説明

有機トランジスタ、およびこれが用いられた有機半導体素子

【課題】トランジスタ特性と耐久性が共に顕著に優れるのみならず、トランジスタ特性の信頼性にも優れる有機トランジスタを提供。
【解決手段】有機半導体材料からなる有機半導体層1と、上記有機半導体層1に接するように形成され、金属酸化物からなる金属酸化物層2と、上記金属酸化物層2に通電するように形成され、導電性材料からなるソース電極3およびドレイン電極4とを有する有機トランジスタ10であって、上記有機半導体材料がベンゾチオフェン骨格やベンゾセレノフェン骨格を有するいわゆるワイドギャップ材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料が用いられた有機トランジスタ、およびこれが用いられた有機半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TFTに代表される半導体トランジスタは、近年、ディスプレイ装置の発展に伴ってその用途を拡大する傾向にある。このような半導体トランジスタは、半導体材料を介して電極が接続されていることにより、スイッチング素子としての機能を果たすものである。
【0003】
従来、上記半導体トランジスタに用いられる半導体材料としては、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)やインジウムガリウム砒素(InGaAs)などの無機半導体材料が用いられており、近年、普及が拡大している液晶表示素子のディスプレイ用TFTアレイ基板にもこのような無機半導体材料を用いた半導体トランジスタが用いられている。
その一方で、上記半導体材料としては、有機化合物からなる有機半導体材料も知られている。このような有機半導体材料は、上記無機半導体材料に比べて安価に大面積化が可能であり、フレキシブルなプラスチック基板上に形成でき、さらに機械的衝撃に対して安定であるという利点を有することから、電子ペーパー代表されるフレキシブルディスプレイ等のディスプレイ装置への応用などを想定した研究が活発に行われている。
【0004】
このような有機半導体材料が用いられたトランジスタ(以下、有機トランジスタ)は、その用途が拡大するについて、さらなる性能の向上が求められている。特に、その閾値電圧、移動度、およびサブスレショルド係数等に代表されるトランジスタ特性をより向上させることに加えて、酸素や光に対する耐久性の向上が課題になっている。この点、有機トランジスタは、多くの場合、有機半導体材料の性能によってそのトランジスタ特性が決定されることになるため、有機トランジスタのトランジスタ特性や耐久性を向上するには、優れた特性を有する有機半導体材料を開発することが求められてきた。
【0005】
これまでに、有機トランジスタに用いられる有機半導体材料としては、ペンタセンまたはポリチオフェン類等が代表的なものであり、これらの有機半導体材料はトランジスタ特性に優れることから広く実用的に用いられてきた。しかしながら、近年における有機トランジスタの用途拡大に伴って、さらなる性能の向上が求められているところ、従来の有機半導体材料を用いて作製した素子は、耐久性という観点で必ずしも十分ではなかった。なお、ここでいう「耐久性」とは、酸素や光に対する素子の耐性をいう。
【0006】
このような状況において、近年、新たな有機半導体材料として、ベンゾチオフェン骨格やベンゾセレノフェン骨格を有する材料等が知られている(例えば、非特許文献1)。これらの骨格を有する有機半導体材料は、HOMO−LUMOエネルギーギャップが大きい、いわゆるワイドギャップ材料であるため、酸素や光に対して安定であることから、従来の有機半導体トランジスタの弱点であった耐久性を改善できるという点において、有利な面があり、新規な有機半導体材料として着目されている。しかしながら、このようなワイドギャップ材料は、確かに、耐久性という面においては従来よりも優れた特性を発揮できるものの、ワイドギャップ材料であるが故、HOMO−LUMOエネルギーギャップが大きいことから、従来の有機半導体材料と比較して、トランジスタ特性が劣ってしまうという問題点があり、実用的に用いることは困難であった。
【0007】
なお、有機トランジスタにおいて、有機半導体層とソース電極およびドレイン電極との間に金属酸化物からなる層を形成することによって、トランジスタ特性を向上できることが知られているが(例えば、非特許文献2,3)、このような方法によっても耐久性を向上させることまではできなかった。
【0008】
さらに、有機トランジスタにおいては上述したトランジスタ特性および耐久性に加えて、トランジスタ特性の信頼性を向上させることも望まれているが、従来このような信頼性を向上させることができる有用な方法は見出されていなかった。なお、ここにいう「信頼性」とは、ある一定の電圧をかけ続けた(バイアスストレス)際の素子の耐性をいう。
【0009】
【非特許文献1】Kazuo Takimiya etal「2,7-Diphenyl[1]benzothieno[3,2-b] benzothiophen,A New Organic Semiconductor for Air-Stable Organic Field-Effect Tansistor with Mobilities up to 2.0cm2V-1s-1」J.AM.CHEM.SOC.2006,128,12604
【非特許文献2】Daisuke Kumaki 「Reducing the contact resistance of bottom-contact pantacen thin-film transistors by employing a MoOx carrier injection layer」Appl.Phys.Lett.92,013301(2008)
【非特許文献3】Chih-Wei Chu et.al.「High-performance organic thin-film transistors with metal oxide/metal bilayer electrode」Appl.Phys.Lett.87,193508(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、トランジスタ特性と耐久性とが共に顕著に優れるのみならず、トランジスタ特性の信頼性にも優れる有機トランジスタを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来、トランジスタ特性が劣ることから有機半導体材料としては実用することが困難であったワイドギャップ材料の中から、特定の構造を有する有機半導体材料を選択して用い、かつ上記有機半導体材料との関係において特定の仕事関数を有する金属酸化物からなる層を有機半導体層に接するように形成することにより、トランジスタ特性が予想外に顕著に向上することを見出したことに加えて、従来金属酸化物からなる層を用いたとしても改善できるとは考えられていなかったトランジスタ特性の信頼性までもが改善されることを見出したことにより、本発明を完成するに到ったものである。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために本発明は、有機半導体材料からなる有機半導体層と、上記有機半導体層に接するように形成され、金属酸化物からなる金属酸化物層と、上記金属酸化物層に通電するように形成され、導電性材料からなるソース電極およびドレイン電極とを有する有機トランジスタであって、上記有機半導体材料が分子構造に以下の式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものであり、かつ、上記金属酸化物の仕事関数が上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ上記導電性材料の仕事関数よりも大きいことを特徴とする、有機トランジスタを提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
上記式(I)〜(III)中、XはSまたはSeを表し、上記式(I)中、Yはそれぞれ独立してアルキル基またはフェニル基を表す。
【0015】
本発明によれば、有機半導体層に上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する有機半導体材料が用いられ、かつ、上記金属酸化物層に、仕事関数が上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、上記ソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも大きい金属酸化物が用いられることにより、トランジスタ特性および耐久性が著しく優れた有機トランジスタを得ることができる。また、上記有機半導体材料と上記金属酸化物とを組み合わせて用いることにより、トランジスタ特性の信頼性に優れた有機トランジスタを得ることができる。
このようなことから、本発明によればトランジスタ特性と耐久性が共に顕著に優れるのみならず、トランジスタ特性の信頼性にも優れる有機トランジスタを提供することができる。
【0016】
本発明においては、上記金属酸化物が、酸化モリブデンであることが好ましい。酸化モリブデンの仕事関数は、上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する有機半導体材料の仕事関数と比較的近い値を示すことから、上記金属酸化物として酸化モリブデンが用いられていることにより、本発明の有機トランジスタのトランジスタ特性および耐久性をより向上させることができるからである。また、上記金属酸化物として酸化モリブデンを用いることにより、トランジスタ特性の信頼性もさらに向上させることができるからである。
【0017】
また本発明においては、上記有機半導体材料が上記式(I)で表される構造を有するものであり、かつ上記式(I)におけるYが炭素数1〜18の範囲内のアルキル基であることが好ましい。これにより、本発明における有機半導体層において、有機半導体材料の配列規則性を向上させることができる結果、本発明の有機トランジスタのトランジスタ特性をさらに向上させることができるからである。また、上記のような有機半導体材料を用いることにより、有機半導体材料を溶媒に可能なものとすることができ、有機半導体層の形成を容易にすることができる結果、本発明の有機トランジスタを製造適性に優れたものにできるからである。
【0018】
また本発明は、基板と、上記基板上に形成された複数の有機トランジスタとを有する有機半導体素子であって、上記有機トランジスタが、上記本発明に係る有機トランジスタであることを特徴とする、有機半導体素子を提供する。
【0019】
本発明によれば、上記本発明に係る有機トランジスタが用いられていることにより、トランジスタ特性および耐久性に優れ、さらにトランジスタ特性の信頼性にも優れた有機半導体素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機トランジスタは、トランジスタ特性と耐久性が共に顕著に優れるのみならず、トランジスタ特性の信頼性にも優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、有機トランジスタ、およびこれが用いられた有機半導体素子の発明に関するものである。
以下、これらの発明について順に説明する。
【0022】
A.有機トランジスタ
まず、本発明の有機トランジスタについて説明する。上述したように本発明の有機トランジスタは、有機半導体材料からなる有機半導体層と、上記有機半導体層に接するように形成され、金属酸化物からなる金属酸化物層と、上記金属酸化物層に通電するように形成され、導電性材料からなるソース電極およびドレイン電極とを有するものであって、上記有機半導体材料が分子構造に以下の上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものであり、かつ、上記金属酸化物の仕事関数が上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ上記導電性材料の仕事関数よりも大きいことを特徴とするものである。
【0023】
このような本発明の有機トランジスタについて図を参照しながら説明する。図1は本発明の有機トランジスタの一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の有機トランジスタ10は、有機半導体材料からなる有機半導体層1と、上記有機半導体層1に接するように形成され、金属酸化物からなる金属酸化物層2と、上記金属酸化物層2に通電するように形成され、導電性材料からなるソース電極3およびドレイン電極4とを有するものである。
このような例において本発明の有機トランジスタ10は、上記有機半導体層1に用いられる有機半導体材料として、上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する化合物が用いられ、かつ、上記金属酸化物層2に用いられる金属酸化物の仕事関数が、上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ上記導電性材料の仕事関数よりも大きいことを特徴とするものである。
なお、図1に例示するように、本発明の有機トランジスタは、通常、ゲート電極5とゲート絶縁層6とが用いられることにより、トランジスタとして機能するものである。
【0024】
ここで、上記図1においては、本発明の有機トランジスタの一例として、いわゆるボトムゲート・トップコンタクト型構造を有するものを例示したが、本発明の有機トランジスタは、このような構造を有するものに限定されるものではない。
なお、本発明の有機トランジスタの構造については、以下において詳述する。
【0025】
本発明によれば、有機半導体層に上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する有機半導体材料が用いられ、かつ、上記金属酸化物層に、仕事関数が上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、上記ソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも大きい金属酸化物を用いることにより、トランジスタ特性および耐久性が著しく優れた有機トランジスタを得ることができる。また、上記有機半導体材料と上記金属酸化物とを組み合わせて用いることにより、トランジスタ特性の信頼性に優れた有機トランジスタを得ることができる。
【0026】
本発明に用いられる上記有機半導体材料は、HOMO−LUMOエネルギーギャップが大きいことから、代表的な有機半導体材料であるポリチオフェン類やペンタセン類と比較して半導体特性は劣るものであり、これを有機トランジスタに用いたとしても、所望の特性を有する有機トランジスタを得ることは困難だとされていたものである。本発明においては、従来有機トランジスタに用いられる材料としては必ずしも好ましくなかった材料を、所定の仕事関数を有する金属酸化物と組み合わせて用いることにより、HOMO−LUMOエネルギーギャップが大きいことによる欠点を解消すると共に、ワイドギャップ材料が本来的に備える、酸素や光に対する耐久性の高さを維持することにより、トランジスタ特性と耐久性とに優れる有機トランジスタを得ることに成功したものである。
ここで、従来、有機トランジスタに金属酸化物からなる層を形成することにより、一定のトランジスタ特性をある程度向上できることについては知られていたものの、本発明において所定の構造を有する有機半導体材料と、所定の仕事関数を有する金属酸化物を組み合わせることによって得られるトランジスタ特性向上効果は、従来、金属酸化物からなる層を有機トランジスタに用いることによって向上することが予想されるトランジスタ特性の程度よりも顕著に大きいものであり、ここに本発明に特有の顕著な効果を認めることができるものである。
例えば、有機トランジスタの重要なトランジスタ特性としては、移動度、サブスレショルド係数、閾値電圧等を挙げることができるが、従来の有機半導体材料(例えばジオクチルクオーターチオフェン)に金属酸化物を組み合わせて用いると、移動度は約1.3倍に向上させることができるが、サブスレショルド係数、閾値電圧について殆ど変化がなかった。本発明においてこれを顕著に上回り、金属酸化物を用いることによって、例えば、移動度としては約2倍、サブスレショルド係数としては約1/4倍、閾値電圧については約1/3倍の効果を得ることを可能とするものである。このように本発明の有機トランジスタは、特定の仕事関数を有する金属酸化物からなる層を形成することによって、従来実用的に使用することが困難であった有機半導体材料を用いて、従来の代表的な有機半導体材料よりも特性に優れた有機トランジスタを得ることができるものである。また、本発明の有機トランジスタは、トランジスタ特性に優れるのみならず、ワイドギャップ材料を用いることに起因して、耐久性にも優れるという利点を有するものである。
【0027】
さらに、本発明の有機トランジスタは、上述したような効果に加えて、トランジスタ特性の信頼性に優れるという効果も備えるものである。
上述したように、有機トランジスタに金属酸化物からなる層を形成することによって、トランジスタ特性がある程度向上することについては知られていたが、それ以外の効果が得られることについては全く知られていなかった。この点、本発明の有機トランジスタは、特定の構造を有する有機半導体材料と、所定の仕事関数を有する金属酸化物とを組み合わせることによって、トランジスタ特性が向上するのみならず、トランジスタ特性の信頼性までもが向上するという効果を得ることができるという異質な効果を得ることができるものである。このように、トランジスタ特性の信頼性が向上するという効果については、従来の技術水準からしても予測することができなかったものであり、この点においても本発明に特有な顕著な効果を認めることができるものである。
このようなことから、本発明によればトランジスタ特性と耐久性とが共に顕著に優れるのみならず、トランジスタ特性の信頼性にも優れる有機トランジスタを提供することができる。
【0028】
本発明の有機トランジスタは、少なくとも有機半導体層、金属酸化物層、ソース電極およびドレイン電極を有するものであるが、通常、有機トランジスタとしての必須の構成であるゲート電極およびゲート絶縁層が用いられるものである。さらに、本発明の有機トランジスタには、必要に応じて上記以外の任意の構成を有してもよいものである。
以下、本発明に用いられる各構成について順に説明する。
【0029】
1.有機半導体層
まず、本発明に用いられる有機半導体層について説明する。本発明に用いられる有機半導体層は、分子内に上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する有機半導体材料が用いられたものである。本発明の有機トランジスタは、有機半導体材料として上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものが用いられることにより、後述する金属酸化物層との作用により、優れたトランジスタ特性、耐久性、およびトランジスタ特性の信頼性を発揮することができるものである。
【0030】
本発明に用いられる有機半導体材料としては、上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものであれば特に限定されるものではなく、後述する金属酸化物層に用いられる金属酸化物の種類、本発明の有機トランジスタの製造方法、あるいは有機トランジスタの用途等に応じて適宜選択して用いることができるものである。また、本発明に用いられる有機半導体材料は、1種類のみに限定されるものではなく、必要に応じて2種類以上を使用してもよいものである。
【0031】
ここで、本発明の有機トランジスタは、上記有機半導体層において有機半導体材料が規則的に配列することによって優れたトランジスタ特性を発揮できるものであることから、上記有機半導体材料として上記式(I)で表される構造を有するものを用いる場合、上記式(I)におけるYとしては、当該有機半導体層における有機半導体材料の配列に影響を及ぼさないものであることが好ましく、特に当該有機半導体材料の配列を促すものであることが好ましい。このような観点からすると、上記式(I)におけるYとしては、アルキル基であることが好ましい。さらに、上記式(I)におけるYとしてアルキル基を用いる場合、上記アルキル基を構成する炭素数が大きすぎると、有機半導体層における電荷移動の障害となる可能性があり、また炭素数が少なすぎると有機半導体材料の溶媒への可溶性が損なわれ、有機半導体層を形成する工程が煩雑になってしまう可能性がある。このようなことから、上記式(I)におけるYとしてアルキル基を用いる場合、その炭素数としては、1〜18の範囲内であることが好ましく、3〜16の範囲内であることがより好ましく、4〜12の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明に用いられる有機半導体材料の具体例としては、例えば、下記式で表される材料を例示することができる。
【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
本発明に用いられる有機半導体層の厚みについては、上記有機半導体材料の種類等に応じて、有機半導体層に所望のトランジスタ特性を発現させることができる範囲内であれば特に限定されるものではなく、本発明の有機トランジスタの用途や、有機トランジスタの構造等に応じて、適宜決定することができる。なかでも本発明に用いられる有機半導体層の厚みは1000nm以下であることが好ましく、なかでも5nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、特に20nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
2.金属酸化物層
次に、本発明に用いられる金属酸化物層について説明する。本発明に用いられる金属酸化物層は、上述した有機半導体層と接し、かつ、後述するソース電極およびドレイン電極とに通電するように形成されたものである。また本発明に用いられる金属酸化物層は、これを構成する金属酸化物として、仕事関数が上述した有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ後述するソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも大きいものが用いられることを特徴とするものである。本発明の有機トランジスタは、このような仕事関数を有する金属酸化物が用いられることにより、上述した有機半導体層に用いられる特定構造の有機半導体材料と相まって、優れたトランジスタ特性、耐久性を達成でき、かつ優れたトランジスタ特性の信頼性を発揮することができるのである。
【0038】
本発明における金属酸化物層に用いられる金属酸化物としては、仕事関数が上述した上述した有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ後述するソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも大きいものであれば特に限定されるものではなく、上記有機半導体材料および上記導電性材料の種類に応じて適宜選択して用いることができる。中でも本発明に用いられる金属酸化物は、仕事関数がソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数との差よりも、有機半導体材料のイオン化ポテンシャルとの差の方が小さいものであることが好ましい。このような仕事関数を有する金属酸化物が用いられることにより、本発明の有機トランジスタのトランジスタ特性および信頼性をより向上させることができるからである。特に本発明に用いられる金属酸化物は、上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルとの差が、0eV〜1eVの範囲内であるものが好ましく、0eV〜0.6eVの範囲内であるものがより好ましく、0eV〜0.2eVの範囲内であるものがさらに好ましい。上記金属酸化物の仕事関数と、上記有機半導体材料の仕事関数との差がこのような範囲内であることにより、本発明の有機トランジスタのトランジスタ特性および信頼性をさらに向上させることができるからである。
【0039】
ここで、上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルは、次のようにして求められる値を指すものとする。
(1)分子軌道計算ソフト(Gaussian03)を用い、B3LYP/6−31G(d)を用いて分子構造最適化を行う。
(2)最適化された構造を用い、B3LYP/6−311++G(d,p)を用いてエネルギー計算を行う。
(3)算出された最高被占軌道(HOMO)のエネルギーの絶対値をイオン化ポテンシャルとする。
【0040】
また、上記金属酸化物の仕事関数は、例えば、大気中光電子分光装置(理研計器株式会社製 AC−3)を用いることにより測定することができる。
【0041】
なお、本発明に用いられる金属酸化物の仕事関数の具体的な値は、上記有機半導体材料および上記導電性材料の仕事関数との関係において、相対的に決定されるものであり、特に好ましい範囲が特定されるものではない。
【0042】
本発明に用いられる金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化モリブデン、酸化タングステン、五酸化バナジウム、酸化ルテニウム、酸化ニッケル等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの金属酸化物であっても好適に用いることができるが、なかでも酸化モリブデンを用いることが好ましい。酸化モリブデンの仕事関数は、上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有する有機半導体材料のイオン化ポテンシャルと近接していることから、上記金属酸化物として酸化モリブデンを用いることにより、本発明の有機トランジスタのトランジスタ特性およびその信頼性を最も向上させることができるからである。
【0043】
なお、本発明に用いられる金属酸化物は1種類のみであってもよく、または2種類以上であってもよい。
【0044】
本発明において金属酸化物層が形成されている態様としては、上述した有機半導体層と接し、かつ、後述するソース電極またはドレイン電極と通電するように形成されている態様であれば特に限定されるものではない。したがって、ソース電極およびドレイン電極と、金属酸化物層とは、接するように形成されていてもよく、あるいは、電流を阻害しない程度に抵抗値が低い他の層が間に形成されていてもよい。なお、本発明における金属酸化物層は、後述するソース電極およびドレイン電極のそれぞれについて通電するように、別個に形成される。
【0045】
本発明に用いられる金属酸化物層の厚みは、本発明の有機トランジスタの構造等に応じて適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではないが、なかでも本発明においては、0.1nm〜50nmの範囲内であること好ましく、0.5nm〜30nmの範囲内であることがより好ましく、1nm〜20nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0046】
3.ソース電極およびドレイン電極
次に、本発明に用いられるソース電極及びドレイン電極について説明する。本発明に用いられるソース電極およびドレイン電極は、それぞれ上述した金属酸化物層に通電するように形成されるものである。また、本発明に用いられるソース電極およびドレイン電極は、上述した金属酸化物層を構成する金属酸化物の仕事関数よりも、仕事関数が小さい導電性材料からなるものである。
【0047】
本発明におけるソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料としては、上述した金属酸化物層に用いられる金属酸化物の仕事関数よりも小さい仕事関数を有するものであれば特に限定されるものではない。中でも本発明に用いられる導電性材料は、上記金属酸化物層に用いられる金属酸化物の仕事関数との差が、0eV〜2.5eV範囲内であるものが好ましく、0eV〜2eVの範囲内であるものがより好ましく、0eV〜1.5eVの範囲内であるものがさらに好ましい。ここで、上述したように上記金属酸化物層に用いられる金属酸化物は、上述した有機半導体層に用いられる有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも仕事関数が小さいものであるため、上記ソース電極およびドレイン電極に用いられる導電性材料の仕事関数は、当然に上記有機半導体材料のイオン化ポテンシャル仕事関数よりも小さいものとなる。
【0048】
本発明に用いられる導電性材料の具体例としては、例えば、金属材料の他、十分抵抗が小さければ、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子や、TTF-TCNQなどの電荷移動錯体等を挙げることができるが、中でも本発明においては金属材料を用いることが好ましい。
上記金属材料の具体例としては、Mn、In、Bi、Ta、Ag、Al、V、Nb、Ti、Zn、Cr、W、Mo、Cu、Fe、Co、Au、Pd、Ni、Ir、およびPt等の金属材料を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの金属材料であっても好適に用いることができるが、なかでもAuが用いられることが好ましい。
【0049】
なお、本発明に用いられる導電性材料は1種類のみであってもよく、あるいは2種類以上であってもよい。また、ソース電極およびドレイン電極において同一の導電性材料が用いられていてもよく、あるいは互いに異なる導電性材料が用いられていてもよい。
【0050】
4.ゲート電極およびゲート絶縁層
本発明の有機トランジスタは、少なくとも上記有機半導体層、金属酸化物層、ソース電極およびドレイン電極を上述した態様で有するものであるが、本発明においては有機トランジスタとしての機能を発現するために、通常、ゲート電極およびゲート絶縁層が用いられる。本発明に用いられるゲート電極およびゲート絶縁層については、一般的に有機トランジスタに用いられるゲート電極およびゲート絶縁層と同様であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0051】
6.任意の構成
本発明の有機トランジスタは上記以外の任意の構成を有するものであってもよい。本発明の有機トランジスタに用いられる任意の構成は特に限定されるものではなく、本発明の有機トランジスタの用途や構造に応じて、任意の機能を有する構成を適宜選択して用いることができる。このような任意の構成としては、本発明の有機トランジスタの最表面に形成され、上記有機半導体層が経時で劣化してしまうことを防止する機能を有するパッシベーション層を挙げることができる。
【0052】
本発明に用いられるパッシベーション層としては、例えば、パラキシリレン系樹脂、フルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVD)等のフッ素系樹脂からなるものや、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、カルド系樹脂、シリコーン樹脂、または有機−無機ハイブリッド材料等からなるものを挙げることができる。
【0053】
7.有機トランジスタ
本発明の有機トランジスタは、金属酸化物層が上記有機半導体層と接し、かつ上記ソース電極およびドレイン電極と通電するように形成された構成を有するものである。したがって、本発明の有機トランジスタの構造は、このような構成を有するものであれば特に限定されるものではなく、本発明の有機トランジスタの用途等に応じて、適切な構成を選択して用いることができる。
【0054】
本発明の有機トランジスタがとり得る構造は、トップゲート型構造とボトムゲート型構造の2つに大別することができる。以下、このような本発明の有機トランジスタの構造について図を参照しながら説明する。
図2はボトムゲート型構造を有する本発明の有機トランジスタの一例を示す概略図である。図2(a)に例示するように、本発明の有機トランジスタ10は、ゲート電極5と、上記ゲート電極5上に形成されたゲート絶縁層6と、上記ゲート絶縁層6上に形成された有機半導体層1と、上記有機半導体層1上に形成されたソース電極3およびドレイン電極4と、上記ソース電極3およびドレイン電極4と上記有機半導体層1とのそれぞれの間に形成された金属酸化物層2とからなる構造を有するものであってもよい。
なお、本発明の有機トランジスタがボトムゲート型構造を有する態様は、図2(a)に例示したような、有機半導体層1上にソース電極3およびドレイン電極4が配置される、いわゆるボトムゲート・トップコンタクト構造であってもよく、あるいは、図2(b)に例示するように、上記ソース電極3およびドレイン電極4が、上記有機半導体層1の上記ゲート絶縁層6側に形成された、いわゆるボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有するものであってもよい。
さらに本発明の有機トランジスタが、上記ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を有する態様は、上記図2(b)に例示したように、ゲート絶縁層6上に金属酸化物層1、ソース電極3あるいはドレイン電極4がこの順で形成された構造を有するものであってもよく、または、図2(c)に例示するように、ゲート絶縁層6上にソース電極3あるいはドレイン電極4、金属酸化物層2がこの順で形成された構造を有するものであってもよい。
【0055】
一方、図3はトップゲート型構造を有する本発明の有機トランジスタの一例を示す概略図である。図3(a)に例示するように、本発明の有機トランジスタ10は、有機半導体層1と、上記有機半導体層1上に形成されたゲート絶縁層6と、上記ゲート絶縁層6上に形成されたゲート電極5と、上記有機半導体層1に接するように形成された金属酸化物層2と、上記金属酸化物層2に通電するように形成されたソース電極3およびドレイン電極4からなる構造を有するものであってもよい。なお、本発明の有機トランジスタがトップゲート型構造を有する態様は、図3(a)に例示したような、有機半導体層1上にソース電極3およびドレイン電極4が配置される、いわゆるトップゲート・トップコンタクト構造であってもよく、あるいは、図3(b)に例示するように、いわゆるトップゲート・ボトムコンタクト構造を有するものであってもよい。
さらに本発明の有機トランジスタが、上記トップゲート・ボトムコンタクト構造を有する態様は、上記図3(b)に例示したように、金属酸化物層2上にソース電極3あるいはドレイン電極4が形成された構造を有するものであってもよく、あるいは、図3(c)に例示するように、金属酸化物層2上にソース電極3あるいはドレイン電極4が形成された構造を有するものであってもよい。
【0056】
8.有機トランジスタの製造方法
本発明の有機トランジスタは、上記有機半導体材料として上記式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものを用い、かつ、上記金属酸化物として特定の仕事関数を有するものを用いること以外は、一般的に有機トランジスタを作製する方法として公知の方法により製造することができる。
【0057】
B.有機半導体素子
次に、本発明の有機半導体素子について説明する。上述したように本発明の有機半導体素子は、基板と、上記基板上に形成された複数の有機トランジスタとを有するものであって、上記有機トランジスタが、上記本発明に係る有機トランジスタであることを特徴とするものである。
【0058】
このような本発明の有機半導体素子について図を参照しながら説明する。図4は、本発明の有機半導体素子の一例について説明する概略断面図である。図4に例示するように本発明の有機半導体素子20は、基板11と、上記基板11上に形成された複数の有機トランジスタ10とを有するものである。
このような例において、本発明の有機半導体素子20は、上記有機トランジスタ10が、上記本発明に係る有機トランジスタであることを特徴とするものである。
【0059】
本発明によれば、上記本発明に係る有機トランジスタが用いられていることにより、トランジスタ特性および耐久性に優れ、さらにトランジスタ特性の信頼性にも優れた有機半導体素子を得ることができる。
【0060】
本発明の有機半導体素子は、少なくとも基板と有機トランジスタとを有するものであり、必要に応じて他の任意の構成を有してもよいものである。
以下、本発明に用いられる各構成について順に説明する。
【0061】
1.有機トランジスタ
まず、本発明に用いられる有機トランジスタについて説明する。本発明に用いられる有機トランジスタは、上記本発明に係る有機トランジスタである。本発明の有機半導体素子は、トランジスタ特性、耐久性および信頼性に優れた上記本発明に係る有機トランジスタが用いられていることにより、これらにおいて優れた性能を有するものになるのである。
ここで、本発明に用いられる有機トランジスタについては、上記「A.有機トランジスタ」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0062】
2.基板
次に、本発明に用いられる基板について説明する。本発明に用いられる基板は、上記有機トランジスタを支持するものである。
本発明に用いられる基板としては、本発明の有機半導体素子の用途等に応じて、適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。したがって、本発明に用いられる基板は、可撓性を有するフレキシブル基板であってもよく、あるいは可撓性を有しないリジッド基板であってもよい。
本発明に用いられる基板の具体例としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フィノール樹脂等からなるものを挙げることができる。
【0063】
3.有機半導体素子
本発明の有機半導体素子は、有機トランジスタによるスイッチング機能が求められる、あらゆる用途に使用することが可能であるものであるが、なかでも表示装置に好適に用いられる。本発明の有機半導体素子が用いられる表示装置としては、画像表示に寄与する各画素が、上記有機半導体素子が備える各有機トランジスタによってスイッチングされる構成を有するものであれば特に限定されるものではない。このような構成を有する表示装置としては、例えば、液晶ディスプレイ装置、電気泳動ディスプレイ装置、および、有機ELディスプレイ装置等を挙げることができる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0066】
[実施例]
熱酸化シリコン膜100nmを有するシリコン基板上に、ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェン(C8BTBT)を25nm真空蒸着して有機半導体層を形成した後、酸化モリブデン13nmを成膜することにより金属酸化物層を形成し、最後にAuを50nm蒸着することにより、ソース電極およびドレイン電極を形成した。これにより、ボトムゲートトップコンタクト有機トランジスタ素子を作製した。
【0067】
[比較例1]
熱酸化シリコン膜100nmを有するシリコン基板上に、ジオクチルベンゾチエノベンゾチオフェンを25nm真空蒸着して有機半導体層を形成した後、Auを50nm蒸着することによりソース電極およびドレイン電極を形成した。これにより、ボトムゲートトップコンタクト有機トランジスタ素子を作製した。
【0068】
[比較例2]
熱酸化シリコン膜100nmを有するシリコン基板上に、ジオクチルクオーターチオフェン(8QT8)を25nm真空蒸着して有機半導体層を形成した後、酸化モリブデン13nmを成膜することにより金属酸化物層を形成し、最後にAuを50nm蒸着することにより、ソース電極およびドレイン電極を形成した。これにより、ボトムゲートトップコンタクト有機トランジスタ素子を作製した。
【0069】
[参考例]
熱酸化シリコン膜100nmを有するシリコン基板上に、ジオクチルクオーターチオフェン(8QT8)を25nm真空蒸着して有機半導体層を形成した後、Auを50nm蒸着することにより、ソース電極およびドレイン電極を形成した。これにより、ボトムゲートトップコンタクト有機トランジスタ素子を作製した。
【0070】
[評価]
上記実施例、比較例および参考例において作製した有機トランジスタ素子について移動度、サブスレショルド係数、閾値電圧を算出するため、ゲート電圧-ドレイン電流測定を行った。また、トランジスタ特性の信頼性を確認するために、ゲート電圧−20V、ドレイン電圧−3Vでのバイアスストレス測定を行った。ここでサブスレショルド係数とはドレイン電流が一桁増加するのに必要なゲート電圧を表し、低電圧駆動可能という観点から、この値が小さいほど良好な特性を有するトランジスタであるといえる。閾値電圧とはゲート電圧-ドレイン電流特性の直線のx軸外挿値であり、0Vに近い値ほど良好なトランジスタであることが知られている。バイアスストレス測定により、得られたプロットから電流減衰の時定数τを求めることができる。この値は大きいほど、高信頼性のトランジスタが得られたことになる。ここで、いずれの測定においてもケースレーインスツルメンツ社製237型ソースメジャーユニット、ケースレーインスツルメンツ社製6487型ピコアンメータを用いた。測定条件はゲート電圧−20V、ドレイン電圧−3Vとした。
【0071】
実施例で作製した有機トランジスタ素子については、図5(a)にゲート電圧-ドレイン電流を、図5(b)にバイアスストレス特性を示す。
比較例1で作製した有機トランジスタ素子については、図6(a)にゲート電圧-ドレイン電流特性を、図6(b)にバイアスストレス特性を示す。なお、図6においては、実施例のデータも合わせてプロットした。
比較例3で作製した有機トランジスタ素子については、図7にゲート電圧-ドレイン電流特性を示す。
【0072】
上記図5〜7に基づいて算出したパラメーターを表1、2に示す。表1に示すように、本発明においては特定の構造を有する有機半導体材料と、金属酸化物層とを組み合わせて用いることにより、移動度、サブスレショルド係数、閾値電圧、および時定数のいずれもが、酸大幅に特性向上していることがわかる。一方、表2に示すように、有機半導体材料として、本願で規定するもの以外のものを用いた場合は、酸化モリブデンからなる金属酸化物層を採用したとしても、移動度、サブスレショルド係数、閾値電圧ともに殆ど変化がない。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の有機トランジスタの一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の有機トランジスタの他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の有機半導体素子の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の有機半導体素子の特性を示すグラフである。
【図6】有機半導体素子の特性を示すグラフである。
【図7】有機半導体素子の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 … 有機半導体層
2 … 金属酸化物層
3 … ソース電極
4 … ドレイン電極
5 … ゲート電極
6 … ゲート絶縁層
10 … 有機トランジスタ
11 … 基板
20 … 有機半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体材料からなる有機半導体層と、前記有機半導体層に接するように形成され、金属酸化物からなる金属酸化物層と、前記金属酸化物層に通電するように形成され、導電性材料からなるソース電極およびドレイン電極と、を有する有機トランジスタであって、
前記有機半導体材料が分子構造に以下の式(I)〜(III)のいずれかで表される構造を有するものであり、かつ、前記金属酸化物の仕事関数が、前記有機半導体材料のイオン化ポテンシャルよりも小さく、かつ前記導電性材料の仕事関数よりも大きいことを特徴とする、有機トランジスタ。
【化1】

上記式(I)〜(III)中、XはSまたはSeを表し、上記式(I)中、Yはそれぞれ独立してアルキル基またはフェニル基を表す。
【請求項2】
前記金属酸化物が、酸化モリブデンであることを特徴とする、請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項3】
前記有機半導体材料が、上記式(I)で表される構造を有するものであり、かつ上記式(I)におけるYが炭素数1〜18の範囲内のアルキル基であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
基板と、前記基板上に形成された複数の有機トランジスタと、を有する有機半導体素子であって、
前記有機トランジスタが、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の有機トランジスタであることを特徴とする、有機半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−302328(P2009−302328A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155626(P2008−155626)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】