説明

機能性物質放出剤

【課題】一定した機能性物質を徐放できる機能性物質放出剤、その製造法、その組成物の提供。
【解決手段】ケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤。


(式中、R1は置換基としてフェニル基、水酸基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数4〜22の脂肪族炭化水素基、R2は機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基、R3は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品への配合に有用な香料、抗菌剤、抗カビ剤等の機能性物質を放出するケイ酸エステル化合物を含む機能性物質放出剤、及びその製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
調合香料は、揮発性の異なる、いわゆるトップノート、ミドルノート及びベースノートと呼ばれる多数の香気成分を調合し、求められる芳香を創造している。この調合香料は、使用中に、より揮発しやすい成分から優先的に揮散し、その結果、調合香料の香気は時間とともに変化していき、芳香を一定して長時間持続させることはできないという欠点が存在する。このような問題を解決するため、香料をマイクロカプセルに内蔵してゲル状基材中に分散させてなるゲル状芳香剤組成物が知られている(特許文献1)。しかしこの方法は、ゲル状製剤では有効であるが、粘度の低い液状製剤では、マイクロカプセルの浮化や沈降が生じ、製品中に安定に配合することが困難である。
【0003】
アルコール系香料とメチルトリエトキシシラン等の有機ケイ素化合物とによるケイ酸エステルを用いた編織物処理用組成物や洗浄剤組成物、芳香剤も知られている(特許文献2、特許文献3、及び特許文献4)。しかしこれらの組成物では、疎水性が低いため、洗浄剤や芳香剤等の水系製品中でケイ酸エステルの分解が進行してしまい、効果が持続しない。
【0004】
一方、水を含む洗剤等の製品中に混和しうるような、加水分解耐性がより高いポリアルコキシシロキサンを含むケイ酸エステル混合物が知られている(特許文献5)。しかしながらこのケイ酸エステル混合物は、高分子化合物を含むため、洗浄剤や芳香剤等様々な製品に配合する場合、溶解性等配合性に問題がある。
【0005】
上記のような製品中での分解は香料のみならず揮発性の抗菌、抗カビ剤においても同様の問題が存在し、その効果の持続と配合性とを両立させることが困難であった。
【特許文献1】特開昭63−260567号公報
【特許文献2】特開昭54−59498号公報
【特許文献3】特開昭54−93006号公報
【特許文献4】特開昭58−22063号公報
【特許文献5】特表2003−526644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、実使用系で、長期に亘り一定した機能性物質を徐放できる機能性物質放出剤、及びその製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物(以下、ケイ酸エステル化合物(1)という)35〜95質量%及び下記式(2)で表されるケイ酸エステル化合物(以下、ケイ酸エステル化合物(2)という)0〜40質量%を含む機能性物質放出剤、及びこの機能性物質放出剤の製造方法、並びにこの機能性物質放出剤を含有する組成物を提供する。
【0008】
【化4】

【0009】
(式中、R1は置換基としてフェニル基、水酸基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数4〜22の脂肪族炭化水素基を示し、R2は機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のR2は同一でも異なっていても良い。R3は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の機能性物質放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)を特定の組成比で含む新規な機能性物質放出剤であり、製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、実使用系で、長期に亘り機能性物質を徐放することができる。また本発明の機能性物質放出剤を含有する本発明の組成物は、香料アルコール、抗菌性アルコール等の機能性物質の放出を長期間持続させることができ、芳香や抗菌性を一定して長時間持続させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)において、R1は置換基としてフェニル基、水酸基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数4〜22の脂肪族炭化水素基を示し、置換基としてフェニル基、水酸基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数4〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数6〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がより好ましく、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数6〜18の直鎖アルキル基が更に好ましく、炭素数8〜18の直鎖アルキル基が更により好ましい。
【0012】
ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)において、R2は機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)における複数個のR2は同一でも異なっていても良い。
【0013】
2を形成する機能性アルコールとしては、調合香料成分である香料アルコール、防菌防黴性を有する抗菌性アルコール、保湿性を有する保湿性アルコール、生理活性を有する生理活性アルコール、着色性を有する着色性アルコール、一般的な表面活性を有する表面改質性アルコール等が挙げられ、香料アルコール、抗菌性アルコールが好ましく、香料アルコールがより好ましい。
【0014】
機能性アルコールとしては、炭素数3〜40の機能性アルコールが好ましく、炭素数3〜15の機能性アルコールがより好ましい。機能性アルコールの具体例としては、n−ヘキサノール、trans−2−ヘキセノール、青葉アルコール(cis−3−ヘキセノール)、3−オクタノール、1−オクテン−3−オール、2,6−ジメチル−2−ヘプタノール、2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−メタノール、4−イソプロピルシクロヘキサノール、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、o−tert−ブチルシクロヘキサノール、4−メチル−3−デセン−5−オール、9−デセノール、10−ウンデセノール、リナロール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、ロジノール、ジメチルオクタノール、ヒドロキシシトロネロール、テトラヒドロゲラニオール、テトラヒドロリナロール、ラバンジュロール、ムゴール、ミルセノール、ターピネオール、L−メントール、ボルネオール、イソプレゴール、テトラヒドロムゴール、ノポール、ファルネソール、ネロリドール、アンブリノール、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、ペンタメチルシクロヘキシルプロパノール、1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−3−ヘキサノール、サンタロール、3,7−ジメチル−7−メトキシオクタン−2−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−1−ブタノール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、セドロール、ベチベロール、パチュリアルコール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、γ−フェニルプロピルアルコール、シンナミックアルコール、アニスアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、メチルフェニルカルビノール、ジメチルフェニルカルビノール、フェノキシエチルアルコール、スチラリルアルコール、ジメチルフェニルエチルカルビノール、チモール、カルバクロール、オイゲノール、イソオイゲノール、エチルバニリン、メタ−クロロキシレノール、2,4−ジクロロフェノール、2,4−ジクロロベンジルアルコール、ヒノキチオール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)プロパノール、3−メチル−5−フェニルペンタノール、フェニルエチルメチルエチルカルビノール、トリクロサン、カプサイシン、トコフェロール、グリセロールモノラウレート、トリ(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメチルヒダントイン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(ヒドロキシエチル)−S−トリアジン等が挙げられる。
【0015】
これらの機能性アルコールの中では炭素数5〜15の香料アルコール又は炭素数3〜15の抗菌性アルコールがより好ましく、炭素数5〜15の香料アルコールが更に好ましい。
【0016】
炭素数5〜15の香料アルコールとしては、例えば合成香料(化学工業日報社)記載のアルコールが挙げられ、具体的には、青葉アルコール(cis−3−ヘキセノール)、3−オクテノール(1−オクテン−3−オール)、9−デセノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、ロジノール、ファルネソール、ヒドロキシシトロネロール、3,7−ジメチル−7−メトキシオクタン−2−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ペンタノール、2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテノール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−1−ブタノール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール、3,3−ジメチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−4−ペンテン−2−オール等の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルコール;ベンジルアルコール、2−フェニルエタノール(β−フェニルエチルアルコール)、シンナミックアルコール、γ−フェニルプロピルアルコール、アニスアルコール、フェノキシエチルアルコール、スチラリルアルコール、3−メチル−5−フェニルペンタノ−ル、2,2−ジメチル−3−(3−メチルフェニル)−プロパノール等の芳香族アルコール;2,4−ジメチル−3−シクロヘキセン−1−メタノール、4−イソプロピルシクロヘキシルメタノール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、p−tert−ブチルシクロヘキサノール、o−tert−ブチルシクロヘキサノール、L−メントール、1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、ペンタメチルシクロヘキシルプロパノール、1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)−3−ヘキサノール、サンタロール、ベチベロール等の飽和又は不飽和の環式アルコール等が挙げられる。
【0017】
炭素数3〜15の抗菌性アルコールとしては、日本防菌防黴剤辞典(日本防菌防黴学会発行)記載の防菌防黴用に用いられるアルコールが挙げられ、具体的には、グリセロールモノラウレート、トリ(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメチルヒダントイン、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(ヒドロキシエチル)−S−トリアジン等が挙げられる。
【0018】
本発明の機能性物質放出剤中のケイ酸エステル化合物(1)の含有量は35〜95質量%であるが、ケイ酸エステル化合物(1)の比率が多いほど疎水性が高くなり、洗浄剤や芳香剤等の水系製品中でケイ酸エステル化合物(1)の分解が抑制でき、効果が持続する。ケイ酸エステル化合物(1)の含有量は40〜95質量%が好ましく、45〜95質量%が好ましく、50〜90重量%が更に好ましい。
【0019】
本発明の機能性物質放出剤中のケイ酸エステル化合物(2)の含有量は0〜40質量%であるが、含有する機能性物質量や疎水性の低下の点から0.5〜35質量%が好ましく、10 〜30質量%が特に好ましい。ここで、ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)の含有量は、製造原料として用いる機能性アルコールや下記式(3)で表される化合物、式(4)で表されるトリハロゲン化シランを含まない、即ち、機能性アルコールでエステル化されたケイ酸エステル化合物中の含有量を表す。
【0020】
本発明の機能性物質放出剤は、下記方法1又は2により製造することができる。
【0021】
方法1:
下記式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)という)と機能性アルコールとをエステル交換反応させる方法。
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、R1及びR3は前記と同じ意味を示し、3個のR3は同一でも異なっていても良い。)
方法2:
下記式(4)で表されるトリハロゲン化シラン(以下、トリハロゲン化シラン(4)という)と機能性アルコールとをエステル化反応させる方法。
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、R1は前記と同じ意味を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
方法1において、式(3)中のR3は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示すが、入手性等の点からメチル基又はエチル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0026】
化合物(3)と機能性アルコールとのエステル交換反応において、化合物(3)に対して加える機能性アルコールのモル比により置換度が異なる反応物を与え、化合物(3)に対する機能性アルコールのモル比は0.1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、2〜4更に好ましく、2.5〜3が更により好ましい。
【0027】
方法1におけるエステル交換反応の反応温度は、化合物(3)及び機能性アルコールの沸点以下が好ましく、室温(20℃)〜200℃がより好ましく、50〜170℃が更に好ましく、70〜150℃更により好ましく、90〜130℃が特に好ましい。
【0028】
方法1におけるエステル交換反応は、減圧下で行うことが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。減圧度は反応温度にもよるが、化合物(3)及び機能性アルコールの沸点以下で行えばよく、1.3Pa〜常圧(0.1MPa)が好ましく、130Pa〜40kPaがより好ましく、1.3kPa〜13kPaが更に好ましい。反応は反応初期から減圧下で行っても、途中から減圧下で行っても良い。
【0029】
方法1におけるエステル交換反応は、触媒を添加することが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ触媒や、アルミニウムテトライソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド等のルイス酸触媒を用いることができる。
【0030】
方法2において、式(4)中のXはハロゲン原子を示すが、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0031】
トリハロゲン化シラン(4)と機能性アルコールとのエステル化反応において、トリハロゲン化シラン(4)に対して加える機能性アルコールのモル比により置換度が異なる反応物を与え、トリハロゲン化シラン(4)に対する機能性アルコールのモル比は0.1〜10好ましく、1〜5がより好ましく、2〜4が更に好ましく、2.7〜3.3が更により好ましい。
【0032】
方法2においては反応の進行に伴い酸が副生するため塩基を加えて反応することが好ましい。用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン等の3級アミンやピリジン等が挙げられる。
【0033】
方法2のエステル化反応では多量の塩副生等の点から、溶媒を用いても良く、反応温度は、基質や溶媒が凝固しない低温で行うこともできる。反応終了後、溶媒を除去する必要がある場合には、各種公知の装置・設備を用いることができ、また脱塩には濾過や抽出、電機透析等、公知の方法を用いることができる。
【0034】
方法1のエステル交換反応、方法2のエステル化反応で得られる本発明の機能性物質放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)以外に、置換度の異なるケイ酸エステル化合物を含有していても、さらにシロキサンが縮合した鎖状または環状の重・縮合物を含有していても良い。また、方法1のエステル交換反応、方法2におけるエステル化反応は、2種以上の機能性アルコールを混合して用いても、2種以上のR1で示される脂肪族炭化水素基を持つ化合物(3)又はトリハロゲン化シラン(4)を用いても良い。
【0035】
ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)を含む本発明の機能性物質放出剤は、長期に亘り機能性物質を徐放することができ、ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)中のR2が香料アルコールや抗菌性アルコールから水酸基を1個除いた残基である場合、本発明の機能性物質放出剤は芳香や抗菌性を長時間持続させることができ、香料持続剤や抗菌性持続剤として有用である。
【0036】
ケイ酸エステル化合物(1)及び(2)を含む本発明の機能性物質放出剤は、様々な製品に配合することができる。例えば、油系消臭芳香剤、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型等の消臭剤等非水溶液系製品の他、水溶液系での保存安定性に優れるため、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、液体洗剤・柔軟剤等の衣類用製品、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の頭髪用製品、液体入浴剤、等に使用することができ、機能性アルコールの放出を長期間持続させることができる。
【0037】
本発明の機能性物質放出剤を含有する本発明の組成物は、洗浄剤組成物、柔軟剤組成物、芳香剤組成物、消臭剤組成物等として用いることができる。
【0038】
本発明の組成物中の本発明の機能性物質放出剤の含有量は、特に限定されずその用途により種々変えることができる。本発明の組成物を洗浄剤組成物や柔軟剤組成物として用いる場合、組成物中の本発明の機能性物質放出剤の含有量は0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。本発明の組成物を芳香剤組成物として用いる場合、組成物中の本発明の機能性物質放出剤の含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。本発明の組成物を消臭剤組成物として用いる場合、組成物中の本発明の機能性物質放出剤の含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0039】
合成例1
オクチルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステル[トリス(2−フェニルエチルオキシ)オクチルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにオクチルトリエトキシシラン55.30g(0.20mol)、2−フェニルエタノール65.99g(0.54mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.958mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら115℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら115〜121℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、オクチルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルを含む94.84gの淡黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィー(以下GCという)分析結果を表1に示す。この結果から、化合物(1)のオクチルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルの含有量は68.8%、化合物(2)のオクチルケイ酸ビス(2−フェニルエチル)エチルエステルの含有量は24.7%であった。尚、この化合物(1)及び(2)の含有量は機能性アルコールでエステル化されたケイ酸エステル化合物中の含有量である(以下同様)。
【0040】
【表1】

【0041】
*1:Etはエチル基、EtPhは2−フェニルエチル基を示す。
*2:C8H17-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)(OEt)-C8H17
*3:C8H17-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)2-C8H17
合成例2
ドデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステル[トリス(2−フェニルエチルオキシ)ドデシルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにドデシルトリエトキシシラン50.36g(0.15mol)、2−フェニルエタノール51.61g(0.42mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.537mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら116℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら116〜121℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ドデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルを含む81.33gの黄色油状物を得た。得られた油状物のGC分析結果を表2に示す。この結果から、化合物(1)のドデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルの含有量は75.1%、化合物(2)のドデシルケイ酸ビス(2−フェニルエチル)エチルエステルの含有量は19.8%であった。
【0042】
【表2】

【0043】
*1:Etはエチル基、EtPhは2−フェニルエチル基を示す。
*2:C12H25-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)(OEt)-C12H25
*3:C12H25-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)2-C12H25
合成例3
ヘキサデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステル[トリス(2−フェニルエチルオキシ)ヘキサデシルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにヘキサデシルトリエトキシシラン50.56g(0.13mol)、2−フェニルエタノール44.43g(0.36mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.375mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら113〜120℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ヘキサデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルを含む77.52gの黄色油状物を得た。得られた油状物のGC分析結果を表3に示す。この結果から、化合物(1)のヘキサデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルの含有量は69.9%、化合物(2)のヘキサデシルケイ酸ビス(2−フェニルエチル)エチルエステルの含有量は19.9%であった。
【0044】
【表3】

【0045】
*1:Etはエチル基、EtPhは2−フェニルエチル基を示す。
*2:C16H33-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)(OEt)-C16H33
*3:C16H33-Si(OEtPh)2-O-Si(OEtPh)2-C16H33
合成例4
オクチルケイ酸トリゲラニルエステル[トリス(3,7−ジメチル−オクタ−2,6−ジエニルオキシ)オクチルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
300mLの四つ口フラスコにオクチルトリエトキシシラン83.01g(0.30mol)、ゲラニオール127.76g(0.83mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.857mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら110〜115℃で2.5時間攪拌した。2.5時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら110〜119℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、オクチルケイ酸トリゲラニルエステルを含む173.61gの淡黄色油状物を得た。得られた油状物のGC分析結果を表4に示す。この結果から、化合物(1)のオクチルケイ酸トリゲラニルエステルの含有量は72.2%、化合物(2)のオクチルケイ酸ビスゲラニルエチルエステルの含有量は23.0%であった。
【0046】
【表4】

【0047】
*1:Etはエチル基、Gerはゲラニオールから水酸基を除いた残基を示す。
*2:C8H17-Si(OGer)2-O-Si(OGer)(OEt)-C8H17
*3:C8H17-Si(OGer)2-O-Si(OGer)2-C8H17
合成例5
ドデシルケイ酸トリゲラニルエステル[トリス(3,7−ジメチル−オクタ−2,6−ジエニルオキシ)ドデシルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
100mLの四つ口フラスコにドデシルトリエトキシシラン19.64g(59mmol)、ゲラニオール25.14g(163mmol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.168mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら117〜119℃で2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら115〜120℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ドデシルケイ酸トリゲラニルエステルを含む36.68gの黄色油状物を得た。得られた油状物のGC分析結果を表5に示す。この結果から、化合物(1)のドデシルケイ酸トリゲラニルエステルの含有量は69.9%、化合物(2)のドデシルケイ酸ビスゲラニルエチルエステルの含有量は17.4%であった。
【0048】
【表5】

【0049】
*1:Etはエチル基、Gerはゲラニオールから水酸基を除いた残基を示す。
*2:C12H25-Si(OGer)2-O-Si(OGer)(OEt)-C12H25
*3:C12H25-Si(OGer)2-O-Si(OGer)2-C12H25
合成例6
オクタデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステル[トリス(2−フェニルエチルオキシ)オクタデシルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
500mLの四つ口フラスコにオクタデシルトリクロロシラン25.05g(64.6mmol)、無水ジクロロメタン100mLを入れ、3℃に冷却した。ここに予め2−フェニルエタノール24.87g(203.6mmol)とピリジン16.12g(203.8mmol)と無水ジクロロメタン60mLとを混合した溶液を50分かけて滴下した。滴下後、氷浴をはずして室温(20℃)で2.5時間攪拌した。2.5時間後、エタノール10gを加え、500mL分液ロートに移した。イオン交換水150mLを加えた水洗を6回行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下溶媒留去した。さらに、13.3Paの減圧下、110℃、1時間処理して揮発分を除去し、40.07gの無色油状物を得た。GC分析の結果、化合物(1)のオクタデシルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルの含有量は84.9%、化合物(2)のオクタデシルケイ酸ビス(2−フェニルエチル)エチルエステルの含有量は1.1%であった。
【0050】
合成例7
オクタデシルケイ酸トリス(cis−3−ヘキセニル)エステル[トリス(cis−3−ヘキセニルオキシ)オクタデシルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
1Lの四つ口フラスコにオクタデシルトリクロロシラン49.48g(0.13mol)、無水ジクロロメタン200mLを入れ、3℃に冷却した。ここに予めcis−3−ヘキセノール40.24g(0.40mol)とピリジン31.17g(0.40mol)と無水ジクロロメタン150mLとを混合した溶液を70分かけて滴下した。この間無水ジクロロメタン50mLを追加した。滴下後、氷浴をはずして室温(20℃)で6時間攪拌した。6時間後、エタノール20gを加え、1L分液ロートに移した。イオン交換水200mLを加えた水洗を7回行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下溶媒留去した。さらに、13.3Paの減圧下、100℃、1時間処理して揮発分を除去し、71.73gの無色油状物を得た。GC分析の結果、化合物(1)のオクタデシルケイ酸トリス(cis−3−ヘキセニル)エステルの含有量は87.0%、化合物(2)のオクタデシルケイ酸ビス(cis−3−ヘキセニル)エチルエステルの含有量は1.2%であった。
【0051】
合成例8
メチルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステル[トリス(2−フェニルエチル)メチルシラン]を含む機能性物質放出剤の合成
1Lの五つ口フラスコにメチルトリクロロシラン25.02g(0.17mol)、無水ジクロロメタン170mLを入れ、3℃に冷却した。ここに予め2−フェニルエタノール64.27g(0.53mol)とピリジン41.60g(0.53mol)と無水ジクロロメタン100mLとを混合した溶液を95分かけて滴下した。この間無水ジクロロメタン130mLを追加した。滴下後、氷浴をはずして室温(22℃)で75分攪拌した。75分後、エタノール30gを加え、1L分液ロートに移した。イオン交換水200mLを加えた水洗を6回行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下溶媒留去した。さらに、13.3Paの減圧下、100℃、30分処理して揮発分を除去し、71.73gの無色油状物を得た。GC分析の結果、メチルケイ酸トリス(2−フェニルエチル)エステルの含有量は88.3%、メチルケイ酸ビス(2−フェニルエチル)エチルエステルの含有量は3.9%であった。
【0052】
実施例1〜4、比較例1
下記表6に示す未賦香液体柔軟剤Aを定法により調製した。次いでこの未賦香液体柔軟剤Aに対し、合成例1〜3及び6で得られた本発明の機能性物質放出剤、また合成例8で得られた比較の機能性物質放出剤を0.5質量%配合して柔軟剤組成物を調製した。この柔軟剤組成物を50mLのスクリュー管に入れ、密栓して40℃の恒温槽に2週間保存した。保存前後の香料アルコール(2−フェニルエタノール)量をHPLC(検出器UV)で測定し、ケイ酸エステル化合物の残存率を求めた。結果を表7に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
実施例5〜8、比較例2〜3
実施例1〜4、比較例1と同様に調製した柔軟剤組成物、並びに未賦香液体柔軟剤Aにフェニルエチルアルコールを0.5質量%配合した柔軟剤組成物を用い、これらの柔軟剤組成物について、40℃、2週間保存前後の香りの持続性を下記方法で評価した。結果を表8に示す。
【0056】
<香りの持続性評価法>
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)アタック)を用いて、木綿タオル24枚を日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0057】
National電気バケツN−BK2−Aに、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟剤組成物10g/衣料1.0kgとなるように40℃、2週間保存前後の各柔軟剤組成物を溶解(処理浴の調製)させ、1分後、上述の方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理し、浸漬処理後、2枚の木綿タオルをNational電気洗濯機NA−35に移し、3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを8つ折りにし、約20℃の室内に1週間放置した。
【0058】
脱水処理後、乾燥後、1週間放置後のタオルについて、フェニルエチルアルコールの香り強度専門パネラー10人により、以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。平均値3を◎、平均値2.0以上3.0未満を○、平均値1.0以上2.0未満を△、平均値0以上1.0未満を×とした。
【0059】
評価基準
3 フェニルエチルアルコールの香りが強い
2 フェニルエチルアルコールの香りがわかる
1 フェニルエチルアルコールの香りとはわからないが、何か香りがある
0 フェニルエチルアルコールの香りがない
【0060】
【表8】

【0061】
表8から明らかなように、比較例2及び3では保存での分解により、香りの持続性が低下しているが、本発明の機能性物質放出剤を含有する組成物は保存安定性に優れるため、香りが長期間持続している。
【0062】
実施例9〜11
上記未賦香液体柔軟剤Aに対し、合成例4,5及び7で得られた本発明の機能性物質放出剤を0.5質量%配合した柔軟剤組成物についても、実施例5〜8と同様の評価法により本発明の効果を確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物35〜95質量%及び下記式(2)で表されるケイ酸エステル化合物0〜40質量%を含む機能性物質放出剤。
【化1】

(式中、R1は置換基としてフェニル基、水酸基又はアルコキシ基を有していても良い総炭素数4〜22の脂肪族炭化水素基を示し、R2は機能性アルコールから水酸基1個を除いた残基を示し、複数個のR2は同一でも異なっていても良い。R3は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)
【請求項2】
機能性アルコールが香料アルコールである請求項1記載の機能性物質放出剤。
【請求項3】
香料持続剤である請求項1又は2記載の機能性物質放出剤。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤を含有する組成物。
【請求項5】
下記式(3)で表される化合物と機能性アルコールとをエステル交換反応させる、請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤の製造方法。
【化2】

(式中、R1及びR3は請求項1と同じ意味を示し、3個のR3は同一でも異なっていても良い。)
【請求項6】
下記式(4)で表されるトリハロゲン化シランと機能性アルコールとをエステル化反応させる、請求項1〜3いずれかに記載の機能性物質放出剤の製造方法。
【化3】

(式中、R1は請求項1と同じ意味を示し、Xはハロゲン原子を示す。)

【公開番号】特開2009−197055(P2009−197055A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37430(P2008−37430)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】