説明

杭の埋設方法

【課題】所定の支持層に達するまでに中間層と呼ばれる堅固な地層を容易に貫通させ、杭周面摩擦力を大きくして杭の垂直荷重支持力を増大するとともに、掘削残土を低減あるいはゼロとすることを可能とする杭の無排土埋設方法を提供すること。
【解決手段】先端に掘削ヘッドが装着されるとともに、少なくとも埋設する既製杭と注入するセメントミルクの体積に相当する容積の周辺地盤を側方に締め固めて圧密するテーパー部とこれに連続する円筒部とから構成されたケーシングと、該ケーシングの内方に配設され先端に掘削ビットを有するオーガーとをそれぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、所定の深度まで掘削した後前記オーガーを地上に引き上げ、この引き上げ時又はその後において前記ケーシング内の土砂にセメントミルクを注入して攪拌し、前記ケーシング内に杭を建て込み、次いでケーシングを地上に引き上げて、杭を無排土で埋設することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既成杭を埋設する方法、特に杭施工時に掘削残土を地上に排出しないで既成杭を埋設する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設における環境問題に対する取り組みの一つに、建設や解体に伴って発生する産業廃棄物の低減が挙げられる。産業廃棄物低減の対象は多岐に渡るが、建築基礎構造の分野では杭施工時に発生する掘削残土の処分がその一つとして挙げられており、従来より社会的に大きな課題となっている。
【0003】
現在使用されている杭は、主に(1)既製コンクリート杭、(2)場所打ちコンクリート杭、(3)鋼管杭であり、経済性等から(1)既製コンクリート杭と(2)場所打ち杭の施工実績が多くなっている。上記(1)(2)の杭については、その施工方法の主流はともに、予め地盤を掘削してその中に杭材を設置する方法であり、施工に伴って大量の掘削残土が発生している。
【0004】
上記の近年の環境問題に対する社会的な要求に加え、産業廃棄物処分場の減少に伴う産業廃棄物処分に係る費用の増加が予想されることなどから、既製コンクリート杭や鋼管杭等の既成杭を中心として掘削残土を低減あるいはゼロとする杭の埋設工法の開発が積極的に行われるようになっている。
【0005】
これまでに掘削残土を低減する工法として、次のような工法が開発されている。
(a) 既製コンクリート杭及び鋼管杭を打ち込む打ち込み杭工法
(b) 圧密先掘り工法
(c) 先端羽根付鋼管杭工法
(d) 先端羽根付既製コンクリート杭工法
(e) ダブルオーガー中堀杭工法
上記(a)の打ち込み杭工法は、ハンマーなどを用いて杭材を地盤中に打ち込むかあるいは圧入することによって施工する方法であるが、騒音や振動の問題があり施工地域が限定されることから、掘削残土を低減あるいはゼロとする方法としては、今後あまり期待することができない。
【0006】
上記(b)の圧密先掘り工法について、特開平07−293850号公報には、
『上方に向けて拡大する円錐面および周縁に圧土縁を有する螺旋面を備えたオーガヘッドを、垂直な直円筒状のケーシングの下端に装着するとともに、上記ケーシングの下端部付近の外周面に、前記の圧土縁の外径よりも大径の圧密シューを固着し、かつ、前記ケーシングの下端部以外の外周面に、垂直方向の突条を固定し、上記ケーシングの上端部に回転力を与えつつオーガヘッドを地中に螺入し、オーガヘッドが土壌中に拡開した穴の内周面を前記の圧密シューで圧密しつつ更に拡開して、円筒状の圧密土壁を形成し、前記ケーシングに設けた突条の頂面を、上記圧密土壁の内周面に沿って滑らせて回転摩擦を軽減しつつ前記オーガヘッドおよび圧密シューに回転エネルギーを供給し、無排土で、土壌中に垂直円柱面を有する穴を形成するとともに、前記の圧密土壁によって穴内面の崩落を防止することを特徴とする、基礎杭の無排土施工方法。』(請求項6)、
が開示されている。
しかし、この工法は、掘削土を排出することなく周辺へ圧密させながら装置を貫入させるため、圧密シューに作用する地盤反力や回転時にケーシングの周面に作用する摩擦力が大きく、ケーシングを回転させる駆動装置には過大な負荷がかかる。
このため、この工法を適用可能な地盤条件は軟弱地盤に限られ、汎用性がない。
【特許文献1】特開平07−293850号公報
【0007】
上記(c)の先端羽根付鋼管杭工法は、鋼管の先端に螺旋状の鋼製の羽根を溶接した下杭鋼管を全旋回機等で回転し、先端羽根のくさび効果で地盤中に所定深さまで貫入して、その上端に羽根を有しない上杭鋼管を溶接・接続した後回転圧入する工程を繰り返し実行して設置する方法である。
また、これとは別に、特開平9−49229号公報には、
上端から軸方向の中間部までの区間の中空の円筒部と、中間部から下端までの区間の先端部に区分され、円筒部は鋼管であり、外周に螺旋状の突条が形成された中空の先端部は円筒部側から先端へかけて外径が縮小する立面形状をした杭が、圧入時に螺旋状の突条が進行する向きに回転が加えられて、先端部の周囲の土砂をその周辺地盤に圧密させながら、地中に直接、または先掘り工法,もしくは中掘り工法で圧入されて設置される螺旋状突条付鋼管杭工法が、開示されている。
これらの先端羽根付鋼管杭工法や螺旋状突条付鋼管杭工法は、重量構造物の大型の基礎から住宅などの比較的軽量な基礎まで幅広く対応した施工方法となっているが、鋼管杭は埋め殺しとされ反復利用するものではないので、鋼管杭先端に高価な掘削ヘッドを具備させることができず、地盤を掘削するオーガーヘッドを持つオーガーを使用しても、所定の支持層に達するまでに中間層と呼ばれる堅固な地層が介在する場合、中間層を貫通させるための施工が困難となることが多く、また、鋼管杭であることから、杭周面摩擦力が小さくなることや材料原価が高額なこともあって、住宅用を除き十分に普及するまでには至っていないのが現状である。
また、上記(d)の先端羽根付既製コンクリート杭工法は、上記(c)の先端羽根付鋼管杭工法と同様、既製コンクリート杭の先端に鋼製の羽根を取り付ける方法であるが、(c)同様施工する地盤条件が限定されることや羽根の材料費などの問題があり施工実績が少ない(特許文献3、特許文献4)。
【特許文献2】特開平9−49229号公報
【特許文献3】特開2001−248157号公報
【特許文献4】特開2002−081059号公報
【0008】
上記(e)のダブルオーガー中堀杭工法は、特開2005−248439号公報に開示さているように、
『先端に掘削ヘッドを装着してあると共に先端部を下窄まりのテーパー状に成形してあるケーシングとオーガーとを杭の埋設地点においてケーシングの内方にオーガーを挿入して配置し、同時に又は別々に起動してそれぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、掘削した土砂の一部を一時的に地上に上げて残置しておき、所定の深度まで掘削した後、オーガ−を地上に引き揚げて杭を建て込み、ケーシングと杭の隙間を掘削した地中の土砂で埋め、次いでケーシングを地上に引き揚げて、地上に残置した土砂の全量をケーシングを引き揚げた空洞部分及び杭の内方へ埋め戻して地上に土砂を残さないようにして杭を埋設する方法。』(請求項1)、
である。
この杭を埋設する方法は、杭打機を小型化でき、また、併用するオーガーも容量が小さいもので済むなど施工に関する経費負担を軽減できるが、土砂を地上に排出して一時的地上に残置しておいて、ケーシングを引き揚げた後に、ドーナツ状の空洞部や既成杭の中空部へ土砂を埋め戻すことが必要であることから、作業効率が必ずしも良くない。また、杭の外周部は埋め戻しの掘削土であるからその密度が小さい。このため、杭周面摩擦力が小さいことから、大きな杭の垂直荷重支持力が得られない。
【特許文献5】特開2005−248439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように既往の工法は、限定された地盤条件、コスト高、支持性能低下、振動・騒音などの課題を抱えており、掘削残土低減工法として定着するに至っていない。
本発明は、これらの課題を解決するために創案されたもので、杭は材料費の比較的安価な既製杭を対象として、特殊なケーシングを用いて施工することにより、所定の支持層に達するまでに中間層と呼ばれる堅固な地層を容易に貫通させ、杭周面摩擦力を大きくして杭の垂直荷重支持力を増大するとともに、杭材料コストを低減しつつ、掘削残土を低減あるいはゼロとすることを可能とする杭の無排土埋設方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、先端に掘削ヘッドが装着されると共に埋設する既製杭と注入するセメントミルクの体積に相当する容積の周辺地盤を側方に締め固めて圧密するテーパー部とこれに連続する円筒部とから構成されたケーシングと、該ケーシングの内方に配設され先端に掘削ビットを有するオーガーとをそれぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、所定の深度まで掘削した後前記オーガーを地上に引き上げ、この引き上げ時又はその後において前記ケーシング内の土砂にセメントミルクを注入して攪拌し、前記ケーシング内に杭を建て込み、次いでケーシングを地上に引き上げて、杭を無排土で埋設することとした。
請求項2に係る発明は、前記ケーシングを地上に引き上げるときこれを上下に揺動して、該ケーシングと前記杭周壁の間のソイルセメントの下方への移動を促進することとした。
請求項3に係る発明は、前記ケーシングを地上に引き上げるとき、前記ケーシングのテーパー部に形成されたソイルセメント排出用孔を介して、該ケーシングと前記杭周壁の間のソイルセメントの下方への移動を促進することとした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、埋設する既製杭と注入するセメントミルクの体積に相当する容積の周辺地盤を側方に締め固めて圧密することとしたので、杭材料コストを低減しつつ、杭周面摩擦力を大きくして杭の垂直荷重支持力を増大するとともに、掘削残土を低減あるいはゼロとすることを可能とすることができる。
また、先端に掘削ヘッドが装着されたケーシングと、該ケーシングの内方に配設され先端に掘削ビットを有するオーガーとをそれぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、所定の深度まで掘削することとしたので、所定の支持層に達するまでに中間層と呼ばれる堅固な地層を容易に貫通させ、ローコストで鉛直精度の高い杭の施工が可能となり、ベースマシンやリーダに作用する反動トルクを打ち消してそれらの操作を円滑にすることができる。
請求項2及び請求項3に係る発明によれば、請求項1に係る発明の効果に加え、ケーシングと杭周壁の間のソイルセメントをスムースに下方に案内することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、ケーシングのテーパー部によって、既製杭の実容積、すなわち、打設する中空既製杭の中空部の体積を除いた容積と、注入するセメントミルクの容積とを合計した、少なくとも充填を要する容積分に相当する周辺地盤を側方に締め固めて圧密することにより作り出した空間部分に既製杭とセメントミルクを充填することにより、無排土で既製杭を埋設するものである。
【0013】
掘削する土壌は地域によりその性状は千差万別であって、粘土質であったり礫質であったりするから、注入するセメントミルクと土壌の配合割合は、この性状に合わせて適宜調整する必要がある。
一方、掘削土壌の量はケーシング先端に装着された掘削ヘッドの掘削径により決定され、既製コンクリート杭の実容積は埋設する杭により決定付けられる。
このため、セメントミルクの充填量に応じてケーシングの円筒部の内径が変更される。
以上により、掘削土は一時的といえども地上に排出されることなく、既製コンクリート杭を埋設することが可能となる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明に係る杭の無排土埋設方法の実施例を図面に基づいて詳しく説明する。
埋設する既成杭としては、既製コンクリート杭、外殻鋼管コンクリート杭、鋼管杭等があるが、本実施例においては、経済性、無排土での施工容易性等を考慮して、中空既製コンクリート杭を用いている。
図1は、本発明の施工手順を模式的に示すもので、左から順に、地盤の周辺を側方に締め固めて圧密しつつ所定深さまで掘削する掘削工程、セメントミルクと掘削土を混合攪拌する混合攪拌工程、混合攪拌されてスラリー状のソイルセメント内に杭を建て込む杭建込工程、ケーシングを引き抜くケーシング引抜工程を表している。
図2は、掘削用ケーシングと既製コンクリート杭の先端部の拡大図である。
なお、図1において、掘削ヘッド3については、掘削工程のみ図示しその他の工程では図示を省略している。
【0015】
図1、2において、1は掘削用ケーシング、2はオーガー、3は掘削ヘッド、4は掘削ビット、5は攪拌装置、6は中空既製コンクリート杭、7は内外独立した推進機構を具備するダブルオーガー式掘削機の内側推進機構、8は掘削用ケーシング1のテーパー部、9は閉塞板、10は支持層である。
【0016】
この掘削装置を用いて長さ10mの既製コンクリート杭を打設することにより、支持層に到達する地盤における既製コンクリート杭の無排土埋設方法を実施例として説明する。
既製コンクリート杭6は、周辺土壌の圧密の度合いを低くして掘削用ケーシング1の駆動エネルギーを節減するため、その容積を減少するべく極力中空の既製杭を用いることが望ましい。
かくしてこの中空既製コンクリート杭6は、構造物荷重と杭を打設する地盤等の条件を勘案して、長さ10m、外径500mm、肉厚80mmの寸法を有するものとしている。
【0017】
掘削用ケーシング1は、肉厚20mmの円筒形鋼管で、先端部は周辺地盤を側方に締め固めて圧密するため、先端に向かって縮径テーパー部8とされ、その角度は掘削装置に対する負荷、円滑な掘進、効率的な地盤の圧密等を考慮して決定される。
本実施例においては、掘削用ケーシング1の軸に対して約20度傾斜させてある。
3は掘削ヘッドである。その高さhは200mm、その厚みは、掘削用ケーシング1本体の肉厚20mmより厚いものとされている。掘削ヘッド3は、左回転したときに後述するオーガーの掘削ビットと協働して地盤を掘削するよう配列されている。
【0018】
上記のテーパー部8には、図示を省略してあるが、周方向に離間して後述するソイルセメントを掘削用ケーシング1の内部から下方に排出するための排出孔が穿設されている。掘削中においては、掘削用ケーシング1が地盤中に回転しつつ推進されるから、初期においてはこの排出口から掘削土が掘削用ケーシング1内に進入してくるが、ケーシング1内の掘削土の土圧により徐々に進入してこなくなる。
そして、この排出口を形成することは、掘削用ケーシング1を引き抜くときにソイルセメントを掘削用ケーシング1の内部から下方に排出する上で有効である。
図2の破線9で示されるものは、この排出孔を閉塞して掘削中に掘削土が掘削用ケーシング1内に進入することを防止するための閉塞板を示している。
この閉塞板9は、上端部がケーシング1本体に枢着されていて、掘削中には下からの土圧により閉じた状態となり、掘削用ケーシング1が引き上げられるときには開放した状態となるものである。
【0019】
掘削用ケーシング1の掘削径、すなわち掘削ヘッド3の内径dは、ケーシング1を引き上げる段階で後述するソイルセメントを掘削ヘッド3の内周面と中空既製コンクリート杭6の外周面の間からすり抜けさせて、掘削用ケーシング1の内部から下方に円滑に排出するため、中空既製コンクリート杭6の外径dより100mm程度大きく設定することが望ましい。このため本実施例では130mm大きく設定してある。
本発明の掘削用ケーシング1は、円筒形の掘削ヘッド3に続けてテーパー部8を形成し、これに円筒形の鋼管が接続されている。
この構造を備えた掘削用ケーシング1が地盤中に圧入されて掘進されると、直径が上記掘削ヘッド3の円筒内径d、高さが10mの掘削土の柱状体が掘削用ケーシング1内に取り込まれる一方、掘削ヘッド3の外側に位置する周辺地盤は、テーパー部8に沿って外側方に案内されて、内径dのケーシング外壁位置まで圧密されることとなる。
この結果、掘削用ケーシング1内には、掘削土により占有されない空間が作り出される。この空間は、ケーシング1内部に中空既製コンクリート杭6及びセメントミルクを、掘削土を地表に排出することがない無排土の状態で、埋設するために有効に利用される。
【0020】
ここで、本発明において新たに作り出すべき空間の容量について説明する。
施工現場において事前に土質調査を行った結果、その土質は地表から0.4〜5.0mの深さに亘ってローム層、5.0mより深いところではシラス層であり、N値は13mの深さで30超であることが判明した。この調査結果により、次の事項が決められた。
1、埋設すべき杭 杭径500mm、肉厚80mm、長さ10m
2、掘削径 杭径+130mmの630mm
3、ケーシング内に収容すべき掘削土の容量(実際に掘削した土の1割増を見込む)
3.43m
4、注入すべきセメントミルク(W/C=60%)の容量
0.49m(掘削土:セメントミルクの容量比=7:1)
5、中空既製コンクリート杭の実容量
1.06m
6、新たに作り出すべき空間容量(上記4+5)
1.55m
7、上記3と6の合計容量
4.98m
【0021】
計画準備されている掘削用ケーシングのうち、上記合計容量の4.98mを収容可能な最小のものは、内径800mm、容量5.02mのものである。
よって、実際に使用する掘削用ケーシング1としては、このサイズのものが選択される。
以上の説明のとおり、埋設される杭径によってケーシングの掘削径dが、埋設される杭の実容積とセメントミルクの注入量によってケーシングの円筒内径dが決定される。
したがって、本発明を具体的に実施する形態としては、杭の外径dを100mm単位で複数種類、各外径dに対応するケーシングの掘削径d、各掘削径dに対応するケーシング円筒内径dをそれぞれ複数種類、例えばd=630mmに対応して、d=800mmとd=900mmのように、製作モジュールとして事前に計画準備しておくとよい。
このように、同一のdに対してdを変更すると、選択したケーシングの空間容量が上記7の合計容量に対して著しく大きく、中空既製コンクリート杭と地盤土壌との間に空隙ができることがある。このような場合は、中空既製コンクリート杭先端を閉鎖して掘削土等を中空部に充填しない、現場内の他の工事で発生する土を利用する等、状況に応じて適宜対応すればよい。
【0022】
図1において、2は先端に掘削ビット4を有するオーガーである。
オーガー2の回転軸上端部と掘削用ケーシング1上端部は、内外独立した推進機構を具備するダブルオーガー式掘削機に、オーガー回転軸を正回転、ケーシングを逆回転して、互いに反対方向に回転するように結合されていて、掘削用ケーシング1の掘削ヘッド3とオーガー2先端の掘削ビット4は、協働して中間砂礫地盤等の強固な地盤を噛み砕くようにして確実に掘削するものである。
このオーガー2は、回転軸に右ネジ方向に螺旋翼が固定されているが、この螺旋翼の上端は掘削用ケーシング1の上端より低い位置に設定されている。この構成により、掘削土は螺旋翼によって掘削用ケーシング1内を上方へ移動するものの、掘削用ケーシング1内に留まり、外部へ排出されて地上に排出・残留されることはない。
先端に掘削ヘッド3が装着された掘削用ケーシング1と、該ケーシング1の内方に配設され先端に掘削ビット4を有するオーガー2とは、それぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、所定の深度まで掘削することとなるから、鉛直精度の高い杭の施工が可能となり、ベースマシンやリーダに作用する反動トルクを打ち消してそれらの操作を円滑にすることができる。
【0023】
この掘削機には、図示を省略するがスイベル機構が内蔵されている。
所定の深度まで掘削されたら、図1に示すように、掘削土を掘削用ケーシング1の上端部から外に排出させないためにオーガー2を逆転させつつ、スイベル機構を駆動してその回転軸先端からセメントミルクを吐出させながらオーガー2を引き上げる。
次いで、回転軸に攪拌翼片が間隔をおいて螺旋状に植設された攪拌装置5を回転しつつ上下動しながら挿入して、掘削用ケーシング1内の掘削土と注入したセメントミルクを混合・攪拌する。
セメントミルクの配合は、上記したように地盤条件や設計条件等によって決定される配合とする。
このように、ケーシング1内で掘削土とセメントミルクを混合・攪拌することにより、その後において圧入される中空既製コンクリート杭6の内外壁に隣接して信頼性の高いソイルセメントを構築することができる。
そして、杭周面地盤に原地盤に比較して高強度の領域を、上記した従来の工法に比較して大きく形成することができるから、杭周面において大きな摩擦支持力を得ることができる。
なお、本実施例においては、オーガー2と攪拌装置5を別のもので構成しているが、図1に示されたオーガー2の螺旋翼の上半部を攪拌翼片としたものを用いれば、両装置を交換することなく、掘削と混合・攪拌を同じ装置で実施することができる。
【0024】
掘削土とセメントミルクの混合攪拌が終了した段階で、攪拌装置5を引き上げて、中空既製コンクリート杭6を、上端を内外独立した推進機構を具備するダブルオーガー掘削機の内側推進機構7に結合して、スラリー状のソイルセメント中に回転しながら圧入して建て込む。
このとき、中空となっている既製コンクリート杭6内部にもソイルセメントが充填される。
【0025】
中空既製コンクリート杭6を建て込んだ後、掘削用ケーシング1を引き上げる。
このとき、掘削用ケーシング1を右方向に逆転しながら上下に揺動して、ソイルセメントを掘削ヘッド3の内周面と中空既製コンクリート杭6の外周面の間からすり抜け易くして、掘削用ケーシング1の内部から下方に円滑に排出するようにするとよい。
ケーシング引き抜き後、杭の鉛直ならびに水平位置を確認し、所定位置からずれている場合には、杭頭部で再調整する。
この段階では、中空既製コンクリート杭6の内外に位置するソイルセメントはスラリー状であるから、セメントミルクの一部は周辺地盤に浸透する。
このことにより、セメントミルクは中空既製コンクリート杭の外周部においてその後固化してコンクリートとなり、その表面が周辺地盤と組織的に一体化されたものとなる。
【0026】
このように本発明の杭の無排土埋設方法は、埋設する既製コンクリート杭と注入するセメントミルクの体積に相当する容積の周辺地盤が、掘削用ケーシング1のテーパー部8にて側方に締め固められて圧密され、セメントミルクは埋設した中空既製コンクリート杭の外周部においてその後固化してコンクリートとなり、杭周面摩擦力を大きくして杭の垂直荷重支持力を増大することができる。
また、掘削作業中において掘削残土を地表に排出することはないので、掘削残土を地盤中に埋め戻す作業も不要として杭の埋設作業の効率を向上することができるばかりでなく、掘削残土を低減あるいはゼロとすることが可能となるので、産業廃棄物の発生自体を皆無とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の施工手順を模式的に示すものである。
【図2】既製コンクリート杭の先端部の拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 掘削用ケーシング
2 オーガー
3 掘削ヘッド
4 掘削ビット
5 攪拌装置
6 中空既製コンクリート杭
7 内外独立した推進機構を具備するダブルオーガー掘削機の内側推進機構
8 掘削ケーシングのテーパー部
9 閉塞板
10 支持層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に掘削ヘッドが装着されるとともに、少なくとも埋設する既製杭と注入するセメントミルクの体積に相当する容積の周辺地盤を側方に締め固めて圧密するテーパー部とこれに連続する円筒部とから構成されたケーシングと、該ケーシングの内方に配設され先端に掘削ビットを有するオーガーとをそれぞれ反対方向に回転させながら掘削を進め、所定の深度まで掘削した後前記オーガーを地上に引き上げ、この引き上げ時又はその後において前記ケーシング内の土砂にセメントミルクを注入して攪拌し、前記ケーシング内に杭を建て込み、次いでケーシングを地上に引き上げて、杭を無排土で埋設する方法。
【請求項2】
前記ケーシングを地上に引き上げるときこれを上下に揺動して、該ケーシングと前記杭周壁の間のソイルセメントの下方への移動を促進することを特徴とする請求項1に記載された杭を無排土で埋設する方法。
【請求項3】
前記ケーシングを地上に引き上げるとき、前記ケーシングのテーパー部に形成されたソイルセメント排出用孔を介して、該ケーシングと前記杭周壁の間のソイルセメントの下方への移動を促進することを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載された杭を無排土で埋設する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297752(P2008−297752A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143272(P2007−143272)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】