装置10aを包み込む。基材の非限定的な例としては、3M(商標)CoTran(商標)Backing、3M(商標)CoTran(商標)Nonwoven Backing、及び3M(商標)Scotchpak(商標)Backingが挙げられる。
【0025】
任意の基層14aは、例えば、ポリマー、及び熱可塑性ポリマー樹脂(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート))等の任意の好適な材料から構成されていて良い。態様によっては、任意の基層14a及び活性薬剤層16aは、基材12aの大部分を占める。例えば、態様によっては、基材12a、任意の基層14a及び活性薬剤層16aはディスク形状であってもよく、基材12aはおよそ15ミリメートル(mm)の直径を有していてもよく、任意の基層14a及び活性薬剤層16aはおよそ12mmの直径を各々有していてもよい。態様によっては、基材12a、基層14a及び活性薬剤層16aのサイズはこれより大きくても小さくてもよく、態様によっては、基材12a、基層14a及び活性薬剤層16aの各々の相対的なサイズの違いは、図1、図2A及び図2Bに示されるものと異なっていてもよい。態様によっては、活性薬剤層16aのサイズは、とりわけ、送達装置10aによって送達される活性薬剤(複数可)、及び/又は送達装置10aによって活性薬剤(複数可)が送達される比率(rate)に依存し得る。典型的に、基材12a及び基層14aのサイズが少なくとも活性薬剤層16aのサイズとなるように、基材12a及び基層14aは活性薬剤層16aに対してサイズが決められる。
【0026】
図3は、第2の態様である送達装置10bを示す。本態様において、参照番号及び文字「b」で標記される要素及び特徴部は、同じ参照番号及び文字「a」で標記される図1、図2A及び図2Bのものと少なくともいくつかの点で類似する特徴部及び構成部材に相当する。本態様は、限定するものではないが、活性薬剤が好ましくない溶解動態を有することを含む場合に、活性薬剤の送達を向上させるのに有効であり、且つ活性薬剤の溶解動態が好ましくない場合にも使用することができる。
【0027】
送達装置10bは、基材12bと、基層14bと、1つ又は複数のイオン化可能な活性薬剤を貯蔵する活性薬剤層16bとを備える。イオン化可能な活性薬剤を活性薬剤層16b中に補充することは、活性薬剤の適切な送達に重要な役割を果たし得ることが見出された。特に、イオン化可能な活性薬剤を活性薬剤層16b(又は16a)中に補充することによって、活性薬剤層16b(又は16a)中で、経時的に適正な又は実質的に一定なイオン化可能な活性薬剤の濃度を維持することが可能である。従って、図3に図示される態様において、送達装置10bは、内側の活性薬剤補充層18b’及び外側の活性薬剤補充層18b’’を備えていてもよい。活性薬剤補充層18b’及び18b’’は、限定するものではないがヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等の材料(例えば増粘剤)から形成され得る。活性薬剤補充層18b’及び18b’’は、活性薬剤層16b中に拡散するさらなるイオン化可能な活性薬剤を貯蔵する。
【0028】
図4A及び図4Bは、第3の態様である送達装置10cを示す。本態様において、参照番号及び文字「c」で標記される要素及び特徴部は、同じ参照番号及び文字「b」で標記される図3A及び図3Bのものと少なくともいくつかの点で類似する特徴部及び構成部材に対応する。送達装置10cは、活性薬剤層16cと基層14cとの間に介在する外側の活性薬剤補充層18cを備える。態様によっては、活性薬剤補充層18cは、活性薬剤層16cが活性薬剤補充層18cと基層14cとの間に介在するように、基層14cから遠位方向の活性薬剤層16c上に設けられていてもよい。
【0029】
種々の態様において、活性薬剤層16aは、増粘剤及び治療に有効な量のイオン化可能な活性薬剤を含む。
【0030】
A.増粘剤:
「増粘剤」は、活性薬剤層の嵩を与える不活性且つ粘稠性の材料を示す。例えば、増粘剤は、活性薬剤が内部に分散されるゾルを示す。増粘剤と活性薬剤との相対量を調節することによって、選択される濃度及び粘度の活性薬剤層を調製することができる。典型的に、増粘剤はセルロース誘導体である。例示的な増粘剤としては、多糖(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、タンパク質、並びに粘度増強剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
B.イオン化可能な活性薬剤:
「活性薬剤」は、任意の宿主、動物、脊椎動物又は無脊椎動物(限定するものではないが、魚類、哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類及びヒトが含まれる)からの生体応答を生じさせる化合物、分子又は処理剤を示す。活性薬剤の非限定的な例としては、治療薬、医薬製剤、医薬品(例えば、薬剤、治療用化合物、及び医薬用塩等)、非医薬品(例えば、化粧品等)、ワクチン、免疫薬、局部麻酔薬若しくは全身麻酔薬、又は鎮痛剤、抗原若しくはタンパク質若しくはインスリン等のペプチド、化学療法薬、及び抗腫瘍薬が挙げられる。
【0032】
イオン化可能な活性薬剤は、水性媒体と接触する前は電気的に中性である(即ちイオン化されていない)本明細書中に定義される活性薬剤を示す。水性媒体と接触させると、イオン化可能な活性薬剤は、「イオン化された活性薬剤」及び対イオンへと解離する。イオン化可能な活性薬剤の化学構造に応じて、イオン化された活性薬剤はカチオン性又はアニオン性であり得る。本明細書中で使用される場合、水性媒体とは、水分、水溶液(例えば、生理食塩水)、及び皮膚上に存在する汗を含む含水環境を示す。
【0033】
典型的に、イオン化可能な活性薬剤は塩の形態である。或る特定の態様において、1つ又は複数のアミン(第一級、第二級及び第三級アミン)又はイミンを含有する活性薬剤は、酸の存在下でイオン化可能な塩形態に変換され得る。好ましくは、活性薬剤は第三級アミン又は第二級アミンを有し、酸は塩酸(HCl)等の強酸である。塩は、カチオン性活性薬剤(正に帯電したアンモニウムイオンを含有する)及び対イオン(例えばクロライド)へと解離する。このため、酸(有機又は無機)には、対イオンが生理学的に適合性であるようなものが選択される。例示的な酸としては、例えば、リン酸(リン酸対イオン)、クエン酸(クエン酸対イオン)、酢酸(酢酸対イオン)、及び乳酸(乳酸対イオン)等が挙げられる。
【0034】
従って、或る特定の態様では、カチオン性の活性薬剤をもたらすイオン化可能な活性薬剤はアミン含有薬剤である。一つの態様において、活性薬剤層は、薬学的に許容可能な塩としてプロカテロール、即ち、薬学的に許容可能な塩として8−ヒドロキシ−5−[1−ヒドロキシ−2−[(1−メチルエチル)アミノ]ブチル]−2(1H)−キノリノン、[(R*,S*)−(+−)−8−ヒドロキシ−5−(1−ヒドロキシ−2−((1−メチルエチル)アミノ)ブチル)−2(1H)−キノリノン]を含む。例えば、米国特許第4,026,897号(その全体が参照により本明細書中に援用される)を参照。プロカテロールの好適な塩形態としては、プロカテロール塩酸塩、並びにプロカテロール塩酸塩半水和物、プロカテロール塩酸塩水和物及びその各異性体を含むその水和物形態が挙げられる。
【化1】
(式中、n=2である)
プロカテロールは、アミン含有β−アドレナリン作動薬の種類の一例である。アミン含有β−アドレナリン作動薬の他の例としては、アルホルモテロール、バンブテロール、ビトルテロール、クレンブテロール、フェノテロール、ホルモテロール、ヘキソプレナリン、イソエタリン、レボサルブタモール、オルシプレナリン、ピルブテロール、プロカテロール、レプロテロール、リミテロール、サルブタモール、サルメテロール、テルブタリン、トレトキノール、及びツロブテロール等が挙げられる。
【0035】
さらなる態様において、アミン含有イオン化可能な活性薬剤は「カイン」タイプの鎮痛剤又は麻酔薬である。特に、イオン化可能な活性薬剤は、リドカインの塩形態、例えばリドカイン塩酸塩である。他のアミン含有「カイン」タイプ薬剤は、例えば、その薬学的に許容可能な塩として、セントブクリジン(centbucridine)、テトラカイン、ノボカイン(登録商標)(プロカイン)、アンブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、シクロメチカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、ロイシノカイン、レボキサドロール、メタブトキシカイン、ミルテカイン、ブタンベン、ブピビカイン、メピバカイン、β−アドレナリン受容体アンタゴニスト、オピオイド鎮痛剤、ブタニリカイン、エチルアミノベンゾエート、フォモカイン、ヒドロキシプロカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ナエパイン(naepaine)、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナシン、ピペロカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、サリチルアルコール、パレトキシカイン、ピリドカイン、リソカイン、トリカイン、トリメカイン、抗痙攣剤、抗ヒスタミン剤、アルチカイン、コカイン、プロカイン、アメトカイン、クロロプロカイン、マーカイン、エチドカイン、リグノカイン、ベンゾカイン、ゾラミン、ロピバカイン、ジブカインを、又はそれらの混合物を含む。
【0036】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤は、塩形態であり得る1つ又は複数のカルボン酸(−COOH)を含有する。このタイプのイオン化可能な活性薬剤は、アニオン性の活性薬剤及び生理学的に適合性の対イオンへと解離する。例えば、或る特定の態様において、イオン化可能な活性薬剤はジクロフェナクのアルカリ塩である。ジクロフェナクは非ステロイド抗炎症剤(NSAID)である。ジクロフェナクのナトリウム塩(即ち、モノナトリウム2−(2−(2,6−ジクロロフェニルアミノ)フェニル)アセテート)は、以下の一般分子式を有する。
【化2】
【0037】
他の好適な生理学的に適合性の対イオンとしては、例えば、アンモニウム及びカリウム等が挙げられる。
【0038】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤は、アスコルビン酸又はその誘導体の塩である。アスコルビン酸は酸化防止剤であり、メラニン生成を阻害する。その塩の形態は、アスコルビン酸アニオン及び正に帯電した対イオンへと解離することができる。例えば、アスコルビン酸のナトリウム塩(又は、L形態又はD形態のアスコルビン酸ナトリウム)を以下に示す。
【化3】
【0039】
或る特定の態様において、イオン化可能な活性薬剤は安定なアスコルビン酸誘導体である。例えば、L−アスコルビン酸2−グルコシド(AA2G)は、AA2G(−)及びプロトンへと解離する。
【化4】
【0040】
ある場合において、皮膚内へ一旦透過すると、イオン化された活性薬剤は急速に皮膚内の脂質二重層から離れ、より深い組織に及び、最終的には、血流内に至って全身に送達され得る。
【0041】
分極可能な活性薬剤も好適な活性薬剤の範囲内である。「分極可能な活性薬剤」はまた、電気的に中性であるが、極性溶媒(本明細書中で定められる場合、水性媒体)の存在下において或る一部分が別の部分と比較してより大きな極性を示す。
【0042】
C.任意の構成成分
増粘剤及びイオン化可能な活性薬剤に加えて、活性薬剤層16aは、イオン化可能な添加剤、保湿剤、可塑剤、及び透過増強剤等の1つ又は複数の任意の構成成分をさらに含んでいても良い。
【0043】
「イオン化可能な添加剤」とは、水性媒体と接触してイオンを生じる不活性な塩を指す。本明細書中でより詳細に述べられるように、イオン化可能な添加剤の解離されたイオンは、濃度勾配の形成に寄与し且つイオンの透過プロセス中のイオンフラックスによって誘起される電位に影響を与える。有益には、それらの透過性の特徴に基づき、好適なイオン化可能な添加剤は、イオン化された活性薬剤の透過プロセスを補助するように選択され得る。例示的なイオン性添加剤としては、塩化カリウム(KCl)、及び塩化ナトリウム(NaCl)等が挙げられる。
【0044】
態様によっては、活性薬剤層16aは保湿剤を含み得る。例示的な保湿剤としては、吸湿性物質、幾つかの親水性基(例えば、ヒドロキシル基、アミン基、カルボキシル基、及びエステル化カルボキシル基等)を有する分子、及び水分子と水素結合を形成ための親和性を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。保湿剤のさらなる例としては、尿素、グリセリン、プロピレングリコール(E1520)及びグリセリルトリアセテート(E1518)、ポリオール(例えば、ソルビトール(E420)、キシリトール及びマルチトール(E965)、ポリマーポリオール(例えば、ポリデキストロース(E1200)、及び天然抽出物(例えばキラヤ(E999))等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
態様によっては、活性薬剤層16aが可塑剤を含み得る。用語「可塑剤」又は「軟化剤」は典型的には、増粘剤の可撓性を高めるのに添加される物質、化合物又は混合物を指す。好適な可塑剤としては、ポリグリコール、ポリグリセロール、ポリオール、ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、PEG−200、PEG−300、PEG−400、PEG−4000、PEG−6000)、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)、及びトリエチレングリコール等が挙げられる。
【0046】
態様によっては、1つ又は複数の有機物成分を活性薬剤と組合せることによって、皮膚内への活性薬剤の吸収を促進させるか又は増進させることができる。例えば、界面活性剤は、タンパク質の構造を変えるか又は皮膚を流体化することができ、透過を高めることができる。態様によっては、イオン性の活性薬剤又は極性の活性薬剤の吸収は、親水性頭部基を有する界面活性剤を含むことによって増進させることができるであろう。界面活性剤の親油性部は皮膚への透過を助け得る。
【0047】
任意に、活性薬剤層は、さらなる薬剤、例えば、鎮痛剤、麻酔薬、麻酔薬ワクチン、抗生物質、アジュバント、免疫学的アジュバント、免疫原、トレロゲン、アレルゲン、トール様受容体作動薬、トール様受容体アンタゴニスト、免疫アジュバント、免疫調節剤、免疫応答剤、免疫刺激剤、特異的免疫刺激剤、非特異的免疫刺激剤、及び免疫抑制剤、又はその組合せを含んでいてもよい。
【0048】
D.活性薬剤層の用量及び処方
或る特定の態様において、活性薬剤層は実質的に無水且つオイルフリーである。活性薬剤層が5重量%以下の水、より典型的には3%、2%、1%又は0.5%の水しか含有しない場合に、「実質的に無水」であるとされる。実質的に無水条件下において、イオン性活性薬剤は電気的に中性のままであり、この状態はイオン化された形態よりも一般的により安定である。このため、活性薬剤のより長い保存寿命が期待され得る。活性薬剤層が、5重量%以下の親油性構成成分、例えば脂肪酸、植物油、石油又は鉱物油、短鎖(例えば、14個未満の炭素)飽和炭化水素、及びシリコーンオイル等を含有する場合に、「実質的にオイルフリー」であるとされる。これらの従来の透過増強剤は必ずしもイオン性透過を促進させるのに必要ない。他方で、油は貯蔵又は送達時にイオン化可能な活性薬剤又はイオン化された活性薬剤を不安定化する傾向にあるため、オイルフリーの活性薬剤層は、長期安定性を活性薬剤にもたらすことが期待される。
【0049】
種々の態様において、活性薬剤層中のイオン化可能な活性薬剤の量は、その透過率(permeation rate)及び投薬計画の両方に依存する。また、活性薬剤層16a中のイオン化可能な活性薬剤の濃度は、限定するものではないが、イオン化された活性薬剤の溶解性、及びイオン化可能な活性薬剤の溶解速度等の因子に応じて選択される。
【0050】
また、イオン化可能な活性薬剤の初期充填量はイオン化された活性薬剤の透過に影響を与える。イオン化可能な活性薬剤の濃度が高いほど、透過率は高くなり得る。このため、最少量の増粘剤中に最大量の活性薬剤を充填する(即ち、最も薄い活性薬剤層中に最高濃度の活性薬剤をもたらす)ことが望ましい。他方で、活性薬剤は皮膚によって一般的に十分に吸収されないが、パッチから全用量が摂取される場合でも致命的とならないことを保証できる初期充填レベルに制限するよう注意を払わなければならない。例えば、プロカテロール塩酸塩のパッチは典型的に、約25μg〜最大で100μgのプロカテロール塩酸塩を含有する。
【0051】
典型的に、活性薬剤層は約0.001重量%〜約10重量%のイオン化可能な活性薬剤を含んでいてもよく、より典型的には、活性薬剤層は約0.01重量%〜5重量%、又は約0.01重量%〜0.1重量%、0.1重量%〜1重量%、0.1重量%〜5重量%のイオン化可能な活性薬剤を含み得る。
【0052】
或る特定の態様において、活性薬剤層はHPC及びプロカテロール塩酸塩を含む。より特定の態様において、活性薬剤層は、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素を含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC、プロカテロール塩酸塩及びグリセロールを含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC、リドカイン塩酸塩、及びグリセロールを含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC及びジクロフェナクナトリウムを含む。他の態様において、活性薬剤層はHPC及びAA2−Gを含む。
【0053】
他の態様において、活性薬剤層は、本質的に、増粘剤、イオン化可能な活性薬剤及び保湿剤からなる。特定の態様において、活性薬剤層は、本質的に、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素からなる。
【0054】
E.イオン透過の理論モデル及び実験結果
先に述べたように、様々なイオン化可能な活性薬剤は、皮膚を介して移行するイオンへと解離することができる。皮膚内へのイオン性物質の経皮送達を分析する場合、濃度勾配に基づく単純な拡散は、生じる事象の全体像をもたらし得ない。以下の理論にとらわれることなく、分析は、濃度勾配に加えて電位に基づくイオン性経皮機構を説明するために本明細書中に提示される。膜(例えば皮膚)を経るイオンの移行の推進力は、濃度勾配及びイオンフラックスによって誘起される電位勾配の両方に関連すると考えられる。本明細書中で使用される場合、「フラックス」又は「イオンフラックス」とは、単位領域を移動するイオン性物質(即ちイオン化された活性薬剤)の比率(rate)を指す。典型的に、イオンフラックスは、例えばμgcm−2・h−1又はmolcm−2・h−1で表される。
【0055】
式1は基本的なイオンフラックスJを示す。
【数1】
【0056】
電気化学システムを分析する際に度々使用される式1中の最初の項はイオン拡散に関連し、第2の項は電場によるイオン移動に関連する。図5はイオンフラックスによって誘起される電場を概略的に図示している。図に示されるように、高濃度のイオン性薬剤溶液は左側チャンバー20に入れられる。皮膚の表面に相当する多孔質膜22がチャンバー20に接続されており、イオン性薬剤溶液は位置x=0で多孔質膜と接触する。薬剤溶液の初期濃度はC0である。多孔質膜の厚みはdであり、多孔質膜の右側のチャンバー24中のイオン性薬剤の濃度はCdとされる。拡散は、図5において左側のチャンバー20からシステムの右側に向けて進行し、電位差を誘起する濃度勾配が構築される。
【0057】
カチオン及びアニオンが皮膚を移動する際、それらの速度は式2で求められる。
【数2】
【0058】
式2中、ω+及びω−は、それぞれ溶液中のカチオン及びアニオンのモル移動度を示す。カチオン及びアニオンは独立して溶液中及び膜中で移動するが、両方とも同様の濃度勾配に従って移動する。従って、アニオン及びカチオンの相対速度は、式2にのみ依存する。薬剤又は化粧品として使用される化合物は有機物質の塩化物又はアルカリ金属塩である場合が多く、このことは、イオンへと解離すると、一方のイオン(一般的に活性薬剤イオン)がもう一方のイオンよりも大きいことを意味する。結果として、薬剤イオンの全体サイズは解離後でもあまり変化しないので、(濃度勾配に応じた)拡散によるイオン性薬剤の経皮送達は、中性分子の経皮送達とあまり相違ないものであると予測することが妥当である。
【0059】
図6は、カチオンの速度がアニオンの速度の半分であると仮定される場合の経時的なイオンの移動(Δt)を示す。カチオン(27a)は、アニオン(27b)がv−Δt(26b)移動する間にv+Δt(26a)移動する。このとき、膜内に電荷分離状態が生じ、非常に短い距離にわたって電位差がもたらされる。この電位差はカチオンの動きを促進させる一方、アニオンの動きを遅らせる。式3は、中性分子の移動では見られないこの効果を数学的に示す。アニオン及びカチオンは、式3において示されるように反対方向に移動する。カチオンは+を用いて表され、一方アニオンは−で表される。時間と共に、アニオン及びカチオンは両方とも、電気的中性を維持しながら膜の片側から反対側へと移動する。
【数3】
【0060】
式4は、イオンの速度(v)とフラックス(J)との関係を示す。試験される薬剤が一価のカチオン及びアニオンから成る場合にはイオンの濃度(c+及びc−)が同一であり、カチオンの速度はアニオンの速度と同じである。
【数4】
【0061】
従って、式5が充足されるはずである。
【数5】
【0062】
これにより、濃度勾配と電位勾配との関係が得られる。式5を0〜d及びc0〜cdで積分すると、膜を通過する電位差を示す式(Δφ=dφ/dx)が導かれる。
【0063】
これにより、式3に式6を代入すると、式7が得られる。
【数6】
【数7】
【0064】
定常状態において、イオンフラックスは、アニオン及びカチオンについての同じ式によって得られると考えられる。両イオンの拡散は、薬剤が解離イオンとして透過する際に濃度勾配に応じて生じ、dc/dx及び式8の拡散係数で表される。
【数8】
【0065】
さらに、式9を解くために濃度勾配又は電位勾配を線状に近似させる必要がある。これより式10が導かれる。x、0〜d及びcの値を得た後で式10をc0〜cdで積分する。これにより、いわゆるゴールドマンの式である式11に示されるようなフラックスJの解が得られる。
【数9】
【数10】
【数11】
【0066】
皮膚を横切る電位差は一成分系について考えられてきた。実際には、様々なイオン性化合物が存在し得る(例えば、イオン化活性薬剤及びイオン化添加剤を含む)。式12は、複数成分系について用いられる関係を示す。
【数12】
【0067】
これによってフィルム電位を算出することができるが、但し、皮膚内のイオン移動度(ω)及び濃度(c)は既知のものとする。この際、算出されたフィルム電位からイオン移行速度を知ることができる。
【0068】
上記のように、皮膚を横断するか又は皮膚内でのイオンの移動は、膜電位の発生が濃度勾配にさらなる影響を与えることから、単純な拡散モデルで考えることができない。このため、この事象を実験的に評価し、その結果を薬剤製品開発に有効に用いることが要求される。また、この理論に基づき有効な添加剤を評価することが望ましい。
【0069】
本明細書中に記載の理論を評価するためにH型フランツセル(図7)を使用した。示されるように、フランツセル28は、ドナーチャンバー30a及びレシーバチャンバー30bを備える。ドナーチャンバー30aは、膜32を透過してレシーバチャンバー30bに至るイオン性の活性薬剤を含有する。作用側電極34aをドナーチャンバー30aに挿入し、一方でカウンター電極34b(即ち参照電極)をレセプターチャンバー30bに挿入した。イオン拡散/透過によって誘起される電位差及びそれにより構築される濃度勾配を測定することができる。
【0070】
図8A〜図8Cは、電位差がイオンの移動にどのような影響を与えるかを図示している。示されるように、イオン性の活性薬剤の電荷(カチオン性又はアニオン性)に応じて、その移動は、皮膚を横切って構築される電位差の影響を受け得る。図8A〜図8Cはさらに、既知の透過特徴を有する或る特定のイオン化可能な添加剤を選択することによってイオン透過を促進させるか、又はイオン性薬剤の移動を遅延させる電位を相殺することによって少なくとも好ましくない状況を改善させることが可能であることを示している。
【0071】
図8Aは、電位差が皮膚36の両側で生じることを示している。電位が、皮膚の内側(身体38と接する側)で低い場合には、カチオンの移動が電位差によって促進されると共に、アニオンの移動が抑制される。従って、カチオン性活性薬剤にとっては、大きい膜電位がイオン化された添加剤によって生じることが望ましい。例えば、容易に透過し得るアニオン及び透過しにくいカチオンへと解離する添加剤が好ましい。
【0072】
図8Bは、アニオンの移動に有利に働くが、カチオンの移動を抑制する電位差が生じることを示している。従って、カチオン性の活性薬剤を送達する場合、カチオンの移動を遅らせる電位差を相殺するようなイオン化された添加剤が存在することが好ましい。
【0073】
図8Cは電位差が生じないことを示している。従って、容易に透過し得るカチオン及び透過しにくいアニオンへと解離して、カチオンの移動に有利に働く電位差を作り出すイオン化された添加剤を含むことが好ましい。
【0074】
アニオン性の活性薬剤について、電位差の影響はカチオン性活性薬剤の逆のものにしなければならない。従って、図8Aに記載の状況では、容易に透過し得るカチオン及び透過しにくいアニオンへと解離する添加剤が好ましい。図8Bでは、イオン化された添加剤が発生した電位差を相殺することが好ましい。例えば、効果的な添加剤は、その解離したカチオンと解離したアニオンとの間に皮膚内における同様の透過速度を有するものとする。図8Cについては、容易に透過し得るアニオン及び透過しにくいアニオンへと解離する添加剤が好ましい。
【0075】
示されるように、皮膚内におけるイオンの移動度は、薬剤製品中に含有される構成成分も皮膚内へと透過する場合には、それらの構成成分(例えばイオン化可能な添加剤)に影響を受ける可能性がある。従来のパッチに使用される増強剤は、増強剤が電位差に悪影響を受けない限り薬剤イオンの速度を改善させるのに使用することができる。従って、増強剤は、本明細書中に記載の製品に使用される場合に有効であり得る。さらに、薬剤濃度に起因するフラックスの変化も評価することができる。活量係数及び浸透圧は薬剤濃度に応じて変化し、これによってイオン性薬剤の移動速度に大きな影響を与える。
【0076】
水性媒体中にイオンを生成することに加えて、極性マトリクス及び極性溶媒中においてもイオンの解離をもたらすことができる。例えば、界面活性剤を用いて水及び油を混合したエマルジョンマトリクス、同様に、エーテル結合又はエステル結合を有する様々なポリマー、並びに有機溶媒、及び20以上の誘電率を有する有機溶媒と水との混合溶媒を使用してもよい。
【0077】
具体的なイオン化可能な活性薬剤をより詳細に以下に記載する。示されるように、これらのイオン化可能な活性薬剤は、(水性媒体中で解離すると)イオン化された形態で経皮的に送達され得る。或る特定の態様において、経皮送達はイオン化可能な添加剤の存在下で促進され得る。
【0078】
1.プロカテロール塩酸塩
100μgを超えるプロカテロールが経皮パッチ中に含まれ、且つこのパッチをユーザー又は他の個人が誤って摂取した場合には、潜在的に副作用が現れるおそれがある。また、薬効及び安全性を検討したところ、プロカテロールが実質的に一定比率で送達されることが望ましい。プロカテロール塩酸塩を用いた経皮送達パッチに関する開発はこれまでにも行われてきたが、パッチ中の薬剤の量及び送達比率を含む両方の要素を最適化し得るパッチは他者によって未だ開発されていない。従って、種々の態様において、経皮送達装置は活性薬剤層中にプロカテロール塩酸塩を含み、この装置では、プロカテロール塩酸塩の初期量(充填量)の少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも75%若しくは少なくとも90%が24時間かけて送達される。典型的には、安全性に対する懸念から、送達後の残留プロカテロール塩酸塩は、プロカテロール塩酸塩の初期充填量の50%を超えないべきである。
【0079】
プロカテロール塩酸塩を経皮送達装置(例えばパッチ)に充填するために、プロカテロールの水溶液、より好ましくはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いた粘稠性ゾルをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布してもよい。典型的に、100マイクログラムに過ぎないプロカテロール塩酸塩しか充填することができない。パッチは乾燥させて、充填プロセス中に存在させた水を全て除去してもよい。
【0080】
図9は、皮膚内におけるプロカテロールカチオンの透過率と、プロカテロール塩酸塩の濃度との関係を示す。図9はまた、皮膚内に生じる電位差(図7に示されるセルを用いて測定される)を示す。ここで電位差は皮膚の外側と内側との間に存在するものである。この「+/−」符号は式12に示されるものと逆である。図9は、プロカテロール塩酸塩の水溶液を用いて得られた測定結果を示す。膜電位は、溶液中のpH変化の影響を受けて生じ得ると考えられる。0.12Mでは、皮膚内の電場を受けて皮膚の外側から内側に向かうカチオンの移行を促す傾向にある電位差が存在する。しかしながら、他の濃度では、皮膚内へのプロカテロールカチオンの移動を阻害する傾向のある反対の符号の電位勾配が生じる。電位差は、プロトン、プロカテロールカチオン及びクロライドイオンの影響を受けて生じると考えられる。
【0081】
クロライドイオンの移動度に対するプロカテロールカチオンの移動度は、膜電位測定の結果に基づき得ることができる。塩化ナトリウムを用いた膜電位の測定結果から分かるように、Na+及びCl−の移動度がおおよそ同様であることに留意されたい。また、H+の移動度は、HClを用いた膜電位の測定結果に基づき、Cl−の移動度よりもおよそ1500倍大きい。これらの値を用いて算出を行った。表1は、0.12Mのプロカテロール塩酸塩を用いた際の結果を示す。測定されたものと同一の表1による値を利用すると、プロカテロールイオンのイオン移動度は、クロライドイオンの移動度に対して0.13となる。プロカテロールイオンの移行速度は、クロライドイオンの移行速度と比べて遅いと考えることができる。
【表1】
【0082】
さらに、プロカテロールカチオンのフラックスはこれらの結果を用いて計算することができる。式11を用いて得られる算出値の結果を表2に示す。
【表2】
【0083】
さらに、表3は、フランツセルを用いて得られる測定の実験結果を示す。皮膚厚及びクロライドイオンの移動度は式11を使用する必要があり、クロライドイオンの移動度は1.5×10−13と仮定され、皮膚厚はここでは0.01cmと仮定される。クロライドイオンの移動度は、水溶液中で確認される移動度のおよそ1/10000である。しかしながら、この予測は、固体ポリマー電解質についての結果を鑑みると妥当であると考えられる。
【表3】
【0084】
表3は、図7のフランツセルを用いて、経時的にヘアレスマウスの皮膚へ送達される水性プロカテロールの実際の量が、種々の濃度で、送達率として測定された(図10)ことを示す。計算値を、図11における実測値と比較する。両者の傾向は良好な一致を示し、フラックス値は、いずれの実際の実験測定値とも関係なく式11を用いて確実に予測することができると考えられる。
【0085】
2.ジクロフェナクナトリウム
高濃度のジクロフェナクナトリウムは水に容易に溶解しないため、通常、疎水性溶媒を使用する。しかしながら、多くの疎水性溶媒は皮膚に刺激を与えるため、パッチ薬物として安易に使用することはできない。
【0086】
或る特定の態様において、ジクロフェナクナトリウム及びイオン化可能な添加剤を含む経皮送達装置は、水性条件下で(例えば、皮膚及び皮膚上の汗と接触させて)治療に有効な量のジクロフェナクを送達することができる。ジクロフェナクナトリウムは、ジクロフェナクアニオン及びナトリウムカチオンへと解離する。ジクロフェナクアニオンの移動度は、皮膚の膜電位の測定を実施することによって求めた。図12は、ジクロフェナクナトリウムの濃度と、皮膚へのジクロフェナクアニオン(diC−)の送達率との関係を示す。図13は皮膚内に生じる電位差を示す。表4に示される結果は、図12及び図13に示されるデータに基づき移動度について得られる。
【表4】
【0087】
ジクロフェナクアニオンの移動度は(塩化物イオンの移動度と比べて)4.6であることが分かった。これは、ジクロフェナクアニオンがクロライドイオンよりも容易に皮膚に送達されることを意味する。さらに、表5に示される計算結果は、ジクロフェナクのフラックスのために得ることができる。
【表5】
【0088】
表6は測定結果を示す。図14は測定結果と計算(予測)結果とを比較している。計算結果と実測値との間には相関が見られる。このため、膜電位の測定から得られる移動度を用いて、ジクロフェナクイオンの送達率を予測することができる。
【表6】
【0089】
膜電位は負の値を示す。このため、アニオンは減速されながら皮膚内を通過する。従って、皮膚内に生じる電位差をゼロへと低減することによって、又は電位を正にすることによって、送達率を改善させることができる。考えられる可能な一方法は、KClを添加剤として使用することである。KClはK+イオン及びCl−イオンへと解離する。異なる膜電位の測定値から、皮膚内のK+の移動度は、Cl−の移動度に比べて大きいことが見出された。これにより、KClは、皮膚内に生じる負の電位勾配を低減させるのに用いることができると考えられる。0.1%及び0.5%のKClをジクロフェナク溶液に添加して、膜電位の測定を実施した結果を表7に示す。
【表7】
【0090】
膜電位差はKCl添加剤を添加すると確実に小さくなり、これによって、皮膚内へのジクロフェナクの送達を遅らせる傾向のある電位勾配が低減した。電位勾配が低減する量は、添加されるKClの量に依存していることが分かる。その上、より大きなフラックスが、KClを含まない溶液に比べて、KCl添加剤を含有するジクロフェナクナトリウム溶液で得られたことも分かる。このため、ジクロフェナクの送達率は、皮膚内に生じる電位差を低減するような適切な添加剤を選択することによって制御することができる。
【0091】
ジクロフェナク及び0.1%KClは、プロカテロールについて使用されるものと類似のゾルを使用することによって、経皮パッチを製造するのに使用することができる。表8は、現在市場に出ている3つのジクロフェナク製品との比較を示す。我々のパッチはより高い送達を示す。
【0092】
従って、ある特定の態様では、活性薬剤層、ジクロフェナク及び0.1%KCl、並びにプロカテロールについて使用されるものと類似のゾルを備える経皮送達装置を提供する。表8は、現在市場に出ている3つのジクロフェナク製品との比較を示す。イオン化可能な添加剤KClを含有するパッチ(F26)はより高い送達を示す。
【表8】
【0093】
3.アスコルビン酸及びその誘導体
アスコルビン酸は高い水溶性を有する2−グルコシド伝導体である。疎水性のアスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸の皮膚透過を向上させるために開発されてきた。しかしながら、疎水性アスコルビン酸誘導体は、様々な添加剤を使用し得る疎水性基剤と組み合わせられることもある。このことにより皮膚に刺激を与えるおそれがあり、このような組成物を使用したパッチは公に十分受け入れられるものではないと思われる。そこでアスコルビン酸2−グルコシドを使用することによって、刺激が無く、添加剤を使用しない、優れた有用性を備えた局所製剤(例えば親水性ローション)を本明細書中に説明する。
【0094】
アスコルビン酸2−グルコシド(AA2G)はAA2G−イオン及びH+イオンへと解離する。図15は、AA2Gの濃度と、皮膚内のAA2G−イオンとの関係を示す。図16は皮膚内で生じる電位差を示す。皮膚の外側から皮膚の内側に向かってアニオンを誘導する傾向にある電位差は、0.06M、0.15M及び0.3Mの濃度で生じる。電位勾配は濃度が高くなるにつれて弱まるが、このとき、この電位差を用いてAA2G−アニオンの拡散を促進させることは困難となる。電位差が低濃度で高い理由は、皮膚内の生理食塩水とAA2Gとのイオン濃度差の影響によるものと考えられる。さらに、用いられる種々の濃度のAA2Gが、皮膚内におけるH+とAA2G−との移動の差をもたらす。実験から、確認される電位差は、AA2G−及びH+の影響を受けて生じると考えられる。
【0095】
フィルム電位から(クロライドイオンの移動度と比べて)AA2G−の移動度を確認することができ、表9は、0.3MにおけるAA2Gの結果を示す。この表より、AA2G−の移動度とクロライドイオンの移動度との比率は0.83である。
【表9】
【0096】
ここで、これらの結果を用いてAA2G−のフラックスを計算することができる。表10は式11を用いた場合の結果を示す。
【表10】
【0097】
表11はフラックス測定値の実験結果を示す。計算結果と実験結果との比較を図17に示す。両方とも同様の傾向を示すため、フラックスは、式11を用いることによって実験を行うことなく予測することができる。
【表11】
【0098】
4.リドカイン塩酸塩
リドカインは透過率が低いため、麻酔効果を得るためには、高濃度のリドカイン塩酸塩を使用することが必要とされる。しかしながら、高濃度のリドカイン塩酸塩は皮膚に刺激を与える。このため、リドカインを効率的に皮膚内へ送達することによって十分な麻酔効果を示すことができるパッチを開発することが望ましい。より詳細には、透過に好ましいリドカイン塩酸塩の濃度を、本明細書中に記載の理論モデルによって立証することができる。
【0099】
リドカイン塩酸塩は、水中でリドカインカチオン(プロトン化リドカイン)及びCl−イオンへと解離する。リドカイン塩酸塩の濃度と皮膚内へ送達されるリドカインカチオンとの関係を図18に示す。図19は皮膚内に生じる電位差を示す。リドカインイオンを皮膚内へと誘導する傾向のない電位差は低濃度(1%)で確認されるが、リドカインイオンを皮膚内へと誘導する傾向にある電位差は高濃度(例えば5%及び10%)で生じる。
【0100】
クロライドイオンに対するリドカインカチオンの移動度は、膜電位の結果から確認することができる。5%リドカイン(185mM)についての結果を表12に示す。膜電位が実測値と同様である表の値を用いると、リドカインカチオンの移動度はクロライドイオンの移動度に対して0.67となる。リドカインカチオンはクロライドイオンよりも相対的にゆっくりと移動する。
【表12】
【0101】
リドカインカチオンのフラックスを計算した結果を表13に示し、実験結果を表14に示す。
【表13】
【表14】
【0102】
皮膚厚を0.01cm、且つクロライドイオンの移動度を1.5×10−13と仮定して、計算を行った。図18は、様々な濃度でヘアレスマウスの皮膚に経時的に送達されるリドカイン水溶液の実際量の測定値を示す。
【0103】
図20は、計算値と実際の実験値との比較を示す。両方とも同様の傾向を示し、実験の実施に頼ることなく式11を用いてフラックス量を予測することができることを示す。
【0104】
局所製剤
或る特定の態様では、経皮送達装置に関して、記載の活性薬剤層を水和させて、局所製剤を作製することができる。局所製剤は、対象の皮膚に直接且つ自由に貼付することができる。このため、或る特定の態様では、本明細書中に記載されるような、水性媒体と一緒に増粘剤及びイオン化された活性薬剤を含む局所製剤を提供し、この局所製剤は実質的にオイルフリーである。局所製剤は典型的に、当該技術分野で既知の方法に従って塗り広げることが可能な形態(例えばプラスター及びペースト)で製剤化される。透過増強剤、酸化防止剤を含む様々な添加剤を、局所製剤にさらに組み合わせることができる。
【0105】
或る特定の態様において、イオン化された活性薬剤は、本明細書中に記載のイオン化可能な活性薬剤のいずれかに基づくことができる。特定の一つの態様では、プロカテロールカチオン(例えばプロカテロール塩酸塩)を含む局所製剤を提供する。例えば、局所製剤は、HPC、プロカテロール、尿素及び水を含み、水性製剤を提供する。別の特定の態様では、リドカインカチオン(例えばリドカイン塩酸塩)を含む局所製剤を提供する。さらなる特定の態様では、AA2Gアニオンを含む局所製剤を提供する。さらなる特定の態様では、ジクロフェナクアニオン(例えばジクロフェナクナトリウム)を含む局所製剤を提供する。受動パッチ用途と同様に、電位差を調節するためにイオン化された添加剤を添加してもよい。有益には、局所製剤中に油が存在しなければ、局所製剤中におけるイオン化された活性薬剤の長期安定性が促進される。
【0106】
局所製剤は、当該技術分野で既知の方法に従って配合及び使用することができる。
【0107】
使用方法及び製造方法
本明細書中に記載の経皮送達装置及び局所製剤は、当該技術分野で既知の方法によって作製することができる。
【0108】
典型的に、活性薬剤層は、増粘剤(例えばHPC)をベースとした粘稠性ゾル中にイオン化可能な活性薬剤を分散させることによって調製することができる。これを、基材、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上面に塗布することができる。基材はパッチ、テープ及びディスク等の形状であってもよい。
【0109】
図21は、以後まとめて送達装置10と称する送達装置10a、10b及び10cを製造する例示的な方法400を示す。以下において、送達装置10の種々の構成要素、特徴部、レイヤー等は、送達装置10a、10b及び10cの種々の構成要素、特徴部、レイヤー等に対応するそれぞれの参照番号及び付された文字を包括的に言及するものとする。
【0110】
402では、基材12を準備する。基材12は、第1の表面13及び反対側の第2の表面125を有する。
【0111】
404では、熱可塑性樹脂を有する基層14を、基材12の第1の表面13上に形成する。態様によっては、基層16がポリ(エチレンテレフタレート)材料を含む。
【0112】
406では、基材12の第1の表面13上の基層14上に、活性薬剤層16を形成する。活性薬剤層16は、増粘剤、保湿剤及び治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬(又はβ2−アドレナリン受容体刺激剤)若しくは誘導体、又はそれらの薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0113】
態様によっては、基材12の第1の表面上の基層14上に活性薬剤層16を形成することは、そこに組成物をスピンコーティングすることを含む。スピンコーティングされ得る組成物としては、増粘剤、保湿剤及び治療に有効な量のイオン化可能な活性薬剤を有する組成物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、活性薬剤層は、ヒドロキシプロピルセルロース、グリセロール又は尿素、及びプロカテロール塩酸塩又は他のβ2−アドレナリン受容体作動薬を種々の量、例えば、全組成物の約0.1重量%〜約5重量%の範囲で含み得る。
【0114】
態様により、任意の408では、活性薬剤層16に隣接する活性薬剤補充層18が形成される。活性薬剤補充層18は、活性薬剤層上にスピンコーティングされてもよく、イオン交換物質及び十分量のイオン化可能な活性薬剤(例えばβ2−アドレナリン受容体作動薬)を含み、活性薬剤層16中における約0.1重量%〜約5重量%の組成を維持し得る。
【0115】
図22A〜図22Cは、例示された一つの態様による材料層600のスピンコーティングプロセスを示す。図22Aでは、回転装置604によって制御可能に駆動される回転可能なディスク602上に材料層を配置させる。回転装置604は、ディスク602(及びその上に置かれた材料層600)を軸606の周りに回転させることができる。態様によっては、回転装置604は、ディスク602が回転する速度を制御し得るように制御可能/変更可能である。
【0116】
図22Bでは、材料層600上の軸606の近位部に、或る量の活性薬剤608を配置させる。態様によっては、ディスク602を回転させながら活性薬剤608を材料層600上に配置してもよい。他の態様では、ディスク602を回転させずに活性薬剤608をディスク602上に配置し、その後、ディスクを回転させるように回転装置604を作動させてもよい。
【0117】
図22Cでは、ディスク602の回転に応じて材料層600上に広がった活性薬剤608を示す。活性薬剤608を材料層600上にスピンコーティングすることによって、活性薬剤608の均一なコーティングが材料層600上にもたらされる。態様によっては、材料層600が、基材12を有しない基層14、即ち、基材12に塗布される前の基層14であってもよい。他の態様では、材料層600が基層14及び基材12であってもよい。
【0118】
ゾル構造体は動的光散乱(DLS)によって検査され得る。拡散レーザー光を用いて、ゾル中に含有されるHPCの状態を確認することができる。図23AはDLS測定スペクトルプロットを示す。HPC、プロカテロール及びグリセロールを含有する溶液(a)に対し、HPCしか含有しない溶液(b)についての異なるスペクトルが得られることが確認できる。HPCはプロカテロール及び/又はグリセロールと相互作用して凝集体を形成する。ゾルが凝集体を含有することは、或る特定のレベルの粘度を維持するために重要であるが、凝集体は、パッチからのプロカテロールのイオン解離及び/又はプロカテロールの放出の障害となる。図23Bは、例示される一つの態様による、HPCとプロカテロール塩酸塩との相互作用を示す活性薬剤層の断面図を示す。
【0119】
HPCとプロカテロール塩酸塩との凝集体の状態は、パッチ中の活性薬剤ゾルを制御する重要な因子である。プロカテロール塩酸塩はカチオン性であり、HPCは高度に親水性である。HPCはまた、pHが酸性の場合にアニオンの特性を有するため、凝集体が発生すると考えることができる。
【0120】
局所製剤について、イオン性活性薬剤(例えばAA2G)は、当該技術分野で既知の方法に従って、ローション、クリーム、エマルジョンへと配合され得る。
【0121】
本明細書中に記載のイオン化可能な活性薬剤はこのため、種々の症状の処置のために治療に有効な量で経皮的に送達され得る。或る特定の態様は、経皮送達装置を対象の皮膚に適用することによって、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を説明しており、当該経皮送達装置は、プロカテロール塩酸塩等のβ−アドレナリン受容体刺激剤を含む活性薬剤層を備える。
【0122】
閉塞性呼吸器疾患、例えば、喘息(例えば、アレルギー喘息、気管支喘息、及び内因性喘息)、気管支収縮性疾患、並びに慢性閉塞性肺疾患等が、世界中の何百万もの小児及び成人を侵している。これらの疾患は典型的に、1つ又は複数の誘引又はストレスに度々応答する、気管支反応性亢進、炎症(例えば気道炎症)、粘液産生の増進、及び/又は間欠的気道閉塞を特徴とする。例えば、慢性呼吸器疾患は、環境刺激因子又はアレルゲン、大気汚染物質、冷気、運動又は激しい活動、及び情動ストレス等に起因することがある。小児において、最も一般的な誘因は、風邪等のウイルス性疾患である。喘息発症の兆候としては、喘鳴、息切れ、胸苦しさ、咳嗽、速い呼吸(頻呼吸)、呼吸延長、速い心拍(頻脈)、水泡音である肺音(rhonchous lung sounds)、及び胸部の過膨張等が挙げられる。
【0123】
アミン含有β−アドレナリン受容体刺激剤の種類に属するイオン化可能な活性薬剤は、種々の態様に従って、活性薬剤層中に配合され、且つ対象内へと経皮的に送達され得る。β2−受容体は一般的に、血管、気管支、消化管、骨格筋、肝臓、及び肥満細胞を含む多くの組織に存在する。典型的に、β2−アドレナリン受容体作動薬は、β2−アドレナリン受容体に作用し、気管支経路の拡張(気管支拡張)、消化管の弛緩、筋肉及び肝臓における血管拡張、子宮筋の弛緩及びインスリンの放出、肝臓におけるグリコーゲン分解、骨格筋における震え、並びに肥満細胞からのヒスタミン放出の阻害等をもたらす平滑筋弛緩を誘起させる。β2−アドレナリン受容体作動薬は、喘息及び他の関連の気管支撃縮症状等を処置するのに有用である。またβ−受容体アンタゴニストは降圧剤として有用である。
【0124】
従って、一つの態様では、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を提供する。当該方法は、基材と活性薬剤層とを備え、活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン性活性薬剤とを含み、イオン化可能な活性薬剤が、活性薬剤層中で電気的に中性であり且つ水性媒体と接触する際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を対象の皮膚に適用すること(applying);及び前記イオン化可能な活性薬剤を、イオン化された活性薬剤へと解離させることを含む。
【0125】
或る特定の態様では、上記方法は、イオン化可能な活性薬剤を対象の皮膚の汗と接触させ、それによってイオン化された活性薬剤を生成させることを含む。
【0126】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤はβ−受容体アンタゴニストである。特定の態様では、イオン化可能な活性薬剤はプロカテロール塩酸塩である。
【0127】
態様によっては、少なくとも50%のプロカテロール塩酸塩が、24時間以内に対象の皮膚を介して送達される。
【0128】
図24は、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する例示的な方法650を示している。
【0129】
660において、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する約25μg〜約100μgの活性薬剤を含む経皮送達装置を、対象の生体界面に適用する。修練者は、適切な量の活性薬剤を選択することができるが、これは、処置すべき症状若しくは薬物動態学、又は他の基準若しくは所望の効果を与える活性薬剤の特性に基づく(例えば、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を緩和させるのに十分な量)。
【0130】
670では、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を緩和させるのに十分な量で生体界面に送達させる。
【0131】
態様によっては、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を生体界面に経皮的に送達させることは、拡散によって、治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬を対象の生体界面に移送させることを含む。態様によっては、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を生体界面に経皮的に送達させることは、プロカテロール塩酸塩、プロカテロール塩酸塩半水和物、又はそれらの誘導体若しくは薬学的に許容可能な塩から選択される治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬を対象の生体界面に移送させることを含む。
【0132】
上記において、イオン交換物質のような活性薬剤は、対象の皮膚に貼り付けられるパッチ上に配置されるものとして説明されている。代替的な態様では、限定するものではないがイオン交換物質を含む活性薬剤を、対象の皮膚に塗布することができる粉末又はクリームの形態としてもよい。
【0133】
本明細書中に記載の種々の態様は、以下の非限定的な実験例によってさらに示される。
【実施例】
【0134】
1.in vitro透過試験
以後まとめて送達装置10と称される送達装置10a、10b及び10cは、in vitro及びin vivoの両方を用いて試験することができる。in vitro試験は、幾つかのタイプの試験装置のうち、Kelderセル又はフランツセル等の受動拡散試験装置を使用して試験を行なってよい。図25A、図25B及び図25Cは、送達装置10を試験するのに用いられる複数の例示的な受動拡散測定装置750を示している。
【0135】
受動拡散測定装置750は、第1のエンドプレート752及び第2のエンドプレート754を備える。ホール756等の複数の連結機構を第1のエンドプレート752上に形成する。第2のエンドプレート754は、アーム758等の多くの連結機構を備え、ホール756と相補的に位置合わせされる。ホール756は、アーム758の少なくとも一部を受けるようにサイズ決め及び成形される。操作可能な状態で、アーム758の一部はホール756を貫通して延在し、アーム758には、アームを所定の位置に保持する締結具760が取り付けられる。
【0136】
第1のエンドプレート752と第2のエンドプレート754との間には、第1のキャップ762、送達装置10、透過膜764、リザーバ766及び第2のキャップ768が挟み込まれる。第1のキャップ762は第1のエンドプレート752に隣接し、第2のキャップ768は第2のエンドプレート754に隣接する。第1のキャップ762及び第2のキャップ768は、非透過性であり、且つシリコーンゴム等の材料から成っていてもよい。
【0137】
送達装置10は、第1のキャップ762と透過膜764との間に介在している。以下に説明する実験において、透過膜764は、ヒトの皮膚又は動物の皮膚(例えば、「HOS hr−1」雄マウスから採取されるヘアレスマウスの皮膚)の断片である。
【0138】
透過膜764と第2のキャップ768との間にリザーバ766が介在している。リザーバ766は、ゴム、シリコーンゴム、ガラス等の非透過性材料から成る。リザーバ766は包括的に、略中空の内部772と流体連通する開口端770を有する円柱形であってもよい。開口端770は透過膜764に隣接する。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の流体774を中空内部772に配置させる。開口端770において、流体774は透過膜764と接触する。送達装置内の活性薬剤は、透過膜764を介して流体774中に拡散する。以下に説明する実験において、リザーバ766は約4ミリリットルの流体774を保持しうる。
【0139】
2.in vitro試験の条件及び測定
典型的に、17mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Wako Pure Chemical Industriesによって販売)をレセプタセル内に注入し、10mm攪拌子を用いて試験の間中溶液を攪拌させた。フランツセルは、32℃の設定温度及び70%の設定湿度のインキュベーター(ESPEC製、型式LH−113)内に設置した。200μlのGilson Pipetmanを用いて、所定時間にセルからサンプルを従来通りに採取した。その後、200μlのPBSを、各サンプリング操作後のセルに添加した。
【0140】
浸透した活性薬剤(例えばプロカテロールカチオン)を測定するために、既知の濃度を有する標準溶液を調製し、測定される濃度と比較することができる。一例としてプロカテロール塩酸塩を用いて、50mgのプロカテロール塩酸塩(97.25%無水物)を正確に量った後、水に添加して、50mlの溶液(「プロカテロール濃縮液」)を作製した。次に標準濃縮液を希釈し(「プロカテロール標準溶液」)、高速(又は高圧)液体クロマトグラフィ(HPLC)用の移動相として使用した。プロカテロール濃縮液は遮光瓶に封入し、冷蔵庫内に保存した。10μlの各試験サンプル及び10μlの標準溶液を、HPLCを用いて測定し、プロカテロールのピーク面積At(試験サンプル)及びAs(標準溶液)を各サンプルから求めた。その後、以下の式を用いてプロカテロール塩酸塩の質量を各試験サンプルについて確認した。
【0141】
試験溶液中のプロカテロール塩酸塩の量(g/μl)=標準濃縮液中のプロカテロール無水物の量×At/As×1.0276(式中、1.0276はプロカテロール塩酸塩半水和物の分子量/無水プロカテロール塩酸塩の分子量の比率=335.83/326.82である)
以下は、透過するプロカテロールカチオンの濃度を測定するための例示的な条件及び器具である。
【0142】
型式:Shimazu HPLC LC−2010A HT
カラム:Shinwa Chemical Industries, Ltd.
型式STRUCTURE ODS−II
150mm長×4.6mm内径
温度:40℃
移動相:5mmol・dm−3のペンタンスルホン酸/メタノール/酢酸(76:23:1)混合物
流速:1ml・min−1
注入量:10μl
特に指定のない限り、「HOS:hr−1」、5週齢雄マウスから採取したヘアレスマウスの皮膚:
ガラスチャンバを設置し、32.5。Cで実行する
チャンバ内におよそ3.4mlのDPBS
チャンバ1、2、3、4、5 TTスピンコート
チャンバ6、7 PP−HPC
チャンバ8、9 PET−HPC
3.例示的なパッチの作製
作製1:2.5重量%のプロカテロール塩酸塩、10重量%グリセロール溶液中の0.5重量%のHPCを含む活性薬剤層16組成物を、バッキングシート(3M)の上の12mm径PET基層16上にスピンコーティングすることによって、23.5μgのプロカテロールパッチ(1.13cm2)を作製した。
【0143】
作製2:100μLの25mg/mlプロカテロール/10重量%グリセロール溶液を10mm径PET−Klucel単層ディスクに添加することによって、2.5mgのプロカテロールパッチを作製した。
【0144】
作製3:30μLの25mg/mlプロカテロール/10重量%グリセロール溶液を12mm径PP−Klucel二層ディスクに添加することによって、0.75mgのプロカテロールパッチを作製した。
【0145】
(実施例1)
実施例1において、濃度勾配に沿った皮膚内への且つ皮膚を介したプロカテロールカチオンの移行を検査するために、送達装置10を試験する前に、プロカテロール塩酸塩を用いて4つの異なる薬剤濃度で16回の試験を行った(活性薬剤の各濃度について4回の試験(#1、#2、#3及び#4))。フランツセルは、ヘアレスマウスの皮膚を透過膜として使用し、32℃で用いた。720は5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、722は2.5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、724は1重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、且つ726は0.5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示す。図26は、4つの薬剤濃度720、722、724及び726についての、PBS流体74を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の平均量対時間を示す。皮膚を介して送達されるプロカテロールの量が経時的に増大することが分かる。さらに送達されるプロカテロールの量が、プロカテロール濃度が高くなるにつれて増大することも分かる。医学的に有効な量のプロカテロールを、皮膚を介して送達させるために、プロカテロール溶液は、或る特定の閾値濃度以上でなければならない。水中に溶解される十分量のプロカテロールを本実験では用いたため、かなり速いプロカテロール送達速度が得られた。このため、溶液が皮膚の表面近傍に存在するという条件であれば、皮膚を介してプロカテロールを送達することができる。表16は試験送達装置720〜726の詳細を示す。
【表15】
【0146】
包括的に、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコール等の親水性ゲルポリマーマトリクスを用いた経皮送達パッチを作製することができる。しかしながら、プロカテロールは親水性活性薬剤であるため、ポリマーマトリクス内からの円滑な放出が常に可能というわけではない。
【0147】
図27〜図32は、種々の試験条件下且つ種々の薬剤濃度に関する、送達装置10の種々の態様についてのin vitro試験結果を示す。
【0148】
下記の実施例2〜実施例7では包括的に、プロカテロールを保持するために高粘性ゾル溶液を使用した。活性薬剤含有ゾルを生成するために、様々な重量%のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を水中に溶解させた。次にプロカテロール塩酸塩をゾル中に溶解した。このゾルをPETシートに塗布してパッチを作製した。グリセロール(一般的に10重量%)を添加して、特に送達を促進させた。PETに塗布される量の活性薬剤溶液には、およそ20μg/cm2のプロカテロールが含有されていた。試験によっては、HPC及びグリセロールの組成物を作製し、1日又は2日等の所定時間静置させた(repose)。状況によって、静置時間を短くしても延ばしてもよい。
【0149】
パッチをヘアレスマウスの皮膚(凍結又は未凍結)に貼り付け、溶液をパッチで置き換えた上記の組み立てたフランツセルを用いて送達されるプロカテロールの量を測定した。実施例2〜実施例7は、ドナー側のプロカテロールの量が経時的に増大し、且つ皮膚を通過することを示す。実施例2〜実施例7は、皮膚を介して送達させるプロカテロールの量を測定し得るが、プロカテロールの実際の送達機構は複雑であろう。
【0150】
(実施例2)
図4A及び図4Bに示される態様に従って1ロットの6つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例2において、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置のうち3つを試験し、凍結させた皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はHPC(およそ1重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ1重量%)を含み、各補充層18はHPC(およそ1重量%)を含んでいた。図27は、試験装置101、102及び103と個々に称される3つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表16Aは、11.5時間に取得したデータを用いて算出した試験装置101、102及び103について測定したフラックスレート(flux rate)を示す。試験装置104、105及び106と個々に称される、同一ロットのうち3つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表16Bは、送達装置104、105及び106についての活性薬剤(active agent、有効薬剤)の量及び濃度の詳細を示す。
【表16A】
【表16B】
【0151】
(実施例3)
実施例3において、図1〜図2Bに示される態様に従って1ロットの8つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例3では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はHPC(およそ1重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ1重量%)を含んでいた。図28は、試験送達装置201、202、203、204及び205と個々に称される5つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表17Aは、12.0時間に得られたデータを用いて算出した試験装置201、202、203、204及び205について測定したフラックスレートを示す。試験装置206、207及び208と個々に称される、1ロットのうち3つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表17Bは、送達装置206、207及び208についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表17A】
【表17B】
【0152】
(実施例4)
実施例4において、図1〜図2Bに示される態様に従って1ロットの10個の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例4では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)を含んでいた。図29は、装置301、302、303、304及び305と個々に称される5つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表18Aは、12.0時間にとったデータを用いて算出した試験装置301〜305について測定したフラックスレートを示す。試験装置306〜310と個々に称される、1ロットのうち5つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表18Bは、送達装置306〜310についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表18A】
【表18B】
【0153】
(実施例5)
実施例5において、図1〜図2Bに示される態様に従って18の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例5では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、凍結させた皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)、プロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)及び緩衝溶液を含んでいた。3つの異なるpH値の緩衝溶液を用いた。図30は、装置401〜409と個々に称される9つの送達装置についての、PBS流体774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表19Aは、pH4.0緩衝溶液を用いた試験装置401、402及び403について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表19Bは、pH5.0緩衝溶液を用いた試験装置404、405及び406について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表19Cは、pH6.0緩衝溶液を用いた試験装置407、408及び409について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。試験装置410〜418と個々に称される、1ロットのうち9つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表19Dは、pH4.0緩衝溶液を用いた送達装置410、411及び412についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表19Eは、pH5.0緩衝溶液を用いた送達装置413、414及び415についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表19Fは、pH6.0緩衝溶液を用いた送達装置416、417及び418についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表19A】
【表19B】
【表19C】
【表19D】
【表19E】
【表19F】
【0154】
(実施例6)
実施例6において、図1〜図2Bに示される態様に従って14個の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例6では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)、プロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)及び緩衝溶液を含み、2つの異なるpH値の緩衝溶液を用いた。図31は、装置501〜506と個々に称される6つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表20Aは、pH4.0緩衝溶液を用いた試験装置501、502及び503について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表20Bは、pH5.0緩衝溶液を用いた試験装置504、505及び506について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。試験装置507〜514と個々に称される、1ロットのうち8つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表20Cは、pH4.0緩衝溶液を用いた送達装置507〜510についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表20Dは、pH5.0緩衝溶液を用いた送達装置511〜514についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表20A】
【表20B】
【表20C】
【表20D】
【0155】
(実施例7)
実施例7において、図1〜図2Bに示される態様に従って8つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例7では、フランツセルで送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)を含んでいた。図32は、装置601〜604と個々に称される4つの送達装置についての、PBS流体774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表21Aは、12.0時間で得られたデータを用いて算出した試験装置601〜604について測定したフラックスレートを示す。試験装置605〜608と個々に称される、1ロットのうち4つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表21Bは、送達装置605〜608についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表21A】
【表21B】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活性薬剤の局所投与及び経皮投与の分野に関し、より詳細には、受動拡散によって活性薬剤を生体界面へ経皮的に送達するシステム、装置及び方法に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許仮出願第60/938,961号(2007年5月18日出願)、米国特許仮出願第60/955,850号(2007年8月14日出願)、米国特許仮出願第60/956,895号(2007年8月20日出願)、及び米国特許仮出願第60/957,126号(2007年8月21日出願)の、米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
例えば、カプセル、注射剤、軟膏及び丸剤の形態で従来投与されている活性薬剤は、通常、パルス(pulses)として体内に投与され、血流及び組織内に活性薬剤濃度の大きな変動をもたらし、結果として効力及び毒性の好ましくないパターンをもたらす。例えば、閉塞性呼吸器疾患の治療に関して従来投与されている活性薬剤としては一般的に、吸入デバイス(例えば吸入器)を用いて通常投与される吸入エアロゾル及び吸入溶液が挙げられる。一般的に、吸入機器は、手動ポンプが取り付けられた加圧されたキャニスター内に、溶液中に貯蔵された活性薬剤、薬物又は薬を有する。標準的な吸入機器を使用するために、ユーザーは初めに息を吐き出し、次に吸入機器のマウスピースの端を口内に挿入する。そしてマウスピースの端を口内に保持したまま吸入機器のポンプを手で動かす必要があり、その上、ユーザーは、活性薬剤又は薬物又は薬剤が吐き出されることなく体内への吸収が見込まれるように、必要とされる時間にわたって呼吸を維持しなければならない。ユーザーによっては、吸入機器を使用しにくいと考えるであろう。例えば、吸入機器のユーザーには、吸入機器を物理的に操作し且つ駆動させる能力が要求される。若年のユーザー又は虚弱なユーザーにとっては、吸入機器を適切に使用するために必要な上記の連係操作の習得が困難な可能性がある。また、必要とされる時間にわたって呼吸を維持する能力のないユーザーも同様に、吸入機器を利用することができないであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、例えば閉塞性呼吸器疾患を治療するために経皮送達装置を用いるような、活性薬剤を投与するための代替的なモデルを提供するニーズが存在する。
【0005】
人体の最も範囲の広い器官である皮膚は、全身性薬剤投与のための痛みのない適合性界面をなす。注射及び経口投与ルートに比べて、経皮の薬剤送達は、患者のコンプライアンスを向上させ、肝臓による代謝を回避し、長期間にわたる持続送達及び制御送達を提供する。経皮送達は場合によって、例えば、胃腸刺激、低吸収、初回通過効果(もしくは、初回通過代謝又は肝臓効果)による分解、副作用を起こす代謝物の形成、及び頻繁な投薬を必要とする短い半減期等の、活性薬剤に関する特有の問題を取り除くことにより療法的価値を増大させることができる。
【0006】
皮膚は最も広範囲且つ容易に接触可能な器官の1つであるが、比較的厚く、また構造上複雑である。このため、歴史的に、ある種の活性薬剤を経皮的に送達させることは困難であった。傷のない皮膚を介して血流又はリンパ管中に移行させるためには、活性薬剤を、角質層(即ち、表皮の最外層)、生存表皮、真皮乳頭層、及び毛細血管壁を含む、組織の多重かつ複雑な層に透過させなければならない。一般的に、脂質のマトリクス中に埋め込まれた扁平細胞から成る角質層は、局所組成物又は経皮投与される薬剤の吸収に対する主なバリアであると考えられている。
【0007】
皮膚の親油性によって、水溶性薬剤又は親水性薬剤は、親油性薬剤よりもゆっくりと拡散することが予想される。脂質ベースの透過増強剤(例えば、植物油を含む疎水性有機物質)は、拡散速度を改善させ得ることがあるが、このような透過増強剤は親水性薬剤と十分に混合しない。例えば、呼吸器作用薬であるプロカテロールを送達させるための経皮ビヒクルの開発は、数多くの困難に直面している。プロカテロールは高親水性であるため、疎水性有機物質と組み合わせる場合には皮膚を介する送達が不可能であった。
【0008】
経皮送達装置又は薬学的に許容可能なビヒクルの商業的な受入れは、製造コスト、保存寿命、貯蔵時の安定性、活性薬剤送達の有効性及び/又は適時性、生物学的機能、並びに/又は廃棄問題を含む様々な因子に左右される。経皮送達装置又は薬学的に許容可能なビヒクルの商業的な受入れはまた、それらの汎用性及び使い易さにも左右される。
【0009】
本開示は、上記の欠点の1つ又は複数を克服し、及び/又はさらなる関連する利点を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
経皮送達装置(transdermal delivery device(s))及び局所製剤を記載する。種々の実施の態様において、イオン化可能な活性薬剤及びイオン化された活性薬剤は、皮膚を介して受動的に透過し、血流に至りそして最終的には全身に送達される。
【0011】
一つの態様は、基材(backing substrate)及び活性薬剤層を含み、前記活性薬剤層は、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、前記活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を説明する。
【0012】
さらなる態様は、増粘剤、イオン化された活性薬剤及び水性媒体を含む局所製剤であり、実質的にオイルフリーである局所製剤を説明する。
【0013】
さらに別の態様は、基材と活性薬剤層を含み、該活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、該活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を対象の皮膚に適用すること(applying)、及び
前記イオン化可能な活性薬剤を、前記イオン化された活性薬剤へと解離させること、
を含む、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を説明する。
【0014】
図面中、同一の参照番号は類似の要素又は行為を特定するものである。図面中の要素のサイズ及び相対的な位置は、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。例えば、様々な要素の形状及び角度は、一定の縮尺で描かれておらず、これらの要素のいくつかは、図面の視認性を向上させるように適宜に拡大及び配置されている。さらに、描かれているような要素の特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関するいかなる情報も付与することを意図しておらず、図面中での認識し易さのために選択されているに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】例示される一つの態様による経皮薬剤送達装置の作用側の等角図である。
【図2】図2Aは例示される一つの態様による図1の経皮送達装置の作用側の平面図である。図2Bは例示される一つの態様による図1の経皮送達装置の分解図である。
【図3】例示される一つの態様による経皮送達装置の作用側底部の等角図である。
【図4】図4Aは例示される一つの態様による経皮送達装置の作用側の平面図である。図4Bは例示される一つの態様による経皮送達装置の分解図である。
【図5】イオンフラックス誘起電場を概略的に図示した図である。
【図6】イオンの経時的(Δt)な移動を示す図である。
【図7】イオン透過を試験するためのH型フランツセルを概略的に示す図である。
【図8】図8A〜8Cは電位差がイオンの移動にどのような影響を与えるのかを図示した図である。
【図9】皮膚内におけるプロカテロールカチオンの透過率と、プロカテロール塩酸塩の濃度との関係を示す図である。
【図10】図7のフランツセルを用いて多くの種々の濃度で測定した、ヘアレスマウスの皮膚に経時的に送達される水性プロカテロールの実際量を示す図である。
【図11】図10における実測値と比較される計算値を示す図である。
【図12】ジクロフェナクナトリウムの濃度と、ジクロフェナクアニオンの皮膚への送達率との関係を示す図である。
【図13】イオン拡散の結果として皮膚内に生じる電位差を示す図である。
【図14】測定結果と図13の計算(予測)結果とを比較する図である。
【図15】AA2Gの濃度と、皮膚内のAA2G−イオンとの関係を示す図である。
【図16】皮膚内に生じる電位差を示す図である。
【図17】計算結果と実験結果との比較を示す図である。
【図18】リドカイン塩酸塩の濃度と、皮膚内へ送達されるリドカインカチオンとの関係を示す図である。
【図19】皮膚内におけるリドカイン塩酸塩の送達時に生じる電位差を示す図である。
【図20】リドカイン塩酸塩の透過の計算値と実際の実験値との比較を示す図である。
【図21】例示される一つの態様による、経皮薬剤送達装置を製造する例示的な方法の流れ図である。
【図22】図22A〜22Cは例示される一つの態様によるスピンコーティングプロセスを示す図である。
【図23A】例示される一つの態様による、頻度対粒径の動的光散乱測定プロットである。
【図23B】例示される一つの態様による、HPCとプロカテロール塩酸塩との相互作用を示す活性薬剤層の断面図である。
【図24】例示される一つの態様による、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を予防するか又は処置する例示的な方法の流れ図である。
【図25−1】図25Aは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価する試験拡散セルの分解図である。
【図25−2】図25Bは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価するフランツ試験拡散セルの分解図である。図25Cは例示される一つの態様による、in vitro経皮透過を評価するフランツ試験拡散セルの非分解図である。
【図26】例示される一つの態様による、送達されるプロカテロール塩酸塩対時間のプロットである。
【図27】例示される一つの態様による、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの例示的な透過プロファイル対時間のプロットである。
【図28】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図29】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図30】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図31】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【図32】送達装置の例示的な態様に関する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)へのプロカテロールの透過プロファイル対時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明において、或る特定の詳細は、種々の開示された態様の十分な理解を提供するように記載されるものである。しかしながら、当業者は、これらの特定の詳細の1つ又は複数がなくても、又は他の方法、構成要素、材料等によって態様を実施し得ることを認識するであろう。他の例では、限定するものではないが、輸送及び保存時に送達装置を保護する保護被覆及び/又は保護のためのライナーを含む、送達装置に関する既知の構造体は、態様の説明をいたずらに不明確にすることを避けるために、詳細に示しも記載もしていない。
【0017】
文脈上他の意味に解すべき場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲は一貫して、単語「comprise」及びその変化形、例えば「comprises」及び「comprising」は、含むが限定されない、という開かれた、包括的な意味で解釈されるものとする。
【0018】
本明細書は一貫して、「一つの態様」又は「態様」又は「別の態様において」又は「態様によっては」という言及は、態様に関して記載される特定の指示対象の(referent)特徴、構造又は特質が、少なくとも1つの態様に含まれることを意味する。このため、一貫して本明細書の様々な場所における語句「一つの態様において」又は「態様において」又は「別の態様において」又は「態様によっては」は、必ずしも全て同じ態様について言及しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造又は特質は、1つ又は複数の態様において適宜組み合わせることができる。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲内で使用される場合、単数表現、「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、複数の指示対象を含むことに留意されたい。このため、例えば、活性薬剤という言及は、単一の活性薬剤、又は2つ以上の活性薬剤を含む。また、用語「又は」は、文脈中に特に明確な指示がない限り、「及び/又は」を含む意味において包括的に使用されることに留意されたい。
【0020】
イオン化された薬剤は、皮膚を介して容易に透過せず、一般的に局所製剤(例えば、クリーム及びローション)又は経皮パッチに適さないと広く考えられていた。しかしながら、本明細書中に記載の様々な態様によれば、或る特定のイオン化可能な活性薬剤は、皮膚を透過し、そして血流又はリンパ管内へ入り込むことができる。理論モデル及び皮膚内のイオン透過の実験結果に基づき、イオン化された活性薬剤を受動的に送達するように設計される経皮送達装置(例えばパッチ)の論理的アプローチ及びイオン化された活性薬剤を受動的に送達する局所製剤を、本明細書中で説明する。また、それらを製造及び使用する方法を説明する。
【0021】
経皮送達装置
一つの態様は、受動的経皮送達装置、例えば、経皮パッチを提供し、この受動的経皮送達装置は、基材と活性薬剤層とを備え、活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、イオン化可能な活性薬剤が、活性薬剤層中で電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「経皮送達」とは、外部から印加される電流の非存在下におけるイオン性活性薬剤の受動的な拡散を指す。しかしながら、皮膚を介する拡散の結果として、イオン化された物質は、皮膚の両側に電位差を発生させ得る濃度勾配をもたらす。この電位差は、様々なイオンの比率(rate)、フラックス及びサイズを含む数多くの相関因子に応じて、イオン拡散プロセスを速めうるか又は妨げうる。制御条件下におけるイオンの受動的な拡散は、電位及び濃度勾配の二重の効果によってメリットを得ることが本明細書中で述べられる。
【0023】
図1、図2A及び図2Bは、第1の例示的な態様である送達装置10aを示す。態様によっては、送達装置10aは、受動的な拡散によって1つ又は複数の治療活性薬剤を対象の生体界面へ経皮的に送達するように構成される。本明細書中で使用される場合、「生体界面」とは、皮膚及び粘膜(例えば、鼻粘膜)の両方を指す。特に定めがない限り、皮膚の透過に関する全ての説明は、粘膜にも適用される。送達装置10aは、対向する面13a及び15aを有する基材(backing substrate)12aを備える。任意に基層14aは、基材12aの側面13a上に配置及び/又は形成される。活性薬剤層16aは、基層14a上に配置及び/又は形成される。基材12a、任意選択的な基層14a、及び活性薬剤層16aは、送達装置10aが対象の外形に一致するように柔軟な材料から形成され得る。
【0024】
図1は送達装置10aの等角図を示す。送達装置10aを対象(図示せず)上に設ける場合には、活性薬剤層16aを対象に対して近位方向とし、基材12aを対象に対して遠位方向とする。基材12aは、送達装置10aを対象に適用し接着させることができるような接着剤を含んでいてもよい。態様によっては、基材12aは送達装置10aを包み込む。基材の非限定的な例としては、3M(商標)CoTran(商標)Backing、3M(商標)CoTran(商標)Nonwoven Backing、及び3M(商標)Scotchpak(商標)Backingが挙げられる。
【0025】
任意の基層14aは、例えば、ポリマー、及び熱可塑性ポリマー樹脂(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート))等の任意の好適な材料から構成されていて良い。態様によっては、任意の基層14a及び活性薬剤層16aは、基材12aの大部分を占める。例えば、態様によっては、基材12a、任意の基層14a及び活性薬剤層16aはディスク形状であってもよく、基材12aはおよそ15ミリメートル(mm)の直径を有していてもよく、任意の基層14a及び活性薬剤層16aはおよそ12mmの直径を各々有していてもよい。態様によっては、基材12a、基層14a及び活性薬剤層16aのサイズはこれより大きくても小さくてもよく、態様によっては、基材12a、基層14a及び活性薬剤層16aの各々の相対的なサイズの違いは、図1、図2A及び図2Bに示されるものと異なっていてもよい。態様によっては、活性薬剤層16aのサイズは、とりわけ、送達装置10aによって送達される活性薬剤(複数可)、及び/又は送達装置10aによって活性薬剤(複数可)が送達される比率(rate)に依存し得る。典型的に、基材12a及び基層14aのサイズが少なくとも活性薬剤層16aのサイズとなるように、基材12a及び基層14aは活性薬剤層16aに対してサイズが決められる。
【0026】
図3は、第2の態様である送達装置10bを示す。本態様において、参照番号及び文字「b」で標記される要素及び特徴部は、同じ参照番号及び文字「a」で標記される図1、図2A及び図2Bのものと少なくともいくつかの点で類似する特徴部及び構成部材に相当する。本態様は、限定するものではないが、活性薬剤が好ましくない溶解動態を有することを含む場合に、活性薬剤の送達を向上させるのに有効であり、且つ活性薬剤の溶解動態が好ましくない場合にも使用することができる。
【0027】
送達装置10bは、基材12bと、基層14bと、1つ又は複数のイオン化可能な活性薬剤を貯蔵する活性薬剤層16bとを備える。イオン化可能な活性薬剤を活性薬剤層16b中に補充することは、活性薬剤の適切な送達に重要な役割を果たし得ることが見出された。特に、イオン化可能な活性薬剤を活性薬剤層16b(又は16a)中に補充することによって、活性薬剤層16b(又は16a)中で、経時的に適正な又は実質的に一定なイオン化可能な活性薬剤の濃度を維持することが可能である。従って、図3に図示される態様において、送達装置10bは、内側の活性薬剤補充層18b’及び外側の活性薬剤補充層18b’’を備えていてもよい。活性薬剤補充層18b’及び18b’’は、限定するものではないがヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等の材料(例えば増粘剤)から形成され得る。活性薬剤補充層18b’及び18b’’は、活性薬剤層16b中に拡散するさらなるイオン化可能な活性薬剤を貯蔵する。
【0028】
図4A及び図4Bは、第3の態様である送達装置10cを示す。本態様において、参照番号及び文字「c」で標記される要素及び特徴部は、同じ参照番号及び文字「b」で標記される図3A及び図3Bのものと少なくともいくつかの点で類似する特徴部及び構成部材に対応する。送達装置10cは、活性薬剤層16cと基層14cとの間に介在する外側の活性薬剤補充層18cを備える。態様によっては、活性薬剤補充層18cは、活性薬剤層16cが活性薬剤補充層18cと基層14cとの間に介在するように、基層14cから遠位方向の活性薬剤層16c上に設けられていてもよい。
【0029】
種々の態様において、活性薬剤層16aは、増粘剤及び治療に有効な量のイオン化可能な活性薬剤を含む。
【0030】
A.増粘剤:
「増粘剤」は、活性薬剤層の嵩を与える不活性且つ粘稠性の材料を示す。例えば、増粘剤は、活性薬剤が内部に分散されるゾルを示す。増粘剤と活性薬剤との相対量を調節することによって、選択される濃度及び粘度の活性薬剤層を調製することができる。典型的に、増粘剤はセルロース誘導体である。例示的な増粘剤としては、多糖(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、タンパク質、並びに粘度増強剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
B.イオン化可能な活性薬剤:
「活性薬剤」は、任意の宿主、動物、脊椎動物又は無脊椎動物(限定するものではないが、魚類、哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類及びヒトが含まれる)からの生体応答を生じさせる化合物、分子又は処理剤を示す。活性薬剤の非限定的な例としては、治療薬、医薬製剤、医薬品(例えば、薬剤、治療用化合物、及び医薬用塩等)、非医薬品(例えば、化粧品等)、ワクチン、免疫薬、局部麻酔薬若しくは全身麻酔薬、又は鎮痛剤、抗原若しくはタンパク質若しくはインスリン等のペプチド、化学療法薬、及び抗腫瘍薬が挙げられる。
【0032】
イオン化可能な活性薬剤は、水性媒体と接触する前は電気的に中性である(即ちイオン化されていない)本明細書中に定義される活性薬剤を示す。水性媒体と接触させると、イオン化可能な活性薬剤は、「イオン化された活性薬剤」及び対イオンへと解離する。イオン化可能な活性薬剤の化学構造に応じて、イオン化された活性薬剤はカチオン性又はアニオン性であり得る。本明細書中で使用される場合、水性媒体とは、水分、水溶液(例えば、生理食塩水)、及び皮膚上に存在する汗を含む含水環境を示す。
【0033】
典型的に、イオン化可能な活性薬剤は塩の形態である。或る特定の態様において、1つ又は複数のアミン(第一級、第二級及び第三級アミン)又はイミンを含有する活性薬剤は、酸の存在下でイオン化可能な塩形態に変換され得る。好ましくは、活性薬剤は第三級アミン又は第二級アミンを有し、酸は塩酸(HCl)等の強酸である。塩は、カチオン性活性薬剤(正に帯電したアンモニウムイオンを含有する)及び対イオン(例えばクロライド)へと解離する。このため、酸(有機又は無機)には、対イオンが生理学的に適合性であるようなものが選択される。例示的な酸としては、例えば、リン酸(リン酸対イオン)、クエン酸(クエン酸対イオン)、酢酸(酢酸対イオン)、及び乳酸(乳酸対イオン)等が挙げられる。
【0034】
従って、或る特定の態様では、カチオン性の活性薬剤をもたらすイオン化可能な活性薬剤はアミン含有薬剤である。一つの態様において、活性薬剤層は、薬学的に許容可能な塩としてプロカテロール、即ち、薬学的に許容可能な塩として8−ヒドロキシ−5−[1−ヒドロキシ−2−[(1−メチルエチル)アミノ]ブチル]−2(1H)−キノリノン、[(R*,S*)−(+−)−8−ヒドロキシ−5−(1−ヒドロキシ−2−((1−メチルエチル)アミノ)ブチル)−2(1H)−キノリノン]を含む。例えば、米国特許第4,026,897号(その全体が参照により本明細書中に援用される)を参照。プロカテロールの好適な塩形態としては、プロカテロール塩酸塩、並びにプロカテロール塩酸塩半水和物、プロカテロール塩酸塩水和物及びその各異性体を含むその水和物形態が挙げられる。
【化1】
(式中、n=2である)
プロカテロールは、アミン含有β−アドレナリン作動薬の種類の一例である。アミン含有β−アドレナリン作動薬の他の例としては、アルホルモテロール、バンブテロール、ビトルテロール、クレンブテロール、フェノテロール、ホルモテロール、ヘキソプレナリン、イソエタリン、レボサルブタモール、オルシプレナリン、ピルブテロール、プロカテロール、レプロテロール、リミテロール、サルブタモール、サルメテロール、テルブタリン、トレトキノール、及びツロブテロール等が挙げられる。
【0035】
さらなる態様において、アミン含有イオン化可能な活性薬剤は「カイン」タイプの鎮痛剤又は麻酔薬である。特に、イオン化可能な活性薬剤は、リドカインの塩形態、例えばリドカイン塩酸塩である。他のアミン含有「カイン」タイプ薬剤は、例えば、その薬学的に許容可能な塩として、セントブクリジン(centbucridine)、テトラカイン、ノボカイン(登録商標)(プロカイン)、アンブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、シクロメチカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、ユープロシン、フェナルコミン、ホルモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、ロイシノカイン、レボキサドロール、メタブトキシカイン、ミルテカイン、ブタンベン、ブピビカイン、メピバカイン、β−アドレナリン受容体アンタゴニスト、オピオイド鎮痛剤、ブタニリカイン、エチルアミノベンゾエート、フォモカイン、ヒドロキシプロカイン、イソブチルp−アミノベンゾエート、ナエパイン(naepaine)、オクタカイン、オルトカイン、オキセサゼイン、パレントキシカイン、フェナシン、ピペロカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プソイドコカイン、ピロカイン、サリチルアルコール、パレトキシカイン、ピリドカイン、リソカイン、トリカイン、トリメカイン、抗痙攣剤、抗ヒスタミン剤、アルチカイン、コカイン、プロカイン、アメトカイン、クロロプロカイン、マーカイン、エチドカイン、リグノカイン、ベンゾカイン、ゾラミン、ロピバカイン、ジブカインを、又はそれらの混合物を含む。
【0036】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤は、塩形態であり得る1つ又は複数のカルボン酸(−COOH)を含有する。このタイプのイオン化可能な活性薬剤は、アニオン性の活性薬剤及び生理学的に適合性の対イオンへと解離する。例えば、或る特定の態様において、イオン化可能な活性薬剤はジクロフェナクのアルカリ塩である。ジクロフェナクは非ステロイド抗炎症剤(NSAID)である。ジクロフェナクのナトリウム塩(即ち、モノナトリウム2−(2−(2,6−ジクロロフェニルアミノ)フェニル)アセテート)は、以下の一般分子式を有する。
【化2】
【0037】
他の好適な生理学的に適合性の対イオンとしては、例えば、アンモニウム及びカリウム等が挙げられる。
【0038】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤は、アスコルビン酸又はその誘導体の塩である。アスコルビン酸は酸化防止剤であり、メラニン生成を阻害する。その塩の形態は、アスコルビン酸アニオン及び正に帯電した対イオンへと解離することができる。例えば、アスコルビン酸のナトリウム塩(又は、L形態又はD形態のアスコルビン酸ナトリウム)を以下に示す。
【化3】
【0039】
或る特定の態様において、イオン化可能な活性薬剤は安定なアスコルビン酸誘導体である。例えば、L−アスコルビン酸2−グルコシド(AA2G)は、AA2G(−)及びプロトンへと解離する。
【化4】
【0040】
ある場合において、皮膚内へ一旦透過すると、イオン化された活性薬剤は急速に皮膚内の脂質二重層から離れ、より深い組織に及び、最終的には、血流内に至って全身に送達され得る。
【0041】
分極可能な活性薬剤も好適な活性薬剤の範囲内である。「分極可能な活性薬剤」はまた、電気的に中性であるが、極性溶媒(本明細書中で定められる場合、水性媒体)の存在下において或る一部分が別の部分と比較してより大きな極性を示す。
【0042】
C.任意の構成成分
増粘剤及びイオン化可能な活性薬剤に加えて、活性薬剤層16aは、イオン化可能な添加剤、保湿剤、可塑剤、及び透過増強剤等の1つ又は複数の任意の構成成分をさらに含んでいても良い。
【0043】
「イオン化可能な添加剤」とは、水性媒体と接触してイオンを生じる不活性な塩を指す。本明細書中でより詳細に述べられるように、イオン化可能な添加剤の解離されたイオンは、濃度勾配の形成に寄与し且つイオンの透過プロセス中のイオンフラックスによって誘起される電位に影響を与える。有益には、それらの透過性の特徴に基づき、好適なイオン化可能な添加剤は、イオン化された活性薬剤の透過プロセスを補助するように選択され得る。例示的なイオン性添加剤としては、塩化カリウム(KCl)、及び塩化ナトリウム(NaCl)等が挙げられる。
【0044】
態様によっては、活性薬剤層16aは保湿剤を含み得る。例示的な保湿剤としては、吸湿性物質、幾つかの親水性基(例えば、ヒドロキシル基、アミン基、カルボキシル基、及びエステル化カルボキシル基等)を有する分子、及び水分子と水素結合を形成ための親和性を有する化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。保湿剤のさらなる例としては、尿素、グリセリン、プロピレングリコール(E1520)及びグリセリルトリアセテート(E1518)、ポリオール(例えば、ソルビトール(E420)、キシリトール及びマルチトール(E965)、ポリマーポリオール(例えば、ポリデキストロース(E1200)、及び天然抽出物(例えばキラヤ(E999))等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
態様によっては、活性薬剤層16aが可塑剤を含み得る。用語「可塑剤」又は「軟化剤」は典型的には、増粘剤の可撓性を高めるのに添加される物質、化合物又は混合物を指す。好適な可塑剤としては、ポリグリコール、ポリグリセロール、ポリオール、ポリエチレングリコール(PEG)(例えば、PEG−200、PEG−300、PEG−400、PEG−4000、PEG−6000)、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)、及びトリエチレングリコール等が挙げられる。
【0046】
態様によっては、1つ又は複数の有機物成分を活性薬剤と組合せることによって、皮膚内への活性薬剤の吸収を促進させるか又は増進させることができる。例えば、界面活性剤は、タンパク質の構造を変えるか又は皮膚を流体化することができ、透過を高めることができる。態様によっては、イオン性の活性薬剤又は極性の活性薬剤の吸収は、親水性頭部基を有する界面活性剤を含むことによって増進させることができるであろう。界面活性剤の親油性部は皮膚への透過を助け得る。
【0047】
任意に、活性薬剤層は、さらなる薬剤、例えば、鎮痛剤、麻酔薬、麻酔薬ワクチン、抗生物質、アジュバント、免疫学的アジュバント、免疫原、トレロゲン、アレルゲン、トール様受容体作動薬、トール様受容体アンタゴニスト、免疫アジュバント、免疫調節剤、免疫応答剤、免疫刺激剤、特異的免疫刺激剤、非特異的免疫刺激剤、及び免疫抑制剤、又はその組合せを含んでいてもよい。
【0048】
D.活性薬剤層の用量及び処方
或る特定の態様において、活性薬剤層は実質的に無水且つオイルフリーである。活性薬剤層が5重量%以下の水、より典型的には3%、2%、1%又は0.5%の水しか含有しない場合に、「実質的に無水」であるとされる。実質的に無水条件下において、イオン性活性薬剤は電気的に中性のままであり、この状態はイオン化された形態よりも一般的により安定である。このため、活性薬剤のより長い保存寿命が期待され得る。活性薬剤層が、5重量%以下の親油性構成成分、例えば脂肪酸、植物油、石油又は鉱物油、短鎖(例えば、14個未満の炭素)飽和炭化水素、及びシリコーンオイル等を含有する場合に、「実質的にオイルフリー」であるとされる。これらの従来の透過増強剤は必ずしもイオン性透過を促進させるのに必要ない。他方で、油は貯蔵又は送達時にイオン化可能な活性薬剤又はイオン化された活性薬剤を不安定化する傾向にあるため、オイルフリーの活性薬剤層は、長期安定性を活性薬剤にもたらすことが期待される。
【0049】
種々の態様において、活性薬剤層中のイオン化可能な活性薬剤の量は、その透過率(permeation rate)及び投薬計画の両方に依存する。また、活性薬剤層16a中のイオン化可能な活性薬剤の濃度は、限定するものではないが、イオン化された活性薬剤の溶解性、及びイオン化可能な活性薬剤の溶解速度等の因子に応じて選択される。
【0050】
また、イオン化可能な活性薬剤の初期充填量はイオン化された活性薬剤の透過に影響を与える。イオン化可能な活性薬剤の濃度が高いほど、透過率は高くなり得る。このため、最少量の増粘剤中に最大量の活性薬剤を充填する(即ち、最も薄い活性薬剤層中に最高濃度の活性薬剤をもたらす)ことが望ましい。他方で、活性薬剤は皮膚によって一般的に十分に吸収されないが、パッチから全用量が摂取される場合でも致命的とならないことを保証できる初期充填レベルに制限するよう注意を払わなければならない。例えば、プロカテロール塩酸塩のパッチは典型的に、約25μg〜最大で100μgのプロカテロール塩酸塩を含有する。
【0051】
典型的に、活性薬剤層は約0.001重量%〜約10重量%のイオン化可能な活性薬剤を含んでいてもよく、より典型的には、活性薬剤層は約0.01重量%〜5重量%、又は約0.01重量%〜0.1重量%、0.1重量%〜1重量%、0.1重量%〜5重量%のイオン化可能な活性薬剤を含み得る。
【0052】
或る特定の態様において、活性薬剤層はHPC及びプロカテロール塩酸塩を含む。より特定の態様において、活性薬剤層は、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素を含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC、プロカテロール塩酸塩及びグリセロールを含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC、リドカイン塩酸塩、及びグリセロールを含む。他の態様において、活性薬剤層は、HPC及びジクロフェナクナトリウムを含む。他の態様において、活性薬剤層はHPC及びAA2−Gを含む。
【0053】
他の態様において、活性薬剤層は、本質的に、増粘剤、イオン化可能な活性薬剤及び保湿剤からなる。特定の態様において、活性薬剤層は、本質的に、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素からなる。
【0054】
E.イオン透過の理論モデル及び実験結果
先に述べたように、様々なイオン化可能な活性薬剤は、皮膚を介して移行するイオンへと解離することができる。皮膚内へのイオン性物質の経皮送達を分析する場合、濃度勾配に基づく単純な拡散は、生じる事象の全体像をもたらし得ない。以下の理論にとらわれることなく、分析は、濃度勾配に加えて電位に基づくイオン性経皮機構を説明するために本明細書中に提示される。膜(例えば皮膚)を経るイオンの移行の推進力は、濃度勾配及びイオンフラックスによって誘起される電位勾配の両方に関連すると考えられる。本明細書中で使用される場合、「フラックス」又は「イオンフラックス」とは、単位領域を移動するイオン性物質(即ちイオン化された活性薬剤)の比率(rate)を指す。典型的に、イオンフラックスは、例えばμgcm−2・h−1又はmolcm−2・h−1で表される。
【0055】
式1は基本的なイオンフラックスJを示す。
【数1】
【0056】
電気化学システムを分析する際に度々使用される式1中の最初の項はイオン拡散に関連し、第2の項は電場によるイオン移動に関連する。図5はイオンフラックスによって誘起される電場を概略的に図示している。図に示されるように、高濃度のイオン性薬剤溶液は左側チャンバー20に入れられる。皮膚の表面に相当する多孔質膜22がチャンバー20に接続されており、イオン性薬剤溶液は位置x=0で多孔質膜と接触する。薬剤溶液の初期濃度はC0である。多孔質膜の厚みはdであり、多孔質膜の右側のチャンバー24中のイオン性薬剤の濃度はCdとされる。拡散は、図5において左側のチャンバー20からシステムの右側に向けて進行し、電位差を誘起する濃度勾配が構築される。
【0057】
カチオン及びアニオンが皮膚を移動する際、それらの速度は式2で求められる。
【数2】
【0058】
式2中、ω+及びω−は、それぞれ溶液中のカチオン及びアニオンのモル移動度を示す。カチオン及びアニオンは独立して溶液中及び膜中で移動するが、両方とも同様の濃度勾配に従って移動する。従って、アニオン及びカチオンの相対速度は、式2にのみ依存する。薬剤又は化粧品として使用される化合物は有機物質の塩化物又はアルカリ金属塩である場合が多く、このことは、イオンへと解離すると、一方のイオン(一般的に活性薬剤イオン)がもう一方のイオンよりも大きいことを意味する。結果として、薬剤イオンの全体サイズは解離後でもあまり変化しないので、(濃度勾配に応じた)拡散によるイオン性薬剤の経皮送達は、中性分子の経皮送達とあまり相違ないものであると予測することが妥当である。
【0059】
図6は、カチオンの速度がアニオンの速度の半分であると仮定される場合の経時的なイオンの移動(Δt)を示す。カチオン(27a)は、アニオン(27b)がv−Δt(26b)移動する間にv+Δt(26a)移動する。このとき、膜内に電荷分離状態が生じ、非常に短い距離にわたって電位差がもたらされる。この電位差はカチオンの動きを促進させる一方、アニオンの動きを遅らせる。式3は、中性分子の移動では見られないこの効果を数学的に示す。アニオン及びカチオンは、式3において示されるように反対方向に移動する。カチオンは+を用いて表され、一方アニオンは−で表される。時間と共に、アニオン及びカチオンは両方とも、電気的中性を維持しながら膜の片側から反対側へと移動する。
【数3】
【0060】
式4は、イオンの速度(v)とフラックス(J)との関係を示す。試験される薬剤が一価のカチオン及びアニオンから成る場合にはイオンの濃度(c+及びc−)が同一であり、カチオンの速度はアニオンの速度と同じである。
【数4】
【0061】
従って、式5が充足されるはずである。
【数5】
【0062】
これにより、濃度勾配と電位勾配との関係が得られる。式5を0〜d及びc0〜cdで積分すると、膜を通過する電位差を示す式(Δφ=dφ/dx)が導かれる。
【0063】
これにより、式3に式6を代入すると、式7が得られる。
【数6】
【数7】
【0064】
定常状態において、イオンフラックスは、アニオン及びカチオンについての同じ式によって得られると考えられる。両イオンの拡散は、薬剤が解離イオンとして透過する際に濃度勾配に応じて生じ、dc/dx及び式8の拡散係数で表される。
【数8】
【0065】
さらに、式9を解くために濃度勾配又は電位勾配を線状に近似させる必要がある。これより式10が導かれる。x、0〜d及びcの値を得た後で式10をc0〜cdで積分する。これにより、いわゆるゴールドマンの式である式11に示されるようなフラックスJの解が得られる。
【数9】
【数10】
【数11】
【0066】
皮膚を横切る電位差は一成分系について考えられてきた。実際には、様々なイオン性化合物が存在し得る(例えば、イオン化活性薬剤及びイオン化添加剤を含む)。式12は、複数成分系について用いられる関係を示す。
【数12】
【0067】
これによってフィルム電位を算出することができるが、但し、皮膚内のイオン移動度(ω)及び濃度(c)は既知のものとする。この際、算出されたフィルム電位からイオン移行速度を知ることができる。
【0068】
上記のように、皮膚を横断するか又は皮膚内でのイオンの移動は、膜電位の発生が濃度勾配にさらなる影響を与えることから、単純な拡散モデルで考えることができない。このため、この事象を実験的に評価し、その結果を薬剤製品開発に有効に用いることが要求される。また、この理論に基づき有効な添加剤を評価することが望ましい。
【0069】
本明細書中に記載の理論を評価するためにH型フランツセル(図7)を使用した。示されるように、フランツセル28は、ドナーチャンバー30a及びレシーバチャンバー30bを備える。ドナーチャンバー30aは、膜32を透過してレシーバチャンバー30bに至るイオン性の活性薬剤を含有する。作用側電極34aをドナーチャンバー30aに挿入し、一方でカウンター電極34b(即ち参照電極)をレセプターチャンバー30bに挿入した。イオン拡散/透過によって誘起される電位差及びそれにより構築される濃度勾配を測定することができる。
【0070】
図8A〜図8Cは、電位差がイオンの移動にどのような影響を与えるかを図示している。示されるように、イオン性の活性薬剤の電荷(カチオン性又はアニオン性)に応じて、その移動は、皮膚を横切って構築される電位差の影響を受け得る。図8A〜図8Cはさらに、既知の透過特徴を有する或る特定のイオン化可能な添加剤を選択することによってイオン透過を促進させるか、又はイオン性薬剤の移動を遅延させる電位を相殺することによって少なくとも好ましくない状況を改善させることが可能であることを示している。
【0071】
図8Aは、電位差が皮膚36の両側で生じることを示している。電位が、皮膚の内側(身体38と接する側)で低い場合には、カチオンの移動が電位差によって促進されると共に、アニオンの移動が抑制される。従って、カチオン性活性薬剤にとっては、大きい膜電位がイオン化された添加剤によって生じることが望ましい。例えば、容易に透過し得るアニオン及び透過しにくいカチオンへと解離する添加剤が好ましい。
【0072】
図8Bは、アニオンの移動に有利に働くが、カチオンの移動を抑制する電位差が生じることを示している。従って、カチオン性の活性薬剤を送達する場合、カチオンの移動を遅らせる電位差を相殺するようなイオン化された添加剤が存在することが好ましい。
【0073】
図8Cは電位差が生じないことを示している。従って、容易に透過し得るカチオン及び透過しにくいアニオンへと解離して、カチオンの移動に有利に働く電位差を作り出すイオン化された添加剤を含むことが好ましい。
【0074】
アニオン性の活性薬剤について、電位差の影響はカチオン性活性薬剤の逆のものにしなければならない。従って、図8Aに記載の状況では、容易に透過し得るカチオン及び透過しにくいアニオンへと解離する添加剤が好ましい。図8Bでは、イオン化された添加剤が発生した電位差を相殺することが好ましい。例えば、効果的な添加剤は、その解離したカチオンと解離したアニオンとの間に皮膚内における同様の透過速度を有するものとする。図8Cについては、容易に透過し得るアニオン及び透過しにくいアニオンへと解離する添加剤が好ましい。
【0075】
示されるように、皮膚内におけるイオンの移動度は、薬剤製品中に含有される構成成分も皮膚内へと透過する場合には、それらの構成成分(例えばイオン化可能な添加剤)に影響を受ける可能性がある。従来のパッチに使用される増強剤は、増強剤が電位差に悪影響を受けない限り薬剤イオンの速度を改善させるのに使用することができる。従って、増強剤は、本明細書中に記載の製品に使用される場合に有効であり得る。さらに、薬剤濃度に起因するフラックスの変化も評価することができる。活量係数及び浸透圧は薬剤濃度に応じて変化し、これによってイオン性薬剤の移動速度に大きな影響を与える。
【0076】
水性媒体中にイオンを生成することに加えて、極性マトリクス及び極性溶媒中においてもイオンの解離をもたらすことができる。例えば、界面活性剤を用いて水及び油を混合したエマルジョンマトリクス、同様に、エーテル結合又はエステル結合を有する様々なポリマー、並びに有機溶媒、及び20以上の誘電率を有する有機溶媒と水との混合溶媒を使用してもよい。
【0077】
具体的なイオン化可能な活性薬剤をより詳細に以下に記載する。示されるように、これらのイオン化可能な活性薬剤は、(水性媒体中で解離すると)イオン化された形態で経皮的に送達され得る。或る特定の態様において、経皮送達はイオン化可能な添加剤の存在下で促進され得る。
【0078】
1.プロカテロール塩酸塩
100μgを超えるプロカテロールが経皮パッチ中に含まれ、且つこのパッチをユーザー又は他の個人が誤って摂取した場合には、潜在的に副作用が現れるおそれがある。また、薬効及び安全性を検討したところ、プロカテロールが実質的に一定比率で送達されることが望ましい。プロカテロール塩酸塩を用いた経皮送達パッチに関する開発はこれまでにも行われてきたが、パッチ中の薬剤の量及び送達比率を含む両方の要素を最適化し得るパッチは他者によって未だ開発されていない。従って、種々の態様において、経皮送達装置は活性薬剤層中にプロカテロール塩酸塩を含み、この装置では、プロカテロール塩酸塩の初期量(充填量)の少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも75%若しくは少なくとも90%が24時間かけて送達される。典型的には、安全性に対する懸念から、送達後の残留プロカテロール塩酸塩は、プロカテロール塩酸塩の初期充填量の50%を超えないべきである。
【0079】
プロカテロール塩酸塩を経皮送達装置(例えばパッチ)に充填するために、プロカテロールの水溶液、より好ましくはヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いた粘稠性ゾルをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布してもよい。典型的に、100マイクログラムに過ぎないプロカテロール塩酸塩しか充填することができない。パッチは乾燥させて、充填プロセス中に存在させた水を全て除去してもよい。
【0080】
図9は、皮膚内におけるプロカテロールカチオンの透過率と、プロカテロール塩酸塩の濃度との関係を示す。図9はまた、皮膚内に生じる電位差(図7に示されるセルを用いて測定される)を示す。ここで電位差は皮膚の外側と内側との間に存在するものである。この「+/−」符号は式12に示されるものと逆である。図9は、プロカテロール塩酸塩の水溶液を用いて得られた測定結果を示す。膜電位は、溶液中のpH変化の影響を受けて生じ得ると考えられる。0.12Mでは、皮膚内の電場を受けて皮膚の外側から内側に向かうカチオンの移行を促す傾向にある電位差が存在する。しかしながら、他の濃度では、皮膚内へのプロカテロールカチオンの移動を阻害する傾向のある反対の符号の電位勾配が生じる。電位差は、プロトン、プロカテロールカチオン及びクロライドイオンの影響を受けて生じると考えられる。
【0081】
クロライドイオンの移動度に対するプロカテロールカチオンの移動度は、膜電位測定の結果に基づき得ることができる。塩化ナトリウムを用いた膜電位の測定結果から分かるように、Na+及びCl−の移動度がおおよそ同様であることに留意されたい。また、H+の移動度は、HClを用いた膜電位の測定結果に基づき、Cl−の移動度よりもおよそ1500倍大きい。これらの値を用いて算出を行った。表1は、0.12Mのプロカテロール塩酸塩を用いた際の結果を示す。測定されたものと同一の表1による値を利用すると、プロカテロールイオンのイオン移動度は、クロライドイオンの移動度に対して0.13となる。プロカテロールイオンの移行速度は、クロライドイオンの移行速度と比べて遅いと考えることができる。
【表1】
【0082】
さらに、プロカテロールカチオンのフラックスはこれらの結果を用いて計算することができる。式11を用いて得られる算出値の結果を表2に示す。
【表2】
【0083】
さらに、表3は、フランツセルを用いて得られる測定の実験結果を示す。皮膚厚及びクロライドイオンの移動度は式11を使用する必要があり、クロライドイオンの移動度は1.5×10−13と仮定され、皮膚厚はここでは0.01cmと仮定される。クロライドイオンの移動度は、水溶液中で確認される移動度のおよそ1/10000である。しかしながら、この予測は、固体ポリマー電解質についての結果を鑑みると妥当であると考えられる。
【表3】
【0084】
表3は、図7のフランツセルを用いて、経時的にヘアレスマウスの皮膚へ送達される水性プロカテロールの実際の量が、種々の濃度で、送達率として測定された(図10)ことを示す。計算値を、図11における実測値と比較する。両者の傾向は良好な一致を示し、フラックス値は、いずれの実際の実験測定値とも関係なく式11を用いて確実に予測することができると考えられる。
【0085】
2.ジクロフェナクナトリウム
高濃度のジクロフェナクナトリウムは水に容易に溶解しないため、通常、疎水性溶媒を使用する。しかしながら、多くの疎水性溶媒は皮膚に刺激を与えるため、パッチ薬物として安易に使用することはできない。
【0086】
或る特定の態様において、ジクロフェナクナトリウム及びイオン化可能な添加剤を含む経皮送達装置は、水性条件下で(例えば、皮膚及び皮膚上の汗と接触させて)治療に有効な量のジクロフェナクを送達することができる。ジクロフェナクナトリウムは、ジクロフェナクアニオン及びナトリウムカチオンへと解離する。ジクロフェナクアニオンの移動度は、皮膚の膜電位の測定を実施することによって求めた。図12は、ジクロフェナクナトリウムの濃度と、皮膚へのジクロフェナクアニオン(diC−)の送達率との関係を示す。図13は皮膚内に生じる電位差を示す。表4に示される結果は、図12及び図13に示されるデータに基づき移動度について得られる。
【表4】
【0087】
ジクロフェナクアニオンの移動度は(塩化物イオンの移動度と比べて)4.6であることが分かった。これは、ジクロフェナクアニオンがクロライドイオンよりも容易に皮膚に送達されることを意味する。さらに、表5に示される計算結果は、ジクロフェナクのフラックスのために得ることができる。
【表5】
【0088】
表6は測定結果を示す。図14は測定結果と計算(予測)結果とを比較している。計算結果と実測値との間には相関が見られる。このため、膜電位の測定から得られる移動度を用いて、ジクロフェナクイオンの送達率を予測することができる。
【表6】
【0089】
膜電位は負の値を示す。このため、アニオンは減速されながら皮膚内を通過する。従って、皮膚内に生じる電位差をゼロへと低減することによって、又は電位を正にすることによって、送達率を改善させることができる。考えられる可能な一方法は、KClを添加剤として使用することである。KClはK+イオン及びCl−イオンへと解離する。異なる膜電位の測定値から、皮膚内のK+の移動度は、Cl−の移動度に比べて大きいことが見出された。これにより、KClは、皮膚内に生じる負の電位勾配を低減させるのに用いることができると考えられる。0.1%及び0.5%のKClをジクロフェナク溶液に添加して、膜電位の測定を実施した結果を表7に示す。
【表7】
【0090】
膜電位差はKCl添加剤を添加すると確実に小さくなり、これによって、皮膚内へのジクロフェナクの送達を遅らせる傾向のある電位勾配が低減した。電位勾配が低減する量は、添加されるKClの量に依存していることが分かる。その上、より大きなフラックスが、KClを含まない溶液に比べて、KCl添加剤を含有するジクロフェナクナトリウム溶液で得られたことも分かる。このため、ジクロフェナクの送達率は、皮膚内に生じる電位差を低減するような適切な添加剤を選択することによって制御することができる。
【0091】
ジクロフェナク及び0.1%KClは、プロカテロールについて使用されるものと類似のゾルを使用することによって、経皮パッチを製造するのに使用することができる。表8は、現在市場に出ている3つのジクロフェナク製品との比較を示す。我々のパッチはより高い送達を示す。
【0092】
従って、ある特定の態様では、活性薬剤層、ジクロフェナク及び0.1%KCl、並びにプロカテロールについて使用されるものと類似のゾルを備える経皮送達装置を提供する。表8は、現在市場に出ている3つのジクロフェナク製品との比較を示す。イオン化可能な添加剤KClを含有するパッチ(F26)はより高い送達を示す。
【表8】
【0093】
3.アスコルビン酸及びその誘導体
アスコルビン酸は高い水溶性を有する2−グルコシド伝導体である。疎水性のアスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸の皮膚透過を向上させるために開発されてきた。しかしながら、疎水性アスコルビン酸誘導体は、様々な添加剤を使用し得る疎水性基剤と組み合わせられることもある。このことにより皮膚に刺激を与えるおそれがあり、このような組成物を使用したパッチは公に十分受け入れられるものではないと思われる。そこでアスコルビン酸2−グルコシドを使用することによって、刺激が無く、添加剤を使用しない、優れた有用性を備えた局所製剤(例えば親水性ローション)を本明細書中に説明する。
【0094】
アスコルビン酸2−グルコシド(AA2G)はAA2G−イオン及びH+イオンへと解離する。図15は、AA2Gの濃度と、皮膚内のAA2G−イオンとの関係を示す。図16は皮膚内で生じる電位差を示す。皮膚の外側から皮膚の内側に向かってアニオンを誘導する傾向にある電位差は、0.06M、0.15M及び0.3Mの濃度で生じる。電位勾配は濃度が高くなるにつれて弱まるが、このとき、この電位差を用いてAA2G−アニオンの拡散を促進させることは困難となる。電位差が低濃度で高い理由は、皮膚内の生理食塩水とAA2Gとのイオン濃度差の影響によるものと考えられる。さらに、用いられる種々の濃度のAA2Gが、皮膚内におけるH+とAA2G−との移動の差をもたらす。実験から、確認される電位差は、AA2G−及びH+の影響を受けて生じると考えられる。
【0095】
フィルム電位から(クロライドイオンの移動度と比べて)AA2G−の移動度を確認することができ、表9は、0.3MにおけるAA2Gの結果を示す。この表より、AA2G−の移動度とクロライドイオンの移動度との比率は0.83である。
【表9】
【0096】
ここで、これらの結果を用いてAA2G−のフラックスを計算することができる。表10は式11を用いた場合の結果を示す。
【表10】
【0097】
表11はフラックス測定値の実験結果を示す。計算結果と実験結果との比較を図17に示す。両方とも同様の傾向を示すため、フラックスは、式11を用いることによって実験を行うことなく予測することができる。
【表11】
【0098】
4.リドカイン塩酸塩
リドカインは透過率が低いため、麻酔効果を得るためには、高濃度のリドカイン塩酸塩を使用することが必要とされる。しかしながら、高濃度のリドカイン塩酸塩は皮膚に刺激を与える。このため、リドカインを効率的に皮膚内へ送達することによって十分な麻酔効果を示すことができるパッチを開発することが望ましい。より詳細には、透過に好ましいリドカイン塩酸塩の濃度を、本明細書中に記載の理論モデルによって立証することができる。
【0099】
リドカイン塩酸塩は、水中でリドカインカチオン(プロトン化リドカイン)及びCl−イオンへと解離する。リドカイン塩酸塩の濃度と皮膚内へ送達されるリドカインカチオンとの関係を図18に示す。図19は皮膚内に生じる電位差を示す。リドカインイオンを皮膚内へと誘導する傾向のない電位差は低濃度(1%)で確認されるが、リドカインイオンを皮膚内へと誘導する傾向にある電位差は高濃度(例えば5%及び10%)で生じる。
【0100】
クロライドイオンに対するリドカインカチオンの移動度は、膜電位の結果から確認することができる。5%リドカイン(185mM)についての結果を表12に示す。膜電位が実測値と同様である表の値を用いると、リドカインカチオンの移動度はクロライドイオンの移動度に対して0.67となる。リドカインカチオンはクロライドイオンよりも相対的にゆっくりと移動する。
【表12】
【0101】
リドカインカチオンのフラックスを計算した結果を表13に示し、実験結果を表14に示す。
【表13】
【表14】
【0102】
皮膚厚を0.01cm、且つクロライドイオンの移動度を1.5×10−13と仮定して、計算を行った。図18は、様々な濃度でヘアレスマウスの皮膚に経時的に送達されるリドカイン水溶液の実際量の測定値を示す。
【0103】
図20は、計算値と実際の実験値との比較を示す。両方とも同様の傾向を示し、実験の実施に頼ることなく式11を用いてフラックス量を予測することができることを示す。
【0104】
局所製剤
或る特定の態様では、経皮送達装置に関して、記載の活性薬剤層を水和させて、局所製剤を作製することができる。局所製剤は、対象の皮膚に直接且つ自由に貼付することができる。このため、或る特定の態様では、本明細書中に記載されるような、水性媒体と一緒に増粘剤及びイオン化された活性薬剤を含む局所製剤を提供し、この局所製剤は実質的にオイルフリーである。局所製剤は典型的に、当該技術分野で既知の方法に従って塗り広げることが可能な形態(例えばプラスター及びペースト)で製剤化される。透過増強剤、酸化防止剤を含む様々な添加剤を、局所製剤にさらに組み合わせることができる。
【0105】
或る特定の態様において、イオン化された活性薬剤は、本明細書中に記載のイオン化可能な活性薬剤のいずれかに基づくことができる。特定の一つの態様では、プロカテロールカチオン(例えばプロカテロール塩酸塩)を含む局所製剤を提供する。例えば、局所製剤は、HPC、プロカテロール、尿素及び水を含み、水性製剤を提供する。別の特定の態様では、リドカインカチオン(例えばリドカイン塩酸塩)を含む局所製剤を提供する。さらなる特定の態様では、AA2Gアニオンを含む局所製剤を提供する。さらなる特定の態様では、ジクロフェナクアニオン(例えばジクロフェナクナトリウム)を含む局所製剤を提供する。受動パッチ用途と同様に、電位差を調節するためにイオン化された添加剤を添加してもよい。有益には、局所製剤中に油が存在しなければ、局所製剤中におけるイオン化された活性薬剤の長期安定性が促進される。
【0106】
局所製剤は、当該技術分野で既知の方法に従って配合及び使用することができる。
【0107】
使用方法及び製造方法
本明細書中に記載の経皮送達装置及び局所製剤は、当該技術分野で既知の方法によって作製することができる。
【0108】
典型的に、活性薬剤層は、増粘剤(例えばHPC)をベースとした粘稠性ゾル中にイオン化可能な活性薬剤を分散させることによって調製することができる。これを、基材、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上面に塗布することができる。基材はパッチ、テープ及びディスク等の形状であってもよい。
【0109】
図21は、以後まとめて送達装置10と称する送達装置10a、10b及び10cを製造する例示的な方法400を示す。以下において、送達装置10の種々の構成要素、特徴部、レイヤー等は、送達装置10a、10b及び10cの種々の構成要素、特徴部、レイヤー等に対応するそれぞれの参照番号及び付された文字を包括的に言及するものとする。
【0110】
402では、基材12を準備する。基材12は、第1の表面13及び反対側の第2の表面125を有する。
【0111】
404では、熱可塑性樹脂を有する基層14を、基材12の第1の表面13上に形成する。態様によっては、基層16がポリ(エチレンテレフタレート)材料を含む。
【0112】
406では、基材12の第1の表面13上の基層14上に、活性薬剤層16を形成する。活性薬剤層16は、増粘剤、保湿剤及び治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬(又はβ2−アドレナリン受容体刺激剤)若しくは誘導体、又はそれらの薬学的に許容可能な塩を含み得る。
【0113】
態様によっては、基材12の第1の表面上の基層14上に活性薬剤層16を形成することは、そこに組成物をスピンコーティングすることを含む。スピンコーティングされ得る組成物としては、増粘剤、保湿剤及び治療に有効な量のイオン化可能な活性薬剤を有する組成物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、活性薬剤層は、ヒドロキシプロピルセルロース、グリセロール又は尿素、及びプロカテロール塩酸塩又は他のβ2−アドレナリン受容体作動薬を種々の量、例えば、全組成物の約0.1重量%〜約5重量%の範囲で含み得る。
【0114】
態様により、任意の408では、活性薬剤層16に隣接する活性薬剤補充層18が形成される。活性薬剤補充層18は、活性薬剤層上にスピンコーティングされてもよく、イオン交換物質及び十分量のイオン化可能な活性薬剤(例えばβ2−アドレナリン受容体作動薬)を含み、活性薬剤層16中における約0.1重量%〜約5重量%の組成を維持し得る。
【0115】
図22A〜図22Cは、例示された一つの態様による材料層600のスピンコーティングプロセスを示す。図22Aでは、回転装置604によって制御可能に駆動される回転可能なディスク602上に材料層を配置させる。回転装置604は、ディスク602(及びその上に置かれた材料層600)を軸606の周りに回転させることができる。態様によっては、回転装置604は、ディスク602が回転する速度を制御し得るように制御可能/変更可能である。
【0116】
図22Bでは、材料層600上の軸606の近位部に、或る量の活性薬剤608を配置させる。態様によっては、ディスク602を回転させながら活性薬剤608を材料層600上に配置してもよい。他の態様では、ディスク602を回転させずに活性薬剤608をディスク602上に配置し、その後、ディスクを回転させるように回転装置604を作動させてもよい。
【0117】
図22Cでは、ディスク602の回転に応じて材料層600上に広がった活性薬剤608を示す。活性薬剤608を材料層600上にスピンコーティングすることによって、活性薬剤608の均一なコーティングが材料層600上にもたらされる。態様によっては、材料層600が、基材12を有しない基層14、即ち、基材12に塗布される前の基層14であってもよい。他の態様では、材料層600が基層14及び基材12であってもよい。
【0118】
ゾル構造体は動的光散乱(DLS)によって検査され得る。拡散レーザー光を用いて、ゾル中に含有されるHPCの状態を確認することができる。図23AはDLS測定スペクトルプロットを示す。HPC、プロカテロール及びグリセロールを含有する溶液(a)に対し、HPCしか含有しない溶液(b)についての異なるスペクトルが得られることが確認できる。HPCはプロカテロール及び/又はグリセロールと相互作用して凝集体を形成する。ゾルが凝集体を含有することは、或る特定のレベルの粘度を維持するために重要であるが、凝集体は、パッチからのプロカテロールのイオン解離及び/又はプロカテロールの放出の障害となる。図23Bは、例示される一つの態様による、HPCとプロカテロール塩酸塩との相互作用を示す活性薬剤層の断面図を示す。
【0119】
HPCとプロカテロール塩酸塩との凝集体の状態は、パッチ中の活性薬剤ゾルを制御する重要な因子である。プロカテロール塩酸塩はカチオン性であり、HPCは高度に親水性である。HPCはまた、pHが酸性の場合にアニオンの特性を有するため、凝集体が発生すると考えることができる。
【0120】
局所製剤について、イオン性活性薬剤(例えばAA2G)は、当該技術分野で既知の方法に従って、ローション、クリーム、エマルジョンへと配合され得る。
【0121】
本明細書中に記載のイオン化可能な活性薬剤はこのため、種々の症状の処置のために治療に有効な量で経皮的に送達され得る。或る特定の態様は、経皮送達装置を対象の皮膚に適用することによって、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を説明しており、当該経皮送達装置は、プロカテロール塩酸塩等のβ−アドレナリン受容体刺激剤を含む活性薬剤層を備える。
【0122】
閉塞性呼吸器疾患、例えば、喘息(例えば、アレルギー喘息、気管支喘息、及び内因性喘息)、気管支収縮性疾患、並びに慢性閉塞性肺疾患等が、世界中の何百万もの小児及び成人を侵している。これらの疾患は典型的に、1つ又は複数の誘引又はストレスに度々応答する、気管支反応性亢進、炎症(例えば気道炎症)、粘液産生の増進、及び/又は間欠的気道閉塞を特徴とする。例えば、慢性呼吸器疾患は、環境刺激因子又はアレルゲン、大気汚染物質、冷気、運動又は激しい活動、及び情動ストレス等に起因することがある。小児において、最も一般的な誘因は、風邪等のウイルス性疾患である。喘息発症の兆候としては、喘鳴、息切れ、胸苦しさ、咳嗽、速い呼吸(頻呼吸)、呼吸延長、速い心拍(頻脈)、水泡音である肺音(rhonchous lung sounds)、及び胸部の過膨張等が挙げられる。
【0123】
アミン含有β−アドレナリン受容体刺激剤の種類に属するイオン化可能な活性薬剤は、種々の態様に従って、活性薬剤層中に配合され、且つ対象内へと経皮的に送達され得る。β2−受容体は一般的に、血管、気管支、消化管、骨格筋、肝臓、及び肥満細胞を含む多くの組織に存在する。典型的に、β2−アドレナリン受容体作動薬は、β2−アドレナリン受容体に作用し、気管支経路の拡張(気管支拡張)、消化管の弛緩、筋肉及び肝臓における血管拡張、子宮筋の弛緩及びインスリンの放出、肝臓におけるグリコーゲン分解、骨格筋における震え、並びに肥満細胞からのヒスタミン放出の阻害等をもたらす平滑筋弛緩を誘起させる。β2−アドレナリン受容体作動薬は、喘息及び他の関連の気管支撃縮症状等を処置するのに有用である。またβ−受容体アンタゴニストは降圧剤として有用である。
【0124】
従って、一つの態様では、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法を提供する。当該方法は、基材と活性薬剤層とを備え、活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン性活性薬剤とを含み、イオン化可能な活性薬剤が、活性薬剤層中で電気的に中性であり且つ水性媒体と接触する際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を対象の皮膚に適用すること(applying);及び前記イオン化可能な活性薬剤を、イオン化された活性薬剤へと解離させることを含む。
【0125】
或る特定の態様では、上記方法は、イオン化可能な活性薬剤を対象の皮膚の汗と接触させ、それによってイオン化された活性薬剤を生成させることを含む。
【0126】
他の態様において、イオン化可能な活性薬剤はβ−受容体アンタゴニストである。特定の態様では、イオン化可能な活性薬剤はプロカテロール塩酸塩である。
【0127】
態様によっては、少なくとも50%のプロカテロール塩酸塩が、24時間以内に対象の皮膚を介して送達される。
【0128】
図24は、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する例示的な方法650を示している。
【0129】
660において、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する約25μg〜約100μgの活性薬剤を含む経皮送達装置を、対象の生体界面に適用する。修練者は、適切な量の活性薬剤を選択することができるが、これは、処置すべき症状若しくは薬物動態学、又は他の基準若しくは所望の効果を与える活性薬剤の特性に基づく(例えば、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を緩和させるのに十分な量)。
【0130】
670では、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を、閉塞性呼吸器疾患に関する症状を緩和させるのに十分な量で生体界面に送達させる。
【0131】
態様によっては、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を生体界面に経皮的に送達させることは、拡散によって、治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬を対象の生体界面に移送させることを含む。態様によっては、β−アドレナリン受容体刺激剤活性を有する活性薬剤を生体界面に経皮的に送達させることは、プロカテロール塩酸塩、プロカテロール塩酸塩半水和物、又はそれらの誘導体若しくは薬学的に許容可能な塩から選択される治療に有効な量のβ2−アドレナリン受容体作動薬を対象の生体界面に移送させることを含む。
【0132】
上記において、イオン交換物質のような活性薬剤は、対象の皮膚に貼り付けられるパッチ上に配置されるものとして説明されている。代替的な態様では、限定するものではないがイオン交換物質を含む活性薬剤を、対象の皮膚に塗布することができる粉末又はクリームの形態としてもよい。
【0133】
本明細書中に記載の種々の態様は、以下の非限定的な実験例によってさらに示される。
【実施例】
【0134】
1.in vitro透過試験
以後まとめて送達装置10と称される送達装置10a、10b及び10cは、in vitro及びin vivoの両方を用いて試験することができる。in vitro試験は、幾つかのタイプの試験装置のうち、Kelderセル又はフランツセル等の受動拡散試験装置を使用して試験を行なってよい。図25A、図25B及び図25Cは、送達装置10を試験するのに用いられる複数の例示的な受動拡散測定装置750を示している。
【0135】
受動拡散測定装置750は、第1のエンドプレート752及び第2のエンドプレート754を備える。ホール756等の複数の連結機構を第1のエンドプレート752上に形成する。第2のエンドプレート754は、アーム758等の多くの連結機構を備え、ホール756と相補的に位置合わせされる。ホール756は、アーム758の少なくとも一部を受けるようにサイズ決め及び成形される。操作可能な状態で、アーム758の一部はホール756を貫通して延在し、アーム758には、アームを所定の位置に保持する締結具760が取り付けられる。
【0136】
第1のエンドプレート752と第2のエンドプレート754との間には、第1のキャップ762、送達装置10、透過膜764、リザーバ766及び第2のキャップ768が挟み込まれる。第1のキャップ762は第1のエンドプレート752に隣接し、第2のキャップ768は第2のエンドプレート754に隣接する。第1のキャップ762及び第2のキャップ768は、非透過性であり、且つシリコーンゴム等の材料から成っていてもよい。
【0137】
送達装置10は、第1のキャップ762と透過膜764との間に介在している。以下に説明する実験において、透過膜764は、ヒトの皮膚又は動物の皮膚(例えば、「HOS hr−1」雄マウスから採取されるヘアレスマウスの皮膚)の断片である。
【0138】
透過膜764と第2のキャップ768との間にリザーバ766が介在している。リザーバ766は、ゴム、シリコーンゴム、ガラス等の非透過性材料から成る。リザーバ766は包括的に、略中空の内部772と流体連通する開口端770を有する円柱形であってもよい。開口端770は透過膜764に隣接する。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の流体774を中空内部772に配置させる。開口端770において、流体774は透過膜764と接触する。送達装置内の活性薬剤は、透過膜764を介して流体774中に拡散する。以下に説明する実験において、リザーバ766は約4ミリリットルの流体774を保持しうる。
【0139】
2.in vitro試験の条件及び測定
典型的に、17mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Wako Pure Chemical Industriesによって販売)をレセプタセル内に注入し、10mm攪拌子を用いて試験の間中溶液を攪拌させた。フランツセルは、32℃の設定温度及び70%の設定湿度のインキュベーター(ESPEC製、型式LH−113)内に設置した。200μlのGilson Pipetmanを用いて、所定時間にセルからサンプルを従来通りに採取した。その後、200μlのPBSを、各サンプリング操作後のセルに添加した。
【0140】
浸透した活性薬剤(例えばプロカテロールカチオン)を測定するために、既知の濃度を有する標準溶液を調製し、測定される濃度と比較することができる。一例としてプロカテロール塩酸塩を用いて、50mgのプロカテロール塩酸塩(97.25%無水物)を正確に量った後、水に添加して、50mlの溶液(「プロカテロール濃縮液」)を作製した。次に標準濃縮液を希釈し(「プロカテロール標準溶液」)、高速(又は高圧)液体クロマトグラフィ(HPLC)用の移動相として使用した。プロカテロール濃縮液は遮光瓶に封入し、冷蔵庫内に保存した。10μlの各試験サンプル及び10μlの標準溶液を、HPLCを用いて測定し、プロカテロールのピーク面積At(試験サンプル)及びAs(標準溶液)を各サンプルから求めた。その後、以下の式を用いてプロカテロール塩酸塩の質量を各試験サンプルについて確認した。
【0141】
試験溶液中のプロカテロール塩酸塩の量(g/μl)=標準濃縮液中のプロカテロール無水物の量×At/As×1.0276(式中、1.0276はプロカテロール塩酸塩半水和物の分子量/無水プロカテロール塩酸塩の分子量の比率=335.83/326.82である)
以下は、透過するプロカテロールカチオンの濃度を測定するための例示的な条件及び器具である。
【0142】
型式:Shimazu HPLC LC−2010A HT
カラム:Shinwa Chemical Industries, Ltd.
型式STRUCTURE ODS−II
150mm長×4.6mm内径
温度:40℃
移動相:5mmol・dm−3のペンタンスルホン酸/メタノール/酢酸(76:23:1)混合物
流速:1ml・min−1
注入量:10μl
特に指定のない限り、「HOS:hr−1」、5週齢雄マウスから採取したヘアレスマウスの皮膚:
ガラスチャンバを設置し、32.5。Cで実行する
チャンバ内におよそ3.4mlのDPBS
チャンバ1、2、3、4、5 TTスピンコート
チャンバ6、7 PP−HPC
チャンバ8、9 PET−HPC
3.例示的なパッチの作製
作製1:2.5重量%のプロカテロール塩酸塩、10重量%グリセロール溶液中の0.5重量%のHPCを含む活性薬剤層16組成物を、バッキングシート(3M)の上の12mm径PET基層16上にスピンコーティングすることによって、23.5μgのプロカテロールパッチ(1.13cm2)を作製した。
【0143】
作製2:100μLの25mg/mlプロカテロール/10重量%グリセロール溶液を10mm径PET−Klucel単層ディスクに添加することによって、2.5mgのプロカテロールパッチを作製した。
【0144】
作製3:30μLの25mg/mlプロカテロール/10重量%グリセロール溶液を12mm径PP−Klucel二層ディスクに添加することによって、0.75mgのプロカテロールパッチを作製した。
【0145】
(実施例1)
実施例1において、濃度勾配に沿った皮膚内への且つ皮膚を介したプロカテロールカチオンの移行を検査するために、送達装置10を試験する前に、プロカテロール塩酸塩を用いて4つの異なる薬剤濃度で16回の試験を行った(活性薬剤の各濃度について4回の試験(#1、#2、#3及び#4))。フランツセルは、ヘアレスマウスの皮膚を透過膜として使用し、32℃で用いた。720は5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、722は2.5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、724は1重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示し、且つ726は0.5重量%プロカテロール塩酸塩濃度での平均送達量を示す。図26は、4つの薬剤濃度720、722、724及び726についての、PBS流体74を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の平均量対時間を示す。皮膚を介して送達されるプロカテロールの量が経時的に増大することが分かる。さらに送達されるプロカテロールの量が、プロカテロール濃度が高くなるにつれて増大することも分かる。医学的に有効な量のプロカテロールを、皮膚を介して送達させるために、プロカテロール溶液は、或る特定の閾値濃度以上でなければならない。水中に溶解される十分量のプロカテロールを本実験では用いたため、かなり速いプロカテロール送達速度が得られた。このため、溶液が皮膚の表面近傍に存在するという条件であれば、皮膚を介してプロカテロールを送達することができる。表16は試験送達装置720〜726の詳細を示す。
【表15】
【0146】
包括的に、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコール等の親水性ゲルポリマーマトリクスを用いた経皮送達パッチを作製することができる。しかしながら、プロカテロールは親水性活性薬剤であるため、ポリマーマトリクス内からの円滑な放出が常に可能というわけではない。
【0147】
図27〜図32は、種々の試験条件下且つ種々の薬剤濃度に関する、送達装置10の種々の態様についてのin vitro試験結果を示す。
【0148】
下記の実施例2〜実施例7では包括的に、プロカテロールを保持するために高粘性ゾル溶液を使用した。活性薬剤含有ゾルを生成するために、様々な重量%のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を水中に溶解させた。次にプロカテロール塩酸塩をゾル中に溶解した。このゾルをPETシートに塗布してパッチを作製した。グリセロール(一般的に10重量%)を添加して、特に送達を促進させた。PETに塗布される量の活性薬剤溶液には、およそ20μg/cm2のプロカテロールが含有されていた。試験によっては、HPC及びグリセロールの組成物を作製し、1日又は2日等の所定時間静置させた(repose)。状況によって、静置時間を短くしても延ばしてもよい。
【0149】
パッチをヘアレスマウスの皮膚(凍結又は未凍結)に貼り付け、溶液をパッチで置き換えた上記の組み立てたフランツセルを用いて送達されるプロカテロールの量を測定した。実施例2〜実施例7は、ドナー側のプロカテロールの量が経時的に増大し、且つ皮膚を通過することを示す。実施例2〜実施例7は、皮膚を介して送達させるプロカテロールの量を測定し得るが、プロカテロールの実際の送達機構は複雑であろう。
【0150】
(実施例2)
図4A及び図4Bに示される態様に従って1ロットの6つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例2において、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置のうち3つを試験し、凍結させた皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はHPC(およそ1重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ1重量%)を含み、各補充層18はHPC(およそ1重量%)を含んでいた。図27は、試験装置101、102及び103と個々に称される3つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表16Aは、11.5時間に取得したデータを用いて算出した試験装置101、102及び103について測定したフラックスレート(flux rate)を示す。試験装置104、105及び106と個々に称される、同一ロットのうち3つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表16Bは、送達装置104、105及び106についての活性薬剤(active agent、有効薬剤)の量及び濃度の詳細を示す。
【表16A】
【表16B】
【0151】
(実施例3)
実施例3において、図1〜図2Bに示される態様に従って1ロットの8つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例3では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はHPC(およそ1重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ1重量%)を含んでいた。図28は、試験送達装置201、202、203、204及び205と個々に称される5つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表17Aは、12.0時間に得られたデータを用いて算出した試験装置201、202、203、204及び205について測定したフラックスレートを示す。試験装置206、207及び208と個々に称される、1ロットのうち3つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表17Bは、送達装置206、207及び208についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表17A】
【表17B】
【0152】
(実施例4)
実施例4において、図1〜図2Bに示される態様に従って1ロットの10個の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例4では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)を含んでいた。図29は、装置301、302、303、304及び305と個々に称される5つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表18Aは、12.0時間にとったデータを用いて算出した試験装置301〜305について測定したフラックスレートを示す。試験装置306〜310と個々に称される、1ロットのうち5つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表18Bは、送達装置306〜310についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表18A】
【表18B】
【0153】
(実施例5)
実施例5において、図1〜図2Bに示される態様に従って18の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例5では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、凍結させた皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)、プロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)及び緩衝溶液を含んでいた。3つの異なるpH値の緩衝溶液を用いた。図30は、装置401〜409と個々に称される9つの送達装置についての、PBS流体774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表19Aは、pH4.0緩衝溶液を用いた試験装置401、402及び403について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表19Bは、pH5.0緩衝溶液を用いた試験装置404、405及び406について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表19Cは、pH6.0緩衝溶液を用いた試験装置407、408及び409について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。試験装置410〜418と個々に称される、1ロットのうち9つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表19Dは、pH4.0緩衝溶液を用いた送達装置410、411及び412についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表19Eは、pH5.0緩衝溶液を用いた送達装置413、414及び415についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表19Fは、pH6.0緩衝溶液を用いた送達装置416、417及び418についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表19A】
【表19B】
【表19C】
【表19D】
【表19E】
【表19F】
【0154】
(実施例6)
実施例6において、図1〜図2Bに示される態様に従って14個の送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例6では、受動拡散測定装置750(図25A)で送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜764として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)、プロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)及び緩衝溶液を含み、2つの異なるpH値の緩衝溶液を用いた。図31は、装置501〜506と個々に称される6つの送達装置についての、PBS774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表20Aは、pH4.0緩衝溶液を用いた試験装置501、502及び503について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。表20Bは、pH5.0緩衝溶液を用いた試験装置504、505及び506について測定したフラックスレートを示す。フラックスレートは8.0時間で得られたデータを用いて算出した。試験装置507〜514と個々に称される、1ロットのうち8つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表20Cは、pH4.0緩衝溶液を用いた送達装置507〜510についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。表20Dは、pH5.0緩衝溶液を用いた送達装置511〜514についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表20A】
【表20B】
【表20C】
【表20D】
【0155】
(実施例7)
実施例7において、図1〜図2Bに示される態様に従って8つの送達装置を作製した。各活性薬剤層16の表面積はおよそ1.12cm2とした。実施例7では、フランツセルで送達装置を試験し、生の皮膚を透過膜として用いた。各活性薬剤層16はグリセロール(およそ10重量%)、HPC(およそ0.5重量%)及びプロカテロール塩酸塩(およそ2.5重量%)を含んでいた。図32は、装置601〜604と個々に称される4つの送達装置についての、PBS流体774を内部に有するリザーバ772に送達される活性薬剤の量対時間を示す。表21Aは、12.0時間で得られたデータを用いて算出した試験装置601〜604について測定したフラックスレートを示す。試験装置605〜608と個々に称される、1ロットのうち4つのさらなる試験装置を分析し、各装置内に存在する活性薬剤の量を求めた。表21Bは、送達装置605〜608についての活性薬剤の量及び濃度の詳細を示す。
【表21A】
【表21B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び、
活性薬剤層
を含み、前記活性薬剤層は、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、前記活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置。
【請求項2】
前記イオン化可能な活性薬剤が、アミンを含有した活性薬剤の塩である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項3】
保湿剤をさらに含む、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項4】
前記増粘剤がHPCであり、前記イオン化可能な活性薬剤がプロカテロール塩酸塩であり、且つ前記保湿剤が尿素である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項5】
前記イオン化可能な活性薬剤がβ−アドレナリン作動薬である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項6】
前記β−アドレナリン作動薬がプロカテロール塩酸塩である、請求項3に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項7】
前記イオン化可能な活性薬剤が「カイン(caine)」類の鎮痛剤又は麻酔薬である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項8】
前記イオン化可能な活性薬剤がリドカイン塩酸塩である、請求項7に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項9】
前記イオン化可能な活性薬剤が、カルボン酸を含有した活性薬剤の塩である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項10】
前記イオン化可能な活性薬剤がアルカリ性ジクロフェナクである、請求項9に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項11】
前記イオン化可能な活性薬剤が、L−アスコルビン酸又はその誘導体である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項12】
前記イオン化可能な活性薬剤が、アスコルビン酸2−グルコシドである、請求項11に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項13】
前記増粘剤がセルロース誘導体である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項14】
前記増粘剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はそれらの組合せである、請求項13に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項15】
尿素、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリルトリアセテート及びポリオールから選択される1つ又は複数の保湿剤をさらに含む、請求項14に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項16】
前記イオン化可能な活性薬剤の初期量の少なくとも50%が、皮膚を介して透過可能である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項17】
前記イオン化可能な活性薬剤がプロカテロール塩酸塩である、請求項16に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項18】
イオン化可能な添加剤をさらに含む、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項19】
前記イオン化可能な活性薬剤がアルカリ性ジクロフェナクであり、且つ前記イオン化可能な添加剤が塩化カリウムである、請求項18に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項20】
さらなるイオン化可能な活性薬剤及びイオン交換物質を含む補充層をさらに備える、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項21】
増粘剤、
イオン化可能な活性薬剤及び、
水性媒体
を含み、実質的にオイルフリーである、局所製剤。
【請求項22】
前記増粘剤がセルロース誘導体である、請求項21に記載の局所製剤。
【請求項23】
前記イオン化された活性薬剤が、カチオン性プロカテロールカチオン、アニオン性ジクロフェナク、カチオン性リドカイン又はアニオン性AA2Gである、請求項21に記載の局所製剤。
【請求項24】
基材と活性薬剤層を含み、該活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、該活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を前記対象の皮膚に適用すること、及び
前記イオン化可能な活性薬剤を、前記イオン化された活性薬剤へと解離させること、
を含む、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法。
【請求項25】
前記イオン化可能な活性薬剤を前記対象の皮膚の汗と接触させることによってイオン化された活性薬剤を生成させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記イオン性活性薬剤がプロカテロール塩酸塩である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記活性薬剤層が保湿剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記活性薬剤層が、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記プロカテロール塩酸塩の少なくとも50%が、24時間以内に前記対象の前記皮膚を介して送達される、請求項24に記載の方法。
【請求項1】
基材及び、
活性薬剤層
を含み、前記活性薬剤層は、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、前記活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置。
【請求項2】
前記イオン化可能な活性薬剤が、アミンを含有した活性薬剤の塩である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項3】
保湿剤をさらに含む、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項4】
前記増粘剤がHPCであり、前記イオン化可能な活性薬剤がプロカテロール塩酸塩であり、且つ前記保湿剤が尿素である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項5】
前記イオン化可能な活性薬剤がβ−アドレナリン作動薬である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項6】
前記β−アドレナリン作動薬がプロカテロール塩酸塩である、請求項3に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項7】
前記イオン化可能な活性薬剤が「カイン(caine)」類の鎮痛剤又は麻酔薬である、請求項2に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項8】
前記イオン化可能な活性薬剤がリドカイン塩酸塩である、請求項7に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項9】
前記イオン化可能な活性薬剤が、カルボン酸を含有した活性薬剤の塩である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項10】
前記イオン化可能な活性薬剤がアルカリ性ジクロフェナクである、請求項9に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項11】
前記イオン化可能な活性薬剤が、L−アスコルビン酸又はその誘導体である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項12】
前記イオン化可能な活性薬剤が、アスコルビン酸2−グルコシドである、請求項11に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項13】
前記増粘剤がセルロース誘導体である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項14】
前記増粘剤が、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はそれらの組合せである、請求項13に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項15】
尿素、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリルトリアセテート及びポリオールから選択される1つ又は複数の保湿剤をさらに含む、請求項14に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項16】
前記イオン化可能な活性薬剤の初期量の少なくとも50%が、皮膚を介して透過可能である、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項17】
前記イオン化可能な活性薬剤がプロカテロール塩酸塩である、請求項16に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項18】
イオン化可能な添加剤をさらに含む、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項19】
前記イオン化可能な活性薬剤がアルカリ性ジクロフェナクであり、且つ前記イオン化可能な添加剤が塩化カリウムである、請求項18に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項20】
さらなるイオン化可能な活性薬剤及びイオン交換物質を含む補充層をさらに備える、請求項1に記載の受動的経皮送達装置。
【請求項21】
増粘剤、
イオン化可能な活性薬剤及び、
水性媒体
を含み、実質的にオイルフリーである、局所製剤。
【請求項22】
前記増粘剤がセルロース誘導体である、請求項21に記載の局所製剤。
【請求項23】
前記イオン化された活性薬剤が、カチオン性プロカテロールカチオン、アニオン性ジクロフェナク、カチオン性リドカイン又はアニオン性AA2Gである、請求項21に記載の局所製剤。
【請求項24】
基材と活性薬剤層を含み、該活性薬剤層が、実質的に無水且つオイルフリーであり、且つ増粘剤とイオン化可能な活性薬剤とを含み、該イオン化可能な活性薬剤が、該活性薬剤層中では電気的に中性であり且つ水性媒体と接触した際にイオン化された活性薬剤へと解離する、受動的経皮送達装置を前記対象の皮膚に適用すること、及び
前記イオン化可能な活性薬剤を、前記イオン化された活性薬剤へと解離させること、
を含む、対象における閉塞性呼吸器疾患に関する症状を処置する方法。
【請求項25】
前記イオン化可能な活性薬剤を前記対象の皮膚の汗と接触させることによってイオン化された活性薬剤を生成させることを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記イオン性活性薬剤がプロカテロール塩酸塩である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記活性薬剤層が保湿剤をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記活性薬剤層が、HPC、プロカテロール塩酸塩及び尿素を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記プロカテロール塩酸塩の少なくとも50%が、24時間以内に前記対象の前記皮膚を介して送達される、請求項24に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【図25−1】
【図25−2】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【図25−1】
【図25−2】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2010−527934(P2010−527934A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508617(P2010−508617)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/063979
【国際公開番号】WO2008/144565
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(505046776)TTI・エルビュー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/063979
【国際公開番号】WO2008/144565
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(505046776)TTI・エルビュー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】
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