有機半導体薄膜トランジスタおよび有機半導体薄膜トランジスタの製造方法
【課題】ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの本質的な課題であるソース電極端、ドレーン電極端でのペンタセン結晶軸不整合を解消し、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法を得る。
【解決手段】ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、ソース電極5とドレーン電極6との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層7をさらに備え、平坦化層7は、結晶配向規制力を有し、平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成される。
【解決手段】ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、ソース電極5とドレーン電極6との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層7をさらに備え、平坦化層7は、結晶配向規制力を有し、平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜トランジスタ(OTFT:Organic Thin Film Transistor)に関し、特に、特性改善を図るためのボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体薄膜トランジスタの構造は、ボトムゲート・トップコンタクト構造と、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造とに大別される。図11は、ボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。また、図12は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【0003】
ここで、ボトムゲートとは、最下層の基板上にゲート電極をもつ構造をいう。また、ボトムゲート・トップコンタクト構造とは、最下層の基板上にゲート電極を付け、基板上に積層した絶縁層、有機半導体薄膜上にソース電極およびドレーン電極を付した構造のことをいう。図11に示したボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタにおいては、ペンタセン等の有機半導体層の上にソース電極およびドレーン電極が設けられている。
【0004】
一方、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造とは、最下層の基板上にゲート電極を付け、基板上に積層した絶縁層上にソース電極およびドレーン電極を付し、さらにその上に有機半導体薄膜を積層した構造のことをいう。図12に示したボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタにおいては、ペンタセン等の有機半導体層は、ソース電極およびドレーン電極の上に設けられている。
【0005】
図12に示したボトムゲート・ボトムコンタクト構造は、図11に示したボトムゲート・トップコンタクト構造と比較すると、ゲート電極、ソース電極およびドレーン電極の形成にPEP(Photo Engraving Process:写真蝕刻工程)が適用できるメリットがある。この結果、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を採用することにより、FET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)のチャンネル長とチャンネル幅の微細化および高精度化が可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−158775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、有機半導体薄膜トランジスタにおいて、従来技術によるボトムコンタクト方式を適用するに当たっては、次のような課題がある。図13は、ボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの技術的課題の説明図である。この図13は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極およびドレーン電極(図13においては無機透明導電層であるITO電極に相当)、ペンタセンによる有機半導体層の順に構成されたボトムコンタクト構造の部分的な拡大図を示している。
【0008】
ITO電極は、例えば、ウェットエッチングにより形成され、ゲート絶縁膜上の段差は、図13に示すように、30〜50nmとなる。これに対して、有機半導体層を構成するペンタセン分子の厚みは、図13に示したように、1.4〜1.5nmである。また、ボトムコンタクト方式において、FET動作に必要なチャンネル層の厚さは、せいぜい6〜8nmに過ぎない。従って、ボトムコンタクト方式におけるペンタセンの積層数は、最大でも5層程度であり、これ以上積層しても電流量の増加には寄与しない。なお、図13では、説明を容易にするために、ペンタセンの積層数を1とした場合を示している。
【0009】
従って、図13に示したように、ボトムコンタクト方式を用いて有機半導体薄膜トランジスタを形成した場合には、上述したような厚みの違いにより、ペンタセンのチャンネル端と、ITO電極端近傍との間に「結晶軸不整合」が生じ、ここに「粒界」が発生する。この結果、正孔の流れ(オン電流)が粒界によって阻害され、TFT特性、すなわちオン電流が著しく小さくなるという課題がある。
【0010】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの本質的な課題であるソース電極端、ドレーン電極端でのペンタセン結晶軸不整合を解消し、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機半導体薄膜トランジスタは、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、ソース電極とドレーン電極との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層をさらに備え、平坦化層は、結晶配向規制力を有し、平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成されるものである。
【0012】
また、本発明に係る有機半導体薄膜トランジスタの製造方法は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法であって、絶縁性基板上にゲート電極およびゲート絶縁膜を形成するステップと、ゲート絶縁膜上の、ゲート電極の上部に対応する位置に、結晶配向規制力を有する自己整合平坦化層を形成するステップと、自己整合平坦化層が形成された領域を除く部分に、自己整合平坦化層と連続的に平坦となるようにITO膜を形成するステップと、自己整合平坦化層、無機透明導電層、およびゲート絶縁膜をエッチング処理することにより、絶縁性基板上に所望の大きさの平坦化層、ソース電極、ドレーン電極、およびゲート電極端子を形成するステップと、連続的に平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層を形成するステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ソース電極とドレーン電極との間に結晶配向規制力を有する平坦化層を連続的に設け、平坦化されたソース電極、平坦化層、ドレーン電極上の所定部分に渡って有機半導体層を設けることにより、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの本質的な課題であるソース電極端、ドレーン電極端でのペンタセン結晶軸不整合を解消し、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明の有機半導体薄膜トランジスタは、優れた結晶配向規制力を有する平坦化層により、ソース電極およびドレーン電極間を連続的に平坦化し、平坦化された部分に有機半導体層を形成することを技術的特徴とするものである。
【0015】
なお、以下の実施の形態においては、優れた結晶配向規制力を有する平坦化層の一例として、PI(Polyimide:ポリイミド)層を用いる場合について説明する。また、有機半導体層として、ペンタセン分子によるペンタセン半導体層を用いる場合について説明する。あわせて、絶縁性基板として、ガラス基板を用い、無機透明導電層としてITOを用いた場合について説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの模式図であり、左側は平面図、右側は平面図に示したA−A’面における断面図である。本実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタは、ガラス基板1、ゲート電極2、ゲート絶縁層3、平坦化層に相当するPI層4、ITOソース電極5(以下、ソース電極5と称す)、ITOドレーン電極6(以下、ドレーン電極6と称す)、有機半導体層に相当するペンタセン半導体層7、および半導体保護層8で構成されている。
【0017】
この図1に示すように、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタは、ゲート絶縁層3上に設けられたソース電極5およびドレーン電極6のそれぞれの電極端の段差を平坦化するために、PI層4を備え、平坦化された上部にペンタセン半導体層7が設けられている点を特徴としている。そこで、この平坦化層に相当するPI層4の役割について、図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態1におけるボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の説明図である。この図2は、従来の構造を示した先の図13と同様に、本発明におけるボトムコンタクト構造の部分的な拡大図を示している。図13の構成と比較すると、この図2の構成は、ゲート絶縁層3上に設けられたソース電極5およびドレーン電極6の各電極端の段差を平坦化するためのPI層4をさらに備えている点が異なっている。
【0019】
図1あるいは図2に示したように、電極端の段差を平坦化するためのPI層4を備えていることにより、ペンタセン半導体層7を構成するペンタセン分子は、先の図13に示すような結晶軸不整合粒界が発生しにくくなる。さらに、本発明においては、平坦化層として、結晶配向規制力に優れたポリイミドからなるPI層4を用いている。従って、PI層4は、単に電極端の段差を平坦化する役割のみならず、PI層4の上に形成されるペンタセン半導体層7のペンタセン結晶の配向を規制する役割を果たす。
ここで言う結晶配向規制力とは、ペンタセンの結晶が無秩序に成長しないような規制力、言い換えれば結晶の成長方位を揃える物理的な力(規制力)を意味する。
【0020】
その結果として、図2に示したように、ペンタセン分子の結晶軸の乱れが抑制され、結晶成長方位の揃った大きなペンタセン結晶を有するペンタセン半導体層7が形成されることとなり、正孔の流れ(オン電流)の阻害要因がさらに減少し、ドレーン電流を増大させることが可能となる。
【0021】
次に、図1に示した本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法について、図3〜図8を用いて、工程順に具体的に説明する。一例として、本発明による有機半導体薄膜トランジスタは、以下に示す第1ステップ〜第6ステップまでの6工程で製造することができる。
【0022】
まず、図3は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第1ステップを示す図である。ガラス基板1上に、ゲート電極2が形成される。ゲート電極2としては、例えば、厚さ数十nmの金クロム(Au/Cr)の積層が用いられる。さらに、ガラス基板1およびゲート電極2の上には、ゲート絶縁層3が形成される。このゲート絶縁層は、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着法)により、厚さ百nm程度のSiO2(二酸化珪素)が形成される。
【0023】
次に、図4は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第2ステップを示す図である。結晶配向規制力に優れたポリイミドからなる厚さ数十nmのPI層4を全面に塗布形成する。さらに、PI層4上に、ポジレジスト9を塗布する。
【0024】
そして、ガラス基板1の方向からゲート電極をフォトマスクとしてポジレジストの裏面露光を行う。レジストの現像、続いて、残ったレジストをマスクにPIエッチングを行うことにより、ゲート電極2の上部の位置に相当するPI層のみをゲート電極の自己整合PI層4aとして残し、残りのPI層4を取り除く。
【0025】
次に、図5は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第3ステップを示す図である。ソース電極およびドレーン電極を形成するために、自己整合PI層4aと同じ膜厚のITO膜を全面に形成する。続いて、ポジレジスト9を剥離する(いわゆるリフトオフ法)ことにより、自己整合PI層4aを除く領域にITO膜が残ることとなる。この結果、ITO膜と自己整合PI層4aとは、図5に示しように、平坦性と連続性を兼ね備えた形でゲート絶縁膜3上に形成され、電極端の段差が解消されることとなる。
【0026】
次に、図6は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第4ステップを示す図である。図示していないが、ポジレジストを塗布して所望のPI形状(図6の平面図における縦方向)およびITO形状、並びにゲート電極端子開口用のフォトマスクを用いて、通常の正面露光を行い、現像、続いてPI、ITO電極、ゲート絶縁膜3のエッチングを行う。その結果、ゲート電極端子を備えたゲート電極2、チャンネル領域を有するPI層4、ソース電極5、およびドレーン電極6を所望の形に形成することができる。
【0027】
次に、図7は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第5ステップを示す図である。シャドウマスクを使った真空蒸着法により、所定の形状の有機半導体層として、厚さ数十nmのペンタセン半導体層7を、図7に示すように、PI層4の上部であり、かつ、ソース電極5とドレーン電極6とをつなぐように、所定部分に渡って形成する。
【0028】
最後に、図8は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第6ステップを示す図である。最終工程において、半導体層を酸化等から保護する目的で、ペンタセン半導体層7を完全に覆うように、半導体保護層8が形成される。この半導体保護層8としては、例えばパリレン等を用いることができる。
【0029】
以上のような製造工程を経ることにより、通常の露光技術、蒸着技術を用いて、最終的に、図1に示した有機半導体薄膜トランジスタを得ることができる。そして、このようにして形成された有機半導体薄膜トランジスタは、PI層4の働きにより、結晶軸不整合を解消するとともに、その配向規制力により、正孔電流を増加させることができる。
【0030】
以上のように、実施の形態1によれば、ソース電極とドレーン電極との間に平坦化層を設けることにより、ボトムゲート・ボトムコンタクト型OTFTの本質課題であるソース・ドレーン端でのペンタセン結晶軸不整合を解消することができる。さらに、平坦化層として結晶配向規制力に優れたポリイミドを用いることにより、配向が規制された大きな結晶を有する有機半導体層を平坦化層上に形成することができ、結晶軸不整合の解消と伴って、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタを得ることができる。
【0031】
さらに、このような優れた電気特性を有する有機半導体薄膜トランジスタの製造方法とて、通常の露光技術、蒸着技術を適用することが可能であり、従来のプロセスを大幅に変更する必要がない。
【0032】
なお、上述の実施の形態においては、平坦化層としてPI層を形成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。結晶配向規制力に優れた材料であれば、ポリイミド以外のものを平坦化層として用いることが可能であり、同等の効果を得ることが期待できる。
【0033】
また、上述の実施の形態においては、具体的な数値までは特定しなかったが、平坦化層とITO電極との密着性を高めるためには、熱処理条件を最適化することが考えられる。特に、第3ステップにおいてITO膜を形成した後の処理では、ITOを結晶化させない温度(例えば、150°C以下の温度)で熱処理を行うことにより、有機半導体層を構成するペンタセン分子の結晶軸乱れをなくすことができ、正孔電流の増加に寄与させることができる。
【0034】
また、上述の実施の形態においては、無機透明導電層を形成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。無機透明導電層に代わって、金属薄膜あるいは有機導電性膜を用いることも可能であり、同等の効果を得ることが期待できる。
【0035】
実施の形態2.
本実施の形態2では、先の実施の形態1で説明したような、平坦化層として結晶配向規制力に優れたポリイミドを用いる場合に、その最適材料の選定について、検証実験結果に基づいて以下に説明する。
【0036】
結晶構造を有する有機薄膜の成膜において、無機材料基板と薄膜材料の界面における結合エネルギーと、薄膜有機材料の各層間の結合エネルギーとでは、ヘテロエピタキシーとホモエピタキシーによる違いがある。従って、基板上への薄膜材料の第1層の成長は、薄膜材料の結晶性を向上させ、グレインサイズを向上させるためには重要である。
【0037】
より具体的には、本発明であるペンタセン有機半導体薄膜トランジスタにおいて、平坦化層としてポリイミドを塗布して薄膜を形成した後に、その上にペンタセンの第1層を成膜する場合に、ペンタセン結晶の大粒径化を実現するための最適なポリイミド材料を選定することが重要となる。
【0038】
そこで、種々のポリイミド材料を平坦化層として用いた場合に得られるペンタセン結晶の大きさに関して、検証実験データを収集した。図9は、本発明の実施の形態2における種々のポリイミド材料と、それにより得られたペンタセン結晶サイズとの関係を示した図である。図9における横軸は、平坦化層として用いた6種のポリイミド材料M1〜M6を示しており、縦軸は、6種のポリイミド材料のそれぞれを用いた場合に得られたペンタセン結晶の平均結晶粒径を示している。
【0039】
なお、図9に示した6種のポリイミド材料M1〜M6としては、以下のものを用いた。
M1:N社製 可溶性ポリイミド
M2:N社製 4員環構造のポリアミック酸
M3:N社製 6員環構造のポリアミック酸
M4:J社製 可溶性ポリイミド
M5:J社製 変成ポリイミド NO1
M6:J社製 変成ポリイミド NO2
【0040】
図9に示された結果から、2種のポリイミド材料M2、M3を用いた場合に、他の材料を用いた場合と比較して、より大きな結晶が得られていることがわかる。さらに、これらの材料M2、M3は、いずれもポリアミック酸で構成されたポリイミド材料であることがわかる。
【0041】
図10は、本発明の実施の形態2におけるポリアミック酸で構成されたポリイミド材料の構造を示す図である。ここでは、図9に示したデータ結果を踏まえ、材料M2、M3が最適材料となりうる根拠について検討する。
【0042】
ポリイミドは、イミド結合により直接結合された芳香族環を有し、その部分は、共役構造となっており、剛直で強固な構造である。さらに、ポリイミドの芳香族環は、同一平面内に配列され、分子鎖が互いに密にパッキングされている。そして、このポリイミドの芳香族環のパッキング構造が、c軸配向したペンタセン結晶の第1層目の堆積に適していることが分かった。
【0043】
さらに、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化されて生成されたポリイミド(ポリイミド材料M2、M3に相当)は、図10に示すように、イミド結合する芳香族が6員環または4員環と単純な構造であることから、平坦な構造となる。この結果、ポリイミド材料M2、M3は、ペンタセン第1層目のヘテロ成長表面として、最適であることが分かった。
【0044】
以上のように、実施の形態2によれば、平坦化層におけるポリイミド層として、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化して生成されたものを用いることにより、ペンタセン結晶の大粒径化を実現することができる。従って、ポリアミック酸によるポリイミド材料を最適材料の1つとして用いることにより、ドレーン電流が大きく改善される良好な特性を有する有機半導体薄膜トランジスタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第1ステップを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第2ステップを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第3ステップを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第4ステップを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第5ステップを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第6ステップを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2における種々のポリイミド材料と、それにより得られたペンタセン結晶サイズとの関係を示した図である。
【図10】本発明の実施の形態2におけるポリアミック酸で構成されたポリイミド材料の構造を示す図である。
【図11】ボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【図12】ボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【図13】ボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の技術的課題の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ガラス基板、2 ゲート電極、3 ゲート絶縁層、4 PI層(平坦化層)、4a 自己整合PI層、5 ソース電極(ITO電極)、6 ドレーン電極(ITO電極)、7 ペンタセン半導体層(有機半導体層)、8 半導体保護層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜トランジスタ(OTFT:Organic Thin Film Transistor)に関し、特に、特性改善を図るためのボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体薄膜トランジスタの構造は、ボトムゲート・トップコンタクト構造と、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造とに大別される。図11は、ボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。また、図12は、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【0003】
ここで、ボトムゲートとは、最下層の基板上にゲート電極をもつ構造をいう。また、ボトムゲート・トップコンタクト構造とは、最下層の基板上にゲート電極を付け、基板上に積層した絶縁層、有機半導体薄膜上にソース電極およびドレーン電極を付した構造のことをいう。図11に示したボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタにおいては、ペンタセン等の有機半導体層の上にソース電極およびドレーン電極が設けられている。
【0004】
一方、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造とは、最下層の基板上にゲート電極を付け、基板上に積層した絶縁層上にソース電極およびドレーン電極を付し、さらにその上に有機半導体薄膜を積層した構造のことをいう。図12に示したボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタにおいては、ペンタセン等の有機半導体層は、ソース電極およびドレーン電極の上に設けられている。
【0005】
図12に示したボトムゲート・ボトムコンタクト構造は、図11に示したボトムゲート・トップコンタクト構造と比較すると、ゲート電極、ソース電極およびドレーン電極の形成にPEP(Photo Engraving Process:写真蝕刻工程)が適用できるメリットがある。この結果、ボトムゲート・ボトムコンタクト構造を採用することにより、FET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)のチャンネル長とチャンネル幅の微細化および高精度化が可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−158775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、有機半導体薄膜トランジスタにおいて、従来技術によるボトムコンタクト方式を適用するに当たっては、次のような課題がある。図13は、ボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの技術的課題の説明図である。この図13は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極およびドレーン電極(図13においては無機透明導電層であるITO電極に相当)、ペンタセンによる有機半導体層の順に構成されたボトムコンタクト構造の部分的な拡大図を示している。
【0008】
ITO電極は、例えば、ウェットエッチングにより形成され、ゲート絶縁膜上の段差は、図13に示すように、30〜50nmとなる。これに対して、有機半導体層を構成するペンタセン分子の厚みは、図13に示したように、1.4〜1.5nmである。また、ボトムコンタクト方式において、FET動作に必要なチャンネル層の厚さは、せいぜい6〜8nmに過ぎない。従って、ボトムコンタクト方式におけるペンタセンの積層数は、最大でも5層程度であり、これ以上積層しても電流量の増加には寄与しない。なお、図13では、説明を容易にするために、ペンタセンの積層数を1とした場合を示している。
【0009】
従って、図13に示したように、ボトムコンタクト方式を用いて有機半導体薄膜トランジスタを形成した場合には、上述したような厚みの違いにより、ペンタセンのチャンネル端と、ITO電極端近傍との間に「結晶軸不整合」が生じ、ここに「粒界」が発生する。この結果、正孔の流れ(オン電流)が粒界によって阻害され、TFT特性、すなわちオン電流が著しく小さくなるという課題がある。
【0010】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの本質的な課題であるソース電極端、ドレーン電極端でのペンタセン結晶軸不整合を解消し、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機半導体薄膜トランジスタは、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、ソース電極とドレーン電極との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層をさらに備え、平坦化層は、結晶配向規制力を有し、平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成されるものである。
【0012】
また、本発明に係る有機半導体薄膜トランジスタの製造方法は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法であって、絶縁性基板上にゲート電極およびゲート絶縁膜を形成するステップと、ゲート絶縁膜上の、ゲート電極の上部に対応する位置に、結晶配向規制力を有する自己整合平坦化層を形成するステップと、自己整合平坦化層が形成された領域を除く部分に、自己整合平坦化層と連続的に平坦となるようにITO膜を形成するステップと、自己整合平坦化層、無機透明導電層、およびゲート絶縁膜をエッチング処理することにより、絶縁性基板上に所望の大きさの平坦化層、ソース電極、ドレーン電極、およびゲート電極端子を形成するステップと、連続的に平坦化されたソース電極、平坦化層、およびドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層を形成するステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ソース電極とドレーン電極との間に結晶配向規制力を有する平坦化層を連続的に設け、平坦化されたソース電極、平坦化層、ドレーン電極上の所定部分に渡って有機半導体層を設けることにより、ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの本質的な課題であるソース電極端、ドレーン電極端でのペンタセン結晶軸不整合を解消し、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の有機半導体薄膜トランジスタおよびその製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明の有機半導体薄膜トランジスタは、優れた結晶配向規制力を有する平坦化層により、ソース電極およびドレーン電極間を連続的に平坦化し、平坦化された部分に有機半導体層を形成することを技術的特徴とするものである。
【0015】
なお、以下の実施の形態においては、優れた結晶配向規制力を有する平坦化層の一例として、PI(Polyimide:ポリイミド)層を用いる場合について説明する。また、有機半導体層として、ペンタセン分子によるペンタセン半導体層を用いる場合について説明する。あわせて、絶縁性基板として、ガラス基板を用い、無機透明導電層としてITOを用いた場合について説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの模式図であり、左側は平面図、右側は平面図に示したA−A’面における断面図である。本実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタは、ガラス基板1、ゲート電極2、ゲート絶縁層3、平坦化層に相当するPI層4、ITOソース電極5(以下、ソース電極5と称す)、ITOドレーン電極6(以下、ドレーン電極6と称す)、有機半導体層に相当するペンタセン半導体層7、および半導体保護層8で構成されている。
【0017】
この図1に示すように、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタは、ゲート絶縁層3上に設けられたソース電極5およびドレーン電極6のそれぞれの電極端の段差を平坦化するために、PI層4を備え、平坦化された上部にペンタセン半導体層7が設けられている点を特徴としている。そこで、この平坦化層に相当するPI層4の役割について、図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態1におけるボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の説明図である。この図2は、従来の構造を示した先の図13と同様に、本発明におけるボトムコンタクト構造の部分的な拡大図を示している。図13の構成と比較すると、この図2の構成は、ゲート絶縁層3上に設けられたソース電極5およびドレーン電極6の各電極端の段差を平坦化するためのPI層4をさらに備えている点が異なっている。
【0019】
図1あるいは図2に示したように、電極端の段差を平坦化するためのPI層4を備えていることにより、ペンタセン半導体層7を構成するペンタセン分子は、先の図13に示すような結晶軸不整合粒界が発生しにくくなる。さらに、本発明においては、平坦化層として、結晶配向規制力に優れたポリイミドからなるPI層4を用いている。従って、PI層4は、単に電極端の段差を平坦化する役割のみならず、PI層4の上に形成されるペンタセン半導体層7のペンタセン結晶の配向を規制する役割を果たす。
ここで言う結晶配向規制力とは、ペンタセンの結晶が無秩序に成長しないような規制力、言い換えれば結晶の成長方位を揃える物理的な力(規制力)を意味する。
【0020】
その結果として、図2に示したように、ペンタセン分子の結晶軸の乱れが抑制され、結晶成長方位の揃った大きなペンタセン結晶を有するペンタセン半導体層7が形成されることとなり、正孔の流れ(オン電流)の阻害要因がさらに減少し、ドレーン電流を増大させることが可能となる。
【0021】
次に、図1に示した本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法について、図3〜図8を用いて、工程順に具体的に説明する。一例として、本発明による有機半導体薄膜トランジスタは、以下に示す第1ステップ〜第6ステップまでの6工程で製造することができる。
【0022】
まず、図3は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第1ステップを示す図である。ガラス基板1上に、ゲート電極2が形成される。ゲート電極2としては、例えば、厚さ数十nmの金クロム(Au/Cr)の積層が用いられる。さらに、ガラス基板1およびゲート電極2の上には、ゲート絶縁層3が形成される。このゲート絶縁層は、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着法)により、厚さ百nm程度のSiO2(二酸化珪素)が形成される。
【0023】
次に、図4は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第2ステップを示す図である。結晶配向規制力に優れたポリイミドからなる厚さ数十nmのPI層4を全面に塗布形成する。さらに、PI層4上に、ポジレジスト9を塗布する。
【0024】
そして、ガラス基板1の方向からゲート電極をフォトマスクとしてポジレジストの裏面露光を行う。レジストの現像、続いて、残ったレジストをマスクにPIエッチングを行うことにより、ゲート電極2の上部の位置に相当するPI層のみをゲート電極の自己整合PI層4aとして残し、残りのPI層4を取り除く。
【0025】
次に、図5は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第3ステップを示す図である。ソース電極およびドレーン電極を形成するために、自己整合PI層4aと同じ膜厚のITO膜を全面に形成する。続いて、ポジレジスト9を剥離する(いわゆるリフトオフ法)ことにより、自己整合PI層4aを除く領域にITO膜が残ることとなる。この結果、ITO膜と自己整合PI層4aとは、図5に示しように、平坦性と連続性を兼ね備えた形でゲート絶縁膜3上に形成され、電極端の段差が解消されることとなる。
【0026】
次に、図6は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第4ステップを示す図である。図示していないが、ポジレジストを塗布して所望のPI形状(図6の平面図における縦方向)およびITO形状、並びにゲート電極端子開口用のフォトマスクを用いて、通常の正面露光を行い、現像、続いてPI、ITO電極、ゲート絶縁膜3のエッチングを行う。その結果、ゲート電極端子を備えたゲート電極2、チャンネル領域を有するPI層4、ソース電極5、およびドレーン電極6を所望の形に形成することができる。
【0027】
次に、図7は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第5ステップを示す図である。シャドウマスクを使った真空蒸着法により、所定の形状の有機半導体層として、厚さ数十nmのペンタセン半導体層7を、図7に示すように、PI層4の上部であり、かつ、ソース電極5とドレーン電極6とをつなぐように、所定部分に渡って形成する。
【0028】
最後に、図8は、本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第6ステップを示す図である。最終工程において、半導体層を酸化等から保護する目的で、ペンタセン半導体層7を完全に覆うように、半導体保護層8が形成される。この半導体保護層8としては、例えばパリレン等を用いることができる。
【0029】
以上のような製造工程を経ることにより、通常の露光技術、蒸着技術を用いて、最終的に、図1に示した有機半導体薄膜トランジスタを得ることができる。そして、このようにして形成された有機半導体薄膜トランジスタは、PI層4の働きにより、結晶軸不整合を解消するとともに、その配向規制力により、正孔電流を増加させることができる。
【0030】
以上のように、実施の形態1によれば、ソース電極とドレーン電極との間に平坦化層を設けることにより、ボトムゲート・ボトムコンタクト型OTFTの本質課題であるソース・ドレーン端でのペンタセン結晶軸不整合を解消することができる。さらに、平坦化層として結晶配向規制力に優れたポリイミドを用いることにより、配向が規制された大きな結晶を有する有機半導体層を平坦化層上に形成することができ、結晶軸不整合の解消と伴って、正孔電流を増加させることのできる有機半導体薄膜トランジスタを得ることができる。
【0031】
さらに、このような優れた電気特性を有する有機半導体薄膜トランジスタの製造方法とて、通常の露光技術、蒸着技術を適用することが可能であり、従来のプロセスを大幅に変更する必要がない。
【0032】
なお、上述の実施の形態においては、平坦化層としてPI層を形成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。結晶配向規制力に優れた材料であれば、ポリイミド以外のものを平坦化層として用いることが可能であり、同等の効果を得ることが期待できる。
【0033】
また、上述の実施の形態においては、具体的な数値までは特定しなかったが、平坦化層とITO電極との密着性を高めるためには、熱処理条件を最適化することが考えられる。特に、第3ステップにおいてITO膜を形成した後の処理では、ITOを結晶化させない温度(例えば、150°C以下の温度)で熱処理を行うことにより、有機半導体層を構成するペンタセン分子の結晶軸乱れをなくすことができ、正孔電流の増加に寄与させることができる。
【0034】
また、上述の実施の形態においては、無機透明導電層を形成する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。無機透明導電層に代わって、金属薄膜あるいは有機導電性膜を用いることも可能であり、同等の効果を得ることが期待できる。
【0035】
実施の形態2.
本実施の形態2では、先の実施の形態1で説明したような、平坦化層として結晶配向規制力に優れたポリイミドを用いる場合に、その最適材料の選定について、検証実験結果に基づいて以下に説明する。
【0036】
結晶構造を有する有機薄膜の成膜において、無機材料基板と薄膜材料の界面における結合エネルギーと、薄膜有機材料の各層間の結合エネルギーとでは、ヘテロエピタキシーとホモエピタキシーによる違いがある。従って、基板上への薄膜材料の第1層の成長は、薄膜材料の結晶性を向上させ、グレインサイズを向上させるためには重要である。
【0037】
より具体的には、本発明であるペンタセン有機半導体薄膜トランジスタにおいて、平坦化層としてポリイミドを塗布して薄膜を形成した後に、その上にペンタセンの第1層を成膜する場合に、ペンタセン結晶の大粒径化を実現するための最適なポリイミド材料を選定することが重要となる。
【0038】
そこで、種々のポリイミド材料を平坦化層として用いた場合に得られるペンタセン結晶の大きさに関して、検証実験データを収集した。図9は、本発明の実施の形態2における種々のポリイミド材料と、それにより得られたペンタセン結晶サイズとの関係を示した図である。図9における横軸は、平坦化層として用いた6種のポリイミド材料M1〜M6を示しており、縦軸は、6種のポリイミド材料のそれぞれを用いた場合に得られたペンタセン結晶の平均結晶粒径を示している。
【0039】
なお、図9に示した6種のポリイミド材料M1〜M6としては、以下のものを用いた。
M1:N社製 可溶性ポリイミド
M2:N社製 4員環構造のポリアミック酸
M3:N社製 6員環構造のポリアミック酸
M4:J社製 可溶性ポリイミド
M5:J社製 変成ポリイミド NO1
M6:J社製 変成ポリイミド NO2
【0040】
図9に示された結果から、2種のポリイミド材料M2、M3を用いた場合に、他の材料を用いた場合と比較して、より大きな結晶が得られていることがわかる。さらに、これらの材料M2、M3は、いずれもポリアミック酸で構成されたポリイミド材料であることがわかる。
【0041】
図10は、本発明の実施の形態2におけるポリアミック酸で構成されたポリイミド材料の構造を示す図である。ここでは、図9に示したデータ結果を踏まえ、材料M2、M3が最適材料となりうる根拠について検討する。
【0042】
ポリイミドは、イミド結合により直接結合された芳香族環を有し、その部分は、共役構造となっており、剛直で強固な構造である。さらに、ポリイミドの芳香族環は、同一平面内に配列され、分子鎖が互いに密にパッキングされている。そして、このポリイミドの芳香族環のパッキング構造が、c軸配向したペンタセン結晶の第1層目の堆積に適していることが分かった。
【0043】
さらに、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化されて生成されたポリイミド(ポリイミド材料M2、M3に相当)は、図10に示すように、イミド結合する芳香族が6員環または4員環と単純な構造であることから、平坦な構造となる。この結果、ポリイミド材料M2、M3は、ペンタセン第1層目のヘテロ成長表面として、最適であることが分かった。
【0044】
以上のように、実施の形態2によれば、平坦化層におけるポリイミド層として、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化して生成されたものを用いることにより、ペンタセン結晶の大粒径化を実現することができる。従って、ポリアミック酸によるポリイミド材料を最適材料の1つとして用いることにより、ドレーン電流が大きく改善される良好な特性を有する有機半導体薄膜トランジスタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第1ステップを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第2ステップを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第3ステップを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第4ステップを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第5ステップを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1における有機半導体薄膜トランジスタの製造方法の第6ステップを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2における種々のポリイミド材料と、それにより得られたペンタセン結晶サイズとの関係を示した図である。
【図10】本発明の実施の形態2におけるポリアミック酸で構成されたポリイミド材料の構造を示す図である。
【図11】ボトムゲート・トップコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【図12】ボトムゲート・ボトムコンタクト構造による有機半導体薄膜トランジスタの構成図である。
【図13】ボトムコンタクト方式を用いた有機半導体薄膜トランジスタの構造の技術的課題の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 ガラス基板、2 ゲート電極、3 ゲート絶縁層、4 PI層(平坦化層)、4a 自己整合PI層、5 ソース電極(ITO電極)、6 ドレーン電極(ITO電極)、7 ペンタセン半導体層(有機半導体層)、8 半導体保護層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、
ソース電極とドレーン電極との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層をさらに備え、
前記平坦化層は、有機半導体材料に対する結晶配向規制力を有し、
平坦化された前記ソース電極、前記平坦化層、および前記ドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成される
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機半導体薄膜トランジスタにおいて、
前記平坦化層は、有機半導体材料に対する結晶配向規制力に優れたポリイミド層であることを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【請求項3】
ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法であって、
絶縁性基板上にゲート電極およびゲート絶縁膜を形成するステップと、
前記ゲート絶縁膜上の、前記ゲート電極の上部に対応する位置に、有機半導体材料に対する結晶配向規制力を有する自己整合平坦化層を形成するステップと、
前記自己整合平坦化層が形成された領域を除く部分に、前記自己整合平坦化層と連続的に平坦となるように無機透明導電層を形成するステップと、
前記自己整合平坦化層、前記無機透明導電層、および前記ゲート絶縁膜をエッチング処理することにより、前記絶縁性基板上に所望の大きさの平坦化層、ソース電極、ドレーン電極、およびゲート電極端子を形成するステップと、
連続的に平坦化された前記ソース電極、前記平坦化層、および前記ドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層を形成するステップと
を備えたことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法において、
前記無機透明導電層に代わって、金属薄膜を用いた
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法において、
前記無機透明導電層に代わって、有機導電性膜を用いた
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の有機半導体薄膜トランジスタにおいて、
前記平坦化層における前記ポリイミド層は、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化して生成されたものであることを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【請求項1】
ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタであって、
ソース電極とドレーン電極との間に、両電極端の段差を平坦化するように連続的に設けられた平坦化層をさらに備え、
前記平坦化層は、有機半導体材料に対する結晶配向規制力を有し、
平坦化された前記ソース電極、前記平坦化層、および前記ドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層が形成される
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機半導体薄膜トランジスタにおいて、
前記平坦化層は、有機半導体材料に対する結晶配向規制力に優れたポリイミド層であることを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【請求項3】
ボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法であって、
絶縁性基板上にゲート電極およびゲート絶縁膜を形成するステップと、
前記ゲート絶縁膜上の、前記ゲート電極の上部に対応する位置に、有機半導体材料に対する結晶配向規制力を有する自己整合平坦化層を形成するステップと、
前記自己整合平坦化層が形成された領域を除く部分に、前記自己整合平坦化層と連続的に平坦となるように無機透明導電層を形成するステップと、
前記自己整合平坦化層、前記無機透明導電層、および前記ゲート絶縁膜をエッチング処理することにより、前記絶縁性基板上に所望の大きさの平坦化層、ソース電極、ドレーン電極、およびゲート電極端子を形成するステップと、
連続的に平坦化された前記ソース電極、前記平坦化層、および前記ドレーン電極の上部の所定部分に渡って有機半導体層を形成するステップと
を備えたことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法において、
前記無機透明導電層に代わって、金属薄膜を用いた
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の有機半導体薄膜トランジスタの製造方法において、
前記無機透明導電層に代わって、有機導電性膜を用いた
ことを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の有機半導体薄膜トランジスタにおいて、
前記平坦化層における前記ポリイミド層は、前駆体であるポリアミック酸の薄膜を成形後、熱によりイミド化して生成されたものであることを特徴とする有機半導体薄膜トランジスタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−91866(P2008−91866A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172970(P2007−172970)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(599127667)エルジー フィリップス エルシーディー カンパニー リミテッド (279)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(599127667)エルジー フィリップス エルシーディー カンパニー リミテッド (279)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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