説明

樹脂製プーリ

【課題】効率的に溶融樹脂をキャビティ内に充填して、樹脂部材の成形安定性を向上させることができ、プーリ外周面の真円度が向上した樹脂製プーリを提供する。
【解決手段】互いに同心に設けられた内径側円筒部及び外径側円筒部と、これら両円筒部の間に設けられた円板部と、円板部の両平面に放射状に配設されるリブとを有する樹脂部材を転がり軸受の外輪の外周部に固設した樹脂製プーリであって、円板部は両円筒部と同心に形成される円環状肉厚部を有し、円環状肉厚部の軸方向幅をA、円環状肉厚部の径方向幅をA、板部の軸方向幅をB、リブの周方向幅をRC、、溶融樹脂を注入するゲートの直径をGとした時、下記の式を満たす。
>B 、A>R 、A>G

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製プーリに関し、例えば自動車のエンジンまわりの補機を駆動する無端ベルトやタイミングベルトに所望の張力を付与するためのアイドラプーリ又はオートテンショナプーリとして使用される樹脂製プーリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の補機駆動機構には、例えば、アイドラプーリやオートテンショナプーリのような軸受の外輪に樹脂部材を射出成形した樹脂製プーリが用いられている。この種の樹脂製プーリは、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、これら両軌道溝との間に配置される転動体とを有する転がり軸受を備え、樹脂部材が転がり軸受の外輪外周部に成形されている。樹脂部材は、外径側円筒部と、内径側円筒部と、外径側円筒部と内径側円筒部との間に配設される円板部と、この円板部の両平面上に放射状に配設されると共に外径側円筒部と内径側円筒部とを接続する複数のリブと、を有している。
【0003】
転がり軸受の外輪に樹脂部材を成形するためには、一般的にインサート成形による射出成形方法が行われている。具体的には、軸受を射出成形装置の成形用金型内に配置した後、このキャビティ内にゲートを通して溶融樹脂を注入・充填することにより射出成形が行われている。そして、このキャビティ内に充填された溶融樹脂が冷却されることにより、前述の樹脂部材が軸受の外輪に成形されることになる。次いで、金型が開かれて、樹脂製プーリが取り出されて製品となる。
【0004】
上述の様な樹脂部材を射出成形する事により得られる樹脂製プーリの場合、従来から広く使用されている金属板にプレス加工を施して造るプレスプーリに比べて、軽量化とコスト低減とを図れることができる。一方、射出成形時のキャビティ内における冷却速度のバラツキによる変形又は、溶融樹脂が合流して融着した部分(以下、ウェルド部)による凸凹が生じ、樹脂製プーリの形状精度を確保するのが難しい。より具体的には、樹脂製プーリの外周面の真円度が悪化するため、ベルトの走行に伴って、樹脂製プーリの外周面とベルトの周面とが衝突して(互いに叩き合って)、比較的高い周波数を伴う噛み合い音が生じる可能性がある。
樹脂製プーリの性能としては、例えば、自動車部品などのベルト案内などの用途から、真円度が良い、或いは射出成形時に形成されてしまう突起がないなど安定的な形状であること、そして、溶融樹脂が均等に充填されて材質的(強度)に均一であること、などが主に求められている。
【0005】
樹脂製プーリの真円度改善の先行技術として、特許文献1では、リブ厚さよりも円輪状板部の厚さを大きくすることで、射出成形時に円輪状板部に流れる樹脂の流動がリブ部よりも先行して流れることにより、外径円筒部のウェルド部による凸凹を小さく抑えることが開示されている。一方、特許文献2には、プーリ内径円筒部厚さを円板部厚さよりも大きくすることで、射出成形時には先行して内径円筒部に樹脂が充填された後、リブ部や円板部を通して外形円筒部に樹脂が流入するという成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−290402号公報
【特許文献2】特開2002−266990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された樹脂製プーリは、コスト削減の為にゲート点数を少なくした場合には溶融樹脂の流動が不均一となり、真円度が悪化するという問題があった。また、プーリ外周面の真円度改善のために射出圧力を高くした場合、溶融樹脂を注入するゲートが転がり軸受の外輪の近傍に設けられているので、不均一で大きな圧力を受けた外輪の真円度が崩れるため、転がり軸受の回転精度・寿命が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は、ゲート点数を少なくした構成でありながら効率的に溶融樹脂をキャビティ内に充填して、樹脂部材の成形安定性を向上させることができ、プーリ外周面の真円度が向上した樹脂製プーリを提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、本発明の樹脂製プーリは、互いに同心に設けられた内径側円筒部及び外径側円筒部と、これら内径側円筒部と外径側円筒部との間に設けられた円板部と、前記円板部の両側面に等間隔で放射状に設けている複数のリブとを備え、上記内径側円筒部をラジアル転がり軸受を構成する外輪の周囲に、この外輪の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で固設した樹脂製のプーリに於いて、前記円板部は、前記内径側円筒部及び外径側円筒部と同心に形成される円環状肉厚部を有し、前記円環状肉厚部の軸方向一端側には、円周方向等間隔に射出成型時に溶融樹脂を送り込むための複数のゲートを配し、円環状肉厚部の軸方向幅をA、円環状肉厚部の径方向幅をA、板部の軸方向幅をB、リブの周方向幅をRC、、ゲートの直径をGとした時、下記の式を満たすことを特徴とする。
>B
>R
>G
本発明の樹脂製プーリは、円環状肉厚部の軸方向幅を板部の軸方向幅及びリブの周方向幅よりも厚くすることにより、ゲートから注入された溶融樹脂が円環状肉厚部から充填され、その後リブ部、プーリの外径側円筒部及び内径側円筒部に充填されるので、ゲート点数が少ない場合でも、リブ間毎にゲートを設ける全点ゲートの場合と同程度の真円度を得ることが出来る。
【0010】
さらに、本発明の樹脂製プーリは、各ゲート間にはリブが偶数本存在し、円環状肉厚部の各ゲートからの中間に中間肉厚部を有し、中間肉厚部の軸方向幅をC、中間肉厚部の径方向幅をCとした時、下記の式を満たすことを特徴とする。
>A
>A
各ゲートの中間部を円環状肉厚部よりもさらに肉厚とすることにより、ウェルド部による樹脂製プーリの強度低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転がり軸受の外輪に樹脂部材を射出成形した樹脂製プーリにおいて、円周方向等間隔にゲートが設置された円環状肉厚部を円板部及びリブよりも肉厚にする構成により、ゲートから注入された溶融樹脂が円環状肉厚部から充填され、その後円板部及びリブ内を流動して、プーリ外径側円筒部及び内径側円筒部に充填されることにより、ゲート点数が少なくても、擬似的に全点ゲートと同様の樹脂流動を再現することができるので、全点ゲートと同程度のプーリ外周真円度が得られ、かつコスト削減することができるという効果が有る。また、軸受外輪に不均一な圧力を及ぼすこともないため、軸受外輪の真円度の崩れを最小限とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る樹脂製プーリの実施形態を説明する側面図である。
【図2】図1のI−I断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂製プーリの実施形態の変形例を説明する側面図である。
【図4】図3のII−II断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る樹脂製プーリの実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態)
まず、図1及び図2を参照して、本発明に係る樹脂製プーリの実施形態について説明する。樹脂製プーリ1は、転がり軸受2の外輪4の外周部を樹脂部材9で包み込んだ状態で一体成形されている。転がり軸受2は、内輪3と外輪4とが、保持器6により保持された転動体5,5を介して相対的に回転するものである。
樹脂部材9は、転がり軸受2と同心である外径側円筒部11及び内径側円筒部10と、外径側円筒部11と内径側円筒部10との間に配設される円板部12と、円板部12の両方の平面上に等間隔で放射状に配設されると共に外径側円筒部11と内径側円筒部10とを接続する複数のリブ13とを有する。なお、本実施形態では、複数のリブ13は、円板部12の両方の平面上に設けられているが、これに限定されず、円板部12の片方の平面上のみに設けられていてもよい。
【0014】
さらに、円板部12は、外径側円筒部11と内径側円筒部10との中間部分に、軸方向幅を円板部12よりも大きくした円環状肉厚部14を有しており、円環状肉厚部14の軸方向一端側には、円周方向等間隔で各リブ13の中間位置に溶融樹脂を注入するゲート15が設けられている。また、この円環状肉厚部14は外径側円筒部11及び内径側円筒部10と同心の円環形状をしており、円環状肉厚部14の軸方向幅Aは円板部12の軸方向幅B及びリブ13の円周方向幅Rよりも大きく、円環状肉厚部14の径方向幅Aはゲート15の直径Gよりも大きくしている。
【0015】
次に、本発明の樹脂製プーリの製造方法について説明する。
インサート品である転がり軸受2を成形金型に装填し、図示しない射出装置からの溶融樹脂を、各ゲート15からキャビティ内に注入する。注入された溶融樹脂は円環状肉厚部14内を円周方向に流れ込み、先行して円環状肉厚部14は溶融樹脂により充填される。これは円環状肉厚部14の軸方向幅Aは、円板部12の軸方向幅B及びリブ13の周方向幅Rに対して相対的に大きく形成されているため、溶融樹脂は抵抗の少ない肉厚の円環状肉厚部14内を進もうとする為である。ただし、溶融樹脂の一部は円板部12又はリブ13内に流れ込む。円環状肉厚部14に溶融樹脂が完全に充填されると、円板部12及びリム13内に流入した溶融樹脂が、外径側円筒部11及び内径側円筒部10内に流動・充填され、樹脂製プーリ1が成形される。
【0016】
以上のように、本発明の樹脂製プーリ1は、円周方向等間隔にゲートを設置する部分を円環状に肉厚にするという構造において、円環状肉厚部14の軸方向幅A、円板部12の軸方向幅B、リブ13の周方向幅Rの関係はA>B、A>Rであり、円環状肉厚部14の径方向幅Aとゲート15の直径Gの関係はA>Gとしている。
これにより、リブ間に設けられたゲート15から注入された溶融樹脂は、まず円環状肉厚部14に充填され、その後円板部12及びリブ13を通り全周に亘って均等に径方向外径側及び内径側に流動するため、ゲート15を各リブ間全てに設置した場合と同様な効果が有り、擬似的に全点ゲートと同様の樹脂流動を再現することができるので、外周面の凹凸を非常に小さく抑えることができる。また、ゲート15の点数を少なくしたことにより、コストを削減することができる。さらに、ゲート15は外径側円筒部11と内径側円筒部10の中間に設けられているので、外輪4は過大な圧力を受けることはなく、しかも圧力は均一であるため、外輪4の真円度を悪化させることはない。
【0017】
本実施形態において、樹脂製プーリ1を構成する樹脂材料として、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、芳香環を有する芳香族ポリアミド、シクロ環を有する非晶性ポリアミドの単独または複数を混合したもの、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フェノール樹脂等の熱可塑性樹脂を母材として、ガラス繊維等の強化繊維やタルク、マイカ等のミネラル等の充填剤を添加した複合材料等を使用できる。
【0018】
より詳しくは、上記充填剤として、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカ等を使用でき、粒子状充填剤として、シリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)の粒子、炭酸カルシウム(CaO3)、タルク、マイカ、グラファイト等を使用できる。更に、上記充填剤は、それぞれ単独でも使用できるが、繊維系充填剤と粒子状充填剤とを組み合わせた場合には、粒子状充填剤により合成樹脂の体積収縮の異方性を抑制できると共に、繊維系充填剤により機械的強度の低下を抑制する事ができる。
【0019】
(変形例)
次に、図3及び図4を参照して、本発明に係る樹脂製プーリの変形例について説明する。なお、前記実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一或いは同等符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
本変形例の樹脂製プーリ1aは、円環状肉厚部14に中間肉厚部16を有している。この中間肉厚部16は、各ゲート15の周方向中間位置に形成され、各ゲート15の間にはリブ13が偶数本存在している。
【0020】
各ゲート15の間にリブ13が偶数本存在しているので、ウェルドが発生する各ゲート15の中間部にはリブ13が存在せず、中間肉厚部16を成形することができる。中間肉厚部16の軸方向幅Cと円環状肉厚部14の軸方向幅Aの関係はC>Aであり、中間肉厚部16の径方向幅Cと円環状肉厚部14の径方向幅Aの関係はC>Aとしている。以上の構造により、リブ13の間に設けられたゲート15から注入された溶融樹脂は円環状肉厚部14から充填され、その後円板部12及びリブ13内を流動して、外径側円筒部11及び内径側円筒部10に充填されることにより、ゲート点数が少なくても、全点ゲートと同様の樹脂流動を再現することができるので、全点ゲートと同程度のプーリ外周真円度が得られ、かつコストを削減することができる。さらに、ウェルド部を肉厚にすることにより、樹脂製プーリの強度低下を防止することができる。
なお、その他の構成及び作用効果については、前述の実施形態と同様である。
【0021】
なお、本発明は前述した実施形態及び変形例に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
例えば、上記実施形態では、軸受として玉軸受を例に説明したが、これに限らず、外輪に対して樹脂部材を固着させる必要がある軸受であれば、本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、樹脂製プーリとして、例えば自動車用エンジンの補機、あるいはカムシャフトを駆動する為の無端ベルトやタイミングベルトに所望の張力を付与する為に、あるいはベルトの巻き掛け角を確保すべくこのベルトを案内する為に使用するアイドラプーリまたはオートテンショナプーリとして利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1、1a 樹脂製プーリ
2 転がり軸受
3 内輪
4 外輪
5 転動体
6 保持器
9、9a 樹脂部材
10 内径側円筒部
11 外径側円筒部
12 円板部
13 リブ
14 円環状肉厚部
15 ゲート
16 中間肉厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に設けられた内径側円筒部及び外径側円筒部と、これら内径側円筒部と外径側円筒部との間に設けられた円板部と、前記円板部の両側面に等間隔で放射状に設けている複数のリブとを備え、上記内径側円筒部をラジアル転がり軸受を構成する外輪の周囲に、この外輪の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で固設した樹脂製のプーリに於いて、
前記円板部は、前記内径側円筒部及び外径側円筒部と同心に形成される円環状肉厚部を有し、前記円環状肉厚部の軸方向一端側には、円周方向等間隔に射出成型時に溶融樹脂を送り込むための複数のゲートを配し、円環状肉厚部の軸方向幅をA、円環状肉厚部の径方向幅をA、板部の軸方向幅をB、リブの周方向幅をRC、、ゲートの直径をGとした時、下記の式を満たすことを特徴とする樹脂製プーリ。
>B
>R
>G
【請求項2】
前記各ゲート間にはリブが偶数本存在し、円環状肉厚部の各ゲートからの中間に中間肉厚部を有し、中間肉厚部の軸方向幅をC、中間肉厚部の径方向幅をCとした時、下記の式を満たすことを特徴とする請求項1 に記載の樹脂製プーリ。
>A
>A

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117568(P2012−117568A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265936(P2010−265936)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】