説明

樹脂成形物

【課題】 乳酸系樹脂をベース成分とする薄肉の樹脂成形物の難燃性を高める。
【解決手段】 乳酸系樹脂に金属水酸化物およびシリコーン化合物を配合することにより、UL94垂直燃焼試験(UL94V、UL94VTM)に基づくV−0規格、VTM−0規格を満足する平均厚みが50〜1000μmの樹脂成形物としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物原料樹脂をベース成分とする樹脂組成物から成形された難燃性を有する樹脂成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品あるいは樹脂成形材からなる樹脂成形物はあらゆる産業分野および日常生活分野で利用されており、全世界の年間生産量は約1億トンにも達している。その大半は使用後に廃棄されており、これが地球環境を乱す原因の一つとして認識されてきている。このような認識のもとで、廃棄後に地球環境を乱さない生分解性を有し、出発原料が植物に由来する植物原料プラスチックが注目されている。植物原料プラスチックは、非枯渇資源を利用し、プラスチック製造時における枯渇性資源の節約を図ることができるだけでなく、優れたリサイクル性を備えている。
【0003】
植物原料プラスチックの中でも、特に、乳酸系樹脂は澱粉の発酵により得られる乳酸を原料とし、化学工学的に量産可能でコストパフォーマンスが高いことより、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートやABSの代替材料として、家電、OA機器、自動車部品などの多種の分野において利用されつつある。
【0004】
家電、OA機器、自動車部品などの用途には火災防止のため難燃性が要求される。従来樹脂成形品の原料として汎用されているポリスチレン、ABS等は難燃性が比較的低いため、主としてハロゲン系、特に臭素系難燃剤が配合されている。
しかしながら、ハロゲン系難燃剤からは燃焼時にダイオキシン類のような有害ガスが発生する場合があり、廃棄物焼却処理やサーマルリサイクルの際の安全性には課題がある。ハロゲン代替難燃剤として、リン化合物が上げられるが、安全性や環境調和性が不十分で、更に成形性や耐熱性等の実用面に悪影響を与える場合がある。このため、非ハロゲン、非リン系難燃剤への代替化が進行しつつある。
そこで、分解時に有害ガスを発生することのない環境調和型難燃剤として、金属水酸化物が注目されている。
【0005】
生分解性プラスチック原料からなる成形品に難燃性を付与する手法として、従来、特開平8−252823号公報(特許文献1)で、生分解性プラスチック原料、具体的には脂肪族ポリエスエルよりなるペレットに水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムの粉末を30〜50重量%配合する製造方法が開示されている。この特許文献では、製造された試験片をJIS A1321に準拠して測定した結果、水酸化アルミニウムを30〜50重量%配合した場合には着火後に消え且つガーゼに着火しなかったことが報告されている。
【特許文献1】特開平8−252823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生分解性プラスチックに非ハロゲン、非リン系難燃剤である水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウムからなる金属水酸化物を配合した場合、前記特許文献1に記載のように、難燃性を付与することはできる。
しかしながら、本発明者が実験したところ、樹脂成形物の厚みが1000μm(1mm)を超える厚さの場合には、Under-writer Laboratory社の難燃性に関する安全基準UL94で決められた垂直燃焼試験におけるV−0、またはVTM−0規格を充足できる成形体を得ることはできたが、それ以下の厚みが1mmよりも薄い場合には、前記UL94の安全基準を満たすことは出来なかった。
具体的には、厚さ1mm以下のシートやフィルムでは、安全基準UL94の垂直燃焼試験において、燃焼時に燃焼物の滴下を生じ、UL94の垂直燃焼試験におけるV−0、またはVTM−0規格を満足する成形物は得られなかった。
【0007】
電機製品を始めとする産業用途において、各種部材を生分解性樹脂で形成して回収後の処理を容易にする要望はあるが、難燃性が前記JIS規格およびUL規格を満たすことも要求されている。
しかしながら、前記のように、厚さ1mm以下の成形物とした場合においても、UL94垂直燃焼試験においてV−0、またはVTM−0規格を満足する難燃性に優れた樹脂成形物は未だ得られていない。
【0008】
本発明は前記した問題に鑑みてなされたもので、生分解性を有する乳酸系樹脂から成形する厚さ1000μm以下のフィルム、シート、プレート等の樹脂成形物にUL規格を満たす難燃性を付与することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を行い、かつ、乳酸系樹脂に金属水酸化物を配合して難燃性を付与した成形物を肉厚1mm以下で成形し、前記垂直燃焼試験において燃焼時における燃焼物の滴下を生じさせないために、配合材を種々に変えて実験を繰り返した。
その結果、シリコーン化合物を配合することにより、乳酸系樹脂の分解を抑制し、よって、肉厚を1mm以下としても前記垂直燃焼試験で燃焼時における燃焼物の滴下を発生させないようにできることを知見した。
【0010】
前記知見に基づいて、本発明は、乳酸系樹脂(A)、金属水酸化物(B)および、シリコーン化合物(C)を成分とする樹脂組成物の成形物からなり、平均厚みが50〜1000μmとされている難燃性を有する樹脂成形物を提供している。
【0011】
前記樹脂成形物を構成する樹脂組成物の配合比は、乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、金属水酸化物(B)を50〜100質量部、シリコーン化合物(C)を0.1〜30質量部配合していることが好ましい。
前記配合とすることで、成形物の平均厚みが50〜1000μmとしても、燃焼時における燃焼物の滴下を抑制し、UL94垂直燃焼試験におけるV−0、または、VTM−0規格を満足する樹脂成形物とすることができる。
なお、樹脂成形物がフィルム、シートの場合は略均一な厚みを有するが、射出成形された立体形状のプレート等では最大肉厚部分が1000μmを超える部分が存在する場合もある。そのような場合でも、プレート全体の平均厚みが1000μm以下となる場合も含むものである。
【0012】
さらに、前記金属水酸化物(B)としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の各種金属水酸化物を用いることができるが、水酸化アルミニウムが最も好適に用いられる。これは、水酸化アルミニウムは他の金属水酸化物と比較してコスト面で優れ、また、より低温で高い吸熱反応を生じるため、乳酸系樹脂の難燃化に適した難燃剤となるためである。
【0013】
かつ、該金属水酸化物(B)はシランカップリング剤等により表面被膜を設ける表面処理を施して用いることが好ましい。このように、金属水酸化物に表面処理を施すことにより、乳酸系樹脂の分解を抑制できるだけでなく、金属水酸化物の分散性が向上し、難燃性をさらに向上させることができる。
【0014】
前記平均厚さ50〜1000μmのフィルム、シート、プレートからなる樹脂成形物の成形方法としては押出成形、射出成形等の各種の成形方法が採用される。
なお、フィルムはJIS K 6900における定義では「長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるもの」とされている。また、シートは「薄く、一般にその厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう」とされている。
このように、フィルムとシートの区別は明確でないため、本発明では、フィルムとは厚さ200μm未満、シートとは厚さ200以上500μm未満のものとして区別し、厚さ500mμm以上1000μm以下の二次元状或いは三次元状のものはプレートと称する。
平均厚さ200μm以下のフィルムは少なくとも一方向に延伸された状態とすることが好ましく、前記厚さは延伸後の厚さで規定している。
【0015】
本発明の樹脂成形物の難燃性の程度は、前記したUL垂直燃焼試験(UL94V、UL94VTM)に基づくV−0、VTM−0の規格を満たすものとしている。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明はさらに、乳酸系樹脂に難燃性付与材として水酸化アルミニウム等の金属水酸化物を配合すると共に、平均厚さ50〜1000μmの極薄肉としても燃焼時に滴下が発生させないシリコーン化合物を配合していることにより、難燃性安全基準のUL94V、UL94VTMのV−0、VTM−0の規格を満たす樹脂成形物をすることができる。したがって、生分解性を有するため使用後の廃棄時においても自然環境に悪影響を与えることがなく、しかも、この種の生分解性樹脂からなる樹脂成形物で従来得られなかった優れた難燃性を付与でき、産業用および日常品用としても広範に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の難燃性に優れた樹脂成形物は、乳酸系樹脂(A)、金属水酸化物(B)および、シリコーン化合物(C)を成分とする樹脂組成物の成形物からなり、該成形物の厚みが50〜1000μmとされている。
前記(A)の乳酸系樹脂、(B)の金属水酸化物、(C)のシリコーン化合物の配合比は、乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、金属水酸化物(B)を50〜100質量部、シリコーン化合物(C)を0.1〜30質量部配合している。
以下に前記(A)(B)(C)の各組成物について詳述する。
【0019】
(乳酸系樹脂)
本発明で用いる乳酸系樹脂とは、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方である共重合体のポリ(DL−乳酸)や、これらの混合体を含む。さらには、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
前記ポリ乳酸系樹脂のDL構成は、Lー乳酸:Dー乳酸=100:0〜90:10、もしくは、Lー乳酸:Dー乳酸=0:100〜10:90であることが好ましく、これは前記範囲外では、結晶性が低くなり、成形された部品の耐熱性が劣り、耐熱性を有する成形品の用途で制限される場合があることによる。より好ましくは、Lー乳酸:Dー乳酸=99.5:0.5〜94:6、もしくはLー乳酸:D−乳酸=0.5:99.5〜6:94である。
なお、異なったL−乳酸とD−乳酸の共重合比を有する複数の乳酸系樹脂を混合した場合には、複数の乳酸系樹脂のL体とD体の共重合比の平均値が前記入るように設定している。L体またはD体のホモポリマーと、共重合体を混合すると、ブリードが発生しにくくと耐熱性のバランスをとることができる。
本発明で好適に用いられるポリ乳酸系樹脂の代表的なものとしては、三井化学社製「レイシア」シリーズ、カーギル・ダウ社製「Nature Works」シリーズ等が挙げられる。
【0020】
ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0021】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、乳酸系樹脂の本質的な性質を損なわない範囲、すなわち、乳酸系樹脂成分を90wt%以上含有する範囲で、少量の共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。
さらに、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを配合してもよい。
【0022】
さらに、本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、乳酸および/または乳酸以外のαーヒドロキシルカルボン酸等の他のヒドロキシカルボン酸単位の共重合体であってもよい。さらに、脂肪族ジオール及び/または脂肪族ジカルボン酸との共重合体であってもよい。但し、ポリ乳酸成分は50質量%以上含むものとする。
【0023】
前記他のヒドロキシルカルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシn−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0024】
乳酸系樹脂に共重合される前記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。
前記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0025】
本発明で用いられるポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量が5万〜40万であり、これは5万未満であると実用物性がほとんど発現されず、40万を超えると溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣ることに因る。好ましくは10万〜25万の範囲である。
【0026】
(金属水酸化物)
本発明に用いられる前記金属水酸化物(B)としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物、酸化スズ水和物、プロゴバイトなどが挙げられる。この中でも、難燃効果、コストの面で水酸化アルミニウムを用いることが特に好ましい。
【0027】
前記金属水酸化物の平均粒径は0.1〜10μmの範囲の粒体とし、平均粒径を前記範囲としてポリ乳酸系樹脂と配合することで、成形物の機械強度の低下を抑制することが可能となる。前記平均粒径を0.1μm以上10μm以下としているのは、0.1μm未満は現在入手困難であり、かつ、分散性が劣化する傾向にある。一方、10μmを超えると成形性が悪くなると共に成形物の強度低下と滑り性が悪化する傾向がある。好ましくは平均粒径が0.5〜8μm、さらに1〜5μmの範囲が特に好ましい。なお、平均粒径はレーザー回折法により測定した値を指すものとする。
【0028】
さらに、前記金属水酸化物は、表面処理剤で被膜する表面処理を行うことが好ましい。該表面処理を行うことで金属水酸化物の分散性を高め、機械強度の低下抑制と難燃性の向上を図り、さらには、樹脂との混練時や射出成形体の成形時、および使用時における分子量の低下を抑制している。
表面処理剤としては、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤、チタン酸、脂肪酸などが挙げられ、特に、エポキシシランカップリング剤が好適に用いられる。
【0029】
金属水酸化物(B)はポリ乳酸系樹脂100質量部に対して50質量部以上100質量部以下の割合で配合している。前記範囲とすることで、耐衝撃性、成形性を損なうことなく乳酸系樹脂に難燃性を付与することができ、かつ、成形物がフィルム、シート等の場合には滑り性を損なうことがない。前記50質量部以上100質量部以下としているのは、50質量部未満であると所要の難燃性が得られず、100質量部を超えると成形性を損なうと共に、滑り性が悪化することとなる。より好ましくは、60〜80質量部の範囲である。
【0030】
前記難燃性を付与する金属水酸化物(B)に加えて難燃助剤を配合すると、さらに、難燃効率を向上させることができる。難燃助剤の具体的な例としては、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、硝酸鉄、硝酸銅、スルフォン酸金属塩などの金属化合物、赤リン、高分子量リン酸エステル、フォスファゼン化合物などのリン化合物、メラミンシアヌレートなどの窒素化合物、あるいは、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物等があげられる。
前記難燃助剤を配合する場合は、乳酸系樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部の割合で配合される。
【0031】

(シリコーン化合物)
本発明において必須成分としている(C)のシリコーン化合物としては、シロキサン単位からなるポリオルガノシロキサンがシリコーン化合物として好適に用いられる。具体的には、信越化学社製「KMP−590」が挙げられる。
このように、シリコーン化合物を配合することにより、燃焼時にシリコーン化合物がセラミックス構造を形成し、ポリ乳酸系樹脂の溶融によるドリップを抑制することができる。
【0032】
前記シリコーン化合物(C)は、ポリ乳酸系樹脂(A)100質量部に対して0.1〜30質量部で配合しており、該配合量とすると、成形される樹脂成形物の厚みが50〜1000μmと非常に薄い場合に、成形性を損ねることなく、顕著に前記燃焼時におけるポリ乳酸系樹脂の溶融による滴下を抑制できる作用を有する。
前記範囲は0.1質量部未満であると滴下を抑制できる効果がすくなく、UL垂直燃焼試験(UL94V、UL94VTM)に基づくV−0、VTM−0の規格品とならなず、一方、30質量部を超えると、成形体による耐熱性の低下および成形体表面のシリコーン化合物のブリードアウトによる塗装低下を生じやすい。より好ましく1〜15質量部、特に2〜10質量部配合することが最も好ましい。
【0033】
前記した必須成分(A)のベース成分となるポリ乳酸系樹脂、(B)の難燃性付与剤となる金属水酸化物、(C)の燃焼時における滴下を抑制するシリコーン化合物に加えて、成形物の耐加水分解性を付与し、耐久性を付与するためにカルボジイミド化合物を配合することが好ましい。
前記カルボジイミド化合物は、成形される樹脂組成物100質量部に対して0.1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部の割合で配合している。前記範囲としているのは、0.1質量部未満であると所要の耐久性を付与することが出来ない一方、10質量部を超えると、射出成形体の軟質化を生じ耐熱性が低下することに因る。
【0034】
前記カルボジイミド化合物としては、下記一般式の基本構造を有するものが挙げられる。
−(N=C=N−R−)n−
前記式において、nは1以上の整数を示す。Rはその他の有機系結合単位を示す。Rの部分は、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかでもよい。nは1〜50の間で適宜決められる。
【0035】
具体的には、例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、および、これらの単量体があげられる。該カルボジイミド化合物は、単独、または、2種以上組み合わせて用いられる。本発明で好適に用いられるカルボジイミド化合物は、芳香族カルボジイミド化合物である。脂肪族カルボジイミド化合物でも耐加水分解性付与効果は十分であるが、芳香族カルボジイミドの方がより効果的に耐加水分解性を付与することができる。
【0036】
さらに、本発明の難燃性を損なわない範囲で、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤などを添加してもよい。
【0037】
前記した樹脂組成物からなる樹脂成形物は、フィルム、シート、または、プレート等に成形される。なお、前記フィルム、シート、プレートは、本発明中において、平均厚み200μm未満のものをフィルム、平均厚み200μm以上500μm未満ものをシート、平均厚み500μm以上のものをプレートとして定義する。
前記フィルムとシートとは二次元の平坦材からなるが、前記プレートは500μm以上の平坦材の場合と三次元状の立体構造材となるものも含まれる。
【0038】
前記樹脂成形物の成形方法は、まず、乳酸系樹脂(A)、金属水酸化物(B)、シリコーン化合物(C)、さらに必要に応じて配合する他の添加剤を混合する。混合は押出成形機や射出成形機等の成形機に付設された原料投入口に投入し、混練しながら、あるいは押出口の直前で直接混合した後、射出成形金型あるいは押出成形金型等の成形機の金型内に直接押し出し、金型で所要形状に成形している。あるいは、予めドライブレンドした原料を二軸押出機を用いてストランド形状に押出してペレットを作成し、該ペレットを押出成形金型あるいは射出成形金型に押し出して前記フィルム、シート、または、プレートを成形している。
【0039】
いずれの方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためには後者を選択することが好ましい。
具体的には、乳酸系樹脂(A)、金属水酸化物(B)、シリコーン化合物(C)および他の添加剤を十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作成する。其の際、乳酸系樹脂はL−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比によって融点が変化すること、乳酸系樹脂とその他添加剤との混合の割合によって混合樹脂の粘度が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましい。実際には160〜230℃の温度範囲が通常選択される。
前記方法にて作成したペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、以下の方法で射出成形あるいは押出成形で、所要形状のシート、プレートを成形し、さらに、シートを延伸してフィルムを成形している。また、立体形状のプレートは射出成形あるいは、所要厚さで押出成形されたシートをプレス法やTダイキャスト法で所要の立体形状に成形してもよい。
【0040】
前記射出成形の方法は限定されないが、熱可塑性樹脂用の一般射出成形法、ガスアシスト成形法及び射出圧縮成形法等の射出成形法が用いられる。その他目的に合わせて、上記の方法以外でインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用する事もできる。
【0041】
フィルムは押出成形で得られたシートをフィルム延伸法により少なくとも一方向に延伸させて形成している。フィルム延伸法であれば任意の方法が採用され、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー法、インフレーション法が挙げられる。
【0042】
例えば、前記テンター法による延伸フィルムを成形する場合、組成物原料を、あらかじめ同方向2軸押出機、ニーダー、ヘンシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドし、あるいは各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入してもよい。
2軸延伸フィルムの製造では、必要に応じて赤外線ヒーターを併用しつつ、加熱ロールにフィルムを接触させロール間の周速差により縦延伸を行う工程と、レール上を稼動しているクリップによってフィルムを把持し、加熱炉に導いて延伸及び熱処理を行う工程とを有する逐次二軸延伸法、フィルムを把持したクリップが縦方向に加速されながら横方向にも拡がって、縦横同時にフィルムが延伸される同時二軸延伸法がある。
ポリ乳酸系樹脂フィルムの延伸条件としては、フィルムの破断や白化、ドローダウン等のトラブルの発生を防止するためには、フィルム温度を20〜140℃、延伸倍率を少なくとも1軸方向に1.5〜5.0倍の範囲に調整することが好ましい。
また、フィルムを加熱炉で一旦加熱して延伸した後、幅を固定して熱処理を行ってもよい。この熱処理条件は、135〜160℃で1秒〜5分の範囲でが好ましい。
本発明においては、ポリ乳酸系樹脂のD体とL体の比、他の配合成分の種類や配合量の選択、延伸工程及び熱処理工程における条件設定を適当に行うことにより、フィルムの縦横方向の加熱収縮率を両方とも10%以下にすることが好ましい。120℃×15分におけるフィルムの加熱収縮率を10%以下とすると、フィルムの耐熱性(熱寸法安定性)を維持でき、かつ、製品としての使用時におけるフィルムの収縮、波打ち、カール等の不具合の発生を抑制できる。
【0043】
本発明の樹脂成形物は前記構成とすることで、平均厚みが50〜1000μmのフィルム、シートおよびプレートは、UL垂直燃焼試験(UL94V、UL94VTM)に基づくV−0、VTM−0の規格品とすることができ、従来の乳酸系樹脂をベースとする樹脂成形物では奏しえなかった難燃性を付与している。
このように、難燃性の点で優れた特性を有するため、家電製品、自動車内装部品、建材用途、OA機器等の絶縁部材等に広範に使用することができる。
【0044】
以下に、実施例1〜9および比較例1〜3を示す。なお、本発明は前記要旨の範囲を超えないかぎり、実施例により何ら制限を受けるものではない。
【0045】
実施例1〜9および比較例1〜3の種類、配合割合および難燃性の評価結果を下記の表1、表2に示す。
(難燃性の評価方法)
長さ135mm×幅13mm×厚さ3mmの試験片を用いて、Underwriters
Laboratories社の安全標準UL94で規定された垂直燃焼試験の手順に基づき、n=5(サンプル数が5)にて燃焼試験を実施した。UL94垂直燃焼試験(UL94V、UL94VTM)の判定基準に基づき、V−0、VTM−0規格を満たすものを合格とした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(実施例1)
乳酸系樹脂(A)としてカーギル・ダウ社製のNature Works 4032D(Dー乳酸の割合:1.4%、重量平均分子量:20万)と、金属水酸化物(B)として日本軽金属社製エポキシシランカップリング処理BF013STで表面処理された水酸化アルミニウム、(平均粒径1μm、エポキシシランカップリング処理)と、シリコーン化合物(C)として信越化学社製「KMP−590」(シリコーン樹脂)を用いた。前記乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを50質量部、DC4−7081を3質量部配合したものをドライブレンドし、40mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)に供給し、200℃で溶融して混練した。混練後、口金から押出し、次いで、約43℃のキャスティングロールにて急冷し、400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して前記難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
実施例1に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STの配合量を75質量部に変えた以外は実施例1と同じにした。
即ち、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを75質量部と、前記KMP−590を3質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
実施例1に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STの配合量を100質量部に変えた以外は実施例1と同じにした。
即ち、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを100質量部、KMP−590を3質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
実施例1に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STの配合量を75質量部、KMP−590を1質量部に変えた以外は実施例1と同じにした。
即ち、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを75質量部、KMP−590を1質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
実施例1に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STの配合量を75質量部、KMP−590を10質量部に変えた以外は実施例1と同じにした。
即ち、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを75質量部、KMP−590を10質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0053】
(実施例6)
実施例1に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STの配合量を75質量部、KMP−590を25質量部に変えた以外は実施例1と同じにした。
即ち、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを75質量部、KMP−590を25質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0054】
(実施例7)
金属水酸化物として日本軽金属社製B103(水酸化アルミニウム、平均粒径8μm、表面処理未処理)を用いた。実施例1と同じ乳酸系樹脂100質量部に対して、B103を75質量部、KMP−590を3質量部配合したものをドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0055】
(実施例8)
実施例2で作製したシートを、長手方向に75℃で2倍にロール延伸、次いで、幅方向にテンターで85℃の温度で2倍に延伸し、平均厚さ100μmの延伸フィルムを作製した。得られたフィルムに関して難燃性(UL94VTM)の評価を行った結果を表1に示す。
【0056】
(実施例9)
実施例1と同じ乳酸系樹脂、金属水酸化物、シリコーン化合物を用い、乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを75質量部、DC4−7081を3質量部配合したものをドライブレンドした後、三菱重工製40mmφ小型同方向二軸押出機を用いて180℃でコンパウンドし、ペレットを得た。得られたペレットを東芝機械製射出成形機IS50E(スクリュー径25mm)を用い、長さLが200mm、幅Wが3mm×1mmのプレートを射出成形した。
射出成形条件は以下の通りである。
温度条件:シリンダー温度(195℃) 金型温度(20℃)
射出条件:射出圧力(115MPa) 保持圧力(55MPa)
計量条件:スクリュー回転数(65rpm) 背圧(15MPa)
得られたプレートに関して、難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
実施例1と同じ乳酸系樹脂(A)に対して、金属水酸化物(B)とシリコーン化合物(C)は配合せず、実施例1と同様の方法で、400μm厚の乳酸系樹脂シートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表2に示す。
【0058】
(比較例2)
実施例1と同じ乳酸系樹脂100質量部に対して、エポキシシランカップリング処理BF013STを100質量部配合したが、シリコーン化合物(C)は配合せず、ドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表2に示す。
【0059】
(比較例3)
実施例1と同じ乳酸系樹脂100質量部に対して、KMP−590を25質量部配合したが、金属水酸化物(B)は配合せず、ドライブレンドした後、実施例1と同様の方法で400μm厚のシートを作製した。得られたシートに関して難燃性(UL94V)の評価を行った結果を表1に示す。
【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜7の厚さ400μmシート、および、実施例9の厚さ1000μmのプレートはUL94垂直燃焼試験に基づく難燃性がV−0規格を満たした。実施例8の厚さ100μmのフィルムはUL94垂直燃焼試験(UL94VTM)に基づく難燃性がVTM−0規格を満たした。
よって、本発明の実施例1〜9の樹脂成形物は難燃性に優れ、厚さを100〜1000μmの極薄肉としたフィルム、シート、プレートとした場合において安全基準UL94に合格することが確認できた。
【0061】
一方、比較例1、2のシートはUL94垂直燃焼試験(UL94V)に基づく難燃性が規格外、比較例3のシートはV−2であった。よって、乳酸系樹脂に金属水酸化物あるいは/およびシリコーンを配合していない場合、平均厚さ1000μm以下、比較例では400μmの樹脂成形物は、難燃材料として幅広い分野に使用するには難燃性が不十分なものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係わる平均厚1000μm以下のフィルム、シートおよびプレートは安全基準のUL94Vで規定される安全基準の規格を満たすものであるため、家電、OA機器、自動車部品等の各種産業用途および食品、電子、医療、薬品、化粧品等の各種包装用フィルム、農業用フィルム、工業用保護フィルム、日常生活用品として広範に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)、金属水酸化物(B)および、シリコーン化合物(C)を成分とする樹脂組成物の成形物からなり、平均厚みが50〜1000μmとされている難燃性を有する樹脂成形物。
【請求項2】
前記乳酸系樹脂(A)100質量部に対して、金属水酸化物(B)を50〜100質量部、シリコーン化合物(C)を0.1〜30質量部配合してなる請求項1に記載の樹脂成形物。
【請求項3】
前記金属水酸化物(B)が、平均粒径が0.1μm以上10μm以下の粒状体からなり、その表面がシランカップリング剤、チタン酸あるいは脂肪酸で表面処理が施されている請求項1または請求項2に記載の樹脂成形物。
【請求項4】
前記金属水酸化物(B)が水酸化アルミニウムである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の樹脂成形物。
【請求項5】
安全基準UL94の垂直燃焼試験UL94V、UL94VTMに基づくV−0、VTM−0の規格品である請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の樹脂成形物。
【請求項6】
少なくとも一方向に延伸されて形成されている平均厚さ200μm未満のフィルム、平均厚さ200以上500μm未満のシート、平均厚さ500mμm以上1000μm以下の平板状プレートあるいは立体的プレートからなる請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の樹脂成形物。

【公開番号】特開2006−28257(P2006−28257A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206266(P2004−206266)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】