説明

樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体

【課題】ポリオレフィンとエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)からなる樹脂組成物を溶融成形する際、EVOHの分散不良に基因して発生する成形物の外観不良を改善した樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリオレフィン(A)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)(EVOH(B))、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩(C)、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物(D)、および酢酸ビニル単位の少なくとも一部がケン化されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(E)からなり、かつポリオレフィン(A)とEVOH(B)の質量比が60:40〜99.9:0.1であり、かつポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対してそれぞれ、前記高級脂肪酸金属塩(C)を0.0001〜10質量部の範囲で、前記共役ポリエン化合物(D)を0.000001〜1質量部の範囲で、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(E)を0.3質量部以上含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンとエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下EVOHと略称することがある)からなる樹脂組成物を溶融成形する際に、EVOHの分散不良に基因して発生する膜面異常、より具体的にはミクロな領域におけるEVOHの凝集物生成や、成形物表面の波模様の発生を改善した樹脂組成物、およびかかる樹脂組成物からなる層を含む多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンとEVOHとをブレンドした樹脂組成物は既知である(特許文献1参照)が、この樹脂組成物は一般に相容性が悪く、押出成形によりフィルム、シート、ボトルなどを成形すると、不均一な相分離異物を生じやすく、特に長時間の運転によりこの異物が増加し、成形品の外観を著しく損ねることが知られている(ロングラン成形性の低下)。また、該樹脂組成物の押出加工時にダイ出口の周りに生じるいわゆる「目やに」が成形物中に混入して品質低下をまねく、などの問題を生じやすいことも知られている。
【0003】
このような、ポリオレフィンとEVOHの相容性不良を改善するために、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩および/またはハイドロタルサイト化合物などを配合することが有効なことが知られている(特許文献1および特許文献2参照)。また、これらの組み合わせのほか、ポリオレフィンとEVOHに、ハイドロタルサイト系化合物、炭素数8以上の高級脂肪酸に加えて、さらにホウ素化合物・リン酸および/またはアルカリ(土類)金属のリン酸水素塩・炭素数7以下の低級脂肪酸金属塩などを配合することにより、ポリオレフィンとEVOHを主とする組成物の溶融成形時のロングラン性並びに耐熱性(リグラインド時の繰り返しの熱履歴に対する物性保持性)が改善されることが開示されている(特許文献3、特許文献4および特許文献5参照)。しかしながら、これらの文献においては、フィルム成形の際のフィッシュアイ発生状況に関する評価は、100cm当たりに発生する直径が0.2mm以上のものの個数を対象に調査して行なわれている。
【0004】
一方、ポリオレフィンとEVOHからなる樹脂組成物を溶融成形する際に、相容性不良に起因する流動異常により生じる、成形物表面の波模様の発生を改善した樹脂組成物として、ポリオレフィンおよびEVOHに、上記の炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩、エチレンジアミン四酢酸金属塩およびハイドロタルサイトから選ばれる少なくとも1種の化合物に加え、エチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のケン化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、S−EVOHと称することがある)を配合することにより、得られる樹脂組成物の相容性を改善して成形物の表面の波模様を防止し、これによってリグラインドなどのスクラップ組成物を有効に再利用することが開示されている(特許文献6参照)。
【0005】
さらに、熱可塑性樹脂層およびEVOH層を含む積層体の回収物に、酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂及び多価アルコール化合物を添加することにより、得られる樹脂組成物は溶融成形時にゲル化の発生がなく、成形物における波模様発生やフィッシュアイ発生を防ぎロングラン成形性に優れ、相分離異物(目やに)発生防止に効果があることが開示されている(特許文献7参照)。しかしながら、この文献においては、フィッシュアイに関する評価は、積層体のリグラインド層中の100cm当たりの直径が0.4mm以上のものの個数を対象に調査して行なわれている。
【0006】
一方、エチレン−酢酸ビニル共重合体に、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物を添加する酢酸ビニル系重合体の製法、およびかかる製法で得られた酢酸ビニル系重合体をケン化する酢酸ビニル系重合体ケン化物の製造方法が開示されており、この方法によって得られるEVOHは、着色が少なく、成形時にゲル状ブツの発生も少なく高品質であるとされている(特許文献8参照)。
【0007】
特許文献2〜7に開示された技術により、ポリオレフィンとEVOHとをブレンドした樹脂組成物における、EVOHとポリオレフィンとの相容性は相当に改善され、成形物の外観を改善できる。しかしながら、最近の環境対応(包装材料の減量化・廃棄物量の低減)の流れの中で、カップ・ボトル・フィルムなどの薄層化への動きが一段と強まっており、このため従来までの比較的厚い包装材料においては透明度の影響などで問題にならなかったレベルで、ポリオレフィンとEVOHとをブレンドした樹脂組成物中でのよりミクロな領域での分散性不良や流動異常に起因する外観不良の発生の抑制に関して、なお改善の必要性が生じてきている。
また、特許文献8で開示されているのはEVOH単独の成形物においてゲル状ブツを低減することに関する技術であり、EVOHとポリオレフィンとブレンドした樹脂組成物については何らの教示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−199040号公報
【特許文献2】特開平6−87195号公報
【特許文献3】特開平10−001569号公報
【特許文献4】特開平10−001570号公報
【特許文献5】特開平09−278952号公報
【特許文献6】特開平03−72542号公報
【特許文献7】特開2008−115367号公報
【特許文献8】特開平09−71620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、ポリオレフィンとEVOHとをブレンドした樹脂組成物を溶融成形する際に生じる、外観不良につながる膜面異常はEVOHの分散不良に基因して発生するものであり、より具体的にはミクロな領域におけるEVOHの凝集物生成がその原因であることを見出した。
したがって、本発明の目的は、かかるミクロな領域における凝集物の生成を抑制してEVOHの分散性を改良すること、およびその凝集物に起因した流動異常による成形物表面の波模様の発生などの外観不良発生を抑制し、これによって、ポリオレフィン層とEVOH層を有する積層体などのスクラップ部をリグラインド層として有効に再利用し、外観美麗な成形物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記の目的は、ポリオレフィン(A)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)(以下、単にEVOH(B)と称する)、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩(C)(以下、単に高級脂肪酸金属塩(C)と称する)、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物(D)(以下、単に共役ポリエン化合物(D)と称する)、および酢酸ビニル単位の少なくとも一部がケン化されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(E)(以下、部分ケン化EVA(E)と称する)からなり、かつ前記ポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の質量比が60:40〜99.9:0.1であり、かつ、前記高級脂肪酸金属塩(C)を前記ポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲で、前記共役ポリエン化合物(D)を前記ポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の合計量100質量部に対して0.000001〜1質量部の範囲で、前記部分ケン化EVA(E)を前記ポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上含有する樹脂組成物を提供することにより達成される。
【0011】
上記した樹脂組成物は、好適には、ポリオレフィン(A)、高級脂肪酸金属塩(C)および部分ケン化EVA(E)を予め溶融混練してマスターバッチを得、かかるマスターバッチとポリオレフィン(A)、EVOH(B)および共役ポリエン化合物(D)とを溶融混練して得られる。
【0012】
上記した樹脂組成物に、さらにハイドロタルサイト(F)を、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部含有させて得られる樹脂組成物も本発明の好適な実施態様である。
【0013】
また、上記した2種の樹脂組成物のいずれかに、さらにエチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のケン化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(G)(以下、単にS−EVOH(G)と称する)を、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上含有させて得られる樹脂組成物も本発明の好適な実施態様である。
【0014】
また、部分ケン化EVA(E)として、エチレン含有量50〜98モル%、酢酸ビニル単位のケン化度0.5〜19モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を用いることも、本発明の好適な実施態様である。
【0015】
さらに、上記したいずれかの樹脂組成物からなる層と、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物からなる層の少なくとも2層を含む多層構造体も、本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ミクロな領域でのEVOHの凝集物の生成を抑制して分散性を改善し、かかる凝集物に起因した流動異常の発生を抑制することが可能な樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン層とEVOH層を有する積層体のスクラップなどを原料としても、回収されたリグラインド層として用いることができ、外観不良のない成形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)、および部分ケン化EVA(E)からなり、かつポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の質量比が60:40〜99.9:0.1であり、かつ、前記高級脂肪酸金属塩(C)をポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲で、共役ポリエン化合物(D)をポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)100質量部に対して0.000001〜1質量部の範囲で、部分ケン化EVA(E)をポリオレフィン(A)と前記EVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上含有する。
【0018】
本発明におけるポリオレフィン(A)としては、例えばポリエチレン(低密度、直鎖状低密度、中密度、高密度など);エチレンと1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン類またはアクリル酸エステルを共重合したエチレン系共重合体;ポリプロピレン(ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなど);プロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン類を共重合したプロピレン系共重合体;ゴム系ポリマーをブレンドした変性ポリプロピレン;ポリ(1−ブテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、上述のポリオレフィンに無水マレイン酸を作用させた変性ポリオレフィン;アイオノマー樹脂などを含んでいる。本発明においては、ポリオレフィン(A)として、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体などのポリプロピレン系樹脂、またはポリエチレン、エチレン系共重合体などのポリエチレン系樹脂を用いるのが好ましく、中でもポリプロピレン系樹脂を用いるのがより好ましい。これらのポリオレフィン(A)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、これらのポリオレフィン(A)のうち、重合触媒残渣またはフィラー・顔料などの添加剤に含まれる不純物としてのハロゲン化合物がハロゲン換算で1〜300ppm、好ましくは3〜150ppm含有されているポリオレフィンを用いた場合には、本発明の効果をより顕著に得ることが可能となる。
【0019】
本発明で用いるEVOH(B)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル単位をケン化(加水分解)したものである。エチレン含有量が少なく、かつ酢酸ビニル単位のケン化度(加水分解度)が高いEVOHは、ポリオレフィンとの相容性が不良となりやすい。一方、エチレン含有量が多く、かつ酢酸ビニル単位のケン化度(加水分解度)が低いEVOHは、EVOH自体の熱安定性が不良となりやすい。かかる観点から、本発明で用いるEVOH(B)のエチレン含有量は20〜65モル%の範囲であり、20〜60モル%の範囲であるのが好ましく、20〜50モル%の範囲であるのがより好ましい。一方、EVOH(B)の酢酸ビニル単位のケン化度は96%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上であるのがさらに好ましい。特に、エチレン含有量が20〜65モル%の範囲にあり、かつケン化度が99%以上のEVOHは、ポリオレフィン(A)と積層して用いることにより、ガスバリア性などの特性に優れる容器類が得られるので、本発明の適用対象として特に重要である。
【0020】
EVOH(B)は、本発明の効果を阻害しない範囲、一般的には5モル%以下の範囲で、他の重合性単量体で変性されていてもよい。かかる重合性単量体としては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの高級脂肪酸またはそのビニルエステル;アルキルビニルエーテル;N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミドまたはその4級化物、N−ビニルイミダゾールまたはその4級化物、N−ビニルピロリドン、N,N−ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0021】
EVOH(B)のメルトインデックス(MI;190℃、2160g荷重下で測定)は0.1g/10分以上、好適には0.5g/10分以上であり、また100g/10分以下、好適には50g/10分以下、最適には30g/10分以下であることが望ましい。このとき、EVOH(B)の分散性の観点から、EVOH(B)のMIをMI(B)、ポリオレフィン(A)のMI(190℃、2160g荷重下で測定)をMI(A)としたときのMI(B)/MI(A)は0.1〜100の範囲にあることが好ましく、より好適には0.3〜50の範囲にあるのが望ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物中のポリオレフィン(A)とEVOH(B)の質量比は、ポリオレフィン(A):EVOH(B)=60:40〜99.9:0.1の範囲にあることが、本発明の効果を顕著に得る上で重要である。かかる質量比において、60:40よりもEVOH(B)が多く存在する場合には、EVOH(B)のミクロな領域における凝集の抑制効果を十分に得ることが難しく、一方、99.9:0.1よりもポリオレフィン(A)が多く存在する場合には、本発明の効果が十分に確認できない。この観点より、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の質量比は、65:35〜99.7:0.3の範囲にあることがより好適である。
【0023】
本発明で用いる高級脂肪酸金属塩(C)としては、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸などの金属塩、特に周期律表第I族、第II族または第III族の金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩が挙げられる。これらの中で、カルシウム塩、マグネシウム塩などの周期律表第II族の金属塩が、少量の添加で本発明の効果を奏することができるので好ましい。
【0024】
高級脂肪酸金属塩(C)の添加量は、少なすぎると本発明の効果が十分に得られず、一方、多すぎるとEVOH(B)の熱劣化を促進して、分解ガスによる発泡や、着色などを生じる懸念がある。このため、高級脂肪酸金属塩(C)の添加量は、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲であり、0.001〜1質量部の範囲であることがより好ましい。
【0025】
本発明で用いる共役ポリエン化合物(D)とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物(D)は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物(D)に含まれる。共役ポリエン化合物(D)は、さらに、共役二重結合に加えてその他の官能基、例えばカルボキシル基およびその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基およびその塩、リン酸基およびその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の各種の官能基を有していてもよい。
【0026】
共役ポリエン化合物(D)の具体例としては、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン化合物;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物(D)は1種類の化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の化合物を併用することもできる。
【0027】
共役ポリエン化合物(D)の添加量は、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.000001〜1質量部の範囲であり、0.00001〜1質量部の範囲であることがより好ましい。添加量がポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.000001質量部よりも少ない場合には本発明の効果が十分に得られず、一方、添加量がポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して1質量部を超えると、得られる樹脂組成物のゲル化を促進する懸念がある。
【0028】
共役ポリエン化合物(D)は、ポリオレフィン(A)およびEVOH(B)の混合物に直接配合してもよいが、添加量が微量の場合は本発明の樹脂組成物中に均一に分散させる観点から、相容性の良いEVOH(B)に予め配合しておくのが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物を構成する部分ケン化EVA(E)は、エチレンと酢酸ビニルを公知の方法にて重合したランダム共重合体のほか、他のモノマーを共重合した三元共重合体や、グラフト化などにより変性した変性EVAの酢酸ビニル単位の少なくとも一部をケン化して得られる。必ずしも限定されないが、部分ケン化EVA(E)の酢酸ビニル単位の含有量は、2〜50モル%が好適であり、5〜25モル%であることがより好ましい。酢酸ビニル単位の含有量が2モル%未満、あるいは50モル%を超えると、EVOH(B)の凝集防止に十分な効果が得られないことがある。酢酸ビニル単位のケン化度は0.5〜19モル%であることが好ましく、0.5〜15モル%であることがより好ましい。また、部分ケン化EVA(E)のメルトインデックス(MI;190℃、2160g荷重下で測定)は0.1〜50g/10分以上であることが好ましく、0.5〜30g/10分以上であることがより好ましく、1〜20g/10分以上であることがさらに好ましい。
【0030】
部分ケン化EVA(E)の添加量は、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上であり、より好適には0.5質量部以上である。添加量が0.3質量部よりも少ない場合には、部分ケン化EVA(E)を添加する効果が十分に得られない場合がある。一方、添加量の上限は特に制限されないが、やみくもに添加量を増やしてもEVOHの分散性は一定以上には改善されないので、実用上は30質量部以下で十分である。
【0031】
本発明の樹脂組成物を構成する成分として、上記してきたポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)以外に、さらにハイドロタルサイト(F)を添加することができる。ハイドロタルサイト(F)を本発明の樹脂組成物の構成成分とした場合、樹脂組成物中におけるEVOH(B)の分散性を改善することができるので、好ましい。
【0032】
本発明におけるハイドロタルサイト(F)としては、特に、
Al(OH)2x+3y−2z(A)・aH
(MはMg、CaまたはZnを表し、AはCOまたはHPOを表し、x、y、zは正の整数であり、aは0以上の整数である)
で示される複塩であるハイドロタルサイトを挙げることができ、そのうち特に好適なものとしては次のようなものが例示できる。
MgAl(OH)16CO・4H
MgAl(OH)20CO・5H
MgAl(OH)14CO・4H
Mg10Al(OH)22(CO・4H
MgAl(OH)16HPO・4H
CaAl(OH)16CO・4H
ZnAl(OH)16CO・4H
【0033】
ハイドロタルサイト(F)をさらに添加する場合、その添加量は、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲であり、0.001〜1質量部の範囲であるのがより好ましい。添加量がポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001質量部よりも少ない場合には本発明の効果が十分に得られず、一方、添加量がポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して10質量部を超えると、得られる樹脂組成物中のEVOHの熱劣化を促進して、分解ガスによる発泡や、着色などを生じる懸念がある。
【0034】
また、本発明の樹脂組成物を構成する成分として、上記してきたポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)以外に、さらにS−EVOH(G)を添加することができる。S−EVOH(G)を本発明の樹脂組成物の構成成分とした場合も、樹脂組成物中におけるEVOH(B)の分散性を改善することができるので、好ましい。
【0035】
S−EVOH(G)は、エチレン含有量68〜98モル%、酢酸ビニル単位のケン化度20%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物であり、通常の食品包材に使用されるEVOHとは異なりエチレン含有量が高く、ポリオレフィン(A)およびEVOH(B)の相容性を顕著に改善する効果がある。S−EVOH(G)のエチレン含有量は70モル%以上であるのが好ましく、一方、96モル%以下であることが好ましく、94モル%以下であることがより好ましい。また、酢酸ビニル単位のケン化度は30%以上であるのがより好ましく、40%以上であるのがさらに好ましい。ケン化度の上限には特に限定はなく、99モル%以上であってもよく、実質的にほぼ100%のケン化度のものも使用できる。エチレン含有量が68モル%未満もしくは98モル%を超えてしまうか、または酢酸ビニル単位のケン化度が20%未満の場合では、本発明の効果を十分に奏しない。
【0036】
なお、S−EVOH(G)のエチレン含有量は、本発明においてはそれらの定義から当然EVOH(B)のエチレン含有量より高い。S−EVOH(G)のエチレン含有量とEVOH(B)のエチレン含有量との差は、少なくとも10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることが、ポリオレフィン(A)およびEVOH(B)の相容性改善の観点からより好ましい。
【0037】
S−EVOH(G)のMI(190℃、2160g荷重下で測定)は0.1g/10分以上であることが好ましく、0.5g/10分以上であることがより好ましく、1g/10分以上であることがさらに好ましい。一方、S−EVOH(G)のMIは、100g/10分以下であることが好ましく、50g/10分以下であることがより好ましく、30g/10分以下であることがさらに好ましい。なお、S−EVOH(G)は不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されていてもよく、かかる不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸;前記した酸のメチルまたはエチルエステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
本発明の樹脂組成物にS−EVOH(G)が構成成分として存在する場合、その好適な添加量は、ポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上であり、より好適には0.5質量部以上である。添加量が0.3質量部よりも少ない場合には、S−EVOH(G)を添加する効果が十分に得られない場合がある。一方、添加量の上限は特に制限されないが、やみくもに添加量を増やしてもEVOHの分散性は一定以上には改善されないので、実用上は30質量部以下で十分である。
【0039】
ハイドロタルサイト(F)およびS−EVOH(G)は、それぞれ単独でポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)より構成される本発明の樹脂組成物に添加してもよいが、両者を組合せて添加することで、より高いEVOH(B)のミクロな領域での凝集防止効果が得られる。
【0040】
本発明の樹脂組成物に、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂を添加することも、EVOH(B)のミクロの領域での凝集抑制に効果がある。ここで、変性ポリオレフィン樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその無水物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、酢酸ビニル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムなどの不飽和カルボン酸誘導体;からなる群より選ばれた少なくとも1種の不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性されたポリオレフィン樹脂である。また変性前のポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体などが好適なものとして挙げられる。
【0041】
加えて、EVOHの溶融押出成形時の熱安定性など各種特性を改善するための公知の各種添加剤も、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、本発明の樹脂組成物を構成するEVOH(B)の劣化抑制が期待できるので、添加することが好ましい。これらの添加剤としては、酢酸、乳酸などの有機酸や塩酸、リン酸などの無機酸、およびその周期律第I族、第II族および第III族金属との金属塩、ホウ酸などのホウ素化合物、ステアリン酸などの高級脂肪酸などが例示される。特にホウ酸の添加はEVOH(B)の凝集の抑制に有効であり、好適な添加量はポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜0.1質量部の範囲である。ホウ酸を添加する場合、その添加量がポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.1質量部を超えてしまうと、逆にEVOH(B)が凝集しやすくなる。
【0042】
次に、前記ポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)を混合して本発明の樹脂組成物を得る方法、およびかかる樹脂組成物の成形方法について述べる。
【0043】
本発明の樹脂組成物を得るための混合方法について特に制限はなく、ポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)を一度にドライブレンドして溶融混練する方法;高級脂肪酸金属塩(C)および/または共役ポリエン化合物(D)をポリオレフィン(A)および/またはEVOH(B)に予め配合し、それらを残りの成分と共にドライブレンドして溶融混練する方法などが例示されるが、好適な例としては、ポリオレフィン(A)と、共役ポリエン化合物(D)をEVOH(B)に予め配合した混合物と、ポリオレフィン(A)に高級脂肪酸金属塩(C)と部分ケン化EVA(E)を予め配合した混合物とをドライブレンドして溶融混練する方法が挙げられる。
【0044】
特に上述のように、共役ポリエン化合物(D)をEVOH(B)に予め配合した場合には、共役ポリエン化合物(D)の添加量を少なくしても、本発明の効果を高く得ることができる。共役ポリエン化合物(D)をEVOH(B)に予め配合させる方法は特に限定されないが、EVOH(B)を水/メタノール混合溶媒などのEVOH(B)の良溶媒に溶解させたものに、EVOH(B)100質量部に対して共役ポリエン化合物(D)を0.000001〜10質量部溶解させ、その混合溶液をノズルなどから貧溶媒中に押出して析出・凝固させ、それを洗浄・乾燥して、共役ポリエン化合物(D)を配合したEVOH(B)を得る方法などが例示される。
【0045】
一方、ポリオレフィン(A)に高級脂肪酸金属塩(C)と部分ケン化EVA(E)を予め配合する方法も特に限定されないが、ポリオレフィン(A)、高級脂肪酸金属塩(C)および部分ケン化EVA(E)をドライブレンドする方法;ポリオレフィン(A)、高級脂肪酸金属塩(C)および部分ケン化EVA(E)を溶融混練してペレット化する方法、すなわちマスターバッチを得る方法などが例示される。これらの方法のうち、高級脂肪酸金属塩(C)が通常粉体である観点より、後者の方法の方がハンドリングが容易になることから好ましい。
【0046】
ハイドロタルサイト(F)、S−EVOH(G)を添加する場合の配合方法についても特に限定はなく、ポリオレフィン(A)、EVOH(B)、高級脂肪酸金属塩(C)、共役ポリエン化合物(D)および部分ケン化EVA(E)の混合物と、ハイドロタルサイト(F)および/またはS−EVOH(G)をドライブレンドして溶融混練してもよい。なお、予めポリオレフィン(A)、高級脂肪酸金属塩(C)およびEVA(E)を溶融混練してペレット化し、マスターバッチを得る場合は、かかるマスターバッチの製造時に、ハイドロタルサイト(F)および/またはS−EVOH(G)も同時に配合してペレット化すれば、最終的な本発明の樹脂組成物の溶融混練時に取り扱う材料の数を減らすことができる観点から好ましい。
【0047】
また、本発明の樹脂組成物に、上記してきた以外の他の添加剤を配合することも、本発明の効果を阻害しない範囲で自由である。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、または他の高分子化合物を挙げることができる。添加剤の具体的な例としては次の様なものが挙げられる。
【0048】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)など。
【0049】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなど。
【0050】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレートなど。
【0051】
着色剤:酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラなど。
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウムなど。
【0052】
これら添加剤のうち、着色剤および充填剤などについては、本発明の樹脂組成物を構成するEVOH(B)のミクロの領域での凝集を促進する不純物を含むものがしばしば見られる。このため、これらの添加剤を含ませる場合には、必要に応じて高級脂肪酸金属塩(C)および/または共役ポリエン化合物(D)および/または部分ケン化EVA(E)の配合量を増やす必要がある場合もある。
【0053】
また、他の多くの高分子化合物も、本発明の作用効果が阻害されない程度に本発明の樹脂組成物に配合することもできる。
【0054】
本発明の樹脂組成物を得るための各成分の混合手段としては、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサーなどが例示される。
【0055】
また、本発明の樹脂組成物は、周知の溶融押出成形機、圧縮成形機、トランスファ成形機、射出成形機、吹込成形機、熱成形機、回転成形機、ディップ成形機などを使用して、フィルム、シート、チューブ、ボトル、カップなどの任意の成形品に成形することができる。成形に際しての押出温度は、本発明の樹脂組成物を構成するポリオレフィン(A)の種類、ポリオレフィン(A)およびEVOH(B)のメルトインデックス、ポリオレフィン(A)およびEVOH(B)の組成比または成形機の種類などにより適宜選択されるが、多くの場合170〜350℃の範囲である。
【0056】
本発明の樹脂組成物をポリオレフィンおよびEVOHからなる層を含有する多層構造体の層構成として用いる際には、少なくとも1層以上を任意の位置に配置した層構成を取り得る。かかる層構成としては、本発明の樹脂組成物をF、ポリオレフィンをA、EVOHをB、接着性樹脂をADで表すと、例えば次のような層構成として表される。ここでADとしては、前記した、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂を好適に用いることができる。
3層 A/F/B
4層 F/B/AD/A、A/F/AD/B
5層 F/AD/B/AD/F、A/F/B/AD/A、A/F/B/F/A
6層 A/F/AD/B/AD/A
7層 A/F/AD/B/AD/F/A
【0057】
またこのような多層構造体において、本発明の樹脂組成物は、かかる多層構造体のスクラップを溶融混練したもので代用することもできる。また、該多層構造体に加えて、他のポリオレフィン成形体のスクラップを混合して溶融混練して得ることもできる。したがって多層構造体にAD層が存在する場合には、本発明の樹脂組成物中にADが構成成分として含まれることになる。
【0058】
上記の層構成の多層構造体は、ガスバリア性に優れたEVOHを含有しているので、ガスバリア性の要求される食品、医薬品、医療用具などの包装材として有用である。
【0059】
多層成形方法としては、一般的に樹脂層の種類に対応する数の押出機を使用し、この押出機内で溶融された樹脂の流れを重ねあわせた層状態で同時押出成形する、いわゆる共押出成形により実施する方法が好適である。別の方法として、押出コーティング、ドライラミネーションなどの多層成形方法も採用され得る。また、本発明の樹脂組成物の単独成形品または本発明の樹脂組成物を含む多層構造体を一軸延伸、二軸延伸またはブロー延伸などの延伸を実施することにより、力学的物性、ガスバリア性などに優れる成形物を得ることができる。
【0060】
本発明の樹脂組成物を用いて得られた成形物は、外観が美麗であり、かつ本発明の樹脂組成物中におけるEVOHのミクロな領域での凝集が抑制され均一に分散していることから力学的物性、ガスバリア性などにも優れるので、その工業的意義は大きい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例などにより本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の製造例、実施例および比較例において、(部)は特に断わりのない限り質量基準で表したものである。
【0062】
[EVOH中に配合された共役ポリエン化合物(D)の定量方法]
EVOH中に含有される共役ポリエン化合物(D)の量は、以下のような手順で定量した。共役ポリエン化合物(D)が配合されたEVOHを粉砕し、100メッシュのふるいによって粗大粒子を除去したもの10gを、クロロホルム100mlを用いて48時間ソックスレー抽出した。この抽出液中の共役ポリエン化合物量は、それぞれの共役ポリエン化合物の標品を用いて検量線を作成し、高速液体クロマトグラフィーにて定量した。
【0063】
製造例1
(1)エチレン含有量が32モル%、ケン化度99.8モル%、水/フェノール=15/85(質量比)の混合液を溶媒として30℃で測定した極限粘度[η]phが0.092l/gのEVOH2000部を、18000部の水/メタノール=40/60(質量比)の混合溶媒に入れ、60℃で6時間攪拌し、完全に溶解させた。この溶液に共役ポリエン化合物(D)として2部のソルビン酸を添加し、さらに60℃で1時間攪拌してソルビン酸を完全に溶解させ、ソルビン酸を含むEVOH溶液を得た。このEVOH溶液を直径4mmのノズルより、0℃に調整した水/メタノール=5/95(質量比)の凝固浴中に連続的に押出して、ストランド状にEVOHを凝固させた。このストランドをペレタイザーに導入して、多孔質のEVOHチップを得た。
【0064】
(2)上記(1)で得られた多孔質EVOHチップを該チップ100部あたり0.1質量%酢酸水溶液2000部、次いでイオン交換水2000部を用いて20℃で順次洗浄した後、0.092質量%のホウ酸水溶液2000部に20℃で4時間浸漬させた。EVOHチップを脱液・分離して、熱風乾燥機で80℃、4時間乾燥を行い、さらに100℃で16時間乾燥を行った。得られたEVOHチップ中のホウ酸の含有量はEVOH100部に対して0.11部、ソルビン酸の含有量は0.01部であった。また、このEVOHのメルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.6g/10分であった。このEVOHチップをEVOH(B1)と称する。
【0065】
製造例2
製造例1(1)において、共役ポリエン化合物(D)としてソルビン酸2部に代えてβ−ミルセン2部を使用した以外は、製造例1と同様の操作を行い、EVOH100部に対してβ−ミルセン0.05部を含有するEVOH(B2)を得た。
【0066】
製造例3
製造例1(1)において、EVOHの水/メタノール溶液にソルビン酸を添加しなかった以外は、製造例1と同様の操作を行い、EVOH(B3)を得た。
【0067】
製造例4
製造例1(1)において、EVOHの水/メタノール溶液に添加するソルビン酸の量を2部から0.4部に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、EVOH100部に対してソルビン酸の含有量が0.002部であるEVOH(B4)を得た。
【0068】
製造例5
製造例1(1)において、EVOHの水/メタノール溶液に添加するソルビン酸の量を2部から0.65部に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、EVOH100部に対してソルビン酸の含有量が0.0032部であるEVOH(B5)を得た。
【0069】
製造例6
(1)エチレン含有量が32モル%、ケン化度99.8モル%、水/フェノール=15/85(質量比)の混合液を溶媒として30℃で測定した極限粘度[η]phが0.112l/gのEVOHを用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、多孔質のEVOHチップを得た。
(2)上記(1)で得られた多孔質のEVOHチップを、製造例1(2)と同様に0.1質量%酢酸水溶液とイオン交換水で順次洗浄した後、ホウ酸を含む水溶液に浸漬させることなく製造例1(2)と同様にして乾燥操作を行い、EVOH(B6)を得た。このEVOHのメルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)は1.5g/10分であった。
【0070】
製造例7
低密度ポリエチレン{LDPE、メルトインデックス1.5g/10分(ASTM−D1238、190℃)、以下単にLDPEと称する}40部、高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムを2部、および酢酸ビニル単位の含有量が7.1モル%、酢酸ビニル単位のケン化度が6モル%、メルトインデックス(ASTM−D1238、190℃、2160g荷重)が2.5g/10分である部分ケン化EVA(E)60部をドライブレンドして、得られた混合物を30mmφの同方向二軸押出機(TEX−30N(商品名)、日本製鋼所製)を用いて200℃の押出温度で溶融混練した後ペレット化し、マスターバッチ(MB1)を得た。
【0071】
製造例8
製造例7において、ハイドロタルサイト(F)であるMgAl(OH)16CO・4HOを2部をさらに添加してドライブレンドして、得られた混合物を製造例7と同様にペレット化して、マスターバッチ(MB2)を得た。
【0072】
製造例9
製造例7において、部分ケン化EVA(E)を添加しなかった以外は製造例7と同様にペレット化して、マスターバッチ(MB3)を得た。
【0073】
製造例10
製造例7において、ステアリン酸カルシウムを添加しなかった以外は製造例7と同様にペレット化して、マスターバッチ(MB4)を得た。
【0074】
製造例11
製造例7において、高級脂肪酸金属塩(C)としてステアリン酸カルシウム2部の代わりにステアリン酸マグネシウム2部を使用した以外は製造例7と同様にペレット化して、マスターバッチ(MB5)を得た。
【0075】
製造例12
製造例7において、部分ケン化EVA(E)の添加量を60部から14部に変更した以外は製造例7と同様にペレット化を行い、マスターバッチ(MB6)を得た。
【0076】
実施例1
ポリオレフィン(A)として、ポリプロピレン{メルトインデックス5.4g/10分(ASTM−D1238、230℃)、以下PPと称する}を使用した。このPP88部、EVOH(B1)10部、およびマスターバッチ(MB1)5.1部をドライブレンドして、混合物を得た。この混合物の組成は、ポリオレフィン(A)であるPPが88部とLDPEが2部、EVOH(B)が10部、高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムが0.1部、共役ポリエン化合物(D)であるソルビン酸が0.001部である。20mmφ一軸押出機(東洋精機製ラボプラストミル)と300mm幅Tダイを用いて、この混合物の40μm厚み単層フィルムの製膜を実施した。製膜温度は、押出機を190〜230℃、ダイを220℃とした。スクリュー回転数は40rpm、吐出量は0.95kg/時であった。
上記混合物を押出機ホッパーに投入してから1時間後に、約50mのフィルムサンプルを採取した。その中央部に10cm×10cmの枠を書いて、卓上蛍光灯の前にかざし、枠内にある、直径(最大径)が約200μm以上の大きさを持つEVOH凝集物の数を計数した。この計数測定をフィルムの長さ方向に20cmごとに計100箇所について実施し、100cm当たりの平均のEVOH凝集物数を算出したところ、0.12個であった。
【0077】
実施例2
実施例1において、ソルビン酸を含有するEVOH(B1)10部の代わりに、β−ミルセンを含有するEVOH(B2)10部を用いた以外は、実施例1と同様にしてドライブレンド混合物を得、かかる混合物から単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.14個であった。
【0078】
実施例3
実施例1において、マスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドする代わりに、ハイドロタルサイト(F)を含むマスターバッチ(MB2)を5.2部ドライブレンドした以外は、実施例1と同様にしてドライブレンド混合物を得、かかる混合物から単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.05個であった。
【0079】
比較例1
実施例1において、PPを90部、および共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を10部ドライブレンドした。この混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり100個以上であった。
【0080】
比較例2
実施例1において、PPを88部、共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を10部、および高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムを含むマスターバッチ(MB3)を2.1部ドライブレンドした。この混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり6.01個であった。
【0081】
比較例3
実施例1において、PPを88部、共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を10部、および高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムと部分ケン化EVA(E)を含むマスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドした。この混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.71個であった。
【0082】
比較例4
実施例1において、マスターバッチ(MB1)5.1部の代わりに部分ケン化EVA(E)を含有しないマスターバッチ(MB3)5.1部を用いた以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり6.12個であった。
【0083】
実施例4
実施例1において、PPを68部、EVOH(B5)を30部、および高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムと部分ケン化EVA(E)を含むマスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドした以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.29個であった。
【0084】
実施例5
実施例1において、EVOH(B1)10部の代わりにホウ酸を含有しないEVOH(B6)10部を用いた以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.42個であった。
【0085】
実施例6
実施例1において、ステアリン酸カルシウムを含むマスターバッチ(MB1)5.1部の代わりにステアリン酸マグネシウムを含むマスターバッチ(MB5)5.1部を用いた以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.11個であった。
【0086】
比較例5
実施例1において、マスターバッチ(MB1)5.1部の代わりに高級脂肪酸金属塩(C)を含有しないマスターバッチ(MB4)5.1部を用いた以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり1.18個であった。
【0087】
比較例6
実施例1において、PPを48部、EVOH(B4)を50部、およびマスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドした以外は実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり3.50個であった。
【0088】
比較例7
PPを88部、共役ポリエン化合物(D)を含むEVOH(B1)を10部、高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムと部分ケン化EVA(E)を含むマスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドし、さらにステアリン酸カルシウムを19.9部加えてドライブレンドした。この混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムの製膜を実施しようとしたが、樹脂から分離した液体状のステアリン酸カルシウムがTダイのリップ部より噴出すると共に、フィルムに多数の穴が空いたため、EVOH凝集物数の計数は不可能であった。
【0089】
実施例7
実施例1において、マスターバッチ(MB1)5.1部の代わりに、マスターバッチ(MB6)2.8部を用いた以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.31個であった。
【0090】
実施例8
実施例1において、EVOH(B1)10部の代わりに共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてドライブレンドして、得られた混合物に、共役ポリエン化合物(D)であるソルビン酸をEVOH(B3)10部に対して0.001部さらにドライブレンドした。得られた混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.28個であった。
【0091】
実施例9
実施例1において、ポリオレフィン(A)として、PP88部の代わりに、高密度ポリエチレン{メルトインデックス0.9g/10分(ASTM−D1238、190℃)、以下HDPEと称する}88部を使用した以外は、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり0.17個であった。
【0092】
比較例8
実施例1において、PPを88部、共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を10部、およびマスターバッチ(MB1)5.1部をドライブレンドし、さらに、共役ポリエン化合物(D)であるソルビン酸を5部加え、均一にドライブレンドした。この混合物を用いて、実施例1と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり100個以上であった。
【0093】
比較例9
実施例9において、HDPEを90部用い、マスターバッチ(MB1)を添加しなかったこと以外は実施例9と同様にして単層フィルムを製膜して、得られたフィルムにおけるEVOH凝集物の数を計数したところ、100cm当たり4.56個であった。
【0094】
実施例10
下記の4種7層共押出キャスト製膜設備を用いて、本発明の樹脂組成物層を含む共押出製膜試験を実施した。
押出機(1):一軸、スクリュー直径65mm、L/D=22、外層ポリオレフィン用
押出機(2):一軸、スクリュー直径40mm、L/D=26、本発明の樹脂組成物用
押出機(3):一軸、スクリュー直径40mm、L/D=22、接着性樹脂用
押出機(4):一軸、スクリュー直径40mm、L/D=26、EVOH用
押出機(1)にPPを、押出機(2)に実施例1と同様にPPを88部、EVOH(B1)を10部、マスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドして得られた混合物を、押出機(3)に無水マレイン酸変性ポリプロピレン系の接着性樹脂(ADMER QF−500(商品名)、三井化学製)を、押出機(4)にEVOH(B1)をそれぞれフィードして共押出製膜を行った。押出温度は、押出機(1)を200〜240℃、押出機(2)を160〜220℃、押出機(3)を160〜230℃、押出機(4)を170〜210℃、フィードブロックおよびダイは220℃に設定した。製膜した多層フィルムの構成および厚みは、PP/本発明の樹脂組成物/接着性樹脂/EVOH/接着性樹脂/本発明の樹脂組成物/PP=30/15/2.5/5/2.5/15/30μmの、トータル厚み100μmの4種7層の対象構成とした。
製膜開始から2時間後の多層フィルムをサンプリングし、外観を観察したところ、EVOHの凝集による外観不良はほとんど認められず、実用上問題のない多層フィルムが得られた。
【0095】
比較例10
実施例10の押出機(2)にフィードした混合物を、比較例1で使用した、PP90部EVOH(B3)10部をドライブレンドして得た混合物に変更した以外は、実施例10と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムは、EVOHの凝集物による外観不良が激しく認められ、実用に供することは困難なレベルであった。
【0096】
比較例11
実施例10の押出機(2)にフィードした混合物を、比較例3で使用した、PPを88部、共役ポリエン化合物(D)を含まないEVOH(B3)を10部、および高級脂肪酸金属塩(C)であるステアリン酸カルシウムと部分ケン化EVA(E)を含むマスターバッチ(MB1)を5.1部ドライブレンドした混合物に変更した以外は、実施例10と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの外観は、比較例10で得られた多層フィルムよりは良好であったが、依然としてEVOHの凝集物による外観不良が明瞭に認められ、実用に供することは困難なレベルであった。
【0097】
比較例12
実施例10の押出機(2)にフィードした混合物を、比較例4で使用した、PPを88部、EVOH(B1)を10部、および部分ケン化EVA(E)を含有しないマスターバッチ(MB3)を5.1部ドライブレンドした混合物に変更した以外は、実施例10と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの外観は、比較例10で得られた多層フィルムよりは良好であったが、依然としてEVOHの凝集物による外観不良が明瞭に認められ、実用に供することは困難なレベルであった。
【0098】
比較例13
実施例10の押出機(2)にフィードした混合物を、比較例5で使用した、PPを88部、EVOH(B1)を10部、および高級脂肪酸金属塩(C)を含有しないマスターバッチ(MB4)を5.1部ドライブレンドした混合物に変更した以外は、実施例10と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの外観は、比較例10で得られた多層フィルムよりは良好であったが、依然としてEVOHの凝集物による外観不良が明瞭に認められ、実用に供することは困難なレベルであった。
【0099】
実施例11
実施例10の押出機(2)にフィードした混合物を、実施例3で使用した、PPを88部、EVOH(B1)を10部、およびハイドロタルサイト(F)を含有するマスターバッチ(MB2)を5.2部ドライブレンドした混合物に変更した以外は、実施例10と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの外観は、実施例10よりもさらに良好で、EVOHの凝集物による外観不良は全く認められなかった。
【0100】
各実施例・比較例の結果を、表1および表2にまとめて示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0103】
ポリオレフィン(A)、EVOH(B)、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩(C)、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物(D)、および部分ケン化EVA(E)からなり、かつポリオレフィン(A):EVOH(B)=60:40〜99.9:0.1(質量比)であり、前記高級脂肪酸金属塩(C)をポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部、前記共役ポリエン化合物(D)をポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.000001〜1質量部、前記部分ケン化EVA(E)をポリオレフィン(A)とEVOH(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上有する樹脂組成物を提供することにより、EVOHの凝集およびその凝集に起因した流動異常による外観不良を防止し、外観美麗な成形物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン(A)、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩(C)、沸点20℃以上の共役ポリエン化合物(D)、および酢酸ビニル単位の少なくとも一部がケン化されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(E)からなり、かつ前記ポリオレフィン(A)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の質量比が60:40〜99.9:0.1であり、かつ、前記高級脂肪酸金属塩(C)を前記ポリオレフィン(A)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲で、前記共役ポリエン化合物(D)を前記ポリオレフィン(A)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100質量部に対して0.000001〜1質量部の範囲で、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体(E)を前記ポリオレフィン(A)と前記エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100質量部に対して0.3質量部以上含有する樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン(A)、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属塩(C)および酢酸ビニル単位の少なくとも一部がケン化されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(E)を予め溶融混練してマスターバッチを得、かかるマスターバッチとポリオレフィン(A)、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)および沸点20℃以上の共役ポリエン化合物(D)とを溶融混練して得られる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、ハイドロタルサイト(F)を、ポリオレフィン(A)とエチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(B)の合計量100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲で含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
酢酸ビニル単位の少なくとも一部がケン化されたエチレン−酢酸ビニル共重合体(E)が、エチレン含有量50〜98モル%、酢酸ビニル単位のケン化度0.5〜19モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体部分ケン化物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層と、エチレン含有量20〜65モル%、酢酸ビニル単位のケン化度96%以上であるエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物からなる層の少なくとも2層を含む多層構造体。

【公開番号】特開2010−241862(P2010−241862A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89132(P2009−89132)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】