説明

樹脂注入成形方法

【課題】RTM成形の際に、樹脂の注入速度を下げずに基材の移動や成形品の表面のしわを防止することによって、成形品の品質を向上させることができる、樹脂注入成形方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る樹脂注入成形方法は、基材配置工程(ステップS1)と、可動型12と固定型11との間隔H1が、基材Pの大気中での見かけ厚さHpより小さく、かつ、予め設定された成形厚さHmより大きくなるまで、可動型12を固定型11に近接させ、固定型11と可動型12の間を気密状態にする、近接工程(ステップS2)と、減圧装置31で固定型11と可動型12の間を減圧する、減圧工程(ステップS3)と、樹脂注入装置41で固定型11と可動型12の間に樹脂を注入する、樹脂注入工程(ステップS4)と、可動型12と固定型11との間隔H1が、成形厚さHmとなるまで可動型12を近接させて成形品を成形する、成形工程(ステップS5)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂注入成形方法に関し、より詳しくは、レジントランスファーモールディング(Resin Transfer Molding、以下、RTMとする)成形方法における成形品の品質を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の構造部材や部品用として使用される繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、以下、FRPとする)等の樹脂製品を成形するために、RTM成形方法が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2)。RTM成形方法は、型内に強化繊維である基材を載置し、この型内に熱硬化性の樹脂を注入して前記基材に含浸させた後、加熱硬化させて複合成形材を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−323870号公報
【特許文献2】特開2005−271551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の技術によれば、密閉した型内に基材を配置した後に熱硬化性の樹脂を注入する構成としている。このため、樹脂の注入速度を速めるためには、樹脂の粘度を下げた上で注入圧を上げる必要があるが、これによって基材の配置が乱れたり、成形品の表面にしわが入ったりする場合があった。
【0005】
また、前記特許文献2に記載の技術によれば、開いている成形空間に基材と樹脂を投入し、型閉じに応じて樹脂を成形キャビティ内で基材の表面に展開させ、その後の型閉じによって樹脂を基材に含浸させる構成としている。しかし、型と基材との間に隙間があるために、樹脂を含んだ基材が型に押されて移動する場合があった。また、このような基材の移動によって樹脂が周辺に押し出され、樹脂を含んでいなかった基材の部分で繊維の乱れが発生することがあった。さらに、大気圧下で樹脂を注入する構成としている場合は、樹脂の染み込んだ基材の内部に気泡が入り込むことがあり、その後成形キャビティ内を負圧状態としても気泡を除去することが困難であった。
【0006】
そこで本発明は上記現状に鑑み、RTM成形の際に、樹脂の注入速度を下げずに基材の移動や成形品の表面のしわを防止することによって、成形品の品質を向上させることができる、樹脂注入成形方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、固定型と、前記固定型に対向して配設され、前記固定型に対して近接離間可能に構成される可動型と、前記固定型に対する前記可動型の位置を制御する制御装置と、前記固定型と前記可動型の間に基材を配置した状態で樹脂を注入する樹脂注入装置と、を備える樹脂注入成形装置で行われる樹脂注入成形方法であって、前記固定型に前記基材を配置する、基材配置工程と、前記基材配置工程の後に、前記可動型と前記固定型との間隔が、前記基材の大気中での見かけ厚さより小さく、かつ、予め設定された成型品の成形厚さより大きくなるまで、前記可動型を前記固定型に近接させる、近接工程と、前記近接工程の後に、前記樹脂注入装置で前記固定型と前記可動型の間に樹脂を注入する、樹脂注入工程と、前記樹脂注入工程の後に、前記可動型と前記固定型との間隔が、前記成形厚さとなるまで前記可動型を近接させて成形品を成形する、成形工程と、を備えるものである。
【0009】
請求項2においては、前記樹脂注入成形装置に、前記固定型と前記可動型の少なくとも何れか一方に配設され、前記可動型が前記固定型に近接する際に、前記可動型と前記固定型とが当接する以前に対向する前記可動型側又は前記固定型側に当接し、前記固定型と前記可動型の間の気密状態を保持するシール構造と、前記シール構造により前記固定型と前記可動型の間の気密状態が保持されている最中に、前記固定型と前記可動型の間を減圧する減圧装置と、を備え、前記近接工程では、前記可動型を前記固定型に近接させ、前記シール構造を前記可動型側又は前記固定型側に当接させることにより前記固定型と前記可動型の間を気密状態にし、前記近接工程の後で前記樹脂注入工程の前に、前記減圧装置で前記固定型と前記可動型の間を減圧する、減圧工程を備えるものである。
【0010】
請求項3においては、前記基材は繊維材にて構成され、前記基材の大気中での見かけ厚さが、予め設定された前記成形厚さの1.4倍以上であって、前記近接工程では、前記基材の、前記可動型と前記固定型との間に形成される空間に対する、繊維体積比率が35%以上になるまで、前記可動型を前記固定型に近接させるものである。
【0011】
請求項4においては、前記基材は繊維材にて構成され、前記基材の大気中での見かけ厚さが3.7mm〜4.1mmの範囲内であり、かつ、予め設定された前記成形厚さが2.5mm〜2.9mmの範囲内であって、前記近接工程では、前記基材の、前記可動型と前記固定型との間に形成される空間に対する、繊維体積比率が35%以上になるまで、前記可動型を前記固定型に近接させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
本発明により、RTM成形の際に、樹脂の注入速度を下げずに基材の移動や成形品の表面のしわを防止することによって、成形品の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る樹脂注入成形方法を行う樹脂注入成形装置を示した概略図。
【図2】本発明に係る樹脂注入成形方法のフローチャートついて示した図。
【図3】本発明に係る樹脂注入成形方法における基材配置工程について示した図。
【図4】同じく近接工程について示した図。
【図5】同じく減圧工程について示した図。
【図6】同じく樹脂注入工程について示した図。
【図7】同じく成形工程について示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0016】
[樹脂注入成形装置10]
まず始めに、本発明に係る樹脂注入成形方法を行う樹脂注入成形装置について、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、RTM成形を行う樹脂注入成形装置10は、金属製の固定型11と、前記固定型11に対向して配設され、前記固定型11に対して近接離間可能に構成される金属製の可動型12と、前記固定型11に対する前記可動型12の位置を制御する制御装置21とを備える。
【0017】
具体的には、前記固定型11及び前記可動型12はプレス機に配設されており、前記可動型12には電動シリンダ等で構成されるアクチュエータ22が連結され、該アクチュエータ22は制御装置21と電気的に接続されているのである。そして、前記アクチュエータ22は制御装置21から送られる制御信号に基づいて、前記可動型12を前記固定型11に対して近接離間させるように構成されているのである。即ち、前記制御装置21は、前記アクチュエータ22を介して前記可動型12を前記固定型11に対して近接離間するように平行移動させ、又は静止させることにより、前記固定型11に対する前記可動型12の位置を制御するのである。
【0018】
本実施形態においては図1に示す如く、前記固定型11及び前記可動型12は、周縁部が突出した平板状に形成されるとともに、突出した前記周縁部が互いに対向するように配設されている。そして、前記可動型12が前記固定型11に向かって接近し、図7に示す如くそれぞれの前記周縁部が当接した際に、固定型11と可動型12との間にキャビティが形成されるのである。
なお、前記固定型11及び前記可動型12の形状、即ち前記固定型11と可動型12とが当接したときに両者の間に形成される空間である前記キャビティの形状は、樹脂注入成形方法で成形する成形品の形状に対応して形成することが可能であり、本実施形態の形状に限定されるものではない。
【0019】
また、樹脂注入成形装置10は、前記可動型12に配設されて、前記可動型12が前記固定型11に近接する際に前記可動型12と前記固定型11とが当接するよりも以前に前記固定型11に当接し、前記固定型11と前記可動型12の間の気密状態を保持するシール構造として、シール部材15を備える。
【0020】
具体的には、合成樹脂等の弾性素材で形成された環状のシール部材15が、前記可動型12の周縁部に沿って、前記固定型11の側に突出して配設されているのである。そして、図4に示す如く、前記可動型12が前記固定型11に近接する際は、前記可動型12と前記固定型11とが当接するよりも以前に前記シール部材15が前記固定型11の周縁部に当接するのである。このように構成されたシール構造により、前記可動型12が前記固定型11に当接する以前であっても、前記固定型11と前記可動型12の間の気密状態を保持することが可能となるのである。なお、前記シール部材15は前記固定型11に、又は、前記可動型12と前記固定型11の双方に配設される構成でもよく、即ち、前記可動型12と前記固定型11の少なくとも何れか一方に配設される構成であればよい。
【0021】
また、樹脂注入成形装置10は、前記シール部材15により前記固定型11と前記可動型12の間の気密状態が保持されている最中に、前記固定型11と前記可動型12の間を減圧する減圧装置31を備える。
【0022】
具体的には、前記可動型12には吸入口部17が配設されており、該吸入口部17は吸引ポンプ等で構成される減圧装置31に連通されているのである。そして、図5に示す如く前記シール部材15が前記固定型11の周縁部に当接し、前記固定型11と前記可動型12の間の気密状態が保持されている最中に、前記減圧装置31が前記固定型11と前記可動型12の間の空気を吸引することにより、前記固定型11と前記可動型12の間を減圧するのである。
【0023】
また、樹脂注入成形装置10は、前記固定型11と前記可動型12の間に樹脂を注入する樹脂注入装置41を備える。
【0024】
具体的には、前記可動型12にはバルブ19を備える樹脂注入口部18が配設されており、該樹脂注入口部18は熱硬化性の樹脂が充填された混合注入機である樹脂注入装置41に連通されている。前記樹脂は、例えばエポキシ樹脂であり、注入が行われる以前に真空脱泡されている。そして、前記固定型11と前記可動型12の間が減圧された後にバルブ19を開き、図6に示す如く樹脂注入装置41から前記固定型11と前記可動型12の間に樹脂が注入されるように構成されているのである。
前記樹脂注入成形装置10においては、FRP等の複合成形材にて構成される樹脂製品を成形する場合は、後述するよう前記固定型11と前記可動型12の間(型内)に繊維材などにて構成される基材Pを載置した状態で、この型内への樹脂の注入が行われる。
なお、前記可動型12と前記固定型11の何れか一方に、樹脂排出口を開口し、余分な樹脂を樹脂排出口から排出する構成にすることも可能である。
【0025】
[樹脂注入成形方法]
上記の如く構成された樹脂注入成形装置10で行われる樹脂注入成形方法について、図2から図7を用いて説明する。なお、図3以降については、前記制御装置21、アクチュエータ22、減圧装置31、及び樹脂注入装置41は図示を省略する。
本発明に係る樹脂注入成形方法は図2に示す如く、前記固定型11に基材Pを配置する、基材配置工程(ステップS1)と、前記基材配置工程の後に、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が、前記基材Pの大気中での見かけ厚さHpより小さく、かつ、予め設定された成形厚さHmより大きくなるまで、前記可動型12を前記固定型11に近接させ、前記固定型11と前記可動型12の間を気密状態にする、近接工程(ステップS2)と、前記近接工程の後に、前記減圧装置31で前記固定型11と前記可動型12の間を減圧する、減圧工程(ステップS3)と、前記減圧工程の後に、前記樹脂注入装置41で前記固定型11と前記可動型12の間に樹脂を注入する、樹脂注入工程(ステップS4)と、前記樹脂注入工程の後に、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が、前記成形厚さHmとなるまで前記可動型12を近接させて成形品を成形する、成形工程(ステップS5)と、を備える。
【0026】
上記の樹脂注入成形方法について、各ステップについて詳細に説明する。
本発明に係る樹脂注入成形方法においてはまず、図3に示す如く、固定型11において前記キャビティを形成する部分に基材Pを配置する(基材配置工程・ステップS1)。前記基材Pは成形品であるFRP等の強化材として機能する、高強度・高弾性率繊維(例えば直交2軸布の高強度炭素繊維)の集合体であり、その内部の空隙部分に熱硬化性の樹脂が含浸するように形成されている。
【0027】
また、前記基材Pは上記の如く繊維の集合体であるため、図3中に示す大気中での見かけ厚さHpは、予め設定されている成形厚さHm(図7参照)よりも大きい。換言すれば前記基材Pは、後述するように前記固定型11と前記可動型12とに押し挟まれることにより、大気中での見かけ厚さHpから前記可動型12の近接方向に厚みが縮められて、最終的には予め設定されている成形厚さHmとなるように成形が行われるのである。
【0028】
次に、図4に示す如く、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が、前記基材Pの大気中での見かけ厚さHpより小さく、かつ、予め設定された成形厚さHmより大きくなるまで、前記可動型12を前記固定型11に近接させる(近接工程・ステップS2)。即ち、前記制御装置21で、前記固定型11に対する前記可動型12の位置を制御し、前記可動型12を図4中矢印Aの方向に平行移動させ、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が上記の範囲となる位置で静止させるのである。ここで、前記間隔H1は前記見かけ厚さHpよりも小さいため、前記可動型12が前記基材Pに当接する。即ち、前記基材Pは前記固定型11と前記可動型12とに押し挟まれて、大気中での見かけ厚さHpから前記可動型12の近接方向に厚みが縮められて、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1と同じ幅となるのである。
またこの際には、図4に示す如く、前記シール部材15が前記固定型11の周縁部に当接するため、前記固定型11と前記可動型12の間が気密状態となるのである。
【0029】
なお、後述する本願出願人の実験結果に示す如く、前記基材Pの大気中での見かけ厚さが3.7mm〜4.1mmの範囲内であり、かつ、予め設定された成形厚さが2.5mm〜2.9mmの範囲内である場合は、本工程において、前記基材Pの前記可動型12と前記固定型11との間に形成される空間に対する繊維体積比率が35%以上になるまで、前記可動型12を前記固定型11に近接させることが望ましい。ただし、前記基材Pの種類や成形品の大きさによっては、最適な前記繊維体積比率は異なる。
また、上記の場合において、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が、予め設定された成形厚さHmとなったときの前記繊維体積比率は55%程度であるため、本工程において、繊維体積比率が55%程度にまで前記可動型12を前記固定型11に近接させるのは望ましくない。
【0030】
次に、図5に示す如く、前記減圧装置31で前記固定型11と前記可動型12の間を減圧する(減圧工程・ステップS3)。即ち、前記固定型11と前記可動型12の間の空気を、前記減圧装置31で前記吸入口部17から図5中矢印Bの方向に吸引するのである。この際、前記の如く前記シール部材15により前記固定型11と前記可動型12の間は気密状態となっているため、前記固定型11と前記可動型12の間は略真空状態となる。
【0031】
次に、図6に示す如く、前記樹脂注入装置41で前記固定型11と前記可動型12の間に樹脂を注入する(樹脂注入工程・ステップS4)。即ち、前記の如く、樹脂注入口部18に備えられたバルブ19を開くことにより、樹脂注入装置41に充填された熱硬化性の樹脂が前記固定型11と前記可動型12の間に、即ち図6中矢印Cの方向に注入されるのである。ここで、前記樹脂及び前記固定型11、前記可動型12は、樹脂が基材Pの周囲及び内部を流動できる程度に温度設定されている。
【0032】
図6及び図7においては、基材Pのうち、濃く網掛けをした部分は樹脂が含浸した部分を、濃く網掛けをしていない部分は樹脂が含浸していない部分を示す。
本実施形態においては、前記の如く前記固定型11と前記可動型12の間は略真空状態となっているため、前記樹脂は負圧により前記固定型11と前記可動型12の間に吸引される。さらに、樹脂の注入時には、前記基材Pの厚みは前記可動型12と前記固定型11との間隔H1であって成形厚さHmよりも大きく、前記基材Pの繊維密度が成形後よりも低いため、樹脂の流動抵抗を低下させることができ、樹脂を素早く前記固定型11と前記可動型12の間に注入することが可能となるのである。
また、前記固定型11と前記可動型12の間は略真空状態となっているため、樹脂の染み込んだ基材Pの内部に気泡が入り込むことがないのである。
【0033】
さらに、前記の如く、基材Pは前記固定型11と前記可動型12とに押し挟まれ、前記可動型12の近接方向に幅が縮められて配設されている。即ち、前記基材Pと前記固定型11及び前記可動型12との間には摩擦力が作用し、前記基材Pは前記可動型12の近接方向に直交する方向への自由度が規制されているのである。このため、本実施形態の如く樹脂が素早く注入された場合でも、基材Pが移動したり、配置が乱れたりするのを防ぐことができるのである。
【0034】
次に、図7に示す如く、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1が、前記成形厚さHmとなるまで前記可動型12を近接させて成形品を成形する(成形工程・ステップS5)。即ち、前記可動型12の図7中矢印Dの方向への近接によって、基材Pが圧縮されるのと同時に、前記樹脂が前記固定型11と前記可動型12との間に形成されるキャビティ内に全体的かつ均一に広げられるのである。
この際、前記樹脂注入工程において既に樹脂が基材Pの広い部分に広がっているため、キャビティ内に全体的に広げるための流動抵抗を小さくすることができる。また、大きな流動抵抗によって基材Pが押されることがないため、成形品におけるしわの発生を防ぐことが可能となるのである。
その後、図示しない過熱装置で樹脂注入成形装置10の温度を上昇させ、又は、そのままの温度で、樹脂を硬化させた上で前記可動型12を前記固定型11から離間させ、成形品を取り出すのである。
【0035】
本発明に係る樹脂注入成形方法によれば、以上のように構成することにより、RTM成形の際に樹脂の注入速度を下げずに基材Pの移動や成形品の表面のしわを防止することによって、成形品の品質を向上させることができる。
【0036】
具体的には、基材Pは前記固定型11と前記可動型12とに押し挟まれ、前記基材Pは前記可動型12の近接方向に直交する方向への自由度が規制されていることにより、本実施形態の如く樹脂が素早く注入された場合でも、基材Pが移動したり、配置が乱れたりするのを防ぐことができるのである。
【0037】
また、樹脂注入工程の最中に樹脂を基材Pの広い部分に広げることができるため、キャビティ内に全体的に広げるための流動抵抗を小さくすることができ、基材Pにおける繊維の乱れや成形品におけるしわの発生を防ぐことが可能となるのである。
【0038】
なお、前記樹脂注入工程においては、前記樹脂注入装置41を射出機で構成し、該射出機で樹脂を射出することにより、前記樹脂を前記固定型11と前記可動型12の間に樹脂を注入する構成にすることも可能である。この場合にあっては、前記固定型11と前記可動型12の間が略真空状態となっていなくても、樹脂を前記固定型11と前記可動型12の間に注入することができるのである。
【0039】
加えて、樹脂注入工程において前記固定型11と前記可動型12の間を略真空状態にし、さらに前記基材Pの幅を前記可動型12と前記固定型11との間隔H1として成形厚さHmよりも大きくした場合は、樹脂を素早く前記固定型11と前記可動型12の間に注入することができるとともに、樹脂の染み込んだ基材Pの内部に気泡が入り込むのを防ぐことができるのである。
また、樹脂が基材Pに含浸しやすい構成としているため、樹脂を含浸しやすくするために樹脂注入口の数を増やす必要がないのである。
【0040】
[実験結果]
次に、本発明に係る樹脂注入成形方法について、本願出願人が行った実験結果について説明する。
本実験では、上記の樹脂注入成形方法において、前記基材Pの大気中での見かけ厚さHpが3.9mm、予め設定された成形厚さHmが2.7mmの実験対象(即ち、基材Pの大気中での見かけ厚さHpが成形厚さHmの1.4倍以上である実験対象)について、前記可動型12と前記固定型11との間隔H1を3.8mmとした場合(前記基材Pの、前記可動型12と前記固定型11との間に形成される空間に対する、繊維体積比率は約35%)と、同じく間隔H1を4.5mmとした場合(同じく繊維体積比率は約25%)について、それぞれ同じ手順及び条件で実験を行った。
【0041】
その結果、前記間隔H1を3.8mmとした場合は、成形品の表面にしわが発生しなかったのに対し、前記間隔H1を4.5mmとした場合は、成形品の表面にしわが発生した。
即ち、近接工程において、可動型12と固定型11との間隔H1が、基材Pの大気中での見かけ厚さHp=3.9mmより小さく、かつ、予め設定された成形厚さHm=2.7mmより大きいH1=3.8mmとなるまで(繊維体積比率が約35%となるまで)、可動型12を固定型11に近接させ、固定型11と可動型12の間に樹脂を注入した結果、成形品の表面のしわを防止することができ、成形品の品質を向上させることに成功したのである。
換言すれば、本発明に係る樹脂注入成形方法を実施することにより、RTM成形の際に樹脂の注入速度を下げずに基材Pの移動や成形品の表面のしわを防止することによって、成形品の品質が向上することが確認できたのである。
【符号の説明】
【0042】
10 樹脂注入成形装置
11 固定型
12 可動型
15 シール部材
21 制御装置
31 減圧装置
41 樹脂注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と、
前記固定型に対向して配設され、前記固定型に対して近接離間可能に構成される可動型と、
前記固定型に対する前記可動型の位置を制御する制御装置と、
前記固定型と前記可動型の間に基材を配置した状態で樹脂を注入する樹脂注入装置と、を備える樹脂注入成形装置で行われる樹脂注入成形方法であって、
前記固定型に前記基材を配置する、基材配置工程と、
前記基材配置工程の後に、前記可動型と前記固定型との間隔が、前記基材の大気中での見かけ厚さより小さく、かつ、予め設定された成型品の成形厚さより大きくなるまで、前記可動型を前記固定型に近接させる、近接工程と、
前記近接工程の後に、前記樹脂注入装置で前記固定型と前記可動型の間に樹脂を注入する、樹脂注入工程と、
前記樹脂注入工程の後に、前記可動型と前記固定型との間隔が、前記成形厚さとなるまで前記可動型を近接させて成形品を成形する、成形工程と、を備える、
ことを特徴とする、樹脂注入成形方法。
【請求項2】
前記樹脂注入成形装置に、
前記固定型と前記可動型の少なくとも何れか一方に配設され、前記可動型が前記固定型に近接する際に、前記可動型と前記固定型とが当接する以前に対向する前記可動型側又は前記固定型側に当接し、前記固定型と前記可動型の間の気密状態を保持するシール構造と、
前記シール構造により前記固定型と前記可動型の間の気密状態が保持されている最中に、前記固定型と前記可動型の間を減圧する減圧装置と、を備え、
前記近接工程では、前記可動型を前記固定型に近接させ、前記シール構造を前記可動型側又は前記固定型側に当接させることにより前記固定型と前記可動型の間を気密状態にし、
前記近接工程の後で前記樹脂注入工程の前に、前記減圧装置で前記固定型と前記可動型の間を減圧する、減圧工程を備える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の樹脂注入成形方法。
【請求項3】
前記基材は繊維材にて構成され、
前記基材の大気中での見かけ厚さが、予め設定された前記成形厚さの1.4倍以上であって、
前記近接工程では、前記基材の、前記可動型と前記固定型との間に形成される空間に対する、繊維体積比率が35%以上になるまで、前記可動型を前記固定型に近接させる、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の樹脂注入成形方法。
【請求項4】
前記基材は繊維材にて構成され、
前記基材の大気中での見かけ厚さが3.7mm〜4.1mmの範囲内であり、かつ、予め設定された前記成形厚さが2.5mm〜2.9mmの範囲内であって、
前記近接工程では、前記基材の、前記可動型と前記固定型との間に形成される空間に対する、繊維体積比率が35%以上になるまで、前記可動型を前記固定型に近接させる、
ことを特徴とする、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の樹脂注入成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−221642(P2010−221642A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73983(P2009−73983)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】