板材又は構造体の軽量化手法
【課題】軽量で、且つ、剛性の大きな板材の提供
【解決手段】中央平板部12と、この中央平板部12の両端から下げた壁部14とを含む板材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に26を開ける穴開け工程と、からなる。
【効果】穴は曲げ応力を計算した上で曲げ応力が低い部位に配置される。曲げ応力が低い部位に穴を配置することから、強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
【解決手段】中央平板部12と、この中央平板部12の両端から下げた壁部14とを含む板材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に26を開ける穴開け工程と、からなる。
【効果】穴は曲げ応力を計算した上で曲げ応力が低い部位に配置される。曲げ応力が低い部位に穴を配置することから、強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材又は構造体の加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費を考えた場合、車体は軽量である方が望ましい。車体の軽量化を図る方法の1つとして車体フレームに多数の穴を開けることにより、車体の軽量化を図ることが行われている。
【0003】
従来軽量化した車体の部材として多孔インナーパネルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−82796公報(図1)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構成を説明する図であり、多孔インナーパネル100は、所定の形状に構成された本体101と、この本体をくり抜いて台形や四角形に構成された窓部102と、本体のうち窓部102以外の全体にパンチ等で穴開けされた微細な多数の穴103とから構成される。
【0005】
このような多孔インナーパネル100によれば、窓部102及び穴103の部分の材料の重さ分だけ本体101の軽量化を図ることができる。
【0006】
しかし、このような多孔インナーパネル100は、パネル全面に穴103が配置されているため、入力が大きいエリアは強度、剛性が不足する可能性がある。
【0007】
強度、剛性の大きな板材又は構造体の提供が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、穴が開けられた板材又は構造体であって、且つ、強度、剛性の大きな板材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴とは異なるサイズの穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分に所定の範囲の穴を開けたモデルと前記所定の範囲の穴とは異なる範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴及び所定の範囲の穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴及び前記所定の範囲の穴とは異なるサイズ及び範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、中央平板部と、この中央平板部の両端から折り曲げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部に穴又はこの穴よりも小さな微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に前記微細穴又は前記穴よりも大きな大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、中央平板部と、この中央平板部の両端から下げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程とからなる。穴は曲げ応力を計算した上で曲げ応力が低い部位に配置される。曲げ応力が低い部位に穴を配置することから、板厚を薄くした場合に対して強度、剛性の低下を抑えつつ、板材又は構造体の軽量化を図ることができる。即ち、軽量化効率が高い。
【0016】
請求項2に係る発明では、穴のサイズが異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴のサイズが互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、穴サイズの適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、穴の開けられる範囲が異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴の開けられる範囲が互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、穴の範囲の適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、穴のサイズ及び穴の開けられる範囲が異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴のサイズ及び穴の開けられる範囲が互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。
【0019】
重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、異なるサイズと異なる範囲の穴の組み合わせの中から、更に適切な板材又は構造体を選択することができる。
加えて、請求項4に係る発明では所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する。所定の重量減少率を得たものの内から軽量化効率が高いモデルを選択することにより、更に適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0020】
請求項5に係る発明では、穴開け工程により、壁部に穴又は微細穴を開け、且つ、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に微細穴又は大穴を開ける。壁部にかかる曲げ応力は低い。加えて、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に微細穴又は大穴を開ける。更に強度、剛性の低下を抑えることができる。
【0021】
請求項6に係る発明では、壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける。壁部の全面に微細穴を開け、中央平板部には大穴を開ける。更に軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る板材を説明する図であり、車体フレーム等の板材10は、図面右側に矩形の大きな大穴11を有する中央平板部12と、この中央平板部12の両端から折り曲げられパンチ等で穴開けされた多数の微細穴13を有する壁部14と、この壁部14の下端から外側に中央平板部12に平行に延びる脚部15とから構成される。
【0023】
中央平板部12のうち大穴11が配置される側の先端部を荷重が加えられる荷重部22とし、荷重部22の他端を他の部品等に固定される固定部23とする。
【0024】
図2は図1の2部拡大図であり、同一の想像線上に配置される微細穴13の群を列と呼び、1番上から1番列、2番列、3番列とする。
1番列の1番右側の微細穴13を(1−1)微細穴13とし、左側へ順に(1−2)微細穴13、(1−3)微細穴13とし、2番列の右側の微細穴13を(2−1)微細穴13とし、順に(2−2)微細穴13とする。3番列についても同様である。
【0025】
1番列、3番列等上側から奇数番目に配置される列が奇数列とであり、2番列等上側から偶数番目に配置される列が偶数列である。
【0026】
図3は図2の3部拡大図であり、(1−1)微細穴13及び(1−2)微細穴13のピッチはP1であり、(2−1)微細穴13と(3−1)微細穴13のピッチはP2である。ここでP2はP1の半分になるように微細穴13が配置されている。
即ち、奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられている。
【0027】
また微細穴13は、引張り方向に延び(1−1)微細穴13の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴13の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴13の下縁を通る第3接線及び前記(1−2)微細穴13の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るように配置されている。
【0028】
なお、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るように配置されているが、第2接線が第1接線と重なり、第3接線が第4接線と重なるよう配置することもできる。
【0029】
次に、複数のモデルを準備し、これらのモデルの重量の減少率と、剛性の減少率とを検討する。モデルの形態を図4〜図6で説明する。
図4はベースとなる通常の板材に係るモデルを説明する図であり、ベースモデルの鋼板の厚さはt1である。
【0030】
図5は本発明に係る板材の実験に用いたモデルを説明する図であり、(a)に示されるモデル1は、ベースモデルの鋼板の厚さt1よりも薄くして厚さをt2として軽量化を図ったものである。即ちt1>t2である。
このとき通常用いられる板材の重量W1に対して、モデル1の重量は12.5%軽かった。即ち、重量の減少率は−12.5%であった。
【0031】
(b)に示されるモデル2は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置される。
このとき重量の減少率は−6.2%であった。
【0032】
(c)に示されるモデル3は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置され、中央平板部12に小さな矩形の大穴11a(aは小さな矩形の大穴を示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−12.8%であった。
【0033】
(d)に示されるモデル4は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置され、中央平板部12に大きな矩形の大穴11b(bは大きな矩形の大穴を示す添え字以下同じ。)が配置される。
即ち、モデル3に対して穴を開ける範囲を変えた。
このとき重量の減少率は−17.7%であった。
【0034】
図6は図5の続きを説明する図であり、(a)に示されるモデル5は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置される。
このとき重量の減少率は−4.6%であった。
【0035】
(b)に示されるモデル6は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12のうち図5(c)の小さな矩形の大穴11aと同じ範囲に穴径d3が3mmの多数の微細穴27a(aは小さな矩形の大穴11aと同じ範囲に開けられたことを示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−6.8%であった。
【0036】
(c)に示されるモデル7は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12のうち図5(d)の大きな矩形の大穴11bと同じ範囲に穴径d3が3mmの多数の微細穴27b(bは大きな矩形の大穴11bと同じ範囲に開けられたことを示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−8.3%であった。
【0037】
(d)に示されるモデル8は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12に小さな矩形の大穴11aが配置される。
このとき重量の減少率は−11.3%であった。
【0038】
次に、剛性及び剛性の減少率を検討する。
図7は本発明に係る板材の曲げ試験を説明する図であり、長さLの各モデルの固定部23を壁39に固定し、荷重部22に白抜き矢印で示すWの力で押した際のたわみvを測る。
【0039】
Eをヤング率、Iを断面2次モーメントとした場合に、v=W・L3/(3・E・I)の関係が成り立つ。ここで断面2次モーメントを求める場合には、I=W・L3/(3・E・v)を求めればよい。
【0040】
次に、図4に示すベースモデルの固定部23を固定し、荷重部に力Wを掛け、たわみvを測定する。このたわみvを、I=W・L3/(3・E・v)に代入して得た断面2次モーメントI0を、「基準剛性」とする。
【0041】
次に図5(a)に示すモデル1の測定を行う。ベースモデル(図4)に比較してモデル1(図5(a))は薄肉であるため、測定で得たたわみv1は大きかった。このv1をI1=W・L3/(3・E・v1)に代入して得た断面2次モーメントI1は、基準剛性I0より小さくなった。この減少率が−12.5%であった。
【0042】
次に、図5(b)に示すモデル2についてたわみv2を測定した。ベースモデル(図4に比較してモデル2(図5(b))は、肉厚は同一であるが、直径d1の微細穴が開けられているために、たわみv2は大きかった。そのため断面2次モーメントI2は小さくなり、基準剛性I0に対して剛性の減少率は−6.2%であった。
【0043】
同様に図5(c)、(d)、図6(a)〜(d)まで剛性減少率を求めた。
以上に説明した重量減少率と剛性減少率を次表にまとめた。
【0044】
【表1】
【0045】
表1は試験の結果を示す表であり、モデルの欄の下の「ベース」は図4に示したベースモデルを、数字は図4及び図5に示したモデル1〜モデル8を示す。
モデルの欄の右側の形態の欄は、それぞれのモデルの形態を示す。
【0046】
形態の欄の右側の重量の欄の減少率は、図5及び図6で説明した通常の板材に比べ各モデルにおいてどの位重量が減少したかを示す。絶対値が大きいほど重量が減少したことを示し望ましい。単位は%である。
【0047】
重量の欄の右側の剛性の欄の減少率は、図4で説明したベースモデルの断面2次モーメントI0に対して、各モデルにおいて断面2次モーメントIがどのくらい減少したかを示す。絶対値が小さいほど、剛性が減少しなかったたことを示し望ましい。単位は%である。
【0048】
剛性の欄の右側の軽量化効率の欄のWt/剛性は、重量の減少率を剛性の減少率で割った値である。重量の減少率の絶対値は大きいほどよく、剛性の減少率の絶対値は小さいほどよいため、軽量化率の値は大きいほどよい。
【0049】
曲げ応力の入力方向に平行であり、且つ、、曲げ応力の低い部位である壁部に穴又は微細穴を開けたモデル2〜モデル8のいずれにおいても、モデル1の軽量化効率を上回っている。即ち、本発明に係る板材の軽量化手法によれば、板厚を薄くするよりも強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
板厚を薄くするよりも、曲げ応力の低い部位に穴を開けた方が強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができるものと考えられる。
【0050】
モデル2とモデル5は異なるサイズの穴を開けたもので、モデル2は重量減少率がモデル5よりも高く軽量化できるが、モデル5はモデル2に対して剛性の減少率が低い。このような場合、いずれのサイズの穴を開ける方がいいか判別しにくいが、重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率という指標を使うことにより、モデル5の方が30%程軽量化効率が高く、軽量化と剛性のバランスがいいことが分かった。
【0051】
モデル3とモデル4にはそれぞれ異なる範囲の大穴を、モデル6とモデル7にはそれぞれ異なる範囲の微細穴を開けたもので、どこまでの範囲に大穴又は微細穴を開けるのがいいのか判別しづらい。そこで、軽量化効率を用いて穴を開ける範囲を決定すれば設計が容易となる。そうすると、モデル3又はモデル6がともに軽量化効率が高いので選択できる。
【0052】
モデル3は、従来の板材の板厚を薄くしたモデル1と同等の軽量化を図ることができた上に軽量化効率も上がった。モデル6は更に軽量化効率は高いが、重量減少率の絶対値が少ない。即ち、軽量化効率の高いものであっても所定の重量減少率のあるものでなければ実用化するメリットに欠ける。そこで、モデル8のように異なるサイズの穴を組み合わせることで、モデル1と同等の軽量化を達成し、更に軽量化効率を高めることができる。
【0053】
重量の減少率及び剛性の減少率の両方でモデル8は優れていた。モデル8とモデル1の重量減少率、剛性減少率及び軽量化効率を比較すると、モデル8は板厚を薄くしたモデル1と同等の重量減少率を得ることができ、且つ、剛性減少率はモデル1の約半分に抑えることができる。
モデル8の軽量化効率はモデル1〜モデル8の中で最大であった。
【0054】
即ち、場所によって穴の大きさを変えることにより、強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
具体的には、壁部には微細穴を配置し、中央平板部の曲げ応力が低い部位には大穴を配置するのが望ましい。
【0055】
図8は本発明に係る板材の引張り試験のモデルを説明する図であり、(a)に示されるのはモデル9の多孔板であり、多孔板30の微細穴13は、本発明に係る板材の壁部に設けられる微細穴13と同様に配置されている。多孔板30において列は右側から順番に1番列、2番列の順番に並べられている。即ち、図1の壁部14が図8(a)に配置された形となっている。
【0056】
(b)に示されるのはモデル10の多孔板であり、多孔板40の微細穴41は、図面右側から数え奇数番目の列である奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられており、作用する引張り方向に、1番列の穴群、2番列の穴群がこの順で並んでおり、1番列の穴群の1番穴である(1−1)微細穴41と、1番列の穴群の2番穴である(1−2)微細穴41と、2番列の穴群の1番穴である(2−1)微細穴41とが、三角形の頂点に配置され、引張り方向に延び(1−1)微細穴41の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴41の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴41の下縁を通る第3接線及び(1−2)微細穴41の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の外側を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の外側を通るように配置されている。
【0057】
図9は本発明に係る板材の引張り試験を説明する図であり、図8の多孔板30、40をそれぞれ横a、縦bの大きさにし、微細穴の穴径d4をそれぞれ3mmとした。
このような多孔板30、40をそれぞれ白抜き矢印で示す方向に力Fで切断されるまで引張る。引張った際の多孔板30、40の伸びδを測定し、伸びδ/a(%)を計算する。
【0058】
図10は引張り試験の結果を説明するグラフであり、横軸に伸びをとり、縦軸に引張り応力をとった。多孔板30の試験の結果をfで示し、多孔板40の試験の結果をgで示す。
【0059】
f及びgを比較すると、fの多孔板は、gの多孔板に比べ切断されるまでにおよそ2倍の伸びがあったことが分かる。
15%の伸びを基準とした場合、fでは十分に多孔板が伸びた後に切断されたということができ、gでは十分に多孔板が伸びる前に切断されたということができる。
【0060】
以上の結果は図3に沿って、次のようにまとめることができる。
奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられており、作用する引張り方向に、1番列の穴群、2番列の穴群がこの順で並んでおり、1番列の穴群の1番穴である(1−1)微細穴13と、1番列の穴群の2番穴である(1−2)微細穴13と、2番列の穴群の1番穴である(2−1)微細穴13とが、三角形の頂点に配置され、引張り方向に延び(1−1)微細穴13の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴13の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴13の下縁を通る第3接線及び(1−2)微細穴13の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通るか又は、前記第1接線と重なり、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るか又は、第4接線と重なるように微細穴13が配置された多孔板30は、微細穴13が配置されない場所を引っ張り方向に沿って設けることにより、伸びの大きな多孔板とすることができる。加えて、鋼板に穴を開けることにより併せて軽量化を図ることができる。
【0061】
一方、第2接線が第1接線及び第4接線の間を通らず、又は第3接線が第1接線及び第4接線の間を通らない場合には、伸びが極端に小さくなる。
【0062】
尚、穴及び微細穴を円形とし、大穴を矩形として説明をしたが、穴及び微細穴を矩形にし、大穴を楕円形とする等、穴、微細穴及び大穴の形はこれらの形に限られるものではない。
本実施例においては車体フレーム等の板材を例に説明をしたが、本発明を他の構造体に適用することは何ら差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の板材は、四輪車の車体フレームに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る板材を説明する図である。
【図2】図1の2部拡大図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】ベースとなる通常の板材に係るモデルを説明する図である。
【図5】本発明に係る板材の実験に用いたモデルを説明する図である。
【図6】図5の続きを説明する図である。
【図7】本発明に係る板材の曲げ試験を説明する図である。
【図8】本発明に係る板材の引張り試験のモデルを説明する図である。
【図9】本発明に係る板材の引張り試験を説明する図である。
【図10】引張り試験の結果を説明するグラフである。
【図11】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
10…板材、11…大穴、12…中央平板部、13、27…微細穴、14…壁部、26…穴。
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材又は構造体の加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費を考えた場合、車体は軽量である方が望ましい。車体の軽量化を図る方法の1つとして車体フレームに多数の穴を開けることにより、車体の軽量化を図ることが行われている。
【0003】
従来軽量化した車体の部材として多孔インナーパネルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−82796公報(図1)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構成を説明する図であり、多孔インナーパネル100は、所定の形状に構成された本体101と、この本体をくり抜いて台形や四角形に構成された窓部102と、本体のうち窓部102以外の全体にパンチ等で穴開けされた微細な多数の穴103とから構成される。
【0005】
このような多孔インナーパネル100によれば、窓部102及び穴103の部分の材料の重さ分だけ本体101の軽量化を図ることができる。
【0006】
しかし、このような多孔インナーパネル100は、パネル全面に穴103が配置されているため、入力が大きいエリアは強度、剛性が不足する可能性がある。
【0007】
強度、剛性の大きな板材又は構造体の提供が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、穴が開けられた板材又は構造体であって、且つ、強度、剛性の大きな板材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴とは異なるサイズの穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分に所定の範囲の穴を開けたモデルと前記所定の範囲の穴とは異なる範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴及び所定の範囲の穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴及び前記所定の範囲の穴とは異なるサイズ及び範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、中央平板部と、この中央平板部の両端から折り曲げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部に穴又はこの穴よりも小さな微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に前記微細穴又は前記穴よりも大きな大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、中央平板部と、この中央平板部の両端から下げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程とからなる。穴は曲げ応力を計算した上で曲げ応力が低い部位に配置される。曲げ応力が低い部位に穴を配置することから、板厚を薄くした場合に対して強度、剛性の低下を抑えつつ、板材又は構造体の軽量化を図ることができる。即ち、軽量化効率が高い。
【0016】
請求項2に係る発明では、穴のサイズが異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴のサイズが互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、穴サイズの適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、穴の開けられる範囲が異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴の開けられる範囲が互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、穴の範囲の適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、穴のサイズ及び穴の開けられる範囲が異なる複数のモデルを作成し、これらの中から軽量化効率の高いものを選択する。穴のサイズ及び穴の開けられる範囲が互いに異なるあるモデルとあるモデルを比較した場合に、一方は重量減少率の絶対値が高く剛性減少率の絶対値も高く、他方は重量減少率の絶対値が低く剛性減少率の絶対値も低かった。重量減少率の絶対値は高いほどよく、剛性減少率の絶対値は低いほどよい。
【0019】
重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率をモデル選択の基準とすることにより、異なるサイズと異なる範囲の穴の組み合わせの中から、更に適切な板材又は構造体を選択することができる。
加えて、請求項4に係る発明では所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する。所定の重量減少率を得たものの内から軽量化効率が高いモデルを選択することにより、更に適切な板材又は構造体を選択することができる。
【0020】
請求項5に係る発明では、穴開け工程により、壁部に穴又は微細穴を開け、且つ、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に微細穴又は大穴を開ける。壁部にかかる曲げ応力は低い。加えて、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に微細穴又は大穴を開ける。更に強度、剛性の低下を抑えることができる。
【0021】
請求項6に係る発明では、壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける。壁部の全面に微細穴を開け、中央平板部には大穴を開ける。更に軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る板材を説明する図であり、車体フレーム等の板材10は、図面右側に矩形の大きな大穴11を有する中央平板部12と、この中央平板部12の両端から折り曲げられパンチ等で穴開けされた多数の微細穴13を有する壁部14と、この壁部14の下端から外側に中央平板部12に平行に延びる脚部15とから構成される。
【0023】
中央平板部12のうち大穴11が配置される側の先端部を荷重が加えられる荷重部22とし、荷重部22の他端を他の部品等に固定される固定部23とする。
【0024】
図2は図1の2部拡大図であり、同一の想像線上に配置される微細穴13の群を列と呼び、1番上から1番列、2番列、3番列とする。
1番列の1番右側の微細穴13を(1−1)微細穴13とし、左側へ順に(1−2)微細穴13、(1−3)微細穴13とし、2番列の右側の微細穴13を(2−1)微細穴13とし、順に(2−2)微細穴13とする。3番列についても同様である。
【0025】
1番列、3番列等上側から奇数番目に配置される列が奇数列とであり、2番列等上側から偶数番目に配置される列が偶数列である。
【0026】
図3は図2の3部拡大図であり、(1−1)微細穴13及び(1−2)微細穴13のピッチはP1であり、(2−1)微細穴13と(3−1)微細穴13のピッチはP2である。ここでP2はP1の半分になるように微細穴13が配置されている。
即ち、奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられている。
【0027】
また微細穴13は、引張り方向に延び(1−1)微細穴13の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴13の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴13の下縁を通る第3接線及び前記(1−2)微細穴13の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るように配置されている。
【0028】
なお、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るように配置されているが、第2接線が第1接線と重なり、第3接線が第4接線と重なるよう配置することもできる。
【0029】
次に、複数のモデルを準備し、これらのモデルの重量の減少率と、剛性の減少率とを検討する。モデルの形態を図4〜図6で説明する。
図4はベースとなる通常の板材に係るモデルを説明する図であり、ベースモデルの鋼板の厚さはt1である。
【0030】
図5は本発明に係る板材の実験に用いたモデルを説明する図であり、(a)に示されるモデル1は、ベースモデルの鋼板の厚さt1よりも薄くして厚さをt2として軽量化を図ったものである。即ちt1>t2である。
このとき通常用いられる板材の重量W1に対して、モデル1の重量は12.5%軽かった。即ち、重量の減少率は−12.5%であった。
【0031】
(b)に示されるモデル2は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置される。
このとき重量の減少率は−6.2%であった。
【0032】
(c)に示されるモデル3は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置され、中央平板部12に小さな矩形の大穴11a(aは小さな矩形の大穴を示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−12.8%であった。
【0033】
(d)に示されるモデル4は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d1が13mmの穴26が配置され、中央平板部12に大きな矩形の大穴11b(bは大きな矩形の大穴を示す添え字以下同じ。)が配置される。
即ち、モデル3に対して穴を開ける範囲を変えた。
このとき重量の減少率は−17.7%であった。
【0034】
図6は図5の続きを説明する図であり、(a)に示されるモデル5は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置される。
このとき重量の減少率は−4.6%であった。
【0035】
(b)に示されるモデル6は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12のうち図5(c)の小さな矩形の大穴11aと同じ範囲に穴径d3が3mmの多数の微細穴27a(aは小さな矩形の大穴11aと同じ範囲に開けられたことを示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−6.8%であった。
【0036】
(c)に示されるモデル7は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12のうち図5(d)の大きな矩形の大穴11bと同じ範囲に穴径d3が3mmの多数の微細穴27b(bは大きな矩形の大穴11bと同じ範囲に開けられたことを示す添え字以下同じ。)が配置される。
このとき重量の減少率は−8.3%であった。
【0037】
(d)に示されるモデル8は厚さt1の鋼板を用い、壁部14全体に穴径d2が3mmの微細穴13が配置され、中央平板部12に小さな矩形の大穴11aが配置される。
このとき重量の減少率は−11.3%であった。
【0038】
次に、剛性及び剛性の減少率を検討する。
図7は本発明に係る板材の曲げ試験を説明する図であり、長さLの各モデルの固定部23を壁39に固定し、荷重部22に白抜き矢印で示すWの力で押した際のたわみvを測る。
【0039】
Eをヤング率、Iを断面2次モーメントとした場合に、v=W・L3/(3・E・I)の関係が成り立つ。ここで断面2次モーメントを求める場合には、I=W・L3/(3・E・v)を求めればよい。
【0040】
次に、図4に示すベースモデルの固定部23を固定し、荷重部に力Wを掛け、たわみvを測定する。このたわみvを、I=W・L3/(3・E・v)に代入して得た断面2次モーメントI0を、「基準剛性」とする。
【0041】
次に図5(a)に示すモデル1の測定を行う。ベースモデル(図4)に比較してモデル1(図5(a))は薄肉であるため、測定で得たたわみv1は大きかった。このv1をI1=W・L3/(3・E・v1)に代入して得た断面2次モーメントI1は、基準剛性I0より小さくなった。この減少率が−12.5%であった。
【0042】
次に、図5(b)に示すモデル2についてたわみv2を測定した。ベースモデル(図4に比較してモデル2(図5(b))は、肉厚は同一であるが、直径d1の微細穴が開けられているために、たわみv2は大きかった。そのため断面2次モーメントI2は小さくなり、基準剛性I0に対して剛性の減少率は−6.2%であった。
【0043】
同様に図5(c)、(d)、図6(a)〜(d)まで剛性減少率を求めた。
以上に説明した重量減少率と剛性減少率を次表にまとめた。
【0044】
【表1】
【0045】
表1は試験の結果を示す表であり、モデルの欄の下の「ベース」は図4に示したベースモデルを、数字は図4及び図5に示したモデル1〜モデル8を示す。
モデルの欄の右側の形態の欄は、それぞれのモデルの形態を示す。
【0046】
形態の欄の右側の重量の欄の減少率は、図5及び図6で説明した通常の板材に比べ各モデルにおいてどの位重量が減少したかを示す。絶対値が大きいほど重量が減少したことを示し望ましい。単位は%である。
【0047】
重量の欄の右側の剛性の欄の減少率は、図4で説明したベースモデルの断面2次モーメントI0に対して、各モデルにおいて断面2次モーメントIがどのくらい減少したかを示す。絶対値が小さいほど、剛性が減少しなかったたことを示し望ましい。単位は%である。
【0048】
剛性の欄の右側の軽量化効率の欄のWt/剛性は、重量の減少率を剛性の減少率で割った値である。重量の減少率の絶対値は大きいほどよく、剛性の減少率の絶対値は小さいほどよいため、軽量化率の値は大きいほどよい。
【0049】
曲げ応力の入力方向に平行であり、且つ、、曲げ応力の低い部位である壁部に穴又は微細穴を開けたモデル2〜モデル8のいずれにおいても、モデル1の軽量化効率を上回っている。即ち、本発明に係る板材の軽量化手法によれば、板厚を薄くするよりも強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
板厚を薄くするよりも、曲げ応力の低い部位に穴を開けた方が強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができるものと考えられる。
【0050】
モデル2とモデル5は異なるサイズの穴を開けたもので、モデル2は重量減少率がモデル5よりも高く軽量化できるが、モデル5はモデル2に対して剛性の減少率が低い。このような場合、いずれのサイズの穴を開ける方がいいか判別しにくいが、重量減少率を剛性減少率で割った軽量化効率という指標を使うことにより、モデル5の方が30%程軽量化効率が高く、軽量化と剛性のバランスがいいことが分かった。
【0051】
モデル3とモデル4にはそれぞれ異なる範囲の大穴を、モデル6とモデル7にはそれぞれ異なる範囲の微細穴を開けたもので、どこまでの範囲に大穴又は微細穴を開けるのがいいのか判別しづらい。そこで、軽量化効率を用いて穴を開ける範囲を決定すれば設計が容易となる。そうすると、モデル3又はモデル6がともに軽量化効率が高いので選択できる。
【0052】
モデル3は、従来の板材の板厚を薄くしたモデル1と同等の軽量化を図ることができた上に軽量化効率も上がった。モデル6は更に軽量化効率は高いが、重量減少率の絶対値が少ない。即ち、軽量化効率の高いものであっても所定の重量減少率のあるものでなければ実用化するメリットに欠ける。そこで、モデル8のように異なるサイズの穴を組み合わせることで、モデル1と同等の軽量化を達成し、更に軽量化効率を高めることができる。
【0053】
重量の減少率及び剛性の減少率の両方でモデル8は優れていた。モデル8とモデル1の重量減少率、剛性減少率及び軽量化効率を比較すると、モデル8は板厚を薄くしたモデル1と同等の重量減少率を得ることができ、且つ、剛性減少率はモデル1の約半分に抑えることができる。
モデル8の軽量化効率はモデル1〜モデル8の中で最大であった。
【0054】
即ち、場所によって穴の大きさを変えることにより、強度、剛性の低下を抑えつつ、板材の軽量化を図ることができる。
具体的には、壁部には微細穴を配置し、中央平板部の曲げ応力が低い部位には大穴を配置するのが望ましい。
【0055】
図8は本発明に係る板材の引張り試験のモデルを説明する図であり、(a)に示されるのはモデル9の多孔板であり、多孔板30の微細穴13は、本発明に係る板材の壁部に設けられる微細穴13と同様に配置されている。多孔板30において列は右側から順番に1番列、2番列の順番に並べられている。即ち、図1の壁部14が図8(a)に配置された形となっている。
【0056】
(b)に示されるのはモデル10の多孔板であり、多孔板40の微細穴41は、図面右側から数え奇数番目の列である奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられており、作用する引張り方向に、1番列の穴群、2番列の穴群がこの順で並んでおり、1番列の穴群の1番穴である(1−1)微細穴41と、1番列の穴群の2番穴である(1−2)微細穴41と、2番列の穴群の1番穴である(2−1)微細穴41とが、三角形の頂点に配置され、引張り方向に延び(1−1)微細穴41の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴41の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴41の下縁を通る第3接線及び(1−2)微細穴41の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の外側を通り、第3接線は、第1接線及び第4接線の外側を通るように配置されている。
【0057】
図9は本発明に係る板材の引張り試験を説明する図であり、図8の多孔板30、40をそれぞれ横a、縦bの大きさにし、微細穴の穴径d4をそれぞれ3mmとした。
このような多孔板30、40をそれぞれ白抜き矢印で示す方向に力Fで切断されるまで引張る。引張った際の多孔板30、40の伸びδを測定し、伸びδ/a(%)を計算する。
【0058】
図10は引張り試験の結果を説明するグラフであり、横軸に伸びをとり、縦軸に引張り応力をとった。多孔板30の試験の結果をfで示し、多孔板40の試験の結果をgで示す。
【0059】
f及びgを比較すると、fの多孔板は、gの多孔板に比べ切断されるまでにおよそ2倍の伸びがあったことが分かる。
15%の伸びを基準とした場合、fでは十分に多孔板が伸びた後に切断されたということができ、gでは十分に多孔板が伸びる前に切断されたということができる。
【0060】
以上の結果は図3に沿って、次のようにまとめることができる。
奇数列の穴群に、0.5ピッチずれた形態で偶数列の穴群が設けられており、作用する引張り方向に、1番列の穴群、2番列の穴群がこの順で並んでおり、1番列の穴群の1番穴である(1−1)微細穴13と、1番列の穴群の2番穴である(1−2)微細穴13と、2番列の穴群の1番穴である(2−1)微細穴13とが、三角形の頂点に配置され、引張り方向に延び(1−1)微細穴13の下縁を通る第1接線、(2−1)微細穴13の上縁を通る第2接線、(2−1)微細穴13の下縁を通る第3接線及び(1−2)微細穴13の上縁を通る第4接線を引いた場合に、第2接線は、第1接線及び第4接線の間を通るか又は、前記第1接線と重なり、第3接線は、第1接線及び第4接線の間を通るか又は、第4接線と重なるように微細穴13が配置された多孔板30は、微細穴13が配置されない場所を引っ張り方向に沿って設けることにより、伸びの大きな多孔板とすることができる。加えて、鋼板に穴を開けることにより併せて軽量化を図ることができる。
【0061】
一方、第2接線が第1接線及び第4接線の間を通らず、又は第3接線が第1接線及び第4接線の間を通らない場合には、伸びが極端に小さくなる。
【0062】
尚、穴及び微細穴を円形とし、大穴を矩形として説明をしたが、穴及び微細穴を矩形にし、大穴を楕円形とする等、穴、微細穴及び大穴の形はこれらの形に限られるものではない。
本実施例においては車体フレーム等の板材を例に説明をしたが、本発明を他の構造体に適用することは何ら差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の板材は、四輪車の車体フレームに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る板材を説明する図である。
【図2】図1の2部拡大図である。
【図3】図2の3部拡大図である。
【図4】ベースとなる通常の板材に係るモデルを説明する図である。
【図5】本発明に係る板材の実験に用いたモデルを説明する図である。
【図6】図5の続きを説明する図である。
【図7】本発明に係る板材の曲げ試験を説明する図である。
【図8】本発明に係る板材の引張り試験のモデルを説明する図である。
【図9】本発明に係る板材の引張り試験を説明する図である。
【図10】引張り試験の結果を説明するグラフである。
【図11】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
10…板材、11…大穴、12…中央平板部、13、27…微細穴、14…壁部、26…穴。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項2】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴とは異なるサイズの穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項3】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分に所定の範囲の穴を開けたモデルと前記所定の範囲の穴とは異なる範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項4】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴及び所定の範囲の穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴及び前記所定の範囲の穴とは異なるサイズ及び範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項5】
中央平板部と、この中央平板部の両端から折り曲げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部に穴又はこの穴よりも小さな微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に前記微細穴又は前記穴よりも大きな大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする車体フレームの軽量化手法。
【請求項6】
中央平板部と、この中央平板部の両端から下げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする車体フレームの軽量化手法。
【請求項1】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部位に穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項2】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴とは異なるサイズの穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項3】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分に所定の範囲の穴を開けたモデルと前記所定の範囲の穴とは異なる範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項4】
板材又は構造体に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
曲げ応力が低い部分にあるサイズの穴及び所定の範囲の穴を開けたモデルと前記あるサイズの穴及び前記所定の範囲の穴とは異なるサイズ及び範囲の穴を開けたモデルとを作成するごとくに複数のモデルを作成する工程と、
モデル毎の重量減少率と剛性減少率から軽量化効率を計算する工程と、
所定の重量減少率を得たものの内、軽量化効率が高いモデルを選択する工程と、からなることを特徴とする板材又は構造体の軽量化手法。
【請求項5】
中央平板部と、この中央平板部の両端から折り曲げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部に穴又はこの穴よりも小さな微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に前記微細穴又は前記穴よりも大きな大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする車体フレームの軽量化手法。
【請求項6】
中央平板部と、この中央平板部の両端から下げた壁部とを含む車体フレーム部材に、固定条件と荷重条件とを与えて、曲げ応力を計算する工程と、
前記壁部の全面に複数の微細穴を開け、且つ、前記中央平板部のうち曲げ応力の低い部位に大穴を開ける穴開け工程と、からなることを特徴とする車体フレームの軽量化手法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−113520(P2009−113520A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285314(P2007−285314)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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