説明

有機トランジスタ及びその製造方法

【課題】良好な電気的特性を有する有機トランジスタを製造するために有効な基準を明確にし、電気的特性に優れた有機トランジスタを提供する。
【解決手段】有機トランジスタ100は、絶縁基板1と、この絶縁基板1の上に所定のパターンで形成されたゲート電極3と、このゲート電極3を覆うように設けられたゲート絶縁層5と、このゲート絶縁層5に積層して設けられた有機半導体層7と、有機半導体層7の上に、部分的に形成された一対のソース電極9A及びドレイン電極9Bと、を備えている。有機トランジスタ100は、有機半導体層7との境界部分をなすゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaが0.5nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機トランジスタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機トランジスタは、有機半導体材料を用いたトランジスタであり、現在では移動度がアモルファスシリコンと同等の1cm/Vsecに到達している。有機トランジスタにおける電荷の輸送は、ホッピング電導が有力視されてはいるが、その詳細なメカニズムは不明である。また、電極と半導体の注入障壁やチャネル形成領域での散乱因子等において不明な点が多い。
【0003】
有機トランジスタの製造工程は、Si半導体を用いたMOSトランジスタの製造工程に類似したプロセスが検討されている。しかし、有機トランジスタの製造プロセスの大部分は研究段階であり、例えば、トランジスタ特性を改善するためSAM(自己形成膜)塗布による半導体材料の配向制御など、技術課題が多々ある。さらに、基板の大面積化、フレキシブル化に伴い、材料選定や製造装置の構成・プロセスを新規に開発する必要もある。
【0004】
有機トランジスタにおけるゲート絶縁層としては、安定した結晶構造を持ち、容易に入手できるシリコン酸化膜が一般的に検討されている。しかし、ゲート絶縁層としてシリコン酸化膜を用いた場合、しきい値電圧(動作電圧)が比較的高くなるという問題がある。ドレイン電流を取り出すことのできるゲート電圧の最小電圧であるしきい値電圧が高いと、消費電力がかなり大きくなるため、有機トランジスタの実用化への障害になっている。
【0005】
有機トランジスタのキャリア移動度を向上させたり、しきい値電圧を下げたりする目的で、以下のような提案がなされている。まず、特許文献1では、有機半導体層にペンタセンなどの有機半導体材料を用いる有機トランジスタにおいて、ゲート絶縁層として、シリコン酸化膜の代わりに、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの金属酸化膜を形成することが提案されている。また、特許文献2では、第1のゲート絶縁層の上に水の接触角が大きい高分子材料により第2のゲート絶縁層を成膜し、有機半導体の配向性を良好にすることが提案されている。さらに、特許文献3では、しきい値電圧が低い有機トランジスタを製造するために、ハフニウムシリケート膜又はハフニウムオキシ窒化シリコン膜によってゲート絶縁層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−270712号公報
【特許文献2】特開2006−173532号公報
【特許文献3】特開2010−40938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、有機トランジスタの電気的特性を向上させるために、有機半導体層やゲート絶縁層に用いる個々の材料の選定や組み合わせについては、数多くの報告がなされている。しかし、有機トランジスタの電気的特性を向上させる上で、本質的な指標となるような基準については、現在まで報告されていない。
【0008】
従って、本発明は、良好な電気的特性を有する有機トランジスタを製造するために有効な基準を明確にし、電気的特性に優れた有機トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記実情に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行った結果、有機トランジスタを構成する有機半導体層とゲート絶縁層との界面状態の物性に着目し、ゲート絶縁層の表面粗さRaを、ある基準値以下に抑制することによって、良好な電気的特性を有する有機トランジスタを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の有機トランジスタは、ゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層に接して積層された有機半導体層と、前記有機半導体層に対し、部分的に接して設けられた一対のソース電極及びドレイン電極と、前記ゲート絶縁層によって前記有機半導体層から隔てられて設けられたゲート電極と、を備えた有機トランジスタである。この有機トランジスタは、前記有機半導体層との界面をなす前記ゲート絶縁層の表面粗さRaが、少なくとも前記ソース電極とドレイン電極との間に挟まれた領域において、0.5nm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の有機トランジスタは、前記有機半導体層の表面粗さRaが5nm以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の有機トランジスタは、前記領域における前記ゲート絶縁層の表面の純水に対する接触角が50°以上であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の有機トランジスタは、前記有機半導体層の構成材料がペンタセンであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の有機トランジスタは、前記ゲート絶縁層の構成材料がSrTiOであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の有機トランジスタは、ボトムゲート・ボトムコンタクト型構造又はボトムゲート・トップコンタクト型構造であってもよい。
【0016】
本発明の有機トランジスタの製造方法は、ゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層に接して積層された有機半導体層と、前記有機半導体層に対し、部分的に接して設けられた一対のソース電極及びドレイン電極と、前記ゲート絶縁層によって前記有機半導体層から隔てられて設けられたゲート電極と、を備えた有機トランジスタを製造するものである。この有機トランジスタの製造方法は、表面粗さRaが0.5nm以下であるゲート絶縁層を形成する工程と、前記ゲート絶縁層に有機半導体層を積層形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
ゲート絶縁層に接して有機半導体層が積層された構造を有する有機トランジスタにおいて、ゲート絶縁層の表面粗さRaを0.5nm以下とすることによって、ゲート絶縁層からの散乱因子を低減することが可能になり、有機半導体層を構成する分子の配向の規則性が向上し、有機トランジスタの電気的特性を改善できる。すなわち、有機トランジスタのオン電流の向上、移動度の増加が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態の有機トランジスタの断面図である。
【図2】有機トランジスタのゲート絶縁層の上面の表面粗さRaとon電流の関係を示すグラフである。
【図3】有機トランジスタの有機半導体層の上面の表面粗さRaとon電流の関係を示すグラフである。
【図4】有機トランジスタの有機半導体層の上面の表面粗さRaとゲート絶縁層の上面の表面粗さRaとの関係を示すグラフである。
【図5】有機トランジスタの有機半導体層の上面の表面粗さRaとゲート絶縁層の上面の表面粗さRaとの関係を示す別のグラフである。
【図6】有機トランジスタの有機半導体層の表面粗さRaとゲート絶縁層の表面の純水に対する接触角との関係を示すグラフである。
【図7】純水に対する接触角及び表面粗さRaを変化させた有機トランジスタの有機半導体層の結晶性を評価したXRDのチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態の有機トランジスタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態の有機トランジスタ100の概略構成を説明する断面図である。この有機トランジスタ100は、絶縁基板1と、この絶縁基板1の上に所定のパターンで形成されたゲート電極3と、このゲート電極3を覆うように設けられたゲート絶縁層5と、このゲート絶縁層5に積層して設けられた有機半導体層7と、有機半導体層7の上に、部分的に形成された一対のソース電極9A及びドレイン電極9Bと、を備えている。この有機トランジスタ100は、いわゆるボトムゲート・トップコンタクト型構造をしている。
【0020】
<絶縁基板>
絶縁基板1の材質は、例えば、ガラス、石英、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、合成樹脂などを用いることができる。ここで、合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネートなどを挙げることができる。なお、絶縁基板1として、上記材料を組み合わせた複合基板を用いることもできる。また、絶縁基板1は、多層構造であってもよい。
【0021】
<ゲート電極>
ゲート電極3を構成する材料は、導電性材料であれば特に限定されるものではなく、有機トランジスタに一般的に用いられる導電性材料を使用できる。このような導電性材料としては、例えば、Ag、Au、Ta、Ti、Al、Zr、Cr、Nb、Hf、Mo、これらの合金、酸化インジウムスズ合金(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の金属材料や、シリコン単結晶、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系材料、カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料、さらに例えば、導電性高分子材料などを挙げることができる。
【0022】
<ゲート絶縁層>
ゲート絶縁層5を構成する絶縁材料としては、有機トランジスタに一般的に用いられる絶縁材料を使用ができる。このような絶縁材料としては、無機絶縁材料あるいは有機絶縁材料を用いることができる。
【0023】
無機絶縁材料としては、例えばガラス、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどのほか、金属酸化物である酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム、酸化ハフニウムなどを挙げることができる。これらの中でも、薄膜の状態でも比較的比誘電率が高く、アモルファス構造を有しており、絶縁耐圧が高いチタン酸ストロンチウムなどの金属酸化物を用いることが好ましい。
【0024】
また、有機絶縁材料としては、例えばポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ノボラック系樹脂、ビニル系樹脂などの高分子材料を用いることができる。
【0025】
ゲート絶縁層5の厚みは、絶縁材料の種類等に応じて適宜設定できるが、例えば50nm〜1000nmの範囲内、好ましくは、100nm〜300nmの範囲内とすることができる。
【0026】
<有機半導体層>
有機半導体材料の選択には、ソース電極9A・ドレイン電極9Bとの注入障壁を低減するため、有機半導体材料のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)レベルと金属材料の仕事関数の差分を考慮しなくてはならない。例えば、ソース電極9A・ドレイン電極9Bの電極材料としてAuを用いる場合、Auの仕事関数が4.8〜5.1eV程度、ペンタセンのHOMOレベルは4.5〜5.1eVであるため、それぞれの成膜手法やトランジスタ構造を適性化させることによって注入障壁を最少に抑制することが可能である。ただし、HOMOレベルの上昇は、材料の耐酸化性を劣化させるため、注意を要する。
【0027】
以上のように、有機半導体材料は、ソース電極9A・ドレイン電極9Bを構成する金属材料の種類を考慮して選択することが好ましい。このような前提を踏まえ、有機半導体層7を形成するための有機半導体材料としては、所望の半導体特性を備えた有機半導体層7を形成できる材料、例えば、芳香族化合物、鎖式化合物、有機顔料、有機ケイ素化合物等を挙げることができる。より具体的には、例えばペンタセン等の低分子有機化合物、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリイソチアナフテン類、ポリチェニレンビニレン類、ポリ(p−フェニレンビニレン)類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリアズレン類等の高分子有機化合物を挙げることができる。これらの中でも、移動度が高く、簡便に膜厚制御が可能であるペンタセンなどの縮合多環芳香族の使用が望ましい。ペンタセンのようなアセン系の縮合多環芳香族化合物では、ベンゼン環の増加によるπ電子系の拡張による分子間の重なりが大きくなるので、移動度の向上が期待できる。
【0028】
有機半導体層7の厚みは、有機半導体材料の種類等に応じて適宜設定できるが、例えば1nm〜500nmの範囲内、好ましくは、10nm〜100nmの範囲内とすることができる。
【0029】
<ソース・ドレイン電極>
ソース電極9A及びドレイン電極9Bの材料(電極材料)としては、上記のとおり、有機半導体材料のHOMOレベルと電極材料の仕事関数の差分を考慮して選択することが好ましい。このような前提を踏まえた上で、有機トランジスタに一般的に用いられる導電性材料から選択することができる。このような導電性材料としては、上記ゲート電極3において例示した材料を用いることができる。
【0030】
<表面粗さ・濡れ性>
本実施の形態の有機トランジスタ100は、良好な電気的特性を得るために、有機半導体層7との境界部分をなすゲート絶縁層5の界面、すなわちゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaを0.5nm以下とする。ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaが0.5nmを超えると、トランジスタのon電流が小さくなる。ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaを0.5nm以下に抑えることにより、有機半導体層7とゲート絶縁層5との界面の平坦性が高まり、有機トランジスタ100において、大きなon電流、大きなon/off比、高いキャリア移動度が得られる。有機半導体層7とゲート絶縁層5との界面の平坦性が高いことにより、ゲート絶縁層5上に積層形成される有機半導体層7を構成する有機半導体材料の分子配向の乱れが生じにくくなり、界面準位が低下して、有機半導体層7とゲート絶縁層5との界面において、誘起電荷がスムーズに移動できるためであると考えられる。特に、有機トランジスタにおいて、有機半導体材料として代表的な材質であるペンタセンは、低分子化合物であり、かつ粒状の多結晶構造を形成するため、ゲート絶縁層5の表面粗さRaによって、結晶粒の大きさや配向性が影響を受けやすいものと考えられる。つまり、ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaが大きいことによるon電流の減少は、有機トランジスタに固有の課題であり、上記表面粗さRaを0.5nm以下とすることによる電気的特性の改善は、本発明により始めて見出された有機トランジスタに本質的な固有の基準である。
【0031】
ゲート絶縁層5の表面粗さRaは、少なくとも有機トランジスタのチャネルが形成されるソース電極9A及びドレイン電極9Bの間に挟まれた領域Rにおいて0.5nm以下であればよく、ゲート絶縁層5の全体において0.5nm以下であることがより好ましい。
【0032】
また、有機半導体層7を構成する分子の結晶性と配向の規則性を向上させる観点から、下地となるゲート絶縁層5の表面粗さRaは、有機半導体層7を構成する材料の結晶格子の長手方向の長さの1/3以下であることが好ましい。例えば、有機半導体材料であるペンタセンの結晶格子の長手方向(c軸)の長さは、約1.5nmである。また、ペンタセン以外に、縮合多環芳香族で単斜晶形あるアントラセン(c軸;1.11nm)、ナフタセン(c軸;1.30nm)等があり、チャネル形成領域が1層程度であると仮定すれば、下地となるゲート絶縁層5の表面粗さRaは長手方向(c軸)の1/3以下に抑制することが望ましい。さらに、このような観点からも、ゲート絶縁層5の表面粗さRaを0.5nm以下とすることが好ましい。
【0033】
図2は、実験的に作製した図1と同様の構成の有機トランジスタについて、ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaとon電流を測定し、それらの関係を示したものである。この実験では、シリコン基板上に、ゲート絶縁層5としてスパッタ法によりSrTiO膜を形成し、その上に有機半導体層7として蒸着法により厚さ30nmのペンタセン膜を形成した試験用有機トランジスタを使用した。この試験用有機トランジスタでは、ソース電極9A及びドレイン電極9BとしてはAu膜を、ゲート電極3の材料としてはn型Si基板を、それぞれ用いた(図3〜図6の実験も同様の構造の試験用有機トランジスタを用いた)。
【0034】
図2に示したように、SrTiO膜の表面粗さRaと有機トランジスタのon電流との間には、ほぼ直線的な相関関係が認められ、SrTiO膜の表面粗さRaが小さくなるほどon電流が大きくなっている。そして、図2から、例えば10μA以上のon電流を得るには、ゲート絶縁層5であるSrTiO膜の表面粗さRaを0.5nm以下にすればよいことが容易に類推される。
【0035】
また、ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaを0.5nm以下にすることに加えて、良好な電気的特性を得るために、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaが5nmを超えると、トランジスタのon電流が小さくなる。これに対し、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaを5nm以下に抑えることにより、大きなon電流、さらには大きなon/off比が得られる。有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaは、有機半導体層7を形成する方法にもよるが、多くの場合、下地であるゲート絶縁層5の表面粗さRaを小さく抑えることによってコントロールできる。
【0036】
図3は、上記試験用有機トランジスタについて測定された、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaとon電流との関係を示したものである。この図3より、有機半導体層7の表面粗さRaが小さくなると、on電流も増加する傾向を読み取ることができる。そして、特に、有機半導体層7の表面粗さRaを5nm以下にすることで1μAを上回るon電流が得られ、さらに3nm以下にすることで概ね10μA以上のon電流が得られることが類推される。なお、図2の縦軸の「1.0E+01」、「1.0E−01」等の表記は、それぞれ「1×10」、「1×10−1」等を意味する(図3、図7において同様である)。
【0037】
図4は、上記試験用有機トランジスタについて、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaとゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaの関係を示すグラフである。図4において、縦軸は有機半導体層7(ペンタセン膜)の表面粗さRaであり、横軸はゲート絶縁層5(SrTiO膜)の表面粗さRaを示している。図4より、有機半導体層7の表面粗さRaとゲート絶縁層5の表面粗さRaには、ほぼ相関関係があり、ゲート絶縁層5の表面粗さRaが小さくなるに従い、有機半導体層7の表面粗さRaも小さくなる傾向がある。これは、有機半導体層7の表面粗さRaを決定する因子の一つが、下地のゲート絶縁層5の表面粗さRaであることを意味している。そして、この実験の場合、有機半導体層7の膜厚にもよるが、ゲート絶縁層5(SrTiO膜)の表面粗さRaが0.5nm以下であれば、有機半導体層7(ペンタセン膜)の表面粗さRaを概ね5nm以下にすることができた。
【0038】
以上のように、ゲート絶縁層5の表面粗さRaと有機トランジスタ100の電気的特性とは密接な関連性があり、さらに有機半導体層7の表面粗さRaも補助的に有機トランジスタ100の電気的特性に影響することがわかる。そして、下地であるゲート絶縁層5の表面粗さRaが小さければ、有機半導体層7の表面粗さRaも小さくなる傾向がある。しかし、ゲート絶縁層5の表面粗さRaが同程度の場合でも、有機半導体層7の表面粗さRaに変動が生じることがある。図5は、上記試験用有機トランジスタにおいて、図4と異なるレンジであるが、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaとゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaの関係を測定したグラフである。図5において、縦軸は有機半導体層7(ペンタセン膜)の表面粗さRaであり、横軸はゲート絶縁層5(SrTiO膜)の表面粗さRaを示している。この図5から、下地であるゲート絶縁層5の表面粗さRaがほぼ同じでも、有機半導体層7の表面粗さが大きく変化していることが読み取れる。このような現象が測定される原因について、本発明者らはゲート絶縁層5の表面粗さRaとは別の因子が関与していると考えた。そして、ゲート絶縁層5の表面粗さRaとは無関係に、有機半導体層7の表面粗さRaを変動させる要因として、下地であるゲート絶縁層5の表面の濡れ性に着目した。
【0039】
図6は、上記試験用有機トランジスタにおいて測定された、有機半導体層7の表面粗さRaとゲート絶縁層5の表面の純水に対する接触角との関係を示すグラフである。図6において、縦軸は有機半導体層7(ペンタセン膜)の表面粗さRaであり、横軸はゲート絶縁層5(SrTiO膜)の表面の純水に対する接触角を示している。有機半導体層7の表面粗さRaは、ゲート絶縁層5の表面の純水に対する接触角が50°より小さい場合には、かなり大きいが、ゲート絶縁層5の表面の純水に対する接触角が50°以上になると、抑制されることが理解される。この図6から、有機半導体層7の表面粗さRaは、下地のゲート絶縁層5の表面粗さRaだけでなく、その濡れ性によっても大きな影響を受けていることがわかる。
【0040】
図7は、純水に対する接触角及び表面粗さRaが異なる複数のゲート絶縁層5(SrTiO膜)上に、蒸着法により、それぞれ30nmの厚みで形成した有機半導体層7(ペンタセン膜)の結晶性を評価したXRDのチャートである。ここでは、ゲート絶縁層5の純水に対する接触角が13°、表面粗さRaが0.56であるサンプルA、同接触角が58°、表面粗さRaが0.55であるサンプルB、同接触角が85°、表面粗さRaが1.1であるサンプルC、について評価を行った。図7より、下地であるゲート絶縁層5の表面粗さRaがほぼ同程度であるサンプルAとサンプルBとの比較では、ゲート絶縁層5(SrTiO膜)の純水に対する接触角が大きなサンプルBのピーク強度が圧倒的に大きく、ペンタセンの結晶成長が進んでいることがわかる。従って、下地のゲート絶縁層5の表面粗さRaだけでなく、ゲート絶縁層5の表面の有機半導体材料に対する濡れ性も、有機半導体層7を構成する分子の結晶性や配向の規則性を向上させ、有機トランジスタの電気的特性を改善する上で重要な因子であると考えられる。なお、図7におけるサンプルBとサンプルCとの比較では、サンプルCの方が純水に対する接触角が大きいにも係わらず、ゲート絶縁層5(SrTiO膜)の表面粗さRaが大きいため、ペンタセンの結晶性、配向性が低下していた。
【0041】
以上の結果から、本実施の形態の有機トランジスタ100は、上記ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaが0.5nm以下であることに加え、上面5aの純水に対する接触角を好ましくは50°以上、より好ましくは50°以上80°以下の範囲内、最も好ましくは60°以上70°以下の範囲内とする。ゲート絶縁層5の上面5aの接触角を50°以上とすることによって、ゲート絶縁層5の表面が疎水性に近づく。このため、有機半導体層7を形成する場合に、有機半導体材料の濡れ性が向上し、下地であるゲート絶縁層5との界面の平坦化、平滑化に寄与する。その結果、形成される有機半導体層7の半導体特性を向上させ、トランジスタの電気的特性を向上させることができる。なお、接触角は、DM−301(協和界面化学株式会社製)を用いて常温において測定した値を用いる。
【0042】
[有機トランジスタの製造方法]
本実施の形態の有機トランジスタの製造方法は、少なくとも、絶縁基材1上にゲート電極3を形成する工程と、ゲート絶縁層5を形成する工程と、有機半導体層7を形成する工程と、ソース・ドレイン電極9A,9Bを形成する工程と、を有するものであり、必要に応じて他の工程を有してもよい。
【0043】
<ゲート電極の形成工程>
本工程では、絶縁基板1上にゲート電極3を形成する。絶縁基板1に上記ゲート電極3を形成する方法は、特に限定されるものではなく、例えばゲート電極3の材質に応じて決定できる。絶縁基板1上にパターン状にゲート電極3を形成する方法としては、絶縁基板1の全面に導電性層を形成した後、これをフォトリソグラフィー技術によりパターニングしてゲート電極3としてもよいし、スクリーン印刷法、インクジェット法、蒸着法等によって絶縁基板1上に直接パターン状にゲート電極3を形成してもよい。
【0044】
<ゲート絶縁層の形成工程>
本工程では、ゲート電極3を覆うように、ゲート絶縁層5を形成する。ゲート絶縁層5を形成する方法としては、表面粗さRaが0.5nm以下となるようにゲート絶縁層5を形成できる方法であれば特に限定されるものでない。ゲート絶縁層5の材質に無機絶縁材料を用いる場合は、ドライプロセス又はウェットプロセスによりゲート絶縁層5を形成することができる。ドライプロセスとしては、例えば、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などを挙げることができる。また、ウェットプロセスとしては、例えば、スピンコート法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、LB法、ディップコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、キャスト法等の塗布方法や、インクジェット法、スクリーン印刷法、パッド印刷法、フレキソ印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビア・オフセット印刷法等を挙げることができる。なお、ゲート絶縁層5の材質に有機絶縁材料を用いる場合は、ウェットプロセスによりゲート絶縁層5を形成することが好ましい。
【0045】
ゲート絶縁層5を形成する場合に、その表面粗さRaを0.5nm以下とするには、例えばゲート絶縁層5が積層される下地層の表面粗さ、ゲート絶縁層5の成膜条件等を考慮することが重要である。より具体的には、下地層(特に、ゲート電極3)の表面粗さRaを0.5nm以下とすること、及び、ゲート絶縁層5の成膜時の基板面内温度のばらつきを1℃程度に抑制し、成膜速度を1nm/min程度で成膜することが望ましい。
【0046】
また、ゲート絶縁層5を形成する場合に、その表面(上面5a)の純水に対する接触角を50°以上とするには、例えばゲート絶縁層5の構成材料を疎水性の材質で形成するとともに、該表面を親水性に近づけるような工程を避けることが好ましい。ここで、比較的表面が疎水的な材質としては、例えば、SrTiO、SiON、SiCN等を挙げることができる。また、ゲート絶縁層5の表面を親水性に近づける処理(親水化処理)とは、ゲート絶縁層5を形成した後、IPA(イソプロピルアルコール)や硫酸過酸化水素水による洗浄、UV処理、プラズマ処理などを挙げることができる。ゲート絶縁層5の表面の接触角を50°以上にするためには、これらの親水化処理を極力排除したプロセス設計を行うことが好ましい。また、ゲート絶縁層5の表面の純水に対する接触角を50°以上とする別の方法として、ゲート絶縁層5の表面に疎水化処理をしてもよい。疎水化処理は、例えばゲート絶縁層5の表面を例えばヘキサメチルジシラザン(HMDS)、メチルメトキシシラン(MTMS)、オクチルトリクロロシラン(OTS)などのシランカップリング剤で処理する方法を挙げることができる。また、ゲート絶縁層5の表面を水素もしくはメチル基にて終端させることで疎水化し、それによって有機半導体材料のゲート絶縁層5に対する濡れ性を向上させることができる。有機半導体材料に対する濡れ性が向上することにより、有機半導体材料の粒界が減少し、粒界によるキャリア散乱が減少し、移動度の向上が期待できる。さらに、ゲート絶縁層5を形成後、大気暴露等によって、その表面への酸素等の吸着により疎水性が劣化するため、成膜後の時間管理する必要がある。
【0047】
<有機半導体層7の形成工程>
有機半導体層7は、上記ゲート絶縁層5の形成と同様のドライプロセス又はウェットプロセスにより形成することができる。有機半導体層7の表面粗さRaを5nm以下とするには、上述のようにゲート絶縁層5の表面粗さRaを小さくコントロールすることに加え、成膜時の基板面内温度のばらつきを1℃程度に抑制し、成膜速度を1nm/min程度で成膜することが好ましい。
【0048】
<ソース・ドレイン電極の形成工程>
ソース電極9A及びドレイン電極9Bは、有機半導体層7上に、チャネルに対応する所定の間隔でソース電極9Aおよびドレイン電極9Bを形成できる方法であれば特に限定されるものではない。
【0049】
以上のような工程により、図1に示した有機トランジスタ100を製造することができる。本実施の形態の有機トランジスタ100は、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)などの有機電界効果トランジスタとして、液晶ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置、電気泳動ディスプレイ装置等に好ましく利用できる。
【0050】
以上詳述したように、本実施の形態の有機トランジスタ100では、ゲート絶縁層5の上に接して有機半導体層7が積層された構造を有するゲート絶縁層5の表面粗さRaを0.5nm以下とすることによって、ゲート絶縁層5からの散乱因子を低減することが可能になり、有機半導体層7を構成する分子の配向の規則性が向上し、電気的特性を改善できる。すなわち、有機トランジスタ100におけるon電流の向上、移動度の増加が期待できる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、良好な電気的特性を有する有機トランジスタを製造するために有効な基準が提供されるので、該基準に沿ったプロセス設計を行うことにより、例えば該基準にそぐわない不要な工程が削減でき、有機トランジスタの製造工程の最適化、簡略化が期待できる。
【0052】
[第2の実施の形態]
図8は、本発明の第2の実施の形態にかかる有機トランジスタの概略構成を説明する図面である。この有機トランジスタ101は、絶縁基板1と、この絶縁基板1の上に所定のパターンで形成されたゲート電極3と、このゲート電極3を覆うように設けられたゲート絶縁層5と、ゲート絶縁層5の上に部分的に積層して設けられた一対のソース電極9A及びドレイン電極9Bと、ソース電極9A及びドレイン電極9Bの間において、ゲート絶縁層5に部分的に積層して設けられた有機半導体層7と、を備えている。有機トランジスタ101は、いわゆるボトムゲート・ボトムコンタクト型構造をしている。本実施の形態の有機トランジスタ101は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型構造である点を除き、第1の実施の形態の有機トランジスタ100と同様の特徴を備えている。従って、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
本実施の形態の有機トランジスタ101においても、ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaを0.5nm以下とする。これにより、有機半導体層7とゲート絶縁層5との界面の平坦性が高まり、大きなon電流、大きなon/off比、高いキャリア移動度が得られる。ゲート絶縁層5の表面粗さRaは、少なくともトランジスタのチャネルが形成されるソース電極9A及びドレイン電極9Bの間に挟まれた領域Rにおいて0.5nm以下であればよく、ゲート絶縁層5の全体において0.5nm以下であることがより好ましい。
【0054】
また、本実施の形態の有機トランジスタ101は、ゲート絶縁層5の表面粗さRaが0.5nm以下であることに加えて、電気的特性をさらに向上させるために、有機半導体層7の上面7aの表面粗さRaが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。これにより、有機トランジスタ101において、大きなon電流、さらには大きなon/off比が得られる。
【0055】
さらに、本実施の形態の有機トランジスタ101は、ゲート絶縁層5の上面5aの表面粗さRaが0.5nm以下であることに加え、上面5aの純水に対する接触角を好ましくは50°以上、より好ましくは50°以上80°以下の範囲内、最も好ましくは60°以上70°以下の範囲内とする。ゲート絶縁層5の上面5aの接触角を50°以上とすることによって、ゲート絶縁層5の表面が疎水性に近づく。このため、有機半導体層7を形成する場合に、有機半導体材料を含む塗布液をゲート絶縁層5上に塗布する際の塗布液の濡れ性が向上し、下地であるゲート絶縁層5との界面の平坦化、平滑化に寄与する。その結果、形成される有機半導体層7の半導体特性を向上させ、トランジスタの電気的特性を向上させることができる。
【0056】
本実施の形態の有機トランジスタ101の製造方法は、絶縁基板1上に少なくともゲート電極3を形成する工程と、このゲート電極3を覆うゲート絶縁層5を形成する工程と、ゲート絶縁層5上に、ソース電極9A及びドレイン電極9Bを所定のパターンで形成する工程と、ソース電極9A及びドレイン電極9Bの間に、有機半導体層7を形成する工程と、を有するものであり、必要に応じて他の工程を有してもよい。有機トランジスタ101の製造方法は、ゲート絶縁層5上にソース電極9A及びドレイン電極9Bを形成した後、有機半導体層7を形成する点以外は、第1の実施の形態の有機トランジスタ100の製造と同様に実施できる。
【0057】
本実施の形態の有機トランジスタ101における他の構成及び効果は、第1の実施の形態の有機トランジスタと同様である。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【符号の説明】
【0059】
1…絶縁基板、3…ゲート電極、5…ゲート絶縁層、5a…上面、7…有機半導体層、7a…上面、9A…ソース電極、9B…ドレイン電極、100,101…有機トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層に接して積層された有機半導体層と、
前記有機半導体層に対し、部分的に接して設けられた一対のソース電極及びドレイン電極と、
前記ゲート絶縁層によって前記有機半導体層から隔てられて設けられたゲート電極と、
を備えた有機トランジスタであって、
前記有機半導体層との界面をなす前記ゲート絶縁層の表面粗さRaが、少なくとも前記ソース電極とドレイン電極との間に挟まれた領域において、0.5nm以下であることを特徴とする有機トランジスタ。
【請求項2】
前記有機半導体層の表面粗さRaが5nm以下である請求項1に記載の有機トランジスタ。
【請求項3】
前記領域における前記ゲート絶縁層の表面の純水に対する接触角が50°以上である請求項1又は2に記載の有機トランジスタ。
【請求項4】
前記有機半導体層の構成材料がペンタセンである請求項1から3のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート絶縁層の構成材料がSrTiOである請求項1から4のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項6】
ボトムゲート・ボトムコンタクト型構造である請求項1から5のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項7】
ボトムゲート・トップコンタクト型構造である請求項1から5のいずれか1項に記載の有機トランジスタ。
【請求項8】
ゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層に接して積層された有機半導体層と、前記有機半導体層に対し、部分的に接して設けられた一対のソース電極及びドレイン電極と、前記ゲート絶縁層によって前記有機半導体層から隔てられて設けられたゲート電極と、を備えた有機トランジスタを製造する有機トランジスタの製造方法であって、
表面粗さRaが0.5nm以下であるゲート絶縁層を形成する工程と、
前記ゲート絶縁層に有機半導体層を積層形成する工程と、
を含むことを特徴とする有機トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−38194(P2013−38194A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172457(P2011−172457)
【出願日】平成23年8月6日(2011.8.6)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】