説明

樹脂基材へのめっき処理方法

【課題】前処理工程としてエッチング処理を行うことなく、ざらつきを有した樹脂基材の表面であっても、平滑なめっき処理表面を得ることができる樹脂基材のめっき処理方法を提供する。
【解決手段】不飽和結合を有する樹脂基材の処理表面にオゾン水処理を行う工程S12と、該処理表面に、金属触媒を吸着させる触媒吸着処理を行う工程S14と、該触媒吸着処理後の処理表面に、無電解めっき処理を行う工程S15と、該無電解めっき処理後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、半光沢金属めっき処理を行う第一の電気めっき処理工程S16と、該第一の電気めっき処理工程後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっき処理を行う第二の電気めっき処理工程S17と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面にめっき処理を行う方法であって、樹脂基材の下地処理としてエッチング処理を行うことなく、平滑なめっき処理表面を得ることができる樹脂基材へのめっき処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子樹脂の表面に、導電性や光沢性を付与すべく金属めっき被膜を形成する場合、めっき処理を行うことが多い。このめっき処理として、樹脂基材の下地となる導電性を有しない樹脂表面に、溶液中の金属イオンを化学的に還元析出させて、高分子樹脂の表面に、金属被膜を形成する処理(無電解めっき処理)を行うことがある。
【0003】
無電解めっき処理は、化学的な還元反応を利用しているので、電力によって電界析出させる電気めっきとは異なり、一般的に絶縁体からなる高分子樹脂の表面であっても金属被膜(金属めっき層)を形成することができる。次に、金属被膜の表面に、電気めっきを行い、金属被膜の強度だけでなく、意匠性を向上させている。
【0004】
たとえば、このような樹脂基材へのめっき処理方法として、(1)クロム酸により樹脂基材の表面をエッチング処理する工程と、(2)該エッチング処理後の処理表面に金属触媒を吸着させる触媒吸着処理を行う工程と、(3)該触媒吸着処理後の処理表面に、無電解めっき処理を行う工程と、(4)該無電解めっき処理後の処理表面に、半光沢金属めっき処理を行う工程と、(5)該第一の電気めっき工程後の処理表面に、光沢金属めっき処理を行う工程と、を少なくとも含むめっき処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような樹脂基材のめっき処理方法によれば、エッチング処理後の表面に、一連のめっき処理を行うことにより、ざらつきのない平滑なめっき処理表面を得ることができる。
【0006】
【特許文献1】特開2007−39770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、クロム酸によるエッチング処理は、樹脂基材の表面のざらつきを、クロム酸により溶解することにより、基材が平滑化されるが、このクロム酸には六価クロムが含まれている。この六価クロムの使用は、作業環境を含む環境性の観点から望ましいものとは言えない。
【0008】
このような観点から、近年、上記(1)に示すエッチング処理の代替の工程として、樹脂基材の表面にオゾン水処理を行う場合がある。このオゾン水処理を行うことにより、樹脂基材の表面を溶解することなく、樹脂基材の表面層を改質し、これにより金属触媒の吸着性を向上させ、密着力の高いめっき皮膜を得ることができる。
【0009】
ところで、射出成形により成形された樹脂基材の表面には、10〜500μmの樹脂の凸部が存在する。しかしながら、オゾン水中の活性種であるオゾン並びにヒドロキシラジカルは、ライフタイムが非常に短いため、めっき用樹脂内部に深く浸透する前に失活してしまう。それゆえに、図3に示すように、オゾン水処理では樹脂表面はほとんど平滑化されず、オゾン水処理後の処理表面には、10〜500μmの樹脂の凸部が依然として残留することになる。このような表面に対して、例えば、特許文献1に記載の一連のめっき処理を施した場合であっても、樹脂の表面に均一にめっきが析出されるため、めっき処理表面には、10〜500μmの凸部が形成されることになる。
【0010】
また、特許文献1に記載の半光沢金属めっき処理と光沢めっき処理は、前工程においてエッチング処理を行っていることからも明らかなように、表面の平滑化にために講じられている処理ではない。すなわち、半光沢金属めっき処理と光沢めっき処理の本質的なところは、そのめっきの初期外観を向上させる処理ではなく、めっき被膜に対して層厚さ方向の腐食の進行を抑制するために、めっき層の多孔質(マイクロポーラス)構造に着目して、めっき層を擬似的に腐食させることにある。したがって、上記オゾン水処理後の表面に、特許文献1に記載の一連のめっき処理を行ったとしても、凸部の発生を本質的に回避することができるものではない。
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、前処理工程としてエッチング処理を行うことなく、ざらつきを有した樹脂基材の表面であっても、平滑なめっき処理表面を得ることができる樹脂基材のめっき処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決すべく、本発明に係る樹脂基材への樹脂めっき処理方法は、不飽和結合を有する樹脂基材の処理表面にオゾン水処理を行う工程と、前記処理表面に、金属触媒を吸着させる触媒吸着処理を行う工程と、該触媒吸着処理後の処理表面に、無電解めっき処理を行う工程と、該無電解めっき処理後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、半光沢金属めっき処理を行う第一の電気めっき処理工程と、該第一の電気めっき処理工程後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっき処理を行う第二の電気めっき処理工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、たとえ成形時の樹脂基材の表面にざらつきの起因となる凸部(ピット)があったとしても、第一の電気めっき処理工程において、中心線平均粗さRaを0.1〜0.5μmの範囲の半光沢金属めっき処理を行い、さらに、第二の電気めっき処理工程において、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっきを行うことにより、樹脂基材の表面の凸部にかかわらず、めっき処理表面は平滑化されることになる。
【0014】
具体的には、前記粗さの範囲で半光沢金属めっき処理を行うことにより、樹脂基材の表面の凸部の形状に依存しない、微細な凹凸を有しためっき処理表面が形成され、さらに、前記粗さの範囲で光沢金属めっき処理を行うことにより、前記凹凸を有しためっき処理表面がレベリングされ、表面が平滑化されることになる。
【0015】
すなわち、第一の電気めっき処理工程において、中心線平均粗さRaが0.1μm未満である場合には、樹脂基材の表面の凸部の形状がめっき処理表面に表れてしまい、第二の電気めっき処理工程において、光沢金属めっきを行った場合であっても、めっき処理表面は平坦化され難い。また、第一の電気めっき処理工程において、中心線平均粗さが0.5μmを超えた場合には、樹脂基材の表面の凸部の形状がめっき処理表面に表れることはないが、半光沢金属めっき処理そのものによりめっき処理表面に凹凸が大きくなり、この場合も同様に、めっき処理表面は平坦化され難い。
【0016】
また、前記第一の電気めっき処理工程後の処理表面が、前記表面粗さの範囲内にあった場合であっても、中心線平均粗さRaが0.03μmを超えた場合には、めっき処理表面の美観は得られ難い。
【0017】
第一の電気めっき処理工程における半光沢金属めっき処理としては、光沢金属めっき処理に比べて、均一電着性が低く(ワーグナー長さが短く)、レベリング作用が低いめっき浴であり、そのめっき浴として、例えば、従来一般的に投入される添加量よりも少ないレベリング剤が添加されたワットニッケル浴または硫酸亜鉛浴を挙げることができる。
【0018】
第二の電気めっき処理工程における光沢金属めっき処理としては、半光沢金属めっき処理に比べて、均一電着性が高く、レベリング作用が高いめっき浴であり、そのめっき浴として、例えば、従来一般的に投入される添加量よりも多いレベリング剤が添加された硫酸銅浴などを挙げることができる。
【0019】
ここで、均一電着性とは、幾何学的なレベリング性のことをいい、均一電着性が高いほど、基材の形状に沿っためっき皮膜が形成される。また、レベリング作用とは、一般にめっきの均一電着性としていうときには、cmオーダ以下でのめっき厚さの分布の表面を平滑化することをいうが、本発明のめっき処理の如く、μmオーダ以下の表面の凹凸へのめっき厚さ分布を問題とするときには、μmオーダの表面の平滑化することをいう。これをマクロな均一電着性に対して微小均一電着性(マイクロ・スローイングパワー)ということもある。
【0020】
また、半光沢金属めっき処理と光沢金属めっき処理を行う際に、前記表面粗さを調整するには、各めっき処理液の組成及び添加剤等を変更することにより、調整することができるが、より好ましくは、後述するように、表面粗さの調整は、各めっき処理液に添加するレベリング剤の添加量を調整することにより行う。
【0021】
このように、レベリング剤の調整を行うことにより、容易に処理表面の表面粗さの調整を行うことができる。本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法は、前記半光沢金属めっき処理及び光沢金属めっき処理のめっき処理液に、レベリング剤が添加されており、前記半光沢金属めっき処理のめっき液は、前記光沢金属めっき処理のめっき液よりも、レベリング剤の添加量が少ないことがより好ましい。
【0022】
なお、本発明でいうレベリング剤とは、めっき処理に対するレベリング作用を発現することを目的として、めっき浴(めっき処理液)に加える添加剤のことをいう。このレベリング剤はめっき液に拡散されることにより、めっき被膜の表面の凸部に吸着されやすい。これにより、吸着した部分の分極は大きくなるために(活性化過電圧が増加するために)凸部への電着性が抑制されて、めっき被膜の凹部により多く、めっきが析出するようになる。この結果、めっきが析出した(めっき被膜が形成された)処理表面の平滑化が図られることになる。
【0023】
例えば、ニッケルめっきのレベリング剤としては、ベンゼンスルフォン酸、ナフタレンスルフォン酸、トルエンスルフォンアミド、サッカリンナトリウム、フォルムアルデヒド、クローラルハイドレート、クマリン、ブチンジオール、チオ尿素、ラウリル硫酸ナトリウム、エチレンシアンヒドリン、プロパキルアルコール、キノリン、ピリジンなどを挙げることができる。
【0024】
また、シアン化銅めっきのレベリング剤としては、亜セレン酸ソーダ(0.5〜2g/l)、酢酸鉛(0.01〜0.5g/l)などを挙げることができる。また、硫酸銅めっきのレベリング剤としては、フェナジン化合物、サフラニン化合物、ポリアルキレンイミン、チオ尿素誘導体、ポリアクリル酸アミド、アゾ染料、ジチオカルバミン酸基をもつ化合物などを挙げることができる。
【0025】
また、本発明でいうめっき処理を行う不飽和結合を有する樹脂としては、例えばABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂、エポキシ樹脂、PMMA樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂などを挙げることができる。
【0026】
このような、高分子樹脂に吸着させる金属触媒としては、パラジウム、銀、コバルト、ニッケル、ルテニウム、セリウム、鉄、マンガン、ロジウムなどの金属触媒を挙げることができ、これらの組み合わせであってもよい。
【0027】
さらに、無電解めっきを行うめっき材料としては、例えば銅、ニッケル等を挙げることができ、無電解めっきにより、高分子樹脂の表面に金属めっき層が形成されるものであれば、特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい金属触媒は、パラジウム触媒であり、無電解めっきを行うめっき材料は、ニッケルである。パラジウム触媒は、上述した樹脂に対して吸着性において優れ、かつ、汎用性に富んでおり、ニッケルを形成する場合には、密着性等の観点から好適である。
【0028】
より好ましくは、本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法は、前記無電解めっき処理が、無電解ニッケルめっき処理であり、前記半光沢金属めっき処理が、半光沢ニッケルめっき処理であり、前記光沢金属めっき処理が、光沢銅めっき処理である。
【0029】
このように、下地層を構成するめっき処理に、無電解ニッケルめっき及び半光沢ニッケルめっき処理をし、そのさらに表面のめっき処理に、光沢銅めっき処理を行うことにより、下地層であるニッケルめっき層(ニッケルめっき皮膜)が銅めっき層(銅めっき皮膜)よりも先に腐食するので、表層の銅めっき層の美観を損なうことがない。
【0030】
さらに本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法は、このようなめっき処理後に、クロムめっき処理を行ってもよく、さらに、第二の電気めっき処理工程と、クロムめっき処理の間に、半光沢ニッケルめっき処理、光沢ニッケルめっき処理、ジュールニッケルめっき処理を順次行ってもよい。
【0031】
本発明によれば、クロムめっき処理を行うことにより、表面の美観に優れ、大気中で変色し難く、他のめっき皮膜に比べて硬質で摩擦係数の小さい皮膜を得ることができる。さらに、半光沢ニッケルめっき処理により、前記銅よりもイオン化傾向の高いニッケルを優先的に腐食させることができ、光沢ニッケルめっき処理により、自然電位が低い光沢ニッケルを半光沢ニッケルに対して優先的に腐食させることができる。ジュールニッケルめっき処理は、ニッケルめっき中に非伝導性粒子を分散させてニッケルめっき処理を行うものである。この処理により、クロムめっき処理において、マイクロポーラスクロムめっき皮膜を得ることができる。
【0032】
さらに本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法は、前記触媒吸着処理工程前のオゾン水処理後の処理表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行う工程をさらに含んでもよい。本発明によれば、このアルカリ処理工程により、パラジウム等の触媒の吸着性を高めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るめっき処理方法によれば、樹脂機材の表面の前処理工程としてエッチング処理を行うことなく、ざらつきを有した樹脂基材の表面であっても、平滑なめっき処理表面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、図面を参照して、本発明に係る樹脂基材へのめっき処理方法の実施形態に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るめっき処理方法の各工程を説明するための作業フロー図であり、図2は、本実施形態によりめっき処理された樹脂基材を説明するために図である。
【0035】
図1に示すように、本実施形態に係るめっきの処理方法は、樹脂基材の表面に、金属めっき皮膜を被覆するためのめっき処理方法であり、以下に示す工程を含んでいる。
【0036】
ABS樹脂などの不飽和結合を有する樹脂から基材(樹脂基材)を成形する成形工程S11を行う。基材の成形方法は特に制限されず、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、射出成形など各種成形方法を採用できる。
【0037】
次に、オゾン水処理工程S12を行う。このオゾン処理工程S12において、少なくとも基材の処理表面(樹脂表面)にオゾン水(オゾンが溶存した水)を接触させて、処理面となる基材表面を含む表面層の改質を行う。溶液中のオゾンによる酸化によって基材の表面の少なくとも一部の不飽和結合が切断され、オゾニド、メチロール基あるいはカルボニル基などが生成すると考えられる。このメチロール基、カルボニル基などは金属原子と化学結合を形成し得る官能基であるため、後述する無電解めっきによるめっき皮膜と強く結合するので、めっき皮膜と基材との付着強度を向上させることができる。
【0038】
オゾン水を基材の処理表面に接触の方法としては、基材の処理表面にオゾン水をスプレーにより塗布してもよく、基材をオゾン水中に浸漬してもよい。なお、本実施形態では、オゾン水を用いたがオゾンが溶存できる溶液であり、さらに、基材にダメージを与えるものでなければ、オゾンが溶存する溶媒は水に限定されるものではない。
【0039】
次に、アルカリ処理工程S13を行う。このアルカリ処理S13において、オゾン水処理後の処理表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させる。界面活性剤は、後述するパラジウム触媒の吸着性を高めるためのものであり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を挙げることができる。アルカリ溶液のアルカリ成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどを挙げることができ、樹脂基材の表面を分子レベルで溶解して脆化層を除去するとともに、ナトリウムなどのアルカリ金属を処理表面に付与することができる。さらに、界面活性剤とアルカリ成分とを含む溶液の溶媒としては、極性溶媒を用いることが望ましく、水を代表的に用いることができるが、場合によってはアルコール系溶媒あるいは水−アルコール混合溶媒を用いてもよい。
【0040】
またアルカリ溶液を樹脂基材と接触させるには、オゾン水処理と同様に、樹脂基材を溶液中に浸漬する方法、スプレー等により表面に溶液を塗布する方法、などを挙げることができる。この工程後、塩酸等の酸により、中和処理(プレディップ処理)を行うことがより好ましい。アルカリ処理工程により、後述する触媒吸着処理工程において、処理表面へのパラジウム触媒の吸着性を高めることができるが、所望の量のパラジウム触媒を吸着することができるであれば、このアルカリ処理工程を省略してもよい。
【0041】
次に、触媒吸着処理工程S14を行う。この触媒吸着処理工程S14において、アルカリ処理された処理表面を、塩酸水溶液に塩化パラジウム及び塩化錫が溶解した触媒溶液中(キャタライザー)に浸漬する。これにより、基材の処理表面にパラジウム触媒を吸着させる。そして、処理表面を酸性溶液に接触させて、パラジウム触媒の活性化を図る。次に、無電解めっき処理工程S15を行う。無電解めっき処理工程15において、該触媒吸着処理後の処理表面に、ニッケルめっき液を浸漬させて、ニッケルを表面に析出させて、図2に示すように、触媒吸着処理を行った処理表面に、無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。
【0042】
次に、第一の電気めっき処理工程S16を行う。この第一の電気めっき処理工程S16において、無電解めっき処理後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、半光沢金属めっきを行う。
【0043】
具体的には、後述する光沢金属めっき処理に比べて、均一電着性が低く(ワーグナー長さが短く)、レベリング作用が低くなるように、添加するレベリング剤の添加量を調整したワットニッケル浴に浸漬し、浴内の電極と無電解めっきがされた処理表面との間を通電し、電気ニッケルめっきを行う。このようにして、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、レベリング剤等を調整して、第一の電気めっき工程S15を行うことにより、図2に示すような、樹脂基材の表面の凸部の形状に依存しない、後述する光沢金属めっき処理されためっき処理表面に比べて光沢度の低い(表面粗さの粗い)、微細の凹凸を有した半光沢ニッケルめっき皮膜が形成される。
【0044】
次に、第二の電気めっき処理工程S17を行う。この第二の電気めっき処理工程S17において、第一の電気めっき処理工程後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっきを行う。
【0045】
具体的には、上記半光沢金属めっき処理に比べて、均一電着性が高く、レベリング作用が高くなるように、添加するレベリング剤の添加量を調整した硫酸銅浴に浸漬し、浴内の電極と半光沢金属めっきがされた処理表面との間を通電し、電気銅めっきを行う。
【0046】
このように、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっきを行うことにより、図2に示すような、凹凸を有しためっき処理表面がレベリングされ、表面が平滑化となった光沢銅めっき皮膜が形成される。
【0047】
最後に、電気クロムめっき処理工程S18を行う。このクロムめっき処理は、一般的に知られたクロムメッキ処理であり、クロムめっき処理により、表面の美観に優れ、大気中で変色し難く、他のめっき皮膜に比べて硬質で摩擦係数の小さいめっき被膜を得ることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、第二の電気めっき処理工程S17後に、クロムめっき処理工程18を行ったが、これらの工程の間に、例えばJIS H 8630「プラスチック上の装飾用電気めっき」等に記載るような半光沢ニッケルめっき処理、光沢ニッケルめっき処理、ジュールニッケルめっき処理を順次行ってもよい。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
まず、樹脂基材として、ABS樹脂(UMGABS社製、めっきクレード)の樹脂基材を準備した。そして、以下の表1に示すめっき処理を行った。具体的には、まず、オゾン濃度30ppm、処理温度20℃、浸漬時間8分の条件で、オゾン水処理を行った。
【0050】
そして、触媒吸着処理工程として、塩酸水溶液に塩化パラジウム(PdCl)と、塩化スズ(SnCl)を溶解した溶液に、処理温度30℃、浸漬時間2分の条件で、触媒化処理を行った。次いで、活性化処理工程として、硫酸水溶液に、処理温度50℃、浸漬時間2分間の条件で、活性化処理を行い、Pd−Snを酸化還元しSnを溶解除去し、Pd金属を析出した。なお、実施例の触媒化処理と活性化処理との一連の処理が、本発明の触媒吸着処理に相当する。
【0051】
次に、無電解めっき処理として、硫酸ニッケル六水和物と、次亜リン酸ナトリウム―水和物(0.2M)を含むNi−Pめっき溶液に、処理温度50℃、浸漬時間10分の条件で、無電解ニッケルめっきを析出した。
【0052】
次に、半光沢ニッケルめっき処理(第一の電気めっき処理工程)として、硫酸ニッケル200〜320グラム/リットル、塩化ニッケル50±20グラム/リットル、ホウ酸40±10グラム/リットル、さらに、添加剤(レベリング剤)として表2に示すサッカリン:ナフタレンスルフォン酸ナトリウム:1−4ブチンジオールの質量比が1:5:0.1であり、サッカリンが0.1グラム/リットルとなるように、後述する光沢銅めっき処理よりも少ない添加量でこれらを添加して、処理温度が40〜70℃(50℃)、電流密度2〜10A/dm(3A/dm)、の条件で、無電解ニッケルめっき層の表面に、半光沢ニッケルめっきを析出させた。なお、括弧内に記載した値は、実際に実施した数値であり、その前に記載した数値の範囲は好ましい範囲を示している。
【0053】
さらに、光沢銅めっき処理(第二の電気めっき処理工程)として、硫酸銅150〜250グラム/リットル(200グラム/リットル)、硫酸10〜100グラム/リットル(50グラム/リットル)、塩素イオン10〜100ミリグラム/リットル(25ミリグラム/リットル)、さらに、添加剤としてフェナジン化合物、サフラニン化合物、ポリアルキレンイミン、チオ尿素誘導体、ポリアクリル酸アミド、ジチオカルバミン酸基をもつ化合物を0.1〜200ミリグラム(10ミリグラム)程度添加して、処理温度が10〜50℃(30℃)、電流密度0.1〜10A/dm(4A/dm)の条件で、半光沢ニッケルめっき層の表面に、光沢銅めっきを析出させた。なお、括弧内に記載した値は、実際に実施した数値であり、その前に記載した数値の範囲は好ましい範囲を示している。
【0054】
次に、半光沢ニッケルめっき処理を行った。この半光沢ニッケルめっき処理は、銅よりもイオン化傾向の高いニッケルを優先的に腐食させることにより、防食性を高める処理である。具体的には、硫酸ニッケル六水和物300グラム/リットル、塩化ニッケル六水和物75グラム/リットル、及びホウ酸45グラム/リットルのめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度4A/dm、通電時間15分の条件で、光沢銅めっき層の表面に、半光沢ニッケルめっきを析出させた。
【0055】
次に、光沢ニッケルめっき処理を行った。この光沢ニッケルめっき処理は、自然電位が低い光沢ニッケルを半光沢ニッケルに対して優先的に腐食させることにより、さらなる防食性を高める処理である。具体的には、硫酸ニッケル六水和物300グラム/リットル、塩化ニッケル六水和物75グラム/リットル、ホウ酸50グラム/リットル、及び、適量の硫黄化合物を含有した光沢剤を含んだめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度4A/dm、通電時間15分の条件で、半光沢ニッケルめっき層の表面に、光沢ニッケルめっきを析出させた。
【0056】
さらに、ジュールニッケルめっき処理を行った。このジュールニッケルめっき処理は、後述するクロムめっき処理おいて、マイクロポーラスクロムめっき層を得るための処理である。具体的には、硫酸ニッケル六水和物300グラム/リットル、塩化ニッケル六水和物75グラム/リットル、ホウ酸50グラム/リットル、適量の硫黄化合物を含有した光沢剤、及び、適量の非導電性微粒子(カオリン、ガラス微粒子等)を含んだめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度4A/dm、通電時間10分の条件で、光沢ニッケルめっき層の表面に、ニッケルめっきを析出させた。
【0057】
さらに、クロムめっき処理を行った。このクロムめっき処理は、めっき処理表面の美観を高め、大気中での変色防止、めっき皮膜の硬質化、及びその表面の摩擦係数の低減を図るための処理である。具体的には、無水クロム酸300グラム/リットル、硫酸3グラム/リットルのめっき溶液に、処理温度が50℃、電流密度50A/dm、通電時間10分の条件で、ジュールニッケルめっき層の表面に、クロムめっきを析出させた。
【0058】
(評価)
上述した半光沢ニッケルめっき処理(第一の電気めっき処理)後、及び光沢銅めっき処理(第二の電気めっき処理)後の表面に対して、触針式表面形状測定機を用いて、表面粗さ(中心線平均粗さRa)を測定した。この結果を、表3に示す。さらに、得られためっき処理表面に対して、室内光の下で目視で観察し、凹凸(ざらつき度合い)の発生頻度を5段階で評価した。この結果も、表3に示す。なお、レベル数が小さい方が、発生が多いことを示している。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
(実施例2)
実施例1と同じような一連の工程を行うことにより、ABS樹脂の樹脂基材の表面にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、半光沢ニッケルめっき処理(第一の電気めっき処理工程)において、添加したレベリング剤の添加量を表2に示す量にした点である。そして、この比較例1に対しても、実施例1と同様の評価を行った。この結果を表3に示す。
【0063】
(比較例1)
実施例1と同じような一連の工程を行うことにより、ABS樹脂の樹脂基材の表面にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、半光沢ニッケルめっき処理(第一の電気めっき処理工程)を行っていない点である。そして、この比較例1に対しても、実施例1と同様の評価を行った。この結果を表3に示す。
【0064】
(比較例2,3)
実施例1と同じような一連の工程を行うことにより、ABS樹脂の樹脂基材の表面にめっき処理を行った。実施例1と相違する点は、半光沢ニッケルめっき処理(第一の電気めっき処理工程)において、添加したレベリング剤の添加量を表2に示す量にした点である。そして、この比較例2,3に対しても、実施例1と同様の評価を行った。この結果を表3に示す。
【0065】
(結果及び考察)
比較例1は、第一の電気めっき処理を行っていないので、樹脂基材の凸形状がめっきの表面に表れて、その結果として、実施例1、2に比べてざらつきが大きくなったと考えられる。
【0066】
表2に示す実施例1、2及び比較例2、3のレベリング剤の添加量と、半光沢金属めっきの中心線平均粗さRaの関係から、第一の電気めっき処理工程において、添加したレベリング剤の添加量が増加するに従って、半光沢金属めっきの中心線平均粗さRaが大きくなっている。
【0067】
また、実施例1、2の光沢銅めっきの表面粗さは、比較例2のものに比べて小さかった。これは、比較例2の場合には、第一の電気めっき処理工程において、添加したレベリング剤の量が多かったため、均一電着性が低いが、樹脂基材の表面の凸部によらない凹凸が大きい表面に形成され、半光沢金属めっきの中心線平均粗さRaが大きくなったと考えられる。その結果として、第二の電気めっき処理を行ったとしても、充分に処理表面の平滑化が図れず、残留した凹凸がめっき処理表面に表われて、めっき光沢不良が発生したと考えられる。
【0068】
さらに、第一の電気めっき処理工程において、比較例3は、実施例1、2に比べて、レベリング剤の添加量が少なかったので、均一電着性が高くなり、樹脂基材の表面の凸部は平滑されなかったと考えられる。この結果、残留した表面の凸部が、第二の電気めっき処理を行ったとしてもそのめっき処理表面の形状に表われて、実施例1、2に比べてざらつきが大きくなったと考えられる。
【0069】
以上より、実施例1、2からも明らかなように、無電解めっき処理後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、半光沢金属めっきを行うことにより、第二の電気めっき処理において、表面の平滑化を図ることが可能であり、さらに、第二の電気めっき処理において、発明者らの実験及び経験から中心線平均粗さRaが0.03μm以下(より好ましくは、本実施例から0.02μm以下)の範囲となるように、光沢金属めっきを行えば、凹凸のない光沢のあるめっき処理表面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施形態に係る樹脂基材へのめっき処理方法の各工程を示したフロー図。
【図2】図1によるめっき処理方法を行った場合のめっき処理表面を説明するための図。
【図3】従来のめっき処理方法を行った場合のめっき処理表面を説明するための図。
【符号の説明】
【0071】
S11:成形工程、S12:オゾン水処理工程、S13:アルカリ処理工程、S14:触媒吸着処理工程、S15:無電解めっき処理工程、S16:第一の電気めっき処理工程、S17:第二の電気めっき処理工程、S18:電気クロムめっき処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する樹脂基材の処理表面にオゾン水処理を行う工程と、
前記処理表面に、金属触媒を吸着させる触媒吸着処理を行う工程と、
該触媒吸着処理後の処理表面に、無電解めっき処理を行う工程と、
該無電解めっき処理後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.1〜0.5μmの範囲となるように、半光沢金属めっき処理を行う第一の電気めっき処理工程と、
該第一の電気めっき処理工程後の処理表面に、中心線平均粗さRaが0.03μm以下の範囲となるように、光沢金属めっき処理を行う第二の電気めっき処理工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする樹脂基材へのめっき処理方法。
【請求項2】
前記半光沢金属めっき処理及び光沢金属めっき処理のめっき処理液には、レベリング剤が添加されており、前記半光沢金属めっき処理のめっき液は、前記光沢金属めっき処理のめっき液よりも、レベリング剤の添加量が少ないことを特徴とする請求項1に記載の樹脂基材へのめっき処理方法。
【請求項3】
前記無電解めっき処理は、無電解ニッケルめっき処理であり、前記半光沢金属めっき処理は、半光沢ニッケルめっき処理であり、前記光沢金属めっき処理は、光沢銅めっき処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂基材への樹脂めっき処理方法。
【請求項4】
前記触媒吸着処理工程前のオゾン水処理後の処理表面に、界面活性剤を少なくとも含むアルカリ溶液を接触させてアルカリ処理を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂基材へのめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−31306(P2010−31306A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192600(P2008−192600)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】