説明

樹脂金属複合体およびその製造方法

【課題】
樹脂製のケースに金属製部材を取り付けるときに樹脂製のケースと金属製部材の接合面に残留する応力が少なく、かつ隙の発生が起き難い樹脂金属複合体を提供する。
【解決手段】
金属部材2が、金型にインサートされて樹脂部材1の形成と同時に樹脂部材1中に配され、その後樹脂部材1中に配された金属部材2を加熱することで再度樹脂部材1と金属部材2を接合する。
または、樹脂部材1を形成した後に、樹脂部材1中に加熱した金属部材2を挿入して接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材を樹脂部材に接合した樹脂金属複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ECU(Electronic Control Unit)等のような電子回路は樹脂製のケースに電子回路が内包されている。この電子回路を作動させるためには電子回路に通電する必要があり、そのために樹脂製のケースには金属製の端子がケースの外部に端子の一部が出るように設けられている。そして、この金属端子のケースへの取り付けには、金属端子を金型にインサートした後射出成形することで樹脂製のケースと一体にする方法が使用でき、例えば特許文献1および特許文献2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−1382号公報
【特許文献2】特開2004−249681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に開示された方法は、金型に金属製端子をインサートしたのち樹脂を射出成形して樹脂製のケースと一体に接合する方法である。この金属製端子をインサート成形する方法では、成形後の冷却により樹脂製のケースは固化収縮し、金属製の端子も温度低下に伴って収縮する。この際、金属製端子の金属部分の膨張収縮とケースの樹脂部分の膨張収縮が大きく異なっているため、端子部分の収縮と樹脂部分の収縮は異なった動きをする。しかし、端子とケースは一体に接合しているため端子に接合しているケースの樹脂部分とその近傍の樹脂部分は端子と同じ収縮を余儀なくされる。従って、端子部分に接合している樹脂部分およびこの近傍は本来の収縮とは異なった収縮となるため、この収縮の差に応じた応力が発生し、場合によってはケースの端子と樹脂製のケース部分の間に微小な隙が生ずることが有り得る。このように端子とケースの接合部分に応力(残留応力)が発生した場合や隙が生じた場合、使用によって端子とケースの接合部の破壊や、隙の発生によるケース内への水や埃等の浸入などにより正常な作動が妨げられることがある。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものであり、ECU等の樹脂製のケースに金属製部材を取り付けるときに樹脂製のケースと金属製部材の接合面に残留する応力が少なく、かつ隙の発生が起き難い樹脂金属複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために講じた第1の手段は、樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記金属部材が前記樹脂部材の形成と同時に前記樹脂部材中に配せられ、その後前記金属部材が加熱されて前記樹脂部材と接合していることにある。
【0007】
また第2の手段は、樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記樹脂部材が形成された後に、前記金属部材が加熱されて前記樹脂部材中に配せられて接合していることにある。
さらに、第1の手段または第2の手段の樹脂部材が、無機質繊維を分散させた樹脂材料を基に形成されると良い。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の樹脂金属複合体では、樹脂部材を形成した後に、金属部材を加熱して前記樹脂部材と前記金属部材を接合することにある。このように樹脂部材を成形した後に金属部材を加熱して接合することで成形後に残留する樹脂部材の応力を緩和することができ、または接合時に発生する応力を抑制することができる。
さらに、樹脂部材が無機質繊維を分散させた樹脂材料を基に形成されているため樹脂部材の膨張収縮が抑えられて金属部材に近くなるため、成形後に残留する樹脂部材の応力の減少または金属部材と樹脂部材の接合部に発生する隙を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の樹脂金属複合体である
【図2】実施例1の樹脂部材の断面図である。
【図3】実施例1の金属部材を加熱する加熱装置の概略図である。
【図4】実施例2の樹脂部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のECUケースは、一面が開放している容器に電子回路が取り付けられ(図示せず)、この開放した一面に図1に示す金属樹脂複合筐体1を用いて容器を密閉する。つまり本発明の金属樹脂複合筐体1はECUケースの蓋に用いられる。以下、このECUケースの蓋となる本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1、図2に示すように、樹脂金属複合体は樹脂製の樹脂部材1と、樹脂部材1の中央部に断面が正方形で細長い金属部材2が樹脂部材1を突き貫くように2個配せられている。この金属部材2は電子回路に通電するための端子である。樹脂部材1は平板形状の基部11と基部11の長手方向に隣接して延在する半円筒形のフランジ部12を2箇所備えている。フランジ部12の厚みは基部11より薄く設定され、基部11とフランジ部12は段差がある。このフランジ部12には孔12aが設けられて、この孔12aを通して樹脂金属複合体は電子回路が取り付けられた容器にねじ等によって螺着される。この際基部11とフランジ部12には段差があるため螺着したとき、ねじ等の頭をこの段差内に収めることができる。樹脂部材1はさらに基部11の片面(容器の内部側)には基部11の外周に沿って凹部11aが設けられている。この凹部11a内にゴム等のシール部材を配して容器に固定することでECUケースは密閉される。このように、端子である金属部材2が凹部11aに囲まれて基部11を貫いて基部11の両面に一部が露出しているため容器の外から容器の中へ電気を通すことができ、また凹部11a内に取り付けられるシール部材によって容器の内部には外部から水等が浸入することが無く、容器内でショート等の通電に起因する問題は起き難い。
ここで、蓋としての樹脂金属複合体は本実施形態ではねじ等によって容器に固定されるがこれに限定されるものではなく、例えばフランジ部12を接着することや、熱溶着することもできる。
【0012】
樹脂部材1を成形する材料は、要求される仕様によってPPS樹脂やナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂、またはフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用できる。そして、これら熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の中に無機質繊維を分散させている。このように樹脂部材1中に無機質繊維を配合することで膨張収縮を金属に近い膨張収縮に抑制することができる。さらに、無機質繊維を配合することで樹脂部材1の剛性は高くなり、破壊されにくい材料となっている。ここで、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の中に分散して配される無機質繊維としては端子間の短絡を考慮して電気を通しにくい繊維が適し、特にガラス繊維が好適である。また、その添加量は要求される仕様によって適宜決定されるが、樹脂材料中の添加量としては添加量が少ないと膨張収縮の抑制が不足し、反対に多いと成形性や樹脂部材1の強度の低下を招くため、1重量%〜15重量%が適する。
次に樹脂金属複合体の製造方法について説明する。
【0013】
端子としての金属部材2を所定の形状を備えた金型にセットした後、溶融させた樹脂を金型に流し込んで金属部材2を配した樹脂部材1を成形する。この成形方法としては射出成形や圧縮成形等の通常の成形方法が使用できる。このとき、樹脂部材1の基部11には金属部材2が接合した部分およびその周辺には金属と樹脂の膨張収縮の違いによって引き起こさせる冷却に伴う収縮量の違いによって応力(残留応力)が発生しやすくなっている。このように金属部材2をインサート成形した樹脂部材1を図3に示す加熱装置3にセットする(図3の樹脂金属複合体の断面は、図2に示す断面を90度回転させた状態になっている。)。加熱装置3へのセットは、樹脂部材1の基部11を固定治具32にて固定し、基部11の両面から突出している金属部材2の両端を加熱部31に装着する。加熱部31により金属部材2が加熱されると、金属部材2は断面方向および長手方向に膨張するとともに、金属部材2に接する基部11を加熱する。そのため、基部11は金属部材2に接合した部分およびその近傍が金属部材2からの熱により昇温し、金属部材2からの距離に応じて軟化状態から溶融状態にされる。その後加熱部31の加熱を停止して樹脂金属複合体を加熱装置3から取り外し金属部材2を室温まで冷却する。このときの冷却に伴って基部11と金属部材2は再度接合する。このような金属部材2の加熱冷却によりインサート成形時に生じた残留応力は以下の理由により低下する。つまり、金属部材2の加熱により基部11の金属部材2との接合部およびその周辺の樹脂は軟化溶融するため、成形時に発生した応力はなくなる。そして、加熱の停止に伴う冷却によって金属部2および基部11の金属部材2との接合部およびその周辺の樹脂は収縮するが、基部11の収縮はインサート成形時の収縮に比べて収縮率は変わらないが収縮する範囲が金属部材2との接合部およびその周辺部分に限定されるため、その収縮量は小さくて済み発生する応力は小さくなる。従って樹脂部材1を予め成形した後金属部材2を加熱冷却することで成形時に発生した応力の緩和が可能となり長期的に確実な接合が期待できる。また、成形時に金属部材2との接合部に微小な隙が生じた場合金属部材2を加熱することで金属部材2が膨張して隙を埋めることができる。この際金属部材2および基部11は冷却により収縮するが、ここでも基部11はインサート成形時の収縮に比べて金属部材2との接合部およびその周辺部分に限定されるため、その収縮量は小さくて済み隙は発生しにくくなる。また、本実施形態では樹脂部材1は無機質繊維(本実施形態ではガラス繊維)を分散させた材料を使用している。従って樹脂部材1の膨張収縮は無機質繊維によって拘束されて小さくなり、金属部材2に近くなっている。従って、収縮により発生する応力がさらに少なくすることができる。このため耐久性が向上し、より信頼性の高まりが期待できる。また、加熱部31による金属部材2の加熱方法は、ヒーターによる伝熱を使用する方法や金属部材に通電して発熱させる方法等が使用できる。
【実施例2】
【0014】
実施例2は出来上がった樹脂金属複合体は実施例1と同じであり、製造方法が一部異なるため、この異なる部分について説明する。
【0015】
図4に示したように、樹脂部材1は平板形状の基部11と基部11の長手方向に隣接して延在する半円筒形のフランジ部12を2箇所備えている。フランジ部12の厚みは基部11より薄く設定され、基部11とフランジ部12は段差がある。このフランジ部12には孔12aが設けられて、この孔12aを通して樹脂金属複合体は電子回路を取り付けた容器にねじ等によって螺着される。この際基部11とフランジ部12には段差があるため螺着したとき、ねじ等の頭をこの段差内に収めることができる。樹脂部材1はさらに基部11の片面(容器の内部側)には基部11の外周に沿って凹部11aが設けられている。この凹部11a内にゴム等のシール部材を配して容器に固定することでECUケースは密閉される。そして基部11の凹部11a内の中央には端子である金属部材2が貫通する孔13が2個設けられている。孔13の大きさは金属部材2と同じ大きさまたはマイナス公差に設定されている。
【0016】
以上のような形状を有する樹脂部材1を射出成形等により成形した後、端子としての金属部材2を加熱して樹脂部材1の孔13に挿入し、金属部材2の両端面が所定量だけ基部11の両面から出た状態にする。このとき金属部材2は加熱されているため、孔13の周辺は金属部材2の熱によって温度が上昇し、孔13からの距離に応じて溶融状態から軟化状態になるため金属部材2は容易に挿入することができる。その後金属部材2の挿入状態を保持したまま金属部材2を室温と同じ温度になるまで冷却する。この冷却にともない基部11に金属部材2が接合する。この際基部11の樹脂は昇温した温度から室温に戻るが温度変化が起きる範囲が基部11の金属部材2の周辺に限定されるため、前述したように残留する応力は金属部材2をインサート成形したときに比べて小さくて済む。ここで実施例2は実施例1同様に樹脂部材1は無機質繊維を添加した材料を使って成形されている。従って金属部材2に接する基部11の膨張収縮が金属部材2に近くなるように小さくなり、金属部材2の温度低下に伴って変化する収縮に基部11の金属部材2に接する部分が追従しやすく、また収縮量が少なくなっている。このため金属部材2に接する基部11が収縮に起因して金属部材2から受けて発生する残留応力は、金属粒子または金属繊維を添加しない材料を使用して成形したときに比べて小さくすることができる。また孔13の寸法が金属部材の寸法と同じかマイナス公差になっているため金属部材2は基部11に隙が無く接合することができる。また、金属部材2の加熱はヒーターによる加熱や、金属部材2への通電による発熱等が利用できる
【0017】
以上本発明の実施形態では、インサート成形によって金属部材2が樹脂部材1の形成と同時に樹脂部材1中に配せられ、その後金属部材2が加熱されて樹脂部材1と再度接合しすることにより、インサート成形により生じた樹脂部材1の金属部材2と接合している接合部の残留応力を緩和することができる。従って接合部の耐久性が向上し信頼性を高めることができる。
【0018】
また、樹脂部材1を形成した後に、樹脂部材1中に金属部材2を加熱挿入して接合すると樹脂部材1の加熱部位が金属部材2の周辺に限定されるため残留する応力は少なくて済む。
【0019】
さらに、樹脂部材1が、無機質繊維を分散させた樹脂材料を基に形成されている。従って樹脂部材1の温度変化による収縮を金属部材2の収縮に近づけることができ、樹脂部材1と金属部材2の収縮の違いによって引き起こされて樹脂部材1に発生する応力(残留応力)を抑制することができる。ここで樹脂部材1に分散させる繊維を無機質繊維に限定している理由は金属部材2が端子であるため、端子間の通電を抑制する必要からである。従って端子以外であって導電性が付与されても問題ない場合は無機質繊維に限定されず、例えば金属繊維、金属粒子の使用も有り得る。
以上、本発明を上記実施の態様に則して説明したが、本発明は上記態様にのみ限定されるものではなく、本発明の原理に準ずる各種態様を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、ケースの外に金属端子が突出しているECUケース等に利用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 樹脂部材
11 基部
12 フランジ部
2 金属部材
3 加熱装置
31 加熱部
32 固定治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記金属部材が前記樹脂部材の形成と同時に前記樹脂部材中に配せられ、その後前記金属部材が加熱されて前記樹脂部材と接合していることを特徴とする樹脂金属複合体。
【請求項2】
樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記樹脂部材が形成された後に、前記金属部材が加熱されて前記樹脂部材中に配せられて接合していることを特徴とする樹脂金属複合体。
【請求項3】
前記樹脂部材が、無機質繊維を分散させた樹脂材料を基に形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂金属複合体。
【請求項4】
樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記樹脂部材とを前記金属部材を同時に形成した後に、前記金属部材を加熱して前記樹脂部材と前記金属部材を接合することを特徴とする樹脂金属複合体の製造方法。
【請求項5】
樹脂部材に金属部材を配した樹脂金属複合体であって、前記樹脂部材を形成した後に、前記金属部材を加熱して前記樹脂部材中に配することを特徴とする樹脂金属複合体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂部材が、無機質繊維を分散させた樹脂材料を基に形成されることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の樹脂金属複合体の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274456(P2010−274456A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127105(P2009−127105)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】