説明

木質系発泡体

【課題】植物性資源を主原料とし、かつ難燃性、抗菌性を付与した木質系発泡体を提供する。
【解決手段】リグニン、硬化剤及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡・硬化させてなる木質系発泡体であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、前記樹脂組成物の固形分中のリグニンの含有量が5〜80質量%である、木質系発泡体。リグニンの重量平均分子量が100〜7000である前記の木質系発泡体。リグニン中の硫黄原子の含有率が2質量%以下である前記の木質系発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球環境保全を考慮した木質系発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡体とはプラスチックを発泡又は多孔質化したものであり、気体が固体に分散した状態のものである。発泡体は軽量かつ成形性が良いため、緩衝材、包装材料、日用品の断熱材、保温保冷機器の用途のほかに、土木建築材料の断熱材の用途として広汎に利用されている。原料となるプラスチック材料としてはポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂等の石油由来のプラスチックが主である。
【0003】
近年、化石資源を焼却することで発生する二酸化炭素量の増加に伴い、地球温暖化の問題が関心を集めるようになった。そこで地球温暖化防止の観点からバイオマス(生物資源)の有効活用が見直されている。近年、包装資材、家電製品の部材、自動車用部材などのプラスチックを植物由来樹脂(バイオプラスチック)に置き換える動きが活発化している。
【0004】
前記植物由来樹脂の具体例としては、ジャガイモやサトウキビやトウモロコシ等の糖質を醗酵させて得られた乳酸をモノマーとし、これを用いて化学重合を行い作製したポリ乳酸:PLA(PolyLactic Acid)や、澱粉を主成分としたエステル化澱粉、微生物が体内に生産するポリエステルである微生物産生樹脂:PHA(PolyHydroxy Alkanoate)、発酵法で得られる1,3−プロパンジオールと石油由来のテレフタル酸とを原料とするPTT(Poly Trimethylene Telephtalate)等が挙げられる。
また、PBS(Poly Butylene Succinate)は、現在は石油由来の原料が用いられているが、今後においては、植物由来樹脂として作製する研究が開発されており、主原料の一つであるコハク酸を植物由来で作製する技術についての開発がなされている。
【0005】
これらの植物由来原料を用いた樹脂は、OA関連用部品または自動車部品に加え、便座・台所・風呂場まわり等のサニタリー分野、雑貨などの幅広い分野に導入されている。このような用途においては、安全上の問題から難燃性、耐熱性が要求される。難燃性、耐熱性に関してはこれまでにも、植物由来原料を用いた樹脂、特にポリ乳酸樹脂において種々の試みがなされてきた。しかし、植物由来樹脂はいずれも熱可塑性であり(非特許文献1参照)、耐熱性において課題がある。一方発泡体用途では、安全上の問題から不燃性があることが要求される。また、気候によっては細菌や黴(カビ)が繁殖する場合があり、抗菌性を付与することが好ましい。上記植物由来樹脂は融点が低く、耐熱性に難があった。
【0006】
公知の難燃剤としては、臭素系・ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられる(特許文献1参照)。従来においても各種難燃剤が知られているが、上記の難燃剤は、有効に機能を発揮させるための添加量が多く、樹脂100質量部に対して10〜30質量部、多いものでは50質量部程度必要とする場合もある。
これらの難燃剤は、化石資源を原料として合成されているものであるから、主材料として植物由来樹脂を用いたとしても、環境負荷削減効果は低いものとなっていた。
【0007】
植物由来の硬化性樹脂原料として、古くからリグニンが注目されてきた。国内で容易に入手できるリグニンとして、例えば、リグニンスルホン酸塩が挙げられるが、水溶性であり、有機溶媒に難溶である。そのため、硬化剤及び硬化促進剤との相溶性が悪く、均質な硬化物が得られなかった。
【0008】
一方、抗菌性を付与する方法としては、抗菌剤を塗料に練り込むか、あるいは表面に抗菌剤を塗布する方法がある。現状では、抗菌剤としては無機系抗菌剤が主に練り込みに使用され、一方、有機系抗菌剤が主に液状で製品に塗布して使用されている。無機系抗菌剤の代表例は、銀などの金属で置換されたゼオライトや合成鉱物などが挙げられ、有機抗菌剤としては、クロロヘキシジン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0009】
一方、天然由来の抗菌剤の検討もされ始めている。天然物由来の有機系抗菌剤としては、ヒノキチオール、ワサオーロ(有効成分;アリルイソチオシアネート)、わさび、しょうが、等各種あり、天然物由来という長所はあるものの、一般的に樹脂の加工温度に耐えない、供給が限られて入手困難、樹脂との相溶性を改善するために他の添加剤を加えなければならない等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−002120号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】土肥義治(編) 生分解性高分子材料、工業調査会 1990年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明においては、環境負荷低減化の観点から、植物由来の木質系樹脂を利用した発泡体を提供することを目的とする。特に植物由来であるリグニンを主原料とし、かつ難燃性、抗菌性を付与した木質系発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の通りである。
(1) リグニン、硬化剤及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡・硬化させてなる木質系発泡体であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、前記樹脂組成物の固形分中のリグニンの含有量が5〜80質量%であることを特徴とする木質系発泡体。
(2) リグニンの重量平均分子量が、100〜7000である(1)に記載の木質系発泡体。
(3) リグニン中の硫黄原子の含有率が、2質量%以下である(1)又は(2)に記載の木質系発泡体。
(4) リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである(1)〜(3)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(5) リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである(1)〜(3)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(6) 発泡剤が、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、炭化水素、ヒドラゾカルボンアミド、p,p′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(7) 硬化剤が、イソシアネートである(1)〜(6)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(8) 硬化剤が、エポキシ樹脂である(1)〜(6)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(9) 硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である(1)〜(6)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(10) 硬化剤が、多価カルボン酸又は多価カルボン酸無水物である(1)〜(6)のいずれかに記載の木質系発泡体。
(11) 硬化剤が、不飽和多価カルボン酸又は不飽和多価カルボン酸無水物である(1)〜(6)のいずれかに記載の木質系発泡体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化石資源使用量の削減、及び二酸化炭素の排出量の低減効果が得られ、環境負荷低減化に好適な木質系発泡体が提供できた。また、樹脂成分の主原料としてリグニンを使用することで、耐熱性に優れた木質系発泡体を提供できた。
【0015】
本発明によれば、樹脂成分の主原料としてリグニンを使用することで、前記効果に加え、難燃効果を付与した木質系発泡体を提供できた。
【0016】
本発明によれば、樹脂成分の主原料としてリグニンを使用することで、前記効果に加え、抗菌効果を付与した木質系発泡体を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の木質系発泡体は、リグニン、硬化剤及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡・硬化させてなる木質系発泡体であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、前記樹脂組成物の固形分中のリグニンの含有量が5〜80質量%であることを特徴とする。
【0018】
前記リグニンの含有量としては、さらに20〜80質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは30〜70質量%であり、特に好ましくは40〜70質量%である。リグニンの含有量が5質量%未満であると、植物由来度低下によるCO発生削減効果が低く、難燃性、抗菌性の効果が得られないおそれがある。一方リグニンの含有量が80質量%を超えると、架橋反応が不十分で3次元構造が形成されず、成形品の強度が低下してしまうおそれがある。
【0019】
前記リグニンの重量平均分子量は、ポリスチレン換算値において、100〜7000が好ましく、さらに200〜5000が好ましく、500〜4000であることが特に好ましい。リグニンの重量平均分子量が、7000を超えると有機溶媒への溶解性が低下するおそれがある。重量平均分子量が100未満であるとリグニンの構造を活かした木質系発泡体の強度が低下するおそれがある。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算した値を使用した。
【0020】
リグニンの基本骨格は、一般的にヒドロキシフェニルプロパン単位を基本単位とする架橋構造の高分子である。樹木は、親水性の線状高分子の多糖類(セルロースとヘミセルロース)と、疎水性の架橋構造リグニンの相互侵入網目(IPN)構造を形成している。リグニンは、樹木の約25質量%を占め、不規則かつ極めて複雑なポリフェノールの化学構造をしている。フェノール類は、燃焼の際、黒鉛を形成し易いため難燃性に優れ、抗菌作用を有することが知られている。本発明は、植物から得られたこの複雑な構造をそのまま活かし、発泡体に用いる組成物の原料とすることで、難燃性、抗菌性を有する木質系発泡体を提供するものである。
【0021】
リグニンの原料に特に制限は無い。スギ、マツ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹、タケ、イネワラ、バガス等が使用される。樹木からリグニンを分離し取り出す方法としては、クラフト法、硫酸法、爆砕法などが挙げられる。現在多量に製造されているリグニンの多くは、紙やバイオエタノールの原料であるセルロース製造時に残渣として得られる。入手可能なリグニンとしては、主に硫酸法により副生するリグニンスルホン酸塩があげられる。他にもアルカリリグニン、オルガノソルブリグニン、ソルボリシスリグニン、糸状菌処理木材、ジオキサンリグニン及びミルドウッドリグニン、爆砕リグニンなどがある。本発明に用いるリグニンは、取り出す方法によらず、上記記載のリグニンを用いることができる。
【0022】
取りだした際、リグニン以外の例えばセルロースやヘミセルロースのような成分が、含まれていても良い。また、これらのリグニンをアセチル化、メチル化、ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、硫化ナトリウムや硫化水素との反応等によって作製されたリグニン誘導体も含む。
【0023】
主原料とするリグニンを取得する方法として、水を用いた分離技術を用いた方法が好ましい。使用するリグニンが、水のみを用いた処理方法により、セルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得たリグニンであることが好ましい。また、リグニンを取得する方法としては、水蒸気爆砕法がより好ましい。水蒸気爆砕法は高温高圧の水蒸気による加水分解と、圧力を瞬時に開放することによる物理的破砕効果により、植物を短時間に破砕するものである。
水蒸気爆砕の条件は特に限定しないが、通常、原料を水蒸気爆砕装置用の耐圧容器に入れ、3〜4MPaの水蒸気を圧入し、1〜15分間放置した後、瞬時に圧力を開放することにより爆砕する。なお、前記有機溶媒可溶リグニンは、水蒸気爆砕リグニンとも表す。また、原料としては、リグニンが抽出できれば特に限定しないが、例えば、スギ、竹、稲わら、麦わら、ひのき、アカシア、ヤナギ、ポプラ、バガス、とうもろこし、サトウキビ、米穀、ユーカリ、エリアンサスなどが挙げられる。
この方法は硫酸法、クラフト法など他の分離方法と比較し、硫酸、亜硫酸塩等を用いることなく、水のみを使用するので、クリーンな分離方法である。この方法では、リグニン中に硫黄原子を含まないリグニン、又は、硫黄原子の含有率が少ないリグニンが得られる。通常、リグニン中の硫黄原子の含有率は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。硫黄原子の含有量が増大すると親水性のスルホン酸基が増加するため、有機溶剤への溶解性が低下するおそれがある。本発明者らは、さらに、爆砕物から有機溶媒による抽出により、リグニンの分子量を制御し得ることを見出した。
【0024】
本発明で用いるリグニンの抽出に用いる有機溶媒は、1種又は2種以上複数の混合のアルコール溶媒、アルコールと水を混合した含水アルコール溶媒、そのほかの有機溶媒または、水と混合した含水有機溶媒を使用することができる。水には、イオン交換水を使用することが好ましい。水との混合溶媒の含水率は0質量%〜70質量%が好ましい。リグニンは、水への溶解度が低いため、水のみを溶媒とするとリグニンを抽出することが困難である。また、用いる溶媒を選択することにより、得られるリグニンの重量平均分子量を制御することが可能である。リグニンの抽出に用いられる有機溶媒としては、アルコール、トルエン、ベンゼン、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフランなどがあり、これらは二種類以上、混合して用いることができる。
【0025】
本発明の木質系発泡体の構成の一つとしては、リグニンと少なくとも1種の硬化剤と発泡剤を含む組成物(樹脂組成物)を発泡・硬化させてなる成形体である。さらに、前記組成物は、硬化促進剤及び所望の添加剤を混合しても良い。また、前記組成物は、必要に応じ、有機溶媒を含んでいてもよい。発泡・硬化を促進するため加熱、加圧をして、成形しても良い。前記木質系発泡体は、硬化後に前記リグニンの構造を活かした3次元構造を形成し、さらにエラストマーと海島構造をとることで耐衝撃性や柔軟性も併せ持った強靭な材料となる。
【0026】
本発明で用いる発泡剤として特に制限はないが、有機系と無機系の発泡剤が使用できる。有機系発泡剤としては、石油エーテル、ナフサ、ペンタン、ヘキサン等の低沸点炭化水素、ヒドラゾカルボンアミド、p,p′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の反応型の有機発泡剤が挙げられる。無機系の発泡剤としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ルビジウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸亜鉛、炭酸鉄等の金属炭酸塩、または炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マンガン、炭酸水素亜鉛、炭酸水素鉄等の金属炭酸水素塩が挙げられる。樹脂組成物成分(固形分)に対する発泡剤の含有量は、1〜40質量%の範囲が好ましく、2〜20質量%の範囲がより好ましい。発泡剤の含有量が1質量%未満であると、発泡が不十分となる。また発泡剤の含有量が40質量%を超えるとガスの生成が過剰となり、発泡体中のセルの形成が不均一になり発泡体の強度が低下してしまう。
また、本発明の発泡体は、整泡剤を含んでも良い。整泡剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールモノアテアレート等が挙げられる。これは、1種又は2種類以上を併用しても良い。
【0027】
本発明で用いる、樹脂組成物の固形分中の硬化剤の含有量は、好ましくは、20〜95質量%であり、30〜80質量%の範囲がより好ましい。硬化剤の含有量が20質量%未満であると、硬化が不十分となるおそれがある。また硬化剤の含有量が95質量%を超えても、硬化が不十分となるおそれがある。
本発明で用いる硬化剤としてイソシアネートが挙げられる。イソシアネートには、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0028】
本発明で用いる硬化剤としてエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂には、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシがある。また、さらに天然由来物質から得られたエポキシ樹脂であることが環境負荷低減化の観点で好ましい。具体的には、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸エステル類、エポキシ化アマニ油、ダイマー酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
本発明で用いる硬化剤としてアルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物が挙げられる。アルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロラール、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドを生成する化合物としては、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。特にヘキサメチレンテトラミンが好ましい。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することもできる。また、硬化性、耐熱性の面からヘキサメチレンテトラミンが好ましい。
【0030】
本発明で用いる硬化剤として多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族多価カルボン酸や、トリメリット酸、ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族多価カルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物の具体例としては、例えば、マロン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、スベリン酸無水物、アゼライン酸無水物、エチルナジック酸無水物、アルケニルコハク酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物等の脂肪族多価カルボン酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族多価カルボン酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0031】
本発明で用いる硬化剤として不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物が挙げられる。不飽和多価カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、クロトン酸、α−エチルアクリル酸、α−n−プロピルアクリル酸、α−n−ブチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などが挙げられる。また、不飽和多価カルボン酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シス−1,2,3,4−テトラヒドロフタル酸無水物などが挙げられる。不飽和多価カルボン酸または不飽和多価カルボン酸無水物が、リグニンが有する水酸基と反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0032】
硬化促進剤としては、シクロアミジン化合物、キノン化合物、三級アミン類、有機ホスフィン類、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられる。
【0033】
本発明の木質系発泡体の製法の一つとしては、リグニンと少なくとも1種の硬化剤と硬化促進剤に加えて、発泡剤、整泡剤を予め混合し、加熱硬化させる過程で発泡させる方法が使用できる。また成形方法としては、スラブ発泡法、注入発泡法、モールド発泡法、連続ラミネート、スプレー発泡法なども使用することができる。
例えば、モールド発泡法であれば、SUS製の金型内で、樹脂組成物を、60〜150℃、5〜20分間反応・発泡させ、木質系発泡体を製造する。また、例えば、注入発泡法であれば、射出成形機等により、樹脂組成物を、ノズル温度80〜200℃、射出圧力1〜30MPa、型締圧力1〜30MPa、金型温度50〜300℃、硬化時間1分〜100分の条件で射出、成形し、木質系発泡体としてもよい。また例えば、ブロック発泡(スラブ発泡)であれば、紙などの上で自由発泡させ、連続ラミネート発泡であれば、二枚の紙や板などの間に注入し、連続的に発泡させサンドウィッチ状の木質系発泡体を得る。また、スプレー発泡法であれば、建設現場などで、吹きつけながら反応・発泡させ、木質系発泡体を得ることができる。
【0034】
前記のようにして得られた木質系発泡体は、樹脂成分としてリグニンを含有している。リグニンはフェニルプロパンの架橋体であり、フェノール樹脂と同様に芳香族環を多く含む。芳香族環炭素は容易に燃焼せず炭化反応を起こす事から、本発明の木質系発泡体は難燃性に優れている。さらに分子内に多くのフェノール性水酸基を有する事から、微生物等に対する抗菌作用を有している。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(リグニンの抽出)
リグニン抽出原料としては、竹を使用した。適当な大きさにカットした竹材を水蒸気爆砕装置の3Lの耐圧容器に入れ、3.5MPaの水蒸気を圧入し、4分間保持した。その後バルブを急速に開放することで爆砕処理物を得た。洗浄液のpHが6以上になるまで得られた爆砕処理物を水により洗浄して水溶性成分を除去した。その後、真空乾燥機で残存水分を除去した。得られた乾燥体:100gに抽出溶媒(アセトン)1000mlを加え、3時間攪拌した後、ろ過により繊維物質を取り除いた。得られた濾液から抽出溶媒(アセトン)を除去し、リグニンを得た。得られたリグニンは常温(25℃)で茶褐色の粉末であった。
【0036】
(リグニンの分析)
溶媒溶解性としては、前記リグニン:1gを、有機溶媒:10mlに加えて評価した。常温(25℃)で容易に溶解した場合は「○」、50〜70℃で溶解した場合は「△」、加熱しても溶解しなかった場合を「×」として、評価した。溶媒群1としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、溶媒群2としてメタノール、エタノール、メチルエチルケトンとして溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも「○」、溶媒群2ではいずれも「△」の判定であった。
【0037】
リグニン中の硫黄原子の含有率は燃焼分解−イオンクロマトグラフ法により定量した。装置は株式会社三菱化学アナリテック製自動試料燃焼装置(AQF−100)及び日本ダイオネクス株式会社製イオンクロマトグラフ(ICS−1600)であり、上記リグニン中の硫黄原子の含有率は0.2質量%であった。さらに示差屈折計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にてリグニンの分子量を測定した。多分散度の小さいポリスチレンを標準試料として用い、移動相をテトラヒドロフランとして使用し、カラムとして株式会社日立ハイテクノロジーズ製ゲルパックGL−A120SとGL−A170Sとを直列に接続して分子量測定を行った。その重量平均分子量は2400であった。
【0038】
上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量は無水酢酸−ピリジン法により水酸基価、電位差滴定法により酸価を測定し求めた(下記の水酸基当量及びエポキシ当量の単位は、グラム/当量であって以下g/eq.で表わす。)。アセトン抽出竹由来リグニンの水酸基当量は140g/eq.であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を以下の方法で決定した。リグニン:2gのアセチル化処理を行い、未反応のアセチル化剤を留去し、乾燥させたものを、重クロロホルムに溶解させ、1H−NMR(BRUKER社製、V400M、プロトン基本周波数400.13MHz)により測定した。アセチル基由来のプロトンの積分比(フェノール性水酸基に結合したアセチル基由来:2.2〜3.0ppm、アルコール性水酸基に結合したアセチル基由来:1.5〜2.2ppm)からモル比を決定したところ、P/A比は2.2/1.0であった。
【0039】
(木質系発泡体の作製)
実施例1記載のリグニンとエポキシ樹脂との相溶性を評価した。前記リグニン:1g、シクロヘキサノン:1g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C、東都化成株式会社製):1gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、分離せず、析出物がないことを目視で確認した。
攪拌羽根のついた300mLの4ツ口セパラブルフラスコに、前記リグニン:12gと硬化剤としてビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YDF−8170C、東都化成株式会社製、エポキシ当量:156g/eq.):9.3g、硬化促進剤としてイミダゾール(キュアゾール2PZ−CN、四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)の10質量%溶液:0.93gを加え、さらに発泡剤として炭酸マグネシウム:2.7g、整泡剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート:0.2gを常温(25℃)で2時間攪拌し、発泡体用樹脂組成物を得た。樹脂組成物の固形分中のリグニン含有量(植物由来度)は49質量%であった。
【0040】
この発泡体用樹脂組成物を予め180℃に保持した100×100mm、深さ50mmのSUS製の金型に充填し、120分間発泡・硬化を行い、木質系発泡体を得た。JIS K7222に準拠して測定された木質系発泡体の密度は48kg/mであった。
【0041】
(抗菌性試験)
JIS Z2801に準じて、黄色ぶどう球菌、大腸菌に対する抗菌性を評価した。試験片上に菌液(生菌数2.5〜10×10の5乗個/mL):0.4mLを播き、厚さ:1mmに切り出した上記木質系発泡体をかぶせ35℃±1℃、24時間培養した。試験片上の生菌数を測定するため、サンプリングし、サンプルを適宜希釈し、寒天平板培養にて35℃±1℃、48時間培養して生菌数を得た。
R=[Log(B/A)−Log(C/A)]=[Log(B/C)]
R:抗菌活性値
A:無加工試験片における接種直後の生菌数の平均値(個)
B:無加工試験片における24時間後の生菌数の平均値(個)
C:抗菌加工試験片における24時間後の生菌数の平均値(個)
抗菌活性値2以上を抗菌性ありとした。形成された被膜の抗菌活性値は大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して、それぞれ6.5、5.2であった。
【0042】
(実施例2)
(リグニンの抽出及び分析)
抽出溶媒としてメタノールを用いた以外は実施例1と同様にしてリグニンを得た。実施例1と同様に元素分析及び分子量測定をした結果、それぞれリグニン中の硫黄原子の含有率:0.2質量%、重量平均分子量は1900であった。実施例1と同様に溶媒溶解性を評価した結果、溶媒群1ではいずれも「○」、溶媒群2ではいずれも「○」の判定であった。リグニンのフェノール性水酸基とアルコール性水酸基のモル比(以下P/A比)を実施例1と同様の方法で実施した。
実施例2で得られたリグニンのP/A比は、1.6/1.0であった。実施例1と同様に上記で得られたリグニン(有機溶媒可溶リグニン)の水酸基当量を測定した結果、水酸基当量は、120g/eq.であった。
【0043】
(木質系発泡体の作製)
実施例2記載のリグニン:10g、硬化促進剤としてジラウリン酸ジブチルすず(IV)(和光純薬工業株式会社製):0.12gを加え、十分に攪拌した後、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(和光純薬工業株式会社製):1.8g、さらに発泡剤として炭酸カルシウム:1.5g、整泡剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート:0.12gを常温(25℃)で2時間攪拌し、発泡体用樹脂組成物を得た。樹脂組成物の固形分のリグニン含有量(植物由来度)は74質量%であった。
この発泡体用樹脂組成物を予め180℃に保持した100×100mm、深さ50mmのSUS製の金型に充填し、120分間発泡・硬化を行い、木質系発泡体を得た。JIS K7222に準拠して測定された木質系発泡体の密度は60kg/mであった。
【0044】
(抗菌性評価)
実施例1と同様に抗菌試験を実施した。作製した木質系発泡体の抗菌活性値は大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して、それぞれ6.4、5.1であった。
【0045】
(比較例1)
(溶解性評価)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(バニレックスN、日本製紙株式会社製)を用い、樹脂組成物の作製を試みた。樹脂組成物の作製に先立ち、実施例1と同様に有機溶剤への溶解性を評価した。溶媒としてアセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンを用いて溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
【0046】
(発泡体の作製)
実施例1と同様にエポキシ樹脂との相溶性を評価した。前記リグニンスルホン酸:1g、シクロヘキサノン1g、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ(YDF−8170C、東都化成株式会社製、エポキシ当量156g/eq.):1gを混合し、常温(25℃)で2時間攪拌した。その結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、発泡体を作製できなかった。
【0047】
(比較例2)
(発泡体の作製)
リグニンとしてリグニンスルホン酸塩(サンエキスP321、日本製紙株式会社製)を用いた以外は比較例1と同様に発泡体の作製を試みた。ワニスの作製に先立ち、比較例1と同様に有機溶剤への溶解性を評価した結果、すべての溶媒に不溶であった。
エポキシ樹脂との相溶性を評価した結果、リグニンスルホン酸とエポキシ樹脂が相分離し、発泡体を作製できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン、硬化剤及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡・硬化させてなる木質系発泡体であって、前記リグニンが有機溶媒に可溶であり、前記樹脂組成物の固形分中のリグニンの含有量が5〜80質量%であることを特徴とする木質系発泡体。
【請求項2】
リグニンの重量平均分子量が、100〜7000である請求項1に記載の木質系発泡体。
【請求項3】
リグニン中の硫黄原子の含有率が、2質量%以下である請求項1又は2に記載の木質系発泡体。
【請求項4】
リグニンが、水のみを用いた処理方法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項5】
リグニンが、植物原料に水蒸気を圧入し、瞬時に圧力を開放することで植物原料を爆砕する水蒸気爆砕法によりセルロース成分、ヘミセルロース成分から分離し、有機溶媒に溶解させることにより得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項6】
発泡剤が、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、炭化水素、ヒドラゾカルボンアミド、p,p′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項7】
硬化剤が、イソシアネートである請求項1〜6のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項8】
硬化剤が、エポキシ樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項9】
硬化剤が、アルデヒド又はホルムアルデヒドを生成する化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項10】
硬化剤が、多価カルボン酸又は多価カルボン酸無水物である請求項1〜6のいずれかに記載の木質系発泡体。
【請求項11】
硬化剤が、不飽和多価カルボン酸又は不飽和多価カルボン酸無水物である請求項1〜6のいずれかに記載の木質系発泡体。

【公開番号】特開2011−219734(P2011−219734A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20614(P2011−20614)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】