説明

樹脂結合型薄肉磁石用組成物およびそれを用いた打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石

【課題】薄肉形状を有し、かつ硬くて脆いという欠点を改善することで取り扱いが容易になり、金型で打抜きが可能な薄肉磁石の製造に適した樹脂結合型薄肉磁石用組成物およびそれを用いた打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石を提供。
【解決手段】異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末(A)および樹脂バインダー(B)を含有する樹脂結合型薄肉磁石用組成物において、樹脂バインダー(B)は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)を主成分とし、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、さらに、樹脂結合型薄肉磁石を打抜き可能とするのに十分な量の可撓性付与剤(C)を配合することを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物などによって提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂結合型薄肉磁石用組成物およびそれを用いた打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石に関するものであり、特に、薄肉形状を有し、かつ硬くて脆いという欠点を改善することで取り扱いが容易になり、金型で打抜きが可能な薄肉磁石の製造に適した樹脂結合型薄肉磁石用組成物およびそれを用いた打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などが、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品にモ−タ−などとして組込まれ使用されている。これら磁石は、主に焼結法で製造されるが脆く、薄肉化しにくいため複雑形状への成形は困難であり、また焼結時に15〜20%も収縮するため寸法精度を高められず、研磨などの後加工が必要で、用途面において大きな制約を受けている。
これに対し、樹脂結合型磁石(ボンド磁石ともいう)が、種々の樹脂をバインダーとして用い、磁性粉末を充填して容易に製造できるため、新しい用途展開が行われている。
【0003】
一般に、樹脂結合型磁石の製造方法として、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂と磁性粉末を混練して射出成形する方法が知られている。この方法は、薄物成形、複雑形状の成形が比較的容易であるために、主として複雑形状の樹脂結合型磁石を作製するために用いられている。そして、製品以外にスプルー、ランナーなどが出るものの、これらは再度混練して使うことができるため製品収率を落とすことがなく、本方法の利点となっている。
ただし、熱可塑性樹脂を用いているため、耐熱性や固化時の収縮率が大きいという問題がある。また、熱膨張率も金属などに比べて大きいため、一体成形時やヨ−クなどに接着した後のヒ−トショックなどで、成形体に割れが発生することが多いという問題を有している。また、薄物成形が可能とはいえ、0.5mm以下の厚みの場合、金型を冷却しているため、ゲ−ト付近で樹脂が固化してしまい成形が困難となる。
【0004】
また、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして用いて圧縮成形する方法も提案されているが、バインダー量が希少であるため圧縮成形法による単純成形品しか得られていない。しかも、機械的強度が低いことから、粉落ち防止用、錆防止用に成形体コーティングが不可欠であった。必要量の混練物を金型に入れて成形するため混練物のロスが少ないが、0.5mm以下の厚さの成形体は金型への混練物供給が困難であるため限界がある。
さらに、塩素化ポリエチレンなどのエラストマーと磁性粉末を混練して圧延または押出し成形する方法が知られている。この方法は、シート磁石を作製する方法として優れているが、磁性粉末の結晶方向を揃えようとすると、樹脂の粘性が高いため高特性を得ることは容易ではない。
【0005】
このようなことから、従来の熱可塑性樹脂を用い射出成形法によって得られた低磁気特性で複雑形状可能な樹脂結合型磁石と、熱硬化性樹脂を用い圧縮成形法によって得られた高磁気特性で単純形状のみである樹脂結合型磁石の、それぞれの欠点を解消しうる技術が求められている。
【0006】
小型モーター、音響機器、OA機器向けの樹脂結合型磁石には、機器の小型化に伴なって、より磁気特性に優れ、かつ可使時間が充分に大きい磁石用組成物が強く要請されているが、従来の樹脂結合型磁石には、これら条件を共に満たすものはなく、成形性、機械的強度などにも優れた、錆びにくい希土類系の樹脂結合型磁石用組成物が切望されていた。特に、厚さが0.5mm〜1.5mm程度の薄肉形状の樹脂結合型磁石で、加工性の優れた磁石用組成物が求められていた。
【0007】
このような状況のもとで、本出願人は熱硬化性樹脂に特定の添加剤を配合した樹脂結合型磁石用組成物を用いて射出成形する方法を提案している(特許文献1参照)。この特許文献では、磁性粉末と、樹脂バインダーとからなる樹脂結合型磁石用組成物において、樹脂バインダーが、有機過酸化物を含むラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主成分とし、さらに、可使時間を著しく低下させるラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂の複雑な反応促進効果を抑制するためにN−オキシル類化合物を配合した樹脂結合型磁石用組成物、及びそれを用いた樹脂結合型磁石を記載している。
この樹脂結合型磁石用組成物を用いることによって、厚さが0.5〜1.5mmの薄肉形状の樹脂結合型磁石を製造できるようになった。しかし、より薄肉形状のリング磁石を得たい場合、樹脂バインダーの性質上、硬く脆いという欠点があるため、プレス打抜き等を行おうとするとリング外周に割れが発生するなど取り扱いが難しかった。
【0008】
ところで、合成樹脂にN−オキシル類を配合することで、樹脂の保存安定性や硬化性に優れ、経時劣化に伴う着色を抑えるようにした樹脂組成物(特許文献2参照)、ラジカル硬化性樹脂とレドックス作用を有する金属化合物とを含んだ硬化性樹脂組成物に、フェニルスルフォン酸類とN−オキシル類化合物を必須成分として含有させた硬化性樹脂組成物(特許文献3参照)が知られている。これによれば、優れた貯蔵安定性を有し、かつ硬化特性を損なわず常温で硬化しうる樹脂組成物を得ることができる。しかし、これら特許文献において、N−オキシル類化合物は、ゲル化防止剤あるいは重合防止剤として極めて少量添加されており、遷移金属を多量に含有する樹脂結合型磁石の製造に適した樹脂組成物への応用可能性に関する記載は見当たらない。
【0009】
上記特許文献1に記載されたような可使時間にきわめて優れている樹脂結合型磁石用組成物を用いて、プレス打抜き等を行う場合でも、打抜いたリング外周に割れが発生せず、取り扱い容易となる樹脂結合型磁石用組成物の出現が切望されていた。
【特許文献1】特開2003−92209号公報
【特許文献2】特開平10−7918号公報
【特許文献3】特開2001−11328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、薄肉形状を有し、かつ硬くて脆いという欠点を改善することで取り扱いが容易になり、金型で打抜きが可能な薄肉磁石の製造に適した樹脂結合型薄肉磁石用組成物およびそれを用いた打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ラジカル重合反応型樹脂と有機過酸化物とN−オキシル類化合物を含む樹脂結合型磁石用組成物を用いて薄肉形状の磁石を得る際に、硬くて脆いという好ましくない性質を克服し、その打抜き加工性を向上させるためには、磁性粉末と混練する樹脂バインダーとして、ラジカル重合反応型樹脂に加えて、可撓性付与剤を含む樹脂バインダーを選択することによって解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末(A)および樹脂バインダー(B)を含有する樹脂結合型薄肉磁石用組成物において、樹脂バインダー(B)は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)を主成分とし、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、さらに、樹脂結合型薄肉磁石を打抜き可能とするのに十分な量の可撓性付与剤(C)を配合することを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、磁性粉末(A)は、SmFeN系、SmCo系またはNdFeB系から選択された少なくとも1種の異方性磁石粉末を含むことを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)は、不飽和ポリエステルまたはビニルエステルから選択された少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、有機過酸化物(B−2)の分解温度が、150℃以下であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、有機過酸化物(B−2)は、ジアルキルパーオキサイド系化合物またはパーオキシケタール系化合物であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0017】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、N−オキシル類化合物(B−3)は、分子鎖末端に次の一般式(1)、または一般式(2)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有することを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)
【0022】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、N−オキシル類化合物(B−3)の含有量は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0023】
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、可撓性付与剤(C)は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーまたは合成ゴムから選ばれる1種以上の樹脂であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0024】
さらに、本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、可撓性付与剤(C)の配合量が、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)に対する重量比((C)/(B−1))で、1以下であることを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物が提供される。
【0025】
一方、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明に係る樹脂結合型薄肉磁石用組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、またはトランスファ−成形法から選ばれるいずれかの方法で成形してなる打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石が提供される。
【0026】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、厚さが50μm〜2mmであることを特徴とする打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の樹脂結合型薄肉磁石は、異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末(A)および樹脂バインダー(B)で構成され、樹脂バインダー(B)は、主成分がラジカル重合反応型樹脂(B−1)であり、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、これに可撓性付与剤(C)が配合されているため、この成形用組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、またはトランスファー成形法のいずれかで成形することで、従来打抜き加工での製造が難しかった厚さが50μm以上2mm以下の樹脂結合型薄肉磁石を容易に得ることができる。
また、得られた樹脂結合型薄肉磁石の熱変形温度(HDT法)は、170℃以上であり、一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合(100〜150℃)よりも高いことから、軽薄短小化が進む磁石用途、例えば、小型モーター、音響機器、OA機器等にいたる幅広い分野に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の樹脂結合型磁石用組成物、それを用いた打抜き可能な樹脂結合型磁石について詳細に説明する。
【0029】
1.樹脂結合型磁石用組成物
本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末(A)および樹脂バインダー(B)を含有する樹脂結合型薄肉磁石用組成物において、樹脂バインダー(B)は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)を主成分とし、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、さらに、樹脂結合型薄肉磁石を打抜き可能とするのに十分な量の可撓性付与剤(C)を配合することを特徴とする。そして、これら磁性粉末と樹脂バインダーのほかに、必要によりその他添加剤、充填材を配合し、均一に混合したものである。
【0030】
(A)磁性粉末
本発明において、樹脂結合型薄肉磁石用組成物に用いられる磁性粉末は、4000kA/m以上の異方性磁場(HA)を有する磁性粉末である。すなわち、樹脂結合型磁石用組成物の成分である磁性粉末は、その構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含むものであれば、特に制限はない。
【0031】
希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種又は2種以上である。特に好ましい希土類元素は、NdまたはSmのいずれかである。
また、遷移金属類元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びマンガン(Mn)からなる群から選択される1種又は2種以上であって、これ以外にCr、V又はCuのいずれかを含有してもよい。特に好ましい遷移金属類元素は、Fe又はCoのいずれかである。また、具体的な磁性粉末としては、例えば、異方性磁場(H)が4000kA/m以上の磁性粉末である希土類コバルト系、希土類−鉄−ほう素系、希土類−鉄−窒素系の磁性粉の単独もしくは混合粉、またはフェライト系磁性粉との混合系などが挙げられる。
【0032】
本発明では、磁性粉として、(I)還元拡散法によって得られるSmFe系合金粗粉を窒化処理、微粉砕して得られるSm−Fe−N系の合金微粉末、(II)同じく還元拡散法によって得られたSmCo5系合金粗粉を微粉砕して得られる合金微粉末、(III)Nd−Fe−B系の液体急冷法によって得られた合金粉末、又は(IV)HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)法によって得られた異方性Nd−Fe−B系合金粉末を用いると、特に優れた磁気特性を有する樹脂結合型薄肉磁石を得ることができる。
尚、液体急冷法によって得られたNd−Fe−B系やHDDR法によって得られた異方性Nd−Fe−B系の磁性粉は、特異な形状を有した比較的大きな粒子を大量に含んでいるため、好ましくはジェットミルやボールミル等で粉砕し用いる方が良い。
本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物において、磁性粉末の粒径は、100μm以下のものを50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に90重量%以上含むと、本発明の効果を著しく発揮する。また、等方性よりも磁場中成形が必至となる異方性の磁性粉の方が、配向特性の面で本発明の効果が著しい。
【0033】
磁石粉末は、無機燐酸または無機燐酸化合物、及び/又は有機シランモノマーなどのシランカップリング剤(被覆剤)で表面処理されたものが好ましい。
無機燐酸または無機燐酸化合物は、上記の磁性粉末を予め処理することで、被覆剤成分の効力を高め、その表面の耐候性を高める化合物である。無機燐酸には、燐酸の他に、亜燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、直鎖状のポリ燐酸、環状のメタ燐酸が含まれる。無機燐酸化合物などを湿式処理法、乾式処理法のいずれかで表面処理し、その後、100℃前後で10〜30時間、加熱処理すれば、より安定して磁性粉末に定着する。
【0034】
また、シランカップリング剤は、1〜3個の加水分解性基、即ちアルコキシ基と、炭素数が1〜12の有機基を含有する有機シランモノマーである。有機シランモノマーとしては、1分子中に炭素数が1〜5であるアルコキシ基を少なくとも1〜3個有するものが好ましい。シランカップリング剤を用いて磁性粉末を表面処理するには、磁性粉末に各成分を同時に添加しても、逐次添加してもよい。溶媒等で希釈した後、溶媒を揮散する湿式処理法でも、撹拌中に直接、シランカップリング剤を添加するメカノフュージョンなどの乾式法でもよい。
【0035】
(B)樹脂バインダー
本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物に用いられる樹脂バインダーは、主成分がラジカル重合反応型樹脂(B−1)であり、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、さらに、可撓性付与剤(C)とを配合したものである。
【0036】
(B−1)ラジカル重合反応型樹脂
本発明において、ラジカル重合反応型樹脂としては、特に限定されるものではないが、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましく、その中でも不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂であることが最も好ましい。
【0037】
不飽和ポリエステル樹脂は、成形時の金型内で硬化して磁性粉末のバインダーとして働くものであれば、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されている不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。この不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、不飽和多塩基酸及び/又は飽和多塩基酸とグリコール類を分子量5000程度以下に予備的に重合させてオリゴマーやプレポリマー化させた主剤に、架橋剤を兼ねるモノマー類、反応を開始させる硬化剤、長期の保存性を確保するための重合防止剤、及びその他の添加剤等から構成される。
【0038】
不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を、また、飽和酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸メチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエステル化触媒は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
また、グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコール、ペンタエリスリットジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
さらに、架橋剤を兼ねるモノマー類としては、例えば、(I)スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルモノマー類、(II)ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテトラブロムフタレート等のアリルモノマー類、(III)フェノキシエチルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0039】
また、ビニルエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒を用いて反応させて得ることができる。上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラックタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物であってもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
さらに、上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられる不飽和一塩基酸は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸等のハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルチミン酸等の飽和一価カルボン酸や、フタル酸等の飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
上記エステル化触媒としては、具体的には、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化リチウム、塩化クロム等の無機塩;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラメチルホスフォニウムクロライド、ジエチルフェニルプロピルホスフォニウムクロライド、トリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ベンジルトリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ジベンジルエチルメチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエステル化触媒は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらに水酸基含有(メタ)アクリル化合物および必要に応じて水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させることによって得ることができる。また、水酸基含有(メタ)アクリル化合物とポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらにポリイソシアネートを反応させてもよい。
【0043】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリイソシアネートとしては、具体的には、例えば、2,4−トリレンジイソシアネートおよびその異性体、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、バーノックD 750、クリスポンNX(商品名;大日本インキ化学工業株式会社製)、デスモジュールL(商品名;住友バイエル社製)、コロネートL(商品名;日本ポリウレタン社製)、タケネートD102(商品名;武田薬品社製)、イソネート143L(商品名;三菱化成社製)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらポリイソシアネートは、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
また、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ビスフェノールAとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、1,2,3,4−テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサングリコール、1,3−シクロヘキサングリコール、1,4−シクロヘキサングリコール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,6−デカリングリコール、2,7−デカリングリコール等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら多価アルコール類は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
さらに、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられ、具体的には、例えば、グリセリンエチレンオキシド付加物、グリセリンプロピレンオキシド付加物、グリセリンテトラヒドロフラン付加物、グリセリンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらポリヒドロキシ化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、特に限定されるものではないが、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として必要に応じて用いられる水酸基含有アリルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら水酸基含有アリルエーテル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
また、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、不飽和あるいは飽和ポリエステルの末端に(メタ)アクリル化合物を反応させることによって得ることができる。上記ポリエステルの原料としては、例えば上記不飽和ポリエステル樹脂の原料として例示した化合物と同様の化合物を用いることができる。
上記ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる(メタ)アクリル化合物としては、具体的には、例えば、不飽和グリシジル化合物、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸およびそのグリシジルエステル類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら(メタ)アクリル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明に用いるラジカル重合反応型樹脂には、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の各反応性樹脂類を混合することができる。
【0046】
(B−2)有機過酸化物
本発明において、有機過酸化物(B−2)は、一般に、前記の反応を開始させる硬化剤
として用いられ、樹脂バインダーに、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)とともに配合される。
【0047】
有機過酸化物としては、例えば、(I)メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、(II)3,3,5−トリメチシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、(III)t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、(IV)ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、(V)アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノニルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、サクシニック酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、(VI)ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペロキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペロキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペロキシジカーボネート、ジ−ミリスチルペロキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルペロキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルペロキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペロキシジカーボネート、ジアリルペロキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、(VII)t−ブチルペロキシアセテート、t−ブチルペロキシイソブチレート、t−ブチルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオデカノエート、クミルペロキシネオデカノエート、t−ブチルペロキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシラウレート、t−ブチルペロキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペロキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシマレイックアシッド、t−ブチルペロキシイソプロピルカーボネート、クミルペロキシオクトエート、t−ヘキシルペロキシネオデカノエート、t−ヘキシルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルペロキシネオヘキサノエート、クミルペロキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類や、(VIII)アセチルシクロヘキシルスルフォニルペロキサイド、t−ブチルペロキシアリルカーボネート等が挙げられる。
【0048】
これらの有機過酸化物は、そのもの自体単独で使用できるものもあるが、種類によっては、炭化水素溶液類やフタル酸エステル類に希釈した状態、もしくは固形粉末に吸収させた状態で用いることがある。いずれにせよ、半減期10時間を得るための分解温度が150°C以下の性質を有する過酸化物を使用するのが望ましく、さらには、同半減期を得るための分解温度が40〜135°Cの範囲である過酸化物がより望ましい。該半減期を得るための分解温度が150°Cを超えるものを選択すると、充分な硬化成形体を得るための硬化温度が高くなり、本発明の効果が小さくなる。一方、40℃よりも低くなると過酸化物自体の取り扱い性が困難になるばかりでなく、本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物の保管特性が悪くなり、生産性に欠ける結果を招く。
これらの有機過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるため、規定することはできないが、一般的にはラジカル重合反応型樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部が添加される。0.05重量部未満では、硬化が不十分となり、10重量部を超えると、硬化が進みすぎるので好ましくない。
これらの有機過酸化物は、単独又は2種以上の混合系で用いることができるが、最終樹脂結合型薄肉磁石用組成物の可使時間をより長く確保するために、パーオキシケタール系、又はジアルキル系過酸化物の単独で用いることが、極めて好ましい。なお、樹脂結合型薄肉磁石用組成物の可使時間とは、ポットライフともいわれ、液状樹脂に硬化剤などを加えた時点から粘度が上昇し、成形不可能となるまでの時間、すなわちゲル化・硬化などが起こらず、成形可能な流動性を保っている時間、或いは成形後の機械強度が組成物調製直後に成形したそれ(機械強さの初期値)の80%にまで低下するまでの時間のいずれか早い方の時間を意味し、本発明の組成物系では、一般的には機械強さが低下する時間の方が早いのが特徴である。
【0049】
(B−3)N−オキシル類化合物
本発明においては、樹脂結合型磁石用組成物の保管中の可使時間をより長くさせるために、N−オキシル類化合物を配合する。N−オキシル類化合物は、分子鎖末端に、次の一般式(1)、一般式(2)、または一般式(3)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有する化合物である。
【0050】
【化3】

【0051】
(式中、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を表す)
【0052】
【化4】

【0053】
(式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)
【0054】
【化5】

【0055】
(式中、R17、R18は、それぞれ独立して炭素数4以上のアルキル基を表す)
【0056】
一般的に、遷移金属と有機過酸化物とにおいては、レドックス反応と称される過酸化物の分解反応が低温度で促進され、可使時間の著しい低下を招くことが一般的に知られている。当該磁石粉等を含む系においては、レドックス反応のみならず、これに相まってラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂やスチレン等の複雑な反応促進効果も極めて高く、通常の遷移金属単体系の組成物よりも、可使時間が極めて短くなる現象が見出されている。そこで、N−オキシル類化合物を添加することで、当該組成物に対して、この特殊な反応抑制効果を発揮させるのである。
ここで、樹脂結合型磁石用組成物の可使時間は、前記の通り、液状樹脂に硬化剤などを加えた時点から粘度が上昇し、成形不可能となるまでの時間、すなわちゲル化・硬化などが起こらず、成形可能な流動性を保っている時間、或いは成形後の機械強度が組成物調製の直後に成形したそれ(機械強さの初期値)の80%まで低下する時間のいずれか早い方の時間を意味する。本発明に係る組成物系では、一般的には機械強さが低下する時間の方が早い。組成物の可使時間を120時間以上、特に240時間以上とすることができるものを選択することが好ましい。
【0057】
本発明において上記構造を有するN−オキシル類としては、具体的には、例えば、ジ−t−ブチルニトロキシル、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−2−エチルヘキサノエート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−ステアレート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−4−t−ブチルベンゾエート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)コハク酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジピン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルマロン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)イソフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)テレフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジパミド、N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カプロラクタム、N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ドデシルサクシンイミド、2,4,6−トリス−N−ブチル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−s−トリアジン、等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらN−オキシル類は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
これらN−オキシル類化合物の添加量は、その種類によって効果が大きく異なるため画一的に規定はできないが、一般的には、ラジカル重合反応型樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。添加量が0.1重量部より少ない場合は、十分な可使時間を確保できない。一方、10重量部より多い場合は、成形体の密度の低下や表面の荒れを生じるため望ましくない。
【0059】
これらのN−オキシル類化合物は、単独もしくは2種以上の混合系で用いることもできるが、組成物の可使時間をより長く確保するためには、これらの安定剤の中でも、アルキルラジカルとの反応性を有し、かつ、アルキルラジカルとの反応後、さらに、パーオキシラジカルとの反応性を有すること、又はパーオキシラジカルとの反応性を有し、かつパーオキシラジカルとの反応後、さらに、アルキルラジカルとの反応性を有することが好ましい。特にアルキルラジカルとの反応性を有し、かつアルキルラジカルとの反応後の該安定剤化合物がさらにパーオキシラジカルと反応することが可能なもの、例えば、次式で示される2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル等が極めて好ましい。
【0060】
【化6】

【0061】
さらに、当該組成物においては、これらの他に、例えば、ナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等のコバルト有機酸塩、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ジメドン等のβ−ジケトン類、ジメチルアニリン等の芳香族3級アミン類、メルカプタン類、トリフェニルホスフィン、2−エチルヘキシルホスファイト等の燐化合物類、第4級アンモニウム塩類等の促進剤やアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、芳香族カルボニル化合物、ピナコン誘導体等との併用を行っても良い。尚、これらの併用してもよい添加剤の配合量は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
【0062】
(C)可撓性付与剤
本発明において、可撓性付与剤とは、上記ラジカル重合反応型樹脂とともに樹脂バインダーの主要成分となり、樹脂結合型磁石用組成物に可撓性を付与するための添加剤である。可撓性付与剤は、このような機能を有するものであれば、特に限定されるものではないが、ポリエステル系熱可塑性エラストマーまたは合成ゴムのいずれか1種以上であることが望ましい。
【0063】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と脂肪族2価アルコールとから形成される熱可塑性エラストマーであり、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび/または脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエーテル・エステルブロック共重合体、ポリエステル・エステルブロック共重合体、ポリエーテルエステル・エステルブロック共重合体などの重合体である。芳香族ポリエステルとしては、通常、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとを重縮合して得られるポリエステルを主要成分とするものが使用される。
【0064】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)・グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート・(エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレンアジペートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリブチレンアジペートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリブチレンセバケートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ−ε−カプロラクトンブロック共重合体などが挙げられる。
【0065】
これらの中では、特にポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリブチレンアジペートブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ−ε−カプロラクトンブロック共重合体などが好ましい。本発明においては、これらポリエステル系熱可塑性エラストマーのうち、バイロン(東洋紡製)が最も好ましい。
【0066】
また、合成ゴムとしては、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合ゴム(NSBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム(EPM)、エチレン−α−オレフィン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、1,2−ポリブタジエンゴム(1,2−PBD)などがある。このうち、本発明においては、ブタジエンアクリロニトリル(NBR)、例えば、商品名:ハイカーRLP(宇部興産(株)社製)が最も好ましい。
【0067】
NBR(アクリロニトリルとブタジエンの共重合物、あるいは、両方のモノマー若しくはどちらか一方の末端変性物のコポリマーを含む)は、もみすりロール、ゴムローラ、ベルトなどの工業用ゴム製品で多用されているが、通常、工業的な使用条件において、ゴム単独では機械特性が低いことから、有機充填材や無機充填材などのゴム補強性微粒子充填材に加え加硫剤を添加し、所定の加硫操作によって引張強度や引張弾性率、圧縮永久ひずみといった機械的特性を高めている。
本発明で好ましいNBRとしては、市販されているものはいずれも使用可能であり、特に制限はない。具体的には、例えばニトリル含量が約15〜48%、好ましくは約24〜43%であるものなどが好ましい。さらに、ニトリル量が異なる重合物、末端変性物、又はNBRを主成分とするポリマーあるいはポリマーブレンド類であってもよい。例えば塩化ビニル含有NBR、カルボキシル基含有NBRなどであってもよい。また、本発明では、上述したNBRの2種以上を含むNBRブレンド物を用いてもよい。
NBRの分子量は、特に限定されないが、好ましくは重量平均分子量が1.0×10〜5.0×10、より好ましくは3.0×10〜1.5×10のものが用いられる。NBRの分子量が上記範囲内であれば、汎用の混練機で充填材をNBR中に容易に混合することができる。
【0068】
樹脂バインダー中では、上記ラジカル重合反応型樹脂(B−1)に対して可撓性付与剤(C)の混合比率が小さいことが必要である。すなわち、可撓性付与剤(C)の配合量が、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)に対する重量比((C)/(B−1))で、1以下、特に0.8以下とすることが好ましい。ラジカル重合反応型樹脂(B−1)に対して、可撓性付与剤(C)の混合比率が多いと、耐熱強度が極端に悪くなり、100℃以上での使用が困難になるからである。
【0069】
本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、さらに必要に応じて、重合防止剤、各種反応性樹脂類、成形性改善添加剤、無機充填材や顔料など、他の添加剤や充填材を配合することにより調製される。これら併用しうる添加剤の配合量は、ラジカル重合反応型樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
本発明において、長期の保存性を確保するために配合することができる重合防止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、モノ−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン等のハイドロキノン類、ジ−t−ブチル・パラクレゾールハイドロキノンモノメチルエーテル、アルファナフトール等のフェノール類、ナフテン酸銅等の有機ならびに無機の銅塩類、アセトアミジンアセテート、アセトアミジンサルフェート等のアミジン類、フェニルヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩等のヒドラジン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムオキザレート、ジ(トリメチルベンジルアンモニウム)オキザレート、トリメチルベンジルアンモニウムマレエート、トリメチルベンジルアンモニウムタータレート、トリメチルベンジルアンモニウムグリコレート等の第4級アンモニウム塩類、フェニル−β−ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン等のアミン類、ニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸等のニトロ化合物、キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、ピロガロール、タンニン酸、レゾルシン等の多価フェノール類、トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルアニリン塩酸塩、ジブチルアミン塩酸塩等のアミン塩酸塩類等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。
【0070】
これらの各種成分以外にも、成形性の改善を目的とした、例えばパラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体を1種もしくは2種以上添加することができる。
【0071】
これらの有機添加物以外にも、必要に応じて、無機充填剤や顔料等を添加しても良い。無機充填剤としては、例えば、ストロンチウムフェライト系、バリウムフェライト系等のフェライト類磁性粉、鉄等の軟磁性粉、タングステン等の密度調整用高比重金属粉、三酸化アンチモン等の難燃剤、酸化チタン等の顔料等が挙げられる。
これら混合される熱硬化性樹脂バインダーの各成分は、重合度や分子量に制約されることはないが、後述する所定の粘度に調整するために、数種類の粘度や性状の異なるラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂同士を混合したり、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム等の二価金属の酸化物類や水酸化物類、ジイソシアナート類、アリジリン化合物類、アルミニウムイソプロポキシド等を加えても差し支えない。
【0072】
熱硬化性樹脂バインダーを構成する各成分の性状は、例えば常温で液状、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉との均一混合性や成形性から考えると、液状であることが望ましい。また、これらの異なる樹脂や異なる分子量、性状のものを1種または2種以上組み合わせて混合しても差し支えない。
これら最終的な樹脂バインダーの粘度は、JIS K7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定され、測定値が100〜5000mPa・sであることが望ましく、中でも300〜3000mPa・sが好ましい。この動的粘度が、100mPa・s未満であると、射出成形時に磁性粉とバインダーの分離現象が生じるため成形できない。また、5000mPa・s超であると著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き成形困難になる。
【0073】
また、これら熱硬化性樹脂バインダーの添加量は、各構成成分を含めた状態で、磁性粉末100重量部に対して、5〜50重量部の割合で添加され、好ましくは7〜15重量部、さらに、10〜13重量部がより好ましい。該バインダーの添加量が5重量部未満の場合は、成形時の流動性の低下を招き、また、50重量部を超える場合、所望の磁気特性が得られない。
本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物は、前述の必須成分、磁性粉末(A)、樹脂バインダー(B)、可撓性付与剤(C)に、さらに必要に応じて他の添加剤を配合することにより調製される。
【0074】
その際、各成分の混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いることにより実施される。
このようにして得られた樹脂結合型磁石用組成物の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状、あるいはこれらの混合物の形であるが、取扱い易さの点で、ペレット状(或いは塊状)が望ましい。
【0075】
2.樹脂結合型薄肉磁石
本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物は、ラジカル重合反応型樹脂の溶融温度で加熱溶融された後、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法から選ばれるいずれかの方法で所望の形状を有する打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石に成形される。
【0076】
本発明において、樹脂結合型薄肉磁石は、打抜き可能であり、厚さが50μm以上2mm以下に成形して得られるものが望ましい。50μmよりも薄いものは金型での成形が困難になり、厚さの制御がかなり困難になってくる。また、2mmよりも厚い樹脂結合型磁石は、熱可塑性樹脂を用いた通常の射出成形でも可能な範囲に入ってくる他、圧縮成形でリングを直接作ることができるような範囲となり、本発明の特長を生かせない。
【0077】
成形法としては、従来からプラスチック成形加工等に利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法など各種の成形法が挙げられる。これらの中では、特に射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、および射出プレス成形法が好ましい。
【0078】
本発明の樹脂結合型薄肉磁石は、上記のように、厚さが50μm以上2mm以下に成形して得られた薄肉磁石であり、例えば、リング外径7.5mm、内径3.4mmのリング形状を、プレス等を用いて打抜き加工で作製できる。この時、従来であれば、プレス時に割れが発生したり、打抜き穴の周りに変色が起きたりしていたが、本発明の樹脂結合型薄肉磁石では、これらが発生しないという優れた打抜き加工性を有している。
本発明の樹脂結合型薄肉磁石は、上記加工終了後、着磁を行い、樹脂結合型薄肉磁石として用いることができる。さらに、打抜き加工して得られた樹脂結合型磁石は、割れ・欠けがなく、軽薄短小化が進む磁石用途、例えば、小型モーター、音響機器、OA機器等にいたる幅広い分野において特に有用である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
次の各材料・成分及び方法で樹脂結合型薄肉磁石用組成物及び磁石を製造し、評価した。用いた材料・成分を下記に示す。
1.材料・成分
(1)磁性粉末
・磁粉1:平均粒径が約3μmのSm−Fe−N微粉(異方性)(住友金属鉱山(株)製 SmFeN合金粉末)、
異方性磁場:16800kA/m、100μm以下の粒径含有率99重量%
・磁粉2:平均粒径が約8μmのSmCo5粉(異方性)(商品名:RCo5合金、住友金属鉱山(株)製)、
異方性磁場:19680kA/m、100μm以下の粒径含有率99重量%
・磁粉3:平均粒径が約10μmのNd−Fe−B粉(等方性)(商品名:MQP−B、マグネクエンチインターナショナル(株)製)、
異方性磁場:5600kA/m、100μm以下の粒径含有率62重量%
(2)ラジカル重合反応型樹脂(熱硬化性樹脂)
・不飽和ポリエステル樹脂(以下、UP樹脂と記す):(商品名:ポリセット2212、日立化成工業(株)製)
成形温度(25℃)における粘度500mPa・s
・ビニルエステル樹脂(以下、VE樹脂と記す):(商品名:ポリセット9164、日立化成工業(株)製)
成形温度(25℃)における粘度500mPa・s
(3)可撓性付与剤
・熱可塑性ポリエステル樹脂(バイロン、東洋紡績(株)製)
・合成ゴム(表中、ゴム樹脂と記す):ブタジエンアクリロニトリル(商品名:ハイカーRLP、宇部興産(株)社製)
・比較例用ポリアミド樹脂:ナイロン12(商品名:ダイアミド A−1709P、ダイセル・ヒュルス(株)製)
(4)有機過酸化物
・パ−オキシケタ−ル系過酸化物:(1,1−ビス(t−ブチルパ−オキシル)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、(商品名:パ−ヘキサ3M、日本油脂(株)製)、10時間の半減期を得るための分解温度90℃
(5)N−オキシル類化合物
・2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル(40H−TEMP):(商品名:アデカスタブLA−7RD、旭電化工業(株)製)
【0081】
2.成形品の評価方法
(1)磁気特性評価;
成形用組成物を射出成形し、得られた樹脂結合型薄肉磁石(薄板状磁石)から5mm角の片を作製して、磁気特性の測定に必要な厚さになるよう片を張り合わせ、厚さが7mm程度にした。これを試料として、チオフィ−型自記磁束計(東英工業製)で磁気特性を測定した。磁気特性のうち保磁力、磁化、角型性、最大磁気エネルギー積、配向度の結果を表に示す。
(2)機械特性(曲げ強度、変形量)の評価;
薄板状磁石を、10mm間隔を有する台に乗せ、オートグラフで三点曲げの方法で測定した。
(3)打抜き性の評価;
総抜きの金型で外形7.5mm、内径3.4mmのリングを打抜き、欠け割れの評価を行った。
【0082】
(実施例1〜6)
表1に記した所定の比率になるよう熱硬化性樹脂、可撓性付与剤、硬化剤、N−オキシル類化合物等をあらかじめ計量混合しておき、それぞれを磁性粉全量に加え(各重量部)、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、最終組成物を得た。
これらのコンパウンドを、インラインスクリュー式またはプランジャー式磁場発生装置付射出成形機にて、射出成形条件をシリンダ−温度30℃、金型温度180℃として成形し、50mm×20mm×厚さ0.05mmの樹脂結合型薄肉磁石を作製した。得られた磁石成形品の特性を前記方法にて測定し、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。尚、1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場中金型内にて成形を行った。評価結果を、表1に示す。
【0083】
(実施例7〜22)
厚さを0.36mmとした以外は実施例1〜6と同様にして樹脂結合型薄肉磁石を作製した(実施例7〜12)。得られた樹脂結合型薄肉磁石を用いて、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。評価結果を、表2に示す。
また、厚さを2mmとした以外は実施例1〜6と同様にして樹脂結合型薄肉磁石を作製した。得られた樹脂結合型薄肉磁石を用いて、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。評価結果を、表3に示す。
さらに、磁粉としてSmCo5粉、又はNd−Fe−B粉を用いた以外は実施例1〜6と同様にして、樹脂結合型薄肉磁石(50mm×20mm×厚さ0.36mm)を作製した。尚、SmCo5系を使用した時のみ、1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場中金型内にて成形を行った。得られた樹脂結合型薄肉磁石を用いて、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。評価結果を、表4に示す。
【0084】
(比較例1〜6)
実施例1〜6よりも可撓性付与剤の量を少なくして、これに各成分が表5に記した所定の比率になるよう熱硬化性樹脂、硬化剤、N−オキシル類化合物等を磁性粉全量に加え(各重量部)、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、最終組成物を得た。
これらにより得られた混合物を、上記実施例と同様にして成形し、得られた厚さが2mmの樹脂結合型薄肉磁石を用いて、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。評価結果を、表5に示す。
【0085】
(比較例7〜10)
ラジカル重合反応型樹脂に対して、可撓性付与剤を配合しないか、ポリアミド樹脂を配合して、これに各成分が表6に記した所定の比率になるよう硬化剤、N−オキシル類化合物等を磁性粉全量に加え(各重量部)、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、最終組成物を得た。これを成形し、得られた厚さが2mmの樹脂結合型薄肉磁石を用いて、磁気特性、機械特性、打抜き性を評価した。評価結果を、表6に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
「評価」
以上の結果から明らかなように、本発明の樹脂結合型薄肉磁石用組成物(実施例1〜22)は、打抜き加工性に優れていることが分かる。これに対して、比較例1〜6、9、10の樹脂結合型薄肉磁石用組成物は、ラジカル重合反応型樹脂への可撓性付与剤の配合量が少ないか、可撓性付与剤を全く配合しなかったために、リング打抜き性は悪く、割れが発生してしまった。また、比較例7、8では可撓性付与剤でなくポリアミド樹脂を配合したために、可撓性を付与できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末(A)および樹脂バインダー(B)を含有する樹脂結合型薄肉磁石用組成物において、
樹脂バインダー(B)は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)を主成分とし、有機過酸化物(B−2)とN−オキシル類化合物(B−3)を含み、さらに、樹脂結合型薄肉磁石を打抜き可能とするのに十分な量の可撓性付与剤(C)を配合することを特徴とする樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項2】
磁性粉末(A)は、SmFeN系、SmCo系またはNdFeB系から選択された少なくとも1種の異方性磁石粉末を含むことを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項3】
ラジカル重合反応型樹脂(B−1)は、不飽和ポリエステルまたはビニルエステルから選択された少なくとも1種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項4】
有機過酸化物(B−2)の分解温度が、150℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項5】
有機過酸化物(B−2)は、ジアルキルパーオキサイド系化合物またはパーオキシケタール系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項6】
N−オキシル類化合物(B−3)は、分子鎖末端に次の一般式(1)

(式中、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)、または一般式(2)

(式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項7】
N−オキシル類化合物(B−3)の含有量は、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項8】
可撓性付与剤(C)は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーまたは合成ゴムから選ばれる1種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項9】
可撓性付与剤(C)の配合量が、ラジカル重合反応型樹脂(B−1)に対する重量比((C)/(B−1))で、1以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂結合型薄肉磁石用組成物を、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、またはトランスファ−成形法から選ばれるいずれかの方法で成形してなる打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石。
【請求項11】
厚さが50μm〜2mmであることを特徴とする請求項10に記載の打抜き可能な樹脂結合型薄肉磁石。


【公開番号】特開2006−237514(P2006−237514A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53713(P2005−53713)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】