説明

検査装置および検査方法

【課題】位相欠陥と、パターン欠陥または異物とを、同時に検出可能な検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】検査装置100は、透過照明光学系301によってマスク101の一方の面に光を照射し、マスク101を透過した透過光を透過結像光学系303を介して第1のフォトダイオードアレイ104に結像する。また、反射照明光学系302によってマスク101の他方の面に光を照射し、マスク101で反射した反射光を反射結像光学系304を介して第2のフォトダイオードアレイ105に結像する。透過照明光学系301の瞳面には第1の開口絞り203が配置され、透過結像光学系303の瞳面には、第1の開口絞り203と共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞り208が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクやマスクブランクスなどの検査対象の欠陥検出に用いられる検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭くなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置でウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造には、微細パターンを描画可能な電子ビーム描画装置が用いられる。また、レーザビームを用いて描画するレーザビーム描画装置の開発も試みられている。尚、電子ビーム描画装置は、ウェハに直接回路パターンを描画する場合にも用いられる。
【0003】
多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。ここで、歩留まりを低下させる大きな要因の1つにマスクのパターン欠陥が挙げられる。このため、マスクの欠陥を検出する検査装置の重要性が高まっている。
【0004】
マスクには、光を透過する透過部と、光を遮蔽する遮光部とからなるバイナリマスクがある。また、透過する光の位相を変化させる位相シフタを備えた位相シフタマスクもある。位相シフタマスクは、LSIに転写されるパターンの最小寸法が転写に用いられる光の波長と同程度になってきていることに鑑みて開発されたものである。代表的な位相シフトマスクとしては、レベンソン型、ハーフトーン型、リム型などが挙げられる。これらはいずれも、マスクを透過する光の一部の位相を180°ずらすことによって、光の干渉による解像度や焦点深度の低下を改善できる。光に位相差をつけるには、マスク基板上に厚さdで屈折率nの透明な薄膜(シフタ)を設ければよい。例えば、ハーフトーンマスクのシフタには、Cr酸化膜、MoSi酸化膜またはこれらの積層膜などが使用される。シフタの厚さdを次式で与えられるようにすれば、180°の位相差を得ることができる。

d(nm)=λ(nm)/2(n−1)

【0005】
バイナリマスクで見られるパターン欠陥は、ウェハに転写されるパターンの欠陥であり、マスクに光を照射しその透過光や反射光を検出することで検知可能である。一方、位相欠陥は、位相シフタの欠陥であり、シフタの厚さdが設計値から変動したり、シフタそのものが欠落したりすることによって生じる。位相欠陥は、バイナリマスクで見られるようなパターン欠陥と異なり透明である。このため、マスクからの透過光や反射光を検出する方法では、信号強度が弱くなって欠陥を検知し難い。
【0006】
そこで、従来は、パターン欠陥の検出と、位相欠陥の検出とは、それぞれ別々の装置を用いて行われていた。このため、1つの検査装置でパターン欠陥と位相欠陥の両方を検出できる検査装置が望まれていた。こうした問題に対して、特許文献1には、位相差顕微鏡型のマスク検査装置と透過顕微鏡型のマスク検査装置とを両立させた検査装置が開示されている。
【0007】
特許文献1の検査装置は、対物光学系瞳面に0次回折光の位相をシフトさせる位相差フィルタを挿入し、照明光学系瞳面に位相差フィルタと共役な絞りを挿入することで、透過型パターン欠陥検査装置を位相差顕微鏡型の欠陥検査装置にする。また、位相差フィルタと絞りのそれぞれと切替可能な円形開口絞りを備えることで、透過型顕微鏡型のバイナリマスクパターンの検査装置の機能を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−49663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、特許文献1の検査装置は、位相差フィルタと絞りをそれぞれ円形開口絞りと切り替えることで、位相欠陥を検出可能な構成からパターン欠陥を検出可能な構成へと変化させる。つまり、この検査装置では、位相欠陥とパターン欠陥を同時に検出することはできず、いずれか一方を検出するための検査を終えた後に、構成を変えて他方を検出するための検査を行わねばならない。また、パターニングされる前のマスクブランクスについて、その位相欠陥と異物を検出する場合にも、それぞれ別々に検査することが必要になる。
【0010】
本発明は、こうした点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、位相欠陥と、パターン欠陥または異物とを、同時に検出可能な検査装置および検査方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、透過照明光学系によって検査対象の一方の面に光を照射し、検査対象を透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によって検査対象の他方の面に光を照射し、検査対象で反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、検査対象の欠陥を検査する検査装置において、
透過照明光学系および反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りが配置され、
透過結像光学系および反射結像光学系のいずれか一方であって、第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りが配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第1の態様において、第1の開口絞りおよび第2の開口絞りは、光路上から移動可能なように構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の態様においては、透過照明光学系の瞳面に1の開口絞りが配置され、透過結像光学系の瞳面に第2の開口絞りが配置されていることが好ましい。
【0015】
本発明の第2の態様は、透過照明光学系によってマスクの一方の面に光を照射し、マスクを透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によってマスクの他方の面に光を照射し、マスクで反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、マスクの欠陥を検査する検査方法において、
透過照明光学系および反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りを配置し、
透過結像光学系および反射結像光学系のいずれか一方であって、第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りを配置して、
第1の画像センサおよび第2の画像センサのいずれか一方であって、第2の開口絞りを透過した光が結像するセンサで検知された信号に基づいて、マスクの位相欠陥を検出し、
他方のセンサで検知された信号に基づいて、マスクのパターン欠陥を検出することを特徴とする検査方法に関する。
【0016】
本発明の第3の態様は、透過照明光学系によってマスクブランクスの一方の面に光を照射し、マスクブランクスを透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によってマスクブランクスの他方の面に光を照射し、マスクブランクスで反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、マスクブランクスの欠陥を検査する検査方法において、
透過照明光学系および反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りを配置し、
透過結像光学系および反射結像光学系のいずれか一方であって、第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りを配置して、
第1の画像センサおよび第2の画像センサのいずれか一方であって、第2の開口絞りを透過した光が結像するセンサで検知された信号に基づいて、マスクブランクスの位相欠陥を検出し、
他方のセンサで検知された信号に基づいて、マスクブランクスの異物欠陥を検出することを特徴とする検査方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、位相欠陥と、パターン欠陥または異物とを、同時に検出可能な検査装置および検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態における検査装置のシステム構成図である。
【図2】第1の開口絞りの模式的な平面図の一例である。
【図3】第2の開口絞りの模式的な平面図の一例である。
【図4】本実施の形態におけるデータの流れを示す概念図である。
【図5】フィルタ処理を説明する図である。
【図6】マスク測定データの取得手順を説明するための図である。
【図7】本実施の形態の検査装置の変形例である。
【図8】光源を1つとした本実施の形態の検査装置の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
欠陥検出をする手法には、ダイ−トゥ−ダイ(Die to Die)検査方式とダイ−トゥ−データベース(Die to Database)検査方式がある。ダイ−トゥ−ダイ検査方式は、同一のマスク内であって、その一部分または全体に同一のパターン構成を有する複数のチップが配置されている場合に、マスクの異なるチップの同一パターン同士を比較する検査方法である。この方式によれば、マスクのパターンを直接比較するので比較的簡単な装置構成で精度の高い検査が行える。しかし、比較するパターンの両方に共通して存在する欠陥は検出することができない。一方、ダイ−トゥ−データベース検査方式は、マスク製造に使用された設計パターンデータから生成される参照データと、マスク上の実際のパターンとを比較する検査方法である。参照画像を生成するための機構が必要になるので装置が大掛かりになるが、設計パターンデータとの厳密な比較が行える。1つのマスクに1つのチップ転写領域しかない場合にはこの方法しか採れない。本実施の形態では、ダイ−トゥ−データベース検査方式による検査装置を例にとるが、ダイ−トゥ−ダイ検査方式であってもよい。
【0020】
ダイ−トゥ−データベース検査では、光源から出射された光が光学系を介して検査対象であるマスクに照射される。マスクはテーブル上に載置されており、テーブルが移動することによって照射された光がマスク上を走査する。マスクを透過または反射した光はレンズを介して画像センサ上に結像し、画像センサで撮像された光学画像は測定データとして比較部へ送られる。比較部では、測定データと参照データとが適当なアルゴリズムにしたがって比較される。そして、これらのデータが一致しない場合には欠陥ありと判定される。
【0021】
図1は、本実施の形態における検査装置のシステム構成図である。この図に示すように、検査装置100は、光学画像取得部Aと制御部Bを有する。光学画像取得部Aは、マスクに光を照射して光学画像を得る部分であり、得られた光学画像は、制御部Bでマスクの設計データから作成された参照画像と比較される。
【0022】
光学画像取得部Aは、位相欠陥とパターン欠陥を同時に検出可能な構成となっている。
【0023】
図1に示すように、光学画像取得部Aは、第1の光源201および第2の光源201’と、第1の光源201からの光を透過照明光としてマスク101に照射する透過照明光学系301と、第2の光源201’からの光を反射照明光としてマスク101に照射する反射照明光学系302と、マスク101を透過した光を集光して第1のフォトダイオードアレイ104に結像する透過結像光学系303と、マスク101で反射した光を第2のフォトダイオードアレイ105に結像する反射結像光学系304とを有する。
【0024】
透過照明光学系301は、第1の光源201から射出された光をコリメートするコリメータレンズ202と、瞳面に配置された第1の開口絞り203と、第1の開口絞り203を透過した光をマスク101上に集光する集光レンズ204とを有する。
【0025】
図2は、第1の開口絞り203の模式的な平面図の一例である。第1の開口絞り203は、遮光部203aと、透光部203bとを有しており、後述する第2の開口絞り208と共役な形状である。
【0026】
第1の光源201から射出されてコリメータレンズ202を透過した光は、第1の開口絞り203を透過した後、集光レンズ204で集光されて、マスク101の裏面、すなわち、パターンが形成されていない基板面に照射される。
【0027】
マスク101を透過した光は、透過結像光学系303に入射する。すなわち、マスク101を透過し、対物レンズ205と第1のビームスプリッタ206を透過した光は、第2のビームスプリッタ207を透過した後、透過結像光学系303の瞳面に配置された第2の開口絞り208を透過し、集光レンズ209によって第1のフォトダイオードアレイ104に結像される。そして、第1のフォトダイオードアレイ104で検知された信号に基づいて、マスク101の位相欠陥が検出される。
【0028】
図3は、第2の開口絞り208の模式的な平面図の一例である。図3から分かるように、第2の開口絞り208は、第1の開口絞り203と共役な形状であって、位相差フィルタとしてのλ/4板208aと、透光部208bとを有している。ここで、λ/4板208は、マスク101を透過した高次回折光が通過する領域に設けられており、透光部208bは、マスク101を透過した0次回折光が通過する領域に設けられている。このような構造とすることにより、マスク101を透過した0次回折光は、そのまま第1のフォトダイオードアレイ104に至る。一方、高次回折光は、λ/4板208aによって位相が変化した後、0次回折光と干渉して打消し合うか、あるいは、強め合って、第1のフォトダイオードアレイ104に至る。
【0029】
図1において、反射照明光学系302の第2の光源201’から射出された光は、コリメータレンズ211を透過し、第1のビームスプリッタ206で反射された後、マスク101の表面、すなわち、パターンが形成された面に照射される。その後、マスク101で反射された光は、第2のビームスプリッタ207で反射された後、反射結像光学系304の集光レンズ210によって第2のフォトダイオードアレイ105に結像される。そして、第2のフォトダイオードアレイ105で検知された信号に基づいて、マスク101のパターン欠陥が検出される。
【0030】
このように、検査装置100は、透過照明光学系301の瞳面に第1の開口絞り203を配置し、透過結像光学系303の瞳面に、第1の開口絞り203と共役な形状の第2の開口絞り208を配置している。これにより、マスク101の位相欠陥を検出することが可能である。また、検査装置100は、反射照明光学系302と反射結像光学系304を有しているので、マスク101からの反射光を検知してパターン欠陥を検出することも可能である。すなわち、検査装置100によれば、マスク101の位相欠陥とパターン欠陥を1回の検査で同時に検出することができる。尚、マスク101に代えてマスクブランクスを検査対象とした場合には、位相欠陥と異物を同時に検出することができる。
【0031】
検査装置100において、第1の開口絞り203と第2の開口絞り208は、光路上から移動可能な構造、例えば、着脱またはスライド可能な構造としておくことが好ましい。これにより、透過照明光学系301と透過結像光学系303によって、透過光を用いたパターン欠陥検査をすることが可能になる。例えば、第1の開口絞り203と第2の開口絞り208をスライドさせて光路上から除くと、第1の光源201から射出されてコリメータレンズ202を透過した光は、集光レンズ204で集光されてマスク101に照射される。マスク101を透過した光は、対物レンズ205、第1のビームスプリッタ206、第2のビームスプリッタ207を順次透過した後、集光レンズ209によって第1のフォトダイオードアレイ104に結像される。そして、第1のフォトダイオードアレイ104で検知された信号に基づいて、マスク101のパターン欠陥が検出される。
【0032】
次に、第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105で検知された信号から光学画像を取得するとともに、マスク101の設計データから参照画像を作成し、これらの画像を比較して欠陥検査を行う方法について、パターン欠陥を例にとり説明する。
【0033】
図1において、光学画像取得部Aは、上述した、第1の光源201および第2の光源201’、透過照明光学系301、反射照明光学系302、透過結像光学系303、反射結像光学系304の他に、水平方向(X方向、Y方向)および回転方向(θ方向)に移動可能なXYθテーブル102と、センサ回路106と、レーザ測長システム122と、オートローダ130とを有する。
【0034】
また、制御部Bでは、検査装置100全体の制御を司る制御計算機110が、データ伝送路となるバス120を介して、位置回路107、比較回路108、参照回路112、展開回路111、オートローダ制御部113、テーブル制御回路114、記憶装置の一例となる磁気ディスク装置109、磁気テープ装置115、フレキシブルディスク装置116、CRT117、パターンモニタ118およびプリンタ119に接続されている。XYθテーブル102は、テーブル制御回路114によって制御されたX軸モータ、Y軸モータおよびθ軸モータによって駆動される。これらのモータには、例えば、ステップモータが用いられる。
【0035】
データベース方式の基準データとなる設計パターンデータは、磁気ディスク装置109に格納されており、検査の進行に合わせて読み出されて展開回路111に送られる。展開回路111では、設計パターンデータがイメージデータ(ビットパターンデータ)に変換される。その後、このイメージデータは、参照回路112に送られて、基準画像となる参照画像の生成に用いられる。
【0036】
尚、図1では、本実施の形態で必要な構成成分を記載しているが、マスクを検査するのに必要な他の公知成分が含まれていてもよい。尚、ダイ−トゥ−ダイ検査方式の場合には、マスク内の異なる領域にある同一パターンの一方の光学画像を基準画像として取り扱う。
【0037】
図4は、本実施の形態におけるデータの流れを示す概念図である。
【0038】
図4に示すように、設計者(ユーザ)が作成したCADデータ401は、OASISなどの階層化されたフォーマットの設計中間データ402に変換される。設計中間データ402には、レイヤ(層)毎に作成されて各マスクに形成される設計パターンデータが格納される。ここで、一般に、検査装置100は、OASISデータを直接読み込めるようには構成されていない。すなわち、検査装置100の製造メーカー毎に、独自のフォーマットデータが用いられている。このため、OASISデータは、レイヤ毎に各検査装置に固有のフォーマットデータ403に変換された後に検査装置100に入力される。尚、フォーマットデータ403は、検査装置100に固有のデータとすることができるが、描画装置と互換性のあるデータとしてもよい。
【0039】
フォーマットデータ403は、図1の磁気ディスク装置109に入力される。すなわち、マスク101のパターン形成時に用いた設計パターンデータは、磁気ディスク装置109に記憶される。
【0040】
設計パターンに含まれる図形は、長方形や三角形を基本図形としたものである。磁気ディスク装置109には、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報であって、各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納される。
【0041】
さらに、数十μm程度の範囲に存在する図形の集合を一般にクラスタまたはセルと称するが、これを用いてデータを階層化することが行われている。クラスタまたはセルには、各種図形を単独で配置したり、ある間隔で繰り返し配置したりする場合の配置座標や繰り返し記述も定義される。クラスタまたはセルデータは、さらにフレームまたはストライプと称される、幅が数百μmであって、長さがフォトマスクのX方向またはY方向の全長に対応する100mm程度の短冊状領域に配置される。
【0042】
入力された設計パターンデータは、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して展開回路111によって読み出される。
【0043】
展開回路111は、設計パターンを図形毎のデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計画像データを展開する。展開された設計画像データは、センサ画素に相当する領域(マス目)毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算する。そして、各画素内の図形占有率が画素値となる。
【0044】
上記のようにして2値ないしは多値のイメージデータ(設計画像データ)に変換された設計パターンデータは、次に参照回路112に送られる。参照回路112では、送られてきた図形のイメージデータである設計画像データに対して適切なフィルタ処理が施される。
【0045】
図5は、フィルタ処理を説明する図である。
【0046】
後述する、センサ回路106から得られた光学画像としてのマスク測定データ404は、光学系の解像特性やフォトダイオードアレイのアパーチャ効果等によってぼやけを生じた状態、言い換えれば空間的なローパスフィルタが作用した状態にある。したがって、画像強度(濃淡値)がデジタル値となった、設計側のイメージデータであるビットパターンデータにもフィルタ処理を施すことで、マスク測定データ404に合わせることができる。このようにしてマスク測定データ404と比較する参照画像を作成する。
【0047】
次に、図1および図6を用いてマスク測定データ404の取得方法を説明する。
【0048】
図1において、光学画像取得部Aによって、マスク101の光学画像、すなわち、マスク測定データ404が取得される。ここで、マスク測定データ404は、設計パターンに含まれる図形データに基づく図形が描画されたマスクの画像である。マスク測定データ404の具体的な取得方法は、例えば、次に示す通りである。
【0049】
検査対象となるマスク101は、XYθ各軸のモータによって水平方向および回転方向に移動可能に設けられたXYθテーブル102上に載置される。そして、マスク101に形成されたパターンに対し、上述のしたように、第1の光源201および第2の光源201’から光を照射して、第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105に光学像を結像する。
【0050】
図6は、マスク測定データ204の取得手順を説明するための図である。
【0051】
検査領域は、図6に示すように、Y方向に向かって、スキャン幅Wの短冊状の複数の検査ストライプ20に仮想的に分割され、さらにその分割された各検査ストライプ20が連続的に走査されるようにXYθテーブル102の動作が制御され、X方向に移動しながら光学画像が取得される。第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105には、図6に示されるようなスキャン幅Wの画像が連続的に入力される。第1の検査ストライプ20における画像を取得すると、今度はXYθテーブル102が逆方向に移動しながら、第2の検査ストライプ20について同様にスキャン幅Wの画像が連続的に入力される。第3の検査ストライプ20については、第2の検査ストライプ20における画像を取得する方向とは逆方向、すなわち、第1の検査ストライプ20における画像を取得した方向に移動しながら取得する。このように、連続的に画像を取得していくことで、無駄な処理時間を短縮することができる。
【0052】
第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105に結像したパターンの像は、これらによってそれぞれ光電変換された後、さらにセンサ回路106でA/D(アナログデジタル)変換される。
【0053】
第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105には、それぞれ画像センサが設けられている。画像センサの例としては、TDI(Time Delay Integration)センサが挙げられる。例えば、XYθテーブル102がX軸方向に連続的に移動しながら、TDIセンサによってマスク101のパターンが撮像される。
【0054】
XYθテーブル102は、制御計算機110の制御の下、テーブル制御回路114によって駆動され、X方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X−Y−θ)モータの様な駆動系によって移動可能となっている。X軸モータ、Y軸モータ、θ軸モータには、例えば、ステップモータが用いられる。XYθテーブル102の移動位置は、レーザ測長システム122により測定されて位置回路107に送られる。また、XYθテーブル102上のマスク101は、オートローダ制御回路113により駆動されるオートローダ130から自動的に搬送され、検査終了後には自動的に排出されるようになっている。
【0055】
センサ回路106から出力されたマスク測定データ404は、位置回路107から出力されたXYθテーブル102上でのマスク101の位置を示すデータとともに、比較回路108に送られる。マスク測定データ404は、例えば8ビットの符号なしデータであり、各画素の明るさの階調を表現している。また、上述した参照画像も比較回路108に送られる。
【0056】
比較回路108では、センサ回路106から送られたマスク測定データ404と、参照回路112で生成した参照画像とが、適切な比較判定アルゴリズムを用いて比較される。比較は、透過画像のみ、反射画像のみ、または、透過と反射を組み合わせたアルゴリズムで行われる。比較の結果、両者の差異が所定の値を超えた場合にその箇所を欠陥と判断する。欠陥と判断されると、その座標と、欠陥判定の根拠となったマスク測定データ404および参照画像とが、マスク検査結果405として磁気ディスク装置109に保存される。
【0057】
マスク検査結果405は、検査装置100の外部装置であるレビュー装置500に送られる。レビューは、オペレータによって、検出された欠陥が問題となるものであるかどうかを判断する動作である。レビュー装置500では、欠陥1つ1つの欠陥座標が観察できるように、マスクが載置されたテーブルを移動させながら、マスクの欠陥箇所の画像を表示する。また同時に欠陥判定の判断条件や、判定根拠になった光学画像と参照画像を確認できるよう、画面上にこれらを並べて表示する。マスク上での欠陥とウェハ転写像への波及状況とをレビュー工程で並べて表示することで、マスクパターンを修正すべきか否かを判断するのが容易になる。尚、一般に、マスクからウェハへは1/4程度の縮小投影が行われるので、並べて表示する際にはこの縮尺も考慮する。
【0058】
検査装置100が検出した全欠陥は、レビュー装置500で判別される。判別された欠陥情報は、検査装置100に戻されて磁気ディスク装置109に保存される。そして、レビュー装置500で1つでも修正すべき欠陥が確認されると、マスクは、欠陥情報リスト406とともに、検査装置100の外部装置である修正装置600に送られる。パターン欠陥では、欠陥のタイプが凸系の欠陥か凹系の欠陥かによって修正方法が異なるので、欠陥情報リスト406には、凹凸の区別を含む欠陥の種別と欠陥の座標が添付される。例えば、遮光膜を削るのか補填するのかの区別、および、修正装置で修正すべき箇所のパターンを認識するための切り出したパターンデータが添付される。ここで、パターンデータには、上述のマスク測定データ404を利用できる。
【0059】
尚、検査装置100自身がレビュー機能を有していてもよい。この場合には、マスク検査結果205が、検査装置100のCRT117、または、別途準備される計算機の画面上に、欠陥判定の付帯情報とともに画像表示される。
【0060】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態における第1の開口絞り203と第2の開口絞り208は矩形状であるが、これに限定されるものではなく、環状または円形状としてもよい。
【0061】
図7は、本実施の形態の検査装置の変形例である。尚、図1と同じ符号を付した部分は同じものであることを示している。
【0062】
図7の検査装置100’では、反射照明光学系302’の瞳面に第1の開口絞り212が配置され、反射結像光学系304’の瞳面に、第1の開口絞り212と共役な形状の第2の開口絞り213が配置されている。第1の開口絞り212は、図2の第1の開口絞り203と同様の形状とすることができ、第2の開口絞り213は、図3の第2の開口絞り208と同様の形状とすることができる。
【0063】
第2の光源201’から射出された光は、コリメータレンズ211と第1の開口絞り212を透過した後、第1のビームスプリッタ206で反射され、マスク101の裏面、すなわち、パターンが形成されていない基板面に照射される。その後、マスク101で反射された光は、第1のビームスプリッタ206を透過した後、第2のビームスプリッタ207で反射される。その後、第2の開口絞り213と集光レンズ214を透過して、第2のフォトダイオードアレイ105に結像される。
【0064】
図7の構成によれば、マスク101で反射し、第2のビームスプリッタ207で反射した0次回折光は、そのまま第2のフォトダイオードアレイ105に至る。一方、高次回折光は、第2の開口絞り213のλ/4板によって位相が変化した後、0次回折光と干渉して打消し合うか、あるいは、強め合う。そして、第2のフォトダイオードアレイ105で検知された信号に基づいて、マスク101の位相欠陥が検出される。
【0065】
一方、第1の光源201から射出された光は、コリメータレンズ202と集光レンズ204を透過した後、マスク101の表面、すなわち、パターンが形成された面に照射される。その後、マスク101を透過した光は、対物レンズ205、第1のビームスプリッタ206、第2のビームスプリッタ207を順次透過した後、集光レンズ209によって第1のフォトダイオードアレイ104に結像される。これにより、マスク101のパターン欠陥が検出される。
【0066】
このように、検査装置100’は、反射照明光学系302’の瞳面に第1の開口絞り212を配置し、反射結像光学系304’の瞳面に、第1の開口絞り212と共役な形状の第2の開口絞り213を配置している。これにより、マスク101の位相欠陥を検出することが可能である。また、検査装置100’は、透過照明光学系301’と透過結像光学系303’を有しているので、マスク101からの透過光を検知してパターン欠陥を検出することも可能である。すなわち、図7の検査装置100’によっても、マスク101の位相欠陥とパターン欠陥を1回の検査で同時に検出することができる。尚、マスク101に代えてマスクブランクスを検査対象とした場合には、位相欠陥と異物とが同時に検出される。
【0067】
本実施の形態において、高次回折光の強度が大きくなり、光量損失を小さくできる点からは、透過結像光学系に位相差フィルタを備えた開口絞りを配置し、透過照明光学系にこれと共役な形状の開口絞りを配置する、図1の検査装置の方が好ましいと言える。
【0068】
検査装置100’において、第1の開口絞り212と第2の開口絞り213は、光路上から移動可能な構造、例えば、着脱またはスライド可能な構造としておくことが好ましい。これにより、反射照明光学系302’と反射結像光学系304’によって、反射光を用いたパターン欠陥検査をすることが可能になる。例えば、第1の開口絞り212と第2の開口絞り213をスライドさせて光路上から除くと、第2の光源201’から射出された光は、コリメータレンズ211を透過した後、第1のビームスプリッタ206で反射されてマスク101に照射される。その後、マスク101で反射された光は、第1のビームスプリッタ206を透過した後、第2のビームスプリッタ207で反射される。その後、集光レンズ214を透過して、第2のフォトダイオードアレイ105に結像される。そして、第2のフォトダイオードアレイ105で検知された信号に基づいて、マスク101のパターン欠陥が検出される。
【0069】
尚、検査装置100’において、第1のフォトダイオードアレイ104と第2のフォトダイオードアレイ105で検知された信号から光学画像を取得するとともに、マスク101の設計データから参照画像を作成し、これらの画像を比較して欠陥検査を行う方法は、検査装置100で説明したのと同様である。
【0070】
また、図1や図7の検査装置では、2つの光源を用いているが、1つのみの光源を用いてもよい。これにより、検査装置を小型化することができる。
【0071】
図8は、光源を1つとした本実施の形態の検査装置の一部拡大断面図である。尚、図1と同じ符号を付した部分は同じものであることを示している。
【0072】
図8において、光源201’’から出射されて第3のビームスプリッタ215を透過した光は、ミラー216で反射された後、コリメータレンズ202、第1の開口絞り203、集光レンズ204を順次透過してマスク101に照射される。一方、光源201’’から出射されて第3のビームスプリッタ215で反射された光は、ミラー217で反射され、コリメータレンズ211を透過し、第1のビームスプリッタ206で反射された後、マスク101に照射される。
【0073】
さらに、上記実施の形態では、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要としない部分についての記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができることは言うまでもない。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更し得る全てのパターン検査装置またはパターン検査方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
20 検査ストライプ
100、100’ 検査装置
101 マスク
102 XYθテーブル
104 第1のフォトダイオードアレイ
105 第2のフォトダイオードアレイ
106 センサ回路
107 位置回路
108 比較回路
109 磁気ディスク装置
110 制御計算機
111 展開回路
112 参照回路
113 オートローダ制御回路
114 テーブル制御回路
115 磁気テープ装置
116 フレキシブルディスク装置
117 CRT
118 パターンモニタ
119 プリンタ
120 バス
122 レーザ測長システム
130 オートローダ
201、201’、201’’ 光源
202、211 コリメータレンズ
203、212 第1の開口絞り
203a 遮光部
203b、208b 透光部
204、209、214 集光レンズ
205 対物レンズ
206 第1のビームスプリッタ
207 第2のビームスプリッタ
208、213 第2の開口絞り
208a λ/4板
215 第3のビームスプリッタ
216、217 ミラー
301、301’ 透過照明光学系
302、302’ 反射照明光学系
303、303’ 透過結像光学系
304、304’ 反射結像光学系
401 CADデータ
402 設計中間データ
403 フォーマットデータ
404 マスク測定データ
405 マスク検査結果
406 欠陥情報リスト
500 レビュー装置
600 修正装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過照明光学系によって検査対象の一方の面に光を照射し、前記検査対象を透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によって前記検査対象の他方の面に光を照射し、前記検査対象で反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、前記検査対象の欠陥を検査する検査装置において、
前記透過照明光学系および前記反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りが配置され、
前記透過結像光学系および前記反射結像光学系のいずれか一方であって、前記第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、前記第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りが配置されていることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記第1の開口絞りおよび前記第2の開口絞りは、光路上から移動可能なように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記透過照明光学系の瞳面に前記1の開口絞りが配置され、前記透過結像光学系の瞳面に前記第2の開口絞りが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
透過照明光学系によってマスクの一方の面に光を照射し、前記マスクを透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によって前記マスクの他方の面に光を照射し、前記マスクで反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、前記マスクの欠陥を検査する検査方法において、
前記透過照明光学系および前記反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りを配置し、
前記透過結像光学系および前記反射結像光学系のいずれか一方であって、前記第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、前記第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りを配置して、
前記第1の画像センサおよび前記第2の画像センサのいずれか一方であって、前記第2の開口絞りを透過した光が結像するセンサで検知された信号に基づいて、前記マスクの位相欠陥を検出し、
前記他方のセンサで検知された信号に基づいて、前記マスクのパターン欠陥を検出することを特徴とする検査方法。
【請求項5】
透過照明光学系によってマスクブランクスの一方の面に光を照射し、前記マスクブランクスを透過した透過光を透過結像光学系を介して第1の画像センサに結像するとともに、
反射照明光学系によって前記マスクブランクスの他方の面に光を照射し、前記マスクブランクスで反射した反射光を反射結像光学系を介して第2の画像センサに結像して、前記マスクブランクスの欠陥を検査する検査方法において、
前記透過照明光学系および前記反射照明光学系のいずれか一方の瞳面に第1の開口絞りを配置し、
前記透過結像光学系および前記反射結像光学系のいずれか一方であって、前記第1の開口絞りが配置された照明光学系からの光が透過する光学系の瞳面に、前記第1の開口絞りと共役な形状であって位相差フィルタを備えた第2の開口絞りを配置して、
前記第1の画像センサおよび前記第2の画像センサのいずれか一方であって、前記第2の開口絞りを透過した光が結像するセンサで検知された信号に基づいて、前記マスクブランクスの位相欠陥を検出し、
前記他方のセンサで検知された信号に基づいて、前記マスクブランクスの異物欠陥を検出することを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169743(P2011−169743A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33770(P2010−33770)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】