説明

楕円偏光板セット及びこれを備えた立体画像表示システム

【課題】観察者が見る立体画像に色むらなどの経時的な変化が生じにくい楕円偏光板セット及び立体画像表示システムを提供する。
【解決手段】表示セル11を備えた画像表示装置2と、画像表示装置2から出力された画像を入射して両眼に透過させる眼鏡3と、を備えた立体画像表示システム1に使用される楕円偏光板セットであって、画像表示装置2における表示セル11の視認側に配置される表示側楕円偏光板20と、眼鏡3の入射側に配置される眼鏡側楕円偏光板40,50と、を備える。表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23と、偏光フィルム21と、が少なくとも積層されており、眼鏡側楕円偏光板40,50は、1/4波長板43,53と、偏光フィルム41,51と、が少なくとも積層されている。1/4波長板23と1/4波長板43,53は、いずれもオレフィン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楕円偏光板セット及びこれを備えた立体画像表示システムに関し、特に、画像表示装置と眼鏡のセットに好適に使用される楕円偏光板セット及びこれを備えた立体画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信技術の進歩やハードウェア性能の向上などにより、近年、より正確でリアルな映像表現が求められるようになってきた。立体的な画像を表示する装置は、以前から技術開発が進められてきたが、テレビ・映画等に更なるエンターテインメント性が要求されるようになった近年になって、徐々に普及し始めている。立体画像表示には種々の方法があり、例えば、偏光メガネといった特殊な眼鏡を観察者に装着させて立体画像を表示する方法や、ホログラフィックディスプレイなどにより特殊な眼鏡を必要とせずに立体画像を表示する方法などがある。
【0003】
このうち観察者に眼鏡を装着させて立体表示させる技術のひとつに、液晶シャッター眼鏡を用いる立体画像表示システムがある。このシステムは、画像を出力表示する画像表示装置と、観察者が装着する眼鏡とを備えている。この眼鏡は、液晶セルを備えており、液晶の分子配向を電気的に制御することで、左右両眼の視界を交互に遮断することが可能となっている。
【0004】
液晶シャッター眼鏡を用いた立体画像表示方式には種々の方式があるが、そのひとつに、フレームシーケンシャル方式(時分割方式)がある。この方式では、左右両眼の各々の視界で被写体を撮影した視差のある左目画像と右目画像を、画像表示装置側で交互に出力表示する。一方、画像表示装置側での左目画像と右目画像の出力タイミングに同期して、眼鏡側では左右両眼の視界を交互に遮断する。これにより、右目画像を右目のみに、左目画像を左目のみに見せるようにし、観察者が立体感を得られるようにしている。
【0005】
このフレームシーケンシャル方式の立体画像表示システムでは、円偏光フィルターが採用されることがある(例えば、特許文献1参照)。この文献では、画像表示装置(CRT)側には、表示面に対向して直線偏光フィルターと1/4波長板とが設けられ、一方のシャッター眼鏡側にも、眼鏡の液晶シャッター部の両側に各々1/4波長板と直線偏光フィルターとが設けられている。CRTから出力された光は、直線偏光フィルターと1/4波長板とからなる円偏光フィルターによって円偏光となり、眼鏡の液晶シャッター部の両側にきた1/4波長板と直線偏光フィルターによって直線偏光に変換されて観察者の眼球に入射する。
【0006】
CRTから出力された偏光は円偏光であるため、シャッター眼鏡をどのような角度に傾けても、左右の画像が反対側の目に入って映像が二重に見える、いわゆる「クロストーク」が生じにくい。このように、1対の1/4波長板を用いることで、液晶シャッター眼鏡をかけている観察者が横になるなどして頭部が傾斜しても、シャッター眼鏡のシャッター機能が低減せず、良好な立体画像を観察することが可能となる。
【0007】
同じように1/4波長板を用いる技術は、他の文献にも記載されている(例えば、特許文献2参照)。この文献にも、液晶セルと円偏光眼鏡にそれぞれ四分の一波長板を配置することで、鑑賞者が着用する眼鏡を傾けた場合でも観賞が可能な立体画像表示システムが開示されている。
【0008】
また、立体画像を表示する装置ではないが、偏光サングラスをかけた観察者用の液晶表示装置であって、液晶セルの表面に偏光子と光学素子(位相差フィルム)を積層することで、直線偏光を円偏光に変換して出射するものも知られている(例えば、特許文献3参照)。このような構成を備えることによれば、偏光サングラスを装着したままでも画面の向きに関わらず視認性の確保が可能となる。
【0009】
この文献には、光学素子として好適に使用できる樹脂材料として、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂などが挙げられている。これらのうち、オレフィン系樹脂は一般に波長分散性が小さく、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムは可視光のどの波長帯でも面内位相差値がほぼ一定であるという特性を有している。したがって、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムを楕円偏光板に用いた場合に、カラーシフトが生じにくく、得られる画像に色付きが少ないという利点がある。また、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂などで構成される偏光フィルムとの接着性が良好であるという利点も有している。
【0010】
特に、特許文献4にも記載されているように、オレフィン系樹脂の一種であるポリプロピレン系樹脂は、結晶性を有しているため、位相差値の発現率が極めて高く、延伸によって大きな位相差値を簡単に得ることができるという特徴がある。また、ポリプロピレン系樹脂は、高倍率で一軸延伸することが可能であるため、膜厚を薄くすることができ、偏光板の薄肉化を図ることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−82307号公報(請求項10、段落0032〜段落0038、段落0044,段落0045、図3,図5)
【特許文献2】特公平6−29914号公報(請求項1、第2頁、図1,図2)
【特許文献3】特開2009−122454号公報(請求項1、段落0023、図1)
【特許文献4】特開2009−134257号公報(請求項1,請求項5、段落0058,段落0059,段落0071、図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、位相差フィルムとして使用される樹脂材料の種類や製膜方法は、多数存在する。そして、これらの樹脂材料や製膜方法から、装置の使用される環境などに応じて最適な種類のフィルムが適宜選択されて用いられている。このため、通常は、立体画像表示システムにおいても、画像表示装置側の1/4波長板と眼鏡側の1/4波長板を構成するフィルムの種類が異なることが多い。
【0013】
一般に、画像表示装置側の1/4波長板と眼鏡側の1/4波長板の種類が異なる場合、屈折率の波長分散性などの光学特性が異なるという性質がある。例えば、ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムは、短波長側では面内位相差値が大きく、反対に長波長側では面内位相差値が小さくなる傾向がある。他の樹脂材料からなるフィルムについても同様に、樹脂材料の種類により波長分散性が相違している。そして、画像表示装置側の1/4波長板と眼鏡側の1/4波長板が異なる樹脂材料から形成される場合、両者の波長分散性が異なるため、観察者が見る立体画像に色付きが生じ、見栄えが低下するという不都合があった。
【0014】
さらに、画像表示装置側の1/4波長板と眼鏡側の1/4波長板の種類が異なる場合、両者の面内位相差値に経時的な差が生じやすいという不都合もある。上述したオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂製の1/4波長板は、樹脂材料や製膜方法などの違いにより面内位相差値の経時変化に差が生じやすいという特性がある。このため、面内位相差値の経時特性が異なる1/4波長板を画像表示装置と眼鏡のそれぞれに配置した場合では、装置を長期に使用することにより、観察者が見る画像に色むらが生じたり、画像が暗くなったりするという問題があった。
【0015】
本発明の目的は、観察者が見る立体画像に色むらなどの経時的な変化が生じにくい楕円偏光板セットを提供することにある。また、本発明の他の目的は、このような経時的な変化が生じにくい楕円偏光板セットを備えた立体画像表示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述したとおり画像表示装置と眼鏡の1/4波長板は、異なる種類であることが多いが、発明者らは、これら1/4波長板をあえて同じ種類とすることで、両方の1/4波長板における面内位相差値の経時的な変化をほぼ同等とした。これにより、画像表示装置の1/4波長板と眼鏡の1/4波長板との間で面内位相差値に経時的な差を生じにくくすることができることを認識し、以下の発明を完成させるに至った。
【0017】
上記課題は、本発明の楕円偏光板セットによれば、表示セルを備え画像を出力表示する画像表示装置と、前記画像表示装置から出力された画像を入射して両眼に透過させる眼鏡と、を備えた立体画像表示システムに使用される楕円偏光板セットであって、前記画像表示装置における前記表示セルの視認側に配置される表示側楕円偏光板と、前記眼鏡の入射側に配置される眼鏡側楕円偏光板と、を備え、前記表示側楕円偏光板は、第1の1/4波長板を有する第1の位相差層と、第1の偏光フィルムと、が少なくとも積層されており、前記眼鏡側楕円偏光板は、第2の1/4波長板を有する第2の位相差層と、第2の偏光フィルムと、が少なくとも積層されており、前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、いずれもオレフィン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じであることにより解決される。
【0018】
この場合、前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなることが好ましい。
【0019】
また、前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、材料、製膜方法及び延伸方法がほぼ同じ条件で製造されると好適である。
【0020】
また、前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板ともに、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが35〜55°又は125〜145°の角度で交差していることが好ましい。
【0021】
また、前記第1の位相差層は、前記第1の偏光フィルムに近い側に配置された前記第1の1/4波長板と、前記第1の偏光フィルムの遠い側に配置された第1の1/2波長板とにより構成されており、前記第2の位相差層は、前記第2の偏光フィルムに近い側に配置された前記第2の1/4波長板と、前記第2の偏光フィルムの遠い側に配置された第2の1/2波長板とにより構成されており、前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもオレフィン系樹脂からなることが好ましい。
【0022】
この場合、前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じであることを特徴とすると好適である。
【0023】
さらにこの場合、前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムにより構成され、材料、製膜方法及び延伸方法がほぼ同じ条件で製造されることが好ましい。
【0024】
また、前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板ともに、偏光フィルムの吸収軸と1/2波長板の遅相軸とが5〜25°、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが65〜85°の角度で交差しているか、あるいは偏光フィルムの吸収軸と1/2波長板の遅相軸とが155〜175°、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが95〜115°の角度で交差していると好適である。
【0025】
また、上記課題は、本発明の立体画像表示システムによれば、画像表示装置と眼鏡とからなる立体画像表示システムであって、前記画像表示装置と前記眼鏡には、請求項1〜8のいずれかに記載された楕円偏光板セットの前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板とがそれぞれ設けられることにより解決される。
【0026】
この場合、前記立体画像表示システムは、同期手段を備えたフレームシーケンシャル方式の立体画像表示システムであり、前記画像表示装置は、表示セルを備え同一の被写体を左右両眼の各々の視界で撮影した左目画像及び右目画像を交互に出力表示し、前記眼鏡は、液晶の分子配向を電気的に制御することにより左右両眼への入射光を交互に遮断し、前記同期手段は、前記画像表示装置の表示時期と前記眼鏡の遮断時期とを同期させて前記左目画像が右目に、前記右目画像が左目に入射するのを遮断するシステムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の楕円偏光板セットによれば、画像表示装置側と眼鏡側に配置される1/4波長板がいずれもオレフィン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じであるため、画像表示装置と眼鏡との間で位相差の経時的な差が生じにくい。このため、観察者が見る立体画像に色むらなどの経時的な変化が生じにくく、長期にわたって良好な立体画像を表示することができる。
【0028】
また、本発明の立体画像表示システムによれば、上述した楕円偏光板セットを備えることで、立体画像に経時的な変化が少なくなり、長期にわたって良好な立体画像を観察者に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施形態の立体画像表示システムを構成する画像表示装置と眼鏡の基本構成を示した断面模式図である。
【図2】立体画像表示システムの全体構成を示した斜視図である。
【図3】立体画像表示システムのブロック図である。
【図4】第1の実施形態の立体画像表示システムにおける偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸との関係を示した説明図である。
【図5】第2の実施形態の立体画像表示システムを構成する画像表示装置と眼鏡の基本構成を示した断面模式図である。
【図6】第2の実施形態の立体画像表示システムにおける偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸と1/2波長板の遅相軸との関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、本発明は以下に説明する部材や配置等によって限定されず、これらの部材等は本発明の趣旨に沿って適宜改変することができる。以下に説明する実施形態では、立体画像表示システムの一例としてフレームシーケンシャル方式のシステムを挙げて説明する。なお、本発明を適用できる立体画像表示システムとしては、このようなフレームシーケンシャル方式に限定されず、他の方式であってもよい。
【0031】
<第1の実施形態>
以下に、第1の実施形態の立体画像表示システムについて説明する。この実施形態では、後述するように位相差層として1/4波長板のみを備えている。
【0032】
(立体画像表示システム)
図2は、本実施形態の立体画像表示システムの全体構成を示した斜視図である。この図に示すように、立体画像表示システム1は、画像を出力表示する画像表示装置2と、画像表示装置から出力表示された画像を観察者に立体視させる眼鏡3とを備えている。
【0033】
画像表示装置2は、同一の被写体を左右両眼の各々の視界で撮影した左目画像と右目画像を交互に出力表示する装置である。この画像表示装置2は、後述するように表示セルを備えており、この表示セルから右目画像と左目画像を交互に出力することで、連続して左右両眼画像を表示している。
【0034】
眼鏡3は、画像表示装置2から出力された画像を入射し、観察者の両眼に透過させる装置である。本実施形態の眼鏡3は、液晶セルを備えた液晶シャッター眼鏡であり、液晶セルを備えており、液晶の分子配向を電気的に制御することにより、左右両眼への入射光を交互に遮断する機能を有している。これにより、画像表示装置2から出力表示される左目画像が右目に、右目画像が左目に入射することを防止し、左目画像を左目のみに、右目画像を右目のみに視認させることで、立体視を実現している。
【0035】
図3は、立体画像表示システム1を構成する画像表示装置2と眼鏡3の機能ブロック図である。この図に示すように、画像表示装置2は、画像信号受信部2aと、表示制御部2bと、同期信号生成部2cと、無線送信部2dと、画像表示部2eと、を備えている。一方、眼鏡3は、左目側シャッター3aと、右目側シャッター3bと、シャッター駆動部3cと、同期制御部3dと、無線受信部3eと、を備えている。なお、同期信号生成部2c、無線送信部2d、同期制御部3d、無線受信部3eは、本発明の同期手段に相当する。
【0036】
画像信号受信部2aは、図示しない画像信号発生装置からの画像信号を受信する機能を有している。この画像信号には、左目画像Ilと右目画像Irのそれぞれの画像信号が一定のフレームレートで交互に並んでいる。画像信号受信部2aで受信した画像信号は、表示制御部2bに伝送される。表示制御部2bは、画像表示部2eの表示セル等を駆動するための信号を生成して画像表示部2eに伝送する。画像表示部2eでは、後述する表示パネルを駆動して左目画像Ilと右目画像Irを交互に表示出力する。また、画像信号受信部2aで受信された画像信号は、同期信号生成部2cにも伝送され、左目画像Ilと右目画像Irのフレームレートから同期信号が抽出される。この同期信号は符号化されたのち、無線送信部2dに伝送され、アンテナから放射される。この同期信号は、画像表示部2eで表示される左目画像Ilと右目画像Irに同期している。
【0037】
画像表示装置2において無線送信部2dのアンテナから放射された同期信号は、眼鏡3において無線受信部3eのアンテナで受信され、無線受信部3eにおいて所定のフレームレートからなる同期信号に復号化される。この同期信号は同期制御部3dに伝送され、この同期信号のタイミングに合わせて同期制御部3dはシャッター駆動部3cにシャッター開閉タイミング信号を送信する。シャッター駆動部3cは、このシャッター開閉タイミング信号に基づいて、左目側シャッター3aと右目側シャッター3bを交互に閉動作させる。
【0038】
ここで、左目側シャッター3aと右目側シャッター3bは、後述するようにいずれも液晶セルを備えており、この液晶セル内の液晶に電圧を印加することで液晶分子の配向を電気的に制御し、光の透過、遮断を制御することができる。そして、画像表示装置2で左目画像Ilが表示されているときは、左目側シャッター3aが開き、右目側シャッター3bが閉じた状態となり、画像表示装置2から観察者の左目への入射光は透過し、右目へ入射する光は遮断される。また、画像表示装置2で右目画像Irが表示されているときは、右目側シャッター3bが開き、左目側シャッター3aが閉じた状態となり、画像表示装置2から観察者の右目への入射光は透過し、左目へ入射する光は遮断される。これにより、観察者の左目には左目画像Ilのみが、右目には右目画像Irのみが透過し、左右両画像の視差により観察者は立体感を得ることができる。
【0039】
なお、無線による同期信号は、IrDAに例示される赤外線や、ZigBee(登録商標)やBluetooth(登録商標)に例示される電波を使用して送受信することができる。また、本発明の同期手段としては、上述した無線による伝送方式に限定されず、ケーブルなどを通じた有線による伝送方式であってもよい。
【0040】
次に、画像表示装置2の画像表示部2eと、眼鏡3の液晶シャッター(左目側シャッター3a、右目側シャッター3b)について説明する。図1は、画像表示装置2の画像表示部2eと眼鏡3の液晶シャッターを上側から見た状態を模式的に示した図である。この図に示すように、画像表示部2eは、表示パネル10と、バックライト13と、光拡散板15とを備えている。表示パネル10は、表示セル11と、表示セル11の視認側に配置される表示側楕円偏光板20と、表示セル11の背面側(バックライト13側)に配置される表示側直線偏光板30と、により構成されている。
【0041】
画像表示装置2の表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23(第1の1/4波長板)と、偏光フィルム21(第1の偏光フィルム)と、粘着剤層27とがこの順に積層された層構成を有している。また、背面側直線偏光板30は、保護フィルム33と、偏光フィルム31と、粘着剤層37とがこの順に積層された層構成を有している。表示側楕円偏光板20は、粘着剤層27側が表示セル11側を向くように配置され、粘着剤層27により表示セル11の視認側表面に貼合されている。また、背面側直線偏光板30は、粘着剤層37側が表示セル11を向くように配置され、粘着剤層37により表示セル11の背面側に貼合されている。偏光フィルム21(第1の偏光フィルム)と粘着剤層27の間に、あるいは偏光フィルム31と粘着剤層37の間に、保護フィルムとして透明樹脂フィルムを積層してもよい。なお、液晶セルのモードに応じて、上記透明樹脂フィルムが位相差機能を有し、視野角補償フィルムを兼用することが好ましい。
【0042】
表示セル11は、画像を表示させるために電気的に制御される素子である。本実施形態では、ガラス基板の間に液晶物質を封入した液晶セルを使用している。液晶セルは、表示制御部2bからの電気的制御により液晶物質の分子配向を変化させることで、液晶セルの配向側に配置した偏光板により偏光化されたバックライト13の光の偏光状態を変化させ、液晶セルの配向側に配置した偏光板を透過した光量を制御することによって画像を表示させる装置である。液晶セルのモードとしては、VAモード、IPSモード、ブルー相の液晶を用いた液晶駆動モードなど、公知のモードを採用することができる。なお、本発明の表示セル11としては、このような液晶セルに限定されず、有機ELなどに使用される他の表示素子を用いることもできる。
【0043】
バックライト13は、表示セル11を照明する装置である。バックライト13としては、エッジライト式や直下型方式などの種類が挙げられる。エッジライト式は、側面に配置した冷陰極管などの光源から導光板を通じて表示セル11に光を照射する。また、直下型方式では、表示セル11の背面側に光源を配置して表示セル11に光を照射する。バックライト13の種類は、画像表示装置の用途に応じたものを適宜採用することができる。
【0044】
光拡散板15は、バックライト13からの光を拡散させる機能を有する光学部材である。光拡散板15としては、例えば、熱可塑性樹脂に光拡散剤である粒子を分散させて光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に凹凸を形成して光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に粒子が分散された樹脂組成物の塗布層を設け、光拡散性を付与したものなどを採用することができる。光拡散板15の厚みは、0.1〜5mm程度とすることができる。
【0045】
光拡散板15と表示パネル10との間には、輝度向上シート(反射型偏光フィルムである(「DBEF」など))や光拡散シートといった、他の光学機能性を示すシートやフィルムを配置することもできる。他の光学機能性を示すシートやフィルムは、必要に応じて2枚以上、複数種類配置することも可能である。
【0046】
次に、眼鏡3の各構成について説明する。眼鏡3の左目側シャッター3aは、眼鏡側楕円偏光板40と、液晶セル49と、直線偏光板48と、を備えている。また、右目側シャッター3bは、眼鏡側楕円偏光板50と、液晶セル59と、直線偏光板58と、を備えている。
【0047】
眼鏡側楕円偏光板40は、1/4波長板43(第2の1/4波長板)と、偏光フィルム41(第2の偏光フィルム)と、粘着剤層47とがこの順に積層された層構成を有している。眼鏡側楕円偏光板40は、粘着剤層47側が液晶セル49側を向くように配置され、粘着剤層47により液晶セル49の入射側表面に貼合されている。また、眼鏡側楕円偏光板50も同様に、1/4波長板53(第2の1/4波長板)と、偏光フィルム51(第2の偏光フィルム)と、粘着剤層57とがこの順に積層された層構成を有している。眼鏡側楕円偏光板50は、粘着剤層57側が液晶セル59側を向くように配置され、粘着剤層57により液晶セル59の入射側表面に貼合されている。偏光フィルム41(第2の偏光フィルム)と粘着剤層47の間に、あるいは偏光フィルム51(第2の偏光フィルム)と粘着剤層57の間に、保護フィルムとして透明樹脂フィルムを積層してもよい。なお、液晶セルのモードに応じて、上記透明樹脂フィルムが位相差機能を有し、視野角補償フィルムを兼用することが好ましい。
【0048】
次に、画像表示装置2で表示される画像が眼鏡3を通じて観察者に視認される仕組みを説明する。バックライト13から出射される光は、光拡散板15で拡散され、表示側直線偏光板30に入射する。この表示側直線偏光板30で光は直線偏光となる。一方、表示セル11を出射した直線偏光は、表示側楕円偏光板20の1/4波長板23で楕円偏光に変換されて画像表示装置2から出射される。一方、この楕円偏光は、眼鏡3の眼鏡側楕円偏光板40,50の1/4波長板43,53で直線偏光に変換される。この直線偏光が、観察者の目に入射する。このように、画像表示装置2で楕円偏光を出射し、これを眼鏡3で直線偏光に変換するため、眼鏡3をかけた観察者が横になるなどして眼鏡3が傾斜したとしても、クロストークが生じにくく、良好な立体画像を観察者に視認させることができる。
【0049】
(1)偏光フィルム21(第1の偏光フィルム)
次に、表示側楕円偏光板20を構成する各フィルムについて説明する。偏光フィルム21は、自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。偏光フィルム21としては、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができ、ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0050】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000程度であり、好ましくは1,500〜5,000程度である。
【0051】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルム21の原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系原反フィルムの厚みは特に限定されないが、例えば10〜150μm程度である。
【0052】
偏光フィルム21は、通常、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程、を経て製造される。
【0053】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの一軸延伸は、二色性色素による染色の前、染色と同時、又は染色の後に行うことができる。一軸延伸を染色の後で行う場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。もちろん、ここに示した複数の段階で一軸延伸を行うこともできる。一軸延伸には、周速の異なるロール間で一軸に延伸する方法や、熱ロールを用いて一軸に延伸する方法などが採用できる。また、一軸延伸は、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、水等の溶剤を用い、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0054】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸方向は、長尺状の偏光フィルム21の長手方向に平行な方向としている。このため、偏光フィルム21の吸収軸は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの延伸方向、すなわち長尺状の偏光フィルム21の長手方向に平行な方向となる。
【0055】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、例えば、二色性色素を含有する水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法により行うことができる。二色性色素として、具体的にはヨウ素や二色性染料が用いられる。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水に浸漬して膨潤させる処理を施しておくことが好ましい。
【0056】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.01〜1重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.5〜20重量部程度である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒程度である。
【0057】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10−4〜10重量部程度であり、好ましくは1×10−3〜1重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。染色に用いる二色性染料水溶液の温度は、通常20〜80℃程度である。また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1,800秒程度である。
【0058】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行うことができる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の含有量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、このホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部程度であり、好ましくは5〜12重量部程度である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常60〜1,200秒程度であり、好ましくは150〜600秒程度、更に好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは60〜80℃である。
【0059】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常1〜120秒程度である。
【0060】
水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルム21が得られる。乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥処理の温度は、通常30〜100℃程度であり、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒程度であり、好ましくは120〜600秒である。
【0061】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色とホウ酸処理が施され、偏光フィルム21が得られる。偏光フィルム21の厚みは、例えば2〜40μm程度とすることができる。また、偏光フィルム21は、製造後には通常、ロール状に巻かれた状態で保管される。使用時には、ロール状に巻かれた状態から、長尺状に繰り出して用いられる。
【0062】
(2)1/4波長板23(第1の1/4波長板)
1/4波長板23(第1の1/4波長板)は、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、光学異方性を有する波長板である。1/4波長板23は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/4波長(90°)の位相差を示す位相差フィルムであり、直線偏光と円偏光を相互に変換する機能を有するとともに、表示セル11内部の液晶などの視野角を補償する機能を有している。この1/4波長板23は、本発明の第1の位相差層を構成している。
【0063】
1/4波長板23の面内位相差値Rは、10〜300nm程度の範囲から適宜選択することが可能であり、好ましくは70〜160nmであり、より好ましくは80〜150nmである。この面内位相差値Rは、画像表示装置2の種類や目的に応じて、楕円偏光の楕円率や長軸方位角などを考慮して適宜決定することができる。1/4波長板23の位相差軸の公差は、画像表示装置2の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0064】
1/4波長板23は、オレフィン系樹脂からなる位相差フィルムで構成されている。オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン又は他のシクロペンタジエン誘導体等の環状オレフィンモノマーを、重合用触媒を用いて重合した環状オレフィン系樹脂や、エチレン又はプロピレン等の鎖状オレフィンモノマーを、重合用触媒を用いて重合した鎖状オレフィン系樹脂が挙げられる。
【0065】
ここで、環状オレフィン系樹脂としては、例えば、以下の樹脂を例示することができる。
(1)シクロペンタジエンとオレフィン類とからディールス・アルダー反応によって得られるノルボルネン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;
(2)ジシクロペンタジエンとオレフィン類又はメタクリル酸エステル類とからディールス・アルダー反応によって得られるテトラシクロドデセン又はその誘導体をモノマーとして開環メタセシス重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;
(3)ノルボルネン、テトラシクロドデセン及びそれらの誘導体類並びにその他の環状オレフィンモノマーから選択される2種以上を用いて同様に開環メタセシス共重合を行い、それに続く水添によって得られる樹脂;
(4)ノルボルネン、テトラシクロドデセン又はそれらの誘導体に、ビニル基を有する芳香族化合物等を付加共重合させて得られる樹脂。
【0066】
また、鎖状オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が例示される。これらの樹脂材料のうち、位相差値の発現率の高さや偏光フィルム21との接着性等の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成されてもよく、ポリプロピレンと他のコモノマーとの共重合体であってもよい。
【0067】
プロピレンに共重合されるコモノマーとしては、例えば、エチレンや炭素原子数4〜20のα−オレフィンが挙げられる。この場合、α−オレフィンの具体例としては、以下の化合物を挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C);1−ノネン(C);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)等。このうち、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましい。共重合性の観点からは、特に1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテンや1−ヘキセンが好適である。
【0068】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体が挙げられる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含量や1−ブテンユニットの含量は、例えば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行うことで求めることができる。
【0069】
位相差フィルムとしての透明度や加工性を上げる観点からは、プロピレンを主体とし、任意の不飽和炭化水素とのランダム共重合体にするのが好ましく、中でもエチレンとの共重合体が好ましい。共重合体とする場合、プロピレン以外の不飽和炭化水素類の共重合割合は、1〜10重量%の範囲内にするのが有利であり、より好ましい共重合割合は3〜7重量%の範囲内である。プロピレン以外の不飽和炭化水素類のユニットを1重量%以上とすることで、位相差フィルムの加工性や透明性が上がるため好ましい。一方、その割合が10重量%を超えると、樹脂の融点が下がり、耐熱性が悪くなるため好ましくない。なお、二種類以上のコモノマーとポリプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれるすべてのコモノマーに由来するユニットの合計含量が1〜10重量%であることが好ましい。
【0070】
ポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。公知の重合用触媒としては、例えば、以下の触媒を挙げることができる。
(1)マグネシウム、チタン、ハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒;
(2)マグネシウム、チタン、ハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系;
(3)メタロセン系触媒等
【0071】
これら触媒系の中でも、(2)に示す触媒系が一般的である。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、テトラエチルジアルモキサン等が好ましい。また、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン等が好ましい。
【0072】
一方、(1)に示す固体触媒成分としては、例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載の触媒系が挙げられる。また、(3)に示すメタロセン系触媒としては、例えば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報等に記載の触媒系が挙げられる。
【0073】
ポリプロピレン系樹脂は、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法等によって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0074】
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよい。なお、耐熱性の点から、シンジオタクチックか、あるいはアイソタクチックが好ましい。
【0075】
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。なお、このMFRの値は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定される値である。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
【0076】
このポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等を挙げることができる。酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、例えば1分子中にフェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤等を用いることができる。紫外線吸収剤としては、例えば2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系のような紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤等が挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドのような高級脂肪酸アミド、ステアリン酸のような高級脂肪酸、それらの塩等が挙げられる。造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンのような高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、無機系、有機系を問わず球状やそれに近い形状の微粒子を使用できる。これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。
【0077】
(位相差フィルムの製造方法)
位相差フィルムは、オレフィン系樹脂を含む樹脂材料をフィルム状に成型して未延伸フィルムに製膜し、この未延伸フィルムを所定の延伸方向に延伸処理することで製造することができる。未延伸フィルムは、オレフィン系樹脂を任意の方法で製膜して長尺状の未延伸フィルムとしたものである。製膜方法としては、例えば、溶融樹脂からの押出成形法や、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延した後で溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法等が挙げられる。これにより、実質的に面内位相差がないオレフィン系樹脂の長尺状の未延伸フィルムを得ることができる。なお、これらの製膜方法のうち、生産性の観点からは溶融樹脂からの押出成形法が好ましい。
【0078】
以下、この押出成形法について詳細に説明する。この押出成形法では、まずオレフィン系樹脂を押出機中でスクリューの回転によって溶融混練し、続いてTダイからシート状に押し出す。押し出される溶融状シートの温度は、180〜300℃の範囲内とすることが好ましく、230〜270℃の範囲内とすることがより好ましい。溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる未延伸フィルムの厚みが不均一になりやすい。その結果、この未延伸フィルムを用いて製造した位相差フィルムに位相差ムラが生じやすくなる。また、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすくなり、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりする場合があるため好ましくない。
【0079】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。例えば、単軸押出機の場合は、L/Dが24〜36程度、圧縮比が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプ、マドック型の混練部分を有するタイプ等のスクリューを用いることができる。ここで、L/Dとは、スクリューの長さLと直径Dの比を意味する。また、圧縮比とは、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積との比(前者/後者)を意味する。オレフィン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。
【0080】
また、オレフィン系樹脂の劣化や分解を抑制するために、押出機内は窒素雰囲気か真空にすることが好ましい。さらに、オレフィン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1〜5mmφのオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めるとは、先端での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2〜4mmφである。
【0081】
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましい。また、Tダイのリップ部分は、溶融したオレフィン系樹脂との摩擦係数が小さくなるようめっきやコーティングされ、更にリップ先端を0.3mmφ以下に研磨してシャープなエッジ形状とすることが好ましい。摩擦係数が小さくなるめっきとしては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっき等が挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れた樹脂フィルムを得ることができる。
【0082】
Tダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)又は(2)を満たすことが好ましく、更には条件(3)又は(4)を満たすことがより好ましい。
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの厚み方向長さ>180mm;
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの厚み方向長さ>220mm;
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満:Tダイの高さ方向長さ>250mm;
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上:Tダイの高さ方向長さ>280mm;
【0083】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状オレフィン系樹脂の流れを整えることができ、かつリップ部分でも厚みムラを抑えながら押し出すことができる。このため、より厚み精度に優れ、より均一な位相差を有する未延伸フィルムを得ることができる。
【0084】
さらには、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプやリーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。これにより、オレフィン系樹脂の吐出量を一定に制御し、未延伸フィルムの膜厚のばらつき範囲を低減させることができる。
【0085】
Tダイから押し出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロールやキャスティングロールともいう)とタッチロールとの間に挟圧させて冷却固化することで、所望の未延伸フィルムを得ることができる。タッチロールは、金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を備えた部材である。このタッチロールは、ゴム等の弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブの外筒で被覆したものでもよい。表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、オレフィン系樹脂の溶融状シートとタッチロールの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。一方、外筒で被覆したタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールの間に、オレフィン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。
【0086】
上述のような金属製冷却ロールとタッチロールとで挟んで溶融状シートを冷却固化させる場合、金属製冷却ロールとタッチロールのいずれも予め表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷する必要がある。両ロールの表面温度は、例えば0〜30℃の範囲に調整することが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、オレフィン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られる位相差フィルムが透明性に劣るため好ましくない。両ロールの表面温度は、好ましくは30℃未満、更に好ましくは25℃未満である。反対に、両ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露して水滴が付着し、得られる位相差フィルムの外観を悪化させやすくなるため好ましくない。
【0087】
金属製冷却ロールの表面は未延伸フィルムの表面に転写されるため、金属製冷却ロールの表面に凹凸があると、得られる位相差フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。したがって、金属製冷却ロールの表面は可能な限り鏡面状態とすることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.3S以下であることが好ましく、更には0.1〜0.2Sであることがより好ましい。
【0088】
また、金属製冷却ロールの回転ムラに由来する未延伸フィルムの膜厚のばらつき範囲を低減するため、精密減速機を備えたモータを設置することが好ましい。精密減速機を設置することで、金属製冷却ロールの回転ムラを回転速度の±0.5%以内に調整することが可能となり、長尺方向の膜厚のばらつき範囲を低減することができる。
【0089】
タッチロールの弾性体の表面硬度は、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)の測定値で65〜80であることが好ましく、更には70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度の弾性体を用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ未延伸フィルムの成型時に金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)が生じにくい。
【0090】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50〜300N/cmとするのが好ましく、100〜250N/cmとするのがより好ましい。線圧をこの範囲にすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながら未延伸フィルムを製造することが容易となる。
【0091】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、オレフィン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、オレフィン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱等による寸法変化の少ないポリエステルが最も好ましい。この場合の二軸延伸フィルムの厚みは、通常、5〜50μmであり、好ましくは10〜30μmである。
【0092】
この方法において、Tダイのリップから溶融状シートが金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押し出された溶融状シートは、リップからロールまでの間に引き伸ばされて配向が生じやすくなるが、エアギャップを短くすることで、配向のより小さい未延伸フィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径と使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0093】
この方法で未延伸フィルムを製造するときの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその金属製冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は最大で5〜20m/分程度となる。
【0094】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融状シートは、両ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻取り機に巻き取られてロール状の未延伸フィルムとなる。この際、未延伸フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面や両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。上述した熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに溶融状シートを金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧した場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0095】
この工程で用いる長尺状の未延伸フィルムは、その幅方向に連続的に測定した膜厚プロファイルにおける凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差(膜厚分布)が、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。ここで、「幅方向」とは、未延伸フィルムの面内において長尺方向に対して垂直な方向を意味する。「長尺方向」とは、機械方向(Machine Direction)を意味する。ここで、機械方向とは、未延伸フィルムが押出成形法によって製膜される場合はその未延伸フィルムが押し出される方向であるか、又はキャスト法によって製膜される場合はその未延伸フィルムが流延される方向である。
【0096】
また、「凸部膜厚」とは、膜厚プロファイルに現れる膜厚の凸と凹の繰り返しのうち、各凸部における最大膜厚(各凸部の頂点における膜厚)を指す。一方、「凹部膜厚」とは、膜厚プロファイルに現れる膜厚の凸と凹の繰り返しのうち、各凹部における最小膜厚(各凹部の最底点における膜厚)を指す。ここでいう膜厚プロファイルとは、未延伸フィルムの任意の一点より幅方向に沿って1300mmの範囲の距離で連続的に測定された膜厚をいう。膜厚プロファイルの測定方法としては、未延伸フィルムの膜厚を連続的に測定できる手段であれば特に限定されないが、通常、接触式連続厚み計を用いて行われる。接触式連続厚み計としては、例えば、厚み計KG601B(アンリツ社製)を用いることができる。
【0097】
なお、凸部膜厚の平均値と凹部膜厚の平均値との差が1μmを超える未延伸フィルムを用いると、得られる位相差フィルムの最大位相差値と最小位相差値の平均値との差も大きくなる。また、未延伸フィルムの膜厚は、特に制限されないが、10〜130μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。膜厚が130μmを超えると、延伸後に所望の位相差が得られにくくなる。また、膜厚が10μmを下回ると、延伸後の位相差フィルムにシワ等が発生しやすくなり、巻取りや貼合時の取扱い性に劣る場合がある。
【0098】
延伸フィルム(位相差フィルム)は、上記工程で得られた未延伸フィルムに一軸延伸、二軸延伸など公知の延伸処理を施すことで製造することができる。二軸延伸は、2つの延伸方向に同時に延伸する同時二軸延伸でもよく、所定方向に延伸した後で他の方向に延伸する逐次二軸延伸であってもよい。また、延伸方向としては、未延伸フィルムの機械流れ方向(MD)、これに直交する方向(TD)、機械流れ方向(MD)に斜交する方向などが挙げられる。特に、後述するロール・トゥ・ロール貼合により偏光フィルム21と1/4波長板23を貼合する際には、機械流れ方向(MD)に斜交する方向に斜め延伸することで1/4波長板23を製造することが好ましい。
【0099】
上述した延伸処理のうち、特に、以下に記載する固定端延伸が好ましい。以下、この固定端延伸による1/4波長板23の製造方法について詳細に説明する。
【0100】
(固定端延伸)
1/4波長板23(位相差フィルム)は、上記未延伸フィルムを直接、固定端延伸することにより、あるいは、未延伸フィルムに対して、他の延伸処理と固定端延伸とを施すことにより得ることができる。ここで、固定端延伸とは、未延伸フィルムの両端を固定しておき、固定された両端間の距離を広げながら未延伸フィルムに熱を与えることにより、広げた方向に未延伸フィルムを延伸する方法である。
【0101】
他の延伸処理と固定端延伸とを施す製造方法の好ましい例としては、未延伸フィルムに対して自由端延伸と固定端延伸とを逐次的に施すことが挙げられる。ただし、この例に限定されるものではなく、後述する特定条件の固定端延伸処理がなされる限りにおいて、未延伸フィルムに対し任意の延伸処理を施すことができる。すなわち、固定端延伸と他の延伸処理とを組み合わせる場合、これらがどのような順序であっても、高温環境下における透過率と透明性の低下が生じにくい延伸フィルム(位相差フィルム)を得ることができる。ただし、ブリードを一層効果的に抑制する観点から、上記条件での固定端延伸が最終の延伸処理であることが好ましい。
【0102】
(固定端横延伸)
光学的に均一性が高い延伸フィルムが得られやすいことから、固定端延伸としては固定端横延伸が好ましい。代表的な固定端横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、フィルム幅方向の両端をチャックで固定したフィルムを、チャック間隔を広げながらオーブン中で延伸する方法である。
【0103】
通常、固定端横延伸は以下の工程を有する。
(i)オレフィン系樹脂の融点付近の温度で未延伸フィルムを予熱する予熱工程;
(ii)予熱された未延伸フィルムを横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸する延伸工程;
(iii)横方向に延伸された延伸フィルムを熱固定する熱固定工程。
【0104】
テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)としては、予熱工程を行うゾーン、延伸工程を行うゾーン、熱固定工程を行うゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えたものが好ましい。このようなテンター延伸機を用いて固定端横延伸を行うことにより、光学的に均一性が高い延伸フィルムを得ることができる。上記(i)〜(iii)の工程のうち、最も重要な工程は(ii)の工程であり、(i)と(iii)の工程は、高温環境下における透過率と透明性の低下が抑制された延伸フィルムを得るために適宜付加される。
【0105】
(i)予熱工程
本工程は、固定端延伸を行う延伸工程(ii)の前に行われる工程であり、未延伸フィルムを延伸するのに十分な温度まで加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味し、オレフィン系樹脂からなる未延伸フィルムの融点付近の温度が好ましい。具体的には、90〜180℃の範囲内の温度、好ましくは110〜160℃の範囲内の温度で予熱を行う。予熱温度が90℃に満たないと、未延伸フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(ii)で未延伸フィルムが固定端横延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、予熱温度が180℃を超えると、必要以上に熱が未延伸フィルムに与えられるため、未延伸フィルムが部分的に溶融してドローダウンする(下に垂れる)場合がある。テンター延伸機の予熱工程を行うゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの予熱温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0106】
予熱工程での未延伸フィルムの滞留時間は、10〜120秒であることが好ましく、より好ましくは30〜90秒、更に好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、未延伸フィルムがテンター延伸機の予熱工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。予熱工程での滞留時間が10秒に満たないと、未延伸フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(ii)で未延伸フィルムが固定端横延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、滞留時間が120秒を超えると、必要以上に熱が未延伸フィルムに与えられるため、未延伸フィルムが部分的に溶融してドローダウンする場合がある。
【0107】
(ii)延伸工程
予熱された未延伸フィルムは、本工程で横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸される。ここで、本工程における延伸温度は100℃以上170℃以下、好ましくは110℃以上160℃以下とされ、かつ、延伸倍率は1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上としている。これにより、得られる延伸フィルムは、高温環境下に晒されたときの透過率と透明性の低下が抑制される。具体的には、得られた延伸フィルムを100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下、更には0.3ポイント以下とすることができる。
【0108】
ここで、「ヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下」とは、この延伸フィルムを100℃で150時間保持したときに、この保持後の延伸フィルムが示すヘイズ値(単位%)と、保持前の延伸フィルムが示すヘイズ値(単位%)との差が0.5以下であることを意味する。なお、ヘイズ値は、JIS K 7105に準拠して測定される。
【0109】
ここで、延伸温度とは、オーブンの延伸工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味する。また、延伸倍率とは、未延伸フィルムの延伸方向における長さに対する固体端延伸後の延伸フィルムの延伸方向における長さの比を意味する。テンター延伸機を用いた固定端横延伸における延伸倍率は、テンター延伸機入口におけるチャックにて固定された未延伸フィルム両端間の距離に対するテンター延伸機出口におけるチャックにて固定された延伸フィルム両端間の距離の比である。延伸温度や延伸倍率が上記範囲を超えると、高温環境下に晒されたときのヘイズ値が顕著に増加するため好ましくない。
【0110】
延伸工程(ii)における延伸温度は、上記範囲内であれば特に制限されず、たとえば、上記範囲内に属する一定温度であってもよいし、あるいは、上記範囲内において延伸温度を徐々に若しくは段階的に変化させてもよい。また、テンター延伸機の延伸工程を行うゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの延伸温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0111】
延伸工程(ii)でのフィルムの滞留時間は、10〜1000秒が好ましく、30〜300秒であることがより好ましい。滞留時間とは、フィルムがテンター延伸機の延伸工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。延伸工程での滞留時間が10秒に満たないと、急延伸により延伸応力が強くなり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、滞留時間が1000秒を超えると、生産性が落ちる問題がある。
【0112】
(iii)熱固定工程
本工程は、延伸工程(ii)で延伸された延伸フィルムの光学的特性の安定性を効果的に確保するために実施される。この工程では、延伸工程(ii)における延伸フィルムの幅をそのまま保持した状態で、所定の熱固定温度のゾーンに通過させる。熱固定工程での熱固定温度は、オーブンの熱固定工程を行うゾーンにおける雰囲気温度を意味する。熱固定温度は、好ましくは60〜180℃の範囲内、より好ましくは80〜160℃の範囲内である。熱固定温度が60℃に満たないと、最終的に得られる延伸フィルムの熱安定性が不十分となる場合がある。また、熱固定温度が180℃を超えると、必要以上に熱が延伸フィルムに与えられるため、延伸フィルムが部分的に溶融してドローダウンする場合がある。なお、テンター延伸機の熱固定工程を行うゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの熱固定温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0113】
熱固定工程での延伸フィルムの滞留時間は、10〜120秒であることが好ましく、より好ましくは30〜90秒、更に好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、延伸フィルムがテンター延伸機の熱固定工程を行うゾーン内に存在する時間を意味する。熱固定工程での滞留時間が10秒に満たないと、最終的に得られる延伸フィルムの熱安定性が不十分となる場合がある。また、滞留時間が120秒を超えると、生産性が落ちる問題がある。
【0114】
(iv)熱緩和工程
固定端横延伸は、更に熱緩和工程を有してもよい。この熱緩和工程は、テンター法においては、通常、延伸工程(ii)と熱固定工程(iii)との間で行われ、熱緩和のゾーンは、他のゾーンから独立して温度設定が可能なように設けられるのが通例である。具体的には、熱緩和工程は、延伸工程(ii)において未延伸フィルムを所定の幅に延伸した後、残留歪を取り除くために、通常、チャックの間隔を延伸終了時の間隔より0.5〜7%程度狭くして行われる。
【0115】
このようにして製造される延伸フィルムは、位相差フィルムとして機能する。上述した製造方法で製造された位相差フィルムは、高温環境下に晒されたときの透過率と透明性の低下がほとんど生じない。具体的には、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下、更には0.3ポイント以下であるオレフィン系樹脂フィルムが得られる。位相差フィルムの透過率と透明性の低下の原因として、高温環境下ではオレフィン系樹脂フィルムからブリード物が発生することが挙げられるが、上記の製造方法で製造した位相差フィルムでは高温環境下でのブリードの発生が抑制される。このため、高温環境下に晒されたときに位相差フィルムの透過率や透明性の低下がほとんど生じないと考えられる。
【0116】
この位相差フィルムを画像表示装置2に適用することにより、高温環境下における画像表示装置2の表示性能を向上させることができる。このヘイズ値の変化が0.5ポイントを超えると、画像表示装置2の輝度が低下したり、更には正面コントラストが低下したりする場合があるため好ましくない。
【0117】
(自由端延伸)
上述のように、固定端延伸される未延伸フィルムは、自由端延伸などの他の延伸処理が施されたものであってもよい。自由端延伸としては、自由端一軸延伸が好ましく用いられ、より好ましくは自由端縦一軸延伸が用いられる。自由端縦一軸延伸とは、一対の延伸ローラ間には未延伸フィルムを支持したり、未延伸フィルムに接触したりする搬送ローラ、支持用平板、支持用ベルト等の部材がなく、未延伸フィルムが幅方向に自由に収縮・拡張できる状態で縦延伸することをいう。
【0118】
自由端縦一軸延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により未延伸フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間に配置されたオーブンを有する縦延伸機を用い、このオーブン中で未延伸フィルムを加熱しながら、上記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。これらの方法の中でも、光学的に均一性が高いフィルムが得られやすいことから、ロングスパン縦延伸法が好ましく、エアーフローティング方式のオーブンを用いたロングスパン縦延伸法がより好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、内部に未延伸フィルムを導入した際に、未延伸フィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造を有するオーブンである。通常、エアーフローティング方式のオーブンには、複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されており、未延伸フィルムは、上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しない状態でオーブン内を通過することにより延伸される。
【0119】
自由端縦一軸延伸における延伸温度(上記エアーフローティング方式のオーブンを用いる場合は、オーブン中の雰囲気温度)は、未延伸フィルムの融点付近の温度が好ましい。具体的には100℃〜170℃の範囲内の温度、好ましくは115℃〜155℃の範囲内の温度で自由端縦一軸延伸を行う。自由端縦一軸延伸温度が100℃に満たないと、未延伸フィルムに熱が十分に与えられず、未延伸フィルムが延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる自由端縦一軸延伸フィルムの軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、自由端縦一軸延伸温度が170℃を超えると、必要以上に熱が未延伸フィルムに与えられるため、未延伸フィルムが部分的に溶融してドローダウンする場合がある。なお、オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの延伸温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0120】
自由端縦一軸延伸の延伸倍率は、1.1〜2倍であることが好ましい。この範囲の縦延伸倍率を採用することにより、その後の固定端横延伸工程を経て、光学的な均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0121】
上述した工程で得られる位相差フィルムの膜厚は、特に制限されないが、5〜25μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。膜厚が25μmを超えると、薄膜化の効果が十分に現れない場合がある。また、膜厚が5μmを下回ると、位相差フィルムにシワ等が発生しやすくなり、巻取りや貼合時の取扱い性に劣る場合がある。
【0122】
この位相差フィルムにおいて、面内の位相差値Rは、10〜400nmが好ましく、80〜300nmがより好ましい。厚み方向の位相差値Rthは、28〜240nmが好ましい。また、N係数は、0.9〜3.0の範囲であり、0.95〜2.0がより好ましい。これらの範囲から、適用される画像表示装置2に要求される特性に合わせて、適宜選択すればよい。本実施形態の位相差フィルムは1/4波長板23として機能することから、面内位相差値Rは上述したとおり10〜300nm程度の範囲から適宜選択することが可能であり、好ましくは80〜150nmである。
【0123】
なお、位相差フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をn、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をn、厚み方向の屈折率をn、厚みをdとしたときに、面内の位相差値R、厚み方向の位相差値Rth、N係数は、それぞれ下式(I)、(II)、(III)で定義される。
=(n−n)×d (I)
th=〔(n+n)/2−n〕×d (II)
=(n−n)/(n−n) (III)
また、これらの式(I)、(II)、(III)から、N係数と面内の位相差値Rと厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(IV)で表すことができる。
=Rth/R+0.5 (IV)
【0124】
(斜め延伸)
上述したように、未延伸フィルムを機械流れ方向(MD)に対して斜交する方向に斜め延伸することで、1/4波長板23を製造することもできる。この斜め延伸においても、上述した固定端横延伸で説明したテンター法などを使用することができる。斜め延伸では、フィルム幅方向の両端をチャックで固定したフィルムを、両端の移動速度や移動距離に差を設けることでフィルムを機械流れ方向(MD)と斜交する方向に延伸する。
【0125】
この斜め延伸処理の一例を説明する。この例では、テンター法における延伸工程において、未延伸フィルムを機械流れ方向と斜交する方向に延伸する。斜め延伸における延伸工程は、斜め延伸用のテンター延伸機により行われる。このテンター延伸機は、延伸工程におけるフィルム走行方向が予熱工程から送られるフィルムの走行方向から所定角度傾いた状態となっている。延伸工程では、まず、斜め延伸装置から送り出される斜め延伸フィルムの送り出し速度を、この斜め延伸装置に送り込まれる未延伸フィルムの送り込み速度よりも大きくする。そして、斜め延伸装置内では、未延伸フィルムの送り方向に直交する方向(幅方向)における一端の移動速度を、他端の移動速度よりも大きくする。
【0126】
延伸工程におけるフィルムの移動速度は適宜設定できるが、例えば、10〜100m/分である。また、フィルム両端の移動速度の差は、通常、1%以下、好ましくは0.5%以下である。予熱工程や熱固定工程など他の工程については、上述した固定端横延伸と同様である。なお、斜め延伸処理の具体的な方法については、特開2004−258508号公報や国際公開第2007/061105号などに記載された方法を参考にすることができる。
【0127】
(3)粘着剤層27
粘着剤層27は、表示側楕円偏光板20を表示セル11に貼合するために用いられる。粘着剤層27を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするものが挙げられる。なかでも、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤は、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、更に耐候性や耐熱性などに優れ、加熱や加湿の条件下でも、浮きや剥がれなどのセパレート問題が生じにくいため、好ましく用いられる。
【0128】
アクリル系粘着剤を構成するアクリル系ベースポリマーには、エステル部分が、メチル基、エチル基、ブチル基、又は2−エチルヘキシル基のような炭素数20以下のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのような官能基含有(メタ)アクリル系モノマーとのアクリル系共重合体が好ましく用いられる。このようなアクリル系共重合体を含む粘着剤層27は、表示セル11に貼合した後で何らかの不具合があって剥離する必要が生じた場合に、ガラス基板に糊残りなどを生じさせることなく、比較的容易に剥離することができる。粘着剤に用いるアクリル系共重合体は、そのガラス転移温度が25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。また、このアクリル系共重合体は、通常10万以上の重量平均分子量を有する。
【0129】
粘着剤層27を形成する粘着剤として、光拡散剤が分散された拡散粘着剤を用いることもできる。光拡散剤は、粘着剤層27に光拡散性を付与するためのものである。光拡散剤は、粘着剤層27を構成するベースポリマーと異なる屈折率を有する微粒子であればよく、無機化合物からなる微粒子や有機化合物(ポリマー)からなる微粒子を用いることができる。上記したようなアクリル系ベースポリマーを含めて、粘着剤層27を構成するベースポリマーは1.4前後の屈折率を示すことが多いので、光拡散剤は、その屈折率が1〜2程度のものから適宜選択すればよい。粘着剤層27を構成するベースポリマーと光拡散剤との屈折率差は、通常0.01以上であり、適用される画像表示装置2の明るさや視認性を確保する観点からは、0.01以上0.5以下であることが好ましい。光拡散剤として用いる微粒子は、球形のもの、それも単分散に近いものが好ましく、平均粒径が2〜6μm程度の微粒子が好適に用いられる。
【0130】
無機化合物からなる微粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(屈折率1.76)、酸化ケイ素(屈折率1.45)などを挙げることができる。また、有機化合物(ポリマー)からなる微粒子としては、例えば、メラミン樹脂ビーズ(屈折率1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)などが挙げられる。
【0131】
光拡散剤の配合量は、それが分散される粘着剤層27に必要とされるヘイズ値や、それが適用される画像表示装置2の明るさなどを考慮して適宜決められるが、通常、粘着剤層27を構成するベースポリマー100重量部に対して3〜30重量部程度である。
【0132】
光拡散剤が分散された粘着剤層27のJIS K 7105に従って測定されるヘイズ値は、適用される画像表示装置2の明るさを確保するとともに、表示像のにじみやボケを生じにくくする観点から、20〜80%の範囲とすることが好ましい。
【0133】
透明な粘着剤又は拡散粘着剤を構成する各成分(ベースポリマー、光拡散剤、架橋剤など)は、酢酸エチルなどの適当な溶剤に溶かして粘着剤組成物とされる。ただし、光拡散剤などの溶剤に溶けない成分は、分散された状態となる。この粘着剤組成物を1/4波長板23又は離型フィルム上に塗布し、乾燥させることにより、粘着剤層27を形成することができる。
【0134】
粘着剤層27は、表示側楕円偏光板20に帯電する静電気を除電するために、帯電防止性を有することが好ましい。表示側楕円偏光板20は、粘着剤層27上に積層された離型フィルムを剥離して表示セル11に貼合するときなどに、静電気を帯びることがある。このとき、粘着剤層27が帯電防止性を有していると、その静電気が速やかに除電され、表示セル11の表示回路が破壊されたり、液晶分子が配向を乱されたりすることが抑制される。
【0135】
粘着剤層27に帯電防止性を付与する方法としては、例えば、粘着剤組成物に、金属微粒子、金属酸化物微粒子、又は金属等をコーティングした微粒子等を含有させる方法;電解質塩とオルガノポリシロキサンとからなるイオン導電性組成物を含有させる方法;有機塩系の帯電防止剤を配合する方法などが挙げられる。求められる帯電防止性の保持時間は、一般的な表示側楕円偏光板20の製造、流通及び保管期間の観点から、最低6ヶ月程度である。
【0136】
粘着剤層27は、上述の接着剤層を硬化させるため、活性エネルギー線を通す場合がある。そのため、活性エネルギー線の該当スペクトル領域に高透過率を有することが好ましい。なお、活性エネルギー線の照射により粘着剤としての諸特性が変化しないことが好ましい。
【0137】
粘着剤層27は、例えば、温度23℃、相対湿度65%の環境下で3〜20日程度熟成され、架橋剤の反応を十分に進行させた後、表示セル11への貼合に供される。
【0138】
粘着剤層27の厚みは、その接着力などに応じて適宜決定されるが、通常、1〜40μm程度である。加工性や耐久性などの特性を損なうことなく、薄型の表示側楕円偏光板20を得るためには、粘着剤層27の厚みは3〜25μm程度とすることが好ましい。また、光拡散剤が分散された粘着剤層27を用いる場合、粘着剤層27の厚みをこの範囲とすることにより、画像表示装置2を正面から見た場合や斜めから見た場合の明るさを保ち、表示像のにじみやボケを生じにくくすることができる。
【0139】
粘着剤層27を乾燥等から保護するため、粘着剤層27の表面には図示しない離型フィルムが貼合されていてもよい。離型フィルムとしては、通常、透明基材フィルムに易剥離層を形成して、粘着剤層27からの剥離性を付与したものが用いられる。透明基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフトレート、ポリエチレン、及びポリプロピレンのような熱可塑性樹脂の押出フィルム、それらを組み合わせた共押出フィルム、それらを一軸又は二軸に延伸したフィルムなどが挙げられる。
【0140】
離型フィルムのJIS L 1096に準処して測定されるガーレ法剛軟度は、20mgf以上であることが好ましく、70mgf以上であることがより好ましい。ガーレ法剛軟度が20mgf未満であると、離型フィルムの剛性が不足であり、ハンドリング性が低下することがある。
【0141】
(5)接着剤層(不図示)
偏光フィルム21への1/4波長板23の貼合、積層は、通常、接着剤層を介してなされる。この接着剤層を形成する接着剤は、同種であってもよく、異種であってもよい。
【0142】
接着剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とする接着剤を用いることができる。好ましく用いられる接着剤の1つは、無溶剤型の接着剤である。無溶剤型の接着剤は、有意量の溶剤を含まず、加熱や活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光、電子線、X線等)の照射により反応硬化する硬化性化合物(モノマー又はオリゴマーなど)を含み、当該硬化性化合物の硬化により接着剤層を形成するものであり、典型的には、加熱や活性エネルギー線の照射により反応硬化する硬化性化合物と、重合開始剤とを含む。特に、上述したとおり1/4波長板23がポリプロピレン系樹脂からなる場合、ポリプロピレン系樹脂は透湿度が低いため、後述する水系接着剤を使用した場合に水抜けが悪く、接着剤の水分によって偏光フィルム21の損傷や偏光性能の劣化などを引き起こす場合がある。したがって、このような透湿度の低い樹脂フィルムを接着する場合には、無溶剤系の接着剤が好ましい。
【0143】
速硬化性及びこれに伴う偏光板20の生産性向上の観点から、接着剤層を形成する好ましい接着剤の例として、活性エネルギー線の照射で硬化する活性エネルギー線硬化性接着剤を挙げることができる。このような活性エネルギー線硬化性接着剤の例として、例えば、紫外線や可視光などの光エネルギーで硬化する光硬化性接着剤が挙げられる。光硬化性接着剤としては、反応性の観点から、カチオン重合で硬化するものが好ましく、特に、エポキシ化合物を硬化性化合物とする無溶剤型のエポキシ系接着剤は、偏光フィルム21と1/4波長板23との接着性に優れているためより好ましい。
【0144】
上記無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有される硬化性化合物であるエポキシ化合物としては、特に制限されないが、カチオン重合により硬化するものが好ましく、特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いることがより好ましい。このような分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物の水素化物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。なお、硬化性化合物であるエポキシ化合物は、通常、分子内に2個以上のエポキシ基を有する。
【0145】
まず、芳香族エポキシ化合物の水素化物について説明する。芳香族エポキシ化合物の水素化物は、芳香族エポキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で、芳香環に対して選択的に水素化反応を行うことにより得ることができる。芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。なかでも、芳香族エポキシ化合物の水素化物として、水素化されたビスフェノールAのグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0146】
次に、脂環式エポキシ化合物について説明する。脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物を意味し、「脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有する」とは、下記式に示される構造を有することを意味する。式中、mは2〜5の整数である。
【化1】

【0147】
したがって、脂環式エポキシ化合物とは、上記式に示される構造を1個以上有しており、通常、分子内に合計2個以上のエポキシ基を有する化合物である。より具体的には、上記式における(CH中の1個又は複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基などの直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。このような脂環式エポキシ化合物のなかでも、エポキシシクロペンタン環(上記式においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上記式においてm=4のもの)を有するエポキシ化合物は、接着強度に優れる接着剤が得られることからより好ましく用いられる。以下に、脂環式エポキシ化合物の構造を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0148】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(この化合物は、3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2´,6´−ジオキサンスピロ−3´´,5´´−ジオキサンスピロ−3´´´,4´´´−エポキシシクロヘキサンとも命名できる化合物である)、4−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2,6−ジオキサ−8,9−エポキシスピロ[5.5]ウンデカン、4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
【0149】
また、上記脂肪族エポキシ化合物としては、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0150】
なお、エポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0151】
無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有されるエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常、30〜3,000g/当量、好ましくは50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の保護フィルムの可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、エポキシ当量が3,000g/当量を超えると、エポキシ系接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0152】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、上記エポキシ化合物をカチオン重合させるために、カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、又は加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるものである。カチオン重合開始剤としては、いずれのタイプが用いられてもよいが、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。なお、以下では、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」とも称する。
【0153】
光カチオン重合開始剤を使用すると、常温での接着剤成分の硬化が可能となるため、偏光フィルム21の耐熱性あるいは膨張による歪を考慮する必要が減少し、1/4波長板23を密着性良く偏光フィルム21上に貼合することができる。また、光カチオン重合開始剤を用いると、光で触媒的に作用するため、エポキシ系接着剤に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0154】
光カチオン重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体などを挙げることができる。これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0155】
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品として容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、「カヤラッド PCI−220」、「カヤラッド PCI−620」(以上、日本化薬(株)製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカオプトマー SP−150」、「アデカオプトマー SP−170」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」、「CIP−2064S」(以上、日本曹達(株)製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」、「DTS−103」(以上、みどり化学(株)製)、「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
【0156】
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ化合物100重量部に対して、通常0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
【0157】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、光カチオン重合開始剤とともに、さらに、必要に応じて光増感剤を含有することができる。光増感剤を使用することで、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、エポキシ化合物100重量部に対して、0.1〜20重量部程度である。
【0158】
また、加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品として容易に入手することができ、例えば、いずれも商品名で、「アデカオプトン CP77」、「アデカオプトン CP66」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−2639」、「CI−2624」(以上、日本曹達(株)製)、「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」、「サンエイド SI−100L」(以上、三新化学工業(株)製)などが挙げられる。これらの熱カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。また、光カチオン重合開始剤熱とカチオン重合開始剤とを併用することも好ましい。
【0159】
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物をさらに含有してもよい。
【0160】
無溶剤型のエポキシ系接着剤を用いる場合において、偏光フィルム21と1/4波長板23との接着は、偏光フィルム21や1/4波長板23の接着面に接着剤を塗布し、それぞれのフィルムを貼り合わせることにより行うことができる。偏光フィルム21や1/4波長板23に無溶剤型のエポキシ系接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行ってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルム21の光学性能を低下させることなくエポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。
【0161】
未硬化のエポキシ系接着剤からなる接着剤層を介して偏光フィルム21に1/4波長板23を貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、接着剤層を硬化させ、偏光フィルム21上に1/4波長板23を固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線、例えば紫外線の照射強度や照射量は、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム21などのフィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム21などのフィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。
【0162】
以上のようにして得られる、硬化後のエポキシ系接着剤からなる接着剤層の厚みは、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下であり、また通常は1μm以上である。
【0163】
また、接着剤層を薄くする観点から、接着剤として、水系接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解した、又は接着剤成分を水に分散させた接着剤を用いることもできる。例えば、主成分としてポリビニルアルコール系樹脂又はウレタン樹脂を用いた水系組成物が、好ましい水系接着剤として挙げられる。
【0164】
接着剤の主成分としてのポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールなどの、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。接着剤の主成分がポリビニルアルコール系樹脂である水系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液として調製されることが多い。水系接着剤中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、水100重量部に対して、通常1〜10重量部程度であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0165】
主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を含む水系接着剤には、接着性を向上させるために、グリオキザールや水溶性エポキシ樹脂などの硬化性成分又は架橋剤を添加することが好ましい。水溶性エポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドポリアミンエポキシ樹脂を挙げることができる。このようなポリアミドポリアミンエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」及び「スミレーズレジン 675」、日本PMC(株)から販売されている「WS−525」などがあり、これらを好適に用いることができる。これら硬化性成分又は架橋剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、通常1〜100重量部であり、好ましくは1〜50重量部である。その添加量が少ないと、接着性向上効果が小さくなり、一方でその添加量が多いと、接着剤層が脆くなる傾向にある。
【0166】
接着剤の主成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な水系接着剤の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂それ自体は公知である。例えば、特開平7−97504号公報には、フェノール系樹脂を水性媒体中に分散させるための高分子分散剤の例としてポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂が記載されており、また特開2005−070140号公報及び特開2005−181817号公報には、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を接着剤として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムにシクロオレフィン系樹脂フィルムを接合する形態が示されている。
【0167】
接着剤を用いて偏光フィルム21の表面に1/4波長板23を貼合する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、偏光フィルム21及び/又は1/4波長板23の接着面に接着剤を塗布し、両者を重ね合わせる方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物であるフィルムを、おおむね垂直方向、おおむね水平方向、又は両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。
【0168】
上記方法により接着剤を塗布した後、偏光フィルム21と1/4波長板23とをニップロールなどで挟んで貼合することによって両者が接合される。また、偏光フィルム21と1/4波長板23との間に接着剤を滴下した後、この積層体をロール等で加圧して均一に押し広げる方法も好適に使用することができる。この場合、ロールの材質としては金属やゴム等を用いることが可能である。この場合、これらのロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
【0169】
なお、ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層の厚みは、乾燥あるいは硬化前において5μm以下であることが好ましく、また0.01μm以上であることが好ましい。
【0170】
偏光フィルム21及び/又は1/4波長板23の接着面には、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を適宜施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0171】
水系接着剤を介して接合された積層体は、通常、乾燥処理が施され、接着剤層の乾燥、硬化が行われる。乾燥処理は、例えば熱風を吹き付けることにより行うことができる。乾燥温度は、通常、40〜100℃程度の範囲から選択され、好ましくは60〜100℃である。乾燥時間は、例えば20〜1,200秒程度である。乾燥後の接着剤層の厚みは、通常、0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、また好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下である。接着剤層の厚みが大きくなりすぎると、表示側楕円偏光板20の外観不良となりやすい。
【0172】
乾燥処理の後、室温以上の温度で少なくとも半日、通常は1日以上の養生を施すことで、十分な接着強度を得るようにしてもよい。このような養生は、典型的には、ロール状に巻き取られた状態で行われる。好ましい養生温度は、30〜50℃の範囲であり、より好ましくは35℃以上、45℃以下である。養生温度が50℃を超えると、ロール巻き状態において、いわゆる「巻き締まり」が起こりやすくなる。なお、養生時の湿度は、特に限定されないが、相対湿度が0%RH〜70%RH程度の範囲となるように選択されることが好ましい。養生時間は、好ましくは1〜10日程度、より好ましくは2〜7日程度である。
【0173】
一方、光硬化性接着剤を用いて偏光フィルム21と1/4波長板23とを接合する場合には、これらのフィルムを接合後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が好ましく用いられる。
【0174】
光硬化性接着剤への光照射強度は、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cmであることが好ましい。該照射強度が0.1mW/cmより小さい場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cmより大きい場合、光源から輻射される熱及び光硬化性接着剤の硬化時の発熱による光硬化性エポキシ樹脂の黄変や偏光フィルム21の劣化を生じるおそれが少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤ごとに制御されるものであって特に限定されないが、上記の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cmとなるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cmより大きい場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cmより小さい場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。
【0175】
活性エネルギー線の照射によって光硬化性接着剤を硬化させる場合、偏光フィルム21の偏光度、透過率及び色相、並びに1/4波長板23及び集光フィルム25の透明性などの表示側楕円偏光板20の諸機能が低下しない条件で硬化を行うことが好ましい。
【0176】
(5)その他
1/4波長板23において表示セル11とは反対側の表面には、各種機能性フィルムを貼合することも可能である。このような機能性フィルムとしては、保護フィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、低反射フィルムなどを採用することができる。このうち保護フィルムについては、後述する保護フィルム33で説明するフィルムを採用することができる。その他のフィルムについては、公知のものを適宜使用することができる。なお、波長板23において表示セル11とは反対側の表面には、防眩処理、反射防止処理、低反射処理、ハードコート処理などを行うことができる。このようにすることで、機能性フィルムを一枚節約することができる。
【0177】
次に、表示側直線偏光板30を構成する各フィルムについて説明する。
【0178】
(1)偏光フィルム31
偏光フィルム31は、上述した偏光フィルム21と同様に、自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。偏光フィルム31の樹脂材料、製造方法などの詳細については、偏光フィルム21と同様であるためここでは詳細な説明は省略する。
【0179】
(2)保護フィルム33
保護フィルム33は、偏光フィルム31の表面を損傷などから保護するための部材である。保護フィルム33としては、透明樹脂から構成されるものが好ましい。この透明樹脂の例としては、メタクリル酸メチル系樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂〔(メタ)アクリル系樹脂とは、メタクリル系樹脂又はアクリル系樹脂を意味する〕、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等)、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂を挙げることができる。これらの樹脂は、透明性や偏光フィルム31との接着性を阻害しない範囲で、添加物を含有することができる。
【0180】
これらの透明樹脂をフィルム状に成形し、延伸処理を施して、保護フィルム33としてもよい。このとき、延伸は、機械流れ方向(MD)又はこれに直交する方向(TD)に延伸する一軸延伸、MD及びTDの双方に延伸する二軸延伸、MDでもTDでもない方向に延伸する斜め延伸など、いずれの方法で行ってもよい。
【0181】
上記(メタ)アクリル系樹脂は、必要に応じてゴム微粒子を配合した材料であってもよい。ゴム粒子が配合された(メタ)アクリル系樹脂は、靭性が高くなり、フィルムの薄肉化を可能にする。
【0182】
上記ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂を意味し、他の共重合成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。他の共重合成分としては、イソフタル酸、4,4´−ジカルボキシジフェニール、4,4´−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス(4−カルボキシフェニル)エタン、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4−ジカルボキシシクロヘキサン等のジカルボン酸成分;プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のジオール成分が挙げられる。これらのジカルボン酸成分やジオール成分は、必要により2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、上記カルボン酸成分やジオール成分と共に、p−ヒドロキシ安息香酸やp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸を併用することも可能である。他の共重合成分として、少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有するジカルボン酸成分及び/又はジオール成分が用いられてもよい。
【0183】
上記ポリエチレンテレフタレート系樹脂をフィルム化した後、上記したような延伸処理を施したものを保護フィルム33として用いることにより、機械的性質、耐溶剤性、耐スクラッチ性、コストなどに優れるとともに、厚みが低減されたロール状偏光板を得ることができる。
【0184】
上記セルロース系樹脂とは、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)等の原料セルロースから得られるセルロースの水酸基における水素原子の一部又は全部がアセチル基、プロピオニル基及び/又はブチリル基で置換された、セルロース有機酸エステル又はセルロース混合有機酸エステルをいう。例えば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、及びそれらの混合エステル等からなるものが挙げられる。中でも、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート又はセルロースアセテートブチレート等が好ましく用いられる。このようなセルロース系樹脂を用いた透明保護フィルムの市販品としては、コニカミノルタオプト(株)製のコニカミノルタタックフィルムシリーズ、富士フイルム(株)製のフジタックシリーズなどがある。
【0185】
上記オレフィン系樹脂としては、上述した1/4波長板23で説明したものと同様のものを使用することができる。特に、オレフィン系樹脂のうちポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0186】
ポリプロピレン系樹脂を保護フィルム33の構成樹脂として選択した場合、以下のような優位点がある。ポリプロピレン系樹脂は、光弾性係数が2×10−13cm/dyne前後と小さく、また、透湿度が低いため、それを保護フィルム33とする偏光板を表示セル11に適用することにより、画像表示装置2を湿熱条件での耐久性に優れたものとすることができる。さらに、ポリプロピレン系樹脂フィルムの偏光フィルム31に対する接着性は、トリアセチルセルロースフィルムほどではないにしても良好であり、公知の各種接着剤を用いた場合に、ポリプロピレン系樹脂フィルムを十分な強度でポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム31に接着することができる。
【0187】
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量共重合させたものであってもよい。ポリプロピレン系樹脂の詳細については、1/4波長板23の項目で説明したとおりであるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0188】
共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。また、共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0189】
ポリプロピレン系樹脂は、任意の方法で製膜し、保護フィルム33にすることができる。この保護フィルム33は、透明で実質的に面内位相差のないものである。例えば、溶融樹脂からの押出成形法、有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などによって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂からなる保護フィルム33を得ることができる。これらのうち、実質的に面内位相差がないポリプロピレン系樹脂の未延伸フィルムが得られやすいことから、押出成形法が好ましい。この押出成形方法については、上述した1/4波長板23で説明したとおりなので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0190】
保護フィルム33の厚みは、通常、20〜200μmであり、好ましくは20〜120μmである。保護フィルム33の厚みが20μm未満であると、ハンドリング性に劣る傾向にあり、厚みが200μmを超える場合にも、フィルムの剛性が高くなることによってハンドリング性が低下することがある。
【0191】
保護フィルム33は、透明性に優れていることが必要である。具体的には、JIS K 7105に従って測定されるヘイズ値が10%以下、好ましくは7%以下である。へイズ値が10%を超えると、得られる表示側直線偏光板30を画像表示装置2に適用したときに、白輝度が低下し、画面が暗くなる傾向にある。なお、JIS K 7105に従って測定されるヘイズ値は、下記式で定義される。
(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)
【0192】
(3)粘着剤層37
粘着剤層37は、表示側直線偏光板30を表示セル11に貼合するために用いられる。粘着剤層37は、上述した粘着剤層27と同様の粘着剤を用いて形成することができるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0193】
(4)接着剤層(不図示)
偏光フィルム31への保護フィルム33の貼合や積層は、通常、図示しない接着剤層を介してなされる。この接着剤層は、上述した表示側楕円偏光板20の項目で説明した接着剤層の接着剤を使用することができる。
【0194】
次に、眼鏡側楕円偏光板40,50を構成する各フィルムについて説明する。
【0195】
(1)偏光フィルム41,51(第2の偏光フィルム)
偏光フィルム41,51(第2の偏光フィルム)は、いずれも自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。これら偏光フィルム41,51は、上述した偏光フィルム21と同様のフィルムを使用することができる。
【0196】
(2)1/4波長板43,53(第2の1/4波長板)
1/4波長板43,53(第2の1/4波長板)は、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、光学異方性を有する波長板である。これら1/4波長板43,53は、本発明の第2の位相差層を構成している。1/4波長板43,53についても、上述した1/4波長板23と同様のフィルムを使用することができる。
【0197】
(3)粘着剤層47,57
粘着剤層47,57は、眼鏡側楕円偏光板40,50を液晶セル49,59にそれぞれ貼合するために用いられる。これら粘着剤層47,57についても、上述した粘着剤層27と同様であるため説明を省略する。
【0198】
(4)偏光フィルム48,58
液晶セル49,59を挟んで眼鏡側楕円偏光板40,50の反対側には、偏光フィルム48,58がそれぞれ貼合されている。これらの偏光フィルム48,58は、いずれも自然光を直線偏光に変換する機能を有する部材である。偏光フィルム48,58も、上述した偏光フィルム21と同様のフィルムを使用することができる。さらに、これら偏光フィルム48,58のうち入射側とは反対側の表面に保護フィルムなどの機能性フィルムを積層してもよい。
【0199】
(5)その他
1/4波長板43,53のうち偏光フィルム41,51と反対側の表面には、機能性フィルムを積層してもよい。このような機能性フィルムとしては、保護フィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、低反射フィルムなどを採用することができる。同様に、偏光フィルム48,58のうち液晶セル49,59とは反対側の表面にも、上述した機能性フィルムを積層してもよい。なお、1/4波長板43、53のうち偏光フィルム41,51と反対側の表面には、防眩処理、反射防止処理、低反射処理、ハードコート処理などを行うことができる。このようにすることで、機能性フィルムを一枚節約することができる。
【0200】
(偏光板の積層方法)
1/4波長板23(第1の1/4波長板)と1/4波長板43,53(第2の1/4波長板)は、いずれもオレフィン系樹脂を含み、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ同じである。ここで、「同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ同じ」とは、−50〜110℃の範囲内の任意の温度のもとで両波長板を同じ温度条件においたときに、製造後から任意時点で測定した面内位相差値Rの変化量の差が10nm以内であり、好ましくは5nm以内、より好ましくは3nm以内であることを意味する。例えば、両波長板を80℃の温度条件におき、1000時間経過した後の面内位相差値Rの変化量の差が上記の範囲内にあることが好ましい。本実施形態では、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ等しい波長板として、材料、製膜方法、延伸方向がほぼ同じ条件で製造された波長板を使用している。
【0201】
ここで、材料がほぼ同じであるとは、オレフィン系樹脂やその他の添加物の配合比がほぼ同じであり、上述したオレフィン系樹脂の重合方法や重合温度などがほぼ同じ条件で製造された樹脂材料を意味している。また、オレフィン系樹脂が共重合体の場合は、オレフィンモノマーと他のコモノマーとの重合組成比がほぼ同一であることを意味している。また、製膜方法がほぼ同じであるとは、樹脂材料を未延伸フィルムに製膜する方法がほぼ同じであることを意味する。なお、製膜方法としては、上述したとおり押出成形法や溶剤キャスト法などから適宜選択することができる。さらに、延伸方向がほぼ同じであるとは、未延伸フィルムの延伸方向が同じであることを意味している。なお、延伸方向としては、上述したとおり一軸延伸、二軸延伸などを適宜選択することができる。
【0202】
特に、1/4波長板23と1/4波長板43,53を同一ロットの位相差フィルムで製造することが好ましい。同一ロットの位相差フィルムは、材料、製膜方法、延伸方向が完全に同一の条件で製造されたものであるため、1/4波長板23と1/4波長板43,53は面内位相差値Rと波長分散性がほぼ完全に一致する。このため、観察者が視認する立体画像に色付きが生じにくく、良好な立体画像を表示することができる。また、同一ロットの位相差フィルムであることから、1/4波長板23と1/4波長板43,53は面内位相差値Rの経時的な上昇量がほぼ完全に一致する。このため、両者の面内位相差値Rの間で経時的な差が生じにくい。したがって、立体画像表示システム1を長期間使用しても観察者の見る立体画像に色むらが生じたり、画像が暗くなったりすることがなく、長期にわたって安定した立体画像を表示することができる。
【0203】
表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23、偏光フィルム21をこの順に貼合することで製造することができる。また、眼鏡側楕円偏光板40,50は、1/4波長板43,53、偏光フィルム41,51をこの順に貼合することで製造することができる。これらの部材間の貼合には、例えば感圧接着剤(粘着剤)を用いることができる。感圧接着剤としては、透明性や耐久性に優れたアクリル系ポリマーを主体とするものが好ましい。感圧接着剤層の厚みは、通常5〜50μmの範囲である。
【0204】
次に、図4を参照して、表示側楕円偏光板20と眼鏡側楕円偏光板40,50を構成する偏光フィルムと1/4波長板との貼合位置について説明する。図4(a)に示すように、表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23の遅相軸Sdを基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θdが35〜55°、好ましくはほぼ45°となるように配置する。なお、この角度θdは、偏光フィルム21の側から1/4波長板23方向を見たときの回転角度を基準としている。
【0205】
一方、図4(b)眼鏡側楕円偏光板40側では、1/4波長板43の遅相軸Sgを基準に反時計回りを正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θgが35〜55°、好ましくはほぼ45°となるように配置する。なお、この角度θgは、偏光フィルム41の側から1/4波長板43方向を見たときの回転角度を基準としている。眼鏡側楕円偏光板50についても同様に、1/4波長板53の遅相軸Sgを基準に反時計回りを正として、偏光フィルム51の吸収軸Agに至る角度θgが35〜55°、好ましくはほぼ45°となるように配置する。
【0206】
あるいは、図4(a),図4(b)とは異なる配置とすることも可能である。以下、他の貼合位置について説明する。図4(c)に示すように、表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23の遅相軸Sdを基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θdが125〜145°、好ましくはほぼ135°となるように配置する。なお、この角度θdは、偏光フィルム21の側から1/4波長板23方向を見たときの回転角度を基準としている。
【0207】
一方、図4(d)に示すように、眼鏡側楕円偏光板40側では、1/4波長板43の遅相軸Sgを基準に反時計回りを正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θgが125〜145°、好ましくはほぼ135°となるように配置する。なお、この角度θgは、偏光フィルム41の側から1/4波長板43方向を見たときの回転角度を基準としている。眼鏡側楕円偏光板50についても同様に、1/4波長板53の遅相軸Sgを基準に反時計回りを正として、偏光フィルム51の吸収軸Agに至る角度θgが125〜145°、好ましくはほぼ135°となるように配置する。
【0208】
表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23と偏光フィルム21を順次積層して貼合することで製造することができる。貼合方法としては、シート・トゥ・シート貼合、ロール・トゥ・シート貼合(シート・トゥ・ロール貼合)、ロール・トゥ・ロール貼合など公知の方法を採用することができる。
【0209】
このうち、シート・トゥ・シート貼合は、それぞれシート状にカットされた枚葉体の偏光フィルム21と枚葉体の1/4波長板23を貼合する方法である。具体的には、ロール状に巻かれた1/4波長板23とロール状に巻かれた偏光フィルム21の原反からそれぞれシート状にフィルムを切り出し、これを上述した吸収軸と遅相軸の軸角度となるように配置して貼合する。この貼合方法は、機械流れ方向(MD)やこれに直交する方向(TD)に未延伸フィルムを延伸して1/4波長板23を製造した場合に好ましく用いることができる。
【0210】
一方、ロール・トゥ・シート貼合(シート・トゥ・ロール貼合)は、シート状にカットされた枚葉体の1/4波長板23をロール状の偏光フィルム21に貼合する方法、あるいは、シート状にカットされた枚葉体の偏光フィルム21をロール状の1/4波長板23に貼合する方法である。この貼合方法も、機械流れ方向(MD)やこれに直交する方向(TD)に未延伸フィルムを延伸して1/4波長板23を製造した場合に好ましく用いることができる。
【0211】
さらに、ロール・トゥ・ロール貼合は、ロール状の偏光フィルム21にロール状の1/4波長板23を貼合する方法である。通常、この方法では、長尺の偏光フィルム21の長手方向と長尺の1/4波長板23の長手方向とが平行となるように積層する。上述したように、偏光フィルム21の吸収軸Adと1/4波長板23の遅相軸Sdとのなす角度θdは、35〜55°、好ましくはほぼ45°であるか、あるいは、125〜145°、好ましくはほぼ135°である。通常、偏光フィルム21の吸収軸Adは、ロール状の偏光フィルム21の長手方向と平行であるため、ロール・トゥ・ロール貼合の際には、ロールの長手方向に対して遅相軸Sdが上記角度θdで交差する、斜め延伸されたロール状の1/4波長板23を使用することができる。このような斜め延伸されたロール状の1/4波長板23を用いることで、ロール状の偏光フィルム21とロール状の1/4波長板23のそれぞれの長手方向を合わせて積層するだけで、簡単に軸合わせを行うことができる。
【0212】
なお、上述した貼合方法は、表示側直線偏光板30、眼鏡側楕円偏光板40,50についても同様に適用することができる。眼鏡側楕円偏光板40,50についてロール・トゥ・ロール貼合する際には、ロールの長手方向に対して遅相軸Sdが上記角度θgで交差する、斜め延伸されたロール状の1/4波長板43,53を使用し、ロール状の偏光フィルム41,51とロール状の1/4は波長板43,53のそれぞれの長手方向を合わせて積層する。
【0213】
表示側楕円偏光板20と表示側直線楕円偏光板30の表示セル11への貼合は、感圧接着剤(粘着剤)を用いて行うことができる。このとき、偏光フィルム21の吸収軸Adが水平方向、偏光フィルム31の吸収軸が垂直方向となるよう、互いの吸収軸が直交するようにクロスニコルに配置する。一方、眼鏡側楕円偏光板40の液晶セル49への貼合と眼鏡側楕円偏光板50の液晶セル59への貼合も、同様に感圧接着剤を用いて行うことができる。眼鏡側楕円偏光板40について、偏光フィルム41の吸収軸Agが水平方向、偏光フィルム48の吸収軸Agが垂直方向となるように、互いの吸収軸Agが直交するようにクロスニコルに配置する。眼鏡側楕円偏光板50についても同様に、偏光フィルム51の吸収軸Agが水平方向、偏光フィルム58の吸収軸が垂直方向となるように、互いの吸収軸が直交するようにクロスニコルに配置する。
【0214】
このとき、1/4波長板23と偏光フィルム21との間、1/4波長板43と偏光フィルム41との間、及び1/4波長板53と偏光フィルム51との間の貼合公差がいずれも±2.0°以内であることが好ましい。貼合公差がこれらの範囲を超えると、観察者が立体画像を見たときに、画像に色付きが生じたり、暗くなったりするため好ましくない。ここで、「貼合公差」とは、貼合された楕円偏光板の任意の箇所において、1/4波長板の遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とのなす角度の測定値と設計値の差の範囲を指す。
【0215】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態に係る楕円偏光板セットについて説明する。この実施形態では、位相差層として1/4波長板と1/2波長板を備える点を特徴としている。すなわち、図5に示すように、本実施形態の画像表示装置2の表示側楕円偏光板20は、1/2波長板25(第1の1/2波長板)と、1/4波長板23(第1の1/4波長板)と、偏光フィルム21(第1の偏光フィルム)と、粘着剤層27と、がこの順に積層された層構成を有している。また、眼鏡側楕円偏光板40,50は、1/2波長板45,55(第2の1/2波長板)と、1/4波長板43,53(第2の1/4波長板)と、偏光フィルム41,51(第2の偏光フィルム)と、粘着剤層47,57と、がこの順に積層された層構成を有している。なお、位相差層としての1/4波長板と1/2波長板以外の構成については、上述した第1の実施形態と同様である。
【0216】
なお、表示側楕円偏光板20と眼鏡側楕円偏光板40,50は、本発明の楕円偏光板セットを構成している。1/2波長板25と1/4波長板23は本発明の第1の位相差層を、1/2波長板45,55と1/4波長板43,53は本発明の第2の位相差層をそれぞれ構成している。
【0217】
上述した第1の実施形態(図1〜図4)のように、楕円偏光板に1/4波長板を1枚だけ用いた場合には、限られた波長範囲でしか完全楕円偏光が得られない場合が多い。このため、広い波長範囲で円偏光を得るための方法の1つに、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせる方法がある。本実施形態の位相差層は、1/4波長板と1/2波長板とが積層された構造を備えている。これにより、画像表示装置2の楕円偏光を広帯域化することができ、波長特性を向上させることが可能となる。
【0218】
次に、表示側楕円偏光板20と眼鏡側楕円偏光板40,50を構成する各部材について説明する。なお、1/4波長板23,43,53、偏光フィルム21,41,51は、それぞれ第1の実施形態の1/4波長板23、偏光フィルム21と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0219】
(1/2波長板)
1/2波長板25と1/2波長板45,55はいずれも、面内に配向した樹脂フィルムを少なくとも1枚含み、光学異方性を有する波長板である。1/2波長板25,45,55は、可視光の波長領域(380〜780nm)のいずれかの光に対してほぼ1/2波長(180°)の位相差を示す位相差フィルムであり、直線偏光の向きを180°回転させる機能を有している。1/2波長板25,45,55はいずれも、オレフィン系樹脂を含む位相差フィルムで構成されている。オレフィン系樹脂については、上述した第1の実施形態の1/4波長板23と同様であるため詳細な説明は省略する。これら1/2波長板25,45,55の製造方法も、上述した1/4波長板23と同様に、一軸延伸、二軸延伸、斜め延伸などにより未延伸フィルムを延伸することで製造することができる。
【0220】
1/2波長板25,45,55の面内位相差値Rは、いずれも通常240〜400nmであり、好ましくは200〜300nmである。この面内位相差値Rは、画像表示装置2の種類や目的に応じて、楕円偏光の楕円率や長軸方位角などを考慮して適宜決定することができる。1/2波長板42,52の位相差軸の公差は、画像表示装置2の正面コントラストの観点から、中心値±5nm以内、好ましくは±3nm以内である。
【0221】
1/4波長板23と1/4波長板43,53は、いずれもオレフィン系樹脂を含み、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ同じである。同様に、1/2波長板25と1/2波長板45,55は、いずれもオレフィン系樹脂を含み、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ同じである。ここで、「同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化」とは、上記「(偏光板の積層方法)」に記載した部分と同じように定義される。本実施形態では、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値Rの経時変化がほぼ等しい波長板として、材料、製膜方法、延伸方向がほぼ同じ条件で製造された波長板を使用している。特に、同一ロットの位相差フィルムで製造することが好ましい。材料等が同じ条件の波長板や同一ロットの位相差フィルムについての詳細は、第1の実施形態で説明しているので、ここでは説明を省略する。
【0222】
(楕円偏光板の積層方法)
第2の実施形態の表示側楕円偏光板20、眼鏡側楕円偏光板40,50の積層方法についても、第1の実施形態における積層方法と基本的に同じである。相違点としては、第1の位相差層として1/4波長板23と1/2波長板25とを積層する。また、第2の位相差層として1/4波長板43と1/2波長板45とを、1/4波長板53と1/2波長板55とを積層する。1/4波長板と1/2波長板の積層方法としては、上述した感圧接着剤等を用いて貼合する方法が挙げられる。
【0223】
次に、表示側楕円偏光板20、眼鏡側楕円偏光板40,50を構成する偏光フィルムと位相差フィルムの貼合位置について説明する。図6(a)に示すように、表示側楕円偏光板20側では、1/4波長板23の遅相軸Sd1を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θd1が65〜85°、好ましくはほぼ75°となるように配置する。また、1/2波長板25の遅相軸Sd2を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θd2が5〜25°、好ましくはほぼ15°となるように配置する。
【0224】
一方、図6(b)に示すように、眼鏡側楕円偏光板40側では、1/4波長板43の遅相軸Sg1を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θg1が65〜85°、好ましくはほぼ75°となるように配置する。また、1/2波長板45の遅相軸Sg2を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θg2が5〜25°、好ましくはほぼ15°となるように配置する。
【0225】
あるいは、図6(a),図6(b)とは異なる配置とすることも可能である。図6(c)に示すように、表示側楕円偏光板20側では、1/4波長板23の遅相軸Sd1を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θd1が95〜115°、好ましくはほぼ105°となるように配置する。また、1/2波長板25の遅相軸Sd2を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度θd2が95〜115°、好ましくはほぼ105°となるように配置する。
【0226】
この場合、図6(d)に示すように、眼鏡側楕円偏光板40側では、1/4波長板43の遅相軸Sg1を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θg1が95〜115°、好ましくはほぼ105°となるように配置する。また、1/2波長板45の遅相軸Sg2を基準に反時計回り方向を正として、偏光フィルム41の吸収軸Agに至る角度θg2が155〜175°、好ましくはほぼ165°となるように配置する。
【0227】
表示側楕円偏光板20は、1/4波長板23と偏光フィルム21を順次積層して貼合することで製造することができる。貼合方法としては、シート・トゥ・シート貼合、ロール・トゥ・シート貼合(シート・トゥ・ロール貼合)、ロール・トゥ・ロール貼合など公知の方法を採用することができる。これらの貼合方法の詳細については、上述した第1の実施形態と同様である。特に、1/4波長板23と1/2波長板25をいずれも斜め延伸により製造した場合、いずれもロール状の1/4波長板23と1/2波長板25と偏光フィルム21の長手方向を合わせて積層するだけで、枚葉体を切り出すことなく簡単に軸合わせを行うことができる。
【0228】
表示側楕円偏光板20と表示側直線楕円偏光板30の表示セル11への貼合は、感圧接着剤(粘着剤)を用いて行うことができる。このとき、偏光フィルム21の吸収軸Adが水平方向、偏光フィルム31の吸収軸が垂直方向となるよう、互いの吸収軸が直交するようにクロスニコルに配置する。一方、眼鏡側楕円偏光板40の液晶セル49への貼合と眼鏡側楕円偏光板50の液晶セル59への貼合も、同様に感圧接着剤を用いて行うことができる。眼鏡側楕円偏光板40について、偏光フィルム41の吸収軸Agが水平方向、偏光フィルム48の吸収軸Agが垂直方向となるように、互いの吸収軸Agが直交するようにクロスニコルに配置する。眼鏡側楕円偏光板50についても同様に、偏光フィルム51の吸収軸Agが水平方向、偏光フィルム58の吸収軸が垂直方向となるように、互いの吸収軸が直交するようにクロスニコルに配置する。
【0229】
このとき、1/4波長板23と偏光フィルム21との間、1/2波長板25と偏光フィルム21との間、1/4波長板43と偏光フィルム41との間、1/2波長板45と偏光フィルム41との間、1/4波長板53と偏光フィルム51との間、及び1/2波長板55と偏光フィルム51との間の貼合公差がいずれも±2.0°以内であることが好ましい。貼合公差がこれらの範囲を超えると、観察者が立体画像を見たときに、画像に色付きが生じたり、暗くなったりするため好ましくない。ここで、「貼合公差」とは、貼合された楕円偏光板の任意の箇所において、位相差フィルム(1/4波長板や1/2波長板)の遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とのなす角度の測定値と設計値の差の範囲を指す。
【0230】
以上、本発明の各実施形態について説明した。なお、本発明において眼鏡とは、上述した図2に示す通常の形態の眼鏡に限定されず、身体に装着できるものであれば、例えばゴーグルやサングラスタイプのものや、ヘルメットに上記眼鏡を組み込んだものなど、他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0231】
1 立体画像表示システム 2 画像表示装置、2a 画像信号受信部、2b 表示制御部、2c 同期信号生成部、2d 無線送信部、2e 画像表示部、3 眼鏡、3a 左目側シャッター、3b 右目側シャッター、3c シャッター駆動部、3d 同期制御部、3e 無線受信部、10 表示パネル、11 表示セル、13 バックライト、15 光拡散板、20 表示側楕円偏光板、21 偏光フィルム(第1の偏光フィルム)、23 1/4波長板(第1の1/4波長板:第1の位相差層)、27 粘着剤層、30 表示側直線偏光板、31 偏光フィルム、33 保護フィルム、37 粘着剤層、40 眼鏡側楕円偏光板、41 偏光フィルム、43 1/4波長板(第2の1/4波長板)、45 1/2波長板(第2の1/2波長板)、48 偏光フィルム、49 液晶セル、50 眼鏡側楕円偏光板、51 偏光フィルム、53 1/4波長板(第2の1/4波長板:第2の位相差層)、55 1/2波長板(第2の1/2波長板:第2の位相差層)、58 偏光フィルム、59 液晶セル、Il 左目画像、Ir 右目画像、Ad 偏光フィルム21の吸収軸、Sd,Sd1 1/4波長板23の遅相軸、Sd2 1/2波長板25の遅相軸、θd,θd1 1/4波長板23の遅相軸が偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度、θd2 1/2波長板25の遅相軸が偏光フィルム21の吸収軸Adに至る角度、Ag 偏光フィルム41,51の吸収軸、Sg,Sg1 1/4波長板43,53の遅相軸、Sg2 1/2波長板45,55の遅相軸、θg,θg1 1/4波長板43,53の遅相軸が偏光フィルム41,51の吸収軸Agに至る角度、θg2 1/2波長板45,55の遅相軸が偏光フィルム41,51の吸収軸Agに至る角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示セルを備え画像を出力表示する画像表示装置と、前記画像表示装置から出力された画像を入射して両眼に透過させる眼鏡と、を備えた立体画像表示システムに使用される楕円偏光板セットであって、
前記画像表示装置における前記表示セルの視認側に配置される表示側楕円偏光板と、
前記眼鏡の入射側に配置される眼鏡側楕円偏光板と、を備え、
前記表示側楕円偏光板は、第1の1/4波長板を有する第1の位相差層と、第1の偏光フィルムと、が少なくとも積層されており、
前記眼鏡側楕円偏光板は、第2の1/4波長板を有する第2の位相差層と、第2の偏光フィルムと、が少なくとも積層されており、
前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、いずれもオレフィン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じであることを特徴とする楕円偏光板セット
【請求項2】
前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなる、請求項1に記載の楕円偏光板セット。
【請求項3】
前記第1の1/4波長板と前記第2の1/4波長板は、材料、製膜方法及び延伸方法がほぼ同じ条件で製造される、請求項1又は2に記載の楕円偏光板セット。
【請求項4】
前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板ともに、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが35〜55°又は125〜145°の角度で交差している、請求項1〜3のいずれかに記載の楕円偏光板セット。
【請求項5】
前記第1の位相差層は、前記第1の偏光フィルムに近い側に配置された前記第1の1/4波長板と、前記第1の偏光フィルムの遠い側に配置された第1の1/2波長板とにより構成されており、
前記第2の位相差層は、前記第2の偏光フィルムに近い側に配置された前記第2の1/4波長板と、前記第2の偏光フィルムの遠い側に配置された第2の1/2波長板とにより構成されており、
前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもオレフィン系樹脂からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の楕円偏光板セット。
【請求項6】
前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなり、同じ熱履歴を受けたときの面内位相差値の経時変化がほぼ同じであることを特徴とする、請求項5に記載の楕円偏光板セット。
【請求項7】
前記第1の1/2波長板と前記第2の1/2波長板は、いずれもポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムにより構成され、材料、製膜方法及び延伸方法がほぼ同じ条件で製造される、請求項6に記載の楕円偏光板セット。
【請求項8】
前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板ともに、偏光フィルムの吸収軸と1/2波長板の遅相軸とが5〜25°、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが65〜85°の角度で交差しているか、
あるいは偏光フィルムの吸収軸と1/2波長板の遅相軸とが155〜175°、偏光フィルムの吸収軸と1/4波長板の遅相軸とが95〜115°の角度で交差している、請求項5〜7のいずれかに記載の楕円偏光板セット。
【請求項9】
画像表示装置と眼鏡とからなる立体画像表示システムであって、
前記画像表示装置と前記眼鏡には、請求項1〜8のいずれかに記載された楕円偏光板セットの前記表示側楕円偏光板と前記眼鏡側楕円偏光板とがそれぞれ設けられることを特徴とする立体画像表示システム。
【請求項10】
前記立体画像表示システムは、同期手段を備えたフレームシーケンシャル方式の立体画像表示システムであり、
前記画像表示装置は、表示セルを備え同一の被写体を左右両眼の各々の視界で撮影した左目画像及び右目画像を交互に出力表示し、
前記眼鏡は、液晶の分子配向を電気的に制御することにより左右両眼への入射光を交互に遮断し、
前記同期手段は、前記画像表示装置の表示時期と前記眼鏡の遮断時期とを同期させて前記左目画像が右目に、前記右目画像が左目に入射するのを遮断する、請求項9に記載の立体画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−53076(P2012−53076A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193033(P2010−193033)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】