説明

歯車伝動装置

【課題】小さなサイズの歯車伝動装置を実現する。
【解決手段】歯車伝動装置100は、内歯歯車12が偏心回転する偏心揺動型である。内歯歯車12の外周に窪み62が形成されている。モータ2は、内歯歯車12の外側でケース18に固定されている。モータ2の一部は、内歯歯車12の窪み62内に張り出すようにケース18に固定されている。モータ2の外周がケース18の径方向の外側に大きくはみ出さないので、モータ2と歯車伝動装置100を合わせたモータ付歯車伝動装置のサイズを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車伝動装置に関する。特に、内歯歯車が偏心回転する偏心揺動型の歯車伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ケースに支持されている外歯歯車と、外歯歯車に噛み合いながら偏心回転する内歯歯車を備える歯車伝動装置が開示されている。内歯歯車には係合孔が形成されており、その係合孔がクランクシャフトの偏心体に係合している。モータのトルクは、クランクシャフトに伝達される。クランクシャフトが回転すると、内歯歯車が偏心回転し、外歯歯車がケースに対して回転する。
【0003】
【特許文献1】特開平2−107846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の歯車伝動装置は、その軸線方向に歯車伝動装置とモータを直列に配置するようになっている。そのため、歯車伝動装置とモータを合わせた装置の全長が長くなる。本明細書では、歯車伝動装置とモータを合わせた装置を、単に「歯車伝動装置」と称する場合がある。あるいは、歯車伝動装置とモータを合わせた装置を、「モータ付歯車伝動装置」と称する場合がある。モータ付歯車伝動装置の全長は短い方が好ましい。単純にモータを歯車伝動装置の径方向の外側に配置しても、モータ付歯車伝動装置の径方向の長さが長くなる。モータ付歯車伝動装置の径方向の長さも短い方が好ましい。なお、歯車伝動装置の「径方向」とは、歯車伝動装置の軸線方向に直交する方向を意味する。本明細書は、モータの配置を工夫し、全長が短く、径方向の長さも短い歯車伝動装置を実現する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
内歯歯車が偏心回転するタイプの歯車伝動装置では、特許文献1に示されているように、内歯歯車の外周の形状が円形でない。内歯歯車は、クランクシャフトの偏心体に係合する係合孔のスペースを確保するため、径方向の厚みが一部分において厚くなっている。係合孔を形成しない部分では、内歯歯車の径方向の厚みが薄くなっている。別言すると、内歯歯車の外周は、窪みを有している。特許文献1の歯車伝動装置では、その外周の窪み部分に、ケース内壁が張り出している。ケース内壁が張り出した部分には、ケースを固定するためのボルト孔等が形成されている。発明者は、内歯歯車の外周の形状に着目した。発明者は、モータの少なくとも一部分が内歯歯車の外周の窪み部分に位置するようにモータを配置することによって、モータを含めた歯車伝動装置のサイズを小さくすることに成功した。
【0006】
本明細書が開示する技術は、内歯歯車が偏心回転する偏心揺動型の歯車伝動装置に具現化することができる。その歯車伝動装置は、ケースと外歯歯車と内歯歯車とクランクシャフトを備える。外歯歯車は、ケースに回転可能に支持されている。クランクシャフトは、ケースに回転可能に支持されているとともに、偏心体と入力歯車を備えている。クランクシャフトの入力歯車には、モータのトルクが伝達される。内歯歯車には、歯車伝動装置の軸線に沿って係合孔が形成されており、その係合孔にクランクシャフトの偏心体が係合している。内歯歯車は、外歯歯車と噛み合っている。クランクシャフトが回転すると、内歯歯車は、外歯歯車と噛み合いながら偏心回転する。また、内歯歯車の外周には、窪みが形成されている。そして、モータの少なくとも一部分がその窪み内に張り出すように、内歯歯車の外側でケースに固定されている。
【0007】
上記した歯車伝動装置は、モータの少なくとも一部分を、内歯歯車の窪み内に位置させている。そのため、歯車伝動装置の軸線方向に、歯車伝動装置とモータを直列に配置する必要がない。モータ付歯車伝動装置の全長を短くすることができる。また、モータを歯車伝動装置の径方向の外側に配置する形態と比べ、モータ付歯車伝動装置の径方向の長さを短くすることができる。すなわち、上記した歯車伝動装置は、従来の歯車伝動装置に比べ、モータを含めた装置のサイズを小さくすることができる。
【0008】
本明細書で開示する歯車伝動装置では、モータの軸線が、内歯歯車の窪み内に位置することが好ましい。この場合、モータの直径(径方向の長さ)の半分以上が、内歯歯車の窪み内に位置する。そのため、歯車伝動装置の径方向において、モータ付歯車伝動装置のサイズを十分に小さくすることができる。
【0009】
小型のモータを使用すれば、モータ付歯車伝動装置のサイズを小さくすることができる。しかしながら、小型のモータでは必要なトルクが得られないことがある。そのため、モータ付歯車伝動装置は、複数のクランクシャフトと複数のモータを備えていることが好ましい。複数のモータを備えていれば、小型のモータを使用しても必要なトルクを得ることができる。また、複数のクランクシャフトを備えていれば、内歯歯車を安定して偏心回転させることができる。なお、モータの数とクランクシャフトの数は等しくなくてもよい。複数のモータが1つのクランクシャフトにトルクを伝達していてもよい。また、モータのトルクが伝達されないクランクシャフトが存在してもよい。この場合、モータのトルクが伝達されないクランクシャフトは、内歯歯車の偏心回転に伴って従属的に回転する。
【0010】
本明細書で開示する歯車伝動装置では、クランクシャフトの数がモータの数に等しく、夫々のモータが夫々のクランクシャフトにトルクを伝達することが特に好ましい。全てのクランクシャフトに、モータのトルクを均等に伝達することができる。歯車伝動装置の回転バランスが向上する。
【0011】
本明細書で開示する歯車伝動装置では、モータの軸線方向の長さが、歯車伝動装置の軸線方向の長さ以下であることが好ましい。歯車伝動装置の軸線方向の両端の内側に、モータを配置することができる。モータ付歯車伝動装置の軸線方向の長さを、歯車伝動装置の軸線方向の長さと等しくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本明細書が開示する技術は、歯車伝動装置とモータを合わせた装置のサイズを、従来の装置よりも小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施例で説明する歯車伝動装置の特徴を列記する。
(特徴1)モータの外周が、歯車伝動装置のケースの内側に位置している。別言すると、歯車装置のケースがモータを覆っている。
(特徴2)内歯歯車を囲んでいるケース内周に窪みが形成されている。クランクシャフトは、その一部分がケースの窪み内に位置するように配置されている。
【実施例】
【0014】
図1と図2に、歯車伝動装置100の断面図を示す。図1は歯車伝動装置100の軸線50に沿った断面図を示し、図2は歯車伝動装置100の軸線50に直交する面の断面図を示す。なお、図2は図1のII-II線に沿った断面図であり、図1は図2のI-I線に沿った断面図である。図3は、歯車伝動装置100を、図1の矢印III方向から観察した外観図を示す。なお、図2の符号60は、後述する内歯歯車12の中心を示している。
【0015】
図1に示すように、歯車伝動装置100は、ケース18とキャリア8と外歯歯車10とクランクシャフト14と内歯歯車12を備えている。キャリア8は、一対の円錐ころ軸受6によって、ケース18に回転可能に支持されている。外歯歯車10は、キャリア8に固定されている。そのため、外歯歯車10は、ケース18に回転可能に支持されているといえる。クランクシャフト14は、深溝玉軸受16と円筒ころ軸受20によって、ケース18に回転可能に支持されている。クランクシャフト14には、偏心体22と入力歯車26が固定されている。ケース18には、モータ2が固定されている。
【0016】
図2に示すように、内歯歯車12には、周方向に複数の係合孔66が形成されている。係合孔66には、針状ころ軸受24を介して偏心体22が係合している。上記したように、偏心体22はクランクシャフト14に固定されており、その偏心体22が係合孔66に係合している。そのため、内歯歯車12は、クランクシャフト14を介してケース18に支持されているということができる。
【0017】
内歯歯車12の径方向の厚みは一定ではない。内歯歯車12は、偏心体22と係合する係合孔66のスペースを確保するために、径方向の複数個所(本実施例では3箇所)が厚く形成されている。すなわち、内歯歯車12の外周の一部分は、径方向の複数個所が外側に突出している。係合孔66は、内歯歯車12の周方向に略等間隔に形成されている。係合孔66には、偏心体22が係合している。なお、偏心体22はクランクシャフト14に固定されているので、クランクシャフト14が、内歯歯車12の周方向に略等間隔に配置されているということもできる。内歯歯車12の係合孔66が形成されていない部分は、径方向の厚みが薄く形成されている。図2の符号64は、内歯歯車12の径方向の厚みが一定である場合、すなわち、内歯歯車12の外周が円形の場合の仮想外周線を示す。仮想外周線64を内歯歯車12の本来の外周と捉えると、実際の内歯歯車12の外周の一部は、内歯歯車の中心60側に窪んでいる。内歯歯車12の仮想外周線64と内歯歯車12の実際の外周で囲まれた範囲は、内歯歯車12の外周の窪み62と捉えることができる。なお、内歯歯車12の内周面に、複数の内歯ピン28が取付けられている。内歯ピン28は外歯歯車10と噛み合っている。
【0018】
モータ2の一部分は、内歯歯車12の窪み62内に位置している。より正確には、モータ2の軸線52が、内歯歯車12の窪み62内に位置している。別言すると、モータ2が、内歯歯車12の外側から窪み62内に張り出している。なお、歯車伝動装置100では、モータ2の外周の全てが、ケース18の内側に位置している。すなわち、モータ2の外周はケース18に覆われている。そのため、モータ2を歯車伝動装置100に取り付けたときに、モータ付歯車伝動装置の外径が、歯車伝動装置100の外径に等しくなる。別言すると、モータ付歯車伝動装置の径方向の長さは、歯車伝動装置100の径方向の長さと等しい。また、図1に示すように、モータ2の軸線52方向の長さは、歯車伝動装置100の軸線50方向の長さL100よりも短い。そして、モータ2は、歯車伝動装置100の軸線50方向の両端の間に配置されている。そのため、モータ付歯車伝動装置の軸線50方向の長さは、歯車伝動装置100の軸線50方向の長さと等しい。歯車伝動装置100は、従来の歯車伝動装置よりも、モータ付歯車伝動装置のサイズを小さくすることができる。
【0019】
ケース18の内周面に、複数の窪み68が形成されている。係合孔66が形成されている部分の内歯歯車12は、窪み68内に位置している。別言すると、ケース18の窪み68内に、クランクシャフト14(図1を参照)の一部分が位置している。すなわち、内歯歯車12の仮想外周線64が、ケース18とオーバーラップしている。ケース18に窪み68が形成されていない場合、仮想外周線64の外側にケース18を位置させる必要がある。この場合、歯車伝動装置100の径方向の長さが長くなってしまう。ケース18に窪み68が形成されており、その窪み68内に内歯歯車12の一部分が位置しているので、歯車伝動装置100の径方向の長さを非常に小さくすることができる。
【0020】
歯車伝動装置100の動作を説明する。図2に示すように、クランクシャフト14に固定されている偏心体22が、係合孔66に係合している。そのため、クランクシャフト14が回転すると、偏心体22が偏心回転し、内歯歯車12が軸線50の周りを偏心回転する。内歯歯車12の歯数(内歯ピン28の数)は、外歯歯車10の外歯の数と異なる。そのため、内歯歯車12が偏心回転すると、外歯歯車10と内歯歯車12が相対的に回転する。上記したように、外歯歯車10とキャリア8が固定されており、内歯歯車12はケース18に支持されている。そのため、クランクシャフト14が回転すると、キャリア8がケース18に対して相対的に回転する。
【0021】
歯車伝動装置100の他の特徴について説明する。図3に示すように、モータ2の出力シャフト30に固定されている出力歯車32の夫々が、クランクシャフト14の入力歯車26に噛み合っている。複数のクランクシャフト14の夫々に、同じ大きさのトルクが伝達される。上記したように、クランクシャフト14は、内歯歯車12の周方向に略等間隔に配置されている。そのため、内歯歯車12は、バランス良く回転する。
【0022】
上記実施例では、複数の入力歯車26の夫々に、夫々のモータ2の出力歯車32が噛み合っている。そのような構成に代えて、1つの入力歯車26に2つ以上の出力歯車32が噛み合っていてもよい。その場合、クランクシャフト14に大きなトルクを伝達することができる。
【0023】
また、入力歯車26は、少なくとも1つのクランクシャフト14に固定されていればよい。この場合、入力歯車26が固定されているクランクシャフト14にだけ、モータ2のトルクを伝達する。入力歯車26の数を少なくすることができるので、歯車伝動装置の部品数を少なくすることができる。
【0024】
上記の説明では、窪み62に着目して内歯歯車12の外周形状を表現した。内歯歯車12の外周形状は、窪み62に代えて、係合孔66のスペースを確保するための突出部に着目して表現することもできる。実施例の歯車伝動装置100の特徴は、突出部に着目して次のように表現してもよい。内歯歯車12には、係合孔66を確保するための突出部が外周に沿って複数形成されている。モータ2は、その一部が内歯歯車12の周方向に沿って突出部とオーバーラップするように、ケース18に固定されている。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】歯車伝動装置の軸線方向に沿った断面図を示す。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図を示す。
【図3】歯車伝動装置を図1の矢印IIIから観察した図を示す。
【符号の説明】
【0027】
2:モータ
8:キャリア
10:外歯歯車
12:内歯歯車
14:クランクシャフト
18:ケース
52:モータの軸線
62:内歯歯車の外周の窪み
100:歯車伝動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車が偏心回転する偏心揺動型の歯車伝動装置であり、
内歯歯車の外周に窪みが形成されており、モータの一部がその窪み内に張り出すように内歯歯車の外側でケースに固定されていることを特徴とする歯車伝動装置。
【請求項2】
モータの軸線が、前記窪み内に位置することを特徴とする請求項1に記載の歯車伝動装置。
【請求項3】
内歯歯車を偏心回転させるための複数のクランクシャフトと、複数のモータを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車伝動装置。
【請求項4】
クランクシャフトの数がモータの数に等しく、
夫々のモータが夫々のクランクシャフトにトルクを伝達することを特徴とする請求項3に記載の歯車伝動装置。
【請求項5】
モータの軸線方向の長さが、歯車伝動装置の軸線方向の長さ以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯車伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−96319(P2010−96319A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269476(P2008−269476)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】