説明

正極活物質および非水電解質二次電池

【課題】正極に活物質を高密度で充填する。また、非水電解質二次電池の放電末期に意図的に電圧に段差を設けることにより、残存容量のモニターを容易化する。
【解決手段】(1)MnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む化合物を混合して原料混合物を得る工程、またはMn化合物とNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む共晶化合物を合成する工程、(2)前記原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合する工程、(3)前記工程(2)で得た混合物を600℃以上に加熱する第1焼成の工程、および(4)前記第1焼成後に、前記正極活物質を急冷する工程を含む製造方法により正極活物質を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質およびこれを用いた非水電解質二次電池、更には非水電解質二次電池の充放電制御方法や残存容量モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信機器および携帯電子機器などの主電源として利用されている非水電解質二次電池は、高い起電力およびエネルギー密度を有する点に特徴を有する。ここで用いられる正極活物質としては、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)およびマンガンスピネル(LiMn24)などが挙げられる。これらの活物質はリチウムに対し4V以上の電圧を有している。一方、負極には一般的にカーボン材料が使用され、これを前述の正極活物質と組み合わせることによって4V級のリチウムイオン電池が構成されている。
【0003】
電池に対しては、高エネルギー密度は当然ながら、ハイレート特性およびパルス特性を向上させることへの要望が強くなってきている。ハイレートで充放電することによって活物質への負荷が大きくなり、結果として従来の技術ではサイクル寿命の維持が困難になってきている。
また、使用される機器によっては、このようなハイレート放電であっても充放電曲線における電池電圧の平坦性が求められている。層構造を有する正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)およびニッケル酸リチウム(LiNiO2)などを用いた場合は、本来、比較的平坦ではあるがS字状の充放電曲線が得られ、ハイレート時に平坦な充放電電圧を維持することは困難である。また、前記正極活物質は充放電にともなって層方向に大きな膨張および収縮を繰り返すため、これによるストレスによって特にハイレート充放電でのサイクル寿命が短かくなる。
【0004】
一方、残存容量検知という観点からは、前記正極活物質を用いて得られる充放電曲線も比較的平坦な形状を有すると認められ、狭い電位範囲を正確に測定する必要があるため、前記正極活物質は残存容量を検知するには不適でった。特に、充電によりリチウムが負極に挿入されると負極の電位が急激に0.1V付近にまで低下し、以降ほぼ一定の電位でリチウムを吸蔵する。正極活物質に関しては、特にスピネル構造を有するLiMn24がより平坦な充放電曲線を描くため、層構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO2)およびニッケル酸リチウム(LiNiO2)に比較して残存容量の検知には不適である。
【0005】
一般的に、非水電解質二次電池の残存容量を認識するためには、例えば特許文献1記載の方法に代表されるように、電圧の他に電流および時間を検知し、これらの情報に基づいて集積回路内で演算を行って電池の残存容量を認識していた。
また、充電終了モニターとしては、特許文献2において、正極活物質としてLiMn24を使用し、負極活物質としてLi4Ti512と天然黒鉛とを使用することが提案されている。この技術は、負極の電位に電位差の段を設けることで充電の終了のモニターを可能とするものであり、1.5Vで電位が推移するLi4Ti512と0.1Vで電位が推移する天然黒鉛を組み合わせた負極が開示されている。
【0006】
ここで、以下に、従来から提案されていたスピネル構造を持つ従来の正極活物質を含む正極、および負極にスピネル骨格を持つリチウム含有チタン酸化物を含む負極を使用した電池系について説明する。
特許文献3においては、組成式:Li(1+x)Mn(2-x-y)yz(式中、0≦x≦0.2、0.2≦y≦0.6、3.94≦z≦4.06、Mはニッケル、または必須成分であるニッケルにアルミニウムおよび遷移元素から選ばれる少なくとも1種を加えたもの)で表される正極活物質であって、不純物であるNiOを含まない正極活物質の合成方法が提案されている。具体的には、マンガン化合物と金属Mの化合物との混合物を900℃〜1100℃で焼成した後、前記混合物をリチウム化合物とともに再度焼成すると記載されている。
【0007】
しかし、この方法ではマンガンと金属Mとの反応が固体と固体との反応であるため、両者を均一に固溶させることが難しい。また、900℃以上という高温で焼成を行うため、その後リチウムとの反応性が低下し、目的とする正極活物質を得ることが難しい。
また、特許文献4には、一般式:Lix+yzMn2-y-z4で示され、スピネル結晶構造をもち、Mが遷移金属を表し、0≦x<1、0≦y<0.33、0<z<1である挿入化合物でLi/Li+に対して4.5V以上の電位で充放電する正極活物質が提案されている。
【0008】
特許文献5には、Li2MnO3またはLiMnO2を活物質として含む正極と、リチウムを吸蔵したLi4/3Ti5/34またはLiTi24を活物質として含む負極とを具備する電池が開示されており、特許文献6には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を含む正極と、チタン酸リチウム(Li4/3Ti5/34)を含む負極とを具備する電池が開示されている。また、特許文献7には、活物質としてリチウムもしくはリチウム合金、またはスピネル型構造のリチウム−チタン酸化物を含む負極と、活物質としてスピネル型構造のリチウム−マンガン酸化物Li4/3Mn5/34を含む正極と、電解質であるLiN(CF3SO22およびエチレンカーボネートを含む2成分系以上の混合溶媒を含む電解液とを具備する電池が開示されている。
【0009】
また、特許文献8には、正極活物質としてリチウム含有遷移金属酸化物(LiAx1-x2)を用い、負極活物質としてリチウムチタン酸化物(Li4/3Ti5/34)を用い、正極の活物質の実容量に対する負極活物質の実容量の比率を0.5以下とすることが開示されている。特許文献9には、正極活物質にリチウムマンガン酸化物(Li4/3Mn5/34)を用い、負極にリチウムチタン酸化物(Li4/3Ti5/34)およびリチウムを用い、リチウムマンガン酸化物に対するリチウムチタン酸化物のモル比率を1.0以下、リチウムチタン酸化物に対するリチウムのモル比率を1.5以下とすることが開示されている。
【0010】
さらにまた、特許文献10には、正極が組成式:Li1-xxNi1-yy2(Aは、Liを除くアルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる1種以上、MはCo、Mn、Al、Cr、Fe、V、TiおよびGaのうちから選ばれる1種以上、0≦x≦0.2、0.05≦y≦0.5)で表され、平均粒径が0.5μm以上の1次粒子が凝集してなる2次粒子で構成される正極活物質を含むこと、負極が組成式:LiaTibO4(0.5≦a≦3、1≦b≦2.5)で表されるリチウムチタン複合酸化物を負極活物質として含むことが開示されている。
【0011】
また、特許文献11には、組成式:Li1+xyMn2-x-y4-z(MはTi、V、Cr、Fe、Co、Ni、Zn、Cu、W、Mg、Alのうち1種以上、0≦x≦0.2、0≦y<0.5、0≦z<0.2)で表され、CuKα線を用いた粉末X線回折法による(400)回折ピークの半値幅が0.02θ以上0.1θ以下(θは回折角)であり、1次粒子で形状が八面体をなすリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として含む正極と、組成式:LiaTib4(0.5≦a≦3、1≦b≦2.5)で表されるリチウムチタン複合酸化物を負極活物質として含む負極とを具備する電池が開示されている。
【特許文献1】特開平11−72544号公報
【特許文献2】特開2000−348725号公報
【特許文献3】特開平11−321951号公報
【特許文献4】特開平9−147867号公報
【特許文献5】特開平7−320784号公報
【特許文献6】特開平7−335261号公報
【特許文献7】特開平10−27609号公報
【特許文献8】特開平10−27626号公報
【特許文献9】特開平10−27627号公報
【特許文献10】特開2001−243952号公報
【特許文献11】特開2001−210324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来の技術によっては、上述のようなハイレート特性およびパルス特性の向上という課題を十分に解決することができない。例えば、ハイレートで充放電すると活物質への負荷が大きくなって構造破壊など起こすため、サイクル寿命の維持が困難になるからである。また、層構造を有するコバルト酸リチウムおよび黒鉛材料などは、充放電にともなって層方向に大きな膨張・収縮を繰り返すことによって、活物質へのストレスおよび電極間からの電解液の滲み出しを起こし、特にハイレート充放電でのサイクル寿命が短かくなってしまう。したがって、以上のような電池の長寿命化のためには、活物質の膨張・収縮を抑えることが大きな課題となる。
【0013】
また、電子機器の電源として用いる電池は、放電曲線が平坦な形状を有しているのが望ましく、このようなハイレート放電においてもそのような電圧の平坦性が求められる。ところが、現在までに実用化されている電池の放電曲線は、S字状を有しかつ徐々に電圧が低下するもの、または、平坦であるが放電末期に急激に電池電圧が低下するもののいずれかである。前者の場合は残存容量のモニターがそれほど困難ではないが、さらに電圧が平坦であることが好ましいという問題があった。一方、後者の場合は放電終了間際になるまでは電圧変化が非常に少なく、その結果、電池の残存容量をモニターすることが非常に困難であった。したがって、残存容量を適度にモニターし得る電池を得ることも課題のひとつであった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、これらの課題を解決することにある。すなわち、本発明は、正極活物質の組成、結晶構造および合成方法、電池系の選定、電解液、正極および負極の集電体材料、セパレータ、ならびに正負極活物質の容量比などを最適化して電池を設計することによって、レート特性、サイクル寿命、安全性および保存性が改善された非水電解質二次電池を提供することを目的とする。また、本発明は、平坦な充放電曲線を有し、かつ放電末期に意図的に電圧に段差を設けて残存容量をモニターを容易にした正極活物質を用いた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.正極活物質
まず、本発明は、組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)で表され、八面体とは異なる粒子形態を有することを特徴とする正極活物質に関する。
前記正極活物質は、遷移金属元素の相において2×2の超格子を有するのが好ましい。
また、前記正極活物質においては、Mnとその他の遷移金属元素との比が実質的に3:1であるのが好ましい。
【0016】
本発明の好ましい一態様において、充放電領域における反応は、2つの2相反応を含む。
本発明の別の好ましい一態様において、前記正極活物質は、スピネル類縁結晶を有し、Fd3mの空間群における16(c)サイトにLiおよび/またはMeが存在する。
また、前記正極活物質の充電電位と放電電位との差が0.2〜0.8Vであるのが好ましい。
また、立方晶で帰属された格子定数が8.3Å以下であるのが好ましい。
また、前記正極活物質は、8面体を有しないのが好ましい。すなわち、前記正極活物質の粒子の形態は、偏菱形24面体(icositetrahedron)、斜方12面体(rhombic dodecahedron)、および8つの6角形と6つの4角形の面を有する14面体(tetradecahedron)のいずれかであるのが好ましい。
また、前記正極活物質は、0.1〜8μmの粒径を有する結晶粒子と、2〜30μmの粒径を有する前記結晶粒子の二次粒子の混合物からなるのが好ましい。
【0017】
2.正極活物質の製造方法
本発明は、(1)MnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む化合物を混合して原料混合物を得る工程、またはMn化合物とNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む共晶化合物を合成する工程、(2)前記原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合する工程、および(3)前記工程(2)で得た混合物を600℃以上の第1焼成温度に加熱する第1焼成を行い、組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)で表され、充放電領域における反応が2相反応である正極活物質を得る工程を含むことを特徴とする正極活物質の製造方法に関する。
前記第1焼成温度は、900℃以上であるのが好ましい。
【0018】
また、前記製造方法は、前記第1焼成後に、前記第1焼成温度よりも低い第2焼成温度で第2焼成を行う工程を含むのが好ましい。
この場合第2焼成温度は350℃〜950℃であるのが好ましい。また、前記第2焼成温度は650℃〜850℃であるのがさらに好ましい。
前記製造方法は、前記第1焼成後に、前記正極活物質を急冷する工程を含む。
この急冷は4.5℃/分以上の降温速度、さらには10℃/分以上の降温速度で行うのが好ましい。
また、前記急冷は室温まで行うのが好ましい。
【0019】
3.非水電解質二次電池
さらに本発明は、上記正極活物質を含む正極、チタン酸化物を含む負極、非水電解質およびセパレータを具備し、2.5V〜3.5Vの実用充放電領域および3V級の実用平均電圧を有することを特徴とする非水電解質二次電池にも関する。
電池電圧が2.7Vから2Vになるまでの残存容量は、例えば、正極活物質の単位重量あたり、2.1mAh/g以上である。
前記チタン酸化物はスピネル構造を有するのが好ましい。
また、前記チタン酸化物がLi4Ti512であるのが好ましい。
また、前記非水電解質二次電池は、作動放電電圧において0.2V〜0.8Vの段差を有するのが好ましい。
前記0.2V〜0.8Vの電圧の段差を検知することにより、電池の残存容量を把握することができる。例えば、前記0.2V〜0.8Vの電圧の段差を検知することにより電池の残存容量を検知し、残存容量の検知結果に基づいて、放電終了のタイミングを制御するなど、電池の充放電を制御することが可能となる。
また、前記正極および負極がアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された集電体を有するのが好ましい。
【0020】
前記非水電解質がプロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、メチルジグライム、スルフォラン、トリメチルホスフェイト、トリエチルホスフェイトおよびメトキシメチルエチルカーボネートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
また、前記セパレータが不織布で構成されているのが好ましい。
前記不織布がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブチレンテレフタレートよりなる群から選択される少なくとも1種で構成されているのが好ましい。
また、前記正極活物質に対する前記負極活物質の重量割合が0.5以上1.2未満であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の八面体とは異なる粒子形態を有する正極活物質を用いることにより、粉体または塗工ペーストの流動性が向上するため、高密度での充填が可能である。また、レート特性、サイクル寿命、安全性および保存性が改善された非水電解質二次電池を提供することができる。また、本発明によれば、放電末期に意図的に電圧に段差を設けた非水電解質二次電池を得ることができ、残存容量のモニターが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
正極活物質の新規な組成および合成方法、その他の電池構成材料および正極活物質と負極活物質との容量比率などの設計項目を最適化することにより、平坦な充放電電圧ならびに優れたハイレート特性およびサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することができる。
また、本発明の正極活物質を用いて適当な電池系を設計すれば、放電末期付近において自在に電位の段差を形成することができる。これにより、本発明に係る非水電解質二次電池に、残存容量を正確に把握し、かつ電源容量の喪失を正確に知らせるアラーム機能を付加することができる。
【0023】
さらに、本発明に係る正極活物質は平坦な形状の放電曲線を描くため、平坦な形状の放電曲線を描く例えばLi4Ti512を負極に用いることで、電子機器に好ましい平坦な形状の放電曲線を描く電池を得ることができる。
加えて、このような本発明に係る電池は3V級の電圧を発揮するため、従来のリチウム1次電池および乾電池2本の組合せに代わって、例えばカメラ、デジタルカメラ、ゲーム機、ポータブルMDプレイヤーおよびヘッドホンステレオなどの電子機器に用いることができるという顕著な効果が得られる。
【0024】
1.本発明の正極活物質の合成
本発明は、組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)で表され、八面体とは異なる粒子形態を有し、充放電領域における反応が2相反応であることを特徴とする正極活物質に関する。
以下において、Li[Ni1/2Mn3/2]O4に代表させて本発明に係る正極活物質を説明する。なお、これらの説明は、上記組成式の範囲内で他の組成を有する正極活物質についても言えることである。
【0025】
Li[Ni1/2Mn3/2]O4は、構成元素を含む酸化物、水酸化物および/または炭酸塩などの原料を所定の組成になるように混合し、得られる混合物を焼成(第1焼成)することで合成することが可能である。しかし、この場合、各原料の粒径を同じに揃えること、および反応を均一にするための十分な混合が必要になり、合成には高度な粉体技術を要する。
一方、Li[Ni1/2Mn3/2]O4は、ニッケルおよびマンガンを水溶液中で水酸化物または炭酸塩として共沈させることで合成することもできる。この場合、分散しにくいニッケルおよびマンガンが粒子内においてあらかじめ均一に分散させることができるため、比較的容易に合成を行うことができる。
【0026】
したがって、以下の合成に関する例においては、水酸化物として得られた共晶化合物を用い、リチウム化合物としては水酸化リチウムを用いた。これらを十分に混合した後、得られた混合物を焼成(第1焼成)する。共晶による水酸化物と水酸化リチウムの混合物をペレット状に成型することでより確実に反応をさせることもできる。
ここで、図1は、共晶化合物とリチウム化合物の混合物を、空気中、1000℃(a)、900℃(b)、800℃(c)、700℃(d)および600℃(e)で、12時間焼成(第1焼成)して得られた正極活物質の電気化学特性を示すグラフである。具体的には、共晶で得られた[Ni1/4Mn3/4](OH)2とLiOH・H2Oと十分に混合して混合物を得、その後にこの混合物をペレット状に成形し、得られた成形体を焼成してLi[Ni1/2Mn3/2]O4を作製した。
電気化学特性は以下のように試験用セルを作製して測定した。
【0027】
まず、Li[Ni1/2Mn3/2]O480重量部、導電剤であるアセチレンブラック10重量部、および結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)10重量部を混合し、得られた混合物をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で希釈してペーストを得る。このペーストをアルミ箔からなる集電体上に塗布した。塗布後の集電体を真空中、60℃で30分乾燥した後、15mm×20mmの寸法に切断した。その後、切断後の集電体をさらに真空中、150℃で14時間乾燥し、試験用電極を得た。
【0028】
また、対極としては、ステンレススチール上にリチウム金属シートを圧着して得た電極を用いた。セパレータとしてはポリエチレン製のポーラスフィルムを用い、電解液はエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を3:7(体積比率)で混合し、得られた混合溶媒に1.0MのLiPF6を溶解して得た。
これらを、試験用電極、セパレータおよび金属リチウムの順で重ね合わせ、注液した後、ステンレス製のホルダーで外側から適当な強さで締め付けて試験用セルを作製した。得られた試験用セルの充放電を、0.17mA/cm2の電流密度で3.0V〜5.0Vの間で繰り返した。
【0029】
図1からわかるように、いずれの温度で焼成して得られた正極活物質を用いても、放電電圧はリチウム金属に対して4.6V〜4.8Vと高く、約125mAh/gの充放電容量を示している。また、焼成温度が高いほど分極特性が優れていることがわかる。
また、4V付近の電圧の段差が、温度が高くなるにしたがって規則的に増大することがわかる。本発明では、このような現象を利用することで電子機器に適応して残存容量の検知を行なうことのできる電池を提供することができる。つまり、焼成温度を種々変えることにより、電池に求められる残存容量の検知のタイミングを制御することができるのである。この段差は4V付近に現れ、その幅は0.2V〜0.8Vであり数Vといった大きな変化ではないため、このような段差を有する電池を電子機器に用いても、当該電子機器の電源が切れてしまうようなトラブルは起こらない。
【0030】
以上のことから、本発明に係る正極活物質は、原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合し、第1焼成を行い、その後、雰囲気温度を徐々に降下させること(徐冷)により製造することができる。第1焼成および徐冷の条件は以下のとおりである。
第1焼成 下限:600℃、好ましくは900℃
上限:1000℃
時間:2〜72時間
徐冷速度 下限:4.5℃/分
上限:10℃/分
【0031】
2.正極活物質の放電末期の電圧段差制御および分極特性の向上
前述のように、焼成温度が高いほど分極が小さくなるが、この場合は4Vの段の領域の幅が大きくなる。当然ながら、分極を小さく抑え、かつ4Vの領域の幅を自在に制御できることが望ましい。この目的のため、本発明者らは鋭意合成方法について研究した。
図2に、第1焼成後の正極活物質のTG曲線(熱重量分析)を示した。ここで用いた正極活物質は500℃の低温で焼成して得たLi[Ni1/2Mn3/2]O4である。この正極活物質を700℃〜850℃の間で50℃ずつ温度を上昇させて加熱し、各温度において正極活物質をホールドし、温度をステップ状に上昇させた。温度を降下させる際にも同様の温度制御を行った。昇温速度は10℃/分で雰囲気は大気中とした。
【0032】
図2において、aは温度、bは温度を上昇させた場合に変化した重量、cは温度を降下させた場合に変化した重量を示す。図2から、400℃までは、水分にまつわるものと考えられる不規則な重量減少が観測される。400℃から1000℃までの温度の上昇において、700℃から1000℃の範囲で重量が単調に減少する。一方、降温過程での重量変化を見ると、1000℃から800℃までは、昇温時に減少した重量と同等に重量が増大(回復)し、本実験速度に追従している。また、700℃までは、速度は遅れるもののほぼ重量が完全に回復していることがわかる。この重量の増加は、一度高温で放出された酸素が再焼成(第2焼成)、すなわち正極活物質の再酸化によって当該正極活物質中に戻ってきたものと考えられる。したがって、重量をもどすための工程を行う場合には、第1焼成後に得られる正極活物質の温度を10℃/分以下の速度で降下させるのが好ましいことを示唆している。
【0033】
つぎに、1000℃、12時間の第1焼成を行った後、700℃、48時間の第2焼成を行って得た正極活物質の、充放電カーブを図3に示した。この結果、この正極活物質は、約135mAh/gの充放電容量を有し、4V付近に15mAh/g程度の段を有し、分極特性に優れていることがわかる。
以上のことから、一度1000℃の高温で焼成(第1焼成)して得られた正極活物質であっても、それ以下の温度、例えば700℃で再焼成(第2焼成)することにより、4V付近の段差を、図1で示した700℃の場合の正極活物質の段差と同等に制御することが可能である。
また、第1焼成および第2焼成を経た正極活物質は、一度1000℃で焼成しているため、細孔を有しない発達した結晶粒子を有し、よって高い充填密度を有する。しかも、この正極活物質は分極特性に優れる。
【0034】
以上より、本発明に係る正極活物質は、電圧段差および分極特性の観点からは、原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合し、第1焼成を行い、ついで、第2焼成を行うことにより製造するのが好ましい。第1焼成および第2焼成の好ましい条件は以下のとおりである。
第1焼成 下限:600℃、好ましくは900℃
上限:1000℃
時間:2〜72時間
第2焼成 下限:350℃、好ましくは650℃
上限:950℃、好ましくは850℃
時間:2〜72時間
【0035】
図2に示す結果および電気化学特性評価より、第1焼成を600〜1000℃以上、好ましくは900〜1000℃で行った後、350〜950℃まで急冷し、ついで、第2焼成を350〜950℃、好ましくは650〜850℃で行うのが好ましいことがわかる。
このような条件を用いることにより、得られる正極活物質の分極特性を向上させることができると同時に、充放電カーブの4V付近において表れる段差を適宜制御することが可能となる。以上の実験では、焼成時の昇温速度を7.5℃/分とし、降温速度を4.5℃/分とした。
【0036】
(3)活物質の粒子形態の制御
正極活物質を電池に応用する場合、正極活物質の粒子形態は重要なファクタであり、現在市販されているリチウムイオン電池の容量および性能の向上はかかる粒子形態の制御により行われていると言っても過言でない。この点に着目して、本発明者らは、本発明に係る正極活物質の好ましい粒子形態およびその制御に関して鋭意研究を進めた。前述したように、本発明に係る正極活物質の製造方法においては、一度高温(900℃以上)で第1焼成を行った後、再酸化を目的とした第2焼成を行うことが好ましい。
【0037】
そこで、第1焼成を1000℃および12時間の条件で行い、第2焼成を700℃および48時間の条件で行って得られた本発明に係る正極活物質の粒子の断面形状をSEMにより撮影した。得られたSEM写真を図4の(a)に示す(拡大率:300000倍)。なお、図4の(b)は、第2焼成を行わない他は、図4の(a)の正極活物質と同様にして得たもののSEM写真である。
図4から、一度1000℃で焼成しているため正極活物質の結晶粒子が発達していることがわかる。また、この粒子は2〜3μmの1次粒子であるが、当該粒子の内部には全く細孔がない充填された粒子であることがわかる。
【0038】
さらに、正極活物質の粒子形態(特に外形の形状)は、正極活物質を用いて極板を作製する際の塗工密度および充填密度に大きく影響する。特開2001−210324号公報においては粒子形態に関する提案がなされており、具体的には、1次粒子の形状が八面体であることが記されている。本発明に係る正極活物質は、その理由を以下に説明するが、八面体とは全く異なる形状を有するのが好ましく、この点で上記従来技術と明らかに異なる。
まず、粒子形態を制御するための方法について、Li[Ni1/2Mn3/2]O4を製造する場合に代表させて説明する。なお、その他の組成を有する正極活物質であっても、本発明の範囲内において同様の傾向を示した。
【0039】
(1)ケース1(図5)
第1焼成を、温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持することにより行った。
第1焼成後は、温度を1000℃から室温まで2時間で降下させた(徐冷速度8℃/分)。
(2)ケース2(図6)
第1焼成を、温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持することにより行った。
第2焼成を、温度を1000℃から700℃まで30分間で降下させ、700℃で48時間保持することにより行った。
第2焼成後は、温度を700℃から室温まで1.5時間で降下させた(徐冷速度7.5℃/分)。
【0040】
(3)ケース3(図7)
第1焼成を、温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持することにより行った。
第1焼成後、1000℃から室温まで急冷した。
第2焼成を、温度を700℃まで約1時間で上昇させ、700℃で48時間保持することにより行った。
第2焼成後は、温度を700℃から室温まで1.5時間で降下させた。
(4)ケース4(図8)
第1焼成を、温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持することにより行った。
第1焼成後、1000℃から室温まで急冷した。
【0041】
大別すると、ケース3および4においては急冷工程を用い、ケース2および3においては700℃における再酸化(第2焼成)工程を用いた。
図5〜8に、ケース1〜4の条件により製造した正極活物質粒子のSEM写真を示した。これらのSEM像からわかるように、本発明に係る正極活物質の粒子形態は八面体ではないことが明らかである。これらの形態を表現することは困難であるが、偏菱形24面体(icositetrahedraon)、斜方12面体(rhombic dodecahedron)、さらに詳しくは、8つの6角形と6つの4角形の面を持つ14面体(tetradecahedron)を含む正極活物質であるといえる。なお、図7および8において、(a)は10000倍、(b)は30000倍の倍率を用いた。
【0042】
粒子形態の制御には急冷工程が大きく影響していることがわかる。ケース1および2により得られた正極活物質の粒子の稜辺はシャープであるが、ケース3および4により得られた正極活物質の粒子の稜辺は丸い。すなわち、これにより、急冷工程を取り入れることで稜辺を丸くし得ることがわかる。
ケース1〜4により得られた正極活物質を電池用の極板に塗工する場合、稜辺丸い正極活物質を用いたほうが、粉体または塗工ペーストの流動性が向上するため、高密度での充填が可能であった。
【0043】
以上のことから、本発明に係る正極活物質は、従来技術により提案されている八面体粒子とは全く異なり、偏菱形24面体(icositetrahedraon)、斜方12面体(rhombic dodecahedron)、さらに詳しくは、8つの6角形と6つの4角形の面を持つ14面体(tetradecahedron)を含み、この粒子形態により向上した電池特性が発揮されるものと考えられる。また、本発明に係る正極活物質は、粉全体としては、約0.1〜8μmの粒径を有する結晶粒子と、2〜30μmの粒径を有する結晶粒子の二次粒子からなるのが好ましい。
【0044】
以上より、本発明に係る正極活物質は、粒子形態の制御という観点からは、原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合し、第1焼成を行し、急冷を行なうことにより製造するのが好ましい。また、急冷後に第2焼成を行ってもよい。第1焼成、急冷および第2焼成の条件は以下のとおりである。
第1焼成 下限:600℃、好ましくは900℃
上限:1000℃
時間:2〜72時間
急冷速度 10℃/分以上、好ましくは20℃/分以上、
さらに好ましくは50℃/分以上
第2焼成 下限:350℃、好ましくは650℃
上限:950℃、好ましくは850℃
時間:2〜72時間
【0045】
(4)正極活物質の結晶構造、X線回折パターンおよびFT−IRシグナル
本発明に係る正極活物質は、スピネル類縁結晶構造(spinel-framework-structure)を有する。図9に、種々の第1焼成温度で製造した本発明に係る正極活物質のX線回折パターンを示した。(a)〜(e)はそれぞれ600℃、700℃、800℃、900℃および1000℃で第1焼成を行って製造した正極活物質のX線回折パターンである。正極活物質の組成はLi[Ni1/2Mn3/2]O4である。
得られたX線回折パターンにおいて立方晶を仮定してミラー指数を帰属すると、図9に示したように、すべてのピークに帰属することができる。図9から、高温で第1焼成の場合のピークがよりシャープであり、結晶性が向上していることがわかる。
【0046】
つぎに、図9の(a)〜(e)に示した正極活物質のFT−IRの測定結果を、それぞれ図10の(a)〜(e)に示した。700℃の正極活物質(b)の場合に8本のシャープなピークが認められ、700℃を超えても700℃未満でもピークがブロードになることがわかる。このことから、700℃での第1焼成が結晶の配列に対して好ましいことがわかる。
急冷の有無を問わず、第2焼成によってもほぼ同様のX線回折パターンを得ることができる。さらに詳細に結晶構造を考察するため、前述のケース3および4で得られた正極活物質のX線回折パターンを比較した。
【0047】
図11に、上記ケース3で得られた正極活物質(a)および上記ケース4で得られた正極活物質(b)のX線回折パターンを示し、図12にこれらのFT−IRの測定結果を示した。これらのサンプルの違いは再酸化過程を経ているか否かである。このことを念頭に、急冷サンプルのX線回折パターンの構造解析を行った結果、本発明では以下のことが明らかとなり、このことが本発明の効果を発揮する要因と考えられる。
【0048】
本発明に係る正極活物質は、簡略化して、組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、Me:MnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属)を有する。以下においては、理解の容易のためにα=0として具体的な例に基づいて説明する。
LiMn24が有する空間群Fd3mに属するスピネル構造の原子配列においては、リチウム元素が8aサイトを占め、遷移金属元素のMe(Mn)が16dサイトを占め、酸素が32eサイトを占めるが、16cサイトは通常は空である。本発明に係る正極活物質は、この16cサイトに元素を配置させることに特徴を有する。
【0049】
すなわち、本発明の正極活物質においては、16cサイトに入る元素の量を制御することにより、上記放電カーブにおける電圧の段差を制御するのである。
第1焼成および急冷を行って製造した正極活物質のサンプル(第2焼成、すなわち再酸化なし)のX線回折パターンを解析する際、Meが、8aサイトにMeが約1/5個、16cサイトに2/5個、16dサイトに7/4個の割合で存在すると仮定すると、X線回折パターンをよくフィティングできることがわかった。このことから、1000℃まで温度が上昇することによってスピネル構造中の酸素が脱離し、遷移金属が還元され、正極活物質の表面近傍において相当量のリチウム元素および遷移金属元素がそれぞれ8aサイトおよび16cサイトに移動するものと考えられる。この現象により、本発明に係る正極活物質のスピネル構造中の一部に岩塩型構造が形成される。
【0050】
第1焼成および急冷を経て得られた上記サンプルは、酸素を再導入させる再酸化工程を経ていないため、前述のTG曲線の結果などから判断してLi1.2Me2.44で表される。MeにはNiとMnが1:3の比率で含まれる。
また、図11に示すX線回折パターンから、第1焼成および急冷の後、700℃で再酸化(第2焼成)を経て得られた正極活物質(a)、および第1焼成(1000℃)後に温度を下げて引き続き700℃で再酸化(第2焼成)を経て得られた正極活物質(c)においては、再酸化(第2焼成)によってこれら岩塩型構造がスピネル構造へ可逆的に戻っていることがわかる。このような正極活物質の結晶構造の柔軟性が、ハイレート充放電サイクルなどによって正極活物質にストレスがかかる場合の結晶構造の安定化に寄与し、結果として長寿命が達成されるものと考えられる。
【0051】
さらに、図12に示すFT−IRの測定結果を見ると、再酸化(第2焼成)工程を経て得られた正極活物質(a)および(c)については、8本のピークが明らかに観測される。
これに対し、単に第1焼成を行い、温度を降下させる際に再酸化して得られた正極活物質のX線回折パターンおよびFT−IRの測定結果を、それぞれ図11および12の(b)および(d)に示した。これらの正極活物質のX線回折パターンからは、再酸化(第2焼成)を行って得られた正極活物質ほぼ同様スピネル類縁結晶構造を有するように見うけられる。しかし、FT−IR測定の結果は明らかに異なり、8本のピークは明確には観測されない。また、この8本のピークはスピネル構造のFd3mのローカルシンメトリーからは理論的には予測できないものである。したがって、FT−IRの測定結果によって本発明に係る正極活物質を同定することも可能であり、この方法は、充放電カーブにおける電圧の段差を実質上消失させた正極活物質を同定する場合に有効である。
【0052】
つぎに、組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)において、αおよびxの値に関して説明する。
α値は、粒子成長を制御するために変動させる要素である。α値を化学量論的組成における2より小さくすると、合成時の粒子成長を抑制することができ、表面積は増加する傾向になる。逆に、α値を大きくすると、粒子成長を助長させることができる。したがって、電池として要求される特性に応じて粒子を設計するが、この場合にはリチウムの組成比を変えることで粒子成長を制御することができる。α値の範囲は実質的には±0.4程度であり、これより範囲(変動幅)が大きくなると本来の正極活物質の機能に障害を与える可能性がある。
【0053】
一方、Xの値について、前述したように1000℃での第1焼成および急冷を経て得られた正極活物質がLi1.2Me2.44で表されるため、x値は1.33と換算される。また、再酸化(第2焼成)によって酸素量が化学量論的組成まで戻るため、xは2であるとも考えられるが、実質的にはxの上限は1.3である。そこで、本発明者らは、再酸化によって酸素が戻ることを考慮し、xの範囲を0≦x<1.3と設定した。
ここで、本発明に係る正極活物質の結晶構造中のそれぞれの原子サイトの様子を図13に示す。図13は、x値に対してそれぞれのサイトを占める元素の様子を模式的に示す図である。図13に示すように、各サイトに各種の元素を導入し、本来空のサイトも有効に使用することで、放電カーブに表れる電圧の段差などを自由に制御することが可能になる。
【0054】
また、XAFSなどの測定結果と合わせて考えると、段差において4Vの領域はMn3+→Mn4+に相当する電気化学反応に起因し、5V(4.7V)の領域はNi2+→Ni4+の電気化学反応に起因するものと考えられる。上述した急冷を経て得られた2つの正極活物質サンプルも、急冷後の再酸化を何度か行なうなどによって、前記段差を自由に制御できることがわかった。
本発明に係る正極活物質をX線回折パターンまたは単位格子によって識別すると、上述の説明から、以下の点が挙げられる。また、仮に、段差の少ない(実質的にはほとんど見られない)正極活物質を得るためには、以下の点を考慮するのが好ましい。
【0055】
図14に、急冷を経て製造した正極活物質の単位格子定数の変化を示した。 これにより、格子定数は8.33A以下、好ましくは8.25A以下、さらに好ましくは8.2以下とする。
また、Mnと他の遷移金属元素との比率については、容量および放電カーブの形状から判断すると、実質的に3:1の場合が最も良好であった。このことは、詳細は不明であるが、3:1の場合にスピネル構造のフレームワーク中の遷移金属層が[2×2]の超格子を形成することが可能であり、この効果が影響しているものと考えられる。また、電子線回折測定によりこの方向への超格子スポットが観測されることで、[2×2]の超格子を形成を確認することができる。
【0056】
なお、特開平9−147867号公報には高電圧の正極活物質に関する記述がなされているが、組成および簡単な構造しか開示されておらず、好ましい製造方法および温度領域についても一切開示されていない。具体的には、原料を単に混合して焼成することしか記載されておらず、広い焼成温度が記載されているだけである。これに対し、本発明に係る正極活物質は、このような従来技術による正極活物質を基礎にして得られるより優れた効果を奏するものであるため、従来にはない新規な物質である。本発明のように製造方法における条件によって粒子形態を自由に制御することは、特開平9−147867号公報にも記載されていない。
【0057】
特に結晶構造に着目すると、特開平9−147867号公報には、理想的なスピネル構造を有するLiMn24におけるMnを遷移金属またはLiで置換すると記載されている。これは、16cサイトにのみ焦点を当てた記載であり、LiNiVO4などとは明らかに異なることが本文中に明記されている。すなわち、特開平9−147867号公報には、8aサイト、および本来空の16cサイトには原子が入らないと記載されているに等しい。
これに対し、本発明においては、製造方法の条件を適宜コントロールすることにより、これらのサイトを利用して正極活物質の一部に岩塩型構造を形成し、再酸化(第2焼成)でその構造を意図的に制御するのである。つまり、岩塩構造とスピネル類縁構造を同一結晶内で存在させ、自由にその比率を制御させるのである。なお、限りなくスピネル類縁構造のみを有し実質的に放電カーブにおいて電圧の段差を示さない正極活物質の場合には、FT−IRの測定で8本のピークが明確に観測されるか否かが識別の信号となる。
【0058】
(5)2相反応
平坦な放電カーブを示す電池のほうが使用機器にとっては有利である。一般的に、正極活物質の充放電反応が1相反応である場合は、放電カーブの形状がネルンスト式にしたがってS字状となる。コバルト酸リチウムやニッケル酸リチウムなどの層構造材料においては、部分的に2相反応が進行するものの、ほとんどににおいて1相反応が進行する。そのため、本質的にはS字状の放電カーブを示す。このため、特にハイレート放電の末期には、分極と合わせ大きな電圧降下が起こり、平坦な放電カーブは得られにくい。
【0059】
一方、2相反応で充放電が進行する場合、放電カーブは本質的に平坦である。この意味で、充放電の全領域で2相反応をする正極活物質が好ましい。図15に本発明に係る正極活物質の充放電に伴うX線回折パターンの変化を示した。図15の(a)〜(m)には、それぞれ放電容量が15mAh/g、30mAh/g、50mAh/g、60mAh/g、70mAh/g、75mAh/g、80mAh/g、90mAh/g、100mAh/g、105mAh/g、110mAh/g、120mAh/g、および136.3mAh/gの場合を示している。(111)、(311)および(400)におけるピークの変化を見ると、スプリットする様子が認められ、2相反応が進行していることがわかる。
【0060】
さらに理解の容易のために、図15から立方晶を仮定して得られた格子定数の変化を図16に示した。格子定数が2つ存在する部分は2相が共存すると考えて格子定数を算出している。
図16より、本発明に係る正極活物質の放電は前半と後半とに分けられ、それぞれにおいて2相反応が進行していることがわかる。従来のスピネル型構造を有するLiMn24においては、半分の領域では2相反応が進行するが、残りの領域では1相反応が進行し、全領域において2相反応が進行することはない。すなわち、全領域で2相反応が進行する本発明に係る正極活物質は、従来のものとは異なり、平坦性の極めて良好な放電カーブを示す。
【0061】
(6)酸化物負極を用いた3V級非水電解質二次電池と残存容量検知
本発明に係る正極活物質を正極に用い、負極にスピネル構造を有するチタン酸化物を用いる場合の利点に関して説明する。本発明に係る正極活物質は、従来4.5V級のスピネル型正極活物質に比較して大きな可逆容量および優れた分極特性を有する。負極にLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を使用した場合、3V級の電池を構成することができる。
特開2001−210324号公報には負極にチタン系の酸化物を用いることが提案されている。しかし、当該公報の本文中には4.3Vから3.5Vの電位範囲領域で正極容量を示す正極活物質が記されているに過ぎない。これは、従来のLiMn24や、サイクル寿命などを向上させるためにこれに微量の添加元素を加えた正極活物質に過ぎず、本発明に係る4.7Vの充放電領域を有する正極活物質とは明らかに異なる。したがって、特開2001−210324号公報記載の電池系は2.5V級の電池系である。
【0062】
一方、本発明に係る電池系は2.5V〜3.5V実充放電範囲を有し、これは現在市販で使用されている3V級のリチウム一次電池と同じ領域である。また、本発明に係る電池系は、乾電池を2本使用する機器において1本だけ使用すればよいという観点から、汎用性があり有利である。つまり、電池系による0.5Vの電池電圧の違いは、市場における実用上大きな優位性またはハンディキャップとして現れ、これに対し、特開2001−210324号公報記載の2.5V級の電池系は実質的に大きな価値が認められない。また、特開平9−147867号公報に4.5V以上の充放電電位を有する正極活物質が提案されている。また、カーボンを負極に用いる電池系が開示されており、当該技術の目的は4.5V級の高電圧を有するリチウムイオン電池を実現することであり、これは本発明に係る電池系の目的とは異なる。
【0063】
本発明に係る正極活物質においては、放電カーブにおける放電末期の電圧の段差を自由にコントロールすることができる。これにより電池系を適切に選択すれば、残存容量の検知を行なうこともできる。前述したように、電池は平坦な形状の放電カーブ(放電電圧)を有する方が電子機器に対して有利であるが、このことは残存容量の検知の観点からは不利である。これに対し、本発明によれば、平坦な形状の放電カーブを有し、かつ放電カーブにおいて放電末期に電圧の段差を自由に制御し得る正極活物質を設計することが可能である。
したがって、負極は平坦な形状の放電カーブを有することが望まれる。この観点から、負極活物質としては、Li4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を使用するのが有利である。
【0064】
本発明に係る正極活物質とLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)とは、ほぼ同じ容量密度を有する。したがって、これらを用いれば、電池を作製する際に正極板の厚みと負極板の厚みとを一致させることが可能である。このことも電池特性の面から有利となる。LiCoO2/黒鉛やLiMn24/黒鉛を用いた市販の電池系においては、負極の容量密度が高いために正極板の厚みと負極板の厚みに大きな差が生じる。この差により、電解液の電極内部への拡散具合にも差が生じる。その結果、正極および負極のレートバランスがずれ、いずれかの極板に負荷がかかって劣化が早くなるなどの問題がある。この観点からも、本発明に係る正極活物質とLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を組み合わせた電池系は好ましいことがわかる。
【0065】
上記負極活物質は、金属リチウム基準で1.55Vの平坦な充放電カーブを示す。図17に、Li[Ni1/2Mn3/2]4を正極に使用し、Li[Li1/3Ti5/3]O4を負極に使用した電池系の充放電挙動を示し、図18に、前記電池系の200サイクルまでのサイクル寿命を示した。図17において、横軸は正極活物質の単位重量あたりの放電容量を示している。充放電条件は、0.17mA/cm2の電流密度および0V〜3.5Vの間での定電流充放電とした。
図17より明らかなように、本発明に係る電池系は約3.2Vの平均電圧で平坦な充放電電圧を示すと同時に、放電末期に電圧の段差が現れている。この段差を利用することによって正確な残存容量の表示機能または電源オフアラーム機能を発揮させることが可能となる。この電池系の実充放電範囲は2.5V〜3.5Vであり、現在市販で使用されている3V級のリチウム一次電池と同じ領域である。
【0066】
図19にこの電池系の負荷特性を示した。図19の(a)〜(f)はそれぞれ、0.1mA/cm2、0.17mA/cm2、0.33mA/cm2、0.67mA/cm2、1.0mA/cm2および1.67mA/cm2の電流密度での放電挙動を示している。図19からも、負荷が大きく変化しても、放電電圧の段差がはっきり現れることが確認される。
一方、この段差を出現させなくすることも可能である。図20にその一例を示した。負荷を上げても明らかな段差は現れないことがわかる。このときの正極活物質としては、1000℃の第1焼成および700℃での第2焼成(再酸化)を経て得られたものを用いた。なお、図20の(a)〜(e)はそれぞれ、0.17mA/cm2、0.33mA/cm2、1.0mA/cm2、1.67mA/cm2および3.33mA/cm2電流密度での放電挙動を示している。
【0067】
また、黒鉛は充放電にともなって大きく膨張・収縮するのに対し、前記負極活物質は充放電にともなって膨張・収縮しない無歪材料である。本発明に係る正極活物質も充放電にともなって大きな膨張・収縮をせず、これらの組み合わせを用いることにより、実質的にほとんど膨張・収縮のない電池系を設計することができる。すなわち、膨張・収縮による活物質の劣化、電解液の電池系外への染み出しといった要因で起こるサイクル寿命、レート特性および温度特性の低下が飛躍的に改善される。
ここで、図21に、充放電にともなう膨張・収縮をダイレートメーターで測定した結果を示した。正極板および負極板の厚みはそれぞれ60μmおよび110μmで、1枚の正極板および1枚の負極板の組合せ(1スタック)あたりの厚み変化を測定した。
【0068】
図21より、充放電に対応する形で膨張・収縮が現れ、精度良く測定ができていることがわかる。また、その変化量は約1μmで電池あたり0.6%しかない。負極のLi[Li1/3Ti5/3]O4は膨張・収縮の全くない無歪材料として知られているので、この分を差し引いても、正極板の厚みも2%しか変化していない。従来のLiCoO2/黒鉛系電池を充電した際には、正極が約5%、負極が約20%膨張するのに対し、本発明に係る電池における膨張・収縮の程度は桁違いに低いことがわかる。このような充放電にともなう極めて小さい膨張・収縮がサイクルの長寿命の要因である。本発明によれば、特に、ハイレートで充放電を行った場合のサイクル寿命は、従来の電池系に比較し飛躍的に改善される。
【0069】
(7)電池容量設計
電池の容量負荷の設計を行なう場合、正極または負極いずれかの容量を規制することとなる。これは、使用される機器の用途や、材料の特徴などから意図的に設計されるものである。本発明に係る3V級の電池系においては、負極の容量を規制することがより好ましい。具体的には、正極活物質に対する負極活物質の割合(重量)を0.5以上1.2未満とする。1.2とした場合は、形式的には正極活物質を規制しているように考えられるが、負極活物質のグラムあたりの理論充放電容量が正極活物質のグラムあたりの理論充放電容量を超えているため、実質的には負極活物質を規制していることになる。
【0070】
負極規制の電池系がより好ましい理由は以下の点にある。すなわち、正極の電位は4.7V程度であるが、使用する電解液によっては耐酸化性に乏しい正極もある。したがって、正極の電位をより高くすることで充電終了を行なうことは電解液の安定性から不利である。また、正極活物質からリチウム元素を完全に抜ききると、酸素が徐々に放出されて活物質の劣化や放出された酸素による電解液の酸化が起こり、サイクル寿命および電池特性の劣化を引き起こすことが予想される。
【0071】
(8)正極板および負極板の集電体
現在市販されているリチウムイオン二次電池では、通常正極の集電体としてアルミニウムを用い、負極の集電体として銅を用いている。これは、各極の電位を考慮し、耐食性に優れた集電体を使用しているからである。特開平9−147867号および特開2001−210324号各公報にも、正極および負極の集電体としてそれぞれアルミニウムおよび銅を使用することが明記されている。
本発明に係る非水電解質二次電池においては、正極および負極のいずれにおいてもともにアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いることが好ましい。この理由は以下のとおりである。
【0072】
まず、銅に対してアルミニウムを使用することで電池の軽量化を図ることができると同時にコストダウンも可能となる。黒鉛を負極に用いる市販の電池系では、黒鉛の電位がリチウム金属に対して0.2V以下と低いため、アルミニウムを集電体に使用することは不可能であった。これは、負極の黒鉛が充放電する電位より高い電位においてアルミニウムがリチウムイオンと反応を開始するためである。しかし、本発明に係る電池系においては、負極の充放電電位が1.5Vと高いため、その電位以下にならないと反応しないアルミニウムを使用できることになる。また、銅を使用して深放電などで負極の電位が上昇すると、電解液中に銅イオンが溶出する。この銅イオンが再充電によってリチウムの挿入反応よりも先に負極上に析出し、リチウムの挿入反応を阻害する。この結果、リチウムは金属として負極表面上に針状結晶の形態で析出してしまう。このことで電池の安全性の低下や、サイクル寿命の低下を引き起こす。一方アルミニウムを使用することで金属イオンの溶出および再析出は起こらない。
【0073】
また、負極律速の電池系において充電器などが故障した場合は、過充電されて負極に過剰のリチウムが供給されることになる。このとき、負極の集電体が銅であると、過剰のリチウムが負極上に析出することになる。このような針状結晶のリチウム金属は電池の過充電安全性を低下させることになる。しかし、アルミニウムはリチウムの十分な吸蔵能を有しているため、負極の集電体にアルミニウムを使用した場合、過充電時にリチウム金属を負極上に析出させることなく、集電体に吸蔵することが可能である。結果として、電池の過充電安全性を低下させることはない。
【0074】
(9)非水電解液
本発明に係る3V級非水電解質二次電池における好ましい電解液を説明する。電解液に使用される有機溶媒は電位窓を有する。電位窓は耐酸化性および還元性の尺度であり、電位窓が広いほど安定な有機溶媒であるといえる。一般的なLiCoO2/黒鉛系の非水電解質二次電池においては、耐酸化性はコバルトの充放電電位である4.5V近傍、耐還元性は黒鉛の充放電電位である0V近傍までは必要となる(電位はリチウム金属基準である。以下同様。)。したがって、これらの条件を満たす電位窓を有しない有機溶媒を選択して用いることは回避されていた。
【0075】
特に、負極に黒鉛を使用することによって耐還元性を向上させる際には、ラクトン系の有機溶媒を使用することは困難であった。また、プロピレンカーボネートも黒鉛の充放電時に同時に分解されるなどの理由で使用が困難であった。これらの溶媒は安価である上に誘電率の大きい溶媒であるため、電解質(塩)を十分に溶解させる能力もあり、さらに耐酸化性にも優れた有用な溶媒であるにもかかわらず、その使用が困難である。また、トリメチルフォスフェイトおよびトリエチルフォスフェイトは消火作用を有し安全性に優れているにもかかわらず、同様の理由によりこれらを使用することも困難である。
【0076】
本発明に係る電池系においては、上述のような有用な特徴を有する溶媒はすべて使用可能となる。本発明に係る非水電解質二次電池においては負極に黒鉛でなくLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を用いるため、負極側の電位は1.5Vに上がるため溶媒に求められる耐還元性は飛躍的に緩和される。また、黒鉛特有の充放電により、負極表面上で分解されてしまうようなプロピレンカーボネートなどの溶媒も極めて有効な溶媒として使用することが可能となる。
一方、正極の電位は4.7V以上まで上がるが、これらの溶媒の耐酸化性は5V以上であるため問題なく使用することができる。また、耐酸化性に優れたスルフォランや、メチルジグライムなども本電池系には適した溶媒であると考えられる。また、従来から使用されているDEC(ジメチルカーボネート)、MEC(メチルエチルカーボネート)およびDMC(ジメチルカーボネート)などの溶媒も粘性の高い溶媒の希釈剤として使用することができる。
【0077】
本発明において用いることのできる電解質は特に制限されず、従来から使用されているLiPF6、LiBF4および有機アニオンのリチウム塩などを用いることもできる。従来の一般的なLiCoO2/黒鉛系の非水電解質二次電池においては、黒鉛を使うためまたは電解質を溶かすために、高い誘電率および極めて高い粘性を有するEC(エチレンカーボネート)を低粘性の溶媒で希釈した混合溶媒が広く使用されてきた。本発明に係る電池系においては、上述した理由により、用いる電解液が制限されることなく、使用される機器の所望の特性に応じて最適な電解液を選択することが可能となる。
【0078】
(10)セパレータ
従来、一般的なLiCoO2/黒鉛系の電池では、ポリエチレンまたはプロピレンからなるポーラスフィルムをセパレータとして使用されている。このセパレータは、ポリマー材料を溶融押出しで成形し、得られる成形物を2軸方向に延伸して薄型ポーラスフィルムを作製することに得られるため、かなり高価である。このフィルムを必要とする主な理由は以下のように考えられる。
負極に使用する黒鉛の電位はほぼリチウム金属が析出する電位に近いところまで下がる。このため種々の不都合が起こる。急激な充電または低温での充電で黒鉛の表面の一部にリチウムが微小に析出する場合がある。また、過度のフローティング充電などでコバルトまたは不純物金属が溶出し、負極上で析出する場合もある。
【0079】
このような場合において、微細孔を有する前記のポーラスフィルムでは針状の金属析出を物理的な力で抑えこむことが可能であるのに対して、不織布などの細孔径が大きいものでは短時間で微小短絡を起こす。また、充電器の故障などを想定した過充電安全性を確保するために、過充電時の電池温度の上昇を抑えるためにシャットダウン機能をセパレータに持たせている。これは一定温度(約135℃)になるとセパレータの微細孔が収縮しつぶれることで、電極間に流れる電流を止める機能である。これらのことから従来のLiCoO2/黒鉛系の電池では高価なポーラスフィルムが使用されてきた。
【0080】
一方、本発明に係る電池系においては、負極の電位が1.5Vとリチウムが析出する電位とは大きな差があるので、上述したような問題はほとんど起こらない。負極の集電体としてアルミニウムを用いるとリチウムは吸蔵されるので、さらに、このような金属析出の問題は皆無である。また、本発明の正極中にはコバルト系のように過剰なリチウム元素が含まれないので、この電池系は過充電安全性には極めて優れている。つまり、ポーラスフィルムが持っているような高精度のシャットダウン機能は必要とされない。これらの理由から、本電池系においては、好ましくは負極の集電体にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることで、不織布を使用することが可能である。
【0081】
不織布は液保持量が多いためレート特性、特にパルス特性を飛躍的に改善することが可能になる。また、ポーラスフィルムのような高度で複雑な工程を必要としないのでセパレータ材料の選択の幅が広がると同時に安価である。本電池系への適用を考慮すると、セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、これらの材料の混合材料が好ましく用いられる。ポリエチレンまたはポリプロピレンは電解液に安定であり、高温での強度が要求される場合はポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。繊維径としては1〜3μm程度のものが好ましく、加温したカレンダーロール処理により一部繊維同士が融着したものなどは薄型化や強度アップに効果的である。
【0082】
(11) 非水電解質二次電池
以下、本発明の正極活物質を用いた非水電解質(リチウム)二次電池を作製する場合に使用可能な他の構成材料に関して述べる。
本発明における正極を作製するために用いる正極合剤中の導電剤は、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)および人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維および金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀などの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。
これらのなかでも、人造黒鉛、アセチレンブラック、ニッケル粉末が特に好ましい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好ましい。カーボンやグラファイトでは、2〜15重量%が特に好ましい。
【0083】
本発明における正極合剤中の好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。
特に、このなかで最も好ましいのはポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0084】
正極の集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、種々の合金および炭素などの他、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させた複合体なども用いることができる。
特に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化しておくこともできる。また、表面処理により集電体表面に凹凸を付けてもよい。形状としては、電池の分野において採用されているものであってよく、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群および不織布などが挙げられる。厚さは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
【0085】
本発明で用いられる負極活物質(負極材料)としては、例えばLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)などのチタン酸化物を使用するのが特に好ましい。この負極を用いれば3V級の電池を得ることができ、従来までの問題が解決され、前述のように飛躍的に電池性能が向上する。一方、本発明に係る正極活物質のみを使用することも当然可能である。その場合には以下の負極を使用することができる。
負極材料としては、リチウム、リチウム合金、合金、金属間化合物、炭素質材料、有機化合物、無機化合物、金属錯体および有機高分子化合物など、リチウムイオンを吸蔵・放出できる化合物であればよい。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0086】
リチウム合金としては、Li−Al系合金、Li−Al−Mn系合金、Li−Al−Mg系合金、Li−Al−Sn系合金、Li−Al−In系合金、Li−Al−Cd系合金、Li−Al−Te系合金、Li−Ga系合金、Li−Cd系合金、Li−In系合金、Li−Pb系合金、Li−Bi系合金およびLi−Mg系合金などが挙げられる。この場合、リチウムの含有量は10重量%以上であることが好ましい。
合金および金属間化合物としては、遷移金属と珪素との化合物および遷移金属とスズとの化合物などが挙げられ、特にニッケルと珪素との化合物が好ましい。
【0087】
炭素質材料としては、例えばコークス、熱分解炭素類、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素類、炭素繊維(ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、気相成長炭素系)、不定形炭素および有機物の焼成された炭素などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いてもよい。なかでも、メソフェーズ小球体を黒鉛化したもの、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛材料が好ましい。
なお、炭素質材料には、炭素以外にも、O、B、P、N、S、SiCおよびB4Cなどの異種化合物を含んでもよい。含有量としては0〜10重量%が好ましい。
【0088】
無機化合物としては、例えばスズ化合物および珪素化合物などが挙げられ、無機酸化物としては、例えば前述のチタン酸化物の他、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物および鉄酸化物などが挙げられる。
また、無機カルコゲナイドとしては、例えば硫化鉄、硫化モリブデンおよび硫化チタンなどの無機カルコゲナイドを用いることもできる。
有機高分子化合物としては、例えばポリチオフェンおよびポリアセチレンなどの高分子化合物が挙げられ、窒化物としては、例えばコバルト窒化物、銅窒化物、ニッケル窒化物、鉄窒化物およびマンガン窒化物などが挙げられる。
これらの負極材料は、組み合わせて用いてもよく、例えば炭素と合金の組合せ、または炭素と無機化合物の組合せなどが考えられる。
【0089】
本発明で用いられる炭素質材料の平均粒径は0.1〜60μmが好ましい。より好ましくは0.5〜30μmである。比表面積は1〜10m2/gであるのが好ましい。また、結晶構造上は、炭素六角平面の間隔(d002)が3.35〜3.40Åでc軸方向の結晶子の大きさ(LC)が100Å以上の黒鉛が好ましい。
本発明においては、正極活物質にLiが含有されているため、Liを含有しない負極材料(炭素など)を用いることができる。また、そのようなLiを含有しない負極材料に、少量(負極材料100重量部に対し、0.01〜10重量部程度)のLiを含有させておくと、一部のLiが電解質などと反応したりして不活性となっても、上記負極材料に含有させたLiで補充することができるので好ましい。
上記のように、負極材料にLiを含有させるには、例えば、負極材料を圧着した集電体上に加熱・溶融したリチウム金属を塗布して負極材にLiを含浸させたり、あるいは予め電極群中に圧着などによりリチウム金属を貼付し、電解液中で電気化学的に負極材料中にLiをドープさせたりすればよい。
【0090】
負極合剤中の導電剤は、正極合剤中の導電剤と同様に、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。また、負極材料に炭素質材料を用いる場合は炭素質材料自体が電子伝導性を有するので導電剤を含有してもしなくてもよい。
負極合剤中の結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などあげることができる。また、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴムなども使用できる。
【0091】
負極の集電体としては、負極活物質としてチタン酸化物、例えばLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を用いる場合には、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることが前述の理由から特に好ましい。
また、その他の負極活物質を用いる場合には、以下のものが使用できる。構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンおよび炭素などの他、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンまたは銀で処理したもの、Al−Cd合金などが用いられる。特に、銅または銅合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化してもよい。また、表面処理により集電体表面に凹凸を設けてもよい。
負極集電体の形状は、上記正極の場合と同様に、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体および繊維群の成形体などが用いられる。厚みは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
【0092】
電極合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤およびその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、0〜30重量%が好ましい。
本発明における正極および負極は、正極活物質または負極材料を含む合剤層の他に、集電体と合剤層の密着性、導電性、サイクル特性および充放電効率の改良などの目的で導入する下塗り層や合剤層の機械的保護や化学的保護の目的で導入する保護層などを有してもよい。この下塗り層や保護層は、結着剤や導電剤粒子、導電性を持たない粒子などを含むことができる。
【0093】
セパレータとしては、例えばLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)などのチタン酸化物を負極活物質に用いる場合には、前述のように不織布が特に好ましい。また、その他の負極活物質を用いる場合には以下のものが使用できる。大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の微多孔性薄膜が用いられる。また、80℃以上で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能を持つことが好ましい。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレン、ポリエチレンなどの単独又は組み合わせたオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維などからつくられたシートや不織布が用いられる。
セパレータの孔径は、電極シートより脱離した活物質、結着剤および導電剤などが透過しない範囲であることが望ましく、例えば、0.1〜1μmであるのが望ましい。セパレータの厚みは、一般的には、10〜300μmが好ましく用いられる。また、空孔率は、電子やイオンの透過性と素材や膜圧に応じて決定されるが、一般的には30〜80%であることが望ましい。また、ガラスや金属酸化物フィルムなどの難燃材、不燃材を用いればより電池の安全性は向上する。
【0094】
本発明における非水電解液は、負極活物質に例えばLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)などのチタン酸化物を用いる場合には、前述の電解液を用いるのが特に好ましい。その他の負極を用いる場合には以下のような電解液を使用することができる。
電解液は、溶媒とその溶媒に溶解したリチウム塩とから構成されている。好ましい溶媒は、エステル単独、または混合エステルである。なかでも、環状カーボネート、環状カルボン酸エステル、非環状カーボネートおよび脂肪族カルボン酸エステルなどが好ましい。さらには、環状カーボネートと非環状カーボネートとを含む混合溶媒、環状カルボン酸エステルを含む混合溶媒、環状カルボン酸エステルと環状カーボネートとを含む混合溶媒が好ましい。
【0095】
前記溶媒の具体例、および本発明において用いられるその他の溶媒を以下に例示する。
非水溶媒に用いるエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)などの非環状カーボネート、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(MA)などの脂肪族カルボン酸エステル、γ−ブチロラクトン(GBL)などの環状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0096】
環状カーボネートとしてはEC、PCおよびVCなどが特に好ましく、環状カルボン酸エステルとしてはGBLなどが特に好ましく、非環状カーボネートとしてはDMC、DECおよびEMCなどが好ましい。また、必要に応じて、脂肪族カルボン酸エステルを含むものも好ましい。脂肪族カルボン酸エステルは溶媒重量全体の30%以下、より好ましくは20%以下の範囲で含むことが好ましい。
また、本発明の電解液の溶媒は上記エステルを80%以上含む以外に、公知の非プロトン性有機溶媒を含んでもよい。
【0097】
これらの溶媒に溶解するリチウム塩としては、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiN(CF3SO2)(C25SO2)ならびにLiN(CF3SO22、LiN(C25SO22およびLiN(CF3SO2)(C49SO2)などのイミド類を挙げることができる。これらは、使用する電解液などに、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて使用することができる。なかでも、特にLiPF6を含ませることがより好ましい。
【0098】
本発明において特に好ましい非水電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを少なくとも含み、リチウム塩としてLiPF6を含む電解液である。また、GBLを主溶媒として含む電解液も好ましく、この場合には、VCなどの添加剤を数%添加し、リチウム塩としてLiPF6以外のLiBF4とLiN(C25SO22の混合塩を用いることが好ましい。
これら電解液を電池内に添加する量は、特に限定されないが、正極活物質や負極材料の量や電池のサイズによって必要な量を用いればよい。リチウム塩の非水溶媒に対する溶解量は、特に限定されないが、0.2〜2mol/リットルが好ましい。特に、0.5〜1.5mol/リットルであるのがより好ましい。
この電解液は、通常、多孔性ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸または充填させて使用される。また、電解液を不燃性にするために、含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化塩化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性をもたせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
【0099】
また、つぎのような固体電解質も用いることができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質に分けられる。
無機固体電解質としては、例えばLiの窒化物、ハロゲン化物および酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4−(1−x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、および硫化リン化合物などが有効である。
有機固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンおよびポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などのポリマー材料が有効である。
また、有機固体電解質に上記非水電解液を含有させたゲル電解質を用いることもできる。上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンおよびポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などの高分子マトリックス材料が有効である。特に、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体やポリフッ化ビニリデンとポリエチレンオキサイドの混合物が好ましい。
【0100】
電池の形状としては、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型および角型などいずれを採用してもよい。電池の形状がコイン型またはボタン型の場合は、正極活物質や負極材料の合剤は主としてペレットの形状に圧縮して用いる。そのペレットの厚みおよび直径などは電池の大きさにより決定すればよい。
また、電池の形状がシート型、円筒型または角型の場合は、正極活物質または負極材料を含む合剤は、主として集電体の上に塗布(コート)、乾燥、圧縮して用いる。塗布方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、キャスティング法、ディップ法およびスクイーズ法など挙げることができる。そのなかでもブレード法、ナイフ法およびエクストルージョン法が好ましい。
【0101】
塗布は、0.1〜100m/分の速度で実施するのが好ましい。この際、合剤の溶液の物性および乾燥性に合わせて、上記塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。集電体への合剤の塗布は、集電体の片面ごとに行ってもよいが、両面同時に行ってもよい。また、塗布層を集電体の両側に設けるのが好ましく、一方の面の塗布層が合剤層を含む複数層から構成されていてもよい。合剤層は、正極活物質または負極材料のようにリチウムイオンの挿入および放出に関わる物質の他に、結着剤および導電材料などを含む。合剤層の他に、活物質を含まない保護層、集電体上に設けられる下塗り層、合剤層間に設けられる中間層などを設けてもよい。これらの活物質を含まない層は、導電性粒子、絶縁性粒子および結着剤などを含むのが好ましい。
【0102】
また、塗布方法は連続でも間欠方式でもストライプ方式でもよい。その塗布層の厚み、長さおよび幅は、電池の大きさにより決められるが、片面の塗布層の厚みは、ドライ後の圧縮された状態で、1〜2000μmが特に好ましい。
合剤のペレットまたはシートの乾燥または脱水方法としては、一般に採用されている方法を利用することができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低湿風を、単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。
温度は80〜350℃の範囲が好ましく、特に100〜250℃の範囲が好ましい。電池全体の含水量は2000ppm以下が好ましく、正極合剤、負極合剤および電解質それぞれの含水量は500ppm以下にすることがサイクル性の点で好ましい。
【0103】
シートのプレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法またはカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、0.2〜3t/cm2であるのが好ましい。カレンダープレス法のプレス速度は、0.1〜50m/分が好ましい。
プレス温度は、室温〜200℃が好ましい。負極シートに対する正極シートの幅の比率は、0.9〜1.1が好ましい。特に、0.95〜1.0が好ましい。
正極活物質と負極材料の含有量比は、本発明の正極とチタン酸化物からなる負極を用いる場合には、前述のように負極側で容量律速の設計比率にすることが特に好ましい。しかし、本発明に係る正極活物質のみを用いる場合には、化合物の種類および合剤の処方により異なるため限定できないが、容量、サイクル性および安全性の観点から当業者であれば最適な値を設定できる。
なお、本発明における電極の巻回体は、必ずしも真円筒形である必要はなく、その断面が楕円である長円筒形または長方形などの角柱状の形状であっても構わない。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例に代表させて本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
《実験例1》
前述の(3)で示した合成条件で3種類の正極活物質のサンプルを作製した。共晶で得られた[Ni1/4Mn3/4](OH)2とLiOH・H2Oとを十分に混合して得られた混合物をペレットに成形し、このペレットを焼成することにより正極活物質を得た。したがって、得られた正極活物質の組成はLi[Ni1/2Mn3/2]O4である。なお、酸素量は合成条件で異なった。得られた正極活物質の電気化学測定は前述の(1)で示した方法で行った。
【0105】
(1)製造例1
雰囲気温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持し、1000℃から室温まで2時間で降下させた。
(2)製造例2
雰囲気温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持し、1000℃から700℃まで30分で降下させ、700℃で48時間保持し、700℃から室温までは1.5時間で降下させた。
(3)製造例3
雰囲気温度を室温から1000℃まで約3時間で上昇させ、1000℃で12時間保持し、1000℃から室温まで急冷した。さらに、雰囲気温度を700℃まで約1時間で上昇させ、700℃で48時間保持し、700℃から室温までは1.5時間で降下させた。
【0106】
製造例1〜3で得られた正極活物質の電気化学挙動をそれぞれ図22の(a)〜(c)に示した。図22から、いずれの正極活物質も分極が少なく、平坦性が極めて良好な充放電カーブを示すことがわかる。また、製造例1の正極活物質(a)は放電末期に段差が現れ、これを利用することで残存容量検知が可能である。この段差は数Vと言った大きな段差でなく使用機器においては電源不足によるパワーダウンすることもなく、有効な残存容量の検知を可能とする。また、700℃で再酸化を行って得られた正極活物質(b)の場合は、この段差をほとんどなくすことができる。したがって、再酸化工程の温度や時間を制御することで、放電末期の段差はこの範囲で自由に制御することが可能である。急冷工程を経て再酸化して得られた正極活物質(c)についても同様に段差がほとんど観測されない。急冷工程で前述のように粒子を制御することで、より分極や平坦性の高い材料となっていることがわかる。さらに、高密度で充填も可能となる。
上記においてはNiとMnとの組合せを用いた場合を示したが、表1に示す遷移金属を用いた場合について放電容量を測定した。焼成は上記製造例3の条件で行った。また、Mnとその他の遷移金属の比率は同様に3:1とした。それぞれの正極活物質を用いた場合に得られた放電容量を表1に示した。表1から、容量差はあるものの同様の特性を有する正極活物質が得られたことがわかる。
また、Mnと他の遷移金属種の比率は、3:1の場合が最も良好であった。遷移金属種の比率がこれより増加または減少した場合には高電位の容量が低下した。
【0107】
【表1】

【0108】
《実験例2》
正極に本発明に係る正極活物質を用い、負極にLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を用いて3V級の電池を作製した。負極板も正極板も、配合比などを同じにし同様の方法で作製した。セパレータにはポリブチレンテレフタレートからなる25μmの不織布を用いた。電極の面積は3cm2とし、電解液としてはEC/DEC(3/7)の混合溶媒に1モルのLiPF6を溶解した有機電解液を用いた。正極活物質としては上記ケース3で得たものを用いた。
図23にこの電池系の放電挙動を示し、図24にハイレート特性を示した。図23および24から、本電池系は3V系の電池であり、極めて分極特性の良好な電池系であることがわかる。さらに、電位形状に関しても従来にない極めて高い平坦性を示している。
図25にパルス放電特性を示した。図25から、放電初期からほぼ末期まで同幅のパルス特性を示し、放電末期にかけてパルス分極が徐々に増加する従来のものとは明らかに異なる。このような電位の平坦性および優れた分極特性は、正極活物質の合成方法の最適化および全領域2相反応を実現したことによる効果が大きいものと考えられる。
【0109】
《実験例3》
図26に、本実験例において作製した円筒型電池一部を断面にした正面図を示す。正極板、セパレータおよび負極板の積層体を複数回渦巻状に巻回して得られた極板群4が電池ケース1内に収納されている。そして、正極板からは正極リード5が引き出されて封口板2に接続され、負極板からは負極リード6が引き出されて電池ケース1の底部に接続されている。電池ケースおよびリード板は、耐有機電解液性の電子伝導性をもつ金属や合金を用いることができる。例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、銅、アルミニウムなどの金属またはそれらの合金が用いられる。特に、電池ケースはステンレス鋼板またはAl−Mn合金板を加工して得るのが好ましく、正極リードはアルミニウムで構成するのが好ましい。負極リードはニッケルまたはアルミニウムで構成するのが好ましい。また、電池ケースには、軽量化を図るため各種エンジニアリングプラスチックスおよびこれと金属の併用したものを用いることも可能である。
【0110】
極板群4の上下部にはそれぞれ絶縁リング7が設けられている。そして、電解液を注入し、封口板を用いて電池ケースを密封する。このとき、安全弁を封口板に設けることができる。安全弁の他、従来から知られている種々の安全素子を備えつけてもよい。例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC素子などを用いることができる。また、安全弁のほかに電池ケースの内圧上昇の対策として、電池ケースに切込を入れる方法、ガスケット亀裂方法、封口板亀裂方法またはリード板との切断方法を利用することができる。また、充電器に過充電や過放電対策を組み込んだ保護回路を具備させたり、当該保護回路を独立に接続してもよい。
【0111】
キャップ、電池ケース、シートおよびリード板の溶接法としては、例えば直流もしくは交流の電気溶接、レーザー溶接または超音波溶接などの従来公知の方法を用いることができる。また、封口用シール剤としては、アスファルトなどの従来から知られている化合物または混合物を用いることができる。
正極板は以下のように作製した。本発明の正極活物質粉末85重量部に対し、導電剤の炭素粉末10重量部および結着剤のポリフッ化ビニリデン樹脂5重量部を混合した。得られた混合物を脱水N−メチルピロリジノンに分散させてスラリーを得、このスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体上に塗布し、乾燥・圧延した後、所定の大きさに切断した。負極板は、正極活物質をLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)に変更する以外は、正極板と同様にして作製した。
【0112】
また、スチレンブタジエンゴム系結着剤を用いてもよかった。本発明においては、主として負極活物質にチタン酸化物を用いたが、主として炭素質材料を用いる場合は、炭素質材料とスチレンブタジエンゴム系結着剤とを重量比で100:5の割合で混合して得られた混合物を銅箔の両面に塗着して乾燥し、圧延した後所定の大きさに切断して負極板を得ることができた。
セパレータとしては不織布またはポリエチレン製の微多孔フィルムを用いた。
また、有機電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネートの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF6を1.0モル/リットル溶解したものを使用した。なお、円筒型電池は直径14.1mm、高さ50.0mmとした。
【0113】
本発明に係る正極活物質を用いることによって、残存容量アラームが容易になる。この観点から、再酸化温度によって放電末期の段差の大きさを調整した。
上記ケース3において再酸化(第2焼成)の温度のみを変更した。負極にはLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を用いて上述の円筒型電池を作製した。これらの電池を1Cレートで放電し、2.7Vの電池電圧になった時に残存容量を検知した。この後に2Vまで放電したときの残存容量を測定した。表2にその結果を示した。数値は全体の電池容量に対する残存容量の比率で示した。
表2の結果から、本発明の電池系により残存容量アラームは、複雑な電子回路や演算をする必要がなく、より容易に実現することができる。また、残存容量アラームのタイミングを自由に設定することができる。
【0114】
【表2】

【0115】
《実験例4》
本発明の好ましい正極および負極の容量設計に関して検討した。
単位面積あたりの正極活物質量と負極活物質量の比率を、種々変化させた円筒型電池のサイクル寿命を測定した。結果を表3に示した。充放電サイクル条件については、充電が3.5Vの定電流定電圧充電で最大電流は1Cとした。終了条件は充電開始から2時間の時間カットとした。放電は2Cの定電流放電で2.0Vカットとした。表3においては、初期容量に対して維持容量が95%に低下するサイクル数を示した。
表3から、容量比率が1.2以上になるとサイクル寿命が低下することがわかる。したがって、正極および負極のバランス設計としては、実質的に負極律速(負極容量規制)の電池設計にすることが好ましい。しかし、必要以上に正極材料を増加させると電池容量が低下するので、実質的には容量比率としては0.5〜1.2とすることが好ましい。
【0116】
【表3】

【0117】
《実験例5》
ここでは、正極および負極の集電体について検討した。
負極に黒鉛を用いる場合は、電位などの理由で集電体(芯材)として銅を用いるのが普通である。前述したように負極にLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を使用する場合、アルミニウム芯材を使用することが可能となる。本発明によれば、これにより、軽量化およびコストダウンの他、安全性向上のメリットがあることが見出された。この理由は以下のとおりである。充電器などの故障により電池が過充電になった場合、負極表面にリチウム金属が析出し、これが安全性低下の要因となっていた。負極にLi4Ti512(Li[Li1/3Ti5/3]O4)を使用する場合は、充放電電位が1.5Vと高く、リチウム析出電位の0Vよりかなり高いものの、芯材に銅を使用した場合は、その表面にリチウム金属が析出することも考えられる。一方、アルミニウムを使用した場合は、この芯材がリチウムを吸蔵し、リチウム金属として析出させない。表4にそれぞれの集電体を用いて作製した円筒型電池の過充電試験を行い、その時の電池表面の最高温度を測定した。過充電試験においては、1.5Cの電流値で定電流過充電を行った。
表4から、アルミニウム芯材を使用することで、過充電時の電池発熱を抑制できることがわかる。以上より、本発明の電池系においてアルミニウム芯材を用いることで、3V級の電池が作製され、軽量化、低コスト化さらに高安全性の電池とすることができる。
【0118】
【表4】

【0119】
ここでは、本発明に係る電池系に好ましい電解液について検討した。
負極に黒鉛を使用する電池では電解液に制限が多かった。特に耐還元性の観点からラクトン系の有機溶媒を使用することは困難であった。また、プロピレンカーボネートも黒鉛の充放電時に同時に分解されるなどの理由で使用が困難であった。これらの溶媒は、安価である上に誘電率の大きい溶媒であるので、電解質塩を十分に溶解させる能力もあり、さらに耐酸化性にも優れた有用な溶媒である。同様の理由でトリメチルフォスフェイトおよびトリエチルフォスフェイトの使用も困難である。これらの溶媒は消火作用をもち安全性に優れた溶媒である。これに対し、本発明ではこれらの有用な溶媒を使用することができる。
【0120】
また、黒鉛表面に保護被膜を形成させる必要性や、電解質塩を溶解させる目的のために非常に粘性の高いエチレンカーボネート(EC)をベースに電解液が構成されていたのが現状である。本発明ではこのECを必要としない。つまり、本電池系にすることで3Vもの高電圧を有する電池でありながら、黒鉛を使用しないことで、飛躍的に電解液の選択範囲を広げることができる。表5に本電池系で好ましい電解液について示す。表5には従来の電解液系で得られる容量を100とした場合に、電解液を種々変更させたときに得られた容量を指数で示した。比較のために正極にコバルト酸リチウム、負極に黒鉛材料を使用し同様の方法で円筒型電池を作製して評価した結果も示した。
【0121】
なお、表5において、混合溶媒のEC/DEC(3/7)の表示はECとDECの混合溶媒で組成比が3:7であることを表している。この電解液で得られた容量をそれぞれの電池系で100とした。
表5から、黒鉛を使用する従来の電池系ではほとんど高い容量が発揮されず、本発明においては従来使用できなかった電解液系を問題なく使用でき、安価でより安全性の高い電池が得られることがわかる。また、これらの溶媒の混合溶媒や従来から使用されている溶媒種の組合せなども使用可能である。
【0122】
【表5】

【0123】
《実験例7》
ここでは、本発明において好ましいセパレータについて検討した。
本発明の電池系においてはポーラスフィルムのような高機能なセパレータを必要としない。不織布を用いると、シャットダウン機能が低下するため過充電安全性が低下するおそれがある。一方、不織負の場合はポーラスフィルムに比較し電解液保持能力が高いために特にパルス性能の向上が期待できる。
表6に示す種々のポリマー材料からなる不織布をセパレータとして用い、上記と同様にして本発明に係る円筒型電池を作製した。表6にはパルス放電特性と過充電時の電池表面温度の最大値を示した。パルス放電は、1Aの5秒オン、5秒オフの単純なパルスで、従来のPEポーラスフィルムを使用したときに得られたパルス放電時間を100としたとき、その他のセパレータを用いた電池のパルス放電時間を指数で示した。過充電は1.5Cの定電流過充電により行った。
表6から、本電池系においては、不織布を使用することで、過充電の安全性は従来とほぼ同等でパルス放電時間を大幅に改良できることがわかる。また、パルス電流による電圧の落ち込みも不織布を使用することによって改良できることがわかる。
【0124】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の電池系によれば、放電電圧の平坦性、ハイレート放電特性、パルス特性およびハイレート充放電時のサイクル寿命などをバランスよく飛躍的に向上させることができる。また、上記実施例においては携帯機器用の電池としての本発明の二次電池を説明したが、本発明は、ハイレートでの充放電およびサイクル寿命が強く要望される電動工具用電源、ハイブリッド自動車用電源および電気自動車用電源などに用いられる駆動系の大型電池においても適用することができ、その特徴を発揮することができる。
本発明によれば、平坦で高電圧を有する安価なニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として有効に利用でき、さらに負極にチタン酸化物を用いることで3V級のハイレート特性およびサイクル寿命に優れた良好な非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】共晶化合物とリチウム化合物の混合物を、空気中、1000℃(a)、900℃(b)、800℃(c)、700℃(d)および600℃(e)で、12時間焼成(第1焼成)して得られた本発明に係る正極活物質の電気化学特性を示すグラフである。
【図2】第1焼成後の正極活物質のTG曲線(熱重量分析)を示す図である。
【図3】1000℃、12時間の第1焼成を行った後、700℃、48時間の第2焼成を行って得た正極活物質の充放電カーブを示す図である。
【図4】本発明に係る正極活物質(a)および従来からの正極活物質(b)の断面を示すSEM写真である。
【図5】ケース1の条件により製造した正極活物質粒子のSEM写真である。
【図6】ケース2の条件により製造した正極活物質粒子のSEM写真である。
【図7】ケース3の条件により製造した正極活物質粒子のSEM写真である。
【図8】ケース4の条件により製造した正極活物質粒子のSEM写真である。
【図9】種々の第1焼成温度で製造した正極活物質のX線回折パターンを示す図である。
【図10】種々の第1焼成温度で製造した正極活物質のFT−IRの測定結果を示す図である。
【図11】種々の条件で製造した正極活物質のX線回折パターンを示す図である。
【図12】種々の条件で合成した正極活物質のFT−IR測定結果を示す図である。
【図13】本発明に係る正極活物質の結晶構造中のそれぞれの原子サイトの様子を示す図である。
【図14】急冷を経て製造した正極活物質の単位格子定数の変化を示す図である。
【図15】本発明に係る正極活物質の充放電にともなうX線回折パターン変化を示す図である。
【図16】本発明に係る正極活物質の充放電にともなう格子定数の変化を示す図である。
【図17】本発明に係る電池系の充放電挙動を示す図である。
【図18】本発明に係る電池系の200サイクルまでのサイクル寿命を示す図である。
【図19】本発明に係る電池系の負荷特性を示す図である。
【図20】本発明に係る電池系のハイレート放電特性(段差なし)を示す図である。
【図21】充放電に伴う膨張・収縮を測定したダイレートメーターの結果を示す図である。
【図22】急冷を経て作製した本発明に係る正極活物質の電気化学挙動を示す図である。
【図23】本発明に係る電池系の放電挙動を示す図である。
【図24】本発明に係る電池系のハイレート特性を示す図である。
【図25】本発明に係る電池系のパルス放電特性を示す図である。
【図26】本発明の実施例において作製した円筒型電池の一部を断面にした正面図である。
【符号の説明】
【0127】
1 電池ケース
2 封口板
3 絶縁パッキング
4 極板群
5 正極リード
6 負極リード
7 絶縁リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li2±α[Me]48-x(式中、0≦α<0.4、0≦x<1.3、MeはMnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む遷移金属元素)で表され、八面体とは異なる粒子形態を有することを特徴とする正極活物質であって、
(1)MnとNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む化合物を混合して原料混合物を得る工程、またはMn化合物とNi、Cr、Fe、CoおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種とを含む共晶化合物を合成する工程、
(2)前記原料混合物または共晶化合物とリチウム化合物とを混合する工程、
(3)前記工程(2)で得た混合物を600℃以上の第1焼成温度に加熱する第1焼成の工程、および
(4)前記第1焼成後に、前記正極活物質を急冷する工程を含む製造方法により得られた、正極活物質。
【請求項2】
前記製造方法が、前記第1焼成後に、前記第1焼成温度よりも低い温度で第2焼成を行う工程を含む請求項1記載の正極活物質。
【請求項3】
充放電領域における反応が2つの2相反応を含む請求項2記載の正極活物質。
【請求項4】
スピネル類縁結晶を有し、Fd3mの空間群における16(c)サイトにLiおよび/またはMeが存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項5】
0.2〜0.8Vの電位の段差を有する充放電曲線を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項6】
前記第1焼成の温度が900℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記急冷を4.5℃/分以上の降温速度で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記急冷を10℃/分以上の降温速度で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記急冷を室温まで行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の正極活物質を含む正極、チタン酸化物を含む負極、非水電解質およびセパレータを具備し、2.5V〜3.5Vの実用充放電領域および3V級の実用平均電圧を有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項11】
前記チタン酸化物がスピネル構造を有することを特徴とする請求項10記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】
前記チタン酸化物がLi4Ti512であることを特徴とする請求項10または11記載の非水電解質二次電池。
【請求項13】
0.2V〜0.8Vの電圧の段差を有する作動放電曲線を有することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項14】
前記正極および負極がアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された集電体を有することを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項15】
前記正極活物質に対する前記負極活物質の重量割合が0.5以上1.2未満であることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項16】
電池電圧が2.7Vから2Vになるまでの残存容量が、正極活物質の単位重量あたり、2.1mAh/g以上である、請求項10〜15のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項17】
前記0.2V〜0.8Vの電圧の段差を検知することにより電池の残存容量を検知し、前記残存容量の検知結果に基づいて、放電終了のタイミングを制御する請求項13記載の非水電解質二次電池の放電制御方法。
【請求項18】
前記0.2V〜0.8Vの電圧の段差を検知することにより電池の残存容量を検知し、前記残存容量の検知結果に基づいて電池の充放電を制御することを特徴とする請求項13記載の非水電解質二次電池の充放電制御方法。
【請求項19】
前記0.2V〜0.8Vの電圧の段差を検知することにより電池の残存容量を把握する請求項13記載の非水電解質二次電池の残存容量モニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−293997(P2008−293997A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203382(P2008−203382)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【分割の表示】特願2002−129134(P2002−129134)の分割
【原出願日】平成14年4月30日(2002.4.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】