樹脂溶着方法
【課題】 溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することができる樹脂溶着方法を提供する。
【解決手段】 中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。
【解決手段】 中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材同士を溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来の樹脂溶着方法として、一方の樹脂部材と他方の樹脂部材とを溶着するための溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射して、溶着予定領域において一方の樹脂部材及び他方の樹脂部材を溶融させることにより、樹脂部材同士を溶着する方法が知られている。
【0003】
ところで、レーザ光に対して吸収性を有する樹脂部材においては、図15に示されるように、樹脂部材のレーザ光入射面でレーザ光の吸収光量が最も多くなり、レーザ光入射面からの距離が大きくなるに従って(すなわち、樹脂部材の内部に行くに従って)レーザ光の吸収光量が徐々に少なくなる。そのため、レーザ光に対して吸収性を有する樹脂部材同士を突き合わせて溶着する場合などには、レーザ光入射面及びその近傍の内部領域におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷(気泡、白濁、焼損等)が生じることがある。
【0004】
そのような損傷を防止するための樹脂溶着方法として、特許文献1には、樹脂部材のレーザ光入射面に冷媒を供給しつつレーザ光の照射を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−88355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の樹脂溶着方法にあっては、樹脂部材のレーザ光入射面における損傷の発生は防止し得るものの、レーザ光入射面近傍の内部領域における損傷の発生までを防止することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することができる樹脂溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る樹脂溶着方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、溶着予定領域の一部分が照射領域であり、且つ光軸に対して垂直な断面形状が少なくとも溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することにより、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする。
【0009】
この樹脂溶着方法においては、中心線を有する環形状の溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射する。これにより、溶着予定領域の一部分に対してレーザ光が断続的に照射されることになるので、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度(損傷(気泡、白濁、焼損等)が生じる温度)を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸に対して垂直なレーザ光の断面形状が溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるため、溶着予定領域のレーザ光入射側端部及びその近傍におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。よって、この樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0010】
また、溶着予定領域の一部分における温度プロファイルのピーク値が、第1の樹脂部材の溶融温度及び第2の樹脂部材の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、第1の樹脂部材の分解温度及び第2の樹脂部材の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、レーザ光に対して溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。このような制御により、溶着予定領域において樹脂部材に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域において樹脂部材を十分に溶融させることができる。なお、温度プロファイルのピーク値とは、時間(横軸)と温度(縦軸)との関係を示すグラフの極大値を意味する。
【0011】
また、溶着予定領域おいてレーザ光が収束するようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。この場合、光吸収によって減衰する光密度が補われて、溶着予定領域のレーザ光入射側からその反対側に至る溶着予定領域の全領域で樹脂部材を十分に溶融させることができる。
【0012】
或いは、溶着予定領域おいてレーザ光が発散するようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。この場合、樹脂部材が入熱過多の状態になるのを抑制して、溶着予定領域の全領域で樹脂部材を適度に溶融させることができる。
【0013】
また、少なくともレーザ光入射側端部においてレーザ光の照射領域が第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを跨ぐようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。樹脂部材同士の突合せ部にはレーザ光入射側に段差や隙間等が生じていることが多く、これらの段差や隙間等がレーザ光を散乱させるなどして入熱過多による損傷を生じさせる原因となり易いものの、溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状のレーザ光を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とに跨らせることで、段差や隙間等に対するレーザ光の照射量が少なくなり、その結果、段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。
【0014】
また、溶着予定領域に対してレーザ光入射側とその反対側(レーザ光出射側)との間においてレーザ光の照射領域を相対的に移動させる場合には、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光の照射領域を相対的に移動させることが好ましい。樹脂部材が溶融すると、溶融部分では、散乱因子の減少によりレーザ光の拡散透過率が上昇するため、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光の照射領域を相対的に移動させることで、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光を到達させ、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができる。
【0015】
また、溶着予定領域に冷却ガスを吹き付けながらレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。或いは、レーザ光を透過する熱伝導体を溶着予定領域に対してレーザ光入射側に配置し、熱伝導体をヒートシンクとしてレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。これらの場合、冷却ガス又はヒートシンクである熱伝導体が樹脂部材のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域のレーザ光入射側端部及びその近傍におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
【0016】
本発明に係る樹脂溶着方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することにより、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする。
【0017】
この樹脂溶着方法においては、中心線を有する環形状の溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射する。これにより、溶着予定領域の一部分に対してレーザ光が断続的に照射されることになるので、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。よって、この樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。
【図2】図1の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。
【図3】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態を説明するための斜視図である。
【図4】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態を説明するための断面図である。
【図5】溶着予定領域の一部分における温度プロファイルを示すグラフである。
【図6】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。
【図7】レーザ光に対する溶着予定領域の回転に伴って溶融部分が進行する様子を示す断面図である。
【図8】樹脂部材同士の突合せ部の拡大断面図である。
【図9】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。
【図10】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態を説明するための斜視図である。
【図11】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態を説明するための断面図である。
【図12】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。
【図13】本発明に係る樹脂溶着方法の他の実施形態を説明するための断面図である。
【図14】本発明に係る樹脂溶着方法の他の実施形態を説明するための断面図である。
【図15】樹脂部材のレーザ光入射面からの距離とレーザ光の吸収光量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0021】
図1は、本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。図1に示されるように、集光光学系1は、レーザ光Lの光源LS側から順に、コリメート用レンズ2、集光用レンズ3及び円錐凹状のアキシコンレンズ4が光軸OA上に配置されて構成されている。この集光光学系1をレーザ光Lが通過すると、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で円環形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で中実円形状となる。
【0022】
図2は、図1の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。図2に示されるように、レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達前において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなっている。なお、図2の光強度プロファイルは、光軸OA及びレーザ光Lの進行方向と直交する方向にレーザ光Lの光強度を積分した場合である。
【0023】
以上のように構成された集光光学系1を用いた樹脂溶着方法について説明する。まず、図3及び4に示されるように、円筒状の樹脂部材(第1の樹脂部材)5及び樹脂部材(第2の樹脂部材)6(サイズ:外径60mm、厚さ(壁厚)4mmの円筒状、材料:旭化成ケミカルズ株式会社製66ナイロン レオナ(登録商標)14G33)を準備し、中心線CLを略一致させて、樹脂部材5の底面5aと樹脂部材6の底面6aとを突き合わせる。この状態で、樹脂部材5,6同士の突合せ部(ここでは、底面5a,6a)に沿って、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rを設定する。なお、樹脂部材5,6は、レーザ光Lに対して半吸収性を有している(オリヱント化学工業株式会社製のeBIND(登録商標) ACW(登録商標)-9871という色素を用いて吸光度0.2となるように着色した樹脂部材を使用した)。
【0024】
続いて、突き合わされた状態を保持しながら樹脂部材5,6を中心線CL回りに回転させる。そして、光軸OAが中心線CLと略直交し、且つ光軸OAが樹脂部材5,6同士の突合せ部を通る状態で、樹脂部材5の内部(内周面5bと外周面5cとの間の部分)及び樹脂部材6の内部(内周面6bと外周面6cとの間の部分)に集光スポットFSを合わせてレーザ光Lを照射すると共に、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分に、空気や窒素等の冷却ガスGを吹き付ける。これにより、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rが中心線CL回りに複数回回転させられながら、レーザ光Lが溶着予定領域Rに照射されることになる。その結果、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6が溶融・再固化し、溶着予定領域Rに沿って樹脂部材5,6同士が溶着されて樹脂溶着体が製造される。なお、冷却ガスGの吹付け方向は、溶着予定領域Rに対して平行でも垂直でもよいし、或いはレーザ光Lの光軸OAと同軸方向でもよい。
【0025】
ここで、レーザ光Lの照射に際しては、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて収束している。そして、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、溶着予定領域Rにおいて円環形状であり、その環状レーザ光の中抜け部(中心の非照射領域)は、レーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6との境界を跨いでいる。つまり、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいる(換言すれば、樹脂部材5と樹脂部材6とに掛け渡されている)。なお、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を溶融させ得るエネルギ密度を有している。
【0026】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するに際しては、次のように回転速度やレーザ光Lの強度を制御する。すなわち、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるようにする。
【0027】
図5は、溶着予定領域の一部分における温度プロファイルを示すグラフである。図5に示されるように、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5,6の溶融温度(200℃)と樹脂部材5,6の分解温度(300℃)との間に複数現れるのは、レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が50rpmの場合及び100rpmの場合である。
【0028】
レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が5rpmの場合、10rpmの場合及び20rpmの場合には、溶着予定領域Rの一部分にレーザ光Lが照射される1回当たりの時間が相対的に長くなるため、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材5,6の分解温度(300℃)を越えるような急激な温度上昇が生じてしまう。これに対し、レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が50rpmの場合及び100rpmの場合には、溶着予定領域Rの一部分にレーザ光Lが照射される1回当たりの時間が相対的に短くなるため、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材5,6の分解温度(300℃)を越えるような急激な温度上昇が生じない。従って、樹脂部材5,6の溶融温度(200℃)と樹脂部材5,6の分解温度(300℃)との間の温度を長く維持して、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。
【0029】
以上説明したように、集光光学系1を用いた樹脂溶着方法においては、図4に示されるように、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。集光光学系1を用いた樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0030】
図6は、本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。図6に示されるように、溶着予定領域Rにおいては、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍に入熱過多による損傷が生じることなく、樹脂部材5と樹脂部材6とが溶融痕11部分で確実に溶着されている。
【0031】
また、溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。このような制御により、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。その結果、溶融した樹脂の混ざり合いが促進されるので、溶融した樹脂が再固化した際には、強固な溶着が実現される。
【0032】
図7は、レーザ光に対する溶着予定領域の回転に伴って溶融部分が進行する様子を示す断面図である。図7に示されるように、樹脂部材5,6が結晶性樹脂からなる場合には、光散乱によってレーザ光Lが内部に到達し難いものの、樹脂部材5,6が溶融すると、溶融部分12では、散乱因子の減少によりレーザ光Lの拡散透過率が上昇する。そのため、溶着予定領域Rにレーザ光Lが照射される度に、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光Lが到達して溶融部分12が進行することになる。従って、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができる。
【0033】
また、溶着予定領域Rおいてレーザ光Lが収束するようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するので、光吸収によって減衰する光密度が補われて、溶着予定領域Rのレーザ光入射側からその反対側に至る全領域で樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。しかも、損傷が生じ易い溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において、レーザ光Lのエネルギ密度を抑えることができる。
【0034】
また、レーザ光入射側端部R1においてレーザ光Lの照射領域が樹脂部材5と樹脂部材6とを跨ぐようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するため、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に対するレーザ光Lの照射量が少なくなり、その結果、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。図8は、樹脂部材同士の突合せ部の拡大断面図である。図8に示されるように、樹脂部材5,6の成形精度がそれ程高くないことに起因して、樹脂部材5,6同士の突合せ部にはレーザ光入射側に段差や隙間等が生じていることが多く、これらの段差や隙間等がレーザ光Lを散乱させるなどして入熱過多による損傷を生じさせる原因となり易い。従って、レーザ光Lが溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6とを跨ぐようにレーザ光Lの照射を行う樹脂溶着方法は、樹脂部材5,6同士を突き合わせその突合せ部に沿って溶着予定領域Rを設定した場合に特に有効である。
【0035】
また、溶着予定領域Rに冷却ガスGを吹き付けながらレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、冷却ガスGが樹脂部材5,6のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
[第2の実施形態]
【0036】
図9は、本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。図9に示されるように、集光光学系10は、レーザ光Lの光源LS側から順に、コリメート用レンズ2、集光用レンズ3及び円錐凸状のアキシコンレンズ7が光軸OA上に配置されて構成されている。この集光光学系10をレーザ光Lが通過すると、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で中実円形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で円環形状となる。レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達後において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなっている(図2参照)。
【0037】
以上のように構成された集光光学系10を用いた樹脂溶着方法について説明する。まず、図10及び11に示されるように、円筒状の樹脂部材5,6(サイズ:外径60mm、厚さ(壁厚)4mmの円筒状、材料:旭化成ケミカルズ株式会社製66ナイロン レオナ(登録商標)14G33)を準備し、中心線CLを略一致させて、樹脂部材5の底面5aと樹脂部材6の底面6aとを突き合わせる。この状態で、レーザ光Lに対して透過性を有する材料(例えば、ガラス等)からなる熱伝導体8で樹脂部材5の外周面5c及び樹脂部材6の外周面6cを覆い、樹脂部材5,6同士の突合せ部(ここでは、底面5a,6a)に沿って、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rを設定する。なお、樹脂部材5,6は、レーザ光Lに対して半吸収性を有している(オリヱント化学工業株式会社製のeBIND(登録商標) ACW(登録商標)-9871という色素を用いて吸光度0.2となるように着色した樹脂部材を使用した)。
【0038】
続いて、突き合わされた状態を保持しながら樹脂部材5,6及び熱伝導体8を中心線CL回りに回転させる。そして、光軸OAが中心線CLと略直交し、且つ光軸OAが樹脂部材5,6同士の突合せ部を通る状態で、樹脂部材5の外周面5c及び樹脂部材6の外周面6cよりも外側(レーザ光Lの進行方向の後側)に集光スポットFSを合わせてレーザ光Lを照射する。これにより、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rが中心線CL回りに複数回回転させられながら、レーザ光Lが熱伝導体8を透過して溶着予定領域Rに照射されることになる。その結果、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6が溶融・再固化し、溶着予定領域Rに沿って樹脂部材5,6同士が溶着されて樹脂溶着体が製造される。
【0039】
ここで、レーザ光Lの照射に際しては、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて発散している。そして、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、溶着予定領域Rにおいて円環形状であり、その環状レーザ光の中抜け部(中心の非照射領域)は、レーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6との境界を跨いでいる。つまり、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいる(換言すれば、樹脂部材5と樹脂部材6とに掛け渡されている)。なお、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を溶融させ得るエネルギ密度を有している。
【0040】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するに際しては、次のように回転速度やレーザ光Lの強度を制御する。すなわち、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるようにする。
【0041】
以上説明したように、集光光学系10を用いた樹脂溶着方法においては、図11に示されるように、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。集光光学系10を用いた樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0042】
図12は、本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。図12に示されるように、溶着予定領域Rにおいては、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍に入熱過多による損傷が生じることなく、樹脂部材5と樹脂部材6とが溶融痕11部分で確実に溶着されている。
【0043】
また、溶着予定領域Rおいてレーザ光Lが発散するようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するので、樹脂部材5,6が入熱過多の状態になるのを抑制して、溶着予定領域Rの全領域で樹脂部材5,6を適度に溶融させることができる。しかも、光学系の構成を単純化したり、ワーキングディスタンスを稼いだりすることができる。このようなレーザ光Lの照射は、レーザ光入射面から深い部分を溶融させたくない場合に有効である。
【0044】
また、レーザ光Lを透過する熱伝導体8を溶着予定領域Rに対してレーザ光入射側に配置し、熱伝導体8をヒートシンクとしてレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、熱伝導体8が樹脂部材5,6のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0046】
例えば、図13に示されるように、レーザ光Lの光軸OA方向において、樹脂部材5,6を溶融させ得るレーザ光Lのエネルギ密度の範囲(レーザ光Lの照射領域)よりも、溶着予定領域Rが広い場合(すなわち、溶着予定領域Rがレーザ光入射面から深さ方向に広い場合)などには、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、溶着予定領域Rに対してレーザ光入射側とその反対側との間においてレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させればよい。この場合、次の理由により、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させることが好ましい。つまり、樹脂部材5,6が溶融すると、溶融部分では、散乱因子の減少によりレーザ光Lの拡散透過率が上昇するため、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させれば、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光Lを到達させ、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができるからである。
【0047】
また、上記実施形態は、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OAに略平行であり且つ中心線CLに略垂直である場合であったが、図14(a)に示されるように、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OAに略垂直であり且つ中心線CLに略平行である場合や、図14(b)に示されるように、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OA及び中心線CLに略平行である場合がある。
【0048】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させることができれば、集光光学系1を中心線CL回りに回転させてもよいし、集光光学系1及び樹脂部材5,6の両方を中心線CL回りに回転させてもよい。
【0049】
また、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が少なくとも溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において環形状であれば、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。更に、レーザ光Lが少なくとも溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいれば、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。
【0050】
また、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が照射領域において環形状でなく、例えば中実円形状であっても、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射することで、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を防止して、樹脂部材5,6を溶着予定領域Rに沿って確実に溶着することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
5…樹脂部材(第1の樹脂部材)、6…樹脂部材(第2の樹脂部材)、8…熱伝導体、L…レーザ光、OA…光軸、CL…中心線、R…溶着予定領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材同士を溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野における従来の樹脂溶着方法として、一方の樹脂部材と他方の樹脂部材とを溶着するための溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射して、溶着予定領域において一方の樹脂部材及び他方の樹脂部材を溶融させることにより、樹脂部材同士を溶着する方法が知られている。
【0003】
ところで、レーザ光に対して吸収性を有する樹脂部材においては、図15に示されるように、樹脂部材のレーザ光入射面でレーザ光の吸収光量が最も多くなり、レーザ光入射面からの距離が大きくなるに従って(すなわち、樹脂部材の内部に行くに従って)レーザ光の吸収光量が徐々に少なくなる。そのため、レーザ光に対して吸収性を有する樹脂部材同士を突き合わせて溶着する場合などには、レーザ光入射面及びその近傍の内部領域におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷(気泡、白濁、焼損等)が生じることがある。
【0004】
そのような損傷を防止するための樹脂溶着方法として、特許文献1には、樹脂部材のレーザ光入射面に冷媒を供給しつつレーザ光の照射を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−88355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の樹脂溶着方法にあっては、樹脂部材のレーザ光入射面における損傷の発生は防止し得るものの、レーザ光入射面近傍の内部領域における損傷の発生までを防止することは困難である。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することができる樹脂溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る樹脂溶着方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、溶着予定領域の一部分が照射領域であり、且つ光軸に対して垂直な断面形状が少なくとも溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することにより、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする。
【0009】
この樹脂溶着方法においては、中心線を有する環形状の溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射する。これにより、溶着予定領域の一部分に対してレーザ光が断続的に照射されることになるので、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度(損傷(気泡、白濁、焼損等)が生じる温度)を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸に対して垂直なレーザ光の断面形状が溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるため、溶着予定領域のレーザ光入射側端部及びその近傍におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。よって、この樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0010】
また、溶着予定領域の一部分における温度プロファイルのピーク値が、第1の樹脂部材の溶融温度及び第2の樹脂部材の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、第1の樹脂部材の分解温度及び第2の樹脂部材の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、レーザ光に対して溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。このような制御により、溶着予定領域において樹脂部材に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域において樹脂部材を十分に溶融させることができる。なお、温度プロファイルのピーク値とは、時間(横軸)と温度(縦軸)との関係を示すグラフの極大値を意味する。
【0011】
また、溶着予定領域おいてレーザ光が収束するようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。この場合、光吸収によって減衰する光密度が補われて、溶着予定領域のレーザ光入射側からその反対側に至る溶着予定領域の全領域で樹脂部材を十分に溶融させることができる。
【0012】
或いは、溶着予定領域おいてレーザ光が発散するようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。この場合、樹脂部材が入熱過多の状態になるのを抑制して、溶着予定領域の全領域で樹脂部材を適度に溶融させることができる。
【0013】
また、少なくともレーザ光入射側端部においてレーザ光の照射領域が第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを跨ぐようにレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。樹脂部材同士の突合せ部にはレーザ光入射側に段差や隙間等が生じていることが多く、これらの段差や隙間等がレーザ光を散乱させるなどして入熱過多による損傷を生じさせる原因となり易いものの、溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状のレーザ光を第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とに跨らせることで、段差や隙間等に対するレーザ光の照射量が少なくなり、その結果、段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。
【0014】
また、溶着予定領域に対してレーザ光入射側とその反対側(レーザ光出射側)との間においてレーザ光の照射領域を相対的に移動させる場合には、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光の照射領域を相対的に移動させることが好ましい。樹脂部材が溶融すると、溶融部分では、散乱因子の減少によりレーザ光の拡散透過率が上昇するため、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光の照射領域を相対的に移動させることで、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光を到達させ、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができる。
【0015】
また、溶着予定領域に冷却ガスを吹き付けながらレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。或いは、レーザ光を透過する熱伝導体を溶着予定領域に対してレーザ光入射側に配置し、熱伝導体をヒートシンクとしてレーザ光を溶着予定領域に照射することが好ましい。これらの場合、冷却ガス又はヒートシンクである熱伝導体が樹脂部材のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域のレーザ光入射側端部及びその近傍におけるレーザ光の照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
【0016】
本発明に係る樹脂溶着方法は、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射することにより、第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする。
【0017】
この樹脂溶着方法においては、中心線を有する環形状の溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、溶着予定領域を中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光を溶着予定領域に照射する。これにより、溶着予定領域の一部分に対してレーザ光が断続的に照射されることになるので、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。よって、この樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶着予定領域において入熱過多による損傷の発生を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。
【図2】図1の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。
【図3】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態を説明するための斜視図である。
【図4】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態を説明するための断面図である。
【図5】溶着予定領域の一部分における温度プロファイルを示すグラフである。
【図6】本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。
【図7】レーザ光に対する溶着予定領域の回転に伴って溶融部分が進行する様子を示す断面図である。
【図8】樹脂部材同士の突合せ部の拡大断面図である。
【図9】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。
【図10】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態を説明するための斜視図である。
【図11】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態を説明するための断面図である。
【図12】本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。
【図13】本発明に係る樹脂溶着方法の他の実施形態を説明するための断面図である。
【図14】本発明に係る樹脂溶着方法の他の実施形態を説明するための断面図である。
【図15】樹脂部材のレーザ光入射面からの距離とレーザ光の吸収光量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0021】
図1は、本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。図1に示されるように、集光光学系1は、レーザ光Lの光源LS側から順に、コリメート用レンズ2、集光用レンズ3及び円錐凹状のアキシコンレンズ4が光軸OA上に配置されて構成されている。この集光光学系1をレーザ光Lが通過すると、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で円環形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で中実円形状となる。
【0022】
図2は、図1の集光光学系を通過したレーザ光の集光スポット到達前の光強度プロファイルを示すグラフである。図2に示されるように、レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達前において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなっている。なお、図2の光強度プロファイルは、光軸OA及びレーザ光Lの進行方向と直交する方向にレーザ光Lの光強度を積分した場合である。
【0023】
以上のように構成された集光光学系1を用いた樹脂溶着方法について説明する。まず、図3及び4に示されるように、円筒状の樹脂部材(第1の樹脂部材)5及び樹脂部材(第2の樹脂部材)6(サイズ:外径60mm、厚さ(壁厚)4mmの円筒状、材料:旭化成ケミカルズ株式会社製66ナイロン レオナ(登録商標)14G33)を準備し、中心線CLを略一致させて、樹脂部材5の底面5aと樹脂部材6の底面6aとを突き合わせる。この状態で、樹脂部材5,6同士の突合せ部(ここでは、底面5a,6a)に沿って、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rを設定する。なお、樹脂部材5,6は、レーザ光Lに対して半吸収性を有している(オリヱント化学工業株式会社製のeBIND(登録商標) ACW(登録商標)-9871という色素を用いて吸光度0.2となるように着色した樹脂部材を使用した)。
【0024】
続いて、突き合わされた状態を保持しながら樹脂部材5,6を中心線CL回りに回転させる。そして、光軸OAが中心線CLと略直交し、且つ光軸OAが樹脂部材5,6同士の突合せ部を通る状態で、樹脂部材5の内部(内周面5bと外周面5cとの間の部分)及び樹脂部材6の内部(内周面6bと外周面6cとの間の部分)に集光スポットFSを合わせてレーザ光Lを照射すると共に、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分に、空気や窒素等の冷却ガスGを吹き付ける。これにより、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rが中心線CL回りに複数回回転させられながら、レーザ光Lが溶着予定領域Rに照射されることになる。その結果、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6が溶融・再固化し、溶着予定領域Rに沿って樹脂部材5,6同士が溶着されて樹脂溶着体が製造される。なお、冷却ガスGの吹付け方向は、溶着予定領域Rに対して平行でも垂直でもよいし、或いはレーザ光Lの光軸OAと同軸方向でもよい。
【0025】
ここで、レーザ光Lの照射に際しては、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて収束している。そして、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、溶着予定領域Rにおいて円環形状であり、その環状レーザ光の中抜け部(中心の非照射領域)は、レーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6との境界を跨いでいる。つまり、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいる(換言すれば、樹脂部材5と樹脂部材6とに掛け渡されている)。なお、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を溶融させ得るエネルギ密度を有している。
【0026】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するに際しては、次のように回転速度やレーザ光Lの強度を制御する。すなわち、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるようにする。
【0027】
図5は、溶着予定領域の一部分における温度プロファイルを示すグラフである。図5に示されるように、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5,6の溶融温度(200℃)と樹脂部材5,6の分解温度(300℃)との間に複数現れるのは、レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が50rpmの場合及び100rpmの場合である。
【0028】
レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が5rpmの場合、10rpmの場合及び20rpmの場合には、溶着予定領域Rの一部分にレーザ光Lが照射される1回当たりの時間が相対的に長くなるため、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材5,6の分解温度(300℃)を越えるような急激な温度上昇が生じてしまう。これに対し、レーザ光Lに対する溶着予定領域Rの回転数が50rpmの場合及び100rpmの場合には、溶着予定領域Rの一部分にレーザ光Lが照射される1回当たりの時間が相対的に短くなるため、溶着予定領域の一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材5,6の分解温度(300℃)を越えるような急激な温度上昇が生じない。従って、樹脂部材5,6の溶融温度(200℃)と樹脂部材5,6の分解温度(300℃)との間の温度を長く維持して、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。
【0029】
以上説明したように、集光光学系1を用いた樹脂溶着方法においては、図4に示されるように、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。集光光学系1を用いた樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0030】
図6は、本発明に係る樹脂溶着方法の第1の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。図6に示されるように、溶着予定領域Rにおいては、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍に入熱過多による損傷が生じることなく、樹脂部材5と樹脂部材6とが溶融痕11部分で確実に溶着されている。
【0031】
また、溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。このような制御により、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6に損傷が生じるのを防止しつつ、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。その結果、溶融した樹脂の混ざり合いが促進されるので、溶融した樹脂が再固化した際には、強固な溶着が実現される。
【0032】
図7は、レーザ光に対する溶着予定領域の回転に伴って溶融部分が進行する様子を示す断面図である。図7に示されるように、樹脂部材5,6が結晶性樹脂からなる場合には、光散乱によってレーザ光Lが内部に到達し難いものの、樹脂部材5,6が溶融すると、溶融部分12では、散乱因子の減少によりレーザ光Lの拡散透過率が上昇する。そのため、溶着予定領域Rにレーザ光Lが照射される度に、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光Lが到達して溶融部分12が進行することになる。従って、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができる。
【0033】
また、溶着予定領域Rおいてレーザ光Lが収束するようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するので、光吸収によって減衰する光密度が補われて、溶着予定領域Rのレーザ光入射側からその反対側に至る全領域で樹脂部材5,6を十分に溶融させることができる。しかも、損傷が生じ易い溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において、レーザ光Lのエネルギ密度を抑えることができる。
【0034】
また、レーザ光入射側端部R1においてレーザ光Lの照射領域が樹脂部材5と樹脂部材6とを跨ぐようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するため、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に対するレーザ光Lの照射量が少なくなり、その結果、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。図8は、樹脂部材同士の突合せ部の拡大断面図である。図8に示されるように、樹脂部材5,6の成形精度がそれ程高くないことに起因して、樹脂部材5,6同士の突合せ部にはレーザ光入射側に段差や隙間等が生じていることが多く、これらの段差や隙間等がレーザ光Lを散乱させるなどして入熱過多による損傷を生じさせる原因となり易い。従って、レーザ光Lが溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6とを跨ぐようにレーザ光Lの照射を行う樹脂溶着方法は、樹脂部材5,6同士を突き合わせその突合せ部に沿って溶着予定領域Rを設定した場合に特に有効である。
【0035】
また、溶着予定領域Rに冷却ガスGを吹き付けながらレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、冷却ガスGが樹脂部材5,6のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
[第2の実施形態]
【0036】
図9は、本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態に用いられる集光光学系の構成図である。図9に示されるように、集光光学系10は、レーザ光Lの光源LS側から順に、コリメート用レンズ2、集光用レンズ3及び円錐凸状のアキシコンレンズ7が光軸OA上に配置されて構成されている。この集光光学系10をレーザ光Lが通過すると、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、集光スポットFSに対して光源LS側で中実円形状となり、集光スポットFSに対して光源LSと反対側で円環形状となる。レーザ光Lの光強度プロファイルは、集光スポットFS到達後において、ガウシアン分布やトップハット分布のレーザ光の光強度プロファイルとは逆に、中央部の光強度が周囲部の光強度よりも低いものとなっている(図2参照)。
【0037】
以上のように構成された集光光学系10を用いた樹脂溶着方法について説明する。まず、図10及び11に示されるように、円筒状の樹脂部材5,6(サイズ:外径60mm、厚さ(壁厚)4mmの円筒状、材料:旭化成ケミカルズ株式会社製66ナイロン レオナ(登録商標)14G33)を準備し、中心線CLを略一致させて、樹脂部材5の底面5aと樹脂部材6の底面6aとを突き合わせる。この状態で、レーザ光Lに対して透過性を有する材料(例えば、ガラス等)からなる熱伝導体8で樹脂部材5の外周面5c及び樹脂部材6の外周面6cを覆い、樹脂部材5,6同士の突合せ部(ここでは、底面5a,6a)に沿って、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rを設定する。なお、樹脂部材5,6は、レーザ光Lに対して半吸収性を有している(オリヱント化学工業株式会社製のeBIND(登録商標) ACW(登録商標)-9871という色素を用いて吸光度0.2となるように着色した樹脂部材を使用した)。
【0038】
続いて、突き合わされた状態を保持しながら樹脂部材5,6及び熱伝導体8を中心線CL回りに回転させる。そして、光軸OAが中心線CLと略直交し、且つ光軸OAが樹脂部材5,6同士の突合せ部を通る状態で、樹脂部材5の外周面5c及び樹脂部材6の外周面6cよりも外側(レーザ光Lの進行方向の後側)に集光スポットFSを合わせてレーザ光Lを照射する。これにより、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rが中心線CL回りに複数回回転させられながら、レーザ光Lが熱伝導体8を透過して溶着予定領域Rに照射されることになる。その結果、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6が溶融・再固化し、溶着予定領域Rに沿って樹脂部材5,6同士が溶着されて樹脂溶着体が製造される。
【0039】
ここで、レーザ光Lの照射に際しては、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて発散している。そして、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状は、溶着予定領域Rにおいて円環形状であり、その環状レーザ光の中抜け部(中心の非照射領域)は、レーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6との境界を跨いでいる。つまり、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいる(換言すれば、樹脂部材5と樹脂部材6とに掛け渡されている)。なお、レーザ光Lは、溶着予定領域Rにおいて樹脂部材5,6を溶融させ得るエネルギ密度を有している。
【0040】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するに際しては、次のように回転速度やレーザ光Lの強度を制御する。すなわち、レーザ光Lの照射領域である溶着予定領域Rの一部分における温度プロファイルのピーク値が、樹脂部材5の溶融温度及び樹脂部材6の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、樹脂部材5の分解温度及び樹脂部材6の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるようにする。
【0041】
以上説明したように、集光光学系10を用いた樹脂溶着方法においては、図11に示されるように、中心線CLを有する円環形状の溶着予定領域Rの一部分が照射領域であるレーザ光Lに対して、溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、溶着予定領域Rの一部分に対してレーザ光Lが断続的に照射されることになるので、溶着予定領域Rの一部分に対するレーザ光の1回の照射で樹脂部材の分解温度を越えるような急激な温度上昇を防止することができる。しかも、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が溶着予定領域Rにおいて円環形状であるため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。集光光学系10を用いた樹脂溶着方法によれば、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を確実に防止することが可能となる。
【0042】
図12は、本発明に係る樹脂溶着方法の第2の実施形態によって製造された樹脂溶着体における溶着部分の断面写真を示す図である。図12に示されるように、溶着予定領域Rにおいては、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍に入熱過多による損傷が生じることなく、樹脂部材5と樹脂部材6とが溶融痕11部分で確実に溶着されている。
【0043】
また、溶着予定領域Rおいてレーザ光Lが発散するようにレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射するので、樹脂部材5,6が入熱過多の状態になるのを抑制して、溶着予定領域Rの全領域で樹脂部材5,6を適度に溶融させることができる。しかも、光学系の構成を単純化したり、ワーキングディスタンスを稼いだりすることができる。このようなレーザ光Lの照射は、レーザ光入射面から深い部分を溶融させたくない場合に有効である。
【0044】
また、レーザ光Lを透過する熱伝導体8を溶着予定領域Rに対してレーザ光入射側に配置し、熱伝導体8をヒートシンクとしてレーザ光Lを溶着予定領域Rに照射する。これにより、熱伝導体8が樹脂部材5,6のレーザ光入射側端部から熱を奪うため、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのをより確実に防止することができる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0046】
例えば、図13に示されるように、レーザ光Lの光軸OA方向において、樹脂部材5,6を溶融させ得るレーザ光Lのエネルギ密度の範囲(レーザ光Lの照射領域)よりも、溶着予定領域Rが広い場合(すなわち、溶着予定領域Rがレーザ光入射面から深さ方向に広い場合)などには、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、溶着予定領域Rに対してレーザ光入射側とその反対側との間においてレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させればよい。この場合、次の理由により、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させることが好ましい。つまり、樹脂部材5,6が溶融すると、溶融部分では、散乱因子の減少によりレーザ光Lの拡散透過率が上昇するため、レーザ光入射側からその反対側に向かってレーザ光Lの照射領域を相対的に移動させれば、レーザ光入射面からより深い部分にまでレーザ光Lを到達させ、レーザ光入射面からより深い部分を溶融させることができるからである。
【0047】
また、上記実施形態は、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OAに略平行であり且つ中心線CLに略垂直である場合であったが、図14(a)に示されるように、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OAに略垂直であり且つ中心線CLに略平行である場合や、図14(b)に示されるように、溶着予定領域Rにおける樹脂部材5,6の突合せ面5a,6aが光軸OA及び中心線CLに略平行である場合がある。
【0048】
また、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させることができれば、集光光学系1を中心線CL回りに回転させてもよいし、集光光学系1及び樹脂部材5,6の両方を中心線CL回りに回転させてもよい。
【0049】
また、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が少なくとも溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において環形状であれば、溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1及びその近傍におけるレーザ光Lの照射領域中心部に入熱過多による損傷が生じるのを防止することができる。更に、レーザ光Lが少なくとも溶着予定領域Rのレーザ光入射側端部R1において樹脂部材5と樹脂部材6とを跨いでいれば、樹脂部材5,6間の段差や隙間等に起因した入熱過多による損傷の発生を抑制することができる。
【0050】
また、光軸OAに対して垂直なレーザ光Lの断面形状が照射領域において環形状でなく、例えば中実円形状であっても、レーザ光Lに対して溶着予定領域Rを中心線CL回りに相対的に複数回回転させながら、レーザ光Lを溶着予定領域Rに照射することで、溶着予定領域Rにおいて入熱過多による損傷の発生を防止して、樹脂部材5,6を溶着予定領域Rに沿って確実に溶着することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
5…樹脂部材(第1の樹脂部材)、6…樹脂部材(第2の樹脂部材)、8…熱伝導体、L…レーザ光、OA…光軸、CL…中心線、R…溶着予定領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、
前記溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、前記溶着予定領域の一部分が照射領域であり、且つ光軸に対して垂直な断面形状が少なくとも前記溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるレーザ光に対して、前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することにより、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを前記溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする樹脂溶着方法。
【請求項2】
前記溶着予定領域の一部分における温度プロファイルのピーク値が、前記第1の樹脂部材の溶融温度及び前記第2の樹脂部材の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、前記第1の樹脂部材の分解温度及び前記第2の樹脂部材の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、前記レーザ光に対して前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1記載の樹脂溶着方法。
【請求項3】
前記溶着予定領域おいて前記レーザ光が収束するように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂溶着方法。
【請求項4】
前記溶着予定領域おいて前記レーザ光が発散するように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂溶着方法。
【請求項5】
少なくとも前記レーザ光入射側端部において前記レーザ光の照射領域が前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを跨ぐように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項6】
前記溶着予定領域に対してレーザ光入射側とその反対側との間において前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させる場合には、レーザ光入射側からその反対側に向かって前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項7】
前記溶着予定領域に冷却ガスを吹き付けながら前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項8】
前記レーザ光を透過する熱伝導体を前記溶着予定領域に対してレーザ光入射側に配置し、前記熱伝導体をヒートシンクとして前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項9】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、
前記溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、前記溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することにより、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを前記溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする樹脂溶着方法。
【請求項1】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、
前記溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、前記溶着予定領域の一部分が照射領域であり、且つ光軸に対して垂直な断面形状が少なくとも前記溶着予定領域のレーザ光入射側端部において環形状であるレーザ光に対して、前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することにより、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを前記溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする樹脂溶着方法。
【請求項2】
前記溶着予定領域の一部分における温度プロファイルのピーク値が、前記第1の樹脂部材の溶融温度及び前記第2の樹脂部材の溶融温度のうち高い方の溶融温度と、前記第1の樹脂部材の分解温度及び前記第2の樹脂部材の分解温度のうち低い方の分解温度との間に、複数現れるように、前記レーザ光に対して前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1記載の樹脂溶着方法。
【請求項3】
前記溶着予定領域おいて前記レーザ光が収束するように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂溶着方法。
【請求項4】
前記溶着予定領域おいて前記レーザ光が発散するように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂溶着方法。
【請求項5】
少なくとも前記レーザ光入射側端部において前記レーザ光の照射領域が前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを跨ぐように前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項6】
前記溶着予定領域に対してレーザ光入射側とその反対側との間において前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させる場合には、レーザ光入射側からその反対側に向かって前記レーザ光の照射領域を相対的に移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項7】
前記溶着予定領域に冷却ガスを吹き付けながら前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項8】
前記レーザ光を透過する熱伝導体を前記溶着予定領域に対してレーザ光入射側に配置し、前記熱伝導体をヒートシンクとして前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の樹脂溶着方法。
【請求項9】
第1の樹脂部材と第2の樹脂部材とを溶着予定領域に沿って溶着して樹脂溶着体を製造する樹脂溶着方法であって、
前記溶着予定領域が中心線を有する環形状の領域である場合において、前記溶着予定領域の一部分が照射領域であるレーザ光に対して、前記溶着予定領域を前記中心線回りに相対的に複数回回転させながら、前記レーザ光を前記溶着予定領域に照射することにより、前記第1の樹脂部材と前記第2の樹脂部材とを前記溶着予定領域に沿って溶着することを特徴とする樹脂溶着方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図12】
【公開番号】特開2010−173168(P2010−173168A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18040(P2009−18040)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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