説明

機能性導電塗料とその製造方法並びに印刷配線基板

【課題】樹脂基板あるいは銅箔との密着性が高く、導電性が良好かつハンダ付けが可能な低温硬化型の機能性導電塗料とその製造方法並びに印刷配線基板を提供する。
【解決手段】AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末を全体の70〜99wt.%含有する。キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を有する。熱硬化性樹脂中のキレート変性エポキシ樹脂は、その他の成分に対して10〜20wt.%であり、不飽和脂肪酸を添加して成る。この機能性導電塗料を、絶縁基板上に塗布して導電路を形成した印刷配線基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンダ付け機能と銅箔との密着性および導電性を有する機能性導電塗料とその製造方法並びに印刷配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を含有した導電性塗料は、電子部品と配線との接着や印刷配線板を用いたジャンパー線、印刷抵抗の端子引き出し線等を形成するためなど、多方面に用いられるため、現在盛んに研究されている。
【0003】
従来、樹脂バインダ型の低温硬化導電塗料として、銀、銅、ニッケル等の金属粉末を樹脂に配合したものが電子回路の印刷配線や導電性接着剤として用いられている。しかし、これらの導電塗料は樹脂分が重量比で20%程度配合されているため、容積比から見ると圧倒的に樹脂分が多く、市販されている導電塗料はいずれもハンダ付けは不可能である。
【0004】
また、特許文献1,2に開示されているようなハンダ付け可能な導電塗料も提案されているが、十分な性能を有したものではない。さらに、特許文献3に開示されているように、金属粉末の防錆や適正な印刷性を実現するために、導電塗料には不飽和脂肪酸を添加したものもある。しかし、バインダにフェノール樹脂を使用し、不飽和脂肪酸を添加した場合、銅箔との密着性が悪くなるものであった。
【0005】
一方、最近の電子回路のほとんどは表面実装化されてきているため、表面実装電子部品とハンダ付けが可能で、スルーホールを介して銅箔で形成された配線との密着性も良好な導電塗料の開発が強く望まれている。
【特許文献1】特開平7−14429号公報
【特許文献2】特開2002−212492号公報
【特許文献3】特開2006−28213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、樹脂基板あるいは銅箔との密着性が高く、導電性が良好かつハンダ付けが可能な低温硬化型の機能性導電塗料とその製造方法並びに印刷配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属粉末、バインダ、および有機溶媒を混合して塗料を製造する過程において、金属粉末としてAgコートNi粉末を単独、あるいはAgコートNi粉末とAg粉末との混合物を用い、バインダとしてキレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合物、および/またはキレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との反応生成物を用いて導電塗料を形成した。この導電塗料を絶縁基板に印刷して、150〜170℃前後の低温で焼き付け硬化させた導電塗料のパターンは、優れた導電性を示すとともに、ハンダの濡れ性が良く、ハンダとの接合性と銅箔との密着性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末と、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を含有し、不飽和脂肪酸を添加して成る機能性導電塗料である。前記熱硬化性樹脂は、キレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合物、および/またはキレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との反応生成物である。前記不飽和脂肪酸は、オレイン酸および/またはリノール酸である。
【0009】
さらに、前記金属粉末の含有量は、全体の70〜99wt.%であり、前記熱硬化性樹脂中のキレート変性エポキシ樹脂は、その他の成分に対して10〜20wt.%である。
【0010】
またこの発明は、AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末と、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を混合し、不飽和脂肪酸と硬化剤を添加して、これらを溶媒に溶かし、キレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との反応生成物を形成する機能性導電塗料の製造方法である。
【0011】
またこの発明は、AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末を全体の70〜99wt.%含有し、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を有し、前記熱硬化性樹脂中のキレート変性エポキシ樹脂は、その他の成分に対して10〜20wt.%であり、不飽和脂肪酸を添加して成る機能性導電性塗料を、絶縁基板上に塗布して導電路を形成した印刷配線基板である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の機能性導電塗料によれば、樹脂基板などを用いた印刷配線を含む電子回路製造において、チップ部品等電子部品や回路構成部品と印刷配線などとのハンダ接合や、スルーホールなどを介しての銅箔との接着が可能なため、簡便に電子回路を製造することができる。
【0013】
さらに本発明の機能性導電塗料を用いることにより、150〜170℃程度の低温で、安定かつ簡便に印刷配線などで電子回路を製造することが可能であり、回路基板の製造プロセスを大幅に簡略化することができる。したがって、従来の銅箔のエッチング工程による表面実装用の導体回路の一部を、本願発明による印刷配線とすることにより、回路製作を簡素化し、コストと歩留まりの大幅な改善が可能となる。さらに、廃液を少なくし、安価で環境負荷の小さいものとすることができ、当該技術分野に大きく貢献するものである。
【0014】
また、導電性塗料中の金属粉末表面上には、空気中の水分または酸素などにより薄い自然酸化膜が形成されるため、安定な電気的導通が得られないことがあるが、本発明の機能性導電塗料においては、不飽和脂肪酸が該酸化膜をも除去するので、抵抗値が極めて小さい電子回路を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明の機能性導電塗料に用いられる金属粉末は、AgコートNi粉末、Cu粉末、Ag粉末、Ni粉末、Al粉末などが挙げられるが、これらのうち、ハンダ付け性の観点から、AgコートNi粉末もしくはAgコートNi粉末とAg粉末との混合粉末が好ましい。また金属粉末の含有量は、機能性導電塗料全体中に好ましくは、70〜99wt.%で、さらに好ましくは、70〜95wt.%である。
【0016】
本発明の機能性導電塗料に用いられるバインダに含まれる熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、これらのうち、塗膜特性の観点から、キレート変性エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。また熱硬化性樹脂の含有量は、機能性導電塗料全体中に好ましくは、1〜30wt.%で、さらに好ましくは、5〜15wt.%である。
【0017】
バインダには、イミダゾール、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミンなどの硬化剤を加えるが、これらのうち、イミダゾールが好ましい。また硬化剤の含有量は、機能性導電塗料全体中に好ましくは、1〜30wt.%で、さらに好ましくは、2〜20wt.%である。
【0018】
本発明の機能性導電塗料に用いられる有機溶媒は、熱硬化性樹脂を該塗料中に均一に分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、ブチルカルビトール、メチルカルビトール、ソルベッソ150などの有機溶媒を添加させて、スクリーン印刷できる粘度(200〜500ポイズ程度)に調整してもよい。これらの有機溶媒のうち、ブチルカルビトールが好ましく、含有量は機能性導電塗料全体中に好ましくは、0.1〜20wt.%で、さらに好ましくは、0.5〜15wt.%である。
【0019】
さらに、本発明の機能性導電塗料には、金属粉末表面上の酸化膜破壊を助長する目的で、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸を溶解させてもよい。これらの不飽和脂肪酸のうち、オレイン酸およびリノール酸が好ましく、含有量は、機能性導電塗料全体中に好ましくは、0.1〜5.0wt.%で、さらに好ましくは、0.5〜3.0wt.%である。
【0020】
上記組成の本発明の機能性導電塗料は、ハイブリッドミキサー等の自公転式ミキサーで配合した材料が均一に分散するまでよく混合した後、印刷、スプレー、筆塗り等の種々の方法で所望の形状に絶縁基板上に塗布することができる。そして、150〜170℃の温度で、5〜30分間焼成することにより、簡便に電子回路を形成することができる。
【0021】
次に、本発明の機能性導電塗料を用いた印刷配線基板の製造方法を示す。まず、印刷配線用樹脂基板上に本発明の塗料をスクリーン印刷法などで、所望のパターンで付着し乾燥させる。この後、150〜170℃の温度で焼成する。これにより、良好な電気的導通がとられた印刷配線電極が製造される。本発明の機能性導電塗料は、電子部品と印刷配線とのハンダ密着性に優れているので、簡便に表面実装電子回路を製造することができる。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は以下の実施例に制約されるものではない。まず以下の材料を用意して混合する。
AgコートNi粉末(Agコート量15wt%)にAg粉末を10wt%配合した金属粉末 88重量部
オレイン酸 2重量部
イミダゾール添加キレート変性エポキシ樹脂(固形分として) 0〜2重量部
(キレート変性エポキシ樹脂に対するイミダゾール添加量=20phr)
フェノール樹脂(固形分として) 8〜10重量部
ブチルカルビトール 2.5重量部
【0023】
これらの材料を配合した導電塗料を、図1に示すジグザグパターンでガラスエポキシ樹脂基板上にスクリーン印刷し、160℃で30分間焼成して導電路を形成した。
図1の導電路は、スクリーン印刷用ジグザクパターンであり、線幅は2mmで倍率は184倍となっている。したがって、体積抵抗率ρは次式から求める。
ρ=(Rx/184)×d(Ω・cm)
ただし、Rx:シグザクパターンの両端間の抵抗値(Ω)
d:試料パターンの膜厚(cm)
【0024】
実施例に使用した材料の概要
AgコートNi粉末 横沢金属工業株式会社製 YNAシリーズ(特注品)
Ag粉末 堺化学工業株式会社製 AG−3500M
キレート変性エポキシ樹脂 株式会社アデカ製 EP−49−23
エポキシ樹脂硬化剤 株式会社アデカ製 EH−4344S(フェノール樹脂の硬化促進剤としても使用可能)
フェノール樹脂 リグナイト株式会社製 AH−880
オレイン酸 和光純薬工業株式会社製 1級試薬
ブチルカルビトール 和光純薬工業株式会社製 特級試薬
ハイブリッドミキサー キーエンス社製
【0025】
以上の条件で、フェノール樹脂に対するキレート変性エポキシ(EP)樹脂量を変えた場合の性能を評価した。評価結果を表1に示す。
【表1】

【0026】
表1により、フェノール樹脂に対するキレート変性エポキシ樹脂量が、10〜20wt.%で好ましい結果が得られた。これにより、本発明の機能性導電塗料は、はんだ付け性及び銅箔との密着性が良いものであり、電子回路の製造または電子回路形成に用いることができることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】スクリーン印刷用ジグザクパターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末と、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を含有し、不飽和脂肪酸を添加して成る機能性導電塗料。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、キレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合物である請求項1記載の機能性導電塗料。
【請求項3】
前記不飽和脂肪酸が、オレイン酸および/またはリノール酸である請求項1または2記載の機能性導電塗料。
【請求項4】
前記金属粉末の含有量は、全体の70〜99wt.%であり、前記熱硬化性樹脂中のキレート変性エポキシ樹脂は、その他の成分に対して10〜20wt.%である請求項1〜3の何れか記載の機能性導電塗料。
【請求項5】
AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末と、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を混合し、不飽和脂肪酸と硬化剤を添加して、これらを溶媒に溶かし、キレート変性エポキシ樹脂とフェノール樹脂との反応生成物を形成する機能性導電塗料の製造方法。
【請求項6】
AgコートNi粉末およびAg粉末の少なくとも一方から成る金属粉末を全体の70〜99wt.%含有し、キレート変性エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂を有し、前記熱硬化性樹脂中のキレート変性エポキシ樹脂は、その他の成分に対して10〜20wt.%であり、不飽和脂肪酸を添加して成る機能性導電塗料を、絶縁基板上に塗布して導電路を形成した印刷配線基板。



【図1】
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【公開番号】特開2009−70650(P2009−70650A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236520(P2007−236520)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【出願人】(596036924)マクセル北陸精器株式会社 (5)
【Fターム(参考)】