説明

有機デバイスおよびその製造方法、ならびにその製造装置

【課題】有機デバイスにおける有機層の膜厚ムラを抑制すること。特に、有機発光デバイスの有機発光層の膜厚ムラを抑制して、スジ状の輝度ムラの低減、デバイスの画質向上を実現すること。
【解決手段】X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の素子領域を形成された素子配列領域を有する基板と、有機材料を含むインクを吐出する吐出ノズルを複数有するインク塗布ヘッドとを準備し;インク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルのうちの一部の吐出ノズルを、素子配列領域のX方向の外周部にあわせて、かつインク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルの残りを素子配列領域の内部にあわせて、Y方向に走査しながらインクを吐出し;インク塗布ヘッドを、前の走査でインクが吐出された素子列の一部と重なるように、X方向に1列以上ずらして、Y方向に走査しながらインクを吐出することを繰り返し;複数の素子領域の全てに所要量のインク吐出する、有機デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料を含むインクを塗布することにより作製される有機層を有する有機デバイスに関する。さらに、その有機デバイスの製造工程におけるインクの塗布方法、およびその塗布のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機層を有する有機デバイス、例えば、有機発光デバイスには、画素電極(陽極)と陰極との間に、約100nm以下の薄い有機発光層が配置される必要があり、その有機発光層は高精細にパターニングされている必要がある。
【0003】
低分子有機材料を用いた有機デバイスの有機層は、低分子有機材料のインク化が困難である場合には、主に蒸着により形成される。蒸着を実施するための蒸着機等の設備コストは高く、蒸着のプロセスにおける真空引きに要する時間などが必要でスループットが低いことがある。
【0004】
一方、高分子有機材料を用いた有機デバイスの有機層は、例えば、高分子有機材料を溶媒に溶解させたインクをスピンコートして得た膜を、フォトリソグラフィー法によりパターニングして形成されうる。これらの方法ではパターニング精度が不十分であることがあるので、インクジェット、凸版印刷、オフセット印刷などの直接パターニング方法が提案されている。
【0005】
従来のインクジェットを用いて有機層をパターニングする場合には、インクジェットヘッドによる走査を複数回繰り返してインクを塗布することにより、所望のパターニングを行う。このとき、一の走査での塗布によるパターニングと、別の走査での塗布によるパターニングとの間で、スジ状のムラが発生するという問題が発生していた。このスジ状のムラは、一の走査で塗布されたインクと、別の走査で塗布されたインクとが、同一条件下で乾燥されるわけではないので、乾燥後の状態が走査毎に異なってしまうために発生する。
【0006】
このスジ状のムラを低減する手段として、基板の中央部から左右交互に走査を行ってインクを塗布する方法や、基板中心部から渦巻き上に走査を行ってインクを塗布する方法が報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
特許文献1には、主にレジストをインクジェットで均一に塗布する技術について説明されており、その例として、図11Aに示される液滴塗布順序が示されている。図11Aにおいて、101は基板を示し;(1)〜(7)および(n−1)〜(n)は、塗布のための走査順序を示し;102は基板上101にインクジェットにより塗布されたレジスト膜を示す。図11Bは、図11Aの断面図である。
【0008】
図11Aに示されるように、走査(1)では基板101の中央部にヘッドを走査させてレジストを塗布する。次に走査(2)では、走査(1)の走査ラインの右側に沿って、ヘッドを走査させてレジストを塗布する。走査(2)で塗布するレジストを、走査(1)で塗布されたレジストの一部と接触させる。当該接触により、既に塗布されたレジストの端部の乾燥速度を抑制する。走査(3)では、走査(1)の走査ラインの左側に沿って、ヘッドを走査させてレジストを塗布する。
以降も同様に繰り返して、レジストの塗布膜を形成する。走査(n−1)では、走査(n−3)の走査ラインの左右のうち、(n−5)番目の走査で選択した側に沿って、ヘッドを走査させてレジストを塗布する。次の走査(n)では、走査(n−2)の左右のうち、(n−4)番目の走査で選択した側に沿って、ヘッドを走査させてレジストを塗布する。
【0009】
図12は、図11に示されたような1方向だけの走査ではなく、渦巻き状に走査する様子を示しているが、いずれにしても基板の中央部から端部に向かって、順に走査して塗布している。
【0010】
図11および図12に示される塗布方法によれば、液滴ラインの乾燥速度が最も早い箇所(すなわちライン端部)に、次の液滴ラインが描画される。そのため、乾燥し易い液滴ラインの端部が露出される時間が最小に抑えられる。このことにより、溶媒雰囲気が均一になり塗布ムラの抑制が達成されるとされている。
【0011】
さらに、有機EL材料を含む組成物を、複数の電極上に塗布することにより有機EL層を形成するときに、複数の電極が配置された領域(有効光学領域)の周囲にも、有機EL材料を塗布する方法が報告されている(特許文献2を参照)。これにより、有効光学領域の端部に塗布された有機EL材料を含む組成物の乾燥速度を抑制し、形成される有機EL層の膜厚ムラを抑制するとしている。
【特許文献1】特開2004−298844号公報
【特許文献2】特開2002−222695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら特許文献1に記載の塗布方法では、依然として、1の走査で塗布されたインクラインの内部で膜厚分布が発生しやすい。そのため、スジ状の塗布ムラが発生するという問題がある。このスジ状の塗布ムラは、1の走査で塗布されたインクラインの内部に、乾燥速度が速い部分と遅い部分があるため、膜厚にばらつきが生じて発生する。乾燥速度のばらつきは、主に塗布されたインクの溶媒蒸気の分布のばらつきがあるために生じる。つまり、塗布されたインクラインの端部のインクは、内部のインクよりも速く乾燥するので、濃度が上昇しやすく、乾燥後の膜厚が大きくなる。
【0013】
特許文献1に記載の方法によれば、基板中央から左右交互にインクを塗布していくため、基板中央から片方向のみに着目すると(たとえば、図11Aや図12の基板101の左半分に着目すると)、走査(1)、走査(3)、走査(5)、走査(7)の順序で、1回ごとに走査されてインクが塗布される。そのため、塗布されたインクラインの隣に、次の走査によりインクが塗布されるまでの時間は、むしろ2倍程度に長くなる。つまり、インクラインの端部の周囲の溶媒蒸気濃度が、低い状況のまま長時間維持される。そのため、インクラインの端部から溶媒が急速に蒸発し、インク濃度が高くなる。それにより、インクライン内での膜厚分布が大きくなり、結局、ライン状の塗布ムラが発生しやすい。
【0014】
本発明は、上記問題点を鑑み、インクライン同士の塗布状態を均一にするとともに、1のインクライン内での塗布ムラをも低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一は、以下に示す有機デバイスの製造方法に関する。
[1] X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の素子領域を形成された素子配列領域を有する基板と、有機材料を含むインクを吐出する吐出ノズルを複数有するインク塗布ヘッドとを準備するステップ、
前記インク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルのうちの一部の吐出ノズルを、素子配列領域のX方向の外周部にあわせて、かつ前記インク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルの残りを素子配列領域の内部にあわせて、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップA、
前記インク塗布ヘッドを、ステップAでインクが吐出された素子列の一部と重なるように、X方向に1列以上ずらして、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップB、および
前記インク塗布ヘッドを、ステップBでインクが吐出された素子列の一部と重なるように、X方向に1列以上ずらして、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップCを含み、
前記複数の素子領域の全てに所要量のインクが吐出されるまで、ステップCを繰り返して、各素子領域に所要量のインクを複数回の走査に分割して吐出する、有機デバイスの製造方法。
【0016】
本発明の第二は、以下に示される有機デバイスに関する。
[2] 基板面の素子配列領域の内部に、X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の有機素子を有し、
前記複数の有機素子のそれぞれは、前記基板面に配置された電極と、前記電極上に配置された、少なくとも一層の有機材料からなる層を含む、有機デバイスであって、
前記基板面の前記素子配列領域のX方向の外周部に、マトリックス状に配置された有機材料の複数の塊を有し、
前記有機材料の塊のそれぞれの体積は、前記有機素子のそれぞれに含まれる有機材料からなる層の体積よりも小さい、有機デバイス。
【0017】
本発明の第三は、以下に示される有機デバイスの製造装置に関する。
[3] 有機材料を含むインクの液滴を吐出して、基板上のX方向およびY方向にマトリックス状に形成された素子領域に、有機材料をパターニングする装置であって、
前記素子領域が形成された基板が設置される、少なくともY方向に移動可能なステージと、
前記インクを吐出する複数の吐出ノズルを有し、少なくともX方向に移動可能な、2台以上のインク塗布ヘッドと、
前記インク塗布ヘッドと前記ステージとの相対位置を制御し、かつ前記インク塗布ヘッドの吐出ノズルからのインクの吐出を制御する制御手段とを有し、
前記制御装置は、前記液滴塗布ヘッドを前記基板のY方向に走査させながら、各素子領域に吐出ノズルからインクを吐出させることができ、かつ走査ごとに、前記塗布ヘッドと前記基板の相対位置を、X方向に1列以上移動させることができる、
有機デバイスの製造装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、有機層のスジ状の膜厚ムラが抑制された有機デバイスが提供される。特に本発明により、インク塗布時のスジ状の膜厚ムラに起因する輝度ムラや発光色ムラのない有機発光デバイスが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1.本発明の有機デバイス
本発明の有機デバイスは、有機機能層を有する有機デバイスであればよく、例えば有機発光層や有機半導体層を有する有機デバイスであるが、特に限定されない。ただし、有機発光層は、デバイスの輝度ムラや発光色ムラを抑制するため、特にその均一性が求められる。したがって、本発明の有機デバイスを有機発光デバイス(OELデバイス)に適用すると、本発明の効果が特に有効に発現する。
【0020】
本発明の有機デバイスは、基板面の一部にマトリックス状に配置された複数の有機素子を有する。複数の有機素子が配置された領域を、「素子配列領域」と称する。素子配列領域に配置された有機素子の構成は特に限定されず、有機発光素子であったり、有機半導体素子であったりする。有機素子は、好ましくは有機発光デバイスに含まれる有機発光素子である。
【0021】
有機素子は、少なくとも電極と、電極上に積層された有機材料からなる層を含む。つまり、有機素子が有機発光素子であれば、画素電極と、画素電極上に積層された有機発光材料からなる層(有機発光層)を含む。もちろん、有機発光層上には陰極などが形成されている。
【0022】
また、有機素子が有機半導体素子であれば、ソース電極およびドレイン電極と、それらの上に配置された有機半導体材料からなる層を含む。もちろん、ドレイン電極なども形成されている。有機半導体層の厚さが30nm以下であると、半導体の結晶が生じにくい。一方、膜厚が厚くなるほど電子移動度が向上するが、通常は500nm以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の有機デバイスは、素子配列領域に配置された有機素子に有機材料からなる層が形成されていることはもちろん、素子配列領域の外周部にも、有機材料からなる層を形成する有機材料の塊が配置されていることを特徴とする。
【0024】
有機素子が、X方向およびY方向にマトリックス状に配置されているときに、素子配列領域のX方向の外周部に配置される有機材料の塊の体積は、有機素子に含まれる有機材料からなる層の体積よりも小さいことを特徴とする。さらに、素子配列領域のX方向の外周部に配置される有機材料の塊の体積は、素子配列領域から離れるほど小さくなることが好ましい。
さらに、素子配列領域のY方向の外周部にも有機材料からなる層を形成する有機材料の塊が配置されていてもよい。素子配列領域のY方向の外周部に配置される有機材料の塊の体積は、有機素子に含まれる有機材料からなる層の体積と実質的に同一である。
【0025】
このように、素子配列領域の外周部に有機材料の塊が配置される理由は、後述する有機デバイスの製造方法と関係があるので、後に詳細に説明する(図7を参照)。
【0026】
以下に、有機発光デバイス(OELデバイス)の構造を例示する。有機発光デバイスには、基板面の一部(素子配列領域)にマトリックス状に配置された、複数の有機発光素子を有する。
【0027】
図1には、2つの有機発光素子の断面が模式的に示される。図1において、基板10は可視光を80%以上透過する、厚さ0.7mmのガラス基板でありうる。基板10の表面にバンク12がパターニングされて、有機発光素子領域を規定している。バンク12は絶縁性を有する材料で形成され、基板からの厚さは1μm程度でありうる。
【0028】
有機発光素子領域のそれぞれに、陽極11がパターニングされている。陽極11は、厚さ200nm以下のITOで構成されうる。陽極11は可視光に対して80%以上の透過性を有することが好ましい。また、陽極11は比抵抗が10−4Ω・cm以下であるので、十分低抵抗であり、電極として作用する。
【0029】
陽極11の上には、発光層13が積層されている。発光層13は有機発光材料からなり、電子および正孔が注入されると導電性を示して発光するが、注入されない状態では絶縁性を示す。そのため、電子または正孔の注入により、発光層13の発光を制御することができる。発光特性および寿命を確保するため、発光層13の厚さは100nm程度であればよい。
【0030】
発光層13の上には、陰極14が形成されている。陰極14は、発光層13と同じ寸法でパターニングされていてもよいが、図1に示されるように、発光層13を完全に覆って画素領域を連結していてもよい。陰極14は、例えば厚さ300nm以下であり、バリウムBaとアルミニウムAlの順に2層構造をしていてもよい。
【0031】
さらに陰極14の形成後に、封止膜(不図示)を形成して素子の劣化を防ぐことができる。封止膜は、ガラス薄膜、金属キャップ、ポリマー薄膜などであればよい。
【0032】
このように発光層13は、陽極11と陰極14の間に積層されている。陽極11と陰極14は短絡しないことが求められる。陽極11と陰極14との絶縁が確保されないと、常に電子や正孔の移動が発生している状態となるので、有機材料からなる層13の発光のON/OFF、輝度の制御は不可能となる。
【0033】
陽極11から正孔が、陰極14から電子が発光層13に注入され、発光層13の内部でこれらが結合するときに励起子(エキシトン)が発生する。励起子により発光層13が励起されて発光が生じる。発光層を流れる電流は、膜厚の3乗に反比例し、印加電圧の2乗に比例する。そのため発光効率を上げるためには、膜厚を薄くすることが求められる。一方で、注入された正孔と電子は、ある確率で再結合するため膜厚を厚くすると、再結合の確率を上げることができる。これらを考慮して、さらには印刷後の乾燥により発光層の端部の膜厚が厚くなることを考慮して、通常の発光層13の膜厚は、10〜150nmとされている。発光層13の厚さは、発光効率や輝度を十分得るために、150nm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の有機発光デバイスの有機発光素子は、有機材料からなる層として発光層13を有するが、正孔輸送層(陽極11と発光層13の間)や電子輸送層(陰極14と発光層13の間)を有していてもよい。これらの層は、有機発光デバイスの効率向上や寿命改善などに寄与しうる。正孔輸送層や電子輸送層は、塗布法によって作製されてもよいし、蒸着法などによって作製されてもよい。電子輸送層とは、例えば1,2,4-トリアゾール誘導体層などである。
【0035】
図2は、図1に示される有機発光素子の複数を、基板10にマトリックス状に配置した状態を示す平面図であるが、説明のために、陰極14の図示が省略されている。省略された陰極14は、バンク12と凹部15を覆うように形成されている。
【0036】
図2において、バンク12は凹部(セル)15をパターニングしている。凹部(セル)15の大きさは、例えば、縦200μm×横70μmであり、1つの凹部(セル)15にRGBのうち1色のインクが塗布される。凹部15の内部には、図1に示されるように、陽極11と発光層13と陰極14が積層されている。本明細書では、1つの凹部(セル)を有機素子領域と称する。RGBの3色のインクのそれぞれを3つの凹部(セル)に塗布することにより、1つの画素が形成される。
【0037】
本発明の有機発光デバイスは、複数の有機発光素子がマトリックス状に配置された素子配列領域の外周部に、有機発光材料の塊がマトリックス状に配置されていることを特徴とする。素子配列領域の周辺に有機発光材料が配置される理由は、有機デバイスの製造方法と関連があるので、後に詳細に説明する(図7を参照)。
【0038】
2.本発明の有機デバイスの製造方法
本発明の有機デバイスは、その表面にマトリックス状に配置された複数の素子領域を有する基板を準備し;素子領域に、有機材料を含むインクを塗布することにより製造する。
【0039】
基板の材質などは特に限定されないが、バックエミッション型の有機発光デバイスを製造する場合には光透過性能を有していればよい。例えば可視光を80%以上透過する、厚さ0.7mmのガラス基板としたり、同等の光透過性能を有するポリマー基板、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)基板、PEN(ポリエチレンナフレタート)基板等を用いたりしてもよい。
【0040】
素子領域には有機材料を含むインクが供給されるので、各素子領域はバンクで区画されていることが好ましい。バンクは絶縁性材料により形成されていればよく、有機溶剤耐性を有していることが好ましい。さらにバンクは、エッチング処理、ベーク処理およびプラズマ処理がされることがあるので、それらの処理に対する耐性の高い材質、例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などで形成されていることが好ましい。
【0041】
バンクの厚さは1μm程度であればよい。さらにバンクは、供給されたインクが素子領域から漏れ出さないようにするため、撥水性であることが好ましい。撥水性のバンクを得るには、例えば撥水性の樹脂(フッ素含有樹脂など)でバンクを形成したり、または形成されたバンクをフッ素ガスでプラズマ処理したりすればよい。
【0042】
基板表面に形成される素子領域の構造は、作製しようとする有機素子の種類によって異なる。作製される有機素子の例には、有機発光素子(OEL素子)、または有機半導体素子などが含まれる。
【0043】
作製される有機素子が有機発光素子である場合には、基板表面に形成される素子領域には画素電極である陽極が配置されており、さらに画素電極上に無機系の正孔輸送層などが配置されていてもよい。バックエミッション型の有機発光素子を作製する場合には、画素電極を透明電極とする。透明な画素電極を得るには、例えばITO、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物などを電極材料とすればよい。なかでも、低抵抗、光透過性、加工性の点から、ITOが画素電極材料として好適である。ITOからなる画素電極の厚さは200nm程度であればよい。
【0044】
画素電極上に配置される無機系の正孔輸送層の材料の例には、酸化モリブデンや酸化タングステンなどの酸化物が含まれ、通常は、蒸着やスパッタなどにより形成される。
【0045】
一方、作製される有機素子が半導体素子である場合には、基板表面に形成される素子領域には、ソース電極およびドレイン電極が配置されていることが好ましい。ソース電極およびドレイン電極の材質や構造は、適宜選択すればよい。
【0046】
前述の通り、基板表面に形成された素子領域には、有機材料を含むインクが供給される。供給されるインクに含まれる有機材料は、作製しようとする有機素子によって異なる。作製される有機素子が有機発光素子(OEL素子)である場合には、前記有機材料は有機発光材料や、有機正孔輸送材料でありうる。一方、作製される有機素子が有機半導体素子である場合には、前記有機材料は有機半導体材料でありうる。
【0047】
有機発光材料の例には、ポリフルオレン系、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系などの高分子有機材料が含まれるが、インク化が可能であれば、低分子有機材料でも構わない。有機発光材料を含むインクには、有機発光層材料を溶解する溶媒が含まれる。有機発光材料を溶解する溶媒の例には、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキシルベンゼン、メトキシトルエン、フェノキシトルエンなどが含まれる。インクに含まれる溶媒は、単独または混合溶媒でもよい。なかでも、アニソール、キシレン、トルエンといった芳香族系有機溶剤は、有機発光材料を溶解させやすいので好適である。また、塗布されたインクの乾燥速度をある程度は抑制することが好ましいので、インクに含まれる溶媒の沸点は、150℃以上であることが好ましい。また、インクの10%以上は溶媒であることが好ましい。さらに、インクをインクジェットにより塗布するには、インクの粘度を1cPs以上20cPs以下とすることが好ましい。
【0048】
有機正孔輸送材料の例には、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体などが含まれる。有機正孔輸送材料を含むインクには、有機正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒が含まれる。このような溶媒の例には、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水などが含まれる。インクに含まれる溶媒は、単独または混合溶媒であってもよい。
【0049】
有機半導体材料の例には、ポリチオフェンやポリフェニレンビニレンなどの高分子有機半導体が含まれるが、インク化が可能であれば、ペンタセンなどの低分子有機半導体でも構わない。
【0050】
後述の通り素子領域には、有機材料を含むインクが供給されるので、供給されるインクを直接に塗布する電極の表面に、インクに対して親液性を発現させる処理を施してもよい。一方、インクを塗布するべきでないバンク表面に、インクに対して撥液性を発現させる処理を施してもよい。
【0051】
バンクに撥液性を付与するには、例えば、フッ素樹脂でバンクを形成すればよい。フッ素樹脂でバンクをリソグラフィー形成するときにベーク処理をすると、フッ素をバンク上面に偏在させて、バンク上面の撥液性を高めることができることがある。
さらに、撥液性を示す単分子膜をフォトリソグラフィーによりパターニングして、撥液性を付与してもよい。単分子膜の厚さは発光層13の厚みに比べて十分に薄い。単分子膜の例には、有機硫黄化合物の自己組織化膜(SAM膜:Self-Assembled Monolayers)などが含まれる。SAM膜は、金属表面に有機分子が規則正しく並ぶ単分子膜であり、金属と反応しやすい置換基を有する有機分子の溶液に金属を接触させ、不要な部分を現像により除去することで形成される。
【0052】
前述の通り、基板面には、複数の素子領域がマトリックス状に配置された素子配列領域がある。素子配列領域に形成された素子領域に有機材料を含むインクが供給されるのはもちろんであるが、本発明の方法では、素子配列領域の外周部にもインクが供給される。そこで、素子配列領域の外周部に供給されたインクが、基板表面をむやみに広がることを抑制することが好ましい。そのため、素子配列領域の外周部に、インクに対する撥液性を付与してもよい。または素子配列領域の外周部にも、素子領域と同様のバンクを形成して(電極などは配置しない)、そのバンク内部に供給されたインクを収容してもよい。
【0053】
本発明の有機デバイスの製造方法は、基板面にマトリックス状に配置された複数の素子領域に、有機材料を含むインクを供給することにより、有機材料からなる層を形成するステップを含む。
マトリックス状に配置された素子領域に、複数の吐出ノズルを有するインク塗布ヘッドを走査しながら、インクを供給する。「吐出ノズル」とは、インク塗布ヘッドに存在するノズルの全てを意味するとは限らず、実際にインクを吐出するノズルを意味する。したがって、インク塗布ヘッドに存在するノズルのうち、一部のノズルからだけインクを吐出させるのであれば、その一部のノズルが「吐出ノズル」と定義される。
【0054】
インク塗布ヘッドを走査しながら素子領域にインクを供給するが、各素子領域に供給されたインクの乾燥速度を全て一定にするために、本発明の方法は以下の特徴を有する。
1)1回の走査で二列以上の列の素子領域にインクを塗布するが、一の走査で塗布された素子領域の列の一部と、次の走査で塗布される素子領域の列の一部とを重ねる。つまり、各素子領域には、複数回の走査に分割して、所望量のインクが供給される。それにより、全ての素子領域でのインクの乾燥条件を同一にすることができる。
2)素子領域がマトリックス状に配置された素子配列領域の外周部にも、インクを塗布する。それにより、素子配列領域の最端に配置された素子領域に塗布されたインクの乾燥速度も抑制することができる。
【0055】
より具体的には、本発明の方法によれば、X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の素子領域は、以下のステップA〜ステップCでインクを塗布される。
ステップA:複数の吐出ノズルを有するインク塗布ヘッドの一部の吐出ノズルを素子領域の列に合わせ、かつ残りの吐出ノズルを素子配列領域の外周部に合わせてY方向に走査して、インクを吐出する。前記一部の吐出ノズルから吐出されたインクは素子領域に供給されるが、前記残りの吐出ノズルから吐出されたインクは、素子配列領域のX方向の外周部に供給される。
【0056】
ステップB:インク塗布ヘッドの位置を、ステップAでの走査に対して、X方向に素子領域の1列以上をずらしてから再度、Y方向に走査して、インクを吐出する。このとき、ステップAでインクが供給された素子領域の列と、ステップBでインクが供給された素子領域の列の一部が共通するようにする。
【0057】
ステップC:インク塗布ヘッドの位置を、ステップBでの走査に対して、X方向に素子領域の1列以上をずらしてから再度、Y方向に走査して、インクを吐出する。このとき、ステップBでインクが供給された素子領域の列と、ステップCでインクが供給された素子領域の列の一部が共通するようにする。さらに、ステップCを繰り返すことにより、全ての素子領域に、必要量のインクを供給する。
【0058】
前記の通り、各素子領域には、所望量のインクが複数回(n回)の走査に分割して供給されるので、1回の走査で素子領域に供給されるインクの量は、素子領域が必要とするインクの量の1/n(nは2以上の自然数)とする。
【0059】
さらに具体的に本発明は、以下のステップで実現されるが、必ずしも限定されない。
図3A〜Gは、基板面の素子配列領域50にマトリックス状に配列(X方向に9列、Y方向に2行以上)された素子領域に、インクを塗布するプロセスを説明する図である。吐出ノズルの数は6である。Y方向に走査しながら、各素子領域にインクを供給することを繰り返す。もちろん配列される素子領域の数は、作製するデバイスによって決定され、吐出ノズル数は素子数などによって決定される。
【0060】
図3Aに示されるように、1回目の走査では、6の吐出ノズルのうちの4つのノズルは素子配列領域50の外周部(A0)に合わされ、残りの2ノズルは素子配列領域50の端部から2列分の素子領域(A1)にあわされている。Y方向に走査しながら、インクを塗布する。この塗布により、素子配列領域50の端部から2列分の素子領域(A1)はインクを塗布されるが、その他のインクは素子配列領域50の外周部(A0)に供給される。素子配列領域50の外周部(A0)に供給されたインクも、マトリックス状にパターニングされて、塊を形成する。
【0061】
次に図3Bに示されるように、1回目の走査に対して、X方向に2素子列分の移動をさせて、2回目のY方向への走査を行う。したがって、6のノズルのうち2ノズルは素子配列領域50の外周部に合わされ、残りの4ノズルは素子配列領域50の端部から4列の素子列(A1およびA2)に合わされる。このとき、素子配列領域50の端部から1列目と2列目の素子列(A1)には、2回目の塗布がなされる。
【0062】
さらに図3Cに示されるように、2回目の走査に対して、X方向に2素子列分の移動をさせて、3回目のY方向への走査を行う。したがって、6のノズルは素子配列領域50の端部から6列の素子列(A1〜A3)に合わされる。このとき、素子配列領域50の端部から1列目と2列目の素子列(A1)には、3回目の塗布がなされ;素子配列領域50の端部から3列目から4列目の素子列(A2)には、2回目の塗布がなされる。
【0063】
図3Dに示されるように、3回目の走査に対して、X方向に2素子列分の移動をさせて、4回目のY方向への走査を行ってインクを塗布する。このとき、素子配列領域50の端部から3列目と4列目の素子列(A2)には、3回目の塗布がなされ;素子配列領域50の端部から5列目と6列目の列の素子列(A3)には、2回目の塗布がなされる。
【0064】
以降も同様に、図3E〜Gに示されるように、5〜7回目のY走査を行う。つまり、N回目の走査に対して、X方向に2素子列分の移動をさせてN+1回目の走査を行ってインクを塗布する。
【0065】
このようにして各素子列は、3回の走査により必要量のインクが塗布される。したがって、例えば各素子領域に15滴の液滴が供給される必要があるのであれば、1回の走査で5滴の液滴が各素子領域に供給されればよい。もちろん、素子領域に供給されるべきインクの量は、凹部15の寸法と発光層13の膜厚より決定される。通常、1つの素子領域に供給されるインクの量は約数十滴(例えば、約200pl)であり、5回以内の走査に分割されて供給されることが好ましい。素子領域への1走査あたりのインク供給量があまりにも少ないと、塗布直後にインクが乾燥してしまうため、本発明の効果が発現しにくいことがある。
【0066】
この塗布方法による、走査回数Tは次のように求められる。
Lが偶数の場合:T=(L+N)/M−1
Lが奇数の場合:T=(L+N+1)/M−1
ただし、
X方向の素子列数L(=9素子)
使用吐出ノズル数N(=6ノズル)
走査間でずらす素子列数M=N/S(=2素子)
1素子の塗布回数S(=3回) である。
【0067】
さらに以下の関係を満たすと、上記の塗布方法が実現されるが、この関係を必ず満たすことが要求されるとは限らない。
使用吐出ノズルの数をNとし;一回目の走査(Aステップでの走査;つまり複数のノズルの一部が素子配列領域の内部にあり、残りの一部が素子配列領域の外周部にある状態での走査)において、素子配列領域の内部に合わされたノズル数をZとし、素子配列領域の外周部に合わされたノズル数をYとするときに、
1)Y=Zn (nは自然数である)であり、
2)N=Z(n+1) (nは自然数である)であり、
3)走査間でずらす素子列数Mは、Zと同一であり、
4)1回の走査で素子に供給するインクの量は、素子が必要とするインク量の、1/(n+1)である。
【0068】
このような塗布方法により、塗布されたインクで形成される層の膜厚を、走査毎に一定にすることが可能となり、スジ状のムラを低減することができる。このスジ状のムラを低減させるメカニズムについて以下に説明する。
【0069】
図5A〜Cは、1の素子領域に供給されたインクが乾燥していく状態を示すモデルである(バンクや電極などを省略して簡略化されている)。
図5Aは、基板30上の素子領域にインクを滴下して、液滴31が形成された直後の状態を示す。図5Bは液滴が乾燥する途中の状態を、図5Cは液滴が乾燥した後の状態を示す。液滴31には有機材料(例えばポリマー)が溶質として溶解しているので、液滴の溶媒が蒸発して濃度がある閾値を超えると、溶質である有機材料が析出し始める。
【0070】
基板30上の素子領域に形成された液滴31は、大気中に放置されると、液滴31の端部(B1部)と、液滴31の中央部(C1部)とで、乾燥速度が異なる。液滴31の周辺の大気中の溶媒の飽和蒸気圧は、いずれも一定である。周囲をインクで囲まれている中央部(C1部)は、その周辺の大気の溶媒蒸気濃度が高いので乾燥しにくい。一方、周囲をインクで囲まれては射ない端部(B1部)は、その周辺の大気の溶媒蒸気濃度が低いので乾燥しやすい。そのため、乾燥速度に差が生じる(図5B参照)。
【0071】
このため、端部(B1部)では溶媒が急速に蒸発して、単位面積あたりの溶媒量の減少が速い。減少した溶媒を補うように、インクが中央部(C1部)から端部(B1部)に移動する流れ(外向流D)が発生する。この外向流Dによって、溶質である有機材料が端部(B1部)に運ばれる(図5B参照)。
徐々に乾燥が進み、インク濃度およびインク粘度は上昇する。インク粘度が上昇すると、外向流Dは発生しにくくなる。まず、液滴31の端部(B1部)で溶質の析出が始まり、最終的には液滴31の中央部(C1部)が乾燥して溶質のみが残る。外向流Dにより溶質は端部(B1部)に運ばれているため、図5Cに示されるような、コーヒーステイン形状の乾燥膜が形成される。
【0072】
図5A〜Cを用いて、1つの液滴の乾燥プロセスを微視的に説明したが、次に、複数の液滴がマトリックス状に存在するときの乾燥プロセスを説明する。
図6Aは、マトリックス状に配置された素子にインクを塗布した状態が示される。X方向に9列、Y方向に4行の素子配列を、1走査で塗布したと仮定する。図6Bおよび図6Cのいずれも図6AのA−A断面を示すが、図6Bは塗布により液滴が形成されたときの状態を、図6Cは乾燥後の状態を示す。
【0073】
凹部15によって分割された液滴のそれぞれに注目すると、図5A〜Cを参照して説明したように、外向流が凹部15内部で発生する。そのため、図6Cに示されるように、凹部15に形成される層の端部の膜厚が大きくなり、偏った形状の有機材料からなる層が形成される。したがって、膜厚の偏りを有する素子が隣り合うこととなり、有機デバイスを発光させたときにスジ状の輝度ムラとして視認される。
【0074】
さらに、図6Aのように、マトリックス状に液滴31が配置された場合は、液滴周囲の溶媒蒸気濃度の差によって、液滴毎の乾燥速度の差異も発生する。つまり、図6Bに示されるように、素子配列領域の端部(B2部)の液滴では乾燥速度が早く、素子配列領域の中央部(C2部)の液滴では乾燥速度が遅い。したがって、素子配列領域の中央部Fでも偏った形状の有機材料からなる層が形成されるが、特に、素子配列領域の端部Gで偏った形状の有機材料からなる層が形成される。
【0075】
前述の通り本発明の方法によれは、素子領域のそれぞれは、複数回の走査に分けてインクを塗布される(図3では3回)。さらに各走査は、所定の素子列数ずつ移動させて行う(図3では2列)。このため、各素子の有機材料からなる層の膜厚を一定にすることができる。その理由を、図3を参照して説明する。
【0076】
図3Aに示される1回目の走査で塗布されたインクのうち、A1部の2素子列分の素子に塗布されたインクの乾燥速度が大きい(図6におけるB2部に相当)。一方、図3Bで示される2回目の走査で塗布された素子のうち、A1部の2素子列分の素子では、インクの乾燥速度が小さい(図6におけるC2部に相当)。さらに3回目以降の走査においても、A1部の両側の素子にはインクが塗布されているため、A1部のインクの乾燥速度は小さく、乾燥速度が速くなることはない。
【0077】
同様に、2回目の走査で塗布を開始したA2部の素子のインクも、A1部と同様のプロセスで乾燥する。さらに、A3部、A4部、A5部も、A1部と同様のプロセスで乾燥する。このため、インク走査間の溶質の偏りは低減され、スジ状のムラも視認されにくくなる。
【0078】
さらに本発明の方法によれば、塗布の走査を、素子配列領域の外周部から開始し、もう一方の外周部まで行ってから終了するので、素子配列領域の端部においてさえ、膜厚の偏りが低減される。
【0079】
図3では、X方向の素子配列領域の外周部にはインクを塗布しているが、一方、Y方向の素子配列領域の外周部にはインクが塗布されていない。もちろん、Y方向の素子配列領域の外周部にもインクを塗布してもよい。つまり、Y方向の走査を、素子配列領域のY方向の外周部から開始し、もう一方のY方向の外周部まで行ってから終了してもよい。
Y方向の外周部にインクを塗布すれば、Y方向の素子配列領域の端部の素子領域に供給されたインクの乾燥速度を抑制することができる。
【0080】
インクの塗布が完了した後は、図示しないが、インクが塗布された基板を乾燥処理およびベーク処理して有機材料からなる層を形成する。これらの処理は、例えば、基板を真空乾燥炉に投入して50℃、5Pa、20分間乾燥させた後、窒素雰囲気中で150℃、10分ベークすればよい。さらに有機材料からなる層を形成した後は、陰極14を蒸着により形成する。
【0081】
図3では、1の印刷塗布ヘッドを用いてインクを塗布したが、2つのインク塗布ヘッドを用いて塗布してもよい。2つのインク塗布ヘッドを用いる場合には、図4に示されるように、一方のインク塗布ヘッドは、走査ごとに素子配列領域の左端から右端に移動させ;もう一方のインク塗布ヘッドは、走査ごとに素子配列領域の右端から左端に移動させることができる。
【0082】
図4に示されるプロセスによれば、2つのインク塗布ヘッドのそれぞれが、3回ずつ各素子領域を走査する。したがって、各素子領域は6回に分けて、必要量のインクを供給される(1走査あたり、必要量の1/6のインクを供給される)。
もちろん、インク塗布ヘッドが各素子領域を走査する回数は3回ずつに限定されるわけではなく、一方のインク塗布ヘッドで2回、もう一方のインク塗布ヘッドで1回走査してもよい。さらに、ある素子列Aを、一方のインク塗布ヘッドで2回、もう一方のインク塗布ヘッドで1回走査し;一方、ある素子列Bを、一方のインク塗布ヘッドで1回、もう一方のインク塗布ヘッドで2回走査するなど、任意の回数ずつ組み合わせてもよい。
【0083】
図4に示される態様によれば、図3に示された態様と同様に、全ての素子に塗布されたインクが同様のプロセスで乾燥するため、スジ状の膜厚ムラを低減することができる。さらには、インクジェットヘッド20(図8参照)を2台用いることで、全ての素子領域にインクを塗布するために要する時間を短縮できる。そのため、さらに走査間の乾燥速度分布を低減することが可能となり、スジ状のムラをさらに低減できるという効果が得られる。
【0084】
本発明の方法によって製造された有機デバイスの特徴を、図7を参照して説明する。
まず、インク塗布ヘッドをY方向に走査してインクを塗布するが、X方向の素子配列領域50の外周部にも、インクを塗布するので、素子配列の外周にインクに含まれる有機材料の塊が残存する。
【0085】
さらに、Y方向への走査毎にインクヘッドをX方向に移動させるが、移動後の走査により塗布される素子列の一部と、前回の走査により塗布された素子列の一部とを、重ならせる。したがって、素子配列領域50のX方向の外周部51に残存する有機材料の塊は、素子領域15に塗布される有機材料の量よりも少なくなる。そして、素子配列領域50のX方向の外周部51に残存する有機材料の塊は、素子配列領域50から離れるにしたがって、その量が少なくなる(図7)。
【0086】
また、素子配列領域50のY方向の外周部52に有機材料の塊がある場合には、その体積は素子領域15に塗布される有機材料の量と同一となる。
【0087】
3.本発明の有機デバイスを製造するための装置
次に、本発明の方法を実施するための装置を説明する。本発明の方法は、例えばインクジェットによりインクを吐出する装置により実施される。図8には、インクジェット装置の模式図が示される。図8に示される装置によって、例えば図3A〜Gに示されるプロセスを実施することができる。
【0088】
インクジェットヘッド20はピッチ500μm毎に、128個のφ20μmのノズル穴を有する。インクジェットヘッド20は、インク25が収容されたインクタンク26に接続される。各ノズルは、アクチュエータであるピエゾ素子(不図示)を制御することで、インクの吐出を制御される。
【0089】
図10A〜図10Cにインクジェットヘッドのノズルピッチとセルピッチの関係を示す。図10Aおよび図10Bにおいて、30がインクジェットヘッド、31がノズルである。使用ノズル間のピッチP1(図10A)と、インクを塗布される基板に形成されたセル同士の、塗布方向と垂直な方向のセルピッチP2(図10C)とは、異なる場合がほとんどである。ノズルから吐出される液滴をセルに正確に着弾させるために、ノズルピッチP1>セルピッチP2として、P2=P1cosθとなるように、ヘッドの傾きを調整する(図10B)。傾きを調整されたヘッドを走査させて、各ノズルがセル上を通過するタイミングに同期させて液滴を吐出して、塗布を行う。
【0090】
Xステージ21の可動部に設けられたヘッド固定治具23に、インクジェットヘッド20を固定する。ヘッド固定治具23は、インクジェットヘッド20の回転角度θや、高さを調整する機構を有し、インクジェットヘッド20と基板10との間のギャップDを任意に調整することができる。基板とインクジェットヘッド20間のギャップDが大きくなると、基板10へのインク25の着弾精度のばらつきが大きくなる。ノズル穴と基板10の距離は、ノズル穴からの吐出角度やステージの位置決め精度に応じて任意に設定できるが、通常は0.1mmから3mmの範囲であり、例えば0.5mmである。
【0091】
Yステージ22は基板10を吸着固定でき、Xステージ21に対して基板10を垂直な方向に動かすことができる。Xステージ21およびYステージ22は、基板10の全面にインクを吐出できるように移動することができる。コントローラ24は、インクジェットヘッド20の各ノズルのピエゾ素子に加える電圧波形を制御することで、吐出速度、吐出量、および吐出周波数を変更することができる。さらに、Xステージ21とYステージ22との相対位置を制御したり、ステージの相対位置とインクの吐出とを同期させたりすることができる。
【0092】
次に、インクを滴下する際のインクジェット装置の動作を説明する。Yステージ22に、マトリックス状に素子領域が配置された基板10を吸着固定する。基板10上のアライメントマーク(不図示)を読み込むことで、基板10とインクジェット装置の座標系を合わせる。
【0093】
インクジェット装置で作成されたインク滴下プログラムによって、インクをバンク12の所定の位置に形成された凹部15(素子領域)に所定量滴下するためのプログラムを作成する。プログラムを実行することにより、バンク12に形成された素子領域のパターンに応じて、ノズルピッチを調整する。ノズルピッチは、インクジェットヘッド20の角度がヘッド固定治具23によって自動調整されることによて、調整される。
【0094】
まず、プログラムによる指定に従って、Xステージ21がインクジェットヘッド20を、基板10の端部に移動させ、吐出ノズルの一部を素子配列領域の外周部に、残りの吐出ノズルを素子列にあわせる。次にプログラムによる指定に従って、Yステージ22が基板を移動させる。移動(走査)中に、インクジェットヘッド20の直下に、凹部15が到達したら、コントローラ24からインクジェットヘッド20にインクを吐出する同期信号が渡され、インクが吐出される。
【0095】
その後、Xステージ21が、基板10の位置をX方向にずらし、Y方向の走査を行うことを繰り返す。基板10に形成された素子領域の全てに、必要量のインクが塗布されるまで、走査を繰り返す。
【0096】
図9には、本発明の方法を実施するための、インクジェット装置の第2の例の模式図が示される。図9に示される装置によって、例えば図4に示されるプロセスを実施することができる。
【0097】
図8と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。ヘッド固定治具23Aおよび23Bに、インクジェットヘッド20Aおよび20Bを、それぞれ固定する。2台のインクジェットヘッド20Aおよび20Bは、それぞれ独立に回転角度θ、高さを調整される。インクジェットヘッド20Aおよび20Bと基板10との間のギャップDは、例えば0.5mmに設定される。また、ヘッド固定治具23Aおよび23Bはそれぞれ、コントローラ24によって、X軸(21A、21B)上で個別に制御されうる。たとえば、図4に示したようなセル配列両側にある2箇所の塗布位置へ、2台のインクジェットヘッド20Aと20Bを移動させて、液滴を滴下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の方法により、有機層の膜厚が均一の有機デバイスを得ることができる。特に、本発明の方法により製造される有機発光デバイスは、有機発光層を均一であるので、輝度ムラ、発光色ムラのない、高品質な画像の発光デバイスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】有機発光デバイスの構成を示す断面図である。
【図2】有機発光デバイスの構成を示す平面図である。
【図3−1】本発明の方法のプロセスの第1の例を示す図である。
【図3−2】本発明の方法のプロセスの第1の例を示す図である。
【図4−1】本発明の方法のプロセスの第2の例を示す図である。
【図4−2】本発明の方法のプロセスの第2の例を示す図である。
【図5】1のインク液滴の乾燥過程を示す模式図である。
【図6】複数の素子内の液滴の乾燥過程を示す模式図である。
【図7】本発明の有機デバイスの構造を示す平面図である。
【図8】本発明の有機発光デバイスの製造装置の第1の例の模式図である。
【図9】本発明の有機発光デバイスの製造装置の第2の例の模式図である。
【図10】インクジェットヘッドのノズルピッチとセルピッチの関係を示す図である。
【図11】従来の有機デバイスの製造方法を示す模式図である。
【図12】従来の有機デバイスの製造方法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0100】
10 基板
11 陽極(画素電極)
12 バンク
13 発光層
14 陰極
15 凹部
20,20A,20B インクジェットヘッド
21 Xステージ
22 Yステージ
23,23A,23B ヘッド固定治具
24 コントローラ
25 インク
26 インクタンク
30 基板
31 液滴
50 素子配列領域
51 X方向の素子配列領域の外周部
52 Y方向の素子配列領域の外周部
101 基板
102 レジスト膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面の素子配列領域の内部に、X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の有機素子を有し、
前記複数の有機素子のそれぞれは、前記基板面に配置された電極と、前記電極上に配置された、少なくとも一層の有機材料からなる層を含む、有機デバイスであって、
前記基板面の前記素子配列領域のX方向の外周部に、マトリックス状に配置された有機材料の複数の塊を有し、
前記有機材料の塊のそれぞれの体積は、前記有機素子のそれぞれに含まれる有機材料からなる層の体積よりも小さい、有機デバイス。
【請求項2】
前記基板面の前記素子配列領域のX方向の外周部に、マトリックス状に配置された前記有機材料の複数の塊の体積は、前記素子配列領域から離れるほど小さくなる、請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記基板の前記素子配列領域のY方向の外周部に、マトリックス状に配置された有機材料の複数の塊をさらに有し、
前記Y方向の外周部に配置された有機材料の塊の体積は、前記有機素子に含まれる有機材料からなる層の体積と同程度である、請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記有機材料が有機発光材料であり、かつ前記有機素子が有機発光素子である、請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記有機材料が有機半導体材料であり、かつ前記有機素子が有機半導体素子である、請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項6】
X方向およびY方向にマトリックス状に配置された複数の素子領域を形成された素子配列領域を有する基板と、有機材料を含むインクを吐出する吐出ノズルを複数有するインク塗布ヘッドとを準備するステップ、
前記インク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルのうちの一部の吐出ノズルを、前記素子配列領域のX方向の外周部にあわせて、かつ前記インク塗布ヘッドの複数の吐出ノズルの残りを、前記素子配列領域の内部にあわせて、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップA、
前記インク塗布ヘッドを、ステップAでインクが吐出された素子列の一部と重なるように、X方向に1列以上ずらして、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップB、および
前記インク塗布ヘッドを、ステップBでインクが吐出された素子列の一部と重なるように、X方向に1列以上ずらして、Y方向に走査しながら前記インクを吐出するステップCを含み、
前記複数の素子領域の全てに所要量のインクが吐出されるまで、ステップCを繰り返して、各素子領域に所要量のインクを複数回の走査に分割して吐出する、有機デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記インクは溶媒を10%以上含み、かつ前記溶媒の沸点が150℃以上である、請求項6に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項8】
2台以上の前記インク塗布ヘッドを準備し、
それぞれの前記インク塗布ヘッドを、前記素子配列領域のX方向の両方の外周部から走査させる、請求項6に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記インク塗布ヘッドのY方向への走査は、前記素子配列領域のY方向の外周部からはじめるか、または前記素子配列領域のY方向の外周部まで行う、請求項6に記載の有機デバイスの製造方法。
【請求項10】
有機材料を含むインクの液滴を吐出して、基板上のX方向およびY方向にマトリックス状に形成された素子領域に、有機材料をパターニングする装置であって、
前記素子領域が形成された基板が設置される、少なくともY方向に移動可能なステージと、
前記インクを吐出する複数の吐出ノズルを有し、少なくともX方向に移動可能なインク塗布ヘッドと、
前記インク塗布ヘッドと前記ステージとの相対位置を制御し、かつ前記インク塗布ヘッドの吐出ノズルからのインクの吐出を制御する制御手段とを有し、
前記制御装置は、前記液滴塗布ヘッドを前記基板のY方向に走査させながら、各素子領域に吐出ノズルからインクを吐出させることができ、かつ走査ごとに、前記塗布ヘッドと前記基板の相対位置を、X方向に1列以上移動させることができる、
有機デバイスの製造装置であって、
前記インク塗布ヘッドを2台以上有する、有機デバイスの製造装置。
【請求項11】
前記インクの吐出がインクジェットである、請求項10に記載の有機デバイスの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−141285(P2009−141285A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318958(P2007−318958)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】