機械装置の異常感知ユニット
【課題】 耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供すること。
【解決手段】 異常感知センサユニットは、共振周波数が40kHzの圧電セラミック振動子からなる空中超音波センサ1と、信号処理ユニットが収納された筐体4と、周辺の音を遮って指向性を高めるための筒型金属ケース5と、感知対象の機械装置の表面に接触させる際に使用する接触部6と、NR、NBR、等といった防振材からなるセンサ取付部7から構成される。異常感知センサユニットを異常を感知する対象の機械装置に接触、または対向して設置し、機械装置から発生する超音波を空中超音波センサ1で収録し、筐体4に収納された信号処理ユニットでディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換等の信号処理を行なうことにより転がり軸受装置の異常を感知する。
【解決手段】 異常感知センサユニットは、共振周波数が40kHzの圧電セラミック振動子からなる空中超音波センサ1と、信号処理ユニットが収納された筐体4と、周辺の音を遮って指向性を高めるための筒型金属ケース5と、感知対象の機械装置の表面に接触させる際に使用する接触部6と、NR、NBR、等といった防振材からなるセンサ取付部7から構成される。異常感知センサユニットを異常を感知する対象の機械装置に接触、または対向して設置し、機械装置から発生する超音波を空中超音波センサ1で収録し、筐体4に収納された信号処理ユニットでディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換等の信号処理を行なうことにより転がり軸受装置の異常を感知する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、自動車、等の車両、産業機械、等といった機械装置において、弾性流体潤滑で使用される転がり軸受装置等の異常を検知する異常感知センサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置の回転部分に使用される転がり軸受装置は、グリース、潤滑油、等といった潤滑剤が封入、または供給されて弾性流体潤滑下で潤滑されているが、経時変化に伴って潤滑剤が劣化すると、転がり軸受装置を構成する部品の摩耗、或いは損傷等の異常を引き起こすことがある。
【0003】
従来、転がり軸受装置の異常を診断するために、転がり軸受装置に対して所定距離離れた位置にコンデンサマイクロホンを設置して50kHzまでの空中超音波を収録し、監視ステーションで解析することにより転がり軸受装置の異常予知を行なう方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−209782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法は、超音波センサとして、センサ部分が空中に開放されたコンデンサマイクロホンを使用しているので、高湿の環境に弱く、空調された場所以外で使用した場合の異常予知は、信頼性に欠けるという問題がある。
【0005】
また、収録した空中超音波を解析する監視ステーションは、エンベロープ処理ユニット、アンプユニット、周波数分析器およびパソコン等を備えて構成され、コストが嵩むとともに、広い設置スペースを必要としていた。そして、本来は工場等に据え付けて使用するものであり、持ち運びができないものであった。
【0006】
更に、従来の転がり軸受装置の異常予知方法は、転がり軸受装置に傷が発生したことを検知するものであり、例えば、潤滑剤が劣化することによる回転異常を検知して異常予知を行なうことは困難であった。
【0007】
一方、AEセンサ(アコースティック・エミッション・センサ)や加速度センサ等の接触式センサを用いることにより、異常に伴って発生する超音波を検出することができるが、機械装置に接触することによる横波や表面波の影響を受けるため、検出対象の転がり軸受から発生する超音波のみを検出することが困難であり、S/N比および指向性に劣るという問題がある。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットは、下記(1)〜(8)を特徴としている。
(1)機械装置から発生する超音波を検出して、該機械装置の異常を感知する異常感知センサユニットであって、空中超音波センサと、集音ホーンとして機能する筒状ケースと、前記超音波センサを取り付けるセンサ取付部と、筐体と、を備え、前記機械装置に前記筒状ケースの開口部を対向させ、該機械装置から発生する超音波を収録すること。
(2)上記(1)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記空中超音波センサは、共振周波数が20〜100kHzであること。
(3)上記(1)または(2)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースと前記センサ取付部は、弾性体により音響的に絶縁されていること。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いた円錐状であること。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いたパラボラ状であること。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースの先端に弾性体を取り付けたこと。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筐体は、前記空中超音波センサで検出した超音波信号を処理するための信号処理回路を収納し、該信号処理回路は、ディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換を行なうこと。
(8)上記(7)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記信号処理回路は、ヒルベルト変換器によりエンベロープ処理および周波数変換を行なうこと。
【0010】
上記(1)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、超音波センサとして比較的安価な共振型の空中超音波センサを集音ホーンの底部に設置して用いることで、耐湿性および指向性に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(2)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、空中超音波センサの共振周波数が機械振動や周辺における可聴音の周波数帯域から離れているので、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
更に、上記(3)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、集音ホーンの振動が空中超音波センサに直接伝搬することがなく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(4)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、検知対象の転がり軸受装置から発生する超音波を効率良く空中超音波センサに収録することができ、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(5)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、検知対象の転がり軸受装置から発生する超音波を効率良く空中超音波センサに収録することができ、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(6)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、弾性体を介して筒状ケースの先端を検知対象の機械装置各部に接触させることができので、狭い場所で転がり軸受装置から発生する超音波を検知することが可能となり、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(7)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、信号処理部を超音波センサに近接した筐体に内蔵することにより、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(8)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、信号処理部に転がり軸受の回転速度と軸受諸元を入力することにより、軸受の異常を精度良く診断、予知できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第1実施形態の概略構成を示す縦断面図である。同図において、異常感知センサユニットは、空中超音波センサ1と、信号処理ユニットを内蔵する筐体4と、筒型金属ケース(即ち、金属製の筒状ケース)5と、接触部6と、センサ取付部7と、を有する構成である。
【0014】
空中超音波センサ1は、円盤状でフラットな振動板2が接合された共振周波数が40kHzの圧電セラミック振動子を有し、振動板2を振動させる超音波を電気信号に変換し、そして当該電気信号を後述する信号処理ユニットに伝送するための、当該信号処理ユニットに直付けされる電極3を備えている。また、耐湿性を高めるために空中超音波センサ1の全体を金属ケースで密閉された構造とし、更に防水剤でコーティングしている。
【0015】
筐体4は、金属プレスまたは樹脂成型による箱状体からなり、筒型金属ケース5と一体化されて構成され、後述する信号処理ユニットが収納される。尚、この筐体4は後述する信号処理ユニットを収納するので、電磁ノイズを遮蔽する必要があり、樹脂で形成される場合は内側に電磁シールドが貼付される。
【0016】
筒型金属ケース5は、例えば、アルミニウムの押出成型または深絞りプレス加工によって円筒状に形成されており、異常感知センサユニット周辺の音を遮るとともに、収録する超音波を集音するホーンとして機能する。なお、このケース5は、筒状で、周囲の雑音の進入を防止する機能を有するとともに、検知する音の指向性に優れるものであれば良い。 また、ケース5は、金属製でなくともよく、紙製、プラスチック製、或いはセラミック製、等であってもよい。但し、高周波に対するノイズ防止対策としてケース5を金属製とすることが望ましい。
【0017】
接触部6は、筒型金属ケース5を機械装置の任意の表面に接触させる際に密着性を高めるとともに、周辺の空中騒音を遮蔽するためのゴムや樹脂からなる緩衝材であり、これによって指向性およびS/N比を高めることもできる。尚、この接触部6は、異常感知センサユニットを感知対象の機械装置に接触して用いることがなければ、不要である。
【0018】
また、センサ取付部7は、超音波センサ1が振動して雑音を拾うのを回避するためのNR(天然ゴム)またはNBR(ニトリルゴム)からなる防振材であり、空中超音波センサ1の側面と底面に密着して構成される。
【0019】
筐体4には、図2にその概略構成を示す信号処理ユニットが内蔵されている。図2において、信号処理ユニットは、増幅部41と、A/D変換器(アナログ/ディジタル変換器)42と、ディジタル演算処理部43と、操作部44と、表示部45と、メモリカード46と、D/A(ディジタル/アナログ変換器)変換器47と、アンプ48と、音声出力部49を有する構成である。
【0020】
次に、このように構成された信号処理ユニットの機能および動作について説明する。
【0021】
空中超音波センサ1で収録された超音波信号は、アンチエリアシングフィルタを含む増幅部41でフィルタリングされて所定の電圧レベルに増幅された後、A/D変換器42によりディジタル信号に変換される。
【0022】
ディジタル信号はディジタル演算処理部43に入力され、収録した超音波信号から異常感知対象の転がり軸受装置におけるキズ等の異常の有無を判定する。転がり軸受のキズ等の異常を判定するには、例えば、回転速度と軸受諸元(転動体数、転動体径、ピッチ円径など)を入力するとともに、ディジタル信号についてヒルベルト変換を利用した振幅変調、または絶対値処理によるエンベロープ処理を行なってピークとなる周波数を求め、回転速度と装置諸元から算出されるキズ等の異常がある場合の理論周波数と比較する。これにより、キズ等の異常の有無を判定することができる。
【0023】
ディジタル演算処理部43では、他に、時間軸の波形パラメータ、波形のRMS(実効値)、波形のピーク、波形の波高率、クルトシス、等のパラメータもディジタル処理により求めることができる。
【0024】
ディジタル演算処理部43における処理結果のデータは、液晶ディスプレイ等の表示部45に表示したり、信号出力から外部のホストコンピュータに送信することができる。また、メモリカード46にデータを書き込み、パソコンにデータを移して管理することもできる。更に、ディジタル信号に変換された超音波信号をヒルベルト変換を利用して可聴音帯域の周波数に変換し、D/A変換器47でアナログ音声信号に変換してアンプ48で電力増幅して、スピーカ等の音声出力部49を鳴動させることもできる。これにより、転がり軸受の異常を耳で直接感知することができる。尚、ディジタル演算処理部43においてディジタル化されたデータの処理法は、キーボード等からなる操作部44のキー操作によって選択することができる。また、専用のディジタル回路を設けることにより、常時所定の機能が動作するように構成することも可能である。
【0025】
以上説明したように、このような本発明の第1実施形態によれば、超音波センサとして比較的安価な共振型の空中超音波センサを集音ホーンの底部に設置して用いることで、耐湿性および指向性に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを得ることができる。
【0026】
(第2実施形態)
本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態は、センサユニットを機械装置に当接させ、固体中を伝搬する超音波を収録することによって機械装置の異常を感知するものである。図3〜図5は、異常感知センサユニットの第2実施形態の概略構成例を示す縦断面図である。これらの図において、図1に示した第1実施形態と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
図3において、異常感知センサユニットは、振動板2が接合され、電極3を備えた圧電セラミック振動子からなる空中超音波センサ1と、信号処理ユニットを収納する筐体4と、筒型金属ケースからなる集音ホーン5と、センサ取付部7と、触針8と、薄板円盤9と、を有する構成である。
【0028】
使用に際しては、触針8を機械装置に当接させ、機械装置から発生して固体中を伝搬する超音波振動を触針8で受信する。触針8は伝搬された超音波振動で薄板円盤9を振動させ、空中超音波を発生する。発生した空中超音波は、空中超音波センサ1により収録され、第1実施形態と同様に、筐体4に収納された信号処理ユニットで処理される。
【0029】
図4に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成における接触部6に代えて、断面が半円状のゴム製リング10と、高周波成分の音を発生させる振動膜(ダイアフラム)11を集音ホーン5に設けた構成である。尚、この振動膜11は空中超音波センサ1の感度を高めるのが目的であるが、必ずしも設けなくともよい。
【0030】
図5は、図1に示した異常感知センサユニットの構成における接触部6に代えて、逆椀状の振動膜12を設け、これを感知対象の機械装置に接触させて振動させることにより、集音ホーン5の内部に空中超音波を発生するものである。このようにして発生した空中超音波は、空中超音波センサ1により収録され、第1実施形態と同様に、筐体4に収納された信号処理ユニットで処理される。
【0031】
以上説明したように、このような本発明の第2実施形態によれば、集音ホーン5に円盤または振動膜を設け、円盤に連結する触針または集音ホーンに設けたゴム製の接触部を介して、或いは振動膜を直接に感知対象の機械装置に接触させて円盤または振動膜を振動させることにより、集音ホーンの内部に空中超音波を発生させる。これにより、超音波センサで機械装置から発生する超音波振動を高感度で感知することができる。
【0032】
(第3実施形態)
本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態は、センサユニットの先端を機械装置に非接触で対向させ、機械装置で発生し空気中を伝搬する超音波を収録することにより、機械装置の異常を感知するものである。図6〜図8は、異常感知センサユニットの第3実施形態の概略構成例を示す縦断面図である。これらの図において、図1に示した第1実施形態、および図4に示した第2実施形態と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図6に示す異常感知センサユニットは、図4に示した異常感知センサユニットの構成における振動膜11に代えて、集音ホーン5の内側に音響レンズ13を設けた構成である。 音響レンズ13には椀状の底部に穴14が開けられており、機械装置から発生し音響レンズ13で屈折した空中超音波が入射し、空中超音波センサ1で収録可能に構成されている。これにより、機械装置から発生する空中超音波を効率良く、かつ指向性を高めて収録できる。尚、音響レンズ13の径を大きくすることにより空中超音波を集束することが可能となり、比較的遠くに離れた機械装置から発生する空中超音波を感度良く収録することができる。
【0034】
図7に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成において、内面を円錐状に形成した集音ホーン20を有する構成である。これにより、空中超音波の集束性が高くなり、効率良く超音波を収録できる。尚、集音ホーンの内面をパラボラ状に形成して焦点位置に超音波センサ1を設置することにより、超音波の集束性を更に高めることが可能となる。
【0035】
図8に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成において、先端を細くすると共に、全体を長く形成した集音ホーン21を有する構成である。これにより、機械装置の特定部分や狭い場所における空中超音波を指向性良く、効率的に収録することができる。
【0036】
図9は、図8に示す異常感知センサユニットを用いて機械装置の異常を感知する例を示すものである。機械装置100は、転がり軸受101、102を使用して構成される、例えば、印刷機、製紙機、圧延ロール、等といった機械装置であって、電動機104から、継手、歯車、およびベルト等の減速装置からなる伝導機構103を介して動力を得ている。尚、伝導機構103はカバー105を被せられている。
【0037】
機械装置100から異常音が発生している場合は、同時に超音波も発生しているので、超音波の指向性を利用することにより、異常感知センサユニット110を用いて機械装置100のどの部分から異常音が発生しているかを特定することが可能である。尚、図9の異常感知センサユニット110は、その基部(図9中の上方部分)が不図示の揺動機構に取り付けられ、揺動自在となっており、異常感知センサユニット110の先端部が機械装置100の各部に向かうように図9において左右に自動或いは手動で揺動され、機械装置100の各部から発せられる超音波を感知できるように構成されている。
【0038】
異常感知センサユニット110を軸受101、102、伝導機構103および電動機104の各方向に向けて、超音波の音圧レベルを比較したところ、例えば、図10に示すような結果が得られた。図10は半径方向に音圧レベルの相対強度を表したグラフであり、軸受101から最も強い超音波が発生していることが図10には示されている。これより、軸受101に異常が起きていることが判る。このように、異常感知センサユニット110を機械装置100の各部に向けて大きく反応する部分を見つけることにより、1台の異常感知センサユニット110で異常が生じている個所を特定することができるので、低コスト化が可能となり、設置スペースの大幅な縮減を図ることができる。
【0039】
異常感知センサユニット110で収録された超音波信号は、図8に示した異常感知センサユニットの筐体4に収納された信号処理ユニットにより、取得した超音波データのサンプリング波形をエンベロープ処理し、FFT(高速フーリエ変換)で周波数分析する。その結果、図11に示すような周波数スペクトルが得られた。ピークを示す周波数のf1〜f5を調べたところ、f2〜f5は周波数がf1のそれぞれ2倍、3倍、4倍、5倍であり、f1を基本波とする高調波成分であった。一方、軸受諸元と回転速度の入力から計算された軸受外輪にキズ等の異常がある場合の理論周波数がf1と許容誤差範囲内で一致し、外輪にキズ等の異常が発生していることが明らかになった。
【0040】
本例では、異常感知センサユニット110として、図8に示した第3実施形態に係る構成のものを適用したが、同実施形態に係る図6および図7に示した構成、および第2実施形態に係る図3〜図5に示した構成のいずれの異常感知センサユニットをも用いることができる。但し、図3〜図5に示した構成の異常感知センサユニットの場合は、機械装置100のハウジングや筐体、カバー、台座等に接触させて用いる。
【0041】
以上説明したように、このような本発明の第3実施形態によれば、集音ホーンに音響レンズを設けることにより、機械装置から発する空中超音波を非接触で効率良く、かつ指向性を高めて収録できる。また、集音ホーンの内面を円錐状またはパラボラ状に形成することにより、空中超音波の集束性を高め、超音波を効率良く収録できる。更に、集音ホーンの先端を細く、かつ長く形成することにより、狭い場所における超音波を指向性良く、効率的に収録することができる。
【0042】
本発明は、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供できる効果を有し、転がり軸受を使用する鉄道車両や自動車、産業機械等の機械装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第1実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの各実施形態における信号処理ユニットの概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態の概略構成を示す図である。
【図4】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図5】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図6】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態の概略構成を示す図である。
【図8】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図9】図8の異常感知センサユニットを用いて、機械装置の異常を感知する例を示す図である。
【図10】機械装置各部から発生する超音波の音圧レベルを示すグラフである。
【図11】機械装置から収録した超音波の周波数スペクトルを示す周波数分布図である。
【符号の説明】
【0044】
1 空中超音波センサ
4 筐体
5 筒型金属ケース(集音ホーン)
6 接触部
7 センサ取付部
8 触針
9 薄板円盤
10 リング状接触部
11 振動膜(ダイアフラム)
12 逆椀状振動膜
13 音響レンズ
20 円錐状集音ホーン
21 先細状集音ホーン
100 機械装置
101、102 転がり軸受
110 異常感知センサユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、自動車、等の車両、産業機械、等といった機械装置において、弾性流体潤滑で使用される転がり軸受装置等の異常を検知する異常感知センサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置の回転部分に使用される転がり軸受装置は、グリース、潤滑油、等といった潤滑剤が封入、または供給されて弾性流体潤滑下で潤滑されているが、経時変化に伴って潤滑剤が劣化すると、転がり軸受装置を構成する部品の摩耗、或いは損傷等の異常を引き起こすことがある。
【0003】
従来、転がり軸受装置の異常を診断するために、転がり軸受装置に対して所定距離離れた位置にコンデンサマイクロホンを設置して50kHzまでの空中超音波を収録し、監視ステーションで解析することにより転がり軸受装置の異常予知を行なう方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−209782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法は、超音波センサとして、センサ部分が空中に開放されたコンデンサマイクロホンを使用しているので、高湿の環境に弱く、空調された場所以外で使用した場合の異常予知は、信頼性に欠けるという問題がある。
【0005】
また、収録した空中超音波を解析する監視ステーションは、エンベロープ処理ユニット、アンプユニット、周波数分析器およびパソコン等を備えて構成され、コストが嵩むとともに、広い設置スペースを必要としていた。そして、本来は工場等に据え付けて使用するものであり、持ち運びができないものであった。
【0006】
更に、従来の転がり軸受装置の異常予知方法は、転がり軸受装置に傷が発生したことを検知するものであり、例えば、潤滑剤が劣化することによる回転異常を検知して異常予知を行なうことは困難であった。
【0007】
一方、AEセンサ(アコースティック・エミッション・センサ)や加速度センサ等の接触式センサを用いることにより、異常に伴って発生する超音波を検出することができるが、機械装置に接触することによる横波や表面波の影響を受けるため、検出対象の転がり軸受から発生する超音波のみを検出することが困難であり、S/N比および指向性に劣るという問題がある。
【0008】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットは、下記(1)〜(8)を特徴としている。
(1)機械装置から発生する超音波を検出して、該機械装置の異常を感知する異常感知センサユニットであって、空中超音波センサと、集音ホーンとして機能する筒状ケースと、前記超音波センサを取り付けるセンサ取付部と、筐体と、を備え、前記機械装置に前記筒状ケースの開口部を対向させ、該機械装置から発生する超音波を収録すること。
(2)上記(1)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記空中超音波センサは、共振周波数が20〜100kHzであること。
(3)上記(1)または(2)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースと前記センサ取付部は、弾性体により音響的に絶縁されていること。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いた円錐状であること。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いたパラボラ状であること。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筒状ケースの先端に弾性体を取り付けたこと。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記筐体は、前記空中超音波センサで検出した超音波信号を処理するための信号処理回路を収納し、該信号処理回路は、ディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換を行なうこと。
(8)上記(7)の構成の機械装置の異常感知センサユニットであって、前記信号処理回路は、ヒルベルト変換器によりエンベロープ処理および周波数変換を行なうこと。
【0010】
上記(1)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、超音波センサとして比較的安価な共振型の空中超音波センサを集音ホーンの底部に設置して用いることで、耐湿性および指向性に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(2)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、空中超音波センサの共振周波数が機械振動や周辺における可聴音の周波数帯域から離れているので、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
更に、上記(3)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、集音ホーンの振動が空中超音波センサに直接伝搬することがなく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(4)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、検知対象の転がり軸受装置から発生する超音波を効率良く空中超音波センサに収録することができ、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(5)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、検知対象の転がり軸受装置から発生する超音波を効率良く空中超音波センサに収録することができ、機械的なノイズを拾いにくく、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(6)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、弾性体を介して筒状ケースの先端を検知対象の機械装置各部に接触させることができので、狭い場所で転がり軸受装置から発生する超音波を検知することが可能となり、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(7)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、信号処理部を超音波センサに近接した筐体に内蔵することにより、S/N比に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
また、上記(8)の構成の機械装置の異常感知センサユニットによれば、信号処理部に転がり軸受の回転速度と軸受諸元を入力することにより、軸受の異常を精度良く診断、予知できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第1実施形態の概略構成を示す縦断面図である。同図において、異常感知センサユニットは、空中超音波センサ1と、信号処理ユニットを内蔵する筐体4と、筒型金属ケース(即ち、金属製の筒状ケース)5と、接触部6と、センサ取付部7と、を有する構成である。
【0014】
空中超音波センサ1は、円盤状でフラットな振動板2が接合された共振周波数が40kHzの圧電セラミック振動子を有し、振動板2を振動させる超音波を電気信号に変換し、そして当該電気信号を後述する信号処理ユニットに伝送するための、当該信号処理ユニットに直付けされる電極3を備えている。また、耐湿性を高めるために空中超音波センサ1の全体を金属ケースで密閉された構造とし、更に防水剤でコーティングしている。
【0015】
筐体4は、金属プレスまたは樹脂成型による箱状体からなり、筒型金属ケース5と一体化されて構成され、後述する信号処理ユニットが収納される。尚、この筐体4は後述する信号処理ユニットを収納するので、電磁ノイズを遮蔽する必要があり、樹脂で形成される場合は内側に電磁シールドが貼付される。
【0016】
筒型金属ケース5は、例えば、アルミニウムの押出成型または深絞りプレス加工によって円筒状に形成されており、異常感知センサユニット周辺の音を遮るとともに、収録する超音波を集音するホーンとして機能する。なお、このケース5は、筒状で、周囲の雑音の進入を防止する機能を有するとともに、検知する音の指向性に優れるものであれば良い。 また、ケース5は、金属製でなくともよく、紙製、プラスチック製、或いはセラミック製、等であってもよい。但し、高周波に対するノイズ防止対策としてケース5を金属製とすることが望ましい。
【0017】
接触部6は、筒型金属ケース5を機械装置の任意の表面に接触させる際に密着性を高めるとともに、周辺の空中騒音を遮蔽するためのゴムや樹脂からなる緩衝材であり、これによって指向性およびS/N比を高めることもできる。尚、この接触部6は、異常感知センサユニットを感知対象の機械装置に接触して用いることがなければ、不要である。
【0018】
また、センサ取付部7は、超音波センサ1が振動して雑音を拾うのを回避するためのNR(天然ゴム)またはNBR(ニトリルゴム)からなる防振材であり、空中超音波センサ1の側面と底面に密着して構成される。
【0019】
筐体4には、図2にその概略構成を示す信号処理ユニットが内蔵されている。図2において、信号処理ユニットは、増幅部41と、A/D変換器(アナログ/ディジタル変換器)42と、ディジタル演算処理部43と、操作部44と、表示部45と、メモリカード46と、D/A(ディジタル/アナログ変換器)変換器47と、アンプ48と、音声出力部49を有する構成である。
【0020】
次に、このように構成された信号処理ユニットの機能および動作について説明する。
【0021】
空中超音波センサ1で収録された超音波信号は、アンチエリアシングフィルタを含む増幅部41でフィルタリングされて所定の電圧レベルに増幅された後、A/D変換器42によりディジタル信号に変換される。
【0022】
ディジタル信号はディジタル演算処理部43に入力され、収録した超音波信号から異常感知対象の転がり軸受装置におけるキズ等の異常の有無を判定する。転がり軸受のキズ等の異常を判定するには、例えば、回転速度と軸受諸元(転動体数、転動体径、ピッチ円径など)を入力するとともに、ディジタル信号についてヒルベルト変換を利用した振幅変調、または絶対値処理によるエンベロープ処理を行なってピークとなる周波数を求め、回転速度と装置諸元から算出されるキズ等の異常がある場合の理論周波数と比較する。これにより、キズ等の異常の有無を判定することができる。
【0023】
ディジタル演算処理部43では、他に、時間軸の波形パラメータ、波形のRMS(実効値)、波形のピーク、波形の波高率、クルトシス、等のパラメータもディジタル処理により求めることができる。
【0024】
ディジタル演算処理部43における処理結果のデータは、液晶ディスプレイ等の表示部45に表示したり、信号出力から外部のホストコンピュータに送信することができる。また、メモリカード46にデータを書き込み、パソコンにデータを移して管理することもできる。更に、ディジタル信号に変換された超音波信号をヒルベルト変換を利用して可聴音帯域の周波数に変換し、D/A変換器47でアナログ音声信号に変換してアンプ48で電力増幅して、スピーカ等の音声出力部49を鳴動させることもできる。これにより、転がり軸受の異常を耳で直接感知することができる。尚、ディジタル演算処理部43においてディジタル化されたデータの処理法は、キーボード等からなる操作部44のキー操作によって選択することができる。また、専用のディジタル回路を設けることにより、常時所定の機能が動作するように構成することも可能である。
【0025】
以上説明したように、このような本発明の第1実施形態によれば、超音波センサとして比較的安価な共振型の空中超音波センサを集音ホーンの底部に設置して用いることで、耐湿性および指向性に優れ、小型かつ低コストの機械装置の異常感知センサユニットを得ることができる。
【0026】
(第2実施形態)
本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態は、センサユニットを機械装置に当接させ、固体中を伝搬する超音波を収録することによって機械装置の異常を感知するものである。図3〜図5は、異常感知センサユニットの第2実施形態の概略構成例を示す縦断面図である。これらの図において、図1に示した第1実施形態と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
図3において、異常感知センサユニットは、振動板2が接合され、電極3を備えた圧電セラミック振動子からなる空中超音波センサ1と、信号処理ユニットを収納する筐体4と、筒型金属ケースからなる集音ホーン5と、センサ取付部7と、触針8と、薄板円盤9と、を有する構成である。
【0028】
使用に際しては、触針8を機械装置に当接させ、機械装置から発生して固体中を伝搬する超音波振動を触針8で受信する。触針8は伝搬された超音波振動で薄板円盤9を振動させ、空中超音波を発生する。発生した空中超音波は、空中超音波センサ1により収録され、第1実施形態と同様に、筐体4に収納された信号処理ユニットで処理される。
【0029】
図4に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成における接触部6に代えて、断面が半円状のゴム製リング10と、高周波成分の音を発生させる振動膜(ダイアフラム)11を集音ホーン5に設けた構成である。尚、この振動膜11は空中超音波センサ1の感度を高めるのが目的であるが、必ずしも設けなくともよい。
【0030】
図5は、図1に示した異常感知センサユニットの構成における接触部6に代えて、逆椀状の振動膜12を設け、これを感知対象の機械装置に接触させて振動させることにより、集音ホーン5の内部に空中超音波を発生するものである。このようにして発生した空中超音波は、空中超音波センサ1により収録され、第1実施形態と同様に、筐体4に収納された信号処理ユニットで処理される。
【0031】
以上説明したように、このような本発明の第2実施形態によれば、集音ホーン5に円盤または振動膜を設け、円盤に連結する触針または集音ホーンに設けたゴム製の接触部を介して、或いは振動膜を直接に感知対象の機械装置に接触させて円盤または振動膜を振動させることにより、集音ホーンの内部に空中超音波を発生させる。これにより、超音波センサで機械装置から発生する超音波振動を高感度で感知することができる。
【0032】
(第3実施形態)
本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態は、センサユニットの先端を機械装置に非接触で対向させ、機械装置で発生し空気中を伝搬する超音波を収録することにより、機械装置の異常を感知するものである。図6〜図8は、異常感知センサユニットの第3実施形態の概略構成例を示す縦断面図である。これらの図において、図1に示した第1実施形態、および図4に示した第2実施形態と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
図6に示す異常感知センサユニットは、図4に示した異常感知センサユニットの構成における振動膜11に代えて、集音ホーン5の内側に音響レンズ13を設けた構成である。 音響レンズ13には椀状の底部に穴14が開けられており、機械装置から発生し音響レンズ13で屈折した空中超音波が入射し、空中超音波センサ1で収録可能に構成されている。これにより、機械装置から発生する空中超音波を効率良く、かつ指向性を高めて収録できる。尚、音響レンズ13の径を大きくすることにより空中超音波を集束することが可能となり、比較的遠くに離れた機械装置から発生する空中超音波を感度良く収録することができる。
【0034】
図7に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成において、内面を円錐状に形成した集音ホーン20を有する構成である。これにより、空中超音波の集束性が高くなり、効率良く超音波を収録できる。尚、集音ホーンの内面をパラボラ状に形成して焦点位置に超音波センサ1を設置することにより、超音波の集束性を更に高めることが可能となる。
【0035】
図8に示す異常感知センサユニットは、図1に示した異常感知センサユニットの構成において、先端を細くすると共に、全体を長く形成した集音ホーン21を有する構成である。これにより、機械装置の特定部分や狭い場所における空中超音波を指向性良く、効率的に収録することができる。
【0036】
図9は、図8に示す異常感知センサユニットを用いて機械装置の異常を感知する例を示すものである。機械装置100は、転がり軸受101、102を使用して構成される、例えば、印刷機、製紙機、圧延ロール、等といった機械装置であって、電動機104から、継手、歯車、およびベルト等の減速装置からなる伝導機構103を介して動力を得ている。尚、伝導機構103はカバー105を被せられている。
【0037】
機械装置100から異常音が発生している場合は、同時に超音波も発生しているので、超音波の指向性を利用することにより、異常感知センサユニット110を用いて機械装置100のどの部分から異常音が発生しているかを特定することが可能である。尚、図9の異常感知センサユニット110は、その基部(図9中の上方部分)が不図示の揺動機構に取り付けられ、揺動自在となっており、異常感知センサユニット110の先端部が機械装置100の各部に向かうように図9において左右に自動或いは手動で揺動され、機械装置100の各部から発せられる超音波を感知できるように構成されている。
【0038】
異常感知センサユニット110を軸受101、102、伝導機構103および電動機104の各方向に向けて、超音波の音圧レベルを比較したところ、例えば、図10に示すような結果が得られた。図10は半径方向に音圧レベルの相対強度を表したグラフであり、軸受101から最も強い超音波が発生していることが図10には示されている。これより、軸受101に異常が起きていることが判る。このように、異常感知センサユニット110を機械装置100の各部に向けて大きく反応する部分を見つけることにより、1台の異常感知センサユニット110で異常が生じている個所を特定することができるので、低コスト化が可能となり、設置スペースの大幅な縮減を図ることができる。
【0039】
異常感知センサユニット110で収録された超音波信号は、図8に示した異常感知センサユニットの筐体4に収納された信号処理ユニットにより、取得した超音波データのサンプリング波形をエンベロープ処理し、FFT(高速フーリエ変換)で周波数分析する。その結果、図11に示すような周波数スペクトルが得られた。ピークを示す周波数のf1〜f5を調べたところ、f2〜f5は周波数がf1のそれぞれ2倍、3倍、4倍、5倍であり、f1を基本波とする高調波成分であった。一方、軸受諸元と回転速度の入力から計算された軸受外輪にキズ等の異常がある場合の理論周波数がf1と許容誤差範囲内で一致し、外輪にキズ等の異常が発生していることが明らかになった。
【0040】
本例では、異常感知センサユニット110として、図8に示した第3実施形態に係る構成のものを適用したが、同実施形態に係る図6および図7に示した構成、および第2実施形態に係る図3〜図5に示した構成のいずれの異常感知センサユニットをも用いることができる。但し、図3〜図5に示した構成の異常感知センサユニットの場合は、機械装置100のハウジングや筐体、カバー、台座等に接触させて用いる。
【0041】
以上説明したように、このような本発明の第3実施形態によれば、集音ホーンに音響レンズを設けることにより、機械装置から発する空中超音波を非接触で効率良く、かつ指向性を高めて収録できる。また、集音ホーンの内面を円錐状またはパラボラ状に形成することにより、空中超音波の集束性を高め、超音波を効率良く収録できる。更に、集音ホーンの先端を細く、かつ長く形成することにより、狭い場所における超音波を指向性良く、効率的に収録することができる。
【0042】
本発明は、耐湿性および指向性に優れ、小型化、低コスト化および設置スペースの縮減を図ることのできる機械装置の異常感知センサユニットを提供できる効果を有し、転がり軸受を使用する鉄道車両や自動車、産業機械等の機械装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第1実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの各実施形態における信号処理ユニットの概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態の概略構成を示す図である。
【図4】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図5】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図6】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第2実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態の概略構成を示す図である。
【図8】本発明に係る機械装置の異常感知センサユニットの第3実施形態に係る他の概略構成例を示す図である。
【図9】図8の異常感知センサユニットを用いて、機械装置の異常を感知する例を示す図である。
【図10】機械装置各部から発生する超音波の音圧レベルを示すグラフである。
【図11】機械装置から収録した超音波の周波数スペクトルを示す周波数分布図である。
【符号の説明】
【0044】
1 空中超音波センサ
4 筐体
5 筒型金属ケース(集音ホーン)
6 接触部
7 センサ取付部
8 触針
9 薄板円盤
10 リング状接触部
11 振動膜(ダイアフラム)
12 逆椀状振動膜
13 音響レンズ
20 円錐状集音ホーン
21 先細状集音ホーン
100 機械装置
101、102 転がり軸受
110 異常感知センサユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置から発生する超音波を検出して、該機械装置の異常を感知する異常感知センサユニットであって、
空中超音波センサと、集音ホーンとして機能する筒状ケースと、前記超音波センサを取り付けるセンサ取付部と、筐体と、を備え、
前記機械装置に前記筒状ケースの開口部を対向させ、該機械装置から発生する超音波を収録することを特徴とする機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項2】
前記空中超音波センサは、共振周波数が20〜100kHzであることを特徴とする請求項1に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項3】
前記筒状ケースと前記センサ取付部は、弾性体により音響的に絶縁されていることを特徴とする請求項1または2に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項4】
前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いた円錐状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項5】
前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いたパラボラ状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項6】
前記筒状ケースの先端に弾性体を取り付けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項7】
前記筐体は、前記空中超音波センサで検出した超音波信号を処理するための信号処理回路を収納し、該信号処理回路は、ディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換を行なうことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項8】
前記信号処理回路は、ヒルベルト変換器によりエンベロープ処理および周波数変換を行なうことを特徴とする請求項7に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項1】
機械装置から発生する超音波を検出して、該機械装置の異常を感知する異常感知センサユニットであって、
空中超音波センサと、集音ホーンとして機能する筒状ケースと、前記超音波センサを取り付けるセンサ取付部と、筐体と、を備え、
前記機械装置に前記筒状ケースの開口部を対向させ、該機械装置から発生する超音波を収録することを特徴とする機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項2】
前記空中超音波センサは、共振周波数が20〜100kHzであることを特徴とする請求項1に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項3】
前記筒状ケースと前記センサ取付部は、弾性体により音響的に絶縁されていることを特徴とする請求項1または2に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項4】
前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いた円錐状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項5】
前記筒状ケースは、内面が前記空中超音波センサの前方に向かって開いたパラボラ状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項6】
前記筒状ケースの先端に弾性体を取り付けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項7】
前記筐体は、前記空中超音波センサで検出した超音波信号を処理するための信号処理回路を収納し、該信号処理回路は、ディジタル演算によりエンベロープ処理、周波数分析および周波数変換を行なうことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【請求項8】
前記信号処理回路は、ヒルベルト変換器によりエンベロープ処理および周波数変換を行なうことを特徴とする請求項7に記載の機械装置の異常感知センサユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−105727(P2006−105727A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291417(P2004−291417)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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