説明

殺真菌剤の標的としてのメバロン酸キナーゼ

本発明は、殺真菌剤の標的としてのメバロン酸キナーゼの調製、新規核酸配列およびその機能的同等物の調製、ならびに殺真菌剤の新規標的としての前述の核酸配列の遺伝子産物の使用に関する。本発明はまた、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドを阻害する殺真菌剤の同定方法、および上述の方法により同定された化合物の殺真菌剤としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺真菌剤の標的としてのメバロン酸キナーゼの提供、新規核酸配列の提供、上述の核酸配列の機能的同等物の提供、および殺真菌剤の新規標的としての上述の核酸配列の遺伝子産物の使用に関する。更に、本発明は、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドを阻害する殺真菌剤の同定方法、および上述の方法により同定されたこれらの化合物の殺真菌剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
定められた標的を阻害することにより殺真菌剤を同定するための基本原理が知られている(例えば、US 5,187,071、WO 98/33925、WO 00/77185)。一般的には、殺真菌剤の新規標的となりうる酵素を発見することに対する高い要求がある。その理由には、耐性の問題が生じることに加えて、できるだけ広い作用スペクトル、環境および毒性上の許容性、ならびに低い適用率によって区別される新規の殺真菌活性成分を同定しようとする現行の試みが挙げられる。
【0003】
実際には、新規標的の発見は大きな困難を伴う。代謝経路の一部を構成する酵素の阻害は、病原性真菌の増殖または感染力に更なる影響を及ぼさないことが多いためである。これは、病原性真菌が代替的な代謝経路(その存在が知られていない)に切り替える、または阻害された酵素がその代謝経路にとって限定的ではない、という事実に起因するのかもしれない。従って、標的としての遺伝子産物の適性は、たとえその遺伝子の機能が知られていても、予測することができない。
【発明の開示】
【0004】
従って、本発明の目的は、殺真菌剤の標的を同定すること、および殺真菌活性のある化合物の同定に適した方法を提供することである。
【0005】
本発明者らは、この目的が、
a)配列番号1に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号2に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列によりコードされる、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドの使用によって、および殺真菌剤の標的としての上述の核酸配列によりコードされるタンパク質の使用によって、達成されることを見いだした。
【0006】
以下の説明において使用されるいくつかの用語を、ここで定義する。
【0007】
「アフィニティータグ」: これは、それらをコードしている核酸配列が、通常のクローニング技術によって直接もしくはリンカーを用いてメバロン酸キナーゼの酵素活性、好ましくは生物学的活性を有するポリペプチドの核酸配列と融合され得る、ペプチドまたはポリペプチドを指す。アフィニティータグは、アフィニティークロマトグラフィーを用いた、全細胞抽出物からの組み換え標的タンパク質の単離、濃縮および/または選択的な精製に役立つ。上述のリンカーは(例えばトロンビンまたはXa因子のための)プロテアーゼ切断部位を有利に含むことができ、それによってアフィニティータグは必要な時に標的タンパク質から切断することができる。一般的なアフィニティータグの例は、例えばQiagen、Hildenからの「Hisタグ」、「Strepタグ」、「Mycタグ」(Invitrogen, Carlsberg)、キチン結合ドメインおよびインテインから成るNew England Biolabsからのタグ、New England Biolabsからのマルトース結合タンパク質(pMal)、ならびにNovagenからのCBDタグとして知られるものである。この状況において、アフィニティータグは、標的タンパク質をコードする配列を含むコード核酸配列の5’または3’末端に結合され得る。
【0008】
「酵素活性アッセイ」: まず第一に、酵素活性という用語は、基質を生成物に変換する酵素の能力を表す。酵素活性は、規定された時間の関数として、生成物の増加、基質(すなわち出発物質)の減少、もしくは特異的な補因子の減少により、または少なくとも2つ以上の上述のパラメータの組み合わせにより、活性アッセイとして知られている方法で測定することができる。
【0009】
「発現カセット」: 発現カセットは、少なくとも1つのプロモーターなどの遺伝子制御エレメント、および有利には、ターミネーターなどの更なる制御エレメントに、機能的に連結された本発明による核酸配列を含む。発現カセットの核酸配列は、例えばゲノムDNAもしくは相補DNA配列またはRNA配列、およびそれらの半合成類似体または完全合成類似体であり得る。これらの配列は、直鎖状または環状で、染色体外またはゲノム内に組み込まれて存在し得る。対象の核酸配列は、合成もしくは天然で入手でき、合成DNA成分と天然DNA成分の混合物を含んでいてもよく、あるいは様々な生物の様々な異種遺伝子セグメントで構成されていてもよい。
【0010】
人工核酸配列もまた、それらが細胞または生物でのメバロン酸キナーゼの発現を可能にする限り、この状況において適している。例えば、形質転換される生物のコドン使用頻度に関して最適化された合成ヌクレオチド配列が作製される。
【0011】
すべての上述のヌクレオチド配列は、それ自体知られている方法での化学合成によって、例えば二重らせんの個々の重なり合う相補的ヌクレオチド単位の断片縮合によって、ヌクレオチド単位から作製され得る。オリゴヌクレオチドは、例えばそれ自体知られている方法で、ホスホアミダイト法を用いて化学的に合成され得る(Voet, Voet, 第2版, Wiley Press New York, pp. 896-897)。発現カセットを作製する場合は、様々なDNA断片を、正しい読み取り方向および正しい読み枠を有するヌクレオチド配列が得られるように操作する。核酸断片は、例えば、T. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)、T.J. Silhavy, M.L. BermanおよびL.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)、ならびに Ausubel, F.M.ら、“Current Protocols in Molecular Biology”, Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1994)に記載されるような、一般的なクローニング技術によって互いに連結される。
【0012】
「機能的に連結」: 機能的に連結、または機能的な連結とは、コード配列が発現される際、それぞれの調節配列、またはそれぞれの遺伝子制御エレメントがその目的とする機能を果たすことができるような、調節配列または遺伝子制御エレメントの連続した配列を意味するものとして理解される。
【0013】
「機能的同等物」は、本文脈においては、標準的な条件下で配列番号1もしくは配列番号1の一部または配列番号2とハイブリダイズし、かつメバロン酸キナーゼの酵素活性、好ましくはメバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドの発現をもたらすことができる核酸配列を表す。
【0014】
ハイブリダイゼーションを行うためには、例えば保存領域または他の領域(こうした領域は、他の関連遺伝子との比較により、当業者が精通している方法で決定され得る)の約10〜50 bp、好ましくは15〜40 bpの長さを持つ短いオリゴヌクレオチドの使用が有利である。しかし、100〜500 bpの長さを持つ、または完全な配列を有する、本発明による核酸のより長い断片もまた、ハイブリダイゼーションに使用できる。使用される核酸/オリゴヌクレオチド(より長い断片もしくは完全な配列)に応じて、またはDNAもしくはRNAのいずれのタイプの核酸をハイブリダイゼーションに使用するかに応じて、これらの標準的な条件は異なってくる。例えば、DNA:DNAハイブリッドに対する融解温度は、同一の長さのDNA:RNAハイブリッドのそれより約10℃低くなる。
【0015】
標準ハイブリダイゼーション条件は、核酸に応じて、例えば0.1〜5 x SSC(1 x SSC = 0.15 M NaCl、15 mMクエン酸ナトリウム、pH 7.2)の濃度での水性緩衝液中で42〜58℃の温度、または、さらに50%ホルムアミドの存在下において、例えば5 x SSC、50%ホルムアミド中で42℃、を意味するものとして理解される。DNA:DNAハイブリッドのためのハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1 x SSCおよび約20℃〜65℃の温度であり、好ましくは約30℃〜45℃である。DNA:RNAハイブリッドの場合には、ハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1 x SSCおよび約30℃〜65℃の温度であり、好ましくは約45℃〜55℃である。これらの記載されたハイブリダイゼーション温度は、ホルムアミドの非存在下において約100ヌクレオチドの長さおよび50%のG + C含量を有する核酸の例を用いて計算された融解温度である。DNAハイブリダイゼーションのための実験条件は、例えば、Sambrookらの“Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989などの、関連した遺伝学の教科書に記載されており、例えば、核酸の長さ、ハイブリッドの種類またはG + C含量の関数として、当業者が精通している公式を用いて計算され得る。当業者は、以下の教科書、すなわち、Ausubelら(編)、1985, “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, New York; HamesおよびHiggins(編)、1985, “Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach”, IRL Press at Oxford University Press, Oxford; Brown(編)、1991, “Essential Molecular Biology: A Practical Approach”, IRL Press at Oxford University Press, Oxfordにおいて、ハイブリダイゼーションに関する更なる情報を見いだすであろう。
【0016】
機能的同等物は、更に、本発明の核酸配列によってコードされるタンパク質の対応する核酸配列の天然または人為的な突然変異体、および他の生物由来のそれらのホモログをも意味するものとして理解される。
【0017】
本発明は従って、例えば、メバロン酸キナーゼの酵素活性、好ましくは生物学的活性を有するポリペプチドの核酸配列の改変によって得られるヌクレオチド配列をも包含する。例えば、このような改変は、「部位特異的突然変異誘発」、「誤りがちのPCR」(Error Prone PCR)、「DNAシャッフリング」(Nature 370, 1994, pp.389-391)または「付着伸長プロセス」(Staggered Extension Process)(Nature Biotechnol. 16, 1998, pp.258-261)などの、当業者が熟知している技術によって作製され得る。このような改変の目的は、例えば、制限酵素のための更なる切断部位の挿入、配列をトランケートするためのDNAの除去、コドンを最適化するためのヌクレオチドの置換、または更なる配列の付加であり得る。改変された核酸配列によってコードされるタンパク質は、基準から外れた核酸配列にもかかわらず、望ましい機能を保持していなければならない。
【0018】
「機能的同等物」という用語はまた、対象の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列にも関連し得る。この場合には、「機能的同等物」という用語は、タンパク質のアミノ酸配列がメバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するポリペプチドをコードする核酸配列に対して規定されたパーセントの同一性または相同性を有するタンパク質を表す。
【0019】
従って、機能的同等物は、本明細書に記載される配列の天然の変異型および人工の核酸配列、例えば化学合成によって得られたものおよびコドン使用頻度に適合させたもの、ならびにそれらに由来するアミノ酸配列をも含む。
【0020】
「遺伝子制御配列」: 「遺伝子制御配列」という用語は、「調節配列」という用語と同等であると考えられるべきであり、原核生物または真核生物において本発明による核酸配列の転写および、適切な場合には翻訳に影響を及ぼす配列を表す。その例は、プロモーター、ターミネーターまたは「エンハンサー」配列として知られているものである。これらの制御配列に加えて、またはこれらの配列の代わりに、これらの配列の天然の調節は、依然として実際の構造遺伝子の前に存在してもよく、また、適宜に天然の調節がスイッチオフされて、標的遺伝子の発現が改変される(すなわち増加または減少される)ように遺伝的に改変されていてもよい。制御配列の選択は宿主生物または出発生物に依存する。遺伝子制御配列は更に、遺伝子の5’非翻訳領域、イントロン、または3’非コード領域も含む。制御配列は更に、相同組み換えまたは宿主生物のゲノムへの挿入を可能にする配列、またはゲノムからの転移を可能にする配列をも意味することが理解される。
【0021】
2つの核酸配列またはポリペプチド配列間の「相同性」または「同一性」は、それぞれの場合における配列長全体に渡る核酸配列/ポリペプチド配列の同一性によって定義され、それはプログラムアルゴリズムGAP(Wisconsin Package Version 10.0, University of Wisconsin, Genetics Computer Group (GCG), Madison, USA)を用いた、以下のパラメータ設定でのアライメントによって計算される:
Gap Weight: 8 Length Weight: 2
Average Match: 2,912 Average Mismatch: -2,003
同一性の決定のために他のパラメータが用いられる場合、それらは本明細書で後述されるであろう。以下の本文中において、「同一性」という用語はまた、「相同の」または「相同性」という用語と同義に用いられる。
【0022】
「突然変異」は、1個以上のヌクレオチド残基の置換、付加、欠失、逆位または挿入を含み、それはまた1個以上のアミノ酸の置換、挿入または欠失によって標的タンパク質の対応するアミノ酸配列に変化をもたらしうる。
【0023】
「ノックアウト形質転換体」は、特定の遺伝子が形質転換によって選択的に不活性化されたトランスジェニック生物の個々の培養物を指す。
【0024】
「天然の遺伝環境」とは、起源生物における天然の染色体遺伝子座を意味する。ゲノムライブラリーの場合、核酸配列の天然の遺伝環境は、好ましくは少なくとも部分的に保持される。その環境は少なくとも5’または3’側の核酸配列に隣接し、少なくとも50 bp、好ましくは少なくとも100 bp、特に好ましくは少なくとも500 bp、極めて好ましくは少なくとも1000 bp、最も好ましくは少なくとも5000 bpの長さの配列を有する。
【0025】
「メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチド」とは、本発明の範囲内で、そのポリペプチドの存在が糸状菌に増殖能力および生存能を賦与し、同時に糸状菌から得られるメバロン酸キナーゼによって触媒される反応(メバロン酸をリン酸化して5-ホスホメバロン酸を生じる)を触媒することができる、そのようなポリペプチドを表す。メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するタンパク質がスイッチオフされると、生じる形質転換体は生存できない。
【0026】
「メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチド」は、同様に糸状菌に由来するメバロン酸キナーゼによって触媒される反応(メバロン酸をリン酸化して5-ホスホメバロン酸を生じる)を触媒することができる酵素を表す。酵素活性を測定するための適切な方法は、以下で説明する。
【0027】
「反応時間」は、有意な結果が得られるまで酵素活性アッセイを行うために必要とされる時間を指し、それはアッセイに用いられるタンパク質の比活性と使用される方法および装置の感度の両方に依存する。当業者であれば反応時間の決定について熟知している。光度法に基づいて殺真菌活性のある化合物を同定する方法の場合、反応時間は、通常>0〜360分である。
【0028】
「組み換えDNA」は、組み換えDNA技術によって作製され得るDNA配列の組み合わせを表す。
【0029】
「組み換えDNA技術」: DNA配列の融合のために一般的に知られている技術(例えば、Sambrookら、1989, Cold Spring Harbor, NY, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載される)。
【0030】
「複製起点」は、微生物および酵母において本発明による発現カセットまたはベクターの増幅を確実にし、例えば、E. coli におけるpBR322 ori、ColE1もしくはP15A ori(Sambrookら: “Molecular Cloning. A Laboratory Manual”, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)および酵母におけるARS1 ori(Nucleic Acids Research, 2000, 28(10): 2060-2068)などである。
【0031】
「レポーター遺伝子」は、容易に定量可能なタンパク質をコードする。形質転換効率または発現部位もしくは発現時期は、これらの遺伝子を用いて、増殖アッセイ、蛍光アッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイもしくは耐性アッセイによって、または光度測定(内因性の色素)もしくは酵素活性によって、評価され得る。この状況において、「緑色蛍光タンパク質」(GFP)(Gerdes HHおよびKaether C, FEBS Lett. 1996; 389(1):44-47; Chui WLら、Curr. Biol 1996, 6:325-330; Leffel SMら、Biotechniques 23(5):912-8, 1997)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ(Giacomin, Plant Sci 1996, 116:59-72; Scikantha, J. Bact. 1996, 178:121; Millarら、Plant Mol. Biol. Rep. 1992 10:324-414)およびルシフェラーゼ遺伝子、一般的にβ-ガラクトシダーゼもしくはβ-グルクロニダーゼ(Jeffersonら、EMBO J. 1987, 6, 3901-3907)またはUra3遺伝子などのレポータータンパク質(Schenborn E, Groskreutz D, Mol. Biotechnol. 1999; 13(1):29-44)は特に好ましい。
【0032】
「選択マーカー」は、抗生物質または他の毒性化合物に対する耐性を賦与し、この状況において言及しうる例は、アミノグリコシド抗生物質ネオマイシン(G 418)、カナマイシン、パロマイシンに対する耐性を与えるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Deshayes Aら、EMBO J. 4 (1985) 2731-2737)、変異したジヒドロプテロイン酸合成酵素をコードするsul遺伝子(Guerineau Fら、Plant Mol. Biol. 1990; 15(1):127-136)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(Gen Bank Accession NO: K 01193)、およびゼオシンなどのブレオマイシン抗生物質に対する耐性を与えるshble耐性遺伝子である。選択マーカー遺伝子の更なる例は、2-デオキシグルコース-6-リン酸(WO 98/45456)もしくはホスフィノトリシン等に対する耐性を与える遺伝子、または代謝拮抗物質に対する耐性を与えるもの、例えばdhfr遺伝子(Reiss, Plant Physiol. (Life Sci. Adv.) 13 (1994) 142-149)である。適切な他の遺伝子の例は、trpBまたはhisD(Hartman SCおよびMulligan RC, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 85 (1988) 8047-8051)である。別の適切な遺伝子は、マンノースリン酸イソメラーゼ遺伝子(WO 94/20627)、ODC(オルニチンデカルボキシラーゼ)遺伝子(Current Communications in Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory, 編におけるMcConlogue, 1987)、またはAspergillus terreusデアミナーゼ(Tamura Kら、Biosci. Biotechnol. Biochem. 59 (1995) 2336-2338)である。
【0033】
本発明の核酸配列によってコードされるポリペプチドの活性に基づき「有意な減少」:これは、試験化合物とインキュベートされないポリペプチドの活性と比較して、試験化合物により処理されたポリペプチドの活性の減少(測定誤差を上回る)を意味するものとして理解される。
【0034】
「標的/標的タンパク質」: 従来の意味で酵素の形をとりうるポリペプチド、構造タンパク質、発生過程に関連するタンパク質、輸送タンパク質、酵素複合体における基質または活性調節を与える調節サブユニット。すべての標的または作用部位は、標的タンパク質の機能的存在が植物病原体の生存すなわち正常な発育、増殖および/または感染力に必須である、という特徴を共有する。
【0035】
「形質転換」は異種DNAを原核細胞または真核細胞に導入する方法を表す。形質転換細胞は形質転換法それ自体の産物だけでなく、形質転換によって作製されたトランスジェニック生物のすべてのトランスジェニック子孫も表す。
【0036】
「トランスジェニック」: 本発明の核酸配列、核酸配列を含む発現カセットもしくはベクター、または本発明の核酸配列、発現カセットもしくはベクターによって形質転換された生物に関して、「トランスジェニック」という用語は、遺伝子工学的手法によって作製されたすべての構築物を表し、該構築物では、標的タンパク質の核酸配列、もしくは標的タンパク質の核酸配列に機能的に連結された遺伝子制御配列、もしくは上述の可能性の組み合わせのいずれかが、それらの天然の遺伝環境にないか、または組み換え法によって改変されている。この状況において、改変は、例えば、対象の核酸配列の1個以上のヌクレオチド残基の突然変異によって達成され得る。
【0037】
核酸配列に関して、「含んでいる」または「含む」という用語は、本発明の核酸配列が3’末端および/または5’末端において付加的な核酸配列を含みうることを意味し、付加的な核酸配列の長さは、本発明の核酸配列の5’末端では50 bpを、3’末端では50 bpを越えず、好ましくは5’末端で25 bp、3’末端で25 bpを越えず、特に好ましくは5’末端で10 bp、3’末端で10 bpを越えない。
【0038】
テルペンは、非常に多様な構造を持ち、様々な機能を有する一次代謝産物および二次代謝産物の広範囲に及ぶグループである。ステロール、キノンおよびカロチノイドは、成長、発達、光の入射からの保護に必須である。二次代謝産物は、例えば、トリコテセンのようなマイコトキシン、フシコクシンのような成長調節因子、および例えばジベレリン(Homannら(1996) Curr. Genet. 30, 232-9)のような真菌性の植物ホルモンである。すべてのこれらの化合物は、複数のイソプレノイドサブユニットから成る。テルペンは、サブユニットの直鎖状の結合によって形成され、ゲラニオール(C10)、ファルネソール(C15)、ゲラニルゲラニオール(C20)、スクアレン(C30)または類似の化合物を生じる。他のテルペンは、サブユニットの環化または再配列によって形成されるこれらの化合物の誘導体である。テルペンは、イソプレノイド単位の数に基づいて、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、トリテルペン(C30)またはセスタテルペン(C25)に分類される(Herbert, R. M. (1989) Chapman and Hall, New York)。
【0039】
テルペノイド生合成は、C5前駆体であるイソペンテニルピロリン酸(IPP)およびジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)の縮合によって成立する。全体で、これらの前駆体を形成できる2つの代謝経路が知られている。真核生物、古細菌および高等植物の細胞質ゾルでは、メバロン酸経路が用いられる。非メバロン酸経路として知られている代替経路は、真正細菌、緑藻類および高等植物の葉緑体において見いだされる。真菌はイソプレノイド生合成の代替経路を持たない(Disch, A.およびRohmer, M. (1998) FEMS 168, 201-8)。
【0040】
メバロン酸を介する生合成は異なる工程に分割される。最初に、酵素アセトアセチル-CoAチオラーゼおよび3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)シンターゼが、3分子のアセチル-CoAからHMG-CoAを生成する。この中間体から、HMG-CoAレダクターゼは2段階の還元でメバロン酸を生成する。メバロン酸は2つのキナーゼ、すなわち、メバロン酸キナーゼおよびホスホメバロン酸キナーゼによってリン酸化される。5-ピロホスホメバロン酸が生成される。5-ピロホスホメバロン酸は脱炭酸されてIPPを生じ、それはIPPイソメラーゼによって異性体DMAPPに変換される。
【0041】
Neurospora crassa(アカパンカビ)メバロン酸キナーゼは細胞質ゾルに局在し、2つの42 kDaサブユニットの安定なホモ二量体を構成する。この酵素は補基質としてATPを必要とし、Mn2+よりむしろMg2+ を好む(Imblum, R. L.およびRodwell, V. W. (1974) J. Lipid Res.15, 211-22)。
【0042】
メバロン酸キナーゼをコードする遺伝子は、例えば、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiaeおよびSchizosaccharomyces pombeなどの様々な真菌において同定されている。S. cerevisiaeにおける特異的な遺伝子ノックアウトを用いて、そのタンパク質がこの酵母に必須であることが実証された(Oulmouden, A.およびKarst, F. (1991) Curr. Genet. 19, 9-14)。しかし、S. cerevisiaeにおいて必須であることが知られている遺伝子は必ずしも糸状菌にも必須ではないので、S. cerevisiaeによって得られた結果を糸状菌に適用することはできない。
【0043】
WO 01/64943は、非メバロン酸経路の酵素を阻害する物質を同定するin vivoスクリーニング方法を記載する。メバロン酸代謝経路の酵素の標的としての適性は、そこにおいて議論されていない。US 2002/0119546 A1は、除草剤のための潜在的な標的としてのメバロン酸キナーゼを記載する。殺真菌剤のための標的としての潜在的なメバロン酸キナーゼの適性は知られていない。
【0044】
意外にも、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドが殺真菌剤のための標的として適していることが見いだされた。
【0045】
本発明は、従って、
a)配列番号1に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号2に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列によってコードされるメバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するポリペプチドの、殺真菌剤の標的としての使用に関する。
【0046】
c)に記載される配列番号2の核酸配列の機能的同等物は、配列番号2に対して少なくとも35%、36%、37%、38%、39%または40%、有利には41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%または59%、好ましくは少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、71%、72%、73%、74%、75%または76%、特に好ましくは少なくとも77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、極めて好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0047】
a)およびb)に記載される上述の核酸配列、ならびにc)に記載されるそれらの機能的同等物は、例えば以下の真菌に由来する:酵母、例えばS. cerevisiae のようなSaccharomyces属、Schizosaccharomyces pombeのようなSchizosaccharomyces属、もしくは、例えばP. pastoris、P. methanolicaのようなPichia属、または糸状菌に由来し、好ましくは糸状菌、特に好ましくはNeurospora、Alternaria、Podosphaera、Sclerotinia、Physalospora、Botrytis、Corynespora; Colletotrichum; Diplocarpon; Elsinoe; Diaporthe; Sphaerotheca; Cinula、Cercospora; Erysiphe; Sphaerotheca; Leveillula; Mycosphaerella; Phyllactinia; Gloesporium; Gymnosporangium、Leptotthrydium、Podosphaera; Gloedes; Cladosporium; Phomopsis; Phytopora; Phytophthora; Erysiphe; Fusarium; Verticillium; Glomerella; Drechslera; Bipolaris; Personospora; Phaeoisariopsis; Spaceloma; Pseudocercosporella; Pseudoperonospora; Puccinia; Typhula; Pyricularia; Rhizoctonia; Stachosporium; Uncinula; Ustilago; GaeumannomycesもしくはFusarium (F.)属の糸状菌に由来し、極めて好ましくはN. crassaなどのNeurospora (N.)、Alternaria、Podosphaera、Sclerotinia、Physalospora、例えば、Physalospora canker、Botrytis (B.)、例えば、B. cinerea、Corynespora、例えば、Corynespora melonis; Colletotrichum; Diplocarpon、例えば、Diplocarpon rosae; Elsinoe、例えば、Elsinoe fawcetti、Diaporthe、例えば、Diaporthe citri; Sphaerotheca; Cinula、例えば、Cinula neccata、Cercospora; Erysiphe、例えば、Erysiphe cichoracearumおよびErysiphe graminis; Sphaerotheca、例えば、Sphaerotheca fuliginea; Leveillula、例えば、Leveillula taurica; Mycosphaerella; Phyllactinia、例えば、Phyllactinia kakicola; Gloesporium、例えば、Gloesporium kaki; Gymnosporangium、例えば、Gymnosporangium yamadae、Leptotthrydium、例えば、Leptotthrydium pomi、Podosphaera、例えば、Podosphaera leucotricha; Gloedes、例えば、Gloedes pomigena; Cladosporium、例えば、Cladosporium carpophilum; Phomopsis; Phytopora; Phytophthora、例えば、Phytophthora infestans; Verticillium; Glomerella、例えば、Glomerella cingulata; Drechslera; Bipolaris; Personospora; Phaeoisariopsis、例えば、Phaeoisariopsis vitis; Spaceloma、例えば、Spaceloma ampelina; Pseudocercosporella、例えば、Pseudocercosporella herpotrichoides; Pseudoperonospora; Puccinia; Typhula; Pyricularia、例えば、Pyricularia oryzae; Rhizoctonia; Stachosporium、例えば、Stachosporium nodorum; Uncinula、例えば、Uncinula necator; Ustilago; Gaeumannomyces (G.)の 種、例えば、G. graminisおよびFusariumの種、例えば、F. dimerium、F. merismoides、F. lateritium、F. decemcellulare、F. poae、F. tricinctum、F. sporotrichioides、F. chlamydosporum、F. moniliforme、F. proliferatum、F. anthophilum、F. subglutinans、F. nygamai、F. oxysporum、F. solani、F. culmorum、F. sambucinum、F. crookwellense、F. avenaceum ssp. avenaceum、F. avenaceum ssp. aywerte、F. avenaceum ssp. nurragi、F. hetrosporum、F. acuminatum ssp. acuminatum、F. acuminatum ssp. armeniacum、F. longipes、F. compactum、F. equiseti、F. scripi、F. polyphialidicum、F. semitectumおよびF. beomiformeおよびF. graminearumの属ならびに種より選択される糸状菌に由来する。
【0048】
本発明は、同様に、
a)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、
b)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される機能的同等物、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される機能的同等物、
を含む核酸配列によってコードされるメバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するポリペプチドの、殺真菌剤の標的としての使用に関する。
【0049】
c)に記載される配列番号6の核酸配列の機能的同等物は、配列番号6に対して少なくとも35%、36%、37%、38%、39%または40%、有利には41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%または59%、好ましくは少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、71%、72%、73%、74%、75%または76%、特に好ましくは少なくとも77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、極めて好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0050】
a)およびb)に記載される上述の核酸配列、ならびにc)に記載されるそれらの機能的同等物は、例えば酵母または糸状菌のような真菌に由来し、これは上述の選択および属を意味する。
【0051】
c)に記載される配列番号1または配列番号5の適切な機能的同等物は、以下にに由来する核酸配列である:
S. cerevisiae (Gen Bank 登録番号: X55875)
S. pombe (Gen Bank 登録番号: AB000541)
N. crassa (Gen Bank 登録番号: AL513444)
A. thaliana (Gen Bank 登録番号: X77793)
C. albicans (Gen Bank 登録番号: ABZ32140)
A. fumigatus (Gen Bank 登録番号: ABT18664)
Phaffia rhodozyma (Gen Bank 登録番号: AAZ30173)
上述の配列は、同様に本発明の主題である。
【0052】
S. cerevisiae (SWISSPROT 登録番号: P07277)
S. pombe (SWISSPROT 登録番号: Q09780)
N. crassa (SPTRMBL 登録番号: Q9C2B7)
C. albicans (GENESEQ_PROT 登録番号: ABP73590)
A. fumigatus (GENESEQ_PROT 登録番号: ABJ25364)
A. thaliana (SWISSPROT 登録番号: P46086)
Phaffia rhodozyma (GENESEQ_PROT 登録番号: AAY43633)
上述の配列は、同様に本発明の主題である。
【0053】
c)に記載される機能的同等物はまた、
(i)配列番号3に示される配列を有する核酸配列、または
(ii)遺伝コードの縮重により、配列番号4に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
(iii)遺伝コードの縮重により、配列番号4に対して少なくとも40%の同一性を有する配列番号4の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列を含む、メバロン酸キナーゼの生物学的機能を有するポリペプチドをコードする核酸配列を包含する。
【0054】
iii)に記載される配列番号4の核酸配列の機能的同等物は、配列番号4に対して少なくとも40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%または48%、有利には49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%または59%、好ましくは少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%または79%、特に好ましくは少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%、極めて好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0055】
i)およびii)に記載される上述の核酸配列、ならびにiii)に記載されるそれらの機能的同等物は、酵母または糸状菌のような真菌、好ましくは糸状菌に由来し、上述の選択もまたここに適用される。しかし、例えば、F. dimerium、F. merismoides、F. lateritium、F. decemcellulare、F. poae、F. tricinctum、F. sporotrichioides、F. chlamydosporum、F. moniliforme、F. proliferatum、F. anthophilum、F. subglutinans、F. nygamai、F. oxysporum、F. solani、F. culmorum、F. sambucinum、F. crookwellense、F. avenaceum ssp. avenaceum、F. avenaceum ssp. aywerte、F. avenaceum ssp. nurragi、F. hetrosporum、F. acuminatum ssp. acuminatum、F. acuminatum ssp. armeniacum、F. longipes、F. compactum、F. equiseti、F. scripi、F. polyphialidicum、F. semitectumおよびFusarium beomiformeなどのFusarium属が、上述の糸状菌の属の中で特に好ましい。Fusarium属の中でもやはり、F. graminearum菌(赤カビ病菌)が極めて好ましい。
【0056】
更に、本発明は、
a)配列番号3に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号4に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有する配列番号3の機能的同等物、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する配列番号4の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む、メバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するタンパク質をコードする核酸配列を特許請求する。
【0057】
配列番号3の核酸配列の機能的同等物は、配列番号3に対して少なくとも70%、できれば少なくとも71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、好ましくは少なくとも78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、特に好ましくは少なくとも 85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、極めて好ましくは少なくとも93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有する。
【0058】
配列番号4の核酸配列の機能的同等物は、配列番号4に対して少なくとも80%、できれば少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、好ましくは少なくとも88%、89%、90%、91%、92%、93%、特に好ましくは少なくとも94%、95%、96%、極めて好ましくは少なくとも97%、98%、99%の同一性を有する。
【0059】
また、本発明においては、
a)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)配列番号5に対して少なくとも67%の同一性を有する配列番号5の機能的同等物、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも72%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される配列番号5の機能的同等物、
を含む、酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するポリペプチドをコードする核酸配列も特許請求される。
【0060】
c)に示される配列番号5の核酸配列の機能的同等物は、配列番号5に対して少なくとも67%、できれば少なくとも68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76% または77%、好ましくは少なくとも78%、79%、80%、81%、82%、83%または84%、特に好ましくは少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%または92%、極めて好ましくは少なくとも93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0061】
配列番号6の核酸配列の機能的同等物は、配列番号6に対して少なくとも72%、できれば少なくとも73%、74%、75%、76%または77%、好ましくは少なくとも78%、79%、80%、81%、82%、83%または84%、特に好ましくは少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%または92%、極めて好ましくは少なくとも93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0062】
配列番号1または配列番号3は、上記で定義されたような本発明の核酸配列の機能的同等物を単離するためのハイブリダイゼーションプローブを作製するために使用できる。同様に、配列番号3を含む完全長クローンは、ハイブリダイゼーションプローブによって提供され得る。これらのプローブの作製および実験手順は公知である。例えば、これは、PCRによる放射性または非放射性プローブの選択的生成および適切に標識されたオリゴヌクレオチドの使用と、それに続くハイブリダイゼーション実験によって達成され得る。このために必要な技術は、例えば、T. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)に詳述される。プローブは、例えば他の生物における対応配列の解析のためにmRNAおよび対応するコード配列と特異的にハイブリダイズするプローブとして、更なる目的に使用できるように、標準的な技術(Lit. SDMまたはランダム変異導入)によって更に改変され得る。例えば、プローブは、対象の真菌のゲノムライブラリーもしくはcDNAライブラリーのスクリーニングのために、または電子データベース中の類似配列のコンピューター検索において使用されうる。
【0063】
上述のプローブの他の応用例は、様々な真菌(好ましくは、殺真菌剤に対する耐性の増加のような特定の要因と特異的に結びついている植物病原性真菌)における本発明の核酸配列の改変された可能性のある発現プロファイルの解析、植物材料中の真菌の検出、および耐性の出現の検出である。「植物病原性真菌」という用語は、以下の属および種を意味するものとして理解される。すなわち、Alternaria、Podosphaera、Sclerotinia、Physalospora、例えば、Physalospora canker、Botrytis (B.)、例えば、B. cinerea、Corynespora、例えば、Corynespora melonis; Colletotrichum; Diplocarpon、例えば、Diplocarpon rosae; Elsinoe、例えば、Elsinoe fawcetti、Diaporthe、例えば、Diaporthe citri; Sphaerotheca; Cinula、例えば、Cinula neccata、Cercospora; Erysiphe、例えば、Erysiphe cichoracearum およびErysiphe graminis; Sphaerotheca、例えば、Sphaerotheca fuliginea; Leveillula、例えば、Leveillula taurica; Mycosphaerella; Phyllactinia、例えば、Phyllactinia kakicola; Gloesporium、例えば、Gloesporium kaki; Gymnosporangium、例えば、Gymnosporangium yamadae、Leptotthrydium、例えば、Leptotthrydium pomi、Podosphaera、例えば、Podosphaera leucotricha; Gloedes、例えば、Gloedes pomigena; Cladosporium、例えば、Cladosporium carpophilum; Phomopsis; Phytopora; Phytophthora、例えば、Phytophthora infestans; Verticillium; Glomerella、例えば、Glomerella cingulata; Drechslera; Bipolaris; Personospora; Phaeoisariopsis、例えば、Phaeoisariopsis vitis; Spaceloma、例えば、Spaceloma ampelina; Pseudocercosporella、例えば、Pseudocercosporella herpotrichoides; Pseudoperonospora; Puccinia; Typhula; Pyricularia、例えば、Pyricularia oryzae; Rhizoctonia; Stachosporium、例えば、Stachosporium nodorum; Uncinula、例えば、Uncinula necator; Ustilago; Gaeumannomyces (G.)の種、例えば、G. graminisおよびFusariumの種、例えば、F. dimerium、F. merismoides、F. lateritium、F. decemcellulare、F. poae、F. tricinctum、F. sporotrichioides、F. chlamydosporum、F. moniliforme、F. proliferatum、F. anthophilum、F. subglutinans、F. nygamai、F. oxysporum、F. solani、F. culmorum、F. sambucinum、F. crookwellense、F. avenaceum ssp. avenaceum、F. avenaceum ssp. aywerte、F. avenaceum ssp. nurragi、F. hetrosporum、F. acuminatum ssp. acuminatum、F. acuminatum ssp. armeniacum、F. longipes、F. compactum、F. equiseti、F. scripi、F. polyphialidicum、F. semitectumおよびF. beomiformeおよびF. graminearumである。
【0064】
標的としてメバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するタンパク質を使用する殺真菌剤に対する耐性の増加は、しばしば、例えば活性中心付近のような基質特異性に必須である部位、または基質の結合に影響を及ぼすタンパク質の他の部位での突然変異に基づく。上述の改変のために、殺真菌剤として作用する阻害剤の、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するタンパク質への結合がより困難となったり、実際に妨げられたりする。その結果、殺真菌作用の制限または該作用の完全な消失が対象の作物において観察される。
【0065】
この状況において生じる改変はほんの数塩基対しか含まないことが多いので、本発明の核酸配列または上述のような機能的同等物に基づくプローブは、上述のように、完全なもしくは部分的な耐性を示す植物病原性真菌において、適切に突然変異された本発明の核酸配列を検出するために使用することができる。
【0066】
上述のプローブを用いた、メバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するタンパク質の対応する遺伝子または遺伝子断片の単離、それに続く配列決定および対応する野生型核酸配列との比較の後、主に分析の目的で、以下の2つの方法を利用することができる。すなわち、
1. 2つのプライマー対、野生型配列に相補的な第一のプライマー対および対応する突然変異型配列に相補的な第二のプライマー対を、通常の方法を用いて構築する。対応する突然変異型配列はPCRによって定量的かつ定性的に検出されるようになる。
【0067】
2. 塩基配列の改変によって、制限酵素の切断部位を生成または消失させることができる。問題の領域をフランキングプライマーにより増幅し、その後、問題の制限酵素で消化し、かつ/または配列決定する。こうして、突然変異の存在を検出することが可能である。
【0068】
以下の文章において、
a)配列番号1に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号2に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列は、「本発明の核酸配列」と呼ばれる。同様に、「本発明の核酸配列」という用語は、
a)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、
b)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される機能的同等物、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される機能的同等物、
を含む核酸配列を意味するものとして理解される。
【0069】
「本発明の核酸配列」という用語はまた、以下の核酸配列を含み、それは上述の核酸配列c)の具体例を構成し、かつ
i)配列番号3に示される配列を有する核酸配列、または
ii)遺伝コードの縮重により、配列番号4に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
iii)遺伝コードの縮重により、配列番号4に対して少なくとも40%の同一性を有する配列番号4の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列を包含する。
【0070】
メバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有する、本発明の核酸配列によってコードされるポリペプチドは、本明細書においては以後、「MEK」と呼ばれる。メバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するポリペプチドは、本明細書においては以後、メバロン酸キナーゼと呼ばれる。
【0071】
本発明は更に、
a)下記の核酸配列:
i)配列番号3に示される配列を有する核酸配列、もしくは
ii)遺伝コードの縮重により、配列番号4に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、もしくは
iii)配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有する配列番号3の機能的同等物、
iv)遺伝コードの縮重により、配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する配列番号4の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列と機能的に連結された遺伝子制御配列、または、
b)付加的な機能エレメント、または、
c)上記a)およびb)の組み合わせ、
を含む発現カセットに関する。
【0072】
本発明のさらに別の主題は、
a)下記の核酸配列:
i)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、もしくは
ii)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、もしくは
iii)配列番号5に対して少なくとも67%の同一性を有する配列番号5の機能的同等物、
iv)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも72%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される、配列番号5の機能的同等物、
を含む核酸配列と機能的に連結された遺伝子制御配列、または、
b)付加的な機能エレメント、または、
c)上記a)およびb)の組み合わせ、
を含む発現カセットである。
【0073】
上述の発現カセットを含むベクター、および
a)本発明の核酸配列に機能的に連結された遺伝子制御配列、または、
b)付加的な機能エレメント、または、
c)上記a)およびb)の組み合わせ、
を含む発現カセットの使用、および「in vitro」もしくは「in vivo」試験系における上述の発現カセットの2つの具体例を含むベクターの使用。
【0074】
更なる主題は、in vitroまたはin vivo試験系でMEKを発現させるための、発現カセットの上述の具体例(以後「本発明の発現カセット」と呼ばれる)の使用である。
【0075】
好ましい実施形態では、本発明の発現カセットは、コード配列の5’末端にプロモーターを、3’末端に転写終結シグナルを含み、適切な場合、挿入されたMEK遺伝子のコード配列に機能的に連結された更なる遺伝子制御配列を含む。
【0076】
上述の発現カセットの同等物、例えば、個々の核酸配列の組み合わせを1つのポリヌクレオチドによって(多重構築物)、または細胞内の複数のポリヌクレオチドによって(同時形質転換)、または連続的な形質転換によってもたらされるものもまた、本発明に従うものである。
【0077】
本発明の発現カセットまたはそれらを含むベクターにとって有利な遺伝子制御配列は、例えば、cos、tac、trp、tet、lpp、lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、ara、SP6、λ-PRまたはλ-PLプロモーターなどのプロモーターであり、それらはすべて、グラム陰性菌株においてメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの発現に使用され得る。
【0078】
更なる有利な遺伝子制御配列の例は、例えば、プロモーターamyおよびSPO2(両方とも、グラム陽性菌株におけるSSPの発現に使用される)、ならびに酵母または真菌のプロモーター、AUG1、GPD-1、PX6、TEF、CUP1、PGK、GAP1、TPI、PHO5、AOX1、GAL10/CYC1、CYC1、OliC、ADH、TDH、Kex2、MFAもしくはNMTまたは上述のプロモーターの組み合わせ(Degryseら、Yeast 1995 June 15; 11(7):629-40; RomanosらYeast 1992 June;8(6):423-88; BenitoらEur. J. Plant Pathol. 104, 207-220 (1998); CreggらBiotechnology (N Y) 1993 Aug;11(8):905-10; Luo X., Gene 1995 Sep 22;163(1):127-31: Nackenら、Gene 1996 Oct 10;175(1-2): 253-60; Turgeonら、Mol Cell Biol 1987 Sep;7(9):3297-305)、あるいは転写ターミネーターNMT、Gcy1、TrpC、AOX1、nos、PGKまたはCYC1(Degryseら、Yeast 1995 June 15; 11(7):629-40; BrunelliらYeast 1993 (Dec9(12): 1309-18; Frischら、Plant Mol. Biol. 27(2), 405-409 (1995); Scorerら、Biotechnology (N.Y. 12 (2), 181-184 (1994), Genbank acc. number Z46232; ZhaoらGenbank acc number : AF049064; Puntら、(1987) Gene 56 (1), 117-124)に存在し、それらはすべて、酵母菌株におけるSSPの発現に使用され得る。
【0079】
昆虫細胞での発現に適した遺伝子制御配列の例には、ポリヘドリンプロモーターおよびp10プロモーター(Luckow, V.A.およびSummers, M.D. (1988) Bio/Techn. 6, 47-55)があり、適切な場合、当業者に公知の適当なターミネーターもある。
【0080】
細胞培養でMEKを発現させるのに有利な遺伝子制御配列には、ポリアデニル化配列に加えて、例えば、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、HIVチミジンキナーゼまたはシミアンウイルス40のプロモーターなどのウイルス由来の真核生物プロモーターがあり、適切な場合、当業者に公知の適当なターミネーターもある。
【0081】
付加的な機能エレメントb)は、限定ではなく一例として、レポーター遺伝子、複製起点、選択マーカー、および直接的にまたは任意選択でプロテアーゼ切断部位を含むリンカーにより本発明の核酸配列と融合されるアフィニティータグとして知られるものを意味することが理解される。更なる適切な付加的な機能エレメントとして特に好ましいのは、産物を液胞、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体(ER)にターゲッティングすることを確実にする配列であり、このような機能性配列が存在しないと、産物はそれが形成されたコンパートメント、細胞質ゾルに残存する(Kermode, Crit. Rev. Plant Sci. 15, 4 (1996), 285-423)。
【0082】
少なくとも1コピーの本発明の核酸配列および/または本発明の発現カセットを含むベクターもまた、本発明に含まれる。
【0083】
プラスミドに加えて、ベクターは更に、例えば、ファージ、SV40、CMV、バキュロウイルス、アデノウイルスなどのウイルス、トランスポゾン、IS因子、ファスミド、ファージミド、コスミドまたは直鎖状もしくは環状DNAなどの当業者が熟知している他の公知のベクターのすべてを意味することもまた理解される。これらのベクターは宿主生物内で自律的に複製でき、または染色体上で複製され得るが、染色体複製が好ましい。
【0084】
ベクターの更なる実施形態では、本発明の核酸構築物はまた、有利には直鎖状DNAの形で生物内に導入され、異種組み換えまたは相同組み換えによって、宿主生物のゲノムに組み込まれる。この直鎖状DNAは、線状化されたプラスミドからなるか、もしくはベクターとしての核酸構築物のみからなり、または使用される核酸配列から構成されうる。
【0085】
更なる原核生物または真核生物の発現系は、Sambrookら、“Molecular Cloning: A Laboratory Manual.” 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の16章および17章に記載される。更なる有利なベクターは、Hellensら(Trends in plant science, 5, 2000)に記載される。
【0086】
本発明の発現カセットおよびそれに由来するベクターは、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの組み換えによる産生を目的として、細菌、シアノバクテリア、酵母、糸状菌および藻類ならびに非ヒト真核細胞(例えば昆虫細胞)を形質転換するために使用される。適切な発現カセットの作製は、その遺伝子を発現させようとする生物に依存する。
【0087】
更なる有利な実施形態では、本発明の方法に用いられる核酸配列を単独で生物に導入することもできる。
【0088】
前記の核酸配列に加えて、更なる遺伝子を生物に導入する場合は、それらをすべて単一のベクターで一緒に生物に導入したり、それぞれ個別の遺伝子をそれぞれ1つのベクターで生物に導入することができ、異なるベクターを同時にまたは連続して導入することができる。
【0089】
この状況において、本発明の核酸、発現カセットまたはベクターの、対象の生物への導入(形質転換)は、原則として当業者が精通しているすべての方法によって達成され得る。
【0090】
微生物の場合、当業者はSambrook, J.ら(1989) “Molecular cloning: A laboratory manual”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, F.M. Ausubel ら(1994) “Current protocols in molecular biology”, John Wiley and Sons, D.M. Gloverら、DNA Cloning Vol.1, (1995), IRL Press (ISBN 019-963476-9), Kaiserら(1994) Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Habor Laboratory PressまたはGuthrieら“Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology”, Methods in Enzymology, 1994, Academic Pressによる教科書において、適切な形質転換方法を見いだすであろう。
【0091】
糸状菌の形質転換では、好適な方法は、第一にプロトプラストの調製およびPEGを用いた形質転換(Wiebeら(1997) Mycol. Res. 101 (7): 971-877; Proctorら(1997) Microbiol. 143, 2538-2591)であり、第二にAgrobacterium tumefaciensを用いた形質転換(de Grootら(1998) Nat. Biotech. 16, 839-842)である。
【0092】
発現カセットまたはベクターの上述の具体例の1つを用いた形質転換によって作製されたトランスジェニック生物は、
a)配列番号3に示される配列を有する核酸配列、もしくは
b)遺伝コードの縮重により、配列番号4に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、もしくは
c)配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有する配列番号3の機能的同等物、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有する配列番号4の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む、メバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するタンパク質をコードする核酸配列を含む。
【0093】
また、トランスジェニック生物は、
a)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)配列番号5に対して少なくとも67%の同一性を有する配列番号5の機能的同等物、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも72%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される配列番号5の機能的同等物、
を含む、メバロン酸キナーゼの酵素活性(好ましくは生物学的活性)を有するタンパク質をコードする核酸配列を含む。
【0094】
また、発現によって上述のトランスジェニック生物から得られる組み換えMEKもまた、本発明の主題である。
【0095】
MEKの組み換え発現に適切な他の生物は、細菌、酵母、コケ、藻類および真菌に加えて、真核細胞株であるが、好ましくは、細菌、酵母および真菌である。
【0096】
細菌の中で好ましいものは、Escherichia、Erwinia、FlavobacteriumもしくはAlcaligenes属の細菌、または例えばSynechocystisもしくはAnabena属のようなシアノバクテリアである。
【0097】
好ましい酵母は、Saccharomyces、SchizosaccharomycesまたはPichia属の酵母である。
【0098】
好ましい真菌は、Aspergillus、Trichoderma、Ashbya、Neurospora、Fusarium、Beauveria、Mortierella、Saprolegnia、Pythium、またはIndian Chem Engr. Section B. Vol 37, No 1,2 (1995)に記載される他の真菌である。
【0099】
原則として、トランスジェニック動物もまた宿主生物として適しており、例えばC. elegansである。
【0100】
一般に利用可能な、または販売されている発現系およびベクターの使用もまた好ましい。
【0101】
E. coli細菌での使用のために列挙する必要のあるものは、典型的な市販の融合および発現ベクター、pGEX(Pharmacia Biotech Inc; Smith, D.B.および Johnson, K.S. (1988) Gene 67:31-40)、pMAL(New England Biolabs, Beverly, MA)およびpRIT5(Pharmacia, Piscataway, NJ)(グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、またはプロテインAを含む)、pTrcベクター(Amannら、(1988) Gene 69:301-315)、CLONTECH, Palo Alto, CAによる「pKK233-2」、ならびにStratagene, La Jollaからの「pET」および「pBAD」ベクター系列である。
酵母で使用するのに有利なベクターは、pYepSec1(Baldariら、(1987) Embo J. 6:229-234)、pMFa(KurjanおよびHerskowitz, (1982) Cell 30:933-943)、pJRY88(Schultzら、(1987) Gene 54:113-123)ならびにpYES誘導体、pGAPZ誘導体、pPICZ誘導体および「Pichia Expression Kit」(Invitrogen Corporation, San Diego, CA)のベクターである。糸状菌で使用するためのベクターは、Applied Molecular Genetics of Fungi, J.F. Peberdyら編、pp. 1-28, Cambridge University Press: Cambridgeの中のvan den Hondel, C.A.M.J.J. & Punt, P.J. (1991) ”Gene transfer systems and Vector development for filamentous fungi”に記載される。
【0102】
あるいはまた、昆虫細胞発現ベクターも、例えば、組み換えバキュロウイルスによって感染されるSf9、Sf21またはHi5細胞での発現のために、有利に使用される。これらの例は、pAc系列(Smithら(1983) Mol. Cell Biol. 3:2156-2165)ならびにpVL系列(LucklowおよびSummers (1989) Virology 170:31-39)のベクターである。他に記載されうるものは、バキュロウイルス発現系、Invitrogen, Calsbaldによる「MaxBac 2.0 Kit」および「Insect Select System」、またはCLONTECH, Palo Alto, CAによる「BacPAK Baculovirus Expression system」である。当業者は、昆虫培養細胞の取り扱いおよびそれらのタンパク質発現のための感染に精通しており、公知の方法(LuckowおよびSummers, Bio/Tech. 6, 1988, pp.47-55; GloverおよびHames(編)DNA Cloning 2, A practical Approach, Expression Systems, 第2版 Oxford University Press, 1995, 205-244)と同様に実施することができる。
【0103】
植物細胞または藻細胞は、遺伝子の発現のために有利に使用され得るその他の細胞である。植物発現ベクターの例は、Becker, D.ら(1992) ”New plant binary vectors with selectable markers located proximal to the left border”, Plant Mol. Biol. 20: 1195-1197またはBevan, M.W. (1984)”Binary Agrobacterium vectors for plant transformation”, Nucl. Acid. Res. 12: 8711-8721に見ることができる。
【0104】
更に、本発明の核酸配列は、哺乳類細胞において発現され得る。適切な発現ベクターの例はpCDM8およびpMT2PCであり、Seed, B. (1987) Nature 329:840またはKaufmanら(1987) EMBO J. 6:187-195に記載される。この状況において使用されることが好ましいプロモーターは、例えば、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスまたはシミアンウイルス40のプロモーターのようなウイルス由来のものである。更なる原核生物および真核生物の発現系は、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989の16章および17章に記載される。更なる有利なベクターは、Hellensら(Trends in plant science, 5, 2000)に記載される。
【0105】
例えば本発明の発現カセットを用いた形質転換、または本発明の発現カセットを含むベクターの形質転換による、本発明の核酸配列を含むトランスジェニック生物の考えられる上述の実施形態はすべて、以後「本発明の生物」と呼ばれる。
【0106】
本発明は更に、殺真菌活性のある試験化合物を同定する方法における、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの使用に関する。殺真菌活性のある阻害剤を同定するためのすべての方法は、以後「本発明の方法」と呼ばれる。
【0107】
この状況において、殺真菌活性のある物質を同定する方法は、好ましくは、メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドを用いる阻害アッセイから成る。
【0108】
本発明の方法の好ましい実施形態は、以下のステップを含む。すなわち、
i. 核酸分子もしくは上述の核酸分子によってコードされるポリペプチドと試験物質の結合を可能にする条件下で、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを1種以上の試験物質と接触させるステップ、および
ii. 試験物質がi)のポリペプチドと結合するかを検出するステップ、または
iii. 試験物質がi)のポリペプチドの活性を減少もしくは阻害するかを検出するステップ、または
iv. 試験物質がi)のポリペプチドの転写、翻訳もしくは発現を減少または阻害するかを検出するステップである。
【0109】
上記の方法のステップiiに従った検出は、タンパク質とリガンドの間の相互作用を検出する技術を用いて達成され得る。この状況において、試験化合物または酵素のいずれかは、検出可能な標識、例えば蛍光標識、放射性同位体、化学発光標識もしくは酵素標識などを含み得る。酵素標識の例は、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼである。その後の検出は標識によって決まり、当業者には公知である。
【0110】
この状況において、本発明に関連するハイスループットスクリーニング法(HTS)にも適した5つの好ましい実施形態が、特に記載されなければならない。
【0111】
1. 質量の関数としての蛍光分子の平均拡散速度は、少量のサンプル容量で蛍光相関分光法(FCS)により測定され得る(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 11753-11575)。FCSは、MEKと結合する時の試験化合物の質量の変化、すなわちこれが引き起こす拡散速度の変化を測定することによって、タンパク質/阻害剤相互作用を測定するために使用される。本発明の方法は、蛍光分子によって標識された試験化合物の結合を直接測定するために設計され得る。別法として、本発明の方法は、蛍光分子によって標識された対照化合物が更なる試験化合物によって置換されるように設計することもできる(置換アッセイ)。
【0112】
2. 蛍光偏光は、偏光によって励起された静止フルオロフォアが同様に偏光を放射する特性を利用する。しかし、フルオロフォアが励起状態の間に回転することができる場合、放射される蛍光の偏光は多少失われる。その他の点で同一の条件下(例えば、温度、粘性、溶媒)では、回転は分子サイズの関数であり、それによってフルオロフォアに結合した残基のサイズに関する所見が、その測定値によって得られる(Methods in Enzymology 246 (1995), pp. 283-300)。本発明の方法は、蛍光標識された試験化合物のMEKへの結合を直接測定するために設計され得る。別法として、本発明の方法はまた、1に記載された「置換アッセイ」の形を取りうる。
【0113】
3. 蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、適切な条件下での、2つの空間的に隣接した蛍光分子間の放射のないエネルギー移動に基づく。必要条件は、ドナー分子の放射スペクトルがアクセプター分子の励起スペクトルと重なることである。MEKおよび試験化合物の蛍光標識によって、結合はFRETを用いて測定され得る(Cytometry 34, 1998, pp. 159-179)。別法として、本発明の方法はまた、1に記載された「置換アッセイ」の形を取りうる。特に適切なFRET技術の実施形態は、Packard BioScienceから入手できるような「ホモジニアス時間分解蛍光」(HTRF)である。この方法において同定される化合物は阻害剤として適切でありうる。
【0114】
4. 飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF)と組み合わせた表面活性化レーザー脱離/イオン化(SELDI)は、支持体上の分子の迅速な分析を可能にし、タンパク質/リガンド相互作用の解析に使用される(Worralら、(1998) Anal. Biochem. 70:750-756)。好ましい実施形態では、MEKは適切な支持体上に固定化され、試験される化合物とともにインキュベートされる。1回以上の適切な洗浄ステップの後、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKに更に結合されている化合物の分子は上述の方法を用いて検出でき、従って、適切な阻害剤が選択され得る。
【0115】
5. 表面プラズモン共鳴の測定は、化合物が前記表面上に固定化されたタンパク質に結合する際の、表面での屈折率の変化に基づく。屈折率の変化は、表面での質量濃度の定義された変化に対して実質上すべてのタンパク質およびポリペプチドにおいて同一であるため、この方法は原理上任意のタンパク質に応用され得る(LindbergらSensor Actuators 4 (1983) 299-304; Malmquist Nature 361 (1993) 186-187)。測定は、例えばBiacore(Freiburg)から入手可能な表面プラズモン共鳴に基づく自動分析装置を用いて、現在では1日あたり最大384サンプルの処理能力で行われ得る。本発明の方法は、試験化合物のMEKへの結合を直接測定するために設計され得る。別法として、本発明の方法はまた、1に記載された「置換アッセイ」の形を取りうる。
【0116】
上述の方法によって同定されたすべての物質は、その後、本発明の方法の別の実施形態において、それらの殺真菌作用について確認される。
【0117】
更に、X線構造解析によるMEKの三次元構造の解明を介した分子モデリングによって、殺真菌活性成分の更なる候補を検出する可能性がある。X線構造解析のために必要とされるタンパク質結晶の調製、ならびに関連した測定およびそれに続くこれらの測定の評価、タンパク質中の結合部位の検出、ならびに潜在的な阻害剤構造の予測は、当業者の知るところである。原理上、上述の方法によって同定された化合物の最適化もまた、分子モデリングによって可能である。
【0118】
本発明の方法の好ましい実施形態は、ステップi)およびiii)に基づくものであり、以下のステップからなる:
a)生物においてメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを発現させるか、またはもともとメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを含む生物を培養するステップ、
b)トランスジェニック生物または非トランスジェニック生物の細胞消化物中の、部分精製されたまたは均一に精製された、ステップa)のメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを試験化合物と接触させるステップ、および
c)試験化合物とインキュベートされていないメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性と、試験化合物とインキュベートされたメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性を比較して、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性を減少または阻害する化合物を選択するステップ。
【0119】
このステップ(c)において、化合物とインキュベートされなかったメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性と比較して、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性に有意な減少をもたらす化合物が選択され、少なくとも10%の減少、有利には少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、特に好ましくは少なくとも50%、極めて好ましくは少なくとも70%、または100%の減少(阻害)を達成する。
【0120】
メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを含む溶液は、起源生物またはトランスジェニック生物の溶解液で構成され得る。必要であれば、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKは、通常の方法によって部分的にまたは完全に精製してもよい。現在のタンパク質精製法の一般的な概要は、例えば、Ausubel, F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1994); ISBN 0-87969-309-6に記載される。組み換え法によって得られた場合、アフィニティータグとの融合物の形をとるタンパク質は、アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。
【0121】
in vitro方法のために必要とされるメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKは、従って、本発明のトランスジェニック生物からの異種発現によって単離することができ、またはメバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKは、メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKを含む生物、例えば真菌もしくは酵母から単離することができる(例えばImblumおよびRodwell (1975) J. Lipid Res., 15, 211-222を参照)。適切な酵母は、Saccharomyces、SchizosaccharomycesまたはPichia属の中に見いだされる。適切な酵母および糸状菌は、冒頭に記載した種である。
【0122】
メバロン酸キナーゼ、好ましくはMEKの活性の測定は、例えば酵素活性アッセイによって、すなわち、本発明のポリペプチドを適切な基質とともにインキュベートすることによって達成でき、基質の減少、または生成物の増加、または補因子の減少もしくは増加がモニターされる。
【0123】
適切な基質の例は、例えばメバロン酸であり、適切な補因子の例は、ATP、GTPまたはUTP、好ましくはATPおよび Mg2+またはMn2+、好ましくはMn2+である。適切な場合には、例えば、蛍光標識、放射性同位体標識(例えば、14C-メバロン酸、γ32もしくはγ33 ATP)または化学発光標識などの検出可能なマーカーを含む上述の化合物の誘導体もまた使用される。
【0124】
酵素活性アッセイに用いられる基質の量は、1〜100μg/mlの酵素に基づき、0.5〜100 mMの範囲であり、補因子の量は0.1〜5 mMでありうる。
【0125】
特に好ましい実施形態では、基質の変換は光度測定によってモニターされる。例えば、本明細書ではPorter J. B.(1985; Meth. Enzymol. 110, 71-79)によって記載されるアッセイについて述べるが、それはメバロン酸キナーゼ反応をピルビン酸キナーゼおよび乳酸脱水素酵素によって触媒される反応と共役させることに基づき、そこではNADHの酸化がメバロン酸キナーゼの活性の指標となる。Schulteら(1999; Anal. Biochem. 269, 245-54)によって記載されるような、若干修正された形態では、このアッセイはハイスループット法にも適している。
【0126】
ステップi)およびiv)に基づく本発明の方法の好ましい実施形態は、以下のステップからなる:
i. 本発明のトランスジェニック生物を作製するステップ、
ii. ステップiのトランスジェニック生物および同一の種の非トランスジェニック生物に試験物質を加えるステップ、
iii. 試験物質を加えた後にトランスジェニック生物および非トランスジェニック生物の増殖、生存能および/または感染力を測定するステップ、および
iv. トランスジェニック生物の増殖と比較して、非トランスジェニック生物の増殖、生存能および/または感染力の減少をもたらす試験物質を選択するステップ。
【0127】
この状況において、ステップiv)における殺真菌活性のある阻害剤の選択のための、増殖の違い、または感染力に関する違いは、少なくとも10%、できれば20%、好ましくは30%、特に好ましくは40%、極めて好ましくは50%を意味する。感染力は、生物が植物病原性真菌である場合にのみ測定される。
【0128】
上述のように、トランスジェニック生物は、本発明の核酸配列、本発明の発現カセット、または本発明の核酸配列もしくは本発明の発現カセットを含むベクターによって生物を形質転換することによって作製することができる。
【0129】
この状況において、トランスジェニック細胞またはトランスジェニック生物は、細菌、酵母、糸状菌または真核細胞株であり、好ましくは植物病原性糸状菌であり、特に好ましくは10頁および11頁に挙げた植物病原性糸状菌である。これらのトランスジェニック生物またはトランスジェニック細胞は、このように、本発明のポリペプチドを阻害する化合物に対して増大した耐性を示す。
【0130】
上述の方法によって同定されたすべての化合物は、その後、in vivoにおいて、それらの殺真菌作用について更なる活性アッセイで試験される。1つの可能性は、問題の物質をZahner, H. 1965 Biologie der Antibiotika, Berlin, Springer Verlagによって記載されるような寒天拡散法で試験することにある。その試験は、糸状菌の培養物、好ましくは植物病原性糸状菌の培養物を用いて行われ、例えば制限された増殖によって、殺真菌活性の観察が可能である。植物病原性真菌は、本明細書で冒頭に記載した種を意味するものとして理解されるべきである。
【0131】
本発明の方法では、複数の試験化合物を用いることもまた可能である。試験化合物のグループが標的に影響を及ぼす場合、その後、個々の試験化合物を単離することが可能であり、または、例えばそれが多数の異なる化合物で構成される場合、本発明の方法における異なる試験化合物の数を減少させるために、試験化合物のグループを様々なサブグループに分けることが可能である。その後、個々の試験化合物または対応する試験化合物のサブグループを用いて本発明の方法を繰り返す。サンプルの複雑さに応じて、上述のステップは、好ましくは本発明の方法に従って同定されたサブグループが少数の試験化合物、実際には1種類の試験化合物のみを含むようになるまで、繰り返し実施する。
【0132】
これは多数の異なる化合物の並行した試験を可能にするので、本発明の方法はまた、ハイスループット法またはハイスループットスクリーニング(HTS)として実施することも有利である。
【0133】
1以上の本発明の核酸分子、本発明の核酸配列を含む1以上のベクター、少なくとも1つの本発明の核酸配列を含む1以上のトランスジェニック生物、または本発明の核酸配列によってコードされる1以上の(ポリ)ペプチドを含む支持体の使用は、実際にHTSを実施するのに役に立つ。用いる支持体は固体または液体であり得、それは好ましくは固体、特に好ましくはマイクロタイタープレートである。上述の支持体もまた、本発明の主題である。最も広く使用される技術に従って、通常、50〜500μlの容積とすることができる96ウェルマイクロタイタープレートが使用される。マイクロタイタープレートに加えて、多数の機器、材料、自動分注装置、ロボット、自動プレートリーダーおよびプレート洗浄機のような、対応するマイクロタイタープレートに適合するHTSシステムの更なる構成要素が市販されている。
【0134】
マイクロタイタープレートに基づくHTSシステムに加えて、「フリーフォーマットアッセイ」として知られているもの、すなわち、例えば、Jayaickremeら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 19 (1994) 161418; Chelsky, “Strategies for Screening Combinatorial Libraries”, First Annual Conference of The Society for Biomolecular Screening in Philadelphia, Pa. (Nov. 7-10, 1995); Salmon ら、Molecular Diversity 2 (1996), 5763および米国特許第5,976,813号などに記載される、サンプル間に物理的障壁が存在しないアッセイシステムもまた使用することができる。
【0135】
本発明は更に、本発明の方法によって同定された化合物に関する。これらの化合物は本明細書の下記において「選択された化合物」と呼ばれる。それらは1000 g/mol以下の分子量を持ち、有利には500 g/mol以下、好ましくは400 g/mol以下、特に好ましくは300 g/mol以下の分子量を持つ。除草剤活性のある化合物は1 mM以下のKi値を持ち、好ましくは1μM以下、特に好ましくは0.1μM以下、極めて好ましくは0.01μM以下のKi値を持つ。
【0136】
選択された化合物は植物病原性真菌の防除に適している。植物病原性真菌の例は上述の属および種である。
【0137】
選択された化合物はまた、農業上有用なそれらの塩の形で存在し得る。農業上有用な塩は主に、陽イオンもしくは陰イオンが本発明の方法によって同定された殺真菌活性る化合物の殺真菌活性に悪影響を及ぼさない、それらの陽イオンの塩またはそれらの酸の酸付加塩である。
【0138】
不斉中心が存在する場合、上述の方法によって、純粋なエナンチオマーまたはジアステレオマーとしてだけでなく、それらの混合物としてもしくはラセミ化合物として同定されたすべての化合物が、本発明の主題である。
【0139】
選択される化合物は、化学的に合成された物質または微生物によって産生された物質であり得、例えば、植物、動物もしくは微生物の細胞抽出液などにおいて見出される。反応混合物は無細胞抽出液であり得、または細胞もしくは細胞培養物を含み得る。適切な方法は当業者に公知であり、一般的に、例えばAlberts, Molecular Biology the cell, 第3版 (1994)の、例えば17章に記載されている。
【0140】
候補試験化合物は、例えば、cDNA発現ライブラリーのような発現ライブラリー、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、低分子の有機物質、ホルモン、PNA等であり得る(Milner, Nature Medicine 1 (1995), 879-880; Hupp, Cell. 83 (1995), 237-245; Gibbs, Cell. 79 (1994), 193-198およびその中で引用される参考文献)。
【0141】
選択された化合物を含む殺真菌性組成物は、特に高い用量で適用される場合、植物病原性真菌のすぐれた防除をもたらす。コムギ、イネ、トウモロコシ、ダイズおよびワタなどの作物において、それらは実質的に作物に損傷を与えることなく植物病原性真菌に対して作用する。この効果は主に低い適用量で観察される。本発明の方法を用いて見出された殺真菌活性のある成分が非選択的または選択的な殺真菌剤として作用するかどうかは、特に、適用量、それらの選択性および他の要因に依存する。その物質は、既に上述された植物病原性真菌を防除するために使用することができる。
【0142】
適用方法に応じて、選択された化合物またはそれらを含む組成物は、既に冒頭に記載された植物病原性真菌を除去するために有利に使用され得る。
【0143】
本発明は更に、既に上述された殺真菌性組成物を調製するための方法に関し、それは選択された化合物を殺真菌剤の処方に適した補助剤とともに処方することを含む。
【0144】
選択された化合物は、例えば、直接噴霧可能な水溶液、粉末、懸濁液、また高濃縮の水性、油性もしくは他の懸濁液またはサスポエマルジョンまたは分散液、乳剤、エマルジョン、油性分散液、ペースト、ダスト、塗布用の物質または顆粒として処方され得、噴霧、噴射、散布、塗布または浴びせることによって適用され得る。使用形態は目的とする用途および選択された化合物の性質に依存し、いずれの場合にも、それらは選択された化合物のできる限り細かい分配を保証するべきである。殺真菌性組成物は、殺真菌活性量の少なくとも1つの選択された化合物、および殺真菌性組成物の処方に通常使用される補助剤を含む。
【0145】
エマルジョン、ペーストまたは水性もしくは油性製剤および分散可能な濃縮物(DC)を調製するためには、選択された化合物を油もしくは溶媒に溶解または分散させ、均質化のために更なる補助剤を添加することが可能である。しかし、適切な溶媒もしくは油、任意成分の更なる補助剤、およびこのような濃縮物が水による希釈に適している場合は、選択された化合物から液体または固体の濃縮物を調製することも可能である。この状況において記載する必要がある処方は、乳化可能な濃縮物(EC, EW)、懸濁液(SC)、可溶性濃縮物(SL)、分散可能な濃縮物(DC)、ペースト、丸剤、湿潤可能な粉剤または顆粒であり、固体製剤については、水に可溶性であるかまたは水に分散可能(湿潤可能)であるかのいずれかであり得る。加えて、適切な粉末、顆粒または錠剤には更に、活性成分の摩耗または早期放出を防ぐ固形コーティングを施すことができる。
【0146】
原則として、補助剤は以下の種類の物質、すなわち、消泡剤、増粘剤、湿潤剤、粘着剤、分散助剤、乳化剤、殺菌剤およびまたはチキソトロピー剤を意味するものとして理解される。上述の補助剤の重要性は当業者に公知である。
【0147】
SL、EWおよびECは単に対象の構成成分を混合することによって調製でき、粉末は特殊な製粉機(例えばハンマーミル)で混合または粉砕することによって調製できる。DC、SCおよびSEは通常、湿式粉砕によって調製され、有機相(更なる助剤または選択された化合物を含みうる)の添加によってSCからSEを調製することが可能である。その調製は公知である。粉末、塗布用物質およびダストは、活性成分を固形担体とともに混合または組み合わせて粉砕することによって、有利に調製され得る。顆粒、例えばコーティングされた顆粒、含浸された顆粒および均質な顆粒は、選択された化合物を固形担体に結合させることによって調製され得る。更なる調製の詳細は当業者に知られており、例えば以下の刊行物、すなわち、US 3,060,084、EP-A 707445(液体の濃縮物について)、Browning, ”Agglomeration”, Chemical Engineering, Dec. 4, 1967, 147-48, Perry’s Chemical Engineer’s Handbook, 第4版、McGraw-Hill, New York, 1963, 8-57頁およびff. WO 91/13546、US 4,172,714、US 4,144,050、US 3,920,442、US 5,180,587、US 5,232,701、US 5,208,030、GB 2,095,558、US 3,299,566、Klingman, Weed Control as a Science, John Wiley and Sons, Inc., New York, 1961、Hanceら、Weed Control Handbook, 第8版、Blackwell Scientific Publications, Oxford, 1989ならびにMollet, H., Grubemann, A., Formulation technology, Wiley VCH Verlag GmbH, Weinheim (ドイツ連邦共和国), 2001に詳述されている。
【0148】
本発明の処方に適した多数の不活性な液体および/または固形の担体は、当業者に知られており、例を挙げると、液体の添加剤、例えば灯油またはディーゼル油などの中沸点から高沸点の鉱油留分、更にコールタール油および植物または動物由来の油、脂肪族、環状および芳香族の炭化水素、例えばパラフィン、テトラヒドロナフタレン、アルキル化ナフタレンもしくはその誘導体、アルキル化ベンゼンもしくはその誘導体、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、ケトン、例えばシクロヘキサノン、あるいは強力な極性溶媒、例えばN-メチルピロリドンのようなアミンまたは水などがある。
【0149】
固形担体の例は、鉱物土類、例えばシリカ、シリカゲル、ケイ酸塩、タルク、カオリン、石灰石、石灰、チョーク、粘土、黄土、クレー、白雲石、珪藻土、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、グランド合成材料など、化学肥料、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素など、ならびに植物由来の製品、例えば穀物粉、樹皮粉、木粉および堅果殻粉、セルロース粉末など、または他の固形担体である。
【0150】
当業者は、本発明の処方に適した多数の界面活性物質(界面活性剤)に精通しており、それらの例として以下を挙げることができる:芳香族スルホン酸(例えば、リグノスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、およびジブチルナフタレンスルホン酸)の、脂肪酸の、アルキルおよびアルキルアリールスルホン酸の、アルキル硫酸の、ラウリルエーテル硫酸および脂肪アルコール硫酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、ならびに硫酸化ヘキサ-、ヘプタ-およびオクタデカノールの、および脂肪アルコールグリコールエーテルの塩、スルホン化ナフタレンおよびその誘導体とホルムアルデヒドとの縮合物、ナフタレンまたはナフタレンスルホン酸とフェノールおよびホルムアルデヒドとの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、エトキシル化イソオクチル-、オクチル-もしくはノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、イソトリデシルアルコール、脂肪アルコール/エチレンオキシド縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセテート、ソルビトールエステル、リグニン亜硫酸廃液あるいはメチルセルロース。
【0151】
殺真菌性組成物、もしくは活性成分は、治療的、根治的または防御的に適用することができる。防除標的、季節、標的植物および成長段階に応じて、殺真菌活性剤(物質および/または組成物)の適用量は、0.001〜3.0 kg/ha、好ましくは0.01〜1.0 kg/haになる。
【0152】
本発明は、次に示す実施例によって更に詳細に説明されるが、それに限定されるものではない。
【0153】
下記は組み換え法(以下の実施例はこれに基づく)の簡単な説明である。
【0154】
クローニング方法、例えば、制限切断、DNAの単離、アガロースゲル電気泳動、DNA断片の精製、核酸のニトロセルロースおよびナイロンメンブレンへの移行、DNA断片の連結、E. coli細胞の形質転換、細菌の増殖、組み換えDNAの配列解析、ならびにサザンブロットおよびウェスタンブロットは、Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)およびAusubel, F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1994); ISBN 0-87969-309-6によって記載されるように実施された。
【0155】
本明細書の下記において用いられた細菌株(E. coli TOP10)は、Invitrogen, Carlsberg, CAから入手した。使用できる可能性のあるF. graminearum野生型株は菌株DSM:4527である。
【0156】
更に、本明細書の下記において用いられたすべての化学薬品は、他に特定されない限り、Fluka(Neu-Ulm)、Merck(Darmstadt)、Roth(Karlsruhe)、Serva(Heidelberg)およびSigma(Deisenhofen)から分析用等級の形で入手した。溶液は、Milli-Q Water System 浄水システム(Millipore, Eschborn)から精製された、発熱物質を含まない水(本明細書では以後H2Oと記す)を用いて調製した。制限酵素、DNA修飾酵素および分子生物学キットは、AGS(Heidelberg)、Amersham(Braunschweig)、Biometra(Goettingen)、Roche(Mannheim)、Genomed(Bad Oeynnhausen)、New England Biolabs(Schwalbach/Taunus)、Novagen(Madison, Wisconsin, USA)、Perkin-Elmer(Weiterstadt)、Promega(Madison, Wisconsin, USA)、Pharmacia(Freiburg)、Qiagen(Hilden)およびStratagene(Heidelberg)から入手した。他に特定されない限り、それらは製造メーカーの使用説明書に従って使用した。
【0157】
組み換え実験に用いたすべての培地およびバッファーは、ろ過滅菌またはオートクレーブでの加熱のいずれかによって滅菌した。
【実施例】
【0158】
実施例1
ベクターpUCmini-Hygの作製
プラスミドpUCmini-Hygは図1に示される。
【0159】
E. coliハイグロマイシンB耐性遺伝子に連結されたCochliobolus heterotrophus GPD1プロモーターの2536bp DNAを、下記のプライマー
P1 5’atgaagcttggggtttgagggccaatggaacgaaactagtgtaccacttgacc 3’(配列番号7)
および
P2 5’gacagatctggcgccattcgccattcag 3’(配列番号8)
を用いて、pGUS5を鋳型としてPCRによって増幅した(Monke, E.およびSchafer, W., 1993, Mol. Gen. Genet. 241: 73-80)。PCRは標準的な条件(Sambrook, J.ら(1989) "Molecular cloning: A laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載)に従って行われた。
【0160】
PCRにおいて得られたDNA断片を、P1およびP2に存在する制限酵素切断部位HindIIIおよびBglIIによって、プラスミドpFDX3809(WO 01/38504)にクローニングした。その結果生じたプラスミドpHygBを更なるPCRでの鋳型として使用し、ここでは、ハイグロマイシンB耐性遺伝子を特異的にトランケートするために、下記のプライマー
P3 5’ggaatcggtcaatacactac 3’(配列番号9)および
P4 5’tgtagatctctattcctttgccctcggacgagt 3’ (配列番号10)
を使用した。その結果生じた、ハイグロマイシンB耐性遺伝子の3’末端の575bpから成るDNA断片を、制限酵素切断部位NdeI/ BglIIによってプラスミドpHygBにクローニングし、プラスミドpHygB-NOSを作製した。
【0161】
GPD1プロモーター、ハイグロマイシンB耐性遺伝子およびノパリン合成酵素ターミネーターから成る発現カセットを含む2019bpのHindIII/SspI DNA断片を、pHygB-NOSから切り出し、EcoRIおよびHindIIIによってプラスミドpFDX3809(WO 01/38504参照)にクローニングして、プラスミドpUCmini-Hygを作製した。このために、EcoRI切断部位を(DNAポリメラーゼIクレノウ断片を用いたフィルイン処理によって)SspIと適合させた。
【0162】
実施例2
ノックアウト形質転換体の作製
A)プラスミドpUCmini-Hyg-MevKinおよびpUCmini-Hyg-PKSの作製
MEKのノックアウトプラスミドを作製するために、428 bpメバロン酸キナーゼ断片をF. graminearumからプライマーP5およびP6を用いて増幅した(配列番号3)。この真菌のcDNAを鋳型とした。PKSのノックアウト対照のノックアウトプラスミドを作製するために、プライマーP7およびP8を用いて635 bp断片を増幅した(配列番号5)。
【0163】
P5: ataagaatgcggccgcTACTCCAAACCACCCAACGT(配列番号11)
P6: aaatggcgcgccCTTCTGAAGCTTCTCAGCAG(配列番号12)
P7: ataagaatgcggccgcAATGGCCCTCGAAACAGC(配列番号13)
P8: aaatggcgcgccGCGCCCAGAATGACACC(配列番号14)
導入されたAscIおよびNotI制限酵素認識部位を用いて、その断片をベクターpUCmini-Hygにクローニングし、ベクターpUCmini-Hyg-MevKinおよびpUCmini-Hyg-PKSを作製した。
【0164】
配列番号3を用いて、配列番号3に属する完全長クローン配列番号5を同定することができた。
【0165】
B)プロトプラスト調製
F. graminearum WT株8/1のプロトプラストを得るために、Leachら(J. Gen. Microbiol. 128 (1982) 1719-1729)によって記載されるように、菌糸体をCMcompl 中180 rpmで2日間28℃にて液体培養物として培養し、粉砕し、続いて28℃で更に1日間 180 rpmで培養した。次に菌糸体を蒸留水で2回洗浄した。2 gの菌糸体を20 mlの5%酵素浸透性溶液(滅菌した700 mM NaCl、5%Driselase)で処理し、100 rpm、28℃で3時間インキュベートした。プロトプラストの漸進的な放出を、顕微鏡下でサンプルを用いてモニターした。プロトプラストを菌糸体残渣からろ過によって分離し、ペレット化させ(3000 rpm、10分間、4℃)、いずれの場合にも10 mlの700 mM NaClおよびSORB-TC(1.2M ソルビトール、50mM CaCl2、10mM Tris/HCl、pH 7.0)によって洗浄した後、1 mlのSORB-TC中に取り上げた。プロトプラスト濃度を顕微鏡下での計数によって測定した。
【0166】
C)形質転換
その後のF. graminearumプロトプラストの形質転換のために、例えば、T. Maniatis, E.F. FritschおよびJ. Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1989)ならびにT.J. Silhavy, M.L. BermanおよびL.W. Enquist, Experiments with Gene Fusions, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1984)ならびにAusubel, F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Assoc. and Wiley-Interscience (1994)に記載されるような標準的な方法に従って、プラスミドを単離した。その後、プラスミドpUCmini-Hyg-MevKinおよびプラスミドpUCmini-Hyg-PKSを、それぞれEcoNIおよびEco47IIIを用いて中央で線状化した。
【0167】
形質転換のために、107 個のプロトプラストを氷上に置き、上述のように調製された30μgのプラスミドと注意深く混合し、その後、氷上に10分間インキュベートした。1倍容のPEG-TC(60%(w/v) PEG4000、50mM CaCl2、10mM Tris/HCl pH 7.0)を添加し、続いて15分間氷上にインキュベートした後、当初の培養容量に基づき8倍容のSORB-TC培地を添加した。この溶液を45℃の温度で400 mlの再生培地(1 g/l 酵母エキス、1 g/lカゼイン加水分解物、342 g/lスクロース、16 g/l寒天)と混合し、20 mlずつに分け、相当する数の直径90mmのペトリ皿に入れた。
【0168】
D)結果として生じたノックアウト形質転換体の選択
28℃で1日間のインキュベーション後、それぞれのペトリ皿を10 mlのハイグロマイシン含有水寒天(16g/l寒天、300mg/lハイグロマイシン)の層で覆い、その後28℃でインキュベートした。選択寒天の中へと増殖している菌糸体コロニーを切り出し、個別にCMhygプレート(150 mg/l ハイグロマイシンを補給したCMcompl培地)上に置いた。
【0169】
E)ノックアウト形質転換体の検出
形質転換体の菌糸体由来のDNAを、PCRを用いてノックアウト構築物の組み込みについて検証した。以下のプライマーが使用された:
P9: GGGGAGGAAAGGCTGTGGTGTT(配列番号15)
P10: CGTCTTCCTCGGTGCCGTTCTT(配列番号16)
P11: ATGTCTCCAAAGGAAGCTGAGC(配列番号17)
P12: TCGAGTGATGGATACTGCTTCG(配列番号18)
P13: CGGCTACACTAGAAGGACAGTATTTGGTA(配列番号19)
P14: GTCAGGCAACTATGGATGAACGAAATAGAC(配列番号20)
PCRは、標準的な条件(例えばSambrook, J.ら(1989) "Molecular cloning: A laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載)を用いて36サイクルで実施し、第一段階は95℃で300秒間の変性を含み、25サイクル後に72℃でのインキュベーションを600秒間行った(いずれの場合にも95℃で90秒間(変性)、55℃で90秒間(アニーリング)、72℃で120秒間(伸長))。
【0170】
得られた形質転換体のPCRスクリーニングは、下記のステップに分けられた:
ステップ1: ゲノムDNAからの遺伝子断片の増幅。このために、メバロン酸キナーゼの場合にはP9およびP10を使用し、PKSの場合にはP11およびP12を使用した。500bp産物は異所性の組み込みの場合にのみ予想されるが、相同組み換えの場合には予想されないように、PCR条件を選択した。
【0171】
ステップ2: 一方のプライマーがゲノムDNAに結合し、別のプライマーが組み込まれたベクターに結合する領域の増幅。プライマーの組み合わせのため、増幅産物は相同組み換えの場合にのみ得られた。このアプローチは第一ステップの検証を可能にした。プライマーの組み合わせP9、P14およびP10、P13をメバロン酸キナーゼの場合に使用し、一方、プライマーの組み合わせP11、P14およびP12、P13をPKSの場合に使用した。
【0172】
F)結果
メバロン酸キナーゼ遺伝子を上述のノックアウトプラスミドによって破壊するために、F. graminearumを2回の独立した実験において形質転換した。対照として、ノックアウト構築物pUCminIV-PKSを用いてPKSの遺伝子を破壊した。Eに記載されたPCRスクリーニングを用いて、すべての試験形質転換体を検討した。PKS遺伝子の破壊のためのアプローチでは、9個の形質転換体を相同組み換えについて検討し、すべての形質転換体においてそれを同定した。対照的に、メバロン酸キナーゼが破壊された形質転換体はすべて、異所性の挿入を示した。メバロン酸キナーゼが破壊された形質転換体は生存能がなく、従ってその遺伝子は真菌にとって必須であることが分かる。
【0173】
実施例3
例えばHTSで使用するための、十分な量のタンパク質を産生させるために、一般に好まれる方法は、適切な系での該タンパク質の過剰発現である。このために、N. crassa mRNA由来のメバロン酸キナーゼのcDNA配列を、適切なプライマー(配列番号1から推定される)を用いて、PCRにより標準的な条件下(例えばSambrook, J.ら(1989) "Molecular cloning: A laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載)で増幅することができる。
【0174】
P15: GCA GAG CAA GAA CAC AAC(配列番号21)
P16: GGC TAC TAG AAG CTT CTA GTC CCG GTT CTC AAC(配列番号22)
P17: CAC CAT GGC AGA GCA AGA ACA CAA(配列番号23)
P18: GTC CCG GTT CTC AAC CCG(配列番号24)
その後、結果として生じたPCR断片は、N末端融合タンパク質(MBP, pMALc2x)またはC末端融合タンパク質(His6, pET101-D/TOPO)を産生させるために、適切なベクター、例えば、pMALc2x(P15およびP16)またはpET101-D/TOPO(P17およびP18)にクローニングすることができる。E. coli BL21細胞を用いてタンパク質の過剰発現を行う。その後、このタンパク質は、例えば実施例4に記載されるような活性アッセイに使用するために、適切なカラムでのアフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。
【0175】
実施例4
活性アッセイ
メバロン酸キナーゼの活性を減少または阻害する殺真菌活性化合物は、その試験化合物とともにインキュベートしたメバロン酸キナーゼの活性を、その試験化合物とインキュベートしていないメバロン酸キナーゼの活性と比較することによって選択でき、その活性は実施例4A)もしくはB)に記載されるように測定することが可能である。
【0176】
A)分光学的アッセイ
メバロン酸キナーゼはATPを用いてメバロン酸をリン酸化し、ホスホメバロン酸およびADPを生じる。この酵素の阻害剤を検索するために、形成されるADPを、酵素ピルビン酸キナーゼおよび乳酸脱水素酵素との共役反応によって、検出することができる。測定されるものは、最終的には、340 nmでのNADHの酸化である。反応混合物は、全量1 ml中に以下ものを含む:すなわち、KH2PO4(100 mM、pH 7.0)、2-メルカプトエタノールまたはジチオスレイトール(10 mM)、NADH(0.16 mM)、MgCl2(5 mM)、MgATP(4 mM)、DL-メバロン酸(3 mM)、メバロン酸キナーゼ(約0.01 U)、ホスホエノールピルビン酸(0.5 mM)、乳酸脱水素酵素(0.05 mgタンパク質および27 U)ならびにピルビン酸キナーゼ(0.05 mgタンパク質および20 U)である。メバロン酸キナーゼの添加によって反応を開始させる(Porter J.B. (1985) Meth. Enzymol. 110, 71-79)。この試験の若干の変形は、マイクロタイタープレート形式で実施することもできる(Schulteら(1999) Anal. Biochem. 269, 245-54)。
【0177】
B)放射性化学物質によるアッセイ
このアッセイにおいて測定されるものは、反応混合物を薄層クロマトグラフィーによって分離し、次に対象のバンドの放射活性を測定することによる、DL-[2-14C]メバロン酸のリン酸化誘導体の量である。反応混合物は、小容量(0.1〜0.2 ml)中の、KH2PO4(100 mM、pH 7.0)、2-メルカプトエタノール(10 mM)、MgCl2(5 mM)、ATP(4 mM)、DL-[2-14C]メバロン酸(3 mM)、メバロン酸キナーゼ(約0.01 U)から成る。インキュベーション後、煮沸によって反応を停止させ、混合物を遠心分離し、すべての上清をWhatman No.1ろ紙にアプライする。1-プロパノール: アンモニア: 水(60:20:10)の混合溶媒中で12時間、クロマトグラムを展開させる。ろ紙の放射活性を走査し、5-ホスホメバロン酸のバンドを切り出し、シンチレーションカウンタで測定する(Porter J.B. (1985) Meth. Enzymol. 110, 71-79)。
【0178】
配列表の説明
配列番号1 NC* NA***
配列番号2 NC AA****
配列番号3 FG** NA
配列番号4 FG AA
配列番号5 FG NA
配列番号6 FG AA
配列番号7〜24 プライマー配列 NA
*NC Neurospora crassa
**FG Fusarium graminearum
***NA 核酸配列
****AA アミノ酸配列
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】プラスミドpUCmini-Hygの模式図を示す。
【配列表】



















【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1もしくは5に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号2もしくは6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
d)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列によりコードされる、メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドの、殺真菌剤の標的としての使用。
【請求項2】
メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列が糸状菌に由来する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
a)配列番号5に示される配列を有する核酸配列、または
b)遺伝コードの縮重により、配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)配列番号5に対して少なくとも67%の同一性を有する配列番号5の機能的同等物、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも72%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される、配列番号5の機能的同等物、
を含むメバロン酸キナーゼの生物学的活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列。
【請求項4】
糸状菌に由来する、請求項3に記載の核酸配列。
【請求項5】
請求項3または4のいずれか1項に記載の核酸分子によってコードされるポリペプチド。
【請求項6】
配列番号1または配列番号3の機能的類似体を検出する方法であって、プローブを作製し、続いて対象の生物種のゲノムライブラリーもしくはcDNAライブラリーをスクリーニングするか、または電子データベース中の類似配列のコンピューター検索を行うことによる方法。
【請求項7】
真菌に由来するメバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列における突然変異を同定する方法であって、
i. 突然変異を含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の核酸配列に基づくオリゴヌクレオチドを作製し、続いてPCRを行う、または
ii. 請求項2〜4のいずれか1項に記載の核酸配列に基づくオリゴヌクレオチドを作製し、突然変異に隣接する領域をPCRによって増幅し、続いて得られたPCR産物の制限酵素消化および/または配列決定を行う、
ことからなる方法。
【請求項8】
a)請求項3もしくは4において定義される核酸配列と機能的に連結された遺伝子制御配列、または
b)付加的な機能エレメント、または
c)上記a)およびb)の組み合わせ、
を含む発現カセット。
【請求項9】
請求項8に記載の発現カセットを含むベクター。
【請求項10】
少なくとも1つの、請求項3もしくは4に記載の核酸配列、請求項8に記載の発現カセット、または請求項9に記載のベクターを含む、細菌、酵母、真菌、動物細胞もしくは植物細胞から選択される非ヒトトランスジェニック生物。
【請求項11】
阻害試験において殺真菌活性のある物質を同定する方法であって、メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドを使用することからなる方法。
【請求項12】
a)請求項2〜4のいずれか1項に記載の核酸配列、
b)配列番号1もしくは配列番号5に示される配列を有する核酸配列、
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2もしくは配列番号6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
e)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列によりコードされる、メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドを使用する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
メバロン酸キナーゼをコードする核酸配列が糸状菌に由来する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
i. メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドと1種以上の試験物質とを、前記核酸分子または前記核酸分子によってコードされるポリペプチドと試験物質との結合を可能にする条件下で、接触させること、および
ii. 試験物質がi)のポリペプチドと結合するかどうかを検出すること、
iii. 試験物質がi)のポリペプチドの活性を減少または阻害するかどうかを検出すること、または
iv. 試験物質がi)の核酸の転写、翻訳もしくは発現を減少または阻害するかどうかを検出すること、
を含んでなる、請求項11、12または13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
i. メバロン酸キナーゼの酵素活性を有するポリペプチドをトランスジェニック生物において発現させるか、またはもともとメバロン酸キナーゼを含む生物を培養し、
ii. トランスジェニック生物または非トランスジェニック生物の細胞消化物中の、部分的に精製されたまたは均一に精製されたステップi)のポリペプチドを試験化合物と接触させ、
iii. ステップii)のポリペプチドの酵素活性を減少または阻害する化合物を選択し、試験化合物とインキュベートされたポリペプチドの酵素活性を、試験化合物とインキュベートされなかったポリペプチドの酵素活性により判定する、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
以下のステップ:
i. 請求項10に記載のトランスジェニック生物、あるいは
a)配列番号1もしくは5に示される配列を有する核酸配列、
b)遺伝コードの縮重により、配列番号2もしくは6に示されるアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、または
c)遺伝コードの縮重により、配列番号2に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号2の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
d)遺伝コードの縮重により、配列番号6に対して少なくとも35%の同一性を有する配列番号6の機能的同等物のアミノ酸配列の逆翻訳によって推定される核酸配列、
を含む核酸配列を含有するトランスジェニック生物を培養すること、
ii. a)に記載のトランスジェニック生物および同一の種の非トランスジェニック生物に試験物質を加えること、
iii. 試験物質を加えた後にトランスジェニック生物および非トランスジェニック生物の増殖、生存能および/または感染力を測定すること、ならびに
iv. トランスジェニック生物の増殖と比較して、非トランスジェニック生物の増殖、生存能および/または感染力の減少をもたらす試験物質を選択すること、
を含む請求項14に記載の方法。
【請求項17】
真菌を用いて行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記物質がハイスループットスクリーニングで同定される、請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の1以上の核酸分子、請求項9に記載の1以上のベクター、請求項10に記載の1以上のトランスジェニック生物、または請求項5に記載の1以上の(ポリ)ペプチドを担持する、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法において使用するための支持体。
【請求項20】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の方法によって同定される殺真菌活性のある化合物。
【請求項21】
請求項11〜18のいずれか1項に記載の方法によって同定される殺真菌活性成分を、殺真菌剤の処方に適した補助剤とともに処方することを含む、殺真菌性組成物の調製方法。
【請求項22】
有害真菌または該真菌の感染から保護すべき材料、植物、土壌もしくは種子を、有効な量の請求項20に記載の化合物または請求項21に記載の方法によって調製される組成物で処理することを含む、有害真菌の防除方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−517792(P2006−517792A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501623(P2006−501623)
【出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000699
【国際公開番号】WO2004/070038
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】