説明

樹脂成形品の成形方法及び成形装置

【課題】 損傷やシワの発生がなく表皮材を樹脂成形品に貼り付ける。
【解決手段】 本発明は、表皮材14をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形方法であって、固定型52aと可動型52bとでなる一対の成形金型52の前記固定型と前記可動型との間に表皮材をセットする工程と、表皮材セット後に所定のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じるプレス工程と、前記プレス工程後に表皮材の背面側の成形空間に熱可塑性の成形品基材樹脂を所定の射出率で射出する射出工程と、前記射出工程によって充満された成形空間内の成形品基材樹脂に該成形品基材樹脂の射出装置により所定の圧力を加えて保持する保圧工程とを含み、前記プレス工程中の表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように前記成形金型を所定の成形型温度T1に加熱保持することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠面をなす印刷層を備えたシート状の表皮材を、インモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形方法、および樹脂成形品の成形装置に関し、樹脂成形分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車の内装品や家電製品などの樹脂成形品において装飾性や触感を向上させる等のために、意匠面をなす印刷層を備えたシート状の表皮材をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなるものが、実用に供されるようになってきている(例えば、特許文献1参照。)。印刷層を備えた表皮材として、例えば光輝インキを樹脂シートにスクリーン印刷して意匠面をなすシート状の表皮材がある。
【0003】
このような表皮材を成形品基材表面に貼り付け一体化する方法においては、賦形完了した後に金型を開き、成形品基材の顕熱を利用して表皮材が該表皮材の樹脂シートのガラス転移温度以上になるまで保持することにより、成形時に損傷したまたはシワが発生した表皮材を該表皮材の樹脂シートの熱弾性変形を利用して自己回復させている。この表皮材の損傷やシワの発生は、成形品基材樹脂が成形金型の成形空間に射出されることにより、成形空間の面に沿って表皮材が熱変形するときに発生しやすい。
【0004】
【特許文献1】特開平11−198175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、成形品基材樹脂の顕熱は、表皮材だけでなく外気や金型にも伝達され、表皮材の温度が該表皮材の樹脂シートのガラス転移温度以上にならない場合がある。この場合、損傷したまたはシワが発生した表皮材は、良品な意匠面を備える状態に回復しないことがある。その結果、良品な意匠面を備える樹脂成形品ができないことになる。
【0006】
そこで、本発明は、成形品基材樹脂の顕熱が十分に表皮材に伝達されなくても表皮材が成形空間の面に沿って良好に熱弾性変形し、その結果、表皮材の損傷やシワの発生が抑制されて良品な意匠面を備える樹脂成形品を提供することができる樹脂成形品の成形方法および成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、
意匠面をなす印刷層を備えたシート状の熱可塑性樹脂の表皮材をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形方法であって、
固定型と可動型とでなる一対の成形金型の前記固定型と前記可動型との間に表皮材をセットする工程と、
表皮材セット後に、所定のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じるプレス工程と、
前記プレス工程後、表皮材の背面側の成形空間に熱可塑性の成形品基材樹脂を所定の射出率で射出する射出工程と、
前記射出工程によって充満された成形空間内の成形品基材樹脂に該成形品基材樹脂の射出装置により所定の圧力を加えて保持する保圧工程とを含み、
前記プレス工程中の表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように前記成形金型を所定の成形型温度に加熱保持することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、
前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の成形型温度が、表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度であることを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項3に係る発明は、
前記請求項1または2に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定のプレス速度が0.15mm/s以上30mm/s未満であることを特徴とする。
【0010】
さらにまた、請求項4に係る発明は、
前記請求項3に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定のプレス速度が0.3mm/s以上5mm/s未満であることを特徴とする。
【0011】
加えて、請求項5に係る発明は、
前記請求項1から4までのいずれか1つに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の圧力が50〜75MPaであることを特徴とする。
【0012】
加えて、請求項6に係る発明は、
前記請求項5に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の射出率が120〜200g/sであることを特徴とする。
【0013】
また、前記課題を解決する本発明の請求項7に係る発明は、
意匠面をなす印刷層を備えたシート状の熱可塑性樹脂の表皮材をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形装置であって、
固定型と可動型とでなる一対の成形金型と、
前記成形金型を所定の成形型温度に加熱保持する金型加熱手段と、
表皮材の背面側の成形空間に熱可塑性の成形品基材樹脂を所定の射出率で射出する射出手段と、
前記射出手段によって充満された成形空間内の成形品基材樹脂に該成形品基材樹脂の射出装置により所定の圧力を加えて保持する保圧手段と、
前記固定型に対して前記可動型を所定のプレス速度で移動させて前記成形金型を閉じる可動型移動手段とを有し、
前記金型加熱手段が、前記可動型移動手段による前記可動型の型閉方向への移動中において、表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように成形金型を加熱保持することを特徴とする。
【0014】
また、請求項8に係る発明は、
前記請求項7に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記金型加熱手段が、表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度になるように前記成形金型を加熱保持することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項9に係る発明は、
前記請求項7または8に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記可動型移動手段が、前記固定型に向かって0.15mm/s以上30mm/s未満のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じることを特徴とする。
【0016】
さらにまた、請求項10に係る発明は、
前記請求項9に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記可動型移動手段が、前記固定型に向かって0.3mm/s以上5mm/s未満のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、請求項1に記載するように、成形金型によって表皮材が該表皮材のガラス転移温度より高い温度に維持されるため、ガラス転移温度以上の表皮材は成形金型の成形空間の面に沿って良好に熱弾性変形し、その結果、損傷やシワの発生が抑制された許容できるレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0018】
また、請求項2に記載の発明によれば、成形金型が表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度に維持されるため、ガラス転移温度以上の表皮材は成形金型の成形空間の面に沿って良好に安定して熱弾性変形し、その結果、損傷やシワの発生が抑制された許容できるレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が確実に作製される。
【0019】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、プレス速度が0.15mm/s以上30mm/s未満であるため、プレス時に変形される表皮材が大きく損傷することがない。その結果、許容できるレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0020】
さらにまた、請求項4に記載の発明によれば、プレス速度が0.3mm/s以上5mm/s未満であるため、プレス時に変形される表皮材が大きく損傷することがなく、バラツキ幅が小さい好ましいレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0021】
加えて、請求項5に記載の発明によれば、成形空間内の圧力が50〜75MPaであるため、表皮材が成形空間の面に向かって押圧されることにより該表皮材にシワが発生することが抑制され、成形空間の面が良好に転写された意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0022】
加えて、請求項6に記載の発明によれば、成形空間に射出される樹脂の射出率が120〜200g/sであるため、樹脂が成形空間全体に完全に充填される前に表皮材が金型によって長時間加熱されて過剰に熱変形することが抑制される。その結果、良好な意匠面を備えた樹脂成形品が作製される。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、成形金型が表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように金型加熱手段によって加熱保持されるため、ガラス転移温度以上の表皮材は成形金型の成形空間の面に沿って良好に熱弾性変形し、その結果、損傷やシワの発生が抑制された許容できるレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0024】
また、請求項8に記載の発明によれば、成形金型が表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度になるように金型加熱手段によって加熱保持されるため、ガラス転移温度以上の表皮材は成形金型の成形空間の面に沿って良好に安定して熱弾性変形し、好ましいレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が確実に作製される。
【0025】
さらにまた、請求項9に記載の発明によれば、可動型移動手段が可動型を固定型に向かって移動させるプレス速度が0.15mm/s以上30mm/s未満であるため、プレス時に変形される表皮材が大きく損傷することがない。その結果、許容できるレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【0026】
加えて、請求項10に記載の発明によれば、可動型移動手段が可動型を固定型に向かって移動させるプレス速度が0.3mm/s以上5mm/s未満であるため、プレス時に変形される表皮材が大きく損傷することなく、バラツキ幅が小さい好ましいレベルの良品な意匠面を備える樹脂成形品が作製される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂成形品の成形方法、及び成形装置によって作製された樹脂成形品の一例を示している。
【0028】
図1に示すように、符号10で示される樹脂成形品は、意匠面12を備えるシート状の表皮材14で覆われた成形品基材16から構成される。
【0029】
表皮材14の一例を説明すると、図2に示すように、表皮材14はシート状の多層構造体であって、最も意匠面12側に配置されて基材となる例えばPETなどの樹脂シート20と、樹脂シート20の裏面(意匠面12と反対の面)側にスクリーン印刷によって所定の模様(意匠面12側から見た場合の模様)に印刷される透明インク22と、透明インク22の上から樹脂シート20に印刷される意匠に関わるカラーインク(例えば、メタリックインク)24と、意匠面12側から見て成形品基材16の色が見えないようにするグレーやブラックなどのインク層26と、これらのインクを保持するとともに成形品基材16に対する接着剤として機能するバインダ28から構成される。
【0030】
図3は、図2に示す表皮材14を用いて樹脂成形品10を作製する成形装置の概略的な構成を示している。
【0031】
図3において、符号50で示される成形装置は、概略、樹脂成形品を成形するための成形金型52と、金型52を所定の型温度T1にするために該金型52を加熱する加熱手段であるヒータ54と、成形金型52の成形空間に成形品基材16となる溶融樹脂を射出する射出装置56と、成形金型52を型閉じするまたは型開きする型締め装置58から構成される。
【0032】
成形金型52は、固定型52aと可動型52bから構成され、所定の形状の樹脂成形品10を成形しつつその表面に表皮材14を貼り付けるように構成されている。
【0033】
固定型52aと可動型52bそれぞれには、ヒータ54が内蔵されており、それぞれの型がヒータ54によって所定の型温度T1に加熱され維持されている。所定の型温度T1については後述する。
【0034】
また、固定型52aには、射出装置56が接続されており、射出装置56からの溶融樹脂を成形空間に案内するチャンネル60が形成されている。
【0035】
射出装置56は、概略、溶融した樹脂を収容する射出シリンダ62と、シリンダ62内に配置されて前進動することにより該シリンダ62内の溶融樹脂をチャンネル60を介して成形金型52の成形空間内に所定の射出率Qで射出する射出スクリュ64と、スクリュ64を回転駆動させるモータ66と、成形空間内の溶融樹脂に所定の圧力Pを加えて保持する保圧機構68から構成される。所定の射出率Qと所定の圧力Pについては後述する。
【0036】
一方、可動型52bは、固定型52aに向かって可動型52bを進退させることにより、成形金型52を型閉じするまたは型開きする型締め装置58に接続されている。型締め装置58は、一定の所定のプレス速度Vで可動型52bを固定型52aに移動させて成形金型52を閉じるように構成されている。所定のプレス速度Vについては後述する。
【0037】
ここからは、成形装置50による成形動作、すなわち樹脂成形品10の成形方法について説明する。
【0038】
樹脂成形品10の成形は、図4に示す、型閉じ工程、プレス工程、射出充填工程、保圧工程、冷却工程、型開き工程を経て行われる。図4は、固定型52aと可動型52bの間の距離Lと成形時間tの関係を示しており、1成形サイクル分の距離Lの変化を示している。
【0039】
まず、図3に示すように、固定型52aと可動型52bの間に表皮材14がセッティングされる。このとき、意匠面12が可動型52b側に向くように表皮材14がセッティングされる。また、成形金型52の温度が所定の温度T1であるようにヒータ54により予め該成形金型52が加熱されている。
【0040】
次に、成形金型52を閉じるために、可動型52bが型締め装置58によって固定型52aに向かって移動される。このとき固定型52aと可動型52bの間の距離L(以下、「金型距離と称する」。)がL1になるまで高速で該可動型52bは固定型52aに向かって移動される。距離L1は、固定型52aと可動型52bとに表皮材14が挟持される直前の距離である。例えば、L1は表皮材14の厚さより10〜50mm大きい距離である。
【0041】
金型距離LがL1になると、所定のプレス速度Vで可動型52bが型締め装置58によって固定型52aに移動される。所定のプレス速度Vは、金型距離L1になるまでの速度より遅い速度である。これは、高速で可動型52bと固定型52aが表皮材14を挟持すると該表皮材14が損傷する、または良好に表皮材14を成形金型52によって所望の形状に変形させることができないためである。すなわち、プレス速度Vが高速すぎると、成形金型52の熱が十分に表皮材14に伝わらずに、表皮材14が熱変形ではなく強制変形されるためである。
【0042】
所定のプレス速度Vは、0.15mm/s以上30mm/s未満、より好ましくは0.3mm/s以上5mm/s未満がよい。これらの値は実験的に求めたものである。所定のプレス速度Vの値を変化させてプレスした結果を図6に示す。図は、プレス速度Vと、成形性やサイクルタイムとの関係を示している。
【0043】
図6においての良好な成形性は、図5に示すように、損傷やシワが発生することなく、表皮材14が成形金型52の成形空間Sの面に沿って良好に熱弾性変形することを言う。したがって、図6に示すように、プレス速度Vが30mm/s以上になると、高速すぎて成形性は悪くなる。しかしながら、良好な成形性を得るためにプレス速度Vを遅くし過ぎると、成形サイクルのサイクルタイムが長くなり、樹脂成形品10の生産性が悪くなる。したがって、プレス速度Vは、0.15mm/s以上30mm/s未満、より好ましくは0.3mm/s以上5mm/s未満がよい。
【0044】
また、図5に示すように、表皮材14を成形金型52の成形空間Sの面に沿って良好に熱弾性変形させるには、型温度T1が重要である。型温度T1は、表皮材温度Tと動的粘弾性特性の損失係数tanδとの関係を示す図7のように、表皮材14、特に表皮材14の基材である樹脂シート20のガラス転移温度Tg以上の温度である。厳密には、型温度T1は、成形金型52と接触している表皮材14が確実に上記のガラス転移温度Tg以上の温度になって良好に熱弾性変形するのに必要な温度である。ただし当然ながら、型温度T1は表皮材14を溶融する温度ではなく、表皮材14のガラス転移温度Tg近傍の温度である。
【0045】
型温度T1は上記のガラス転移温度Tg以上の温度であればよいが、好ましくはTg+(20〜40)℃の範囲の温度が好ましい。さらに好ましくは、樹脂成形品10のバラツキを考慮すると、Tg+(25〜35)℃の範囲の温度が好ましい。
【0046】
型温度T1を上記のような温度範囲に設定すると、表皮材14の温度Tは、動的粘弾性特性の損失係数tanδが安定したTg+(20〜40)℃の範囲(図7に示すハッチング部分)の温度になる。これにより、表皮材14は、樹脂成形品10ごとにバラツキなく、安定した熱弾性変形をする。
【0047】
なお、一例までに、表皮材の各材種毎のガラス転移温度Tgと型温度T1の関係を図8に示す。図8は、種類が異なる表皮材(基材である樹脂シートの材種や各表皮材のガラス転移温度Tgが異なる。)に対する、安定した熱弾性変形を可能とする、各表皮材に対する型温度T1の一例を示している。
【0048】
図4に戻って、プレス工程が完了した後、具体的には図5に示すように表皮材14が閉じた成形金型52の成形空間Sの面に沿って良好に熱弾性変形した後(成形金型52を閉じて所定の時間経過後)、図9に示すように、射出装置56よりチャンネル60を介して表皮材14の裏側の成形空間Sに溶融した樹脂(後に硬化して成形品基材16となる樹脂)MPが射出される(図4に示す射出充填工程が開始される。)。射出された溶融樹脂MPの温度は、型温度T1より高温のT2である。成形空間Sに充填された溶融樹脂MPにより表皮材14は意匠面12が可動型52bの成形面に沿うように熱変形していく。
【0049】
後に硬化して成形品基材16となる溶融樹脂MPの射出率Qは、射出スクリュ64を回転させるモータ66によって調整され、120〜200g/sに調整される。
【0050】
この射出率Qの値、120〜200g/sは実験的に求めたものである。実験結果である図10に示すように、射出率Qが小さすぎると成形性が悪くなる。すなわち、溶融樹脂MPが成形空間S全体に完全に充填される前に表皮材14が長時間加熱されて過剰に熱変形する。また、当然ながらサイクルタイムも長くなる。したがって、射出率Qは、120〜200g/sが好ましい。
【0051】
図11に示すように、溶融樹脂MPが成形空間Sに十分に充填されると、射出充填工程が完了する。次に、図12に示すように、保圧機構68により、成形空間S内の圧力が所定の圧力Pにされる(図4に示す保圧工程が開始される。)。
【0052】
所定の圧力Pは、実験の結果より50〜75MPaが好ましい。実験結果を示す図13の表に記載するように、50MPaより低すぎると、成形性が下がる。これは、成形空間S内の圧力Pが低いために、溶融樹脂MPが表皮材14を成形金型52に向かって十分に押圧できず、成形空間Sに対応した形状の樹脂成形品10が十分にできないためである。一方、所定の圧力が75MPaより高すぎるとバリが発生する。したがって、成形空間S内の所定の圧力Pは50〜75MPaが好ましい。
【0053】
保圧工程が完了すると、図4に示すように冷却工程が始まる。溶融樹脂MPが型温度T1で硬化するような材料である場合、時間の経過とともに成形空間S内の溶融樹脂MPは硬化する。そうでない場合、ヒータ54の出力が低下されまたは停止され成形空間S内の溶融樹脂MPは硬化される。
【0054】
冷却工程が完了すると、図4に示すように型開きが行われる。図14に示すように、型締め装置58により可動型52bが固定型52aから離反され型開きが完了する。これにより、樹脂成形品10の成形が完了する。
【0055】
以上、上述のように1つの実施形態を挙げて本発明を説明したが本発明は是に限定されない。
【0056】
例えば、本発明の改良形態として、樹脂シートの真空成形を利用した実施形態が考えられる。
【0057】
図15は、表皮材114を真空成形し、その表皮材を貼り付けた樹脂成形品を形成できる金型を示す図である。図において金型152は、意匠面側(型152b側)から見て部分的に凹部が形成される樹脂成形品を成形するためのもので、一方の型152bに凸部180を有し、他方の型152aの対応する部分に凹部182を有する。
【0058】
金型152を使用する成形においては、上述の実施形態とは異なり、意匠面側である型152bに表皮材114が真空吸引される。吸引機構190は型152bに設けられており、表皮材114を真空吸引するためのポンプ192と、ポンプ192と接続され型152bの成形面に表皮材114を真空吸着させるための吸引路194から構成される。
【0059】
吸引機構190によって表皮材114が型152bに真空吸着されると、表皮材114は、型152bに内蔵されたヒータ154により熱変形する。ヒータ154は、成形金型152bと当接している表皮材114が該表皮材114のガラス転移温度以上の温度になるように該成形金型152bを加熱している。これにより、表皮材114は、損傷やシワの発生がなく熱弾性変形する。そして、その後成形金型152が閉じられ、チャンネル160を介して溶融樹脂が射出充填され、最終的に、良好な意匠面を備えた表皮材114を有する樹脂成形品が成形される。
【0060】
本実施形態の利点は、通常、真空成形を行う場合には成形金型にセットする前に被成形対象を予め暖めて軟化させる軟化工程を必要とするが、本発明によれば、成形金型が被成形対象を暖めて軟化するので軟化工程が不要になる。また、真空成形を利用するため意匠面を複雑な形状にできる利点もある。
【0061】
また、上述の実施形態は、表皮材に覆われた形態の樹脂成形品を作製するものであったが、これに限定されない。例えば、図16に示すように、2つの金型252a、252bの一方に表皮材214を部分的に貼り付け、その後成形金型252を閉じて樹脂を充填すれば、部分的に表皮材214によって装飾された樹脂成形品が成形される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、樹脂成形品において、単純形状または複雑な凹凸形状の表面に、全体的にまたは部分的に意匠性を高めたい場合、特に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明によって成形される表皮材を備えた樹脂成形品の一例である。
【図2】表皮材の断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の成形装置である。
【図4】成形サイクルを説明するための図である。
【図5】プレス後の図3の成形装置を示している。
【図6】プレス速度と成形性、サイクルタイムとの関係を示す図である。
【図7】表皮材温度を説明するための図である。
【図8】表皮材温度と型温度の関係を示す図である。
【図9】溶融樹脂を射出充填中の図3の成形装置である。
【図10】射出率と成形性、サイクルタイムとの関係を示す図である。
【図11】溶融樹脂が略成形空間に充填された様子を示す図3の成形装置である。
【図12】成形空間を保圧している状態の図3の成形装置である。
【図13】保圧圧力と成形性、バリの発生との関係を示す図である。
【図14】型開き後の図3の成形装置である。
【図15】別の実施形態の成形を行うための金型を示す図である。
【図16】さらに別の実施形態の成形を行うための金型を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
14:表皮材
52:成形金型
52a:固定型
52b:可動型
T1:型温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面をなす印刷層を備えたシート状の熱可塑性樹脂の表皮材をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形方法であって、
固定型と可動型とでなる一対の成形金型の前記固定型と前記可動型との間に表皮材をセットする工程と、
表皮材セット後に、所定のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じるプレス工程と、
前記プレス工程後、表皮材の背面側の成形空間に熱可塑性の成形品基材樹脂を所定の射出率で射出する射出工程と、
前記射出工程によって充満された成形空間内の成形品基材樹脂に該成形品基材樹脂の射出装置により所定の圧力を加えて保持する保圧工程とを含み、
前記プレス工程中の表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように前記成形金型を所定の成形型温度に加熱保持することを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の成形型温度が、表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定のプレス速度が0.15mm/s以上30mm/s未満であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記請求項3に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定のプレス速度が0.3mm/s以上5mm/s未満であることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記請求項1から4までのいずれか1つに記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の圧力が50〜75MPaであることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
前記請求項5に記載の樹脂成形品の成形方法において、
前記所定の射出率が120〜200g/sであることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項7】
意匠面をなす印刷層を備えたシート状の熱可塑性樹脂の表皮材をインモールド成形法により成形品基材表面に貼り付け一体化してなる樹脂成形品の成形装置であって、
固定型と可動型とでなる一対の成形金型と、
前記成形金型を所定の成形型温度に加熱保持する金型加熱手段と、
表皮材の背面側の成形空間に熱可塑性の成形品基材樹脂を所定の射出率で射出する射出手段と、
前記射出手段によって充満された成形空間内の成形品基材樹脂に該成形品基材樹脂の射出装置により所定の圧力を加えて保持する保圧手段と、
前記固定型に対して前記可動型を所定のプレス速度で移動させて前記成形金型を閉じる可動型移動手段とを有し、
前記金型加熱手段が、前記可動型移動手段による前記可動型の型閉方向への移動中において、表皮材の温度が該表皮材のガラス転移温度より高くなるように成形金型を加熱保持することを特徴とする樹脂成形品の成形装置。
【請求項8】
前記請求項7に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記金型加熱手段が、表皮材のガラス転移温度より20〜40℃高い温度になるように前記成形金型を加熱保持することを特徴とする樹脂成形品の成形装置。
【請求項9】
前記請求項7または8に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記可動型移動手段が、前記固定型に向かって0.15mm/s以上30mm/s未満のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じることを特徴とする樹脂成形品の成形装置。
【請求項10】
前記請求項9に記載の樹脂成形品の成形装置において、
前記可動型移動手段が、前記固定型に向かって0.3mm/s以上5mm/s未満のプレス速度で前記可動型を移動させて前記成形金型を閉じることを特徴とする樹脂成形品の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−178982(P2008−178982A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12101(P2007−12101)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000114813)ヤマックス株式会社 (8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】