説明

樹脂組成物並びに樹脂成形体およびその製造方法

【課題】深み感のあるシルキー性でマット調のある高意匠性を具えた樹脂物の成形を可能とする。
【解決手段】ポリ乳酸と重量平均分子量が10万以上のポリプロピレンと無機充填剤とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物並びに樹脂成形体およびその製造方法に関し、詳しくは、強度や成形性を保持し、見た目の風合いや感触に高級感が付与された樹脂品の作製に好適な樹脂組成物並びに樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の室内などに設けられた樹脂製品には、成形性等の製造適正や成形後の強度等、安全適正、その他意匠的外観や見た目の質感(例えば光沢感や触った際の感触)など、種々の性能を考慮して、広く知られた樹脂や樹脂組成物の中から適宜所望の性能が満たされるように選択されている。
【0003】
近年では、製造、安全適正のみならず、使用済み樹脂製品の再利用性や環境適正が重要視されると共に、つや消し状の見た目や触れたときの感触が良好である等の高級感を有することが重要視されている。
【0004】
例えば自動車内装用として従来から汎用されている、オレフィン系のプラスチックス材は、いわゆる「プラスチッキー」と呼ばれる、高光沢、ソリッド感、接触した際のキイキイ音などのプラスチックス特有の特徴を有している。
【0005】
また、例えばステアリングホイール等の自動車用内装品の種類によっては、その触感の面から良好な手触り感が得られるように、軟質性のポリウレタンやポリ塩化ビニルをベースとする材料などが用いられている。
【0006】
一方、近年では植物(バイオマス)や植物資源から合成されたバイオプラスチックスが生分解性を有する等の点から注目され、種々の分野で利用されてきており、上記のような自動車の室内などに設けられた樹脂製品その他家電部品などに広く用いられつつある。
【0007】
上記に関連して、ポリ乳酸とポリアルキレンエーテルとの共重合体に、ポリアルキレンエーテルを主成分とする可塑剤を混合したポリ乳酸組成物が開示されており(例えば、特許文献1参照)、優れた柔軟性、可撓性、透明性、光沢を有するとされている。
【特許文献1】特開平8−199052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プラスチックス製品は、光沢があるだけで高級感が失われやすい傾向がある。したがって、汎用されているプラスチックス材では、安っぽさを感じさせる質感を与えてしまう。
【0009】
このような高光沢感や見た目の質感を改善するため、つや消し剤の添加やエンボス加工等が施されたが、これまで知られている技術だけでは、より高級感を持たせる点で不充分であった。特に、射出成形により平滑な金型面を写し取った場合には、プラスチッキーな特徴が生じやすい。
【0010】
前記バイオプラスチックスとしてはポリ乳酸が知られているが、ポリ乳酸のみで樹脂品を構成しようとすると、堅くて脆く所要の強度が得られない、あるいは流動しにくく固まりにくい性質を有するため成形性が悪く、しかも製造工程が複雑でコスト面でも劣るなど、成形材料に不適とされていた。
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、深み感のあるシルキー性とマット調とを有する高意匠性を具えた樹脂物の成形が可能な樹脂組成物、並びにこれを用いた樹脂成形体およびその製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、硬質系のポリオレフィンであるポリプロピレンとポリ乳酸との混練を無機充填剤の存在下で行なう構成とするのが、特に受けた光の乱反射を生じさせて深み感のあるシルキー性でマット調の風合いを付与するのに有効であるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の第1の発明である樹脂組成物は、ポリ乳酸(PLA)と、重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)と、無機充填剤とを用いて構成したものである。
【0014】
本発明の樹脂組成物においては、無機充填剤と共に、ポリ乳酸(PLA)と重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)とを混合すると、PLAおよびPPが微細に分散(好ましくは数十ミクロンの径に分散)された混合物が得られ、成形した際に成形された樹脂表面において、高収縮性のポリプロピレンの共存下、収縮率が小さく抑えられたポリ乳酸が微結晶化して、受けた光を乱反射させ得るように高低差の小さいミクロンオーダーで凹凸状に形成され、マット調を発現すると共に、PLAとPPとの界面等での屈折率の違いからシルキー感も付与することができる。
すなわち、ポリ乳酸よりもポリプロピレンの方が収縮率が大きいため、両者の収縮過程でマット調でシルキー感のある表面性状が形成される。
【0015】
前記ポリ乳酸と前記ポリプロピレンとの比(PLA:PP)は、5:95〜95:5の範囲内が好ましい。PLA:PPの比が前記範囲内であると、マット調を有してシルキー感のある樹脂物の成形が好適に行なえる。
【0016】
本発明の樹脂組成物においては、無機充填剤の含有量が全質量の0.1〜50質量%の範囲内であると効果的である。前記範囲内で無機充填剤を含んでいると、より微細に、具体的には20μm程度の粒径にて微分散させることができ、成形の際にポリ乳酸とポリプロピレンとの収縮率の違いを利用して収縮率の小さい状態にあるポリ乳酸(微結晶)を凸状に形成し、両者の収縮過程でマット調でシルキー感のある表面性状を得るのに有効である。
【0017】
第2の発明である樹脂成形体は、上記した本発明の樹脂組成物を用いてなるものである。したがって、光沢感が抑えられた低光沢な外観や深み感のあるシルキー性でマット調を有し、高級感を具えた樹脂成形体である。
【0018】
第2の発明である樹脂成形体は、射出成形後にアニール処理を施すことが有効である。射出成形後にアニール処理を施すことで、ポリプロピレンが更に収縮し、ポリ乳酸の微結晶化が促進されるので、ポリプロピレンの単独物性を抑えた低グロスの(光沢感の低い)表面物性が得られ、マット調でシルキー感のある表面性を付与するのに効果的である。
【0019】
第3の発明である樹脂成形体の製造方法は、無機充填剤と共にポリ乳酸(PLA)と重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)とを溶融混練して樹脂組成物を調製する工程と、調製された樹脂組成物を射出成形する工程とで構成されたものである。
【0020】
ポリ乳酸と高収縮性のポリプロピレンとの溶融混練を無機充填剤の共存下で行なうことで、PLAおよびPPの分散を微細に、好ましくは数十ミクロンの粒径になるように行なえ、成形を射出成形により行なうことで、ポリプロピレン(PP)は冷却時に大きく収縮し、収縮したPP膜に対して収縮率が小さく抑えられたポリ乳酸が結晶化して現れ、表面に受けた光を乱反射させ得る高低差の小さいミクロンオーダーの微細な凹凸が形成されるので、マット調でシルキー感のある表面性状に成形することができる。
【0021】
第3の発明には、射出成形後、アニール処理を施す工程を更に設けることができる。アニール処理を施すことで、ポリプロピレンが更に収縮し、ポリ乳酸の微結晶化が促進されるので、ポリプロピレンの単独物性を抑えた低グロスの(光沢感の低い)表面物性が得られ、より効果的にマット調でシルキー感のある表面性を付与することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、深み感のあるシルキー性とマット調とを有する高意匠性を具えた樹脂物の成形が可能な樹脂組成物、並びにこれを用いた樹脂成形体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の樹脂組成物について詳細に説明すると共に、該説明を通じて本発明の樹脂成形体およびその製造方法についても詳述する。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸(PLA)と、重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)と、無機充填剤とを(好ましくは分散状態にして)含んでなり、必要に応じて更に着色剤や物性調整剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【0025】
−ポリ乳酸−
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸の少なくとも一種を含有する。ポリ乳酸は、植物(バイオマス)や植物資源から合成された生分解性の樹脂材料(バイオプラスチックス)であり、大気中のCO量の増大を伴なうことなく燃焼処理可能であり、環境負荷の軽減に有用である。
【0026】
一方、ポリプロピレンは一般に脆く成形性に劣るため、本発明においては、後述する特定のポリプロピレンと共に用いることで、強度および成形性が高められると共に、特定のポリプロピレンの収縮時に低収縮性のポリ乳酸を存在させて、成形体の表面性状をマット調でシルキー感のある状態にすることができる。
【0027】
前記ポリ乳酸としては、例えば、L−乳酸を構成単位とするポリL−乳酸、D−乳酸を構成単位とするポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸とを構成単位とするポリDL−乳酸等、及びこれらの混合物が挙げられ、L−乳酸及び/又はD−乳酸には、乳酸系以外の他の単量体が共重合されていてもよい。
【0028】
なお、ポリ乳酸の重合法としては、特に制限はなく、縮重合法、開環重合法など公知の方法のいずれによって重合されたものであってもよい。例えば、縮重合法による場合は、ポリ乳酸はL−乳酸もしくはD−乳酸又はこれらの混合物を直接脱水縮重合することにより任意の組成に構成されたものである。また、開環重合法による場合は、乳酸系樹脂は乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等と共に混合し、触媒を用いて重合させることにより、任意の組成に構成されたポリ乳酸としたものである。前記ラクチドには、L−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、L−乳酸及びD−乳酸からなるDL−ラクチドがある。
【0029】
ポリ乳酸のポリ乳酸組成物中における含有量としては、後述するポリプロピレンとの比を満たす範囲で、1〜99質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。
【0030】
−ポリプロピレン−
本発明の樹脂組成物は、重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)の少なくとも一種を含有する。このポリプロピレンは、比較的高分子量であり、高収縮率を発現する。なお、一般にポリプロピレンは、成形性、成形後の強度等の物性に優れる。
【0031】
一方、ポリプロピレンは一般に、高光沢性で触感もいわゆるプラスチッキーで悪く安っぽさを与えるため、本発明においては、前記ポリ乳酸と共に用いることで、低収縮性のポリ乳酸を結晶化を促進してPP面に存在させるようにし、成形後の表面性状をマット調でシルキー感のある状態にすることができる。
【0032】
前記ポリプロピレンの分子量は、重量平均分子量で10万以上であり、成形時に低収縮性を示すポリ乳酸に対して、成形時に大きな収縮性示してポリ乳酸の凹凸の形成を可能とするものである。好ましい分子量は15万以上であり、より好ましくは17万〜25万であり、特に好ましくは20万〜22万の範囲内である。
前記重量平均分子量は、光散乱光度計(大塚電子(株)製)を用いて好適に測定されるものである。
【0033】
前記ポリプロピレンの樹脂組成物中における含有比率としては、シルキー感およびマット調の付与、並びに(特に射出成形した際の)グロスの低減(低光沢化)の観点からは、全質量に対して1〜99質量%の範囲が好ましく、30〜70質量%の範囲がより好ましい。
【0034】
なお、上記したポリ乳酸およびポリプロピレンは、公知の方法により合成することが可能であり、また、公知のポリマー材料を適宜選択して用いることも可能である。
【0035】
また、前記ポリ乳酸(PLA)と前記ポリプロピレン(PP)との比(PLA:PP)としては、5:95〜95:5が好適であり、より好ましくは30:70〜70:30であり、特に好ましくは45:55〜55:45である。PLA:PPの比が前記範囲内であると、マット調でシルキー感のある表面性状の形成に効果的である。
【0036】
本発明において、収縮率とは、樹脂の成形時に結晶化する過程で収縮(寸法が変化)する度合い(%)を示すものであり、下記式により求められるものである。
収縮率(%)={(金型寸法)−(成型品寸法)/金型寸法}×100
【0037】
−無機充填剤−
本発明のポリ乳酸組成物は、無機充填剤の少なくとも一種を含有する。この無機充填剤は、ポリ乳酸(PLA)およびポリプロピレン(PP)の混合を微分散して行なうのに有効であり、また、PLAの収縮率を小さく抑えて、PPが高収縮する際にPLAを結晶化してPP面に微分散した状態で存在させることができる。これにより、PP面に受けた光を乱反射させ得る微細なPLAが凸状に存在し、成形後の表面性状をマット状にすると共にシルキー感のある状態にすることができる。
【0038】
前記無機充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維などが好適である。
【0039】
無機充填剤の樹脂組成物中における含有量としては、全質量の0.1〜50質量%が好ましい。該含有量が前記範囲内であると、マット調でシルキー感のある表面性状を形成するのに有効である。好ましい含有量は、全質量の0.1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0040】
上記したポリ乳酸、ポリプロピレン、および無機充填剤の好ましい組み合わせの例としては、ポリ乳酸:ポリプロピレン:タルク=45:45:10の組み合わせが挙げられる。
【0041】
上記した以外に、本発明の樹脂組成物を着色された組成物に構成する場合には、更に着色剤を含有することができる。前記着色剤としては、例えば染料や顔料を用いることができ、公知の染料、顔料を目的や場合に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物においては、既述のポリ乳酸およびポリプロピレンは、それぞれ粒子状に分散して含有されていることが望ましい。分散された状態での、前記ポリ乳酸の平均粒子径は、0.01〜100μmが好ましく、1〜30μmがより好ましく、また、前記ポリプロピレンの平均粒子径は、0.01〜100μmが好ましく、1〜30μmがより好ましい。ここでの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡〔(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて好適に測定できる(以下同様。)。
【0043】
ポリ乳酸とポリプロピレンとの分散は、溶融混練法を利用して好適に行なうことができる。例えば、所定量のポリ乳酸と所定量のポリプロピレンとを所望の無機充填剤と共にミキサーにより均一にブレンドした後、二軸押出機を用いてシリンダー温度160〜200℃の温度範囲内で溶融混練することにより行なえ、例えばペレット状にして樹脂組成物を調製することができる。
【0044】
前記二軸押出機以外に、他の公知の溶融押出機やラボプラストミル等のミルを用いてもよい。溶融押出機による場合には、所定量のポリ乳酸と所定量のポリプロピレンとを無機充填剤と共に溶融押出機に装填し、機内に備えられた回転スクリューで加熱及び/又は加圧しつつ溶融、混練して行なうようにしてもよい。この場合、加熱は、200〜250℃の温度範囲が好適である。
【0045】
前記二軸押出機などの溶融押出機は、市販の溶融押出機など従来公知の溶融押出機を適宜選択して使用できる。
【0046】
本発明の樹脂成形体は、既述の本発明の樹脂組成物を用いてなるものであり、具体的には所望の組成に調製された組成物を成形する等して作製することができる。なお、樹脂組成物を構成する各成分についての詳細は既述の通りである。
【0047】
本発明の樹脂成形体の製造は、具体的には例えば以下のように行なえる。
所定量のポリL−乳酸(ポリ乳酸)と所定量のポリプロピレン(重量平均分子量)とをタルク(無機充填剤)と共にミキサーで混合して二軸押出機に装填し、二軸押出機のシリンダー温度を200℃に制御して溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得る。そして、溶融混練して得たペレット状の樹脂組成物を射出成形機に導入し、射出成形機を所望の成形条件(好ましくは、シリンダー設定温度155〜200℃、金型温度30〜80℃、射出および保圧の時間10〜30秒、冷却時間10〜60秒)に設定して射出成形することにより、角板(例えば3mm厚)が得られる。このとき、角板以外に、シート状もしくはフィルム状など公知の種々の形状にして樹脂成形体を成形することができる。更にその後、得られた樹脂成形体を必要に応じて、100〜120℃の温度範囲で0.5〜2時間アニール処理が行なわれる。
【0048】
前記アニールの条件としては、温度は50〜120℃が好ましく、80〜110℃がより好ましく、アニール時間は、0.1〜3時間が好ましく、0.5〜1.0時間がより好ましい。
【0049】
溶融混練は、別の方法として、前記同様にミキサーで混合された混合物を、溶融押出機に装填して機内に備えられた回転スクリューで加熱及び/又は加圧して溶融、混練するようにしても行なえる。この場合の加熱及び加圧の条件については既述の通りである。
【0050】
また、射出成形する以外に、溶融混練後の樹脂組成物を所望の基体上に、例えば溶融押出機の押出ダイから押し出し、押し出された樹脂組成物をニップして圧着する等して押出コーティングするようにしてもよい。押し出し後に樹脂組成物をプレス機により所定条件(好ましくは、温度150〜230℃、処理時間1〜10分間)下でプレス成形し、さらに加熱冷却圧縮成形機を用いて所定条件(好ましくは、温度10〜40℃、処理時間1〜10分間)下でプレス成形することにより、シート状もしくはフィルム状の樹脂成形体を得るようにすることもできる。
【0051】
上記では、PLAおよびPPと無機充填剤とを同時に混合する場合を中心に説明したが、PLAおよび無機充填剤と、PPおよび無機充填剤とをそれぞれ別個に混合し、これらを合わせて溶融混練するようにしてもよい。
【0052】
上記のように、本発明においては、樹脂組成物を単に成形するのみでも(つや消し剤の添加やエンボス加工などの他の処理を施さずに)深み感のあるシルキー性とマット調とを有する高意匠性を具えた樹脂物の成形が可能である。樹脂組成物において、PPの特徴である物性および成形性がポリ乳酸の弱点である脆さや強度、成型性をカバーしており、またPLAの特徴や物性によってPPの弱点である高光沢や触感が抑えられており、コスト低減の面でも有効である。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、低光沢性で深みのあるシルキー感やマット調の高級感のある質感が求められるような樹脂成形体の用途に好適であり、例えば、表皮材等の自動車用内装や、ステアリングホイール等の樹脂製の自動車部品、その他スイッチ類などの用途に好適に用いることができる。
【0054】
本発明においては、既述のように、成形時点では平滑表面が得られるが、その後の収縮により、ポリ乳酸よりもポリプロピレン(PP)の方が収縮率が大きいため、両者の収縮過程でマット調でシルキー感のある表面性状が形成される。また、PPの高収縮性に起因し、アニール処理によりPLA結晶化が促進され、グロスが低減され、本発明の効果がより効果的に奏される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
ポリDL−乳酸〔L体/D体=98.7/1.3、重量平均分子量:160,000、比重:1.25、成形収縮率:2/1000;ポリ乳酸〕50部と、ポリプロピレン〔MFR(メルトフローレート[230℃];以下同様):25g/10分、比重:0.91、重量平均分子量:200,000、ノルマルデカンに可溶な成分量:8%成形収縮率:16/1000〕50部と、タルク〔富士タルク工業(株)製、平均粒子径:4.2μm、見かけ密度:0.13g/ml、白色度:98.5%〕10部とをミキサーにより均一にブレンドした後、二軸押出機〔(株)東洋精機製作所製〕を用いてシリンダー温度200℃で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0057】
続いて、得られたペレットを射出成形機(東芝機械(株)製)に導入し、この射出成形機により、シリンダー設定温度200℃、金型温度30℃、射出および保圧の時間10秒、冷却時間15秒の成形条件にて射出成形し、3mm厚の角板を成形した。その後更に、この角板を110℃で2時間アニール処理を行なった。以上により、3mm厚の本発明の樹脂成形体である角板を得た。
【0058】
(実施例2〜7)
実施例1において、ポリDL−乳酸およびポリプロピレンの量を下記表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様にして、本発明の樹脂組成物を調整すると共に角板を得た。
【0059】
(比較例1)
実施例1において、ポリDL−乳酸を用いず、ポリプロピレンの量を100部に変更したこと以外、実施例1と同様にして、比較の樹脂組成物を調整すると共に角板を得た。
【0060】
(比較例2)
実施例1において、ポリプロピレンを用いず、ポリDL−乳酸の量を100部に変更したこと以外、実施例1と同様にして、比較の樹脂組成物を調整すると共に角板を得た。
【0061】
(比較例3)
実施例1において、タルクを含有しなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較の樹脂組成物を調整すると共に角板を得た。
【0062】
(評価)
各実施例および各比較例で得られた角板について、下記評価を行なった。測定および評価の結果は下記表1並びに図1〜図6に示す。
【0063】
−1.グロス測定−
得られた軟質樹脂シートの表面を、micro−TRI−gloss(BYK Gardner社製)を用いて、図1に示すように、軟質樹脂シートの法線方向と60°をなす方向からの入射光が表面で反射した反射光を受光、計測し、各角板のグロス測定を行なった。測定された値が小さい方が低光沢であることを示し、実用上50以下が許容範囲である。図3は、表1に示すグロス値をグラフに表したものである。
【0064】
−2.明度測定−
得られた角板の表面の明度(L値)を、分光測色計CM−512m3(コニカミノルタホールディングス(株)製)を用いて、図2に示すように、角板表面の法線方向と45°をなす方向から入射した入射光が表面で反射して法線方向に向かう反射光を受光、計測し、色彩値:L、視野:10°、光源:D65の条件にて、各角板のL値を測定した。測定された値が大きい方が高明度(シルキー)であることを示し、実用上80以上が許容範囲である。図3には、表1中のL値をグラフにして表した。
【0065】
−3.表面凹凸の観察および評価−
実施例1(アニールの前後)および比較例1で得られた角板の表面を原子間力顕微鏡(AFM;デジタルインスツルメンツ社製)を用いて画像撮影した。撮影した写真を図4〜図6に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
前記表1並びに図3に示すように、実施例では、グロスが低く抑えられ低光沢であると共に、PLAとPPの屈折率の違いによりシルキー感を示していた。また、図4に示す画像(実施例1)から、表面凹凸の高低差が0.2〜1.5μmで直径1.0〜10.0μmのPLA凸部がPLA混合比率に応じて表面に存在(PLA50%の場合、表面の50%にPLAが露出している。)していることが確認され、マット調の表面性状を有しており、高級感のある角板を得ることができた。図5では、図4との比較において、アニール処理によりポリプロピレンの後収縮、PLAの結晶化が促進され、各凸部において高低差0.5μm以下の微細な凹凸ができているのが確認された。なお、実施例2〜7についても、実施例1と似た画像が得られた。
【0068】
これに対し、比較例では、グロスが高く高光沢であると共に、シルキー感、マット調に乏しく、高級感のある角板を得ることはできなかった。また、比較例1の角板を示す図6の画像から、角板表面のPLAの露出面積が少なく、凸部での微細な凹凸も少ないことから、マット調、シルキー感に大きく影響しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例におけるグロス測定の方法を説明するための説明図である。
【図2】実施例における明度測定の方法を説明するための説明図である。
【図3】PLAの含有割合に対するグロス値および明度(L値)の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の角板のアニール前における表面状態を示す図である。
【図5】実施例1の角板のアニール後における表面状態を示す図である。
【図6】比較例1の軟質樹脂シートの表面状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(PLA)と、重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)と、無機充填剤とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸と前記ポリプロピレンとの比(PLA:PP)が5:95〜95:5である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤の含有量が全質量の0.1〜50質量%である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて射出成形された樹脂成形体。
【請求項5】
前記射出成形後にアニール処理が施された請求項4に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
無機充填剤と共にポリ乳酸(PLA)と重量平均分子量が10万以上のポリプロピレン(PP)とを溶融混練して樹脂組成物を調製する工程と、調製された樹脂組成物を射出成形する工程と、を有する樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
射出成形後、アニール処理を施す工程を更に有する請求項6に記載の樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−145912(P2007−145912A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339370(P2005−339370)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】