説明

核酸増幅基板

【課題】基板上でPCR等の核酸増幅反応を行い、核酸の増幅を行う核酸増幅基板に関するものであり、核酸増幅反応工程において反応液が洩れることのない基板を開発する。
【解決手段】核酸増幅基板10は、ガラス板からなる第一層11とシリコンゴムからなる第二層12が積層されたものである。第二層12には、第一層11との接触面側に微細な溝加工が施され、第一層11と第二層12の間で空隙6が形成されている。核酸増幅基板10では、空隙のパターン(溝パターン)によって4系統の核酸増幅・分離流路15,16,17,18が形成されている。核酸増幅・分離流路18は、反応液溜部20と電気泳動部21を有し、これらの周辺に反応液往復流路22、反応液吸引路23、核酸供給路25が設けられたものである。反応液溜部20は、正面視が略正方形の空隙内にジグザクで迷路状の流路を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一枚の基板内でPCR等の核酸増幅反応を行い、核酸の増幅を行う核酸増幅基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医学分野において、DNAを活用した診断が注目を集めている。また農業分野における遺伝子組み換え作物の判定や品種の判定にもDNA鑑定が活用されている。
上記した様な診断や品種の判定は、血液や作物の試料に目的とするDNAが存在するか否かによって行われるが、試料中の目的DNAは微量である場合が多い。そこでDNA診断やDNA鑑定に先立って、試料中に含まれる目的DNAを増幅することが必要である。ここで試料中の目的DNAを特異的に増幅する方策として、各種の核酸増幅反応が提案されている。特にPCR(Polymerase Chain Reaction)法による核酸増幅反応は、バイオテクノロジー分野における基本技術となっている。
PCR法は、鋳型DNA、プライマー、基質、耐熱性ポリメラーゼ酵素等を混合した反応液を温度調節し、所定の3種類の温度に順次変化させ、これを繰り返すことによって目的とするDNAを増幅する方法である。
【0003】
すなわち反応液を、二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離させるディナチュレーション反応を行う温度に温調し、続いて一本鎖DNAにプライマーを会合させるアニーリング反応を行う温度に温調し、さらに続いて耐熱性ポリメラーゼ酵素による二本鎖伸長反応を行う温度に温調する。この様に、反応液を三段階の温度に順次温調することにより、DNAの増幅を行うことができる。
【0004】
具体的には、反応液を各設定温度に温調する工程を30回程度繰返すことで、多量のDNA複製生産物を得る。なお、ディナチュレーション温度、アニーリング温度、二本鎖伸長の各反応温度はそれぞれ、95℃、50〜55℃、72℃程度である。
【0005】
旧来、PCR法はマイクロチューブを使用して行われ、当該マイクロチューブ内に試料やPCRプライマーを含む反応液を入れ、さらにこのマイクロチューブを所定の温度雰囲気とすることによって行われてきた。
しかしながらマイクロチューブを使用する方法は、相応量の試料が必要であるが、微量の試料しか入手できない場合もあり、DNA鑑定等ができない場合もあった。
またマイクロチューブを使用する方法は、DNAの増幅に時間がかかるという問題もあった。
さらに増幅されたDNAを分析するには、マイクロチューブから反応液を抜き出して別途分離装置にかける必要があり、さらに手間がかかるという不満もあった。
【0006】
これに対してPCR法によるDNAの増幅を基板上で行い、さらに同一の基板上でDNAの分離を行う方策が提案されている。
下記の特許文献は、いずれもDNAの増幅と分離を一枚の基板上で行う技術を開示するものである。
【特許文献1】特開2003−83965号公報
【特許文献2】特開2002−306154号公報
【特許文献3】特開2003−270204号公報
【0007】
特許文献1に開示された基板は、ガラス板等の表面に窪みや溝を形成し、上面開放のPCR槽を設けたものである。特許文献1に開示された基板は、その一部にPCR槽を備えるが、当該PCR槽は上面が開放されている。
特許文献1に開示された技術では、前記したPCR槽に反応液等を充填する。そして上部に設置された熱源によってPCR槽中の反応液等を非接触状態で加熱してディナチュレーション反応を行わしめる。
続いて下部に設置された冷却装置でPCR槽中の反応液等を冷却してアニーリングを行う。
さらに続いて上部に設置された熱源によってPCR槽中の反応液等を非接触状態で加熱して二本鎖伸長反応を行わしめる。
そしてこれらを繰り返して試料中の目的とするDNAを増幅する。
【0008】
特許文献2に開示された基板についても、上面開放のPCR槽が設けられ、PCR槽に反応液等が充填されてPCRが行われる。
特許文献2に開示された技術では、基板は底面側からのみ温調される。
【0009】
特許文献3に開示された基板についても、上面開放のPCR槽が設けられ、PCR槽に反応液等が充填されてPCRが行われる。
特許文献3に開示された技術では、基板は上下面から加熱し、その際に温調装置側に設けられたシール部によってPCR槽の上面を塞ぐ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
DNAによる診断や鑑定は、今後ますます需要が増大するであろうと予想される。そのためDNAの増幅をより簡便な方法で行うことができる技術の開発が急務である。また微量の試料をもって所望の診断等が行われることが望ましい。
さらにDNAによる診断は、感染症の診断に利用される場合が多いので、DNAの増幅は迅速に行われなければならない。
そこで本発明者らは、PCRを行う際の温度調節をより迅速に行うために、基板の両面側から加熱・冷却する方策を検討した。より具体的には、上下が一対のヒートブロックを使用し、当該ヒートブロックで、基板を挟んで基板の温度調節を行う方策を検討した。
またさらに温度調節の迅速化を図るため、前記したヒートブロックを3組用意し、これらをそれぞれディナチュレーション温度、アニーリング温度、二本鎖伸長の各反応温度に予め温度調節しておき、基板を挟むヒートブロックを順次取り替えて三段階の温度に順次温調する方策を検討した。
【0011】
ここで従来技術の基板は、いずれもPCR槽の上面が開放されていたため、基板の上部にヒートブロックを接触させることができない。また前記した特許文献3に開示された装置を使用すれば基板の上部にヒートブロックを接触させることもできるが、特許文献3に開示された装置では、温調装置側にシール部材があるので、シール部材が反応液で汚染される。そのため異なる基板を温調する際にシール部材をいちいち洗浄しなければならず、実用に耐えない。
さらに本発明者らのアイデアに基づいて基板を挟むヒートブロックを順次取り替えて三段階の温度に順次温調する方策を採用すると、基板が振動や衝撃を受けることは避けられない。これに対して従来技術の基板では、PCR槽の上面が開放されているため、PCR槽から反応液等がこぼれ、周囲を汚染したり、他の反応液と混ざってしまう危険があった。
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、PCR等の核酸増幅反応工程において反応液が洩れ難い基板の開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、基板の一部に反応液溜部が形成され、当該反応液溜部内に核酸増幅反応に必要な成分を含む反応液が充填され、前記反応液溜部の温度を調節して反応液溜部内において核酸増幅反応を行い、核酸を増幅する核酸増幅基板において、前記反応液溜部は、基板の内部に設けられた空隙によって構成されており、反応液溜部内で増幅された核酸を電気泳動によって分離する電気泳動部を備えたことを特徴とする核酸増幅基板である。
【0013】
本発明の核酸増幅基板では、反応液溜部は、基板の内部に設けられた空隙によって構成されており、半密閉状態である。そのため基板の表面に物が触れても、反応液によって汚染されることはない。また基板が振動を受けても反応液が反応液溜部からこぼれることはない。
また本発明の核酸増幅基板では、同一基板内に反応液溜部内で増幅された核酸を電気泳動によって分離する電気泳動部を備える。そのため本発明の核酸増幅基板によると、核酸の増幅と分離を同一基板内で行うことができる。
本発明の核酸増幅基板を用いて行われる核酸増幅反応の例としては、PCR法、LTR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法等が挙げられるが、PCR法が代表的である。また、核酸増幅反応に必要な成分としては、例えばPCR法の場合は、鋳型DNA、プライマー、デオキシヌクレオチド3リン酸類、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、反応液を導入する反応液導入部と、基板の内部に設けられた空隙によって形成され前記反応液導入部と反応液溜部を繋ぐ反応液流路を備え、反応液は反応液導入部に導入され、さらに反応液流路を経て反応液溜部に充填されることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅基板である。
【0015】
本発明の核酸増幅基板は、反応液を導入する反応液導入部を備え、反応液は反応液導入部から基板内に導入される。本発明の核酸増幅基板では、反応液導入部と反応液溜部の間に反応液流路が設けられているので、反応液溜部と反応液導入部の間に相当の距離があり、反応液溜部の反応液が洩れにくい。
【0016】
また請求項3に記載の発明は、基板は、2以上の層が積層されて成り、積層された2層の内の一方の積層面に溝が設けられ、当該溝によって基板の内部に前記空隙が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸増幅基板である。
【0017】
本発明の核酸増幅基板は、簡単な方法で基板の内部に空隙を形成することができ、製造が容易である。
【0018】
また本発明者らは、各種形状の基板を試作したが、開発当初の試作品は、図13に示すような一室的な空洞によって構成された反応液溜部1をもった核酸増幅基板2であった。
図13に示す核酸増幅基板2は、振動を受けても反応液がこぼれることが無く、当初の目的を達成することができたが、開発当初には予期しなかった不具合があった。
すなわち図13に示す核酸増幅基板2を用いて、前記したアイデア通り、核酸増幅基板2を挟むヒートブロックを順次取り替えて三段階の温度に順次温調し、これを30回程度繰り返したところ、反応液溜部1から反応液が消失してしまった。
【0019】
この原因を検討したところ、大きく二つの理由に基づくものであることが判明した。
一つは、反応液の昇温・冷却を繰り返す中で、反応液が膨張・収縮し、これに伴って反応液が移動して反応液溜部の外部に逃げてしまうことが原因であった。
もう一つの原因は、図15の二点鎖線の様に上下のヒートブロック片3,4で挟まれた際に反応液溜部1の上部の壁面が撓み、内部が加圧されて反応液が反応液溜部1の外部に押し出されてしまうことが原因であった。
そこで本発明者らは、この対策として、請求項4乃至7に記載の発明を発案した。
【0020】
すなわち請求項4に記載の発明は、反応液溜部内又は反応液溜部の出入口近傍に反応液の移動を抑制する移動抑制手段が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の核酸増幅基板である。
【0021】
本発明の核酸増幅基板では、反応液の移動を抑制する移動抑制手段が設けられている。そのため反応液が反応液溜部の外部に逃げることが阻止される。
移動抑制手段としては、例えば流路抵抗を増大させる構成が考えられる。
【0022】
また請求項5に記載の発明は、反応液溜部内又は反応液溜部の出入口近傍に複数の曲路を含む流路が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の核酸増幅基板である。
【0023】
本発明の核酸増幅基板では、反応液溜部内又は反応液溜部の出入口近傍に複数の曲路を含む流路が形成されているので、反応液溜部内又はその近傍における流路抵抗が高い。そのため、反応液が反応液溜部の外部に逃げることが阻止される。
なお、曲路を含む流路は、「移動抑制手段」としても機能する。
また特に反応液溜部内に流路が形成されている場合は、流路を形成する壁面によって反応液溜部の表裏面の撓みが軽減される。そのため後者の原因による反応液の流出も阻止される。
【0024】
また請求項6に記載の発明は、反応液溜部内には複数の曲路を含む直列の流路が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の核酸増幅基板である。
【0025】
本発明の核酸増幅基板についても反応液溜部内に複数の曲路を含む流路が形成されているので、流路抵抗が高く、且つ反応液溜部の表裏面の撓みが軽減され、反応液の流出が阻止される。
また特に本発明の核酸増幅基板では、反応液溜部内の流路が直列であるから、反応液溜部内に反応液を密に充填することができる。
【0026】
また請求項7に記載の発明は、反応液溜部内に耐圧縮部が設けられ、反応液溜部を表裏の方向に圧縮した時、当該圧縮力を前記耐圧縮部に負担させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の核酸増幅基板である。
【0027】
本発明の核酸増幅基板では、反応液溜部内に耐圧縮部が設けられており、圧縮力の一部又は全部を圧縮部が負担する。そのため反応液溜部の表裏面の撓みが軽減され、反応液の流出が阻止される。
なお前記した反応液溜部内に設けられた流路も耐圧縮部として機能する。
【0028】
また反応液溜部と電気泳動部は分離されており、両者の距離は、基板の最も厚い部位の厚さの3倍以上であることが望ましい(請求項8)。
【0029】
すなわち、電気泳動部には、PCR等の核酸増幅反応で増幅されたDNA等の核酸を分離するための担体が充填される。この担体は、多くの場合ゲルである。ここで本発明の核酸増幅基板は、同一基板内で核酸増幅反応を行うものであり、PCR等の核酸増幅反応が行われる反応液溜部は昇温される。そのため電気泳動部が反応液溜部に近い位置にあると、反応液溜部を昇温する際に電気泳動部が加熱され、内部のゲル中の水分が蒸散してしまう。その結果、ゲルの組成が変化し、電気泳動時の分離能に悪影響が及ぶ。
これに対して請求項8に記載の発明では、反応液溜部と電気泳動部は分離されており、両者の距離は、基板の最も厚い部位の厚さの3倍以上であるから、反応液溜部を加熱しても電気泳動部はその熱影響を受けず、電気泳動時の分離能に悪影響が及ぶことはない。
【0030】
また請求項9に記載の発明は、反応液溜部の厚さは、電気泳動部の厚さに比べて薄いことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の核酸増幅基板である。
【0031】
本発明の核酸増幅基板では、反応液溜部の厚さは、電気泳動部の厚さに比べて薄い。そのため反応液溜部の温度を外部からコントロールし易い。また逆に電気泳動部の厚さが厚いので、電気泳動部は外部からの熱影響を受けにくい。
【0032】
また反応液導入部から反応液溜部に至る領域は、親水性であることが望ましい(請求項10)。
【0033】
すなわち、請求項10に記載の発明では、当該部位が親水性であるので、試料が表面に馴染みやすく、基板への試料の導入が容易である。さらに、反応液溜部において基板から試料への熱伝導がよいので、より確実にPCR等によって核酸を増幅することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の核酸増幅基板は、核酸増幅反応工程において反応液が洩れることが少なく、周囲の汚染や異種試料の混入がないという効果がある。さらに、一枚の基板によって核酸増幅と分離を行うことが可能であり、作業効率が高いという効果がある。
また特に請求項4乃至7に記載の核酸増幅基板は、基板をヒートブロック等で挟んだ時に反応液溜部から反応液が流出することを阻止する効果があり、微量の試料でもDNA診断等が可能である。
【0035】
また特に請求項9に記載の核酸増幅基板では、反応液溜部内の温度変化を迅速に行うことが可能であり、且つ電気泳動部への熱影響が少ないという優れた効果がある。
【0036】
また特に請求項10に記載の核酸増幅基板では、試料の導入が容易であり、さらに、試料のロスが少ないのでより微量の試料から核酸を増幅できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態の核酸増幅基板の正面図である。図2は、図1の核酸増幅基板の斜視図である。図3は、図1の核酸増幅基板の二系統の核酸増幅・分離流路の正面図である。図4は、図1の核酸増幅基板の反応液溜部周辺の第一層と第二層の分解斜視図である。図5は、図1の核酸増幅基板の反応液溜部周辺の拡大断面図である。図6は、図1の核酸増幅基板の反応液導入口周辺の拡大斜視図である。
【0038】
図において、10は、本発明の実施形態の核酸増幅基板を示す。核酸増幅基板10は略長方形の板状であり、その大きさは、30×40mm〜70×100mm程度である。
【0039】
核酸増幅基板10は、ガラス板からなる第一層11とシリコンゴムからなる第二層12が積層されたものである。第一層11は、主として全体の剛性を確保するために設けられた層であり、ガラスの他、石英、アクリル樹脂等の材質のものが使用可能である。
第二層12は、第一層11との界面に空隙を形成させるために設けられた層であり、微細な溝や凹部が形成可能な素材が選択される。シリコンゴムの例としては、PDMS(Polydimethylsiloxane)を挙げることができる。また、シリコンゴムの他、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のプラスチック、ガラス、石英等、様々の材質が使用可能である。
試料を光学的に検出する場合には、第一層11及び第二層12は、透明あるいは光透過性であることが望ましい。
【0040】
本実施形態では、第一層11たるガラス板は、図4、図5に示すように表裏面とも平滑である。これに対して第二層12たるシリコンゴムには、図4、図5の様に第一層11との接触面側に微細な溝5が設けられ、第一層11と第二層12の間に空隙6が形成される。
また第二層12には図1、図2の様に複数の貫通孔が設けられており、当該貫通孔によって空隙と外部とが連通する。
【0041】
上記した空隙内及び開口は、いずれも親水処理がなされており、その表面は、親水性である。
【0042】
第一層11の厚さは、0.2〜5.0mm程度である。第一層11の厚さが、0.2mm未満の場合は、全体の剛性が低く、ヒートブロックで挟んで加熱するのには適しない。逆に第一層11の厚さが5.0mmを越えると、ヒートブロックから内部に熱が伝わり難い。第一層の厚さとして最も好適な範囲は、0,2〜0.6mm程度である。
【0043】
第二層12の厚さは一様ではなく、後記する反応液溜部20が設けられたエリアDは、図2の様に他のエリアに比べて厚さが薄い。具体的には反応液溜部20の厚さが0.2〜1.0mmあり、他の部位の厚さは0.6〜3mmである。
第二層の反応液溜部20に相当する部位は、その厚さが0.2mm未満の場合は、全体の剛性が低く、撓みが大きくてヒートブロックで挟んで加熱するのには適しない。当該部位の厚さが1.0mmを越えると、ヒートブロックから内部に熱が伝わり難い。この点から最も推奨される範囲は、0.3mm〜0.6mm程度である。
後記する電気泳動部21は、外部から熱影響を受けないことが望ましく、第二層の厚さは、反応液溜部20よりも厚く設計されている。また電気泳動部21に電極を取り付ける関係上もある程度の厚さをもつことが望ましい。
【0044】
本実施形態の核酸増幅基板10では、空隙6のパターン(溝パターン)によって図1の様に4系統の核酸増幅・分離流路15,16,17,18が形成されている。
【0045】
上記した4系統の核酸増幅・分離流路15,16,17,18は、いずれも略同一形状であるので、図1の最下部に図示された核酸増幅・分離流路18をこれらの代表例として説明する。
【0046】
核酸増幅・分離流路18は、図1,3に示す様な反応液溜部20と電気泳動部21を有し、これらの周辺に反応液往復流路22、反応液吸引路23、核酸供給路25が設けられたものである。
さらに核酸増幅・分離流路18には、反応液導入開口(反応液導入部)30、吸引用開口31、核酸供給路末端側開口33、泳動部始端側開口35、泳動部終端側開口36が設けられている。各開口30,31,33,35,36は、いずれも第二層12に設けられた貫通孔によって構成されており、第一層11と第二層12の間で形成される空隙6と外部とを連通するものである。
【0047】
以下、順次説明する。
反応液溜部20は、内部に反応液を貯留することを目的として形成された空隙部分である。本実施形態では、反応液溜部20は、S字カーブ状に曲がった流路40を密状態に繋げて作られている。見方を変えると、反応液溜部20は、正面視が略正方形の空隙内に隔壁7(図5)が設けられ、ジグザクで迷路状の流路を設けたものであるとも言える。反応液溜部20内の流路は直列である。すなわち反応液溜部20内においては、略同一長さの8本の直線路41が平行に配され、隣接する直線路41の端部同士が曲路43で接続され、全体として直列状となっている。
曲路43は、図3(b)の様な円状の流路である。曲路は、図3(c)の様な角型の流路であってもよいが、角型の流路は角の部位に気泡が残留し易いので、図3(b)の様な円状の流路を採用することが推奨される。
【0048】
反応液溜部20は、前記した様に内部に反応液を貯留する為に形成された部分であるため、内部の流路は、他の部位の流路に比べて幅、深さ、共に大きい。
すなわち反応液溜部20内の流路は、前記した様に第二層12の界面に形成された溝によって構成されているが、当該溝の幅は、100μm〜500μm、より好ましくは250〜450μmである。
また反応液溜部20の溝の深さは、100〜300μmである。なお他の部位における溝の深さは、10〜50μm程度である。
反応液溜部20の溝の断面積(流路の断面積)は、0.01〜0.15平方ミリであり、他の部位の溝に比べて3倍から50倍大きい。
反応液溜部20の全体の容積は、3〜10ミリリットル程度である。
【0049】
反応液溜部20の一端側は、反応液往復流路22を介して反応液導入開口(反応液導入部)30と連通している。反応液導入開口30は、核酸増幅基板10の中央部近傍に設けられた開口である。反応液導入開口30と反応液溜部20を結ぶ反応液往復流路22は、直線を基調とするものであり、「U」路や「S」路は無い。
【0050】
また反応液溜部20の他端側は、反応液吸引路23を介して吸引用開口31と連通している。吸引用開口31についても核酸増幅基板10に設けられた開口である。反応液吸引路23は、曲路を基調としたものであり、S字カーブ状に曲がった流路である。反応液吸引路23の曲路は、流路抵抗の増大を目的としたものであり、図3(c)の様な角型である。
反応液吸引路23の曲部は、「移動抑制手段」として機能する。
【0051】
電気泳動部21は、泳動部始端側開口35から泳動部終端側開口36に至る流路であり、中途部分で核酸供給路25と交差する。泳動部始端側開口35から交差部50に至る間は、泳動準備路51であり、単に通電路として機能する。
泳動準備路51は、複数の曲路を有して相当量の距離が確保されている。
【0052】
交差部50から泳動部終端側開口36に至る間は泳動路52であり、後記する様にゲルが充填され、増幅されたDNA等の核酸が実際に泳動され分離される部分である。
泳動路52は、一部が「く」の字状に折れているが、基本的には直線を基調としている。
【0053】
核酸供給路25は、反応液導入開口30と核酸供給路末端側開口33を接続するものであり、その中間部分で前記した様に電気泳動部21と交差する。
反応液導入開口30は、前記した様に核酸増幅基板10の中央部近傍に設けられているので、交差部50に至る間は、反応液溜部20側に戻る方向に延びる流路となる。また反応液導入開口30から交差部50に至る間の流路には、「コ」の字状に曲げられた部位が設けられている。当該「コ」の字状に曲がった部位は、流路が平行に並ぶものであるが、平行に並ぶ流路同士の間には相当の距離があり、当該部位における圧力損失は少ない。すなわち前記した「コ」の字状部は、流路抵抗を増大するために設けられたものではなく、反応液導入開口30から交差部50に至る間の距離を所定長以上確保するために設けられたものである。
本実施形態では、交差部50から核酸供給路末端側開口33に至る流路のレイアウトは、反応液導入開口30から交差部50に至る流路のレイアウトと対称形である。
【0054】
本実施形態では、前記した通り4系統の核酸増幅・分離流路15,16,17,18を有し、各流路のレイアウトは多少相違するが、いずれの核酸増幅・分離流路15,16,17,18も、電気泳動部21の流路の長さは同一である。すなわち各核酸増幅・分離流路15,16,17,18の、泳動部始端側開口35から泳動部終端側開口36に至る流路の距離はいずれも同一である。また泳動部始端側開口35から交差部50までの距離、及び交差部50から泳動部終端側開口36までの距離についても、各核酸増幅・分離流路15,16,17,18の間で相違はない。
【0055】
核酸供給路25についても同様であり、反応液導入開口30と核酸供給路末端側開口33の長さはいずれの核酸増幅・分離流路15,16,17,18でも同一である。また反応液導入開口30から交差部50に至る間の長さ、及び交差部50から核酸供給路末端側開口33に至る長さも各核酸増幅・分離流路15,16,17,18の間で相違はない。
【0056】
本実施形態では、図1の様に、核酸増幅反応を行う反応液溜部20のエリアAと電気泳動を行わしめるエリアBが分離されており、両者の間に相当の距離がある。この距離Cは、反応液溜部20の熱が電気泳動部21に伝わらない距離であり、核酸増幅基板10の板厚(最も厚い部分の厚み)の3倍以上、又はガラス板からなる第一層11の板厚の5倍以上である。
【0057】
上記した電気泳動部21及び核酸供給路25には、核酸の電気泳動に一般的に使用される水性ポリマーからなるゲルが充填される。当該ゲルの例としては、アガロース、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリメトキシセルロース等が挙げられる。
ゲルの濃度は、分離する核酸の大きさによって適宜選択される。核酸がDNAの場合を例にとると、数10〜数100塩基対程度の大きさのDNAであれば、5%程度のポリジメチルアクリルアミドを使用することができる。1000塩基対を越える様なDNAの場合は、0.5〜2.5%程度のアガロースゲルを使用することができる。
なお、ゲルには、あらかじめエチジウムブロマイドの様な蛍光を発するインターカレーターを含ませておくことが一般的である。そのようにすれば、電気泳動に供されたDNA等の核酸が泳動と同時にエチジウムブロマイド等で染色され、ただちに蛍光検出器で染色された核酸を検出することができる。
【0058】
電気泳動部21及び核酸供給路25に対するゲルの充填は、核酸増幅基板10を使用する直前に行うことが望ましい。
ゲルの充填は、泳動部終端側開口36から圧入することにより行われる。
【0059】
次に本実施形態の核酸増幅基板10の機能について説明する。
本実施形態の核酸増幅基板10は、図7に示す様な装置に装着して所定の検査を行うものである。
ここで図7は、図1の核酸増幅基板を装着して核酸増幅及び分離を行う温調装置及び電気泳動装置の斜視図である。図8は、反応液導入口から反応液溜部に反応液を送る際における反応液の挙動を示す説明図である。図9は、反応液溜部から反応液導入口側に反応液を戻す際における反応液の挙動を示す説明図である。図10は、核酸を分離する際における反応液の挙動を示す説明図である。
図7に示す装置は、大きく分けて核酸増幅反応を行う温調装置80と電気泳動・検出装置81が組み合わされたものである。
【0060】
温調装置80は、3組のヒートブロック55,56,57と、基板送り機構58と、反応液注入・吸引機構60を備えたものである。
3組のヒートブロック55,56,57は、それぞれ上片55a,56a,57aと下片55b,56b,57bを有し、上片と下片の両方が昇降してその間に核酸増幅基板10を挟むことができる。ヒートブロック55,56,57が挟む位置は、核酸増幅基板10の反応液溜部20の領域だけであり、電気泳動部21は挟まない。
【0061】
3組のヒートブロック55,56,57は、予め所定の温度に温度調節されるものである。核酸増幅反応としてPCRを行う場合を例にとると、向かって右端のヒートブロック55はディナチュレーション温度(95℃)近傍に、左端のヒートブロック57はアニーリング温度(55℃)近傍に、中央のヒートブロック56は二本鎖伸長の各反応温度(72℃)近傍にそれぞれ温度調節される。
3組のヒートブロック55,56,57の内、PCRを行う場合にディナチュレーション温度近傍に温度調節されるヒートブロック55と、二本鎖伸長の各反応温度近傍に温度調節されるヒートブロック56は、電気ヒータを内蔵するものである。一方、アニーリング温度近傍に温度調節されるヒートブロック57は、電気ヒータの他に空冷用ファンによる冷却機能を備えている。
【0062】
各ヒートブロックの核酸増幅基板10に対する接触面には、熱伝導性に優れたシートが接着されている。当該シートには例えばシリコンを素材とするものが採用される。
【0063】
基板送り機構58は、核酸増幅基板10を保持して水平移動させ、核酸増幅基板10を各ヒートブロックに順次挟ませるものである。基板送り機構58は、核酸増幅基板10の装着台61を備える。また装着台61には、基板押さえ62が設けられている。基板押さえ62は、板バネによって核酸増幅基板10を押圧するものであり、核酸増幅基板10の振動を防止する機能を持つ。
【0064】
反応液注入・吸引機構60は、小型の加圧装置と真空装置を備えたものである。
【0065】
電気泳動・検出装置81の内部は図示しないが、電気泳動装置と蛍光検出装置を内蔵するものである。電気泳動装置は、増幅核酸移動用の電極と、増幅核酸泳動用の電極を備える。
【0066】
前述した核酸増幅基板10は、基板送り機構58に装着され、まず最初に反応液注入・吸引機構60の位置に移送される。
反応液注入・吸引機構60では、図8(a)に示すように、反応液導入開口30に反応液が注入される。
この反応液は、核酸増幅反応に必要な成分を全て含むものである。核酸増幅反応がPCRである場合は、鋳型DNA、プライマー、デオキシヌクレオチド3リン酸類、耐熱性DNAポリメラーゼ等が混合されたものが反応液となる。この場合、プライマーにあらかじめ蛍光標識がなされる場合もある。プライマーにあらかじめ蛍光標識がなされる場合は、増幅されたDNAはすでに蛍光標識されているので、電気泳動部21のゲルにインターカレーターを添加する必要はない。
【0067】
本実施形態では、反応液導入開口30に注入された反応液は、毛細管現象によって反応液往復流路22に引き込まれ、反応液溜部20に充填される。この際、反応液往復流路22及び反応液溜部20が親水性であるから、試料が表面に馴染みやすく、反応液導入開口30への試料の導入が容易である。さらに、反応液溜部20において基板から試料への熱伝導がよい。
また必要に応じて吸引用開口31に真空源が接続される。その結果、反応液導入開口30に注入された反応液は、真空源の負圧によって吸引され、反応液往復流路22を流れて図8(b)の様に反応液溜部20に入る。
【0068】
そして次に核酸増幅基板10内でPCR等の核酸増幅反応が行われる。
具体的には、基板送り機構58を動作し、最も右のヒートブロック55に核酸増幅基板10を移送し、上下のヒートブロックの上片55a及び下片55bで核酸増幅基板10の反応液溜部20を挟む。
以下、PCRを行う場合を例に説明する。まず、当該ヒートブロック55は、予めディナチュレーション温度の近傍に温度調節されている。また核酸増幅基板10は薄く、特にヒートブロック55で挟まれる反応液溜部20は厚さが薄い。そのため反応液溜部20の反応液は、数秒の内にディナチュレーション温度に達し、ディナチュレーション反応が速やかに進む。
【0069】
また本実施形態の核酸増幅基板10では、反応液溜部20は、核酸増幅基板10内の空隙6内に形成されており、上面側と下面側は完全に密閉されている。そのためヒートブロック55で核酸増幅基板10を挟んでも、反応液溜部20から反応液が洩れ出ることはなく、ヒートブロック55が汚染されることはない。
【0070】
数秒間、ヒートブロック55で反応液溜部20を挟み続け、ディナチュレーション温度に維持した後、核酸増幅基板10を移動して左端に設けられたヒートブロック57の位置に核酸増幅基板10を運ぶ、この時、核酸増幅基板10は相当の振動や衝撃を受けるが、反応液溜部20から反応液が洩れ出ることはない。
【0071】
そして左端に設けられたヒートブロック57によって核酸増幅基板10を挟む。この場合も、反応液溜部20だけがヒートブロック57で挟まれ、反応液溜部20内の反応液は、ただちにアニーリング温度に達する。
またこの場合についても、反応液溜部20から反応液が洩れ出ることはなく、ヒートブロック57が汚染されることはない。
【0072】
そしてアニーリングが終了すると、再度核酸増幅基板10を移動し、中央のヒートブロック56で、核酸増幅基板10を挟み、二本鎖伸長反応が行われる。またこの場合についても、反応液溜部20から反応液が洩れ出ることはなく、ヒートブロック56が汚染されることはない。
【0073】
二本鎖伸長反応が終了すると、基板送り機構58によって核酸増幅基板10を移動させ、最初のヒートブロック55で核酸増幅基板10を挟み、再度ディナチュレーション反応を行わしめる。
以後、先と同様の一連の工程を30回程度繰り返し、PCR法によって目的のDNAを増幅させる。
【0074】
この様に、本実施形態では、反応液溜部20内の反応液は昇温と冷却が繰り返され、内部の反応液は、膨張と収縮が繰り返される。また本実施形態では、ヒートブロック55,56,57によって反応液溜部20を挟むので、反応液溜部20の表裏面側の壁は、繰り返し圧縮される。
【0075】
しかしながら本実施形態の核酸増幅基板10では、反応液溜部20から反応液が流出することはない。
すなわち本実施形態の核酸増幅基板10では、反応液溜部20の内部に隔壁7(図5)が設けられてジグザグ状の流路が形成されており、全体の流路抵抗が高く、内部における反応液の移動が抑制されている。さらに本実施形態では、反応液溜部20の近傍に反応液吸引路23が設けられているが、反応液吸引路23は、曲路を基調とした流路があり、当該流路も「移動抑制手段」として機能する。
そのため本実施形態の核酸増幅基板10では、反応液溜部20の内外における反応液の移動が少なく、反応液の多くは反応液溜部20に残る。
【0076】
さらに本実施形態では、前記した様に、反応液溜部20の内部に流路が形成されており、図5の様に流路の隔壁7の先端が第一層11の表面と接している。そのため反応液溜部20が圧縮力を受けたとき、当該圧縮力は、流路の隔壁7で負担され、反応液溜部20の表面側の撓みが少ない。
すなわち本実施形態では、流路の隔壁7が耐圧縮部として機能し、反応液溜部20の表面側を撓ませない。
そのため本実施形態では、反応液溜部20に負荷される圧力が小さく、反応液溜部20から反応液を排出させようとする力自体が小さい。
したがって本実施形態の核酸増幅基板10は、反応液溜部20内の反応液が昇温と冷却を繰り返し、且つ反応液溜部20が繰り返し圧縮されるにも係わらず、反応液の多くが反応液溜部20に残留する。逆に言えば、本実施形態の核酸増幅基板10は、少ない試料でPCR法等による核酸増幅反応を行うことができる。
【0077】
核酸増幅反応によって核酸増幅が終了すると、基板送り機構58によって核酸増幅基板10を再度反応液注入・吸引機構60の位置に移送する。
そして図9(a)の様に吸引用開口31に加圧源Pを接続し、吸引用開口31側を高圧雰囲気にして反応液溜部20内の反応液を押し出す。反応液は、図9(a)の様に反応液往復流路22を戻って反応液導入開口30に戻る(図9(b))。
【0078】
この状態で、基板移載機構59によって核酸増幅基板10を電気泳動・検出装置81に移載する。
電気泳動・検出装置81内においては、最初に図10(a)に示すように反応液導入開口30と、核酸供給路末端側開口33に電極が接続され、核酸供給路末端側開口33を正、反応液導入開口30側を負として直流電流が通電される。
【0079】
その結果、反応液導入開口30内の核酸が核酸供給路末端側開口33側に移動する。
そして続いて図10(b)の様に泳動部始端側開口35と泳動部終端側開口36に電極が接続され、泳動部終端側開口36を正、泳動部始端側開口35を負として直流電流が通電される。
その結果、交差部50に到達していた核酸が泳動部終端側開口36側に引き寄せられ、核酸は泳動路52において分子量の大きさに従って分離される。そして、図示しない蛍光検出装置によって蛍光分析が行われる。
【0080】
以上説明した核酸増幅基板10では、反応液溜部20の内部にジグザグ状の流路が形成したものを例に挙げた。本実施形態の様に内部に流路を形成する構造を採用すると、前記した様に反応液溜部20の流路抵抗が高まり、且つ反応液溜部20の表面側の撓みが小さなものとなり、反応液溜部20の反応液が消失しにくく、推奨される構造である。
【0081】
本実施形態では、ジグザグ状の流路は流路幅が一定であったが、図11に示す反応液溜部70の様に部分的に流路幅を狭めて反応液の移動を阻止してもよい。
なお図11は、本発明の他の実施形態における核酸増幅基板の反応液溜部の正面図である。
【0082】
また図12に示す反応液溜部71の様に、内部に柱状部72を設け、当該柱状部72によって圧縮力を負担させて反応液溜部20の表面側の撓みを抑制する構成も考えられる。なお図12は、本発明のさらに他の実施形態における核酸増幅基板の正面図である。
また本発明は、図13、図14に示すような単一室であり且つ内部が空洞状態の反応液溜部を否定するものではない。
【0083】
本実施形態の核酸増幅基板10では、4系統の核酸増幅・分離流路15,16,17,18を設けたが、核酸増幅・分離流路の数は任意であり、1系統でも5系統以上でもよい。
【実施例1】
【0084】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。
本発明者らは、図1に示す核酸増幅基板10を試作し、PCRによる実験を行った。実験に使用した鋳型DNAは、ブタゲノムから得た200塩基対のDNA断片であり、従来技術のPCR装置で増幅したPCR産物である。実験には、このPCR産物を希釈して使用した。
プライマーは、上記した鋳型DNAを得る際に使用したものと同一のフォワード、リバースのプライマーを使用した。
酵素、基質、バッファー等の他の試薬類は、タカラバイオ株式会社製の「TaKaRa Taq」を含むキットを用いた。
【0085】
PCRに使用した反応液は、約8〜10ミリリットルであり、反応液導入開口30に供給し、吸引用開口31から吸引して反応液溜部20に導いた。
なお実験で試作した核酸増幅基板10は、反応液溜部20の容積が約5ミリリットルであり、残量は、吸引用開口31に残った。
そして図7に示す装置を使用してPCR及び電気泳動を行わしめた。
温調装置80のヒートブロック55は、反応液溜部20をディナチュレーション温度とするために、98.5℃に温調した。
またヒートブロック57は、反応液溜部20をアニーリング温度とするために、53.0℃に温調した。
さらにヒートブロック56は、反応液溜部20を二本鎖伸長の反応温度とするために74.5℃に温調した。
【0086】
そしてヒートブロック55で核酸増幅基板10を5秒間挟んでディナチュレーション反応を行わしめ、続いてヒートブロック57で5秒間挟んでアニーリングを行い、さらに続いてヒートブロック56で5秒間挟んで二本鎖伸長の反応を行わしめた。これを30回繰り返した。
以上のPCR法に要した時間は、約10分であった。
そして核酸増幅基板10を電気泳動・検出装置81に移し、DNAの泳動実験を行ったところ、明らかに鋳型DNAが増幅されたものと見られるピークが出現した。
そのため、本実施例の核酸増幅基板10を用いてPCRを行うことにより、DNAが増幅可能であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態の核酸増幅基板の正面図である。
【図2】図1の核酸増幅基板の斜視図である。
【図3】図1の核酸増幅基板の二系統の核酸増幅・分離流路の正面図である。
【図4】図1の核酸増幅基板の反応液溜部周辺の第一層と第二層の分解斜視図である。
【図5】図1の核酸増幅基板の反応液溜部周辺の拡大断面図である。
【図6】図1の核酸増幅基板の反応液導入口周辺の拡大斜視図である。
【図7】図1の核酸増幅基板を装着して核酸増幅及び分離を行う温調装置及び電気泳動装置の斜視図である。
【図8】反応液導入口から反応液溜部に反応液を送る際における反応液の挙動を示す説明図である。
【図9】反応液溜部から反応液導入口側に反応液を戻す際における反応液の挙動を示す説明図である。
【図10】核酸を分離する際における反応液の挙動を示す説明図である。
【図11】本発明の他の実施形態における核酸増幅基板の反応液溜部の正面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施形態における核酸増幅基板の正面図である。
【図13】本発明のさらに他の実施形態における核酸増幅基板の正面図である。
【図14】図13のA−A拡大断面斜視図である。
【図15】図13に示す核酸増幅基板の表裏面をヒートブロックで挟んだ際の挙動を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
1,20,70,71 反応液溜部
2,10 核酸増幅基板
5 溝
6 空隙
7 隔壁(耐圧縮部)
11 第一層(層)
12 第二層(層)
21 電気泳動部
22 反応液往復流路(反応液流路)
23 反応液吸引路(移動抑制手段)
30 反応液導入開口(反応液導入部)
41 直線路(流路)
43 曲路
72 柱状部(耐圧縮部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一部に反応液溜部が形成され、当該反応液溜部内に核酸増幅反応に必要な成分を含む反応液が充填され、前記反応液溜部の温度を調節して反応液溜部内において核酸増幅反応を行い、核酸を増幅する核酸増幅基板において、前記反応液溜部は、基板の内部に設けられた空隙によって構成されており、反応液溜部内で増幅された核酸を電気泳動によって分離する電気泳動部を備えたことを特徴とする核酸増幅基板。
【請求項2】
反応液を導入する反応液導入部と、基板の内部に設けられた空隙によって形成され前記反応液導入部と反応液溜部を繋ぐ反応液流路を備え、反応液は反応液導入部に導入され、さらに反応液流路を経て反応液溜部に充填されることを特徴とする請求項1に記載の核酸増幅基板。
【請求項3】
基板は、2以上の層が積層されて成り、積層された2層の内の一方の積層面に溝が設けられ、当該溝によって基板の内部に前記空隙が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の核酸増幅基板。
【請求項4】
反応液溜部内又は反応液溜部の出入口近傍に反応液の移動を抑制する移動抑制手段が設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項5】
反応液溜部内又は反応液溜部の出入口近傍に複数の曲路を含む流路が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項6】
反応液溜部内には複数の曲路を含む直列の流路が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項7】
反応液溜部内に耐圧縮部が設けられ、反応液溜部を表裏の方向に圧縮した時、当該圧縮力を前記耐圧縮部に負担させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項8】
反応液溜部と電気泳動部は分離されており、両者の距離は、基板の最も厚い部位の厚さの3倍以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項9】
反応液溜部の厚さは、電気泳動部の厚さに比べて薄いことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の核酸増幅基板。
【請求項10】
反応液導入部から反応液溜部に至る領域は、親水性であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の核酸増幅基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2007−244389(P2007−244389A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107513(P2007−107513)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【分割の表示】特願2004−305783(P2004−305783)の分割
【原出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】