説明

有機リン化合物の連続製造方法及びその使用

本発明は、当該技術において長い間公知であった有機リン化合物、特に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)及びその誘導体の製造に関する。これらは、ポリマー用の添加剤として好ましく用いられる。特に、ポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂のための難燃剤としてのDOPO及びその誘導体の使用が有利であることが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機リン化合物、特に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)又はその誘導体は、従来技術において長年知られており、ポリマー用の添加剤として好ましく用いられる。特に、例えばポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂のようなポリマー用の難燃剤としてのDOPO及びその誘導体の使用は、有利であることが分かっている。
【背景技術】
【0002】
而して、JP−5017979においては、DOPOの製造方法、及びポリマーにおける添加剤としてのその使用が記載されている。更に、DOPOの製造方法及び難燃剤としてのその使用は、1984年からJP−59−222496から公知である。
【0003】
添加剤、特にポリマー用のハロゲンフリーの難燃剤としてのDOPO又はその誘導体の重要性が増加しているので、技術的に簡単で、経済的で、信頼できるDOPO及びその誘導体の製造方法に大きな関心がある。亜リン酸、ホスファンとも呼ばれるホスフィン、及び白リンのようなリン含有副生成物が、DOPOの製造における困難性を与える。DOPO及びその誘導体の製造において発生するこれらの不純物によって、プラントの複雑な清浄化が必要であり、操作者及び清浄化作業者に対する危険が示される。
【0004】
従来技術においては、DOPOのための不連続の製造方法、所謂バッチ製造方法がこれまでに知られている。かかるバッチ法は、例えばJP−5017979に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JP−5017979
【特許文献2】JP−59−222496
【発明の概要】
【0006】
ここから出発して、本発明の目的は、DOPO及びその誘導体の新規な連続製造方法を示すことである。本連続製造方法は、簡単で信頼できる運転モードを可能にし、一定の品質で高純度の生成物を高い収率で与えることを意図する。
【0007】
この目的は、請求項1の特徴によって達成される。従属項は有利な展開を示す。
本発明方法は、少なくとも以下の:
工程1:一般式IVのo−フェニルフェノールを、1種類以上の触媒の存在下において、一般式(III)の過剰のPXでエステル化し;
工程2:触媒を用いて工程1からの生成物を環化し;そして
工程3:工程2からの生成物を加水分解する;
工程を実施することを特徴とする。
【0008】
本発明方法においては、以下の:
工程1:一般式(IV):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、y及びyは、同一でも異なっていてもよく、水素又はハロゲン原子、C〜C18のアルキル基、C〜C18のアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、ニトロ基、或いはシアノ基であってよく、基y及びyはまた、ビフェニル環と一緒にフェナントレン環を形成してもよい)
のオルト−フェニルフェノール(o−フェニルフェノール)を、1種類以上の触媒の存在下において、一般式(III):
PX (III)
(式中、Xはハロゲンを表す)
の過剰のリン三ハロゲン化物でエステル化し;
工程2:工程1からの中間体生成物を触媒の存在下で環化し、未反応のリン三ハロゲン化物を再循環し;
工程2.1:工程2からの中間体生成物を蒸留し、残渣を工程2に再循環し;
工程3:工程2からの蒸留物を加水分解して、一般式(II):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、基y及びyは上記に記載の意味を有する)
の中間体生成物を形成し;
工程3.1:フレークの形態の一般式(II)の中間体生成物を排出し;そして
工程4:中間体生成物(II)を乾燥及び環化して、一般式(I):
【0013】
【化3】

【0014】
の最終生成物を形成する;
工程を、好ましくは一連の連続プロセスで、保護ガス下で行う(これに関しては図3を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、y及びyが水素である場合の本発明の有機リン化合物の化学構造式及び正確な化学名を示す。この化合物は、最新技術においてDOPOとして公知になった。
【図2】図2は、DOPOの例に関する工程1〜4の化学経路を示す。
【図3】図3は、本発明によるDOPOの連続製造方法を図式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい態様の個々の工程の詳細な説明を以下に示す。
工程1:
1種類以上の触媒の存在下において、還流下、大気圧下で、PXの沸点において転化を行う。
【0017】
本発明方法においては、工程1において過剰のPXを用いてプロセスを行うと特に有利であることが分かった。過剰のリン三ハロゲン化物とは、一般式(IV)のo−フェニルフェノール1モルに対して1.1〜5モルのPX、好ましくは1.1〜3モルのPXの範囲であってよい。過剰のリン三ハロゲン化物(一般式III)は、エステル化反応の平衡をモノエステルに向かって移動させるために重要である。
【0018】
本発明方法において、リン三ハロゲン化物としては三塩化リン(PCl)又は三臭化リン(PBr)が好ましく用いられ、三塩化リン(PCl)が特に好ましい。反応温度は、好ましくは25〜180℃、特に好ましくは25〜85℃である。
【0019】
用いる触媒、イオン性液体、又はイオン交換体によって、用いる温度が異なる。
触媒は、通常は、o−フェニルフェノール1モルに対して0.01〜0.06モル、好ましくは0.02〜0.04モル、或いはo−フェニルフェノールに対して3〜60重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜20重量%の量で用いる。イオン性液体又はイオン交換体を触媒として用いることができる。これらは、高い選択性を示し、反応時間の大きな短縮をもたらし、第1工程の終了時に容易に分離することができる。分離した触媒は、工程1に残留させるか又は工程1に再循環する。
【0020】
これらの触媒は、モノエステルの向上した収率を与え、更に向上した純度も与える。
イオン性液体は、専らイオン(カチオン及びアニオン)を含む化合物である。これらの化合物の融点は、好ましくは0〜90℃、特に好ましくは30〜85℃である。カチオンは、正電荷の第4級窒素又はリン化合物に関する。アニオンは、原子又は分子オーダーの大きさのハロゲン又はイオン含有陰電荷粒子、例えば金属コンプレックスに関する。カチオンの例は、ジアルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、又はテトラアルキルホスホニウムである。アニオンの例は、塩化物、臭化物、テトラフルオロホウ酸塩、テトラクロロアルミン酸塩、テトラクロロ鉄酸塩(III)、ヘキサフルオロリン酸塩、ヘキサフルオロアンチモン酸塩、トリフルオロメタン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、又はビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであり、塩化物が好ましい。
【0021】
好ましいイオン性液体は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(融点:約70℃)、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(20℃において液体)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(融点:77〜79℃)、1−メチルイミダゾリウムクロリド(融点:約75℃)、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロリド(20℃において液体)、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド(融点:56〜62℃)、テトラドデシルアンモニウムクロリド(20℃において液体)、テトラヘプチルアンモニウムクロリド(融点:38〜40℃)、又は2−エチルピリジニウムクロリド(融点:約55℃)である。
【0022】
イオン交換体は、固体粒子、固体膜、紙、又は層の形態で用いることができる。そのマトリクスが、例えばフェノールホルムアルデヒド縮合物、スチレンとジビニルベンゼンのコポリマー、メタクリレートとジビニルベンゼンのコポリマー、セルロース、架橋デキストラン、又は架橋アガロースから構成されるアニオン交換体又はキレート樹脂が重要である。マトリクス上に固定される官能基は、例えばジエチルアミノエチル、第4級(4重)アミノメチル、トリエチルアミノエチル、ポリエチレンイミン、トリエチルアミノプロピル、或いは酸素、窒素、又はイオウドナー原子を含むキレート形成基である。
【0023】
アニオン交換体の場合には、対イオンとして、好ましくはハロゲン化物イオン、特に好ましくは塩化物イオンが用いられる。
マクロ多孔質で高度に塩基性であり、キャリアがスチレンとジビニルベンゼンのコポリマーである場合には対イオンとしてハロゲン化物イオンを有するタイプIのイオン交換体が好ましく用いられる。ハロゲン化物イオンとしては塩化物が特に好ましく用いられる。
【0024】
好ましいイオン交換体(タイプI、マクロ多孔質、高度に塩基性、塩化物形態)の例は、Lewatit MonoPlus MP500、Dowex Marathon MSA、Dowex Upcore Mono-MA600、Dowex MSA-1C、Amberlite IRA900RFCl、又はAmberlite IRA910UClである。
【0025】
イオン交換体の触媒としての有利性は、これらの触媒を固体床触媒として用いることができ、その結果、分離が不要であるという点にある。
イオン交換体、特にアニオン交換体、又はキレート樹脂は、イオン性液体よりも触媒として好ましく用いられる。
【0026】
触媒としてイオン性液体又はイオン交換体を用いる場合には、第1工程後のモノエステル(例えばDOPCl)は副生成物(例えば、ジエステル、トリエステル、o−フェニルフェノール)をより少量しか有していないので、環化装置をより小さく、したがってより経済的に構成することができる。したがって、上記で言及した副生成物は、環化工程において非常に長い反応時間をかけてDOPClに転化させる(これは不完全にしか起こらず、したがって満足できるものではない)必要がない。
【0027】
エステル化(工程1)は、好ましくは逆混合が可能な限り低い反応器又は反応器カスケード内で行う。
反応器又は反応器カスケードは、好ましくは移動可能な部品を用いないで運転する。
【0028】
工程2:
工程2における環化は、本発明方法においては、好ましくは大気圧、及び>140℃、好ましくは140〜200℃、特に好ましくは140〜180℃、極めて特に好ましくは140〜155℃の温度で行う。140〜155℃の環化温度においては、特に純粋で、無色で、透明の生成物が製造される。反応温度のために環化の開始時に沸騰するPXは、5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%のPXしか凝縮されず、反応混合物中に残留する。凝縮されたPXは工程1に再循環する。環化中のPXのこの含量の結果、DOP−Xの収率が増加し、その純度が向上する。
【0029】
環化(工程2)のための触媒は、工程2の開始時に加え、環化中において、少なくとも、常にo−フェニルフェノール1モルに対して少なくとも0.01モル、好ましくは少なくとも0.02モルの量で存在するような頻度で後投与する。
【0030】
用いる触媒の量は、用いるo−フェニルフェノールの量によって定まる。通常は、触媒は、o−フェニルフェノール1モルに対して0.01〜0.06モル、好ましくは0.02〜0.04モルの量で用いる。本発明方法においては、触媒として、周期律表の第IB族の基本的に全ての金属及びそのハロゲン化物、第IIB族の金属及びそのハロゲン化物、第IIIA族の金属及びそのハロゲン化物、第IIIB族の金属及びそのハロゲン化物、第IVA族の金属及びそのハロゲン化物、第IVB族の金属及びそのハロゲン化物、並びに鉄族の金属及びそのハロゲン化物を用いることができる。具体例は、銅、塩化銅(I)、塩化銅(II)、亜鉛、塩化亜鉛、塩化カドミウム、アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化スカンジウム、スズ、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、塩化ジルコニウム、塩化クロム、及び塩化鉄(III)である。
【0031】
本発明方法における触媒としては塩化亜鉛(ZnCl)が好ましい。これは、好ましくはPX中の分散液として用いる。塩化亜鉛はそれ自体、触媒効果を示す。反応混合物中においては、140℃より高い温度において触媒的に更に活性の種が形成される。塩化亜鉛は反応混合物中に溶解する。
【0032】
工程2.1:
環化に続く真空蒸留の間に、環化した中間体生成物DOP−X(例えばDOP−Cl、図2)を蒸留物として分離する。DOP−Xはこの時点で少なくとも90重量%の純度を有する。真空蒸留は、130〜180℃、好ましくは140〜170℃、特に好ましくは140〜160℃の温度、及び0.5〜20mbar、好ましくは1〜10mbar、特に好ましくは1〜5mbarの圧力で行う。
【0033】
例えば薄膜蒸発器及び短路蒸留プラントは、特に温和な蒸留が可能であるのでこの目的のために特に好適である。
蒸留の残渣は、とりわけ触媒的に活性の種、例えば、付加体の形態の触媒、ジエステル及び微量のトリエステル、未反応のOPP、及び副生成物を含む。
【0034】
触媒又は触媒的に活性の種を含むこの残渣は、その温度を80℃より低く、好ましくは100℃より低く、特に好ましくは140℃より低く降下させずに工程2に再循環する。
必要な場合には、残渣の一部を排出し、触媒又は触媒的に活性の種の損失を塩化亜鉛によって補うことができる。
【0035】
工程3:
大気圧、及び80〜100℃、好ましくは90〜100℃の温度において、極めて特に好ましくは沸騰水中で、工程2.1からの蒸留物(DOP−X)の水による加水分解を行う。用いる水の量は、2相混合物を形成することができるようなものである。下相は一般式(II)の開環形態の溶融生成物であり、上方の水相は分離されたHXを含む。
【0036】
工程3.1:
溶融ポンプを用いてスロットノズルを通して生成物溶融体をエンドレスベルト上に排出し、溶融体の固化によって不規則形状のプレートを形成し、これを次に粉砕してフレークを形成する。また、この工程は閉止系内において保護ガス雰囲気下で行う。
【0037】
工程4:
フレークを、ベルト乾燥器上で、80〜105℃、好ましくは90〜100℃、及び20〜100mbarの真空において、好ましくは30〜50mbar及び90〜100℃において予備乾燥し、環化させ、乾燥して一般式(I)の最終生成物を形成する。
【0038】
また、一般式(II)の開環形態の溶融生成物に関して工程4を行った後に、環閉止を行って一般式(I)の最終生成物を形成することもできる。
本発明方法の他の態様においては、工程2.1からの蒸留物(DOP−X)の加水分解(工程3a)を、1:1〜1:2、好ましくは1:1〜1:1.5、非常に好ましくは1:1〜1:1.3、特に好ましくは1:1〜1:1.1のDOP−X:水のモル比で行う。加水分解は、極めて特に好ましくは1:1のDOP−X:水のモル比で行う。等モル比を用いると、HXが分解してガスを形成し、これを廃棄空気と共に排出する。環化中においても、閉環形態の最終生成物(式I)が形成する。これにより、水分離による開環形態の閉止形態への転化の反応工程が不要になる。
【0039】
加水分解は、更なる不活性芳香族溶媒を用いるか又は用いないで行うことができる。
更なる不活性芳香族溶媒を用いずにプロセスを行う場合には、加水分解は、3〜10bar、好ましくは5〜8bar、特に好ましくは5〜7barの圧力で行う。温度は130〜180℃、好ましくは140〜150℃である。最終生成物は溶融体として存在する。
【0040】
工程3.1a:
溶融ポンプを用いてスロットノズルを通して生成物溶融体をエンドレスベルト上に排出し、生成物溶融体の固化によって不規則形状のプレートを形成し、これを次に粉砕してフレークを形成する。また、この工程は閉止系内において保護ガス雰囲気下で行う。
【0041】
工程4a:
フレークを、ベルト乾燥器上で、80〜105℃、好ましくは90〜100℃、及び20〜100mbarの真空において、好ましくは30〜50mbar及び90〜100℃において乾燥(予備乾燥)して最終生成物を形成する。
【0042】
加水分解(工程3a)中において更なる不活性芳香族溶媒を用いる場合には、加水分解は、常圧で、70〜240℃、好ましくは110〜180℃の温度において行う。閉環形態(一般式(I))で生成する最終生成物を溶液から晶出させ、濾過して工程4aに記載のようにして乾燥する。
【0043】
不活性芳香族溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、1,2−キシレン、1,3−キシレン、1,4−キシレン、ヘミメリテン、プソイドクメン、メシチレン、イソデュレン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、クメン、o−クメン、m−シメン、p−シメン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、又はこれらの混合物を用いることができる。トルエン、1,2−キシレン、1,3−キシレン、1,4−キシレン、プソイドクメン、メシチレン、イソデュレン、クメン、p−シメン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、又はこれらの混合物が好ましく用いられる。トルエン、1,2−キシレン、1,3−キシレン、1,4−キシレン、メシチレン、p−シメン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、又はこれらの混合物が特に好ましく用いられる。
【0044】
加水分解は、好ましくは、更なる不活性芳香族溶媒を用いずに行う。
このプロセスは、極めて特に好ましくは、加水分解中において、1:1のDOP−X:水の等モル比で、更なる不活性芳香族溶媒を用いずに行う。
【0045】
最終生成物の含水率は、最大で0.2重量%、好ましくは最大で0.1重量%である。
最終生成物の純度は、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%、極めて特に好ましくは少なくとも99.5重量%である。
【0046】
最終生成物のハロゲン含量は、最大で100ppm、好ましくは最大で50ppm、特に好ましくは最大で30ppm、極めて特に好ましくは最大で25ppmである。
o−フェニルフェノールの含量は、最大で0.5重量%、好ましくは最大で0.3重量%、特に好ましくは最大で0.1重量%である。
【0047】
一般に、本発明による連続方法の最終生成物は清浄であるので、更なる清浄化工程を排除することができる。
特別な場合においては、実際には更なる清浄化が必要であるが、これは再結晶、精留、及び/又は多重蒸留によって行うことができる。
【0048】
工程1〜3において製造されるHXは、最新技術から公知なように、例えば気体洗浄において回収するか、或いは水酸化ナトリウムで中和する。気体洗浄における回収は、得られる酸溶液を他の目的のために再使用することができるという有利性を有する。
【0049】
個々の方法工程の中間体生成物を、保護ガス下で続く工程中に導入するまで一時的に保存するために、本発明の製造方法の個々の工程の間に緩衝容器を設置することができる。
本発明による連続製造方法は、同等のプラントの能力の不連続バッチ法に対比して、連続運転のために、したがって運転するためにより少量の質量流が必要であるために、プラント内により少量の材料が配置されるという有利性を有する。その結果、障害物質をより迅速に反応させることができ、反応の「暴走」の危険性も最小になる。
【0050】
更に、個々の工程において一定の条件が保たれる。
勿論、本方法は、触媒及び過剰のPXを再循環してバッチ法で行うこともできる。
工程1〜2.1は、湿分の導入に対して非常に感受性であり、空気の湿分で既に十分である。系中に水が存在すると、その結果として三塩化リンの加水分解によって亜リン酸が形成され、この亜リン酸は最終的にはプラント内での白リンの形成及び濃縮を引き起こす。
【0051】
本発明による連続製造方法は、したがって湿分の浸透に対して非常に良好に保護された閉止システムに関係する。プラントの最初の始動時にのみ、特に排出物及び触媒の計量中の不活性化を配慮しなければならない。しかしながら、バッチ法中においては、これはそれぞれのバッチに対しても必要である。
【0052】
本発明による連続方法の場合においては、同等の能力を有するバッチ法を用いる場合、或いは工程1に関して本発明の触媒を用いない同等の能力を有する連続法を用いる場合よりも少量の環化が必要である。
【0053】
連続法は、バッチ法と対比して、更に製造コスト、エネルギーコスト、及び人的コストにおける有利性を有する。
上記に記載したように、本発明方法は、特にDOPO、則ち一般式I(式中y及びyは水素である)の有機リン化合物を製造するための価値が証明された。
【0054】
更に、本発明は、上記に記載の方法によって製造することができる、一般式I(ここで、式Iにおいて示される基は上記に示す意味を有する)の有機リン化合物に関する。
一般式Iの有機リン化合物は、特にエポキシ樹脂用及び半導体産業の特別な用途の場合のための難燃剤として好適である。
【0055】
図1〜3を参照して、本発明を以下により詳細に説明する。
図1は、y及びyが水素である場合の本発明の有機リン化合物の化学構造式及び正確な化学名を示す。この化合物は、最新技術においてDOPOとして公知になった。
【0056】
図2は、DOPOの例に関する工程1〜4の化学経路を示す。
図3は、本発明によるDOPOの連続製造方法を図式的に示す。
ここで、以下の実施例を参照して本発明を更により詳細に説明する。本発明は特に用いるパラメーター及び材料に限定されない。
【実施例】
【0057】
第1工程(エステル化):
エステル化のために用いたイオン交換樹脂は、反応の開始前に、循環空気オーブン内で110℃において一定重量になるまで乾燥した。
【0058】
実施例1(比較例):
0.75g(5.5ミリモル)の無水の塩化亜鉛及び103g(0.75モル)の三塩化リンを秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら70℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。150分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。孔径3のガラスフリットを通して反応混合物を濾過し、分析した(表1参照)。
【0059】
実施例2:
o−フェニルフェノールに対して10重量%のLewatit MonoPlus M500、及び103g(0.75モル)の三塩化リンを秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら70℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。90分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。孔径3のガラスフリットを通して反応混合物を濾過し、分析した(表1参照)。
【0060】
実施例3:
o−フェニルフェノールに対して5重量%のAmberlite IRA-900 Cl、及び61.8g(0.45モル)の三塩化リンを秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら65℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。60分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。孔径3のガラスフリットを通して反応混合物を濾過し、分析した(表1参照)。
【0061】
実施例4:
o−フェニルフェノールに対して20重量%のAmberlite IRA-900 Cl、及び61.8g(0.45モル)の三塩化リンを秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら65℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。35分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。孔径3のガラスフリットを通して反応混合物を濾過し、分析した(表1参照)。
【0062】
実施例5:
o−フェニルフェノールに対して20重量%のAmberlite IRA-900 Cl、及び61.8g(0.45モル)の三塩化リンを秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら40℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。100分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。孔径3のガラスフリットを通して反応混合物を濾過し、分析した(表1参照)。
【0063】
実施例6:
61.8g(0.45モル)の三塩化リン、及び2.6g(0.015モル)のBASIONIC ST70を秤量し、25.5g(0.15モル)のo−フェニルフェノールに続いて、撹拌機、温度計、及びバルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内に窒素雰囲気下で加え、撹拌しながら70℃に加熱した。エステル化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定又は重量分析によって反応経過を監視した。60分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。反応混合物は2相であり、分液漏斗を用いて下相(生成物相)を触媒から分離し、分析した(表1参照)。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例7:
20gのエステル化生成物を、約4cmの直径及び約40cmの長さを有する加熱可能な反応カラム内に配置し、その後20.5gのAmberlite IRA-900 Clを更に60gのエステル化生成物と共に導入した。ここで用いたエステル化生成物は実施例4と同じようにして製造した。続いて、反応カラムを窒素雰囲気下で65℃に温度制御し、モル比3:1の三塩化リン及びo−フェニルフェノールの混合物の頂部上への計量添加を開始した。2時間毎に、カラムの底部において回収されたエステル化生成物を、ガラス製のベースフリット(孔径3)を通して連続的に排出し、秤量した。
【0066】
【表2】

【0067】
頂部から排出されたHClガスを高効率凝縮器に通し、連行されている(entrained)三塩化リンを取り出し、これをカラム中に再び再循環した。得られた生成物は、18:1のモノ/ジエステルの比、及びトリエステルの不存在で反映される高い純度のものであった。約0.37kg/時の空時収率及び反応空間は更に増加させることができる。
【0068】
第2工程(環化):
環化を開始する前に、螺旋形蒸発器を用いて三塩化リンの大部分をエステル化混合物から除去した。
【0069】
実施例8:
実施例4からのエステル化混合物を滴下漏斗内に配置し、Trefzerによって155℃に温度制御した螺旋形蒸発器中に滴下した。滴下速度は4mL/分であり、平均滞留時間は10秒であった。回収された濃縮物は、14重量%のPCl残渣含量を有していた(表3参照)。
【0070】
実施例9:
比較例1からのエステル化混合物を実施例8と同様に処理した(表3参照)。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例10(比較例):
撹拌機、温度計、及び滴下漏斗、並びに付属バルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内において、窒素雰囲気下で、0.4g(2.9ミリモル)の無水の塩化亜鉛を、実施例9と同じようにして得た47.4gのエステル化生成物に加え、還流温度に加熱した。還流温度に到達した後、三塩化リンの還流によって170℃の一定の反応温度が保持されるように、滴下漏斗のコックを調節した。環化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定によって反応経過を監視した。180分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。滴下漏斗のコックを閉止し、未だ過剰に存在する三塩化リンを留去し、その後、反応混合物を冷却し、ガスクロマトグラフィーによって分析した。生成物は橙色であり、88.2%のDOPClの含量を有していた。
【0073】
実施例11:
撹拌機、温度計、及び滴下漏斗、並びに付属バルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内において、窒素雰囲気下で、0.4g(2.9ミリモル)の無水の塩化亜鉛を、実施例8と同じようにして得た47.4gのエステル化生成物に加え、還流温度に加熱した。還流温度に到達した後、三塩化リンの還流によって170℃の一定の反応温度が保持されるように、滴下漏斗のコックを調節した。環化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定によって反応経過を監視した。120分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。滴下漏斗のコックを閉止し、未だ過剰に存在する三塩化リンを留去し、その後、反応混合物を冷却し、ガスクロマトグラフィーによって分析した。生成物は明帯黄色であり、98.2%のDOPClの含量を有していた。
【0074】
実施例12:
撹拌機、温度計、及び滴下漏斗、並びに付属バルブ凝縮器を備えたスルホン化フラスコ内において、窒素雰囲気下で、0.4g(2.9ミリモル)の無水の塩化亜鉛を、実施例8と同じようにして得た47.4gのエステル化生成物に加え、還流温度に加熱した。還流温度に到達した後、三塩化リンの還流によって155℃の一定の反応温度が保持されるように、滴下漏斗のコックを調節した。環化中に形成されたHClガスを、連続窒素流を用いて頂部から排出して中和溶液中に導いた。ガスクロマトグラフィー及び中和溶液の逆滴定によって反応経過を監視した。140分後に反応が終了し、HClの発生が停止した。滴下漏斗のコックを閉止し、未だ過剰に存在する三塩化リンを留去し、その後、反応混合物を冷却し、ガスクロマトグラフィーによって分析した。生成物は無色で、98.8%のDOPClの含量を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式III:
PX (III)
(式中、Xはハロゲン原子である)
のリン三ハロゲン化物を、触媒の存在下において、一般式IV:
【化1】

(式中、基y及びyは、同一でも異なっていてもよく、水素又はハロゲン原子、C〜C18のアルキル基、C〜C18のアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、ニトロ基、或いはシアノ基であってよく、基y及びyはまた、ビフェニル環と一緒にフェナントレン環を形成してもよい)
のo−フェニルフェノールでエステル化し、続いて加水分解することによって、一般式I:
【化2】

(式中、基y及びyは上記に記載の意味を有する)
の有機リン化合物を製造する方法であって、
該方法は、連続して行う少なくとも以下の:
工程1:一般式IVのo−フェニルフェノールを、単一の触媒又は複数の触媒の存在下において、一般式(III)の過剰のPXでエステル化し;
工程2:単一の触媒又は複数の触媒を用いて工程1からの生成物を環化し;そして
工程3:工程2からの生成物を加水分解する;
工程を保護ガス下において連続的に行うことを特徴とする上記方法。
【請求項2】
一般式IVのo−フェニルフェノール1モルに対して1.1〜5、好ましくは1.1〜3モルのPXを用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程2の環化を、≧140℃、好ましくは140〜200℃、特に好ましくは140〜180℃、特に140〜155℃の温度で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程2(環化)の前に、平衡を工程2の反応生成物の方向に移動させるために、PXを加え及び/又はハロゲン化水素を除去する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
過剰のPX、及び/又は工程1及び/又は工程2からの完全に転化されていない排出物を分離して、工程1及び/又は工程2へ再循環する、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
分離を蒸留によって行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程2の反応生成物を溶融状態に保持し、溶融状態で工程3に移す、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
加水分解(工程3)中において、溶融生成物を含む下相及び分離したハロゲン化水素(HX)を含む上相の2相混合物が形成されるのに十分な水、好ましくは、1:1〜1:2、更に好ましくは1:1〜1:1.5、特に好ましくは1:1〜1:1.3、特に1:1〜1:1.1の工程2からの生成物と水とのモル比の水を用いる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
加水分解を、溶融状態で、80〜100℃の温度及び大気圧において行う、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
加水分解を、3〜10bar、好ましくは5〜8bar、特に好ましくは5〜7barの圧力下で行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
加水分解を、130〜180℃、好ましくは140〜150℃の温度範囲で行う、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
加水分解中において不活性芳香族溶媒を加える、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
加水分解の後に、生成物の排出及び乾燥を行い、好ましくは乾燥を80〜105℃、特に好ましくは90〜100℃の温度、及び/又は好ましくは20〜100mbar、特に好ましくは30〜50mbarの真空で行う、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
転化していない触媒を工程1及び/又は工程2に再循環する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
一般式Iの有機リン化合物を精製する、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
精製を再結晶によって行う、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
一般式Iにおけるy1、2が水素である、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
工程1のための少なくとも1つの触媒が、イオン性液体及び/又はイオン交換体、特にタイプ1のイオン交換体からなる群から選択される、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
工程2のための少なくとも1つの触媒が、ルイス酸、好ましくはZnCl、特にPX中のZnClの分散液からなる群から選択される、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
工程1のための触媒を、式Iのo−フェニルフェノール1モルに対して0.01〜0.06モル、好ましくは0.02〜0.04モル、或いはo−フェニルフェノールに対して3〜60重量%、好ましくは10〜40重量%、特に好ましくは15〜20重量%の量で用いる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
工程2のための触媒を、式Iのo−フェニルフェノール1モルに対して0.01〜0.06モル、好ましくは0.02〜0.04モルの量で用い、触媒を、少なくとも、それが常にo−フェニルフェノール1モルに対して少なくとも0.01モル、好ましくは少なくとも0.02モルの量で存在するような頻度で後投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の方法によって製造できる、一般式I:
【化3】

(式中、y及びyは請求項1において示す意味を有する)
の有機リン化合物。
【請求項23】
請求項1〜22に記載の方法によって製造される有機リン化合物の難燃剤としての使用。
【請求項24】
一般式Iの有機リン化合物をエポキシ樹脂中で用いる、請求項23に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−500739(P2011−500739A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530314(P2010−530314)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008782
【国際公開番号】WO2009/052993
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(508375468)エムス−パテント・アクチェンゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】