説明

樹脂組成物、成形体、成形体の製造方法

【課題】少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含まない場合に比べ、成形体にしたとき、低温での成形性、耐湿熱性に共に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含む。また、更に(D)多官能性化合物を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気製品や電子・電気機器の部品には、ポリスチレン、ポリスチレン−ABS樹脂共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアセタール等の高分子材料が、耐熱性、機械強度、特に、電子・電気機器の部品の場合には、環境変動に対する機械強度の維持性に優れることから用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベース樹脂(A)と、ホスファゼン化合物(B)と、芳香族樹脂(C1)、窒素含有化合物(C2)及び無機金属化合物(C3)から選択された少なくとも一種の難燃助剤(C)とで構成された難燃性樹脂組成物が開示され、前記ベース樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ビニル系樹脂及びアクリル系樹脂から選択された少なくとも一種の熱可塑性樹脂で構成されることが記載されている。
【0004】
近年では、環境問題の観点から、上述の高分子材料に代えて、植物由来の材料であり、CO排出量が少なく、枯渇資源である石油の使用量が少なく、環境負荷が少ないポリ乳酸系樹脂材料を用いる検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献2,3には、ポリ乳酸樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物が記載されており、用いられる可塑剤及び結晶核剤は、その構造が限定されている。特に、特許文献2に記載の結晶核剤は、分子中に水酸基とアミド機を有する化合物から選ばれる少なくとも一種の結晶核剤とフェニルホスホン酸金属塩から選ばれる少なくとも一種の結晶核剤との混合物であり、また、特許文献3に記載の結晶核剤は、ヒドロキシ脂肪族エステルから選ばれる少なくとも一種の結晶核剤とフェニルホスホン酸金属塩から選ばれる少なくとも一種の結晶核剤との混合物である。
【0006】
また、ポリ乳酸に難燃性を付与するには、従来、リン系や無機水酸化物系などの難燃剤を付与する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4267945号明細書
【特許文献2】特許第4130695号明細書
【特許文献3】特許第4130696号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含まない場合に比べ、成形体にしたとき、低温での成形性、耐湿熱性に共に優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂組成物および成形体は、以下の特徴を有する。
【0010】
(1)少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含む樹脂組成物である。
【0011】
(2)更に(D)多官能性化合物を含む上記(1)に記載の樹脂組成物である。
【0012】
(3)前記(B)ホスファゼン化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されている上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物である。
【0013】
(4)前記(D)多官能性化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されている上記(2)に記載の樹脂組成物である。
【0014】
(5)少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含む樹脂成形体である。
【0015】
(6)更に(D)多官能性化合物を含む上記(5)に記載の樹脂成形体である。
【0016】
(7)前記(B)ホスファゼン化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されている上記(5)又は(6)に記載の樹脂成形体である。
【0017】
(8)前記(D)多官能性化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されている上記(6)に記載の樹脂成形体である。
【0018】
(9)少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、必要に応じて(D)多可能性化合物とを混練し、得られた樹脂組成物を、成形温度が190℃以下、かつ、金型温度が100℃以下で樹脂成形体を製造する樹脂成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含まない場合に比べ、成形体にしたとき、低温での成形性、耐湿熱性が共に優れる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、(D)多官能性化合物を含まない場合に比べ、耐湿熱性がより向上する。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、(B)ホスファゼン化合物が、ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されていない場合に比べ、より低温での成形性に優れる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、D)多官能性化合物が、ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されていない場合に比べ、より耐湿熱性及び成形性に優れる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含まない場合に比べ、低温での成形性、耐湿熱性が共に優れる成形体が提供される。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、(D)多官能性化合物を含まない場合に比べ、耐湿熱性がより優れる成形体が提供される。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、(B)ホスファゼン化合物が、ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されていない場合に比べ、低温での成形性に優れる。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、(D)多官能性化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されていない場合に比べ、耐湿熱性及び成形性に優れる。
【0027】
請求項9に記載の発明によれば、本構成を有さない場合に比べ、低温での成形性に優れ、得られた樹脂成形体の耐湿熱性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態における実施例1の樹脂組成物の成形時の金型温度と、得られる樹脂成形体の示差走査熱量測定(DSC)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明における樹脂組成物および成形体の実施の形態を説明する。なお、本実施形態は本発明を実施するための一例であり、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0030】
[樹脂組成物]
本実施の形態における樹脂組成物は、少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含む。
【0031】
一般的に、乳酸系樹脂と、特定の可塑剤と、特定の結晶核剤とを含有するポリ乳酸樹脂組成物の場合には、従来の金型温度よりも低い温度で樹脂成形体が成形され得るが、加水分解の影響により耐湿熱性が悪化する傾向がある。また、ポリ乳酸にリン系や無機水酸化物系の難燃剤を付与した場合には、耐湿熱性と耐衝撃性が悪化する傾向がある。
【0032】
本実施の形態の樹脂組成物は、ポリ乳酸を含有する樹脂組成物の耐湿熱性の改善を検討した結果達成されたものであり、ポリ乳酸を主原料とする樹脂材料において、従来よりも耐湿熱性に優れる樹脂成形体が成形される。また、ホスファゼン化合物と結晶核剤を併用することで、結晶核剤を単独で加えた場合に比べ、ポリ乳酸の結晶化が促進される。本実施の形態において、予測できなかったレベルまで耐湿熱性を上げることができた理由は定かではないが、ホスファゼン化合物が相対的に疎水性が強く、結晶核剤およびポリ乳酸との接着性を上げるため、組成物中で、ポリ乳酸分子がより核に対して配列しやすい状態になったからではないかと考えられる。
【0033】
<ポリ乳酸>
ポリ乳酸は、植物由来であり、環境負荷の低減、具体的にはCOの排出量削減、石油使用量の削減効果がある。ポリ乳酸としては、乳酸の縮合体であれば、特に限定されるものではなく、ポリ−L−乳酸(以下「PLLA」ともいう)であっても、ポリ−D−乳酸(以下「PDLA」ともいう)であっても、それらが共重合やブレンドにより交じり合ったものでもよく、さらに、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合したものであり、これらのらせん構造がうまく噛み合った耐熱性の高い、ステレオコンプレックス型ポリ乳酸(以下「SC−PLA」ともいう)であってもよい。また、ポリ乳酸は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ユニチカ(株)製の「テラマックTE4000」、「テラマックTE2000」、「テラマックTE7000」、三井化学(株)製の「レイシアH100」等が挙げられる。また、ポリ乳酸は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態において、ポリ乳酸は樹脂組成物の主成分として含まれる。ここで「主成分」とは、樹脂組成物全量に対して50質量%を超えることを意味する。
【0034】
ポリ乳酸の分子量は、特に限定されるものではないが、本実施の形態では、ポリ乳酸の重量平均分子量は、8,000以上、200,000以下であり、15,000以上、120,000以下が好ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量が8,000未満の場合、樹脂組成物の燃焼速度が速くなり、低温での機械的強度が低下する傾向があり、一方、ポリ乳酸の重量平均分子量が200,000を超える場合には、柔軟性が低下し、樹脂組成物のドリップ自消性が低下し、いずれの場合も難燃性が低下する傾向にある。なお、「ドリップ自消性」とは、樹脂組成物が熱によりたれて消失することを意味する。
【0035】
樹脂組成物中におけるポリ乳酸の重量平均分子量は、樹脂組成物を液体窒素雰囲気下で冷却してその表面から測定用試料を削り取り、測定用試料を重水素化クロロホルムに0.1質量%の濃度で溶解させ、ゲルパーミッションクロマトグラフにて、分離されたポリ乳酸について測定した重量平均分子量を意味する。また、測定には、ゲルパーミッションクロマトグラフとして、東ソー社製「HLC−8220GPC」が用いられる。
【0036】
<ホスファゼン化合物>
本実施の形態に用いられるホスファゼン化合物は、分子中に「−P=N−結合」を有する有機化合物で、好ましくは、環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、フェノキシホスファゼンが用いられる。中でも耐湿熱性の観点から、環状フェノキシホスファゼンが好ましい。環状フェノキシホスファゼンとしては、商業的に入手可能なものとして、例えば、「FP−100」、「FP−110」、「FP−200」(伏見製薬工業所製、商品名)、「SP−100」、「SP−100H」(大塚化学社製、商品名)等が挙げられる。
【0037】
本実施の形態の樹脂組成物におけるホスファゼン化合物の含有量は、ポリ乳酸100部に対して3部以上、100部以下であり、好ましくは5部以上、50部以下である。ポリ乳酸100部に対するホスファゼン化合物の含有量が3部未満では、金型の低温化、および成形した際の耐湿熱性が劣り、ポリ乳酸100部に対するホスファゼン化合物の含有量が100部を超えると、染み出し(ブリードアウト)により成型性が悪くなる。
【0038】
また、ホスファゼン化合物の吸湿量は1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。ホスファゼン化合物の吸湿量が、1%を超えると耐湿熱性が悪化する。
【0039】
<結晶核剤>
本実施の形態に用いられる結晶核剤としては、一般に樹脂の結晶核剤として用いられるものを特に制限なく用いることができ、無機系の結晶核剤および有機系の結晶核剤のいずれをも使用することができる。無機系の結晶核剤の具体例としては、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウムおよびフェニルホスホネートの金属塩などが挙げられる。これらの無機系の結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていることが好ましい。
【0040】
また、有機系の結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)などのカルボン酸アミド、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどのリン化合物金属塩、および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどが挙げられる。
【0041】
本実施の形態にて使用される結晶核剤としては、上記に例示したものの中でも、特にタルク、有機カルボン酸金属塩、カルボン酸アミドから選択された少なくとも1種が好ましい。本実施の形態で使用する結晶核剤は、1種のみでもよく、また2種以上の併用を行ってもよい。
【0042】
本実施の形態の樹脂組成物における結晶核剤の含有量は、ポリ乳酸100部に対して0.1部以上、3部以下であり、好ましくは0.2部以上、2部以下である。ポリ乳酸100部に対する結晶核剤の含有量が0.1部未満では、低温での金型成形において結晶化の速度が十分ではなく、ポリ乳酸100部に対する結晶核剤の含有量が3部を超えると、樹脂組成物中の結晶核剤の量が多すぎるため、結晶化が阻害され、結晶化の速度が十分に得られない。
【0043】
<多官能性化合物>
本実施の形態に用いられる多官能化合物は、ポリ乳酸の末端基(例えば、カルボキシル基、水酸基等)と反応する官能基を2つ以上持つ化合物である。
【0044】
ポリ乳酸の末端基と反応する官能基を持つ多官能化合物としては、例えば、カルボジイミド化合物、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、ヒドロキシカルボン酸化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。
【0045】
カルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ジカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、芳香族ジカルボジイミド等が挙げられる。
【0046】
ジカルボン酸化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0047】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0048】
ヒドロキシカルボン酸化合物としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、6−ヒドロキシヘキサン酸等が挙げられる。
【0049】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ、ノボラック型エポキシ等が挙げられる。
【0050】
これらの中でも、多官能化合物としては、2官能化合物(2つの官能基を持つ多官能化合物)、特に、2官能のカルボジイミド化合物が好ましい。
【0051】
上述したカルボジイミド化合物は、ポリ乳酸の末端基(例えば、カルボキシル基、水酸基等)と反応する官能基を2つ以上持つ化合物であり、分子中に「−N=C=N−」で表されるカルボジイミド基を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ジカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、芳香族ジカルボジイミド等が挙げられる。これらの中でも、2官能化合物(2つの官能基を持つ多官能化合物)、特に、2官能のカルボジイミド化合物が好ましい。カルボジイミド化合物は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。例えば、日清紡ケミカル(株)社製「カルボジライト」(商品名)などが挙げられる。
【0052】
本実施の形態の樹脂組成物における多官能性化合物の含有量(2種以上併用する場合には総含有量)は、ポリ乳酸100部に対して0.1部以上、10部以下であり、好ましくは1部以上、5部以下である。ポリ乳酸100部に対する多官能性化合物の含有量が0.1部未満では、耐湿熱性が劣り、ポリ乳酸100部に対する多官能性化合物の含有量が10部を超えると、成形性が劣る。
【0053】
<その他成分>
本実施の形態における樹脂組成物は、その他、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤や充填剤を含有してもよい。
【0054】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系、リン系、イオウ系、ヒドロキノン系、キノリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0055】
安定剤としては、例えば、ポリアミド、ポリ−β−アラニン共重合体、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、メラミン、シアノグアニジン、メラミン−ホルムアルデヒド縮合体等の塩基性窒素含有化合物等の窒素含有化合物;有機カルボン酸金属塩(ステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム等)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム等)、金属水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等)、金属炭酸塩等のアルカリまたはアルカリ土類金属含有化合物;ゼオライト;ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0056】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、サリチレート系、シュウ酸アニリド系等が挙げられる。
【0057】
また、本実施形態に係る樹脂組成物には、耐衝撃性が損なわれない範囲で、その他難燃剤を含有してもよい。その他難燃剤としては、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機水酸化物系難燃剤等が挙げられる。その他難燃剤は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0058】
その他難燃剤としては、合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。リン系難燃剤の市販品としては、大八化学製の「PX−200」、「X−202」、ブーテンハイム製の「TERRAJU C80」、クラリアント製の「EXOLIT AP422」、「EXOLIT OP930」等が挙げられる。シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製の「DC4−7081」等が挙げられる。窒素系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製の「アピノン901」、下関三井化学製の「ピロリンサンメラミン」、ADEKA製の「FP2100」等が挙げられる。無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、堺化学工業製「MGZ300」、日本軽金属製「B103ST」等が挙げられる。
【0059】
また、充填剤としては、例えば、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土などのクレイ、タルク、マイカ、モンモリナイト等が挙げられる。また、その他充填剤としては、メラミン含有粒子、フォスフェート粒子、酸化チタン等も挙げられる。その他充填剤は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、ポリ乳酸に予めクレイが添加された、例えば、ユニチカ(株)社製の「テラマックTE7000」を適用してもよい。
【0060】
また、本実施の形態における樹脂組成物は、ポリ乳酸以外の樹脂、離型剤、耐候剤、耐光剤、着色剤等を含有してもよい。
【0061】
<樹脂組成物の製法>
本実施の形態における樹脂組成物は、(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、必要に応じて(D)多官能性化合物と、更に必要に応じてその他成分とを、混練して作製される。
【0062】
前記混練は、例えば、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)、簡易ニーダー(東洋精機製、ラボプラストミル)等の公知の混練装置を用いて行う。ここで、混練の温度条件(シリンダ温度条件)としては、ポリ乳酸の分解温度未満であることが好ましく、150℃以上、220℃以下が好ましく、160℃以上、200℃以下がより好ましい。
【0063】
[成形体]
本実施の形態における成形体は、上述した本実施の形態における樹脂組成物を成形することにより得ることができる。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形などの成形方法により成形して、本実施形態に係る成形体が得られる。本実施形態においては、成形体における成分の分散性の理由から、本実施形態の樹脂組成物を射出成形して得られたものであることが好ましい。
【0064】
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製「NEX150」、日精樹脂工業製「NEX70000」、東芝機械製「SE50D」等の市販の装置を用いて行う。この際、シリンダ温度としては、ポリ乳酸の分解抑制などの観点から、160℃以上、230℃以下とすることが好ましく、180℃以上、210℃以下とすることがより好ましい。また、金型温度としては、生産性の観点から、30℃以上、110℃以下とすることが好ましく、30℃以上、100℃以下とすることがより好ましい。
【0065】
<電子・電気機器の部品>
前述の本実施の形態における成形体は、成形性、耐湿熱性に優れたものになり得るため、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いることができる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。電子・電気機器の部品は、複雑な形状を有しているものが多く、また重量物であるので、重量物ではない場合に比べて高い耐衝撃強度及び面衝撃強度が要求されるが、本実施形態の樹脂成形体によれば、このような要求特性を十分満足させることができる。
【実施例】
【0066】
以下実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1から実施例16:
表1に示す実施例1から実施例16に示す組成を、2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、シリンダ温度190℃で混練し、樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを射出成形機(日精樹脂工業製、NEX150)にて、シリンダ温度200℃、金型温度100℃で、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527引張試験、ISO178曲げ試験に対応)(試験部厚さ4mm、幅10mm)を成形した。
【0068】
また、表1に示す各成分の略称について、表2に商品名、メーカー名を示す。なお、表2のB4は、以下の方法で合成される。
【0069】
合成例(鎖状フェノキシホスファゼン化合物(B4)の合成)
還流冷却器、温度計及び撹拌機を備えた3リットルのフラスコにp−メトキシフェノール441g(3.55モル)を量り取り、THF(1.5リットル)を加えて均一になるまで撹拌した。そこへ金属ナトリウム74g(3.2グラム原子)を50℃以下で投入し、投入終了後1時間かけて60℃まで昇温し、その後60℃〜68℃で4時間撹拌して、p−メトキシフェノールナトリウム塩のTHF溶液を得た。
【0070】
また、上記と同様の3リットルのフラスコに、フェノール401g(4.26モル)を量り取り、THF(1.5リットル)を加えて溶解した。そこへ金属ナトリウム89g(3.9グラム原子)を50℃以下で投入し、投入終了後1時間かけて60℃まで昇温し、その後60℃〜68℃で4時間撹拌して、ナトリウムフェノラートのTHF溶液を得た。
【0071】
別途、10リットルのフラスコに、合成例1のジクロロホスファゼンポリマー75g(0.65モル)をTHF(750ml)に溶解した溶液及び鎖状成分が豊富なジクロロホスファゼンオリゴマーのクロロベンゼン溶液475g(濃度63%、3量体:36%、4量体:3%、5量体及び6量体:24%、7量体:7%及び8量体以上:30%)(2.58モル)を量り取り、更に30℃以下に保ちながら上記のp−メトキシフェノールナトリウム塩のTHF溶液をゆっくりと滴下し、滴下後30℃以下で1時間、更に昇温して溶媒還流下(70℃)で3時間撹拌した。この反応液を一旦冷却し、30℃以下に保ちながら上記のナトリウムフェノラートのTHF溶液をゆっくりと滴下し、滴下後30℃以下で1時間、更に昇温して溶媒還流下(70℃)で10時間撹拌した。
【0072】
反応終了後、濾過、濃縮を行い、クロロベンゼン5リットルに再溶解し、5%水酸化ナトリウム水溶液で3回、5%塩酸で1回洗浄し、7%重曹水を用いて中和後、水洗を2回行った。その後、クロロベンゼンを減圧下留去し、褐色油状物782gを得た。
【0073】
1H−NMR及び31P−NMRの測定、CHN元素分析並びにリン含有率測定の結果から、該褐色油状物が式:[N=P(OPh)0.98(OC−p−OCH1.02]n(3量体:29%、4量体:2%、5量体及び6量体:19%、7量体:6%及び8量体以上:44%の混合物。8量体以上のうち46%は重量平均分子量約10,000の鎖状ジクロロホスファゼンポリマー)で表されるメトキシ基を有するホスファゼン化合物であることを確認した。収率92.5%。
【0074】
<測定・評価>
得られた試験片を用いて、下記各評価を行った。表1に結果を示す。
【0075】
(シャルピー衝撃強度の維持率の評価)
ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを用い、JIS K7111に準拠して、デジタル衝撃試験機(東洋精機製、DG−5)により、持ち上げ角度150度、使用ハンマー2.0J、測定数n=10の条件で、MD方向にシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度は、数値が大きい程、耐衝撃性に優れていることを示す。
【0076】
次に、ISO多目的ダンベル試験片をノッチ加工したものを、65℃95%湿度条件下に500時間放置して湿熱試験を行い、湿熱試験後の試験片についても同様にシャルピー衝撃強度を測定した。
((湿熱試験後のシャルピー衝撃強度)/(湿熱試験前のシャルピー衝撃強度))×100をシャルピー衝撃強度の維持率(%)とし、耐湿熱性の指標としてこれを評価した。(表中では「シャルピー維持率(%)」で表す。)△以上を合格とする。
◎:湿熱試験後のシャルピー衝撃強度が湿熱試験前のシャルピー耐衝撃強度の90%以上
○:湿熱試験後のシャルピー衝撃強度が湿熱試験前のシャルピー耐衝撃強度の70%以上90%未満
△:湿熱試験後のシャルピー衝撃強度が湿熱試験前のシャルピー耐衝撃強度の50%以上70%未満
×:湿熱試験後のシャルピー衝撃強度が湿熱試験前のシャルピー耐衝撃強度の50%未満、またはシャルピー衝撃強度が1kJ/m未満
【0077】
(金型成形性の評価)
ISO多目的ダンベル試験片の成形体成形条件(日精樹脂工業製、NEX150、成形温度200℃、保持時間50秒)における、金型温度が80℃、90℃、100℃の場合の金型と樹脂成形体との離型性について評価した。△以上を合格とする。
○:非常に離れ易い(試験片の変形がなく、金型からの取り出しが容易)
△:若干離れ難い(試験片の変形が若干あり、金型からの取り出しが困難)
×:離れない(試験片の変形が大きい)
【0078】
比較例1から比較例3:
表1に示す比較例1から比較例3に示す組成を、実施例と同様に樹脂組成物ペレットを得て、試験片の成形、各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
図1には、実施例1に示す組成の樹脂組成物を、それぞれ金型温度を30℃から110℃の各温度に設定して成形した際の各試験片の、示差走査熱量測定(DSC)の結果を示した。90℃以上の金型温度で成形した試験片のDSCチャートでは非晶質成分由来の結晶化ピーク(冷結晶化ピーク)が観測されなかった。そのため、金型温度90℃以上ではすでに結晶化が進んでいたことがわかる。従って、本実施の形態における樹脂成形体は、通常のポリ乳酸樹脂組成物と比較して、低い温度の金型でも結晶化が進んだポリ乳酸樹脂組成物が得られ、金型からの取り出し性が改善されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の活用例として、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの樹脂組成物、樹脂成形体への適用がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
更に(D)多官能性化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)ホスファゼン化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)多官能性化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、を含むことを特徴とする樹脂成形体。
【請求項6】
更に(D)多官能性化合物を含むことを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
前記(B)ホスファゼン化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下含有されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
前記(D)多官能性化合物が、(A)ポリ乳酸100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有されていることを特徴とする請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
少なくとも(A)ポリ乳酸と(B)ホスファゼン化合物と、(C)結晶核剤と、必要に応じて(D)多官能性化合物とを混練し、得られた樹脂組成物を、成形温度が190℃以下、かつ、金型温度が100℃以下で樹脂成形体を製造することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−190380(P2011−190380A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58932(P2010−58932)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】