説明

樹脂成形体の製造方法

【課題】
高脆性の非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物を室温近傍で圧空成形等をすることにより、生産性よく樹脂成形体を製造する方法等を提供すること。
【解決手段】
(1)非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させた後、30℃以下の温度で脱圧後、二酸化炭素を収着した該シート状物を、[室温+10℃]以下の温度で、圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法、及び(2)二酸化炭素を収着した該シート状物に、[室温+10℃]以下の温度で、表面に凹凸形状が形成された型を押圧することを特徴とする凹凸形状が転写された樹脂成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の製造方法に関し、さらに詳しくは、高脆性の非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物を室温近傍で圧空成形等をすることにより、生産性よく樹脂成形体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂製シートは、様々な形状に加工することができ、また意匠性のある図柄等を転写して使用することができることから、カップ、トレイ等の包装容器や転写シート、化粧板等の多種の用途に用いられている。しかしながら、熱可塑性樹脂は室温下で脆性破壊するものが多く、そのような高脆性の熱可塑性樹脂は、そのままでは室温下で成形することができない。
例えば、ガラス転移温度(以下、「Tg」という)が室温より低い結晶性樹脂であるポリエチレン(Tg:−128℃)、ポリプロピレン(Tg:−18℃)等は、一般に室温下で伸び特性を有するために、固相押出し等の成形法が適用できる。しかし、室温下で高脆性の非晶性熱可塑性樹脂、例えばポリスチレン(Tg:100℃)、 ポリメチルメタクリレート(PMMA)(Tg:105℃) 、ポリアクリロニトリル(Tg:130℃)、環状オレフィンポリマー(COC)(Tg:163℃)等は、室温下で伸び特性を有しないため、室温下で変形等の応力を印加すると、その応力に追従できず材料が破壊する。このため、これらの高脆性の非晶性熱可塑性樹脂を成形するためには、そのTg以上に温度を上げて変形可能とするように加熱工程に付した後、射出成形法や押出成形法を適用して成形する。
しかしながら、加熱工程を含むことは、樹脂の劣化や生産性向上の観点から望ましいことではなく、室温で成形体を製造する方法、特に深絞り成形する方法等の開発が望まれていた。
【0003】
一方、近年、半導体検査分野や医療分野などで使用する検査素子、センサー、トランスデューサーの微細化が盛んになっている。特に、センサーやトランスデューサーなどでは高いアスペクト比の微細構造体が求められ、微細金型製作技術とともにマイクロ成形性の向上が重要となっている。例えば、センサーを製作するマイクロモールディングでは、センサー構造体と電子回路との電気的接点を設けるため、金型と電子回路基板との位置決めを行って、樹脂成形を行なう必要がある。そこでは、高い面精度や位置決め精度が要求されるため、成形収縮の抑制が容易な熱可塑性樹脂の熱エンボス加工が行なわれている。
また、マイクロレンズ等ではサーマル・トランスフォーメーション法(熱変換法)が行なわれている。この方法では、ポリカーボネート樹脂や環状オレフィンポリマー等の光学シートに、シート材料のTg以上に加熱した電鋳型によりパターンを熱転写している。
このように超精密成形においても加熱工程を含んでいるため、加熱工程を省いた、より高精度の成形体を製造する方法の開発が望まれている。
【0004】
また、熱可塑性樹脂の成形に超臨界流体を利用したものとして、表皮が無発泡で内部に微細な発泡セルをもつマイクロセルプラスチックが知られている(特許文献1参照)。特許文献1は、超臨界流体を可塑化した熱可塑性樹脂に浸透させ、金型に充填した後金型内圧力を低くすることで内部発泡させるという技術であり、圧空成形等のような無発泡の二次加工技術とは異なるものである。
さらに、二酸化炭素を熱可塑性樹脂に吸収させて射出成形する方法が知られている(特許文献2参照)。特許文献2は、加圧した二酸化炭素で充満させた金型内に、二酸化炭素を溶解させた溶融樹脂を充填し射出成形する技術であり、圧空成形等のような二次加工技術に関するものではない。また、二酸化炭素の含浸とTgとの詳細な検討、例えば、応力−ひずみ曲線に関する検討もなされていない。
【0005】
【特許文献1】米国特許5158986号明細書
【特許文献2】特開2001−62862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み、高脆性の非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物を加熱することなく二次加工し、生産性よく樹脂成形体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、非晶性熱可塑性樹脂のシート状物に二酸化炭素を低温で加圧収着させ、脱圧した後、二次加工することにより、上記目的を達成しうることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させた後、30℃以下の温度で脱圧後、二酸化炭素を収着した該シート状物を、[室温+10℃]以下の温度で、圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法、及び
(2)非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させた後、30℃以下の温度で脱圧後、二酸化炭素を収着した該シート状物に、[室温+10℃]以下の温度で、表面に凹凸形状が形成された型を押圧することを特徴とする凹凸形状が転写された樹脂成形体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1発明の方法によれば、室温で高脆性の非晶性熱可塑性樹脂であっても、室温近傍で、圧空成形等により生産性よく樹脂成形体を製造することができる。また、非晶性熱可塑性樹脂に対する二酸化炭素の収着条件を適宜選定することにより、深絞り成形体も容易に製造することができる。
本発明の第2発明の方法によれば、非晶性熱可塑性樹脂に二酸化炭素を収着させた後、室温近傍で押圧変形を与え、各種形状等のパターンを転写できる。また、形状等を刻印した金型を押圧して局部加圧することにより、局部加圧部分のみを発泡させたシート状成形体を製造することができる。
本発明の第1発明及び第2発明の方法によれば、成形性、型離れ性が良好で、寸法精度の高い成形体、転写体を短時間で効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1発明の製造方法は、(i)非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させること、(ii)30℃以下の温度で脱圧させること、及び(iii)二酸化炭素を収着した該シート状物を、[室温+10℃]以下の温度で、圧空成形、真空成形又は真空圧空成形することが特徴である。
【0010】
非晶性熱可塑性樹脂(以下、単に「非晶性樹脂」という)とは、加熱すると軟化して可塑性を示し、冷却すると固化する特徴を有する熱可塑性樹脂のうち、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低い熱可塑性樹脂、及び該非結晶性樹脂が主成分の熱可塑性樹脂である。非晶性樹脂は、原子または分子が三次元的に規則正しい空間格子をとらずに、それらが全く不規則に集合した固体状態であり、無定形状態とも言われる。無定形状態には、ガラス状態とゴム状態があり、Tg以下では硬いガラス状を示すが、Tg以上では軟らかいゴム状を示す特徴を有する。
Tgは樹脂の骨格等によって左右されるので、Tgが室温以上の場合でも、ポリ乳酸(PLA)のTg60℃から、ポリエーテルスルホン(PES)のTg225℃まで様々な非晶性樹脂がある。しかし、本発明においては、Tgの高低に拘わらず、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着できるものであれば特に制限はない。
なお、Tgの測定は、示差走査熱量測定法(DSC)、ジラトメトリー法、PVT(圧力−体積−温度)装置等を用いて測定することができる。
【0011】
非晶性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
ポリスチレン系樹脂としては、汎用ポリスチレン(GPPS)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS系樹脂)アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜400,000が好ましい。
ポリカーボネート系樹脂としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)、ビス(3,5−ジアルキル−4−ヒドロキシフェニル)、又はビス(3,5−ジハロ−4−ヒドロキシフェニル)置換を有する炭化水素誘導体を有するポリカーボネートが好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を有するビスフェノールA型ポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート系樹脂の質量平均分子量(Mw)は10,000〜50,000が好ましい。
ポリメタクリル系樹脂としては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。メタクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は50,000〜600,000が好ましい。
【0012】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は40,000〜200,000が好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、アクリロニトリルーブタジエンースチレン(ABS)、スチレンーイソプレンースチレン(SIS)、スチレンーエチレン/ブチレンースチレンブロック熱可塑性樹脂(SEBS)等のスチレン系ブロック共重合体の他、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、エチレンープロピレンージエンモノマーゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリエチレンーテレフタレート(PETG)等が挙げられる。
【0013】
その他の非晶性樹脂の具体的としては、環状オレフィン系樹脂(日本ゼオン株式会社:シクロオレフィンポリマー「ZEONOR」、三井化学株式会社:エチレン・テトラシクロドデセン共重合体「アペル」等)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニリデン、液晶熱可塑性樹脂,及び生分解性樹脂等を挙げることができる。
【0014】
生分解性樹脂は、生分解性を有する樹脂であればよく、化学合成系樹脂、微生物系樹脂、天然物利用系樹脂等を挙げることができる。例えば、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース誘導体等を挙げることができる。
より具体的には、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)樹脂及びその誘導体、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリテトラメチレンアジペート、ポリグリコール酸(PGA)、ジオールとジカルボン酸の縮合物等、セルロース類としてはアセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等を挙げることができる。これらの中では、ポリ乳酸樹脂が好ましい。
ポリ乳酸樹脂は、乳酸又はラクチドの重縮合物である。ポリ乳酸樹脂にはD体、L体、DL体の光学異性体があるが、それらの単独物又は混合物を含む。ポリ乳酸樹脂の質量平均分子量(Mw)は100,000〜400,000が好ましい。
【0015】
上記の非晶性樹脂の中では、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)等のポリスチレン系樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート等のポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリメタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸(PLA)等の生分解性樹脂、環状オレフィン系樹脂(COC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン等が特に好ましい。
上記の非晶性樹脂は、一種単独で又は二種以上を混合して使用することができる。また、上記の非晶性樹脂には、強度・耐熱性の付与、寸法精度の向上等を目的として、無機系または有機系の充填剤を添加することができる。
【0016】
かかる非晶性樹脂からシート状物を製造する方法は特に限定されるものではない。例えば、非晶性樹脂を常法により乾燥した後、必要に応じて各種添加剤を添加、混合した後、十分な混練能力のある一軸又は多軸の押出機、ニーダー、混合ロール等を用いて溶融混練した後、押出機により所定温度で押し出して、キャスティングドラム上で冷却固化し、シート状物を形成することができる。なお、該押出機にベントを設け、乾燥工程を省いたり、乾燥時間を短縮化することもできる。なお、本発明の要旨を越えない限り、本発明において用いるシート状物は、2層あるいは3層以上の積層体であってもよく、各種の表面処理をしたものでもよい。
【0017】
本発明に用いる非晶性樹脂からなるシート状物の厚み は、50μm〜10mmの範囲であることが好ましく、100μm〜5mmの範囲が特に好ましい。かかるシートの厚みが上記範囲内にあれば、二酸化炭素収着後の圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形における成形加工性が良好となる。
上記の非晶性樹脂からなるシート状物を用いて樹脂成形体を製造するには、まず(i)圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を十分に収着させることが必要である。かかる条件下で、シート状物に二酸化炭素を溶解させることにより、効果的にシート状物を膨潤させ、シート状物内部にまで二酸化炭素を収着させることができる。
【0018】
二酸化炭素を非晶性樹脂に収着させる場合、該非晶性樹脂と二酸化炭素との関係によるが、二酸化炭素の収着を効率的に行う観点から、温度50℃以下、好ましくは50〜−30℃、圧力1〜40MPa、好ましくは2〜30MPa、接触時間5分間〜100時間、好ましくは15分間〜50時間とする。特に、二酸化炭素を亜臨界状態又は超臨界状態とすることが好ましい。
ここで、「亜臨界状態」とは、圧力が二酸化炭素の臨界圧力(7.38MPa)以上でありかつ温度が臨界温度(31.1℃)未満である液体状態の二酸化炭素、或いは圧力が二酸化炭素の臨界圧未満でありかつ温度が臨界温度以上である液体状態の二酸化炭素、又は、温度及び圧力が共に臨界点未満ではあるがこれに近い状態をいう。より具体的には、二酸化炭素の温度が20℃〜31℃でかつ圧力が5MPa以上の状態が好ましい。
また、「超臨界状態」とは、圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上であり、かつ温度が臨界温度以上である状態をいう。より具体的には、二酸化炭素の温度が40〜50℃で、かつ、圧力が7.38〜20MPa、好ましくは8〜15MPの状態をいう。
【0019】
二酸化炭素の存在下、好ましくは亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素存在下で、非晶性樹脂からなるシート状物に二酸化炭素を含浸させると、Tgが低下し、その結果ゴム状領域の特性が発現する。このゴム状領域では力学的変形が容易であり、かつ分子鎖の配向も緩和され、残留ひずみ等が成形体に残存しにくくなると考えられる。
二酸化炭素の収着量は、適用する非晶性樹脂により異なるが、通常3質量%以上、好ましくは5質量%〜二酸化炭素の飽和量である。
二酸化炭素の含浸(溶解)条件を適宜選定することにより、二酸化炭素の収着量を調整し、室温近傍で所望のゴム特性を各種ポリマーに発現させることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)は室温下では通常脆性破壊する材料(変形伸び:18%)であるが、二酸化炭素を10質量%収着させると変形伸びを200%にすることができ、二酸化炭素を14質量%収着させると変形伸びを300%にすることができ、室温下で塑性変形する材料に変えることができる。その結果、加熱しなくても室温下で塑性変形、圧延成形が容易となる。
なお、二酸化炭素を収着させる方式に特に制限はなく、例えば、耐圧容器内にシート状物を設置し、その中に二酸化炭素を導入して超臨界状態にしてバッチ式に処理する方法や、樹脂成形体を二酸化炭素の処理帯域に導入して連続的に処理する方法などを採用できる。
【0020】
二酸化炭素を収着させた後、(ii)30℃以下の温度で脱圧させる。脱圧時の温度は、好ましくは30〜−30℃、更に好ましくは30〜0℃である。脱圧時の温度が30℃を超えると、シート状物に収着した二酸化炭素が除去されたり、シート状物が発泡したり、気泡が介在するおそれがあるので好ましくない。また、減圧速度は、シート状物の発泡を抑制するため、10〜15MPa/1時間程度の減圧速度で、例えば、20MPaから大気圧まで1時間〜2時間程度かけてゆっくり減圧することが好ましい。
【0021】
次に、(iii)二酸化炭素を収着したシート状物を、[室温+10℃]以下の温度で、圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形を行う。なお、[室温+10℃]以下の温度とは、金型及び成形雰囲気が[室温+10℃]以下の温度であり、特に加熱しないことを意味し、通常30℃〜0℃の範囲である。
圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形の条件にとくに制限はない。例えば、通常用いられる圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形機を用いて、二酸化炭素を収着したシート状物を型枠でクランプし、シート状物を金型に押し付けると共に、片側から真空又は圧空し、反対側から圧空又は真空にし、その後数秒間空気吹き付け等により冷却する方法など公知の技術が挙げられる。必要であればその後打ち抜き刃により打ち抜いて不要な部分を除去する。
本発明の第1発明の方法によれば、室温下で、非晶性樹脂の深絞り成形体も容易に製造することができる。ここで、深絞り成形体とは、成形体の開口部の幅(直径)(D)と深さ(L)との比(L/D)が0.5以上のものをいう。本発明の第1発明の方法によれば、L/Dが0.8以上、特にL/Dが1〜4の成形体も室温近傍で容易に製造することができる。
【0022】
本発明の第2発明の製造方法は、(i)非晶性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させること、(ii)30℃以下の温度で脱圧させること、及び(iii)二酸化炭素を収着した該シート状物に、[室温+10℃]以下の温度で、表面に凹凸形状が形成された型を押圧して、凹凸形状が転写された樹脂成形体を製造することが特徴である。
シート状物に二酸化炭素を収着させた後であれば、室温近傍で、シート状物に凹凸形状が形成された型を押圧し、各種文字、形状又は模様のパターンを転写することができる。型をシート状物に押圧する場合の押圧力は、単位面積当たり0.1MPa以上であり、好ましくは0.5〜50MPa、さらに好ましくは1〜40MPaである。
また、シート状物の押圧部分を発泡させる場合は、型の押圧力を、好ましくは単位面積当たり2MPa以上、好ましくは3〜35MPa、さらに好ましくは10〜30MPaとする。上記範囲の押圧力を印加すると、各種形状等を刻印した部分が局部加圧され、局部加圧された部分のみが発泡した、審美性の優れたシート状成形体を製造することができる。
用いることのできる型に特に制限はないが、形成された凹凸形状の凸部の高さ(凹の深さ)は、型離れ性等の観点から、通常10μm〜5mm、好ましくは50μm〜3mmの範囲である。
本方法の第1発明及び第2発明の製造方法により得られた成形体は成形後,シートを水または氷水で冷却し、シートに残存する二酸化炭素を除放することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法は、カップ、トレイ等の包装容器や転写シート、化粧板等の通常の成形体の製造に適用することができるが、マイクロレンズやマイクロパターン等の超精密成形、ホットエンボスプロセスの分野において、特に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
製造例1(シート状物の製造)
ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)(住友化学工業株式会社製、商品名:スミペックスLG、重量平均分子量(Mw):100,000、Tg:100℃)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:1mm、10cm×10cm角)を得た。このシート状物から厚み1mm、幅10mm、長さ60mmの短冊状の試験片を作成した。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記の試験片を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力6MPaで3時間保持して、試験片に二酸化炭素を含浸させた。その後、ゆっくり脱圧し、取出した試験片を用いて、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG−IS)により、室温下で引張り試験を行なった。引張り試験速度は10mm/min、試料標点間距離は10mmであった。
その結果、二酸化炭素を含浸させたPMMA試験片は、降伏強度(σy)が12.1MPa、伸びが300%、破断強度(σb)が9MPa、弾性率(E)が158MPaであった。引張り試験において、PMMA試験片の変形の過程、及び変形後に、試験片には気泡は観測されなかった。なお、引張り試験値は試料3つの平均値である。
降伏強度(σy)、伸び、破断強度(σb)弾性率(E)の試験法は、JIS−K7161に準拠した。
図1に、得られたPMMA試験片の応力−歪曲線を示す。図1から、二酸化炭素を含浸したPMMAは、延性破壊挙動を示すことが分かる。
また、二酸化炭素含浸後の試験片に溶解していた二酸化炭素収着量を、下記の質量法の式から算出した結果、二酸化炭素収着量は14.1質量%であった。
二酸化炭素収着量(質量%=[(二酸化炭素含浸後の試験片質量(g)−含浸前の試験片質量(g))/含浸前の試験片質量(g)]×100
【0025】
製造例2(シート状物の製造)
製造例1において、二酸化炭素の含浸条件を、温度30℃、圧力10MPa、1.5時間とした以外は、製造例1と同様の操作を行った。
試験結果は、降伏強度(σy)が16.4MPa、伸びが200%、破断強度(σb)が11.6MPa、弾性率(E)が378MPaであった。二酸化炭素を含浸させたPMMAは延性破壊挙動を示した。また、二酸化炭素収着量は10.2質量%であった。
【0026】
実施例1
PMMA(住友化学工業株式会社製、商品名:スミペックスLG、重量平均分子量(Mw):100,000、Tg:100℃)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:1mm、35mm×60mm)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力10MPaで3時間で保持して、シート状物に二酸化炭素を含浸させた。その後、ゆっくり1時間かけて脱圧し、シート状物を取出した。
得られたPMMAのシート状物は、製造例1と同様の延性破壊挙動を示した。また、上記質量法の式により求めた二酸化炭素収着量(含浸量)は20.1質量%であった。
卓上プレス成形機に設置した凹凸形状が形成された金型(凸金型は、10cm×10cm×5mm角の中心に、高さ10mm、幅20mm、長さ40mmの凸型ブロックが固定されたもの。凹金型は、高さ10.5mm、幅31mm、長さ51mmの箱型で、内部が幅20.6mm、長さ40.6mmの長方形にくり抜かれた箱型のもの。)を設置した卓上プレス成形機を用意した。上記の二酸化炭素を含浸させたPMMAシート状物を、卓上プレス成形機の凹凸金型の間に設置して、室温下、6MPaの押圧力をかけて、深さ10mm、幅20mm、長さ40mmの深絞りされた箱体を得た。
【0027】
比較例1
実施例1において、二酸化炭素を含浸させなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。
試験結果は、破断強度(σb)が73MPa、伸びが18%、弾性率(E)が628MPaであった。二酸化炭素を含浸していないPMMAは通常の脆性破壊挙動を示した。
この室温下で脆性破壊を示すPMMAのシート状物(厚み:1mm、35mm×60mm角)を、卓上型プレス成形機の上下板(室温)の間に置き、その上に実施例1で用いた金型を同様に載せ、8MPaの押圧力をかけた結果、PMMAのシート状物は局部の応力集中により破壊して飛散した。
【0028】
実施例2
PMMA(住友化学工業株式会社製、商品名:スミペックスLG、重量平均分子量(Mw):100,000、Tg:100℃)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:2mm、35mm×60mm角)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力10MPaで3時間保持して、シート状物に二酸化炭素を含浸させた。
その後、ゆっくり脱圧し、取出したシート状物を卓上型プレス成形機の上下板(室温)の間に置き、その上に文字(凸部がΣ形状で大きさ20mm×24mm×高さ13mm)を刻印した金型(凸部(Σ)高さ:1.5mm)を文字面がシート状物に接するように載せ、10Mpaの押圧力を印加し、1分間保持した。その結果、刻印(文字)部が微細発泡して白色化し、基板面は全く発泡していない文字(Σ)形状の明瞭な転写物(図2に示す)が得られた。
【0029】
実施例3
PMMA(ALDRICH製、重量平均分子量(Mw:350,000、Tg:122℃))を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:2mm、35mm×60mm角)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力6MPaで6時間保持して、シート状物に二酸化炭素を含浸透させた。
その後、ゆっくり脱圧し、取出したシート状物を卓上型プレス成形機の上下板(室温)の間に置き、その上に文字を刻印した金型(凸部:Σ)を文字面がシート状物に接す
るように載せ、14MPaの押圧力を印加し、1分間保持した。その結果、刻印(文字)部が微細発泡して白化し、基板面は全く発泡していない文字(Σ)形状の明瞭な転写
物が得られた。ところで、二酸化炭素含浸後のシート状物に溶解していた二酸化炭素収着量は13.5質量%であった。
【0030】
実施例4
ポリスチレン(GPPS、出光石油化学株式会社、商品名:HH32、重量平均分子量(Mw:321,000、Mw/Mn:2.3)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して,シート状物(厚み:1mm、35mm×60mm角)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力10MPaで24時間保持して、シート状物に二酸化炭素を含浸透させた。
その後、ゆっくり脱圧し、取出したシート状物を卓上型プレス成形機の上下板(室温)の間に置き、その上に文字を刻印した金型(凸部:Σ)を文字面がシート状物に接す
るように載せ、14MPaの押圧力を印加し、1分間保持した。その結果、刻印(文字)部が微細発泡して白化し、基板面は全く発泡していない文字(Σ)形状の明瞭な転写
物が得られた。ところで、二酸化炭素含浸透後のシート状物に溶解していた二酸化炭素収着量は9.0質量%であった。
【0031】
実施例5
PMMA(住友化学工業株式会社製、商品名:スミペックスLG、重量平均分子量(Mw):100,000、Tg:100℃)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:2mm、35mm×60mm角)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を50℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力10MPaで2時間保持して、シート状物に二酸化炭素を含浸させた。
その後、オートクレーブを氷水で室温まで冷却した後、ゆっくり脱圧し、取出したシート状物を卓上型プレス成形機の上下板(室温)の間に置き、その上に文字を刻印した金型(凸部:Σ)を文字面がシート状物に接するように載せ、14Mpaの押圧力を印加し、1分間保持した。その結果、刻印(文字)部が微細発泡して白色化し、基板面は全く発泡していない文字(Σ)形状の明瞭な転写物が得られた。
【0032】
実施例6
PMMA(住友化学工業株式会社製、商品名:スミペックスLG、重量平均分子量(Mw):100,000、Tg:100℃)を卓上型プレス成形機(株式会社井元製作所製)を用いて、220℃で溶融、加圧し、脱圧後冷却して、シート状物(厚み:1mm、20mm×20mm角)を得た。
二酸化炭素で置換、パージしたオートクレーブ内に、上記のシート状物を入れ、オートクレーブ内を30℃にした後、二酸化炭素を導入し、圧力10MPaで30分間保持して、成形体に二酸化炭素を含浸させた。
その後、ゆっくり脱圧し、取出したシート状物を卓上型プレス成形機の上下板(室温)に挟み、マイクロチャンネルパターンを刻印した金型(マイクロチャンネルの幅:70μm、凸部高さ:60μm、5mm×6mm角)をシート状成形体の上にセットして、6Mpaの押圧力を印加し、1分間保持した。その結果、刻印(マイクロチャンネルパターン)部が明瞭に転写された転写物(転写物の溝深さ:50μm)が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】製造例1で得られたPMMA試験片(二酸化炭素使用)と、比較例1で得られた樹脂成形体(二酸化炭素不使用)の応力−歪曲線を対比した図である。
【図2】実施例2で得られた転写物の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させた後、30℃以下の温度で脱圧後、二酸化炭素を収着した該シート状物を、[室温+10℃]以下の温度で、圧空成形、真空成形、又は真空圧空成形することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
シート状物の厚みが50μm〜10mmである請求項1に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
成形体が深絞り成形体である請求項1又は2に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
非晶性熱可塑性樹脂からなるシート状物に、圧力1〜40MPa、温度50℃以下の条件下で二酸化炭素を収着させた後、30℃以下の温度で脱圧後、二酸化炭素を収着した該シート状物に、[室温+10℃]以下の温度で、表面に凹凸形状が形成された型を押圧することを特徴とする凹凸形状が転写された樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
二酸化炭素を収着したシート状物に、単位面積当たり0.1MPa以上の押圧力を印加する請求項4に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
二酸化炭素を収着したシート状物に、単位面積当たり2MPa以上の押圧力を印加して発泡させる請求項4に記載の樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
非晶性熱可塑性樹脂が、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、生分解性樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンから選ばれる一種又は二種以上のものである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−7657(P2006−7657A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189963(P2004−189963)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(599100198)財団法人 滋賀県産業支援プラザ (12)
【Fターム(参考)】