説明

気相のフッ化水素酸での洗浄および脱イオン水でのすすぎを用いる分子接合方法

【課題】従来技術の欠点を改善する、第1および第2の基板のそれぞれ2つの自由表面の分子接合のための方法を提供すること。
【解決手段】例えば単結晶シリコン・ウエハによって形成される、第1および第2の基板の自由表面の分子接合による接着は、少なくとも連続して、自由表面を疎水性にするための、気相のフッ化水素酸での自由表面の洗浄ステップと、30秒以下の時間の、脱イオン水での前記自由表面のすすぎステップと、前記自由表面を接触させるステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1および第2の基板のそれぞれ2つの自由表面の分子接合方法であって、少なくとも連続して、2つの自由表面を疎水性にする、フッ化水素酸での前記2つの自由表面の洗浄ステップと、2つの自由表面を接触させるステップと、を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子接合による接着(または接合)の原理は、接着剤、ワックス、低溶融温度を持つ金属等のような、どんな特定の材料も使用することなく、2つの表面を直接接触させることに基づく。接触させられるべく設計された表面は、親水性または疎水性とすることができる。
【0003】
疎水性表面は、例えば2つの単結晶シリコン・ウエハの自由表面とすることができる。このようなウエハの分子接合は、例えば2つのウエハ間で高導電性が得られなければならない時に、または非常に大きな寸法の結晶粒シール(封止)を得るために使用される。
【0004】
さらに、分子接合による接着方法は、適切な表面の化学的性質を示し、お互いに十分近接して接触が開始されることを可能とするために、接合されるべき表面が、粒子または汚染が全くなく、十分に滑らかであることを必要とする。この場合、2つの表面間の引力は、分子接合を生じさせるのに十分なほど大きい。接合作業は一般に、表面の化学的洗浄の後、常温および常圧において実施される。さらに、接合エネルギーの強化は、後に続く熱処理によって実現されることができる。
【0005】
疎水性表面の分子接合の場合には、表面は酸化物フリー(酸化物の無い状態)でなければならない。2つの表面が接触させられる前に実施される洗浄作業は、前記表面から酸化物を除去する。したがって、シリコン・ウエハに対しては、前記ウエハの自由表面に存在する自然酸化物は一般に、前記ウエハをフッ化水素酸(HFと記される)の液体溶液内に浸漬することによって除去され、この溶液は希釈されてもよい。フッ化水素酸溶液は実際には自然酸化物を化学的に攻撃し(エッチングによって)、それによってウエハの自由表面を酸化物の全くない状態に、それ故に疎水性にする。さらに、シリコンの場合には、フッ化水素酸は結晶の終端結合を水素原子によって不動態化して、2つのシリコン表面がお互いに十分接近すると、お互いに引き合うように、表面を疎水性にして、分子接合に適合させる。
【0006】
しかしながら、このようなウエハ洗浄すなわち脱酸素作業は十分ではない。液体フッ化水素酸での洗浄ステップの後、分子接合によって接合された2つのウエハの界面は実際には、特に電気的および機械的観点からは、非常に良好な特性ではない。
【0007】
さらに具体的には、シリコン・ウエハは最初、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定される、0.2nmより小さいRMS粗さを示す。それらが、フッ化水素酸を10%含む水溶液(pH〜1.2)中で約10分間の洗浄作業を受けると、それらは0.24nmのRMS粗さを示し、同じ洗浄時間だがHFを1%含む水溶液(pH〜1.7)での場合には、シリコン・ウエハの自由表面の粗さは約0.32nmである。前記ウエハの自由表面の粗さの増加は、HF溶液中に溶解された酸素の存在に帰されることができる。この溶解された酸素はシリコンを局所的に酸化する。このように形成された酸化物はHFによって取り除かれ、これは表面の凹凸を、それ故により大きな粗さを生成する。しかしながら、ウエハの自由表面の大きな粗さは、分子接合によって接合された2つのウエハ間の界面において電荷トラップの増加を生じさせる可能性があり、それ故に前記界面の電気的特性を低下させる可能性がある。
【0008】
さらに、液体フッ化水素酸でのこのような洗浄作業はまた、後に続くウエハの接合にとっておよび接合後の2つのウエハ間の界面の機械的特性にとって有害となる、自由表面の粒子汚染を生じさせもする。
【特許文献1】米国特許出願第2005−0003669号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術の欠点を改善する、第1および第2の基板のそれぞれ2つの自由表面の分子接合方法を実現することである。
【0010】
さらに具体的には、本発明の目的は、特に電気的および機械的観点から、非常に良好な特性の接合界面を持つ、第1および第2の基板の分子接合によって接着を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この目的は、洗浄ステップが気相のフッ化水素酸で実施されるという事実によって、および脱イオン水でのすすぎステップが、洗浄ステップと接触させるステップとの間で、30秒以下の時間実施されるという事実によって実現される。
【0012】
本発明の1つの発展によれば、第1および第2の基板は、0と1との間に含まれるxおよびyを持つ化合物SiGe1−xおよびSiGe1−yによってそれぞれ形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
例えば単結晶シリコン・ウエハによって形成される第1および第2の基板の自由表面の分子接合による接着は、少なくとも連続して、
・気相のフッ化水素酸での自由表面の洗浄ステップと、
・30秒以下の時間の、脱イオン水での前記自由表面のすすぎステップと、
・前記自由表面を接触させるステップと、
を含む。
【0014】
自由表面の洗浄ステップは、さらに具体的には基板の自由表面を脱酸素化し、それを疎水性にする。従来技術によるのと同じ方法では、このステップはフッ化水素酸(HF)で実施されるが、本発明の範囲においては、後者は気体形態であり、液体形態ではない。
【0015】
気相のフッ化水素酸でのエッチングによる基板洗浄は、特に前記基板の表面の粒子汚染を低減するために、既に提案されてきた。例えば、特許出願US−A−2005−0003669は、40℃以上の基板温度において、無水フッ化水素酸蒸気および水蒸気を用いて、半導体基板を洗浄する方法を記載する。
【0016】
しかしながら、気相のフッ化水素酸でシリコン・ウエハを処理することは、分子接合が常温および常圧において実施されることを可能にはしないことが知られている。例えば、0.2nmのRMS粗さを示す2つのシリコン・ウエハの自由表面は、APMという名前でもまた知られているアンモニウム過酸化物混合に基づく溶液内で洗浄され、それらの粒子はアコースティック(音響)・メガソニック洗浄によって取り除かれる。2つの表面はその結果親水性であり、分子接合に適合する。一方、追加の洗浄が気相のフッ化水素酸で3分間実施されると、2つの表面はその結果疎水性になるが、Tencor社からのSurfscan SP1などの粒子検出装置を用いて測定される粒子が存在しないにもかかわらず、それらはもはや分子接合に適合しないことを観測することができる。
【0017】
しかしながら、驚いたことに、気相のフッ化水素酸での洗浄ステップの後、30秒以下の短時間、脱イオン水での前記自由表面のすすぎステップを実施することによって、2つの表面の分子接合が可能になることが見出された。
【0018】
気相のフッ化水素酸での洗浄の後の水でのすすぎは、過去に他の分野(US−A−2005−0003669)において既に使用されてきた。それは、後に続くマイクロエレクトロニクス処理に有害な残留物のどんな痕跡も、前記表面から除去するために使用された。残留物のこのような痕跡は、フッ化水素酸蒸気による酸化物のエッチングによって生成される副産物の一部分の凝縮から生じた。しかしながら、このような水でのすすぎステップは、疎水性表面の分子接合の分野では、従来では予想できなかった。水の使用は実際には一般に表面の疎水性を低下させる。しかしながら、疎水性表面の分子接合の分野では、表面はできる限り疎水性にすべきであり、前記表面上の水または酸素の存在は一般に、前記表面の疎水性の性質を保つために最小限に抑えられる。
【0019】
このような先入観にもかかわらず、気体形態のフッ化水素酸を使用し、脱イオン水で30秒以下の時間すすぐ、例えばシリコンからなる2つの基板表面の準備は、この方法で準備された2つの表面の分子接合が常温および常圧において実施されることを可能にする。実際には、例えばシリコンからなる表面の親水化を最小限にするために、かつ良好な特性の接合を確実にするためには、すすぎ時間は短くなければならず、典型的には30秒以下であり、有利には20秒以下であり、好ましくは10秒以下であることが観測された。このような時間は、実際に疎水性の表面が保たれることを可能にする。さらに、得られた接合界面は、特に電気的および機械的観点から、非常に良好な特性である。前記基板の表面は特に最小の粗さを示し、これは、界面における電荷トラップができる限り低減されることを可能にし、それ故に界面の電気的特性が高められることを可能にする。最終的に、表面は、脱イオン水でのすすぎにもかかわらず、Surfscan SP1装置などの粒子検出装置で測定される、非常に低い粒子含有量を示す。
【0020】
すすぎは、例えば脱イオン水を含む容器内にウエハを浸漬し、完全な浸漬が実現されたらすぐに前記ウエハを取り除くことによって実施されることができる。表面の疎水性は、水滴の濡れ角を測定することによって確かめられることができる。30秒間のすすぎでは、接触角は70°を超え、これは、1%の液体フッ化水素酸で処理された表面の濡れ角と同等である。
【0021】
各々が例えば自然酸化物で覆われた自由表面を有する、例えば2つのシリコン・ウエハは、少なくとも数秒の時間、フッ化水素酸蒸気中で処理を受ける。フッ化水素酸蒸気は、希釈されてもよいフッ化水素酸溶液から生成されるのが好ましい。例えば溶液は、フッ化水素酸を49%含む水溶液とすることができる。さらに蒸気は、純粋なまたは窒素、アルゴン、イソプロピル・アルコールなどの1つまたは複数の気体中で希釈されて、得られかつ/または使用されることができる。
【0022】
このような洗浄ステップは、ウエハ表面が脱酸素化されることを可能にし、それ故に疎水性にされることを可能にする。さらに、この方法で洗浄された表面の粗さは、液相のフッ化水素酸で処理された表面の粗さよりも高さが低いことが観測された。したがって、0.2nmのRMS粗さを示すシリコン表面は、気相のフッ化水素酸での3分間のエッチング後でも同じ粗さを保つが、一方でこの粗さは、1%の液相のフッ化水素酸での1分間のエッチングでは、0.32nmまで進む。
【0023】
洗浄ステップの時間は一般に、洗浄されるべきウエハの表面に存在する酸化物のエッチング速度に依存する。しかしながら、ある場合には、分子接合の特性を改善するように、洗浄ステップの時間を少し増やすことは有利なことかもしれない。例えば、自然シリコン酸化物をエッチングし、自然酸化膜全体を取り除くのに必要な時間が約30秒であるならば、粗さの点で表面を損傷することなく、気相のフッ化水素酸でのエッチングを数分間だけ、例えば有利には3分間だけ延長することは有利なことかもしれない。エッチングの延長は、酸化物の厚さのいくらかの不均質性を除去し、全ての表面結合が水素原子によって不動態化され、それによって表面の疎水性を最大にすることを確実にする、オーバーエッチングに相当する。
【0024】
次いで、前記表面のすすぎは、高品質の脱イオン水で30秒以下の時間実施される。シリコンの水との接触はフッ化水素酸の存在なしに行われるので、水でのすすぎステップは、HFで希釈された液体溶液の使用の場合でのような、前記表面の粗さまたは粒子汚染にどんな影響も有しない。その結果、このすすぎステップは表面を分子接合に適合させる。このステップがないと、表面は、分子接合に普通必要な粒子汚染(Surfscan SP1などの粒子検出装置で測定される)および粗さの通常の基準を満たすけれども、表面は接着しないであろう。
【0025】
例えば、粒子密度の比較測定が、200mmの直径をもつ3つのシリコン・ウエハについて行われた。すなわち、第1のウエハは新しいものであり、第2のウエハは、気相のフッ化水素酸で洗浄され、脱イオン水ですすがれており、第3のウエハは、従来技術により、フッ化水素酸溶液を用いて洗浄されている。
【0026】
測定は、各ウエハの表面上に存在する、例えば0.12μmより大きな寸法を有する粒子の密度を測定するために、Surfscan SP1粒子検出装置を用いて行われた。
【0027】
粒子密度は、第1および第2のウエハに対して、すなわち、気相のフッ化水素酸での処理および脱イオン水でのすすぎの前および後のそれぞれで、実質的に一定のままであることが観測された。密度は例えば約15粒子である。したがって、フッ化水素酸での処理および脱イオン水でのすすぎは、フッ化水素酸溶液で実施される洗浄(約100粒子の粒子密度)とは異なり、汚染粒子の密度の増加を生じさせない。それどころか、粒子密度は実質的に一定のままであり、薄い酸化層(厚さ<10nm)およびある初期粒子密度を示すシリコン・ウエハの場合などのある種の場合には、粒子密度は減少さえするかもしれない。
【0028】
本発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、本接合方法はまた、シリコン基板とゲルマニウム基板とに、または2つのゲルマニウム基板に、さらに一般的には、0と1との間に含まれるxおよびyを持つSiGe1−x基板のSiGe1−y基板との接合にも関系することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板および第2の基板のそれぞれ2つの自由表面の分子接合方法であって、少なくとも連続して、
前記2つの自由表面を疎水性にする、フッ化水素酸での前記2つの自由表面の洗浄ステップと、
前記2つの自由表面を接触させるステップと、
を含み、
前記洗浄ステップが気相のフッ化水素酸で実施され、脱イオン水でのすすぎステップが前記洗浄ステップと前記接触させるステップとの間で30秒以下の時間実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1および第2の基板が、0と1との間に含まれるxおよびyを持つ化合物SiGe1−xおよびSiGe1−yによってそれぞれ形成されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気相のフッ化水素酸が純粋であることを特徴とする、請求項1および2の一項に記載の方法。
【請求項4】
前記気相のフッ化水素酸が少なくとも1つの他の気体と混合されることを特徴とする、請求項1および2の一項に記載の方法。
【請求項5】
前記他の気体が窒素、アルゴンおよびイソプロピル・アルコールから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。

【公開番号】特開2008−205473(P2008−205473A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−37281(P2008−37281)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(502142323)コミサリア、ア、レネルジ、アトミク (195)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】