説明

果実そ菜類の等級判別方法。

【課題】人間の目による判断に代替できる果実そ菜類の等級判別方法を提供する。
【解決手段】果実そ菜類を撮像した画像によって等級を判別する果実そ菜類の等級判別方法であって、等級判別を行う果実そ菜類を撮像した画像の各画素から得られる赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色、またはHSV方式に変換されたデータを用いて相互結合型ニューラルネットワークによる自己組織化を行って当該種類の果実そ菜類に特有の2次元色特徴地図を作成する工程と、前記果実そ菜類を等級別に分類したサンプルにより複数の2次元特徴量を、前記2次元色特徴地図とラベリング処理を用いて得られる対象物体の色・位置情報から決定し、前記等級別2次元特徴量にN層ニューラルネットワークを作用させ、任意の当該果実そ菜類の等級を出力する工程とを有することを特徴とする果実そ菜類の等級判別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、りんごやトマトなどの果実そ菜類の等級判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
りんごやトマトなどの果実そ菜類は、色むら、傷、形状などによって等級を判別して各等級ごとに選別して出荷される。
従来の等級判別方法は、例えば果実の場合、カラーセンサーによる対象の微少量の輪切りに含まれるカラー量(1次元カラー量)を連続的に測定した総和量と、設定閾値との比較によって着色度を判定する方法であった。
カラーセンサーを用いる方法は、色づきの分布が全般に万遍にわたっている場合には問題ないが、局所的に分散した色むらがあるときには、この1次元的方法では、その色むらを判別することはできず、このような2次元的に判断を必要とする場合には、人間の判断に頼らざるを得ず、等級判別に多大な時間と労力が必要だった。
【0003】
画像処理を用いた判定方法については、従来から種々の提案があり、例えば、特開2000−242791号公報には、照明の反射部分を減少するために特定の分光反射率を有する周波数を使用する方法が記載されている。
また、特開平9−29185号公報には、メロンなどの果皮ネットパターンの良否を判定する方法が記載されている。
さらに、特開平5−2632号公報には、撮像カメラから得られた色彩情報からニューラルネットワーク技術を使い等級判定する方法が記載されている。
しかし、これらの従来技術は、人間の目による判断に代替できるレベルに達しておらず、実用化されていなかった。
【特許文献1】特開2000−242791号公報
【特許文献2】特開平9−29185号公報
【特許文献3】特開平5−2632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、人間の目による判断に代替できる果実そ菜類の等級判別方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述の課題を解決するために鋭意検討の結果、2次元色特徴地図とラベリング処理で得られる対象物体の色・位置情報からの2次元特徴量を用いることによって、人間の目による判断に代替できる果実そ菜類の等級判別方法を提供するを提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)果実そ菜類を撮像した画像によって等級を判別する果実そ菜類の等級判別方法であって、
等級判別を行う果実そ菜類を撮像した画像の各画素を赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色により表現し、または各画素の色彩をHSV方式に変換する工程と、
前記各画素から得られる赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色、またはHSV方式に変換されたデータを用いて相互結合型ニューラルネットワークによる自己組織化を行って当該種類の果実そ菜類に特有の2次元色特徴地図を作成する工程と、
前記果実そ菜類を等級別に分類したサンプルにより複数の2次元特徴量を、前記2次元色特徴地図とラベリング処理を用いて得られる対象物体の色・位置情報を用いて決定し、前記等級別2次元特徴量にN層ニューラルネットワークを作用させた場合に各等級が定まるようにN層ニューラルネットワークを構成させる工程と、
任意の当該果実そ菜類を撮像することによって得られる2次元色特徴量に前記ニューラルネットワークを作用させて当該果実そ菜類の等級を出力する工程とを有することを特徴とする果実そ菜類の等級判別方法。
(2)前記2次元色特徴地図およびラベリング処理により得られる結果は、形状情報を含み、果実そ菜類における形状または傷選別に適用することを特徴とする(1)に記載の果実そ菜類の等級判別方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、2次元特徴量を用いることによって、人間の目による判断に代替できる果実そ菜類の等級判別方法を提供することができる。
具体的には、本発明は従来にない全く新しい一連の知能画像処理法によって、画像の2次元的解析が可能となり、そのもとで得られる様々な2次元特徴量から、これまで人間の判断に頼っていた果実そ菜類の等級判別を自動化することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
発明を実施するための最良の形態について、図1乃至図4を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明における果実そ菜類の等級判別方法の処理フローを例示する図である。
まず、等級判別を行う果実そ菜類を撮像した画像の各画素を赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色により表現し、または各画素の色彩をHSV方式に変換する(S-1)。
等級別に選別しようとする一種類の果実等を無差別に2次元色特徴地図を作成するに十分な個数を撮像し、その各画素を通常の色の3原色により表示してもよいが、各画素の色彩をH(Hue:色相)、S(Saturation:彩度)、V(Value:明度)の3要素で色を表現することにより、RGB色空間よりも、人間の知覚に近い色彩モデルにすることができるうえ、画像中で光が全反射し、真っ白く見えるハイライト部分も、色相H,Sによって識別することができる。
【0008】
次に、前記各画素から得られる赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色、またはHSV方式に変換されたデータを用いて相互結合型ニューラルネットワークによる自己組織化を行って当該種類の果実そ菜類に特有の2次元色特徴地図を作成する(S-2)。
ここに、自己組織化とは、「教師なし学習」ともいい、外界からの内部構造に関する信号(教師信号)がないにもかかわらず、その内部構造を外界に適応させることをいう。
また、相互結合型ニューラルネットワークとは、特徴地図の入力層と競合層間が完全結合であり、各入力ユニットは競合層のすべてのユニットと結合しているモデルをいう。全結合は結合荷重をもち、これを入力ベクトルに応じて更新していくことで、自己組織化が行われる。
また、前記果実そ菜類を等級別に分類したサンプルにより複数の2次元特徴量を前記2次元色特徴地図とラベリング処理を用いて得られる対象物体の色・位置情報から決定し、前記等級別2次元特徴量にN層ニューラルネットワークを作用させた場合に各等級が定まるようにN層ニューラルネットワークを構成させる(S-3)。
果実そ菜類を等級別に分類したサンプルの画像を2次元特徴地図を使って認識・分類するクラスタリングを行い、次いで連結している画素をひとまとめにし、その領域ごとに異なるラベルを割り振るラベリングを行うことにより得られる対象物体の色・位置情報から複数の2次元特徴量を決める。
ここに、本発明に用いる複数の2次元特徴量とは、2次元画像から得られる複数の特徴量をいい、本発明においては、この複数の2次元特徴量を用いることによって、従来用いられていたカラー量などの1次元情報では判別できなかった、局所的に分散した色むらなどを自動的に判別することができる。
【0009】
そして、任意の当該果実そ菜類を撮像することによって得られる2次元色特徴量に前記ニューラルネットワークを作用させて当該果実そ菜類の等級を出力する(S-4)。
さらに、前記2次元色特徴地図およびラベリング処理により得られる結果は、形状情報を含み、果実そ菜類における形状または傷選別に適用することにより、色むら以外の形状による等級判別を自動的に行うことができる。
なお、本発明を機械部品や機械製品の形状判別に応用することにより、機械分野における自動判別を実現することができる。
【0010】
図2は、本発明における果実そ菜類の等級判別方法の実施形態を例示する図であり、完成時の未判別画像に対する等級判別処理過程の手順を示す図である。
これらは、果実そ菜類を撮像した画像が2次元画像データとしてコンピュータに取り込まれてから後の、コンピュータ上での一連の自動的な処理の流れを示したものである。
第1ステップは、上面撮影であのRGB表示対象画像である。第2ステップは、RGB画像からHSV色空間画像への変換である。前述のようにHSV画像は人間の色の知覚に基づいた表現方法であり、この表現により人間の知覚にあった色修正が可能となる。HSVとRGBの間には1対1の対応関係が成り立っている。
【0011】
第3ステップは、色クラスタリングの決定工程である。相互結合型ニューラルネットワーク(NN)自己組織化特徴地図は、HSV色空間からの入力を対象の色毎にクラスタリングする。以下にその手順を例示する。
自己組織化地図は、入力層ユニットの入力ベクトルEと、競合層ユニットの荷重ベクトルWi(t)との距離(A)式を最小にする競合層の勝者ユニットを探し、そのユニットと近傍ユニットのWを更新しながら組織化を行う手法である。
【数1】

ここで、iとjはそれぞれ競合層と入力層のユニット番号である。
勝者ユニットとその近傍の結合定数の更新の仕方は、学習率をαとして次の式で行われる。
【数2】

また、その学習率αと、勝者ユニット近傍幅dは次のように更新する。
【数3】

ここで、tは学習回数の変数であり、Tは全学習回数である。
【0012】
第4ステップのラベリングは、色領域を自動的に分離確認するものであり、連結している画素をひとまとめにして、その領域ごとに異なるラベルを割り振る処理である。ここでは、対象画素を囲む8連結を考慮し、各色毎に管理して行う。ラベリングのアルゴリズムは、背景色は別として、1)対象画素の上部(3画素)と左(1画素)の既走査の4画素の全てが対象画素と異なる場合と2)既走査の4画素のどれかが対象画素と同じ場合に分けた上で、3)同じ場合には、それぞれ同色の画素のラベルを修正しながらラベリングを行う。図3にラベリング前後の画像の例を示す。
第5ステップは、確認された対象物の位置および色の2次元情報から、判別に有効な複数の2次元特徴量を求める。
例えば、りんごの色むらを判別する場合の特徴量としては、例えば、F1.赤い領域の大きさ、F2.赤い領域の彩度の平均値、F3.色むらの領域の大きさ、F4.色むらの領域の数、F5.円形度、F6〜F9.色むらの領域の飛散度(大きさに応じて4段階)とすることが好ましい。
【0013】
第6ステップは、複数の2次元特徴量から等級を割り出す判別工程である。
本発明における判別手段としては、N層ニューラルネットワーク(NN)を用いるが、脳を模した学習機械であって、いくつかのユニットがまとまった数段の層から成り、各層間のユニットは結合しており、各結合の持つ結合荷重を更新することで学習を行う階層型パーセプトロンを用いることが好ましい。
例えば、りんごの色むらを判別する場合には、前述のF1〜F9の特徴量を求め、その値を3層ニューラルネットワーク(NN)の入力ベクトルとし、教師信号をその対応する等級として学習を行う。
学習法としては、例えば、出力と教師信号との誤差から、最急降下法により結合荷重を更新するBP(Back Propagation:誤差逆伝播)学習法を用いることによって、入力ベクトルの符号化、線形分離不可能な入力パターンの学習が可能である。
ユニット数は、例えば、入力層9個(特徴量の数)、隠れ層14個、出力層5個(等級数)とし、学習の終了条件をε=1.0×10-5とする。
これらの過程の中で、第3、第4、第5ステップは、それぞれ目的にあった学習装置や、特徴変量をあらかじめ独立に作成しておく。
学習が終った上記の一連の判別処理システムに対して、等級未知の2次元画像を取り込めば、全自動的に等級判別を行うことができる。
【実施例】
【0014】
本発明方法を用いてりんごの色むらについて等級判別を行った結果を図4に示す。
図4の、上段は特選、下段は無印の等級のりんごを示しており、左端は元画像、真ん中はクラスタリング後、右端はラベリング後の画像である。
本発明の等級判別方法を用いて25個の画像について等級判別を行った結果、熟練した人間の判別結果と同じく、全て正しい判別を行うことができ、本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における果実そ菜類の等級判別方法の処理フローを例示する図である。
【図2】本発明における果実そ菜類の等級判別方法の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明の果実そ菜類の等級判別方法に用いるラベリングを説明する図である。
【図4】本発明の果実そ菜類の等級判別方法をりんごに適用した実施例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実そ菜類を撮像した画像によって等級を判別する果実そ菜類の等級判別方法であって、
等級判別を行う果実そ菜類を撮像した画像の各画素を赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色により表現し、または各画素の色彩をHSV方式に変換する工程と、
前記各画素から得られる赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色、またはHSV方式に変換されたデータを用いて相互結合型ニューラルネットワークによる自己組織化を行って当該種類の果実そ菜類に特有の2次元色特徴地図を作成する工程と、
前記果実そ菜類を等級別に分類したサンプルにより、複数の2次元特徴量を、前記2次元色特徴地図とラベリング処理を用いて得られる対象物体の色・位置情報を用いて決定し、前記等級別2次元特徴量にN層ニューラルネットワークを作用させた場合に各等級が定まるようにN層ニューラルネットワークを構成させる工程と、
任意の当該果実そ菜類を撮像することによって得られる前記複数の2次元色特徴量に前記ニューラルネットワークを作用させて当該果実そ菜類の等級を出力する工程とを有することを特徴とする果実そ菜類の等級判別方法。
【請求項2】
前記2次元色特徴地図およびラベリング処理により得られる結果は、形状情報を含み、果実そ菜類における形状または傷の判別に適用することを特徴とする請求項1に記載の果実そ菜類の等級判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−239602(P2006−239602A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60014(P2005−60014)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月6日 国立大学法人弘前大学主催の「見てみて、聞いてみて、触ってみて、弘前大学」において文書をもって発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】