説明

構造体の製造法

【課題】内部に空間を有する構造体の製造法におけるろう付法および電子ビーム溶接法におけるろう材の適正形態および適量配置の困難性を排除することによって、構造設計において自由度が高い接合法による内部に空間を有する構造体の製造法を提供する。
【解決手段】外部への出入口をもつ空間を内部に有する、純アルミA1070と、Mgをそれぞれ1〜5重量%含むアルミ合金A6061、A5052、A5083、そして、Alを3重量%と亜鉛を1重量%含むマグネシウム合金AZ31からなる構造体1を粉末ろう材5による介在層によって接合して製造する方法であって、接合部位における接合界面への介在層をコールドスプレー法によって形成したのち、加熱と加圧をともなう界面接合を用いて接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造法、とくに、各組立部材の接合面に介在層を設け、この介在層を介しての界面接合による構造体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造体として、半導体や液晶の製造に際して、冷却や加熱などの熱プロセス処理を行う冷却プレートや加熱プレートなどのように、外部への開口部を有する内部空間を備えた構造体がある。
【0003】
たとえば、冷却プレートは処理品を着脱固定するための静電チャックと呼ばれる部品と組み合わせて用いられることが多く、処理品への過大な熱負荷による品質劣化を防止するために温度調整を行う機能を有する。そのため、冷却プレートの内部には、冷却用の冷媒流体を流すための複雑な空間が設けられ、不活性ガスや純水などの冷媒流体がこの空間内を循環する機構となっている。逆に、加熱プレートは空間内にシーズヒーターなどの加熱体を内包し、処理品に適度な温度分布を与える機能をもつ構造体である。
【0004】
このように、冷却プレートおよび加熱プレートともに処理品に熱作用を付与する熱伝達体であるため、アルミニウムや銅などの高熱伝導性の金属合金から構成して熱伝導ロスをできるだけ小さくするのが一般的である。とくに、冷却プレートには比重が小さく水に対する耐食性もあるために純アルミおよびアルミ合金が広く用いられている。
【0005】
従来、アルミ合金を用いて内部に空間を有する冷却プレートを製造するには、それぞれの構成部材をろう付法や電子ビーム溶接法によって接合する方法が一般的に採用されてきた。
【0006】
アルミ合金のろう付の場合、真空または不活性ガス雰囲気中において、処理品全体を加熱し、Al−Si系のろう材とフラックスのみを溶融させて接合するものであるため、処理品をほとんど変形させることがない利点はある。
【0007】
ところが、ろう付の場合、ろう材とフラックスのみを選択的に溶融させる必要があるため温度管理が複雑であるという問題がある。また、ろう材として通常は箔状、線材状、またはペーストで粘性を付与した粉体状の形態であり、適切な配置と適正量の設定が難しく、また、ろう材となる成分以外のペースト成分の除去が必要で、ろう材の溶融量が過剰になると内部空間に流入して開口部を閉塞することもあり、流入ろう材を除去するための余分な酸洗工程も必要になる。
【0008】
また、構造体が強固な酸化膜をもつ純アルミニウムやアルミ合金からなる場合には、酸化膜を除去するためのフラックスとして腐食性のものを使用する必要があり、ろう付後において過剰なろう材の除去とともに、フラックスの残りを除去することが必要になる。
【0009】
例えば、引用文献1に示されているように、シート状のアルミ合金ろう材を用いる場合には、原料シートから接合界面の形態に合わせて適正な形状に切断する精密な作業が必要であり、ろう材の取り扱いにさらなる注意を必要とする。
【0010】
さらには、構造体がMgを含むアルミ合金からなる場合は、引用文献2に示されているように、アルミ合金の種類によっては、Mgがさらに強固な酸化膜を生成したり、フラックスと反応して高融点生成物を生成するために、良好な接合特性を有するろう材およびフラックスを見出すこと自体が困難であるという技術的問題もある。
【0011】
また、ろう付に代えての電子ビーム溶接は、引用文献3にも記載されているように、エネルギー密度の高い電子ビームを狭い開先に絞ることができるため被接合物の大部分は加熱されない接合方法であり、接合に際しての部材の歪みや変形がないという利点はある。
【0012】
しかしながら、複雑な形状の部材の接合に電子ビーム溶接を適用するに際して開先を形成するには、ビームが照射できない入り組んだ形状を採用せざるを得ない場合があり、構造設計を基本から変更せざるを得ないことになる。また、開先同士が距離的に近く形成される場合には、溶接部が溶融するような過剰な熱負荷を受けることによって、溶接部の特性が劣化することもある。そして、溶融溶接法の宿命であるが、電子ビーム溶接の場合も、部分加熱による溶接では、固相よりも密度の小さい液相が一旦出現し、冷却によって凝固化するため、凝固収縮によって変形を伴うことになり、構造体自体に反りが発生することにもなる。
【0013】
さらに、例えば、A6061−T6のような熱処理型のアルミ合金からなる部材の溶融溶接を行う場合において、含有成分であるMg、Si等の成分組成からの割れ感受性が高くなるため、割れ防止のため溶接助材としてAl−Si系やTiの添加が必要になるということで、やはり、電子ビーム溶接法においても異材となる溶接助材を用いざるを得ない。
【0014】
現在、アルミ合金のろう付において最も採用実績が多いと思われるノコロック法では、フラックスとして、腐食性および水溶性の小さいフッ化物系フラックスを用い、製造加工性が良好な形態として、両側または片側にAl−Si系の皮材をろう材として配置し、皮材に挟まれた心材としてAl−Mn系またはAl−Mg系板材を配置した積層構造のろう材であるブレ−ジングシートを用いるのが一般である。
【0015】
ろう付け対象の構造体が冷却プレートにブレージングシートを用いる場合には、通常のろう付法と異なり、点接合や線接合ではなくある程度の広い面積を有して連続した面接合となるためブレージングシートとしては板状の形態のものが都合がよく、そのため、適正な界面形状に合わせた複雑な形状に切断する必要がある。しかし、通常のブレージングシートは厚さ数ミリ以下の薄板で変形しやすく、板幅にも制限があり、適当な切断方法の採用および同一界面での複数枚使用には制限があり、配置時の位置ずれや、表面汚染および重なりによる不均一な接合界面間隔の発生など、実際使用においては問題が多い。
【特許文献1】特許3288922号公報
【特許文献2】特開平9−1384号公報
【特許文献3】特開平10−1734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
構造体をろう付法および電子ビーム溶接法によって接合して製造する場合、各構成部材の接合界面にろう材を介在させる必要がある。そして、このろう材には、それ自体の熔解性と基材への濡れ性を改善するために、構造体を構成する素材とは異なる素材を含有させるのが通常である。そのため、接合界面には異材が含まれることになり、接合時の変形の問題も含めて製品特性にも制限が加わってくる。
【0017】
本発明は、各種構造体のろう付法および電子ビーム溶接による製造法における上記欠点を解消するもので、変形が少ないろう付法の特性を活かし、しかも、内部に空間を有するような複雑な構造体のろう付におけるろう材の適正な配置の困難性を排除することによって、構造設計において自由度が高い接合法による構造体の製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、接合部材の相対する接合界面のみにろう材となる介在層を的確に形成する手段として、ろう材粉末についてコールドスプレー法を採用し、ろう材となる介在層を形成したのち、接合界面を含む接合部材を加熱と加圧を伴う処理によって界面接合を行う構造体の製造法である。
【0019】
本発明でいうコールドスプレー法は、少なくとも粉粒体の一部溶融させる溶射と異なり、固体粉粒体状態を維持しながら、高速度で噴射して被加工材の噴射面に粉粒体を付着積層させる低温表面加工法である。このコールドスプレー法は、加熱をともなわない室温、もしくは、粉粒体の溶融をともなわない低温の下でろう材粒子を接合界面のみに適切な形態で形成するもので、処理中における粉粒体の変質はなく、噴射面における衝突時の発熱のみが粉粒体に付加される。
【0020】
コールドスプレーのための装置本体は、粉粒体の供給配合部と圧縮空気の加速加熱部、および噴射ノズルからなり、色々な応用のための付属装置が付与できる。たとえば、大面積の噴射面の場合にもX−Y駆動装置と組み合わせれば効率的に処理でき、管内面などの局面の噴射面の場合には回転装置と直線駆動装置があれば処理可能である。
【0021】
また、コールドスプレー法で用いられる粉粒体は、通常のアトマイズ法で得た任意の粒径のものが使用でき、さらに任意の組成の金属合金が利用できるため、従来ろう付法におけるブレージングシートのような限られた板状形態のろう材とくらべると明らかにろう材としての汎用性が格段に優れている。
【0022】
また、本発明法によるコールドスプレー処理後においては、従来のろう付法と同様の真空炉または非酸化雰囲気炉内で加熱するが、特殊な工程および装置は必須としない。むしろ、コールドスプレー法における作用現象からすると、酸化膜の除去などによるろう材の馴染みが改善され、ひずみ付加によるろう材および母材表面層の微細効果、融点低下作用などを含めると、ろう付条件の設定においても優位に作用するため、加熱速度の高速化や加熱温度の低温化、および、ろう付現象の均一化などの付加機能も十分に期待できる。
【0023】
また、コールドスプレー法により形成された介在層を溶融させる接合処理の場合は、従来のろう付と基本的に同じ現象を利用することになり、コールドスプレー法で形成した介在層はろう材となるが、コールドスプレー法の適用で介在層を溶融させず、固相のまま接合することも可能であるため、この場合は明らかにろう付法と異なる本発明の効果が発揮されることになる。
【0024】
本発明は、外部への出入口をもつ空間を内部に有するような複雑な形態の構造体の製造にも好適に適用でき、その場合、少なくとも接合部分は、熱伝導性、軽量性、および加工性の点から、純アルミまたはアルミ合金、または、マグネシウム合金、それも、熱処理型アルミ合金が材質の汎用性の点から望ましく、介在層としては、構成部材の接合界面で構成材と接合温度で共晶を形成する金属を含むことが反応性の点から重要で、Si単体またはAl−Si系合金粉末が介在層として使用するのに適している。
【0025】
Siは、Alをはじめ、Cu、およびTiとの共晶反応を起こす金属であり、合金成分の場合1%以上含まれれば効果を示すが、望ましくは5%以上含まれればさらに有効であり、Al−Si系共晶組成である12%以上を含む場合にはSi単体とAl−Si合金粉末同士を機械的に混合した粉末混合物としても適用できる。
【0026】
本発明における構成材と介在層との関係は、Al合金とAl−Si系との間の共晶反応と同じく、銅合金の場合も共晶反応が発現するSi単体もしくはCu−Si系合金が介在層として使用できる。 他の金属合金系では、純MgおよびMg合金、純TiおよびTi合金にも、同様に、それぞれに、Mg−Si系、およびTi−Si系で共晶反応が発現する。
【0027】
しかしながら、Cu合金は高熱伝導体ではあるが比重が高い、また、水に対する耐食性が劣るのに対して、他の高熱伝導体であるアルミ合金は比重も低く、水に対する耐食性も良いことから冷却プレートの材質として望ましい。その他にも、機械加工性や耐熱性のなどの点から、Mg合金、ステンレス鋼、Ni合金、Ti合金を材質として構造体の仕様に合わせて選定すればよい。
【0028】
本発明において使用する接合処理を行う装置は、加熱と雰囲気制御が同時または個別に行える装置であればよく、この意味から、従来の真空炉が十分に適用できるが、単軸加圧を行いながら加熱できるホットプレス装置は好適であり、処理品を容器に真空封入して、アルゴンまたは窒素ガスによって等方圧を加圧できるHIP装置は最適である。むしろHIP装置であれば、任意の加圧効果を最大限に利用できるため、複雑な接合界面における介在層の粉末焼結と拡散接合が同時に行えるので非常に好都合である。
【0029】
また、本発明の実施に際しては加熱と加圧をともなう界面接合を実現するための手段のうち、加熱のほうが加圧にくらべてより主体となるため、最低限として雰囲気加熱ができる装置、例えば、真空加熱炉があれば適用可能である。ただし、圧媒ガス内での加熱処理装置として、熱伝達性が良好で、加圧が任意に付与できるため密着が促進される点から、加熱と加圧をともなう処理装置としてホットプレス装置、さらにHIP(熱間等方圧加圧)装置を用いることによって、最大限に効果が発揮できる。
【発明の効果】
【0030】
本願発明は、コールドスプレー法によって予め接合界面に介在層を形成することによって、構造体を主に構成する材料とは材質および特性が異なる、介在層の適用量を最小限とすることができ、これによって均一で安定した品質の信頼性の高い界面特性が得られる。
【0031】
これによって、接合界面の寸法形状自由度が高くなり、しかも、従来のろう付法とくらべても工程数をかなり低減できる。
【0032】
とくに、接合界面の寸法および形状に関係なく処理することも可能であるため、冷却、加熱プレートのように外面に出口を設けた空間を内部に有する複雑な構造体を製造するに当たっての、介在層の形成はコスト的にも納期的にも有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1において、(a)は、本発明が適用できる内部に空間4を有する構造体1の平面の形態と、(b)はその断面形状を示す。同図に示す構造体1において内部空間4は単純化して示しているが、実際の冷却プレートでは熱分布の均一化要求から水路配置は複雑で、水路面積もかなりの割合を占めるものである。構造体1の内部にある空間4は外部に通じる開口部2を有しており、接合によって各構成部材を一体化した場合にも、空間4の内部において圧力を生じない構造となっている。
【0034】
その構造体1のろう付けに際しては、構成材1Aおよび1Bの接合界面3にろう材5を介在させる。
【0035】
そして、ろう材5は、1Aおよび1Bが直接接触する真正の界面にのみに介在させればよい。空間4の内面へのろう材5の介在は、断面積減少や閉塞につながるため、ろう材およびフラックスの適正な形態での適量配置が望ましい。
【0036】
このコールドスプレー法による作用の概要を図2(a)〜(e)に示す。これらの図に示すように、コールドスプレー法には、少なくとも、(a)に示す表面層被覆、(b)に示す界面平均化、(c)に示す粉末付着積層、(d)に示すひずみ負荷、さらには(e)に示す自己層破壊の作用現象があり、その利用目的によっては有効な加工手段である。
【0037】
まず、(a)に示す表面層被覆では、酸化皮膜を有する噴射粒子による表面層の破壊によって汚染された表面層の清浄化が行われる。
【0038】
また、(b)に示す界面平均化では、噴射粒子による界面平坦化によって噴射面は表面粗さが改善され、また、(c)に示す粉末付着積層として噴射された粉粒体が表面層を形成し、また、(d)のひずみ負荷では、粉粒体の衝突によって噴射面にひずみが負荷され、また、条件によっては粉粒体の再衝突によって表面層の(e)の自己層破壊が起こることが考えられる。
【0039】
因みに、このコールドスプレー法を実施するための装置としては、簡略な構造の装置本体と、付属設備として圧縮空気を製造するコンプレッサー、圧縮空気を一時貯蔵しながら供給するレシーバータンク、そして、望ましくは粉末回収装置があれば環境面からも良好であるなど、非常に経済的な設備仕様で十分対応できる。
【0040】
本願発明を、構造体として冷却プレートの製造に適用するには、拡散接合できる材質であれば構造材に制限はなく、例えば、熱処理型アルミ合金A6061−T6(熱処理)材、高熱伝導体としては銅(Cu)合金なども使用できる。
【0041】
しかしながら、Cu合金は高熱伝導体ではあるが比重が高い、また、水に対する耐食性が劣るのに対して、他の高熱伝導体であるアルミ合金は比重も低く、水に対する耐食性も良いことから冷却プレートの材質として望ましい。その他にも、機械加工性や耐熱性などの点から、Mg合金、ステンレス鋼、Ni合金、Ti合金を材質として構造体の仕様に合わせて選定すればよい。
【0042】
本願発明が好適に適用できる冷却プレートは2層構造とするのが最も簡素な構造であるが、3層構造となることもあり、構成材が同一材種となるばかりではなく、異なる機能の組み合わせによる複合効果を目的として複数の種類の構成材の組み合わせとなることもある。例えば、表面層を熱伝導性の高いアルミ合金A6061やA5052とし、裏側を耐熱性のあるステンレス鋼SUS304やSUS316Lの2層構造とすることも可能であり、その点でも、異材を介在させて拡散接合することで、さらに広い異種の構成材間の界面接合が実現できる。
【実施例1】
【0043】
図3は、本発明の実施例としてコールドスプレ−法により接合界面に介在層を形成した接合試験片における接合強度を調べた結果を示す。
【0044】
丸棒形態の接合素材として、図3の下欄に示すように、純アルミA1070と、Mgをそれぞれ1〜5重量%含むアルミ合金A6061、A5052、A5083、そして、Alを3重量%と亜鉛を1重量%含むマグネシウム合金AZ31について、コールドスプレー法によるろう付試験を行った。
【0045】
供試材として、それぞれ直径φ25mm×20mmの接合素材の接合界面にコールドスプレー法によるろう材を形成した。
【0046】
コールドスプレーのための装置は低圧タイプの小型装置を用い、噴射圧は0.6MPaで、ノズル先端から噴射面までの噴射距離は約10mmで、加熱は行わず圧縮空気のみで粉粒体を加速した。ノズルは内径5mmで長さ120mmのステンレス鋼製丸直管の内面を研磨して採用した。
【0047】
ろう材となる粉粒体としては、図3の供試材の下欄に示すように、各供試材に対し、Al−8重量%Si、Al−12重量%Si、およびSi単体を使用した。各粉粒体の粒度分布はすべて325メッシュ未満で、粉末の調製法は合金がガスアトマイズ法によって、単体が粉砕法によって得たものである。また、同図には、剥離強さと下欄に接合素材、ろう材、実体保持温度、接合素材径を併せて示す。コールドスプレー法によるろう材、接合界面の両側にろう材の介在層を形成し、形成した膜厚はろう付加熱前における厚さで両接合面の合計厚さを約20μmとした。
【0048】
拘束治具とともに、ろう付接合材を内径φ200×高さ140mmのふた付ステンレス鋼製シール容器に入れて、シール容器とともに、高さ200mm、幅300mm、奥行き400mmの電気炉内に装入し、窒素ガスのシールガスをシール容器内に4L/分で封入しながらそれぞれ加熱、保持および冷却を行った。
【0049】
加熱速度は200℃/時とし、ろう付のための最高保持温度は接合素材の固相温度未満とし、保持温度20℃以下の中間温度で60分保持し、さらに所定の界面接合のための最高保持温度で30分保持した。
【0050】
つまり、従来のろう付温度に相当する界面接合のための最高保持温度は、Al−Si系の共温晶度とされる577℃未満、およびMg−Si系の共温晶度とされる638℃未満となる場合においても十分に接合可能であり、ろう付温度を各系の共晶温度以上とする従来のろう付とは効果があきらかに異なることが明白である。
【0051】
そして、ろう付処理後の接合体において接合界面の接合強度を測定するために剥離試験片を採取し、最大負荷荷重(kgf)と接合面積(mm)から剥離強さ(kgf/mm)を求めた。因みに、剥離強さは接合界面に対し荷重を垂直に負荷する引張強さに相当する接合強度である。
【0052】
とくに、アルミ合金A6061は本発明における接合性が最も良好な接合素材であり、Al−12%Siおよび100%Si単体をろう材として用いた場合において剥離強さはA6061−O母材強度(引張強さ)を超過していた。
【0053】
そして、A6061よりは接合性は劣るが、Al−Mg系合金であるA5052およびA5083、そしてMg−Al系合金であるAZ31においても、保持温度がAl−Si系共晶温度である577℃よりも低いため剥離強度はA6061の場合より低いが、構造体として剥離しない程度の剥離強度が得られた。
【0054】
因みに、図3に母材強度として点線で示した剥離強度である12.7kgf/mmという数値は、A6061−0(焼鈍)材の引張強さに対応するものである。
【実施例2】
【0055】
熱処理型アルミ合金A6061−T6(熱処理)材のみを単一構成材として図4に示す内部に複雑な冷却水路を有する冷却プレートに適用した例を示す。
【0056】
図4は、製品としての静電チャック用冷却プレートの構造および寸法を示す。(a)図は平面断面図、(b)図は(a)図のX−X線による断面図を示す。
【0057】
構成材原料は上板10および溝ふた11ともに熱処理型アルミ合金A6061−T6(熱処理)材である。HIP処理前において、上板10と溝ふた11は位置決めピン9で3ヶ所を仮に固定されており、内部空間である冷却水路8には製品として使用時には純水が循環される機構になっている。
【0058】
この冷却プレートは外径がφ312で、上板10および溝ふた11のそれぞれの厚さは14mmと18mmで、合計厚さは32mmである。また、水路は幅8mmで深さ8mmの角型断面を有している。そして、上板11の上面側中央部には純水の出入り口となる穴が2ケ所加工されている。
【0059】
上板10および溝ふた11のそれぞれの接合界面は機械加工で、▽▽▽仕上げ程度となっており、ろう材を接合界面に形成した上で組み立てた。
【0060】
コールドスプレー法による接合界面へのろう材形成は、Al−8%SiとAl−12%Siの2種類の粉粒体を用いて行い、成膜厚さは10μmである。
【0061】
次いで、前記試験と同じ要領で、各ろう材表面を突き合わせて組み合わせ、ステンレス製拘束治具で、目視観察で外表面がずれていないことが判る程度に軸を合わせて組立てた。
【0062】
ただし、電気炉は雰囲気温度制御であるため、各試験とも表面に接触させた熱電対で実体温度を測定し、試験データ、特に保持温度はすべて実体温度で整理した。
【0063】
したがって、ろう付のためのアルミ冷却板としてはろう材のみが異なる2式の接合材が準備でき、2式とも同一のステンレス鋼製拘束治具にまとめて組み込んだ。
【0064】
拘束治具とともに冷却プレートは窒素ガス雰囲気炉内に配置されて、所定のパターンでろう付処理されるが、実体表面に接触させた熱電対で実体温度制御を行いながら、最高保持温度は595℃で、保持時間は10分以内とした。
【0065】
ろう付処理後に拘束治具を除去すれば、一体化された冷却プレートは剥離することなく容易に取り出すことができた。
【0066】
ろう付処置後において冷却プレートのうちのそれぞれから破壊試験用として各種試験片を採取して金属組織観察、断面硬さ測定、剥離試験を実施した。
【0067】
光学顕微鏡による倍率100倍での組織観察の結果、接合界面にはろう材以外に何ら界面欠陥はなく、アルミ冷却板はろう付接合界面で一体化されていた。
【0068】
断面硬さ測定の結果、中心部、中間部、および周辺部ともにビッカース硬さHv(1)=約50となり、A6061−0(焼鈍)母材の標準値であるブリネル硬さHB=30よりも高いが、A6061−T6(熱処理)母材の標準値であるブリネル硬さHB=95よりも低い値が得られた。つまり、原料素材であるA6061−T6はろう付処理によって全体加熱されたため、軟化したことが確認された。
【0069】
接合界面の接合強度として剥離強さを調べたところ、中心部、中間部、および周辺部ともに剥離強さとして2式とも11〜14kgf/mmという値が得られたが、これはA6061−0(焼鈍)母材の標準値である引張強さ12.7kgf/mmに匹敵するものであり、接合界面における接合強度が6061−0(焼鈍)母材強度に相当することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明が適用できる内部に空間を有した構造体の代表的な形態および断面形状を示す。
【図2】本発明で適用されるコールドスプレー法の原理としての作用現象を示す。
【図3】本発明のコールドスプレー法を適用した小型ろう付試験の結果を示す。
【図4】静電チャック用冷却プレートの代表的な形態および断面形状を示す。
【符号の説明】
【0071】
1 内部に空間を有した構造体
1A、1B 内部に空間を有した構造体を構成する構成材
2 開口部
3 接合界面
4 空間
5 ろう材
6 接合界面
7 ろう材
8 水路
9 位置決めピン
10 冷却プレートの上板
11 冷却プレートの溝ふた

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合部材の相対する接合界面のみに金属粉末をコールドスプレーすることによって介在層を形成したのち、接合界面を含む接合部材を加熱と加圧をともなう処理によって界面接合を行う構造体の製造法。
【請求項2】
外部への出入口をもつ空間を内部に有する構造体を、請求項1に記載の製造方法を適用して製造する方法であって、
それぞれの接合部材の少なくとも接合面が、純アルミ、アルミ合金、または、マグネシウム合金によって形成されており、コールドスプレーによって接合面に形成される介在層が純アルミ、アルミ合金、または、マグネシウム合金と共晶反応を呈する金属粉末である構造体の製造法。
【請求項3】
アルミ合金がMgを含む熱処理型アルミ合金である請求項2に記載の構造体の製造法。
【請求項4】
共晶反応を呈する金属粉末がSi単体またはAl−Si系合金である請求項2に記載の構造体の製造法。
【請求項5】
構造体が静電チャック用冷却プレートである請求項2に記載の構造体の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−291793(P2009−291793A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144934(P2008−144934)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000143628)株式会社黒木工業所 (17)
【Fターム(参考)】