説明

有機エレクトロルミネッセンスデバイス

本発明は、1つの異性体が過剰に存在するいくつかの異性体を含み得る化合物を用いることによる有機電子デバイス、特にエレクトロルミネッセンスデバイスの改良に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
機能性材料として有機半導体を用いることは、広い意味で電子産業に起因され得る多くの異なる用途において、長い間現実のものとなっており、あるいは近い将来期待されている。すなわち、有機電荷輸送材料(一般的に、トリアリールアミンに基づく正孔輸送体)は、すでに、多年にわたってコピー機で使用されている。有機トランジスタ(O−TFT、O−FET)、有機集積回路(O−IC)および有機太陽電池(O−SC)の開発は、研究段階では、すでに非常に先まで進んでおり、したがってここ数年のうちに市場への導入が期待され得る。有機エレクトロルミネッセンスデバイス(OLED)の場合は、例えばパイオニア社のカーラジオおよびコダック社の「有機ディスプレー」を有するデジタルカメラによって確認されるように、市場への導入はすでに行われている。同様に、ポリマー発光ダイオード(PLED)の場合は、フィリップN.V.社のシェーバーおよび携帯電話における小型ディスプレーの形態で、最初の製品が市場で入手できる。
【0002】
しかしながら、これらのデバイスは、緊急の改善を要する相当の問題をなお示すものである:
1.動作寿命が、特に青色発光の場合は、なお短く、これは、現在までは、商業的には、単純な用途を達成することのみが可能であったことを意味する。
【0003】
2.いくつかの場合において、異なる物性(ガラス転移温度、ガラス形成性、吸光度、フォトルミネッセンス)を有し得る異性体化合物の混合物が用いられている。これらの立体異性体は、また、いくつかの場合、プロセス温度において異なる蒸気圧を有するので、有機電子デバイスの均一で再現性のある製造は不可能である。この状況は、今日まで、文献では、問題として認識されていなかったが、再現性のない結果をもたらし、かくして有機電子デバイスの製造および動作中にかなりの欠陥をもたらす。
【0004】
3.使用される化合物は、いくつかの場合、普通の有機溶媒に難溶性であり、合成中のそれらの精製ばかりでなく、有機電子デバイスの製造中の器具のクリーニングを一層困難なものとしている。
【0005】
したがって、上記弱点を持たず、有機電子デバイスにおいて改善された性質を示す化合物を獲得することが望ましいであろう。
【0006】
挙げることのできる最も近い先行技術は、例えばアントラセンまたはピレン誘導体のような縮合芳香族化合物を、ホスト材料として、特に青色発光エレクトロルミネッセンスデバイスのために、用いることである。
【0007】
先行技術により知られるホスト材料は、例えば、9,10−ビス(2−ナフチル)アントラセン(US5935721)である。ホスト材料として好適なさらなるアントラセン誘導体は、例えば、WO01/076323、WO01/021729、WO04/013073、WO04/018588、WO03/087023またはWO04/018587に記載されている。アリール置換ピレンおよびクリセン系のホスト材料は、WO04/016575に記載されており、ここで、この出願は、原則的に、対応するアントラセンおよびフェナントレン誘導体をも含むものである。正孔障壁材料としてのアントラセン誘導体の使用は、例えば、US2004/0161633に記載されている。WO03/095445、CN1362464および他のいくつかの出願および刊行物も、例えば、OLEDに用いるための9,10−ビス(1−ナフチル)アントラセンを記述している。しかしながら、上記明細書は、異性の問題を論じていない。
【0008】
これら明細書に記載されている化合物の多くは、以下に詳しく記述するように、アトロプ異性、すなわち単結合回りの束縛された回転により生じる立体異性を示す。その例は、WO04/018588における化合物EM5、EM12、EM28、EM32、EM33、EM38、EM39およびEM54、並びにWO04/018587における化合物AN23、AN24、AN33、AN34、AN35、AN36、AN55およびAN56である。これらの明細書はこの問題を認識しておらず、むしろ対応する化合物は、常に、空間構造を論じることなく、平面状分子として表されている。電子デバイスの製造には、明らかに、常に、異性体の混合物が使用されていた。すでに上に述べた問題は、次のことから起こり得る。すなわち、上記混合物中に存在する異性体は異なる物性(ガラス転移温度、形態、光学的および電子的性質等)を有し得る。これらの異性体は、また、いくつかの場合、異なる温度で昇華するので、特に有機電子デバイスの均一で再現性のある製造は、また、不可能である。昇華の進行に依存して異なる比率の異性体が富化されるからである。物性の違いとは別に、このことは、また、異なるフィルム形態をもたらし得、デバイス製造の再現性は常に制限される。
【0009】
上に述べた先行技術は、ホスト材料が有機エレクトロルミネッセンスデバイスの性質に決定的な役割を果たすことを確認している。類似の状況は、他の機能または他の層における材料に、また他の有機電子デバイスにおける材料に当てはまる。したがって、材料の更なる最適化により有機電子デバイスの性質をさらに改良することが可能であるべきである。すなわち、有機電子デバイスにおいて良好な効率と、同時に長い寿命をもたらすとともに、該デバイスの製造および動作中に再現性のある結果をもたらす材料、特に青色発光OLEDのためのホスト材料に対する要求が継続している。驚くことに、今や、ジアステレオマーの生成が可能であるアトロプ異性化合物を含み、かつ可能な立体異性体の1つを過剰に含む有機電子デバイスが、先行技術に比べて有意な改善を示すことが見いだされた。これらの富化されたまたは単離された材料は、対応する異性体混合物と比較して、有機電子デバイスの効率の増大と寿命の延長を可能とする。しかしながら、特に、これらの材料は、個々の成分が異なる昇華温度または異なる他の物性を有し得、組成が蒸着中に変化するところの統計学的物質混合物を用いずに、代わりに個別の異性体または単離された異性体で高度に富化された材料を用いているので、有機電子材料の一層再現性のある製造を可能とする。
【0010】
N.−X.フー(Hu)ら(J.Am.Chem.Soc.1999, 121、 5097)は、正孔輸送材料として試験されたN,N−ジナフト−1−イル置換インドロカルバゾールにおけるアトロプ異性の出現を記述している。統計学的反応について予期されるように、合成で、2つの立体異性体(その一方はラセミ体の形態にある)が、約1:1に比で生成した。著者らは、個々の成分を単離することはできず、2つの異性体の一方を富化させるように工夫した。1の異性体が富化された形態ではなく、1:1異性体混合物のみが有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて試験されたものであり、したがって、富化された異性体の使用についての差異をここでコメントすることはできない。このことを実験結果で確認することなく、著者らは、この1:1異性体混合物(単離された異性体と対照的に)の使用が、結晶化がそれにより防止され、かつ該化合物が安定なガラスを生成するので、利点をもたらすと主張する。この刊行物は、具体的にアトロプ異性物質の1:1混合物の使用が、富化されたもしくは単離された異性体の使用に比べて有利であるという偏見を読者に形成させるものである。
【0011】
US5929239は、有機電子デバイスにおけるある種の鏡像異性的に純粋なアトロプ異性体の使用を記述する。そこに開示された化合物は、ジアステレオマーではなく、鏡像異性体を生成することができるのみであるので、鏡像異性的に純粋なアトロプ異性体の使用が、ラセミ体と比べて、どのような利点を示すのか明らかでない。鏡像異性体は、知られているように、同じ物性(偏光との相互作用を別にして)を有するからである。
【0012】
EP0952200は、その明細書によれば、一見、単結合回りの回転に対する高エネルギー障壁のために安定なアトロプ異性体を生成し得るジフェニルアントラセン誘導体を開示している。われわれ自身の研究は、これらの化合物が室温安定性で、単離可能なアトロプ異性体を生成し得ないことを示しており、したがって、この明細書中で何が意味されているのかが不明である。これらの化合物が実際に安定なアトロプ異性体を生成し得るとしても、個々のアトロプ異性体の使用が、その混合物より利点をもたらすことは開示されていない。
【0013】
US5886183は、有機エレクトロルミネッセンスデバイスに用いることができ、適当な置換によりアトロプ異性体を生成し得るナフタレンラクタムイミドを記述する。このアトロプ異性体は、1つの化合物の場合に単離されている。しかしながら、この単離されたアトロプ異性体が有機電子デバイスに使用されたこと、および混合物ではなくて単離されたアトロプ異性体が有機電子デバイスのより良好な特性をもたらすことは開示されていない。
【0014】
本発明は、カソードと、アノードと、アトロプ異性を有し、したがってジアステレオマーの生成が可能な少なくとも1種の有機化合物を含む少なくとも1つの層とを備え、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が存在することを特徴とする有機電子デバイスに関する。
【0015】
本有機電子デバイスは、好ましくは、有機およびポリマー発光ダイオード(OLED、PLED)、有機電界効果トランジスタ(O−FET)、有機薄膜トランジスタ(O−TFT)、有機発光トランジスタ(O−LET)、有機集積回路(O−IC)、有機太陽電池(O−SC)、有機電界クエンチデバイス(O−FQD)、発光電気化学電池(LEC)および有機レーザダイオード(O−レーザ)からなる電子デバイス群から選ばれる。有機およびポリマー発光ダイオードが好ましい。
【0016】
アトロプ異性を有する化合物の構造に依存して、化合物は、有機電子デバイスにおける種々の機能に使用され得、例えば、一重項または三重項状態から発光し得るドーパントのためのホスト材料として、ドーパントとして、正孔輸送材料として、電子輸送材料として、または正孔障壁材料として用いられ得る。アトロプ異性体過剰率を有する材料の使用は、それぞれの材料の異性体混合物について知られている通常の使用と異ならない。一重項エミッタのためのホスト材料の場合に、今日まで、アトロプ異性を示す特に多数の化合物が知られている。これらは、通常、純粋な炭化水素であり、少なくとも通常は純粋な炭化水素骨格を有する。本発明の好ましい態様において、使用するホスト材料は、したがって、上に記載したように、アトロプ異性を示す化合物であり、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率を有する。このことは、主として有機エレクトロルミネッセンスデバイスに当てはまる。他のデバイスでは、本材料の他の使用も好ましくあり得、例えば、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜トランジスタにおける電荷輸送材料である。
【0017】
本有機電子デバイスは、少なくとも1つが上記した化合物の少なくとも1種を含む1またはそれ以上の有機層を備える。有機エレクトロルミネッセンスデバイスの場合、少なくとも1つの有機層は発光層である。有機トランジスタの場合、少なくとも1つの有機層は電荷輸送層である。有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおいて、発光層に加えて更なる層も存在し得る。それらは、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、正孔障壁層、電子輸送層および/または電子注入層であり得る。しかしながら、ここで、これらの層のそれぞれは、必ず存在しなければならないものではないことを指摘しておく。
【0018】
本発明によると、上記の通り、アトロプ異性を有し、したがってジアステレオマーの生成が可能な少なくとも1種の有機化合物が有機電子デバイスに使用され、ここで、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が存在する。
【0019】
用語異性は、一般に、同じ数の一致する原子を含む化合物が、その配置において異なり得るという現象に適用される。したがって、異性体は、同じ実験式を有するが、異なる構造式を有する化合物である。この用途に重要なのは、立体異性(同じ結合で異なる空間配置)であり、これは、上に述べ、以下により詳細に説明するアトロプ異性とともに、鏡像異性体および/またはジアステレオマーをもたらし得る。
【0020】
IUPAC規則E−4.4によると、用語鏡像異性は、互いに対して像および鏡像として挙動し、互いに重ね合わせることができない分子(立体異性体)もしくはキラル基に対して適用される。鏡像異性体は、物性において異なるところはない、すなわちそれらは、同じ蒸気圧、同じ溶解性、同じ分光分析データ等を有する。キロプティカル特性(偏光との相互作用)のみが異なる。
【0021】
IUPAC規則E−4.6によると、用語ジアステレオマーは、同じ結合(構成)を有するが、互いに対し像および鏡像として挙動しない分子(立体異性体)に適用される。ジアステレオマーは、対称操作によっては互いへ変換され得ず、キラルまたはアキラルのいずれかであり得る。鏡像異性体とは対照的に、ジアステレオマーは、物理的特性および化学的特性が異なる。
【0022】
立体配座は、確定された結合の分子の原子もしくは原子団の正確な空間的配置を意味するものと解されている。異なる立体配座が、単結合回りの回転により生じ、重ね合わせることができない。このようにして生成した配置がエネルギーミニマムに相当すれば、用語配座異性体またはコンホーマーが用いられる。
【0023】
アトロプ異性(レンプの化学用語集2.0版、シュツットガルト/ニューヨーク:ジョージ・ティーメ発行、1999による定義)は、分子の立体異性が単結合回りの自由回転の妨害により、すなわち基の立体障害により引き起こされている立体異性の1つの形態(すなわち、束縛された回転を有する形式上のコンホーマー)を意味するものと解されている。その周りの回転が束縛されている単結合の数に依存して、および存在する置換基に依存して、当該化合物は、キラルまたはアキラルであり得、あるいはそれらは互いに対してジアステレオマーである。アトロプ異性体の場合、平衡は、一般に、分子中の内部移動度が温度を高めることによって増大し、その結果相互変換のためのエネルギー障壁が乗り越えられると達成されることとなる。対照的に、エネルギー障壁が十分に高ければ、異性体の変換は室温では観察されない。アトロプ異性体は、一般に、例えば2位(オルト位)に十分に大きな置換基を有するビフェニル誘導体における場合のように室温でのエネルギー障壁が約80kJ/モル以上であれば、単離することができる。アトロプ異性化合物におけるステレオジェン軸(回転束縛された単結合)は2つの可能な立体配座の一方または他方で生じるので、n個の非等価軸について2n個の立体異性(ジアステレオマーまたは鏡像異性体)が存在する。しかしながら、立体異性体の数は、固有の対称元素が、例えば、立体異性体がアキラルであることまたは軸がそのステレオジェン性を失うことを意味するならば、すなわちこの軸回りの回転により新たな立体異性が生成しないならば、2nよりも少なくあり得る。
【0024】
上になされた対称性についての詳細は、本発明に関連するアトロプ異性に種々の影響を有する:
アトロプ異性が1つの単結合回りにのみ存在する場合、ジアステレオマーではなく鏡像異性体が、適切な場合には、置換に依存して生じ得る。上に述べたように、これらは同じ物性を有し、このことは、単離された鏡像異性体の使用はなんらの利点をも与えないことを意味する。加えて、鏡像異性体は、しばしば、分離することが困難である。したがって、本発明は、ジアステレオマーの生成が可能な2またはそれ以上の回転束縛された単結合を有し、2つの回転束縛された単結合の間の部分が自由回転可能なさらなる単結合を持たない化合物のみに関する。2つの回転束縛された単結合が存在する場合、個々の部分の構造および置換パターンに依存して、1〜4の異性体が存在し得る。これは、一般構造A−B−Cを有する分子について図式的に示すことができる(スキーム1):部分AおよびCがそれぞれの場合同じであり、対称構造を有するならば、結合回りの束縛された回転の場合(スキーム1a)であっても、ただ1つの異性体のみが可能である。立体配座は異ならず、すべてのコンホーマーは互いに重ね合わせることができるからである。このことは、例えば部分Bのみ、または部分AおよびCの一方のみが置換されている場合にも当てはまる。これに対し、部分AとCが同じであるか異なっている場合、部分AおよびCの両方が置換されているかあるいは非対称構造を有するならば、互いに対してジアステレオマーである2つのアトロプ異性体が生じる(スキーム1b)。これら2つのアトロプ異性体は、シン形およびアンチ形としても知られている。これら2つのアトロプ異性体のそれぞれは、それぞれが分子内に少なくとも1つの鏡面を有するので、アキラルである(すなわち、その鏡像上に重ね合わせることができる)。AおよびC上の同じ置換基に加えて、単位Bを非対称とさせる1またはそれ以上の置換基がB上に存在しているならば、なお唯一のシン形が存在する一方、アンチ形は2つの鏡像異性体を形成する(スキーム1c)。同じ置換基の代わりに異なる置換基がAおよびC上に存在しているならば、互いに対してジアステレオマーまたは鏡像異性体である4つのアトロプ異性体が生成する(スキーム1d)。この場合、シン形およびアンチ形の両方が、それぞれ、2つの鏡像異性体を生成し、その場合2つのシン形のそれぞれは、2つのアンチ形のそれぞれに対してジアステレオマーである。
【0025】
束縛された回転を有する単結合が2個を超えて存在する場合には、匹敵する考察が生じ得、対応してより多いアトロプ異性体が生じ得ることを意味する。同様のコメントが文献においても存在する(例えば、J.ゴーロンスキー(Gawronski)、K.カクプルザク(Kacprzak)、Chirality 2002, 14, 689)。対応する化合物の正確な点群は、分子の正確な構造に依存する。すなわち、スキーム1に示される点群は、そこに描かれている概略図についてのみ妥当である。この点でのより正確な考察は、同様に、上に引用した文献に見いだされる。
【化3】

【0026】
アトロプ異性体過剰率は、有機化学に慣用されているエナンチオマーもしくはジアステレオマー過剰率と同じように定義される。本発明の目的のために、アトロプ異性体過剰率は、
アトロプ異性体過剰率[%]=[モル比率(過剰の異性体)−モル比率(過剰でない異性体)]×100
を意味するものと解されることが意図されている。
【0027】
このことは、アトロプ異性体過剰率10%が55:45の配分(2つの異性体の場合)に相当することを意味する。他のいくつかのアトロプ異性体過剰率および対応するモル配分を表1に示す。
【表1】

【0028】
スキーム1cまたは1dに示されるように例えば鏡像異性体の生成により2つを超えるアトロプ異性体が可能であるならば、または2個を超える束縛された回転を有する単結合の存在が2個を超えるジアステレオマーが存在し得ることを意味するならば、特別な場合が生じ得る。これらの場合、アトロプ異性体過剰率は、本発明の目的のために、以下のように定義されることが意図される:
ジアステレオマーおよび鏡像異性体が存在するならば(スキーム1cおよび1dにおけるように)、アトロプ異性体過剰率は、ジアステレオマーがまた鏡像異性体を生成するかいなかにかかわらず、対応するジアステレオマー過剰率(エナンチオマー過剰率ではない)として定義される。ここで、富化されたジアステレオマーがラセミ体の形態で存在すること、または1つのエナンチオマーが過剰または純粋な形態で存在することは、等しく許容される。
【0029】
2個を超えるジアステレオマーが存在するならば、アトロプ異性体過剰率は、上と同じように決定され、その場合、過剰に存在しないすべてのアトロプ異性体は合わせて1つのグループとみなされる。したがって、ここで、アトロプ異性体過剰率は、以下の通りに算出される:
アトロプ異性体過剰率[%]=[モル比率(過剰の異性体)−Σ(モル比率(過剰でない異性体))]/数(過剰でない異性体)]×100。
【0030】
アトロプ異性体過剰率は、通常の化学分析法を用いて、例えばHPLCまたは1H−NMR分光法により決定することができる。異なる物性(HPLCにおける異なる保持時間、NMRにおける異なる化学シフト)を有するジアステレオマーが関与するからである。好ましい方法は、HPLCによるアトロプ異性体の決定である。
【0031】
安定なアトロプ異性体を単離することを可能とするためには、対応する単結合回りの回転のための活性化エネルギーは少なくとも約80kJ/モルでなければならない。すなわち、上で用いられている用語「束縛された回転を有する単結合」は、この単結合回りの回転の活性化エネルギー少なくとも80kJ/モルに関するものであることが意図されている。この活性化エネルギーは、例えば、温度依存性NMR測定により決定することができる。
【0032】
しかしながら、化合物はまた高温に耐えなければならない(例えば、再結晶または昇華中、また有機電子デバイスにおいても)ので、単結合回りの回転の活性化エネルギーは、少なくとも100kJ/モル、特に好ましくは少なくとも120kJ/モル、特に少なくとも140kJ/モルであることが好ましい。単結合回りの回転の活性化エネルギーは、化合物の正確な構造により、特に置換により制御することができる。単結合回りの回転の活性化エネルギーは、温度依存性NMR測定により実験的に決定することができ、さらに高温でのHPLCまたはGC測定により決定することもできる。
【0033】
アトロプ異性は、例えば1つのsp2と1つのsp3中心の間ではなく、2つのsp2中心の間で生じることが好ましい。同様に、アトロプ異性は、例えばC−N単結合回りの束縛された回転によるのではなく、C−C単結合回りの束縛された回転により生じることが好ましい。この好ましさは、ホスト材料として使用されるほとんどの化合物が純粋な炭化水素であるかまたは純粋な炭化水素骨格を少なくとも有し、そしてしたがって、それらがアトロプ異性を有するならば、C−C結合回りのアトロプ異性を有するということによる。
【0034】
上に記載したように、本発明は、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率の使用に関するものである。しかしながら、少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも50%、非常に特に好ましくは少なくとも70%、殊に少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%というより大きなアトロプ異性体過剰率が好ましい。より大きなアトロプ異性体過剰率は、それにより、より良好な再現性が確保されるので、好ましい。
【0035】
本発明の好ましい側面において、化合物は、正確に2個の、束縛された回転を有する単結合を有し、主として存在するアトロプ異性体はシン異性体である。
【0036】
本発明のさらなる好ましい側面において、化合物は、正確に2個の、束縛された回転を有する単結合を有し、主として存在するアトロプ異性体はアンチ異性体である。
【0037】
本発明のなおさらなる好ましい側面において、正確に3個の、束縛された回転を有する単結合を有し、したがってスキーム1に示される4個のアトロプ異性体よりも多くのアトロプ異性体を有し得る化合物が使用される。これらのアトロプ異性が存在する単結合は、線状または分枝の配置のいずれかを有し得る。
【0038】
本発明のなおさらなる好ましい側面において、正確に4個の、束縛された回転を有する単結合を有し、したがってより多くのアトロプ異性体を有し得る化合物が使用される。これらのアトロプ異性が存在する単結合は、線状または分枝の配置のいずれかを有し得る。
【0039】
本発明のなおさらなる好ましい側面において、4個を超える、束縛された回転を有する単結合を有し、したがってより多くのアトロプ異性体を有し得る化合物が使用される。これらのアトロプ異性が存在する単結合は、線状または分枝の配置のいずれかを有し得る。
【0040】
アトロプ異性を有する化合物は、好ましくは式(1)
【化4】

【0041】
(ここで、記号および添え字には以下が適用される:
Aは、出現毎に同一であるか、異なり、Rによって置換されていてもよいか、置換されていなくてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基であり、ただし、1の基R、または1の基B、C、D、E、GもしくはJは、B、C、D、E、GまたはJへの結合に対して(およびm>1の場合は他のAへの結合に対しても)すべてオルト位で結合しているか、またはこの位置は、Aが縮合芳香族環系を表す場合、該環系の一部によりブロックされており、
B、C、D、E、G、Jは、出現毎に同一であるか、異なり、1またはそれ以上の基Rによって置換されていなくてもよいか、置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり、ただし、1の基Rは、Aへの結合に対し少なくとも1つのオルト位で結合しているか、またはこの位置は、B、C、D、E、GまたはJが縮合芳香族環系を表す場合、該環系の一部によりブロックされており、
Rは、出現毎に同一であるか、異なり、F、Cl、Br、I、CN、NO2、またはそれぞれR1によって置換されていてもよく、さらに1またはそれ以上の非隣接C原子がN−R1、O、S、C=O、O−CO−O、CO−O、SO、SO2、P(=O)R1、Si(R12、−CR1=CR1もしくは−C≡C−によって置き換えられていてもよく、さらに1またはそれ以上のH原子がF、Cl、Br、IまたはCNによって置き換えられていてもよいところの、1〜40個のC原子を有する直鎖アルキルもしくはアルコキシ鎖または3〜40個のC原子を有する分枝もしくは環式アルキルもしくはアルコキシ鎖、または1またはそれ以上の基R1により置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、またはこれら系の2つ、3つ、4つまたは5つの組み合わせであり、ここで2つ以上の基Rは、互いに、更なる単環もしくは多環式の脂肪族もしくは芳香族環系を形成してもよく、
1は、出現毎に同一であるか、異なり、H、または1〜20個のC原子を有する脂肪族もしくは芳香族炭化水素基であり、
nは、出現毎に同一であるか、異なり、0または1であり、
mは、出現毎に同一であるか、異なり、1、2、3、4または5、好ましくは1、2または3、特に好ましくは1または2、非常に特に好ましくは1である)
で示される化合物である。
【0042】
本発明の目的のために、さらに個々のH原子またはCH2基が上記基により置換されていてもよいところのC1〜C40アルキル基は、特に好ましくは、基メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、2−メチルブチル、n−ペンチル、s−ペンチル、シクロペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、シクロヘプチル、n−オクチル、シクロオクチル、2−エチルヘキシル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、ヘプテニル、シクロヘプテニル、オクテニル、シクロオクテニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルまたはオクチニルを意味するものと解される。C1〜C40アルコキシ基は、特に好ましくは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシまたは2−メチルブトキシを意味するものと解される。それぞれ上記基Rによって置換されていてもよく、いずれか所望の位置で芳香族もしくはヘテロ芳香族環に結合していてよいところの、5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系は、特に、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、フルオランテン、ナフタセン、ペンタセン、ベンゾピレン、ビフェニル、ビフェニレン、テルフェニル、テルフェニレン、フルオレン、スピロビフルオレン、ジヒドロフェナントレン、ジヒドロピレン、テトラヒドロピレン、cis−またはtrans−インデノフルオレン、トルキセン、スピロトルキセン、スピロイソトルキセン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、ピロール、インドール、イソインドール、カルバゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、ベンゾ−5,6−キノリン、ベンゾ−6,7−キノリン、ベンゾ−7,8−キノリン、フェノチアジン、フェノキサジン、ピラゾール、インダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ナフトイミダゾール、フェナントロイミダゾール、ピリドイミダゾール、ピラジンイミダゾール、キノキサリンイミダゾール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、ナフトオキサゾール、アントラオキサゾール、フェナントラオキサゾール、イソオキサゾール、1,2−チアゾール、1,3−チアゾール、ベンゾチアゾール、ピリダジン、ベンゾピリダジン、ピリミジン、ベンゾピリミジン、キノキサリン、1,5−ジアザアントラセン、2,7−ジアザピレン、2,3−ジアザピレン、1,6−ジアザピレン、1,8−ジアザピレン、4,5−ジアザピレン、4,5,9,10−テトラアザペリレン、ピラジン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン、フルオルビン、ナフチリジン、アザカルバゾール、ベンゾカルバゾール、フェナントロリン、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール、1,2,5−チアジアゾール、1,3,4−チアジアゾール、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,3−トリアジン、テトラゾール、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、プリン、プテリジン、インドリジンおよびベンゾチアジアゾールから誘導される各基を意味するものと解される。
【0043】
本発明の好ましい態様において、少なくとも1つの炭素原子が、B、C、D、E、GおよびJへの結合に対しすべてオルト位でAに結合している。これは、縮合環系の部分(芳香族もしくはヘテロ芳香族単位A上に直接)であってもよいか、あるいは置換基RとしてAに結合されてもよい。
【0044】
本発明のさらなる好ましい態様において、少なくとも1つの炭素原子が、それぞれの場合、Aへの結合に対し少なくとも1つのオルト位でB、C、D、E、GおよびJに結合している。これは、縮合環系の部分(芳香族もしくはヘテロ芳香族単位B、C、D、E、GまたはJにおいて直接)であってもよいか、あるいは、それぞれの場合、置換基RとしてB、C、D、E、GまたはJに結合されてもよい。
【0045】
比較的大きな基がそれぞれの結合に対しオルト位に存在するときに得ることができるより安定なアトロプ異性体、好ましくは、縮合環系もしくは置換基Rの部分であり得る少なくとも2つのC原子を有するものが、特に好ましい。
【0046】
本発明の好ましい態様において、基A、Dおよび/またはG(および/または任意にB、C、EおよびJ)の少なくとも1つは縮合芳香族環系である。本発明の好ましい態様において、Aは、縮合芳香族環系である。さらなる好ましい態様において、DおよびG(並びに、任意に、B、C、Eおよび/またはJ)は、縮合芳香族環系またはオルト−ビフェニルである。本発明の特に好ましい態様において、AおよびDおよびG(並びに、存在する場合には、B、C、EおよびJ)は、それぞれ、縮合芳香族環系である。本発明のさらなる好ましい態様において、基A、Dおよび/またはG(および/または任意にB、C、Eおよび/またはJ)の少なくとも1つは、縮合ヘテロ芳香族環系であり、基Dおよび/またはG(および/または任意にB、C、Eおよび/またはJ)は、オルト−ビフェニル系を表す。
【0047】
本発明の目的のために、アリール基は、6〜40個のC原子を含有する。本発明の目的のために、ヘテロアリール基は、2〜40個のC原子と少なくとも1個のヘテロ原子を含有し、ただしC原子とヘテロ原子の合計数は少なくとも5である。ヘテロ原子は、好ましくは、N、Oおよび/またはSから選ばれる。ここでアリール基またはヘテロアリール基は、単芳香族環、すなわちベンゼンか、あるいは単ヘテロ芳香族環、例えばピリジン、ピリミジン、チオフェン等か、あるいは以下の定義の意味での縮合アリールもしくはヘテロアリール基を意味するものと解される。これに対し、自由回転可能なC−C結合が2つのフェニル単位の間に存在しているビフェニルは、本発明の目的にとってはアリール基ではない。
【0048】
本発明の目的のために、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系は、必ずしも、芳香族もしくはヘテロ芳香族基のみを含むものではなく、さらに、複数の芳香族もしくはヘテロ芳香族基が短い非芳香族単位(H以外の原子の10%未満、好ましくはH以外の原子の5%未満)、例えばsp3混成C、NまたはO原子により介在されている系をも意味するものと解されることが意図されている。すなわち、例えば、9,9’−スピロビフルオレン、9,9−ジアリールフルオレン、トリアリールアミン等のような系も、本発明の目的のために、芳香族環系を意味するものと解されることが意図されている。ここで、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系は、以下の定義の意味での縮合形であってもよい。
【0049】
本発明の目的のために、縮合芳香族もしくはヘテロ芳香族環系は、少なくとも1つが芳香族もしくはヘテロ芳香族である少なくとも2つの環が、互いに「融合」している、すなわちアネレーションにより互いに縮合している、すなわち少なくとも1つの共通の辺と共通の芳香族π−電子系を有するところの環系を意味するものと解される。これらの環系は、Rにより置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。例えば、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、カルバゾール等のような系は、縮合芳香族環系とみなされるものである一方、例えばビフェニルは、その中の2つの環系の間に共通の辺が存在しないので、縮合芳香族環系を表さない。
【0050】
縮合芳香族環系は、好ましくは、それぞれ1またはそれ以上の共通の辺を介して互いに対して縮合しており、かくして共通の芳香族系を形成し、またRによって置換されていてもよいし、置換されていなくてもよいところの、2〜8個の芳香族および/またはヘテロ芳香族単位を含有する。
【0051】
縮合芳香族環系は、特に好ましくは、それぞれ1またはそれ以上の共通の辺を介して互いに対して縮合しており、かくして共通の芳香族系を形成し、またRによって置換されていてもよいし、置換されていなくてもよいところの、2〜6個のヘテロ芳香族もしくは好ましくは芳香族単位、特に2、3または4個の芳香族単位を含有する。
【0052】
互いに対して縮合する芳香族およびヘテロ芳香族単位は、非常に特に好ましくは、それぞれRによって置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、フランおよびチオフェンから、特にベンゼンおよびピリジンから選ばれる。
【0053】
縮合芳香族環系は、好ましくは、それぞれ任意にRによって置換されていてもよい、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、クリセン、ペンタセン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フェナントロリン、ペリレン、トリフェニレン、カルバゾール、ベンゾチオフェンおよびジベンゾチオフェンからなる群の中から選ばれる。縮合芳香族環系は、特に好ましくは、それぞれ任意にRによって置換されていてもよい、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンおよびペリレンからなる群の中から、特にナフタレン、アントラセン、フェナントレンおよびピレンから選ばれる。Rによる置換は、特に、対応する単結合回りの回転のための活性化エネルギーを高め、かくしてより安定な異性体を得るために、適切であり得る。この置換は、さらに、より良好な溶解性を有する化合物を得るために適切であり得る。特に、置換は、また、異なるアトロプ異性体を区別するために役立ち得る。2つの異性体の性質、例えば溶解性および/または極性は、化合物に依存して置換により異なる程度に変化し、2つの異性体の分離を簡単にし得るからである。
【0054】
本発明の特に好ましい態様において、記号Aは、9,10−結合アントラセン単位を表す。結合の種類により、これはすでに、該結合に対しオルト位に十分に大きな基を有し、ここでは安定なアトロプ異性体を促進するためにこの単位上のさらなる置換基は絶対に必要なものではない。本発明のさらなる好ましい態様において、記号Aはピレン単位を表す。
【0055】
アトロプ異性体を生成する好適な化合物の例は、以下に示す構造1〜17であり、それぞれの場合、例aはシン形を示し、例bはアンチ形を示し、それぞれの場合、富化された、または好ましくは純粋な形態にある、可能なアトロプ異性体の両方(またはすべて)は、有機電子デバイスにおける使用に好適である。ここで太い線で示した結合は、中心単位により規定された面の上にある部分を示す。
【化5】

【化6】

【化7】

【0056】
C−C結合回りにアトロプ異性を有し、ジアステレオマーの生成が可能なさらなる好ましい化合物は、以下に示す構造単位(A1)〜(A15)のいずれかであり、これらは構造単位(D1)〜(D12)および(G1)〜(G12)のいずれかと結合させることができる。ここで、破線の結合は、それぞれ、式(1)における他の単位への結合を示す。
【0057】
単位(A1)〜(A3)、(A10)および(A11)上の基Raは、好ましくは、メチル、tert−ブチル、フェニル、オルト−トリル、メタ−トリル、パラ−トリル、オルト−フルオロフェニル、メタ−フルオロフェニル、パラ−フルオロフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、オルト−キシリル、メタ−キシリル、パラ−キシリルおよびメシチルからなる群の中から選ばれる。単位(A4)〜(A9)および(A12)〜(A15)上の基Raは、好ましくは、メチル、tert−ブチル、フッ素、フェニル、オルト−トリル、メタ−トリル、パラ−トリル、オルト−フルオロフェニル、メタ−フルオロフェニル、パラ−フルオロフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、オルト−キシリル、メタ−キシリル、パラ−キシリル、メシチル、N(フェニル)2、N(p−トリル)2、N(1−ナフチル)2、N(2−ナフチル)2およびN(p−フルオロフェニル)2からなる群のなかから選ばれる。
【0058】
基DのAへの結合もしくはGのAへの結合に対しオルト位にある単位(D1)〜(D4)および(G1)〜(G4)上の基Rdの少なくとも1つは、好ましくは、tert−ブチル、N(フェニル)2、N(p−トリル)2、N(1−ナフチル)2、N(2−ナフチル)2、N(p−フルオロフェニル)2、フェニル、オルト−トリル、メタ−トリル、パラ−トリル、オルト−フルオロフェニル、メタ−フルオロフェニル、パラ−フルオロフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、オルト−キシリル、メタ−キシリル、パラ−キシリルおよびメシチルからなる群の中から選ばれる。単位(D1)〜(D4)および(G1)〜(G4)上の、および単位(D5)〜(D12)および(G5)〜(G12)上の、他の基Rdは、好ましくは、メチル、tert−ブチル、フッ素、N(フェニル)2、N(p−トリル)2、N(1−ナフチル)2、N(2−ナフチル)2、N(p−フルオロフェニル)2、フェニル、オルト−トリル、メタ−トリル、パラ−トリル、オルト−フルオロフェニル、メタ−フルオロフェニル、パラ−フルオロフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、オルト−キシリル、メタ−キシリル、パラ−キシリルおよびメシチルからなる群の中から選ばれ、基DのAへの結合もしくはGのAへの結合に対しパラ位にある2つの置換基Rdは、異なって選択される。さらに、基DのAへの結合もしくはGのAへの結合に対しパラ位にある、単位(D1)、(G1)、(D2)、(G2)、(D3)、(G3)、(D9)〜(D12)および(G9)〜(G12)上の基Rdは、水素であってもよい。さらに、単位(D3)、(G3)、(D11)および(G11)上の基Rdも、水素であってもよい。
【化8】

【化9】

【0059】
特に好ましいものは、それぞれ上記の位置で上記基RaまたはRdにより置換されている、表2−1〜2−7に示す構造である。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【表2−5】

【表2−6】

【表2−7】

A、および適切な場合にはまたDおよびGがジアステレオマーの生成が可能な縮合芳香族環系を表し、かつ1のアトロプ異性体(ジアステレオマー)が他のアトロプ異性体(ジアステレオマー)に対して過剰に存在している式(1)のアトロプ異性体混合物は新規であり、したがって、同様に、本発明の主題である。
【0060】
したがって、本発明は、さらに、式(1)
【化10】

【0061】
(ここで、R、R1、mおよびnは、上に記載したと同じ意味を有し、他の使用された記号には以下が適用される:
Aは、出現毎に同一であるか、異なり、Rにより置換されていてもよいか、置換されていなくてもよいところの、9〜40個の、好ましくは14〜30個の芳香族環原子を有する縮合アリールもしくはヘテロアリール基であり、ただし、1の基R、または1の基B、C、D、E、GもしくはJは、B、C、D、E、GまたはJへの結合に対して(およびm>1の場合は他のAへの結合に対しても)すべてオルト位で結合しているか、またはこの位置は、前記縮合芳香族環系の一部によりブロックされており、
B、C、D、E、G、Jは、出現毎に同一であるか、異なり、Rによって置換されていなくても、置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり、ただし、対応する単位BないしJに対し縮合していてもよいところの少なくとも1の芳香族基Rは、Aへの結合に対しオルト位に存在する)
で示されるアトロプ異性体混合物であって、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が存在することを特徴とするアトロプ異性体混合物に関する。
【0062】
式(1)のアトロプ異性体混合物は、好ましくは、1つの化合物のアトロプ異性体のみからなる、すなわちそれは、好ましくは、さらなる成分を含まないアトロプ異性体の混合物である。
【0063】
少なくとも20%の、特に好ましくは少なくとも50%、非常に特に好ましくは少なくとも70%、殊に少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%のアトロプ異性体過剰率が好ましい。より大きなアトロプ異性体過剰率は、それにより、製造中のより良好な再現性と有機電子デバイスのより良好な動作が確保されるので、好ましい。
【0064】
好ましい縮合芳香族環系は、すでに上に記載したとおりのものである。
【0065】
Aは、特に好ましくは、単位9,10−アントラセン、ピレンおよびペリレンから選ばれる。さらに、対応するアザ類似体が特に好ましい。Aは、非常に特に好ましくは、9,10−アントラセンおよびピレンから選ばれる。
【0066】
B、C、D、E、GおよびJは、特に好ましくは、互いに独立に、それぞれRにより置換されていてもよいか、置換されていなくてもよい、1−ナフチル、オルト−ビフェニルおよび1−アントリルから選ばれる。これらの基は、さらに特に好ましくは、対応するアザ類似体から選ばれる。
【0067】
表2−1〜2−7の化合物が非常に特に好ましい。
【0068】
式(1)の化合物は、通常、まず、文献に従い、統計学的に約1:1の比で存在するアトロプ異性体の混合物を合成することにより合成される。アトロプ異性体の1つの富化および単離は、後の工程で、例えば異なる溶解性を利用して、例えば再結晶により、行うことができる。ここで、異なるアトロプ異性体の溶解性を異なる程度に変化させ得るように式(1)の化合物を適切な方法で置換することが適切であり得る。すなわち、例えば適切な置換により、広範な有機溶媒に易溶であるアトロプ異性体を得ることができる一方、この第1のアトロプ異性体に対してジアステレオマーである他のアトロプ異性体はそれらの溶媒に実質的に不溶である。かなりの実験的努力によってのみ可能であったであろう異性体の分離は、いくつかの場合、簡単になる。有機化学のさらに普通の分離方法も使用することができ、例えばカラムクロマトグラフィー、分離用HPLC、蒸留、昇華、分別晶出または抽出(例えば、ソックスレー抽出)である。ジアステレオマーに加えて、個々の鏡像異性体を富化または単離しようとする場合、キラル固相に対するクロマトグラフィーがその目的に好適である。
【0069】
いくつかの化合物、特に大きな置換基を有するものについては、アトロプ異性体の1つを過剰に、または実質的に純粋な形態で、合成中に直接生成させることができる。
【0070】
合成には、鋳型効果を利用することもできる。この場合、すでに溶液状態にある、可能なアトロプ異性体の1つは、合成中における鋳型(例えば、好適な金属イオン)の添加により選択され、かくして有意に過剰に生成される。
【0071】
富化または単離されないアトロプ異性体は、再異性化により、例えば好適な溶媒中での十分に長い加熱により、超音波および/またはマイクロ波による処理により、他のアトロプ異性体との平衡へ復元させることができる。かくして、異性体の分離操作は、損失なく行うことができる。
【0072】
上に述べたように、好適な置換により、同じ化合物の易溶性もしくは不溶性アトロプ異性体を得ることができる。同様の方法で、例えばモノマーとしてより可溶性のアトロプ異性体を使用することにより、ポリマーの電子的機能に寄与しないが先行技術により可溶性共役ポリマーの合成に今日まで必要であったところの多くのおよび/または大きな有機基、例えば4個以上のC原子を有するアルキルもしくはアルコキシ基を必要とせずに、易溶性ポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーを得ることができる。これに対し、より溶解性の低いアトロプ異性体、または該溶解性の低いアトロプ異性体を等しい比率でまたは過剰に含む2つのアトロプ異性体の混合物を用いると、得られるポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーは、一般に、また乏しい溶解性を有する。
【0073】
したがって、本発明は、さらに、アトロプ異性体を生成し、したがってジアステレオマーの生成が可能な繰り返し単位を含有する共役、部分共役もしくは非共役の、ポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーであって、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が使用されることを特徴とするものに関する。
【0074】
すなわち、これらの繰り返し単位は、とりわけ、ポリフルオレン類(例えば、EP842208またはWO/22026に従う)、ポリスピロビフルオレン類(例えば、EP707020またはEP894107に従う)、ポリ−パラ−フェニレン類(例えば、WO92/18552に従う)、ポリジヒドロフェナントレン類(例えば、WO05/014689に従う)、ポリフェナントレン類(例えば、DE102004020298.2に従う)、ポリインデノフルオレン類(例えば、WO04/041901またはWO04/113412に従う)、ポリカルバゾール類、ポリアントラセン類、ポリナフタレン類またはポリチオフェン類(例えば、EP1028136に従う)として共重合化することができる。これらの単位を複数種有するポリマー、またはアトロプ異性繰り返し単位のホモポリマーも可能である。
【0075】
ポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーにおいて過剰に使用されるアトロプ異性体は、過剰に使用されないアトロプ異性体よりも良好な溶解性を有することが好ましい。
【0076】
本発明の好ましい態様において、ポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーにおけるアトロプ異性体過剰率は、少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも50%、非常に特に好ましくは少なくとも70%、特に少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも90%である。より大きなアトロプ異性体過剰率は、それにより、ポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーのより良好な溶解性が確保されるので、好ましい。
【0077】
さらに、当該物質が10-5mbar未満、好ましくは10-6mbar未満、特に好ましくは10-7mbar未満の圧力で真空昇華装置中で蒸着される昇華プロセスにより1またはそれ以上の層が塗布されていることを特徴とする有機電子デバイスが好ましい。
【0078】
同様に、当該物質が一般的に10-5mbar〜1barの圧力で、OVPD(有機気相堆積)プロセスにより、またはキャリヤーガス昇華を用いて1またはそれ以上の層が塗布されていることを特徴とする有機電子デバイスが好ましい。
【0079】
さらに、1またはそれ以上の層が、溶液から、例えばスピンコーティングにより、あるいは例えばスクリーン印刷、フレキソ印刷またはオフセット印刷、特に好ましくはLITI(光誘導熱イメージング、熱転写印刷)またはインクジェット印刷のようないずれかの所望の印刷プロセスを用いて、作製されたことを特徴とする有機電子デバイスが好ましい。
【0080】
上に記載した発光デバイスは、約1:1のアトロプ異性体比を有する混合物を用いる先行技術に対して以下の驚くべき利点を有する:
1.対応するデバイスの安定性は、先行技術による系と比べて、より大きく、これは、より長い寿命の点でとくに明らかである。
【0081】
2.有機電子デバイスは、より優れた再現性をもって製造することができる。個々の成分が異なる昇華温度および異なる物性を有する物質の混合物の代わりに、1の異性体の大きな富化または純粋な異性体を有する化合物を用いているからである。これらは、また、デバイスにおけるより均一な層と、デバイスの動作中のより良好な再現性をもたらす。
【0082】
3.いくつかのものが乏しいよう改正のために精製が困難であった今日まで使用されている化合物とは対照的に、富化は、より高い溶解性を有する異性体の単離を可能とし、これは、その結果より簡単に精製することができ、または溶液からより容易に処理することもできる。
【0083】
4.驚くことに、使用する高温にもかかわらず、アトロプ異性体は高真空中での昇華中安定であり、蒸着中に非常にわずかな程度に異性化するだけであるか、あるいは全く異性化しない。これは、使用する異性体が有機電子デバイスにおける形態と同じ形態にあることを確保するための必須の性質である。
【0084】
5.異性体の分離中に、使用しない異性体は廃棄する必要ななく、その代わりに、好適な溶媒中での十分に長い加熱または他の処理により他のアトロプ異性体との平衡へと復元され得る。かくして、異性体の分離操作は、損失なく行うことができる。
【0085】
本発明の以下の例によりさらに詳しく説明するが、本発明をそれにより限定することを望むものではない。
【0086】
例:
以下の合成は、別段の指摘がない限り、保護ガス雰囲気下で行った。出発物質は、DLDRICHまたはABCRから購入した(9,10−ジブロモアントラセン、4−メチルナフタレン−1−ボロン酸、2−ホルミルボロン酸、2−メトキシベンゼンボロン酸、(2−メチルチオ)フェニルボロン酸、酢酸パラジウム(II)、トリ−o−トリルホスフィン、無機物質、溶媒)。
【0087】
例1:9,10−ビス(4−メチルナフト−1−イル)アントラセン(アントラセン誘導体A1)
a)アントラセン誘導体A1のアトロプ異性体混合物の合成
【化11】

【0088】
トリス−o−トリルホスフィン1.83g(6mmol)、ついで酢酸パラジウム(II)225mg(1mmol)を、トルエン300ml、ジオキサン150mlおよび水400mlの混合物中の4−メチルナフタレン−1−ボロン酸74.4g(400mmol)、9,10−ジブロモアントラセン33.6g(100mmol)およびリン酸カリウム一水和物104.3g(420mmol)の脱ガスされ、十分に攪拌された懸濁液に加え、ついでこの混合物を16時間還流させた。反応混合物を室温まで冷却した後、沈殿した固体を吸引濾別し、各回200mlの水で3回、各回100mlのエタノールで3回洗浄した。真空中で乾燥した(1mbar、80℃、16時間)後、痕跡量のパラジウムを除去するために、生成物を、ソックスレー抽出器中、ガラス繊維抽出シンブル(気孔サイズ0.1μm)を通してクロロホルムで抽出した。クロロホルムを100mlの体積まで濃縮し、エタノール500mlを加えた。得られた沈殿を吸引濾別し、エタノールで洗浄した。粗製生成物A1の収量は41.3g(90mmol)であり、理論の90.0%であった。
【0089】
b)A1の粗製生成物のアトロプ異性体比の決定
HPLCによる:
上記粗製生成物2mgをTHF10mlに溶かした。この溶液5μlを、ゾルバックス(Zorbax)SB−C18(4.5×75mm、3.5ミクロン)上のアジレント(Agilent)LC1100HPLCを用い、40℃、溶出剤(メタノール72%/THF8%/水20%)の流量1ml/分で分離した。
【0090】
アトロプ異性体の保持時間[分]および面積%は、
アトロプ異性体1: 32.45分 約47面積%
アトロプ異性体2: 33.84分 約53面積%
であった。これは、約6%のアトロプ異性体過剰率に相当する。HPLCピークから取った2つのアトロプ異性体のUV/VISスペクトルは本質的に同じであった。
【0091】
1H−NMR分光法による:
1H−NMRスペクトルは、ブルッカー(Bruker)DMX 500MHz分光計で記録した。上記アトロプ異性体混合物の1H−NMRスペクトルは、アトロプ異性体1および2の信号の実質的な重複により複雑であるが、アトロプ異性体の相対的モル比は、8−ナフチルプロトンに帰属され得る2つの重なり合っているが十分に分離した二重線から決定することができる:
アトロプ異性体1:δ(8−ナフチルプロトン):8.21ppm(d,3HH=8.3Hz);約46%
アトロプ異性体2:δ(8−ナフチルプロトン):8.20ppm(d,3HH=8.3Hz);約54%。
【0092】
c)A1のアトロプ異性体の予備分離
アトロプ異性体2の富化:
アトロプ異性体1対アトロプ異性体2の比約47%:53%を有する、粗製生成物としての上記A1の異性体の混合物40.0gを、N−メチルピロリドン(NMP)2000mlに懸濁させた。この懸濁液を、250℃の油浴中に置いた。約10分後、N−メチルピロリドンの温度は約200℃であり、アトロプ異性体の混合物は溶けていた。この溶液をゆっくり冷却した後、生成した微結晶沈殿を吸引濾別し、各回100mlのNMPで3回、およびエタノール100mlで3回洗浄した。収量は、約10%:90%の比にあるアトロプ異性体1および2の富化混合物18.3gであり、これは2の80%アトロプ異性体過剰率に相当する。
【0093】
アトロプ異性体1の富化:
上記再結晶からのN−メチルピロリドン母液に、エタノール300mlを加えた。室温で16時間放置した後に生成した微結晶沈殿を吸引濾別した。こうして得られた生成物5.4gは、アトロプ異性体1と2の比約84%:16%の富化混合物からなり、これはアトロプ異性体過剰率68%に相当する。最後に述べた工程からの母液に、さらにエタノール500mlを加えた。室温で32時間放置した後に生成した微結晶沈殿を吸引ろ過した。こうして得られた生成物11.3gは、アトロプ異性体1と2の比約96%:4%の富化混合物からなり、これは1のアトロプ異性体過剰率92%に相当する。
【0094】
純粋なアトロプ異性体2の単離
アトロプ異性体2が80%のアトロプ異性体過剰率まで富化された上記混合物10.0gを、再びN−メチルピロリドンから再結晶させた。このために、N−メチルピロリドンを190℃まで熱した。ついで、アトロプ異性体2のアトロプ異性体過剰率80%を有する混合物を激しく攪拌しながら加えた。透明な溶液が生成した(約5分)後、加熱源を除去し、溶液を攪拌しながら室温まで冷却した(約16時間)。固体を吸引濾別し、わずかなN−メチルピロリドンで洗浄した。2回の再結晶化後、収量は7.9gであり、このフラクション中には、HPLCによっても、1H−NMR分光法によってもアトロプ異性体1が検出できなかったので、アトロプ異性体2のアトロプ異性体過剰率は少なくとも98%(比99%:1%)と見積もった。
【0095】
d)A1のアトロプ異性体の溶解性の比較
アトロプ異性体1は、例えばジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、THF、DMSO、DMF、NMP等のようなすべての普通の極性有機溶媒に易溶性である。これに対し、アトロプ異性体2は、すべての普通の有機溶媒に非常にわずかに溶けるのみである。これは、それが再結晶化され得る(上を参照)DMF、NMPまたはDMSOのような二極性非プロトン溶媒に、沸点において、最良の溶解性を示す。
【0096】
e)A1のアトロプ異性体の熱異性化
少なくとも98%のアトロプ異性体過剰率を有するアトロプ異性体2の200mgをN−メチルピロリドン10mlに懸濁させた。この懸濁液を200℃で6時間熱した。ついで、アトロプ異性体過剰率をHPLC(上を参照)により決定したところ、アトロプ異性体2に関し78%であった。加熱時間を延ばすことにより、アトロプ異性体比約1:1を有する混合物を製造することもできた。このことは、富化された異性体から、適切な実験条件により異性体混合物が再び製造できることを示している。したがって、使用していない異性体を廃棄する必要はなく、その代わりに、異性化の後に、さらに使用することができる。
【0097】
f)A1のアトロプ異性体の昇華
以下(表3)の条件下で、A1のアトロプ異性体の昇華を静的真空中で行った。驚くことに、昇華の前後におけるアトロプ異性体過剰率の比較により示されるように、使用した昇華条件下では、アトロプ異性体は、ほんのわずかな程度にしか異性化せず、あるいは全く異性化しない。さらに、2つのアトロプ異性体がその昇華温度において大きく異なるは特筆すべきであり、このことは、これら異性体の混合物を用いては、有機電子デバイスの再現性のある製造が不可能であることを支持している。
【表3】

【0098】
g)A1のアトロプ異性体の融点とガラス転移温度
A1の2つの富化されたアトロプ異性体の融点とガラス転移温度を調べた。これらの温度が、2つのアトロプ異性体について互いに有意に異なっていることが見いだされ、このことは、2つの異性体のトランス形態特性(transmorphological properties)を支持している。結果を表4に示す。
【表4】

【0099】
h)A1のアトロプ異性体のUV/VISおよびフォトルミネッセンススペクトル
A1のアトロプ異性体(92%のアトロプ異性体過剰率を有するアトロプ異性体1、および98%のアトロプ異性体過剰率を有するアトロプ異性体2)のフィルムのUV/VISおよびフォトルミネッセンススペクトルを測定した。結果を図1に示す。UV/VISスペクトルは大きな違いはないが、フォトルミネッセンススペクトルは互いにかなり違っていることは特筆すべきである。すなわち、アトロプ異性体2は、フォトルミネッセンスにおいて構造化された発光バンドを示す一方、アトロプ異性体1は、幅広い、本質的に構造化されていない発光バンドを有し、これはさらに有意な深色シフトを示している。
【0100】
例2:9,10−ビス(2−ホルミルフェニル)アントラセン
a)アトロプ異性体混合物の合成:
【化12】

【0101】
テトラキストリフェニルホスフィノパラジウム(0)2.3g(2mmol)を、トルエン500ml、エタノール150mlおよび水400mlの混合物中の9,10−ジブロモアントラセン33.6g(100mmol)、2−ホルミルベンゼンボロン酸45.0g(300mmol)および炭酸ナトリウム55.1g(520mmol)の十分に攪拌され、脱ガスされた懸濁液に加え、その混合物を48時間還流させた。冷却後、酢酸エチル500mlを加え、有機層を分離し、水500mlで2回洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した後、蒸発乾固させた。残分をジクロロメタン500ml中に溶かし、シリカゲルを通じてろ過し、再び蒸発乾固させ、残分をエタノール100mlに取り、その混合物を還流下に沸騰させ、冷却し、生成物を吸引濾別した後、少量のエタノールで洗浄した。粗製生成物の収量は、36.7g(95mmol)であり、理論の95.0%であった。
【0102】
b)粗製生成物のアトロプ異性体比の決定
HPLCによる:
上記粗製生成物2mgをTHF10mlに溶かした。この溶液5μlを、ゾルバックスSB−C18(4.5×75mm、3.5ミクロン)上のアジレントLC1100HPLCを用い、40℃、溶出剤(メタノール81%/THF9%/水10%)の流量1ml/分で分離した。
【0103】
アトロプ異性体の保持時間[分]および面積%は、
アトロプ異性体1: 13.53分 約28面積%
アトロプ異性体2: 21.01分 約72面積%
であった。これは、約44%のアトロプ異性体過剰率に相当する。HPLCピークから取った2つのアトロプ異性体のUV/VISスペクトルは本質的に同じであった。
【0104】
1H−NMR分光法による:
1H−NMRスペクトルは、ブルッカーDMX 500MHz分光計で記録した。上記アトロプ異性体混合物の1H−NMRスペクトルは、アトロプ異性体1および2の信号の実質的な重複により複雑であるが、アトロプ異性体の相対的モル比は、ホルミルプロトンに帰属され得る2つの十分に分離した一重線から決定することができる:
アトロプ異性体1:δ(ホルミルプロトン):9.42ppm;約46%
アトロプ異性体2:δ(ホルミルプロトン):9.38ppm;約54%。
【0105】
c)アトロプ異性体の予備分離
予備分離は、シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより、溶出剤n−ヘキサン:酢酸エチル5:1(v:v)で行った。
使用量:3.0gの粗製生成物
収量:0.8gのアトロプ異性体1
2.0gのアトロプ異性体2
アトロプ異性体1:1H−NMR(CDCl3):δ[ppm]=9.42(s,2H,CHO)、8.26(d,2H)、7.86(dd,2H)、7.74(d,2H)、7.52(m,6H)、7.39(m,4H)。
アトロプ異性体2:1H−NMR(CDCl3):δ[ppm]=9.38(s,2H,CHO)、8.27(d,2H)、7.84(dd,2H)、7.74(d,2H)、7.52(m,6H)、7.39(m,4H)。
【0106】
例3:9,10−ビス(2−メトキシフェニル)アントラセン
a)アトロプ異性体混合物の合成:
【化13】

【0107】
例2と同じような合成。2−ホルミルベンゼンボロン酸の代わりに、2−メトキシベンゼンボロン酸45.6g(300mmol)を用いた。
粗製生成物の収量は、31.0g(79mmol)であり、理論の79.3%であった。
【0108】
b)粗製生成物のアトロプ異性体比の決定
HPLCによる:
上記粗製生成物2mgをTHF10mlに溶かした。この溶液5μlを、ゾルバックスSB−C18(4.5×75mm、3.5ミクロン)上のアジレントLC1100HPLCを用い、40℃、溶出剤(メタノール76.5%/THF8.5%/水15%)の流量1ml/分で分離した。
【0109】
アトロプ異性体の保持時間[分]および面積%は、
アトロプ異性体1: 4.78分 約48面積%
アトロプ異性体2: 7.09分 約52面積%
であった。これは、約4%のアトロプ異性体過剰率に相当する。HPLCピークから取った2つのアトロプ異性体のUV/VISスペクトルは本質的に同じであった。
【0110】
1H−NMR分光法による:
1H−NMRスペクトルは、ブルッカーDMX 500MHz分光計で記録した。上記アトロプ異性体混合物の1H−NMRスペクトルは、アトロプ異性体1および2の信号の実質的な重複により複雑であるが、アトロプ異性体の相対的モル比は、メチルプロトンに帰属され得る2つの十分に分離した一重線から決定することができる:
アトロプ異性体1:δ(メチルプロトン):3.66ppm(s);約49%
アトロプ異性体2:δ(メチルプロトン):3.64ppm(s);約51%。
【0111】
c)A1のアトロプ異性体の予備分離
予備分離は、シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより、溶出剤n−ヘキサン:酢酸エチル10:1(v:v)で行った。
使用量:3.0gの粗製生成物
収量:1.4gのアトロプ異性体1
1.3gのアトロプ異性体2
アトロプ異性体1:1H−NMR(CDCl3):δ[ppm]=7.63(AA’BB’,4H、アントラセン)、7.54(d,2H)、7.35(d,2H)、7.30(AA’BB’,4H、アントラセン)、7.20−7.16(m,2H)、3.66(s,3H,CH3)。
アトロプ異性体2:1H−NMR(CDCl3):δ[ppm]=7.63(AA’BB’,4H、アントラセン)、7.55(d,2H)、7.36(d,2H)、7.30(AA’BB’,4H、アントラセン)、7.20−7.16(m,2H)、3.648(s,3H,CH3)。
【0112】
例4:9,10−ビス[2−(メチルチオ)フェニル]アントラセン
【化14】

【0113】
例2と同じような合成。2−ホルミルベンゼンボロン酸の代わりに、2−(メチルチオ)フェニルボロン酸50.4g(300mmol)を用いた。
粗製生成物の収量は、27.1g(64mmol)であり、理論値の64.3%であった。
【0114】
1H−NMR分光法およびHPLCにより1つのアトロプ異性体のみが見出されたので、これを、さらなる検討のために、DMSO(4ml/g)から繰り返し再結晶させることにより精製した。収量は、16.6g(39mmol)であり、理論値の39.3%、純度99.8%であった。母液はアトロプ異性体の混合物を含有していたが、これはさらに検討せず、あるいは分離しなかった。
【0115】
b)粗製生成物のアトロプ異性体比の決定
HPLCによる:
上記粗製生成物2mgをTHF10mlに溶かした。この溶液5μlを、ゾルバックスSB−C18(4.5×75mm、3.5ミクロン)上のアジレントLC1100HPLCを用い、40℃、溶出剤(メタノール72%/THF8%/水20%)の流量1ml/分で分離した。
【0116】
1つだけのアトロプ異性体が見いだされ、そのアトロプ異性体の保持時間[分]および面積%は、
アトロプ異性体1: 6.48分 100面積%
であった。
【0117】
c)1H−NMR分光分析:
1H−NMR(ベンゼン−d6):δ[ppm]=7.84(AA’BB’4H、アントラセン)、7.40−7.26(m,4H)、7.15−7.10(m,16H)、1.72(s,6H)。
【0118】
例5:アントラセン誘導体A1を含むOLEDの製造とその特性
OLEDを、WO04/058911に記載された一般的な方法により製造したが、これはそれぞれの場合に個々の状況に適合させた(例えば最適な効率または色を達成するために層厚さの変化)。使用したマトリックス材料は、例1に記述したアントラセン誘導体A1であった。単離したアトロプ異性体およびアトロプ異性体混合物の双方を使用した。
【0119】
以下の構造を有するOLEDを、上記一般的な方法と同じように製造した:
【化15】

【0120】
これらのなお最適化されていないOLEDを、標準的な方法により特性決定した;この目的には、エレクトロルミネッセンススペクトル、電流/電圧/輝度特性(IUL特性)から算出した、測光的効率(photometric efficiency)(cd/Aで測定)、輝度の関数としての電力効率(lm/Wで測定)、並びに寿命を決定した。寿命は、特定の輝度から出発してOLEDの初期輝度が、関連する電流を維持しながら、半分に低下するまでの時間と定義される。
【0121】
より明確にするために、ドーパントD1の構造式を以下に示す:
【化16】

【0122】
電圧の関数としての電流密度
図2はアトロプ異性体1および2並びに指摘された単層構造におけるアトロプ異性体混合物の電流密度/電圧曲線を示す。層構造:ITO/PEDOT20nm/A1 40nm/Ba 4nm/Al 100nm。
【0123】
一方でアトロプ異性体1および2を、他方では等重量部のアトロプ異性体1および2を緊密に混合して得たアトロプ異性体1および2の混合物(以下、アトロプ異性体混合物という)を用いた。A1のアトロプ異性体1および2は、アトロプ異性体混合物よりも有意に低い使用電圧を示す。すなわち、例えば、アトロプ異性体1および2では、約6.0Vの電圧で10mAの電流が達成される一方、この電流は、A1のアトロプ異性体混合物では、7.3Vで流れる。
【0124】
効率および寿命
図3は、次の層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nmを有するデバイスにおける、アトロプ異性体1および2とアトロプ異性体混合物(アトロプ異性体1および2の1:1重量部混合物)の輝度の関数としての、cd/Aでの測光的効率(上側の曲線の組)およびlm/Wでの電力効率(下側の曲線の組)を示す。約5×10-6mbarのチャンバ圧力および約4Å/sの蒸着速度でアトロプ異性体1の蒸着温度は、T=172℃、アトロプ異性体2のそれはT=197℃であった。色座標は、それぞれの場合、CIE:x=0.17、y=0.31であった。アトロプ異性体混合物を含むデバイスは、純粋なアトロプ異性体のデータよりも悪い性能データを示し、ここでアトロプ異性体1は、アトロプ異性体2よりも良好な性能データを示す。
【0125】
類似の状況が、輝度/時間曲線(図4)によっても明らかにされる。アトロプ異性体混合物を含むデバイスの寿命は、単離されたアトロプ異性体1および2のそれよりも有意に短く、ここでアトロプ異性体1は、より良好な寿命を示す。
【0126】
例6:蒸着時間の関数としてのOLEDの特性決定
図5は、A1のアトロプ異性体混合物(アトロプ異性体1および2の1:1重量部混合物)から、デバイス製造の初めに得られたデバイス(曲線1)およびデバイス製造の終わりに約90重量%のアトロプ異性体混合物が蒸発した後に得られたデバイス(曲線2)の輝度の関数としての、cd/Aでの測光的効率(上側の曲線の組)およびlm/Wでの電力効率(下側の曲線の組)を示す。層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nm。色座標は、それぞれの場合、CIE:x=0.17、y=0.31であった。
【0127】
デバイス製造の初めに得られたデバイス、すなわちすなわちアトロプ異性体混合物を含むデバイスは、HPLCにより決定してアトロプ異性体2の95%アトロプ異性体過剰率を含むデバイス製造の終わりの方で得られたデバイスに比べて、有意に悪い性能データを示す。
【0128】
類似の状況が、輝度/時間曲線(図6)によっても明らかにされる。デバイス製造の初めに得られたデバイス、すなわちアトロプ異性体混合物を含むデバイスは、HPLCにより決定してアトロプ異性体2の95%アトロプ異性体過剰率を含むデバイス製造の終わりの方で得られたデバイスに比べて、より短い寿命を示す。
【0129】
全体として、アトロプ異性体の比率およびデバイスの物性は、デバイスの作製中にかなり変化し、したがって再現性のあるデバイスの製造は不可能であることが明らかである。これに対して、単離されたアトロプ異性体1および2を用いて再現性のあるデバイスの製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】A1のアトロプ異性体のUV/VISおよびフォトルミネッセンススペクトルを示す図。
【図2】次の層構造:ITO/PEDOT20nm/A1 40nm/Ba 4nm/Al 100nmを有するデバイスにおけるアトロプ異性体1(菱形)および2(三角形)並びにアトロプ異性体混合物(四角形)の電流密度/電圧曲線を示す図。
【図3】次の層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nmを有し、色座標CIE:x=0.17、y=0.31のデバイスにおける、A1のアトロプ異性体1(菱形)および2(三角形)とアトロプ異性体混合物(四角形)の輝度の関数としての、cd/Aでの測光的効率(上側の曲線の組)およびlm/Wでの電力効率(下側の曲線の組)を示す図。
【図4】次の層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nmを有し、色座標CIE:x=0.17、y=0.31のアトロプ異性体1(曲線1)および2(曲線2)とアトロプ異性体混合物(曲線3)のデバイスの寿命曲線を示す図。
【図5】以下の構造を有し、デバイス製造の初めに得られたデバイス(曲線1)および同じデバイス製造の終わりに得られたデバイス(曲線2)の輝度の関数としての、cd/Aでの測光的効率(上側の曲線の組)およびlm/Wでの電力効率(下側の曲線の組)を示す図であり;層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nm;色座標CIE:x=0.17、y=0.31。
【図6】以下の構造を有し、デバイス製造の初めに得られたデバイス(曲線1)および同じデバイス製造の終わりに得られたデバイス(曲線2)の時間の関数としての輝度を示す図であり;層構造:ITO/PEDOT 20nm/NaphDATA 20nm/S−TAD 20nm/5%のドーパントでドープされたA1 40nm/Alq3 20nm/LiF 1nm/Al 100nm;色座標CIE:x=0.17、y=0.31。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、アトロプ異性を有し、したがってジアステレオマーの生成が可能な少なくとも1種の有機化合物を含む少なくとも1つの層とを備え、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が存在することを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項2】
有機およびポリマー発光ダイオード(OLED、PLED)、有機電界効果トランジスタ(O−FET)、有機薄膜トランジスタ(O−TFT)、有機発光トランジスタ(O−LET)、有機集積回路(O−IC)、有機太陽電池(O−SC)、有機電界クエンチデバイス、発光電気化学電池(LEC)および有機レーザダイオード(O−レーザ)からなる電子デバイス群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機電子デバイス。
【請求項3】
前記アトロプ異性を有する化合物が、一重項または三重項状態から発光し得るドーパントのためのホスト材料として、ドーパントとして、正孔輸送材料として、電子輸送材料として、または正孔障壁材料として用いられることを特徴とする請求項1および/または2に記載の有機電子デバイス。
【請求項4】
前記アトロプ異性を有する化合物を含む層に加えて、更なる層を含むことを特徴とする請求項1〜3の1項または以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項5】
回転束縛された単結合回りの回転のための活性化エネルギーが、少なくとも80kJ/モルであることを特徴とする請求項1〜4の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項6】
前記アトロプ異性が、2つのsp2中心間の単結合回りの束縛された回転により生じることを特徴とする請求項1〜5の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項7】
前記アトロプ異性が、C−C単結合回りの束縛された回転により生じることを特徴とする請求項1〜6の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項8】
少なくとも20%のアトロプ異性体過剰率を用いることを特徴とする請求項1〜7の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項9】
前記アトロプ異性を有する化合物が、束縛された回転を有する2つの単結合を含み、主として存在するアトロプ異性体がシン異性体であることを特徴とする請求項1〜8の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項10】
前記アトロプ異性を有する化合物が、束縛された回転を有する2つの単結合を含み、主として存在するアトロプ異性体がアンチ異性体であることを特徴とする請求項1〜8の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項11】
前記アトロプ異性を有する化合物が、束縛された回転を有する3つの単結合を含み、アトロプ異性が回りに存在する単結合が、線状または分枝配置を有することを特徴とする請求項1〜8の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項12】
前記アトロプ異性を有する化合物が、束縛された回転を有する4つの単結合を含み、アトロプ異性が回りに存在する単結合が、線状または分枝配置を有することを特徴とする請求項1〜8の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項13】
前記アトロプ異性を有する化合物が、式(1)
【化1】

(ここで、記号および添え字には以下が適用される:
Aは、出現毎に同一であるか、異なり、Rによって置換されていてもよいか、置換されていなくてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基であり、ただし、1の基R、または1の基B、C、D、E、GもしくはJは、B、C、D、E、GまたはJへの結合に対して(およびm>1の場合は他のAへの結合に対しても)すべてオルト位で結合しているか、またはこの位置は、Aが縮合芳香族環系を表す場合、該環系の一部によりブロックされており、
B、C、D、E、G、Jは、出現毎に同一であるか、異なり、1またはそれ以上の基Rによって置換されていていなくてもよいか、置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり、ただし、1の基Rは、Aへの結合に対し少なくとも1つのオルト位で結合しているか、またはこの位置は、B、C、D、E、GまたはJが縮合芳香族環系を表す場合、該環系の一部によりブロックされており、
Rは、出現毎に同一であるか、異なり、F、Cl、Br、I、またはそれぞれR1によって置換されていてもよく、さらに1またはそれ以上の非隣接C原子がN−R1、O、S、C=O、O−CO−O、CO−O、SO、SO2、P(=O)R1、Si(R12、−CR1=CR1もしくは−C≡C−によって置き換えられていてもよく、さらに1またはそれ以上のH原子がF、Cl、Br、IまたはCNによって置き換えられていてもよいところの、1〜40個のC原子を有する直鎖アルキルもしくはアルコキシ鎖または3〜40個のC原子を有する分枝もしくは環式アルキルもしくはアルコキシ鎖、または1またはそれ以上の基R1により置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、またはこれら系の2つ、3つ、4つまたは5つの組み合わせであり、ここで2つ以上の基Rは、互いに、更なる単環もしくは多環式の脂肪族もしくは芳香族環系を形成してもよく、
1は、出現毎に同一であるか、異なり、H、または1〜20個のC原子を有する脂肪族もしくは芳香族炭化水素基であり、
nは、出現毎に同一であるか、異なり、0または1であり、
mは、出現毎に同一であるか、異なり、1、2、3、4または5である)
で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜12の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項14】
縮合環系の一部として前記芳香族もしくはヘテロ芳香族単位A上に直接存在するか、もしくは置換基RとしてAに結合する少なくとも1つの炭素原子が、B、C、D、E、GおよびJへの結合に対しすべてオルト位でAに結合していることを特徴とする請求項13に記載の有機電子デバイス。
【請求項15】
縮合環系の一部として前記芳香族もしくはヘテロ芳香族単位B、C、D、E、GまたはJ上に直接存在するか、もしくは置換基RとしてB、C、D、E、GまたはJに結合する少なくとも1つの炭素原子が、それぞれの場合、Aへの結合に対し少なくとも1つのオルト位でB、C、D、E、GおよびJに結合していることを特徴とする請求項13および/または14に記載の有機電子デバイス。
【請求項16】
基A、Dおよび/またはG(および/または任意にB、C、EおよびJ)の少なくとも1つが、縮合芳香族もしくは縮合ヘテロ芳香族環系を表すことを特徴とする請求項13〜15の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項17】
前記縮合芳香族環系が、2個〜8個の芳香族もしくはヘテロ芳香族単位を含み、該単位は、それぞれの場合、1またはそれ以上の共通の辺を介して互いに対して縮合しており、かくして任意に、共通の芳香族系を形成し、かつRによって置換されていてもよいか、置換されていなくてもよいことを特徴とする請求項16に記載の有機電子デバイス。
【請求項18】
互いに縮合する単位が、それぞれ任意にRによって置換されていてもよい、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、ピロールおよびチオフェンからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項16および/または17に記載の有機電子デバイス。
【請求項19】
前記縮合芳香族もしくはヘテロ芳香族環系が、それぞれ任意にRによって置換されていてもよい、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、クリセン、ペンタセン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フェナントロリン、ペリレン、トリフェニレン、カルバゾール、ベンゾチオフェンおよびジベンゾチオフェンからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項18に記載の有機電子デバイス。
【請求項20】
記号Aが、9,10−結合アントラセン単位を表すことを特徴とする請求項16〜19の1項またはそれ以上に記載の有機電子デバイス。
【請求項21】
式(1)
【化2】

(ここで、R、R1、mおよびnは、上に記載したと同じ意味を有し、他の使用された記号には以下が適用される:
Aは、出現毎に同一であるか、異なり、Rにより置換されていてもよいか、置換されていなくてもよいところの、9〜40個の芳香族環原子を有する縮合アリールもしくはヘテロアリール基であり、ただし、1の基R、または1の基B、C、D、E、GもしくはJは、B、C、D、E、GまたはJへの結合に対して(およびm>1の場合は他のAへの結合にも対して)すべてオルト位で結合しているか、またはこの位置は、前記縮合芳香族環系の一部によりブロックされており、さらに自由回転が回りに可能な単結合は前記芳香族もしくはヘテロ芳香族系には存在せず、
B、C、D、E、G、Jは、出現毎に同一であるか、異なり、Rによって置換されていいなくてもよいか置換されていてもよいところの5〜40個の芳香族環原子を有する芳香族もしくはヘテロ芳香族環系であり、ただし、対応する単位BないしJに対し縮合していてもよいところの少なくとも1つの芳香族基Rは、Aへの結合に対しオルト位に存在する)
で示される、ジアステレオマーの生成が可能なアトロプ異性体混合物であって、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が存在することを特徴とするアトロプ異性体混合物。
【請求項22】
Aが、置換もしくは無置換の9,10−アントラセン、ピレンおよびペリレンからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
B、C、D、E、GおよびJが、互いに独立に、R置換もしくは非置換1−ナフチル、オルト−ビフェニルおよび1−アントリルからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項21および/または22に記載の化合物。
【請求項24】
アトロプ異性体を生成し、したがってジアステレオマーの生成が可能な繰り返し単位を含有する共役、部分共役または非共役のポリマー、オリゴマーまたはデンドリマーであって、少なくとも10%のアトロプ異性体過剰率が用いられることを特徴とするポリマー、オリゴマーまたはデンドリマー。
【請求項25】
ポリフルオレン、ポリスピロビフルオレン、ポリ−パラ−フェニレン、ポリジヒドロフェナントレン、ポリフェナントレン、ポリインデノフルオレン、ポリカルバゾール、ポリアントラセン、ポリナフタレンもしくはポリチオフェン、あるいはこれらの単位を複数有するポリマー、またはアトロプ異性を有する化合物のホモポリマーであることを特徴とする請求項24に記載のポリマー。
【請求項26】
該ポリマー中に過剰に存在するアトロプ異性体が、より良好な溶解性を有するものであることを特徴とする請求項24および/または25に記載のポリマー、オリゴマーまたはデンドリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−525995(P2008−525995A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539528(P2007−539528)
【出願日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011734
【国際公開番号】WO2006/048268
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(597035528)メルク パテント ゲーエムベーハー (209)
【Fターム(参考)】