説明

歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置

【課題】 歯科測定に適用することができる光コヒーレンストモグラフィー装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源16と、光源16から出射した光を参照ミラー24に照射する参照光29と被計測試料22に照射する計測光28とに分ける光分割部19と、計測光28と、参照光29との干渉させて干渉光とする干渉部19と、干渉光を分光する回折素子25と、回折素子25で分光されたスペクトルを計測する光検出部26と、光検出部26で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、被計測試料の計測光の照射方向における情報を求める演算部27とを備え、被計測試料22は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊断層計測技術の1つである光コヒーレンストモグラフィー(低コヒーレンスな光をプローブとして用いる断層計測)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科の診断において、顎口腔領域を撮影するために、X線撮影装置、口腔内カメラ、歯科用カメラ、X線CT、MRI等が使用されてきた。
【0003】
X線撮影装置で得られる像は、あくまで透過像であり、被写体のX線進行方向の情報は、重ねあわされて検出される。そのため、被写体の内部構造を3次元的に知ることができない。また、X線は人体に有害であるため、年間被爆線量が決められており、資格を持った術者しか装置を扱えない上に、鉛・鉛ガラスなどの遮蔽部材に囲まれた部屋でしか使用できない。
【0004】
口腔内カメラは、口腔内組織の表面のみを撮像するので、歯等の内部情報が得られない。X線CTは、X線撮影装置と同様人体に有害である上に、分解能が悪く、装置も大型かつ高価である。MRIは、分解能が悪く、装置が大型かつ高価である上に、水分のない歯の内部構造は撮影できない。
【0005】
ところで、光コヒーレンストモグラフィー装置(以下、OCT装置と称する)は、人体に無害で、被写体の3次元情報が高分解能で得られるため、角膜や網膜の断層計測等の眼科の分野で応用されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
ここで、従来のOCT装置について説明する。図11は、従来のOCT装置の構成を示す図である。図11に示すOCT装置を構成するOCTユニット1において、光源2から射出された光はレンズ3でコリメートされた後に、ビームスプリッタ4により、参照光6と計測光5に分けられる。計測光5は、ガルバノミラー8を経て対物レンズ9によって被計測試料10に集光され、そこで散乱、反射した後に再び対物レンズ9、ガルバノミラー8、ビープスプリッタ4を通って集光レンズ7によって光検出器14に集光される。一方、参照光6は、対物レンズ12を通って参照ミラー13で反射し、再び、対物レンズ12、ビームスプリッタ4を通過した後に、計測光5と並行に集光レンズ7に入射し光検出器14に集光される。
【0007】
光源2は、時間的に低コヒーレンスな光源である。時間的に低コヒーレンスな光源から、異なった時刻に出た光どうしは極めて干渉しにくい。そのため、計測光5が通過する光路の距離と、参照光6が通過する光路の距離がほぼ等しいときにのみ干渉信号が現れることとなる。その結果、参照ミラー13を参照光6の光軸方向に動かして計測光5と参照光6の光路長差を変化させながら、光検出器14で干渉信号の強度を計測すると、被計測試料10の奥行き方向(z軸方向)の反射率分布を得ることができる。つまり、光路長差走査により、被計測試料10の奥行き方向の構造が得られる。
【0008】
参照ミラー13による被計測試料の奥行き方向(z軸方向)の走査に加えて、ガルバノミラー8による横方向(x軸方向)の走査を行うことで、被計測試料10の2次元断面画像が得られる。このようなOCT装置では、数μmという高分解能な計測が可能である。したがって、OCT装置によって、非破壊、非接触で生体内部の高分解能な画像を得ることができる。
【0009】
OCT装置の歯科の分野への適用については、OCT装置を用いて、歯の断層を撮影した例が開示されている(例えば、非特許文献1〜5参照)。
【特許文献1】特開2003−329577号
【特許文献2】特開2002−310897号
【特許文献3】特開平11−325849号
【特許文献4】特開2001−059714号
【非特許文献1】レーザー研究 2003年10月号:医療を中心とする光コヒーレンストモグラフィーの技術展開
【非特許文献2】Journal of Biomedical Optics, October 2002, Vol.7 No.4:Imaging caries lesions and lesion progression with polarization sensitive optical coherence tomography
【非特許文献3】APPLIED OPTICS, Vol.37, No.16, 1 June 1998: Imaging of hard- and soft-tissue structure In the oral cavity by optical coherence tomography
【非特許文献4】OPTICS EXPRESS, Vol.3,No.6,14 September 1998: Dental OCT
【非特許文献5】OPTICS EXPRESS, Vol.3,No.6,14 September 1998: In vivo OCT Imaging of hard and soft tissue of the oral cavity
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、OCT装置は実際の歯科診療に使用されていない。OCT装置を歯科診断に使用することは、少なくとも現時点では実用的ではなく、歯科測定用のOCT装置は製品として存在していない。なぜならば、OCT装置では、1枚の断層像を得るのに奥行き方向を含む2次元の機械的走査が必要であるため、撮像に時間がかかる上に、装置が複雑で高価となり、耐久性も劣っているためである。すなわち、OCT装置を実際の歯科測定に適用することが困難であるという課題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、構造が簡単で、高速で撮像でき、歯科測定に適用することができる光コヒーレンストモグラフィー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源と、前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、前記干渉光を分光する回折素子と、前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部とを備え、前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源と、前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、前記干渉光を分光する回折素子と、前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部と、前記光源光、前記参照光、前記計測光または前記干渉光の少なくとも1つの偏光状態を操作する偏光操作部を備え、前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明にかかる光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源と、前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、前記干渉光を計測する光検出部と、前記光検出部で計測された前記干渉光に基づいて、前記被計測試料の情報を求める演算部と、参照光の光路上に設けられた非線形光学素子とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造が簡単で、高速で撮像でき、歯科測定に適用することができる光コヒーレンストモグラフィー装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源と、前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、前記干渉光を分光する回折素子と、前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部とを備え、前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。
【0017】
本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置において、前記干渉光は、回折素子により分光されるので、光検出部は、干渉光のスペクトルを検出できる。演算部は、干渉光のスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める。そのため、前記計測光の照射方向、すなわち、被計測試料の奥行き方向の機械的走査をせずに、被計測試料の奥行き方向の情報を得ることができる。その結果、装置の構造が簡単になり、高速で撮像が可能になる。ひいては、歯科において一般に使用されている治療椅子に患者を配したまま歯科診断に適用できるOCT装置が得られる。
【0018】
光分割部と干渉部は、ビームスプリッタまたはファイバーカプラにより両機能を兼用する構成が好ましい。
【0019】
本発明にかかる本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、光源と、前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、前記干渉光を分光する回折素子と、前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部と、前記光源光、前記参照光、前記計測光または前記干渉光の少なくとも1つの偏光状態を操作する偏光操作部を備え、前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。
【0020】
本発明にかかる歯科測定用光コヒーレンストモグラフィー装置においては、偏光操作部が、前記光源から前記光分割部へ照射される光、前記参照光、前記計測光または前記干渉光の少なくとも1つの偏光状態を操作するので、被計測試料の偏光特性または複屈折特性を反映した画像が得られる。その結果、例えば、初期う蝕・象牙質・エナメル質・歯肉・歯槽骨等、特有の偏光特性または複屈折特性に富む口腔組織の観察が可能となる。
【0021】
本発明にかかる歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置は、前記計測光の断面を、前記計測光の照射方向に垂直な面内の1軸方向に沿う線状にするシリンドリカルレンズまたはシリンドリカルミラーを更に備えることが好ましい。
【0022】
シリンドリカルレンズとは、光軸に対して直角な2方向のうち、片方にだけレンズとして作用するレンズのことであり、レンズとして作用する方向の断面の少なくとも片方の表面のみがレンズ特有の曲線となり、レンズとして作用しない方向の断面は両表面とも互いに平行な直線となる。
【0023】
シリンドリカルミラーとは、光軸に対して直角な2方向のうち、片方にだけレンズとして作用するミラーのことであり、レンズとして作用する方向の断面の表面のみがレンズ特有の曲線となり、レンズとして作用しない方向の断面は直線となる。
【0024】
前記シリンドリカルレンズまたはシリンドリカルミラーは、前記計測光の断面を、前記計測光の照射方向に垂直な面内の1軸方向に沿う線状にするので、前記計測光は、被計測試料の前記1軸方向に分布照射される。すなわち、前記計測光は、前記被計測試料において前記1軸方向のライン上に集光される。そのため、前記1軸方向に機械的走査をしなくても、前記被計測試料の前記1軸方向の断面を計測することができる。
【0025】
前記1軸方向に拡張した前記スペクトルは、スペクトルの方向とそれに垂直な拡張した方向の2次元に広がった光線となるので、2次元光検出部で検出することが好ましい。さらに、この2次元光検出部は2次元CCD撮像素子または2次元CMOS撮像素子であることが好ましい。
【0026】
本発明にかかる光コヒーレンストモグラフィー装置において、前記光源光、計測光、参照光、干渉光、スペクトルに分光された光のうち、少なくとも1つは、光ファイバで導光されることが好ましい。その場合、光ファイバは、その断面が1次元の線状または2次元の円状に束ねた光ファイバであることが好ましい。
【0027】
本発明にかかる歯科測定用光コヒーレンストモグラフィー装置は、被計測物体表面上に該計測光または可視光パターンを投影し、2次元撮像装置によって計測部位の表面画像をモニタするか、またはさらに断層計測画像と同期記録する態様とすることが好ましい。
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1におけるフーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置(以下、FD−OCT装置と称する)の構成の一例を表す図である。
【0030】
FD―OCT装置は、被計測試料で反射した計測光と参照ミラーで反射した参照光との干渉光を分光して得られたスペクトルを検出し、このスペクトルから被計測試料の計測光照射方向の情報を、フーリエ逆変換を用いて求めることを特徴とするOCT装置である。
【0031】
図1に示すように、FD−OCT装置は、OCTユニット100、計測ヘッド201および計算機27で構成されている。OCTユニット100には、光源16、ファイバカップラ19、参照ミラー24、回折素子25、CCDカメラ26が設けられている。計測ヘッド201には、ガルバノミラー20、対物レンズ21が設けられている。計算機27は、光源16、CCDカメラ26、ガルバノミラー20と通信できるように接続されている。計算機27は、例えば、パーソナルコンピュータ等であり、CPU等の演算部、ハードディスク等の記録部を少なくとも備えている。
【0032】
なお、OCTユニット100、計測ヘッド201、計算機27の構成は、図1に示す構成に限られない。例えば、計算機27の機能をOCTユニット100内に組み込むことができる。
【0033】
本実施の形態において、被計測試料22は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である。
【0034】
光源16は、時間的に低コヒーレントな光源である。すなわち、狭い範囲に波長が分布した光源である。光源16は、例えば、スーパールミネッセントダイオードであることが好ましい。
【0035】
ファイバカップラ19は、光分割部および干渉部の機能を果たす光学干渉器の一例である。光学干渉器とは、2つの入力光を干渉させて2方向に出力する入出力可換な光学部品である。光学干渉器の例として、ファイバカップラ19の他にビームスプリッタ、ハーフミラー等が挙げられる。
【0036】
回折素子25は、回折分光機能を備えた反射型または透過型の光学的部材である。回折素子25は、例えば、グレーティング素子、回折格子、プリズム等であることが好ましい。また、回折素子25は、光記録メディアの切片でもよい。光記録メディアは例えば、CD、DVD、MO等である。
【0037】
CCDカメラ26は、光検出部の一例である。光検出部として、例えば、1次元光検出器、2次元光検出器などを用いることができる。1次元光検出器は、リニアCCDが好ましく、2次元光検出器はCCD撮像素子、CMOS撮像素子が好ましい。2次元光検出器は2次元撮像装置を含む。
【0038】
計測ヘッド201は、操作者が手持ちで操作できる構成であることが好ましい。光ファイバ18によって、OCTユニット100と計測ヘッド201の間を光が伝達されることで、計測ヘッド201の可動範囲が広くなる。
【0039】
OCT装置を歯科用に適用する場合、患者が通常診療の際に座っている椅子のチェアサイドでOCT装置が使用されることが想定される。この場合、計測ヘッドを位置付けするのに、空中光学系(計測ヘッドへの光路を光ファイバではなく空中とする)では、OCTユニット全体を患者の口腔に精密に位置付けしなければならない。また、比較的重いOCTユニットを、操作者が持って操作するのは、非現実的である。
【0040】
計測ヘッド201は、操作者が手持ちで操作できる構成であるため、歯科診療において、操作者がチェアサイドで手軽に利用できる。患者と計測ヘッドの位置関係がフリーな状態で、操作者がOCT装置を使用できる。
【0041】
次に、図1に示すFD−OCT装置の動作について説明する。以下の説明において、座標系を次のように定義する。図1に示すように、被計測試料22においては計測光28の光軸方向すなわち被計測試料22の奥行き方向をz、断層面をzy面(ガルバノミラー20のスキャン方向をyにとることで実現)とし、被計測試料22以外の場所では被計測試料22のx、y、zのそれぞれに光学的に対応する方向をx、y、zとする。光学的に対応するとは、ミラーやレンズ・光ファイバ等で空間的な方向が変化しても、光の進行方向をz、ガルバノミラー等で走査される方向をy、zとyの両方に垂直な方向をxとするということである。
【0042】
光源16から射出された光はレンズ17でコリメートされた後に、ファイバカップラ19により、参照光29と計測光28に分けられる。計測光28は、光ファイバ18、ガルバノミラー20を経て対物レンズ21によって被計測試料22に集光され、そこで散乱、反射した後に再び対物レンズ21、ガルバノミラー20、光ファイバ18、ファイバカップラ19を通って集光レンズ30によって回折素子25に導かれる。
【0043】
一方、参照光29は、光ファイバ18、対物レンズ23を通って参照ミラー24で反射し、再び、対物レンズ23を通ってファイバカップラ19で計測光28と干渉させられて、計測光28と並行に集光レンズ30に入射し回折素子25に導かれる。
【0044】
この計測光28と参照光29は、回折素子25で同時に分光されスペクトル領域で重ねあわされることでCCDカメラ26上にスペクトルの干渉縞、つまり計測光28と参照光29の結合パワースペクトルを形成する。このCCDカメラ26によって計測されるスペクトル干渉縞を計算機27内でフーリエ逆変換することによって、計測光28と参照光29の結合相関が得られる。この結合相関より、被計測試料22の奥行き方向(z軸方向)の反射率特性を通して、構造、組成または光学特性に関する情報が得られる。
【0045】
したがって、参照ミラー24を動かして、計測光28の光路長と参照光29の光路長を調節し、z軸方向の走査を行う必要がない。すなわち、z軸方向の機械的操作を行うことなく、被計測試料22の奥行き方向(z軸方向)の構造に関する情報を得ることができる。
【0046】
以上のように、計測光28と参照光29との干渉光を回折素子25によって分光したものから得られたスペクトルに基づいて、被計測試料z軸方向の内部情報を得るOCT装置がFD−OCT装置である。
【0047】
被計測試料22の2次元断面画像を得るためには、z軸方向に加えて、y軸方向の走査を行うこと必要がある。本実施の形態において、y軸方向の走査は、ガルバノミラー20を駆動することにより行われている。
【0048】
なお、y軸方向の走査方法として、カルバノミラー20を駆動する方法の他に、後述するシリンドリカルレンズを用いる方法や、レンズを駆動する方法、光ファイバを駆動する方法、被計測試料22を駆動する方法、または、操作者が計測ヘッド201を動かす方法等を用いることができる。
【0049】
ここで、y軸方向の走査方法の変形例として、レンズを駆動する方法を説明する。
【0050】
図5は、レンズを駆動する方法の一例を説明するための概念図である。レンズ30の一方の端部にリニアアクチュエータ31が接続され、レンズ30の他方の端部は装置に固定されている。リニアアクチュエータ31が、z方向に駆動する結果、レンズ30は回転軸32を中心に円弧状の往復運動を行う。レンズ30の円弧状往復運動の結果、レンズ30の光軸がzy平面内で運動し、被計測試料をy方向に走査する。
【0051】
被計測試料22の3次元構造を得るには、z軸方向およびy軸方向の操作に加えて、x軸方向の走査を行う必要がある。x軸方向の走査は、y軸方向の走査同様にカルバノミラー20をx軸方向にも駆動させることによって、x軸方向の走査を行うことができる。また、x軸方向の走査においても、y軸方向の走査方法の例と同様の方法を用いることができる。上記のy軸方向の走査方法の例の中から適切なものを組み合わせて、y軸およびx軸方向の走査を行うことができる。
【0052】
FD−OCT装置においては、上述のように、被計測試料22のz軸方向の構造は、スペクトル干渉縞から求められるので、被計測試料22の断層像を得るのに1次元の機械的走査、立体情報を得るには2次元の機械的走査ですむ。その結果、装置の構造が簡単になり、高速で撮像が可能となる。ひいては、OCT装置の持つ被計測試料の3次元的内部情報を定量的に取得できるという基本的特性や、非侵襲性、高分解能等の優れた特性が歯科分野で生かされることになる。
【0053】
以上のように、本実施の形態によれば、計測ヘッド201を手持ちで操作することができ、高速な撮像が可能でかつ簡単な構造のFD−OCT装置が得られるので、実用的な歯科用FD−OCT装置が得られる。
【0054】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。図2において、図1に示すFD−OCT装置と同じ部分には、同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0055】
図2に示すFD−OCT装置が図1に示すFD−OCT装置と異なる点は、シリンドリカルレンズ33が設けられている点と、ファイバカップラ19の代わりにビームスプリッタ34が用いられている点と、ガルバノミラー20の走査方向である。
【0056】
実施の形態1においては、y軸方向の走査方法として、カルバノミラー20を駆動させる方法を用いていたが、本実施の形態においては、カルバノミラー20によるy軸方向の走査に替えて、シリンドリカルレンズ33によるy軸方向への光拡張を採用している。
【0057】
シリンドリカルレンズ33は、レンズとして機能する方向と光軸を含む平面内での断面は通常のレンズであり、この断面形状はレンズとして機能しない方向における位置によらず同一である。シリンドリカルレンズ33は、レンズとして機能する方向が、y方向となる様に配置する。つまり、シリンドリカルレンズ33によってy方向に広げられた光が被計測試料22のy方向に分布照射される(シリンドリカルレンズ33上のy方向と被計測試料22のy方向は、光学的に同一な方向であり、必ずしも空間的に同一の方向ではない)。シリンドリカルレンズ33がy方向光拡張手段になっている。計測光の断面は、y軸方向に沿う線状となる。
【0058】
なお、シリンドリカルレンズ33と同様の機能を、シリンドリカルミラーを用いて実現することもできる。
【0059】
計測光はy軸方向に空間的に拡張された光であるために、この光を光ファイバーで導光する場合には、この光ファイバ18は、断面を1次元線上に束ねた光ファイバ、または断面を2次元円形に束ねた光ファイバであることが必要となる。
【0060】
また、回折素子25の溝の向きは、y軸方向であることが好ましい。
【0061】
前記計測光28は、被計測試料22のy軸方向に分布照射されるので、y軸方向に機械的走査をしなくても、被計測試料22のy軸方向の断面をCCDカメラ26ワンショットで得ることができる。そのため、カルバノミラー20は、x軸方向に走査を行うだけで、被計測試料22の3次元的立体構造を得ることができる。
【0062】
その結果、装置が、簡単かつ安価になり、歯科測定に適用できるFD−OCT装置が得られる。
【0063】
なお、本実施に形態にかかるFD−OCT装置は、歯科測定用に好ましく用いられるが、歯科測定に限られず、他の分野の測定に用いることもできる。また、本実施の形態においては、FD−OCT装置について説明を行ったが、必ずしもFD−OCT装置である必要はなく、従来のOCT装置でもよい。すなわち、回折素子25の代わりに単純なミラーを用いて、CCDカメラ26は光検出器である構成でもよい。
【0064】
(実施の形態3)
図3は、実施の形態3におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。図3において、図1に示すFD−OCT装置と同じ部分には、同じ番号を付し、その説明を省略する。
【0065】
図3に示すFD−OCT装置が図1に示すFD−OCT装置と異なる点は、光源光偏光操作器35、参照光偏光操作器36、干渉光偏光操作器37が設けられている点である。
【0066】
図4(a)は、光源光偏光操作器35の構成を示す概略図である。図4において、偏光子67は、特定の偏光成分のみを通過させる部材であり、1/2波長板68、1/4波長板69はそれぞれ通過光の波長をそれぞれ1/2波長、もしくは1/4波長だけずらす部材である。偏光子67によりまず、光源光または計測光に基本偏光特性が与えられる。さらに1/2波長板68、1/4波長板69を光軸まわりに適切な角度で回転させることにより、偏光の方向を操作することができる。これらの波長板68、69を使うことで、光源光または計測光の偏光状態を任意に設定することができる。
【0067】
図4(b)は、参照光偏光操作器36または、干渉光偏光操作器37の構成を示す概略図である。これらは、1/2波長板70および1/4波長板71により構成され、これらの角度を調整することにより、反射光の偏光状態を調べることが出来る。
【0068】
一般に光の偏光状態は4成分のベクトル(4次元ベクトル)Siで表すことが出来る。ある偏光状態にある光が物体に入射した場合にその透過光、反射光はその物体との相互作用により偏光状態が変化する。つまり、反射光の偏光状態を表す4次元ベクトルS0は、入射光の偏光状態を表す4次元ベクトルSiとは異なるものとなる。従って、物体の「偏光状態を変化させる特性(例えば、複屈折特性)」は4×4のマトリクスM(ミュラー行列)で表現することが出来る。つまり、ベクトルSiで表される偏光状態を持つ光をマトリクスMで表される複屈折特性を持つ物質に入射したとき、その物質から出てくる光の偏光状態を表すベクトルS0は、S0=M×Siによって求められる。
【0069】
そこで、ある物質の複屈折特性を表すマトリクスMを測定するためには、任意の4つのベクトルで表される偏光状態を持つ光に物質を通過させ、通過後の光の4つのベクトル成分を検出すればよい。物体の各計測点でこのミュラーマトリクスが計測できる。
【0070】
本実施の形態においては、計測光が少なくとも4種類の独立した偏光状態になる様に計測光路にある光源光偏光操作器35を操作し、参照光偏光操作器36または干渉光偏光操作器37を操作して、これらの偏光状態である4つのベクトル成分による干渉光を観測する様にすれば、これらの関係から16種類のミュラー行列画像が得られる。これは被写体の断層画像各部の「偏光状態を変化させる特性=被写体固有の特性」を表す画像となる。
【0071】
なお、参照光偏光操作器36、干渉光偏光操作器37は、必要に応じていずれか一つだけ設けてもよい。
【0072】
口腔組織を含む生体組織はそれぞれ特有の偏光特性や複屈折特性を持っているので、本実施の形態によれば、歯芽や歯周組織の複屈折特性を検出できる。特にコラーゲンは大きな複屈折特性を持ち、例えばコラーゲンを含まないエナメル質と、コラーゲンを多量に含む象牙質の弁別観察が可能となる。また、口腔組織各部の固有の偏光特性や複屈折特性を反映した16種類の画像を取得可能であり、正常組織の弁別のみならず、う蝕やうっ血等の病変組織の可視化も可能となる。
【0073】
なお、本実施の形態は、図1に示すFD−COT装置に偏光操作器を設ける場合の例について説明したが、本発明は、これに限られない。例えば、図2に示す実施の形態2におけるFD−OCT装置にも適用することができる。
【0074】
(実施の形態4)
実施の形態4におけるOCT装置は、以下に説明する部分以外の部分は、実施の形態1〜3にかかるOCT装置または従来のOCT装置を適用することができるので、その説明を省略する。
【0075】
図6は、本実施の形態におけるOCT装置の光源の構成を示す図である。例えば、図1に示すFD−OCT装置の光源16は、1台の単一波長光源である。これに対し、本実施の形態においては、光源16の代わりに、2以上の互いに異なる波長の光源56a、56b、56cを備える。光源56a、56b、56cは、波長300nm〜3000nmの範囲にあるスーパールミネッセントダイオードであることが好ましい。光源56a、56b、56cのうち計測に使用される光源は、回転ミラー57の駆動によって、切り替えられる。すなわち、回転ミラー57の特定の角度に対応する位置に光源56a、56b、56cが配置される。回転ミラー57としてガルバノミラーを用いることができる。
【0076】
ところで、口腔組織、口腔病変組織または口腔補綴物においては、光の吸収係数、透過係数、反射係数の波長依存性が様々である。例えば、800nmの付近の波長の光においては、セメント質や歯槽骨の透過係数が高く、エナメル質や象牙質の反射係数が比較的大きい。また、歯肉等の軟組織は1300nm付近の波長の光の透過性が高いので、このような光を光源に使用することは、歯肉下の歯槽骨やさらにその深部の歯芽光組織の観察に最適である。また、う蝕組織においては可視光領域での蛍光特性が正常組織と異なるので、該蛍光の波長に合わせた光源を使用する必要がある。したがって、従来の単一波長の光源を用いたOCT装置では、口腔組織の全ての構造を可視化することは困難であった。
【0077】
本実施の形態におけるOCT装置は、2以上の互いに異なる波長の光源56a、56b、56cを備えるので、光源の波長を適切に選択することにより、例えば、口腔組織・口腔病変組織等のように様々な光の吸収係数、透過係数、反射係数を持つ物質の微細構造を可視化できる。
【0078】
(実施の形態5)
図7は、実施の形態5におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。図7において、図2に示すFD−OCT装置と同じ部分には、同じ番号を付し、その説明を省略する。なお、本実施の形態は、図2に示すFD−OCT装置だけでなく、実施の形態1〜3にかかるFD−OCT装置、または従来のOCT装置に適用することができる。
【0079】
図7に示すFD−OCT装置が図2に示すFD−OCT装置と異なる点は、パイロット光源59およびハーフミラー58、60が設けられている点である。
【0080】
パイロット光源59は、被計測試料22に投影するパイロット光を照射するために設けられている。パイロット光とは、OCT装置を使用して計測を行う操作者が、撮影部位、撮影範囲を撮影中または撮影前後に確認するために撮影範囲に照射される光である。パイロット光源59から照射されるパイロット光は、可視光であることが好ましい。
【0081】
パイロット光源59から出たパイロット光は、ハーフミラー58によって、光源16から出た光源光と同一光軸上に導かれる。パイロット光は、光源光、計測光とともに被計測試料22に投影される。この投影は目視観測可能であり、計測光と同じ場所が照射されるので、操作者は計測範囲を認識することができる。
【0082】
パイロット光の断面は点状であっても線状であってもよい。断面が点状のパイロット光であれば、パイロット光は、その光軸を計測光の中心光軸上に配置されることが好ましい。断面が線状のパイロット光であれば、パイロット光の断面は、計測光のy方向に沿うように配置されることが好ましい。図7に示すOCT装置は、シリンドリカルレンズ33を採用した形態であるので、パイロット光は、シリンドリカルレンズ33を通ることにより断面線状となって被計測試料22に照射される。
【0083】
被計測試料22で反射したパイロット光は、計測光とともに再びビームスプリッタ34を経て、干渉光とともに回折素子25へ照射される。回折素子25の前には少なくとも可視光を反射し、少なくとも赤外光を透過するハーフミラー60が設けられているので、干渉光は回折素子25を経て、パイロット光はハーフミラー60で反射してCCDカメラ26で検出される。
【0084】
CCDカメラ26は、2次元撮像装置としての可視光に感度帯域のある2D−CCDカメラと、シリンドリカルレンズを採用したFD−OCTに使用する2次元光検出器としての2D−CCDカメラとを兼用することが好ましい。これにより、CCDカメラ26によりFD−OCTによる干渉分光画像とともに歯の可視光画像が得られる。
【0085】
また、2次元撮像装置として可視光に感度帯域のある2D−CCDカメラをCCDカメラ26とは別に設けて、計測光軸上からハーフミラー60等を使って、可視光に感度帯域のある2D−CCDカメラにパイロット光を導くことによって、被計測試料22の可視光像を得ることもできる。なお、可視光に感度帯域のある2D−CCDカメラは、300nm〜3000nmに感度帯域のある2次元撮像装置を用いることができる。
【0086】
また、ハーフミラー60と回折素子25の間に液晶シャッターを介在させて、OCTによる撮像時以外は可視光画像のみが撮像される様にしてもよい。また、ハーフミラー60を回転もしくはリニアな駆動機構によって駆動し、OCTによる撮像時に、パイロット光を光学系から離脱する様な構成にしてもよい。
【0087】
なお、光ファイバ18は画像を伝送可能なイメージファイバで構成することが好ましい。
【0088】
また、計算機27において、パイロット光による計測部位の画像をモニターすることができる。また、さらにパイロット光による計測部位の可視光像を断層計測画像と同期記録することをもできる。
【0089】
(実施の形態6)
実施の形態6におけるOCT装置は、以下に説明する部分以外の部分は、実施の形態1〜3にかかるFD−OCT装置または従来のOCT装置を適用することができるので、その説明を省略する。
【0090】
図8は、本実施の形態におけるOCT装置の参照ミラー付近の構成を示す図である。本実施の形態におけるOCT装置においては、参照光路上に位相変調素子を挿入すること、または参照ミラーを光軸方向に移動させることにより、参照光の位相が変化する。図8(a)は、参照光路上に位相変調素子を挿入する場合の装置の構成例を示す図である。図8(a)においては、参照ミラー24の前に位相変調素子62が挿入されている。位相変調素子62は、電気的な駆動信号により駆動する。位相変調素子62として、例えばラピッドスキャニングオプティカルディレイライン(RSOD)、音響光学素子、電気光学素子等が好ましく用いられる。
【0091】
図8(b)は、参照ミラーを光軸方向に移動させることにより、参照光の位相を変化させる場合の装置の構成例を示す図である。図8(b)においては、参照ミラー24に圧電素子63が設けられている。圧電素子63は、電気的な駆動信号により駆動する。圧電素子63が参照光の光軸方向に振動することにより、参照ミラー24が参照光の光軸方向と同じ方向に振動させられる。その結果、参照光の位相が変化させられる。
【0092】
本実施の形態によれば、位相変調素子62もしくは圧電素子63により、参照光の位相を変化させることができるので、参照光の位相を、例えば90度ずつずらした5セットの回折分光干渉光強度分布を得ることができる。この回折分光干渉光強度分布を用いて、被計測試料の奥行き方向(z軸方向)の形状を計測すると、奥行き方向の計測レンジを2倍に広げることができる。以下にその原理を詳細に説明する。
【0093】
一般に、FD−OCTの計測範囲は原理的には回折素子と対物レンズおよびCCDカメラの分解能により決定され、その結果奥行き方向の計測範囲が決定される。FD−OCTではCCDにより得られた回折素子のξ軸上の光強度分布(1次元または2次元)をコンピュータによりフーリエ逆変換して時間t軸上の分布に変換(つまり、被計測試料の奥行きz軸上の反射特性分布に変換)する。この場合、光強度分布はパワースペクトルなので、フーリエ逆変換の結果は、参照光の自己相関と、参照光およびz方向物体反射光の相互相関の複素共役信号が、奥行きz軸方向の分布に基本的な被写体に無関係に装置の欠陥により生じた像(アーティファクト)として重畳してしまう。このため、回折素子上の回折分光干渉像の計測が光強度分布だけではなく光の位相の分布をも計測できたと仮定して、完全な複素フーリエ逆変換を行った場合に比べて奥行き方向の計測レンジが半分になってしまう。
【0094】
回折分光干渉光の位相を直接計測することは、現象があまりにも高速(光の波長を光の速度で割った数フェムト秒以下の現象)であるためにこれを検出できる高速の光検出器は存在しない。そこで、時間的位相現象の代わりに空間的位相に変調を与えて、等価的に回折分光干渉光の位相を間接計測する。すなわち、位相変調素子62もしくは圧電素子63により、参照光の位相を例えば90度ずつずらした5セットの回折分光干渉光強度分布を得ることができる。この回折分光干渉光強度分布を、計算機27において、複素フーリエ逆変換することで、参照光の自己相関と、参照光およびz方向被計測試料反射光(計測光)の相互相関の複素共役信号によるアーティファクトを除去し、FD−OCT本来の奥行き方向の計測範囲が実現される。
【0095】
また、位相変調の周波数を適切に選んで、CCDの検出信号を同期検波することで、ノイズを除去して分解能を向上し、さらに計測範囲を広げることもできる。
【0096】
(実施の形態7)
図9は、実施の形態7におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。図9において、図1に示すFD−OCT装置と同じ部分には、同じ番号を付し、その説明を省略する。なお、本実施の形態は、図1に示すFD−OCT装置だけでなく、実施の形態1〜3にかかるFD−OCT装置、または従来のOCT装置に適用することができる。
【0097】
図9に示すFD−OCT装置が図1に示すFD−OCT装置と異なる点は、計算機27と光源16の間に電気的変調器64が設けられている点である。
【0098】
計算機27は、電気的変調器64へON/OFF信号と共に光量変調信号を送る。電気的変調器64は、光源16に対して、光量変調信号に基づく光量制御信号を送る。光源16の出力光量は、電気的変調器64から出力される光量制御信号によって制御される。
【0099】
CCDカメラ26で検出されたデータは、光量変調信号に従って計算機27において復調される。この変調・復調により、検出されたデータのS/N比が向上する。
【0100】
変調および復調の方式は、例えば、AM変調、FM変調とすることができる。また、電気的変調器64の代わりに光源16から照射される光の光路上に、光変調器を設けても良い。また、計測光(物体反射光)28の光路上または参照光29の光路上に、光変調器を設けても良い。また、被計測試料22および参照ミラー24の位置に同期した変調を掛ける変調器を設けてもよい。
【0101】
一般に、OCT装置の計測範囲は、原理的には対物レンズの分解能によって決定されるが、実際は、ノイズの影響によりその範囲は狭められる。つまり、計測光は被計測試料22に入るに従って減衰するので、z方向物体反射光は被計測試料深部になればなるほどノイズに埋もれてしまう。このことによって、奥行き方向の計測範囲は狭まる。
【0102】
本実施の形態によれば、光源光、計測光または参照光に変調が掛けられ、検出信号が検波されるので、S/N比が改善し、計測可能範囲が広がる。
【0103】
(実施の形態8)
図10は、実施の形態8におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。図10において、図1に示すFD−OCT装置と同じ部分には、同じ番号を付し、その説明を省略する。なお、本実施の形態は、図1に示すFD−OCT装置だけでなく、実施の形態1〜3にかかるFD−OCT装置、または従来のOCT装置に適用することができる。
【0104】
図10に示すFD−OCT装置が図1に示すFD−OCT装置と異なる点は、参照光29の光路上に非線形光学素子65が設けられている点およびフィルタ66が設けられている点である。非線形光学素子65は、光の振動波形に高調波を生じさせる光学素子であり、例えば、ベータバリウムボーレイトであることが好ましい。
【0105】
また、ファイバカップラ19通過後の干渉光の光路上に光源光の波長成分をカットし、光源光の2分の1波長の波長成分を通過させるフィルタ66が設けられている。
【0106】
一般に、生体は多かれ少なかれ蛍光を発生し、その多くが2次高調波蛍光である。特に歯芽組織においては、う蝕等の病変により、この蛍光特性が変化するものが多い。
【0107】
本実施の形態によれば、非線形光学素子65を参照光上に設けることにより、参照光29の振動波形に高調波が生じる。この参照高調波の中の2次高調波成分と計測光28(z方向物体反射光)の2次高調波成分をファイバカップラ19で干渉させる。その結果、被計測試料22の蛍光特性をより鮮明に検出することができる。その結果、例えば、う蝕等の病変の断層画像弁別性が向上する。
【0108】
以下のその原理を詳しく説明する。
【0109】
生体は2光子吸収による2次高調波蛍光特性が顕著である。これは、生体構成原子に束縛された電子が計測光の光子2個分に相当するエネルギーを受けて高いポテンシャルエネルギー準位に跳躍し、そこからまた、元の準位に戻るときに発光する蛍光のことである。2次高調波蛍光のポテンシャルエネルギー準位は生体の場合、ほぼ連続的なバンドに近く、ほとんどの波長帯域に準位が存在する。さらにこの2次高調波蛍光に特徴的なのは、入射した計測光と同期した蛍光を発生する、つまりOCT装置としてのコヒーレント性が保持されているということである。この2次高調波蛍光が被計測試料22内部から発光し、その一部がz方向物体反射光(計測光28)となって戻ってくる。一方で、参照光29の経路上に非線形光学素子65が設けられているので、参照光29の振動波形に高調波が生じる。この参照光29とz方向物体反射光(計測光28)との干渉光を計測することで、被計測試料22内部の蛍光特性を検出することができる。したがって、例えば、蛍光特性の変化を伴うう蝕等の病変に診断に有効である。
【0110】
(実施の形態9)
実施の形態9におけるOCT装置は、以下に説明する部分以外の部分は、実施の形態1〜3にかかるFD−OCT装置または従来のOCT装置を適用することができるので、その説明を省略する。
【0111】
OCT装置においては、計測により得られた画像が、例えば、計算機27に備えられたモニタ等により表示される。しかしながら、OCTのOCTの断層画像はそのまま表示したのではいくつかの違和感のある画像となる。本実施の形態におけるOCT装置では、以下のような表示を行うことによって、見やすい画像が提供される。
【0112】
被計測試料の画像を表示する際に、計測光が被計測試料に入射し到達した部分である光透過部と被計測試料深部の計測光非到達部を弁別可能なように表示することが好ましい。
【0113】
また、OCT装置におけるワンショットでの計測範囲は、歯の大きさに比べて小さく、1枚の画像だけではどこをどの方角から撮影したものかの判別が困難である。そのため、複数の画像を合成したものを表示することが好ましい。
【0114】
また、OCTの画像における被計測試料の奥行き方向(z軸方向)の距離は光学的距離であり、実際の距離ではない。そのため、光学距離を空間距離に補正したものを表示することが好ましい。
【0115】
また、z方向的に被写体表面から深くなればなるほど、計測光量が減じるのでz方向物体反射光量も減じる結果、画像表示上「暗い」=「反射の少ない」画像部分となる。そのため、奥行き方向を光学的距離または反射量積分値に基づいて濃淡補正をしたものを表示することが好ましい。
【0116】
また、通常のPCのモニタ画面上に表示した場合、特に拡大表示を行った場合には、PCモニタの画面上の解像度にくらべ、計測解像度の方が荒く、点表示または点密度表示または荒い階調表示になってしまう。そのため、点密度による濃淡表示をべた表示に修正したものを表示することが好ましい。
【0117】
また、あくまで計測で得られる画像は、物体の断層画像なので、空間的な位置・方向が把握しにくい。そのため、パイロットモニタ画像上に断層像を立体表示することが好ましい。また、観察者が任意に表示断面を選択できるユーザインターフェースを備えることが好ましい。
【0118】
また、撮影画像には、ノイズが含まれている場合がある。そのため、複数の断層画像をまたは複数の画像を積分平均して時間的なノイズ除去を行い空間的分解能を向上させたものを表示することが好ましい。また、縦方向(x方向)走査による複数の断層画像を積分平均してx方向の空間的なノイズ除去を行ったものを表示してもよい。さらに、複数の断層画像を積分平均してxおよび/またはy方向のノイズを除去したものを表示してもよい。
【0119】
また、口腔内カメラの画像と組み合わせてOCT装置で撮影、表示することもできる。
【0120】
なお、上記実施の形態を説明するために参照した図1〜11において、図中に表したものや焦点距離の大きさおよび長さの比率は、実物の比率を厳密に表しているものではない。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、高速計測が可能であり、かつ簡単な構造で安価な光コヒーレンストモグラフィー装置として、特に歯科の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】実施の形態1におけるフーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置(以下、FD−OCT装置と称する)の構成の一例を表す図である。
【図2】実施の形態2におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。
【図3】実施の形態3におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。
【図4】(a)は、光源光偏光操作器35の構成を示す概略図である。(b)は、参照光偏光操作器36または、干渉光偏光操作器37の構成を示す概略図である。
【図5】レンズを駆動する方法の一例を説明するための概念図である。
【図6】OCT装置の光源の構成を示す図である。
【図7】実施の形態5におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。
【図8】実施の形態6におけるOCT装置の参照ミラー付近の構成を示す図である。
【図9】実施の形態7におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。
【図10】実施の形態8におけるFD−OCT装置の構成の一例を表す図である。
【図11】従来のOCT装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1、100、101、103、104、105、106 OCTユニット
2、16、56 光源
3、17、23、46 レンズ
4、34 ビームスプリッタ
5、28 計測光
6、29 参照光
8、20、49 ガルバノミラー
9、12、21 対物レンズ
10、22 被計測試料
13、24 参照ミラー
14 光検出器
18 光ファイバ
19 ファイバカップラ
25 回折素子
26 CCDカメラ
27 計算機
30 集光レンズ
31 リニアアクチュエータ
32 回転軸
33 シリンドリカルレンズ
35 光源光偏光操作器
36 参照光偏光操作器
37 干渉光偏光操作器
57 回転ミラー
58、60 ハーフミラー
59 パイロット光源
62 位相変調素子
63 圧電素子
64 電気的変調器
65 非線形光学素子
66 フィルタ
201、202、 計測ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、
前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、
前記干渉光を分光する回折素子と、
前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、
前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部とを備え、
前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項2】
光源と、
前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、
前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、
前記干渉光を分光する回折素子と、
前記回折素子で分光された前記干渉光のスペクトルを計測する光検出部と、
前記光検出部で検出されたスペクトルをフーリエ逆変換することによって、前記被計測試料の前記計測光の照射方向における情報を求める演算部と、
前記光源光、前記参照光、前記計測光または前記干渉光の少なくとも1つの偏光状態を操作する偏光操作部を備え、
前記被計測試料は、生体の顎口腔領域組織または、顎口腔領域の人工組成物である歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項3】
前記計測光の断面を、前記計測光の照射方向に垂直な面内の1軸方向に沿う線状にするシリンドリカルレンズまたはシリンドリカルミラーをさらに備える請求項1または2に記載の歯科測定用フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項4】
光源と、
前記光源から出射した光源光を、参照ミラーに照射する参照光と被計測試料に照射する計測光とに分ける光分割部と、
前記被計測試料で反射した前記計測光と、前記参照ミラーで反射した参照光とを干渉させて干渉光とする干渉部と、
前記干渉光を計測する光検出部と、
前記光検出部で計測された前記干渉光に基づいて、前記被計測試料の情報を求める演算部と、
前記参照光の光路上に設けられた非線形光学素子とを備える光コヒーレンストモグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−132996(P2006−132996A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319944(P2004−319944)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】