説明

有機半導体薄膜形成材料、該材料から形成される有機半導体薄膜および該有機半導体薄膜を有する有機半導体素子

【課題】本発明は、有機溶媒に対する溶解性に優れるジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成材料を提供することを課題の一つとし、該材料から形成される、キャリア移動度が高い有機半導体薄膜、および該有機半導体薄膜を有する有機半導体素子または該有機半導体薄膜を有するトランジスタを提供することを課題の一つとする。
【解決手段】本発明の有機半導体薄膜形成用材料は、下記式(1)で示されるジチオラン化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜形成材料、該材料から形成される有機半導体薄膜および該有機半導体薄膜を有する有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の材料であるシリコン(珪素)は、半導体薄膜または半導体素子に最も多く用いられている。シリコンによる薄膜形成は、蒸着法などのプロセスを用いる。蒸着法などのプロセスを用いる際には、真空や高温という条件を満たさなければならない。さらに溶媒への溶解性が低いシリコンは固体として用いらざるを得ないため、形成膜のムラが生じ易い上、薄膜形成面積も限られる。また、プログラマブルデバイスによる半導体素子の形成は、複雑な電気回路を一律に作製した後に、不必要な箇所を焼き切ったり、電気的にバイパスしたりしなければならない手間が生じる。
【0003】
一方、半導体の材料として、優れたキャリア移動度を示すポリアセン等の有機化合物が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような有機化合物が、有機溶媒に高濃度で溶解する特性を有していれば、有機化合物の高濃度溶液を用いた種々の印刷方法を利用した薄膜形成が可能となる。印刷方法を用いる薄膜形成は、常温・常圧下で行うことができ、また簡便かつ短時間の薄膜形成を実現することができるので、蒸着法等による薄膜形成よりも有利である。また、表面均一性にも優れた有機半導体薄膜を形成することができるという利点がある。
【0004】
また、上記のような印刷方法を利用した有機半導体薄膜の形成が実現できれば、プログラマブルデバイスで生じるような不必要な回路を焼き切ったり、電気的にバイパスしたりする製造工程を簡略化することができる。その上、有機半導体薄膜を可とう性のある高分子表面に形成すれば、折り曲げられる有機半導体素子を得ることができる。
【0005】
特許文献2および非特許文献1には、ある程度のキャリア移動度を有し、有機溶媒に対する溶解性に優れた有機化合物として、テトラチアフルバレン(以下、「TTF」と略すことがある。)等のカルコゲン化合物が開示されている。特に非特許文献1には液晶性を有するTTF化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−256532号公報
【特許文献2】特開2006−278692号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mao Katsuharaら、「Organic field-effect transistors based on new TTF-based liquid crystalline material」、Synthetic Metals、2005年、Volume 149、Issues 2-3、pp.219-223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有機溶媒に対する溶解性に優れるジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成材料を提供することを課題の一つとし、該材料から形成される、キャリア移動度が高い有機半導体薄膜、および該有機半導体薄膜を有する有機半導体素子または該有機半導体薄
膜を有するトランジスタを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の構造を有するジチオラン化合物が、有機溶媒に対する溶解性に優れ、このジチオラン化合物から形成される有機半導体薄膜のキャリア移動度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、たとえば以下の[1]〜[8]に関する。
【0011】
[1]下記式(1)で示されるジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成用材料。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキルまたは下記式(2)
で示される基であり、R2はOまたはSである。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキルであり、nは1〜3の整数である。)
[2]前記式(1)中の全てのR1が式(2)で示される基であり、R2がOであり、式(2)中のR3がドデシルである前記[1]項記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【0016】
[3]前記式(1)中の全てのR1が式(2)で示される基であり、R2がSであり、式(2)中のR3がドデシルである前記[1]項記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【0017】
[4]前記ジチオラン化合物が、下記式(3)で表わされる化合物であることを特徴とする前記[1]項記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【0018】
【化3】

【0019】
[5]前記ジチオラン化合物が、下記式(4)で表わされる化合物であることを特徴とする前記[1]項記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【0020】
【化4】

【0021】
[6]前記[1]〜[5]のいずれか1項記載の材料から形成される有機半導体薄膜。
【0022】
[7]前記[6]項記載の有機半導体薄膜と、少なくとも2種の電極とを有する有機半導体素子。
【0023】
[8]前記[6]項記載の有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有するトランジスタ。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有機半導体薄膜形成材料によれば、塗布法または印刷法で簡便にしかも短時間かつ多量に有機半導体薄膜を形成することができる。このように形成された本発明の有機
半導体薄膜は、ムラがなく均一であり、また優れたキャリア移動度を示す。また、該有機半導体薄膜から、素子特性の優れたトランジスタ等の有機半導体素子を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】FET(電界効果型トランジスタ)の一般的な構成例を示す図である。
【図2a】キャリア移動度を求める際に作製したFETの構成を示す図である。
【図2b】図2aの断面図である。
【図3】実施例8で作製したFETにおけるゲート電圧(Vd)に対するドレイン電流を計測したグラフである。
【図4】実施例8で作製したFETにおけるゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)の絶対値の平方根の関係を表したグラフである。
【図5】実施例9で作製したFETにおけるゲート電圧(Vd)に対するドレイン電流を計測したグラフである。
【図6】実施例9で作製したFETにおけるゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)の絶対値の平方根の関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の有機半導体薄膜形成材料、該材料から形成される有機半導体薄膜および該有機半導体薄膜を有する有機半導体素子について詳細に説明する。
【0027】
[有機半導体薄膜形成材料]
本発明の有機半導体薄膜形成材料は、下記式(1)で示されるジチオラン化合物を含む。また、本発明の有機半導体薄膜形成材料は、前記ジチオラン化合物を、後述する有機溶媒に溶かした溶液であることが好ましいが、前記ジチオラン化合物の融解液であってもよい。
【0028】
【化5】

【0029】
上記式(1)中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキルまたは下記式(
2)で示される基であり、R2は、OまたはSである。
【0030】
【化6】

【0031】
上記式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキルであり、nは1〜3の整数である。
【0032】
上記式(1)中、R1は、炭素数1〜12のアルキルまたは上記式(2)で示される基
であることが好ましく、上記式(2)で示される基であることがさらに好ましい。R1
具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル等が挙げられ、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが挙げられる。
【0033】
1を適宜選択することで、上記式(1)で示されるジチオラン化合物の有機溶媒に対
する溶解性を最適化することができる。特にR1として、上記式(2)で示される基を選
択すると、上記式(1)で示されるジチオラン化合物の有機溶媒に対する溶解性が高くなる傾向がある。
【0034】
上記式(1)中、R2は、Oであることが好ましい。R2がOであると、ジチオラン化合物の保存安定が良好となる傾向がある。
【0035】
上記式(2)中、R3は、炭素数1〜12のアルキルであることが好ましく、炭素数1
0〜12のアルキルであることが好ましい。R3の具体例としては、メチル、エチル、プ
ロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルが挙げられる。中でもドデシルが特に好ましい。R3が、このようなアルキ
ルであると、ジチオラン化合物の保存安定性の点で好ましい。
【0036】
上記式(2)中、OR3基は、ベンゼン環上の任意の位置に結合できるが、3位、4位
、5位の位置に結合することが好ましく、3位、5位の位置に結合することがより好ましい。このような位置にOR3基が結合すると、ジチオラン化合物の酸化に対する安定性が
良好となる傾向がある。OR3基の数、すなわちnは、2または3であることが好ましく
、2であることがより好ましい。
【0037】
上記ジチオラン化合物は、前記式(1)中の全てのR1が式(2)で示される基であり
、R2がOまたはSであり、式(2)中のR3がドデシルであることが好ましい。
【0038】
上記ジチオラン化合物の具体例としては、下記式(3)で表わされる化合物(以下「化合物(3)」とも記す。)または下記式(4)で表わされる化合物(以下「化合物(4)」とも記す。)が挙げられる。
【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
このようなジチオラン化合物は、有機半導体薄膜とした場合に、キャリア移動度が高く、n型の半導体特性を示すことから、有機半導体薄膜形成材料として用いることができる。化合物が、n型の半導体特性を示すか否かについては、ゲート電位の正負によって判断することができる。すなわち、ゲート電位が正の場合、n型の半導体特性を示す化合物である。また、上記ジチオラン化合物は、有機溶媒への高い溶解性を有していることから、均一な有機半導体薄膜を簡易に効率的に形成することができる。
【0042】
上記ジチオラン化合物の液晶相転移点は、−15〜80℃であることが好ましく、室温(25℃前後)であることがより好ましい。液晶相転移点が前記範囲内であると、上記ジチオラン化合物は、室温状態で安定かつ緻密な構造に自発的に集合する流動体となる。したがって、液晶相転移点が前記範囲内であると、上記ジチオラン化合物から、高いキャリア移動度を保持した有機半導体薄膜を形成することができる。さらには、該有機半導体薄膜を有する素子特性の優れたトランジスタ等の有機半導体素子を容易に製造することがで
きる。
【0043】
上記ジチオラン化合物は、高い正孔移動度を示し、有機半導体薄膜形成材料として優れた性質を有する。用途によって正孔移動度の最適値は異なるが、有機半導体素子として使用する場合の正孔移動度は、好ましくは0.03cm2/(V・s)以上、より好ましく
は0.5cm2/(V・s)以上、特に好ましくは1.0cm2/(V・s)以上である。正孔移動度の上限は特に制限はないが、30cm2/(V・s)程度である。
【0044】
また、上記ジチオラン化合物は高い電子密度を有することから、電子供与性を同時に具有することが期待される。そのため電子移動度を持つことも同時に期待される。用途によって電子移動度の最適値は異なるが、有機半導体素子として使用する場合の電子移動度は、現状の正孔移動度に対して1000分の1〜100分の1の値となることが多い。したがって、技術目標としての電子移動度は、例えば、1×10-7cm2/(V・s)以上で
あることが好ましく、1×10-3cm2/(V・s)以上であることがさらに好ましく、
0.1cm2/(V・s)以上であることが特に好ましい。電子移動度が前記範囲である
と、電界効果トランジスタとしての好適な動作が期待される。電子移動度の上限は特に制限はないが、3cm2/(V・s)程度である。
【0045】
なお、本明細書において、キャリア移動度とは、電子移動度および正孔移動度を含む広義の意味である。
【0046】
また、上記ジチオラン化合物は、トランジスタのゲート電圧によるドレイン電流のon/off比も良好な数値を示すので、有機半導体薄膜形成材料として優れた性質を有する。
【0047】
上記ジチオラン化合物は、各種有機溶媒に極めて良好に溶解する。ジチオラン化合物を溶解することができる有機溶媒としては、例えば、メタノール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、乳酸エチル、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリル、アセトン、シクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドが挙げられる。特に、ジクロロメタン、メタノールまたはトルエンが好ましい。これらの有機溶媒は1種で用いてもよく、2種以上の混合溶媒で用いてもよい。
【0048】
これらの有機溶媒に対するジチオラン化合物の溶解度は高く、例えばジクロロメタン、メタノールまたはトルエンに対するジチオラン化合物の溶解度は、室温(25℃)下で0.01g/ml以上である。なお、上記ジチオラン化合物は、上記有機溶媒に対する高い溶解性を有するため、カラムクロマトグラフィーまたは再結晶などの簡易な方法によって精製することができる。また、上記ジチオラン化合物の高濃度溶液を調製することができる。
【0049】
上記ジチオラン化合物を有機溶媒に溶かした溶液、特に上記ジチオラン化合物の高濃度溶液を有機半導体薄膜形成用材料として用いると、塗布または印刷等の簡便な製膜方法で、大面積かつ均一な有機半導体薄膜を形成することができる。
【0050】
本発明の有機半導体薄膜形成材料は、上記ジチオラン化合物と合成樹脂とを組み合わせた樹脂組成物(以下「ブレンド樹脂」とも記す。)または該ブレンド樹脂を上記有機溶媒に溶かした溶液であってもよい。上記ブレンド樹脂におけるジチオラン化合物の含有量は、好ましくは1〜99質量%であり、より好ましくは10〜99質量%であり、さらに好
ましくは50〜99質量%である。
【0051】
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチックス、導電性樹脂などが挙げられる。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアリレンビニレンなどが挙げられる。
【0052】
上記ジチオラン化合物が、優れたキャリア移動度を示す理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推定している。上記ジチオラン化合物は、ジチオランの環の数を3として、各々の環を、共役系を切らないで相互につないだ構造を有する。したがって、上記ジチオラン化合物は、電子が豊富なπ電子系を相互につないでいる状態となる。そのため、TTFに比較してより電子が豊富な状態にあると推定される。また、3つの環のうち真中の環に結合しているチオン基のSまたはケトン基のOによる非共有電子対の効果によって、分子間の電子相互作用が非常に良好な状態になると推定される。共役系の電子密度分布は、キャリア移動度を示す指標の一つとなる。TTFの電子密度分布が環をつなぐ二重結合に局在化しているのに対して、本発明に用いられるジチオラン化合物の電子密度分布は、共役系の両端において極端に大きくなっていると推定される。このような電子密度分布や分子間の電子相互作用の状態から、本発明に用いられるジチオラン化合物は高いキャリア移動度を示すと推定される。
【0053】
上記ジチオラン化合物の製造方法は、公知の方法を組み合わせて用いることができ、特に限定されないが、例えば、以下の工程1〜工程10のような製造方法が挙げられる。
【0054】
(工程1)
没食子酸のモノ水和物をエステル化して、没食子酸メチルエステルを得る。
【0055】
【化9】

【0056】
(工程2)
塩基存在下で、没食子酸メチルエステルをアルキルブロミド(R3Br;R3は炭素数1〜20のアルキルである。)と反応させて、トリアルコキシ没食子酸メチルエステルを得る。
【0057】
【化10】

【0058】
(工程3)
トリアルコキシ没食子酸メチルエステルを還元し、トリアルコキシベンジルアルコールを得る。
【0059】
【化11】

【0060】
(工程4)
トリアルコキシベンジルアルコールを三臭化リンと反応させてトリアルコキシ臭化ベンジルを得る。
【0061】
【化12】

【0062】
(工程5)
トリアルコキシ臭化ベンジルと、ビス(テトラブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛錯体とを反応させ、4,5−ジ(トリアルコキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール2−チオンを得る。
【0063】
【化13】

【0064】
ここで、R1は下記式で表わされる基とする。下記式中、R3は炭素数1〜20のアルキルである。
【0065】
【化14】

【0066】
(工程6)
4,5−ジ(トリアルコキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオンを二つに分けた後、一方の4,5−ジ(トリアルコキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオンと、4,5−ビス(2−シアノエチルチオ)−1,3−ジチオール−2−オンとを反応させて、非対称置換のテトラチアフルバレン系化合物を得る。
【0067】
【化15】

【0068】
(工程7)
非対称置換のテトラチアフルバレン系化合物とナトリウムメトキシドとを反応させた後、塩化亜鉛および臭化テトラブチルアンモニウムで処理することにより、亜鉛錯体化合物10を得る。
【0069】
【化16】

【0070】
(工程8)
上記二つに分けた他方の4,5−ジ(トリアルコキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオンと、トリメチルオキソニウム テトラフルオロボレートとを反応させる
ことにより、4,5−ジ(トリアルコキシベンジルチオ)−2−メチルチオ−1,3−ジチオリウム テトラフルオロボレート11を得る。
【0071】
【化17】

【0072】
(工程9)
上記亜鉛錯体化合物10と上記1,3−ジチオリウム塩11とを反応させることにより、テトラ(トリアルコキシベンジルチオ)−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオンを得ることができる。
【0073】
【化18】

【0074】
(工程10)
さらに、テトラ(トリアルコキシベンジルチオ)−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオンを酢酸水銀で処理することにより、テトラ(トリアルコキシベンジルチオ)−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−オンを得ることができる。
【0075】
【化19】

【0076】
[有機半導体薄膜]
本発明の有機半導体薄膜は、上記ジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成材料から形成される。本発明の有機半導体薄膜は、上記ジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成材料、例えば、上記ジチオラン化合物の高濃度溶液または融解液を用いることにより、
塗布または印刷等の簡便な製膜方法で形成することができる。また、このような製膜方法で形成された有機半導体薄膜は、ジチオラン化合物の高いキャリア移動度を保持し、電気特性に優れている。
【0077】
本発明の有機半導体薄膜の形成方法は、上記ジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成材料を用いること以外は、特に限定されず公知の方法を使用することができる。
【0078】
例えば、上記ジチオラン化合物を有機溶媒に溶かした溶液を、基板上に塗布または印刷することにより、有機半導体薄膜を形成することができる。溶液中の上記ジチオラン化合物の濃度は、通常0.1〜50質量%であり、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは5〜50質量%である。上記ジチオラン化合物の優れた溶解性により、種々の濃度の溶液を調製することができる。したがって、溶液の濃度に依存する上記ジチオラン化合物の結晶化度を調整することができ、さらに結晶化度に影響されるキャリア移動度も適切に調整することができる。
【0079】
このように、結晶から非晶質までの広い範囲での結晶性を容易に調整することができるため、有機半導体薄膜の厚さおよびキャリア移動度といった必要な素子特性を安定に再現できる。有機半導体薄膜の厚さは、有機半導体素子に使用する場合、通常10nm〜100μmであり、好ましくは10〜300nmである。
【0080】
上記ジチオラン化合物の溶液または融解液を塗布する方法としては種々の方法が挙げられ、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ブレード法が挙げられる。
【0081】
上記ジチオラン化合物の溶液または融解液を印刷する方法としては種々の方法が挙げられ、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷、平版印刷、凹版印刷、凸版印刷が挙げられる。中でも、ジチオラン化合物の溶液をそのままインクとして用いたプリンタにより行うインクジェット印刷は、簡易な方法であり好ましい。
【0082】
上記ジチオラン化合物の溶液または融解液を塗布または印刷できる基板としては種々の基板が挙げられる。基板の具体例としては、ガラス基板、金、銅または銀等の金属基板、結晶性シリコン基板、アモルファスシリコン基板、トリアセチルセルロース基板、ノルボルネン基板、ポリエチレンテレフタレート基板、ポリエステル基板、ポリビニル基板、ポリプロピレン基板またはポリエチレン基板が挙げられる。
【0083】
[有機半導体素子]
本発明の有機半導体素子は、上記有機半導体薄膜と、少なくとも2種の電極とを有する。本発明の有機半導体素子は、電力増幅素子、信号制御素子、整流機能または信号処理機能を有する素子として用いることができる。また、上記有機半導体薄膜と、他の半導体性を有する有機物または無機物とを組み合わせることによって、整流素子または電流駆動型のトランジスタ、スイッチング動作を行うサイリスタ・トライアック・ダイアックなどの素子とすることができる。また、本発明の有機半導体素子は、表示素子としても用いることができ、特にすべての部材を有機化合物で構成した表示素子として用いることが好ましい。例えば、液晶表示素子または電子ペーパーなどが挙げられる。具体的には、電子ペーパーもしくはICカードタグなどのフレキシブルなシート状表示装置または固有識別符号応答装置などが挙げられる。これらの装置は、可とう性を示す高分子化合物から形成された絶縁基板の上に、上記有機半導体薄膜と、該薄膜を機能させる一つ以上の層とを形成することにより、作製することができる。
【0084】
フレキシブルなシート状表示装置は、上記有機半導体薄膜を可とう性のある高分子基板上に形成した表示素子を用いることで提供できる。この可とう性の効果より、衣類のポケ
ットや財布などに入れて携帯することができる表示素子が実現される。
【0085】
固有識別符号応答装置は、ガラス基板または可とう性のある高分子基板の上に、信号に同調して受信するための空中線と、受信電力で動作し識別信号を返信する半導体素子とによって構成される。固有識別符号応答装置は、特定周波数または特定符号を持つ電磁波に反応し、固有識別符号を含む電磁波を返答するものである。固有識別符号応答装置は、例えば、再利用可能な乗車券または会員証、代金の決済手段、荷物または商品の識別用シール、荷札または切手の役割、会社または行政サービスにおいて、高い確率で書類または個人を識別する手段として用いられる。
【0086】
有機半導体素子を製造する際、上記ジチオラン化合物を用いて印刷によりパターニングを行うことが好ましい。当該印刷には、上記ジチオラン化合物の高濃度溶液または融解液を用いるのが好ましい。高濃度溶液または融解液を用いると、インクジェット印刷、マスク印刷、スクリーン印刷およびオフセット印刷を活用でき、便利である。
【0087】
有機半導体素子の製造において、印刷を活用すれば、回路の単純化、製造効率の向上および素子の低廉化・軽量化に寄与する。上述のとおり、加熱および真空プロセスの必要性がなく流れ作業によって製造できるので、低コスト化および工程変更への対応性を増すことに寄与する。こういった観点から、有機溶媒への極めて高い溶解性を示す上記ジチオラン化合物を用いて印刷を行うことは有用である。
【0088】
本発明のトランジスタは、上記有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有する。具体例として、図1に示すような断面構造を有する電界効果型トランジスタ(FET(6))が挙げられる。以下、一般的なFET(6)の製造方法について、図1を参考にして説明する。
【0089】
まず、ガラス基板または高分子基板などの基板(2)の上に、金属のマスク蒸着または導電性インクの印刷により、ゲート電極(1)を形成する。必要に応じて、さらに絶縁膜(3)を形成してもよい。その上に、上記ジチオラン化合物の溶液を印刷、塗布または滴下することによって有機半導体薄膜(4)を形成する。有機半導体薄膜(4)の上にソースおよびドレイン電極(5)を形成することにより、FET(6)を製造することができる。このようなFETは、液晶表示素子またはEL素子として用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]
ジチオラン化合物として、下記化合物(3)を以下のとおり合成した。ただし、下記式中、Rは下記式(a)で表わされる基である。
【0092】
【化20】

【0093】
【化21】

【0094】
(工程1)
【0095】
【化22】

【0096】
没食子酸のモノ水和物(2.5g)を、濃硫酸(5ml)を含むメタノール(50ml)に加え、2時間還流した。メタノールを留去後、水を加えてエーテルで抽出した。エーテルの留去後、没食子酸メチルエステルを定量的に得た。
【0097】
(工程2)
【0098】
【化23】

【0099】
没食子酸メチルエステル(3g)、炭酸カリウム(15g)および臭化ドデシル(11ml)をジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略す。)(20ml)に加え、16時間還流した。室温(25℃)に戻した後、水を加えてエーテルで抽出した。エーテルの留去後、トリドデシロキシ没食子酸メチルエステルを定量的に得た。
【0100】
(工程3)
【0101】
【化24】

【0102】
アルゴン雰囲下、水素化リチウムアルミニウム(0.265g)を含む無水エーテル(50ml)中に、トリドデシロキシ没食子酸メチルエステル(4g)の無水エーテル溶液を、氷冷下で徐々に滴下した。滴下後、室温(25℃)下で1時間攪拌した。氷冷下、塩化アンモニウムの飽和水溶液を反応溶液中に徐々に加えた。その後、エーテル層を分離・乾燥し、エーテルの留去によりトリドデシロキシベンジルアルコールを収率85%で得た。
【0103】
(工程4)
【0104】
【化25】

【0105】
トリドデシロキシベンジルアルコール(3.1g)および三臭化リン(0.50ml)を無水エーテル中に加え、アルゴン雰囲気下、室温(25℃)で6時間攪拌した。攪拌後、氷冷下で水を加え、エーテル層を分離・乾燥し、エーテルの留去によりトリドデシロキシベンジルブロミドを収率91%で得た。
【0106】
(工程5)
【0107】
【化26】

【0108】
トリドデシロキシベンジルブロミド(3.1g)およびビス(テトラブチルアンモニウム)ビス(1,3−ジチオール−2−チオン−4,5−ジチオレート)亜鉛錯体(0.62g)をアセトニトリル(100ml)中に加え、2時間還流した。アセトニトリルの留去後、残査をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60(粒径100−210μm
)、展開溶媒:クロロホルム)で分離・精製し、4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオンを収率84%で得た。
【0109】
(工程6)
【0110】
【化27】

【0111】
4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオン(0.5g)および4,5−ビス(2−シアノエチルチオ)−1,3−ジチオール−2−オン(0.08g)をトルエン(10ml)および亜リン酸トリメチル(10ml)の混合溶媒に溶解し、この溶液を約3時間還流した。減圧下でトルエンおよび亜リン酸トリメチルを留去後、残査をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60(粒径100−210μm)、展開溶媒:クロロホルム−ヘキサン(混合比率v:v=1:1))で分離・精製し、4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−(4,5−ジシアノメチルチオ−1,3−ジチオール−2−イリデン)−1,3−ジチオールを収率60%で得た。
【0112】
(工程7)
【0113】
【化28】

【0114】
4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−(4,5−ジシアノメチルチオ−1,3−ジチオール−2−イリデン)−1,3−ジチオール(0.50g)を無水のアセトニトリル(50ml)に溶解した。この溶液にナトリウムメトキシド(0.145g)のメタノール溶液(10ml)を室温(25℃)下で徐々に滴下した。滴下終了後さらに2時間攪拌した。その後、塩化亜鉛(50ml)および臭化テトラブチルアンモニウム(200mg)を加えて、さらに1時間攪拌した。アセトニトリルの留去によりビス(テトラブチルアンモニウム)ビス〔4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−(4,5−ジチオ−1,3−ジチオール−2−イリデン)−1,3−ジチオレート〕亜鉛錯体10を得た。
【0115】
(工程8)
【0116】
【化29】

【0117】
4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−1,3−ジチオール−2−チオン(0.51g)およびトリメチルオキソニウム フルオロボレート(0.08g)をアセト
ニトリル(10ml)に溶解し、1時間還流した。反応溶液に過剰のエーテルを加えることにより4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−メチルチオ−1,3−ジチオリウム テトラフルオロボレート11を定量的に得た。
【0118】
(工程9)
【0119】
【化30】

【0120】
アルゴン雰囲気下、ビス(テトラブチルアンモニウム)ビス〔4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−(4,5−ジチオ−1,3−ジチオール−2−イリデン)−1,3−ジチオレート〕亜鉛錯体10のDMF溶液に、4,5−ジ(トリドデシロキシベンジルチオ)−2−メチルチオ−1,3−ジチオリウム テトラフルオロボレート11
0.55g)のDMF溶液を、−78℃で徐々に滴下した。滴下終了後、反応温度を徐々に室温(25℃)に戻した。反応終了後DMFを留去し、残査をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60(粒径100−210μm)、展開溶媒:二硫化炭素)により分離・精製し、テトラ〔トリ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオン(化合物A)を54%の収率で得た。
【0121】
(工程10)
【0122】
【化31】

【0123】
テトラ〔トリ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオン(化合物A)(0.21g)をテトラヒドロフラン(以下「THF」と略す。)(20ml)に溶解した。この溶液に酢酸水銀(1.55g)を酢酸(20ml)に溶かした溶液を氷冷下で徐々に滴下した。滴下終了後、室温(25℃)に上げ、さらに1時間攪拌を続けた。反応溶液からTHFを留去後、残査に水を加え、CS2で数回
抽出した。抽出液を乾燥・留去後、残査をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60(粒径100−210μm)、展開溶媒:二硫化炭素−クロロホルム(混合比率v:v=1:1))で分離・精製し、テトラ〔トリ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチ
オリデン−1,3−ジチオラン−5−オン(化合物(3))を収率80%で得た。
【0124】
得られた化合物(3)について、核磁気共鳴分光法(NMR)、マトリックス支援イオン化レーザー脱離飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)により同定を行った。
【0125】
核磁気共鳴分光法(NMR)は、JEOL JNM−LA−400 FT−NMR分光計により行い、TMSを内部標準物質として用いた。マトリックス支援イオン化レーザー脱離飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF−MS)は、SHIMADZU KOMPACT MALDI2質量分析計を用いた。
【0126】
結果は以下のとおりであった。
【0127】
1813161310(化合物(3)): MALDI−TOF−MS m/z 302
3(分子量 3021.10); 1H-NMR (CDCl3、TMS) δ 6.33−6.386(m、8H), 3.67−3.93 (m、32H),1.60−1.77(m、24H),1.26(bs、116H),0.89(t、36H)。
【0128】
[実施例2]
実施例1の工程(1)で用いた没食子酸の代わりに、α−レゾルシン酸(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1の工程(1)〜工程(10)と同様にして、テトラ〔3,5−ジ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−オン(化合物(4))を得た。
【0129】
[実施例3]
実施例1の工程(1)で用いた没食子酸の代わりに、プロトカテク酸(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1の工程(1)〜工程(10)と同様にして、テトラ〔3,4−ジ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−オンを得た。
【0130】
[実施例4]
実施例1の工程(1)で用いた没食子酸の代わりに、α−レゾルシン酸(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1の工程(1)〜工程(9)と同様にして(工程(10)(酢酸水銀処理)は実施せず)、テトラ〔3,5−ジ(ドデシロキシベンジルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオンを得た。
【0131】
[実施例5]
実施例1の工程(4)で得られたトリドデシロキシベンジルブロミドの代わりに、臭化ドデシル(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1の工程(5)〜工程(9)と同様にして(工程(10)(酢酸水銀処理)は実施せず)、テトラ(ドデシルチオ)−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオンを得た。
【0132】
[実施例6]
実施例1の工程(4)で得られたトリドデシロキシベンジルブロミドの代わりに、臭化ヘキシル(アルドリッチ社製)を用いた以外は実施例1の工程(5)〜工程(9)と同様にして(工程(10)(酢酸水銀処理)は実施せず)、テトラ(ヘキシルチオ)−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン−5−チオンを得た。
【0133】
[実施例7]
実施例1の工程(1)で用いた没食子酸の代わりに、3−ノニルドデカン酸(和光純薬社製)を用いた以外は実施例1の工程(1)〜工程(9)と同様にして(工程(10)(酢酸水銀処理)は実施せず)、テトラ〔3,3−ジ(ノニルプロピルチオ)〕−2,4−ジチオリデン−1,3−ジチオラン5−チオンを得た。
【0134】
[実施例8]
基板上に、ドレイン電極、ゲート電極およびソース電極をこの順序で積層し、各層を固定した。この積層体の上から、実施例1で得られた化合物(3)を溶解したテトラヒドロフラン溶液を滴下し、室温(25℃)で3分間、クリーンベンチ内に静置し、自然乾燥により有機半導体薄膜を形成させ、該有機半導体薄膜を有する電界効果トランジスタ(FET)を製造した(図2aおよびb参照)。ソース・ゲート電極の間隔(L1)およびゲート・ドレイン電極の間隔(L2)の合計(チャネル長(L=L1+L2))は1μmだった(図2b参照)。
【0135】
下記にFETの構成、詳細な製造方法を記載する。
【0136】
(FETの構成)
ゲート電極:市販の絶縁膜を形成した銅製金網
ソース電極・ドレイン電極:金線(直径1mm)
基板:ガラス基板
有機半導体薄膜:実施例1で得られた化合物(3)
(FETの製造方法)
有機半導体薄膜を有する電界効果トランジスタ(FET)は、次のように製造した。
【0137】
1.スライドガラス(サイズ:1.3mm×26mm×76mm)を純水中で超音波洗浄機により洗浄した。洗浄後のスライドガラスをクリーンベンチ内に静置し、自然乾燥させた。当該スライドガラスを基板とした。
【0138】
2.金線((株)ニラコ製AU−171481、直径:1.00mm、長さ:100mm、金の純度:99.95%)を、長さ:20mmにカットして、前記基板(スライドガラス)上に置いた。次に、エポキシ樹脂接着剤(ニチバン製、アラルダイト(商品名) 急速硬化タイプ)を、前記金線の末端から5mmの箇所(両末端の2箇所))に垂らして、前記金線と前記基板(スライドガラス)とを接着させた。この金線をドレイン電極とした。
【0139】
3.銅製金網((株)応研商事#09−1013、TEM電子顕微鏡用グリッドメッシュ。直径:3mm、厚さ:25μm)の外縁部に、導線((株)ニラコ製AU−171481、直径:0.3mmの金線)をハンダ付けした。さらに前記銅製金網上にポリイミド絶縁膜を積層させて、絶縁膜−銅製金網積層体を作製した。該絶縁膜−銅製金網積層体をゲート電極とした。
【0140】
次に、前記ドレイン電極の中心位置に、絶縁膜が上面になるように前記ゲート電極を置き、前記ゲート電極にハンダ付けされた導線と、ドレイン電極の金線との角度が、およそ
45度になるように調節した。当該ゲート電極をピンセットで固定し、前記基板(スライドガラス)に接触する導線の末端から5mm内側に前記エポキシ樹脂接着剤を垂らし、導線が基板に固着されたことを確認した。その後、ピンセットを離し、前記エポキシ樹脂接着剤をそのまま硬化させた。
【0141】
4.さらに、前記ゲート電極上に、ソース電極となる金線((株)ニラコ製AU−171481、直径:1.00mm、長さ:100mm、金の純度99.95%)を、長さ:20mmにカットして、前記ドレイン電極の金線と直交するように置いた。前記ソース電極の金線の末端から5mm内側に前記エポキシ樹脂接着剤を垂らし、前記ソース電極の金線と前記基板(スライドガラス)とを接着させた。硬化後、硬化させた側の金線の末端1を上側に折曲げて、もう一方の金線の末端2を、ピンセットで引っ張り、前記ゲート電極、前記ドレイン電極に対し、下向きに張力を与え、金線の末端2から5mm内側を前記エポキシ樹脂接着剤で固定した。このようにして縦型FETの基本構成を形成した。
【0142】
ここで、ソース電極の幅は、ドレイン電極の直径とした。
【0143】
5.形成された縦型FETの基本構成における線間容量を計測し、FETテスト用のフィクスチャー(材料固定具)に固定した。
【0144】
有機半導体薄膜材料として、実施例1で得られた化合物(3)の10重量%テトラヒドロフラン溶液を用いた。該テトラヒドロフラン溶液をソース電極とドレイン電極との交点上に滴下(1〜2敵)し、室温(25℃)で3分間、クリーンベンチ内に静置して、自然乾燥により有機半導体薄膜を形成させ、該有機半導体薄膜を有する電界効果トランジスタ(FET)を製造した。
【0145】
(FETの評価)
得られたFETを用いてキャリア移動度を以下のとおり測定した。
【0146】
得られたFETと、アジレントテクノロジー社製B1500三端子半導体デバイスアナライザとを配線した。
【0147】
該B1500三端子半導体デバイスアナライザにより、ゲート電圧(Vd;V)を変化
させながらゲート電圧(Vd)に対するドレイン電流を計測し、ソース・ドレイン電極間
の電流/電圧曲線のグラフを作製した(図3参照)。図3に示すグラフにおいて、ゲートの電位が正に大きいとき増幅特性を示すことから、実施例1で得られた化合物(3)は、n型特性を示すことがわかった。
【0148】
また、ゲート電極とソース電極とを同電圧にして、ゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)を計測し、ゲート電圧に対するドレイン電流(ピンチオフ電流)の絶対値の平方根の関係をグラフ化した(図4参照)。このグラフの傾き(a;−2.5653×10-4)からキャリア移動度を算出した。
【0149】
ソース・ドレイン電極の幅(Z;1[mm])、チャネル長(L=L1+L2;1[μm](0.001[mm]))、絶縁膜の単位面積あたりの静電容量(Co;6.4×1
-5[F/cm2])より、下記計算式によってキャリア移動度(μ;cm2/(V・s))を求めた。
【0150】
μ=(L×a2)/(Z×Co)
この結果、実施例1で得られた化合物(3)のキャリア移動度は、1.03×10-6cm2/(V・s)であった。
【0151】
[実施例9]
実施例2で得られた化合物(4)を用いた以外は、実施例8と同様にして、FETを製造し、キャリア移動度を測定した。該キャリア移動度は、0.65cm2/(V・s)で
あった。また、ゲートの電位が負のときに、増幅特性を示すことから、実施例2で得られた化合物(4)は、p型特性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明に用いるジチオラン化合物は、有機半導体薄膜形成材料として優れており、さらに、有機溶媒に高濃度で溶解できる。また、該ジチオラン化合物を有機溶媒に溶解させた高濃度溶液を用いることによって、基板上に塗布したり、印刷したりすることが可能である。この特性を利用して、簡便にしかも短時間かつ多量に高性能の有機半導体薄膜を形成することができ、半導体製造の生産コストを下げることが可能になる。
【符号の説明】
【0153】
1: ゲート電極
2: 基板
3: 絶縁膜
4: 有機半導体薄膜
5: ソース電極・ドレイン電極
6: FET
11: ソース電極(表面処理した金線)
12: ゲート電極(絶縁膜を表面に形成した銅製グリッド)
13: ドレイン電極(表面処理した金線)
14: ガラス基板
15: 有機半導体薄膜
16: 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるジチオラン化合物を含む有機半導体薄膜形成用材料。
【化1】

(式(1)中、R1は、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキルまたは下記式(2)
で示される基であり、R2はOまたはSである。)
【化2】

(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキルであり、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)中の全てのR1が式(2)で示される基であり、R2がOであり、式(2)中のR3がドデシルである請求項1に記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【請求項3】
前記式(1)中の全てのR1が式(2)で示される基であり、R2がSであり、式(2)中のR3がドデシルである請求項1に記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【請求項4】
前記ジチオラン化合物が、下記式(3)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【化3】

【請求項5】
前記ジチオラン化合物が、下記式(4)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機半導体薄膜形成用材料。
【化4】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の材料から形成される有機半導体薄膜。
【請求項7】
請求項6に記載の有機半導体薄膜と、少なくとも2種の電極とを有する有機半導体素子。
【請求項8】
請求項6に記載の有機半導体薄膜、ゲート電極、誘電体層、ソース電極およびドレイン電極を有するトランジスタ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−155180(P2011−155180A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16492(P2010−16492)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【上記2名の代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
【Fターム(参考)】