説明

機械要素ないし加工物の振動低下方法

本発明は、工作機械、生産機械及びロボットとして形成された機械の少なくともいずれかの機械における機械要素(9)及び加工物(5)の少なくともいずれかの振動を低下させるための方法に関し、加工物(5)をロックするために使用され加工物保持装置(2a、2b、2c、2d、2e、11a、11b)の加工物(5)に及ぼす固定力(F)が振動の発生時に変えられる。さらに本発明はこれに関連する機械に関する。本発明は、加工処理中に発生する機械要素(9)及び加工物(5)の少なくともいずれかの振動を低下させることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、生産機械及びロボットとして形成された機械の少なくともいずれかの機械における機械要素及び加工物の少なくともいずれかの振動を低下させるための方法に関する。さらに本発明は、それに関連する機械に関する。
【0002】
例えば工作機械、生産機械やロボットのような機械においては、加工処理中に加工処理又は擾乱によって機械の機械要素や加工すべき加工物に生じる振動が発生する。特に工作機械においては、例えば回転又はフライスのような切削加工処理の際にいわゆるチャタリングが生じ、これは加工処理の品質及び達成し得る加工速度を減少させる。チャタリングは、例えば使用される工具及び加工物の少なくともいずれかが、加工処理の際に発生する力によってその固有周波数の振動を励起させるときに生じる。工具や加工物に発生する振動は、加工物に波形の表面を残し、その波形の表面は工具との新たな接触の際振動をさらに増大させるおそれがある。
【0003】
振動及び特にチャタリングを低下させる既知の措置の可能性は、振動の発生時に工具又は加工物の回転する回転速度を低下させることにある。
【0004】
独国特許出願公開第2520946 A1号明細書から、工作機械の主スピンドルのチャタリングを阻止又は排除するための方法及びその方法を実施するための装置が知られている。
【0005】
独国特許第698048982 T2号明細書から、有利な動的加工速度を推奨する装置及び方法が知られている。
【0006】
独国特許出願公開第4405660 A1号明細書から、切削式の工作機械、特に丸鋸盤、フライス盤、研削盤等の工作機械を運転するための方法及び装置が知られている。
【0007】
独国特許出願公開第10229134 A1号明細書から、回転する工具による加工物機械加工のための装置及び方法が知られており、そこでは振動を低下させるため、回転する工具が、1つの回転するシステムにおいて駆動軸と工具との間に取り付けられた調整ユニットによって駆動軸に関して動力作動される。
【0008】
独国特許出願公開第19825373 A1号明細書から、工具受けに工具を装着することが知られており、そこでは高い減衰を有するたわみやすい構成要素が工具と工具受けとの間の力束中に挿入されることによって、発生する振動が低減される。
【0009】
独国特許出願公開第10220937 A1号明細書から、加工機械において発生するチャタリングを減衰させるための方法及び装置が知られている。
【0010】
本発明は、加工処理中に発生する機械要素及び加工物の少なくともいずれかの振動を低下させるという課題に基くものである。
【0011】
この課題は、工作機械、生産機械、及びロボットとして形成された機械の少なくともいずれかの機械における機械要素及び加工物の少なくともいずれかの振動を低下させるための方法において、振動が発生する際、加工物保持装置が加工物に及ぼす加工物のロックのために用いられる固定力が変えられることによって解決される。
【0012】
さらに、この課題は、工作機械、生産機械及びロボットとして形成された機械の少なくともいずれかの機械であって、機械が加工物保持装置を備え、機械要素及び加工物の少なくともいずれかに振動が生じた際、加工物保持装置が加工物に及ぼす加工物のロックのために用いられる固定力が変えられるように機械が形成されることによって解決される。
【0013】
本発明の有利な形態は、従属請求項から明らかである。
【0014】
方法の有利な形態は機械の有利な形態に対応して生じ、またその逆に機械の有利な形態は方法の有利な形態に対応して生じる。
【0015】
固定力がピエゾ要素を用いて変えられると有利であることが明らかである。ピエゾ要素を用いて固定力は特に簡単に変えることができる。
【0016】
さらに、固定力が液圧要素を用いて変えられると有利であることが明らかである。液圧要素を用いて固定力は簡単なやり方で変えることができる。
【0017】
さらに、固定力がリニアモータを用いて変えられると有利であることが明らかである。リニアモータを用いて同様に固定力は簡単なやり方で変えることができる。
【0018】
さらに、ねじり応力を加工物内に生じさせるねじり固定力の形で固定力が存在すると有利であることが明らかである。特に縦長の加工物の場合には、ねじり固定力を加工物内へ加えることによって、加工物の特に良好なロックを達成することができる。
【0019】
この関連において、ねじり固定力が回転式の駆動部を用いて発生せしめられ、変えられるようにすると有利であることが明らかである。というのはねじり応力はその場合容易に変えることができるからである。
【0020】
さらに、ねじり固定力が変えられ、その際加工物が加工物の2つの個所で加工物保持装置に装着され、各個所に属する回転式の駆動部を用いてねじられると有利であることが明らかである。この措置によって、加工物の特に良好なロックが達成され、とりわけ縦長の加工物において、加工物が2つの個所で回転可能に加工物保持装置に装着され、加工物が加工処理中回転可能であるが、両駆動部の相応の操作によってねじり固定力は保持されかつ変えられ得る場合には良好なロックが達成される。
【0021】
この関連で、回転式の駆動部が直接駆動部として形成されていると有利であることが明らかである。この措置は加工物保持装置の簡単な構造を可能にする。
【0022】
さらに、固定力が直線固定力とねじり固定力とから構成されると有利であることが明らかであり、その際直線固定力はピエゾ要素、液圧要素、及びリニアモータの少なくともいずれかを用いて変えられ、ねじり固定力は回転式の駆動部を用いて変えられ、その際回転式の駆動部は直接駆動部として形成することができる。
【0023】
さらに、振動センサの信号が監視されたり、駆動量が監視されることにより振動の発生が探知されると有利であることが明らかである。振動センサや、例えば駆動電流のような駆動量の監視の使用は、発生する振動を探知する簡単な可能性を示す。
【0024】
さらに、振動の振幅が最小限である間は固定力が変えられると有利であることが明らかである。この措置によって、発生する振動は最小限に抑えられ得る。
【0025】
本発明の2つの構成例が図に示されており、以下詳細に説明する。
【0026】
図1には、実施例の枠組みにおいて工作機械として形成された機械1が概略図の形で示されている。機械1は工具6を回転して駆動するため作動可能な駆動部9を備え、その際駆動部9は垂直方向に作動可能で、そのことは矢印4で示されている。
【0027】
さらに機械1は矢印3の方向に作動可能な加工物キャリッジ7を備え、このキャリッジ上には加工物保持装置を用いて加工すべき加工物5がロックされている。実施例の枠組みにおいて、加工物保持装置は、加工物キャリッジ7と固く結合された第1の固定用つかみ2a、加工物キャリッジ7上に垂直方向に動くように配置された第2の固定用つかみ2b及び固定力Fを発生する力要素2cを有する。力要素2cは固定力Fを第2の固定用つかみ2b上に加え、このつかみ2bを加工物に押し付け、その結果加工物5はそのような仕方でロックされる。さらに機械は発生する振動、実施例の枠組みにおいては駆動部9として形成されている機械要素の特にチャタリング、を探知するため振動センサ10を備える。さらに機械1は、機械1を制御及び調節の少なくともいずれかを行うため制御装置及び調節装置の少なくともいずれかの装置8を備える。実施例の枠組みにおいては、工具6はフライスとして形成されている。
【0028】
いま加工処理中に、即ちこの場合フライス加工中に、特にチャタリングが発生すると、この振動は振動センサ10によって検出され、対応する振動信号が制御ないし調節装置8に導かれる。本発明によれば、加工処理中に発生した振動を低下させるため、加工物5のロックのために使用され加工物保持装置の加工物に及ぼす固定力Fが変えられ、加工物における固定力Fは増加されるか減少される。このことは、例えば液圧要素又はリニアモータとして形成し得る力要素2cを用いて行われる。力要素2cはしかしまた固定力を変更するためピエゾ要素を備えるか、ピエゾ要素として形成されてもよく、それを用いて固定力Fを変えることができる。力要素2cが相応に操作されることによって、制御ないし調節装置8を用いて固定力Fの変更が制御される。その際、固定力Fは振動の振幅が最小限である間は、許容される可能な範囲で変えることが有利である。
【0029】
もちろん、力要素はリニアモータ、液圧要素、ピエゾ要素の任意の組み合わせから形成されることも可能である。
【0030】
振動センサ10はもちろん加工物の近傍に取り付けることもでき、そのようにして加工物に生じる振動を検出することができる。それに代えて又はそれに加えて、発生する振動はまた駆動部9の駆動電流又は図1には見やすくするため示されていない工具キャリッジ7の駆動部の駆動電流の監視によって探知されるようにすることも可能である。
【0031】
図2に示されている実施形態は、基本構造において本質的には上述の図1に記述された実施形態に対応する。それ故同じ要素は図2において図1と同じ符号が付されている。図2による実施形態の図1による実施形態に対する本質的な相違は、加工物に作用し変更される固定力が加工物中にねじり応力を及ぼすねじり固定力の形で存在するように、工具保持装置が形成されている点にある。図2による加工物保持装置はそのため2つの回転式の駆動部11a及び11bを有し、その際回転式の駆動部11aは固定用つかみ2dを回転するように駆動し、回転式の駆動部11bは別の固定用つかみ2eを回転するように駆動する。加工物は個所A及びBにおいて加工物保持装置に装着されており、その際加工物をロックするため、加工物5が回転式の駆動部11a及び11bを用いてねじられることにより、ねじり固定力が発生される。
【0032】
この実施例においては、駆動部11bはその位置を保持するように操作され、一方駆動部11aは加工物中にねじり応力を発生させるため、矢印12で示されるように小さな角度だけ回転される。図1による実施形態と異なり、図2による実施形態においては従ってなかんずくねじり固定力が加工物のロックのために使用される。加工物のフライス加工において振動が機械要素、加工物の少なくともいずれかに発生すると、駆動部11bによって生じるねじり固定力が変えられ、そのようにして振動が低下される。図2による実施形態は特に縦長に形成された加工物の場合であり、この加工物はねじり固定力を用いて加工物のロックが行われない場合には規則どおりにはロックされ得ないものであり、というのはさもないと加工処理において作用する力のもとに曲がってだめになろうとするからである。
【0033】
加工物保持装置の図2に示される構成は、加工処理中加工物は両駆動部11a及び11bを用いて同じ方向に回転され得るという利点を提供し、その際しかしながら駆動部11a及び11bは、ねじり固定力が回転運動中保持され、振動発生時に変化し得るように操作される。
【0034】
駆動部11a及び11bは、実施例においては直接駆動部として、特にトルクモータとして形成され、このことは加工物保持装置の簡単な構造的、機械的構成を可能にする。
【0035】
ねじり固定力が単独の回転式の駆動部のみを用いて変えられることももちろん可能であり、その場合には例えば駆動部11bがなくされ、固定用つかみ2eが加工物キャリッジ7と固定式に結合される。
【0036】
図1による実施形態の場合には、固定力Fは加工物に直線方向に作用する直線固定力の形で存在するのに対し、図2による実施形態においては固定力はねじり応力を加工物中に生じさせるねじり固定力として存在する。もちろん両実施形態を組み合わせることも可能で、その際この場合には固定力は直線固定力とねじり固定力とから合成され、その際図2による駆動部11aは直線方向にも、例えば図1において使用されるような適切な液圧要素を用いて直線固定力を加工物に加えることができる。
【0037】
振動を低下させることによって、加工速度及び材料の供給度が高められ、それによって生産性の上昇が達成され、また加工品質を改善することができる。
【0038】
ここで、本発明の枠組みにおいては、機械に装着された工具も機械要素と見なされることを述べておく。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による機械の概略説明図である。
【図2】本発明による別の機械の概略説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 機械
2a、2b、2d、2e 固定用つかみ
2c 力要素
3、4 矢印
5 加工物
6 工具
7 加工物キャリッジ
8 制御ないし調節装置
9 駆動部
10 振動センサ
11a、11b 駆動部
12 矢印
F 固定力
A、B 個所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械、生産機械及びロボットとして形成された機械の少なくともいずれかの機械における機械要素及び加工物の少なくともいずれかの振動を低下させるための方法において、加工物(5)をロックするために使用され加工物保持装置(2a、2b、2c、2d、2e、11a、11b)の前記加工物(5)に及ぼす固定力(F)が振動の発生時に変えられることを特徴とする機械における振動の低下方法。
【請求項2】
前記固定力(F)がピエゾ要素を用いて変えられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記固定力(F)が液圧要素を用いて変えられることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記固定力(F)がリニアモータを用いて変えられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記固定力(F)が加工物(5)にねじり応力を生じさせるねじり固定力の形で存在することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ねじり固定力が回転式の駆動部(11a、11b)を用いて変えられることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ねじり固定力が変えられ、その際加工物が加工物(5)の2つの個所(A、B)で加工物保持装置(2d、2e、11a、11b)に装着され、各個所(A、B)に属する回転式の駆動部(11a、11b)を用いてねじられることを特徴とする請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
前記回転式の駆動部(11a、11b)が直接駆動部として形成されていることを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記固定力(F)が直線固定力とねじり固定力とから合成され、直線固定力は請求項2〜4のいずれかに従い変更され、ねじり固定力は請求項6〜8のいずれかに従い変更されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
振動センサ(10)の信号が監視されること、駆動量が監視されることの少なくともいずれかによって、振動の発生が探知されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
振動の振幅が最小限である間は固定力が変えられることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
機械であって、工作機械、生産機械、ロボットの少なくともいずれかの機械として形成されており、加工物保持装置(2a、2b、2c、2d、2e、11a、11b)を備え、加工物(5)をロックするために使用され加工物保持装置(2a、2b、2c、2d、2e、11a、11b)の加工物(5)に及ぼす固定力(F)が振動の発生時に変えられるように機械が形成されることを特徴とする機械。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−517233(P2009−517233A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542707(P2008−542707)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068538
【国際公開番号】WO2007/062985
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】