説明

有機EL表示装置

【課題】純銀薄膜が用いられた上部電極において、断線を生じにくくさせた有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基板SB上に、複数の画素が配列された表示領域DRと、表示領域DRから離れてその外側に配置され、複数の画素に電位を供給する電源部CCと、を有する有機EL表示装置であって、複数の画素のそれぞれは、下部電極Anと、下部電極Anの上側に積層される発光層を含む有機膜ELと、銀薄膜AGを含み、発光層の上側で他の画素と共通する層により形成される上部電極と、を有し、上部電極は、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸して、電源部CCと電気的に接続され、銀薄膜AGは、表示領域DRと電源部CCの間において配置される部分を有し、表示領域DRと電源部CCの間における銀薄膜AGの少なくとも一部の下地には、電子対供与体を有する下地層が配置される、ことを特徴とする有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップエミッション方式の有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子(OLED:Organic Light Emitting Diode)を用いたトップエミッション型の有機EL表示装置において、各有機EL素子の発光層に電位を供給する上部電極の電気抵抗を少なくするために、薄膜状に積層された銀層が用いられることがある。銀は、光に対する吸収が少なく反射率が高い材料であるが、発光層よりも上側に薄膜状に積層されることにより、上部電極の電気抵抗を少なくしつつ、有機EL表示装置のトップ側(上側)に光を取り出すことができる。
【0003】
なお、特許文献1においては、有機EL層と上部電極の間に、透明材料や金属等を含むバッファ層を設ける旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−327414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、銀は凝集性が高いため、薄膜状に積層することで上部電極の断線が生じる場合がある。このような断線を発生しにくくするため、例えば、銀層の厚みを厚くすると、有機EL表示装置のトップ側へと取り出される光量が減少することとなる。また、マグネシウム等の添加により、銀層の不純物の濃度が高くなると、凝集性は抑制されるが、透過光量の減少や電気抵抗の増加等が生じる。また、或いは、不純物の種類や添加量によっては、光学特性や電気特性が敏感に変動して製造が困難となる場合もある。
【0006】
そして、銀の凝集性による上部電極の断線は、有機EL表示装置における電源部と表示領域との間で生じることが多い。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、銀薄膜を上部電極に用いることにより、必要な透過光量を維持するとともに電気抵抗を低下させつつ、電源部と表示領域の間において上部電極の断線を生じにくくさせた有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる有機EL表示装置は、上記課題に鑑みて、基板上に、複数の画素が配列された表示領域と、前記表示領域から離れてその外側に配置され、前記複数の画素に電位を供給する電源部と、を有する有機EL表示装置であって、前記複数の画素のそれぞれは、下部電極と、前記下部電極の上側に積層される発光層と、銀薄膜を含み、前記発光層の上側で他の画素と共通する層により形成される上部電極と、を有し、前記上部電極は、前記表示領域から前記電源部に向かって延伸して、前記電源部と電気的に接続され、前記銀薄膜は、前記表示領域と前記電源部の間において配置される部分を有し、前記表示領域と前記電源部の間における前記銀薄膜の少なくとも一部の下地には、電子対供与体を有する下地層が配置される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる有機EL表示装置の一態様では、前記複数の画素は、前記発光層と前記上部電極の間に配置される電子注入層をさらに有し、前記下地層は、前記電子注入層と同一の材料で形成される、ことを特徴としてもよい。
【0010】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記複数の画素は、前記発光層と前記上部電極の間に配置される電子輸送層をさらに有し、前記下地層は、前記電子注入層と同一の材料で形成される、ことを特徴としてもよい。
【0011】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記基板を保護するための保護層をさらに有し、前記下地層は、電子対供与体を有した前記保護層によって形成される、ことを特徴としてもよい。
【0012】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記保護層は、ピロリジンジオンを有するポリイミドによって形成され、前記銀薄膜と接触する前記保護層の表面では、前記ピロリジンジオンの窒素原子が非共有電子対を有する、ことを特徴としてもよい。
【0013】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記保護層は、ポリイミドを含み、前記下地層は、前記保護層に紫外線処理が施されることにより形成される、ことを特徴としてもよい。
【0014】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記電子注入層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む、ことを特徴としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記電子輸送層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む、ことを特徴としてもよい。
【0016】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記下地層は、前記銀薄膜における銀原子に電子対を供与する、ことを特徴としてもよい。
【0017】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記上部電極は、透明導電膜をさらに含み、前記透明導電膜は、前記銀薄膜上に積層される、ことを特徴としてもよい。
【0018】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記透明導電膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して、前記電源部に接触する、ことを特徴としてもよい。
【0019】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記表示領域および前記電源部を覆う封止膜をさらに有し、前記封止膜は、前記銀薄膜上に配置され、前記銀薄膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して前記電源部と電気的に接続する、ことを特徴としてもよい。
【0020】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記銀薄膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して前記電源部と電気的に接続し、前記銀薄膜の少なくとも一部の下地に配置される前記下地層は、前記表示領域から前記電源部まで延伸するように形成される、ことを特徴としてもよい。
【0021】
また、本発明に係る有機EL表示装置は、上記課題に鑑みて、基板上に、複数の画素が配列された表示領域と、前記表示領域から離れてその外側に配置され、前記複数の画素に電位を供給する電源部と、を有する有機EL表示装置であって、前記複数の画素は、下部電極と、前記下部電極の上側に形成される発光層と、前記発光層の上側に形成されて、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含有する電子注入層と、前記電子注入層の上側に形成される上部電極と、を備え、前記電子注入層および前記上部電極は、前記複数の画素に共通する層により、それぞれ形成されて、前記上部電極は、前記電子注入層上に積層される銀薄膜と、前記銀薄膜上に積層される透明導電膜を有し、前記銀薄膜および前記電子注入層は、前記表示領域から前記電源部に向かって延伸する部分をそれぞれ有し、前記透明導電膜は、前記電子注入層と前記銀薄膜のそれぞれの前記延伸する部分を、覆い被せるように積層されて、前記電源部と電気的に接続される、ことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記銀薄膜は、99%以上の純度を有する純銀薄膜である、ことを特徴としてもよい。
【0023】
また、本発明に係る有機EL表示装置の一態様では、前記銀薄膜および前記電子注入層は、前記電源部と前記表示領域の中間の位置を超えて延伸する、ことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、銀薄膜を上部電極に用いることにより、必要な透過光量を維持するとともに電気抵抗を低下させつつ、電源部と表示領域の間において上部電極の断線を生じにくくさせた有機EL表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1A】第1の実施形態に係る有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図1B】第1の実施形態の変形例における有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図2A】第1の実施形態に係るTFT基板の平面図を概略的に示す図である。
【図2B】第1の実施形態の変形例における有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係る有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図4】第3の実施形態に係る有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図5】第4の実施形態に係る有機EL表示装置の断面を示す図である。
【図6A】第4の実施形態に係るTFT基板の平面図を概略的に示す図である。
【図6B】第4の実施形態に係る有機EL表示装置の第1変形例を示す図である。
【図6C】第4の実施形態に係る有機EL表示装置の第2変形例を示す図である。
【図7】第5の実施形態に係る有機EL表示装置の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の各実施形態に係る有機EL表示装置について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態にかかる有機EL表示装置は、ガラス基板上に有機EL素子がマトリクス状に配列されて構成されるTFT基板と、当該TFT基板に貼り合わされて有機EL素子が配列された領域を封止する封止基板とを含んで構成されて、映像を表示する表示領域が封止基板側に形成されるトップエミッション型となっている。
【0028】
TFT基板には、多数の走査信号線が互いに等間隔を置いて敷設されるとともに、多数の映像信号線が、互いに等間隔をおいて走査信号線が敷設される方向とは垂直となる方向に敷設される。これら走査信号線と映像信号線とによって区画される画素領域には、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)構造のスイッチングに用いる薄膜トランジスタと、蓄積容量と、有機EL素子とが配置される。また、アノード電極(陽極)とカソード電極(陰極)は、各画素における発光層を挟むように形成されており、走査信号線および映像信号線から供給された信号に従ってこれらの電極間に電位差が生じて、発光層に電子又は正孔が供給されて発光する。
【0029】
図1Aは、第1の実施形態にかかる有機EL表示装置の断面を示す図である。同図で示されるように、ガラス基板GA1上には薄膜トランジスタがマトリクス状に形成されてTFT基板が構成され、薄膜トランジスタの配列に対応して有機膜ELがマトリクス状にパターン化されている。さらに、TFT基板には透明な封止基板GA2が貼付けられるとともに、封止膜SRが間に充填されて、有機膜ELが画素毎に形成された表示領域DRが封止される。各画素の有機膜ELは、バンク層BAによって互いに隔離されており、このバンク層BAは、表示領域DRにおける画素の区画に応じて枠状に形成される画素分離膜である。また、本実施形態における表示領域DRは、図1で示すように、複数の画素が配列される領域であり、バンク層BAを含む範囲の領域である。そして表示領域DRに配列された各画素は、下部電極Anと、発光層を含む有機膜ELと、銀薄膜AGを有する上部電極を有しており、これらは、下部電極An、有機膜EL、上部電極の順に基板GA1側から形成されている。
【0030】
本実施形態では、図1で示されるように、各画素の有機膜ELには、TFT基板SBにおける薄膜トランジスタに接続された下部電極An(アノード電極)から正孔が供給される。一方、有機膜ELの上側には、銀薄膜AGによって構成される上部電極(カソード電極)が形成されて、この上部電極の下側には電子注入層EIL(Electron Injection Layer)が介在して各画素の有機膜ELに電子が供給される。本実施形態における電子注入層EILは、複数の画素に共通する層を含んで形成されて、電子注入層EILにより、表示領域DRのバンク層BAと各有機膜ELとが共通して覆われる。また、銀薄膜AGは、電子注入層EILと同様に、複数の画素に共通する層により形成され、各画素の上部電極が連続的につながることとなる。
【0031】
表示領域DRの外部の領域には、表示領域DRから離れて配置され、複数の画素に電位を供給する電源部CC(カソードコンタクト)を配置される。ここで、上部電極を介して、各画素に電位が供給されるようにするため、上部電極は、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸して電源部CCと電気的に接続する。さらに電源部CCには、封止基板GA2の外側に設けられた外部端子TEから一定の電位が供給される。電源部CCは、図1で示されるように、封止基板GA2が取り付けられた部分の下側における保護層PASに埋設された金属層を介して、外部端子TEと電気的に接続される。
【0032】
そして本実施形態では、銀薄膜AGは、表示領域DRと電源部CCの間において配置される部分を有しており、さらに銀薄膜AGは、表示領域DRから電源部CCに延伸して電源部CCに乗り上げて接触している。ここで特に、図1で示すように、電子注入層EILも同様に、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸しており、表示領域DRおよび電源部CCの間における銀薄膜AGの下地の少なくとも一部には、電子注入層EILが配置される。
【0033】
また、本実施形態では、上部電極に用いる銀薄膜AGは、8nm以上20nm以下、好ましくは、8nm以上15nm以下、より好ましくは10nm以上14nm以下の厚みで形成され、これによりハーフミラーとして機能して、有機膜ELによる発光が、封止基板GA2側であるトップ側に取り出される。銀薄膜AGは、トップ側に取り出される光量が確保される厚みで形成すればよい。また、銀薄膜AGは、銀の比率が80重量%以上であれば、銀の凝集性により膜の連続性が低下して断線が生じやすくなり、銀の純度が向上することにより、さらに断線などが生じやすくなる。
【0034】
本実施形態の電子注入層EILは、30nm程度の厚みを有している。電子注入層EILは、上部電極である銀薄膜AGから電子を受け取って、発光層を含んで構成される有機膜ELに運ぶ機能を有している。また、バンク層BAによって分離された有機膜ELの各々は、一層以上の機能性有機材料によって構成されて、例えば、ホスト材料とドーパント材料とを含んで発光する発光層と、正孔輸送層や正孔注入層が含まれる。
【0035】
そして特に、電子注入層EILに含まれる電子輸送性の有機材料は、電子対供与体であり、銀原子に電子対を供与する。この電子注入層EILは、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸し、銀薄膜AGの下地層として配置される。したがって、本実施形態における下地層は、表示領域DRにおける複数の画素の電子注入層EILと同一の材料で形成される。ここで、電子対供与体とは、非共有電子対(孤立電子対)を有するものである。この下地層を構成する電子対供与体の非共有電子対と銀薄膜AGの銀原子とが化学結合することにより、銀原子が下地層の上に広がって形成されるため、銀薄膜AGの凝集性の発現が抑えられると考えられる。
【0036】
また、電子対供与体であり、電子注入層EILに含まれる電子輸送性の有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0037】
さらに、電子注入層EILに上記の電子輸送性の有機材料が含まれていなくてもよく、この場合には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはこれらの化合物が電子注入層EILに含まれるようにする。アルカリ金属等が電子注入層EILに添加されることにより、電子注入層EILの表面上の有機材料が電子対供与体となり、孤立電子対が銀原子に供与されることにより凝集性の発現が抑えられる。電子注入層EILにアルカリ金属等の電子密度が高い材料がドープされることで、有機膜ELには、アルカリ金属等を介して電子が注入されることとなる。また、上記のオキサジアゾール誘導体等を含む電子注入層EILに、さらにアルカリ金属等が含まれるようにしても良い。
【0038】
図2Aは、本実施形態にかかる表示領域DRが形成されたガラス基板GA1(TFT基板SB)の平面図を概略的に示す図であり、有機EL表示装置において封止基板GA2が貼付けられていない状態を示す図である。同図で示されるように、電子注入層EILは、有機膜ELがマトリクス状に形成された表示領域DRの全域を覆うように積層される。銀薄膜AGは、表示領域DRの全域を覆って、さらに、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸して電源部CCに電気的に接続するように積層される。したがって、表示領域DRと電源部CCの間における銀薄膜AGの少なくとも一部の下地には、電子注入層EILが配置されて銀薄膜AGの凝集が抑制される。
【0039】
電源部CCと表示領域DRとの間における、銀薄膜AGの少なくとも一部に電子注入層EILと同一の材料による下地層が配置されることで、窒化シリコン(SiN)等で形成される保護層PASと銀薄膜AGとの接触する面積が減少し、銀薄膜AGの凝集による断線が抑制される。
【0040】
また、本実施形態においては、電子注入層EILは、少なくとも電源部CCと表示領域DRの中間地点に達するように延伸するのが望ましい。また、電子注入層EILは、電源部CCと表示領域DRの間の距離の4分の3となる長さ以上に表示領域DRから電源部CCに向かって延伸するのがさらに好適である。また、図1におけるラインPは、電源部CCと表示領域DRの中間地点を示している。本実施形態における電子注入層EILは、図1で示すように、ラインPとなる位置を超えて延伸しており、電子注入層EILは、電源部CCから離れて形成される。
【0041】
ここで、本実施形態における有機EL表示装置の製造方法について述べる。
【0042】
まず、ガラス基板GA1上に、アルミニウム等の有色の導電膜や、半導体膜、絶縁膜の積層やパターニング等の処理を繰り返して、走査信号線、映像信号線、薄膜トランジスタ等を含むTFT基板SBを形成する。そして、これらの薄膜トランジスタ等を保護してTFT基板SBを平坦化するために、保護層PASが窒化シリコン等を用いて積層される。次に、各画素において、ITO等の仕事関数が高い材料と、反射率が高い銀やアルミニウム等の金属とを反射膜として用いて下部電極Anを形成する。図1で示されるように、下部電極Anは薄膜トランジスタに電気的に接続されて、印加される電流や電圧が個別に制御される。そして下部電極Anの形成後は、各画素領域を格子状に区画するようにバンク層BAが設けられる。有機膜ELは、バンク層BAで区画された領域にシャドウマスクを用いたマスク蒸着法によって、各画素の発光色に対応した機能性有機材料が下部電極An上に選択形成される。
【0043】
その後、各画素において選択形成された有機膜EL上には、各色共通の膜厚かつ材料によって表示領域DRの全域にわたって電子注入層EILが形成されて、さらにその電子注入層EIL上に銀薄膜AGが蒸着法によって形成される。電子注入層EILは、電子輸送性の有機材料が蒸着されることにより形成される。また、電子注入層EILがアルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはこれらの化合物のうちのいずれかを含む場合には、電子輸送性の有機材料と、これらの化合物とを同時に蒸発させることで形成される。そして、表示領域DRの防湿等を目的とした封止基板GA2が封止膜SRとともにTFT基板SBに貼付けられることにより、有機膜ELが外気から保護される。
【0044】
なお、本実施形態では、封止基板GA2とTFT基板SBとの間に封止膜SRが充填された構成となっており、これにより銀薄膜AGの断線が抑えられるため、封止基板GA2とTFT基板SBとの間が中空となる場合よりも好適である。また、封止基板GA2がなくとも、例えば、封止膜SRを銀薄膜AGの上側から成膜することにより、銀薄膜AGの断線を抑えるようにしてもよい。封止膜SRとしては、樹脂であっても良いし、無機材料による無機封止膜であっても良い。また、中空となる場合であっても、例えば、後述する第4の実施形態のように、銀薄膜AGを覆う透明導電膜が形成されるようにしても良い。本実施形態では、上部電極は銀薄膜AGによって構成されて、銀薄膜AGが表示領域DRから延伸して電源部CCに到達し、銀薄膜AGの全体が封止膜SRに覆われている。
【0045】
また、図1Bは、本実施形態の変形例にかかる有機EL表示装置の断面を示す図であり、図2Bは、本実施形態の変形例におけるガラス基板GA1(TFT基板SB)の平面図を概略的に示す図である。図2Bでは、有機EL表示装置において封止基板GA2が貼付けられていない状態が示されている。
【0046】
図1Bおよび図2Bの場合と、図1Aおよび図2Aの場合とで異なる点は、電子注入層EILが電源部CCまで延伸している点であり、これ以外の点ではほぼ同様になっている。そして、銀薄膜AGにおける、表示領域DRと電源部CCの間に配置される部分の全体が、電子対供与体を有する下地層の上に形成され、銀薄膜AGは、表示領域DRと電源部CCの間の窒化シリコンによる保護層PASに接触しないようになっている。このため、本変形例は、図1Aおよび図2Aの場合に比して、銀薄膜AGの凝集等が生じにくくなる。しかしながら、電子注入層EILと銀薄膜AGが電源部CCに接触する場合には、製造上発生しうる接触面積の誤差によって上部電極が有する抵抗値が変動しやすくなる。
【0047】
このように、図1Bおよび図2Bの場合においては、表示領域DRと電源部CCの間に配置される銀薄膜AGの全体が下地層の上に形成される。また、表示領域DRと電源部CCの間に配置される銀薄膜AGの一部のみの下地に、電子対供与体を有する下地層が配置される場合であっても、当該下地層が、表示領域DRから電源部CCまで延伸するように形成されるのが好適である。このように下地層が延伸することにより、当該下地層の上側に配置される銀薄膜AGには段切れが生じにくくなり、表示領域DRから電源部CCまで延伸する銀薄膜AGの導通が確保されやすくなる。
【0048】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図3は、第2の実施形態にかかる有機EL表示装置の断面を示す図である。第2の実施形態では、表示領域DRの複数の画素のそれぞれにおいて、有機膜ELと銀薄膜AGの間に電子輸送層ETLが配置され、当該電子輸送層ETLは、電子対供与体を有する電子輸送性の有機材料からなる。そして特に、第2の実施形態では、表示領域DRと電源部CCの間における銀薄膜AGの下地層が、電子輸送層ETLと同一の材料によって形成されて、銀薄膜AGの凝集性が抑えられる。このような点を除き、第2の実施形態に係る有機EL表示装置は、第1の実施形態に係る有機EL表示装置とほぼ同様である。
【0049】
本実施形態において、電子輸送層ETLに含まれる有機材料としては、第1の実施形態と同様に、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、アルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはこれらの化合物が電子輸送層ETLに含まれるようにしてもよい。
【0050】
また、図3で示すように、電子注入層EILは、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸せず、表示領域DRの境界に位置するバンク層BAまでの配置となっている。そして、電子輸送層ETLと同一の材料によって形成された下地層は、電源部CCおよび表示領域DRから離れて、島状に形成される。しかしながら、電子輸送層ETLと同一の材料の層は、表示領域DRの境界に位置するバンク層BAと重複してもよいし、電源部CCと重複するように形成されてもよい。
【0051】
なお、第1の実施形態では、電子注入層EILが、表示領域DRの複数の画素の共通する層で積層されるが、第2の実施形態の電子輸送層ETLと同様に、画素毎(あるいは画素群ごと)に形成されて、電子注入層EILと同一の材料の下地層が島状に形成されても良い。また、一方、第2の実施形態では、電子輸送層ETLが、表示領域DRの複数の画素のそれぞれにおいて別々に配置されているが、第1の実施形態の電子注入層EILと同様に、複数の画素に共通する層で積層されてよい。また、電子注入層EILおよび電子輸送層ETLが、複数の画素に共通する層で形成される場合においては、第1の実施形態のように、これらが表示領域DRから電源部CCに向かって延伸するように形成されても良いし、第2の実施形態のように、表示領域DRに形成された電子輸送層ETLと分断され、表示領域DRおよび電源部CCの間で島状に形成されてもよい。
【0052】
[第3の実施形態]
図4は、第3の実施形態にかかる有機EL表示装置の断面を示す図である。第1の実施形態および第2の実施形態では、表示領域DRと電源部CCの間における銀薄膜AGの少なくとも一部の下地には、電子注入層EILまたは電子輸送層ETLと同一の材料の下地層が形成されるが、第3の実施形態では、表示領域DRと電源部CCの間における銀薄膜AGの下地層が、電子対供与体を有する保護層PASVにより構成される点で第1および第2の実施形態とは異なっている。
【0053】
具体的には、保護層PASVは、ポリイミドが成膜されたのちに紫外線処理が施されることにより形成される。これにより、ポリイミドが電子対供与体となるため、銀薄膜AGの凝集が抑制されると考えられる。ポリイミドが紫外線処理によって電子対供与体となるのは、ポリイミドがカルボニル基を持つピロリジンジオンを有しているためであり、紫外線処理によりこのカルボニル基が分極し、ピロリジンジオンの窒素原子に非共有電子対が生じるからである。
【0054】
なお、本実施形態では、表示領域DRから電源部CCに向かって銀薄膜AGが延伸して、電源部CCに電気的に接続される。そして、表示領域DRと電源部CCとの間において、銀薄膜AGが延伸する部分の下地には、電子対供与体を有する保護層PASVが下地層として配置される。しかしながら、保護層PASV上に、第1の実施形態や第2の実施形態において配置されるような、電子注入層EILや電子輸送層ETLと同一の材料で形成された下地層がさらに配置されてもよいのはいうまでもない。
【0055】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0056】
図5は、第4の実施形態にかかる有機EL表示装置の断面を示す図である。同図で示されるように、ガラス基板GA1上には薄膜トランジスタがマトリクス状に形成されてTFT基板SBが構成され、薄膜トランジスタの配列に対応して有機膜ELがマトリクス状に塗り分けられている。さらに、TFT基板SBにはシール材SEによって透明な封止基板GA2が貼付けられて、有機膜ELがマトリクス状に形成された表示領域DRが封止される。各画素の有機膜ELは、バンク層BAによって互いに隔離されており、このバンク層BAは、表示領域DRにおける画素の区画に応じて枠状に形成される画素分離膜である。また、本実施形態における表示領域DRは、図5で示すように、複数の画素が配列される領域であり、バンク層BAを含む範囲の領域である。そして表示領域DRに配列された各画素は、下部電極Anと、発光層を含む有機膜ELと、銀薄膜AGを有する上部電極を有しており、これらは、下部電極An、有機膜EL、上部電極の順に基板GA1側から形成されている。
【0057】
図5で示されるように、各画素の有機膜ELは、TFT基板SBにおける薄膜トランジスタに接続された下部電極An(アノード電極)から正孔が供給される。一方、有機膜ELの上側には、透明導電膜Trと銀薄膜AGとによって構成される上部電極(カソード電極)が形成されて、この上部電極の下側には電子注入層EILが介在して各画素の有機膜ELに電子が供給される。本実施形態における電子注入層EILは、画素毎にパターン化された複数の有機膜ELに共通となる一層で積層されて、表示領域DRのバンク層BAと各有機膜ELとが共通に覆われる。銀薄膜AG及び透明導電膜Trは、電子注入層EILと同様に、表示領域DRの各有機膜ELに共通となる層で積層される。
【0058】
表示領域DRの外部の領域には、表示領域DRから離れて配置されて、複数の画素に電位を供給する電源部CC(カソードコンタクト)を有している。具体的には、各画素の上部電極は、表示領域DRから電源部CCに延伸して電源部CCに電気的に接続される。そして、電源部CCには、封止基板GA2の外側に設けられた外部端子TEから一定の電位が供給される。電源部CCは、図1で示されるように、シール材SEが設けられた部分の下側において保護層PASで埋設された金属層を介して、外部端子TEと電気的に接続される。そして、電源部CCと表示領域DRとの間においては、電子注入層EILと銀薄膜AGとが電源部CCの側に向かって延伸するように積層されて、透明導電膜Trは、これらが延伸する部分を上側から覆うとともに電源部CCに到達して接触している。また、TFT基板SBに設けられた保護層PASと銀薄膜AGとの間には、電子注入層EILが介在して、保護層PASと接触しないように銀薄膜AGが積層されている。
【0059】
ここで、透明導電膜Trは、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)もしくは酸化インジウム・酸化亜鉛(IZO(商標):Indium Zinc Oxide)等の透明な導電膜で形成される。また、銀薄膜AGは、透明導電膜Trよりも抵抗が低い。本実施形態では、銀薄膜AGとしては、電気抵抗や光学特性の観点からは、99%以上の純度を有する純銀薄膜であることが好ましい。純銀薄膜である場合の厚みとしては、20nm以下、好ましくは、15nm以下の厚みで形成されることによりハーフミラーとして機能して、トップ側に取り出される光量が確保される。また、純銀薄膜である場合には、具体的には、12nm程度(10nm以上14nm以下)にするのがさらに好適である。なお、上部電極を純銀薄膜のみで構成すると膜の連続性が悪くなって表示領域DRに電源が供給されにくくなることから、本実施形態では、後述する電子注入層EILの他に、銀薄膜AGを補完するために透明導電膜Trが上側から覆うように設けられる。透明導電膜Trは100nm程度の厚みを有していてもよい。ここで、IZO(商標)による透明導電膜Trのみで構成された上部電極の場合は、抵抗が80Ω/□となるが、上部電極にIZO(商標)と共に純銀薄膜を用いることで、抵抗値を5Ω/□とすることもできる。
【0060】
本実施形態では、電子注入層EILは、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはこれらの化合物のうち、いずれかが添加されて形成され、30nm程度の厚みを有している。電子注入層EILは、上部電極である銀薄膜AGから電子を受け取って、発光層を含んで構成される有機膜ELに運ぶ機能を有している。また、バンク層BAによって分離された有機膜ELの各々は、一層以上の機能性有機材料によって構成されて、例えば、ホスト材料とドーパント材料とを含んで発光する発光層と、正孔輸送層や正孔注入層が含まれる。電子注入層EILにアルカリ金属等の電子密度が高い材料がドープされることで、有機膜ELには、アルカリ金属等を介して電子が注入されることとなる。
【0061】
ここで、銀薄膜AGは、高い表面エネルギを有しており、銀薄膜AGの下地層と表面エネルギの差異が大きくなることにより凝集性が発生する。表面エネルギの差異が大きい場合には、製造時あるいは上部電極の通電時において銀薄膜AGが塊状に凝集し、さらにその凝集に伴って透明導電膜Trが破断して上部電極の断線が生じることがある。本実施形態にかかる電子注入層EILの表面には、電子密度が高く表面エネルギが高い材料となるアルカリ金属等がドープされている。したがって、上述したように、アルカリ金属等がドープされることにより電子対供与体を含むようになった電子注入層EILと銀原子とが化学結合すると考えられるとともに、別の観点では、電子注入層EILの表面エネルギは、銀薄膜AGの表面エネルギに近い値となり、銀薄膜AGの凝集性の発現が抑えられるとも考えられる。
【0062】
図6Aは、本実施形態におけるガラス基板GA1(TFT基板SB)の平面図を概略的に示す図であり、有機EL表示装置において封止基板GA2が貼付けられていない状態を示す図である。同図で示されるように、電子注入層EILは、有機膜ELがマトリクス状に形成された表示領域DRの全域を覆うように積層され、銀薄膜AGは、当該電子注入層EILの平面的に見て内側となる領域であって、表示領域DRの全域を覆うように積層される。したがって、銀薄膜AGの全域における下地層が電子注入層EILとなって、銀薄膜AGの凝集が抑制される。電源部CCと表示領域DRとの間においては、表示領域DRから電源部CCの側に銀薄膜AGが延伸することで、上部電極の抵抗が小さくなり、銀薄膜AGの下地層が電子注入層EILとなることで、窒化シリコン(SiN)等で形成される保護層PASと銀薄膜AGとの接触が避けられて、銀薄膜AGの凝集による断線が抑制される。また、本実施形態では、図6Aで示すように、透明導電膜Trが、銀薄膜AGと電子注入層EIL、さらに電源部CCの全域を覆って電源部CCと接続するが、透明導電膜Trが電源部CCの一部と接触するのであっても良い。透明導電膜Trが、銀薄膜AGおよび電子注入層EILが電源部CCに向かって延伸する部分を覆い被せて電源部CCに達することにより、表示領域DRにおける各有機膜ELに電源が供給されることとなる。
【0063】
電子注入層EILや銀薄膜AGは、表示領域から電源部CC側に延伸するそれぞれの延伸部分が、少なくとも電源部CCと表示領域DRの中間地点に達するのが望ましい。また、電源部CCと表示領域DRの間の距離の4分の3となる距離を、電子注入層EILが表示領域DRから電源部CC側に延伸して、銀薄膜AGが、当該距離の2分の1となる距離を延伸するのがさらに好適である。また、図1におけるラインPは、表示領域DRから、電源部CCと表示領域DRの間の距離のうちの4分の3となる距離を離れた位置を示している。本実施形態における電子注入層EILと銀薄膜AGは、図1で示すように、電源部CCと表示領域DRの間において、ラインPの位置を超えて延伸しており、電子注入層EILと銀薄膜AGは、電源部CCから離れて形成される。なお、これらが電源部CCに接触する場合には、製造上発生する接触面積の誤差によって上部電極が有する抵抗値が変動しやすくなるため、本実施形態では、電子注入層EIL及び銀薄膜AGが電源部CCから離れて形成されている。
【0064】
なお、透明導電膜Trとしては、電子注入層EIL及び銀薄膜AG上から電源部CCにかけての領域において、スパッタ法によって、IZO(商標)が成膜されることにより形成される。透明導電膜Trの成膜領域の外部においては、表示領域DRの防湿等を目的とした封止基板GA2が、TFT基板SBをシール材SEにて接着されて、封止基板GA2とTFT基板SBとの間が中空封止の状態となり、有機膜ELが外気から保護される。かかる点を除き、製造方法は第1の実施形態の場合とほぼ同様である。
【0065】
図6Bは、本実施形態における有機EL表示装置の第1の変形例を示す図であり、ガラス基板GA1(TFT基板SB)の平面図を示している。同図で示されるように、電子注入層EILおよび銀薄膜AGは、表示領域DRの全域を覆うように積層される。ここで、電源部CCと表示領域DRの間においては、電子注入層EILが銀薄膜AGよりもさらに電源部CCの側に延伸して、電子注入層EILが銀薄膜AGの下地となっている。一方、電源部CCが存在しない他の3つの方向については、電子注入層EILから銀薄膜AGがはみ出すように延伸しており、この部分における銀薄膜AGの下地は、TFT基板SBの保護層PASとなっている。電子注入層EILから銀薄膜AGがはみ出した部分においては、銀の凝集が生じやすくなるが、この部分において凝集が生じて透明導電膜Trが断線しても、電源部CCから表示領域DRにおける各有機膜ELに電源を供給する上部電極としての機能は維持される。このように電源部CCが存在しないいずれかの方向において、表示領域DRの外側かつ電子注入層EILの内側におさまるように銀薄膜AGを成膜しないようにすることで、アライメント精度への要求が緩和される。
【0066】
図6Cは、本実施形態における有機EL表示装置の第2変形例を示す図であり、ガラス基板GA1(TFT基板SB)の平面図を示している。同図で示されるように、電子注入層EILおよび銀薄膜AGは、表示領域DRの全域を覆うように積層される。電源部CCと表示領域DRの間においては、電子注入層EILが銀薄膜AGよりもさらに電源部CCの側に延伸して、電子注入層EILが銀薄膜AGの下地となっている。一方、電源部CCが存在しない他の3つの方向については、電子注入層EILから銀薄膜AGがはみ出すように延伸しており、この部分における銀薄膜AGの下地は、TFT基板SBの保護層PASとなっている。電子注入層EILから銀薄膜AGがはみ出した部分においては、銀の凝集が生じやすくなるが、この部分において凝集が生じて透明導電膜Trが断線しても、電源部CCから表示領域DRにおける各有機膜ELに電源を供給する上部電極としての機能は維持される。このように銀薄膜AGを設けることで、電源部CCが存在しないいずれかの方向において、表示領域DRの外側かつ電子注入層EILや透明導電膜Trの内側におさまるように銀薄膜AGを成膜しないようにすることで、アライメント精度への要求が緩和される。
【0067】
なお、本実施形態では、保護層PASを窒化シリコンとしているが、ポリイミドやアクリル、二酸化ケイ素(SiO)等の光透過性ケイ素化合物の膜で構成されていてもよく、これらの場合も同様に、電源部CCと表示領域DRの間において銀薄膜AGの下地層として、電子対供与体を有する電子注入層EILと同一の材料を配置することにより凝集性が抑制される。以上、第4の実施形態について説明をしたが、主に、透明導電膜Trによって銀薄膜AGが覆われる点で第1の実施形態と異なっている。しかしながら、上記で説明をした点以外については、第4の実施形態は第1の実施形態とほぼ同様である。
【0068】
[第5の実施形態]
図7は、第5の実施形態にかかる有機EL表示装置の断面を示す図である。第4の実施形態では、電源部CCと、電子注入層EIL及び銀薄膜AGが重複せずに離れて積層されている。一方、第5の実施形態では、電源部CCの一部に電子注入層EILが乗り上げるように重複し、銀薄膜AGが、電子注入層EILよりもさらに延伸して、電子注入層EILと電源部CCが重複する部分を乗り越えて電源部CCと重複しており、かかる点で第4の実施形態とは異なっている。第5の実施形態は、前述の点以外では第4の実施形態と同様であり、同様となる点については説明を省略する。
【0069】
銀薄膜AGと透明導電膜Trは共に導電性を有し、銀薄膜AGのほうが電気抵抗が低い。また、電子注入層EILは、導電性をほとんど有していないが、電子注入層EILが電源部CCに至るまで延伸することで、表示領域DRと電源部CCとの間で銀薄膜AGが下地層と接触するのを、より確実に避けることができる。電源部CCは、例えばアルミニウム等の金属で形成されて、銀薄膜AGの表面エネルギと近い表面エネルギを有している。したがって、銀薄膜AGが電子注入層EILよりもさらに延伸して電源部CCと接触しても凝集が生じにくいまま消費電力が低減される。
【0070】
なお、上記の第1〜3の実施形態においても、第4〜5の実施形態と同様に、銀薄膜AGを、99%以上の純度を有する純銀薄膜とするのが好適である。
【0071】
なお、上記の第1〜5の実施形態では、電源部CCが表示領域DRの外側の一カ所に表示領域DRの一辺に沿うようにして設けられているが、例えば、複数箇所に分かれて設けられても良いし、複数の辺に沿うようにして設けられても良い。いずれの場合においても、表示領域DRと電源部CCの間には、銀薄膜AGが表示領域DRから電源部CCにむかって延伸し、銀薄膜AGの延伸する部分の下地の少なくとも一部に配置される下地層は、電子対供与体を有して銀の凝集が抑えられる。
【0072】
以上説明した本発明の各実施形態に係る有機EL表示装置は、上記の各実施形態によっては限定されず、その技術的思想の範囲内において異なる形態にて実施されてよい。
【実施例1】
【0073】
以下に図面を参照して本発明に係る有機EL表示装置の実施例1について説明する。
【0074】
図4に示すように、ガラス基板GA1上に薄膜トランジスタを形成し、薄膜トランジスタを保護層PASで覆い、TFT基板SBを形成した。この保護層PASに、薄膜トランジスタと後に形成される下部電極Anとを電気的に接続させるアノードコンタクトホールと、表示領域DRから離れて外部に配置され、後に形成される上部電極(銀薄膜AG)に電位を供給する電源部CCを形成した。保護層PASの材料には、ポリイミド樹脂を用いた。
【0075】
次に、保護層PAS上に下部電極Anを形成した。下部電極Anは銀からなる反射層にIZO(商標)を積層した2層構成とした。下部電極Anの成膜方法にはスパッタリング法により成膜し、フォトリソパターニングによりパターニングした。下部電極Anはアノードコンタクトホールを介してTFT基板SBの薄膜トランジスタに電気的に接続されている。
【0076】
次に、バンク層BAを下部電極An端部の周縁を被覆する様に、且つ電源部CCを露出するように形成した。バンク層BAの材質にはポリイミド樹脂を使用し、スピンコートにより塗布した後、フォトリソパターニングにより形成した。
【0077】
次に、以上のようにして形成されたTFT基板SB上をドライエア雰囲気にされたチャンバーに移送し、紫外線処理(UV処理)を施した。紫外線処理を施すことによって、下部電極Anのホール注入性を上昇させることが可能である。またポリイミド樹脂が有するカルボニル基を分極し、電子対供与体を生成し、電子対供与性体を有する保護層PASVを形成することができる。
【0078】
次に、上記処理を行ったTFT基板SBを真空成膜チャンバーに移送し、各有機EL素子を形成した。本実施例においては、各有機EL素子の有機膜ELの構成はホール輸送層及び各色を発する発光層及び電子輸送層であり、さらに各有機EL素子は電子注入層EILを有する構成とした。
【0079】
ホール輸送層の材料としてはN,N’−α−ジナフチルベンジジン(α−NPD)を使用した。赤色を発する発光層の材料としてはIr錯体(18重量%)と4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)とした。緑色を発する発光層の材料としてはクマリン色素(1.0重量%)とトリス[8−ヒドロキシキノリナート]アルミニウム(Alq3)とした。青色を発する発光層の材料としてはペリレン色素(1.0重量%)とトリス[8−ヒドロキシキノリナート]アルミニウム(Alq3)とした。
【0080】
電子輸送層の材料はバソフェナントロリン(Bphen)とした。また電子注入層EILのホスト材料としてはBphenであり、CsCOをドーパントとして用いた。なお、Bhenは、電子輸送性の有機材料であり、且つ電子対供与体を有する材料である。
【0081】
有機膜ELおよび電子注入層EILは真空蒸着法により形成し、またシャドウマスクを用いてTFT基板SB上へパターン化して成膜した。
【0082】
各有機EL素子のホール輸送層の膜厚は、赤色を発する有機EL素子では180nm、緑色を発する有機EL素子では120nm、青色を発する有機EL素子では80nmとした。発光層の膜厚は、赤色を発する有機EL素子では30nm、緑色を発する有機EL素子では40nm、青色を発する有機EL素子では20nmとした。電子輸送層及び電子注入層EILの膜厚は各々、各有機EL素子共通で20nm、30nmとした。
【0083】
ここで電子注入層EILは、表示領域DRから電源部CCに向かって表示領域DRから延伸させて、保護層PASの一部を覆うように形成した。
【0084】
次に、電子注入層EIL上に銀を有する上部電極(銀薄膜AG)を真空蒸着によって形成した。また銀薄膜AGの膜厚は10nmであり、銀の比率は90重量%であった。銀薄膜AGの成膜領域は表示領域DR全域と電源部CCを被覆する様に形成した。つまり、銀薄膜AGの表示領域DRにおける下地には、Bhenを含む電子注入層EILが配置され、表示領域DRから電源部CCに向かって延伸する部分の下地には、紫外線処理されたポリイミドを有する層が下地層として配置される構成であった。
【0085】
そして、真空を破ることなくCVD成膜装置に移送し、封止膜SRとして窒化珪素膜を6μmの厚みで形成した。
【0086】
本実施例の形態では、銀薄膜AGは電子対供与体を有する層に接しているため、銀薄膜AGの凝集性が抑制され、高抵抗化することがなく、良好な発光が得られる有機EL表示装置を提供することができた。
【0087】
[比較例1]
電子注入層EILのホスト材料にP−セキシフェニルを使用した点と、保護層PASに紫外線処理を行わなかった点以外は実施例1とほぼ同様の手法により、図1Aに示すような有機EL表示装置を作製したが、発光が得られないか上部電極の高抵抗化に伴う表示領域内での輝度傾斜が発生した。比較例1で、電子注入層EILや紫外線処理されなかった保護層PASを下地とする部分の銀薄膜AGをSEM観察したところ、銀薄膜AGの凝集が見られた。P−セキシフェニルは電子対供与体を有しないため、銀薄膜AGの凝集が発生したと考えられる。
【符号の説明】
【0088】
GA1 ガラス基板、GA2 封止基板、SB TFT基板、EL 有機膜、EIL電子注入層、ETL 電子輸送層、AG 銀薄膜、Tr 透明導電膜、SE シール材、DR 表示領域、CC 電源部、TE 外部端子、BA バンク層、An 下部電極、PAS 保護層、PASV 紫外線処理された保護層、SR 封止膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、複数の画素が配列された表示領域と、
前記表示領域から離れてその外側に配置され、前記複数の画素に電位を供給する電源部と、を有する有機EL表示装置であって、
前記複数の画素のそれぞれは、
下部電極と、
前記下部電極の上側に積層される発光層と、
銀薄膜を含み、前記発光層の上側で他の画素と共通する層により形成される上部電極と、
を有し、
前記上部電極は、前記表示領域から前記電源部に向かって延伸して、前記電源部と電気的に接続され、
前記銀薄膜は、前記表示領域と前記電源部の間において配置される部分を有し、
前記表示領域と前記電源部の間における前記銀薄膜の少なくとも一部の下地には、電子対供与体を有する下地層が配置される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記複数の画素は、前記発光層と前記上部電極の間に配置される電子注入層をさらに有し、
前記下地層は、前記電子注入層と同一の材料で形成される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記複数の画素は、前記発光層と前記上部電極の間に配置される電子輸送層をさらに有し、
前記下地層は、前記電子注入層と同一の材料で形成される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記基板を保護するための保護層をさらに有し、
前記下地層は、電子対供与体を有した前記保護層によって形成される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
請求項4に記載された有機EL表示装置であって、
前記保護層は、ピロリジンジオンを有するポリイミドによって形成され、
前記銀薄膜と接触する前記保護層の表面では、前記ピロリジンジオンの窒素原子が非共有電子対を有する、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項6】
請求項4に記載された有機EL表示装置であって、
前記保護層は、ポリイミドを含み、
前記下地層は、前記保護層に紫外線処理が施されることにより形成される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項7】
請求項2に記載された有機EL表示装置であって、
前記電子注入層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項8】
請求項3に記載された有機EL表示装置であって、
前記電子輸送層は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含む、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項9】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記下地層は、前記銀薄膜における銀原子に電子対を供与する、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項10】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記上部電極は、透明導電膜をさらに含み、
前記透明導電膜は、前記銀薄膜上に積層される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項11】
請求項10に記載された有機EL表示装置であって、
前記透明導電膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して、前記電源部に接触する、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項12】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記表示領域および前記電源部を覆う封止膜をさらに有し、
前記封止膜は、前記銀薄膜上に配置され、
前記銀薄膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して前記電源部と電気的に接続する、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項13】
請求項1に記載された有機EL表示装置であって、
前記銀薄膜は、前記表示領域から前記電源部に延伸して前記電源部と電気的に接続し、
前記銀薄膜の少なくとも一部の下地に配置される前記下地層は、前記表示領域から前記電源部まで延伸するように形成される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項14】
基板上に、複数の画素が配列された表示領域と、
前記表示領域から離れてその外側に配置され、前記複数の画素に電位を供給する電源部と、を有する有機EL表示装置であって、
前記複数の画素は、
下部電極と、
前記下部電極の上側に形成される発光層と、
前記発光層の上側に形成されて、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を含有する電子注入層と、
前記電子注入層の上側に形成される上部電極と、を備え、
前記電子注入層および前記上部電極は、前記複数の画素に共通する層により、それぞれ形成されて、
前記上部電極は、前記電子注入層上に積層される銀薄膜と、前記銀薄膜上に積層される透明導電膜を有し、
前記銀薄膜および前記電子注入層は、前記表示領域から前記電源部に向かって延伸する部分をそれぞれ有し、
前記透明導電膜は、前記電子注入層と前記銀薄膜のそれぞれの前記延伸する部分を、覆い被せるように積層されて、前記電源部と電気的に接続される、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項15】
請求項14に記載された有機EL表示装置において、
前記銀薄膜は、99%以上の純度を有する純銀薄膜である、
ことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項16】
請求項14に記載された有機EL表示装置において、
前記銀薄膜および前記電子注入層は、前記電源部と前記表示領域の中間の位置を超えて延伸する、
ことを特徴とする有機EL表示装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−77028(P2011−77028A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178791(P2010−178791)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】